以下の説明は、本発明の好適な一実施形態に係るものである。
<プリンタ概略>
図1は、本発明の一実施形態によるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つのインクジェットヘッド2を有している。これらのインクジェットヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。インクジェットヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット214、搬送ユニット220及び紙受け部216が順に設けられている。また、プリンタ1には、インクジェットヘッド2や給紙ユニット214などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット214は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース215と、給紙ローラ245とを有している。給紙ローラ245は、用紙収容ケース215に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット214と搬送ユニット220との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ218a及び218b、並びに、219a及び219bが配置されている。給紙ユニット214から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット220へと送り出される。
搬送ユニット220は、エンドレスの搬送ベルト211と2つのベルトローラ206及び207を有している。搬送ベルト211は、ベルトローラ206及び207に巻き掛けられている。搬送ベルト211は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト211は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、インクジェットヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面227である。
ベルトローラ206には、図1に示されるように、搬送モータ274が接続されている。搬送モータ274は、ベルトローラ206を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ207は、搬送ベルト211に連動して回転することができる。従って、搬送モータ274を駆動してベルトローラ206を回転させることにより、搬送ベルト211は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ207の近傍には、ニップローラ238とニップ受けローラ239とが、搬送ベルト211を挟むように配置されている。ニップローラ238は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ238の下方のニップ受けローラ239は、下方に付勢されたニップローラ238を、搬送ベルト211を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト211に連動して回転する。
給紙ユニット214から搬送ユニット220へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ238と搬送ベルト211との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト211の搬送面227に押し付けられ、搬送面227上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト211の回転に従って、インクジェットヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト211の外周面213に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面227に確実に固着させることができる。
4つのインクジェットヘッド2は、搬送ベルト211による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各インクジェットヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、インクを吐出する多数のノズル8が設けられている(図3参照)。1つのインクジェットヘッド2に設けられたノズル8からは、同じ色のインクが吐出されるようになっている。各インクジェットヘッド2から吐出されるインクの色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアンC及びブラック(K)である。各インクジェットヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト211の搬送面227との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト211によって搬送された印刷用紙Pは、インクジェットヘッド2と搬送ベルト211との間の隙間を通過する。その際に、ヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けてインクが吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット220と紙受け部216との間には、剥離プレート240と二対の送りローラ221a及び221b並びに222a及び222bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト211によって剥離プレート240へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート240の右端によって、搬送面227から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ221a〜222bによって、紙受け部216に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部216に送られ、紙受け部216に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にあるインクジェットヘッド2とニップローラ238との間には、紙面センサ233が設置されている。紙面センサ233は、発光素子及び受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ233による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ233から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、インクジェットヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
<ヘッド本体>
ヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13の上面図である。
