JP4901787B2 - 二つ割りリング状部材の機械割り製造方法 - Google Patents

二つ割りリング状部材の機械割り製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、二つ割りの軸受軌道輪等となる二つ割りリング状部材の機械割り製造方法に関し、特にその機械割り工程の改善、および機械割り加工条件等の設定に関する。
二つ割り軸受は、取付を容易にするため、両軌道輪および保持器を、2つの部分に分割した軸受である。転炉のトラニオン軸やクランク軸のセンタ部など、通常の軌道輪では、取付け、取外しができない箇所に使用される。二分割する方法は、従来から、焼入、焼戻された部材のノッチ部分に、くさびの打込み等で集中応力を発生させ、破断させることによって分割する自然割り方法と、ワイヤーカット等により切断する機械割りという方法がある。機械割り方法では、図20に示すように、旋盤工程でリング状部材を製作し、熱処理工程で焼入,焼戻し、この熱処理により硬化されたリング状部材を機械割工程で2分割する。その後に後工程を施す。
しかし、これらの方法で分割する場合、機械割り工程品では工程中に材料内部の応力状態のバランスが崩れ、不慮に亀裂が発生し、急速に成長して、切断方向とずれた方向に途中破断が起きるという不具合が生じることがある。二つ割り軸受は大型軸受であることが多いため、途中破断を防がなくてはならない。また、自然割りの場合、大きな軸受では設備が大掛かりになるという問題や、機械割りと同様に割り断面をうまくコントロールできず、設計通りに破面ができない問題があった。これらの課題は、軸受に限らず、他の二つ割りリング状部材の場合にも生じる。
この発明の目的は、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることを防止することのできる二つ割りリング状部材の機械割り製造方法を提供することである。
この発明の他の目的は、機械加工によって二分割し、その後に熱処理して製作する場合に、熱処理変形量を軽減できる熱処理条件を設定できるようにすることである。
この発明の製造方法は、いずれもリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法である。このうち、参考提案例の製造方法は、熱処理後に2分割する方法の改良であり、この発明の製造方法は、リング状部材の熱処理工程よりも前に機械割り工程を行う方法である。
参考提案例の機械割り製造方法は、熱処理により硬化されたリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する二つ割りリング状部材の機械割り製造方法において、
リング状部材のモデルの解析を行うことにより、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める過程と、この求められた切断面先端の応力拡大係数(KI)がリング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行う過程とを含む方法である。前記モデルの解析としては、熱伝導解析および熱応力解析を行う。
応力拡大係数(KI)は、次のように定義できる。亀裂の存在する材料が応力を受ける場合、亀裂先端の応力は亀裂先端からの距離rの平方根√rに反比例する特異性を持つことが知られている。この特異性を示す応力場の強さの程度を表すものが応力拡大係数である。破壊力学によれば、この応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えた時に急速に破断が生じる。したがって、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)が、リング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行うことにより、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることが防止される。
このような管理を実現するためには、切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める必要がある。この発明は、その求め方として、新規に開発した方法を採用した。この求め方として、まずリング状部材をモデル化し、そのモデルに対して熱伝導解析および熱応力解析を行う。熱伝導解析は、焼入時等の部材熱処理時における冷却開始から完了までの部材内温度分布を時刻歴で計算する解析である。熱応力解析は、その温度分布履歴から部材の変形や応力を計算する解析である。この解析結果を用いることにより、応力拡大係数(KI)を求めることができる。
