JP4891700B2 - メカニカルデスケーリング用鋼線材 - Google Patents

メカニカルデスケーリング用鋼線材 Download PDF

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Description

本発明は、鋼線材に関する技術分野に属するものであり、特には、搬送時にはスケール密着性が良く、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良い鋼線材に関する技術分野に属するものである。
熱間圧延により製造された鋼線材(以降、線材ともいう)の表面にはスケールが形成されており、線材の二次加工の伸線等に先立ち形成されたスケールを除去することが必要である。近年、線材の伸線加工においては、公害問題やコスト低減の観点から、スケール除去法としては、バッチ酸洗法から、メカニカルデスケーリング法にかわりつつある。そのため、線材としてはメカニカルデスケーリング(以下、MDともいう)によりスケールが容易に剥離すること、即ち、メカニカルデスケーリング性が良好であることが望ましい。従来、スケールの制御は、スケール剥離性に重点を置き、Sなどの元素調整などにより行われてきた(特開昭60−169545号公報、特開平5−295484号公報)。
特開昭60−169545号公報 特開平5−295484号公報
しかしながら、スケール剥離性を良くすることにより、線材製造工程から伸線加工にいたる搬送工程でスケールが剥離して、地鉄表面が露出し、錆が生じてしまうことが問題となっていた。また、特に線材製造工程中の冷却時にスケールが剥離すると、まだ高温である故に、露出した地鉄表面に薄い緻密なスケール(3次スケール)が新たに生成し、これがメカニカルデスケーリング性を悪化させる。従って、線材の搬送時にはスケールが剥離しにくく、地鉄表面が露出されにくくて、錆の発生を防止し得、かつ、伸線加工前のメカニカルデスケーリングで容易に剥離するスケールが付着した線材が求められている。つまり、搬送時にはスケール密着性が良く、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良い線材(鋼線材)が求められている。
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、搬送時にはスケール密着性が良くてスケールが剥離しにくく、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良くてメカニカルデスケーリング性に優れた鋼線材を提供しようとするものである。
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、請求項1〜6記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材に係り、それは次のような構成としたものである。
即ち、請求項1記載の鋼線材は、C:0.05〜1.2質量%、Si:0.01〜0.5質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下(0質量%を含む)を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼線材において、スケールと鋼との界面に、P濃度の最大値:2.5質量%以下のP濃化部が形成され、かつ、このP濃化部の直上にFe2SiO4層が形成されていることを特徴とするメカニカルデスケーリング用鋼線材である〔第1発明〕。
請求項2記載の鋼線材は、前記Fe2SiO4層の厚みが0.01〜1μmである請求項1記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材である〔第2発明〕。
請求項3記載の鋼線材は、Cr:0質量%超0.3質量%以下および/またはNi:0質量%超0.3質量%以下を含有する請求項1または2記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材である〔第3発明〕。
請求項4記載の鋼線材は、Cu:0質量%超0.2 質量%以下を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材である〔第4発明〕。
請求項5記載の鋼線材は、Nb、Ti、V、Hf、Zrの1種以上を合計で0質量%超0.1 質量%以下を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング鋼線材である〔第5発明〕。