ヘッド本体13は、流路ユニット4と、流路ユニット4上に接着されたアクチュエータユニット21とを有している。アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路ユニット4の長手方向に平行になるように流路ユニット4の上面に配置されている。また、流路ユニット4の長手方向に平行な2本の直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つのアクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路ユニット4上に配列されている。流路ユニット4上で隣接し合うアクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路ユニット4の幅方向について部分的にオーバーラップしている。
流路ユニット4の内部にはインク流路の一部であるマニホールド流路5が形成されている。流路ユニット4の上面にはマニホールド流路5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路ユニット4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つのアクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド流路5には開口5bを通じて図示されていないインクタンクからインクが供給されるようになっている。
図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図である。なお、説明の都合上、図3にはアクチュエータユニット21が二点鎖線で示されている。また、本来破線で示されるべき流路ユニット4の内部や下面に形成されているアパーチャ12やノズル8などが実線で示されている。
流路ユニット4内に形成されたマニホールド流路5からは、複数本の副マニホールド流路5aが分岐している。マニホールド流路5は、アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路ユニット4の長手方向と交差して配置されている。二つのアクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド流路5が、隣接するアクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド流路5aがマニホールド流路5の両側から分岐している。これらの副マニホールド流路5aは、流路ユニット4の内部であって各アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接して延在している。
流路ユニット4は、複数の圧力室10がマトリクス状に形成されている圧力室群9を有している。圧力室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。圧力室10は流路ユニット4の上面に開口するように形成されている。これらの圧力室10は、流路ユニット4の上面におけるアクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面に亘って配列されている。従って、これらの圧力室10によって形成された各圧力室群9はアクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさ及び形状の領域を占有している。また、各圧力室10の開口は、流路ユニット4の上面にアクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。本実施形態では、図3に示されているように、等間隔に流路ユニット4の長手方向に並ぶ圧力室10の列が、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各圧力室列に含まれる圧力室10の数は、圧電アクチュエータ50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。ノズル8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
アクチュエータユニット21の上面における各圧力室10に対向する位置には後述のような個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は圧力室10より一回り小さく、圧力室10とほぼ相似な形状を有しており、アクチュエータユニット21の上面における圧力室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
圧力室10及び個別電極35のいずれも、図3の上下方向に沿って長尺な形状を有している。そして、図3の上下方向に関する中心から上方向及び下方向のいずれに向かう方向にも先細りの形状を有している。これによって多数の圧力室10及び個別電極35が平面上に密に配列されている。
流路ユニット4には多数のノズル8が形成されている。これらのノズル8は、流路ユニット4の下面における副マニホールド流路5aと対向する領域を避ける位置に配置されている。また、これらのノズル8は、流路ユニット4の下面におけるアクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。そして、それぞれの領域内のノズル8は、流路ユニット4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
なお、これらのノズル8は、流路ユニット4の長手方向に平行な仮想直線上にこの仮想直線と垂直な方向から各ノズル8の形成位置を射影した射影点が、印字の解像度に対応した間隔で等間隔に途切れずに並ぶような位置に形成されている。これによって、インクジェットヘッド2は、流路ユニット4におけるノズルが形成された領域の長手方向についてのほぼ全領域に亘って、印字の解像度に対応した間隔で途切れずに印字できるようになっている。
流路ユニット4の内部には、多数のアパーチャ(絞り)12が形成されている。これらのアパーチャ12は、圧力室群9と対向する領域内に配置されている。本実施形態のアパーチャ12は、水平面に平行な1方向に沿って延在している。
流路ユニット4の内部には、各アパーチャ12、圧力室10及びノズル8を互いに連通させるような連通孔が形成されている。これらの連通孔は、互いに連通し、個別インク流路32を構成している(図4参照)。各個別インク流路32は副マニホールド流路5aと連通している。マニホールド流路5に供給されたインクは副マニホールド流路5aを通じて各個別インク流路32へと供給され、ノズル8から吐出される。
<個別インク流路>
ヘッド本体13の断面構造について説明する。図4は、図3のIV―IV線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13に含まれる流路ユニット4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路ユニット4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26、27、28、カバープレート29及びノズルプレート30である。これらのプレートには多数の連通孔が形成されている。各プレートは、これらの連通孔が互いに連通して個別インク流路32及び副マニホールド流路5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図4に示されているように、圧力室10は流路ユニット4の上面に、副マニホールド流路5aは内側中央部に、ノズル8は下面にと、個別インク流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、圧力室10を介して副マニホールド流路5aとノズル8とが連通孔により連通される構成を有している。
