JP4867343B2 - 多糖擬スポンジ - Google Patents

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Description

本発明は、多糖擬スポンジに関し、詳しくは、多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の架橋反応で得られ、スポンジの特性とゲルの特性とを兼ね備えた多糖擬スポンジに関する。
従来、多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖と、それを紫外線などの光線照射により架橋させて得られる架橋多糖が知られている(例えば特許文献1〜4)。そして、斯かる架橋多糖から成るゲル(多糖ゲル)やスポンジ(多糖スポンジ)も知られている。
多糖ゲルは、光反応性多糖の溶液に紫外線などの光線を照射して架橋させて調製され、例えば組織などの癒着を防止する癒着防止材などの医用材料として使用することが可能である(例えば特許文献5)。因みに、上記の多糖ゲルは溶媒和ゲルとして得られ、原料として光反応性多糖の水溶液を使用した場合は水和によりヒドロゲルとして得られる。そして、斯かる多糖ゲルは、三次元網目構造を有する為に水に不溶であるが、水中で平衡に達するまで膨潤する。
一方、多糖スポンジは、光反応性多糖の溶液を凍結させ、凍結状態で紫外線などの光線を照射して架橋させて調製され、その製造工程においては架橋剤などの不純物の除去が極めて容易である為に高純度化することが出来る(例えば特許文献6)。因みに、スポンジとは、独立気泡または連通気泡を有する多孔質物質を指す。
特開平6−73102号公報 特開平8−143604号公報 特開平9−87236号公報 特開2002−249501号公報 特表平11−512778号公報 WO02/060971号パンフレット
多糖ゲルの一例である架橋グリコサミノグリカンのヒドロゲルは、生体内における分解性が優れているものの、ゲルシート等に成型した場合は裂け易く、取扱いに細心の注意が必要な上、その膨潤性が高い為、生体内に留置した際の移動を防止することが困難である。更に膨潤により前述の裂け易さは顕著となり、斯かる問題は、特に生体組織に適用する癒着防止材用途において顕著である。
一方、多糖スポンジの一例である架橋グリコサミノグリカンのスポンジは、膨潤性が低い為、生体内に留置した際の移動が起こり難い。しかし、多糖スポンジは、多孔性状を有し、生体内における分解性が低い為、細胞が容易に浸潤して線維化を起こし易い。従って、多糖スポンジの生体内への適用は、組織再生の足場(スキャフォード)等の特定用途に限定される。なお、多糖スポンジにおける細胞の浸潤の容易性は、その多孔性状に基づくものと考えられる。そして、その多孔性状(網目の大きさ)は、一般にヒドロゲルの網目構造に浸入できないと考えられているブルーデキストランによる染色の程度により予想することが出来、多糖スポンジの染色性は比較的大きい。
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ある程度の強度を保ちつつ、膨潤性が低く、生体内分解性が高い新規な物理構造の光架橋多糖を提供することにある。
本発明者は、上記課題の解決の為、従来の架橋多糖のスポンジとゲルの両者の優れた特徴を兼ね備えた新規な物理構造の光架橋多糖を提供すべく検討を重ねた結果、低膨潤性である多糖スポンジに多糖ゲルの性質を付与して多糖スポンジの欠点を克服した新規な物理構造の多糖擬スポンジに想到し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、関連する複数の一群の発明から成り、その要旨は、次の通りである。
本発明の第1の要旨は、多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルを凍結又は凍結乾燥させ、得られた凍結多糖ゲル又は凍結乾燥体に光を照射する方法により得られ、以下の(II)に記載の酵素分解時間の条件を有することを特徴とする多糖擬スポンジに存する。
(II)溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:20mm,横:10mm)を作製し、当該試験片について、5mmol/lのリン酸緩衝生理食塩水1mL、1mol/lの酢酸緩衝溶液0.2mL、5TRU(Turbidity Reducing Unit)/mLの多糖分解酵素溶液0.2mLの反応混液中、50℃条件下で測定した酵素による分解時間が1300分以下である
本発明の第の要旨は、多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルを凍結又は凍結乾燥させ、得られた凍結多糖ゲル又は凍結乾燥体に光を照射することを特徴とする多糖擬スポンジの製造方法に存する。
そして、本発明の第の要旨は、前記の多糖擬スポンジを含むことを特徴とする医用材料に存する。
本発明により、生分解性が優れると共に、強度、組織の癒着などに対するバリア効果が高い多糖擬スポンジ及びそれを使用した医用材料が提供される。
[図1]本発明の多糖擬スポンジ1の破断強度を示す図である。
[図2]本発明の多糖擬スポンジ1のブルーデキストランによる染色性を示す図である(縦縞のバーはディッピング法を示し、横縞のバーはソーキング法を示す)。
[図3]本発明の多糖擬スポンジ1の膨潤性を示す図である。
[図4]本発明の多糖擬スポンジ1の酵素による分解性を示す図である。
[図5]ラット腹腔内にブルーデキストラン含有多糖擬スポンジを埋植した期間に対するブルーデキストラン残存率および多糖擬スポンジ残存率の結果を示す図である。
[図6]本発明の多糖擬スポンジ2の表面の拡大図である。
[図7]本発明の多糖擬スポンジ2の断面の拡大図である。
[図8]調製例2(2)で調製した架橋ヒアルロン酸ゲルの表面の拡大図である。
[図9]調製例2(2)で調製した架橋ヒアルロン酸ゲルの断面の拡大図である。
[図10]調製例3(2)で調製した架橋ヒアルロン酸スポンジの表面の拡大図である。
[図11]調製例3(2)で調製した架橋ヒアルロン酸スポンジの断面の拡大図である。
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、説明の便宜上、本発明に係る多糖擬スポンジの製造方法について説明する。本発明においては、従来の光架橋多糖と同様に、原料として、多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖を使用する。光反応性多糖は、多糖と光照射により光二量化反応や光重合化反応を生じる化合物(光反応性物質)とを反応して得られる。
