JP4871063B2 - 断熱スタンパとその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、成形中の熱可塑性材料の初期冷却を遅延化する為に金型中の支持体とスタンパの間に断熱性金型挿入体を着脱式に装着し、この断熱性金型挿入体に、中心領域が低い密度を持ち縁部領域が高い密度を持つような密度変化を有する断熱層を設けることによって、成形中の熱可塑性材料の初期冷却を遅延化させ、転写性を向上させた発明が開示されている。
しかし、断熱性金型挿入体が着脱式の場合、取り付け時に異物が挟まり成形不良を起こす危険性があること、断熱性金型挿入体は非常に薄い薄膜状のものであるため、取り付け時にしわが寄ったり破損してしまう場合もあることから、取扱に細心の注意を払わねばならず、着脱を頻繁に行うには不向きである。
また、特許文献3には、金型内のキャビティが対向する双方の面に一対のスタンパを装着し、該スタンパの少なくとも一方に断熱材を内包させた断熱スタンパにおいて、断熱効果を有する断熱材の膜厚分布を、外周に向かうにつれて厚くすることにより、断熱効果を半径方向で変化させて転写性などの特性を向上させた発明が開示されている。
しかし、現時点で実用化されている断熱層を形成する方法(スピンコート、蒸着、スパッタリング、複合メッキ、等)により断熱材の厚さを部位に応じて変化させるのは容易でなく、まして理想的な厚さ分布を実際に形成することは非常に難かしい。
しかし、この方法の場合、極少量の生産ではあまり問題にならないが、ショット数が増えるに従って金型内の蓄熱が大きくなって成形品の冷却がうまくできなくなり、かえって成形サイクルのタクトタイムが長くなってしまうという問題がある。
1) 表面に微細溝パターンを持つ薄円板状部材の射出成形用スタンパであって、スタンパマトリックス層よりも熱伝導率の低い断熱層がスタンパマトリックス層で挟まれた断面構造を有し、スタンパを上面から見た場合に、断熱層が、分割された複数の断熱領域とこれらの断熱領域に挟まれた間隙領域を有すると共に、断熱領域がスタンパマトリックス層よりも熱伝導率の低い低熱伝導物質を含有し、該低熱伝導物質の体積比率が、スタンパ中心から外側に向かって増加していることを特徴とする断熱スタンパ。
2) 間隙領域が一定の幅で直線的に連続することが無いように、断熱領域が分割配置されていることを特徴とする1)記載の断熱スタンパ。
3) 間隙領域が、断熱層を貫通して、上下のスタンパマトリックス層と繋がっていることを特徴とする1)又は2)記載の断熱スタンパ。
4) 前記低熱伝導物質の体積比率が、スタンパの最外側部を100%として、最内側部で30〜50%であることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の断熱スタンパ。
5) 断熱領域に、スタンパ中心から外側に向かって徐々に面積の小さくなる孔を複数個開け、その孔に前記低熱伝導物質よりも高い熱伝導率を持つ物質を充填することを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の断熱スタンパの製造方法。
6) 断熱領域に、面積が同じ微細な孔を複数個開け、単位面積中の微細な孔の数が、スタンパ中心から外側に向って徐々に減るようにし、且つ、その孔に前記低熱伝導物質よりも高い熱伝導率を持つ物質を充填することを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の断熱スタンパの製造方法。
本発明の断熱スタンパは、光ディスク基板のような表面に微細溝パターンを持つ薄円板状部材の射出成形に用いられるものである。光ディスク基板における微細溝パターンは、通常の場合、トラッキング用やデータ記録再生用の案内溝である。
このような用途に用いられる従来の断熱スタンパは、図1に一例を示すように、断熱層をニッケル層で挟んだ構成を有するが、背景技術の項で述べたような種々の問題点を有している。
これに対し、本発明の断熱スタンパは、図2〜図4に例を示すように、第1スタンパマトリックス層と第2スタンパマトリックス層に挟まれた断熱層が、分割された複数の断熱領域とこれらの断熱領域に挟まれた間隙領域を有すると共に、断熱領域がスタンパマトリックス層よりも熱伝導率の低い低熱伝導物質を含有し、該低熱伝導物質の体積比率が、スタンパ中心から外側に向かって増加していることを特徴とする。