各プレートに形成された連通孔について説明する。これらの連通孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された圧力室10である。第2に、圧力室10の一端から副マニホールド流路5aへと連通する流路(第2のインク流路)を構成する連通孔Aである。連通孔Aは、ベースプレート23(圧力室10の入り口)からサプライプレート25(副マニホールド流路5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、連通孔Aには、アパーチャプレート24に形成されたアパーチャ12が含まれている。
第3に、圧力室10の他端からノズル8へと連通する流路を構成する連通孔Bである。連通孔Bは、ベースプレート23(圧力室10の出口)からカバープレート29までの各プレートに形成されている。なお、以下の記載において連通孔Bはディセンダ流路33と呼称される。第4に、ノズルプレート30に形成されたノズル8である。第5に、副マニホールド流路5aを構成する連通孔Cである。連通孔Cは、マニホールドプレート26〜28に形成されている。
このような連通孔が相互に連通し、副マニホールド流路5aからのインクの流入口(副マニホールド流路5aの出口)からノズル8に至る個別インク流路32を構成している。副マニホールド流路5aに供給されたインクは、以下の経路でノズル8へと流出する。まず、副マニホールド流路5aから上方向に向かって、アパーチャ12の一端部に至る。次に、アパーチャ12の延在方向に沿って水平に進み、アパーチャ12の他端部に至る。そこから上方に向かって、圧力室10の一端部に至る。さらに、圧力室10の延在方向に沿って水平に進み、圧力室10の他端部に至る。そこから3枚のプレートを経由して斜め下方に向かい、さらに直下のノズル8へと進む。
なお、ベースプレート23に形成された部分流路23bとノズル8とは、ディセンダ流路33において部分流路23b以外のどの部分よりも細くなっている。つまり、ディセンダ流路33の長さ方向(個別インク流路32を示す図4の矢印に沿った方向)に垂直な断面について、部分流路23b及びノズル8の断面積は、ディセンダ流路33の他の部分の断面積より小さい。したがって、ディセンダ流路33に充填されたインクにノズル8及び連通孔23bの近傍を両端とする固有振動が比較的発生しやすい構造となっている。
また、アパーチャ12の長さ方向(個別インク流路を示す図4の矢印に沿った方向)に垂直なアパーチャ12の断面の面積は、ベースプレート23に形成された部分流路23a(第2の流路)の鉛直方向に垂直な断面の面積より小さい。したがって、アパーチャ12の絞りとしての機能が発揮され、引き打ちによるインク吐出に適した構造が実現されている。
<アクチュエータユニット>
アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、4枚の圧電層41、42、43、44からなる積層構造を有している。これらの圧電層41〜44はそれぞれ15μm程度の厚みを有している。アクチュエータユニット21全体の厚みは60μm程度である。圧電層41〜44のいずれの層も複数の圧力室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電層41〜44は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる個別電極35及び共通電極34を有している。個別電極35は上述のようにアクチュエータユニット21の上面における圧力室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、圧力室10と対向する領域外に引き出されてランド36が形成されている。このランド36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚みが15μm程度で凸状に形成されている。また、ランド36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられたコンタクトと電気的に接合されている。制御部100は、後述のように、FPCを通じて個別電極35に電圧パルスを供給する。
共通電極34は圧電層41と圧電層42との間の領域に面方向のほぼ全面に亘って介在している。すなわち、共通電極34は、アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての圧力室10に跨るように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電層41上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電層41の内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されていると共に、多数の個別電極35と同様に、FPC50上の別のコンタクト及び配線と接続されている。
図5に示されるように、上記の2つの電極は、最上層の圧電層41のみを挟むように配置されている。圧電層における個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称される。本実施形態のアクチュエータユニット21においては、最上層の圧電層41のみ活性部を含んでおり、その他の圧電層42〜44は活性部を含んでいない。すなわち、このアクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の電圧パルスが供給されることにより、この個別電極35に対応する圧力室10内のインクに圧力が加えられる。これによって、個別インク流路32を通じて、対応するノズル8からインクが吐出される。すなわち、アクチュエータユニット21における各圧力室10に対向する部分は、各圧力室10及びノズル8に対応する個別の圧電アクチュエータ50に相当する。つまり、4枚の圧電層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とするアクチュエータが圧力室10ごとに作り込まれており、これによってアクチュエータユニット21が構成されている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によってノズル8から吐出されるインクの量は5〜7pl(ピコリットル)程度である。
<圧電アクチュエータ及び個別インク流路の詳細構造>
さらに、本実施形態の個別インク流路32及び圧電アクチュエータ50は、以下の数式1及び数式2によって定義されているTc1及びTc2が、4.7≦Tc1/Tc2≦5.5を、より好ましくは、4.8≦Tc1/Tc2≦5.4を満たすように設計されている。なお、Tc1及びTc2は、個別インク流路32の各部の形状及び大きさと、圧電アクチュエータ50の特性とに依存する。個別インク流路32及び圧電アクチュエータ50は、これらのパラメータとTc1及びTc2との関係に基づいて設計される。つまり、Tc1及びTc2が上記の範囲を満たすようなパラメータが選択される。これらのパラメータとTc1及びTc2との関係については、後述の分析において詳しく説明がなされる。
