平ベルトを用いたベルト駆動装置においては、平ベルトが走行中に蛇行したり、プーリの片側に寄る片寄り走行をすることがある。これは、平ベルトが、他のベルトに比べて、プーリ軸の正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリの揺れなど、駆動装置の構成要素の変化に敏感なためである。このような蛇行・片寄り走行を生じた場合、平ベルトがプーリのフランジに接触して、該平ベルト側面の毛羽立ちや心線のほつれを生ずる。
この問題に対して、プーリの外周面にクラウンをつける(中高曲面に形成する)ことが知られている。また、プーリ外周面のクラウンを、該プーリの回転中心を中心とする球状に形成するという提案もある(特許文献1参照)。これは、平ベルトの左側部と右側部とに張力差を生じてプーリ軸が傾き、それに伴って平ベルトがプーリ上で片寄ったときに、平ベルトの張力によってプーリに回転モーメントが働くことを利用して、プーリ軸の傾き及び平ベルトの片寄りを解消せんとするものである。
また、プーリの外周面に多数の溝を周方向に間隔をおいて形成したものが知られている(特許文献2参照)。すなわち、その溝は、プーリの幅中央から両側へ「く」の字状になるように対称に延びたものであり、平ベルトとプーリとの間に平ベルトを中央に寄せるような摩擦力を発生させることにより、該ベルトの蛇行ないしは片寄りを防止するようにしている。
さらに、平ベルトの両側にガイドローラを配置し、この平ベルトの走行位置を規制することも知られている(特許文献3参照)。
しかし、プーリにクラウンを形成する場合、平ベルトの走行安定性(蛇行や片寄りの防止)を重要視してクラウンの曲率半径を小さくすれば、ベルトの幅中央に応力が集中し、ベルト幅全体を伝動に有効に利用することができず、心線の早期疲労及び伝動能力の低下を招く。
また、プーリのクラウンを該プーリの回転中心を中心とする球状に形成した場合、仮にベルトの片寄り防止の効果が高まるとしても、プーリのクラウンによってベルトの幅中央に応力が集中するという問題は依然として残る。
また、プーリに上述の如き溝加工をすると、該プーリの製造コストが高くなり、しかも、溝加工だけでは平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することは難しい。
さらに、平ベルトの両側にガイドローラ等を配置してその走行位置を規制する方式を採用すると、平ベルトの両側がそのような規制部材に常時接触することになるため、その側面のほころび、心線のほつれを生じ易くなる。従って、それらを防止するための平ベルトに特殊な加工を施すことが必要になり、平ベルトの製造コスト低減に不利になる。
以上のような理由から、平ベルトの駆動装置は、Vベルトなど他のベルトに比べて、ベルトの曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高いにも拘わらず、十分に活用されていないのが実情である。
これらを解消するベルト車として、例えば特許文献4には、ベルトが巻き掛けられる円筒状の回転体と、該回転体を回転中心軸周りに回転自在に支持すると共に、回転中心軸に直交する枢軸周りに揺動自在に支持する支持部材と、を備えたベルト車が開示されている。このベルト車は、その枢軸が回転中心軸に沿って見て、軸荷重の方向に対し、回転体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒させた状態で使用されるものであり、それによって、ベルトの片寄りに伴い軸荷重の位置が回転体の幅方向にずれたときには、その軸荷重によって回転体が枢軸周りに回動変位するようになる。そうして回転体は、軸荷重の方向に高低差を生ずるように傾斜してベルトに片寄り方向とは反対の方向への戻し力が働くと共に、ベルトに対し斜交いに接触した状態になり、これによりベルトをねじってその走行方向を回転体の幅の中央寄りに変えるようにしている。
実開昭59−45351号公報
特開平6−307521号公報
実公昭63−6520号公報
特許第3680083号公報