請求項6記載の鋼線材は、B:0.001 〜0.005 質量%を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材である〔第6発明〕
本発明に係る鋼線材は、搬送時にはスケール密着性が良くてスケールが剥離しにくく、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良くてメカニカルデスケーリング性に優れている。従って、本発明に係る鋼線材によれば、搬送時のスケール剥離(地鉄表面の露出)による錆の発生が抑制されて錆が発生しにくくなると共に、メカニカルデスケーリングによるスケール除去を良好に行うことができるようになる。
本発明に係る鋼線材は、前述のように、C:0.05 〜1.2 質量%、Si:0.01〜0.5質量%、Mn:0.1 〜1.5 質量%を含有する鋼線材において、スケールと鋼との界面に、P濃度の最大値:2.5 質量%以下のP濃化部が形成され、かつ、このP濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されていることを特徴とする鋼線材であることとしている。
本発明に係る鋼線材は、上記のように鋼線材の成分、スケールと鋼との界面でのP濃化部のP濃度の最大値、及び、P濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されていることを特定したものである。以下、その特定の理由等について、説明する。
(1)鋼線材の成分について:
Cは鋼の機械的性質を決定する主要元素である。鋼線材の必要強度確保のためには、C量は少なくとも0.05質量%(重量%)含有する必要がある。一方、C量が過多になると線材製造時の熱間加工性が劣化するので、熱間加工性を考慮して上限を1.2 質量%とする。従って、C:0.05 〜1.2 %質量%(以下、%ともいう)とする。
Siは鋼の脱酸のために必要な元素であり、その含有量が少なすぎる場合は、脱酸効果が不充分となるため、下限を 0.01%とする。一方、Siは過剰に添加すると、Fe2SiO4(ファイアライト)が過剰生成し、Fe2SiO4 層の厚みが1μm超となるため、メカニカルデスケーリング性が著しく劣化するほか、表面脱炭層の生成などの問題が生じるため、上限を 0.5%とする。従って、Si:0.01 〜0.5 %とする。
Mnは鋼の焼入れ性を確保し、強度を高めるのに有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるには0.1 %以上添加することが必要であり、0.35%以上添加することが望ましい。ただし、過剰に添加すると、熱間圧延後の冷却過程で偏析を起こし、伸線加工性に有害なマルテンサイト等の過冷組織が発生しやすくなるため、1.5 %以下にすることが必要であり、0.8 %以下にすることが望ましい。従って、Mn:0.1 〜1.5 %とする。好ましくはMn:0.35〜0.8 %である。
なお、C、Si、Mn以外の成分は特には限定されず、残部は実質的にFeである(残部はFe及び不可避的不純物からなる)が、強度等の特性を更に向上させるために下記元素を添加することが望ましい。また、P、S、N、Al、Mg等の含有量を下記のように抑制することが望ましい。
〔Cr:0%超0.3 %以下および/またはNi:0%超0.3 %以下〕
Cr,Niはいずれも焼き入れ性を高めて強度向上に寄与する元素である。このような作用効果を発揮させるために、CrやNiを添加するのが好ましい。ただし、過剰に添加すると、マルテンサイトが発生しやすくなる上、スケールの密着性が過剰に高まりすぎて、メカニカルデスケーリングでスケールが取れにくくなるので、Cr:0%超0.3 %以下および/またはNi:0%超0.3 %以下とするのがよい〔第3発明〕。これらの元素は単独で添加しても、併用してもよい。
〔Cu:0%超0.2 %以下〕
Cuは、腐食疲労特性を向上させるとともに、スケールと鋼の界面に濃化し、スケールを剥離しやすくする効果がある。このような作用効果を発揮させるために、Cuを添加することが推奨される。ただし、過剰に添加するとスケール剥離が促進されすぎて、圧延中に剥離してその剥離面に薄い密着スケールを発生させるほか、線材コイル保管中にさび発生をもたらすため、Cu:0.2 %以下とするのがよい〔第4発明〕。
〔Nb,V,Ti,Hf,Zrの1種以上:合計で0%超0.1 %以下〕
Nb,V,Ti,Hf,Zrは、いずれも、微細な炭窒化物を析出して、高強度化に寄与する元素である。このような作用効果を有効に発揮させるために、Nb,V,Ti,Hf,Zrの1種以上を添加するのが好ましい。ただし、過剰に添加すると、延性が劣化するため、Nb,V,Ti,Hf,Zrの1種以上:合計で0.1 %以下とするのがよい〔第5発明〕。これらの元素は単独で添加しても、併用してもよい。
