JP4861164B2 - 光触媒検出用指示薬 - Google Patents

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Description

本発明は、光触媒検出用指示薬に関し、その指示薬は、少なくとも一つのレドックス感受性物質と、少なくとも一つの電子供与体もしくは少なくとも一つの電子受容体を含有する。本発明はまた、指示薬を用いて光触媒を検出する方法に関するものでもあって、検出される光触媒は、例えば、ガラス基板上で皮膜を形成した二酸化チタンのような半導体である。
二酸化チタンのような半導体光触媒は、水及び空気を浄化する際の増感剤として用途が拡大しつつある。事実、近年に至って半導体二酸化チタンは、ハロアルカン類、芳香族類、アルカン類、殺虫剤、農薬、除草剤及び表面活性剤などの様々な有機化合物を分解するための理想的な光触媒物質として注目されている。二酸化チタンは、安価であるうえ、製造が容易であり、光触媒として活性も高く、生物学的及び化学的に不活性であるので、魅力的な半導体光触媒である。これに加えて二酸化チタンは、珪素、セラミック、金属又はガラスのような不活性基板上に、ナノ結晶のフィルム(膜)の形で配設できるが、このフィルムは光を散乱させないので、殆ど視認できない。また、二酸化チタン(チタニアとも言う)は、光に感応してその膜の表面が超親水性になる魅力的な性質を備えている。ちなみに、ウルトラバンドギャップの光エネルギーを受けたチタニアフィルムは、あらゆる有機物の分解に役立つばかりでなく、UV光の照射を受けてその表面の親水性が向上する。こうした親水性の増大は、永久的でなく、数時間暗所に放置すると二酸化チタンは、元の親油性に戻る。親水性が増大するために、UV照射されたチタニアフィルムの表面上では、水滴が形成される可能性は低く、水膜が形成される。
光で誘起する自己洗浄性を備えたガラスの開発を目論むガラス製造会社にとって、光で誘起される超親水性と、光触媒的活性を兼備したチタニアコーティングガラスは、大いに魅力的である。光誘起自己洗浄性ガラスは、光で誘起されと超親水性になるので、コーティングされていないフロートガラスに比較して、汚れることが少ないないだけでなく、曇ることも殆どない。チタニアコーティングガラスはまた、その表面が超親水性であるため、汚れを含む水滴が表面に付着することがなく、その流れ落ちを促進する。そのために、大手ガラスメーカーの多くは、一般的用途として自己洗浄性ガラス製品の売り込みを、建設業界向けに開始している。自己洗浄性ガラス製品は、殆どすべての場合、活性成分としてナノ結晶のチタニア(すなわち、二酸化チタン)の薄膜を備え、その薄膜は、ガラス表面に沈着した有機不純物を空気中酸素で無機物化する際の光触媒として機能する。半導体二酸化チタンは、安価で、化学的及び生物学的に不活性で、機械的に堅牢であり、高い光活性を備えているので、好ましいコーティング材料である。しかし、ナノ結晶の半導体光触媒物質を、特にフィルム状で使用する際の大きな問題の一つは、ナノ結晶粒子が殆ど目に見えないことである。このため、ガラス板のどちらの面に光触媒のコーティングが存在するのかを見極めるのが難しい。チタニアが表面を覆っているガラスは、WO 00/75087, WO 02/18287及びEP 1254870に記載されており、これらを参照文献とする。
二酸化チタンは、UV光だけを吸収し、そのバンドギャップエネルギーは、3.0eV以上である。太陽光は、僅かしか紫外線を含んでいないので(約3%)、その紫外線によってチタニア被覆を備えた自己洗浄性ガラスを機能するようになるのはゆっくりであり、そのガラスの存在を知らしめるのは難しい。それ故に、二酸化チタン被膜の存在や位置が分かる光触媒用指示薬が、実際に必要とされている。
PCT/GB2002/003994(未公開)は、二酸化チタンのような半導体光触媒と、レドックス感受性染料と、犠牲電子供与体とからなる酸素センサーを提案している。この酸素センサーでは、半導体光触媒が紫外線で活性化すると、犠牲電子供与体は不可逆的に酸化され、同時にレドックス染料は還元される。レドックス感受性染料は、酸化又は還元によって変色するか、発光強度を変える。従って、PCT/GB2002/003994における酸素センサーでは、半導体光触媒による還元で染料が変色するか、発光強度を変える。この酸素センサーの染料には、酸素に敏感な還元型が選ばれているので、酸素で容易に酸化され、元の色に戻る。ウルトラバンドギャップの光により一旦活性化した酸素センサーは、酸素が存在しなければ、通常無色の還元状態のままであるが、酸素と反応すると、酸素センサーは元の色又は元の発光強度に戻る。これとは対照的に、本発明の指示薬は、半導体光触媒を含まず、光触媒の存在を検知し、その光触媒は半導体であって差し支えない。
本発明の目的の一つは、上記した幾つかの問題の少なくとも一つを解消又は軽減することにある。
本発明の他の目的、光触媒物質の存在を検知する指示薬を提供することにある。
本発明に係る光触媒検知用指示薬は、
酸化型と還元型とで物理的性質を異にする少なくとも一つのレドックス感受性物質と、少なくとも一つの犠牲電子供与体とを含有して光触媒物質と併用される指示薬であって、
光触媒物質を電子的に励起させるに必要なエネルギーに等しいか、それより大きいエネルギーの光に光触媒物質が照射されると、レドックス感受性物質が不可逆的に還元されて変色及び/又は発光強度の変化を起すことを特徴とする。
還元的電子移動機構(以下、還元機構とも呼ぶ)で機能する指示薬の場合には、少なくとも一つの電子供与体が必要である。一方、酸化的電子移動機構(以下、酸化機構とも呼ぶ)で機能する指示薬の場合は、少なくとも一つの電子受容体が必要であって、通常、これは空気中の酸素である。
還元機構で機能する指示薬では、光触媒物質に当たった光が、光触媒物質を電子的に励起すると考えられる。電子供与体からの電子が光触媒物質に供与され、光触媒物質は電子をレドックス感受性物質に与えてこれを還元するので、指示薬の色や発光強度が変化する。
酸化機構で機能する指示薬では、光で発生した電子が、電子受容体(例えば、空気中の酸素)によって光触媒物質から取り除かれ、光触媒物資は電子をレドックス感受性物質から引き抜いて当該物質を酸化するので、色及び/又は光の発光強度が変化する。光触媒物質の照射に使用する光の波長は、1000nm未満であり、一般的には200〜1000nmを、好ましくは300〜700nm、より好ましくは420nm又はそれ以下である。
本発明の指示薬は、光触媒物質のバンドギャップエネルギーに等しいか、それ以上のエネルギーを持つ光で活性化される光触媒物質と併用される。つまり、この指示薬は、光触媒物質と共存することで、機能すると考えられる。光触媒物質が存在しなければ、指示薬は前記した光の照射を受けても変色することがなく、発光強度が変化することもない。
