本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による面発光レーザ素子の概略断面図である。図1を参照して、この発明による実施の形態1による面発光レーザ素子100は、基板101と、反射層102,107と、共振器スペーサー層103,105と、活性層104と、超格子構造膜106と、高抵抗層108A,108Bと、p側電極109と、n側電極110とを備える。なお、面発光レーザ素子100は、発振光の波長が850nmである面発光レーザ素子である。
基板101は、n型ガリウム砒素(n−GaAs)からなる。反射層102は、n−Al0.9Ga0.1As/n−Al0.2Ga0.8Asの対を一周期とした場合、40.5周期の[n−Al0.9Ga0.1As/n−Al0.2Ga0.8As]からなり、基板101の一主面に形成される。そして、n−Al0.9Ga0.1Asおよびn−Al0.2Ga0.8Asの各々は、発振光の波長(850nm)をλ1とした場合、λ1/4n(nは半導体層の屈折率)の膜厚を有する。
共振器スペーサー層103は、ノンドープAl0.2Ga0.8Asからなり、反射層102上に形成される。活性層104は、GaAs/Al0.4Ga0.6Asの対を一周期とした場合、3周期の[GaAs/Al0.4Ga0.6As]からなる多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層103上に形成される。そして、GaAsは、6nmの膜厚を有し、Al0.4Ga0.6Asは、8nmの膜厚を有する。
共振器スペーサー層105は、ノンドープAl0.2Ga0.8Asからなり、活性層104上に形成される。超格子構造膜106は、Al0.2Ga0.8As/Al0.4Ga0.6Asの対を一周期とした場合、4周期の[Al0.2Ga0.8As/Al0.4Ga0.6As]からなり、共振器スペーサー層105上に形成される。そして、Al0.2Ga0.8AsおよびAl0.4Ga0.6Asの各々は、4nmの膜厚を有する。
超格子構造膜106は、無秩序化された領域106A,106Cと、秩序化された領域106Bとからなる。領域106A,106Cの各々は、亜鉛(Zn)を含む[Al0.2Ga0.8As/Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなり、領域106Bは、Znを含まない[Al0.2Ga0.8As/Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなる。そして、領域106A,106Cの各々は、領域106Bの屈折率よりも低い屈折率を有する。また、領域106Bは、発振光の出射方向DR1に略垂直な面内方向DR2において4μmの長さを有する。
反射層107は、p−Al0.9Ga0.1As/p−Al0.2Ga0.8Asの対を一周期とした場合、26周期の[p−Al0.9Ga0.1As/p−Al0.2Ga0.8As]からなり、超格子構造膜106上に形成される。そして、p−Al0.9Ga0.1Asおよびp−Al0.2Ga0.8Asの各々は、λ1/4n(nは半導体層の屈折率)の膜厚を有する。
高抵抗層108A,108Bは、反射層107中に形成され、[p−Al0.9Ga0.1As/p−Al0.2Ga0.8As]の周期構造にプロトン(H+)を注入した構造からなる。そして、高抵抗層108A,108Bによって挟まれた領域108Cは、面内方向DR2において4μmの長さを有する。
p側電極109は、出射口107Aを除く反射層107の一部に形成される。n側電極110は、基板101の裏面に形成される。
反射層102,107の各々は、活性層104で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層104に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。そして、反射層102と反射層107との間隔は、発振波長(=850nm)の1波長分の光学長になっており、反射層102,107によって挟まれた共振器スペーサー層103,105、活性層104および超格子構造膜106は、共振器を構成する。
超格子構造膜106は、活性層104よりも出射口107A側において反射層102,107および活性層104以外の領域に形成される。そして、超格子構造膜106において、無秩序化された領域106A,106Cの各々は、秩序化された領域106Bの屈折率よりも低い屈折率を有するので、超格子構造膜106は、活性層104において発振した発振光を領域106A,106Cによって領域106Bに閉じ込めるとともに、発振光を領域106Bによって出射口107Aの方向へ通過させる。これによって、面発光レーザ素子100の横モードが安定化する。つまり、面発光レーザ素子100において、高次発振モードが抑制され、単一の基本発振モードのみからなる発振光が放射される。
また、超格子構造膜106は、[Al0.2Ga0.8As/Al0.4Ga0.6As]の周期構造からなり、活性層104は、[GaAs/Al0.4Ga0.6As]の多重量子井戸構造からなるので、超格子構造膜106は、活性層104のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する。したがって、超格子構造膜106は、活性層104で発振した発振光を吸収せず、損失の低い導波路構造を形成する。
高抵抗層108A,108Bは、反射層107の抵抗よりも高い抵抗を有するので、p側電極109から注入された電流が活性層104側へ流れるのを阻止し、電流が通過する領域を領域108Cに制限する。
図2、図3および図4は、それぞれ、図1に示す面発光レーザ素子100の作製方法を示す第1から第3の工程図である。図2を参照して、一連の動作が開始されると、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて、反射層102、共振器スペーサー層103、活性層104、共振器スペーサー層105および超格子構造膜106を基板101上に順次積層する(図2の工程(a)参照)。
この場合、反射層102のn−Al0.9Ga0.1Asおよびn−Al0.2Ga0.8Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層103のノンドープAl0.2Ga0.8Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、活性層104のGaAs/Al0.4Ga0.6Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
さらに、共振器スペーサー層105のノンドープAl0.2Ga0.8Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、超格子構造膜106のAl0.2Ga0.8AsおよびAl0.4Ga0.6Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
