本発明は、各種ゴム製品の補強用に用いるガラス繊維に母材ゴムとの接着及び耐熱性を高めるための被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維に関する。
伝動ベルト、タイヤ等のゴム製品に引っ張り強さおよび寸法安定性を付与するために、ガラス繊維、ナイロン繊維およびポリエステル繊維等の強度の高い繊維を母材ゴムに補強材として埋設することは一般的に行われ、母材ゴムに埋設するゴム補強用繊維には、母材であるゴムとの密着性がよく、界面が強固で剥離しないことが必要とされる。しかしながら、ガラス繊維をそのまま使用しても全く密着しないか、密着したとしても密着性が弱く界面が剥離してしまい補強材としての用をなさない。
そのため、伝動ベルトを製造する際に母材ゴムに埋設して使用するゴム補強用ガラス繊維には、母材ゴムとの接着性を改善するための被覆材がガラス繊維コードに塗布被覆されたものが用いられる。詳しくは、例えば、母材ゴムとガラス繊維の密着性を向上させ、界面の剥離を防止するために、通常、フィラメントをより合わせてヤーンとしたガラス繊維コード゛に、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と各種ラテックスとを水に分散させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させ被覆層としたゴム補強用ガラス繊維が用いられる。該被覆層は、高温下で、ゴム補強用ガラス繊維を母材ゴムに埋め込んで伝動ベルトに成形する際、母材ゴムとガラス繊維とを接着させる効果を有するが、接着力、即ち、接着強さは必ずしも十分ではない。例えば、自動車用伝動ベルトはエンジンル−ム内の高温の環境下で使用されるため、母材ゴムには、耐熱ゴムである、硫黄により、または過酸化物により架橋された水素化ニトリルゴム(以下、HNBRと略する)等が用いられる。前記被覆処理のみを行ったゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルトは、高温下において屈曲し続ける走行状況下において、初期の接着強さが持続されず、長時間の走行においては、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとの界面の剥離をきたすこともある。
HNBRとゴム補強用ガラス繊維との接着強さを持続し界面の剥離をきたさず、高温の環境下の走行においても長期信頼性のある伝動ベルトを提供するためのゴム補強ガラス繊維として、ガラス繊維コードに上述の被覆処理を行った後に得られた被覆を1次被覆層として、該2次被覆層上に異なる組成の第2液を塗布し乾燥させて2次被覆層としたゴム補強用ガラス繊維が特許文献1〜4に開示されている。
例えば、特許文献1において、ハロゲン含有ポリマーとイソシアネートを含む第2液でゴム補強用繊維を処理する方法が開示されている。
また、特許文献2には、ゴム補強用ガラス繊維に、レゾルシン−ホルマリン縮合物とゴムラテックスを含む処理剤を塗布し乾燥硬化させ第1被覆層とし、当該第1被覆層上にさらに異なる処理剤を塗布し乾燥硬化させ形成させた第2被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維コードであって、当該第2被覆層用の処理剤が、ゴム配合物、加硫剤およびマレイミド系加硫助剤を主成分とすることを特徴とするゴム補強用コードが開示されている。
また、本出願人の特許出願に関わる特許文献3には、ガラス繊維にアクリル酸エステル系樹脂とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させてなる被覆層を設け、ハロゲン含有ポリマーの重量に対して0.3重量%〜10.0重量%のビスアリルナジイミドとを有機溶剤に分散させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、更なる被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維が開示されている。該ゴム補強用ガラス繊維は、HNBRとの接着において、好ましい接着強さを示した。
また、本出願人の特許出願に関わる特許文献4には、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とゴムラテックスとを水に分散させてなるガラス繊維被覆用第1液をガラス繊維に塗布し塗膜を形成した後に乾燥硬化させ1次被覆層とした後で、該1次被覆層上に異なる組成のガラス繊維被覆用第2液を塗布し塗膜を形成した後に乾燥硬化させて2次被覆層としたゴム補強用ガラス繊維において、ガラス繊維被覆用第2液がビスアリルナジイミドとゴムエラストマーと加硫剤と無機充填材とを有機溶剤に分散させてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維が記載されている。該ゴム補強用ガラス繊維は、HNBRとの接着において、好ましい接着強さを示し、HNBRに埋設し伝動ベルトとして、高温下、長時間走行後も、引張り強さの低下がなく優れた耐熱性を有するものであった。
従来、ゴム補強用ガラス繊維で補強された耐熱性の伝動ベルトとしての自動車のタイミングベルトには、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を必須の組成物としたガラス繊維被覆用塗布液を用い、ガラス繊維コードに塗布乾燥させ被覆層となし、続いて、これとは異なる組成のガラス繊維被覆用塗布液を用い塗布乾燥させ、更なる2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を、耐熱ゴムとしてのHNBRに埋設し作製されたものが用いられてきた。
しかしながら、従来の伝動ベルトにおいて、ガラス繊維コードに被覆材を塗布したゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとの初期の接着強さは得られたが、伝動ベルトとしての多湿高温下で長時間走行させた後において、走行前の引っ張り強度を持続し、寸法変化のない優れた耐水性および耐熱性を併せ持つものがないと言う問題があった。
特許文献1、特許文献2、特許文献3または特許文献4に記載されているゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムの中に埋設してなる従来の伝動ベルトに比較して、同等以上のゴム補強用ガラス繊維と耐熱ベルトの接着強さを有し、伝動ベルトに水をかけつつ長時間走行させても被覆層が初期の接着強さを持続する耐水性加え、高温下において長時間走行させても被覆層が初期の接着強さを持続する耐熱性を併せ持つ伝動ベルトおよびそれを与えるゴム補強用ガラス繊維の開発が待たれている。
本出願人の特許出願に関わる特許文献5には、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂とビニルピリジン−スチレンーブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンとを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液が開示されている。
本出願人の特許出願に関わる特許文献6には、特許文献5に記載のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布し1次被覆層とし、その上層にハロゲン含有ポリマーとビスアリルナジイミドを含有する2次被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマーとマレイミドを含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマー、有機ジイソシアネートおよびメタクリル酸亜鉛とを含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、および該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマーとトリアジン系化合物を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
また、特許文献7において、レゾルシン−クロロフェノール−ホルムアルデヒド樹脂を組成物とするガラス繊維用含浸剤が開示されており、レゾルシン−クロロフェノール−ホルムアルデヒド樹脂は、レゾルシン、クロロフェノールおよびホルムアルデヒドを水溶液として反応して得られる水溶性付加縮合物であり、固形分約20重量%の水溶液として、バルカボンドEの商標名でICI社より入手できるとされており、水溶性のレゾルシン−クロロフェノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いている。
特公平2−4715号公報
特許第3201330号公報
特開2004−203730号公報
特開2004−244785号公報
特開2006−104595号公報
WO/2006/038490
特許2693592号公報
従来、ガラス繊維被覆用塗布液に使用されてきたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と比較して、クロロフェノールにホルムアルデヒドを反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は水に対する溶解性が低い。一旦、水に溶解したとしても液安定性が悪くクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は析出し易いので、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物はガラス繊維被覆用塗布液に使用されていない。
