JP3849353B2 - 透過型電子顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透過型電子顕微鏡に係り、特に特定のエネルギーの電子を選択して結像する結像分光器すなわちエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、原子レベルオーダで材料を観察し、かつ、原子レベルで観察された原子の種類や結合状態を同定することが半導体不良解析部門・新素材の研究分野などで極めて重要な要求となっている。
【0003】
透過型電子顕微鏡 (Transmission Electron Microscope:TEM)は、このような微小領域の構造解析に好適な装置である。TEMは、試料を透過した電子を電子レンズを用いて拡大結像する装置であり、波長の極めて短い電子線を用いることにより、原子レベルでの構造観察や解析を可能としている。
【0004】
更に透過型電子顕微鏡で、特定領域の元素分析や状態分析を可能とする装置として、結像型のエネルギーフィルターを搭載したエネルギーフィルター透過型電子顕微鏡(Energy-Filtering TEM:EF−TEM)がある。このEF−TEMで電子分光結像法による2次元像情報を得ることにより、試料の元素分析や状態分析が可能になる。
【0005】
なお、電子分光結像法 (Electron Spectroscopic Imaging:ESI)とは、試料でエネルギーを失った電子線のロスエネルギーとその強度から、試料内部で起こった現象や元素の種類、結合状態等を調べるための分析法 (Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS:エネルギー損失分光法)を発展させたものであり、EELSによる分析を2次元的な画像情報として得る方法である。
【0006】
このようなエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡が、特公平6− 42358 号公報に開示されている。当該公報には、試料を透過した電子線を対物レンズ、及び3段の中間レンズでエネルギーフィルターの入力像面,入力クロスオーバー面にそれぞれ、試料の拡大像,回折像を形成することで、エネルギーフィルターの色消し像面に拡大像を投影し、エネルギー選択スリットに回折像を投影させ、最終像面に特定エネルギーの拡大像を形成する技術が開示されている。
【0007】
また、当該公報には最終像面に特定エネルギーの回折像を形成するために、エネルギーフィルターの入力像面,入力クロスオーバー面にそれぞれ、試料の回折像,拡大像を形成する技術についても、併せて開示されている。
【0008】
当該公報に開示されたEF−TEMは、インカラム型と呼ばれ、TEMの中間レンズと投影レンズの間にエネルギーフィルターを挿入する構成からなるものである。このインカラム型のEF−TEMは、エネルギーフィルターをTEMの鏡筒下に取り付けるポストカラム型のEF−TEMに対し、軸調整が容易であり、また収差補正のための構成要素が少なくて済む等、メリットが大きい。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように、ポストカラム型のEF−TEMに対し、優れた性能を持つインカラム型のEF−TEMであるが、一方で以下のような問題を有している。
【0010】
インカラム型のEF−TEMは、電子銃,電子銃から発せられる電子線を試料に収束して照射するための収束レンズ,対物レンズ,試料を透過した電子線を結像するための中間レンズ系,エネルギーフィルター、及びエネルギーフィルターを通過した電子線を最終像面に投影するための投影レンズ系等の各構成要素が上方に向かって積み上げられるような構成からなる。
【0011】
コイルと鉄覆からなるレンズやエネルギーフィルターは単体でもかなりの重量があり、これを積み上げるEF−TEMは装置の重心が高くなる。重心が高くなると耐震性が低下し、転倒災害の危険性が増し、更に微小領域を観察するためのTEMにおいて、観察視野の位置ずれ等の可能性も高くなる。以上のような弊害を解消するために、背の低いEF−TEMの提供が望まれる。
【0012】
一方、EF−TEMの装置性能は、中間レンズ系や投影レンズ系を構成するレンズの数に依存するところがある。即ちレンズの数が多いほど、倍率及びカメラ長の広範囲設定が可能となり、これらレンズの数を増やすことによって装置の基本性能を向上させることができる。またEF−TEMの基本性能を向上するための他の要因として、エネルギーフィルターの入力クロスオーバー面と入力像面間の距離がある。この距離が長いほどエネルギーフィルターの性能が向上する。
【0013】
このようにレンズの段数の増加や、入力クロスオーバー面−入力像面間の距離の増大は、EF−TEMの性能を向上する要因であるが、レンズの数の増加や、入力クロスオーバー面と入力像面間の距離の増大は、EF−TEMの身長の増大につながる。即ちEF−TEMの基本性能の向上と耐震性の向上の両立は困難であった。
