JP4891283B2 - 酸化性ガスの測定方法および測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、光化学オキシダントなどの酸化性ガスを測定する酸化性ガスの測定方法、酸化性ガスの測定のためのガス検知素子および測定装置に関するものである。
現在、NOx,SPM,および光化学オキシダントなどの酸化性ガスによる大気汚染が生じ、環境への影響が問題とされている。光化学オキシダントは工場、事業所や自動車から排出されるNOxや炭化水素などの汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により生成し、光化学スモッグの原因となっている。
日本では、例えば大気中の光化学オキシダント濃度に環境基準が設定され、各地で常時監視局での自動測定法によるガス濃度測定が行われている。この環境基準としては、1時間当たりの平均値が、60ppb以下となっている。これらのガス濃度測定器は、数ppbの微量なガスの測定が可能であるが、高価でかつ維持のための整備を必要とする。また、自動測定する場合には、電力をもちいるなど膨大な経費がかかる上、電源および標準ガスや設置場所の確保が必要であるなど制約が多い。
しかし、ガス濃度の分布調査や地球環境影響評価を精度良く行うためには、観測点を多くしてより広範囲に全国規模で環境の監視を行う必要がある。このためには、安価,小型,かつ使い方が簡便なガスセンサーあるいは簡易測定法(あるいはモニタリング装置)を用い、測定している時間内における総ガス量を計量するなどの蓄積的な測定が考えられる。現在、半導体ガスセンサー,固体電解質ガスセンサー,電気化学式ガスセンサー,および水晶発振式ガスセンサーなど幅広く開発が進んでいる。
特許第3257622号公報 J.W,Minns, et al., "α-Cyclodextrin-I3 Host-Guest Complex in Aqueous Solution: Theoritical and Experimental Studies", J.Phys.Chem.A, Vol.106, pp.6421-6425, 2002. 原田 明著、「包接化合物の化学とヨウ素」、ヨウ素利用研究会、FIU Report、No.3、37−40頁、2000年。
しかし、上述したガスセンサーは短時間での応答を評価するために開発されたものであり、データの蓄積が必要な監視用に開発されたものは少ない。また、検出感度がサブppm程度であるために実環境の濃度(例えば光化学オキシダントでは約10ppb)には対処できない。また、多くの場合、他ガスによる影響が無視できない。
また、検知管式気体測定器を使う方法についても、測定する場所での短時間での測定を目的として開発されたものであり、蓄積的な使用は難しい。さらに、測定者が現場に行かなければならないこと、および色を読みとる際に個人差が出るなどの問題がある。また多くの場合、他ガスの干渉または妨害が問題となる。
また、簡易測定法としては、吸引ポンプにより精製水で洗浄したガラス瓶に空気が混じらないように試料ガスを採取し、水中の光化学オキシダントをヨウ化カリウム溶液に吸収させ、析出したヨウ素を滴定する方法がある。しかしながら、この方法では、試料ガスだけでなくポンプなどの周辺機器が必要であり、また、採水した後すぐにpHの調整が必要となり、加えて、検出するための処理が必要であるなどの問題がある。また、この方法では、ヨウ素が徐々に蒸発するため、分析を迅速に行う必要もある。
また、シリカゲルを混和した多孔質材からなるシート状担体に、でんぷんおよびヨウ化カリウムを担持させ、ヨウ素でんぷん反応を用いて光化学オキシダントを測定する検知紙が知られている(特許文献1参照)。この検知紙を用いた測定では、光化学オキシダントとヨウ化カリウムの反応から生成されるヨウ素を、ヨウ素でんぷん反応により検出しているが、この場合においても、反応により生成したヨウ素が徐々に蒸発してしまうため、蓄積的な測定ができないという問題点がある。
以上をまとめると、従来では、光化学オキシダントなどの酸化性ガスの測定では、高価で大がかりな装置構成が必要となり、また手間がかかって容易に測定できないとう問題があった。
この発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より簡便に蓄積的な酸化性ガスの測定ができるようにすることを目的とする。
