以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。この図に示すように、トラクタの走行伝動装置は、エンジン1の出力軸1aからの出力が入力される主クラッチ2と、この主クラッチ2の出力軸2aに入力軸21が一体回転自在に連結された本実施例に係る変速伝動装置Aと、この変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸90に入力軸11が一体回転自在に連結された前後進切換え装置10と、この前後進切換え装置10の出力軸12に入力ギヤ3aが連結された後輪差動機構3と、前記前後進切換え装置10の前記出力軸12にギヤ4aとギヤ4bとを介して連動された前輪伝動軸5と、この前輪伝動軸5の駆動力が回転軸6を介して入力される前輪差動機構7とを備えている。主クラッチ2の出力軸2aと、変速伝動装置Aの入力軸21とは、同一の軸になっている。
図1に示す動力取り出し軸8は、トラクタに連結されたロータリ耕耘装置などの各種の作業装置に駆動力を伝達するものである。この動力取り出し軸8は、作業クラッチ9aと回転軸9bとギヤ9cとギヤ9dとを介して前記入力軸21に連動している。
図1に示すように、本実施例に係る変速伝動装置Aは、前記入力軸21と前記出力軸90とを備える他、前記入力軸21を有した無段変速部20と、この無段変速部20の前記入力軸21にギヤ31とギヤ32と回転体33とを介してリングギヤ41が連動され、かつ、前記無段変速部20のモータ軸22に連結具42を介してサンギヤ軸43が一体回転自在に連結された遊星伝動部Pと、この遊星伝動部Pのリングギヤ51に回転体61を介して入力側回転部材62が一体回転自在に連結され、かつ、前記遊星伝動部Pの筒軸形のサンギヤ軸52に入力側回転部材71が一体回転自在に連結された変速伝動部Zとを備えて構成してある。
図1,2に示すように、前記変速伝動部Zは、前記入力側回転部材62と前記入力側回転部材71とが装備されたクラッチ部Cと、このクラッチ部Cの筒軸形の出力軸部72に筒軸形のサンギヤ軸81が一体回転自在に連結された減速用遊星伝動機構80(以下、減速遊星機構80と略称する。)と、この減速遊星機構80の筒軸形のキャリヤ軸82を前記出力軸90に一体回転自在に連結している連動体91とを備えている。
図1,2に示すように、前記変速伝動部Zは、さらに、前記減速遊星機構80のリングギヤ83に一体回転自在に連設された回転体95と、この回転体95とミッションケースKとにわたって設けたブレーキ機構100と、前記回転体95と前記連動体91とにわたって設けた連結クラッチ機構110と、前記複合遊星部Pのキャリヤ44に一端部が一体回転自在に連結された回転軸97と、この回転軸97の他端部と前記連動体91とにわたって設けた出力クラッチ機構120とを備えている。
図1,2に示すように、前記連動体91は、前記キャリヤ軸82に連結具92aを介して一端側が一体回転自在に連結された筒軸92と、この筒軸92の他端側にボス部93aが連結された回転輪体93と、この回転輪体93を前記出力軸90に連結している回転部材121とを備えて構成してある。図2に示すように、前記回転輪体93と前記回転部材121とは、これらの一方に設けた凹部と他方に設けた突部とが係合した連動手段91aによって一体回転自在に連結している。前記回転部材121と出力軸90とは、一体成形されている。
前記無段変速部20は、前記入力軸21をポンプ軸(以下、入力軸をポンプ軸21と称する。)として備えているアキシャルプランジャ形でかつ可変容量形の油圧ポンプ23と、この油圧ポンプ23からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ24とを備えて構成してある。油圧モータ24は、前記モータ軸22を備えている。無段変速部20は、静油圧式無段変速装置になっている。
つまり、無段変速部20は、油圧ポンプ23の斜板角が変更されることにより、正回転伝動状態と中立状態と逆回転伝動状態とに切り換わる。無段変速部20は、正回転伝動状態に切り換わった状態において、油圧ポンプ23の斜板角が変更されることにより、エンジン1からの駆動力を正回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸22から出力する。無段変速部20は、逆回転伝動状態に切り換わった状態において、油圧ポンプ23の斜板角が変更されることにより、エンジン1からの駆動力を逆回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸22から出力する。無段変速部20は、中立状態に切り換わると、モータ軸22からの出力を停止する。
図8は、前記遊星伝動部Pの断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、前記遊星伝動部Pは、無段変速部20のポンプ軸21とモータ軸22とから入力した駆動力を前記クラッチ部Cに伝達する伝動方向での上手側(伝動上手側)に位置した遊星伝動機構40(以下、上手遊星機構40と略称する。)と、前記伝動方向での下手側(伝動下手側)に位置した遊星伝動機構50(以下、下手遊星機構50と略称する。)とを備えている。
前記上手遊星機構40は、前記サンギヤ軸43を備える他、このサンギヤ軸43の一端部に一体回転自在に支持されたサンギヤ45と、このサンギヤ45の外周側にサンギヤ45の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ45に噛み合った三個の遊星ギヤ46と、この三個の遊星ギヤ46を遊転自在に支持した前記キャリヤ44と、前記三個の遊星ギヤ46に噛み合った前記リングギヤ41とを備えている。前記サンギヤ45と前記サンギヤ軸43とは、一体成形されている。前記リングギヤ41は、前記回転体33の外周部に一体成形されている。
前記下手遊星機構50は、前記サンギヤ軸52を備える他、このサンギヤ軸52の端部に一体回転自在に支持されたサンギヤ53と、このサンギヤ53の外周側にサンギヤ53の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ53に噛み合った三個の遊星ギヤ54と、この三個の遊星ギヤ54を遊転自在に支持した前記キャリヤ44と、前記三個の遊星ギヤ54に噛み合った前記リングギヤ51とを備えている。前記サンギヤ53と前記サンギヤ軸52とは一体成形されている。前記リングギヤ51は、前記回転体61の外周部に一体成形されている。