前記特許文献4に開示されたベルト車は、軸荷重の方向に対して枢軸の傾倒方向を回転体の回転方向の前側に設定することによって、ベルトの片寄ったときに、その片寄りが無くなる方向に回転体を回動変位させるようにしている。このため、このベルト車をベルトの走行方向が一方向に限定されたベルト駆動装置に適用した場合には、ベルトの蛇行や片寄りを防止することができ、有用である。
しかしながら、このベルト車を、例えばベルトの走行方向が切り替わるベルト駆動装置に適用した場合には、ベルトの走行方向の切り替わりに伴い枢軸の傾倒方向が、回転体の回転方向の前側ではなく回転方向の後側になってしまうため、ベルトが片寄ったときにそのベルトに当該片寄りを助長する方向に、回転体が回動変位することになる。その結果、ベルトの片寄りを防止することができなくなる。
本発明は、ベルトの走行方向の切り替わりに対応して、そのベルトの蛇行や片寄りを常に防止することができるようにせんとするものである。
本発明は、ベルトの走行方向の切り替わりに伴い、軸荷重の方向に対する枢軸の傾倒方向が切り替わるようにして、ベルトの片寄り走行・蛇行を常に防止することができるようにした。
すなわち、本発明の一側面によると、ベルト車は、ベルトが巻き掛けられる円筒状の回転体と、前記回転体を回転中心軸周りに回転自在に支持すると共に、該回転中心軸に直交する枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、少なくとも前記ベルトの走行時には、前記枢軸を、前記回転中心軸に沿って見て、軸荷重の方向に対し、前記回転体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒させると共に、前記ベルトの走行方向の切り替わりに応じて、前記枢軸の前記軸荷重の方向に対する傾倒方向を切り替える切替手段と、を備える。
前記切替手段は、前記回転体を前記枢軸と共に、前記回転中心軸に平行な所定の回動軸を中心として、前記枢軸が軸荷重の方向に一致する中立位置を挟んだ両側それぞれに回動可能に支持する回動手段と、前記回転体に所定の回転抵抗を付与する抵抗付与手段と、を有していて、前記ベルトの走行方向の切り替わりに伴い、前記回転抵抗が付与された回転体とベルトとの間の摩擦によって前記回転体に作用する該ベルトの走行方向の力により、前記回転体に対して前記回動軸周りのモーメントを発生させ、それによって前記回動手段に支持された回転体を前記枢軸と共に、前記切り替わり後のベルトの走行方向に向かって回動させて該枢軸の前記軸荷重の方向に対する傾倒方向を切り替える。
この構成によると先ず、ベルトが回転体上で片寄って、軸荷重が枢軸の位置から回転体の幅方向の片側にずれて作用するようになると、その軸荷重によって、回転体に枢軸を中心とする回転モーメントが働き、この回転体が枢軸周りに回転変位する。
前記枢軸は、ベルトの走行方向の手前側に所定の傾倒角で傾倒しているため、回転体は、少なくとも前記ベルトが片寄った側とは反対側が高くなるように傾斜し(ベルトの内面側を下(低)、ベルトの外面(背面)側を上(高)とする)、それによって回転体からベルトに当該片寄りを戻す力が働く。よって、ベルトは、前記戻し力と片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。
前記ベルト車はさらに、切替手段によって、ベルトの走行方向の切り替わりに応じて、前記枢軸の、軸荷重の方向を基準とした傾倒方向が切り替わる。
つまり、ベルトの走行方向が切り替わったときには、前記回転体とベルトとの間の摩擦によって回転体にベルトの走行方向の力が作用するが、前記回転体には回転抵抗が付与されていると共に、回動軸周りに回動可能に支持されているため、回転体に作用するベルトの走行方向の力は、回転体を回転中心軸周りに回転させるように作用するのではなく、回転体に対する回動軸周りのモーメントとして作用する。その結果、回転体は前記枢軸と共に、前記切り替わり後のベルトの走行方向に向かって回動する。それによって、枢軸は、ベルトの走行方向が切り替わった後の、回転体の回転方向の前側に傾倒する。そうして、ベルトの走行方向の如何に関わらず、そのベルトは前記戻し力と片寄り力とがつり合う位置で走行する。