多糖としては、ホモグリカン、ヘテログリカン又はそれらの誘導体が挙げられる。ホモグリカンは、1種類の単糖のみから成る多糖であり、その具体例としては、グルカン(アミロース、セルロース等)、マンナン、グリクロナン(ペクチン酸、アルギン酸など)、ポリグリコサミン(キチン、コロミン酸など)、ポリガラクトサミン等が挙げられる。これらの中では、グルカン(特にセルロース)が好ましい。
ホモグリカンの誘導体の具体例としては、カルボキシメチル化誘導体(カルボキシメチルセルロース等)、ヒドロキシメチル化誘導体(ヒドロキシメチルセルロース等)、脱アセチル化誘導体(キトサン等)が挙げられる。これらの中では、好ましくは水溶性を呈する誘導体であり、更に好ましくはカルボキシメチル化誘導体(特にカルボキシメチルセルロース)又はヒドロキシメチル化誘導体(特にヒドロキシメチルセルロース)であり、特に好ましくはカルボキシメチル化ホモグリカンである。
ヘテログリカンは、二種類の糖から成る多糖である。特にグリコサミノグリカン又はその誘導体が好ましい。グリコサミノグリカンの具体例としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸などが挙げられる。グリコサミノグリカンの誘導体の具体例としては、硫酸化誘導体(硫酸化ヒアルロン酸、コンドロイチンポリ硫酸など)、脱硫酸化誘導体(脱硫酸化ヘパリン等)、酸化還元誘導体(過ヨウ素酸酸化還元ヘパリン、過ヨウ素酸酸化還元脱硫酸化ヘパリン(特開平11−310602号公報))等が挙げられる。そして、脱硫酸化ヘパリンとしては、6位脱硫酸化ヘパリン(WO00/06608号パンフレット)、2位脱硫酸化ヘパリン(特開2003−113090号公報)等が挙げられる。
本発明で使用する多糖の重量平均分子量はその種類によって異なる。ヒアルロン酸の場合は、通常20〜300万、好ましくは30〜200万、更に好ましくは40〜120万であり、他の糖類の場合は通常4,000〜2,500,000である。
光反応性基としては、光反応性架橋基や光反応性不飽和結合を有し、紫外線などの光線照射により光二量化反応または重合化反応を惹起して、架橋構造を形成する化合物(光反応性物質)の残基が挙げられる。なお、光反応性基の種類は、光照射により重合または二量化し得るものであり、かつ、その導入により多糖のグリコシド結合が切断されない限り、特に限定されない。
光反応性物質としては、例えば、ケイ皮酸、置換ケイ皮酸(例えばアミノケイ皮酸(ベンゼン環の何れかの水素がアミノ基に置換したケイ皮酸:好ましくはp−アミノケイ皮酸))、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、フリルアクリル酸、チオフェンアクリル酸、シンナミリデン酢酸、ソルビン酸、チミン、クマリン、これらの誘導体などが挙げられる。これらの中では、特に、ケイ皮酸、置換ケイ皮酸またはこれらの誘導体が安全性の面から好ましい。
また、光反応性物質には、光反応性を向上し、光架橋反応を容易にしたり、多糖に光反応性基を導入する反応を容易にするスペーサーを結合していてもよい。スペーサーとしては、炭素数2〜18の鎖状もしくは環状の炭化水素残基を有する二価または多価官能性の化合物が好ましい。例えば、光反応性物質がケイ皮酸の場合は、スペーサーとして炭素数2〜8のアミノアルコールが好ましい。この場合、ケイ皮酸のカルボキシル基にアミノアルコールがエステル結合またはアミド結合する。特に好ましいスペーサーはn−アミノプロパノール又はn−アミノブタノールである。
光反応性多糖は、例えば、特開平6−73102号公報、特開平8−143604号公報、特表平11−512778号公報などの公知の方法に従って調製することが出来る。
本発明の製造法において光反応性多糖は溶液として使用される。ここで、溶液とは、光反応性多糖が溶解または均一に分散した液を指称する。斯かる溶液に使用する溶媒としては、光反応性多糖を溶解または分散した状態で光を照射した後に凍結または凍結乾燥することが可能である限り、その種類は特に限定されないが、水性溶媒が好ましい。水性溶媒としては、例えば、リン酸緩衝生理的食塩水、蒸留水、注射用水などが挙げられる。
溶液中における光反応性多糖の濃度は、多糖の分子量と光反応性基の導入率の関係によって適宜選択されるが、通常0.1〜10重量%である。例えば、重量平均分子量40〜120万のヒアルロン酸に対して導入率0.1〜15%で光反応性基が導入されている場合は0.5〜8重量%が好ましい。
なお、光反応性基の導入率とは、多糖中に存在する「光反応性基を導入可能な官能基」のモル数に対する「導入された光反応性基」のモル数(=光反応性物質の導入数)の割合を百分率で表示した値である。また、ここで、光反応性基を導入可能な多糖の官能基とは、光反応性基またはスペーサーの種類によって異なるが、光反応性基またはスペーサーに含まれるカルボキシル基を多糖との結合に使用する場合は、多糖中のアミノ基またはヒドロキシル基が例示され、光反応性基またはスペーサーに含まれるアミノ基またはヒドロキシル基を多糖との結合に使用する場合は、多糖のカルボキシル基が例示される。
光を照射して架橋反応を行なう前の光反応性多糖の溶液から、光反応性多糖と溶媒以外の物質(例えば、未反応の光反応性物質、不純物、異物)を除去しておくことにより、得られる本発明の多糖擬スポンジの純度を医療用具などの医療目的に使用し得る程度に高めることが出来る。該溶液中の不純物や異物などの除去は、例えば、透析、濾過、遠心分離などの常法に従って行うことが出来る。光反応性多糖は、通常、水性溶媒に溶解した溶液の状態で得られる為、多糖と反応しなかった光反応性物質の除去は、極めて容易に行われる。斯かる除去処理は、殊に洗浄が困難な本発明の多糖擬スポンジの調製においては実益が高い。
光反応性多糖の溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルを凍結または凍結乾燥させ、得られた凍結体または凍結乾燥体の多糖ゲルに光を照射する。
光の照射は、溶液の形態保持に使用する容器を通じて行うことが好ましく、特に多糖ゲルを凍結させた凍結体に光照射する場合には容器を使用するのが好ましい。容器の形態は、通常、最終的に得られる本発明の多糖擬スポンジの形態を考慮して決定される。この際、光反応性基として、例えばシンナモイル基(ケイ皮酸残基)等の紫外線を吸収して架橋反応を起こす不飽和二重結合を有する光反応性物質を使用した、光反応性多糖を使用する場合は、架橋反応時の溶媒である水によって紫外線が吸収される性質を有する為、紫外線の光路長が1cm以下となる様な形態を選択するのが好ましい。容器の材質は、光反応性多糖の架橋反応に必要な波長の光を吸収しない材質であって、その様な光を透過する材質でなければならない。斯かる材質としては、例えば、架橋反応に紫外線が使用される場合は、紫外線吸収率が低いポリプロピレン等の高分子化合物、ガラス(特に石英ガラス又は硬質ガラス)等が挙げられる。なお、凍結乾燥体に光を照射する場合は、必ずしも容器を通じて行う必要はなく、直接、当該乾燥体に光を照射してもよい。