本発明に係る酸化性ガスの測定方法は、ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質およびヨウ化カリウムを含む検知成分に、酸化性ガスが含まれた測定対象の気体を接触させる前後の、ヨウ素の光吸収波長域における検知成分の光吸収の変化により酸化性ガスの測定を行うようにしたものである。
上記酸化性ガスの測定方法において、検知成分が溶解した検知溶液を測定対象の気体に接触させる前後の、ヨウ素の光吸収波長域における検知溶液の光吸収の変化により酸化性ガスの測定を行う。
上記酸化性ガスの測定方法において、検知成分は、透明な多孔体の細孔内に配置され、多孔体を測定対象の気体中に配置することにより、検知成分に測定対象の気体を接触させ、多孔体を測定対象の気体中に配置する前後の、ヨウ素の光吸収波長域における多孔体の光吸収の変化により酸化性ガスの測定を行う。
また、本発明に係る測定装置は、ヨウ素の光吸収波長域の波長の光を放出する発光部と、この発光部の光放出面に受光面を対向して配置されて受光面が受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、発光部と光検出部との間に配置されたガス検知素子と、光検出部が出力した電気信号の状態を計測する電気計器とを少なくとも備え、ガス検知素子は、透明な多孔体と、この多孔体の細孔内に配置され、ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質およびヨウ化カリウムとを備えるものである。
なお、ホスト物質は、糖類から構成されたものであればよい。例えば、糖類は、α−シクロデキストリン,β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン,アミロース,およびアミロペクチンの中より選択されたものである。また、ホスト物質は、水溶性の高分子から構成されたものであればよい。例えば、高分子は、ポリビニルアルコールである。
以上説明したように、本発明によれば、検知成分を、ヨウ化カリウムに加え、ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質から構成したので、より簡便に蓄積的な酸化性ガスの測定ができるようになるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
始めに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるガス検知素子100の一部構成を模式的に示す概略的な断面図である。ガス検知素子100は、複数の細孔101を備える透明な多孔質ガラス(多孔体)102と、細孔101内に担持(配置)されたヨウ化カリウム103と、ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質104とを備えるようにしたものである。ホスト物質104は、例えば、α−シクロデキストリン,β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン,アミロース,およびアミロペクチンなどの糖類や、ポリビニルアルコールなどの水溶性の高分子である。なお、細孔101は、多孔質ガラス102の表面から内部にまで連結した貫通細孔となっている。
ガス検知素子100は、細孔101内にヨウ化カリウム103およびホスト物質104を含む検知成分(検知剤)が配置(担持)されていればよい。なお、本発明におけるガス検知素子は、多孔体として多孔質ガラスに限らず、透明なプラスチックから構成された多孔体を用いるようにしてもよい。本発明におけるガス検知素子の趣旨は、透明な多孔体と、この細孔内にヨウ化カリウムおよびヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質とが配置されているところにある。
多孔質ガラス102は、例えば、コーニング社により開発されたバイコール(Vycor:登録商標)による多孔質ガラスであり、例えば、バイコール7930である。バイコール7930は、平均細孔径4.2nmであり、比表面積が約200(m2/g)である。また、多孔質ガラス102は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、このように板状に限らず、円筒状にしてもよい。