このように、クロロフェノールにホルムアルデヒドを反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は水に対する溶解性が低く、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が沈殿した状態の反応液にアルカリ等を加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が沈殿を水に溶解させたとしても、その後、ガラス繊維被覆用塗布液調製のために、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンおよび/またはクロロスルホン化ポリエチレンエマルジョンと混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が再度析出するという問題があった。
そこでクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿した反応液に水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンおよび/またはクロロスルホン化ポリエチレンエマルジョンと混合してガラス繊維被覆用塗布液を調製するとクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が析出することはない。しかしながら、水酸化ナトリウムが強アルカリであるため、該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆したガラス繊維コード自体が侵されて、ガラス繊維コードに該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆してなるゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強度が低下するという問題があった。
本発明は、従来と同等以上のガラス繊維コードと母材ゴムの接着強さを与えるガラス繊維被覆用塗布液を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、従来の伝動ベルトに比較して、伝動ベルトに水をかけつつ長時間走行させても被覆層が初期の接着強さを持続する耐水性加え、高温下において長時間走行させても被覆層が初期の接着強さを持続する耐熱性を併せ持つ伝動ベルトそれを与えるガラス繊維被覆用塗布液およびゴム補強用ガラス繊維、該ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させてなる伝動ベルトを提供することを目的とする。
本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、アミン化合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させてなることをガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿した反応液にアミン化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)水溶液にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させて得られた。
即ち、発明者らが鋭意検討を行った結果、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、水酸化ナトリウム等の強アルカリに替えて、アミン化合物を加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させると、ガラス繊維被覆用塗布液を調製する際に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョン、クロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンを加え混合したとしても、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出しないことがわかった。
即ち、本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、アミン化合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させてなることを特徴とするガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アミン化合物の塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アミン化合物を加える量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、50重量%以上、500重量%以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。言い換えれば、加えるアミン化合物の重量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、1/2以上、5倍以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、アミン化合物にメチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メタノ−ルアミン、ジメタノ−ルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノ−ルアミンを用いたことを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、クロロフェノール(D)に対するホルムアルデヒド(E)のモル比を、E/D=0.5以上、3.0以下としたことを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B+C)=1.0%以上、15.0%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)がB/(A+B+C)=45.0%以上、82.0%以下、クロロスルホン化ポリエチレン(C)がC/(A+B+C)=3.0%以上、40.0%以下の範囲に含まれてなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、前記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を、スチレン−ブタジエン共重合体(G)に、重量百分率で表して、G/B=5.0%以上、80.0%以下の範囲で替えてなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに,本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、アミン化合物を加えて溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液の製造方法である。
また、本発明は、上記のガラス繊維被覆用塗布液を塗布後、乾燥させたゴム補強用ガラス繊維に、クロロスルホン化ポリエチレン(C)と、重量百分率で表してI/C=0.3%以上、10.0%以下のビスアリルナジイミド(I)を有機溶剤に分散させたガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布し、更なる2次被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維である。
さらに、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させてなることを特徴とする伝動ベルトである。
さらに、本発明は、耐熱ゴムが水素化ニトリルゴムであることを特徴とする上記の伝動ベルトである。
本発明により、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿に、アミン化合物を加え溶解させたことで、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)水溶液とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させた際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出することがなく、ガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液が得られた。
本発明によるガラス繊維被覆用塗布液を塗布しガラス繊維コードに被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維は、耐熱ゴムである、例えば、硫黄により、または過酸化物により架橋されたHNBRへ埋設した際に、ガラス繊維とHNBRとに優れた接着強さを与える。