ここで、前記回転体の回転抵抗力は、回転体とベルトとの間の摩擦力よりも小さく(回転体とベルトとの間の滑りを防止する条件)かつ、回転体が回動軸周りに回動する際の抵抗よりも大きい(回転体に作用する走行方向の力によって回転体を回動軸周りに回動可能にする条件)ことが必要である。
前記回動手段によって支持される前記回転体の、前記中立位置に対する回動角度は、0度を超え45度を超えない角度範囲に設定され、前記枢軸の、前記ベルトの走行時における前記軸荷重の方向に対する傾倒角は、0度を超え90度を超えない角度範囲に設定される、ことが好ましい。
前記回転体の回動角度が45度を超える場合には、ベルトの張力による負荷の方が回転体を回動させる力に勝るようになり、回転体をベルトの走行方向に向かって回動させることが困難になる。特に軸荷重が比較的高いときには、その傾向が顕著である。そのため、回転体の、前記中立位置に対する回動角度は、0度を超え45度を超えない角度範囲に設定することが好ましい。
一方、前記傾倒角が90度である場合、すなわち、枢軸が軸荷重の方向と直交している場合、回転体は、ベルトが片寄った側が軸荷重の方向に移動するように回転変位することになる。つまり、軸荷重の方向で高低をみれば、ベルトが片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜する。言わば、回転体の外周面がクラウンと同様に傾斜した状態となる。これにより、ベルトには前記片寄り方向とは反対の方向の戻し力が働く。従って、ベルトは、前記回転体の傾斜による戻し力と、ベルトに作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。仮にベルトが大きく片寄ることがあっても、そのベルトは前記戻し力と片寄り力とがつり合う位置に戻される。
前記傾倒角が90度未満である場合、ベルトに片寄りを生じたときの回転体の回転変位には、前記軸荷重の方向の成分だけでなく、軸荷重方向に直交する前後方向(前記ベルトが回転体に接触して走行している方向)の成分が加わる。つまり、回転体は軸荷重方向に傾斜するだけでなく、ベルトに対して斜交いになって接触した状態になる。
そうして、前記枢軸は、前記軸荷重方向に対して回転体の回転方向の前側に傾倒しているから、ベルトに片寄りを生じたときには、回転体はベルトが片寄ってきた側がベルト走行方向の先側になった斜交い状態になる。この回転体が斜交い状態で回転することにより、ベルトには回転体から前記片寄りを戻す方向の力が与えられる。
結局、前記傾倒角が0度を超え且つ90度未満である場合は、ベルトに片寄りを生じたとき、このベルト車には、回転体が軸荷重の方向に高低差を生ずるように傾斜することによる戻し力と、回転体がベルトに対して斜交いになることによる戻し力との双方が働くことになる。そうして、この両戻し力の合力と、ベルトに作用する片寄り力とがつり合う位置でベルトが走行することになる。
前記傾斜による戻し力と前記斜交いによる戻し力とでは、後者の方が片寄り防止効果が高い。
従って、好ましいのは、前記傾倒角を0度を超え90度未満とすることである。さらに好ましいのは、前記斜交いによる戻し力を有効に利用するために、前記傾倒角を0度を超え45度以下とすることである。一方、前記傾倒角が0度近くになると、上述の枢軸を中心とする回転モーメントが発生しにくくなる。従って、さらに好ましいのは、前記傾倒角を5度以上45度以下、或いは10度以上30度以下とすることである。
前記抵抗付与手段は、前記回転体の、前記回転中心軸方向の一側面に当接する摺動部材を有している、としてもよい。