例えば、上記モデルに対して熱伝導解析および熱応力解析を行うことにより、熱処理残留応力を再現させる。次に、応力解析によって機械割り工程時の切断面先端の応力拡大係数を求める。すなわち、熱処理残留応力をモデル内に保持させた状態を得る。この状態から、機械割り工程中に切断が進行する切断面先端の応力拡大係数(KI)を計算する。機械割り工程の切断の進行は、予め変位拘束されていた節点の拘束を解除することによって表現できる。
材料の破壊靱性値(KIC)は、硬度と対応しているため、HRC硬度を求めることによって算出可能である。HRC硬度は、リング状部材と同形状、同寸法のテストピースを準備して実測するか、もしくは熱伝導解析により硬度分布予測をしてその値を用いることが可能である。
このようにして求められる切断面先端の応力拡大係数を、材料の破壊靱性値と比較し、破壊靱性値を超えないように管理することにより、機械割り工程中の途中切断が防止される。
記の管理しながら切断を行う過程は、切断面先端の応力拡大係数(KI)が、リング状部材の切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)の最小値を超えないように、切断方向および切断深さを設定し、この設定された切断方向および切断深さで切断を行うようにしても良い。この明細書で言う切断方向は、向きが正逆異なる場合は、異なる方向とする。
切断面先端の応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えないように切断方向および切断深さを設定すれば、急速破断は生じない。
ング状部材は半径方向に切断しても良い。また、リング状部材を軸方向または軸方向に近い角度で切断しても良い。
の機械割り条件設定方法は、参考提案例の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法等に用いられる条件設定方法である。すなわち、この発明の二つ割りリング状部材の機械割り条件設定方法は、熱処理により硬化されたリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割するときの切断深さおよび切断方向を設定する方法において、リング状部材のモデルの熱伝導解析および熱応力解析を行うことにより、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求め、この切断面先端の応力拡大係数(KI)がリング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように前記切断深さおよび切断方向を設定する方法である。
この発明の機械割り製造方法は、リング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法において、熱処理が未処理のリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する工程と、この2分割された半円状部材を熱処理する工程とを含む方法である。
このように、リング状部材の熱処理工程よりも前に機械割り工程を行うと、リング状部材は機械割り工程中に熱処理による残留応力が存在せず、また生材であって破壊靱性値が高いため、途中破断が生じることがない。
しかし、この発明方法では、熱処理時の部材形状が半円形状であるために、周方向の拘束量が少なく、熱処理変形が大きくなる可能性がある。この熱処理変形は、次のように抑制できる
記半円状部材を熱処理した部材のモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定する。これにより、熱処理変形の抑制が実現できる。
また、上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速める。このように内径側の冷却速度を速めることにより、熱処理変形量が抑制される。この内径側の冷却速度を速める方法において、どの程度の冷却速度が適切であるかは、上記の有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析の結果から計算することができる。
この発明の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法は、リング状部材が軸受の軌道輪である場合に適用することができる。例えば、上記リング状部材は、転がり軸受における内輪や外輪等の軌道輪や、球面滑り軸受における外輪であっても良い。
この発明における転がり軸受の軌道輪は、この発明における上記のいずれかの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものである。
この発明における球面滑り軸受の外輪は、この発明における上記のいずれかの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものである。