光が照射されると、光触媒物質は電子的に励起し、言い換えれば、ウルトラバンドギャップエネルギーを受けて活性化する。電子的に励起した光触媒物質は、基底状態にある光触媒物質よりも良好な酸化剤である。還元機構で機能する指示薬の場合、電子的に励起した光触媒物質は、指示薬中に存在する電子供与体を酸化することができる。この電子供与体には、上記の酸化反応が不可逆であるようものが選ばれる。すなわち、電子供与体は犠牲(使い捨て)にされ、電子供与体自体の酸化は、光触媒物質の色や発光強度を変化させない。光で誘起される電子移動反応は、犠牲になる電子供与体を不可逆な酸化型に転化し、光触媒物質を還元型に転化する。光触媒物質の還元型は、指示薬中のレドックス感受性物質を還元型に還元する。還元型のレドックス感受性物質は、典型的には、元の酸化型とは異なる色及び/又は発光強度を持つ。
光触媒物質が酸化機構で機能する場合、電子的に励起された光触媒物質は、指示薬中に存在する電子受容体(通常は酸素)を還元することができる。この電子供与体には、前記の還元が不可逆であるようなものが選ばれ、言い換えれば、電子供与体は使い捨てで、前記還元では色や発光強度が変化することがない。光触媒物質の酸化型は、指示薬中のレドックス感受性物質を酸化型に酸化する。指示薬中の酸化型レドックス感受性物質は、元の酸化型に比較して、著しく異なる色及び/又は発光強度を呈する。
還元機構で機能する光触媒物資の場合は、レドックス感受性物質には、その還元型が、酸素に敏感又は鈍感なレドックス感受性物質が選ばれる。レドックス感受性物質の還元型が酸素に敏感な場合、通常の好気条件下での光活性化段階では、レドックス感受性物質は還元され、淡色の(及び/又は発光の少ない)レドックス感受性物質に転化するが、このものは酸素感受性である。そして、好気条件では酸素が存在するので(空気中には21%の酸素がある)、光活性化及びレドックス感受性物質の還元型への転化に引き続いて、還元型のレドックス感受性物質は、空気中の酸素で徐々に酸化され、その色は元の状態(通常は濃色)に戻る。
還元機構で機能する光触媒物質の場合であって、還元型にあるレドックス感受性物質が酸素に鈍感な場合には、光活性化段階を経てレドックス感受性物質が色付きの濃い状態から薄い状態又は別の色の状態に変化しても、その後の空気酸化によって当該物質は色を変えることがなく、言い換えれば、光で誘起されたレドックス感受性物質の色変化は不可逆である。光活性化工程全体では、光触媒物質は元の状態に戻り、光触媒物質のバンドギャップエネルギーに等しいかそれより大きいエネルギーの別の光子を吸収できる状態になり、実質的に全てのレドックス感受性物質が還元型に転化するまで、電子供与体からレドックス感受性物質への電子移動が再開継続される。
酸化機構で機能する光触媒用指示薬の場合、酸化型にあるレドックス感受性物資は、通常酸素に鈍感である。従って、光活性化によってレドックス感受性物質が色付きの濃い状態から、色付きの薄い又は別の色合いに変化すると、その後は変色しない。光誘起で起るレドックス感受性物質の変色が、不可逆的であるのがその理由である。光活性化工程全体では、光触媒物質は元の状態に戻り、光触媒物質のバンドギャップエネルギーに等しいかそれより大きいエネルギーの別の光子を吸収できる状態になり、実質的に全てのレドックス感受性物質が酸化型に転化するまで、レドックス感受性物質から電子供与体への電子移動が再開継続される。
上記したような理由から、光触媒物質は、単に光触媒とか光増感剤とか称されることがあって、このものは光を吸収しても己自身は変化せずに他者に影響を及ぼす物質である。この光触媒は、先に述べたように、二酸化チタンのような半導体であって差し支えない。
本発明の指示薬は、還元機構又は酸化機構に基づいて機能する。還元機能で機能する指示薬は、レドックス物質が当初の着色状態(及び/又は無発光状態)から、それとは異なる色(及び/又は発光強度)の還元型に変る光活性化段階においてその役割を果たす。本発明の指示薬は、膜状に形成された光触媒の表面に塗布して、使用に供するのが一般的である。
適当な光触媒の表面に塗布された指示薬が、光触媒のバンドギャップに等しいかそれより大きいエネルギーの光に露呈されると、レドックス感受性物質は、当初の酸化型から還元型(普通、色及び/又は発光がない)に変化するので、その色及び/又は発光強度が変化する。レドックス感受性物質の還元は、光触媒が光照射を受けて指示薬に視認可能な光学的変化(すなわち、色や発光)をもたらすので、光触媒の表示段階と呼べる。同様に、酸化機構で機能する光触媒用指示薬では、これに含まれるレドックス感受性物質が当初の着色状態(及び/又は無発光状態)から、それとは異なる色(及び/又は発光強度)を呈する酸化型に転化する。この場合、レッドクス感受性物質は、実質的に酸素に鈍感である。この種の指示薬では、光触媒の露光によってレドックス感受性物質が元の還元型から、酸化型(普通、色及び/又は発光がない)に変化するので、その色及び/又は発光強度が変化する。つまり、光触媒が光照射を受けると、指示薬には明確な光学的変化(着色及び/又は発光)が起るので、これも光触媒の表示段階と呼べる。
光触媒反応を生起させ、レドックス感受性物資に色の変化及び/又は発光強度の変化を起こさせるためには、指示薬の各構成成分を光触媒物質と親密に接触させることが好ましい。従って、本発明の指示薬をインクの形態に調製することが好ましい。このインクは、典型的には、水、メタノール、エタノール又はそれらの混合物のような溶媒に、指示薬成分を完全に又は少なくとも部分的に溶解させることで調製される。指示薬インクは、次いで、例えば、ガラス基板上で塗膜を形成している光触媒の表面に塗布され、乾燥される。
指示薬はまた、様々な形状、エンブレム、ロゴ又は文章で、光触媒物質上に印刷することもできる。
還元機構で機能する光触媒検知用指示薬では、個々の指示薬成分が親密に接触すると、レドックス感受性物質がレドックス反応を起し、光を受けた還元型の半導体物質からレドックス感受性物質への電子移動が生起する。
酸化機構で機能する光触媒用指示薬の場合は、指示薬成分が親密に接触すると、レドックス感受性物質がレドックス反応を起し、レドックス感受性物質から光を受けた酸化型の半導体材料への電子移動が起る。
典型的には、レドックス感受性物質を例示すると、チアジン染料、オキサゼン染料、オキサゾン染料、テトラゾリウム染料、トリアリールメタン染料、アジン染料、アゾ染料、トリハロメタン染料、インドフェノール染料、インジゴ染料、ビオロゲン及びこれらの混合物を例示することができる。