断熱領域と間隙領域の比率は、後述する各領域の機能が十分発揮されるように、スタンパを上面から見たときの面積比率で50:1〜10:1程度、好ましくは40:1〜30:1程度とする。なお、断熱領域には当然ながらスタンパマトリックス層材料よりも熱伝導率の低い材料を用いる。
本発明では、上記構成を取ることにより、スタンパマトリックス層材料と断熱領域材料との熱膨張率に差があっても膨張変形量を分散できるため、スタンパの内部歪みを最小限に抑えることが可能となり、スタンパの反りや界面剥離を防止できる。
図4に示すように、間隙領域が樹脂充填孔の中心部から外側に一定の幅で連続して直線的に伸びている場合には、高い熱伝導率を持つ間隙領域に触れる樹脂部分が急速に冷却されて、他の樹脂部分との間に温度差が発生し、成形部品の内側から外側に向かって放射状に内部歪みが残ることがあり、これが光学的歪み(複屈折)や機械的歪み(反り)の原因となる恐れがある。図4(a)は分割領域形状が菱形の例、図4(b)は分割領域形状が三角形の例である。
(1)原盤パターニング
光ディスク用原盤には、スパイラル状又は同心円上に、予めトラッキング用やデータ記録再生用の微細溝パターンが形成されている。このような微細溝パターンは、原盤となるガラス板、金属板、シリコンウエハなどの基板を洗浄後、該基板上に、スピンコート等でフォトレジスト層を形成し、原盤露光装置の対物レンズで、形成すべき溝パターンに応じて強度変調されたレーザービームを収束してフォトレジスト層を露光し、次いで現像することによって形成する(図示せず)。
(1)の原盤の微細溝パターン面側に導電被膜を形成する(図示せず)。
導電被膜の材質はスタンパマトリックス層材料と同じニッケルが望ましい。
導電被膜の膜厚は、薄すぎるとピット等の欠陥が発生し易く、厚すぎると内部応力によるクラックが発生するため、500〜2000Å程度が好ましい。
導電被膜形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、無電解メッキ法等が採用できる。
(2)の導電被膜形成後、ニッケル電鋳処理を施し、原盤上に第1ニッケル層を積層する〔図5(a)参照〕。
原盤を電鋳槽に入れてから3〜5分間、0.2A/dm2未満の弱電流密度で通電することにより、導電被膜をニッケル電鋳液に馴染ませて濡れ性を向上させれば、ピット発生や電鋳時の剥離を防止することができる。弱電流密度の通電を行ったのち通電量を上昇させ、最終的に、12〜20A/dm2程度まで通電量を上昇させてから一定に保ち、所定の電鋳膜厚(30μm程度)を得るまで通電を続ける。
(3)で形成した第1ニッケル層上に、断熱層を形成する〔図5(b)参照〕。
断熱層は、スタンパマトリックス層材料であるニッケルよりも熱伝導率の低い低熱伝導物質で構成する。
低熱伝導物質としては、高分子材料としてポリイミドやポリアミドイミド、セラミックス系材料としてジルコニア、金属系材料としてビスマスが挙げられるが、その他に低熱伝導性のフィラーや微粒子を共析させた複合メッキ被膜も利用可能である。但し、セラミックス系材料を積層するには1000℃以上の焼結温度が必要となり、またビスマスは剛性が低くて脆く且つ成膜時の面粗さが粗くなるため実際の利用は望ましくない。
断熱層の厚さは、その材質によって異なるが、高分子系材料で15〜100μm程度、複合メッキ被膜では、50〜200μm程度が目安である。
間隙領域の形成材料としては、スタンパマトリックス層材料と親和性があり且つ線膨張係数が同じか又は近い材料が好ましい。最も好ましいのは、スタンパマトリックス層材料と同じ材料でコストも安いニッケルであるが、この他にも線膨張係数がニッケルに近く(ニッケル:13.4/℃に対して±1.5倍の範囲内)、且つメッキによって析出可能な金、銅、イリジウム、パラジウムなどが使用可能である。なお、ここでいう親和性があるとは、間隙領域の充填材料が、断熱領域を貫通して上下のスタンパマトリックス層材料と接触した際に、該マトリックス層のバインダーとして機能する程度に親和力(接合力)を発揮しうる物性を有することを意味する。
なお、本実施態様例では、エッチングの容易性及び後述するイミド化温度の低さから、低熱伝導物質としてポリアミドイミド(東洋紡:バイロマックス)を選定し、間隙領域にはニッケルを充填した。
I.第1ニッケル層上に、ポリアミドイミドのワニスを、スピンコート等により、厚さ約40μmに塗布した後、100〜150℃、30分〜1時間のキュアを行う。