その後、超格子構造膜106上にシリコンナイトライド(SiN)膜120を形成し、その形成したSiN膜120上にパターンニングされたレジストパターン130を形成する(図2の工程(b)参照)。この場合、レジストパターン130は、直径が4μmである円形の形状を有する。
レジストパターン130を形成すると、その形成したレジストパターン130をマスクとして用いて、SiN膜120をエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン130を除去する(図2の工程(c)参照)。これにより、SiN膜121が超格子構造膜106上に形成される。
そして、酸化亜鉛(ZnO)膜140を蒸着によって超格子構造膜106およびSiN膜121上に形成し、その後、600℃で熱処理してZnを超格子構造膜106中へ熱拡散させる(図2の(d)参照)。
次に、図3を参照して、図2に示す工程(d)において熱処理が終了し、SiN膜121およびZnO膜140をエッチングにより除去すると、無秩序化された領域106A,106Cと秩序化された領域106Bとが超格子構造膜106中に形成される(図3の(e)参照)。
その後、反射層107をMOCVD法によって超格子構造膜106上に形成する(図3の(f)参照)。この場合、反射層107のp−Al0.9Ga0.1Asおよびp−Al0.2Ga0.8Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
そして、SiN膜150を反射層107上に形成し、その形成したSiN膜150上にパターンニングされたレジストパターン160を形成する(図3の工程(g)参照)。この場合、レジストパターン160は、直径が4μmである円形の形状を有する。
レジストパターン160を形成すると、その形成したレジストパターン160をマスクとして用いて、SiN膜150をエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン160を除去する。これにより、SiN膜151が反射層107上に形成される(図4の工程(h)参照)。
そうすると、SiN膜151をマスクとして用いて、H+を注入し、反射層107中に高抵抗層108A,108Bを形成する(図4の(i)参照)。そして、SiN151をエッチングにより除去し、p側電極109を蒸着とリフトオフとによって反射層107上の一部に形成し、n側電極110を蒸着により基板101の裏面に形成する(図4の(j)参照)。これにより、面発光レーザ素子100が完成する。
面発光レーザ素子100を発振させる場合、p側電極109およびn側電極110にリード線を接続し、電流をp側電極109から注入する。そうすると、面発光レーザ素子100において、高抵抗層108A,108Bは、p側電極109から注入された電流の通過領域を領域108Cに制限して電流を活性層104へ注入する。
そして、活性層104に注入された電流が閾電流に達すると、活性層104において発振光が発生し、その発生した発振光は、反射層102,107で反射される。また、超格子構造膜106の領域106A,106Cは、発振光を領域106Bに閉じ込める。その結果、発振光は、単一モードで発振し、出射口107Aから放射される。
このように、面発光レーザ素子100においては、高抵抗層108A,108Bおよび領域108Cからなる層は、高抵抗層108A,108Bによって電流の注入領域を領域108Cに制限して電流を活性層104に注入し、超格子構造膜106は、活性層104において発振した発振光を領域106A,106Cによって領域106Bに閉じ込める。そして、無秩序化された領域106A,106Cは、活性層104および反射層102,107以外の領域に形成されているため、活性層104における欠陥密度の増加が抑制される。したがって、面発光レーザ素子100は、低閾電流で単一モードの発振光を発振できる。
なお、上記においては、Znを超格子構造膜106中へ熱拡散させて超格子構造膜106の無秩序化された領域106A,106Cを形成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、アルゴン(Ar)およびクリプトン(Kr)等の電気的に不活性な元素またはガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、砒素(As)およびリン(P)等の結晶構成元素を超格子構造膜106中へイオン注入し、続いてアニールすることによって無秩序化された領域106A,106Cを形成してもよい。
この場合、イオン注入した元素は、アクセプターおよびドナーとして機能しないため、無秩序化された領域106A,106Cのキャリア濃度を増加させることがない。その結果、無秩序化された領域106A,106Cにおいて、自由キャリアによる光吸収損失が増加することがない。したがって、面発光レーザ素子100のスロープ効率が低下せず、高効率な面発光レーザ素子を作製できる。なお、スロープ効率とは、注入電流を横軸に取り、発振光の強度を縦軸に取ったグラフにおいて、発振光の強度が注入電流に対して変化する割合を言う。
また、上記においては、反射層102と反射層107との間隔は、発振波長(=850nm)の1波長分に設定されると説明したが、この発明においては、これに限らず、反射層102と反射層107との間隔は、発振波長(=850nm)の1波長分よりも長く設定されてもよい。
面発光レーザ素子100においては、活性層104が光定在波の腹に位置して位相整合するためには、共振器スペーサー層103,105、活性層104および超格子構造膜106からなる共振器の長さ(方向DR1における長さ)を発振波長(=850nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定する必要がある。そのため、面発光レーザ素子100においては、通常、共振器の長さは、発振波長(=850nm)の光学距離の1倍に設定する。
しかし、共振器の長さは、発振波長(=850nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定されていればよいので、共振器の長さを発振波長(=850nm)の光学距離の1倍よりも長い距離に設定してもよい。これにより、共振器内において、超格子構造膜106を活性層104から遠ざけることが可能となり、熱拡散またはイオン注入により超格子構造を無秩序化した場合、活性層104まで無秩序化されることがなく、活性層104における無効電流が抑制され、面発光レーザ素子100を低閾電流で動作させることができる。
さらに、上記においては、活性層104は、GaAs/Al0.4Ga0.6Asの多重量子井戸構造からなると説明したが、この発明においては、これに限らず、活性層104は、窒素(N)と、窒素(N)以外のV族元素とを含む混晶半導体を用いて構成されていてもよい。
NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、GaNAs,GaInNAs,AlGaNAs,AlGaInNAs,GaNAsP,GaInNAsP,AlGaAsP,AlGaInNAsP,GaNAsSb,GaInNAsSb,AlGaNAsSb,AlGaInNAsSb,GaNAsPSb,GaInNAsPSb,AlGaNAsPSb,AlGaInNAsPSb等からなる。
NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、石英の光ファイバの伝送に適した1.3〜1.6μmの長波長帯のバンドギャップを有しており、GaAs等からなる障壁層との間で伝導帯の電子を井戸層に閉じ込めるときの障壁高さを高くすることができるため、活性層104からの電子のオーバーフローが抑制され、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層104に用いた面発光レーザ素子100は、良好な温度特性を有する。
また、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体をGaAs基板上にエピタキシャル成長させることができるため、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層104に用いた面発光レーザ素子において、多層膜反射鏡として高反射率、かつ、熱伝導率に優れたGaAs/AlGaAs系の反射層を用いることができる。したがって、高性能な長波長帯の面発光レーザ素子を作製できる。
なお、超格子構造膜106は、「光学層」を構成し、秩序化された領域106Bは、「光通過層」を構成し、無秩序化された領域106A,106Cは、「光閉込層」を構成する。
また、秩序化された領域106Bは、「第1の超格子構造膜」を構成し、無秩序化された領域106A,106Cは、「第2の超格子構造膜」を構成する。
さらに、高抵抗層108A,108Bおよび領域108Cは、「電流注入層」を構成し、領域108A,108Bは、「電流狭窄層」を構成し、領域108Cは、「電流通過層」を構成する。
さらに、共振器スペーサー103は、「第1の共振器スペーサー層」を構成し、共振器スペーサー105は、「第2の共振器スペーサー層」を構成する。
さらに、反射層102は、「第1の反射層」を構成し、反射素107は、「第2の反射層」を構成する。
[実施の形態2]
図5は、実施の形態2による面発光レーザ素子の概略断面図である。図5を参照して、実施の形態2による面発光レーザ素子100Aは、基板201と、反射層202,208と、共振器スペーサー層203,205と、活性層204と、超格子構造膜206と、トンネル接合層207と、p側電極209と、n側電極210とを備える。なお、面発光レーザ素子100Aは、発振光の波長λ2が980nmである面発光レーザ素子である。
基板201は、n−GaAsからなる。反射層202は、n−GaAs/n−Al0.9Ga0.1Asの対を一周期とした場合、40.5周期の[n−GaAs/n−Al0.9Ga0.1As]からなり、基板201の一主面に形成される。そして、n−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asの各々は、λ2/4n(nは半導体層の屈折率)の膜厚を有する。
共振器スペーサー層203は、n−GaAsからなり、反射層202上に形成される。活性層204は、GaInAs/GaAsの対を一周期とした場合、3周期の[GaInAs/GaAs]からなる多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層203上に形成される。そして、GaInAsは、8nmの膜厚を有し、GaAsは、10nmの膜厚を有する。
共振器スペーサー層205は、p−GaAsからなり、活性層204上に形成される。超格子構造膜206は、p−GaAs/p−Al0.4Ga0.6Asの対を一周期とした場合、4周期の[p−GaAs/p−Al0.4Ga0.6As]からなり、共振器スペーサー層205上に形成される。そして、p−GaAsおよびp−Al0.4Ga0.6Asの各々は、4nmの膜厚を有する。
超格子構造膜206は、無秩序化された領域206A,206Cと、秩序化された領域206Bとからなる。領域206A,206Cの各々は、Gaイオンを注入した[p−GaAs/p−Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなり、領域206Bは、Gaイオンを注入していない[p−GaAs/p−Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなる。そして、領域206A,206Cの各々は、領域206Bの屈折率よりも低い屈折率を有する。また、領域206Bは、面内方向DR2において4μmの長さを有する。
トンネル接合層207は、p型高ドープGaAs(p+−GaAs)/n型高ドープGaAs(n+−GaAs)からなり、超格子構造膜206上に形成される。この場合、p+−GaAsが超格子構造膜206側に形成される。そして、p+−GaAsおよびn+−GaAsの各々の膜厚は、10nmであり、p+−GaAsは、1×1020cm−3のカーボン(C)がドーピングされており、n+−GaAsは、3×1019cm−3のシリコン(Si)がドーピングされている。
トンネル接合層207は、無秩序化された領域207A,207Cと、秩序化された領域207Bとからなる。領域207A,207Cの各々は、Gaイオンを注入した[p+−GaAs/n+−GaAs]からなり、領域207Bは、Gaイオンを注入していない[p+−GaAs/n+−GaAs]からなる。
領域207A,207Cの各々は、トンネル接合の領域において、高濃度にドーピングした不純物(C,Si)が相互に拡散し、キャリア濃度が低下するため、トンネル接合が破壊されている。したがって、領域207A,207Cにおいては、pn逆バイアス接合により、電流が流れなくなり、電流阻止構造が形成される。
その結果、電流は、無秩序化されていない領域207Bのトンネル接合の領域に狭窄されて活性層204に注入される。なお、領域207Bは、面内方向DR2において4μmの長さを有する。
反射層208は、n−GaAs/n−Al0.9Ga0.1Asの対を一周期とした場合、26周期の[n−GaAs/n−Al0.9Ga0.1As]からなり、トンネル接合層207上に形成される。そして、n−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asの各々は、λ2/4n(nは半導体層の屈折率)の膜厚を有する。
p側電極209は、出射口208Aを除く反射層208の一部に形成される。n側電極210は、基板201の裏面に形成される。
反射層202,208の各々は、活性層204で発振した発振光をブラッグの多重反射により反射して活性層204に閉じ込める半導体分布ブラッグ反射器を構成する。そして、反射層202と反射層208との間隔は、発振波長(=980nm)の1波長分の光学長になっており、反射層202,208によって挟まれた共振器スペーサー層203,205、活性層204、超格子構造膜206およびトンネル接合層207は、共振器を構成する。