図3は、上手遊星機構40の遊星ギヤ46と、下手遊星機構50の遊星ギヤ54との配置図である。この図と図1と図2とに示すように、上手遊星機構40の前記三個の遊星ギヤ46と下手遊星機構50の前記三個の遊星ギヤ54とは、上手遊星機構40の一つの遊星ギヤ46と下手遊星機構50の一つの遊星ギヤ54とが、サンギヤ45,53の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構40の他の一つの遊星ギヤ46と下手遊星機構50の他の一つの遊星ギヤ54とが、サンギヤ45,53の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構40の残りの一つの遊星ギヤ46と下手遊星機構50の残りの一つの遊星ギヤ46とが、サンギヤ45,53の周方向に寄り合った一つのギヤ対となった配置になっている。各ギヤ対における上手遊星機構40の遊星ギヤ46と、下手遊星機構50の遊星ギヤ54とは、各遊星ギヤ46,54のサンギヤ45,53に噛み合っている側とは反対側の端部どうしで互いに噛み合って連動している。
隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ46,54の歯先部が、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ54,46の歯先部どうしの間に入り込んでいる。しかし、隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ46,54と、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ54,46とは、連動していない。このように遊星ギヤ46,54の歯先部が歯先部間に入り込んだ配置を採用していることにより、遊星伝動部Pに所要のギヤ比を備えさせながらサンギヤ45,53とリングギヤ41,52の直径を小に抑制し、遊星伝動部Pを外径が極力小さいコンパクトな状態に得ることができる。
前記キャリヤ44は、上手遊星機構40と下手遊星機構50とに共通したキャリヤになっている。すなわち、キャリヤ44は、上手遊星機構40の各遊星ギヤ46がこれとギヤ対をなす下手遊星機構50の遊星ギヤ54と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ45の周りに公転し、下手遊星機構50の各遊星ギヤ54がこれとギヤ対をなす上手遊星機構40の遊星ギヤ46と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ53の周りに公転するよう各遊星ギヤ46,54を支持しており、遊星伝動部Pは、複合型遊星伝動部になっている。
遊星伝動部Pは、ポンプ軸21の駆動力を無段変速部20による変速作用を受けていないエンジン駆動力としてギヤ31とギヤ32と回転体33とを介して上手遊星機構40のリングギヤ41に入力し、無段変速部20のモータ軸22からの出力を連結具42とサンギヤ軸43とを介して上手遊星機構40のサンギヤ45に入力し、両入力を上手遊星機構40と下手遊星機構50とによって合成し、この合成駆動力を下手遊星機構50のリングギヤ51から回転体61を介してクラッチ部Cに出力し、下手遊星機構50のサンギヤ53からサンギヤ軸52を介してクラッチ部Cに出力する。
図8は、前記クラッチ部Cの断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、クラッチ部Cは、前記入力側回転部材62を有した第1クラッチ機構60と、前記入力側回転部材71を有した第2クラッチ機構70とを備えている。
前記第1クラッチ機構60は、筒形の前記入力側回転部材62を備える他、この入力側回転部材62の外周側に筒部が位置した出力側回転部材63と、入力側回転部材62と出力側回転部材63の前記筒部とにわたって設けたクラッチ本体64と、出力側回転部材63に摺動自在に設けた環状の油圧ピストン65とを備えている。
前記入力側回転部材62の一端側に位置する連結部と、前記回転体61の一端側に連設された連結筒部61aとがスプライン式の係合手段によって係合しており、入力側回転部材62は、前記回転体61と一体回転する。前記出力側回転部材63の内周側に一体成形された取り付け筒に兼用の前記出力軸部72と、前記サンギヤ軸81とがスプライン式の係合手段によって係合しており、出力側回転部材63は、減速遊星機構80のサンギヤ84に一体回転自在に連動している。
第1クラッチ機構60は、クラッチ本体64が油圧ピストン65によって押圧操作されることにより、入り状態に切り換わる。すると、第1クラッチ機構60は、入力側回転部材62と出力側回転部材63とをクラッチ本体64によって一体回転自在に連結し、前記下手遊星機構50の前記リングギヤ51から回転体61を介して入力側回転部材62に伝達された駆動力を出力側回転部材63の出力軸部72から減速遊星機構80のサンギヤ84に伝達する。
第1クラッチ機構60は、クラッチ本体64の油圧ピストン65による押圧が解除されることにより、切り状態に切り換わる。すると、第1クラッチ機構60は、入力側回転部材62と出力側回転部材63とのクラッチ本体64による連結を解除し、前記リングギヤ51から入力側回転部材62に伝達された駆動力の前記サンギヤ84への伝動を遮断する。
前記第2クラッチ機構70は、筒形の前記入力側回転部材71を備える他、この入力側回転部材71の外周側に筒体部が位置した出力側回転部材73と、前記入力側回転部材71と出力側回転部材73とにわたって設けたクラッチ本体74と、出力側回転部材73に摺動自在に設けた油圧ピストン75とを備えている。
入力側回転部材71の一端側に位置する連結部と、前記サンギヤ軸52の端部とがスプライン式の係合手段によって係合し合っており、入力側回転部材71は、前記サンギヤ軸52と一体回転する。前記出力側回転部材73は、第1クラッチ機構60の出力側回転部材63と一体成形されており、前記出力軸部72を介して減速遊星機構80の前記サンギヤ84に一体回転自在に連動している。
第2クラッチ機構70は、前記クラッチ本体74が油圧ピストン75によって押圧されることにより、入り状態に切り換わる。すると、第2クラッチ機構70は、入力側回転部材71と出力側回転部材73とをクラッチ本体74によって一体回転自在に連結し、前記下手遊星機構50の前記サンギヤ53からサンギヤ軸52を介して入力側回転部材71に伝達された駆動力を出力側回転部材73の出力軸部72から減速遊星機構80のサンギヤ84に伝達する。