ただし、数式1及び2において、M’n、M’r、Mc2及びCc2は、それぞれ以下の数式3〜数式6で表されるものである。さらに、数式3〜数式6において、Md、Ms、Ma、Mn、Mr及びMcは、それぞれディセンダ流路33、部分流路23a、圧電アクチュエータ50、ノズル8、アパーチャ12及び圧力室10のイナータンスであり、Ca、Cc、Cd及びCsは、それぞれ圧電アクチュエータ50、圧力室10、ディセンダ流路33及び部分流路23aのコンプライアンスである。
<アクチュエータユニットの制御>
以下は、アクチュエータユニット21の制御についての説明である。アクチュエータユニット21の制御のために、プリンタ1は制御部100及びドライバIC80を有している。なお、プリンタ1は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、CPUが実行するプログラム及びプログラムに使用されるデータが記憶されているROM(Read Only Memory)、及び、プログラム実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)を有しており、これらによって以下に説明する機能を有する制御部100が構築されている。
制御部100は、図6に示されているように、印刷制御部101及び動作制御部106を有している。印刷制御部101は、画像データ記憶部102、波形パターン記憶部103及び印刷信号生成部104を有している。画像データ記憶部102は、PC99などから送信された印刷に係る画像データを記憶している。
波形パターン記憶部103は複数の吐出パルス波形に対応する波形データを記憶している。各吐出パルス波形は画像の階調等に応じた基本の波形に相当する。このような波形に対応した電圧パルス信号がドライバIC80を介して個別電極35に供給されることにより、それぞれの階調等に対応した量のインクがインクジェットヘッド2から吐出される。
印刷信号生成部104は、画像データ記憶部102に記憶された画像データに基づき、シリアルの印刷データを生成する。このような印刷データは、波形パターン記憶部103に記憶された複数の吐出パルス波形に対応するデータのいずれかに対応しており、各個別電極35に所定のタイミングで各吐出パルス波形が供給されるよう指示するデータである。印刷信号生成部104は、画像データ記憶部102が記憶している画像データに基づき、画像データに対応するタイミング、波形及び個別電極に応じた印刷データを作成する。そして、印刷信号生成部104は、生成した印刷データをドライバIC80に出力する。
ドライバIC80はアクチュエータユニット21ごとに設けられており、シフトレジスタ、マルチプレクサ及びドライブバッファ(共に図示されず)を有している。
シフトレジスタは、印刷信号生成部104から出力されたシリアルの印刷データをパラレルデータに変換する。つまり、シフトレジスタは印刷データの指示に従って、各圧力室10及びノズル8に対応する圧電アクチュエータ50に対する個別のデータを出力する。
マルチプレクサは、シフトレジスタから出力された各データに基づいて、波形パターン記憶部103が記憶している波形データの中から適切なものを選択する。そして、マルチプレクサは選択したデータをドライブバッファに出力する。
ドライブバッファは、マルチプレクサから出力された波形データに基づいて、所定のレベルを有する吐出電圧パルス信号を生成する。そして、ドライブバッファは、各圧電アクチュエータ50に対応する個別電極35に上記の吐出電圧パルス信号を、FPCを介して供給する。
<インク吐出時の電位変化>
吐出電圧パルス信号及びこの信号の供給を受けた個別電極35における電位の変化について説明する。
吐出電圧パルス信号に含まれる各時刻の電圧について説明する。図7は、吐出電圧パルス信号が供給された個別電極35における電位の変化の一例を示している。なお、図7に示す吐出電圧パルス信号の波形61は、1滴のインクをノズル8から吐出させるための波形の一例である。
時刻t1は、個別電極35に吐出電圧パルス信号が供給され始める時刻である。時刻t1は、この個別電極35に対応するノズル8からインクを吐出させるタイミングに合わせて調節される。吐出電圧パルス信号の波形61が供給された場合に、時刻t1までの期間及び時刻t4以降の期間には、個別電極35の電位はU0(≠0)に保持されている。そして、時刻t2から時刻t3までの期間には個別電極35の電位はグランド電位に保持されている。時刻t1から時刻t2までの期間Trは、個別電極35の電位がU0からグランド電位になるまでの過渡期間である。また、時刻t3から時刻t4までの期間Tfは、個別電極35の電位がグランド電位からU0になるまでの過渡期間である。期間Tr及びTfはいずれも同じ長さに設定されている。図5に示されているとおり、圧電アクチュエータ50はコンデンサーと同様の構成を有しているため、個別電極35の電位が変化する際には、電荷の充放電に対応して上記のような過渡期間が生じる。
なお、本実施形態の波形パターン記憶部103が記憶している吐出電圧パルス信号の波形データは、かかる吐出電圧パルス信号が個別電極35に供給された場合に0.3≦Tr/Tc2≦1.0且つ0.3≦Tf/Tc2≦1.0を満たすように調整されている。また、時刻t1から時刻t3までの時間Toが、上記の数式2に示されているTc2の2.40〜2.65倍の長さとなるように調整されている。
<インク吐出時のアクチュエータの駆動>
以下は、上記のような吐出電圧パルス信号が個別電極35に供給されることにより、圧電アクチュエータ50がどのように駆動されるかについての説明である。
本実施形態におけるアクチュエータユニット21においては、最上層の圧電層41だけが個別電極35から共通電極34に向かう方向に分極されている。従って、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電層41に対してその分極方向と同じ方向に、具体的には個別電極35から共通電極34に向かう方向に電界を印加すると、この電界が印加された部分、すなわち活性部が、厚み方向、すなわち積層方向に伸長しようとする。また、このとき、活性部は積層方向と垂直な方向、すなわち面方向には収縮しようとする。これに対し、残りの3枚の圧電層42〜44は分極されておらず、電界を印加したとしても自発的には変形しない。
このように、圧電層41と圧電層42〜44との間で歪み方に差が生じるので、全体として各圧電アクチュエータ50は圧力室10側(圧電層42〜44側)へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
以下は、個別電極35に波形61に対応する電圧パルス信号を供給したときの圧電アクチュエータ50の駆動についての説明である。図8は、この場合の圧電アクチュエータ50の経時変化を示す図である。
図8(a)は、図7に示される時刻t1までの期間での圧電アクチュエータ50の様子を示している。このとき、個別電極35の電位はU0である。圧電アクチュエータ50は、上記のようなユニモルフ変形により、圧力室10内に突出している。このときの圧力室10の容積はV1となっている。この状態を圧力室10における第1の状態とする。