超格子構造膜206は、活性層204よりも出射口208A側において反射層202,208および活性層204以外の領域に形成される。そして、超格子構造膜206において、無秩序化された領域206A,206Cの各々は、秩序化された領域206Bの屈折率よりも低い屈折率を有するので、超格子構造膜206は、活性層204において発振した発振光を領域206A,206Cによって領域206Bに閉じ込めるとともに、発振光を領域206Bによって出射口208Aの方向へ通過させる。これによって、面発光レーザ素子100Aの横モードが安定化する。つまり、面発光レーザ素子100Aにおいて、高次発振モードが抑制され、単一の基本発振モードのみからなる発振光が放射される。
また、超格子構造膜206は、[p−GaAs/p−Al0.4Ga0.6As]の周期構造からなり、活性層204は、[GaInAs/GaAs]の多重量子井戸構造からなるので、超格子構造膜206は、活性層204のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する。したがって、超格子構造膜206は、活性層204で発振した発振光を吸収せず、損失の低い導波路構造を形成する。
トンネル接合層207は、超格子構造膜206に接して形成される。その結果、領域207A,207B,207Cは、それぞれ、超格子構造膜206の領域206A,206B,206Cに接して形成される。そして、トンネル接合層207の領域207A,207Cは、トンネル接合が破壊され、pn逆接合による電流阻止構造を形成しているので、p側電極209から注入された電流が活性層204側へ流れるのを阻止し、電流が通過する領域を領域207Bに制限する。
図6および図7は、それぞれ、図5に示す面発光レーザ素子100Aの作製方法を示す第1および第2の工程図である。図6を参照して、一連の動作が開始されると、MOCVD法を用いて、反射層202、共振器スペーサー層203、活性層204、共振器スペーサー層205、超格子構造膜206およびトンネル接合層207を基板201上に順次積層する(図6の工程(a)参照)。
この場合、反射層202のn−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層203のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成し、活性層204のGaInAs/GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
さらに、共振器スペーサー層205のp−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、超格子構造膜206のp−GaAsおよびp−Al0.4Ga0.6Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成する。
さらに、トンネル接合層207のp+−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、n+−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成する。
その後、トンネル接合層207上にSiN膜220を形成し、その形成したSiN膜220上にパターンニングされたレジストパターン230を形成する(図6の工程(b)参照)。この場合、レジストパターン230は、直径が4μmである円形の形状を有する。
レジストパターン230を形成すると、その形成したレジストパターン230をマスクとして用いて、SiN膜220をエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン230を除去する(図6の工程(c)参照)。これにより、SiN膜221がトンネル接合層207上に形成される。そして、SiN膜221をマスクとしてGaイオンをイオン注入する(図6の(d)参照)。
次に、図7を参照して、図6に示す工程(d)においてイオン注入が終了し、SiN膜221をエッチングにより除去すると、無秩序化された領域206A,206Cと秩序化された領域206Bとが超格子構造膜206中に形成され、無秩序化された領域207A,207Cと秩序化された領域207Bとがトンネル接合層207中に形成される(図7の(e)参照)。
その後、反射層208をMOCVD法によってトンネル接合層207上に形成する(図7の(f)参照)。この場合、反射層208のn−GaAs/n−Al0.9Ga0.1Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成する。
そして、p側電極209を蒸着とリフトオフとによって反射層208上の一部に形成し、n側電極210を蒸着により基板201の裏面に形成する(図7の(g)参照)。これにより、面発光レーザ素子100Aが完成する。
面発光レーザ素子100Aを発振させる場合、p側電極209およびn側電極210にリード線を接続し、電流をp側電極209から注入する。そうすると、面発光レーザ素子100Aにおいて、トンネル接合層207の領域207A,207Cは、p側電極209から注入された電流の通過領域を領域207Cに制限して電流を活性層204へ注入する。
そして、活性層204に注入された電流が閾電流に達すると、活性層204において発振光が発生し、その発生した発振光は、反射層202,208で反射される。また、超格子構造膜206の領域206A,206Cは、発振光を領域206Bに閉じ込める。その結果、発振光は、単一モードで発振し、出射口208Aから放射される。
このように、面発光レーザ素子100Aにおいては、トンネル接合層207は、領域207A,207Cによって電流の注入領域を領域207Bに制限して電流を活性層204に注入し、超格子構造膜206は、活性層204において発振した発振光を領域206A,206Cによって領域206Bに閉じ込める。そして、無秩序化された領域206A,206C;207A,207Cは、活性層204および反射層202,208以外の領域に形成されているため、活性層204における欠陥密度の増加が抑制される。したがって、面発光レーザ素子100Aは、低閾電流で単一モードの発振光を発振できる。
また、面発光レーザ素子100Aの超格子構造膜206およびトンネル接合層207は、一部の領域206A,206C;207A,207Cが1回の工程で同時に無秩序化されるため(図6の(d)および図7の(e)参照)、面発光レーザ素子100Aの製造工程が容易になる。
さらに、超格子構造膜206およびトンネル接合層207の一部の領域206A,206C;207A,207Cを無秩序化するために、キャリア濃度を増加させないGaイオンを用いている。したがって、領域206A,206C;207A,207Cのキャリア濃度を増加させないことにより、領域206A,206C;207A,207Cにおいて、自由キャリアによる光吸収損失が増加することがない。その結果、面発光レーザ素子100Aのスロープ効率が低下することがなく、高効率な面発光レーザ素子を作製できる。
