JP4781145B2 - Cu−Zn−Sn系合金及びCu−Zn−Sn系合金条を用いた端子、コネクタ、またはリレー - Google Patents

Cu−Zn−Sn系合金及びCu−Zn−Sn系合金条を用いた端子、コネクタ、またはリレー Download PDF

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本発明は、端子・コネクタ等の電子部品に用いられる、高い強度及び良好な曲げ加工性を兼ね備えたCu−Zn−Sn系合金、さらにそれらを用いた端子・コネクタに関するものである。
電気電子機器の各種端子、コネクタ、リレー又はスイッチ等には、製造コストを重視する用途では低廉な黄銅が使用されている。又、ばね性が重視される用途にはりん青銅が使用され、ばね性及び耐食性が重視される用途には洋白が使用されている。これら銅合金は固溶強化型合金であり、合金元素の作用により強度やばね性が向上する反面、導電率や熱伝導率が低下する。
一方、近年、固溶強化型合金に替わり、析出強化型銅合金の使用量が増加している。析出強化型合金は、合金元素をCu母地中に微細化合物粒子として析出させることを特徴とする。合金元素が析出する際に、強度が上昇し、同時に導電率も上昇する。したがって、析出強化型合金は固溶強化型合金に比べ、同じ強度でより高い導電率が得られる。析出強化型合金としては、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Be系合金、Cu−Ti系合金、Cu−Zr系合金等がある。
しかし、析出強化型合金では、合金元素をCu中に一旦固溶させるための高温・短時間の熱処理(溶体化処理)及び合金元素を析出させるための低温・長時間の熱処理(時効処理)が必要であり、その製造プロセスは複雑である。又、合金元素として、Si、Ti、Zr、Be等の活性元素を含有しているため、インゴット品質の作りこみが難しい。したがって、析出強化型合金の製造コストは、固溶強化型合金の製造コストと比べ非常に高い。
一方、固溶強化型合金を改良することにより、必要充分な導電率と強度を有する、低廉な銅合金の開発が進められている。黄銅に代表されるCu−Zn系合金は、製造が容易であり、Znが安価なことも相まって、特に低コストで製造できる合金である。本発明者らは、以前Cu−Zn系合金のZn量を調整した上で少量のSnを添加し、更に金属組織を調整することにより、端子等の素材として必要充分な導電率、強度及び曲げ加工性を有する合金を開発した(特許文献1)。一般的に必要充分な導電率、強度及び曲げ加工性を下記に記載する。
(A)導電率:35%IACS以上。この導電率は析出強化型合金であるCu−Ni−Si系合金(コルソン合金)の導電率に匹敵する。なお、黄銅(C2600)の導電率は28%IACS、りん青銅(C5210)の導電率は13%IACSである。
(B)引張強さ:410MPa以上。この引張強さは、JIS規格(JIS H 3100)により規定された黄銅(C2600)の質別Hの引張強さに相当する。
(C)曲げ性:Good Way(曲げ軸が圧延方向と直行する方向)及びBad Way(曲げ軸が圧延方向と平行な方向)の180度密着曲げが可能なこと。この曲げ試験において割れや大きな肌荒れが発生しなければ、コネクタに施される最も厳しいレベルの曲げ加工が可能となる。
Cu−Zn−Sn系合金自体は、従来から電子部品用に用いられており、その技術は特許文献2、3、4等に開示されているが、これら従来合金は上記特性を満足していなかった。例えば、特許文献4に開示されたCu−Zn−Sn合金は、550MPa程度の引張強さと45%IACS程度の導電率を有しているが、その曲げ加工性は、90度W曲げにおいてR/t=0.8(R:曲げ半径、t:板厚)の曲げ加工が可能なレベルであった。