図8(b)は、図7に示される時刻t2から時刻t3の期間での圧電アクチュエータ50の様子を示している。このとき、個別電極35の電位はグランド電位である。従って、圧電層41における活性部に印加されていた電界が解除され、圧電アクチュエータ50のユニモルフ変形も解除されている。このときの圧力室10の容積V2は、図8(a)に示される圧力室10の容積V1より大きい。この状態を圧力室10における第2の状態とする。このように圧力室10の容積が増大した結果、インクが副マニホールド流路5aから圧力室10に吸い込まれる。
図8(c)は、図7に示される時刻t4からの期間での圧電アクチュエータ50の様子を示している。このとき、個別電極35の電位はU0である。従って、圧電アクチュエータ50は、再び第1の状態に戻っている。このように、圧電アクチュエータ50が圧力室10を第2の状態から第1の状態に変化させることで、圧力室10内のインクに圧力が加えられる。これによって、ノズル8からインク滴が吐出される。インク滴は印刷用紙Pの印刷面に着弾し、ドットを形成する。
このように、本実施形態の圧電アクチュエータ50の駆動においては、まず、一旦圧力室10の容積を増大させて、圧力室10内のインクに負の圧力波を発生させる(図8(a)から図8(b)へ)。すると、この圧力波が流路ユニット4内のインク流路端部で反射して、ノズル8側に進行する正の圧力波として帰ってくる。この正の圧力波が圧力室10内に到達したタイミングを見計らって、再び圧力室10の容積を減少させる(図8(b)から図8(c)へ)。これはいわゆる「引き打ち(fill before fire)」と呼ばれる手法である。
上記のような引き打ちによるインク吐出が行われるように、インク吐出に係る波形61を有する電圧パルスのパルス幅To(図7参照)は、ALに調節されている。本実施形態では、個別インク流路32の全長のほぼ中央近傍に圧力室10が配設されており、ALとは圧力室10内で発生した圧力波がアパーチャ12からノズル8まで伝播する時間の長さである。これによると、上記のようにして反射してきた正の圧力波と、圧電アクチュエータ50の変形により生じた正の圧力波とを重畳させ、より大きい圧力がインクに付与される。そのため、単に圧力室10の容積を1回減少させるだけでインクを押し出す場合より、同じ量のインクを吐出する際の圧電アクチュエータ50の駆動電圧が低く抑えられる。したがって、引き打ち方式は圧力室10の高集積化、インクジェットヘッド2のコンパクト化、及び、インクジェットヘッド2を駆動する際のランニングコストの点で有利である。
以下、本発明に当たって発明者らが行った一連の分析内容について説明する。
図9は、上述の実施形態と同じ構成を有するあるインクジェットヘッドにToを変えつつ液体を吐出させた場合の概略的な吐出特性を示すグラフである。図9の横軸はTo/Tcの大きさを示しており、縦軸は液体の吐出速度を示している。なお、Tcは、副マニホールド流路5aから圧力室10を経てノズル8に至る個別インク流路32(図4参照)に充填されたインク全体の固有振動周期を表している。図9の曲線70に示されているように、To/Tc=1/2を満たすような電圧パルス信号が個別電極35に印加された場合にインクの吐出速度が極大値を取っている。つまり、To=AL(Acoustic Length)=1/2Tcを満たす波形61を有する電圧パルス信号が個別電極35に供給されることにより、インクの吐出速度について最も効率的にインクが吐出されることになる。
ここで、Tcは液体吐出ヘッドの構造に依存するパラメータである。具体的には、個別インク流路32の形状及び圧電アクチュエータ50のコンプライアンス等に依存する。したがって、ある構造を有する液体吐出ヘッドにおいて引き打ち方式に従ってインクを吐出する際には、液体吐出ヘッドの構造から決定されるTcの値に基づいて、個別電極35に供給される電圧パルス信号はTo=ALを満たすように調整される。
本発明者は、液体吐出ヘッドの構造を変えつつTo=ALを満たすような電圧パルス信号を個別電極35に供給すると、以下のような問題が生じることを確認した。すなわち、ノズル8から吐出される液滴において(1)液滴が分断される、(2)圧電アクチュエータ50を駆動するために消費される電力に対する液滴の量や液滴の吐出速度が低下する(液滴の吐出効率が低下する)、(3)所望の液滴が吐出された後に低速の小液滴が発生する、及び、(4)液滴の吐出速度にばらつきが生じる、等といった問題である。
本発明者は、上記のような問題が生じる理由を以下のように分析した。まず、本発明者は、個別インク流路32に充填されたインク全体に係る固有振動(以下、「長周期固有振動」とする)以外に、かかる固有振動の周期よりも短い周期の固有振動(以下、「短周期固有振動」とする)が個別インク流路32内に発生していることを確認した。次に、長周期固有振動の周期Tc1及び短周期固有振動の周期Tc2を、上記の数式1及び数式2によって導出することができることを見出した。
以下の分析は、数式1及び数式2がTc1及びTc2を適切に導出するものであることを示すものである。この分析においては、液体吐出ヘッドとして、以下のものが想定された。この液体吐出ヘッドは、流路ユニットとアクチュエータとを有している。流路ユニットには、液体を吐出するノズル及び共通液体室が形成されている。この共通液体室には液体が供給される。また、流路ユニットには上記の共通液体室に連通する個別液体流路が形成されている。個別液体流路は、一端が前記ノズルと接続された第1の流路、一端が前記第1の流路の他端と接続された圧力室、一端が前記圧力室の他端と接続された第2の流路、及び、一端が前記第2の流路の他端と接続され他端が前記共通液体室と接続されており、液体の流れる方向に垂直な断面の面積が前記第2の流路におけるものよりも小さい制限流路とを有している。共通液体流路に供給された液体は、個別液体流路を介してノズルから流路ユニットの外部へと吐出される。
また、本液体吐出ヘッドには、圧力室の容積をV1とする第1の状態と前記圧力室の容積をV1より大きいV2とする第2の状態とを選択的に取ることができるアクチュエータが設けられている。このアクチュエータが前記第1の状態から前記第2の状態を経て前記第1の状態に戻ることによって、上記のノズルから液体が吐出される。
ここで、上記の流路ユニットの共通液体室、個別液体流路、第2の流路、制限流路、圧力室、第1の流路及びノズルは、図4の副マニホールド流路5a、個別インク流路32、部分流路23a、アパーチャ12及び部分流路23a、圧力室10、ディセンダ流路33、並びに、ノズル8に対応している。図10(a)〜図10(d)には、この分析において想定された上記の流路ユニットの個別液体流路132が示されている。図10(a)は個別液体流路132の側面図であり、図10(b)は個別液体流路132の上面図である。図10(c)は、図10(a)において一点鎖線に囲まれた部分の拡大図であり、図10(d)は、図10(b)において一点鎖線に囲まれた部分の拡大図である。図10(a)及び図10(b)に示されているように、この流路ユニットにはノズル108、共通液体室105及び個別液体流路132が形成されている。個別液体流路132は、一端がノズル108に接続された第1の流路133、一端が第1の流路133の他端と接続された圧力室110、一端が圧力室110の他端と接続された第2の流路123、及び、一端が第2の流路123の他端と接続され他端が共通液体室105と接続されており、液体の流れる方向に垂直な断面の面積が第2の流路123におけるものよりも小さい制限流路112とを有している。ノズル108は、断面がテーパ形状を有するテーパ部分108aと円柱形状を有するストレート部分108bとからなる。