さらに、HNBRへ埋設して伝動ベルトとした際に耐熱性を与えたことで、耐水性および耐熱性を併せ持たせ、高温多湿下における伝動ベルトとしての長時間の使用後、言い換えれば、走行後において、ガラス繊維と耐熱ゴムの界面が剥離する懸念がなく該伝動ベルトは引っ張り強さを維持し寸法安定性に優れる。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液を塗布しガラス繊維コードに被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維は、耐熱ゴムである、例えば、硫黄により、または過酸化物によりHNBRへ埋設した際に、従来のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)とを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維被覆用塗布液を用いた場合と同等のゴム補強用ガラス繊維とHNBRとの優れた接着強さを有する。
本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、アミン化合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させてなることをガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿した反応液にアミン化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)水溶液にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させて得られた。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、前記アミン化合物には、塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であるアミン化合物を用いる。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿した前記反応液に、塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であるアミン化合物を加えたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合させて調製する。
塩基性度定数(Kb)とは、アルカリが水素イオンを溶液から受け入れる度合いを測定し、塩基性度として表したものであり、化1の式の平衡定数である。
例えば、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を水に溶解させる場合には、通常、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿した反応液にアンモニアまたは水酸化ナトリウム等のアルカリを加える。
しかしながら、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させるために、アンモニアのように塩基性度定数(Kb)が小さいアルカリを加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合するとクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出する。
また、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を水に溶解させるために、水酸化ナトリウムのように塩基性度定数(Kb)が大きいアルカリを加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合すると、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の析出することが抑制される。しかしながら、水酸化ナトリウムは強アルカリであるため、ガラス繊維を劣化させて、引っ張り強度を弱めてしまい使用し難い。
ところが、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿した反応液にアミン化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の析出が起こり難く、ガラス繊維を劣化させて、引っ張り強度を弱めてしまうことがないことがわかった。
即ち、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)の混合水溶液に水酸化ナトリウムを縮合反応に必要な量のみを加え、余分に加えないで、30℃以上、95℃以下に加熱して、4時間以上、攪拌しつつ縮合反応させて得られたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液にアミン化合物を加え、さらに攪拌することによって該沈殿を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を得る。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液にアミン化合物を加えて該沈殿を溶解後も析出なきよう安定させるために、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)にアミン化合物を加える際に用いるアミン化合物の塩基性度定数(Kb)は5×10−5以上、1×10−3以下である。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加えるアミン化合物の塩基性度定数(Kb)が5×10−5より小さいと、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとを混合すると、クロロフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)が経時により析出する、1×10−3より大きいとガラス繊維被覆用塗布液とし、ガラス繊維コードに被覆し耐熱ゴムに埋め込み際のガラス繊維コードと耐熱ゴムの接着性に劣る。
アミン化合物を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、50.0重量%以上、500.0重量%以下である。言い換えれば、加えるアミン化合物の重量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、1/2以上、5倍以下である。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、アミン化合物を加える量が50.0重量%より少ないと、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させる効果がなく、500.0重量%より多く含有させる必要はない。アミン化合物を加える量が500.0重量%より多くなると、ガラス繊維コードの被覆におけるクロロフェノール−ホルムアルデヒド(A)およびビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンとの含有割合が低下し、ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布してなるゴム補強用繊維が柔軟でなくなる。
尚、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)と水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を擁する反応液を加熱蒸発して固形分濃度として求められる。この際、未反応のクロロフェノール(D)およびホルムアルデヒド(E)は揮発除去される。
本発明において、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加えるアミン化合物にはメチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メタノ−ルアミン、ジメタノ−ルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノ−ルアミンが挙げられる。この中でも、ジメチルアミンおよびジエチルアミンは価格が安く入手し易いこと、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンはアミン特有の臭いがなく取り扱いが容易であることより本発明のガラス繊維被覆用塗布液に用いるに特に好ましいアミン化合物である。これらアミン化合物の塩基性度定数(Kb)は、有機化学(中)第3版(東京化学同人)および有機化学用語辞典(第2刷)朝倉書店、167頁〜175頁等に示されており、ジメチルアミンの塩基性度定数(Kb)は5.4×10−4、ジエタノールアミンの塩基性度定数(Kb)は1.0×10−4.5である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、用いるクロロフェノール−ホルムアルデヒド樹脂(A)としては、クロロフェノール(D)に対するホルムアルデヒド(E)のモル比が0.5以上、3.0以下、即ち、E/D=0.5〜3.0で、塩基性の触媒で反応させたレゾール型樹脂を用いることが好ましい。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、ホルムアルデヒド(E)のモル比が0.5未満では、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムとの接着強さに劣り、3.0を越えるとガラス繊維被覆用塗布液が、ゲル化し易い。このようにクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の、クロロフェノール(D)に対するホルムアルデヒド(E)のモル比を、E/D=0.5以上、3.0以下とすることが好ましい。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B+C)=1.0%以上、15.0%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)がB/(A+B+C)=45.0%以上、82.0%以下、クロロスルホン化ポリエチレン(C)がC/(A+B+C)=3.0%以上、40.0%以下の範囲に含まれてなる事が好ましい。