〔B:0.001 〜0.005 %〕
Bは鋼中に固溶するフリーBとして存在することにより、第2層フェライトの生成を抑制することで知られており、特に縦割れの抑制が必要な高強度線材を製造するにはBの添加が有効である。このような作用効果を得るために、B:0.001 %以上添加するのが好ましい。ただし、0.005 %を超えて添加すると延性を劣化させるため、B:0.005 %以下とするのがよい〔第6発明〕。
〔P含有量:0.02質量%以下〕
Pは鋼の靭性・延性を劣化させる元素であり、伸線工程等における断線を防止するためにP量の上限を0.02%とすることが望ましい。従って、P含有量:0.02質量%以下とすることが好ましい。より好ましくはP含有量:0.01%以下であり、更に好ましくはP含有量:0.005 %以下である。
〔S含有量:0.02%以下(0質量%を含む)〕
SもPと同様、鋼の靭性・延性を劣化させる元素であり、伸線やその後の撚り工程における断線を防止するためにS量の上限を0.02%とすることが好ましい。従って、S含有量:0.02%以下(0質量%を含む)とすることが好ましい。より好ましくはS含有量:0.01%以下、更に好ましくはS含有量:0.005 %以下である。
〔N:0.01%以下〕
Nは線材の靭性、延性を劣化させるため、0.01%以下とすることが望ましい。
〔Al:0.05%以下、Mg:0.01%以下〕
Al,Mgは脱酸剤として有効であるが、過剰に添加するとAl2O3 やMgO-Al2O3 等の酸化物系介在物が多く発生して断線が多発する。かかる点から、Al:0.05%以下とすることが望ましく、また、Mg:0.01%以下とすることが望ましい。
(2)スケールと鋼との界面のP濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されていることについて:
鋼線表面に形成されるスケールは、上層よりFe2O3 、Fe3O4 、FeO からなる。FeO を増やすほどスケールの剥離性が良くなることは知られている。しかしながら、FeO の比率を増やしすぎても、スケールが厚くなりすぎて、メカニカルデスケーリングで均一に綺麗に除去するのが難しい。
そこで、本発明者らは、スケールの機械的特性と剥離性の関係を検討した結果、鋼とスケール(FeO)の界面部に、高硬度で脆いFe2SiO4 層を形成させると、メカニカルデスケーリング時にFe2SiO4 層から亀裂が入ってスケールが剥離しやすくなることを見出した。
Fe2SiO4 の生成はSi量と雰囲気露点の影響を強く受ける。Si量が0.5 %を超えると、大気中酸化であっても容易にFe2SiO4 が生成される。しかしながら、Si量が0.5 %以下の鋼材においては、大気中ではSiO2が界面部に生成されても、Fe2SiO4 は生成されない。SiO2は強固で緻密な酸化物であるため、メカニカルデスケーリング性を改善させる効果が全くなく、むしろ悪化させる。これに対し、水蒸気雰囲気等の高露点雰囲気で酸化させると、Si量が0.5 %以下と少なくても、2[Fe] +[SiO2]+2[H2O]=[Fe2SiO4] +2[H2] の反応が進行して、脆いFe2SiO4 が形成されやすくなる。雰囲気の露点は30℃以上であれば、Si量が0.5 %以下であってもFe2SiO4 層が形成される。
一方、Fe2SiO4 層は適正厚みであれば、メカニカルデスケーリング性を高めつつもスケールの密着性を高める作用があり、熱間圧延途中や搬送中にスケールが剥がれるのを防ぐ効果がある。このように搬送中のスケール剥離が抑制されると、搬送後、メカニカルデスケーリング前の保管中での錆の発生が抑制されて錆が発生しにくくなる。また、このように熱間圧延途中のスケール剥離が抑制されると、熱間圧延、巻き取り後の冷却過程での3次スケールの生成が抑制され、ひいては、メカニカルデスケーリング性が更に向上する。即ち、熱間圧延途中にスケールが剥がれると、巻き取り後の冷却過程の400 ℃以下の温度域においてスケール剥離面(露出した地鉄表面)に薄く密着性の高い低温スケール(3次スケール)が新たに生成し、これがメカニカルデスケーリング性を悪化させるのに対し、熱間圧延途中のスケール剥離が抑制されると、かかる3次スケールの生成が抑制され、ひいては、3次スケールによるメカニカルデスケーリング性の悪化が抑制されて、メカニカルデスケーリング性が更に向上する。このような効果を発揮させるためには、Fe2SiO4 層の厚みを0.01〜1μmに制御することが望ましい。Si量が0.5 %超と多い場合は、雰囲気での水蒸気の有無によらず、Fe2SiO4 が過剰に生成して、Fe2SiO4 層の厚みが1μmを超え、鋼との密着性が高まりすぎて、メカニカルデスケーリング性を却って悪化させる。