還元機構で機能する指示薬の場合、電子供与体は、通常、好ましくは不可逆に電子を供与する能力を備えている。通常、電子供与体は、温和な還元剤であって差し支えなく、例えば、アミン(NaEDTA又はTEOA)、還元糖(グルコース又はフラクトース)、普通の酸化防止剤(アスコルビン酸、クエン酸)、グリセロールのような易酸化性物質及びこれらの混合物であって差し支えない。本発明の指示薬と併用される光触媒物質は、レドックス感受性物質を還元でき、犠牲的電子供与体を充分に酸化できる励起電子状態を形成する能力を備えている。
酸化機構で機能する指示薬の場合は、電子受容体が好ましくは不可逆的に電子を受容する能力を備えている。典型的には、電子受容体は、空気中の酸素、過酸化物、過硫酸塩、銀イオンのような温和な酸化剤から選ばれる。本発明の指示薬と併用される光触媒物質は、レドックス感受性物質を酸化し、犠牲電子受容体を還元する励起電子状態になることができる。
典型的には、光触媒物質は半導体であって差し支えない。半導体とは、通常固体の物質であって、ほぼ満杯の価電子帯と、ほぼ空の伝導帯とで構成される電子構造を持つ。2つのバンド間のエネルギー差を、半導体のバンドギャップと呼ぶ。半導体物質は、典型的には約0.1〜4eVの範囲のバンドギャップを有すると共に、ある程度の伝導性を有し、その伝導性は、通常約0.1eVのバンドギャップを持つ金属のそれより小さいが、通常約4eVより大きいバンドギャップを持つ絶縁体の伝導性よりも大きい。半導体物質の伝導性は、温度の上昇と共に増大する。半導体は、光増感剤や光触媒に分類されることもあり、事実、半導体は、適当なエネルギーを持つ光子を吸収して生起するる電子的励起状態において、ある反応を促進する。典型的には、吸収する光のエネルギーは、光触媒のバンドギャップに等しいか、それより大きいのが通常であって、それは光触媒を電子的に励起するに充分なエネルギーである。系が励起されると、電子の移動及び/又はエネルギーの移動が起り、これによって系全体の光触媒反応が進行する。光触媒反応では、系全体の反応が終了しても、光触媒は化学的に変化せず、反応開始前の元のままである。
本発明で使用可能な光触媒物質を例示すると、例えば、チタンの酸化物(酸化チタン(IV)=TiO2など)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3など)、錫の酸化物(酸化錫(IV)=SnO2など)、タングステンの酸化物(酸化タングステン=WO3など)、亜鉛の酸化物(酸化亜鉛(II)=ZnOなど)及びこれらの混合物が挙げられる。適当なチタン酸化物被膜は、EP 0901991、WO97/07069、WO97/10186などに記載されており、これらを本発明の参考文献とする。光触媒物質は、金属カルコゲニドであっても差し支えなく、例えば、酸化カドミウム、硫化カドミウム、セレンかカドミウム、テルル化カドミウムなどは、光触媒物質である。亜鉛及び水銀のカルコゲニドも、半導体光触媒であって、これらも本発明で使用できる。本発明の光触媒はまた、ドープ型の金属酸化物であってもよく、例えば、窒素をドープした酸化チタン(IV)は、ニ酸化チタンよりもバンドギャップが僅かに小さいけれども、本発明に有効である。さらに言えば、株式上場会社であるPilkington社で製造され、Pilkington Activ(登録商標)の名で販売されている自己洗浄性ガラス、Pittsburge Plate Glass Company(PPG)で製造され、Sun Clean(登録商標)の名で販売されている自己洗浄性ガラス、さらにはAFGで製造され、Radiance-Ti(登録商標)の名で販売されている自己洗浄性ガラスは、いずれもガラス基板に光触媒であるチタン酸化物をコーティングした製品である。
光触媒物質は、ガラス、セラミック、金属のような不活性基板又はシリカで被覆した珪素樹脂などの不活性重合体基板上に、ナノ結晶の薄膜として形成することができる。光触媒物質の厚さは15nm程度である。WO 00/75087、WO 02/18287及びEP 1254870には、チタン酸化物をコーティングした自己洗浄性のガラスが記載されているが、この種のコーティングガラスの光触媒も、本発明の指示薬で検知可能である。光触媒物質はまた、ナノ結晶ないしは微昌質の粉末の形態であっても差し支えなく、大きな単結晶であってもよい。
未使用の指示薬は、一般に、環境大気条件下で長期間安定である。典型的な指示薬は、周囲条件の下、暗所で保管されていれば1年以上経過後でも、光触媒を検知する。基板上にコーティングされた本発明の光触媒検出用指示薬は、適当な溶媒を使用して容易に基板から除去することができる。
本発明の指示薬は、指示薬の構成成分を互いに結合するバインダーを含むことができる。そうしたバインダーを例示すれば、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、pリビニルアルコール(PVA)、エチルセルロース(EC)、酢酸セルロース(CEA)、ポリピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド及びポリメチルメタクリレート(PMMA)などを挙げることができる。
本発明の指示薬をインクのような液状に調製する場合、レドックス感受性物質:電子供与体(電子受容体):バインダー:溶剤の重量比は、一般に、約0.001〜0.1:0.05〜4.0:0.01〜1.0:1〜10の範囲にある。この重量比は、0.005〜0.05:0.1〜1.0:0.05〜0.5:3〜6の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.01:0.4:0.1:4である。指示薬インク全体の質量は、約1.0〜10.0gであり、好ましくは約4.5gである。指示薬インクを調製するに際しては、レドックス感受性物質と電子供与体(又は電子受容体)とバインダーと溶剤を単純に混合することで、基板にコーティング可能な液状指示薬が得られる。
本発明はまた、光触媒物質の検出方法を提供するものでもあって、その方法は、
酸化型と還元型とで物理的性質を異にする少なくとも一つのレドックス感受性物質と、少なくとも一つの電子供与体又は少なくとも一つの電子受容体とを含有し、
前記のレドックス感受性物質と前記の電子供与体又は電子受容体とが互いに接触状態にある指示薬を、光触媒物質と共存させ、
光触媒物質が電子的に励起するに必要なエネルギーに等しいか、それ以上のエネルギーの光を、前記指示薬と共存する光触媒物質に照射して、前記のレドックス感受性物質還元し、当該レドックス感受性物質の色及び/又は発光強度を変化させることを特徴とする。