本実施の形態1におけるガス検知素子100によれば、細孔101内に酸化性ガスが進入すると、細孔101内に配置されているヨウ化カリウム103が酸化性ガスと反応し、ヨウ素が生成される。このようにして細孔101内で生成されたヨウ素は、ホスト物質104と包接錯体を形成する。このようにして酸化性ガスの存在によりヨウ素が生成されたガス検知素子100では、ヨウ素の光吸収波長(365nm)付近の波長の光学透過率が変化するため、酸化性ガスの検知素子として機能する。
また、生成したヨウ素は、ホスト物質104と包括錯体を形成するため、蒸発することが抑制されるようになり、例えば、時間が経過しても、ヨウ素の存在による光学透過率の状態が変化することがなくなる。ヨウ素の分析においては、ヨウ素の蒸発を防ぐためにα−シクロデキストリンとの包接化合物を利用することが知られている(非特許文献1,2参照)。α−シクロデキストリンなどの多糖類は、分子の中心に空洞を備えた構造をしており、この空洞内に、他の分子(化合物)を物理的な吸引によって取り込む(包摂する)性質を備えている。
従って、このような特徴を備えたホスト物質104をヨウ化カリウム103とともに細孔101内に配置しておけば、ヨウ化カリウム103と酸化性ガスとの反応で生成したヨウ素は、ホスト物質104内に取り込まれて包括錯体を形成する。また、ホスト物質104は、20〜25℃程度の常温では気化することがないため、ヨウ素を取り込んでいる包括錯体が気化することもなく、従って、包括錯体を形成したヨウ素が、気化(蒸発)することもなくなる。
ところで、多孔質ガラス102の細孔101内には、後述するように、ヨウ化カリウム103およびホスト物質104などを溶解した検知成分溶液(検知溶液)を浸透させることで、ヨウ化カリウム103およびホスト物質104を担持させるようにしている。従って、実際には、浸透させた溶液の水分が細孔101内(壁面)に吸着して残留する。また、多孔質ガラスなどの多孔体を大気に曝すと、大気中の水分(水蒸気)が細孔101内に入り込んで吸着する。これらのことにより、細孔101の壁面には薄い水溶液膜105が形成されているものと考えられる。
結果として、ガス検知素子100の細孔101の内壁には、ヨウ化カリウム103やホスト物質104などが溶解している水溶液膜105が形成され、これらが細孔101内に担持された状態となっている。従って、酸化性ガスを含む雰囲気にガス検知素子100を晒せば、この酸化性ガスが細孔101内に入り込み、ヨウ化カリウム103と反応し、ヨウ素が生成され、生成されたヨウ素が、ホスト物質104と包接錯体を形成するようになる。
このようにして生成されて包接錯体を形成したヨウ素の存在により、ガス検知素子100では、ヨウ素の吸収波長である365nm付近の透過率が変化することになり、酸化性ガスを検知したガス検知素子100は、紫外域に吸収を持つことになる。従って、例えば、分光光度計(吸光光度計)によりガス検知素子100の吸収スペクトルを測定すれば、発生したヨウ素の測定(定量)を行うことができ、これにより、間接的に酸化性ガスの測定を行うことができる。なお、多孔質ガラス(多孔体)102は、ヨウ素の光吸収波長域において光が透過する材料から構成されていればよい。
なお、担持とは、色素,酸性物質などの物質が、化学的,物理的,または電気的に担体(基材)と結合している状態を示し、例えば、多孔体の孔内に色素が浸透(滲入)し、細孔内の壁面に色素が被覆しおよび/または、被着したような状態を示す。
次に、本実施の形態1におけるガス検知素子100の製造方法について説明する。まず、コーニング社製の多孔質ガラス(バイコール7930)102を用意する。次に、図2(a)に示すように、α−シクロデキストリン42g及びヨウ化カリウム0.05molを水に溶解して1リットルとした検知溶液201を容器202に用意する。なお、検知溶液201は、例えば、リン酸緩衝液によってpH=7.0に調整する。
次に、図2(b)に示すように、多孔質ガラス102を検知溶液201に浸漬し、検知溶液201を多孔質ガラス102の複数の細孔101に浸透させる。この浸漬処理は、3時間行えばよい。上述したことにより検知成分が浸透した多孔質ガラス102を検知溶液201より引き上げて風乾する。ある程度に風乾された後、多孔質ガラス102を、乾燥窒素中で乾燥させることで多孔質ガラス102に含浸されている水分などの溶媒(媒質)を蒸発させて乾燥させる。
例えば、図2(c)に示すように、循環する窒素ガスが充填された所定の容器203の内部の窒素ガス気流中に上記の多孔質ガラス102を配置し、この状態を5時間程度保持して乾燥することで、本実施の形態1におけるガス検知素子100が形成された状態とする。このように形成されたガス検知素子100の複数の細孔101には、ヨウ化カリウムおよびα−シクロデキストリンなどを含む検知成分が担持された状態となる。