(3)スケールと鋼との界面でのP濃化部のP濃度の最大値について:
高温でのスケール成長時には、酸化に伴ってPが鋼とスケールの界面部に濃化してFe2SiO4 層の直下(Fe2SiO4 層と鋼の界面)にP濃化部が形成される。熱間圧延後の冷却速度を調整するとPの濃化が妨げられるので、P濃化部でのPの最大濃度(P濃度の最大値)が低下する。P濃化部におけるP濃度が高すぎるとスケール密着性が大きく低下する。P濃化部におけるP濃度の最大値が2.5 質量%以下であれば、熱間圧延後の冷却途中でスケールが剥離するのを抑えると共に、搬送中の衝撃等にも耐え得るスケールが得られる。一方で、メカニカルデスケーリングの応力負荷時には、P濃化部もスケール剥離性に寄与してスケールが取れやすくなる。なお、界面のP濃化部は、直線状であっても、不連続に縞状に存在する場合であってもどちらでもよい。
本発明に係る鋼線材は、以上のような理由により、前述のように鋼線材の成分、スケールと鋼との界面でのP濃化部のP濃度の最大値、及び、P濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されていることを特定している。即ち、C:0.05 〜1.2 質量%、Si:0.01〜0.5質量%、Mn:0.1 〜1.5 質量%を含有する鋼線材において、スケールと鋼との界面に、P濃度の最大値:2.5 質量%以下のP濃化部が形成され、かつ、このP濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されていることを特徴とする鋼線材であることとしている。故に、熱間圧延途中のスケール剥離が抑制され、搬送時にはスケール密着性が良くてスケールが剥離しにくく、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良くてメカニカルデスケーリング性に優れている。従って、本発明に係る鋼線材によれば、熱間圧延途中や搬送時のスケール剥離(地鉄表面の露出)による錆の発生が抑制されて錆が発生しにくくなると共に、メカニカルデスケーリングによるスケール除去を良好に行うことができるようになる。
前述のように、Fe2SiO4 層を形成させると、メカニカルデスケーリング時にFe2SiO4 層から亀裂が入ってスケールが剥離しやすくなる。また、熱間圧延途中や搬送中のスケール剥離が抑制される。前者の熱間圧延途中のスケール剥離が抑制されることにより、熱間圧延、巻き取り後の冷却過程での3次スケールの生成が抑制されてメカニカルデスケーリング性が更に向上する(3次スケールによるメカニカルデスケーリング性の悪化が抑制される)。後者の搬送中のスケール剥離が抑制されることにより、搬送後、メカニカルデスケーリング前の保管中での錆の発生が抑制されて錆が発生しにくくなる。このような効果を充分に発揮するには、Fe2SiO4 層の厚みを0.01〜1μmに制御することが望ましい〔第2発明〕。Fe2SiO4 層の厚みが1μm超の場合には、鋼との密着性が高まりすぎてメカニカルデスケーリング性が却って悪化する傾向があり、Fe2SiO4 層の厚みが0.01μm未満の場合には、前述のメカニカルデスケーリング時のFe2SiO4 層からの亀裂導入によるスケール剥離性の向上の程度が小さくなり、また、熱間圧延途中や搬送中のスケール剥離の抑制の程度が小さくなる。
本発明に係る鋼線材においては、前述のように、スケールと鋼との界面において形成されたP濃化部はP濃度の最大値:2.5 質量%以下であり、このP濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されている。かかる界面構造を得るには、線材の巻き取り直後の高温時は高露点雰囲気において短時間で酸化させてFe2SiO4 層を優先形成させた後、Pの濃化を軽減するために出来るだけ冷却速度を速めて冷却するとよい。具体的には、高露点雰囲気の作製法として、高温水蒸気を線材コイル表面に噴射する方法や、水をミスト状態で線材コイル表面に噴射して水蒸気化する方法等があるが、Fe2SiO4 を十分に形成させるには30℃以上の露点に調整するとよい。また、高露点雰囲気でFe2SiO4 を形成させるための酸化時間は5秒以内で十分であり、好ましくは3秒以内である。また、水蒸気酸化処理を行うに当たって、その直前の線材の巻き取り温度は750〜1015℃程度が好ましい。750℃を下回ると水蒸気の効果が十分ではなくFe2SiO4が十分に形成されない。また、1015℃を超えると、スケールが急成長し、スケールロスが増えるだけでなく、冷却中にスケールが剥離しやすくなり、3次スケール(マグネタイト)の発生によるメカニカルデスケーリング性の悪化が懸念される。高露点の水蒸気雰囲気で酸化して適正厚みのFe2SiO4 層を形成した後、スケールが成長してPが濃化しやすい600 ℃程度までの冷却速度を速めてPの濃化を軽減する。冷却速度は10℃/sec以上とするとよく、好ましくは20℃/sec以上、より好ましくは40℃/sec以上である。この水蒸気雰囲気での酸化処理後の冷却方法は、水冷もしくは風冷などで行う。600 ℃より下の温度域における冷却方法は、材料の組織制御の観点から適宜調整するが、本温度域では界面構造自体への影響はほとんどない。