参考提案例の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法は、熱処理により硬化されたリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する二つ割りリング状部材の機械割り製造方法において、リング状部材のモデルの熱伝導解析および熱応力解析を行うことにより、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める過程と、この求められた切断面先端の応力拡大係数(KI)がリング状部材の上記切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行う過程とを含む方法であるため、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることが防止できる。
特に、上記管理の方法として、切断方向および切断深さを設定する場合は、簡単な制御で途中破断が防止できる。
この発明の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法は、リング状部材の熱処理工程よりも前に機械割り工程を行う方法であるため、機械割り時に内部の応力バランスが崩れて切断方向とずれた途中破断が生じることが防止できる。
記半円状部材を熱処理したモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定した場合は、熱処理変形量を軽減できる熱処理条件を設定することができる。
また、上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした場合は、熱処理変形量を軽減できる。
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。まず、参考提案例を説明する。図1に示すように、この機械割り製造方法は、熱処理により硬化されたリング状部材1を、機械加工により半円状部材1aに2分割する二つ割りリング状部材の機械割り製造方法において、応力拡大係数(KI)を求める過程(S1)と、応力拡大係数(KI)が破壊靱性値(KIC)を超えないように管理しながら切断を行う過程(S3)とを含む。この他に破壊靱性値(KIC)を求める過程(S2)を含む。切断過程(S3)は、加工条件を設定する過程(S3a)と、実加工を行う過程(S3b)とに分けられる。
リング状部材1は、軸受の軌道輪等となる部材であり、例えば鋼製の円筒状の部材である。リング状部材1は、簡明のために円筒形状で図示しているが、軸受の軌道面を形成する軌道溝等を有する横断面形状であっても良い。
2分割する機械加工は、例えばワイヤ2を用いたワイヤカット法により行う。すなわちワイヤカット放電加工機により行う。2分割するときの切断方向Pは、リング状部材1に対して、図4(A)のように半径方向であっても、また図4(B)のように軸方向、または軸方向に近い角度となる方向であっても良い。切断方向Pが半径方向である場合、外径側から内径側へ進む方向であっても、内径側から外径側に進む方向であっても良く、また内外のいずれか片側から途中まで切断し、残りをもう片側から切断するようにしても良い。軸方向等に切断する場合も、正逆いずれの方向に切断加工が進むようにして良く、正逆いずれか片側から切断を途中まで行い、残りをもう片側から切断するようにしても良い。
図2は、ワイヤカット放電加工機の一例の概念図である。この加工機は、電極となるワイヤ2を、張力を与えた状態で走らせながら、工作物であるリング状部材1との間に放電を起こさせ、その放電エネルギで加工するものである。ワイヤ2とリング状部材1との間に所要の相対運動を与えて切断加工を行う。リング状部材1はテーブル3上に設置され、駆動装置4,5によってテーブル3と共に移動させられる。テーブル3は、この例では2軸(x軸,y軸)方向に移動可能としてあるが、1軸方向にのみ移動可能なものであっても良い。ワイヤ2は、テーブル3を上下に貫通して、上下のワイヤガイド6,7で案内され、下方のワイヤ供給プーリ8から上方のワイヤ巻取プーリ9へ送られる。
図1において、応力拡大係数(KI)を求める過程(S1)では、概略を説明すると、リング状部材1をモデル化し、そのモデルの熱伝導解析および熱応力解析を行うことにより、リング状部材の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める。
破壊靱性値(KIC)を求める過程では、硬度の実測、または熱伝導解析による硬度分布の予測を行った値から、材料の持つ破壊靱性値(KIC)を求める。
切断過程(S3)における加工条件を設定する過程では、求められた切断面先端の応力拡大係数(KI)が、リング状部材1の切断面先端に対応する各部分の破壊靱性値(KIC)を超えないように管理するための加工条件を設定する。この加工条件として、切断深さHと、切断方向Pとを設定する。