照射する光は、光反応性物質に作用し、重合、二量化などの反応を起こさせる限り特に限定はされない。例えば、可視光、紫外線、赤外線、電子線、放射線なども本発明における光に包含される。これらの中では、可視光または紫外線が好ましく、更に好ましくは紫外線である。そして、使用する光の波長としては180〜650nmが好ましい。例えば、光反応性物質としてケイ皮酸を使用した場合は、260〜350nmの紫外線が好ましい。保形性を有する多糖ゲルを得る為の照射条件は予備的実験で求めておくのが簡便である。
光反応性多糖溶液に光を照射して得られた多糖ゲルを凍結する場合における、その凍結条件は、多糖ゲルを凍結させ得る条件である限り特に制限されず、公知の多糖スポンジの製造で採用される通常の条件を採用し得る。例えば、液体窒素の様な超低温物質、多糖ゲルの凍結温度以下に冷却した冷媒(例えば、エタノール)等を使用して急激に凍結してもよく、また、一般家庭用冷凍庫を使用して比較的緩やかに凍結してもよい。なお、凍結処理は、通常、多糖ゲルの製造工程に引き続いて行われる。容器に収容された多糖ゲルをそのまま容器と共に冷却する。また、光反応性多糖溶液に光を照射して得られた多糖ゲルを凍結乾燥する場合は、通常の凍結乾燥方法を使用することが可能である。例えば、−20℃雰囲気下で凍結した後、室温にて減圧下(例えば、1パスカル(Pa))で凍結乾燥を行う方法が挙げられる。
凍結状態および凍結乾燥状態での架橋反応は溶液状態の架橋反応に比して格段に少ない光のエネルギーで引き起こすことが出来ることが知られている。従って、凍結前または凍結乾燥前の光照射は保形性を有する多糖ゲルを得る為に必要な最低条件で行い、目標とする架橋率を得る為の十分な光照射は凍結後または凍結乾燥後に行なうのが経済的である。
また、照射する光量は、本発明の多糖擬スポンジの使用目的に応じて適宜変化させることが出来る。ここで、「光量」は、「単位面積当りの照度」と「照射時間」の積から算出される。例えば、ケイ皮酸にアミノプロパノールが結合して成るケイ皮酸アミノプロピルを光反応性物質として使用し、多糖としてヒアルロン酸を使用した場合において、比較的高い機械的強度を有する本発明の多糖擬スポンジを得る為には次の様に行なう。
先ず、例えば、光反応性基の導入率8%、濃度4重量%の光反応性ヒアルロン酸の水溶液を両面から光を照射可能な容器に収納し、片面当たり光量50J/cm(測定波長:280nm)の光を容器の両面から照射して保形性を有する多糖ゲルを得る。次いで、得られた多糖ゲルを凍結させて、片面当たり100〜250mJ/cm(測定波長:280nm)の光を両面から照射し光架橋ヒアルロン酸擬スポンジを得る。なお、3kw高圧水銀ランプを使用した場合、片側からしか光照射出来ない為、上記例では光照射のムラを考慮し、照射ごとに反転して両面に照射することが出来る。
光照射の総光量としては、例えば、多糖ゲルを得るには、約1,000mJ/cm以上であればよいが、好ましくは100,000mJ/cmが挙げられる。更に得られた多糖ゲルを凍結させて光照射し本発明の擬スポンジを得るには、10mJ/cm以上であればよいが、好ましくは500mJ/cmが挙げられる。光反応性多糖溶液に光を照射して得られた多糖ゲルを凍結乾燥する場合においては、凍結状態よりも光の透過性が悪いことから、光照射の総光量は、通常500mJ/cm以上、好ましくは5J/cm以上、更に好ましくは10J/cm以上である。
なお、上述の光量の測定は、例えば、照度計UV−M10(オーク製作所製)を使用することが出来るが、同等の光量を照射できるものであれば、通常に使用されているもので構わない。
また、本発明の製造方法において、光反応性多糖溶液に、アルコール、界面活性剤およびキレート剤から成る群から選択される何れかの水性溶媒混和性を有する物質(添加物質)を含有させても構わない。例えば、光反応性多糖と上記添加物質とを水性溶媒に溶解することにより光反応性多糖溶液を調製し、当該溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルの凍結または凍結乾燥を行い、得られた凍結体または凍結乾燥体に光を照射して、本発明の多糖擬スポンジを得るが可能である。
なお、アルコール、界面活性剤およびキレート剤から成る群から選択される何れかの水性溶媒混和性を有する添加物質としては、本発明の多糖擬スポンジの機能や効果を妨げないものを選択する必要がある。水性溶媒混和性を有すアルコールとしては以下の一般式(1)で表されるアルコール、特にポリエチレングリコール類が好ましい。
Figure 0004867343
炭素数1〜10の鎖状アルキルとしては、メチル、エチル等が、炭素数3〜10の分岐を有するアルキルとしてはイソプロピル、t−ブチル等が挙げられる。
上記の様なアルコールとしては、低級アルコール、多価アルコールまたは多糖アルコールが挙げられる。
低級アルコールとしては、炭素数が1〜10、より好ましくは1〜8のアルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等が例示される。多価アルコールとは、すなわち、分子内に存在するヒドロキシル基が2個以上であるアルコールであり、より好ましくは3個以上のヒドロキシル基を有するアルコールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、グリセリンが挙げられ、エチレングリコールが好ましい。また、糖アルコールとしては、鎖状の糖アルコールであっても、環式糖アルコールであっても使用することは可能であるが、鎖状の糖アルコールが好ましい。糖アルコールとしては、イノシトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどが好ましく挙げられるが、マンニトール、キシリトール、ソルビトールがより好ましく、マンニトール又はソルビトールが更に好ましく挙げられる。
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤またはアニオン界面活性剤が好ましく挙げられ、中でも、非イオン界面活性剤としてはポリエチレングリコール(PEG)が、アニオン界面活性剤としてはアルキル硫酸塩が挙げられ、特にドデシル硫酸ナトリウムが好ましく挙げられる。
キレート剤としては、クエン酸の様なオキシカルボン酸類やエデト酸類(例えば、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA))の様なポリアミノカルボン酸類が挙げられる。