そして、個別液体流路132の各部の大きさは、以下の表1及び表4に示されているとおりである。本分析においては、圧力室110の深さE4及び第1の流路133の長さL4のそれぞれが様々に異なる複数の個別液体流路132について、Tc1及びTc2の実験値と数式1及び数式2による理論値との比較が行われた。なお、表1において圧力室110の面積は、図10(b)に示された圧力室110の上面(圧力室110の水平方向に沿った断面)の面積である。また、表2は、本分析において個別液体流路132に充填される液体の密度、粘度等の特性を示している。
ここで、下記の表3は、表1及び表2に基づいて第2の流路123、制限流路112及びノズル108の各コンプライアンス及びイナータンスが算出された結果である。また、下記の表4は、圧力室110のコンプライアンス及びイナータンスのそれぞれを種々の深さに関して算出した結果と、第1の流路133のコンプライアンス及びイナータンスのそれぞれを種々の長さに関して算出した結果とを示している。コンプライアンスの値は、各部の容積を、音速の2乗に液体の密度を乗算したもので除算して得られたものである。イナータンスの値は各部において、液体が流れる方向に関する長さに液体の密度を乗算したものを、液体が流れる方向に垂直な断面(鉛直方向に沿った断面)の面積で除算して得られたものである。なお、圧力室110のイナータンスを算出する際に、上記の液体が流れる方向に垂直な断面としては圧力室110の短軸長さA2の半分に圧力室110の深さE4を乗算したものが、液体が流れる方向に関する長さとしては圧力室110の長軸長さA1がそれぞれ用いられた。また、音速及び液体の密度として、表2に示されている値が用いられた。
また、下記の表5は、本分析において想定されたアクチュエータの固有振動数Frとコンプライアンス及びイナータンスとの関係を示すものである。なお、本分析において想定されたアクチュエータは、図5に示されている圧電アクチュエータ50のようなアクチュエータであってもよいし、他の方式が採用されたアクチュエータであってもよい。
以下の表6及び表7は、以上のような条件において導出されたTc1及びTc2の実験値と数式1及び数式2による理論値とを示している。また、図11〜図14は、表6及び表7の結果をグラフに表したものである。なお、表6及び表7の理論値及び実験値は双方とも固有振動が720kHzであるアクチュエータにおいて導出されたものである。
表6に示されている理論値は、圧力室110の深さ又は第1の流路133の長さとを様々に変更した場合におけるアクチュエータや圧力室110等の各部のコンプライアンス及びイナータンスを上記の数式3及び4並びに1に代入して算出されるTc1の値である。また、表7に示されている理論値は、アクチュエータの固有振動数と圧力室110の深さ又は第1の流路133の長さとを様々に変更した場合におけるアクチュエータや圧力室110等の各部のコンプライアンス及びイナータンスを上記の数式5及び6並びに2に代入して算出されるTc2の値である。
ここで、理論値の算出において用いられた条件のうち、圧力室110の深さ及び第1の流路133の長さ以外の各部についての条件は、上記の表1、表3及び表4に示されているとおりである。なお、表6及び表7のそれぞれにおいて、第2行目〜第7行目の各値は、第1の流路133の長さを830μmに固定して算出されたものである。また、表6及び表7のそれぞれにおいて、第8行目〜第11行目の各値は、圧力室110の深さを100μmに固定して算出されたものである。
また、表6及び表7のそれぞれに示されている実験値は、各表の第2列目に示されている深さの圧力室110又は各表の第2列目に示されている長さの第1の流路133を有する液体吐出ヘッドにおいて、Tc1及びTc2が実測された各値を示している。ここで、実験に用いられた液体吐出ヘッドにおいて、圧力室110の深さ及び第1の流路133の長さ以外の各部についての条件は、上記の表1、表3及び表4に示されているとおりである。
なお、Tc1及びTc2の実験値は以下のように取得された。まず、表6及び表7に示されているような構成を有する各流路ユニットに液体を充填する。次に、液体を吐出しないような低電圧で正弦波信号をアクチュエータに印加する。そして、レーザードップラー振動計によって、30〜800kHzの範囲で掃引(scan)しながらメニスカスの振動速度を測定する。その測定結果において振動速度のピークに該当する周波数から共振周期を算出することにより、Tc1及びTc2を取得する。
表6、表7及び図11〜図14に示されているように、実験値と理論値とはよく一致している。したがって、数式1及び数式2がTc1及びTc2を適切に導出するものであることが示された。
次に、本発明者は、Tc1/Tc2が互いに異なる種々の液体吐出ヘッドにおいて、ノズルから吐出される液体の吐出特性がどのようなものとなるかについての実験及びその実験結果に基づく分析を行った。以下は、その分析に係る説明である。
図15は、長周期固有振動及び短周期固有振動によって発生するノズルの先端のメニスカスにおける液体の振動を表すグラフである。図15の縦軸は、メニスカスにおける液体の振動速度の大きさを示し、横軸は時間を示している。曲線141は長周期固有振動に起因してメニスカスに発生する振動を、曲線142は短周期固有振動に起因してメニスカスに発生する振動を示している。
また、図15のグラフは、長周期固有振動の周期が短周期固有振動の周期のちょうど5倍である場合を示している。本分析においては、長周期固有振動の周期が短周期固有振動の周期の5倍の近傍となるような液体吐出ヘッドが想定されている。これは、長周期固有振動のピークP1と短周期固有振動のピークP2とをそろえる(時刻ta)ことでメニスカスの振動が安定する。その一方で、長周期固有振動のピークと短周期固有振動のピークとが揃う条件は、0.25×Tc1=(n+0.25)×Tc2(nは自然数)が成立することであるが、n≧2の場合には短周期固有振動の周期が小さくなりすぎ、メニスカスが過剰に細かく分断されて吐出特性が安定しない。以上により、n=1の近傍において吐出特性が安定することを本発明者が確認しているからである。
次に、本発明者らは、短周期固有振動のピークP2が長周期固有振動のピークP1よりも時間的に少し前に位置するような液体吐出ヘッドを実現することが好ましいと考えた。これは、短周期固有振動のピークP2に合わせて引き打ちを行う場合の方が長周期固有振動のピークP1に合わせて引き打ちを行う場合よりも、アクチュエータのばらつきに対して吐出特性がばらつきにくい。一方で、短周期固有振動のピークP2に合わせてノズルから液体を吐出させる場合には、短周期固有振動のピークP2が表れた後に長周期固有振動のピークP1が表れると、液体が液滴として吐出される直前に液滴の後端とメニスカスとを結ぶテール部分がピークP1によって押し出されることとなる。これによって、ノズルから吐出される液滴をまとまったものにすることができる。これに対して、短周期固有振動のピークP2が長周期固有振動のピークP1の後に現れると、まとまった液滴を吐出させることができなくなるからである。
