JP4897144B2 - 磁気偏向範囲を含む電子エネルギーフィルタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子顕微鏡の電子エネルギーフィルタに関する。透過電子顕微鏡には、所定のエネルギー範囲の電子を選択することによって物体像または回折図のコントラストを改善するために結像を行う電子エネルギーフィルタが使用されている。このようなフィルタシステムによって、元素分布およびエネルギーロススペクトルの記録も可能である。
【0002】
【従来の技術】
ドイツ特許第4310559号、米国特許第4740704号および米国特許第4760261号には、分散素子として3つまたは4つの均一なまたは不均一な磁界を使用するフィルタシステムが記載されている。この種のエネルギーフィルタは、直視性であり、即ち、入射電子軌道の光軸および投射電子軌道の光軸は相互に同軸である。このような直視性エネルギーフィルタは、調整が比較的簡単であるという利点を有する。なぜならば、エネルギーフィルタを除去すれば、エネルギーフィルタの前後の全結像系を予調整できるからである。しかしながら、上記利点を得るには、電子顕微鏡およびエネルギーフィルタからなる全システムの構造高さを比較的大きくする必要がある。なぜならば、すべての電子光学コンポーネントが、真っすぐな光軸に沿って順次に配置されるからである。従って、特に、電子エネルギーが200keV以上で、このエネルギーを高度に分散するために必要な比較的大きいフィルタを電子顕微鏡コラムの対称軸に対して非対称に配置した場合、機械的安定性の問題が生ずることになる。
【0003】
さらに、例えば、米国特許第4851670号には、90°のビーム偏向を行う唯一つの偏向範囲を分散素子として有するエネルギーフィルタが記載されている。しかし、唯一つの分散偏向素子は、比較的大きい結像エラーを生ずる。従って、偏向素子の後段には、まさに高経費の結像系を設置しなければならない。分散素子によって光軸を90°偏向し、次いで、エネルギーフィルタの後ろで光軸を水平に推移させれば、構造高さを減少できるが、このような系の場合も、即座に、機械的安定性の問題が現れる。なぜならば、エネルギーフィルタの後ろの高経費の光学的結像系が、重力の作用を受けて比較的大きいモーメントを誘起するからである。
【0004】
ドイツ特許公開第19838600−A1号には、フィルタ入口とフィルタ出口との間で光軸を同じく合計で90°だけ偏向するが、同時に、逆方向へ多重にビーム偏向を行うことによって中心面に対して対称な構造を有する別種の電子エネルギーフィルタが記載されている。良く知られているように、エネルギーフィルタの対称構造によってエネルギーフィルタ内の若干の結像エラーが避けられので、総括して、改善された結像性質が得られる。しかしながら、この場合も、フィルタ出口の後ろの光軸の水平推移が、機械的安定性の問題を誘起する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、一方では、エネルギーフィルタを含む電子顕微鏡からなる全システムの構造高さが低く、他方では、機械的安定性の問題ができる限り少ない、特に、電子顕微鏡のためのエネルギーフィルタを提供することにある。本発明の他の課題は、電子光学にもとづく結像エラーをできる限り小さくできるエネルギーフィルタを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
最初に挙げた課題は、すべての偏向範囲が、90°〜210°の範囲の合計角度だけビーム偏向を行うことを特徴とする電子エネルギーフィルタ、すなわち本発明の請求項1の特徴を有するエネルギーフィルタによって解決され、第2の課題は、エネルギーフィルタのヘルムホルツ長さが、偏向範囲の偏向半径の平均値の2倍よりも大きいことを特徴とする電子エネルギーフィルタ、すなわち請求項2の特徴を有するエネルギーフィルタによって解決される。本発明の有利な実施態様は、双方の方式の組合せおよび従属請求項の特徴から得られる。
【0007】
本発明に係る電子エネルギーフィルタは、複数の磁気偏向範囲を有する。4つのすべての偏向範囲は、共働して、90°〜210°の合計範囲の偏向を行う。
【0008】
