JP4880870B2 - 疲労特性に優れたチタン銅条 - Google Patents

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本発明は端子、コネクタ、スイッチ、リレー等の電子部品用に用いられる、優れた疲労特性を備えたチタン銅条、さらにそれらを用いた端子、コネクタ、スイッチ、リレーに関するものである。
近年、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器での高密度実装化が進展し、その電子部品は著しく軽薄・短小化している。これに対応し、部品の使用環境下において、金属部材に繰り返し付加される応力は増加する傾向にある。また、部品の耐久性に対するニーズも高くなり、金属部材の疲労特性への要求は高度化している。
従来、コスト面を重視する場合には黄銅およびりん青銅が適用されていた。ところが、近年、電子部品の著しい軽薄・短小化に伴って、これらの材料では強度を満足できない。そのため、特に信頼性が要求される部品には、疲労強度が高いベリリウム銅、チタン銅等の高強度型銅合金の需要が増えているが、ベリリウム銅は、ベリリウム化合物が毒性を有すること、コストが高いといった問題点があり、チタン銅に対する需要が高まっている。
一般的には合金の強度を高めると疲労強度が向上する。チタン銅ついては疲労強度を向上させる目的ではないが、強度を高める取り組みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
一方、チタン銅ではないが、合金の組成や析出粒子の状態を変化させて疲労強度を向上させるものもある(例えば、特許文献2、3参照。)
特開2002−356726号公報 特許第262596号公報 特開2002−3963号公報
チタン銅においては、チタン含有量を高くする、圧延加工度を高くするまたは強度の増加に寄与する析出物の量を増加させれば強度を増加させることができる。しかし、高強度化による疲労特性改善には限界があった。
本発明の目的は、組成や析出物の状態を変化させることなく、チタン銅の疲労特性を改良することにある。
本発明者らは、疲労特性の改善について鋭意研究し、本発明を見出した。
つまり、
(1)Ti:1.5〜4.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、表面に22182MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さRvが1.84μm以下であり、直径1μm以上の介在物が41個/1000μm 2 以下であることを特徴とする疲労特性に優れたチタン銅条、
2)上記(1)の疲労特性に優れたチタン銅条を用いた端子、コネクタ、スイッチ、リレー、
である。
なお、本発明においては、表面残留応力の値を便宜上、以下のように表記する。マイナスが付いた場合には圧縮応力、プラス(または「絶対値で」の記載のない場合)は引張応力とする。また、表面残留応力において、単に大小関係を比較するための数値については「絶対値で」と記載する。従って、例えば、「−20MPa」は「絶対値で20MPaの圧縮応力」と同じことを意味する。
本発明の作用は以下の通りである。
(1)表面の残留応力
端子、コネクタ、スイッチ、リレー等の電子部品の金属部材には、部品の動作あるいは部品の着脱に際し、弾性限内の曲げ応力が繰り返し与えられる。この場合の疲労クラックは曲げ部外周表面より発生し、このクラックが成長して部材の破壊へと至る。金属素材の表面に圧縮残留応力を付与すると、クラックの発生が抑制され、疲労寿命が増大する。
(2)表面形態
表面の凹部は切り欠きとして作用し、この凹部で疲労クラックが優先的に発生する。したがって、表面の粗さを小さくすると、疲労寿命が延びる。
(3)介在物
本発明において、「介在物」とは、鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物ならびに溶解時に溶湯内の反応により生じる酸化物、硫化物等、さらには鋳造時の凝固過程以降、すなわち凝固時の冷却過程、熱間圧延時、溶体化処理時の冷却過程および時効処理時にマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり、本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。「介在物の大きさ」は、介在物をSEM観察下でその介在物を含む最小円の直径を言う。「介在物の個数」とは、材料の圧延方向に直角な断面において、SEM観察により多数箇所で実際に数えた1000μm2当たりの介在物個数である。
この合金は析出硬化型であるため、マトリックス中に析出物が存在する。この合金に必要な強度を得るための析出物は微細なものに限られる。大きさがμmを超える粗大なものは、曲げ加工性、エッチング性、めっき性を著しく低下させ、クラックの伝播を促進させる原因となり、疲労寿命が低下する。従って、析出物を含めて介在物の個数を所定レベル以下に調整することで疲労寿命が延びる。