つぎに、この機械割り製造方法の詳細を説明する。この方法は、有限要素法を用いたシミュレーションにより、切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める方法を開発し、その求められた応力拡大係数(KI)を用いることにより、切断深さH、および切断方向Pを制御し、途中破断を発生させないようにした方法である。
応力拡大係数(KI)を説明する。亀裂の存在する材料が応力を受ける場合、亀裂先端の応力は亀裂先端からの距離rの平方根√rに反比例する特異性を持つことが知られている。この特異性を示す応力場の強さの程度を表すものが応力拡大係数である。図3に示すように、遠方でY方向に一様応力σ0 を受ける広い板にX方向の長さ2aの亀裂が存在するとき、亀裂先端付近の応力分布を規定する応力拡大係数KIは、次(1)式のようになる。
KI=σ0 √(πa) …… (1)式
破壊力学によれば、この応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えた時に急速に破断が生じる。
また、このように求められる応力拡大係数(KI)と破壊靱性値(KIC)の関係を用いることよって、切断深さH、切断方向Pを制御し、不慮の亀裂発生を抑え、途中破断を生じさせない機械割りが行える。
応力拡大係数(KI)の算出方法を説明する。例として、円筒形状の軸受軌道輪となるリング状部材1を、外径側より切断していく場合を挙げる。対象部材1の概略形状を図4(A)に示した。これを有限要素法としてモデル化したものを図5に示した。同図はモデルの半分のみを示している。このモデルは、二次元平面応力モデルであり、リング状部材1を正面側から見て、四角形四節点要素に分解したものである。各要素は、複数の同心円状に並ぶ円周方向の直線と、放射状に並ぶ半径方向の直線とで仕切られている。要素数は1790、節点数は1940である。対象のリング状部材1の寸法は、内径φ1400、外径φ1604、幅470(単位はmm)である。
まず、このモデルに対して熱伝導解析と熱応力解析を行い、熱残留応力を再現させる(図6参照)。熱伝導解析は、焼入時等の部材熱処理時における冷却開始から完了までの部材内温度分布を時刻歴で計算する解析であり、熱応力解析は、その温度分布履歴から部材の変形や応力を計算する解析である。なお、これらの解析に用いた材料物性値(熱伝導率、比熱、線膨張係数、比重、ポアソン比、初期降伏応力、加工硬化係数、弾性係数)は、実測値を用いている。また、リング状部材1の冷え方を決定する熱伝達係数は、実際の冷却速度に合うように設定した。
次に、応力解析によって機械割り工程時の切断面先端の応力拡大係数(KI)を求める。この解析は、機械割り工程中の切断面先端の応力拡大係数(KI)を計算するものである(熱処理残留応力をモデル内に保持させた状態から計算する)。機械割り工程の切断の進行は、予め変位拘束されていた節点の拘束を解除することによって表現した。その模式図を図7に示した。
材料の破壊靱性値は、硬度と対応しているため、HRC硬度を求めることによって算出可能である。HRC硬度は、リング状部材1と同形状、同寸法のテストピースを準備して実測するか、もしくは熱伝導解析により硬度分布予測をしてその値を用いることが可能である。熱伝導解析による硬度分布の予測方法については、後で述べることにする。なお、今回用いたHRC硬度の値は実測値である。
このようにして求めた切断面先端の応力拡大係数(KI)を、材料の破壊靱性値(KIC)と比較することで、機械割り工程中に途中破断が生じるか否かを判断することが可能になるというのが、この発明の骨子である。今回の対象リング状部材1における結果を図10に示した。
図10では、切断初期には負の値の応力拡大係数(KI)が生じているが、切断が進行するにつれて正の値のKIに移行する。そして、約70mm深さにおいてKIは材料の破壊靱性値(KIC)を超えることが分かる。実際にこの軸受軌道輪となるリング状部材1を外径側より切断した場合、70mm深さで途中破壊が起きることを確認した。
熱伝導解析による硬度分布予測方法を説明する。
熱伝導解析は、冷却開始から部材内温度分布を時刻歴で計算する方法であり、ある時刻における部材内温度分布や、部材内のある位置における冷却曲線を求めることが出来る。これを部材を構成する材料に固有のCCT線図(continuous cooling transformation )と比較すれば、部材内の硬度分布を予測することが可能である。具体例として、今回の対象リング状部材1の硬度分布予測を行った(図9参照)。計算値を実測値と比較すると、内部硬度に若干の差異が見られるものの、良く合致している。
途中破壊を生じさせない機械割り工程を説明する。
切断面先端の応力拡大係数(KI)が材料の破壊靱性値(KIC)を超えないように切断距離H、切断方向Pを設定すれば、急速破断は生じない。これを実証する例を示す。対象リング状部材1(図4(A)のもの)を、外径側から50mm切断し、残りを内径側から切断した例を示す。なお、外径からの切断距離は対象とするリング状部材1の持つ最小の破壊靱性値を超えないように決定した。