II.図3(a)〜(c)に示したような断熱領域の分割パターンに対応するメタルマスクを、ポリアミドイミド層上に隙間の無いように乗せ、酸素プラズマエッチング又はポリイミド用エッチングによってポリアミドイミド層に貫通孔パターンを形成する。
III.形成された孔に、ニッケル電鋳によりニッケルを充填する。
I.第1ニッケル層を断熱層の厚さ分だけ上乗せして形成する。
II.第1ニッケル層上にフォトレジストを塗布し、前記孔パターンと逆のマスクパターンの露光、現像を行い、逆レジストマスクパターンを形成する。
III.第1ニッケル層に対し、ドライエッチング又はケミカルエッチングにより、断熱層の深さ分だけエッチングを行う。
IV.ポリイミド又はポリアミドイミドのワニスをスピンコート等で塗布し、エッチングされた部分に断熱層の深さ分だけ充填するか、又は、複合メッキ法を用いて低熱伝導物質共析メッキを行い、エッチングされた部分に断熱層の深さ分だけ断熱領域材料を充填し、次いで、マスクを除去する。
上記の他に、感光性ポリイミド(例えば東レのフォトニース等)を低熱伝導材料として用いれば、低熱伝導物質をダイレクトでパターニングできるので便利であるが、イミド化のためのキュア温度が高いため(400℃前後)、本実施態様例のような薄円板状断熱スタンパでは、反りなどの不具合が発生する恐れがあり、使用は薦められない。
高熱伝導物質としては、材料親和性やコストの面で、スタンパマトリックス層材料と同じニッケルが最も好ましいが、この他にも、熱伝導率がニッケルよりも高く(>83W/mK)、且つメッキによって析出可能な金、銀、銅、イリジウム、モリブデン、亜鉛などが使用可能である。
最外側部での低熱伝導物質の体積比率を100%とし、最内側部での低熱伝導物質の体積比率を0〜100%の間で10%刻みに変化させたスタンパを用意し、光ディスク基板(厚さ1.2mm、直径120mm)の射出成形実験を行い、樹脂充填完了時(充填開始から0.2秒後)におけるスタンパ内外側部での温度差、及びスタンパ外側部の温度を測定した。射出成形条件は、基板材料として汎用されているポリカーボネート樹脂(Tg:140℃)を用い、樹脂温度を300℃、金型温度を120℃に設定した。なお、最内側部の体積比率が0%の場合は全Ni製スタンパ、最内側部の体積比率が100%の場合は断熱領域が100%低熱伝導物質からなる通常の均一断熱スタンパである。
表1は、最内側部での低熱伝導物質の体積比率が最外側部に対して30%となるように製作した断熱スタンパにおける、各半径位置での低熱伝導物質の体積比率を示したものであり、内外側部での低熱伝導物質の体積比率を線形的に変化させているが、他の断熱スタンパについても同様に線形的に変化するように製作した。
スタンパ最内外側部の温度差が大きいと、冷却時の樹脂の収縮差によって内部歪みが発生し、光ディスク基板の機械特性や光学特性に悪影響を与えるが、過去の射出成形における実績から、温度差が5℃以下であれば特性に悪影響を与えないことが分かっている。
この知見を図8の結果に適用すると、温度差を5℃以下に抑えられるのは、低熱伝導物質の体積比率がほぼ50%以下の場合であることが分かる。
またスタンパ最外側部での温度については、ポリカーボネートのTgが140℃であるから、樹脂充填性を考慮すると、少なくとも140℃前後まで達する必要があるが、図9の結果から、低熱伝導物質の体積比率が30%以上であれば、ほぼ140℃に達することが分かる。
これらの条件を満足することによって、金型温度を低く設定しても、スタンパ中心部から打ち込まれた溶融樹脂が最外部まで良好に充填されるのに必要な温度をスタンパ全体で均一に保つことが可能となるため、転写性を高めると同時に、冷却時間の短縮による成形サイクルのタクトタイムの短縮を実現できる。また、冷却時のスタンパの温度分布を一定にできるので、樹脂の内部歪みの発生を防止でき、機械特性や光学特性に優れた成形基板を供給できる。
一方、全Niスタンパでは、樹脂の射出直後から温度がTg以下にまで急激に下がり、やはりスタンパのパターン形成部への良好な充填性が得られず、転写性が悪化し(図12参照)、プッシュプル信号が規格値以下に低下した。
即ち、本発明によれば、通常の均一な断熱層を持つスタンパでは、中心部及び外側部の樹脂温度を一定に制御できず、成形サイクルを短縮できないという欠点を解消し、良好な転写性の保持と短い成形サイクルでも機械特性や光学特性を低下させないことの両立が可能となる。