還元機構で機能する指示薬の場合、その指示薬は少なくとも一つの電子供与体を含有する。光触媒がそのバンドギャップに等しいかそれ以上のエネルギーの光を受けると、指示薬中のレドックス感受性物質は還元型に転化する。この還元型は非酸化条件下で安定であり、空気中のような酸化条件下で不安定であっても、酸素とは極めて緩慢に反応するだけであるので、光で誘発された当初の光学的変化は視認可能である。つまり、光触媒の存在を表示する変色は、ウルトラバンドギャップの光照射後に、明瞭に視認できる。レドックス感受性物質の還元型は、空気中の酸素と反応して当初の酸化型に転化するが、もし、レドックス感受性物質の還元型が空気中で安定であれば、光照射を受けて起る色の変化及び/又は発光強度の変化は永久的である。
一般な光触媒は二酸化チタンである。二酸化チタンはバンドギャップが大きいので、その励起には近紫外線(300〜420nm)が使用可能である。光で活性化されたレドックス感受性物質の還元型が酸素に敏感である場合、これが酸化剤と接触すると、その色及び/又は発光強度は、当初の酸化型のそれに戻る。好都合なことに、光活性化段階での色の変化は、不可逆的であって、光活性化工程において、ウルトラバンドギャップの光に指示薬が過度に露出されない限り、この変色は何時までも持続する。こうした色の不可逆変化は、還元型に不可逆的に還元されるレドックス感受性物質を使用することで実現できる。この場合、レドックス感受性物質の還元型は、当初の酸化型とは色及び/又は発光強度を異にする。
酸化機構で機能する光触媒検知用指示薬の場合、その指示薬は少なくとも一つの電子受容体を含有する。指示薬の下に横たわる光触媒が、そのバンドギャップに等しいかそれより大きいエネルギーの光に照射されると、指示薬中のレドックス感受性物質は、酸化型に転化し、この酸化型は酸化条件下でも非酸化条件下でも通常安定である。従って、ウルトラバンドギャップの光を受けて起る指示薬の変色は、明確に視認することができる。
還元機構で機能する指示薬も、酸化機構で機能する指示薬も、光活性化工程の反応速度は、環境雰囲気中の水、二酸化炭素又は窒素などの量に影響を受けない。
光触媒がガラス板の片面だけに塗布されている場合には、本発明の指示薬によって光触媒の存在を認知できるばかりでなく、どちらの面に光触媒が存在しているかをも視認することができる。このことは重要である。何故なら、二酸化チタンのような光触媒を塗布したガラス板を窓に据え付ける場合、普通、塗布面を屋外に向けて外気に曝すからである。ガラス板のどちらの面に光触媒が塗布されているかを判定するには、指示薬による書き込みを利用することができる。書き込みが正常に読めれば、判定を下す人に近い側が光触媒の塗布面である。書き込みが鏡像で見えれば、判定を下す人から遠い側が光触媒の塗布面である。
本発明の方法は、光触媒コーティングガラスを据え付けてから、長時間経過後、ガラス面に付着させた光触媒が未だ存在しているか否かの確認に利用でき、また光触媒が未だ活性であるか否かの判定にも利用できる。この場合の光触媒コーティングガラスとしては、Pilkington Actv(登録商標)を例示することができる。
本発明はまた、先に説明した本発明の指示薬を使用して光触媒の活性を測定する方法を提供する。
指示薬の薄膜(フィルム)が、還元機構で機能する可逆的又は不可逆的指示薬から構成されている場合でも、あるいは酸化機構で機能する不可逆的指示薬で構成されている場合でも、指示薬フィルムの下に横たわる光触媒の活性は、ウルトラバンドギャップ強度が既知の光で照射された指示薬フィルムの色変化の程度を、分光光度法により目測又はその他の方法で測定される。光触媒の活性が高ければ高いほど、色の変化が早い。指示薬フィルムの変色速度及び/又は発光強度の変化速度は、光触媒の活性の量的尺度である。
添付図面を参照に、本発明の具体例を例示的に記述する。
以下の説明では、二酸化チタンである半導体光触媒を検出する場合を例にとっているが、この説明は多くの金属酸化物又は多くの金属カルコゲニドを包含する他の半導体光触媒にも適用できるものである。
本発明に係る半導体光触媒検出用指示薬は、レドックス感受性物質(例えば、チアジン染料、オキサジン染料、オキサゾン染料、テトラゾリウム染料、トリアリールメタン染料、アゾ染料、トリハロメタン染料、アジン染料、インドフェノール染料、ビオロゲン染料及びこれらの混合物)の少なくとも一つを利用する。レドックス感受性物質、すなわち、レドックス感受性染料には、その還元型と酸化型との間で色及び/又は発光強度が異なり、還元型は、例えば、酸素によって酸化型に転化する染料が選ばれる。
還元機構で機能するフィルム状指示薬の場合は、トリエタノールアミン(TEOA)、エチレンジアミンテトラ酢酸のナトリウム塩(NaEDTA)又はグリセロールなどのような温和な還元剤である犠牲電子供与体(SED)が利用される。温和な還元剤は、次の基準で選択される。すなわち、その基準の一つは、(a)好気性条件及び嫌気性条件のいずれでも、レドックス感受性染料を速い速度で還元しないことである。他の一つは、(b)好気性条件及び嫌気性条件のいずれでも、レドックス感受性染料の電子的励起状態を還元消滅させないことである。これらの条件を満たす還元剤とレドックス感受性染料との組合せは、環境大気条件及び通常の室内光条件の下で安定であり、かつ長寿命である。必須ではないが、通常は重合体のようなバインダーを、本発明の指示薬は含有する。そうしたバインダーは、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリピロリドン、ポリエチレンオキサイド及びポリメチレンメタクリレートなどの重合体材料である。ヒドロキシエチルセルロースは、下記のように示すことができる。
Figure 0004861164
本発明の指示薬は、インクのような液状に調製することができる。液状の指示薬では、レドックス感受性染料と、犠牲電子供与体と、任意的なバインダーなどの各成分が、水、メタノール、エタノール又はこれの混合物などの適当な溶媒に溶けており、ガラス面にコーティングされた二酸化チタン皮膜の上に、液状指示薬を塗布して乾燥することで指示薬層が形成される。
光触媒の役割は、光触媒のバンドギャップのエネルギーを持つ光又はそれ以上のエネルギーを持つ光を吸収し、指示薬を変色させることにある。粒子状、フィルム状(マイクロ結晶又はナノ結晶)又は単結晶の光触媒が、前記したような光を吸収すると、電子と正孔の対を生み出す。半導体のような光触媒物質は、光を受けて伝導帯電子を発生させ、その伝導帯電子は、充分に還元性であるので、共存するレドックス感受性染料を還元する。また、光を受けて発生した価電子帯の正孔は、充分に酸化性であるので、共存する温和な還元剤(電子供与体)を酸化する。
本発明の光触媒検出用指示薬、すなわち、レドックス感受性染料と犠牲電子供与体を含有す指示薬をコーティングした光触媒に、ウルトラバンドギャップの光照射を行うと、レドックス感受性染料は、還元型に転化し、元の色とは別の色を呈するか、別の発光を発する。転化後の還元型レドックス感受性染料は、酸素に感応するか、感応しない。