なお、上記においては、Gaイオンを超格子構造膜206およびトンネル接合層207中へイオン注入して超格子構造膜206およびトンネル接合層207の無秩序化された領域206A,206C;207A,207Cを形成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、アルゴン(Ar)およびクリプトン(Kr)等の電気的に不活性な元素またはアルミニウム(Al)、インジウム(In)、砒素(As)およびリン(P)等の結晶構成元素を超格子構造膜206およびトンネル接合層207中へイオン注入することによって無秩序化された領域206A,206C;207A,207Cを形成してもよい。
この場合、イオン注入した元素は、アクセプターおよびドナーとして機能しないため、無秩序化された領域206A,206C;207A,207Cのキャリア濃度を増加させることがない。その結果、無秩序化された領域206A,206C;207A,207Cにおいて、自由キャリアによる光吸収損失が増加することがない。したがって、面発光レーザ素子100Aのスロープ効率が低下せず、高効率な面発光レーザ素子を作製できる。
また、上記においては、反射層202と反射層208との間隔は、発振波長(=980nm)の1波長分に設定されると説明したが、この発明においては、これに限らず、反射層202と反射層208との間隔は、発振波長(=980nm)の1波長分よりも長く設定されてもよい。
面発光レーザ素子100Aにおいては、活性層204が光定在波の腹に位置して位相整合するためには、共振器スペーサー層203,205、活性層204、超格子構造膜206およびトンネル接合層207からなる共振器の長さ(方向DR1における長さ)を発振波長(=980nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定する必要がある。そのため、面発光レーザ素子100Aにおいては、通常、共振器の長さは、発振波長(=980nm)の光学距離の1倍に設定する。
しかし、共振器の長さは、発振波長(=980nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定されていればよいので、共振器の長さを発振波長(=980nm)の光学距離の1倍よりも長い距離に設定してもよい。これにより、共振器内において、超格子構造膜206およびトンネル接合層207を活性層204から遠ざけることが可能となり、イオン注入により超格子構造およびトンネル接合を無秩序化した場合、活性層204まで無秩序化されることがなく、活性層204における無効電流が抑制され、面発光レーザ素子100Aを低閾電流で動作させることができる。
さらに、上記においては、活性層204は、GaInAs/GaAsの多重量子井戸構造からなると説明したが、この発明においては、これに限らず、活性層204は、Nと、N以外のV族元素とを含む混晶半導体を用いて構成されていてもよい。
NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、実施の形態1において説明した混晶半導体からなる。NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、石英の光ファイバの伝送に適した1.3〜1.6μmの長波長帯のバンドギャップを有しており、GaAs等からなる障壁層との間で伝導帯の電子を井戸層に閉じ込めるときの障壁高さを高くすることができるため、活性層204からの電子のオーバーフローが抑制され、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層204に用いた面発光レーザ素子100Aは、良好な温度特性を有する。
また、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体をGaAs基板上にエピタキシャル成長させることができるため、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層204に用いた面発光レーザ素子において、多層膜反射鏡として高反射率、かつ、熱伝導率に優れたGaAs/AlGaAs系(特に、GaAs/AlAs)の反射層を用いることができる。したがって、高性能な長波長帯の面発光レーザ素子を作製できる。
なお、超格子構造膜206は、「光学層」を構成し、秩序化された領域206Bは、「光通過層」を構成し、無秩序化された領域206A,206Cは、「光閉込層」を構成する。
また、秩序化された領域206Bは、「第1の超格子構造膜」を構成し、無秩序化された領域206A,206Cは、「第2の超格子構造膜」を構成する。
さらに、トンネル接合層207は、「電流注入層」を構成し、領域207A,207Cは、「電流狭窄層」を構成し、領域207Cは、「電流通過層」を構成する。
さらに、共振器スペーサー層203は、「第1の共振器スペーサー層」を構成し、共振器スペーサー層205は、「第2の共振器スペーサー層」を構成する。
さらに、反射層202は、「第1の反射層」を構成し、反射層208は、「第2の反射層」を構成する。
[実施の形態3]
図8は、実施の形態3による面発光レーザ素子の概略断面図である。図8を参照して、実施の形態3による面発光レーザ素子100Bは、図5に示す面発光レーザ素子100Aの共振器スペーサー層203,205、活性層204、超格子構造膜206およびトンネル接合層207を共振器スペーサー層301,303,305,307、超格子構造膜302、活性層304およびトンネル接合層306に代えたものであり、その他は、面発光レーザ素子100Aと同じである。なお、面発光レーザ素子100Bは、発振光の波長λ3が1300nmである面発光レーザ素子である。
共振器スペーサー層301は、n−GaAsからなり、反射層202上に形成される。超格子構造膜302は、n−GaAs/n−Al0.4Ga0.6Asの対を一周期とした場合、4周期の[n−GaAs/n−Al0.4Ga0.6As]からなり、共振器スペーサー層301上に形成される。そして、n−GaAsおよびn−Al0.4Ga0.6Asの各々は、4nmの膜厚を有する。
超格子構造膜302は、無秩序化された領域302A,302Cと、秩序化された領域302Bとからなる。領域302A,302Cの各々は、Gaイオンを注入した[n−GaAs/n−Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなり、領域302Bは、Gaイオンを注入していない[n−GaAs/n−Al0.4Ga0.6As]の超格子構造膜からなる。そして、領域302A,302Cの各々は、領域302Bの屈折率よりも低い屈折率を有する。また、領域302Bは、面内方向DR2において3μmの長さを有する。
共振器スペーサー層303は、n−GaAsからなり、超格子構造膜302上に形成される。活性層304は、GaInNAs/GaAsの対を一周期とした場合、3周期の[GaInNAs/GaAs]からなる多重量子井戸構造を有し、共振器スペーサー層303上に形成される。そして、GaInNAsは、8nmの膜厚を有し、GaAsは、15nmの膜厚を有する。