次に、ガス検知素子100を用いた酸化性ガスの基本的な検出方法について説明する。まず、図2(d)に示すように、ガス検知素子100の厚さ方向の吸光度を測定する。なお、図2(d)において、I0は入射信号光強度、I1は透過光強度である。次に、図2(e)に示すように、例えば、100ppbの濃度のオゾンガスが存在する検出対象の空気204中に、ガス検知素子100を1時間程度晒す。このようにして、ガス検知素子100の細孔101内に配置された検知成分に、酸化性ガスを含む測定対象の気体を接触させた後、ガス検知素子100を検出対象の空気204中より取り出し、図2(f)に示すように、このガス検知素子100の厚さ方向の吸光度I2を再び測定する。
この2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図3に示す。透過光測定波長330nm以下は、ガス検知素子100を構成する多孔質ガラス(バイコール7930)自体の吸収があるために測定していない。図3では、検出対象の空気に晒す前の吸光度の測定結果を点線で示し、晒した後の吸光度の測定結果を実線で示す。この測定の結果より、波長320nm〜420nmの特に360nmの付近において、実線と点線との間に大きな差が見られる。このように、オゾンが存在している検出対象の空気に晒した後では、ガス検知素子100の透過率において、波長360nmにおける吸収が増加している。
このことより、オゾンの存在により、ガス検知素子100においてはヨウ素が生成されていることがわかる。また、この測定の結果が、時間(1時間放置)を経過しても変化しないため、ガス検知素子100においては、生成(発生)したヨウ素が、蒸発することなく保持されていることがわかる。従って、本実施の形態1におけるガス検知素子100によれば、細孔101内にヨウ化カリウム103を備えているため、オゾンなどの酸化性ガスが存在していれば、ヨウ化カリウム103が酸化されてヨウ素を生成し、また、生成したヨウ素がホスト物質104と包接錯体を形成しているものと考えられる。このため、本実施の形態1におけるガス検知素子100によれば、蓄積的な測定が可能である。
なお、同様の結果が、β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン,アミロース,およびアミロペクチンなどの糖類や、ポリビニルアルコールなどの水溶性の高分子をホスト物質として用いた場合においても確認されている。ホスト物質としては、水溶性を備えて、ヨウ素をゲスト物質として包接錯体を形成可能なものであればよい。また、ガス検知素子の多孔体の細孔内に導入する場合には、内項内に配置可能な分離量の範囲とされていればよいものと考えられる。
上述した測定の結果は、オゾンの濃度が100ppbの空気にガス検知素子100を1時間配置した結果の測定であり、吸光度の測定では、波長360nmにおける吸光度が0.75と高い値が得られる。このように、本実施の形態1におけるガス検知素子100によれば、100ppbレベルの高感度のオゾンの検出が可能である。感度指数として暴露量=濃度(ppb)×暴露時間(時間)あたりの最大吸収波長での吸光度変化を求めると、100ppb,1時間暴露で吸光度変化は0.75であり、感度指数は7.5×10-3ppb-1・hr-1となり、非常に高い感度が得られていることがわかる。また、測定に用いた機器は、可搬型の分光計であり、この分光計の薄膜測定用ホルダにガス検知素子100を接地して測定するだけであり、また、単一ピークの変化を観察すればよいので、簡便に測定を行うことができる。
また、本実施の形態1におけるガス検知素子100によれば、多孔体を用いているために、測定対象ガスと検知成分との反応場となる領域(ガス吸着面積)が非常に広く、単位体積あたりで、酸化性ガスと検知成分との反応をより多く起こさせることできるので、高い感度が得られるようになる。また、蓄積容量も増大させることができる。なお、上述では、オゾンを測定対象ガスとして用いる場合について説明したが、測定対象の酸化性ガスは、オゾンに限るものではない。ガス検知素子100の細孔101内で、ヨウ化カリウム103よりヨウ素を遊離させるガスであれば、いずれのガスであっても測定対象となることは明らかである。