【0014】
本発明は、EF−TEMの身長の増大を抑制、或いは減少しつつ、基本性能を向上するエネルギーフィルター透過型電子顕微鏡の提供を目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明では、電子銃から発生する電子線を試料に照射し、試料を透過した電子線をエネルギーフィルターでエネルギー分光し、観察面に投影する透過型電子顕微鏡において、前記エネルギーフィルターの入力クロスオーバー面に電子線の回折像、或いは試料像の虚像を形成すると共に、前記エネルギーフィルターの入力像面に、前記回折像或いは前記試料像の内、前記入力クロスオーバー面に形成される像とは異なる像の実像を形成するレンズを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡を提供する。
【0016】
また、試料を透過した電子線をエネルギーフィルターでエネルギー分光し、当該エネルギーフィルターでエネルギー分光した電子線の内、特定のエネルギーを持つ電子線をエネルギー選択スリットで選択し、観察面に投影する透過型電子顕微鏡において、前記エネルギーフィルターと前記選択スリットの間に、レンズを配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡を提供する。
【0017】
以下、本発明の概要は発明の実施の形態の欄で詳細に説明する。
【0018】
【発明の実施の形態】
一般的な透過型電子顕微鏡と比較してEF−TEMは、元素分析や状態分析といったような分析能力に加えて、TEM像及び電子線回折像のコントラストが向上し、定量評価を可能にすること、厚い試料でも観察できること、生物切片においては無染色でも観察できること、エネルギーロススペクトルが得られること、汎用電子顕微鏡の付属装置との複合化を妨げないというメリットがあげられる。エネルギーフィルターは、インカラム型とポストカラム型に大きく分類することができる。インカラム型EF−TEMは、TEMの中間レンズ系と投影レンズ系の間にエネルギーフィルターを挿入するタイプのTEMであり、一方、ポストカラム型はTEMの鏡筒の下に取り付けるタイプのTEMである。
【0019】
インカラム型EF−TEMに採用されるエネルギーフィルターを図7に示す。これはγ型エネルギーフィルターである。エネルギーフィルター26は、複数の磁極(この例では第一磁極41,第二磁極42の2つ)を持ち、それぞれが電子線43を偏向する。第一磁極41で偏向された電子線43は、第二磁極42で再び偏向され、第一磁極41を通過して、最終的には入射時の光軸4に戻り、エネルギーフィルター26を出射する。磁極41と42の形状や磁極間距離は、エネルギーフィルター26の性能に大きく影響するので、シミュレーションで決定する。特に、電子線43が磁極に入射及び出射する角度,磁極で偏向される角度,磁極間距離,磁極入出射端面における曲率などである。
【0020】
エネルギーフィルター26には、入射クロスオーバー面44,入射像面45,色消し像面46,エネルギー分散面47という4つの特別な意味を持つ面が存在する。エネルギーフィルター26は、電子レンズと同様な結像作用を持ち、入射クロスオーバー面44はエネルギー分散面47に、また、入射像面45は色消し像面46に、倍率1で投影される。これらの面は、収差を低減することを目的としてエネルギーフィルター26のフィルター中心線48に関して対称的に配置される。
【0021】
EF−TEMで試料の拡大像を観察するためには、入射クロスオーバー面44に電子源像が形成され、かつ、入射像面45に試料像が形成されるように、対物レンズと中間レンズ系を調整する。また、試料の回折像を観察するには、入射クロスオーバー面44に試料像が形成され、かつ、入射像面45に電子源像が形成されるように、対物レンズと中間レンズを調整する。
【0022】
このようにして入射クロスオーバー面44と入射像面45に形成された試料像、または回折像を、エネルギーフィルター26はエネルギー分散面47と色消し像面46に投影する。さらに、投影レンズ系は色消し像面46に形成された試料像、または回折像を蛍光板25や写真フィルムなどの観察面に拡大投影し、最終像を形成する。
【0023】
エネルギー分散面47には試料のエネルギーロススペクトルが形成されるので、エネルギー分散面47に設置されているエネルギー選択スリット24を用いて特定のエネルギーを選択する。こうすることで、最終像面(観察面)には、選択された特定エネルギーの試料の拡大像、または回折像が形成される。
【0024】
倍率とカメラ長を変更するために投影レンズの励磁を変更すると、エネルギーフィルター26独自の収差の影響を受ける場合があり、倍率及びカメラ長の可変範囲は狭い。通常は対物レンズと中間レンズの励磁を変更して倍率とカメラ長を変更する。
【0025】