詳しくは、本発明のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布被覆したゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設して作製した伝動ベルトにおいて、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムに所望の接着強さを得るには、ガラス繊維被覆用塗布液に含まれるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)とを合わせた重量を100%基準とする重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)がが、A/(A+B+C)=1.0%以上、15.0%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=45.0%以上、82.0%以下、クロロスルホン化ポリエチレン(C)が、C/(A+B+C)=3.0%以上、40.0%以下の範囲で含まれることが好ましい。また、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の一部をモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物および/またはレゾルシンーホルムアルデヒド縮合物に置き換えても良く、ゴム補強用繊維に柔軟性を与える等の効果がある。
本発明のゴム補強用ガラス繊維に用いるガラス繊維被覆用塗布液の組成物の一つであるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の一部を、他のゴムエラストマーに替えても良い。ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のみでは、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れたりして作業性が悪くなる。他のゴムエラストマーとしてカルボキシル基変性スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム等も挙げられるが、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体との相性、言い換えれば相溶性が良いスチレン−ブタジエン共重合体(G)が特に好適に使用され、本発明のゴム補強用ガラス繊維の特徴である母材ゴムとの接着性、および母材ゴムとしての耐熱ゴムに埋設し伝動ベルトとした際の耐熱性を損なわない。
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を、スチレン−ブタジエン共重合体(G)に替えるに好ましい範囲は、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、G/B=5.0%以上、80.0%以下の範囲である。スチレン−ブタジエン共重合体(G)が5.0%未満では、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ、被覆層が転写し易くなることを抑制する効果がない。好ましくは、25.0%以上である。スチレン−ブタジエン共重合体(G)が80.0%を超えると、母材ゴムとの接着性および母材ゴムとしての耐熱ゴムに埋設し、伝動ベルトとした際の耐熱性が失われる。好ましくは、55.0%以下である。
このようなスチレン−ブタジエン共重合体(G)として、例えば、日本エイアンドエル株式会社から、商品名、J−9049が市販されており、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層を形成するためのガラス繊維被覆用塗布液に使用される。
尚、本発明のガラス繊維被覆用塗布液の組成物として用いるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)には、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの比が、重量比で10〜20:10〜20:80〜60の範囲で重合させてなるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を用いることが好ましく、市販の日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、JSR株式会社製、商品名、0650、および日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番、1218FS等が挙げられる。尚、前記重量比を外れたビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体を用いたガラス繊維被覆用塗布液を使用した後、塗布後乾燥させてガラス繊維コードに被覆を施し作製したゴム補強用ガラス繊維は、母材ゴムとの接着強さに劣る。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液の組成物として用いるクロロスルホン化ポリエチレン(C)は、重量百分率で表して、塩素含有量が20.0%〜40.0%、スルホン基中の硫黄含有量が0.5%〜2.0%のものが好適に用いられ、例えば、固形分約40重量%のラテックスとして、住友精化株式会社製、商品名、CSM−450が市販されており、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用される。尚、前述の塩素含有量及びスルホン基中の硫黄含有量を外れたクロロスルホン化ポリエチレン(C)を用いたガラス繊維被覆用塗布液を使用し、ガラス繊維コードに被覆を施し作製したゴム補強用ガラス繊維は、耐熱ゴムであるHNBRとの接着性に劣る。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液には、老化防止剤、pH調整剤、安定剤等を含有させても良い。老化防止剤にはジフェニルアミン系化合物、pH調整剤にはアンモニアが挙げられる。
また、従来、耐熱性の伝動ベルトは、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンからなるガラス繊維被覆用塗布液を用いガラス繊維コードに塗布乾燥させたゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムとしてのHNBRに埋設し作製された。また、該ゴム補強用ガラス繊維に更なる2次被覆層を設け耐熱ゴムとしてのHNBRに埋設し作製された。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布後、乾燥させて被覆層としたゴム補強用ガラス繊維に、さらにクロロスルホン化ポリエチレン(C)とビスアリルナジイミド(I)とを有機溶剤に分散させたガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布し、2次被覆層を設けることが好ましい。2次被覆層を設け、種々の母材ゴム、特にHNBR等の耐熱ゴムに埋設し伝動ベルトとすると、ガラス繊維コードと母材ゴムの優れた接着性が得られ、本発明のゴム補強用ガラス繊維は伝動ベルトの補強材として有効に働く。さらに、前記伝動ベルトは、高温多湿の環境下における長時間の使用において、被覆層が初期の接着強さを持続し且つ寸法安定性に優れ、即ち、耐熱性および耐水性に優れる。有機溶剤としては、例えば、キシレンが挙げられる。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布乾燥させてゴム補強用ガラス繊維とするが、従来の伝動ベルトに比較して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、アミン化合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)のエマルジョンとを混合させた本発明のガラス繊維被覆用塗布液を用い、ガラス繊維コードに塗布乾燥させ1次被覆層を設けた後、クロロスルホン化ポリエチレン(C)を100%基準として、ビスアリルナジイミド(I)を、重量百分率で表して、I/C=0.3%以上、10.0%以下の範囲で加え、有機溶剤に分散させたガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布し、更なる2次被覆層を設けてなる本発明のゴム補強用ガラス繊維をHNBRに埋設し作製した伝動ベルトは、多湿下および高温下おける長時間の走行後も、被覆層によるガラス繊維とHNBRの初期の接着強さが持続され、引っ張り強さを持続し寸法安定性に優れており、耐水性、耐熱性を併せ持つ。
ビスアリルナジイミド(I)の含有が、I/C=0.3%より少ないと、前述の優れた耐熱性が得難い。I/C=10.0%を超えると、ガラス繊維コードと母材ゴムとの接着強さが弱くなり作製した伝動ベルトは、耐久性に劣る。