フィルタ入口とフィルタ出口との間の光軸の合計偏向角度が90°よりも大きいことによって、フィルタ入口の前で光軸が下方へ垂直に延びる場合、フィルタ出口の後ろには、上方へ斜めに延びる光軸が生ずる。フィルタ出口の後ろで上方へ斜めに延びる上記光軸によって、重力の作用で生ずるモーメントは、フィルタ出口の後ろに設けた電子顕微鏡のコンポーネントで減少される。光軸が、フィルタ出口の後ろで再び垂直に延び、即ち、フィルタが、合計して180°のビーム偏向を行う場合、もちろん、最適な機械的安定性が達成される。この場合、垂直推移に対する光軸推移の±30°の偏差は、機械的安定性に極く僅かな不利な影響を与えるに過ぎない。合計偏向角度の最大限界値は、エネルギーフィルタに後置の検知器が電子顕微鏡の光路内のエネルギーフィルタの上方にあってはならず、エネルギーフィルタから出る光路がエネルギーフィルタに入る光路と交差してはならないということによって定められる。
【0009】
機械的安定性以外にエネルギーフィルタの不可避の電子光学的結像エラーを減少するため、エネルギーフィルタは、一方では、中心面に対して対称に構成しなければならず、同時に、ヘルムホルツ長さは、偏向範囲の偏向半径の平均値の少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも3倍、更には、少なくとも5倍に対応しなければならない。この場合、ヘルムホルツ長さは、エネルギーフィルタの入口側の範囲にエネルギーフィルタによって量的に結像尺度1:1で結像される2つの平面の間の間隔に対応する。この場合、上記双方の入口側平面の1つ、即ち、入口回折面は、分散状態で結像尺度1:1で、いわゆる、分散面に結像され、上記双方の平面の第2の平面、即ち、入口像面は、色消し状態で結像尺度1:1で、いわゆる、出口像面に結像される。
【0010】
良く知られているように、エネルギーフィルタの2次エラーの一部は、エネルギーフィルタの対称構造によって消失する。エネルギーフィルタ内の偏向半径、または偏向半径の異なる場合には偏向半径の平均値に比して長いヘルムホルツ長さと組合せることによって、エネルギーフィルタ内には小さいビーム径が生じ、かくして、不可避の高次の結像エラーも減少される。
【0011】
この場合、偏向半径または偏向半径の平均値の少なくとも5倍に対応するヘルムホルツ長さは、電子伝播方向へ見て、エネルギーフィルタの前に観察ヘッドを設けた電子顕微鏡に特に好適である。なぜならば、この場合、ヘルムホルツ長さは、観察ヘッドの通常の構造長さ、即ち、観察ヘッドおよび蛍光スクリーンまたは検知器の前の最後の投影レンズの距離にほぼ対応するからである。
【0012】
最初の偏向範囲および最後の偏向範囲において、135°よりも大きい角度だけビーム偏向を行うのが好ましい。エネルギーフィルタは、磁界内にかくして結合された比較的長い軌道長さにもとづき、まさに高い分散度を有する。
【0013】
更に、最初の偏向範囲および最後の偏向範囲を、それぞれ、ドリフト区間によって相互に分離された2つの磁気部分範囲で構成すれば有利である。この場合、フィルタ入口の後ろの第1部分範囲の偏向角度およびフィルタ出口の前の第2部分範囲の偏向角度は、双方の中央の部分範囲の偏向角度に対応する。同時に、第1偏向範囲の第2部分範囲と第2偏向範囲との間のドリフト区間は、第1偏向範囲の第1部分範囲と第2部分範囲との間のドリフト区間に対応させなければならない。かくして、エネルギーフィルタの相互に対称な双方の半部の各々における光路の対称性を更に向上できる。かくして、総括して、ビーム推移が更に軸線近傍にシフトされ、かくして、高次のエラーが減少される。
【0014】
最高度の対称性を達成するため、エネルギーフィルタの前の入口回折面と第1偏向範囲の入射エッジとの間の間隔の2倍に対応する長さのドリフト区間によって、双方の中央偏向範囲を相互に分離すべきである。この場合、エネルギーフィルタは、二重対称性を有し、即ち、エネルギーフィルタの相互に対称な双方の半部の各々は、少なくとも、扇形電磁石の磁界のフォーカシング作用に関して、双方の半部の中心面に対して対称である。磁界によって形成されるフォーカシングは、それぞれ、当該の磁界によって形成された偏向に対して2次的であるので、エネルギーフィルタの双方の半部自体が、偏向の異なる符号を除外すれば、同じく対称であることは、エネルギーフィルタの二重対称性には無意味である。