例えば、光触媒検出用指示薬が、レドックス感受性染料としてのメチレンブルー(このものは元の酸化型で青色である)と、温和な還元剤(電子供与体)がトリエタノールアミンである場合、これら2成分は、ヒドロキシエチルセルロースのような重合体系バインダーを含有する水に溶解させて液状指示薬とすることができる。この液状指示薬を二酸化チタンのような光触媒物質の皮膜上に塗布し、乾燥することで、光触媒皮膜と指示薬皮膜とが組み合わされた材料が得られる。このような材料に、ウルトラバンドギャップ照射を行うと、レドックス感受性染料であるメチレンブルー(このものは青色で、酸素に感応しない)は、ロイコメチレンブルー(このものは無色で、酸素に感応する)に還元され、一方、犠牲電子供与体は酸化される。つまり、指示薬は元の青色から無色に変化する。この具体例では、レドックス感受性染料の還元型が酸素に感応するので、一旦、ウルトラバンドギャップ照射を受けると、レドックス感受性染料の還元型は、空気中の酸素で酸化されて元の酸化型(青色)に戻る。しかし、この酸化反応は緩慢であるので、光照射で起る当初の変色で、下に横たわる光触媒の存在を視認することができる。この全体的な反応状況は、図1(a)に示される。
指示薬のレドックス感受性染料は、その還元型が酸素に感応しないタイプであっても差し支えない。その場合の指示薬の一例は、レドックス感受性染料としてレサズリン(このものは元の酸化型で青色である)と、温和な還元剤(電子供与体)としてグリセロールを含有する。レサズリンとグリセロールは、ヒドロキシエチルセルロースのような適当なバインダーを含有する水に溶けて液状になるので、これを半導体光触媒の上に塗布して指示薬層を形成させることができる。この指示薬層と半導体光触媒との組合せに、ウルトラバンドギャップ照射を行うと、レサズリンは赤色のレゾルフィンに還元され、犠牲電子供与体であるグリセロールは酸化される。
レサズリンの還元型(レゾルフィン)は、酸素に非感応であって、レサズリンとは異なる色を呈するので、その変色は永久的であり、酸素と接触しても元の色には戻らない。この全体的な反応状況は、図1(b)に示される。
酸化機構で機能する指示薬の場合には、酸素又は過酸化水素のような温和な酸化剤である犠牲電子受容体が使用される。温和な酸化剤は、次の基準で選択される。すなわち、その一つは、(a)好気性条件及び嫌気性条件のいずれでも、レドックス感受性染料を速い速度で、酸化しないことであり、他の一つは、(b)好気性条件及び嫌気性条件のいずれでも、レドックス感受性染料の電子的励起状態を酸化消滅させないことである。これらの満たせば、レドックス感受性物質と温和な酸化剤との組合せは、環境大気条件及び通常の室内光条件の下で安定であり、かつ長寿命である。必須ではないが、通常は重合体のようなバインダーを、本発明の指示薬は含有することができる。そうしたバインダーは、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリピロリドン、ポリエチレンオキサイド及びポリメチレンメタクリレートなどの重合体材料である。本発明の指示薬は、インクのような液状に調製することができる。液状指示薬では、レドックス感受性染料と、犠牲電子受容体と、バインダーなどの各分が、水、メタノール、エタノール又はこれの混合物などの適当な溶媒に溶かされている。ガラス上の二酸化チタン塗膜のような光触媒の表面に、前記の液状指示薬を塗布乾燥して指示薬層を形成する。光触媒の役割は、そのバンドギャップのエネルギー又はそれ以上のエネルギーを持つ光を吸収し、指示薬を変色させることにある。
粒子状、フィルム状(マイクロ結晶又はナノ結晶)又は単結晶の光触は、前記したような光を吸収すると、電子と正孔の対を生み出すことができる。半導体物質は、光を受けて価電子帯の正孔を発生させ、その正孔は充分な酸化能を備えるので、レドックス感受性染料を酸化させることができ、また、光を受けて発生した伝導帯電子は、充分に還元性であるので、共存する温和な酸化剤(電子受容体)を還元する。
酸化機構で機能する指示薬の薄膜で被覆された光触媒に、ウルトラバンドギャップの光を照射すると、レドックス感受性染料は酸化されて、通常、非酸素感応型に転化し、元の色とは別の色を呈するか、別の強度で発光する。例えば、指示薬がレドックス感受性染料としてのメチルオレンジと、温和な酸化剤としての酸素で構成されている場合、これら2成分をバインダーとしてヒドロキシエチルセルロースを含有する水に溶かして液状指示薬とすることができる。これを二酸化チタンのような光触媒物質塗膜の上に塗布して乾燥すれば、光触媒層の上に指示薬層を積層することができる。この種の材料に、ウルトラバンドギャップの光が照射されると、メチルオレンジ(オレンジ色を呈し、酸素に感応しない)は、酸化されて無色になり、酸素に感応しない物質に転化する。一方、犠牲電子受容体は還元される。つまり、二酸化チタンは、光を受けることで、指示薬を元のオレンジ色から無色に変える。通常、レドックス感受性染料の酸化型は、酸素に感応しないので、光触媒に対する光照射を中断しても、上記染料の酸化型は安定であり、変色は不可逆である。当初の光照射で誘発されるレドックス感受性染料の変色によって、光触媒の存在は充分に視認することができる。この全体的な反応状況は図2に示される。
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。各実施例における指示薬は、要するに、レドックス感受性染料と、犠牲電子供与体又は電子受容体と、バインダーとして機能する重合体とで構成されている。特に断らない限り、厚さ8ミクロンのチタニアフィルムで覆われた厚さ2mmで25mm平方のフロートガラス上に、液状指示薬を塗布して指示薬層を形成した。チタニアのフィルムはゾル・ゲル法で調製した。また、より薄いチタニアフィルムを使用して、すなわち、化学蒸着法(CVD)などの別の方法で調製した厚さ1μ以下のチタニアフィルムを使用して色の違いを観察した。幾つかの実施例では、ゾル・ゲル法チタニアフィルムに代えて、CVD法チタニアフィルムを使用した。液状指示薬の塗布は、チタニアで被覆された25mm平方のガラス板に、液状指示薬を2〜3滴(約0.1m)落して均一に展開させ、次いで、スピン(回転)コーターを用い、液滴が展開したガラス−チタニア基板を、30秒間6000rpmで回転させた。その後、フィルムを乾燥して試験に供した。こうして得た各供試体は、直射日光を避けた環境大気条件の下で保管したところ、変質を殆ど伴わずに1年間以上保存することができた。指示薬は極めた安定であり、1年以上殆ど変質を認めなかった。
実施例1:メチレンブルー(MB/TEOA/HEC)−ガラス上のチタニア膜
この実施例は、還元機構で機能する代表的な光触媒用指示薬を示し、当該指示薬は空気中で使用して可逆的である。
液状指示薬を次のようにして調製した。