上述のアルコール、界面活性剤およびキレート剤から成る群から選択される何れかの水性溶媒混和性を有する添加物質は、得られる多糖擬スポンジに求める性状や用途などを考慮して選択することが好ましい。例えば、クエン酸を選択して本発明の製造方法に従い得られた多糖擬スポンジは、シート形態での強度や付着性が向上し、また、同様にグリセリン又はポリエチレングリコール400(PEG400)の何れかを添加し得られた多糖擬スポンジは、シート形態での柔軟性が向上する。また、後述の様に本発明の多糖擬スポンジに予め薬剤などを含ませておき薬剤徐放用医用材料として本発明の多糖擬スポンジを使用する場合においては、例えば、脂溶性薬剤を本発明の多糖擬スポンジに含有させる為には、グリセリンやPEG400を選択するのが好ましく、塩基性繊維芽細胞増殖因子を含有させる為にはEDTAを選択するのが好ましい。
次に、多糖擬スポンジについて説明する。多糖擬スポンジは、前述の様に多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の架橋反応で得られる。そして、以下の(I)及び(II)に記載の低膨潤特性および酵素分解時間の条件を有する。
(I)溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:10mm,横:10mm)を作製し、当該試験片を注射用水に、室温にて1時間浸漬した後に測定した以下の式で表される膨潤率が125%以下である。
Figure 0004867343
(S1は浸漬前の面積、S2は浸漬後の面積を表す。なお、面積は試験片の縦と横の長さから求められる。)
(II)溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:20mm,横:10mm)を作製し、当該試験片について、5mmol/lのリン酸緩衝生理食塩水1mL、1mol/lの酢酸緩衝溶液0.2mL、5TRU(Turbidity Reducing Unit)/mLの多糖分解酵素溶液(例えば、ヒアルロニダーゼ)0.2mLの反応混液中、50℃条件下で測定した酵素による分解時間が1300分以下である
光反応性多糖溶液に光を照射して得られた多糖ゲルを凍結し、得られた凍結多糖ゲルに光を照射して得られた本発明の多糖擬スポンジは、従来の多糖ゲルの溶媒和の場合と同様の状態、すなわち、溶媒含有状態で得られ、原料として光反応性多糖の水溶液を使用した場合は含水状態として得ることが出来る。上記の溶媒含有率は、本発明の多糖擬スポンジの調製の際に光反応性多糖の溶液として水溶液を使用した場合は含水率を意味する。すなわち、例えば、ケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%濃度の水溶液として使用した場合は、96重量%の水を含有する多糖擬スポンジが形成され、溶媒含有率(含水率)96重量%となる。なお、含水状態で作られた多糖擬スポンジを乾燥したものも本発明の多糖擬スポンジに包含される。
一方、光反応性多糖溶液に光を照射して得られた多糖ゲルを凍結乾燥し、得られた凍結乾燥体に光を照射して得られた本発明の多糖擬スポンジは、上記と異なり、水などの溶媒を含まない状態で得られる。しかし、水などの溶媒に浸漬することにより、溶媒を含有するものを得ることが可能である。例えば、物性を調査する際に使用する試験片(96重量%含水率)は、試験片重量の24倍量の蒸留水に浸漬し、吸水させた後、所定の大きさに切り出すことにより作成することが出来る。また、凍結乾燥前に予め所定の大きさに成形したものを使用してもよい。但し、低膨潤性試験については、凍結乾燥前に、予め、縦1cm、横1cm、厚さ1mmの試験片を成形し、凍結乾燥終了後、十分な量の蒸留水中で吸水させた試験片の大きさと比較することにより行う。
前述の様に、水に対する低膨潤特性は本来的には多糖スポンジの特徴である。すなわち、多糖ゲルは溶媒和によって膨潤する性質を有するが、多糖スポンジは実質的に膨潤しないにの性質は架橋率によっても大きく影響されない)。本発明の多糖擬スポンジは、上記(I)の膨潤試験において膨潤率が125%以下という低膨潤特性を示し、多糖スポンジと類似する。本発明の多糖擬スポンジの膨潤率は、好ましくは100%以下、更に好ましくは70%以下である。より一層低い膨潤特性は、例えば架橋率を高めることによって達成可能である。
本発明の多糖擬スポンジは、溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:20mm,横:10mm)を作製し、当該試験片を重量平均分子量200万のブルーデキストランの0.5g/mL水溶液に浸漬した後、水洗、加水分解し、多糖濃度として0.67重量%の水溶液を調製し、当該水溶液について測定した波長620nmにおける吸光度が0.15以下である。このブルーデキストラン染色試験において、通常、ブルーデキストラン水溶液の調製には注射水が使用され、また、多糖擬スポンジ試験片の加水分解は1mol/lNaOH1mLを添加して1時間行われる。この加水分解により試験片の全ての成分が溶解して、試験片を染色した色素を含む多糖溶液が形成される。そして、吸光度の測定は分光光度計を使用して行われる。
本明細書においては、ブルーデキストランによる試料片の染色方法として、念の為、次の2つの方法を採用している。その1つは、ソーキング法と称する方法であり、試験片をブルーデキストラン溶液1mLに1時間漬けた後に取り出し、注射用水中で軽くすすぐ方法である。他の1つは、ディッピング法と称する方法であり、試験片をブルーデキストラン溶液に浸漬して吊り上げる操作を10回繰り返した後、注射用水に浸漬して吊り上げる操作を10回繰り返す方法である。前者の方法は十分な時間を掛けて染色する方法であり、後者の方法は試料片の膨潤が起こらない様にして染色する方法である。
ところで、多糖スポンジはブルーデキストランによる染色性は高いので、ブルーデキストランによる低染色性は本来的には多糖スポンジに期待できない特性である。むしろ、一般にブルーデキストランはヒドロゲルの網目構造に浸入できないと考えられていることから、ブルーデキストランによる低染色性は多糖ゲルの有する特性である。ところが、本発明の多糖擬スポンジは、後記の実施例に示す様に、上記方法で染色特性を測定した場合、吸光度0.15以下の低染色性を示す。斯かる染色特性は、本発明の多糖擬スポンジが有する多糖ゲル様の性質に基づくものと考えられる。本発明の多糖擬スポンジの染色試験における吸光度は、好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.05以下である。より一層低い染色性は、例えば架橋率を高めることによって達成可能である。なお、ブルーデキストランによる染色性は、生体内における組織、細胞などの癒着に対するバリア効果と相関すると考えられ、当該効果を推測する指標として利用することが出来る。従って、本発明の多糖擬スポンジのブルーデキストランによる低染色性は、本発明の多糖擬スポンジの上記の高いバリア効果を示唆する。