【0015】
総括して高度の分散を達成すると同時にビームをコンパクトに案内するため、第1偏向範囲の双方の部分範囲の各々の偏向角度は、対応して、最後の偏向範囲の上記部分範囲に対して対称の双方の部分範囲においてももちろん、90°以上でなければならない。この場合、第1偏向範囲の第1部分範囲の偏向角度は、110°〜120°の範囲にあれば好ましく、理想的には約115°である。この場合、第1偏向範囲の第1部分範囲の115°のビーム偏向と第2部分範囲の90°の偏向とを組合せれば、最大の分散度が得られる。偏向角度を更に増大するには、第1偏向範囲の双方の部分範囲の間のドリフト区間を増大しなければならない。なぜならば、さもないと、電子顕微鏡の第2偏向範囲と顕微鏡コンポーネントとの間にスペース問題が現れるからである。
【0016】
特に好ましい実施態様の場合、エネルギーフィルタは、総括して、テレスコピックシステムまたは準テレスコピックシステムとして構成されている。対物レンズの焦点距離とエネルギーフィルタのヘルムホルツ長さとの比が、対物レンズの開口数にほぼ対応する場合は、エネルギーフィルタは準テレスコピックである。これは、ヘルムホルツ長さが偏向半径または偏向半径の平均値の10倍以上の場合に達成される。かくして、更に、既述の如く、総合的に現れる結像エラーを低く抑制できる。なぜならば、2次以上の結像エラーが、低く抑制されるからである。
【0017】
2次結像エラーを総合して完全に修正するため、各偏向範囲と部分範囲との間のドリフト区間に、それぞれ、ヘキサポールを設ければ有利である。この場合、ヘキサポールは、もちろん、エネルギーフィルタの双方の対称の半部に相互に対称に配置すべきである。上記ヘキサポールは、2次結像エラーの修正に役立つ。
【0018】
偏向範囲の部分に、本発明に係るエネルギーフィルタが不均一な磁界を有していれば有利である。
【0019】
エネルギーフィルタは、入口側平面、即ち、入口回折面をアクセス自在の平面、即ち、分散面または選択面に分散結像する。この場合、エネルギーフィルタの対称面には、線フォーカス、即ち、1つの方向へのみフォーカシングされた入口回折面の像が生ずる。
【0020】
エネルギーフィルタは、総合して、テレスコピックシステムとして作用するので、透過電子顕微鏡に使用した場合、エネルギー濾波された物体像を記録するか、物体回折図を記録するかに応じて、物体または電子線源の中間実像は、フィルタの前にある最後の電子レンズのフィルタとは反対側の焦面に形成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、図示の実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。
【0022】
図1に示した透過電子顕微鏡は、全体としてほぼ大文字Jに配置されているその配置のJの直線部分に対応する光軸案内を有する。電子光学結像系は、エネルギーフィルタ3に、ビーム方向へ見て、前置された部分に、電子線源2と、3つの各電磁レンズ4a,4b,4cおよび3つの各電磁レンズに後置したコンデンサ・対物レンズ・収束レンズ6からなる多段(好ましくは、4段)コンデンサ4a,4b,4c,6とを備えたほぼ通常の構造を有する。被検試料の受容のため、コンデンサ・対物レンズ・収束レンズ6の極シューギャップの高さにゴニオメータ5が設けてある。この構成において、コンデンサ・対物レンズ・収束レンズは、二重の機能を果たし、一方では、粒子線源2とコンデンサ・対物レンズ・収束レンズ6との間に設置された3つの各電磁レンズとともに試料面の照明に役立ち、同時に、試料面の拡大結像のための対物レンズとして役立つ。
【0023】