マグネチックスターラーを使用して、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)の2.5重量%水溶液4gに、10mgのメチレンブルー(MB)と、0.4gのトリエタノールアミン(TEOA)を加え、30分混合して液状指示薬を得た。次いで、ナノ結晶のチタニア皮膜(厚さ4ミクロン)を備えた25mm平方のガラス片に、先に調製した液状指示薬を塗布して乾燥し、チタニア皮膜上に指示薬層を設けた。
チタニア皮膜が存在しない以外は、上と同一のガラス片に同一の液状指示薬を塗布して好気性条件及び嫌気性条件の下で行ったブランクテストでは、ウルトラバンドギャップの光(波長420nm未満の光)を照射しても、色の変化が認められなかった。これは光触媒が共存しなければ、指示薬がウルトラバンドギャップの光を照射しても、変色しないことを示す。
これとは対照的に、チタニア皮膜が存在するガラス片のチタニア皮膜に、上記の液状指示薬を塗布して乾燥して供試体を調製し、これに近紫外線(半導体チタニアのウルトラバンドギャップの光エネルギーに相当する)を、好気性条件下又は嫌気性条件下で照射すると、どちらの場合も、指示薬層の下に横たわる半導体チタニアが光励起し、レドックス感受性染料(メチレンブルー)は、共存するグリセロールによって還元され、当初の青色から無色(ロイコ型)に変色する。
実施例1の供試体に、ウルトラバンドギャップの光照射を行った際の光の吸収スペクトルを図3に示す。図3は、近紫外光(100Wのブラックライト灯)の照射時間の増大に伴う、二酸化チタンフィルム及び指示薬層の全体として吸収スペクトルの変化を示す。
図3は、好気性条件下では、メチレンブルー(MB)の吸光度が照射時間の増大と共に減少することを示している。同様な傾向は嫌気性条件下でも記録される。換言すれば、光触媒の存在を示す色の変化は、光が空気の存在下で照射されても、無存在下で照射されても認知できる。ロイコ−メチレンブルーの酸化は、メチレンブルーの光還元に比較してゆっくりであるので、好気性条件でも上と同様な傾向が認められる。
図3はまた、好気性条件の下、100Wのブラックライト灯を4分間照射した後において、実施例1の供試体の指示薬は完全に無色になることを示し、これはチタニア光触媒が供試体に存在していることを意味する。同様な結果は、嫌気性条件下でも観測できたので、上記した指示薬は、還元型のロイコ−メチレンブルーが酸素に多少感応しても、好気性及び嫌気性のいずれの条件下でも使用可能である。
光触媒検出用指示薬に含まれるレドックス感受性染料の還元型は、嫌気性条件下で常に安定であるが、メチレンブルーやその他の多くのレドックス感受性染料は、これを空気に曝すと、その染料の還元型は比較的ゆっくりと(すなわち、100秒程度)、元の酸化型に戻る。メチレンブルーの場合には無色から青色に戻るが、この変色は充分に緩慢であり、好気性又は嫌気性の条件下で光を受けた際に起る変色は視認できる。
酸素に敏感なレドックス感受性染料を含有する指示薬は、何度も繰り返し使用することができる。図7は、好気性条件の下、実施例1の指示薬に、長い光無照射期間を挟んで、近紫外光の照射を繰り返した場合の610nmにおける吸光度の変化を示している。この図から実施例1の指示薬は、何回も繰り返し使用できることが分かる。
光触媒検出用指示薬の一連の実施例を、先の実施例1で使用したレドックス感受性染料の種類だけを変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、指示薬層付き供試体を幾つか調製した。好気性条件及び嫌気性条件の下で、光照射に対応する各供試体の色の変化を観察し、当初の色変化を注目した。実施例5〜8を除く、実施例1〜4の供試体では、ウルトラバンドギャップの光照射を停止すると、それらのレドックス感受性染料の還元型は、空気に感応することが認められ、これが酸素で酸化されると、染料の色は元の色にゆっくり戻る。これらの結果を表1にまとめて示す。
Figure 0004861164
実施例5:レサズリン(RZ)/グリセロール/HEC)−ガラス上のチタニア膜
この実施例は、実施例1〜4とは異なり、還元機構で不可逆的に機能する代表的な光触媒検出用指示薬を示す。
指示薬フィルムは、次のように形成した。マグネチックスターラーを使用して、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)の1.5重量%水溶液3gに、4mgのレサズリン(RZ)と、0.3gのグリセロールを加え、30分混合して液状指示薬を得た。次いで、チタニアのCVD皮膜(厚さ25nm)を備えた25mm平方のガラス片(厚さ4mm)に、前記の液状指示薬を塗布して乾燥してチタニア皮膜上に指示薬フィルムを形成した。
チタニア皮膜が存在しない以外は、上と同一のガラス片に同一の指示薬層を形成させた供試体を用い、好気性条件及び嫌気性条件の下で行ったブランクテストでは、ウルトラバンドギャップの光(波長420nm未満の光)を照射しても、色の変化が認められなかった。これは光触媒が共存しなければ、指示薬がウルトラバンドギャップの照射でも、変色しないことを示す。これとは対照的に、チタニアのような光触媒が共存すると、好気性条件下でも嫌気性条件下でも、近紫外光の照射で、レサズリン(RZ)は共存するグリセロールによりレゾルフィン(RR)に還元される(表1参照)。
光触媒チタニア皮膜に指示薬フィルムを設けた実施例5の供試体に、近紫外光を照射した場合の吸収スペクトルを図4に示す。この図では、近紫外光(100Wのブラックライト灯)の照射時間の増大に伴う紫外光/可視光の吸収スペクトルの変化が示されている。図4に示すように、レサズリンの吸収スペクトルは、好気性条件下で照射時間に増大に伴って変化する。100Wのブラックライト灯を3分間照射すると、実施例5の供試体は、青色から赤色への完全に変色し、これはレサズリンがレゾルフィンに転化したことを示している。
実施例5で示したように、指示薬に含まれるレドックス感受性染料の還元型、すなわち、RRは、好気性条件下でも嫌気性条件下でも常に安定であり、従って、その変色は永久的で不可逆である。そのため、この指示薬は、通常一度しか使用できない。レサズリンとレゾルフィンとは、オキサゾン発色団を含有する近縁の複素環式化合物であり、レゾルフィンはレサズリンの還元型である。この両者は、レサズリンからレゾルフィンへ不可逆的に還元されやすい理由で、実用的な染料とは考えられていない。二酸化チタン(チタニア)のような半導体光触媒を長期間光照射すると、レサズリンは不可逆的にレゾルフィンに還元され、次いで長期間のUV光照射でロイコレゾルフィンに転化する。このロイコレゾルフィンは、無色であって(レゾルフィンは赤色)、酸素に感応する。すなわち、無色のロイコレゾルフィンは、酸素によって速やかに再酸化されて赤色のレゾルフィンに転化する。上記した例は、還元機構で機能する不可逆的指示薬の一例である。光触媒が下層に存在する指示薬フィルムが光照射を受けた際のスペクトルの変化は、図4に示される。図6は、前記指示薬フィルムの変色が不可逆的であることを強調表示したものである。