第2クラッチ機構70は、前記クラッチ本体74の油圧ピストン75による押圧が解除されることにより、切り状態に切り換わる。すると、第2クラッチ機構70は、入力側回転部材71と出力側回転部材73とのクラッチ本体74による連結を解除し、前記サンギヤ53から入力側回転部材71に伝達された駆動力の前記サンギヤ84への伝動を遮断する。
図9は、前記減速遊星機構80の断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、前記減速遊星機構80は、前記サンギヤ軸81と前記キャリヤ軸82と前記サンギヤ84と前記リングギヤ83とを備える他、サンギヤ84の外周側にサンギヤ84の周方向に分散して位置するとともにサンギヤ84に噛み合った複数個の遊星ギヤ85と、この複数個の遊星ギヤ85を回転自在に支持しているキャリヤ86とを備えている。前記サンギヤ84と前記サンギヤ軸81とは、一体成形されている。前記キャリヤ86と前記キャリヤ軸82とは、一体成形されている。減速遊星機構80は、クラッチ部Cから出力された駆動力をサンギヤ84に入力して約1/4の回転速度に減速し、減速後の駆動力をキャリヤ軸82から連動体91に伝達する。
図9は、前記ブレーキ機構100の断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、前記ブレーキ機構100は、前記回転体95に連設された可動筒101と、ミッションケースKに固定された固定体102と、この固定体102と前記可動筒101とにわたって設けたブレーキ本体103と、前記固定体102の内部に摺動自在に設けた環状の油圧ピストン104とを備えている。
前記ブレーキ本体103は、可動筒101にこれの回転軸芯に沿う方向に並べて一体回転自在に設けた複数枚のブレーキプレートと、固定体102に可動筒101の回転軸芯方向に並べて設けた複数枚の摩擦プレートとを備えている。ブレーキ本体103は、多板式でかつ摩擦式になっている。
ブレーキ機構100は、前記ブレーキ本体103が油圧ピストン104によって圧接されることにより、入り状態に切り換わる。すると、ブレーキ機構100は、ブレーキ本体103によって可動筒101に摩擦ブレーキを掛け、回転体95に制動力を付与することによって減速遊星機構80のリングギヤ83を制動する。
ブレーキ機構100は、ブレーキ本体103の油圧ピストン104による圧接が解除されることにより、切り状態になる。すると、ブレーキ機構100は、ブレーキ本体103による可動筒101の摩擦ブレーキを解除し、前記リングギヤ83の制動を解除する。
図9は、前記連結クラッチ機構110の断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、前記連結クラッチ機構110は、前記回転体95に設けた支持筒96に一体回転自在に支持された筒形の入力側回転部材としてのリング側回転体111と、前記連動体91の前記筒軸92に一体回転自在に設けた出力側回転部材としてのキャリヤ側回転体112と、このキャリヤ側回転体112と前記リング側回転体111とにわたって設けたクラッチ本体113と、前記キャリヤ側回転体112の内部に摺動自在に設けた環状の油圧ピストン114とを備えている。キャリヤ側回転体112と筒軸92とは、一体成形されている。
前記クラッチ本体113は、前記リング側回転体111にこれの回転軸芯に沿う方向に並べて一体回転自在に設けた複数枚のクラッチプレートと、前記キャリヤ側回転体112にこれの回転軸芯方向に並べて一体回転自在に設けた複数枚の摩擦プレートとを備えている。クラッチ本体113は、多板式で摩擦式になっている。
連結クラッチ機構110は、クラッチ本体113が油圧ピストン114によって圧接されることにより、入り状態に切り換わる。すると、連結クラッチ機構110は、キャリヤ側回転部材112とリング側回転部材111とをクラッチ本体113によって一体回転自在に連結し、回転体95とキャリヤ軸82とを一体回転するよう連結する。これにより、連結クラッチ機構110は、減速遊星機構80のリングギヤ83とキャリヤ86とを一体回転するよう連結し、減速遊星機構80をサンギヤ84と遊星ギヤ85とリングギヤ83とが一体になってサンギヤ84の回転軸芯まわりに回転する状態にする。
連結クラッチ機構110は、クラッチ本体113の油圧ピストン114による圧接が解除されることにより、切り状態に切り換わる。すると、連結クラッチ機構110は、キャリヤ側回転部材112とリング側回転部材111とのクラッチ本体113による連結を解除してキャリヤ86とリングギヤ83との連結を解除し、減速遊星機構80を減速作用状態にする。
図9は、前記出力クラッチ機構120の断面構造を示している。この図と図1と図2とに示すように、前記出力クラッチ機構120は、前記連動体91の前記回転部材121で成る出力側回転部材121と、この出力回転部材121の筒部の内側に配置して前記回転軸97の端部に一体回転自在に設けた入力側回転部材122と、この入力側回転部材122と前記出力側回転部材121とにわたって設けたクラッチ本体123と、前記出力側回転部材121に摺動自在に設けた油圧ピストン124とを備えている。
出力クラッチ機構120は、クラッチ本体123が油圧ピストン124によって押圧されることにより、入り状態に切り換わる。すると、出力クラッチ機構120は、入力側回転部材122と出力側回転部材121とをクラッチ本体123によって一体回転自在に連結し、遊星伝動部Pのキャリヤ44から前記回転軸97によって入力側回転部材122に伝達された駆動力を出力側回転部材121から前記出力軸90に伝達する。さらに、出力クラッチ機構120は、入力側回転部材122の駆動力を前記筒軸92に伝達する。
出力クラッチ機構120は、クラッチ本体123の油圧ピストン124による押圧が解除されることにより、切り状態に切り換わる。すると、出力クラッチ機構120は、入力側回転部材122と出力側回転部材121とのクラッチ本体123による連結を解除し、遊星伝動部Pの前記キャリヤ44から前記出力軸90への伝動を遮断し、かつ、減速遊星機構80の前記キャリヤ86の駆動力を出力軸90に伝達できるよう前記連動体91と前記回転軸97とを相対回転状態にする。