以上を踏まえて本発明者は、Tc1/Tc2が5近傍になるような種々の液体吐出ヘッドにおいて、ノズルから吐出される液体の吐出特性がどのようになるかについての実験及び分析を行った。そして、その実験及び分析の結果から、ノズルから吐出される液体の吐出特性が、まず第1〜第3の類型に分類されることを見出した。第1〜第3の類型は、TC1/TC2<4.7の場合、4.7≦Tc1/Tc2≦5.5の場合及び5.5<Tc1/Tc2の場合にそれぞれ分類される。図16(a)〜図16(c)は、かかる第1〜第3の類型に分類される吐出特性を示す液体吐出ヘッドのそれぞれにおける長周期固有振動と短周期固有振動との関係を、圧力印加のタイミングを変えた場合のそれぞれにおいて示すグラフである。
ここで、図16に示されたいずれのグラフにおいても横軸は時間を表し、縦軸はメニスカスにおける液体の振動速度の大きさを表している。図16には、引き打ち方式による1回の液体吐出において負圧の圧力の印加によって生じる振動と、正圧の圧力の印加によって生じる振動との、2種類の振動が示されている。図16(a)〜図16(c)のそれぞれにおいて、左側のグラフは、正圧の圧力を印加するタイミング(時刻tb、tc、td)を短周期固有振動の位相に合わせた場合を示している。そして右側のグラフは、そのタイミング(時刻te、tf、tg)を長周期固有振動の位相に合わせた場合を示している。
ここで、上記のタイミングを短周期固有振動の位相に合わせる場合と長周期固有振動の位相に合わせる場合との2つの場合が存在するのは、以下の理由による。つまり、引き打ち方式において上記のタイミングを負圧の印加によって発生した固有振動の位相に合わせるのは、かかる固有振動に正圧の印加によって発生する固有振動を重畳させることにより、効率良く液体を吐出させるためである。その一方で、長周期固有振動の周期が短周期固有振動の周期の整数倍から少しずれる本分析におけるような場合には、長周期固有振動の位相にタイミングを合わせると短周期固有振動の位相にタイミングが合わず、短周期固有振動の位相にタイミングを合わせると長周期固有振動の位相にタイミングが合わなくなる。このため、両方の場合のそれぞれにおいて吐出特性を調査する必要があるためである。
図16(a)〜図16(c)において、曲線151a〜曲線151c及び曲線161a〜曲線161cは、負圧の圧力の印加によって生じる長周期固有振動を示している。曲線152a〜152c及び曲線162a〜曲線162cは、正圧の圧力の印加によって生じる長周期固有振動を示している。曲線153a〜曲線153c及び曲線163a〜曲線163cは、負圧の圧力の印加によって生じる短周期固有振動を示している。曲線154a〜曲線154c及び曲線164a〜曲線164cは、正圧の圧力の印加によって生じる短周期固有振動を示している。
図16(a)のグラフにおいて、長周期固有振動のピークP3及びP5が短周期固有振動のピークP4及びP6に対して時間的にそれぞれ先行している。これに対して、図16(b)のグラフにおいては、短周期固有振動のピークP8及びP10が長周期固有振動のピークP7及びP9に対して時間的にそれぞれ先行している。また、図16(c)のグラフにおいても、短周期固有振動のピークP12及びP14が長周期固有振動のピークP11及びP13に対して時間的にそれぞれ先行している。
図17(a)〜図17(c)は、図16(a)〜図16(c)に示されている6つのグラフが示しているような引き打ち方式による液体の吐出が行われた場合にノズル108から吐出される液滴の様子をそれぞれ示す図である。図17(a)〜図17(c)の左側のグラフは図16(a)〜図16(c)の左側のグラフにそれぞれ対応し、図17(a)〜図17(c)の右側のグラフは図16(a)〜図16(c)の右側のグラフにそれぞれ対応する。
図16(a)及び図17(a)の左側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。正圧の印加のタイミングが短周期固有振動の位相に合っている。そして、短周期固有振動のピークP4が長周期固有振動のピークP3よりも時間的に後に生じている。したがって、ノズル108から吐出される液滴が分断されて、テール液滴171が生じている。
図16(a)及び図17(a)の右側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。正圧の印加のタイミングが長周期固有振動の位相に合っている。したがって、負圧の印加によって生じる短周期固有振動の位相と正圧の印加によって生じる短周期固有振動の位相とが互いにずれるため、テール液滴172が分断されてまとまらなくなっている。
図16(b)及び図17(b)の左側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。正圧の印加のタイミングが短周期固有振動の位相に合っている。そして、短周期固有振動のピークP8によって時間的に先行して吐出される先行液滴173の後方からテール液滴174が長周期固有振動のピークP7によって押し出される。負圧の印加による短周期固有振動と正圧の印加による短周期固有振動との互いの位相が一致しているので、先行液滴173及びテール液滴174は、互いにまとまったものとなる。
図16(b)及び図17(b)の右側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。時間的に先行する先行液滴175が分断されている。しかし、先行液滴175の後方からテール液滴176が追いついてくるので、分断された先行液滴175の着弾時の影響は比較的軽微である。
図16(c)及び図17(c)の左側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。負圧の印加によって生じる長周期固有振動のピークP15と正圧の印加によって生じる長周期固有振動のピークP11が大きくずれているので、液体が効率良く吐出されなくなっている。短周期固有振動のピークP16によって低速のテール液滴177が吐出されている。テール液滴177が印刷用紙等に着弾すると、用紙上にノイズが生じる。
図16(c)及び図17(c)の右側の図に対応する吐出特性は以下のようなものである。負圧の印加によって生じる短周期固有振動と正圧の印加によって生じる短周期固有振動との互いの位相が逆転している。これによってメニスカスの振動が不安定になり、ノズル108から吐出される液滴の速度ばらつきが誘発される。
下記の表8は、以上の実験結果及び分析結果からまとめられたものである。表8は、第1の流路133の長さ及び圧力室110の厚みとTc1/Tc2との関係、及び、かかるTc1/Tc2を有するような液体吐出ヘッドから吐出される液体の吐出特性の評価を示している。吐出特性の評価は3段階で表されており、「○」は吐出特性が良好であることを示している。「△」は、「○」の場合と比べてノズル108から吐出されるテール液滴に乱れが生じるが実用上問題ない程度であることを示している。「×」は、「△」と比べて先行液滴とテール液滴とがばらばらに離隔したりして、吐出特性が実用上不適切であることを示している。