還元機構で機能する不可逆的指示薬の他の例は、NBTとグリセロールとHECで構成される指示薬である(表1の実施例6参照)。この指示薬は、実施例5の指示薬(RZ/グリセロール/HEC)に準じて調製されている。実施例5の指示薬とは相違して、指示薬(NBT/グリセロール/HEC)に光照射すると、その色は浅黄色から黒色に変化し(ホルマザン染料の形成を示す)、このホルマザン染料は、RRとは異なり、さらなる光照射でも簡単には還元されない。ここで説明した指示薬フィルムの吸収スペクトルを図8に示す。表1の実施例7で示すように、NBTの代わりにメチルオレンジのようなアゾ染料を使用しても、同様な不可逆的な指示薬を得ることができ、この指示薬は還元機構で機能し、グリセロールのような使い捨て電子供与体を含有する。

実施例8:メチルオレンジ−ガラス上のチタニア皮膜
酸化機構で機能する不可逆的な指示薬の一例は、表1の実施例8に示すメチルオレンジ指示薬である。この指示薬は、染料の水溶液を調製して光触媒のフィルム状に塗布することで簡単に準備できる。使い捨て電子供与体として空気が通常使用される。指示薬溶液を塗布した光触媒フィルムに光照射を行なうと、オレンジ色から無色への変色が起る。この例の吸収スペクトルを図9に示す。
実施例1で使用した半導体光触媒の種類だけを変更し、それ以外は実施例1と同一の供試体を調整した。この供試体の詳細を表2に示すが、チタニア以外の光触媒でも、その存在を目視で認知できることが表2から分かる。
Figure 0004861164
実施例1で使用した重合体系バインダーの種類を変えた以外は、実施例1の同一の供試体を調製した。その詳細を表3に示す。表3に示す結果から、バインダーの種類を変えても、指示薬の性能が損なわれないことが分かる。
Figure 0004861164
実施例1で使用した犠牲電子供与体の種類を変えた以外は実施例1と同一の供試体を調製した。この供試体の詳細を表4に示すが、この表から電子供与体の種類を変えても、指示薬の性能は損なわれないことが分かる。
Figure 0004861164
実施例13
図10は、ゾル・ゲル法で得た8ミクロンのチタニアフィルムで被覆したガラス片の変色の様子を示す説明図である。この供試体のチタニアフィルムには、実施例1に示した代表的な指示薬インク、すなわち、メチレンブルー(レッドクス感受性染料)、グリセロール(使い捨て電子供与体)及びヒドロキシエチルセルロース(重合体系バインダー)からなる指示薬インクが塗布されている。供試体にUV光を照射する前は、メチレンブルーは酸化型であるので、チタニアフィルムを覆う指示薬は青色を呈している。しかし、UV光照射を行なうと(登録商標であるPilkingtonの文字とロゴが入ったガラスマスクを介して露光する)、露光された領域は無色に変わり、非露光領域は青色のままの状態に保持される。
つまり、上記供試体の青色領域は、UV光に曝されていない領域であり、無色領域はUV光に曝された領域である。しかし、当該供試体に使用されている指示薬インクは、可逆的な指示薬インクであるので、レドックス染料(メチレンブルー)は、UV光を照射した後、酸素によって徐々に酸化され、その色は無色からゆっくり元の青色に戻る。つまり、時間の経過と共に、Pilkingtonの文字とロゴは消失し、供試体は元の青色に復帰する。これに要する時間は10〜20分であり、最終的には供試体の外見は、光照射前の元の外見と同一になる。
還元機構で機能する光触媒指示薬のオーバーオール反応を示し、その指示薬中のレドックス感受性物質は、酸化型では酸素に感応しないが、還元型では酸素に感応する。 還元機構で機能する光触媒指示薬のオーバーオール反応を示し、その指示薬中のレドックス感受性物質は、還元型でも酸化型でも酸素に感応しない(指示薬の反応は不可逆である)。 酸化機構で機能する光触媒指示薬のオーバーオール反応を示し、その指示薬中のレドックス感受性物質は、還元型でも酸化型でも酸素に感応しない(指示薬の反応は不可逆である)。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(ゾル・ゲル法)に、レドックス染料(メチレンブルー)と使い捨て電子供与体(グリセロール)とヒドロキシエチルセルロースとで構成される指示薬を塗工した供試体に、嫌気性条件の下、照射時間を変えてウルトラバンドギャップの光を照射した場合に測定された吸収スペクトルである。 この供試体に使用された指示薬は、還元機構で機能して可逆的であり、酸素に感応する。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(CVD法)に、レドックス染料(ルサズリン)と使い捨て電子供与体(グリセロール)とヒドロキシエチルセルロースとで構成される指示薬を塗工した供試体に、好気性条件の下、照射時間を変えてウルトラバンドギャップの光を照射した場合に測定された吸収スペクトルである。 この供試体に使用された指示薬は、還元機構で機能して不可逆的であり、酸素に感応しない。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(ゾル・ゲル法)に、メチレンブルーとグリセロールとヒドロキシエチルセルロースとで構成される指示薬を塗工した供試体に、近紫外光(ウルトラバンドギャップの光)を照射し、しかる後、これを嫌気性条件及び好気性条件の下でそれぞれ保持した場合において、保持時間と吸光度(於610nm)との関係を示すグラフである。 この供試体に使用された指示薬は、可逆的であって還元機構で機能する。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(CVD法)に、レサズリンとグリセロールとヒドロキシエチルセルロースとで構成される指示薬を塗工した供試体に、ウルトラバンドギャップ光を照射し、しかる後、これを好気性条件の下で保持した場合において、保持時間と吸光度(於610nm)との関係を示すグラフである。 この供試体に使用された指示薬は、不可逆的であって還元機構で機能する。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(ゾル・ゲル法)に、メチレンブルーとグリセロールとヒドロキシエチルセルロースとで構成される指示薬を塗工した供試体に、好気性条件下、UV光を1分間照射後、光照射を18分間中断するサイクルを繰り返した場合の吸光度(於610nm)の変化を示すグラフである。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(ゾル・ゲル法)に、ニトロブルーテトラゾリウムクロライド(レッドクス染料)と、グリセロール(使い捨て電子供与体)を含有する指示薬を塗布した供試体に、好気性条件の下、照射時間を変えてウルトラバンドギャップ光を照射した場合の吸収スペクトルの変化を示すグラフである。 この供試体に使用した指示薬は、還元機構で機能し、色の変化は不可逆である。 ガラス上に設けた二酸化チタンのナノ結晶フィルム(ゾル・ゲル法)に、メチルオレンジ(レドックス染料)を含有する指示薬を塗布した供試体とし、この供試体に好気性条件の下、照射時間を変えてウルトラバンドギャップ光を照射した場合の吸収スペクトルの変化を示すグラフである。 この供試体に使用した指示薬は、酸化機構で機能し、色の変化は不可逆である。 文字群Pilkingtonが刳り貫かれたマスクを介して、UV光の照射を受けた実施例1の供試体の変色の経時変化を示す説明図である。