ビスアリルナジイミド(I)は熱硬化性イミドの一種であり、低分子量のビスアリルナジイミド(I)は他の樹脂との相溶性に優れており、硬化後のビスアリルナジイミド樹脂は、ガラス転移点が300℃以上で、前記伝動ベルトの耐熱性を高める効果がある。
ビスアリルナジイミドは、その硬化前において化2の構造式で表され、化2の構造式のアルキル基は、化3または化4の構造式などで示され、特に、N−N'−ヘキサメチレンジアリルナジイミドが好適に使用される。
ビスアリルナジイミド(I)は、丸善石油化学株式会社よりBANI−M、BANI−H、BANI−X等の商品名で市販され好適に使用される。本発明のゴム補強用ガラス繊維に耐熱性を与えるためには、2次被覆の組成物として、クロロスルホン化ポリエチレン(C)を用いることが好ましく、さらに、加硫剤としてのニトロソ化合物、例えば、p−ニトロソベンゼン、無機充填剤、例えばカーボンブラックまたは酸化マグネシウムを前記ガラス繊維2次被覆用塗布液に添加し、ゴム補強用ガラス繊維に2次被覆層に加えることは、該ゴム補強用ガラス繊維をゴムに埋設して作製した伝動ベルトの耐熱性を高める一層の効果がある。ガラス繊維2次被覆用塗布液に、塗布液中のクロロスルホン化ポリエチレン(C)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、加硫剤を0.5%以上、20.0%以下、無機充填材を10.0%以上、70.0%以下の範囲で添加すると、作製した伝動ベルトは、いっそうの耐熱性を発揮する。加硫剤の含有が0.5%より少ない、無機充填材の含有が10.0%より少ないと耐熱性を向上させる効果が発揮されず、加硫剤を、20.0%を超えて、無機充填材を、70.0%を超えて加える必要はない。
このように、本発明のゴム補強用ガラス繊維は、従来のゴム補強用ガラス繊維に比較して、耐熱ゴム、例えばHNBRに埋設して伝動ベルトとした際に、ガラス繊維コードへの耐熱性を向上させることで伝動ベルトに優れた耐熱性を与え、耐水性および耐熱性を併せ持たせる。
尚、本発明において、伝動ベルトとは、エンジン、その他機械を運転するために、エンジン、モーター等の駆動源の駆動力を伝えるベルトのことであり、かみ合い伝動で駆動力を伝える歯付きベルト、摩擦伝動で駆動力を伝えるVベルトが挙げられる。
また、自動車用伝動ベルトとは自動車のエンジンルーム内で用いられる耐熱性の前記伝動ベルトのことである。
タイミングベルトとは、前記自動車用伝動ベルトの中で、カムシャフトを有するエンジンにおいて、クランクシャフトの回転をタイミングギヤに伝えカムシャフト駆動させバルブの開閉を設定されたタイミングで行うための、プーリーの歯とかみ合う歯を設けた歯付きベルトのことである。自動車用伝動ベルトには、エンジンの熱に対する耐熱性と雨天走行における耐水性が必要であり、高温下および多湿下での長時間の走行後において、引っ張り強さを持続し寸法安定性に優れていること、即ち、耐熱性および耐水性が要求される。本発明のガラス繊維被覆用塗布液、該ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布してなるゴム補強用ガラス繊維、該ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設してなる伝動ベルト、例えばHNBRに該ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなるタイミングベルトは耐熱性および耐久性に優れる。
クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液に、アミン化合物を加え、該沈殿を溶解させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)水溶液にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレン(C)エマルジョンを混合させてなる本発明のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布後乾燥させ、さらに、ハロゲン含有ポリマー(G)とビスアリルナジイミド(I)とを有機溶剤に分散させたガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布し被覆層としたゴム補強用ガラス繊維を作製した。(実施例1〜4)
次いで、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維を作製した。(比較例1〜3)。これら本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜4)、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)の耐熱ゴムに対する接着強さ評価試験を行い、評価結果を比較した。
また、これら、本発明のゴム補強用ガラス繊維、または従来のゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させた伝動ベルトを作製した。次いで、これら伝動ベルトをプーリーにセットして、耐水性を評価するために、伝動ベルトに水をかけつつ長時間の走行させて、被覆層が初期の接着強さを持続した結果として長時間走行後も引っ張り強さが変化せず、寸法安定性に優れることことを評価するための耐水走行疲労性能評価試験を行い、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜4)を埋設した伝動ベルト、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)を埋設した伝動ベルトにおける評価結果を比較した。また、耐熱性を評価するために、伝動ベルトに高温下複数のプーリーを用いて、長時間の屈曲走行をさせて、被覆層が初期の接着強さを持続した結果として長時間走行後も引っ張り強さが変化せず、寸法安定性に優れることことを評価するための耐熱耐屈曲走行疲労性能評価試験を行い、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例2、4)を埋設した伝動ベルト、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1、2)を埋設した伝動ベルトにおける評価結果を比較した。
以下、詳細に説明する。
実施例1
(本発明のガラス繊維被覆用塗布液の調製)
最初に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の合成について述べる。還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール(D)、128重量部、37.0重量%の濃度のホルムアルデヒド(E)水溶液、80重量部(モル比で表せば、E/D=1.0)、濃度、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、ジメチルアミンを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を作製した。尚、ジメチルアミンの塩基性度定数(Kb)は5.4×10−4である。この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準として、ジメチルアミンを加えた量は200重量%であった。即ち、重量比で、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に対して、ジメチルアミンを2倍になるように加えた。
尚、1.0重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とするための触媒として縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。
尚、クロロフェノール(D)には、P−クロロフェノールを用いた。
次いで、前述の手順で合成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を用い、市販のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと、クロロスルホン化ポリエチレン(C)のエマルジョンとにアンモニア水と水を添加し、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
詳しくは、ジメチルアミンを添加して溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液、42重量部に、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエンを、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエン=15:15:70の重量比となるように重合したビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)のエマルジョンとしての日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス(固形分濃度、41.0重量%)476重量部と、クロロスルホン化ポリエチレン(C)のエマルジョンとしての住友精化株式会社製、商品名、CSM450(固形分濃度、40.0重量%)206重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0重量%)22重量部とに、全体として1000重量部になるように水を添加して、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