この構成によると、回転体の一側面に対して摺動部材が当接していることで、回転体と摺動部材との間の摩擦によって、回転体には回転抵抗が付与されることになる。この場合、摺動部材としては、その静止摩擦係数と動摩擦係数との差が大きいもの、換言すれば、静止摩擦係数が極めて高い一方、動摩擦係数が極めて低いものが望ましい。こうすることで、ベルトの走行方向が切り替わったときには、回転体に対して比較的大きい回転抵抗を付与して、その回転体を回動軸周りに確実に回動させることができる一方で、ベルト走行中には、回転体に対して回転抵抗をほとんど付与することなく、損失を低減することができる。
前記抵抗付与手段は、前記回転体を前記回転中心軸方向の一側に向かって付勢することにより、前記回転体の一側面を前記摺動部材に押し付ける付勢部材をさらに有している、としてもよい。
こうすることで、付勢部材による付勢力を調整することによって、回転体の回転抵抗力が調整され、それによって前述した回転抵抗力の条件を満たすことが容易に可能になる。
前記支持手段は、前記回転体に内挿されて当該回転体を前記回転中心軸周りに回転自在に支持する第1の軸部材と、前記第1の軸部材を支持する第1のフレームと、支持体に対して支持される第2のフレームと、前記1のフレームと第2のフレームとを互いに結合し、それによって、前記第1のフレームを前記回転体と共に、前記第2のフレームに対して相対的に、前記回転中心軸に対して直交する枢軸周りに揺動可能にするピンと、を有し、前記回動手段は、前記第2のフレームを、前記支持体に対して相対的に、前記回転中心軸に平行な前記回動軸周りに回動可能に支持する第2の軸部材を有している、としてもよい。
こうすることで、回転体は、第1の軸部材によって回転中心軸周りに回転自在に支持されると共に、その第1の軸部材を支持する第1のフレームと、第2とフレームとがピンによって互いに結合されることで、回転体はそのピン周り、換言すれば回転中心軸に対して直交する枢軸周りに揺動可能に支持される。
そして、前記第2のフレームが第2の軸部材によって回転中心軸に平行な前記回動軸周りに回動可能に支持されることで、前記回転体は前記枢軸(ピン)と共に、回動軸周りに、中立位置を挟んだ両側それぞれに回動可能にされ、その結果、前述したように、ベルトの走行方向の切り替わりに対応して、ベルトの蛇行及び片寄り等を防止可能なベルト車が構成されることになる。
本発明の他の側面によると、ベルト駆動装置は、上述の如きベルト車と、駆動ベルト車と、従動ベルト車と、前記駆動ベルト車及び従動ベルト車間に巻き掛けられたベルトと、を備え、前記ベルト車が、前記ベルトに押し当てられている。
尚、ベルトとしては、平ベルト、歯付ベルト(タイミングベルト)などその種類は問わない。平ベルトの場合は、その内面(伝動面)及び外面(背面)のいずれをベルト車に接触させるようにしてもよいが、歯付ベルトでは外面(背面)をベルト車に接触させることが好ましい。
以上のように、本発明によれば、回転体を回転中心軸周りに回転自在に支持すると共に、回転中心軸と直交する枢軸周りに揺動自在に支持し、その枢軸を、軸荷重の方向に対して回転体の回転方向の前側に傾倒したから、ベルトが回転体上で片寄ったときに、その回転体を少なくとも傾斜した状態にすることができ、簡単な構造でベルトの片寄り走行や蛇行を速やかに且つ確実に解消することができる。
また、ベルトの走行方向の切り替わりに応じて、切替手段によって前記軸荷重の方向に対する枢軸の傾倒方向を切り替えるから、ベルトの走行方向の如何に関わらず、常にベルトの片寄り走行や蛇行が速やかに且つ確実に解消することができ、ベルト車の用途範囲が広がる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1に示すベルト駆動装置において、1は駆動プーリ(平プーリ)、2は従動プーリ(平プーリ)であり、この両プーリ1,2にベルト(平ベルト)3が巻き掛けられ、このベルト3に張力を付与すべく、ベルト車としてのプーリ4がベルト3の背面に押し当てられている。
プーリ4は、図2〜4に示すように、ベルト3が巻き掛けられる円筒状のプーリ本体(回転体)5と、このプーリ本体5を、回転中心軸C1周りに回転自在に支持すると共に、後述する枢軸C2周りに揺動自在に支持する支持手段7と、ベルト3の走行方向の切り替わりに応じて、後述するように、前記枢軸C2の、軸荷重(ベルト3の張力によって、後述する軸部材11にかかる荷重)の方向に対する傾倒方向を切り替える切替手段20と、を備えている。