コンデンサ・対物レンズ・収束レンズ6の後段には、好ましくは4つの各電磁レンズ7,8,9,10からなる多段結像系が設けてある。この場合、この拡大結像系7,8,9,10は、電子線源2の像、正確に云えば、電子線源2のクロスオーバまたは試料面をエネルギーフィルタ3の入口回折面12に結像するよう操作される。エネルギーフィルタ3は、上記入口回折面12を選択面13に無収差で分散結像する。同時に、電子光学結像系7,8,9,10は、電子線源2のクロスオーバ(物体回折図の場合)または試料面(エネルギー濾波した物体像の場合)を無限遠に結像する。従って、エネルギー濾波した物体像の場合にエネルギーフィルタ3の前の試料の最後の中間実像、または物体回折図の記録の場合の粒子線源2のクロスオーバの最後の中間実像は、エネルギーフィルタ3の前に設けた電子光学結像系の最後のレンズ10のエネルギーフィルタ3とは反対側の焦面に生ずる。換言すれば、所望の倍率に応じて、前置の素子7,8,9からなる拡大結像系によって形成された最後の中間像の位置が、エネルギーフィルタ3の前に設けた最後のレンズ10の焦面と一致するよう、エネルギーフィルタ3の前に設けた最後のレンズ10を励起する。
【0024】
エネルギーフィルタ3は、無限焦点電子光学系として作用するので、平行に入射する光束は、エネルギーフィルタ3から再び平行に投射され、即ち、エネルギーフィルタのヘルムホルツ長さは無限である。この場合、エネルギーフィルタ3は、エネルギーフィルタ3内の他の補足の中間偏向以外に、光軸を総合して180°だけ偏向し、従って、エネルギーフィルタ3から出る光軸1’は、入射光軸1に対して平行にシフトされる。この場合、入射光軸1と投射光軸1’との間のシフトが、約0,6〜1mであれば好ましい。
【0025】
エネルギーフィルタ3の出口の後ろで再び上方へ垂直に延びる光軸1’に沿って、他の2つの電子レンズ14,15が設けてあり、上記電子レンズによって、選択的に、エネルギー濾波された物体像の場合にはエネルギーフィルタ3から平行に出る光束は検知器16に結像され、あるいは、物体回折図を記録する場合には選択面13が検知器16に結像される。この場合、検知器16は、1次元または2次元電子線検知器として構成され、従って、より大きいスペクトルも受光できる。
【0026】
図2に、エネルギーフィルタ3の構造を更に拡大して示した。エネルギーフィルタは、総合して、電子ビームの光軸を偏向する6つの扇形電磁石23,24,25,26,27,28からなり、このうち双方の最初の扇形電磁石23,24は、第1偏向範囲を形成し、第3扇形電磁石25は、第2偏向範囲を形成し、第4扇形電磁石26は、第3偏向範囲を形成し、双方の最後の扇形電磁石27,28は、第4偏向範囲を形成する。この場合、扇形電磁石26,27,28からなる第3,第4偏向範囲は、最初の偏向範囲23、24、25に対して鏡像対称に配置されており、従って、エネルギーフィルタは、総合して、中心面Mに対して対称な構造を有する。エネルギーフィルタの選択面13の口径エラーのみを修正する場合は、第1,第4偏向範囲は、それぞれ、唯一つの扇形電磁石から構成できる。しかしながら、像面16の2次結像エラーも修正したい場合は、図2に示した如く、第1偏向範囲の2つの部分範囲23,24に、別個の扇形電磁石を設け且つ扇形電磁石間の無磁界空間内にドリフト区間を設けるのが有利である。後者の場合、エネルギーフィルタの対称性にもとづき、もちろん、第4偏向範囲および最後の偏向範囲を2つの扇形電磁石27,28に対応して分割できる。
【0027】
第1偏向範囲の双方の部分範囲の間のドリフト区間には、2つのヘキサポール修正器H1,H2が設けてあり、第1偏向範囲の第2部分範囲と第2偏向範囲との間のドリフト区間には、他の2つのヘキサポール修正器H3,H4が設けてある。上記ヘキサポール修正器は、最終像面16の2次結像エラーの修正に役立つ。中心面Mに対する対称性にもとづき、対応して、第3偏向範囲26と最後の偏向範囲27の第1部分範囲との間には他の2つのヘキサポール修正器H6,H7が設けてあり、最後の偏向範囲の双方の部分範囲との間には他の2つのヘキサポール修正器H8,H9が設けてある。他のヘキサポール修正器H5は、第2偏向範囲25と第3偏向範囲26との間に中心面Mに設けてある。
【0028】