ガラス繊維被覆用塗布液中の各成分の含有割合は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)を合わせた重量を100%基準とする重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=3.6%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=67.8%、クロロスルホン化ポリエチレン(C)が、C/(A+B+C)=28.6%である。尚、ガラス繊維被覆用塗布液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、クロロスルホン化ポリエチレン(C)の重量は、前記ピラテックスおよびCSM450の固形分濃度から、固形分に換算して求めた。
(本発明のゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、クロロスルホン化ポリエチレン(C)と、p−ジニトロベンゼンと、ビスアリルナジイミド(I)に属するヘキサメチレンジアリルナジイミドとに、カーボンブラックを加え、キシレンに分散させた、本発明のゴム補強用ガラス繊維に2次被覆層を設けるためのガラス繊維2次被覆用塗布液を調製した。
詳しくは、クロロスルホン化ポリエチレン(C)として東ソー株式会社製、商品名、TS−430、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、N−N'−ヘキサメチレンジアリルナジイミドとしての丸善石油化学株式会社製、商品名、BANI−H、0.3重量部とに、カーボンブラック、30重量部を加え、キシレン、1315重量部に分散させてガラス繊維2次被覆用塗布液を調製した。即ち、クロロスルホン化ポリエチレン(C)の重量に対して、ビスアリルナジイミド(I)に属するN−N'−ヘキサメチレンジアリルナジイミドをI/H=0.3重量%、加硫剤であるp−ジニトロベンゼンを40重量%、無機充填材であるカーボンブラックを30.0重量%となるようにしてガラス繊維2次被覆用塗布液を調製した。
径9μmのガラス繊維フィラメントを200本集束したガラス繊維コード3本を引き揃えた後、前述の手順で作製したガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、その後、温度、280℃下で、22秒間乾燥させて被覆層を設けた。
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維束の全重量に対して19.0重量%であった。
前記被覆層を設けたガラス繊維コードを、2.54cm当たり2.0回の下撚りを与え、さらに13本引き揃えて下撚りと逆方向に2.54cm当たり2.0回の上撚りをする作業を施した。その後、前述の手順で作製したガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布した後、110℃で1分間の乾燥を行い、2次被覆層を設け、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1)を作製した。このようにして、下練りと上練りの方向を各々逆方向とした2種類のゴム補強用ガラス繊維を作製した。各々、S練り、Z練りと称する。
この時の固形分付着率、即ち、2次被覆層の重量割合は、1次および2次被覆層を設けたガラス繊維束の重量に対して、3.5重量%であった。
実施例2
実施例1のガラス繊維被覆用塗布液に対して、前記クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の添加量を83重量部、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の重量割合となるように重合してなるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0重量%)の添加量を451重量部に変えた以外は、実施例1と同様に本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。即ち、ガラス繊維被覆用塗布液中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)を合わせた重量を100%基準として、重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=64.2%、クロロスルホン化ポリエチレン(C)が、C/(A+B+C)=28.6%とした。
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様のガラス繊維2次被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ガラス繊維コードに更なる2次被覆層を設け本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例2)を作製した。
実施例3
実施例1のガラス繊維被覆用塗布液に対して、前記クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の添加量を124重量部、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の重量割合となるように重合してなるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)エマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0重量%)の添加量を426重量部に変えた以外は、実施例1と同様に、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。即ち、ガラス繊維被覆用塗布液中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)を合わせた重量を100%基準として、重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=10.8%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=60.6%、クロロスルホン化ポリエチレン(C)が、C/(A+B+C)=28.6%となるよう調整した。
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様のガラス繊維2次被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ガラス繊維コードに更なる2次被覆層を設け本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例3)を作製した。
実施例4
還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール(D)、128重量部、37.0重量%の濃度のホルムアルデヒド(E)水溶液、80重量部(モル比で表せば、E/D=1.0)、濃度、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、ジエタノールアミンを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を作製した。尚、ジエタノールアミンの塩基性度定数(Kb)は1.0×10−4.5である。この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準として、ジエタノールアミンを加えた量は200重量%であった。即ち、重量比で、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に対して、ジエタノールアミンを2倍になるように加えた。
尚、濃度、1.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とするための触媒として縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。尚、クロロフェノール(D)には、P−クロロフェノールを用いた。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)からなる沈殿物を、ジエタノールアミンを加えて溶解した以外は、実施例1と同様の手順で作業を行いクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の液を作製した。
ガラス繊維被覆用塗布液に対して上記で作製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の添加量を83重量部、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の重量割合となるように重合したビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41重量%)の添加量を451重量部に変えた以外は、実施例1と同様に本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。即ち、ガラス繊維被覆用塗布液中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)を合わせた重量を100%基準として、重量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=64.2%、クロロスルホン化ポリエチレン(C)が、C/(A+B+C)=28.6%となるように調整した。