本発明の多糖擬スポンジは、溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:60mm,横:25mm)を作製し、当該試験片について、24℃条件下、テクスチャーアナライザーを使用して直径12.7mmの球状プローブを1mm/秒の速度で突き刺して破断する方法で測定した破断強度が200g以上であることが好ましい。斯かる高破断強度は、後記の実施例に示す様に、従来の多糖スポンジでさえも達成し得ない特性であり、本発明の多糖擬スポンジが有する特異的性質の一つである。上記の破断強度は、凍結体の多糖ゲルに光を照射する方法で得られた多糖擬スポンジの場合は、好ましくは250g以上、更に好ましくは300g以上であり、凍結乾燥体の多糖ゲルに光を照射する方法で得られた多糖擬スポンジの場合は、好ましくは210g以上、更に好ましくは220g以上である。より一層高い破断強度は、例えば架橋率を高めることによって達成可能である。
本発明の多糖擬スポンジは、前述の通り、該酵素による分解時間が1300分以下であるが、好ましくは1250分以内、更に好ましくは1200分以内、特に好ましくは1000分以内である。斯かる分解時間は、例えば架橋率を調節することによって達成可能である。
本発明の多糖擬スポンジは、多糖スポンジと多糖ゲルの両性質を併せた持った様な特徴を有する。多糖擬スポンジが斯かる特異的性質を示す理由は明らかではないが、それに関して次の様なことが推定される。
前述の様に、凍結状態または凍結乾燥状態での架橋反応は溶液状態の架橋反応に比して格段に少ない光のエネルギーで引き起こすことが出来る。更に、凍結状態であれば、凍結温度が低い程に架橋反応は一層容易に起こる。斯かる高架橋効率には、光反応性多糖の溶液の溶質と溶媒へとの相分離、光反応性多糖分子の配列(結晶性)の向上および熱運動の低下などが影響しているものと考えられる。ところで、本発明の多糖擬スポンジは、溶液状態での前段架橋反応と凍結状態または凍結乾燥状態での後段架橋反応の2段階の架橋反応によって得られる。この場合、例えば次の様な現象が推定される。
(a)前半の緩慢な架橋反応により少量の三次元網目構造が形成され、後段の凍結状態または凍結乾燥状態での架橋反応により網目構造内部に光反応性多糖分子が配列した密な構造が形成される。その結果、三次元的に粗密が存在する複合構造(例えば鉄筋コンクリート構造)が形成される。
(b)前半の緩慢な架橋反応により三次元網目構造が全体的に形成され、光反応性多糖分子の配列が高められた後に凍結状態または凍結乾燥状態での架橋反応が行われる。その結果、凍結状態または凍結乾燥状態の架橋反応のみによる場合に比し、光反応性多糖分子の三次元的配列が更に高められた高配列構造が形成される。
何れにしても、本発明の多糖擬スポンジは、その前述した特異的性質から、従来の多糖ゲル及びスポンジとは異なった構造を有していると考えられる。そして、上記(a)の複合構造および/または上記(b)の高配列構造により、本発明の多糖擬スポンジは、従来の多糖スポンジでも達成し得ない高破断強度を有するものと考えられる。
次に、本発明の医用材料について説明する。本発明の医用材料は、前述の本発明の多糖擬スポンジを含むことを特徴とする。本発明の多糖擬スポンジは、前述した通り、その製造工程において不純物や異物を除去することが容易である。また、特にグリコサミノグリカン等の多糖は生体内に存在する多糖である。従って、本発明の多糖擬スポンジは生体に対する安全性が高いと考えられ、医用材料として使用することが可能である。医用材料の具体例としては、生体組織などの癒着防止材(手術に使用する術後癒着防止材など)が挙げられる。
ところで、癒着防止材の膨潤性が高い場合は、癒着を防止したい目的部位から癒着防止材が移動して癒着防止効果が低下する問題がある。また、例えば膨潤性の高いシート状の癒着防止材では、膨潤により強度が低下する為、裂け易くなり、外圧により崩れ、組織間を隔てるバリア材としての役目を果たさなくなる、という大きな問題がある。本発明の多糖擬スポンジは膨潤性が極めて低い為に目的部位から殆ど移動せず、また、シート状の癒着防止材として使用しても、裂けたり、崩れたりすること殆ど無く、バリア材としての非常に有用である。本発明の多糖擬スポンジは、生体内で容易に分解される為、長期間生体内で残留するという問題も有しない。更に、本発明の多糖擬スポンジは、前述の通りブルーデキストランによる低染色性から細胞浸潤に対する抵抗性を有していると推定される。斯かる性質は殊に癒着防止材として好ましい。
また、他の医用材料の例として薬剤徐放用基材が挙げられる。すなわち、本発明の多糖擬スポンジは、優れた生体内分解性を示す為、その中に予め薬剤を含ませておくことにより薬剤徐放用医用材料として使用可能である。斯かる薬剤徐放用医用材料は、本発明の多糖擬スポンジを調製する際に光反応性多糖の溶液に予め薬剤を混合することにより得ることが出来る。また、本発明の多糖擬スポンジに薬剤を含浸させることにより調製することも可能である。
上記の薬剤としては、例えば、非ステロイド性抗炎症剤(インドメタシン、メフェナム酸、アセメタシン、アルクロフェナック、イブプロフェン、塩酸チアラミド、フェンブエン、メピリゾール、サリチル酸など)、抗悪性腫瘍剤(メトトレキサート、フルオロウラシル、硫酸ビンクリスチン、マイトマイシンC、アクチノマイシンC、塩酸ダウノルビシン等)、抗潰瘍剤(アセグルタミドアルミニウム、L−グルタミン、P−(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボニル)−フェニルプロピオン酸塩酸塩、塩酸セトラキサート、スルピリド、ゲファルナート、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン等)、酵素製剤(キモトリプシン、ストレプトキナーゼ、塩化リゾチーム、ブロメライン、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子)、血圧降下剤(塩酸クロニジン、塩酸ブニトロロール、塩酸プラゾシン、カプトプリル、硫酸ベタニジン、酒石酸メトプロロール、メチルドバ等)、泌尿器官用剤(塩酸フラボキサート等)、抗血栓剤(ヘパリン、ヘパラン硫酸、スロンボモジュリン、ジクマロール、ワーファリン等)、動脈硬化用剤(クロフィブラート、シンフィブラート、エラスターゼ、ニコモール等)、循環器官用剤(塩酸ニカルジピン、塩酸ニモジピン、チトクロームC、ニコチン酸トコフェロール等)、ステロイド剤(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等)、創傷治癒促進剤(成長因子、ヘパリン誘導体、コラーゲン等)、その他、生理活性を有するポリペプチド、ホルモン剤、抗結核剤、止血剤、糖尿病治療剤、血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、抗アレルギー剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、筋弛緩剤、鎮咳去たん剤、抗生物質などが挙げられる。