第1偏向範囲の第2部分範囲24の出口と第2偏向範囲25の電子ビームの入口との間のドリフト区間は、図2のエネルギーフィルタの場合、第1偏向範囲の双方の部分範囲23,24の間のドリフト区間と同一である。更に、同時に、第1偏向範囲の第1部分範囲23および第2偏向範囲25の偏向角度Ф1は、同一に選択されている。これら双方の方策によって、更なる対称性が得られる。従って、第2偏向範囲25の光軸に垂直な中心面S3と第3偏向範囲の第1部分範囲23の光軸に垂直な中心面S4との間のエネルギーフィルタの構造は、第1偏向範囲の第2部分範囲24の光軸に垂直な中心面S1に対して鏡像対称である。全フィルタMの対称性にもとづき、もちろん、最後の偏向範囲の第1部分範囲27の光軸に垂直な中心面S2に関して同様の部分対称性が得られる。エネルギーフィルタの各半部に第1偏向範囲の入口回折面と第1部分範囲の中心面S4との間に残存する部分および第2偏向範囲の中心面S3と中心面Mとの間に残存する部分は、偏向方向に関してのみ異なり、偏向の強さに関しては異ならない。磁界によって形成されるフォーカシングは、偏向に関して2次的であり、従って、偏向方向とは無関係であるので、軌道推移について、総括して、エネルギーフィルタの第1半部には、更に、第1偏向範囲の第2部分範囲の中心面S1に対して対称性が得られ、第2半部には、第4偏向範囲の第1部分範囲の中心面S2に対して対称性が得られる。従って、エネルギーフィルタは、偏向方向の差異は除いて、二重対称性である。この補足の部分対称性によって、大きいヘルムホルツ長さと共働して、すべての電子線軌道は、比較的軸線近傍において推移し、かくして、より高次のエラーは低く抑制される。
【0029】
図2に示したエネルギーフィルタの場合、ヘキサポール修正器H1〜H8が無ければ、ひずみおよび2次の口径エラーは図1の選択面13において修正される。ヘキサポール修正器H1〜H8を補足すれば、すべての2次エラーは、色消し像面においても選択面13においても修正される。
【0030】
第2偏向範囲25と第3偏向範囲26との間の間隔は、対称性の確保のため、入口回折面12と第1偏向範囲23の入射エッジとの間の間隔の2倍である。
【0031】
図2のエネルギーフィルタの好ましい実施形態は、下記の構造データを有する:
k1=0.7906
k2=0.7929
μ1=0.6123
μ2=0.6094
g=0.5809R
a=1.736R
D=7.296R/E0
s=1.32R
A=8.46R
【0032】
ここで、k1は、第1,第3,第4,第6扇形電磁石23,24,25,26,28の、図2の紙面に垂直な方向の標準化された無次元のフォーカシング磁気強さであり、μ1は、第2,第4扇形電磁石24,27の、図2の紙面に垂直な方向の標準化された無次元のフォーカシング磁気強さであり、k2は、第1,第3,第4,第6扇形電磁石23,25,26,28の、図2の紙面内の標準化された無次元のフォーカシング磁気強さであり、μ2は、第2,第4扇形電磁石24,27の、図2の紙面内の標準化された無次元のフォーカシング磁気強さであり、gは、分散面13と最後の扇形電磁石28の投射エッジとの間の間隔または入口回折面12と第1扇形電磁石23の入射エッジとの間の間隔であり、aは、第1偏向範囲23,24の双方の部分範囲の間の自由ドリフト区間および第1偏向範囲の第2部分範囲と第2偏向範囲25との間の自由ドリフト区間であり、Dは、分散度であり、sは、第2扇形電磁石24の光軸と第4扇形電磁石27の光軸との間の最小間隔であり、Aは、エネルギーフィルタへの入射前の光軸1とエネルギーフィルタから投射後の光軸1’との間の間隔である。Rは、すべての扇形電磁石において同一の光軸偏向半径であり、E0は、エネルギーフィルタ内で光軸上を伝播する電子線のエネルギーである。図2に示した実施形態の場合、偏向角度Ф1は、第1,第3扇形電磁石23,25において、それぞれ、115°であり、第2扇形電磁石24において90°である。
【0033】
この場合、標準化された無次元の4極磁気強さki、μiは、下式によって定義される:
ki2=(2e/mμ)1/2|ψ2|R2,μi2=1−ki2
これら双方の関係式において、Rは、偏向電磁石内の光軸の当該の曲率半径であり、Uは、電子線の加速電圧であり、eは、電気素量であり、mは、電子質量である。この場合、下記の4極磁気強さ
ψ2=−∂B/∂y|y=0
は、光軸に沿って測定した中心面に垂直な磁束密度の勾配である。
【0034】
フォーカシング磁気強さk1,k2,μ1,μ2は、2種の方法で、即ち、米国特許第5449914号またはRoseらの論文“Electron Optics of Imaging Energy Filters",Springer Series in Optical Science,Vol.71,p57〜に記載の如き不均一磁界によって、あるいは、例えば、Optik,Vol.54,No.3,p235〜250に記載の如く光軸に対する扇形電磁石23〜28の入射エッジおよび投射エッジの傾きを適切に選択することによって得られる。