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様のガラス繊維2次被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ガラス繊維コードに更なる2次被覆層を設け本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例4)を作製した。
比較例1
従来のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)とからなるゴム補強用ガラス繊維塗布液を調製した。
実施例1と異なり、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に替えてレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物(レゾルシンとホルムアルデヒドとのモル比、1.0:1.0で反応させたもの、固形分、8.7重量%)を239重量部使用し、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の重量割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0重量%)の添加量を451重量部に変えた以外は、実施例1と同様にガラス繊維被覆用塗布液を調製し、実施例1に示した手順で、従来のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。即ち、ガラス繊維被覆用塗布液中のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)を合わせた重量を100%基準として、重量百分率で表して、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体が64.2%、クロロスルホン化ポリエチレンが28.6%、となるように調整した。
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様のガラス繊維2次被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ガラス繊維コードに更なる2次被覆層を設けゴム補強用ガラス繊維(比較例1)を作製した。
比較例2
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物を水酸化ナトリウムで溶解した以外は実施例1と同じガラス繊維被覆用塗布液を用い、1次層を作製した。次いで、実施例1と同様のガラス繊維2次被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ガラス繊維コードに更なる2次被覆層を設けゴム補強用ガラス繊維(比較例2)を作製した。
比較例3
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物をアンモニアで溶解した以外は実施例1と同じガラス繊維被覆用塗布液を作製したが、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の析出がおこり塗布することができなかった(比較例3)。
(接着強さの評価試験)
接着強さの評価試験を説明する前に、試験に使用した耐熱ゴムを説明する。
母材ゴムとしてのHNBR(日本ゼオン株式会社製、型番、2020)、100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、硫黄、0.4重量部と、加硫促進剤、2.5重量部と、老化防止剤、1.5重量部とを配合してなるHNBRを架橋した耐熱ゴム(以後、耐熱ゴムAとする)、またHNBR(日本ゼオン株式会社製、型番、2010)、100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、1、3−ジ(t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、5重量部と、老化防止剤、1.5重量部とを配合してなるHNBRを架橋した耐熱ゴム(以後、耐熱ゴムBとする)を接着強さの評価試験に使用した。
試験片は耐熱ゴムAまたは耐熱ゴムBからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記ゴム補強用ガラス繊維コード(実施例1〜4、比較例1〜2)を20本並べ、その上から布をかぶせ、耐熱ゴムAについては、温度、150℃下、196ニュートン/cm2
(以後、ニュートンをNと略す)、また耐熱ゴムBについては、温度、170℃下、196N/cm2の条件で端部を除き押圧し、30分間加硫させつつ成形して、接着強さ評価
のための試験片、言い換えればゴムシートを得た。この試験片の接着強さの測定を、端部において各々のゴムシートとゴム補強用ガラス繊維を個別にクランプにて挟み、剥離速度を50mm/minとし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を測定し、剥離強さとした。剥離強さが大きいほど接着強さに優れる。
(接着強さの評価結果)
接着強さの評価結果を表1に示す。
表1において、ガラス繊維とゴムが界面から剥離していない破壊状態をゴム破壊とし、界面から一部のみでも剥離している破壊状態を界面剥離とした。ゴム破壊の方が、界面剥離より接着強さに優れる。
実施例1の本発明のゴム補強用ガラス繊維は、表1に示すように、剥離強さを測定した
ところ、耐熱ゴムAについては318Nであり、耐熱ゴムBについては284Nであり、双方のゴムに対して接着性は良好であり、接着強さに優れていた。
実施例2の本発明のゴム補強用ガラス繊維は、表1に示すように、剥離強さを測定した
ところ、耐熱ゴムAについては321Nであり、耐熱ゴムBについては317Nであり、双方のゴムに対して接着性は良好であり、接着強さに優れていた。
実施例3の本発明のゴム補強用ガラス繊維は、表1に示すように、剥離強さを測定した
ところ、耐熱ゴムAについては325Nであり、耐熱ゴムBについては302Nであり、双方のゴムに対して接着性は良好であり、接着強さに優れていた。
実施例4の本発明のゴム補強用ガラス繊維は、表1の実施例4に示すように、耐熱ゴムAについては343Nであり、耐熱ゴムBについては345Nであり、双方のゴムに対して接着性は良好であり、接着強さに優れていた。
また、破壊状態は、本発明の実施例1〜4のゴム補強用ガラス繊維は、表1の実施例1〜4に示すように、耐熱ゴムAを使用した場合、耐熱ゴムBを使用した場合ともにゴム破壊であり、接着強さに優れていた。
比較例1の本発明の範疇に属さないゴム補強用ガラス繊維は、実施例1と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価を行ったところ、表1の比較例1に示すように、耐熱ゴムAについては323N、耐熱ゴムBについては314Nであり、双方のゴムに対して接着特性は良好でであり、接着強さに優れていた。破壊状態は、耐熱ゴムAを使用した場合、耐熱ゴムBを使用した場合、ともに破壊状態はゴム破壊であり、接着強さに優れていた。
比較例2の本発明の範疇に属さないゴム補強用ガラス繊維は、実施例1と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価を行ったところ、表1の比較例2に示すように、耐熱ゴムAについては315N、耐熱ゴムBについては312Nであり、双方のゴムに対して接着特性は良好でであり、接着強さに優れていた。破壊状態は、耐熱ゴムAを使用した場合、耐熱ゴムBを使用した場合、ともに破壊状態はゴム破壊であり、接着強さに優れていた。
(耐水性評価)
実施例1、2、4および比較例1〜2で作製したゴム補強用ガラス繊維を補強材として、母材ゴムに前記耐熱ゴムBを用い、巾19mm、長さ876mmの伝動ベルトを各々作製し、耐水性を評価するための耐水走行疲労試験を実施した。耐水性は、注水下、伝動ベルトを、歯車、即ち、プーリーを用いて走行させ、一定時間経過の引っ張り強さ保持率、即ち、耐水走行疲労性能で評価する。
図1は、ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させて作製した伝動ベルトを切断した際の斜視図である。
伝動ベルト1はプーリーに噛み合わせるための高さ3.2mmの突起部1Aを多数有し、突起部を除く背部1Bの厚みが2.0mmで、伝動ベルトの該背部1Bには、断面に見られるように上撚りと下撚りの練り方向が異なるS撚り、6本Z撚り、6本、合わせて12本の各ゴム補強用ガラス繊維2が、S撚りとZ撚りとが交互になるように埋設されている。
図2は、伝動ベルトの耐水走行疲労試験機の概略側面図である。
図2に示すように、各々の伝動ベルト1を図示しない駆動モーターと発電機を備えた耐水走行疲労試験機に装着し耐水性を測定する。
伝動ベルト1は駆動モーターにより回転駆動される駆動プーリー3の駆動力により、従動プーリー4および5を回転させつつ走行する。従動プーリー5には図示しない発電機に連結されており、発電機を駆動し1kwの電力を発生させる。アイドラー6は、耐水走行疲労試験における走行中に回転しつつ伝動ベルト1を張る役割を有し、伝動ベルト1を張るための荷重として500Nを伝動ベルト1に与える。従動プーリー4、5は、径、60mm、歯数、20Tであり、駆動プーリー3は、径120mmであり、歯数、40Tである。耐水走行疲労試験中の駆動プーリー3の1分間あたりの回転数は、3000rpm、従動プーリー4、5の1分間あたりの回転数は、6000rpmである。回転方向は、伝動ベルト1に平行な矢印で示す。