ところで、ヨウ化カリウムおよびヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質を含む検知成分を多孔体の細孔内に導入する方法として、上述では、検知成分の溶液を多孔体の細孔内に浸透させて乾燥させていたが、これに限るものではない。例えば、蒸着により多孔体の細孔内に検知成分が導入されるようにする方法もある。また、検知成分を他の化合物と混合し、ゾルゲル法により多孔体を作製する際に、これら混合物を細孔内に導入する方法もある。また、低分子を多孔体内に導入し、多孔体内で高分子化する方法もある。
ここで、多孔体をバイコール7930などのガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、多孔体の平均孔径を20nm以下とすれば、ヨウ素の吸収波長域の波長の光が透過することは測定の結果判明している。しかし、多孔体の平均孔径が20nm以上となると、急激な透過率の減少が観測される。従って、細孔の平均孔径は、最大でも(高々)20nmとしておけばよい。
次に、上述した本実施の形態1におけるガス検知素子100に対する比較例について説明する。まず、比較例のガス検知素子の作製について説明すると、前述した実施の形態1のガス検知素子100の作製と同様であり、前述同様のバイコール7930からなる多孔質ガラスを用意し、この比各例1では、α−シクロデキストリンは含まず、ヨウ化カリウム0.05molのみを水に溶解して1リットルとした比較検知溶液を容器に用意する。なお、比較検知溶液は、例えば、リン酸緩衝液によってpH=7.0に調整する。
次に、多孔質ガラスを比較検知溶液に浸漬し、比較検知溶液を多孔質ガラスの複数の細孔に浸透させる。この浸漬処理は、3時間行えばよい。上述したことにより検知成分が浸透した多孔質ガラスを検知溶液より引き上げて風乾する。ある程度に風乾された後、多孔質ガラスを、前述同様に、循環する乾燥窒素ガスが充填された中で乾燥させることで多孔質ガラスに含浸されている水分などの溶媒(媒質)を蒸発させて乾燥させる。この乾燥を5時間程度行うことで、比較例の比較ガス検知素子が形成された状態とする。このように形成された比較ガス検知素子の複数の細孔には、ヨウ化カリウムが担持された状態となる。
次に、比較ガス検知素子を用いた酸化性ガスの基本的な検出方法について説明する。まず、比較ガス検知素子の厚さ方向の吸光度(透過光強度I1)を測定する。次に、100ppbの濃度のオゾンガスが存在する検出対象の空気中に、比較ガス検知素子を1時間程度晒す。この後、比較ガス検知素子を検出対象の空気中より取り出し、この比較ガス検知素子の厚さ方向の吸光度I2を再び測定する。
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図4に示す。透過光測定波長330nm以下は、比較ガス検知素子を構成する多孔質ガラス(バイコール7930)自体の吸収があるために測定していない。図4では、検出対象の空気に晒す前の吸光度の測定結果を点線で示し、晒した後の吸光度の測定結果を実線で示す。この測定の結果より、波長320nm〜420nmの特に360nmの付近において、実線と点線との間に差が見られる。このように、オゾンが存在している検出対象の空気に晒した後では、比較ガス検知素子の透過率においても、波長360nmにおける吸収が増加している。
しかしながら、比較例の比較ガス検知素子では、波長360nmにおける吸光度の変化が、0.15程度とあまり大きくなく、高い感度は得られていない。加えて、上述した1時間の測定の後、オゾンなどの酸化性ガスが含まれていない空気中に比較ガス検知素子を1時間放置すると、図5の点線に示すように、吸光度が徐々に低下する。これは、酸化性ガスの存在により細孔中で発生(遊離)したヨウ素が、蒸発してガス検知素子より減少するためと考えられる。これに対し、本発明の実施の形態1におけるガス検知素子100では、図5の実線に示すように、前述した1時間の測定の後、オゾンなどの酸化性ガスが含まれていない空気中に比較ガス検知素子を1時間放置しても、吸光度は変化しない。
ところで、上述した実施の形態1におけるガス検知素子100を用いることで、例えば、図6の構成図に示す測定装置が構成できる。この測定装置は、例えば、波長365nmの光を発するLEDからなる発光部601からの発光光を、ガス検知素子100に照射し、ガス検知素子100の透過光を受光部603で受光する。この受光部603では、受光光を光電変換して信号電流を出力する。変換増幅部604では、受光部603より出力された信号電流を増幅して電流−電圧変換する。変換増幅部604で増幅された酸化性ガスの検出濃度に対応する電圧信号は、A/D変換部605でデジタル信号に変換される。