【0035】
扇形電磁石のすべての入射エッジおよび投射エッジが光軸に垂直をなすまたは光軸が、それぞれ、当該の扇形電磁石の入射エッジおよび投射エッジに部分的に垂直をなす図2の実施形態の場合、第1偏向範囲の第1扇形電磁石23、中央の双方の扇形電磁石25,26および最後の偏向範囲の最後の扇形電磁石28は、米国特許公開第5449914号に対応して円錐形に構成されている。
【0036】
エネルギーフィルタの第1半部に、即ち、入口回折面12と中心面Mとの間に上記構造データを有する図2エネルギーフィルタを介する基本軌道を、図3a,3bに、200keV電子線について示した。エネルギーフィルタの第2半部を介して分散面13に達する基本軌道の他の推移は、エネルギーフィルタの第1半部の基本軌道の推移の対応する鏡像反映によって得られる。図3a,3bの基本軌道から知られる如く、中心面Mには、2つの線フォーカス、即ち、入口回折面12の線フォーカスおよび入口像面11の線フォーカスが生ずる。この場合、中心面の入口回折面の線フォーカスの線方向は、光軸を含む平面内にあり、他方、入口像面の線フォーカスの線方向は、光軸を含む平面に対して垂直である。x−z断面に垂直な入口回折面の線フォーカス、即ち、光軸を含む平面に対して垂直な線方向を有する線フォーカスは、第1偏向範囲と第2偏向範囲との間に生ずる。1次電子エネルギーE0が200keVであり且つ入射側光軸1と投射側光軸1’との間の間隔Aが0,6mである場合、エネルギーフィルタは3.3μm/eVの分散度を有する。
【0037】
図4に、それぞれ90°の光束偏向を行う6つの扇形電磁石31〜36からなる本発明の第2実施形態を示した。この場合も、エネルギーフィルタは中心面Mに対して対称に構成されている。この場合も、双方の最初の扇形電磁石31,32および双方の最後の扇形電磁石35,36は、同じく、合計で180°の偏向を行う共通の偏向範囲を形成する。6つのすべての扇形電磁石31〜36の合力によって、光軸は、エネルギーフィルタの入口側とエネルギーフィルタの出口側との間で合計して180°だけ偏向される。この実施形態の場合、2つの偏向範囲の間のドリフト区間の長さaは、それぞれ、同一であり、それぞれ、分散面43と最後の扇形電磁石36の投射エッジとの間の間隔または入口回折面42と第1扇形電磁石31の入射エッジとの間の間隔の2倍である。この実施形態の場合も、偏向範囲の間には、それぞれ、像の2次エラーを修正するのに役立つヘキサポール修正器H1〜H3が設けてある。更に、第1扇形電磁石31の入射エッジの前および最後の扇形電磁石36の投射エッジの後ろには、2つのヘキサポール修正器H4が設けてある。
【0038】
図4に示したエネルギーフィルタも二重対称性であり、即ち、双方の対称な半部の各々は、それ自体、偏向方向の差異は除いて、光軸に垂直な第2扇形電磁石32または第5扇形電磁石35の中心面に対して対称である。
【0039】
このようなエネルギーフィルタは、下記の構造データを有する:
紙面(yz断面)に垂直な扇形電磁石のフォーカシング磁気強さ;
k=0.5573,
紙面(xz断面)内のフォーカシング磁気強さ;μ=0.8303,
分散度D=4.351R/E0,
扇形電磁石の間の自由ドリフト区間a=0.6577R。
【0040】
この場合、Rは、同じく、6つのすべての扇形電磁石における光軸の偏向半径である。このようなエネルギーフィルタは、入射側光軸と投射側光軸との間の間隔A=8R=0.6mおよび電子線エネルギーE0=200keVにおいて、1.95μm/eVの分散度を有する。
【0041】
光軸が、それぞれ、各扇形電磁石31〜36の入射エッジおよび投射エッジにおいて入射エッジおよび投射エッジに垂直に延びる図4の実施形態の場合、フォーカシング磁気強さは、対応して不均一の磁界によって形成される。
【0042】
それぞれエネルギーフィルタの第1半部における、即ち、入口回折面42と中心面Mとの間の基本軌道の推移を図5a〜5dに示した。分散軌道xkを図5eに示した。この場合も基本軌道から知られる如く、上記エネルギーフィルタの中心面には、2つの線フォーカス、即ち、像面の線フォーカスおよび入口回折面の他の線フォーカスが生ずる。