前記支持手段7は、プーリ本体5をベアリング12によって回転中心軸C1周りに回転自在に支持する軸部材11と、軸部材11を支持するプーリ保持フレーム(第1のフレーム)13と、当該ベルト駆動装置が設けられるハウジング等の支持体29に対して、ブラケット21を介して支持される揺動フレーム(第2のフレーム)14と、プーリ保持フレーム13及び揺動フレーム14を互いに結合するピン15と、を備えて構成される。
前記プーリ保持フレーム13は、上面部13aと、この上面部13aの左右(図4の左右)の両側端から下方に延びて、前記プーリ本体5の両側面の側方に位置する左右の側面部13b,13cと、からなり、断面略コ字状に形成されている。プーリ保持フレーム13の両側面部13b,13cにはそれぞれ、貫通孔が形成されており、この貫通孔内に軸部材11の両端部が挿入された状態で、例えばEリング11a,11aが取り付けられることによって、前記軸部材11は、水平方向に延びた姿勢で、前記プーリ保持フレーム13に取り付け支持されている。それによって、軸部材11に対して支持されたプーリ本体5が、水平方向に延びる回転中心軸C1周りに回転自在となるようにされている。
プーリ保持フレーム13における左側の側面部13bとプーリ本体5との間には、摺動部材としての、例えば樹脂製のワッシャー17が、前記軸部材11に外挿されて配設されている一方、前記プーリ保持フレーム13における右側の側面部13cとプーリ本体5との間には、付勢部材としての圧縮ばね18が、前記軸部材11に外挿されて配設されている。この圧縮ばね18による付勢力によって、プーリ本体5は回転中心軸C1方向の左側に向かって付勢されており、それによってプーリ本体5は、ワッシャー17に対して押し付けられた状態にされている。このプーリ本体5とワッシャー17との間の摩擦により、プーリ本体5には回転抵抗が付与された状態となっている。
前記揺動フレーム14は、プーリ保持フレーム13の上面部13aに対して上下方向に相対して配置される下面部14aと、この下面部14aの左右の両側端から上方に延びる左右の側面部14b,14cと、からなり、断面略コ字状に形成されている。揺動フレーム14の下面部14aには、その略中央位置に貫通孔が形成されていると共に、プーリ保持フレーム13の上面部13aにも、その略中央位置に貫通孔が形成されている。プーリ保持フレーム13と揺動フレーム14とは、揺動フレーム14の下面部14aとプーリ保持フレーム13の上面部13aとの間に、例えば樹脂製のカラー19を介設した状態で、それらの貫通孔内にピン15が貫通して固定されることによって、互いに結合されている。これによって、プーリ保持フレーム13は、揺動フレーム14に対して相対的に、そのピン15周りに揺動可能にされており、それに伴い、プーリ本体5は、そのピン15周りに揺動可能にとされている。つまり、前記ピン15は、プーリ本体5の回転中心軸C1に直交すると共に、プーリ本体5の幅方向(左右方向)の略中央位置に位置する枢軸C2を構成することになる。
前記ブラケット21は、支持体29に対して取付固定される固定部22と、この固定部22に対して一体的に形成されかつ、前記揺動フレーム14を支持するフレーム支持部23と、を備えている。
前記フレーム支持部23は、上面部23aと、この上面部23aの左右の両側部から下方に延びて、揺動フレーム14の各側面部14b,14cに対して左右方向に相対する左右の側面部23b、23cとからなり、断面略コ字状に形成されている。フレーム支持部23の両側面部23b、23cと揺動フレーム14の両側面部14b、14cとにはそれぞれ、貫通孔が形成されており、これらの貫通孔内に第2の軸部材24の両端部が挿入された状態で、例えばEリング24a,24aが取り付けられることにより、揺動フレーム14は、フレーム支持部23、ひいては支持体29に対して、回転中心軸C1と平行な回動軸C3周りに回動可能にされている。そうして、プーリ本体5は、軸荷重Lの方向と枢軸C2の方向とが互いに一致する中立位置(図3参照。尚、図例では鉛直方向に互いに一致する)を挟んだ前後の両側それぞれに回動可能にされている。