Claims (24)

  1. 酸化型と還元型とで物理的特性が異なる少なくとも一つのレドックス感受性物質と、少なくとも一つの犠牲電子供与体とを互いに接触した状態で含有し、光触媒と接触状態で使用される指示薬であって、
    前記レドックス感受性物質は、前記光触媒を電子的に励起させるのに必要なエネルギー以上のエネルギーの光に照射された際に、不可逆的に還元されるものであり、
    前記光触媒を電子的に励起させるのに必要なエネルギー以上のエネルギーの光に照射された際に、前記レドックス感受性物質が不可逆的に還元されて変色及び/又は発光強度の変化を起こすことにより、光触媒の存在を視認させる光触媒検出用指示薬。
  2. 1000nm以下の波長、200〜1000nmの波長、300〜700nmの波長又は420nm以下の波長を持つ光の照射に感応する請求項1記載の指示薬。
  3. 前記光触媒のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光で活性化する請求項1記載の指示薬。
  4. 電子的に励起された前記光触媒が、指示薬中に存在する前記犠牲電子供与体を酸化するところの、還元機構で機能する請求項1記載の指示薬。
  5. 前記光触媒の還元が、前記レドックス感受性物質を、元の酸化型とは異なる色及び/又は発光強度を持つ還元型に還元する請求項1記載の指示薬。
  6. 前記レドックス感受性物質が、酸素に感応しない還元型であり、光の照射で前記レドックス感受性物質の色調が、常態の濃色から淡色に変化するか、あるいは別の色に変色すると、以後は空気酸化によって変色することがない請求項1記載の指示薬。
  7. 前記光触媒の表面を覆い、当該光触媒がそのバンドギャップエネルギーに等しいかそれ以上のエネルギーの光に曝されると、前記レドックス感受性物質が、元の酸化型から無色又は無発光の還元型に転化するために、前記レドックス感受性物質の色及び/又は発光強度が変化する請求項1記載の指示薬。
  8. 前記光触媒は、指示薬の下方に存在し、前記光触媒への光照射されると前記レドックス感受性物質が還元し、前記指示薬の当初の色及び/又は発光に目視可能な変化が起こることにより前記光触媒の存在を視認させる請求項1記載の指示薬。
  9. 光触媒反応を生起させ、それに伴ってレドックス感受性物質の色及び/又は発光強度を変化させるために、指示薬の各成分が前記光触媒と接触している請求項1記載の指示薬。
  10. 指示薬がインクの形態にある請求項1記載の指示薬。
  11. 前記光触媒が基板上に設けた皮膜であり、前記皮膜上で乾燥薄膜の状態にある請求項1記載の指示薬。
  12. 指示薬が前記光触媒の表面に付着した乾燥皮膜である請求項1記載の指示薬。
  13. 前記レドックス感受性物質が、チアジン染料、オキサゼン染料、オキサゾン染料、テトラゾリウム染料、トリアリールメタン染料、アジン染料、アゾ染料、トリハロメタン染料、インドフェノール染料、インジゴ染料、ビオロゲン及びこれらの混合物のいずれかである請求項1記載の指示薬。
  14. 前記少なくとも一つの犠牲電子供与体が、アミン、還元糖、抗酸化剤、グリセロール、及びこれの混合物から選ばれる還元剤である、請求項1記載の指示薬。
  15. 併用される光触媒が半導体である請求項1記載の指示薬。
  16. 前記光触媒が、チタンの酸化物、タングステンの酸化物、亜鉛の酸化物、及びこれらの混合物、酸化カドミウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、金属カルコゲナイド、及び窒素ドープした酸化チタン、から選ばれる請求項1記載の指示薬。
  17. 前記光触媒が、不活性基板又は不活性重合体基板に塗布されたナノ結晶のフィルムである請求項1記載の指示薬。
  18. さらにバインダーを含有し、
    前記バインダーがゼラチン、ヒロドキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチルセルロース(EC)、酢酸セルロース(CEA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド及びポリメチルメタクリレート(PMMA)から選ばれる請求項1記載の指示薬。
  19. バインダー及び溶剤をさらに有し、
    前記レドックス感受性物質:前記犠牲電子供与体:前記バインダー:前記溶剤の重量比が、0.001〜0.1:0.05〜4.0:0.01〜1.0:1〜10、0.05〜0.5:0.1〜1.0:0.05〜0.5:3〜6、又は0.01:0.4:0.1:4である請求項1記載の指示薬。
  20. 酸化型と還元型とで物理的特性が異なる少なくとも一つのレドックス感受性物質と、少なくとも一つの犠牲電子供与体とを互いに接触した状態で含有し、光触媒と一緒に使用される指示薬であって、光触媒を電子的に励起するのに必要なエネルギー以上のエネルギーの光に照射された際に、前記レドックス感受性物質が不可逆的に還元されて変色及び/又は発光強度の変化を起こす指示薬を、光触媒に接触させる工程を含む光触媒検出方法。
  21. 前記レドックス感受性物質の還元型が空気中で安定であって、ウルトラバンドギャップの照射によるレドックス感受性物質の変色及び/又は発色強度の変化が恒久的である請求項20記載の方法。
  22. 検出される光触媒が二酸化チタンであって、触媒の検出に近紫外光が使用される請求項20記載の方法。
  23. 光照射に伴う色の変化が不可逆であって、それが酸化条件下でも非酸化条件下でも持続し、前記指示薬は光活性化工程中、ウルトラバンドギャップの光に過度に露呈されない請求項20記載の方法。
  24. オリジナルの酸化型とは異なる還元型に不可逆に還元されている前記指示薬を使用して、変色が実現される請求項23記載の方法。
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