【0043】
図6に示したエネルギーフィルタは、合計8つの扇形電磁石を有し、光束方向へ見て、第1,第4,第5,第8扇形電磁石は、それぞれ、135°の偏向を行い、残余の扇形電磁石は、それぞれ、90°の偏向を行う。この実施形態の場合、光軸の合計偏向量は180°である。エネルギーフィルタは、中心面Zmに対して対称であり、相互に対称な双方の半部の各々は、各対称面Zs1,Zs2に対して対称に構成されており、従って、このエネルギーフィルタも二重対称性を有する。エネルギーフィルタは、基本的に、それぞれ光軸を90°偏向する2つの順次に配列されたエネルギーフィルタからなる。
【0044】
図2,4を参照して説明した実施形態の場合、ヘルムホルツ長さは、それぞれ無限である。しかしながら、ヘルムホルツ長さは、偏向半径に比して十分に大きい限りは、より短く構成しても、本発明の意図する成果が得られる。
【0045】
図面を参照して説明した双方の実施形態の場合、すべての扇形電磁石の偏向半径は同一である。しかしながら、二重対称性を維持して異なる偏向半径を選択できる。例えば、図2の実施形態において、第1偏向範囲の第2部分範囲24の偏向半径および第3偏向範囲27の第1部分範囲の偏向半径は、等しいが、残余の偏向範囲25,26および部分範囲23,28の偏向半径とは異なる。
【0046】
本発明に係るエネルギーフィルタは、電子顕微鏡コラムに組込まれ、エネルギーフィルタの後段において少なくとも100×の追加倍率を有する、いわゆる“イン・コラム・フィルタ”として使用するのが好ましい。しかしながら、エネルギーフィルタの出口の後ろに弱い追加倍率のみを有する、いわゆる“ポスト・コラム・フィルタ”としての使用も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】透過電子顕微鏡と組合せた本発明に係るエネルギーフィルタの略図である。
【図2】図1のエネルギーフィルタの略拡大図である。
【図3a】図2の紙面(図3a)および図2の紙面に垂直な平面(図3b)におけるエネルギーフィルタ内の基本軌道を示す図面である。
【図3b】図2の紙面(図3a)および図2の紙面に垂直な平面(図3b)におけるエネルギーフィルタ内の基本軌道を示す図面である。
【図3c】図2のエネルギーフィルタの分散軌道を示す図面である。
【図4】本発明に係るエネルギーフィルタの他の実施形態の略図である。
【図5a】図4のエネルギーフィルタの基本軌道を示す図面である。
【図5b】図4のエネルギーフィルタの基本軌道を示す図面である。
【図5c】図4のエネルギーフィルタの基本軌道を示す図面である。
【図5d】図4のエネルギーフィルタの基本軌道を示す図面である。
【図5e】図4のエネルギーフィルタの分散軌道を示す図面である。
【図6】8つの偏向範囲および完全な二重対称性を有するエネルギーフィルタの断面図である。
【符号の簡単な説明】
1,1’ 光軸
2 電子線源
3 エネルギーフィルタ
4a,4b,4c 電磁レンズ(コンデンサ)
5 ゴニオメータ
6 コンデンサ・対物レンズ・収束レンズ
7,8,9,10 電磁レンズ
11 焦面
12 入口回折面
13 選択面
14,15 電子レンズ
16 検知器
Claims (17)
- 磁気偏向範囲(3,23〜28,31〜36)を含む電子エネルギーフィルタであって、前記エネルギーフィルタの入力部における光軸(1)を前記エネルギーフィルタの出力部における光軸(1’)に偏向し、前記磁気偏向範囲は、第1偏向範囲(23,24)、第2偏向範囲(25)、第3偏向範囲(26)および第4偏向範囲(27,28)を備え、