前記回転軸97は、前記遊星伝動部Pの前記サンギヤ53と、前記クラッチ部Cの第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70との前記入力側回転部材62,71及び前記出力側回転部材63,73と、前記減速遊星機構80のサンギヤ84と、前記連結クラッチ機構110の前記キャリヤ側回転部材112と前記リング側回転部材111とを挿通した配置になっている。
前記遊星伝動部Pと、前記クラッチ部Cの前記第1クラッチ機構60及び前記第2クラッチ機構70と、前記減速遊星機構80と、前記連結クラッチ機構110と、前記出力クラッチ機構120と、前記出力軸90とは、同一の回転軸芯Dのまわりに回転する。前記回転軸芯Dは、前記回転軸97が備えている軸芯と一致している。
図1に示すように、前記前後進切り換え装置10は、前記入力軸11と前記出力軸12とを備える他、前記入力軸11に一体回転自在に支持された前進伝動部材13と、前記入力軸11に入力ギヤ14aが連結された後進ギヤ機構14と、この後進ギヤ機構14の出力ギヤ14bに連動された後進伝動部材15と、前記出力軸12に一体回転自在に支持された出力部材16と、この出力部材16と前記前進伝動部材13とにわたって設けた前進クラッチ17と、前記出力部材16と前記後進伝動部材15とにわたって設けた後進クラッチ18とを備えている。
前後進切換え装置10は、前記前進クラッチ17が入り状態に操作され、前記後進クラッチ18が切り状態に操作されると、前進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10は、変速伝動装置Aの出力軸90によって駆動される入力軸11の駆動力を前進伝動部材13と前進クラッチ17と出力部材16とを介して出力軸12に伝達し、この出力軸12から後輪差動機構3と前輪伝動軸5とに伝達する。
前後進切換え装置10は、前記前進クラッチ17が切り状態に操作され、前記後進クラッチ18が入り状態に操作されると、後進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10は、入力軸11の駆動力を後進ギヤ機構14と後進伝動部材15と後進クラッチ18と出力部材16とを介して出力軸12に伝達し、この出力軸12から後進差動機構3と前輪伝動軸5とに伝達する。
図4は、トラクタに走行伝動装置を操作するよう装備された操作装置のブロック図である。この図に示すように、この操作装置は、変速レバー130と、変速操作検出手段131と、エンジン出力センサ132と、無段変速部出力センサ133と、車速センサ134と、前後進レバー135と、前後進検出手段136と、変速検出手段137と、前記各検出手段131,136と前記各センサ132,133,134,137とに連係された制御手段138とを備えている。
制御手段138は、無段変速部20の油圧ポンプ23の斜板角を変更操作するアクチュエータ(図示せず)の操作部(図示せず)に連係されている。制御手段138は、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70と前記ブレーキ機構100と前記連結クラッチ機構110と前記出力クラッチ機構120との操作弁150,151,152,153,154に連係されている。制御手段138は、前記前進クラッチ17と前記後進クラッチ18とを切換え操作するアクチュエータ(図示せず)に連係されている。
図4に示すように、変速レバー130は、中立位置Nから最高速位置maxに至る操作域を揺動操作する。この操作域の中立位置Nから中間位置Mまでの部分は、低速域Lとなる。前記操作域の中間位置Mから最高速位置maxまでの部分は、高速域Hとなる。
変速操作検出手段131は、変速レバー130に連動された回転ポテンショメータによって構成してある。この変速操作検出手段131は、変速レバー130の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段138に出力する。
エンジン出力センサ132と無段変速部出力センサ133と車速センサ134とは、回転センサによって構成してある。エンジン出力センサ132は、エンジン1の出力速度を検出し、この検出結果を制御手段138に出力する。無段変速部出力センサ133は、無段変速部20のモータ軸22による出力速度を検出し、この検出結果を制御手段138に出力する。車速センサ134は、前記出力軸90の回転速度を車速として検出し、この検出結果を制御手段138に出力する。変速検出手段137は、無段変速部20の変速状態を検出し、この検出結果を制御手段138にフィードバックする。
前後進レバー135は、揺動操作によって中立位置Nと前進位置Fと後進位置Rとに切換える。前後進検出手段136は、前後進レバー135に連動させた回転ポテンショメータによって構成してある。前後進検出手段136は、前後進レバー135の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段138に出力する。
制御手段138は、マイクロコンピュータを利用して構成してある。この制御手段138は、変速伝動装置Aが変速レバー130の操作位置に対応した操作状態としての速度レンジになって出力軸90を変速レバー130の操作位置に対応した回転速度で駆動するよう、変速操作検出手段131と変速検出手段137とエンジン出力センサ132と無段変速部出力センサ133と車速センサ134とによる検出情報を基に第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とを操作する。制御手段138は、前後進切換え装置10が前後進レバー135の操作位置に対応した操作状態になるよう、前後進検出手段136による検出情報を基に前進クラッチ17と後進クラッチ18とを操作する。
これにより、トラクタは、変速レバー130と前後進レバー135とを操作すれば、前後進レバー135の操作位置に対応した前進あるいは後進方向に、変速レバー130の操作位置とエンジン1の出力速度とに対応した車速で走行する。
つまり、図5は、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120との操作状態と、変速伝動装置Aの速度レンジとの関係を示す説明図である。図5に示す「入り」は、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120との入り状態を示す。図5に示す「−」は、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120との切り状態を示す。