また、本発明の多糖擬スポンジはその内部に細胞などが浸潤しないという性質を有することから、細胞や組織の培養用基材としても使用することが可能である。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例で使用した技術用語の定義および測定方法は次の通りである。
(1)光反応性基の導入率:
光反応性基の導入率は、多糖としてグリコサミノグリカンを使用し、光反応性基をグリコサミノグリカンのカルボン酸基に導入する場合には、その繰り返し二糖単位当りに導入された光反応性基の数を百分率で表した値を意味する。導入率の算出に必要なグリコサミノグリカンの量は、検量線を利用したカルバゾール測定法により測定し、光反応性物質としてケイ皮酸または置換ケイ皮酸を使用した場合のケイ皮酸の量は、検量線を利用した吸光度測定法(測定波長269nm)により測定した。
(2)架橋率:
架橋率は、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液1mLで被検物質1gを1時間加水分解化した後、得られた溶液を酸性にして酢酸エチルで光反応性基由来物(単量体、二量体)を抽出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析し、検量線法によって二量体の量を測定した。そして、多糖に導入された光反応性基に対する二量体となった光反応性基のモル数を百分率で表した。
調製例1(光反応性ヒアルロン酸の調製):
1重量%ヒアルロン酸ナトリウム(鶏冠由来、生化学工業株式会社製、重量平均分子量90万)の水溶液500gに、水/ジオキサン=250mL/375mLの混合溶液を加えて撹拌した。室温でN−ヒドロキシコハク酸イミド860mg/水2mL(0.6当量/ヒアルロン酸二糖単位(mol/mol))、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロプル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl/HCl)717mg/水2mL(0.3当量/ヒアルロン酸二糖単位(mol/mol))、ケイ皮酸アミノプロピル塩酸塩(HCl・HN(CHOCO−CH=CH−Ph:Phはフェニル基を示す)903mg/水2mL(0.3当量/ヒアルロン酸二糖単位(mol/mol))を順次加え、2時間30分間撹拌した。炭酸水素ナトリウム2.5g/水50mLを加えて一昼夜撹拌した後、塩化ナトリウム30gを加えた。この反応溶液に2Lのエタノールを投入し、沈殿物を析出させ、この沈殿物をエタノール/水(80:20重量比)混合溶媒で2回、エタノールで2回洗浄した後、室温で一晩乾燥させ、5.24gの白色固体(ケイ皮酸3−アミノプロピルエステル導入ヒアルロン酸:「ケイ皮酸導入ヒアルロン酸」とも記載する)を得た。ヒアルロン酸繰り返し二糖単位当りのケイ皮酸の導入率は8.2%だった。なお、ケイヒ酸アミノプロピルをそれぞれ導入したアルギン酸とカルボキシメチルセルロースも、上記と同様に調製した。
調製例2(架橋ヒアルロン酸ゲルの調製):
(1)上記調製例1で得られたケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%となる様に注射用水に溶解させた。この溶液を6cm×2.5cm、厚さ1mmとなる様に強化ガラス板で調製した型に流し込み、水冷下で3kWメタルハライドランプで片面15分ずつ紫外線を照射し、透明なシート状のゲル(含水率:96重量%)を得た。ゲルの架橋率は30%であった。
(2)上記調製例1の方法に従い調製した導入率4.6%のケイ皮酸導入ヒアルロン酸を使用し、上記(1)と同様に、透明なシート状の架橋ヒアルロン酸ゲルを得た。得られたゲルの架橋率は、13.6%であった。なお、光照射は3kW高圧水銀ランプを使用し、計100J/cmを照射した。
調製例3(架橋ヒアルロン酸スポンジの調製):
(1)上記調製例1で得られたケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%となる様に注射用水に溶解させた。この溶液を6cm×2.5cm、厚さ1mmとなる様に強化ガラス板で調製した型に流し込み、−20℃で凍結させた。凍結後、800W高圧水銀ランプで両面から2000mJ/cmの紫外線を照射し、乳白色のシート状のスポンジ(含水率:96重量%)を得た。スポンジの架橋率は33%であった。
(2)上記調製例1の方法に従い調製した導入率4.6%のケイ皮酸導入ヒアルロン酸を使用し、(1)と同様の方法にて、乳白色のシート状のスポンジを得た。得られたスポンジの架橋率は、16.2%であった。なお、光照射は800W高圧水銀ランプを使用し、計4J/cmを照射した。
[実施例1](本発明の多糖擬スポンジ1の調製):
光反応性多糖の溶液の充填容器としては縦横6cm×2.5cmで厚さ1mmとなる様に強化ガラス板で調製した型を使用した。先ず、上記調製例1で得られたケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%となる様に注射用水に溶解させた。次いで、得られた溶液を上記の型に流し込み、水冷下で3kWメタルハライドランプで片面50J/cmずつ計100J/cm2の紫外線を照射した。その後、−20℃で凍結させた後、800W高圧水銀ランプで両面から100mJ/cmの紫外線を照射し、半透明のシート状の本発明の多糖擬スポンジ1(含水率:96重量%)を得た。多糖擬スポンジ1の架橋率は33%であった。
[実施例2](本発明の多糖擬スポンジ2の調製):
上記調製例1の方法に従い調製した導入率4.6%のケイ皮酸導入ヒアルロン酸を使用し、実施例1の方法に従い、半透明のシート状の本発明の多糖擬スポンジ2を得た。得られた多糖擬スポンジ2の架橋率は、17.0%であった。なお、−20℃で凍結させた後の光照射は800W高圧水銀ランプで計1J/cmを照射した。
