JP4901787B2 - 二つ割りリング状部材の機械割り製造方法 - Google Patents
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Description
この発明の他の目的は、機械加工によって二分割し、その後に熱処理して製作する場合に、熱処理変形量を軽減できる熱処理条件を設定できるようにすることである。
リング状部材のモデルの解析を行うことにより、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める過程と、この求められた切断面先端の応力拡大係数(KI)がリング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行う過程とを含む方法である。前記モデルの解析としては、熱伝導解析および熱応力解析を行う。
応力拡大係数(KI)は、次のように定義できる。亀裂の存在する材料が応力を受ける場合、亀裂先端の応力は亀裂先端からの距離rの平方根√rに反比例する特異性を持つことが知られている。この特異性を示す応力場の強さの程度を表すものが応力拡大係数である。破壊力学によれば、この応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えた時に急速に破断が生じる。したがって、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)が、リング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行うことにより、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることが防止される。
例えば、上記モデルに対して熱伝導解析および熱応力解析を行うことにより、熱処理残留応力を再現させる。次に、応力解析によって機械割り工程時の切断面先端の応力拡大係数を求める。すなわち、熱処理残留応力をモデル内に保持させた状態を得る。この状態から、機械割り工程中に切断が進行する切断面先端の応力拡大係数(KI)を計算する。機械割り工程の切断の進行は、予め変位拘束されていた節点の拘束を解除することによって表現できる。
材料の破壊靱性値(KIC)は、硬度と対応しているため、HRC硬度を求めることによって算出可能である。HRC硬度は、リング状部材と同形状、同寸法のテストピースを準備して実測するか、もしくは熱伝導解析により硬度分布予測をしてその値を用いることが可能である。
このようにして求められる切断面先端の応力拡大係数を、材料の破壊靱性値と比較し、破壊靱性値を超えないように管理することにより、機械割り工程中の途中切断が防止される。
切断面先端の応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えないように切断方向および切断深さを設定すれば、急速破断は生じない。
このように、リング状部材の熱処理工程よりも前に機械割り工程を行うと、リング状部材は機械割り工程中に熱処理による残留応力が存在せず、また生材であって破壊靱性値が高いため、途中破断が生じることがない。
上記半円状部材を熱処理した部材のモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定する。これにより、熱処理変形の抑制が実現できる。
この発明における球面滑り軸受の外輪は、この発明における上記のいずれかの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものである。
特に、上記管理の方法として、切断方向および切断深さを設定する場合は、簡単な制御で途中破断が防止できる。
この発明の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法は、リング状部材の熱処理工程よりも前に機械割り工程を行う方法であるため、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることが防止できる。
上記半円状部材を熱処理したモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定した場合は、熱処理変形量を軽減できる熱処理条件を設定することができる。
また、上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした場合は、熱処理変形量を軽減できる。
2分割する機械加工は、例えばワイヤ2を用いたワイヤカット法により行う。すなわちワイヤカット放電加工機により行う。2分割するときの切断方向Pは、リング状部材1に対して、図4(A)のように半径方向であっても、また図4(B)のように軸方向、または軸方向に近い角度となる方向であっても良い。切断方向Pが半径方向である場合、外径側から内径側へ進む方向であっても、内径側から外径側に進む方向であっても良く、また内外のいずれか片側から途中まで切断し、残りをもう片側から切断するようにしても良い。軸方向等に切断する場合も、正逆いずれの方向に切断加工が進むようにして良く、正逆いずれか片側から切断を途中まで行い、残りをもう片側から切断するようにしても良い。
破壊靱性値(KIC)を求める過程では、硬度の実測、または熱伝導解析による硬度分布の予測を行った値から、材料の持つ破壊靱性値(KIC)を求める。
切断過程(S3)における加工条件を設定する過程では、求められた切断面先端の応力拡大係数(KI)が、リング状部材1の切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理するための加工条件を設定する。この加工条件として、切断深さHと、切断方向Pとを設定する。
KI=σ0 √(πa) …… (1)式
破壊力学によれば、この応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えた時に急速に破断が生じる。
また、このように求められる応力拡大係数(KI)と破壊靱性値(KIC)の関係を用いることよって、切断深さH、切断方向Pを制御し、不慮の亀裂発生を抑え、途中破断を生じさせない機械割りが行える。
熱伝導解析は、冷却開始から部材内温度分布を時刻歴で計算する方法であり、ある時刻における部材内温度分布や、部材内のある位置における冷却曲線を求めることが出来る。これを部材を構成する材料に固有のCCT線図(continuous cooling transformation )と比較すれば、部材内の硬度分布を予測することが可能である。具体例として、今回の対象リング状部材1の硬度分布予測を行った(図9参照)。計算値を実測値と比較すると、内部硬度に若干の差異が見られるものの、良く合致している。
切断面先端の応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えないように切断距離H、切断方向Pを設定すれば、急速破断は生じない。これを実証する例を示す。対象リング状部材1(図4(A)のもの)を、外径側から50mm切断し、残りを内径側から切断した例を示す。なお、外径からの切断距離は対象とするリング状部材1の持つ最小の破壊靱性値を超えないように決定した。
これを実証すべく、実際の対象リング状部材1を外径側から50mm、残りを内径側から切断して、機械割りを行った。この時、途中破断は生じなかった。
(変形量)=(AB間距離)−(2×CD間距離)
として変形量の定量化を行い、その結果を図15に示した。
実測値、解析条件1の解析結果(従来の熱処理条件)は、共に熱処理後に割り口部分が開くという変形が生じており、定性的にシミュレーションは実際と良く合致している。半円状部材1aの内径側の冷却速度を従来条件よりも速めた場合(解析結果3)は、熱処理変形量が抑制されることが分かった。
この軸受における軌道輪である内輪21および外輪22は、この発明の機械割り製造方法により製造されたものであり、この明細書における前記の〔課題を解決するための手段〕の欄、および実施形態で説明したいずれの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものであっても良い。
この軸受における外輪22は、この発明の機械割り製造方法により製造されたものであり、この明細書における前記の〔課題を解決するための手段〕の欄、および実施形態で説明したいずれの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものであっても良い。
1a…半円状部材
2…ワイヤ
21…内輪(軌道輪)
22…外輪(軌道輪)
32…外輪
S1…応力拡大係数を求める過程
S3…切断過程
S3a…加工条件を設定する過程
H…切断深さ
P…切断方向
Claims (5)
- リング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法において、
熱処理が未処理のリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する工程と、この2分割された半円状部材を熱処理する工程とを含み、
上記半円状部材を熱処理した部材のモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定する二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。 - リング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法において、
熱処理が未処理のリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する工程と、この2分割された半円状部材を熱処理する工程とを含み、
上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。 - 上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした請求項1に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造された転がり軸受の軌道輪。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造された球面滑り軸受の外輪。
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