これらのレンズの励磁は、レンズコイルに流れる電流値を制御して行う。各レンズに供給する電流値の組み合わせをROMなどに記憶させ、目的の倍率やカメラ長の電流値を選ぶことにより、倍率やカメラ長を変更する。できるだけ広い倍率・カメラ長の範囲をカバーするためには、中間レンズの数を増やすと良い。
【0026】
また、EF−TEMによる特定領域の分析精度や結果の信頼性はエネルギーフィルターの性能に依存するところが大きい。このエネルギーフィルターの性能を向上させる1つの方策として入射クロスオーバー面44と入射像面45の間の距離(以下、Lとする)を長くすることが挙げられる。このLが長くなれば、エネルギーフィルター26に入射する電子線の開き角が相対的に小さくなるからである。
【0027】
図3〜図6にLとさまざまな性能指数との関係を示す。図3では画像の歪みがLが長くなるにつれて小さくなる様子がわかる。また図4ではエネルギー分散はLにほぼ比例しており、Lを長くする方が有利なことが判る。図5は磁極入射端面の極率との関係である。極率が大きいとわずかな電子線のずれが磁極の入出射角度の変化として現れ、軸調整を困難にし、更には極めて高度な機械加工精度や組み立て精度が要求されることになる。図5によれば、Lを長くすることにより、磁極端面の曲率を小さくできることが判る。図6は、Lと第一磁極41と第二磁極42との関係である。これが小さいと、エネルギーフィルター26自身が小さく、軽く構成できることが判る。
【0028】
以上のようにLを長くすることによって、エネルギーフィルターの性能を向上することが可能になる。
【0029】
以上のようにレンズの段数やエネルギーフィルターのLの長距離化はEF−TEMの性能を向上する上で重要なファクターであるが、反面EF−TEMの身長の増大も意味する。本発明実施例装置によれば、レンズの段数やエネルギーフィルターのLの増大を、EF−TEMの身長の増大を抑制、或いは減少しつつ、行うことが可能になる。以下、図面を参照して本発明実施例装置を詳細に説明する。
【0030】
図8は本発明実施例装置によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡の一実施例のブロック図である。1は本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡である。電子銃2から放出された照射電子線30は集束レンズ10によって試料3上に照射される。照射する際に、集束偏向コイル20によってその照射位置と角度が決定される。集束偏向コイル20は照射角度を一定に保ったまま位置だけを変えたり、照射位置を一定に保ったまま角度だけを変えたりすることもできる。
【0031】
照射電子線30はできるだけ一定のエネルギーになるように制御されているが、試料3を通過した透過電子線31は試料3との相互作用により色々なエネルギーを含んでいる。対物レンズ11,第一中間レンズ12,第二中間レンズ13,第三中間レンズ14,第四中間レンズ15は、対物レンズ11の後ろ焦点面にできている回折パターンをエネルギーフィルター26の入射クロスオーバー面に結像し、対物レンズ11の像面をエネルギーフィルター26の入射像面に結像する。エネルギーフィルター26を通過した電子線はゼロロス電子線32とロス電子線33に分離され、エネルギー選択スリット24で選択される。
【0032】
エネルギー選択スリット24を通過した電子線34は第一投影レンズ16,第二投影レンズ17,第三投影レンズ18で拡大され、蛍光板25上に最終像を形成する。電子線偏向系21,22,23は、エネルギーフィルター26前後の電子線の光軸調整に用いる。制限視野絞り27は、試料像の視野を選択するのに用いる。制限視野条件が成り立つときは、対物レンズ11の像面と一致する。
【0033】
図2は、本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡1のエネルギーフィルター26近辺の詳細図である。第三中間レンズ14から第二投影レンズ17の部分を表している。本実施例ではエネルギーフィルター26はγ形エネルギーフィルターで構成されている。28はエネルギーフィルター26に入射する電子線の開き角を制限する入射絞りである。第一偏向コイル21は、第三中間レンズ14と第四中間レンズ15の間に位置し、第二偏向コイル22は、第四中間レンズ15とエネルギーフィルター26の間に位置し、第三偏向コイル23は、エネルギーフィルター26と第一投影レンズの間に位置する。エネルギー選択スリット24は、第一投影レンズ16と第二投影レンズ17の間に位置する。
【0034】
図1は本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡1の光学系の模式図である。試料3の拡大像を形成する様子を表している。試料3から蛍光板25まで示してある。電子レンズは、簡単のため楕円で表示した。散乱電子線35は、試料で弾性散乱して回折された電子線の光路を表す。散乱電子線35が光軸4と交わるところに試料3の拡大像50〜58ができる。矢印でその様子を表している。光軸4と平行な電子線36は、試料3を平行に透過した電子線で、光軸4と交わるところに試料3の回折像(電子源像)60〜65ができる。