近年、電子部品の軽薄・短小化の進展に伴い、より薄い材料が求められるようになった。材料が薄くなるとコネクタの接圧が下がるため、材料を高強度化する必要がある。また、電子部品の高密度実装化に伴い、より微細な加工が施されるようになったため、材料の加工性、特に曲げ加工性を向上させる必要がある。このような背景のなかCu−Zn−Sn系合金にも高強度と優れた曲げ加工性という相反する特性の両立が要求され、上記(B)(C)の特性のさらなる改善が必要になった。一般的に銅合金条の強度と曲げ加工性を改善する場合、結晶粒を微細化する方策等が採られる。
特願2005−207556号公報 特開平1−162737号公報 特開平2−170954号公報 特開平7−258777号公報
結晶粒の微細化は、これまでに求められていた曲げ加工性のレベルであれば有効であった。しかしながら、材料に要求される曲げ加工性のレベルが高度化し、従来問題とはならなかった微細な割れに対しても改善が求められるようになった。従来技術では、近年要求されるレベルの曲げ加工性を安定して得ることはできなかった。本発明の目的は、優れた曲げ加工性を安定して有するCu−Zn−Sn系合金銅合金条を提供することにある。
本発明者らは、Cu−Zn−Sn系合金では、表面(圧延面)においてX線回折により測定した(220)ピーク強度(IS(220))が、厚み内部の面において測定した(220)ピーク強度(IC(220))よりやや高いことを知見した。ここで、IC(220)は、試料の片側表面をエッチングすることにより厚み中央の面を表面に露出させ、この露出させた面において測定した値である。
そして、この結晶方位の特徴と曲げ性との関係を調査し、IC(220)が同じ場合、IS(220)が低いほど良好な曲げ性が得られることを見出した。すなわち、優れた曲げ加工性を安定して得るためには、IS(220)とIC(220)との比(IS(220)/IC(220))を、所定のレベル以下に規制する必要があることを知見したのである。
次に本発明者らは、IS(220)/IC(220)を調整する方法を研究した。Cu−Zn−Sn系合金の製造工程では、熱間圧延の後、冷間圧延と再結晶焼鈍が繰り返し行われ、最後に冷間圧延(最終冷間圧延)で所定の厚みに仕上げられる。最終冷間圧延の後に歪取焼鈍を行うこともある。各冷間圧延では、材料の圧延機への通板(パス)を繰り返し、材料を所定の厚みに仕上げる。
C(220)は最終冷間圧延の圧延加工度(R)によって定まり、Rを高くするとIC(220)は大きくなった。ここで、Rは最終冷間圧延前の厚みをt、最終冷間圧延後の厚みをtとし、次式で定義される。
R(%)=(t−t)/t×100
一方、IS(220)はRだけでなく、最終冷間圧延における種々の圧延条件の影響をも受け、
a.パス回数が少ない(一回のパスでの加工度が高い)ほどIS(220)は低い
b.圧延油の粘度が低いほどIS(220)は低い
c.圧延温度が低いほどIS(220)は低い
ことが判明した。
銅合金の曲げ加工性は、圧延加工度が低くなると向上する。一方、IC(220)、IS(220)、とも圧延加工度を低くすると低下する。この両関係より、IS(220)が低いCu−Zn−Sn系合金条の曲げが優れることは以前より知られていた。しかし、IC(220)とIS(220)との比に着目した曲げ改善策は、過去に報告されていない。
以上説明したように、今回発見した厚み方向での結晶方位制御の方策により、良好な曲げ加工性が安定して得られるようになった。本発明のCu−Zn−Sn系合金条は、小型電子部品で使用される端子、コネクタ、またはリレー用の素材として好適であり、従来のCu−Zn−Sn系銅合金と同様のコストで製造でき、また、強度、曲げ加工性以外の特性が従来のCu−Zn−Sn系銅合金と同等であることから、工業的に極めて有用である。
本発明の詳細を以下に説明する。
ZnおよびSn濃度
本発明の銅合金は、ZnとSnを基本成分とし、両元素の作用により機械的特性を作りこむ。Zn濃度およびSn濃度の範囲は、それぞれ2〜12質量%および0.1〜1.0質量%とする。Znが2%を下回ると、Cu−Zn合金の特徴である良好な製造性が失われる。Znが12%を超えると、Sn濃度を調整しても所望の導電率が得られなくなる。Snは圧延の際の加工硬化を促進する作用を持ち、Snが0.1%を下回ると強度が不足する。一方、Snが1.0%を超えると、合金の製造性が低下する。