作製方法としては、前述した断熱層に分割パターンを形成する方法を応用すればよく、例えば、前述した分割パターンを有するメタルマスクに、上記孔パターンを一緒に形成して酸素プラズマエッチングを行えばよい。その他に、複合メッキ等の手段によって、スタンパ中心から外側に向かって徐々に低熱伝導物質の共析率を高めていくことが可能ならば利用してもよい。
(4)で形成された断熱層上に、導電被膜を形成する〔図5(c)参照〕。
導電被膜の材質は、次のニッケル電鋳と同じニッケルが望ましい。導電被膜形成方法としては、アルゴンガス等を用いたニッケルスパッタリング法、真空蒸着法、ニッケル無電解メッキ法があり、それぞれ利用できるが、界面剥離の問題を考えた場合、被積層対象物にニッケル粒子が深く浸透し被膜密着性が高いスパッタリング法が望ましい。
(5)の導電被膜上に、第1回目ニッケル電鋳と同じ要領で第2ニッケル層を積層する〔図5(d)参照〕。スタンパ全体の厚さが300μm程度となるまで積層する。
ニッケル電鋳の終った原盤からスタンパを剥離する。この時、スタンパに応力が加わってスタンパを曲げてしまわないように注意する必要がある〔図5(e)参照〕。
その後、スタンパの転写された微細溝パターン面側に、UV/O3と呼ばれる紫外線オゾン処理を行ってから、純水による水洗、又はO2プラズマアッシング処理を施し、フォトレジスト残渣を除去する。
スタンパの微細溝パターン面側に樹脂保護膜を付けて裏面研磨を行う。(7)のスタンパ剥離行程の前に裏面研磨を行っても良い。その場合には保護膜を付ける必要はない。その後、内外径を所望の寸法にプレス加工すれば、本発明の断熱スタンパが完成する(図示せず)。
(8)までの方法で製作した断熱スタンパを用い、以下の手順で射出成形を行って光ディスク基板を得る(図15参照)。
接離自在に設けられた金型としての固定金型と可動金型との接合部に形成されるキャビティ内に断熱スタンパを固定し、キャビティ内に溶融樹脂を射出充填したのち固定金型と可動金型で圧縮する。その後、固定金型と可動金型を分離して、冷却固化後の樹脂を取り出すことにより、光ディスク基板が得られる。
この光ディスク基板に、記録層、誘電体層、反射層、保護層等を成膜・形成することによって、光ディスクが得られる。
また、従来のポリイミド層を用いた均一断熱スタンパでは、数千〜3万ショットで界面隔離を起こすか反りが発生して成形不能となるのに対し、本発明による断熱スタンパでは10万ショットを超えてもそういった問題は発生せず、抜群の耐久性を示す。
全Ni製スタンパの場合は、耐久性に問題はないが、成形サイクル時間が均一断熱スタンパよりも更に悪いため比較にならない。
Claims (6)
- 表面に微細溝パターンを持つ薄円板状部材の射出成形用スタンパであって、スタンパマトリックス層よりも熱伝導率の低い断熱層がスタンパマトリックス層で挟まれた断面構造を有し、スタンパを上面から見た場合に、断熱層が、分割された複数の断熱領域とこれらの断熱領域に挟まれた間隙領域を有すると共に、断熱領域がスタンパマトリックス層よりも熱伝導率の低い低熱伝導物質を含有し、該低熱伝導物質の体積比率が、スタンパ中心から外側に向かって増加していることを特徴とする断熱スタンパ。
- 間隙領域が一定の幅で直線的に連続することが無いように、断熱領域が分割配置されていることを特徴とする請求項1記載の断熱スタンパ。
- 間隙領域が、断熱層を貫通して、上下のスタンパマトリックス層と繋がっていることを特徴とする請求項1又は2記載の断熱スタンパ。
- 前記低熱伝導物質の体積比率が、スタンパの最外側部を100%として、最内側部で30〜50%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の断熱スタンパ。
- 断熱領域に、スタンパ中心から外側に向かって徐々に面積の小さくなる孔を複数個開け、その孔に前記低熱伝導物質よりも高い熱伝導率を持つ物質を充填することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の断熱スタンパの製造方法。
- 断熱領域に、面積が同じ微細な孔を複数個開け、単位面積中の微細な孔の数が、スタンパ中心から外側に向って徐々に減るようにし、且つ、その孔に前記低熱伝導物質よりも高い熱伝導率を持つ物質を充填することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の断熱スタンパの製造方法。
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