図6は、無段変速部20の変速状態と、出力軸90による出力速度と、変速伝動装置Aの速度レンジとの関係を示す説明図である。図6に示す縦軸は、出力軸90の駆動速度、すなわち出力回転数(以下、出力速度と称する。)を示す。図6に示す横軸は、無段変速部20の変速状態を示す。この横軸の「−MAX」は、無段変速部20の逆回転伝動状態での最高速度を示す。横軸の「0」は、無段変速部20の中立状態を示す。横軸の「+MAX」は、無段変速部20の正回転伝動状態での最高速度を示す。
これらの図に示すように、変速レバー130を低速域Lのうち、中立位置Nから低速域Lの中間位置Lm(以下、低速中間位置Lmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段138は、第1クラッチ機構60とブレーキ機構100とを入り状態に操作し、第2クラッチ機構70と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とを切り状態に操作し、変速伝動装置Aが一速レンジになる。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pのリングギヤ51の駆動力を回転体61と第1クラッチ機構60とを介して減速遊星機構80のサンギヤ84に伝達し、この減速遊星機構80のキャリヤ86からの出力をキャリヤ軸82と連動体91とを介して出力軸90に伝達する。そして、変速レバー130を中立位置Nから低速中間位置Lmに向けて操作するに伴い、制御手段138は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「0」から無段階に増速する。変速レバー130が低速中間位置Lmになると、制御手段138は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V1」になる。
変速レバー130を低速域Lのうち、低速中間位置Lmから中間位置Mに至る部分に操作すると、制御手段138は、第2クラッチ機構70とブレーキ機構100とを入り状態に操作し、第1クラッチ機構60と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とを切り状態に操作し、変速伝動装置Aが二速レンジになる。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pのサンギヤ53の駆動力をサンギヤ軸52と第2クラッチ機構70とを介して減速遊星機構80のサンギヤ84に伝達し、この減速遊星機構80のキャリヤ86からの出力をキャリヤ軸82と連動体91とを介して出力軸90に伝達する。そして、変速レバー130を低速中間位置Lmから中間位置Mに向けて操作するに伴い、制御手段138は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V1」から無段階に増速する。変速レバー130が中間位置Mになると、制御手段138は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V2」になる。
変速レバー130を高速域Hのうち、中立位置Nから高速域Hの中間位置Hm(以下、高速中間位置Hmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段138は、連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とを入り状態に操作し、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100とを切り状態に操作し、変速伝動装置Aが三速レンジになる。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pのキャリヤ44の駆動力を回転軸97と出力クラッチ機構120とを介して出力軸90に伝達する。そして、変速レバー130を中間位置Mから高速中間位置Hmに向けて操作するに伴い、制御手段138は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V2」から無段階に増速する。変速レバー130が高速中間位置Mmになると、制御手段138は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V3」になる。
変速レバー130を高速域Hのうち、高速中間位置Hmから最高速位置maxに至る部分に操作すると、制御手段138は、第2クラッチ機構70と連結クラッチ機構110とを入り状態に操作し、第1クラッチ機構60とブレーキ機構100と出力クラッチ機構120とを切り状態に操作し、変速伝動装置Mが四速レンジになる。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pのサンギヤ53の駆動力をサンギヤ軸52と第2クラッチ機構70とを介して減速遊星機構80のサンギヤ84に伝達し、この減速遊星機構80のキャリヤ86からの出力を連動体91を介して出力軸90に伝達する。そして、変速レバー130を高速中間位置Hmから最高速位置maxに向けて操作するに伴い、制御手段138は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V3」から無段階に増速する。変速レバー130が最高速位置maxになると、制御手段138は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V4」になる。
前後進レバー135を前進位置Fに操作すると、制御手段138は、前進クラッチ17を入り状態に操作し、後進クラッチ18を切り状態に操作し、前後進切換え装置10が前進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10が変速伝動装置Aの出力軸90から入力した駆動力を前進駆動力にして出力軸12から後輪差動機構3と前輪伝動軸5とに伝達し、トラクタが前進走行する。