前述のFe2SiO4 層の厚みは、TEM (透過型電子顕微鏡)等でSi濃化層の厚みを測定することによって確認できる。具体的には、例えば、鋼線材より断面試料を任意に3箇所採取し、各断面試料の組織写真を5000倍以上の倍率で撮影し、Fe2SiO4 層の厚みを1断面から任意に3点測定してその平均値を求め、さらに線材3箇所での平均値を求めてFe2SiO4 層の厚みとする。かかる測定により、Fe2SiO4 層の厚みを的確に確認できた。かかる測定には、装置として、JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡(JEM-2010F )を用い、その測定条件は加速電圧200kV である。
前述のP濃化部のP濃度の最大値は、例えば、TEM-EDX によりビーム径1nmでスケールと鋼の界面部を垂直方向に10nm間隔でP濃度を測定し、P濃度の最大値を求めることが出来る。より具体的には、このような測定法により、界面長さ500nm あたり20点についてのP濃度の最大値を測定し、その20点の平均値(a)を求める。かかる測定を数個所について行って、それぞれの個所でのa(20点のP濃度の最大値の平均値)を求め、それらの平均値を求めてP濃度の最大値とする。かかる測定により、P濃化部のP濃度の最大値を的確に求めることができた。かかる測定には、装置として、JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡(JEM-2010F )およびEDX 検出器(NORAN-VANTAGE 製)を用い、その測定条件は加速電圧200kV である。
本発明において、C:0.05 〜1.2 質量%、Si:0.01〜0.5質量%、Mn:0.1 〜1.5 質量%を含有する鋼線材とは、C:0.05〜1.2 %、Si:0.01〜0.5 %、Mn:0.1 〜1.5 %を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線材、または、C:0.05 〜1.2 %、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1 〜1.5 %を含有すると共に、それ以外に必要に応じて添加される元素を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線材のことである。
この鋼線材においてCr:0%超0.3 %以下および/またはNi:0%超0.3 %以下を含有する鋼線材(第2発明に係る鋼線材の組成のもの)とは、0.05 〜1.2 %、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1 〜1.5 %を含有すると共に、Cr:0%超0.3 %以下および/またはNi:0%超0.3 %以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線材、または、C:0.05 〜1.2%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1 〜1.5 %を含有すると共に、Cr:0%超0.3 %以下および/またはNi:0%超0.3 %以下を含有し、更に、それ以外に必要に応じて添加される元素を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線材のことである。
本発明に係る鋼線材においては、前述のように、スケールと鋼との界面に、P濃度の最大値:2.5 質量%以下のP濃化部が形成され、かつ、このP濃化部の直上にFe2SiO4 層が形成されている。かかる界面構造の例を模式的に図1〜2に示す。この図1〜2は側断面図(鋼線材の中心線に平行で、かつ、この中心線を通る断面の図)である。この図1において、Aは鋼(鋼部)、BはP濃化部、CはFe2SiO4 層、Dはスケール(鉄の酸化物)を示すものである。スケールDは、例えば、鋼線材の表面からFe2O3 、Fe3O4 、FeO からなり、FeO がFe2SiO4 層と接している。なお、この図1においてはP濃化部およびFe2SiO4 層は直線状で連続している(つながっている)が、P濃化部および/またはFe2SiO4 層が不連続に縞状に存在する場合もある。図2の(A)は鋼と鋼上のスケールを示すものであり、図2の(B)は前記図2の(A)のスケールの構造およびスケールと鋼との界面の構造を示すものである。