【0035】
実線は実際の電子線の軌道を表し、点線は虚像が形成されるときの虚の電子軌道を表す。第四中間レンズ15は、入射クロスオーバー面44とエネルギーフィルター26の間に配置されているので、実像として形成された第四中間回折像63を入射クロスオーバー面44の位置に第五中間回折像64を虚像として形成し、同時に第四中間拡大像53を入射像面45の位置に第五中間拡大像54を実像として形成する。
【0036】
虚像は、物面の一点から出たすべての軌道が、レンズ界を出た後、交点を作らず、代わりに軌道の接線の前方への延長が一点に交わるとき、この交点に形成される。この虚像は、文字どおり実際には存在しない像であるが、当該虚像を形成するレンズ以下の光学系から見れば、恰もその個所に像が形成されているかのように捉えることができる。
【0037】
即ちエネルギーフィルターの入力クロスオーバー面に疑似的に試料像を形成することでエネルギーフィルターに必要な光学条件を満足でき、更にエネルギーフィルターの入力像面と入力クロスオーバー面との間にレンズを配置することが可能になるので、エネルギーフィルターのL、或いはレンズの段数を、EF−TEMの身長の増大を抑制或いは減少しつつ、増やすことができる。
【0038】
エネルギーフィルター26は、入射クロスオーバー面44にある第五中間回折像64をエネルギー分散面47上に第六中間回折像65として結像する。また同時に入射像面45にある第五中間拡大像54を色消し像面46に第六中間拡大像55として結像する。第一投影レンズ16は、エネルギーフィルター26とエネルギー分散面47の間に配置されているので、第六中間回折像65をエネルギー選択スリット24の位置にエネルギーロススペクトル69として実像を形成し、同時に第六中間拡大像55を第七中間拡大像56として虚像を形成する。
【0039】
続く第二投影レンズ17と第三投影レンズ18は、第一投影レンズ16によって虚像として形成された第七中間拡大像56を第八中間拡大像57を経て最終拡大像58を蛍光板25上に形成する。
【0040】
このようにエネルギーフィルター26下にも中間回折像の虚像を形成することで、本来設けなければいけないエネルギーフィルターの色消し像面46と、エネルギー分散面47の距離を短縮することが可能になる。これはエネルギー分散面47に配置されるべき、エネルギー選択スリット24とエネルギーフィルター26間の距離を減少させることにつながる。
【0041】
また、本来エネルギーロススペクトルが設けられる筈のエネルギー分散面47より、エネルギーフィルター26側にエネルギーロススペクトル69を形成するということは、エネルギーフィルター26とエネルギー分散面47の間に、エネルギーフィルターの色消し像面と、エネルギーロススペクトルの形成個所間の距離を短くするためのレンズが配置されていることに他ならない。
【0042】
即ち、本発明実施例装置では、エネルギーフィルター26とエネルギー選択スリット24との間に、レンズを介在させることで、実際のエネルギーロススペクトル69を、エネルギー分散面47よりエネルギーフィルター26側に形成し、更に当該レンズによってエネルギー分散面47に中間回折像の虚像を形成することで、エネルギーフィルターに必要な光学条件を満足している。
【0043】
以上のような構成によれば、エネルギーフィルター26とエネルギー選択スリット69の距離を短くすることができ、更に投影レンズを多く配置することが可能となる。
【0044】
また上述したように色消し像面46とエネルギー分散面47との距離は、入射クロスオーバー面44と入射像面45の距離と等しくすることが、収差低減の観点で好ましい。本発明実施例装置では、エネルギーフィルター26の上下に配置される第四中間レンズ15と第一投影レンズ16を、エネルギーフィルター26に対して上下対称に配置することで、色消し像面46とエネルギー分散面47との距離、及び入射クロスオーバー面44と入射像面45との距離を等しくしているが、本発明はこのレンズの配置に限定されるものではない。
【0045】
例えば入射クロスオーバー面44に虚像を形成し、エネルギー分散面47には虚像を形成しないということもできる。即ちエネルギーフィルターの入射側、或いは出射側のいずれか一方のみに本発明を適用し、他の一方は従来のように実像を形成しても良い。結果的に入力クロスオーバー面と入力像面の距離と、色消し像面とエネルギー分散面間の距離が同じであれば良い。
【0046】
これまで説明してきたように、エネルギーフィルター26の性能を向上させるためには、入射クロスオーバー面44と入射像面45の間の距離Lを長くすることが考えられる。本発明実施例装置と、前述した特公平6−42358号公報に開示のEF−TEMで示されている方式とを比較して、本発明の優位性について以下に説明する。
【0047】