ここで、受光部603は、例えば、フォトダイオードである。このフォトダイオードとしては、例えば、190〜1000nmの波長に感度のあるものを用いればよい。また、発光部601と受光部603は、発光部分と受光部分とが対向して配置されている。
また、発光部601,検知素子100,受光部603,変換増幅部604,A/D変換部605,出力検出部606は、電源となる二次電池とともに、12cm×6cm程度の面積を有する容器内に配置され、通気口が形成された板で蓋がされ、遮光された状態で測定環境に配置される。
上記の測定装置は、例えば12cm×6cm程度の基板上内に、発光部として波長365nmの光を発するLEDと、このLEDの発光面に対向して受光面が配置されるように、受光部としてフォトダイオードを配置し、LEDとフォトダイオードの間にガス検知素子を配置し、LEDとフォトダイオードには、端子板を介して直列に接続配置した2つの単3の二次電池から電源が供給される構成とし、電源の供給は、スイッチによりオンオフできるように構成すればよい。また、端子板を備えれば、端子板の端子を利用して回路を組み立てることが容易にできるようになる。上記の構成において、フォトダイオードからの出力電流を電圧に変換した後、抵抗などを用いて出力電圧が、1桁(V)のオーダーとなるようにしてもよい。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2では、前述したヨウ化カリウムおよびホスト物質を含む検知成分を用いた酸化性ガスの測定を、多孔体の細孔内ではなく、より容積の大きな容器内で行う。言い換えると、本実施の形態2では、上記検知成分が溶解した検知溶液を用いて酸化性ガスの測定を行うようにしたところに特徴がある。
まず、本実施の形態2における検知溶液の作製について説明する。図7(a)に示すように、α−シクロデキストリン42g及びヨウ化カリウム0.05molを水に溶解して1リットルとした検知溶液701をビーカーなどの容器702に用意する。なお、検知溶液701は、例えば、リン酸緩衝液によってpH=7.0に調整する。このように形成された検知溶液701には、ヨウ化カリウムおよびα−シクロデキストリンなどを含む検知成分が同時に存在している状態となる。
次に、検知溶液701を用いた酸化性ガスの基本的な検出方法について説明する。まず、図7(b)に示すように、容器702内の一部の検知溶液701を所定の測定容器704に収容(分取)して吸光度を測定する。測定容器704は、例えば、石英やガラスなどから構成された透明な容器である。なお、図7(b)において、I0は入射信号光強度、I1は透過光強度である。次に、図7(c)に示すように、例えば、100ppbの濃度のオゾンガスが存在する検出対象の空気704を、容器702に収容されている検知溶液701中にバブリング(通気)する。空気704の通気速度は500ミリリットル/minとし、また、通気時間は30分とする。このようにして、検知成分(検知溶液701)に酸化性ガスが含まれた測定対象の気体を接触させた後、図7(d)に示すように、一部の検知溶液701を測定容器704に再度分取し、吸光度I2を測定する。
この2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図8に示す。図8では、検出対象の空気をバブリングする前の吸光度の測定結果を点線で示し、バブリングした後の吸光度の測定結果を実線で示す。この測定の結果より、波長400nm以下の特に360nmの付近において、実線と点線との間に差が見られる。このように、オゾンが存在している検出対象の空気に晒した後では、検知溶液701の透過率において、波長360nmにおける吸収が増加している。
このことより、オゾンの存在により、検知溶液701においてはヨウ素が生成されていることがわかる。また、この測定の結果が、時間(1時間放置)を経過しても変化しないため、検知溶液701においては、生成(発生)したヨウ素が、蒸発することなく保持されていることがわかる。従って、本実施の形態2における酸化性ガスの測定方法によれば、検知溶液701にヨウ化カリウムを備えているため、オゾンなどの酸化性ガスが存在していれば、ヨウ化カリウムよりヨウ素が遊離され、また、遊離したヨウ素がホスト物質と包接錯体を形成しているものと考えられる。このため、本実施の形態2における検知溶液701を用いた酸化性ガスの測定方法によれば、蓄積的な測定が可能である。