SnとZnの合計濃度(T)は、次のように調整する。
0.6≦T≦2.0
T=[%Sn]+0.16[%Zn]
ここで、[%Sn]および[%Zn]はそれぞれSnおよびZnの質量%濃度である。Tを2.0以下にすれば35%IACS以上の導電率が得られる。また、Tを0.6以上にすれば、金属組織を適切に調整することにより、410MPa以上の引張強さが得られる。そこで、Tを0.6〜2.0に規定する。
より好ましいTの範囲は1.0〜1.7であり、この範囲に調整することにより、35%IACS以上の導電率と410MPa以上の引張強さがより安定して得られる。
Ni、Fe、P、Co及びAg
Znより酸化しにくい元素であれば、強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、本発明の合金に添加することができる。このような元素として、Ni、Fe、P、Co及びAgがある。これら元素の合計添加量が0.005質量%未満であると、特性向上の効果が発現しない。一方、上記元素の合計量が0.5質量%を超えると、導電率低下が著しくなる。そこで、合計量を0.005〜0.5質量%に規定する。
圧延面と厚み中央のエッチング面についての(220)ピーク強度の比
本発明のCu−Zn−Sn系銅合金は、圧延面についての(220)ピーク強度(IS(220))と厚み中央部のエッチング面についての(220)ピーク強度(IC(220))との関係が、IS(220)/IC(220)≦1.2であることを特徴とする。
結晶粒径が同じ場合、製品の強度は最終焼鈍後の冷間圧延のトータル加工度と相関を持つ。また、IC(220)も最終焼鈍後の冷間圧延でのトータル加工度と相関を持つ。すなわち、IC(220)は製品に求められる強度によって決定される。一方、IS(220)は良好な曲げ加工性を得る目的で規定される。
S(220)/IC(220)>1.2の範囲では、IS(220)/IC(220)が低くなるに従い曲げ加工性が向上する。IS(220)/IC(220)=1.2でこの効果は飽和しIS(220)/IC(220)をこれ以上小さくしても曲げ加工性はほとんど変化しない。そこでIS(220)/IC(220)≦1.2と規定する。
次の二種類の合金について、本発明の効果を実験で検証した。
合金A:Cu−8.0質量%Zn−0.3質量%Sn
合金B:Cu−5.0質量%Zn−0.3質量%Sn
高周波誘導炉を用い、内径60mm、深さ200mmの黒鉛るつぼ中で2kgの電気銅を溶解した。溶湯表面を木炭片で覆った後、成分が上記組成になるようにZnおよびSnを添加した。溶湯温度を1200℃に調整した後、溶湯を金型に鋳込み、幅60mm、厚み30mmのインゴットを製造した。これらのインゴットを、以下の工程で厚み0.3mmまで加工した。
(工程1)850℃で3時間加熱した後、厚さ8mmまで熱間圧延する。
(工程2)熱間圧延板の表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去する。
(工程3)板厚1.5mmまで冷間圧延する。
(工程4)再結晶焼鈍(中間焼鈍)として、大気中、400℃で30分間加熱し、結晶粒径を約3μmに調整する。
(工程5)20質量%硫酸−1質量%過酸化水素水溶液による酸洗および#1200エメリー紙による機械研磨を順次行い、焼鈍で生成した表面酸化膜を除去する。
(工程6)冷間圧延(中間圧延)により、実施例表1および表2に示す中間圧延の板厚まで圧延する。
(工程7)再結晶焼鈍(最終焼鈍)として、大気中、400℃で30分間加熱し、結晶粒径を約3μmに調整する。
(工程8)20質量%硫酸−1質量%過酸化水素水溶液による酸洗および#1200エメリー紙による機械研磨を順次行い、焼鈍で生成した表面酸化膜を除去する。
(工程9)冷間圧延(最終圧延)で0.3mmまで圧延する。この最終冷間圧延において、冷間圧延の温度を25℃にして、圧延油の粘度と圧延のパス回数を変え、IC(220)
S(220)との比(I(220)比)を変化させた。