まず、上述した方法と同様に、熱応力解析の後に機械割り工程の応力解析を行って、切断面先端での応力拡大係数(KI)を計算した。その結果を図11に示す。外径側と内径側における切断面先端の応力拡大係数(KI)は、どの位置においても破壊靱性値(KIC)を超えることはなかった。
これを実証すべく、実際の対象リング状部材1を外径側から50mm、残りを内径側から切断して、機械割りを行った。この時、途中破断は生じなかった。
なお、上記参考提案例では、リング状部材1を半径方向に切断する場合につき説明したが、この発明は、リング状部材1のあらゆる方向の切断に適用することができる。
つぎに、この発明の実施形態を、図12〜図15と共に説明する。この二つ割りリング状部材の機械割り製造方法は、図12に示すように、リング状部材1について、熱処理工程前に機械割りを施し、リング状部材1を半円状部材1aに分割した状態で熱処理を行う方法である。すなわち、旋盤工程により素材からリング状部材1を得て、このリング状部材1を機械割工程で機械加工により半円状部材1aに2分割分し、熱処理工程で半円状部材1aの熱処理を行い、その後に後工程を施す。なお、この熱処理工程では、焼入および焼戻しを行う。リング状部材1は、前記実施形態と同じく、軸受の軌道輪等となる部材である。2分割を行う機械加工は、例えばワイヤーカット法が採用でき、図2と共に説明したワイヤカット放電加工機を用いることができる。
この方法によると、機械割り工程中のリング状部材1内に熱処理残留応力が存在していないこと、生材であること(破壊靱性値が高い)に起因して、途中破断が生じることは無かった。
しかし、この加工工程では、熱処理時の部材1aの形状が半円形状であるために周方向の拘束量が少なく、熱処理変形が大きくなる可能性がある。実際に標準的な熱処理条件で熱処理を行ったところ、割り口部分の変形量は非常に大きくなった。
そこで、この実施形態では、半円状部材1aをモデル化し、有限要素法を用いた熱伝導解析、熱応力解析によって熱処理条件と熱量変形量の関係を計算し(解析モデルは図13参照)、変形量の抑制を図った。図13の解析モデルは、詳しくは図5と共に前述したモデル(ただし半円分)である。熱伝導解析は、焼入時等の部材熱処理時における冷却開始から完了までの部材内温度分布を時刻歴で計算する解析であり、熱応力解析はその温度分布履歴から、部材の変形や応力を計算する解析である。なお、これらの解析に用いた材料物性値(熱伝導率、比熱、線膨張係数、比重、ポアソン比、初期降伏応力、加工硬化係数、弾性係数)は、実測値を用いている。
この実施形態における解析は、半円状部材1aの内径側の冷却速度に着目して条件を決定した。その解析条件を表1に示した。表1における従来の加工工程における熱処理条件は、次のとおりである。予熱後、高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)は800〜840℃、高炭素クロム軸受鋼3種(SUJ3)は790〜830℃に加熱し、焼入れ油(60℃)中に入れる。油中冷却速度は、槽内の噴射ノズルによる油の噴射強弱によってコントロールする。これにより、表1記載の冷却条件が達成される。
Figure 0004901787
図14に、各解析条件における熱処理後の変形を示した。また、図14におけるA,B間距離とCD間距離の差を用いて、
(変形量)=(AB間距離)−(2×CD間距離)
として変形量の定量化を行い、その結果を図15に示した。
実測値、解析条件1の解析結果(従来の熱処理条件)は、共に熱処理後に割り口部分が開くという変形が生じており、定性的にシミュレーションは実際と良く合致している。半円状部材1aの内径側の冷却速度を従来条件よりも速めた場合(解析結果3)は、熱処理変形量が抑制されることが分かった。
この解析結果を実証すべく、軸受軌道輪となるリング状部材1を機械割りした半円状部材1aについて、部材内径側の冷却速度を高めた熱処理を行った。そのた結果、熱処理変形量は従来の熱処理変形量に比較して大幅に抑制された。
なお、実験を行った例は、この発明の例示であり、この発明は〔課題を解決するための手段〕の欄で説明した方法に広く適用できる。
図16,図17は、転がり軸受からなる二つ割り型転がり軸受の一例を示す。この例は、自動調心ころ軸受に適用した例である。軌道輪である内輪21と外輪22との間に、複列のころ23が介在され、各列のころ23は保持器24に保持されている。内輪21は、軌道面となる複数の軌道溝21aが形成され、外輪22は内径面が球面状の軌道面22aに形成されている。ころ23は、外輪22の内径面に応じた曲率の樽形とされている。内輪21、外輪22、および保持器24は、いずれも半円状部材に2分割されている。内輪21は、軸25の外径に嵌合し、両側部で外径側から締め付け輪26により軸25の外径面に締め付けられている。締め付け輪26も2分割されている。外輪22は、ハウジング27の内径面に嵌合し、ハウジング27の軸方向の片方に設けられた鍔部27aともう片方に取付けられた蓋部材28との間に設置されている。ハウジング27は、上部ハウジング27と下部ハウジング27Bとに分割され、互いにボルト(図示せず)で締め付け状態に結合される。この軸受は、例えば転炉のトラニオン軸の支持に用いられる。