共振器スペーサー層305は、p−GaAsからなり、活性層304上に形成される。トンネル接合層306は、p+−GaAs/n+−GaAsからなり、共振器スペーサー層305上に形成される。この場合、p+−GaAsが共振器スペーサー層305側に形成される。そして、p+−GaAsおよびn+−GaAsの各々の膜厚は、10nmであり、p+−GaAsは、1×1020cm−3のCがドーピングされており、n+−GaAsは、3×1019cm−3のSiがドーピングされている。
トンネル接合層306は、無秩序化された領域306A,306Cと、秩序化された領域306Bとからなる。領域306A,306Cの各々は、Gaイオンを注入した[p+−GaAs/n+−GaAs]からなり、領域306Bは、Gaイオンを注入していない[p+−GaAs/n+−GaAs]からなる。
領域306A,306Cの各々は、トンネル接合の領域において、高濃度にドーピングした不純物(C,Si)が相互に拡散し、キャリア濃度が低下するため、トンネル接合が破壊されている。したがって、領域306A,306Cにおいては、pn逆バイアス接合により、電流が流れなくなり、電流阻止構造が形成される。
その結果、電流は、無秩序化されていない領域306Bのトンネル接合の領域に狭窄されて活性層304に注入される。なお、領域306Bは、面内方向DR2において5μmの長さを有する。したがって、面発光レーザ素子100Bにおいては、トンネル接合層306の領域306Bは、超格子構造膜302の領域302Bよりも広くなっている。
共振器スペーサー層307は、n−GaAsからなり、トンネル接合層306上に形成される。
なお、面発光レーザ素子100Bにおいては、反射層202,208の各々を構成するn−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asの各々は、λ3/4n(nは半導体層における屈折率)の膜厚を有する。
面発光レーザ素子100Bにおいては、反射層202と反射層208との間隔は、発振波長(=1300nm)の3波長分の光学長になっており、反射層202,208によって挟まれた共振器スペーサー層301,303,305,307、超格子構造膜302、活性層304、およびトンネル接合層306は、共振器を構成する。
超格子構造膜302において、無秩序化された領域302A,302Cの各々は、秩序化された領域302Bの屈折率よりも低い屈折率を有するので、超格子構造膜302は、活性層304において発振した発振光を領域302A,302Cによって領域302Bに閉じ込めるとともに、発振光を領域302Bによって出射口208Aの方向へ通過させる。これによって、面発光レーザ素子100Bの横モードが安定化する。つまり、面発光レーザ素子100Bにおいて、高次発振モードが抑制され、単一の基本発振モードのみからなる発振光が放射される。
また、超格子構造膜302は、[n−GaAs/n−Al0.4Ga0.6As]の周期構造からなり、活性層304は、[GaInNAs/GaAs]の多重量子井戸構造からなるので、超格子構造膜302は、活性層304のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する。したがって、超格子構造膜302は、活性層304で発振した発振光を吸収せず、損失の低い導波路構造を形成する。
トンネル接合層306の領域306A,306Cは、トンネル接合が破壊され、電流阻止構造を形成しているので、p側電極209から注入された電流が活性層304側へ流れるのを阻止し、電流が通過する領域を領域306Bに制限する。
面発光レーザ素子100Bにおいては、反射層202,208および活性層304以外の領域において、超格子構造膜302は、活性層304よりも基板201側に形成され、トンネル接合層306は、活性層304よりも出射口208A側に形成される。すなわち、超格子構造膜302およびトンネル接合層306は、反射層202,208および活性層304以外の領域において、相互に活性層304の反対側に形成される。
そして、共振器スペーサー層301,303を1つの共振器スペーサー層と考え、共振器スペーサー層305,307を1つの共振器スペーサー層と考えた場合、超格子構造膜302およびトンネル接合層306は、共振器スペーサー層中に形成されることになる。
図9、図10および図11は、それぞれ、図8に示す面発光レーザ素子100Bの作製方法を示す第1から第3の工程図である。図9を参照して、一連の動作が開始されると、MOCVD法を用いて、反射層202、共振器スペーサー層301および超格子構造膜302を基板201上に順次積層する(図9の工程(a)参照)。
この場合、反射層202のn−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびセレン化水素(H2Se)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層301のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成し、超格子構造膜302のn−GaAs/n−Al0.4Ga0.6Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成する。
その後、超格子構造膜302上にSiN膜320を形成し、その形成したSiN膜320上にパターンニングされたレジストパターン330を形成する(図9の工程(b)参照)。この場合、レジストパターン330は、直径が3μmである円形の形状を有する。
レジストパターン330を形成すると、その形成したレジストパターン330をマスクとして用いて、SiN膜320をエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン330を除去する。これにより、SiN膜321が超格子構造膜302上に形成される。そして、SiN膜321をマスクとしてGaイオンをイオン注入し(図9の(c)参照)、引き続いて、700℃で熱処理してGaイオンを注入した領域の結晶性を回復する。そして、SiN膜321をエッチングにより除去すると、無秩序化された領域302A,302Cおよび秩序化された領域302Bが超格子構造膜302中に形成される(図9の(d)参照)。
次に、図10を参照して、図9に示す工程(d)が終了すると、MOCVD法により、共振器スペーサー層303、活性層304、共振器スペーサー層305およびトンネル接合層306を超格子構造膜302上に順次積層する(図10の(e)参照)。
この場合、共振器スペーサー層303のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成し、活性層304のGaInNAsをトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、ジメチルヒドラジン(DMHy)およびアルシン(AsH3)を原料として形成し、活性層304のGaAsをトリメチルガリウム(TMG)およびアルシン(AsH3)を原料として形成する。
また、共振器スペーサー層305のp−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、トンネル接合層306のp+−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)および四臭化炭素(CBr4)を原料として形成し、トンネル接合層306のn+−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成する。