前記フレーム支持部23にはまた、上面部23aにおける前後の両端部から下方に延びる当接部23d,23dが一体に形成されている。この各当接部23dは、図5又は図10に示すように、前記揺動フレーム14が回動軸C3周りに回動したときに、それの下面部14aと当接して、揺動フレーム14の、それ以上の回動を規制するものであり、これによってプーリ本体5の、中立位置に対する回動角度βが所定の角度に規制されるようになっている。尚、この回動角度βは、0度を超え45度を超えない角度範囲に設定することが好ましく、こうすることで、後述するベルト3の走行方向の切り替わり時に、プーリ本体5を回動軸C3周りにスムースに回動させることが可能になる。
前記プーリ4は、図5又は図10に示すように、軸荷重Lの方向を基準として枢軸C2をベルト走行方向Aの手前側に所定の傾倒角αだけ傾倒させて使用される。このとき、揺動フレーム14の下面部14aがフレーム支持部23の当接部23dに当接した状態にあり、これによって、前記傾倒角αを拡大する方向に、揺動フレーム14(ピン15)が回動することが規制されている。尚、傾倒角αは、0度を超え90度を超えない角度範囲に設定されることが好ましいが、傾倒角αは90度としてもよい。
図5に示す状態において、図6,7に示すように、プーリ本体5の幅の中央付近に掛かっていたベルト3がその左側へ寄ると、軸荷重Lは枢軸C2の位置からプーリ本体5の左側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、プーリ本体5に枢軸C2を中心とする回転モーメントが働き、プーリ本体5は、プーリ保持フレーム13と共に枢軸C2の周りに回転変位する。
すなわち、軸荷重Lの方向が枢軸C2と平行であるときは(傾倒角αが0度であるときは)、ベルト3がプーリ本体5の中央からその左側へ寄ったとしても、枢軸C2周りの回転モーメントは発生しない。これに対して、軸荷重Lの方向に対して枢軸C2が角度αだけ傾いた状態になると、ベルト3がプーリ本体5の中央からその左側へ寄ったときに、枢軸C2に直交する方向の分力によって、枢軸C2周りの回転モーメントが発生し、プーリ本体5は回転変位することになる。
そうして、図6,7の場合は、軸荷重Lによって、プーリ本体5が枢軸C2周りに回転変位することになり、プーリ本体5は、図6(平面図)に示すように、ベルト3が片寄ってきた側(つまり、左側)がベルト走行方向の先側になるようにこのベルト3に対して斜交い状態になり、また、図7(図6のVII矢視図)に示すように、ベルト3が片寄ってきた側(つまり、左側)が低く、反対側が高くなるように軸荷重Lの方向において傾斜する。図6,7ではプーリ本体5が回転変位した状態を実線で示している。
従って、プーリ本体5が斜交い状態になることにより、図6に誇張して示すように、ベルト3は片寄りを戻す方向に捻られて、その走行方向が変えられることになると共に、図7に示すように、プーリ本体5が傾斜することによる戻し力を受け、これによって、ベルト3の当該片寄りが防止される。
また、前記とは逆に、図8,9に示すように、プーリ本体5の幅の中央付近に掛かっていたベルト3がその右側へ寄ったときには、軸荷重Lは枢軸C2の位置からプーリ本体5の右側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、プーリ本体5に枢軸C2を中心とする回転モーメントが働き、プーリ保持フレーム13がプーリ本体5と共に枢軸C2の周りに、前記とは逆方向に回転変位する。つまり、プーリ本体5は、図8(平面図)に示すように、ベルト3が片寄ってきた側(つまり、右側)がベルト走行方向の先側になるようにこのベルト3に対して斜交い状態になり、また、図9(図8のIX矢視図)に示すように、ベルト3が片寄ってきた側(つまり、右側)が低く、反対側が高くなるように軸荷重Lの方向において傾斜する。