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1および表2に示す組成の鋼片(ビレット)を加熱炉で加熱し、次いで線径5.5mm の鋼線材に熱間圧延した後、鋼線材を巻き取った後に、この鋼線材を露点30℃以上の水蒸気雰囲気中を通過させて水蒸気酸化処理をした。この後、600 ℃までの冷却速度を変えてPの濃化を制御した。
このようにして得られた鋼線材について、スケールと鋼との界面に形成されたP濃化部のP濃度の最大値、Fe2SiO4 層の厚み、および、スケール剥離状況を測定した。
このとき、スケール剥離状況については、次のようにして測定した。鋼線材コイルの前端部、中央部、後端部より500mm 長さのサンプルを採取し、各サンプルについてスケールが剥離した個所の面積(スケール剥離面積)を測定し、各サンプルの全表面に対するスケール剥離面積の割合を求めた。この割合が大きいほど、熱間圧延後の鋼線材のスケール剥離が大きく、40%超のものを×(不良)、20〜40%(20%を含まず)のものを△(良好)、20%以下のものを○(極良好)とした。なお、○、△のものについては、熱間圧延後はスケールが安定して付着しており、防錆剤の塗布等を必要としない水準のものであり、また、巻き取り後の冷却過程での3次スケールの発生が少ない。
Fe2SiO4 層の厚みについては、次のようにして測定した。鋼線材より断面(鋼線材の長手方向に対して垂直方向の断面)試料を任意に各3箇所採取し、各断面試料の組織写真を5000倍以上の倍率で撮影し、Fe2SiO4 層の厚みを1断面から任意に3点測定してその平均値を求め、さらに線材3箇所(コイルの前端、中央、後端)での平均値を求めてFe2SiO4 層の厚みとした。この測定に用いた装置は、JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡(JEM-2010F )であり、測定条件は加速電圧200kV である。
P濃化部のP濃度の最大値については、次のようにして測定した。鋼線材より断面(鋼線材の長手方向に対して垂直方向の断面)試料を任意に3箇所採取し、各断面試料について、TEM-EDX によりビーム径1nmでスケールと鋼の界面部を垂直方向に10nm間隔でP濃度を測定し、P濃度の最大値を求める。このような測定を、界面長さ500nm あたり20点について行い、各々の点でのP濃度の最大値を求め、その20点でのP濃度最大値の平均値(a)を求める。そして、線材3箇所(コイルの前端、中央、後端)の各々についてのa(20点でのP濃度最大値の平均値)の平均値を求めてP濃度の最大値とした。この測定に用いた装置は、JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡(JEM-2010F )およびEDX 検出器(NORAN-VANTAGE 製)であり、測定条件は加速電圧200kV である。
更に、上記のようにして得られた鋼線材についてのメカニカルデスケーリング性を次のようにして調べた。鋼線材コイルの前端部、中央部、後端部より長さ 250mmのサンプルを採取し、これをチャック間距離200mm としてクロスヘッドに取り付け、これに4%の引っ張り歪を与えた後、チャックから取り外した。次に、このサンプルに風を吹きかけて線材表面のスケールを吹き飛ばし、この後、 200mm長さに切断して重量測定して重量(W1)を求め、次に、このサンプルを塩酸中に浸漬して線材表面に付着しているスケールを完全に剥離させ、再度重量を測定して重量(W2)を求めた。この重量測定の値から下記式(1) により残留スケール量を求めた。このようにして求められた鋼線材コイルの前端部、中央部、後端部での残留スケール量の平均値を、歪付与後のスケール残留量とした。この歪付与後のスケール残留量が多いほどメカニカルデスケーリング性が悪く、この歪付与後のスケール残留量が0.05質量%〔重量%(wt%)〕以下であるものを、メカニカルデスケーリング性が良好と判定した。
残留スケール量(質量%)=100 ×(W1−W2)/W1 -----式(1)