次いで、この板材について引張強さ及び導電率を求め、曲げ加工性の評価として曲げ試験を行った。また、X線回折装置により(220)ピーク強度を求めた。
引張試験は圧延方向に対しその長手方向が平行になるように採取したJIS 13B号試験片を使用して、引張試験機(ORIENTEC社製UTM−10T)を用いて室温、初期標点距離50mm、引張速度5mm/分の条件で引張強さを求めた。
導電率はJIS H 0505に準拠し、4端子法で測定した。
曲げ試験はBadwayのW曲げ(JIS H 3110)を各種曲げ半径で行い、割れの発生しない最小の曲げ半径比(r(曲げ半径)/t(試験片厚さ))を求めた。試験片の幅は10mmとした。
(220)ピーク強度は(株)リガク製X線回折装置RINT2500を用い、Co管球(λ=1.7889Å)を使用して、管電圧:30kV、管電流:100mA、発散スリット:1°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット:1°、受光スリット:0.3mm、モノクロ受光スリット0.8mm、走査速度7°/min、ステップ幅0.05°、走査軸:2θ/θ、走査範囲:85°〜93°の条件で測定を行い、スムージング及びバックグラウンド除去を行った後、測定範囲中の最大強度を(220)ピーク強度とした。まず、製品表面(圧延上がり)において、圧延面の(220)ピーク強度(IS(220))を測定した。次に、塩化第二鉄溶液を用い片面のみをスプレーエッチングすることにより板厚中央部を露出させ、板厚中央部の(220)ピーク強度(IC(220))を測定した。そして、これらデータよりIS(220)/IC(220)(I(220)比)を求めた。
合金Aおよび合金Bの評価結果を、それぞれ表1および表2、図1および図2に示す。
Figure 0004781145
Figure 0004781145
表1の合金Aにおいて、発明例である条件A〜Dは、パス回数を一回とし圧延油動粘度を10mm/s以下にしたものであり、I(220)比が本発明の1.2以下となり、
R/t=0の良好な曲げ加工性が得られた。
一方、比較例である条件E〜Jは圧延油動粘度が高いまたはパス回数が多いことによりI(220)比が1.2を超えたものであり、発明例に対し曲げ加工性が悪化している。
図1(左)は、圧延条件がI(220)比に及ぼす影響を示したものである。パス回数を少なくし、圧延油動粘度を下げることにより、I(220)比を低減できることが示されている。
また、図1(右)はI(220)比が、曲げ加工性に及ぼす影響を示したものである。圧延油動粘度が低いほどI(220)比の値は低くなるが、I(220)比が1.2以下では曲げ性は変化せず、その効果は飽和していることがわかる。表2および図2に示す通り、合金Bにおいても表1、図1と同様のデータが得られた。
合金Aの各グループにおけるI(220)比と圧延油動粘度との関係及びI(220)比と曲げ加工性との関係を示す図である。 合金Bの各グループにおけるI(220)比と圧延油動粘度との関係及びI(220)比と曲げ加工性との関係を示す図である。

Claims (2)

  1. 平均濃度として2〜12質量%のZn、0.1〜1.0質量%のSnを含有し、質量%単位のSnの平均濃度([%Sn])と質量%単位のZnの平均濃度([%Zn])との関係が、
    0.6≦[%Sn]+0.16[%Zn]≦2.0
    に調整され、残部がCu及び不可避的不純物から成る銅合金であり、X線回折により圧延面について測定した(220)面のピーク強度(IS(220))と圧延面の片側を厚さ中央部までエッチングで除去し、このエッチング面について測定した(220)面のピーク強度(IC(220))との関係が、
    1.11≦S(220)/IC(220)≦1.2
    であることを特徴とする曲げ加工性に優れるCu−Zn−Sn系合金。
  2. 請求項1記載のCu−Zn−Sn系合金条を用いた端子、コネクタ、またはリレー。
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