前後進レバー135を後進位置Rに操作すると、制御手段138は、前進クラッチ17を切り状態に操作し、後進クラッチ18を入り状態に操作し、前後進切換え装置10が後進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10が変速伝動装置Aの出力軸90から入力した駆動力を後進駆動力にして出力軸12から後輪差動機構3と前輪伝動軸5とに伝達し、トラクタが後進走行する。
前後進レバー135を中立位置Nに操作すると、制御手段138は、前進クラッチ17と後進クラッチ18とを切り状態に操作し、前後進切換え装置10が中立状態になる。すると、前後進切換え装置10が変速伝動装置Aの出力軸90から入力した駆動力を出力軸12に伝達せず、後輪差動機構3と前輪伝動軸5とに対する伝動を遮断し、トラクタが停止する。
変速伝動装置Aが三速レンジに操作された際、変速伝動装置Aは、複合遊星部Pのキャリヤ44の駆動軸を回転軸97と出力クラッチ機構120とを介して出力軸90に伝達して出力軸90を駆動し、減速遊星機構80は、伝動作用しない。しかし、変速伝動装置Aが三速レンジになった際、制御手段138は、前記連結クラッチ機構110を入り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、三速レンジと四速レンジとの一方から他方に切り換わるレンジ超え変速を、減速遊星機構80に起因した変速ショックが発生しにくい状態で行う。
つまり、図7は、本実施例に係る変速伝動装置Aの各速度レンジにおける出力軸90の回転数(以下、出力軸回転数と称する。)のエンジン1の出力回転数(以下、エンジン回転数と称する。)に対する比率と、減速遊星機構80におけるサンギヤ84の回転数(以下、サンギヤ回転数と称する。)のエンジン回転数に対する比率と、減速遊星機構80におけるリングギヤ83の回転数(以下、リングギヤ回転数と称する。)のエンジン回転数に対する比率とを示す説明図である。図7の横軸は、変速伝動装置Aの速度レンジを示す。図7の縦軸は、出力軸回転数とサンギヤ回転数とリングギヤ回転数とのエンジン回転数に対する比率を示す。図7に実線で示す曲線Zは、出力軸回転数のエンジン回転数に対する比率の変速伝動装置Aの変速操作に伴う変化を示す。図7に一点鎖線で示す曲線Xは、サンギヤ回転数のエンジン回転数に対する比率の変速伝動装置Aの変速操作に伴う変化を示す。図7に点線で示す曲線Yは、リングギヤ回転数のエンジン回転数に対する比率の変速伝動装置Aの変速操作に伴う変化を示す。
この図に示すように、出力軸回転数のエンジン回転数に対する比率は、変速伝動装置Aが一速レンジで増速操作されるに伴って「0」から「0.25」に増大し、変速伝動装置Aが二速レンジで増速操作されるに伴って「0.25」から「0.5」に増大し、変速伝動装置Aが三速レンジで増速操作されるに伴って「0.5」から「1.0」に増大し、変速伝動装置Aが四速レンジで増速操作されるに伴って「1.0」から「2.0」に増大する。
図7では、三速レンジと四速レンジとにおいて曲線Xと曲線Yと曲線Zとが若干離れている。これは、サンギヤ回転数の比率の変化と、リングギヤ回転数の比率の変化とを明瞭にするための対策である。実際には、三速レンジと四速レンジとにおいて曲線Xと曲線Yと曲線Zとが重なって一本の曲線になる。
この図に示すように、変速伝動装置Aが一速レンジと二速レンジとになると、減速遊星機構80のリングギヤ83が停止し、減速遊星機構80のサンギヤ84が回転する。これは、減速遊星機構80が伝動作用することによる。変速伝動装置Aが三速レンジになると、減速遊星機構80のサンギヤ84とリングギヤ83とが出力軸90と同一の回転速度で回転する。すなわち、減速遊星機構80の全体が一体回転する。これは、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とが切り状態に操作され、連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とが入り状態に操作されることによる。変速伝動装置Aが四速レンジになると、減速遊星機構80のサンギヤ84とリングギヤ83とが出力軸90と同一の回転速度で回転する。すなわち、減速遊星機構80の全体が一体回転する。これは、第2クラッチ機構70と連結クラッチ110とが入り状態に操作されることによる。
つまり、変速伝動装置Aが三速レンジになると、連結クラッチ機構110が切り状態に操作される場合、変速伝動装置Aが三速レンジから四速レンジに切り換わるレンジ超え変速の際、減速遊星機構80と、二速レンジと三速レンジの間のレンジ超え変速の際よりも高回転数で回転している出力軸90とが連動し、減速遊星機構80が高回転数で急回転することになる。変速伝動装置Aが四速レンジから三速レンジに切り換わるレンジ超え変速の際、減速遊星機構80と高回転している出力軸90との連動が解除され、減速遊星機構80が高回転数から急停止することになる。
これに対し、本実施例の変速伝動装置Aでは、変速伝動装置Aの三速レンジから四速レンジに切り換わるレンジ超え変速の際、減速遊星機構80の全体が既に出力軸90と連動して回転している状態にあり、減速遊星機構80の高回転数での急回転が発生しない。また、変速伝動装置Aの四速レンジから三速レンジに切り換わるレンジ超え変速の際、減速遊星機構80の全体の出力軸90との連動回転が維持されるのであり、減速遊星機構8の高回転数からの急停止が発生しない。
図8と図9とに示すように、前記第1クラッチ機構60と前記第2クラッチ機構70と前記出力クラッチ機構120とは、噛合いクラッチになっている。
すなわち、第1クラッチ機構60の前記クラッチ本体64は、前記入力側回転部材62の側面に入力側回転部材62の回転方向に並べて一体回転自在に設けた非操作クラッチ爪64aと、前記出力回転部材63の一端側に出力回転部材63の回転方向に並べて設けた操作クラッチ爪64bとを備えて構成してある。操作クラッチ爪64bは、出力側回転部材63の係止部63cに一体回転及び摺動自在に係合している。操作クラッチ爪64bは、前記油圧ピストン65に連設されている。油圧ピストン65は、出力側回転部材63を摺動自在に貫通している支持ピン67と出力側回転部材63とにわたって設けたリターンスプリング66による支持ピン67の摺動付勢によってクラッチ切り側に摺動付勢されている。
第1クラッチ機構60は、操作クラッチ爪64bを油圧ピストン65によって出力側回転部材63に対して摺動操作し、これによって操作クラッチ爪64bが非操作クラッチ爪64aに一体回転自在に噛合った状態になると、入力側回転部材62と出力側回転部材63とを一体回転させるよう入り状態になり、操作クラッチ爪64bが非操作クラッチ爪64aから離脱した状態になると、入力側回転部材62と出力側回転部材63とを相対回転させるよう切り状態になる。