常温において、図2に示すように、1時間当たり6000mlの水7を、駆動プーリー3と従動プーリー4の間において、伝動ベルト1に均等に滴下させつつ、駆動プーリー3を3000rpmで回転させ、伝動ベルト1を従動プーリー4および5、アイドラー6を用いて走行させた。このようにして、36時間、伝動ベルト1を走行させる耐水走行疲労試験を実施した。耐水走行疲労試験前の伝動ベルト1の引っ張り強さ、および耐水走行疲労試験後の引っ張り強さを測定し、数1の式により試験前に対する試験後の伝動ベルト1の引っ張り強さ保持率を求め、実施例1、2、4及び比較例1〜3のゴム補強用ガラス2を用いて作製した伝動ベルト1の耐水性を比較評価した。
(引張り強さ測定)
引張り強さ測定に供する試験片の長さは257mmであり、1本の伝動ベルトから3本切り取り得られる。これら試験片の端部各々をクランプ間距離145mmのクランプにてはさみ、引張り速度を50mm/分とし、ベルトが破壊されるまでの最大の抵抗値を引張り強さとした。1本のベルトから3回、抵抗値を測定し、その平均値を伝動ベルトの引張り強さとした。なお、試験前の引っ張り強さは、同様に作製した10本のベルトから各3回、引張り強さを測定して、その平均値を初期値として用いた。
尚、引っ張り強さ保持率は数2の式により算出した。
各々の伝動ベルトの耐水走行疲労試験後の引張り強さ保持率を表2に示す。
表2に示すように、実施例1、2、4及び比較例2のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)とを組成物としたガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布乾燥させた被覆層および更なる2次被覆層を有するのゴム補強用ガラス繊維2を用いた伝動ベルト1の走行試験後の引っ張り強さ保持率は、実施例1のゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は67%であり、実施例2のゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は62%であり、実施例4のゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は68%であり、比較例2のゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は68%であったが、試験前の引っ張り強さが、実施例1、2、3の1100Nに対して750Nであり、初期より引っ張り強度が弱くなっていた。
それに対して、比較例1に示すように、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を用いない替わりにレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を用いて作製した、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(C)とを組成物としたガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布乾燥させた被覆層および更なる2次被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維2の引っ張り強さ保持率は、比較例1のゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は47%であり、耐水性に劣っていた。
この耐水走行疲労試験の結果より、従来のゴム補強用ガラス繊維2に比較して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、クロロスルホン化ポリエチレン(C)とを組成物とした本発明のガラス繊維被覆用塗布液を塗布後乾燥させてなる被覆被覆層を有し、ビスアリルナジイミド(I)に属するN−N'−ヘキサメチレンジアリルナジイミド、クロロスルホン化ポリエチレン(C)と、p−ジニトロベンゼンとを組成物とした更なる2次被覆層を有した本発明のゴム補強用ガラス繊維2を用いた伝動ベルト1が優れた耐水性を有することが判った。(耐熱性評価)
次いで、実施例2、4及び比較例1、2で作製したゴム補強用ガラス繊維コードを補強材として、母材ゴムに前記耐熱ゴムBを用い、前述の耐水性評価と同様に、巾19mm、長さ876mmの伝動ベルトを各々作製し、耐熱性を評価するための耐熱耐屈曲走行疲労試験を実施した。耐熱性は、高温下、伝動ベルトを、複数の歯車、即ち、プーリーを用いて、屈曲させつつ走行させ、一定時間経過の引っ張り強さ保持率、即ち、耐熱耐屈曲走行疲労性能で評価する。
図3は、伝動ベルトの耐熱耐屈曲走行疲労試験機の概略側面図である。
図3に示すように、各々の伝動ベルト1を図示しない駆動モーターを備えた耐熱耐屈曲走行疲労試験機に装着し耐熱性を測定する。伝動ベルト1は駆動モーターにより回転駆動される駆動プーリー8の駆動力により、3個の従動プーリー9、9´、9〃を回転させつつ走行する。アイドラー10は、耐熱耐屈曲走行疲労試験における走行中に伝動ベルト1を張るためのもので、伝動ベルト1を張る役割を有し、伝動ベルト1を張るための荷重として500Nを伝動ベルト1に与える。駆動プーリー8は、径、120mm、歯数、40Tであり、従動プーリー9、9´、9〃は、径60mmであり、歯数、20Tである。耐熱耐屈曲走行疲労試験中の駆動プーリー8の1分間あたりの回転数は、3000rpm、従動プーリー9、9´、9〃の1分間あたりの回転数は、6000rpmである。回転方向は、伝動ベルト1に平行な矢印で示す。
温度、130℃の環境下で、図3に示すように、駆動プーリー8を、3000rpmで回転させ、伝動ベルト1を従動プーリー9、9´、9〃、アイドラー10を用いて屈曲させつつ走行させた。このようにして、500時間、伝動ベルト1を走行させ耐熱耐屈曲走行疲労試験を実施した。耐熱耐屈曲走行疲労試験前の伝動ベルト1の引っ張り強さ、および耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さを測定し、数2の式より試験前に対する試験後の伝動ベルト1の引っ張り強さ保持率を求め、実施例1〜2、比較例2のゴム補強用ガラス繊維2を用いて作製した伝動ベルト1の耐熱耐屈曲走行疲労性能、即ち、耐熱性を比較評価した。
各々の伝動ベルトの耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率を表3に示す。
表3に示すように、実施例2、4のゴム補強用ガラス繊維2を用い作製した伝動ベルト1の耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率は、各々96%、95%であり、比較例1のゴム補強用ガラス繊維2を用いた伝動ベルト1の、耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率、90%で 比較例2に至っては、走行中に破断した。
この耐熱耐屈曲走行疲労試験の結果より、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、クロロスルホン化ポリエチレン(C)とを組成物とした本発明のガラス繊維被覆用塗布液を塗布後乾燥させてなる被覆被覆層を有し、ビスアリルナジイミド(I)に属するN−N'−ヘキサメチレ
ンジアリルナジイミド、クロロスルホン化ポリエチレン(C)と、p−ジニトロベンゼンとを組成物とした更なる2次被覆層を有した本発明のゴム補強用ガラス繊維2を用いた伝動ベルト1が、優れた耐熱性を有することが判った。
実施例1〜4のゴム補強用ガラス繊維2はHNBRとの優れた接着強さを有し、実施例1〜4のゴム補強用ガラス繊維2を用い作製した伝動ベルトは、優れた耐水性、耐熱性を有することより、高温多湿下で長時間使用するタイミングベルト等の自動車用伝動ベルトの芯線として使用するに好適である。
本発明により、ガラス繊維コードと前記母材ゴムとしてのHNBRの接着に対し、好ましい接着強さを与えるガラス繊維コードの被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液を得て、さらに、ガラス繊維コードに該ガラス繊維塗布液を塗布後乾燥させて被覆し被覆層としたゴム補強用ガラス繊維を、HNBRに埋設し伝動ベルトとした際に優れた耐水性を与え、伝動ベルトに優れた耐水性と耐熱性を併せ持たせた。よって、エンジン、モーター等の駆動源の駆動力を伝えるための伝動ベルトに補強用として埋設し、特にタイミングベルト等の自動車用伝動ベルトに使用するために、HNBRに埋め込み、自動車用伝動ベルトとしての多湿高温下における引っ張り強さの維持および寸法安定性を与えるゴム補強用ガラス繊維として使用される。
ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させて作製した伝動ベルトを切断した際の斜視図である。
伝動ベルトの耐水走行疲労性能試験機の概略側面図である。
伝動ベルトの耐熱耐屈曲走行疲労性能試験機の概略側面図である。
符号の説明
1 伝動ベルト
1A 突起部
1B 背部
2 ゴム補強用ガラス繊維コード
3 駆動プーリー(駆動モーターに連結)
4 従動プーリー
5 従動プーリー(発電機に連結)
6 アイドラ−
7 水
8 駆動プーリー
9、9´、9〃 従動プーリー
10 アイドラ−