ここで、検知溶液701を用いた酸化性ガスの測定方法における感度指数を求めると、100ppb,0.5時間暴露で吸光度変化は0.03であり、感度指数は6×10-4ppb-1・hr-1となる。このように、本実施の形態2における検知溶液701を用いた酸化性ガスの測定方法では、前述した実施の形態1におけるガス検知素子100を用いた場合に比較して、感度が低いものとなる。なお、ホスト物質としては、前述した実施の形態1と同様であり、水溶性を備えて、ヨウ素をゲスト物質として包接錯体を形成可能なものであればよい。
本発明の実施の形態1におけるガス検知素子100の一部構成を模式的に示す概略的な断面図である。 本実施の形態1におけるガス検知素子100の製造方法および測定方法について説明する工程図である。 吸光度の測定(吸光光度分析)結果を示す特性図である。 吸光度の測定結果を示す特性図である。 吸光度の測定結果を示す特性図である。 実施の形態1におけるガス検知素子100を用いた測定装置の構成例を示す構成図である。 本実施の形態2における検知溶液の作製および測定方法について説明する工程図である。 吸光度の測定結果を示す特性図である。
符号の説明
100…ガス検知素子、101…細孔、102…多孔質ガラス(多孔体)、103…ヨウ化カリウム、104…ホスト物質、105…水溶液膜。

Claims (8)

  1. ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質およびヨウ化カリウムを含む検知成分に、酸化性ガスが含まれた測定対象の気体を接触させる前後の、ヨウ素の光吸収波長域における前記検知成分の光吸収の変化により前記酸化性ガスの測定を行う
    ことを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  2. 請求項1記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記検知成分が溶解した検知溶液を前記測定対象の気体に接触させる前後の、ヨウ素の光吸収波長域における前記検知溶液の光吸収の変化により前記酸化性ガスの測定を行う
    ことを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  3. 請求項1記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記検知成分は、透明な多孔体の細孔内に配置され、
    前記多孔体を前記測定対象の気体中に配置することにより、前記検知成分に前記測定対象の気体を接触させ、
    前記多孔体を前記測定対象の気体中に配置する前後の、ヨウ素の光吸収波長域における前記多孔体の光吸収の変化により前記酸化性ガスの測定を行う
    ことを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記ホスト物質は、糖類から構成されたものであることを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  5. 請求項4記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記糖類は、α−シクロデキストリン,β−シクロデキストリン,γ−シクロデキストリン,アミロース,およびアミロペクチンの中より選択されたものであることを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記ホスト物質は、水溶性の高分子から構成されたものであることを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  7. 請求項6記載の酸化性ガスの測定方法において、
    前記高分子は、ポリビニルアルコールであることを特徴とする酸化性ガスの測定方法。
  8. ヨウ素の光吸収波長域の波長の光を放出する発光部と、
    この発光部の光放出面に受光面を対向して配置されて前記受光面が受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、
    前記発光部と前記光検出部との間に配置されたガス検知素子と、
    前記光検出部が出力した電気信号の状態を計測する電気計器と
    を少なくとも備え、
    前記ガス検知素子は、透明な多孔体と、この多孔体の細孔内に配置され、ヨウ素と包接錯体を形成するホスト物質およびヨウ化カリウムとを備える
    ことを特徴とする測定装置。
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