その後、トンネル接合層306上にSiN膜340を形成し、その形成したSiN膜340上にパターンニングされたレジストパターン350を形成する(図10の工程(f)参照)。この場合、レジストパターン350は、直径が5μmである円形の形状を有する。
レジストパターン350を形成すると、その形成したレジストパターン350をマスクとして用いて、SiN膜340をエッチングにより除去し、さらに、レジストパターン350を除去する。これにより、SiN膜341がトンネル接合層306上に形成される。そして、SiN膜341をマスクとしてGaイオンをイオン注入し(図10の(g)参照)、引き続いて、アニール処理する。その後、SiN膜341をエッチングにより除去すると、無秩序化された領域306A,306Cおよび秩序化された領域306Bがトンネル接合層306中に形成される(図10の(h)参照)。
図11を参照して、図10に示す工程(h)が終了すると、MOCVD法により、共振器スペーサー層307および反射層208をトンネル接合層306上に順次積層する(図11の(i)参照)。
この場合、共振器スペーサー層307のn−GaAsをトリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成し、反射層208のn−GaAsおよびn−Al0.9Ga0.1Asをトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、アルシン(AsH3)およびシラン(SiH4)を原料として形成する。
そして、p側電極209を蒸着とリフトオフとによって反射層208上の一部に形成し、n側電極210を蒸着により基板201の裏面に形成する(図11の(j)参照)。これにより、面発光レーザ素子100Bが完成する。
面発光レーザ素子100Bを発振させる場合、p側電極209およびn側電極210にリード線を接続し、電流をp側電極209から注入する。そうすると、面発光レーザ素子100Bにおいて、トンネル接合層306の領域306A,306Cは、p側電極209から注入された電流の通過領域を領域306Cに制限して電流を活性層304へ注入する。
そして、活性層304に注入された電流が閾電流に達すると、活性層304において発振光が発生し、その発生した発振光は、反射層202,208で反射される。また、超格子構造膜302の領域302A,302Cは、発振光を領域302Bに閉じ込める。その結果、発振光は、単一モードで発振し、出射口208Aから放射される。
このように、面発光レーザ素子100Bにおいては、トンネル接合層306は、領域306A,306Cによって電流の注入領域を領域306Bに制限して電流を活性層304に注入し、超格子構造膜302は、活性層304において発振した発振光を領域302A,302Cによって領域302Bに閉じ込める。そして、無秩序化された領域302A,302C;306A,306Cは、活性層304および反射層202,208以外の領域に形成されているため、活性層304における欠陥密度の増加が抑制される。したがって、面発光レーザ素子100Bは、低閾電流で単一モードの発振光を発振できる。
また、面発光レーザ素子100Bのトンネル接合層306の領域306Bは、超格子構造膜302の領域302Bよりも広くなるように形成されているため、面発光レーザ素子100Bの発光領域が広くなる。その結果、面発光レーザ素子100Bの発光強度を向上させることができる。
さらに、面発光レーザ素子100Bにおいては、反射層202と反射層208との間隔は、発振波長(=1300nm)の1波長分よりも長い3波長分に設定することを特徴としている。
面発光レーザ素子100Bにおいては、活性層304が光定在波の腹に位置して位相整合するためには、共振器スペーサー層301,303,305,307、超格子構造膜302、活性層304およびトンネル接合層306からなる共振器の長さ(方向DR1における長さ)を発振波長(=1300nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定する必要がある。そのため、面発光レーザ素子100Bにおいては、通常、共振器の長さは、発振波長(=1300nm)の光学距離の1倍に設定する。
しかし、共振器の長さは、発振波長(=1300nm)の光学距離の2分の1×自然数倍に設定されていればよいので、共振器の長さを発振波長(=1300nm)の光学距離の1倍よりも長い距離に設定してもよい。これにより、共振器内において、超格子構造膜302およびトンネル接合層306を活性層304から遠ざけることが可能となり、イオン注入により超格子構造およびトンネル接合を無秩序化した場合、活性層304まで無秩序化されることがなく、活性層304における無効電流が抑制され、面発光レーザ素子100Bを低閾電流で動作させることができる。
さらに、超格子構造膜302およびトンネル接合層306の一部の領域302A,302C;306A,306Cを無秩序化するために、キャリア濃度を増加させないGaイオンを用いている。したがって、領域302A,302C;306A,306Cのキャリア濃度を増加させないことにより、領域302A,302C;306A,306Cにおいて、自由キャリアによる光吸収損失が増加することがない。その結果、面発光レーザ素子100Bのスロープ効率が低下することがなく、高効率な面発光レーザ素子を作製できる。
なお、上記においては、Gaイオンを超格子構造膜302およびトンネル接合層306中へイオン注入して超格子構造膜302およびトンネル接合層306の無秩序化された領域302A,302C;306A,306Cを形成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、アルゴン(Ar)およびクリプトン(Kr)等の電気的に不活性な元素またはアルミニウム(Al)、インジウム(In)、砒素(As)およびリン(P)等の結晶構成元素を超格子構造膜302およびトンネル接合層306中へイオン注入することによって無秩序化された領域302A,302C;306A,306Cを形成してもよい。
この場合、イオン注入した元素は、アクセプターおよびドナーとして機能しないため、無秩序化された領域302A,302C;306A,306Cのキャリア濃度を増加させることがない。その結果、無秩序化された領域302A,302C;306A,306Cにおいて、自由キャリアによる光吸収損失が増加することがない。したがって、面発光レーザ素子100Bのスロープ効率が低下せず、高効率な面発光レーザ素子を作製できる。
また、上記においては、超格子構造膜302は、反射層202,208および活性層304以外の領域において、活性層304よりも基板201側に形成され、トンネル接合層306は、活性層304よりも出射口208A側に形成されると説明したが、この発明においては、これに限らず、超格子構造膜302は、反射層202,208および活性層304以外の領域において、活性層304よりも出射口208A側に形成され、トンネル接合層306は、活性層304よりも基板201側に形成されてもよい。