従ってベルト3は、プーリ本体5が斜交いになり且つ傾斜することによる戻し力と、当該ベルト駆動装置の特性によってベルト3に作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。仮にベルト3が大きく片寄ることがあっても、このベルト3は前記戻し力と片寄り力とがつり合う位置に戻される。
尚、プーリ保持フレーム13及び樹脂カラー19が軸荷重によって接触するため、それらの接触面間に適度の摺動抵抗が働く。よって、ベルト3がプーリ本体5の中央付近を走行しているときに、プーリ本体5がベルト3の走行振動等によって微小揺動することが避けられるとともに、ベルト3に片寄りを生じたときに、プーリ本体5が過敏に反応して回転変位し、それによって、プーリ本体5が左右に小刻みに揺動するハンチングを生ずることが防止される。
そして、ベルト3の走行方向が、図5に示すA方向から、逆方向のB方向に切り替わったとする。このときには、プーリ本体5とベルト3との間の摩擦によって、プーリ本体5にベルト3の走行方向(図5における左から右への方向)の力が作用するが、プーリ本体5には、前述したように回転抵抗が付与された状態にあると共に、そのプーリ本体5はプーリ保持フレーム13及び揺動フレーム14によって回動軸C3周りに回動可能に支持されているため、プーリ本体5に作用するベルト3の走行方向の力は、プーリ本体5を回転中心軸C1周りに回転させるように作用するのではなく、プーリ本体5に対する回動軸C3周りのモーメントとして作用する。その結果、図10に示すように、プーリ本体5、並びにプーリ保持フレーム13及び揺動フレーム14は、前記B方向に向かって回動し、揺動フレーム14の下面部14aがフレーム支持部23の当接部23dに当接した状態で静止する。
こうして枢軸C2は、軸荷重Lの方向に対して、プーリ本体5の回転方向の前側に傾倒することになる。これによって、前述したように、ベルト3は、プーリ本体5が斜交いになり且つ傾斜することによる戻し力と、当該ベルト駆動装置の特性によってベルト3に作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。
このように前記プーリ4は、ベルト3の走行方向に拘らず、ベルト3の片寄り走行や蛇行を速やかに且つ確実に解消することができる。
ここで、プーリ本体5に付与される回転抵抗力は、プーリ本体5とベルト3との間の滑りを防止する条件として、プーリ本体5とベルト3との間の摩擦力よりも小さい必要がある。また、プーリ本体5に作用するベルト3の走行方向の力によってプーリ本体5を回動軸C3周りに回動可能にする条件として、プーリ本体5が回動軸C3周りに回動する際の抵抗よりも大きいことが必要であるが、前記の構成では、樹脂ワッシャー17の材質を適宜変更したり、圧縮ばね18による付勢力を適宜変更したりすることによって、前記回転抵抗力の調整を容易に実施し得る。
尚、プーリ本体5に回転抵抗を付与する構成は、樹脂ワッシャー17と圧縮ばね18とを用いた構成に限らず、その他の構成も採用し得る。
また、前記実施形態では、プーリ本体5の回転中心軸C1と、回動軸C3とを互いに離して配置していたが、例えば回転中心軸C1と回動軸C3とを一致させた構造を採用してもよい。但し、回転中心軸C1と回動軸C3とを互いに離して配置することによって、ベルト3の走行方向の切り替わり時に、プーリ本体5を回動させるモーメントは比較的大きくなるため、プーリ本体5に付与する回転抵抗を比較的小さくしても、プーリ本体5を回動させることができる。この場合、回転抵抗が小さくなる分、ベルト駆動装置の損失の低減を図ることができるという利点がある。
また、プーリ本体5の外周面には緩やかなクラウンを付けるようにしてもよい。クラウンが緩やかであれば、ベルト3に大きな負荷がかかることは避けられる。
さらに、前記実施形態では、プーリ4をテンションプーリとして用いたが、ベルトの長さ、接触角の調節、ベルト走行方向の変更など、ベルト駆動装置の他の用途に用いるようにしてもよい。
加えて、本プーリ4は、ベルトの走行方向の切り替わりがない場合においても利用可能であるのは勿論である。