第2クラッチ機構70の前記クラッチ本体74は、前記入力側回転部材71の側面に入力側回転部材71の回転方向に並べて一体回転自在に設けた非操作クラッチ爪74aと、前記出力回転部材73の一端側に出力回転部材73の回転方向に並べて設けた操作クラッチ爪74bとを備えて構成してある。操作クラッチ爪74bは、出力側回転部材73の係止部73aに一体回転及び摺動自在に係合している。操作クラッチ爪74bは、前記油圧ピストン75に連設されている。油圧ピストン75は、リターンスプリング76によってクラッチ切り側に摺動付勢されている。
第2クラッチ機構70は、操作クラッチ爪74bを油圧ピストン75によって出力側回転部材73に対して摺動操作し、これによって操作クラッチ爪74bが非操作クラッチ爪74aに一体回転自在に噛合った状態になると、入力側回転部材71と出力側回転部材73とを一体回転させるよう入り状態になり、操作クラッチ爪74bが非操作クラッチ爪74aから離脱した状態になると、入力側回転部材71と出力側回転部材73とを相対回転させるよう切り状態になる。
出力クラッチ機構120の前記クラッチ本体123は、前記入力側回転部材122の側面に入力側回転部材122の回転方向に並べて一体回転自在に設けた非操作クラッチ爪123aと、前記出力回転部材121の一端側に出力回転部材121の回転方向に並べて設けた操作クラッチ爪123bとを備えて構成してある。操作クラッチ爪123bは、出力側回転部材121の係止部121aに一体回転及び摺動自在に係合している。操作クラッチ爪123bは、前記油圧ピストン124に連設されている。油圧ピストン124は、リターンスプリング125によってクラッチ切り側に摺動付勢されている。
出力クラッチ機構120は、操作クラッチ爪123bを油圧ピストン124によって出力側回転部材121に対して摺動操作し、これによって操作クラッチ爪123bが非操作クラッチ爪123aに一体回転自在に噛合った状態になると、入力側回転部材122と出力側回転部材121とを一体回転させるよう入り状態になり、操作クラッチ爪123bが非操作クラッチ爪123aから離脱した状態になると、入力側回転部材122と出力側回転部材121とを相対回転させるよう切り状態になる。
図1と図2とに示すように、前記回転軸97は、前記上手遊星機構40と前記下手遊星機構50と前記減速遊星機構80とのサンギヤ45,53,84と、第2クラッチ機構70の出力側回転部材73と、連結クラッチ機構110のキャリヤ側回転体112とに支持作用し、かつ、第2クラッチ機構70の出力側回転部材73を介して第1クラッチ機構60の出力側回転部材63に支持作用している。
つまり、回転軸97は、前記上手遊星機構40と前記下手遊星機構50と前記第1クラッチ機構60と前記第2クラッチ機構70と前記減速遊星機構80と前記連結クラッチ機構110とを支持する支軸になっている。
図2、図8、図9に示すように、前記回転軸97は、この回転軸97に回転軸97の軸芯に沿った方向にかつこの軸芯と同軸芯に穿孔して設けた給油路160を備えている。この給油路160は、前記出力軸90に穿設された油路161から潤滑油を送り込まれる。給油路160は、油路161から送り込まれた潤滑油を、前記筒軸92と回転軸97とにわたって設けた分配油路162を介して連結クラッチ機構110に供給し、前記キャリヤ86と回転軸97とにわたって設けた分配油路163を介して減速遊星機構80の遊星ギヤ85と支軸との間に供給する。前記給油路160は、前記油路161から送り込まれた潤滑油を、前記出力側回転部材73のボス部と回転軸97とにわたって設けた分配油路164から第2クラッチ機構70の操作クラッチ爪74bと非操作クラッチ爪74aとに供給し、第2クラッチ機構70の内部を介して第1クラッチ機構60の操作クラッチ爪64bと非操作クラッチ爪64aとに供給する。前記給油路160は、前記油路161から送り込まれた潤滑油を、前記キャリヤ44と回転軸97とにわたって設けた分配油路165を介して上手遊星機構40と下手遊星機構50との遊星ギヤ46,54の外周側と内周側とに供給する。
図9に示すように、前記第1クラッチ機構60と前記第2クラッチ機構80と前記ブレーキ機構100と前記連結クラッチ機構110と前記出力クラッチ機構120との前記操作弁150,151,152,153,154は、前記ミッションケースKの横側壁部Kdの外面側に配置して前記ミッションケースKに脱着自在に設けた一つの油路形成ブロック170に支持させてある。
図10、図11に示すように、前記油路形成ブロック170は、前記複数の操作弁150−154を油路形成ブロック170の上面170aと下面170bとに振り分けて支持し、かつ、油路形成ブロック170のミッションケースKに対する脱着によって全ての操作弁150−154が一挙に油路形成ブロック170と共にミッションケースKに対して脱着する状態で支持している。
前記油路形成ブロック170は、このブロック170の穿孔によって給油路171を形成しており、この給油路171によって前記各操作弁150−154のポンプポートを油圧ポンプ(図示せず)に接続している。
図9、図10に示すように、前記第1クラッチ機構60の操作弁150は、前記ミッションケースKの内部に前記出力軸部72が挿通する環状に形成した部材を付設して設けたミッションケース部分Kaと前記油路形成ブロック170とにわたって取り付けた管部材172aが形成する操作油路172と、前記ミッションケース部分Kaに穿孔して設けた操作油路173と、第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70との出力側回転部材63,73に一体形成して設けた操作部63aに穿孔して設けた操作油路174とを介して第1クラッチ機構60の前記油圧ピストン65に接続している。
前記第2クラッチ機構70の操作弁151は、前記ミッションケース部分Kaと前記油路形成ブロック170とにわたって取り付けた管部材175aが形成する操作油路175と、前記ミッションケース部分Kaに穿孔して設けた操作油路176と、前記操作部63aに穿孔して設けた操作油路177とを介して第2クラッチ機構70の前記油圧ピストン75に接続している。