この場合、超格子構造膜302の領域302Bの直径は、トンネル接合層306の領域306Bの直径よりも大きい値に設定される。
さらに、上記においては、活性層304は、GaInNAs/GaAsの多重量子井戸構造からなると説明したが、この発明においては、これに限らず、活性層304は、GaInNAs以外の、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を用いて構成されていてもよい。
NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、実施の形態1において説明した混晶半導体からなる。NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体は、石英の光ファイバの伝送に適した1.3〜1.6μmの長波長帯のバンドギャップを有しており、GaAs等からなる障壁層との間で伝導帯の電子を井戸層に閉じ込めるときの障壁高さを300meV以上に高くすることができるため、活性層304からの電子のオーバーフローが抑制され、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層304に用いた面発光レーザ素子100Bは、良好な温度特性を有する。
また、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体をGaAs基板上にエピタキシャル成長させることができるため、NとN以外のV族元素とを含む混晶半導体を活性層304に用いた面発光レーザ素子において、多層膜反射鏡として高反射率、かつ、熱伝導率に優れたGaAs/AlGaAs系(特に、GaAs/AlAs)の反射層を用いることができる。したがって、高性能な長波長帯の面発光レーザ素子を作製できる。
なお、超格子構造膜302は、「光学層」を構成し、秩序化された領域302Bは、「光通過層」を構成し、無秩序化された領域302A,302Cは、「光閉込層」を構成する。
また、秩序化された領域302Bは、「第1の超格子構造膜」を構成し、無秩序化された領域302A,302Cは、「第2の超格子構造膜」を構成する。
さらに、トンネル接合層306は、「電流注入層」を構成し、領域306A,306Cは、「電流狭窄層」を構成し、領域306Cは、「電流通過層」を構成する。
さらに、共振器スペーサー層301,303は、「第1の共振器スペーサー層」を構成し、共振器スペーサー層305,307は、「第2の共振器スペーサー層」を構成する。
その他は、実施の形態2と同じである。
上述した実施の形態1から実施の形態3においては、「無秩序化された領域」および「秩序化された領域」という文言を用いているが、この発明においては、「無秩序化された領域」とは、超格子構造膜においては、電気的に不活性な元素または結晶構成元素が入ることにより超格子の周期性がくずれている領域を言い、トンネル接合層においては、電気的に不活性な元素または結晶構成元素が入ることによりトンネル接合が破壊されている領域を言う。
また、この発明においては、「秩序化された領域」とは、超格子構造膜においては、電気的に不活性な元素または結晶構成元素が入っておらず、超格子の周期性が保持されている領域を言い、トンネル接合層においては、電気的に不活性な元素または結晶構成元素が入っておらず、トンネル接合により電流が流れている領域を言う。
[応用例]
図12は、この発明による面発行レーザ素子を用いた光伝送システムの概略図である。図12を参照して、この発明による面発行レーザ素子を用いた光伝送システム400は、光送信モジュール410と、光受信モジュール420と、光ファイバケーブル430とを備える。
光送信モジュール410は、駆動回路411と、面発光レーザ素子412とを含む。面発光レーザ素子412は、図8に示す面発光レーザ素子100Bからなる。光受信モジュール420は、受光素子421と、受信回路422とを含む。駆動回路411は、面発光レーザ素子412の活性層304に注入する電流を変調し、面発光レーザ素子412から出力されるレーザ光強度を変調する。
面発光レーザ素子412は、駆動回路411からの駆動に従って、変調されたレーザ光強度を有する発振光を光ファイバケーブル430へ放射する。光ファイバケーブル430は、面発光レーザ素子412から放射された発振光を光信号として光受信モジュール420へ伝搬させる。
光受信モジュール420の受光素子421は、光ファイバケーブル430によって伝搬された光信号を受光し、その受光した光信号を電気信号に変換する。そして、受光素子421は、その変換した電気信号を受信回路422へ出力する。受信回路422は、受光素子421から受けた電気信号に対して信号増幅および波形整形等を行ない、外部へ出力する。
このようにして、光伝送システム400においては、光信号が光送信モジュール410から光ファイバケーブル430を介して光受信モジュール420へ伝搬され、光受信モジュール420において電気信号に変換されて光受信モジュール420の外部へ出力される。
そして、光送信モジュール410は、光源として面発光レーザ素子412(=面発光レーザ素子100B)を備えている。面発光レーザ素子100Bは、上述したように、活性層304における無効電流が抑制されて低閾電流で動作し、かつ、単一の横モードで安定に動作する。したがって、低消費電力で、かつ、高い伝送信頼性を有する光伝送モジュールを形成することができる。また、光伝送システム400についても、低消費電力化および高伝送信頼性を実現できる。
なお、光伝送システム400においては、面発光レーザ素子412を面発光レーザ素子100,100Aのいずれかによって構成してもよい。
また、図12においては、単チャネルの一方向通信の構成例を示すが、光伝送システム400は、双方向通信、並列伝送方式および波長分割多重伝送方式等の構成を採用することも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
100,100A,100B,412 面発光レーザ素子、101,201 基板、102,107,202,208 反射層、103,105,203,205,301,303,305,307 共振器スペーサー層、104,204,304 活性層、106,206,302 超格子構造膜、106A,106B,106C,108C,206A,206B,206C,207A,207B,207C,302A,302B,302C,306A,306B,306C 領域、107A,208A 出射口、108A,108B 高抵抗層、109,209 p側電極、110,210 n側電極、120,121,150,151,220,221,320,321,340,341 SiN膜、130,160,230,330,350 レジストパターン、140 ZnO膜、207,306 トンネル接合層、400 光伝送システム、410 光送信モジュール、411 駆動回路、420 光受信モジュール、421 受光素子、422 受信回路、430 光ファイバケーブル。