端子、コネクタ、スイッチ、リレー等の電子部品用材料として、疲労特性が改良されたチタン銅条を提供できる。
本発明の限定理由を以下に説明する。
(1)表面の残留応力
表面に絶対値で20MPa以上の圧縮残留応力を与えると、疲労特性が向上する。一方、圧縮残留応力が絶対値で200MPaを超えると却って疲労特性が低下する。そこで、表面残留応力値を−20MPa〜−200MPa(絶対値で20MPa以上200MPa以下の圧縮残留応力値)に規定する。
(2)表面粗さ
表面の最大谷深さRvが2μmを超えると疲労寿命の低下が著しくなる。そこで、Rvを2μm以下に規定する。より好ましくは1μm以下である。
(3)介在物
大きさが1μmを超える介在物が50個/1000μmを超えて存在すると疲労強度が低下する。そこで、1μmを超える介在物が50個/1000μm以下となるように規定する。
(4)製造方法
本発明のチタン銅の製造においては、鋳塊の熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を順次行う。また、最初の冷間圧延終了後に再結晶を目的とした焼鈍を行い、その後冷間圧延してから溶体化処理することも可能である。以下に、製造方法を示す。
a)熱間圧延
通常、チタン銅の鋳塊の製造は半連続鋳造で行われる。鋳造時の凝固過程においてCu−Ti系の粗大な析出物が生成することがある。粗大な析出物は850℃以上の温度で30分以上加熱した後に熱間圧延を行い、終了温度を700℃以上とし、この温度から水冷することによりマトリックス中に固溶される。一方、熱間圧延前の加熱温度が950℃を超えると材料表面に強固な酸化スケールが発生し、圧延時の割れの原因や、酸化スケール除去による歩留まりの低下を招く。従って、熱間圧延時の加熱温度は850℃以上950℃以下とする。
b)溶体化処理
溶体化処理は、添加したTiが全量Cu中に固溶する温度以上で加熱し、加熱後水冷するのが通例である。ただし、処理温度が高いと結晶粒が成長してしまい、十分な強度、疲労特性が得られない。一方、処理温度が低いと時効処理時に微細なCu−Ti系析出物が十分に析出せず、強度、疲労特性が得られない。そこで、結晶粒を粗大化させない範囲で、時効処理時に充分な量のCu−Ti系析出物を微細に析出させるため、Cu中にTiが全量固溶する最低の温度をT℃とし,(T−25)℃以上(T+25)℃以下の温度で溶体化処理を行なう。
c)冷間圧延および時効処理
溶体化処理後の冷間圧延において、加工度が50%を超えると材料の加工硬化が著しく、延性が低下し、曲げ性が著しく劣化するため、曲げ加工が施される用途に対しては、溶体化処理後の冷間圧延での加工度を50%以下とすることが好ましい。その後の時効処理は、所望の強度、導電率を得るために行うが、本発明の銅合金では300℃〜600℃で行うことが適切である。
表面の粗さの調整は、例えば、圧延工程、研磨工程などにより行なうことができる。実操業においては表面粗度を調整した圧延ロール等を用いて圧延することにより、本銅合金の表面粗度を調整することができる。また、圧延後の工程で材料表面に対して例えば、バフの粗さを調整して研磨を実施することにより材料の表面粗度を調整することも可能である。
材料表面の残留応力の調整は、最終冷間圧延での圧延ロール直径および1回の通板での加工度を調整することにより達成される。すなわち、ロールの直径を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行し、1回の通板での加工度を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。
(1)実施例1
電気銅および金属チタンを原料とし、高周波真空溶解炉にて、チタン濃度が3%のチタン銅インゴット(厚さ150mm)を製造し、このインゴットを加熱温度850℃以上950℃以下の温度で3時間加熱した後、厚さ8mmまで終了温度が700℃以上となるように熱間圧延を行い、水冷した。その後、表面の酸化スケールを面削除去した後、冷間圧延により厚さ0.214mmに加工し、750〜800℃で1分間加熱し、水冷する条件で溶体化処理を行って結晶粒径を約10μmに仕上げ、さらに冷間圧延で厚さ0.15mmまで加工した。最後に420℃で3時間の時効処理を施した。試料表面の残留応力を調整するために、最終冷間圧延での圧延ロール直径および1回の通板での加工度を調整した。すなわち、
a)圧延ロール:直径50mm、100mm、200mmのものを準備した。ロールの直径を小さくすると、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。
b)加工度:1回の通板での加工度を小さくする、すなわち0.214mmから0.15mmまで圧延する過程での圧延機への通板回数を増やすと、表面の残留応力が引張応力から圧縮応力へと移行する。
加工後の試料について、引張試験、表面粗さ測定、残留応力測定、疲労試験、介在物測定を行った。
a)引張り試験
JIS Z2241に準じ、JIS13B号引張り試験片を用い、圧延方向と平行に引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。