上記測定の結果を表3および表4に示す。これらからわかるように、表3の試験番号2,3,5,6,7,10,11,14,15,16,17,19,20,21,23,25,26および表4の試験番号1,3,5,6,7,8、10、12の場合は、いずれも、本発明に係る鋼線材の組成(C:0.05 〜1.2%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.1 〜1.5%を含有する)を満たし、特にSi:0.01 〜0.5 %を満たすため、スケールと鋼との界面に形成されたFe2SiO4 層の厚みが厚すぎることなく、1μm以下であり、かつ、P濃化部のP濃度の最大値が2.5 %以下である。このため、熱間圧延中にスケールが剥離しにくく、熱間圧延後の鋼線材のスケール剥離面積の割合が小さくてスケール付着状態は△(良好)または○(極良好)であり、保管中の錆の発生が抑制されており、また、歪付与後のスケール残留量は0.05wt%以下であってメカニカルデスケーリング性が良好である。
表3の試験番号1,9,12,18,22,24および表4の試験番号2,9、11の場合は、水蒸気酸化処理によってFe2SiO4 層は形成しているが、水蒸気酸化処理後の冷却速度が遅いためにP濃化が著しく、P濃化部のP濃度の最大値が2.5 %超である。このため、熱間圧延中のスケール剥離が激しく、熱間圧延後の鋼線材のスケール剥離面積の割合が大きくてスケール付着状態は×(不良)である。従って、熱間圧延中にスケール剥離面に新たな薄い密着スケール(3次スケール)が発生したり、保管中にスケール剥離面に錆びが発生する。
表3の試験番号4,8,13および表4の試験番号4の場合は、水蒸気酸化処理を行っていないので、Fe2SiO4 層は形成されず、SiO2層が形成されている。このため、歪付与後のスケール残留量は0.05wt%よりも大きくてメカニカルデスケーリング性が悪い。
表3の試験番号27〜30の場合は、いずれも、本発明に係る鋼線材の組成の中のSi:0.01 〜0.5 %を満たしていないため、水蒸気酸化処理の有無にかかわらず、スケールと鋼との界面に形成されたFe2SiO4 層の厚みが厚すぎて、1μmを超えている。このため、歪付与後のスケール残留量は0.05wt%よりも大きくてメカニカルデスケーリング性が極めて悪い。
Figure 0004891700
Figure 0004891700
Figure 0004891700

Figure 0004891700
本発明に係る鋼線材は、搬送時にはスケール密着性が良くてスケールが剥離しにくいため、長期間保存しても錆が発生せず、更に、メカニカルデスケーリング時にはスケール剥離性が良くてメカニカルデスケーリング性に優れているので、鋼線製造用の鋼線材(素線材)として極めて好適に用いることができて非常に有用である。
本発明に係る鋼線材におけるスケールと鋼との界面構造の例を示す模式図である。 本発明に係る鋼線材におけるスケールと鋼との界面構造の例を示す模式図であって、図2の(A)は鋼と鋼上のスケールを示す模式図であり、図2の(B)は図2の(A)のスケールの構造およびスケールと鋼との界面の構造を示す模式図である。
符号の説明
A--鋼、B--P濃化部、C--Fe2SiO4 層、D--スケール。

Claims (6)

  1. C:0.05〜1.2質量%、Si:0.01〜0.5質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下(0質量%を含む)を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼線材において、スケールと鋼との界面に、P濃度の最大値:2.5質量%以下のP濃化部が形成され、かつ、このP濃化部の直上にFe2SiO4層が形成されていることを特徴とするメカニカルデスケーリング用鋼線材。
  2. 前記Fe2SiO4層の厚みが0.01〜1μmである請求項1記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材。
  3. Cr:0質量%超0.3質量%以下および/またはNi:0質量%超0.3質量%以下を含有する請求項1または2記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材。
  4. Cu:0質量%超0.2質量%以下を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材。
  5. Nb、Ti、V、Hf、Zrの1種以上を合計で0質量%超0.1質量%以下を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材。
  6. B:0.001〜0.005質量%を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のメカニカルデスケーリング用鋼線材。
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