前記操作部63aは、前記出力側回転部材63と前記出力側回転部材73との回転状態において前記ミッションケース部分Kaの端部Ka1に相対回転自在に摺接し、前記出力側回転部材63と前記出力側回転部材73との回転にかかわらず前記操作油路174と前記操作油路173とを、前記操作油路177と前記操作油路176とをそれぞれ連通状態にする。
これにより、前記操作弁150は、前記給油路171から供給された操作油を前記操作油路172と前記操作油路173と前記操作油路174とを介して油圧ピストン65に供給するか、油圧ピストン65から前記操作油路174と前記操作油路173と前記操作油路172とを介して排油し、これによって油圧ピストン65を摺動操作して第1クラッチ機構60を入り状態と切り状態とに切り換え操作する。
前記操作弁151は、前記給油路171から供給された操作油を前記操作油路175と前記操作油路176と前記操作油路177と介して油圧ピストン75に供給するか、あるいは油圧ピストン75から前記操作油路177と前記操作油路176と前記操作油路175とを介して排油し、これによって油圧ピストン75を摺動操作して第2クラッチ機構70を入り状態と切り状態とに切り換え操作する。
図9に示すように、前記ブレーキ機構100の操作弁152は、前記固定体102と前記油路形成ブロック170とにわたって取り付けた管部材178aが形成する操作油路178と、前記固定体102に穿孔して設けた操作油路179とを介して油圧ピストン104に前記給油路171からの操作油を供給するか、油圧ピストン104から前記操作油路179と前記操作油路178とを介して排油し、これによって油圧ピストン104を摺動操作してブレーキ機構100を入り状態と切り状態とに切り換え操作する。
図9に示すように、前記連結クラッチ機構110の操作弁153は、ミッションケースKの内部に前記キャリヤ側回転部材112が挿通する環状に形成した部材を付設して設けたミッションケース部分Kbと前記油路形成ブロック170とにわたって取り付けた管部材180aが形成する操作油路180と、前記ミッションケース部分Kbに穿孔して設けた操作油路181と、前記キャリヤ側回転部材112に穿孔して設けた操作油路182とを介して油圧ピストン114に接続している。
キャリヤ側回転部材112は、これの回転状態において前記ミッションンケース部分Kbに相対回転自在に摺接し、キャリヤ側回転部材112の回転にかかわらず前記操作油路181と前記操作油路182とを連通状態にする。
これにより、前記操作弁153は、前記給油路171から供給された操作油を前記操作油路180と前記操作油路181と前記操作油路182とを介して油圧ピストン114に供給するか、油圧ピストン114から前記操作油路182と前記操作油路181と前記操作油路180とを介して排出し、これによって油圧ピストン114を摺動操作して連結クラッチ機構110を入り状態と切り状態とに切り換え操作する。
図9に示すように、前記出力クラッチ機構120の操作弁154は、ミッションケースKの内部に前記出力側回転部材121が挿通する環状に形成した部材を付設して設けたミッションケース部分Kcと前記油路形成ブロック170とにわたって取り付けた管部材183aが形成する操作油路183と、前記ミッションケース部分Kcに穿孔して設けた操作油路184と、前記出力側回転部材121に穿孔して設けた操作油路185とを介して油圧ピストン124に接続している。
出力側回転部材121は、これの回転状態において前記ミッションケース部分Kcに相対回転自在に摺接し、出力側回転部材121の回転にかかわらず前記操作油路185と前記操作油路184とを連通状態にする。
これにより、操作弁154は、前記給油路171から供給された操作油を前記操作油路183と前記操作油路184と前記操作油路185とを介して油圧ピストン124に供給するか、油圧ピストン124から前記操作油路185と前記操作油路184と前記操作油路183とを介して排出し、これによって油圧ピストン124を摺動操作して出力クラッチ機構120を入り状態と切り状態とに切り換え操作する。
図12は、本第二実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの伝動装置の線図である。本第二実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、遊星伝動部Pとクラッチ部Cと減速用遊星伝動機構80とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120との点において同一の構成を備え、無段変速自在な駆動力を入力する構成において本第二実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとが相違している。この相違点について次に説明する。
本第二実施例に係る変速伝動装置Aは、電動モータ140を備えている。遊星伝動部Pは、前記電動モータ140の出力を伝動上手側の遊星伝動機構40のサンギヤ45に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の出力軸1aからの出力を主クラッチ2と入力軸21とギヤ31とギヤ32とを介して伝動上手側の遊星伝動機構40のリングギヤ41に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の駆動力と電動モータ140の駆動力とを入力して合成し、この合成駆動力をクラッチ部Cに伝達する。
電動モータ140は、ドライバ141による変速操作によって無段階に駆動回転数を変更する。この電動モータ140の変速操作を行い、この変速操作に合わせて第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70とブレーキ機構100と連結クラッチ機構110と出力クラッチ機構120とを切り換え操作することにより、本第一実施例に係る変速伝動装置Aと同様に、出力軸90の出力速度が一速レンジから四速レンジの4段階の速度レンジに段階分けして、かつ各速度レンジで無段階に変速される。
〔別実施例〕
上記した第1クラッチ機構60と第2クラッチ機構70と出力クラッチ機構120とに替え、入力側回転部材62,71,122に操作クラッチ爪を設け、出力側回転部材63,72,121に非操作クラッチ爪を設けた構成を有した第1クラッチ機構と第2クラッチ機構と出力クラッチ機構とを採用して実施してもよい。この場合も本発明の目的を達成するができる。