すべての前記第1〜第4偏向範囲(3,23〜28,31〜36)が、150°から210°の範囲の合計角度だけビーム偏向を行い、前記第1偏向範囲(23,24)および前記第4偏向範囲は、それぞれ2つの部分範囲(23,24,27,28)からなる2つの部分から構成され、それぞれ前記部分範囲(23,24,27,28)の間の磁場の無い空間にはドリフト区間が設けられていることを特徴とする電子エネルギーフィルタ。 - 前記磁気偏向範囲(3,23〜28,31〜36)は、中心面(M)に対して対称に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第1偏向範囲(23,24)および前記第2偏向範囲(25)は、前記エネルギーフィルタ内を通る電子の方向の変化に関する限りにおいて、対称面(S1)に対して対称に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記エネルギーフィルタは、前記エネルギーフィルタの入力側の入口像面を色消し状態で、前記エネルギーフィルタの出口側の出口像面に結像し、前記エネルギーフィルタは、さらに、入口側の入口回折面を分散状態で前記エネルギーフィルタの出口側の分散面に結像し、前記入口像面と前記入口回折面との間の距離は、前記偏向範囲の偏向半径の平均値よりも2倍以上大きいことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記エネルギーフィルタの前記入口像面と前記入口回折面との間の距離は、前記偏向範囲の前記偏向半径の前記平均値よりも3倍以上大きいことを特徴とする請求項4に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記入口像面と前記入口回折面との間の距離は、前記偏向範囲の前記偏向半径の前記平均値よりも10倍以上大きいことを特徴とする請求項5に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第2偏向範囲(25,33)と前記第3偏向範囲(26,34)との間には、無磁界空間内にドリフト区間が設けてあることを特徴とする請求項2〜6の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第2偏向範囲(25,33)と前記第3偏向範囲(26,34)との間の前記ドリフト区間が、前記第1偏向範囲(23)の前記入口側回折面(12)と入射エッジとの間の間隔(g)の2倍に対応する長さを有することを特徴とする請求項7に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第1偏向範囲の第1部分範囲(23)の偏向角度(Φ1)が、前記第2部分範囲(25,33)の偏向角度(Φ1)に量的に等しいことを特徴とする請求項2〜8の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第1偏向範囲の双方の部分範囲(23,24)の間の前記ドリフト区間の長さが、前記第1偏向範囲からの出口と前記第2偏向範囲(25,33)への入口との間のドリフト区間の長さに等しいことを特徴とする請求項2〜9の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第1偏向範囲の双方の部分範囲(23,24)の各々の偏向角度(Φ1,Φ2)が、90°以上であることを特徴とする請求項2〜10の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記第1偏向範囲の第1部分範囲(23)の偏向角度(Φ1,Φ2)が、110°〜120°の数値を有することを特徴とする請求項11に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記偏向範囲(23〜28;31〜36)の間には、ヘキサポール修正器が設けてあることを特徴とする請求項2〜12の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 無限焦点システムであることを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 前記偏向範囲(23〜28;31〜36)の一部が、不均一な磁界を有することを特徴とする請求項1〜14の何れか一項に記載の電子エネルギーフィルタ。
- 請求項1〜15のいずれか一項に記載の電子エネルギーフィルタを含む電子顕微鏡。
- 前記電子エネルギーフィルタに前置した最後の電子レンズ(10)の前記電子エネルギーフィルタとは反対側の焦面(11)に、物体または電子線源(1)の中間実像が形成されることを特徴とする請求項16の電子顕微鏡。
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