なお、表8において「吐出速度のピーク」は、正圧の圧力を印加するタイミングを長周期固有振動及び短周期固有振動のいずれの位相に合わせたときにノズル108から吐出される液滴の吐出速度の大きさが最大となるかを示している。「Tc1×0.5」は、上記のタイミングを長周期固有振動の位相に合わせたときに吐出速度の大きさが最大となることを示し、「Tc2×2.5」は、上記のタイミングを短周期固有振動の位相に合わせたときに吐出速度の大きさが最大となることを示している。これらは、上述の分析結果及び実験結果から取得されたものである。また、表8の吐出特性は、吐出速度の大きさが最大となる方のタイミングで液滴を吐出させた場合のものである。
図18は、表8の結果をグラフに表したものである。図18のグラフの横軸はTc1/Tc2を、縦軸は吐出特性の評価を示している。図18には、ほぼ4.7≦Tc1/Tc2≦5.5の範囲が吐出特性に実用上の問題が生じない範囲であり、ほぼ4.8≦Tc1/Tc2≦5.4の範囲がさらに吐出特性が良好な範囲であることが示されている。また、図18には、ほぼ5.0≦Tc1/Tc2≦5.5の範囲は吐出特性に実用上の問題が生じない範囲であり、ほぼ5.0≦Tc1/Tc2≦5.4の範囲はさらに吐出特性が良好な範囲であることが示されている。
以上の分析結果より、本実施形態のインクジェットヘッド2を、Tc1及びTc2が、実質的に4.7≦Tc1/Tc2≦5.5を満たしたものとして構成する。これによって、短周期固有振動が生じるようなインクジェットヘッドであることを前提に、短周期固有振動のピークに合わせて液体を吐出させることで、比較的良好な吐出特性を確保することが可能なインクジェットヘッドが実現することが示された。
このような吐出特性が実現するのは以下のような理由による。つまり、液滴を吐出させるタイミングを、短周期固有振動を基準に設定することができるようになる。これによって、応答性の高いヘッドが実現している。また、従来のように長周期固有振動による液滴が先行する場合と比べて、液滴の吐出速度や吐出量にばらつきが生じにくい。これは、長周期固有振動においてはアクチュエータのコンプライアンスが個別液体流路中の他の部分のコンプライアンスと並列の関係にある。この場合、アクチュエータ同士のコンプライアンスのばらつきがそのまま吐出速度のピークのずれにつながり、液体吐出ヘッドを一律に駆動して吐出を行った場合に吐出速度のばらつきが大きくなる。これに対して、短周期固有振動は、アクチュエータと例えば第1の流路とを直列に接続した系の振動であるため、アクチュエータのばらつきがその振動周期に直接表れにくいからである。
また、上述の実施形態の圧電アクチュエータ50は、圧電層41を個別電極35と共通電極34とが挟んでいる。共通電極34と圧力室10との間には、振動板として機能する圧電層42〜44が圧力室10を跨ぐように延在している。そして、共通電極34と個別電極35との間に電位差を発生させることにより、圧電層41〜44が一体に変形し、これによって圧力室10の容積が変更される。このような構成を有するインクジェットヘッド2は、圧電層42〜44のコンプライアンスが大きい場合に圧電層42〜44に残留振動が生じやすく、短周期固有振動が励起されやすい。一方で、本発明は、短周期固有振動を発生させつつ長周期固有振動の周期と短周期固有振動の周期との関係を所定の範囲に限定することにより、高い応答性を確保すると共に、短周期固有振動を利用して比較的良好な吐出特性を確保する、というものである。このため、インクジェットヘッド2の上記の構成は、本発明を適用するのに適したものといえる。
また、インクジェットヘッド2の下面にはノズル8が開口しており、ノズル8が開口した面と圧力室10とが、副マニホールド流路5aを流路ユニット4の積層方向に関して挟んでいる。このような構成を有している場合には、ディセンダ流路33が長くなるため、ディセンダ流路33の容積が大きくなりやすく、短周期固有振動が励起されやすい。このため、やはり本発明の適用に適したものといえる。
次に、本発明者らは、インクジェットヘッド2の適切な駆動方法を特定するために、以下のような測定を行った。まず、インクジェットヘッド2からインクを、Toを様々に変化させつつ吐出させた。そして、インクジェットヘッド2から吐出されたインクの吐出速度の大きさを測定した。さらに、このような測定を、Tr及びTfを様々に変化させて繰り返し行った。下記の表9は、その測定結果を示している。なお、表9に係る測定は、Tr=Tfを満たすような条件下で行われたものである。
なお、表9の測定は、圧力室10の厚みが100μm、制限流路の(断面厚み×幅×長さ)が(20μm×40μm×300μm)、ディセンダ流路33の(長さ×平均径)が(830μm×190μm)であるインクジェットヘッド2に関して行われた。
図19は、表9の結果をグラフに表したものである。図19の曲線181〜曲線185はそれぞれ、Tr/Tc2が0.25、0.33、0.80、1.00及び1.10であるときの、To/Tc2に対するインクの吐出速度の大きさを示すものである。曲線181〜曲線185はいずれも概略的に上に凸の曲線である。曲線185には、長周期固有振動のピークのみが表れているのに対して、曲線181〜曲線184には、長周期固有振動のピークの他、短周期固有振動のピークが表れている。
図19に示されているように、曲線185には短周期固有振動のピークが表れておらず、曲線185の吐出速度のピークは他の曲線に表れている吐出速度のピークと比べて小さい。つまり、曲線185のような吐出特性が表れる駆動条件によると、短周期固有振動が励起されにくく、吐出速度が小さくなる。一方で、曲線181には、短周期固有振動のピークが他の曲線に比べて顕著に表れている。曲線181のような吐出特性が表れる駆動条件によると、短周期固有振動が強すぎて液体が安定して吐出されない。したがって、インクジェットヘッド2において、インクを効率良く且つ安定に吐出することができる駆動条件は、曲線181及び曲線185のような吐出特性が表れる範囲を除いた、実質的に0.3≦Tr/Tc2≦1.0且つ0.3≦Tf/Tc2≦1.0の範囲内であることが好ましい。
また下記の表10は、図19の曲線181〜曲線185において、インクの吐出速度のピークが表れている場所のTo/Tc2の値を、それぞれ抽出したものである。表10の第2列目の第2行目〜第6行目は、それぞれ曲線181〜曲線185においてピークが表れているTo/Tc2の値を示している。また、図20の各点は、表10の結果をグラフに表したものである。図20に示されているように、ピークが表れるTo/Tc2の値は、Tr/Tc2に対してほぼ直線186に沿っている。そして、直線186から、上記のような0.3≦Tr/Tc2≦1.0且つ0.3≦Tf/Tc2≦1.0を満たす範囲に相当するTo/Tc2の範囲は、ほぼ2.40〜2.65であることが示される。
以上より、インクジェットヘッド2を駆動する方法として適切な範囲は、0.3≦Tr/Tc2≦1.0且つ0.3≦Tf/Tc2≦1.0を満たす範囲であり、To/Tc2がほぼ2.40〜2.65を満たす範囲であることが示された。
なお、上記の分析から示されるように、本発明に係る問題は、装置内に形成された液体流路やアクチュエータのイナータンスやコンプライアンス等の大きさに応じて生じるものである。したがって、液体流路の詳細な構造やアクチュエータの種類等には特に依存しない。例えば、圧電アクチュエータ50と異なり、複数の圧電層で駆動する圧電アクチュエータであってもよいし、圧電方式以外の方式が採用されたアクチュエータであってもよい。また、図4に示されているような液体流路の構造とは異なる液体流路であってもよい。このような液体吐出ヘッドの場合にも、上記の分析において想定されている条件を満たす液体吐出ヘッドであれば、本発明が適用され得る。