この軸受における軌道輪である内輪21および外輪22は、この発明の機械割り製造方法により製造されたものであり、この明細書における前記の〔課題を解決するための手段〕の欄、および実施形態で説明したいずれの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものであっても良い。
図18,19は、球面滑り軸受の一例を示す。内輪31は、球面状の外周面が外輪32の球面状の内周面に摺動自在に嵌合している。外輪32は、半円状部材32Aに2分割されており、ハウジング33の内径面に設置されている。
この軸受における外輪22は、この発明の機械割り製造方法により製造されたものであり、この明細書における前記の〔課題を解決するための手段〕の欄、および実施形態で説明したいずれの二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造されたものであっても良い。
この発明の参考提案例における二つ割りリング状部材の機械割り製造方法を示す工程説明図である。 その機械割りを行うワイヤカット放電加工機の斜視図である。 2次元亀裂の概念を示す説明図である。 リング状部材とその切断方向の各例とを示す斜視図である。 リング状部材のモデルを示す説明図である。 熱残留応力の発生状態を示す説明図である。 リング状部材の境界条件による切断の表現を示す説明図である。 リング状部材の温度分布の説明図である。 リング状部材の内部温度分布と予測した硬度分布の関係を示すグラフである。 外径からの切断深さと応力拡大係数(KI)の関係および破壊靱性値(KIC)を示すグラフである。 参考提案例にかかる機械割り製造方法における切断深さと応力拡大係数(KI)の関係および破壊靱性値(KIC)を示すグラフである。 この発明の実施形態の工程説明図およびその各工程におけるリング状部材または半円状部材の形態を示す説明図である。 半円状部材とそのモデルの関係を示す説明図である。 各熱処理条件で熱処理した半円状部材の変形状態を示す説明図である。 各熱処理条件で熱処理した半円状部材の変形量を比較するグラフである。 この発明方法で製造した軌道輪を有する転がり軸受の断面図である。 同転がり軸受を模式的に示す破断側面図である。 この発明方法で製造した外輪を有する球面滑り軸受の縦断面図である。 同球面滑り軸受の縮小横断面図である。 従来の機械割り製造方法の工程説明図である。
符号の説明
1…リング状部材
1a…半円状部材
2…ワイヤ
21…内輪(軌道輪)
22…外輪(軌道輪)
32…外輪
S1…応力拡大係数を求める過程
S3…切断過程
S3a…加工条件を設定する過程
H…切断深さ
P…切断方向

Claims (5)

  1. リング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法において、
    熱処理が未処理のリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する工程と、この2分割された半円状部材を熱処理する工程とを含み、
    上記半円状部材を熱処理した部材のモデルについて、有限要素法を用いた熱伝導解析および熱応力解析によって、熱処理条件と熱処理変形量の関係を計算し、この計算された関係によって、前記熱処理の工程における熱処理条件を、熱処理変形が抑制されるように設定する二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。
  2. リング状部材を機械加工により半円状部材に2分割した熱処理硬化品からなる二つ割りリング状部材を製造する方法において、
    熱処理が未処理のリング状部材を機械加工により半円状部材に2分割する工程と、この2分割された半円状部材を熱処理する工程とを含み、
    上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。
  3. 上記熱処理の工程で、加熱後に冷却するときに、半円状部材の内径側の冷却速度を外径側の冷却速度よりも速めるようにした請求項1に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造された転がり軸受の軌道輪。
  5. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二つ割りリング状部材の機械割り製造方法によって製造された球面滑り軸受の外輪。
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