この様子を図9に示す。図9(a)は特公平6−42358号公報の開示にされているEF−TEMの光学系を示す図である。当該光学系には中間レンズ3段+投射レンズ2段が設けられている。図9(b)は、図9(a)と同じ光学系を採用しつつ、エネルギーフィルターの性能向上のため、距離Lを伸ばした例を示す図である。
【0048】
図9(c)(d)は、図9(a)(b)の光学系に対し、投射レンズを1段増やした例を示す図である。本発明の光学系を採用したEF−TEMは図9(f)に示した。図9(e)は、本発明実施例装置の理解を助けるための図であり、構成は図9(a)と同じである。
【0049】
まず、図9(a)と図9(f)を比較すると、図9(f)の方が、距離Lが長く、また中間レンズと投射レンズがそれぞれ1段増えていることが判る。しかも図9(a)と図9(f)では、試料から観察面の距離が同じである。即ち、公知技術と比較すると、EF−TEMの身長の増加を抑制しつつ、レンズを複数設けることが可能となり、距離Lを長くすることが可能になる。
【0050】
次に、図9(b)と図9(f)を比較すると、両者の距離Lは同じであるが、図9(b)の方が試料から観察面までの距離が長いことが判る。即ち、公知技術では距離Lを長くするのに伴ってEF−TEMの身長も長くなっていたが、本発明の採用によりEF−TEMの身長の増大を抑制しつつ、距離Lを長くすることができる。
【0051】
更に、図9(c)と図9(f)を比較すると、両者の投射レンズの数は同じであるが、図9(c)の方が試料から観察面までの距離が長いことが判る。即ち、公知技術では投射レンズの数を増やしたことによってEF−TEMの身長も長くなっていたが、本発明の採用によりEF−TEMの身長の増大を抑制しつつ、レンズの段数を増やすことができる。
【0052】
図1や図9に示した光学系は、20万倍以上程度の強拡大倍率に有効な光学系である。図10(a)に数万倍から30万倍程度の中拡大倍率に有効な光学系と図10(b)に数千倍から数万倍程度の弱拡大倍率に有効な光学系を示す。強拡大倍率に有効な光学系では、中間レンズ12〜15で形成される中間拡大像のうち、第四中間拡大像53が虚像となっており、これを除くすべての中間拡大像50,51,52,54が実像であったが、中拡大及び強拡大倍率に有効な光学系では、第二中間拡大像51も虚像となっている。
【0053】
図11に、試料3のさらに低倍率像を実現するための光学系を示す。この光学系では、対物レンズ11の励磁を下げて対物レンズ11自身の倍率を下げることにより低倍率を実現することができる。この時、第一中間回折像は制限視野絞り27近辺に生じさせることが可能で、制限視野絞り27を対物絞りとして使用することも可能である。対物レンズ11が弱励磁となっている関係上、第一中間拡大像50は虚像となるが、第四中間拡大像53と第五中間拡大像54の位置関係は、第四中間レンズ15の励磁を変えなければ、図1や図10と同じ関係を保つこともできる。
【0054】
図12に、試料3の回折像を観察するための光学系を示す。対物レンズ11の励磁は図1や図10と同等である。中間レンズ12〜15は対物レンズ11の後ろ焦点面にできる第一中間回折像60をエネルギーフィルター26の入射像面45の位置に第五中間回折像64として結像し、同時に対物レンズ11の像面にできる第一中間拡大像50をエネルギーフィルター26の入射クロスオーバー面44の位置に第五中間拡大像54として結像する。エネルギーフィルター26以下の光学系はこれまでと同等であり、単に拡大像と回折像の関係が入れ替わっているだけである。従って、蛍光板25には最終回折像68が形成される。第四中間回折像63と第五中間回折像64の位置関係は、第四中間レンズ15の励磁を変えなければ、図1,図10,図11と同じ関係を保つこともできる。
【0055】
EF−TEMに要求される機能の1つにPEELSがある。PEELS (Parallel EELS)とは、エネルギー分散面を投射レンズ系で拡大して観察することにより、直接EELSを取得する観察法である。PEELSは、電荷結合素子 (Charge-Coupled Device:CCD)、特にスロースキャンタイプのもの(Slow Scan CCD)を用いると良い。この理由として、ダイナミックレンジが広く、実時間性に富み、デジタル信号処理が容易だからである。
【0056】
PEELSによる観察を行う際には、投影レンズ系の倍率を可変にし、スペクトルのエネルギー範囲やSSCCDの画素当りのエネルギー分解能を最適に設定する。
【0057】
図13にPEELSを実現するための光学系を示す。エネルギーフィルター26から上の光学系は図1,図10,図11,図12と同等なのでここでは省略した。エネルギーロススペクトル69を投影レンズ系16〜18で蛍光板25上に結像する。拡大倍率は投影レンズの励磁を変えることにより実現できる。この配置は、長いLを持つエネルギーフィルターであっても、通常の長さのLを持つエネルギーフィルターであっても有効である。
【0058】