<破断強度試験>
本発明の多糖擬スポンジ1について、明細書の本文に記載した方法により破断強度の測定を行なった。テクスチャーアナライザーは、Stable Micro Systems社製「TA−XT2」を使用した。対照として、調製例2(1)において調製した架橋ヒアルロン酸ゲル及び調製例3(1)において調製した架橋ヒアルロン酸スポンジを使用し、同様に測定した。測定結果を図1に示す。本発明の多糖擬スポンジ1の破断強度は、約420gであり、ゲルの8倍以上、スポンジの4倍弱であった。
<ブルーデキストランに対する染色試験>
本発明の多糖擬スポンジ1について、明細書の本文に記載した方法(ディッピング法およびソーキング法)により染色試験を行なった。対照として、調製例2(1)において調製した架橋ヒアルロン酸ゲル及び調製例3(2)において調製した架橋ヒアルロン酸スポンジを使用し、同様に測定した。測定結果を図2に示す。図2において、縦縞のバーはディッピング法を示し、横縞のバーはソーキング法を示す。本発明の多糖擬スポンジ1の染色性は、吸光度で表した値が0.02であり、ゲルの約1/7、スポンジの約1/10であった。因みに、ゲルにおける予想外の高い染色性は、ゲル内部へのブルーデキストランの浸入ではなく、表面部分における吸着に起因するものと考えられる。
<膨潤試験>
本発明の多糖擬スポンジ1について、明細書の本文に記載した方法により膨潤試験を行なった。対照として、調製例2(1)において調製した架橋ヒアルロン酸ゲル及び調製例3(1)において調製した架橋ヒアルロン酸スポンジを使用し、同様に測定した。測定結果を図3に示す。図3中の面積比はA2/A1を表し、ここで、A1は注射用水に浸漬する前の試験片の面積、A2は注射用水に浸漬した後の試験片の面積を表す。なお、面積とは、試験片の縦と横の長さから算出される面積である。本発明の多糖擬スポンジ1の膨潤率は約20%(面積比:1.2)、スポンジは全く膨潤せず(膨潤率:0%,面積比:1.0)、ゲルの膨潤率は240%(面積比:3.4)であった。
<酵素による分解性試験>
本発明の多糖擬スポンジ1について、明細書の本文に記載した方法により分解性試験を行なった。対照として、調製例2(1)において調製した架橋ヒアルロン酸ゲル及び調製例3(1)において調製した架橋ヒアルロン酸スポンジを使用し、同様に測定した。測定結果を図4に示す。本発明の多糖擬スポンジ1の分解時間は約500分であり、ゲルの1.6倍であった。これに対し、スポンジは分解にゲルの4.8倍の時間が要する。このことから、本発明の多糖擬スポンジ1は、適度な酵素分解性を有していることが示された。
[実施例3](本発明の多糖擬スポンジ3の調製):
上記調製例1の方法に従い調製した導入率8.2%のケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%となる様に注射用水に溶解させた。次いで、得られた溶液を実施例1に記載の容器に流し込み、水冷下3kwメタルハライドランプで片面50J/cmずつ、合計100J/cmの紫外線を照射した。その後、−20℃で凍結し、容器から取り出し、室温にて凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥品に、800W高圧水銀ランプで両面から合計5J/cmの紫外線を照射し、多糖擬スポンジ3を得た。得られた多糖擬スポンジ3の架橋率は、21.5%であった。
上記の多糖擬スポンジ3について、前述の多糖擬スポンジ1の場合と同様の方法により、各物性値を測定した。その結果、破断強度は229.4g、ディッピング法およびソーキング法により染色試験の吸光度は0.021、膨潤率は50%であった。
<本発明の多糖擬スポンジの薬剤徐放性検討>
上記調製例1の方法に従い調製した導入率8.2%のケイ皮酸導入ヒアルロン酸を4重量%となる様に注射用水に溶解させた溶液に、薬剤のモデル物質として、分子量200万のブルーデキストランを濃度が10mg/mLとなる様に加え、十分に混和した。得られた溶液を縦5.5cm、横3.5cm、厚さ0.5mmの型に流し込み、水冷下3kWメタルハライドランプで片面50J/cmずつ計100J/cmの紫外線を照射した。その後、−20℃で凍結させた後、凍結状態のまま800W高圧水銀ランプで両面から計500mJ/cmの紫外線を照射し、ブルーデキストラン含有多糖擬スポンジ(以下、「BD含有多糖擬スポンジ」とも言う。)を得た。本多糖擬スポンジの架橋率は20%であった。本BD含有多糖擬スポンジを5枚調製した。
ラット4匹を使用し、各ラットの正中切開腹腔内に、上記で得られたBD含有多糖擬スポンジを1枚づつ留置した後、1週間目、2週間目、3週間目、4週間目毎にBD含有多糖擬スポンジを腹腔内より回収し、BD含有多糖擬スポンジ中のブルーデキストラン残存量と多糖擬スポンジ自体の残存量を測定した。
ブルーデキストラン残存量の測定は、回収したBD含有多糖擬スポンジを、室温で1時間、1N NaOH50mLにて加水分解して得られた溶液の620nmの吸収を分光光度計で測定することにより行なった。留置前のBD含有多糖擬スポンジに含有されていたブルーデキストラン量を100とし、各時点におけるブルーデキストランの残存割合を求めた。
多糖擬スポンジ残存量の測定は、先のブルーデキストラン残存量測定に使用した溶液中のウロン酸含量をカルバゾール測定法により定量することで行なった。留置前のBD含有多糖擬スポンジのウロン酸量を100とし、各時点における多糖擬スポンジの残存割合を求めた。
ラット腹腔内に埋植した期間に対するブルーデキストラン残存率及び多糖擬スポンジ残存率の結果を図5に示す。
図5に示す結果より、腹腔内に留置して4週経っても、ブルーデキストランは22%程度残存しており、多糖擬スポンジは70%残存していた。投与後1週間では、バーストによると思われるブルーデキストランの放出が認められるが、その後は多糖擬スポンジの残存量低下と共にブルーデキストランの残存量が低下しており、多糖擬スポンジの分解と共にブルーデキストランが放出されていると推測される。これより、何ら薬剤と化学結合することなく、単に混合して多糖擬スポンジ化するだけで、1ヶ月以上に渡り薬剤を放出し得ることが示され、本発明の多糖擬スポンジは薬剤徐放基材として好適であると考えられる。
<走査電子顕微鏡による観察>