b)表面最大谷深さRv
JIS B0601に準じ、測定した粗さ曲線の谷底線の値を最大谷深さRvとした。試料を圧延方向に直角な方向に採取し、測定した。測定速度0.1mm/s、カットオフ0.8mm、測定長さ4.0mmの条件で行った。
c)残留応力
幅20mm、長さ200mmの短冊形試料を、試料の長さ方向が圧延方向と一致するように採取した。塩化第二鉄水溶液を用いて、片面側からエッチングして試料の反りの曲率半径を求め、残留応力を算出した。この測定を表裏両面よりエッチング量を変化させて行い、図1に示すような厚み方向の残留応力分布曲線を得た(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社、(1988)、p.46.)。この曲線より表面および裏面での残留応力値を求め、両値の平均を表面残留応力値と定義した。なお、本実施例においての表面残留応力は、引張残留応力についてはプラス、圧縮残留応力についてはマイナスで記載することとする。
d)疲労試験
JIS Z 2273に準拠し、両振り平面曲げの疲労試験を行った。幅10mmの短冊形試料を、試料の長さ方向が圧延方向と一致するように採取した。試料表面に付加する最大応力(σ)、振幅(f)および支点と応力作用点との距離(L)が、
L = √(3tEf/(2σ)) (t:試料厚み、E:ヤング率(=127GPa))
の関係になるように試験条件を設定した。試料が破断したときの回数(Nf)を測定した。測定は4回行い、4回の測定でのNfの平均値を求めた。
e)介在物測定
圧延方向に直角な断面をダイヤモンド研磨で鏡面仕上げした。その後、カーボン蒸着を施し、FE−SEMを用い、任意の視野において反射電子像を写真撮影し、この写真上で直径が1μm以上の介在物個数を数えた。この介在物計測作業を1000μmの面積に対して行なった。
Figure 0004880870
表1に表面残留応力を変化させた各種チタン銅の疲労寿命(繰返し数)を示す。表1の各試料とも、Rv=1.0〜1.2μm、大きさが1μmを超える介在物個数を50個/1000μm以下に調整している。
表面に圧縮(負)の残留応力を与えると疲労寿命(繰返し数)が長くなることがわかる。ただし、圧縮残留応力が200MPaを超えると、疲労寿命(繰返し数)が低下している(No.9)。
なお、表面残留応力値には、ロールの表面粗さ、潤滑油の種類、圧延の際の引張力、圧延する素材の機械的特性等、多くの要因が影響を及ぼす。したがって、今回パラメータとして変化させた圧延ロール直径および通板回数のみで、残留応力が一義的に決定されるものではないが、参考までにNo.2およびNo.6での条件を示すと、
No.2:ロール直径 50mm、通板回数 10回
No.6:ロール直径 200mm、通板回数 5回
であった。
(2)実施例2
最終圧延でのロールの粗さを変化させ、表面の最大谷深さRvが異なる厚み0.15mmの試料を作製した。粗さ以外の製造条件は、実施例1と同じである。各試料の残留応力は、−100〜−110MPa(圧縮残留応力)の範囲に調整した。大きさが1μmを超える介在物個数を50個/1000μm2以下に調整した。
試料の表面形態は最終圧延ロールの表面粗度を変えることにより調整した。すなわち、表面最大高さRyが0.5、1.0、1.5μmの同じロール直径(100mm)の圧延ロールを準備し、圧延時の圧下力を変えた。Ryが小さいロールを使用して圧下力を下げると表面最大谷深さRvが小さくなり、Ryが大きいロールを使用して圧下力を上げると、表面最大谷深さRvが大きくなる。
Figure 0004880870
表2に付加応力σを600MPaとしたときの疲労寿命(繰返し数)を示す。Rvが2μmを超えると疲労寿命(繰返し数)が低下することがわかる(No.22、23、24)。
(3)実施例3
実施例1と同じ条件で、チタン銅を0.15mmまで加工した。なお、大きさが1μm以上の介在物の個数が異なるように熱間圧延前の加熱温度、溶体化処理の温度を調整した。各試料のRvは1.0〜1.2μmの範囲、表面残留応力は−70〜−80MPa(圧縮残留応力)の範囲に調整した。
Figure 0004880870
表3に付加応力σを600MPaとしたときの疲労寿命(繰返し数)を示す。介在物の個数が50個/1000μmを超えると疲労寿命(繰返し数)が低下することがわかる。
板厚方向における残留応力の分布を示す図である。

Claims (2)

  1. Ti:1.5〜4.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、表面に22〜182MPaの圧縮残留応力が存在し、表面の最大谷深さRvが1.84μm以下であり、直径1μm以上の介在物が2〜41個/1000μm2であり、且つ、直径10μmを超える介在物が存在しないことを特徴とする疲労特性に優れたチタン銅条。
  2. 請求項1に記載の疲労特性に優れたチタン銅条を用いた端子、コネクタ、スイッチ、リレー。
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