エネルギーフィルター26の光軸は、エネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡1の光軸4と正確に一致していなければならない。倍率やカメラ長を変更すると、電子レンズの機械的な加工精度や組立精度等から発生する回転非対称性や、レンズ電流の設定誤差,ヒステリシスなどにより、入射クロスオーバー面44や入射像面45の位置や方向が変化することがある。これらを、エネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡1に通常設けられている機械的調整機構で合わせ込むことは不可能であり、電磁的な要素により補正する操作が必要になる。
【0059】
本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡1には、第三中間レンズ14と第四中間レンズ15の間、第四中間レンズ15とエネルギーフィルター26の間、エネルギーフィルター26と第一投影レンズ16の間に電磁的な電子線偏向コイル21〜23を設けている。これらの偏向コイルは図2に示すように各電子レンズ14,15,16やエネルギーフィルター26の外部に配置されており、それぞれの要素と独立に製作することができる。
【0060】
しかも、図1からも明らかなように、第一偏向コイル21は第四中間回折像63(回折像を観察するときは第四中間拡大像53),第二偏向コイル22は第五中間拡大像54(回折像を観察するときは第五中間回折像64),第三偏向コイル23は第六中間拡大像55(回折像を観察するときは第六中間回折像65)の近辺に配置することができる。これらの中間像は全て実像であり、拡大像や回折像に新たに余分な収差を追加する影響は少ない。
【0061】
また、倍率やカメラ長毎に偏向コイル21〜23に流す電流値を記憶させておけば、倍率やカメラ長を変更することに伴うエネルギーフィルター26の光軸ずれを補正することが容易になる。
【0062】
エネルギーフィルター26の収差はあらかじめシミュレーションプログラムにより最小限に押さえられている。しかしながら、シミュレーション誤差やエネルギーフィルター26の磁極41,42の加工精度や組立精度の限界により、シミュレーション通りの軌道を描くことが困難である。
【0063】
特に問題となりやすいのは、入射クロスオーバー面44からの広がりに関する収差で、エネルギー分散面47における電子線の収束性に関係する。この収差が大きいと、最終拡大像58または最終回折像68において選択されたエネルギーに分布を生じることになる。この収差は、入射クロスオーバー面44からの開き角の自乗に比例する収差であり、入射像面45,色消し像面46に六極子レンズを設けることで収差を補正することが可能となる。これらの六極子レンズは、第二偏向コイル22,第三偏向コイル23の偏向磁場に重畳することにより実現できる。
【0064】
エネルギー選択スリット24の開閉方向はエネルギー分散方向と一致しなければならない。公知例のEF−TEMではエネルギーフィルター26の真下に第一投影レンズ16が配置されているので、エネルギー選択スリット24上におけるエネルギー分散方向はエネルギーフィルター26のエネルギー分散方向と一致する。しかし、電磁レンズは、コイルにより発生する磁界を狭い間隙から漏洩させてレンズ作用を持たせており、電子は漏洩磁界により回転してしまうので、本発明のように第一投影レンズ16をエネルギーフィルター26とエネルギー選択スリット24の間に配置した場合、エネルギー選択スリット24上におけるエネルギー分散方向は回転してしまう。
【0065】
しかしながら、この回転角度は、第一投影レンズ16の励磁に比例し、拡大像,回折像を観察する場合には常に一定値となる。したがって、エネルギー選択スリット24上のエネルギー分散方向は容易に類推でき、スリットの開閉方向をエネルギー分散方向に一致させることは可能である。
【0066】
また、スリットとレンズとの間の物理的な位置調整を行うことなく、第一投影レンズ16によるエネルギー分散方向の回転をなくすには、第一投影レンズ16にダブルギャップレンズを用いるとよい。ダブルギャップレンズとは、図14のように、第一レンズコイル5と第二レンズコイル6がペアになったレンズである。
【0067】
これらのコイルに逆向きの電流を流すことにより、第一間隙7と第二間隙8に発生する漏洩磁界はそれぞれ逆極性を持っており、光軸4を通った電子線に働く像回転効果は相殺し合う。つまり、エネルギー選択スリット24の開閉方向とエネルギーフィルター26のエネルギー分散方向は同じ方向とし、且つ所望の収束磁場を形成することができる。
【0068】
なお、本発明の実施例で採用するレンズは、その組み合わせによって、所望の倍率,所望のカメラ長を得るのに必要なレンズ強度を発生するための電源と、当該電源を制御するための制御装置が設けられている。当該制御装置は、試料の拡大像、或いは試料の回折像観察のモード設定や、倍率やカメラ長の設定等を行うことにより、各レンズに適当な電流を流すように各電源を調節する。
【0069】