本発明の多糖擬スポンジ2について走査電子顕微鏡で観察した。走査電子顕微鏡にて観察する為、本発明の多糖擬スポンジ2を凍結乾燥して使用した。図6は本発明の多糖擬スポンジ2の表面の拡大図(図面代用写真)であり、図7は本発明の多糖擬スポンジ2の断面の拡大図(図面代用写真)である。また、調製例2(2)において調製した架橋ヒアルロン酸ゲル及び調製例3(2)において調製した架橋ヒアルロン酸スポンジについても同様に観察した。図8は、調製例2(2)で調製した架橋ヒアルロン酸ゲルの表面の拡大図(図面代用写真)であり、図9は、調製例2(2)で調製した架橋ヒアルロン酸ゲルの断面の拡大図(図面代用写真)である。図10は、調製例3(2)で調製した架橋ヒアルロン酸スポンジの表面の拡大図(図面代用写真)であり、図11は、調製例3(2)で調製した架橋ヒアルロン酸スポンジの断面の拡大図(図面代用写真)である。
走査電子顕微鏡での観察より、本発明の多糖擬スポンジの強度が高い理由は以下の通りと推定される。すなわち、多糖擬スポンジは「面」によ立体構造が構成されているが、スポンジは「柱(線)」であり、ポアサイズに殆ど違いが無いので、当然強度は線より面のほうが高くなることが示唆される。また、多糖擬スポンジの壁面はかなり均質であり、通常の概念から、ざらざらしている面よりも滑らかな面の方が強度が向上する。多糖擬スポンジは独立気泡の様な袋構造の連続体で構成されているが、スポンジは連通孔構造であり、ゲルはささくれ立つが袋構造となる。
上記の様な構造の違いは、ブルーデキストラン染色性の違いに反映していると考えられる。すなわち、擬スポンジは表面が薄膜で覆われた様に滑らかであるため、ブルーデキストラン溶液が表面を簡単に流れてしまい低染色性を示す。一方、通常、重量平均分子量200万のブルーデキストランの粒子を透過しないとして知られているゲルがやや染色性を示したのは、表面がざらざらしていることによる、表面へのブルーデキストラン粒子の吸着によるものと考えられる。
また、膨潤性については次の様に推定される。すなわち、ゲルの壁面はひだ状になっている。これは高次構造が折り畳まれていることを示唆し、高次構造内に歪みを持ち、拡張方向にゆとりを有している為に膨潤すると考えられる。
[実施例4](ケイ皮酸導入アルギン酸を用いた本発明の多糖擬スポンジの調製:
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の全カルボキシル基の4%にケイ皮酸アミノプロピルを導入した光反応性アルギン酸1gを注射用水25mLに溶解して4重量%光反応性アルギン酸水溶液を作製した。この水溶液1mLを層厚が1mmとなる様に高密度ポリプロピレンパックに封入し、800W高圧水銀ランプにて2500mJ/cm照射した後、−40℃のドライアイスエタノールバス中で凍結した。次いで、凍結状態を維持したまま、高圧水銀ランプにて250mJ/cmの光を照射し、架橋アルギン酸擬スポンジを得た。
[実施例5](ケイ皮酸導入カルボキシメチルセルロースを用いた本発明の多糖擬スポンジの調製):
カルボキシメチルセルロースナトリウム(ナカライテスク(株)製)の全カルボキシル基の約10%にケイ皮酸アミノプロピルを導入した光反応性カルボキシメチルセルロース1gを注射用水25mLに溶解して4重量%光反応性カルボキシメチルセルロース水溶液を作製した。この水溶液1mLを層厚が1mmとなる様に高密度ポリプロピレンパックに封入し、800W高圧水銀ランプにて2500mJ/cm照射した後、−40℃のドライアイスエタノールバス中で凍結した。次いで、凍結状態を維持したまま、高圧水銀ランプにて250mJ/cmの光を照射し、架橋カルボキシメチルセルロース擬スポンジを得た。

Claims (19)

  1. 多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルを凍結又は凍結乾燥させ、得られた凍結多糖ゲル又は凍結乾燥体に光を照射する方法により得られ、以下の(II)に記載の酵素分解時間の条件を有することを特徴とする多糖擬スポンジ。
    (II)溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:20mm,横:10mm)を作製し、当該試験片について、5mmol/lのリン酸緩衝生理食塩水1mL、1mol/lの酢酸緩衝溶液0.2mL、5TRU(Turbidity Reducing Unit)/mLの多糖分解酵素溶液0.2mLの反応混液中、50℃条件下で測定した酵素による分解時間が1300分以下である。
  2. 多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の溶液が、当該溶液にアルコール、界面活性剤およびキレート剤から成る群から選択される何れかの水性溶媒混和性を有する物質を更に含有させた溶液である、請求項に記載の多糖擬スポンジ。
  3. 照射する光の波長が180〜650nmである請求項1又は2に記載の多糖擬スポンジ。
  4. 架橋率が1%以上である請求項1〜の何れかに記載の多糖擬スポンジ。
  5. 溶媒含有率96重量%の試験片(厚さ:1mm,縦:60mm,横:25mm)を作製し、当該試験片について、24℃条件下、テクスチャーアナライザーを使用して直径12.7mmの球状プローブを1mm/秒の速度で突き刺して破断する方法で測定した破断強度が200g以上である請求項1〜の何れかに記載の多糖擬スポンジ。
  6. 多糖が、ホモグリカン、ヘテログリカン又はこれらの誘導体である請求項1〜の何れかに記載の多糖擬スポンジ。
  7. ホモグリカンがグルカンである請求項に記載の多糖擬スポンジ。
  8. ヘテログリカンがグリコサミノグリカンである請求項に記載の多糖擬スポンジ。
  9. グリコサミノグリカンがヒアルロン酸である請求項に記載の多糖擬スポンジ。
  10. 光反応性基がケイ皮酸のカルボキシル基にアミノアルコールがエステル結合またはアミド結合して成る化合物の残基である請求項1〜の何れかに記載の多糖擬スポンジ。
  11. アミノアルコールが炭素数2〜8のアミノアルコールである、請求項10に記載の多糖擬スポンジ。
  12. 多糖に光反応性基を導入した光反応性多糖の溶液に光を照射して保形性を有する多糖ゲルを得、次いで、当該多糖ゲルを凍結又は凍結乾燥させ、得られた凍結多糖ゲル又は凍結乾燥体に光を照射することを特徴とする多糖擬スポンジの製造方法。
  13. 多糖が、ホモグリカン、ヘテログリカン又はこれらの誘導体である請求項12に記載の製造方法。
  14. ホモグリカンがグルカンである請求項13に記載の製造方法。
  15. ヘテログリカンがグリコサミノグリカンである請求項13に記載の製造方法。
  16. グリコサミノグリカンがヒアルロン酸である請求項15に記載の製造方法。
  17. 請求項1〜11の何れかに記載の多糖擬スポンジを含むことを特徴とする医用材料。
  18. 癒着防止材として使用する請求項17に記載の医用材料。
  19. 薬剤徐放用基材として使用する請求項17に記載の医用材料。
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