図1,図10,図11,図12で示したように、第四中間レンズ15と第一投影レンズ16は複雑な制御が必要ない。特に第四中間レンズ15の励磁は一定にすることができる。第一投影レンズ16も基本的には励磁は一定で、図13に示したPEELSを行うときだけ、励磁が変化する。つまり、第四中間レンズ15と第一投影レンズ16の制御はON/OFFだけで済むことを意味し、電源,制御回路,制御ソフトが単純にでき、原価を下げることができる。これらのレンズに永久磁石レンズを用いれば、電源,制御回路,制御ソフトが不要となり、さらに原価を下げることができる。PEELSを行うには、第一投影レンズ16の代わりに用いる永久磁石レンズの光軸方向の位置を変化させればよい。
【0070】
これまでは、γ形エネルギーフィルターについて説明してきたが、Ω形エネルギーフィルターやα型のエネルギーフィルターでも同様の効果が期待できる。
【0071】
【発明の効果】
以上、本発明の構成によれば、EF−TEMにおいて、鏡体の身長を高くすることなく、入射クロスオーバー面と入力像面との間の距離を伸ばすことができるようになり、エネルギーフィルターTEMの性能向上と共に、耐震性をも向上させることが可能になる。
【0072】
また、EF−TEMの耐震性の向上と共に、中間レンズの段数や投射レンズの段数を増やすことが可能になるため、倍率やカメラ長の可変範囲を大きくすることが可能になる。
【0073】
更にエネルギーフィルターとエネルギー分散面との間にレンズを介在させることで、レンズ段数の増加とEF−TEMの長身長化の抑制の両立が可能になり、エネルギーフィルターTEMの性能向上と共に、耐震性をも向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡の一実施例の光学系の模式図である。
【図2】エネルギーフィルター近辺の詳細図である。
【図3】入射クロスオーバー面と入射像面の距離と、像歪みに関する収差係数の関係を表すグラフである。
【図4】入射クロスオーバー面と入射像面の距離と、エネルギー分散に関する収差係数の関係を表すグラフである。
【図5】入射クロスオーバー面と入射像面の距離と、磁極の曲率に関する収差係数の関係を表すグラフである。
【図6】入射クロスオーバー面と入射像面の距離と、磁極間距離の関係を表すグラフである。
【図7】γ形エネルギーフィルターの説明図である。
【図8】本発明によるエネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡の一実施例のブロック図である。
【図9】公知例と本発明の構成の比較を表す図である。
【図10】中拡大像と弱拡大像を観察するための光学系の模式図である。
【図11】低倍率像を観察するための光学系の模式図である。
【図12】回折像を観察するための光学系の模式図である。
【図13】PEELSを実現するための光学系の模式図である。
【図14】ダブルギャップレンズのしくみを表す図である。
【符号の説明】
1…エネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡、2…電子銃、3…試料、4…光軸、5…第一レンズコイル、6…第二レンズコイル、7…第一間隙、8…第二間隙、10…集束レンズ、11…対物レンズ、12…第一中間レンズ、13…第二中間レンズ、14…第三中間レンズ、15…第四中間レンズ、16…第一投影レンズ、17…第二投影レンズ、18…第三投影レンズ、20…集束偏向コイル、21…第一偏向コイル、22…第二偏向コイル、23…第三偏向コイル、24…エネルギー選択スリット、25…蛍光板、26…エネルギーフィルター、27…制限視野絞り、28…入射絞り、29…対物絞り、30…照射電子線、31…透過電子線、32…ゼロロス電子線、33…ロス電子線、34,43…電子線、35…散乱電子線、36…光軸と平行な電子線、41…第一磁極、42…第二磁極、44…入射クロスオーバー面、45…入射像面、46…色消し像面、47…エネルギー分散面、48…フィルター中心線、50…第一中間拡大像、51…第二中間拡大像、52…第三中間拡大像、53…第四中間拡大像、54…第五中間拡大像、55…第六中間拡大像、56…第七中間拡大像、57…第八中間拡大像、58…最終拡大像、60…第一中間回折像、61…第二中間回折像、62…第三中間回折像、63…第四中間回折像、64…第五中間回折像、65…第六中間回折像、66…第七中間回折像、67…第八中間回折像、68…最終回折像、69…エネルギー選択スリット。
Claims (17)
- 電子銃から発生する電子線を試料に照射し、試料を透過した電子線をエネルギーフィルターでエネルギー分光し、観察面に投影する透過型電子顕微鏡において、
前記エネルギーフィルターの入力クロスオーバー面に電子線の回折像、或いは試料像の虚像を形成すると共に、前記エネルギーフィルターの入力像面に、前記回折像或いは前記試料像の内、前記入力クロスオーバー面に形成される像とは異なる像の実像を形成するレンズを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。 - 請求項1において、前記レンズは前記試料と前記エネルギーフィルターの間に配置される中間レンズ群を構成するレンズであることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項2において、前記中間レンズ群は、当該中間レンズ群のエネルギーフィルター側に配置されるレンズより陰極側に、前記回折像、或いは試料像の虚像を形成することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項2において、前記中間レンズ群のエネルギーフィルター側に配置されるレンズは、永久磁石レンズであることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項2において、前記中間レンズ群のエネルギーフィルター側に配置されるレンズと、当該レンズより陰極側に配置されるレンズとの間に、電子線偏向器を配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項2において、前記中間レンズ群のエネルギーフィルター側に配置されるレンズと、前記エネルギーフィルターとの間に、電子線偏向器を配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項2において、前記中間レンズ群のエネルギーフィルター側に配置されるレンズと、前記エネルギーフィルターとの間に、六極子レンズを配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項1において、前記エネルギーフィルターと前記観察面の間にはエネルギー選択スリットが配置されると共に、当該選択スリットと前記エネルギーフィルターの間にエネルギーロススペクトルを前記選択スリット上に形成するレンズを配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項8において、前記選択スリットと前記エネルギーフィルターの間に配置されるレンズは、前記回折像、或いは試料像の虚像を前記選択スリットと前記観察面の間に形成することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項8において、前記選択スリットと前記エネルギーフィルターの間に配置されるレンズは、磁界形レンズであって、収束磁場を発生するためのレンズギャップが2つ形成されていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項10において、前記2つのレンズギャップで形成される収束磁場は、一方のレンズギャップ間に発生する収束磁場によってもたらされる電子線の回転を、他のレンズギャップ間に発生する収束磁場で相殺するように設定されていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項8において、前記エネルギーフィルターと前記観察面の間に配置されるレンズは、永久磁石レンズであることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項8において、前記選択スリットと前記エネルギーフィルターの間に配置されるレンズと、前記エネルギーフィルターの間に、電子線偏向器を配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項8において、前記選択スリットと、前記エネルギーフィルターの間に配置されるレンズと、前記エネルギーフィルターの間に、六極子レンズを配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項1において、前記エネルギーフィルターと前記観察面との間にはエネルギー選択スリットが配置されると共に、当該選択スリットと前記観察面の間には、前記回折像、或いは試料像の虚像が形成されることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項1において、前記エネルギーフィルターと前記観察面との間にはエネルギー選択スリットが配置され、当該選択スリットと前記エネルギーフィルターの間にはレンズが配置されると共に、エネルギーロススペクトルのエネルギー分散方向と、前記選択スリットの開口の開放方向がほぼ一致するように当該レンズのレンズ強度が設定されていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項1において、前記観察面に試料像を形成する場合には、前記エネルギーフィルターの入力クロスオーバー面に前記回折像を形成し、前記観察面に電子回折像を形成する場合には、前記エネルギーフィルターの入力クロスオーバー面に前記試料像を形成するように前記レンズを制御する制御装置が設けられていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
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