JP4860069B2 - 環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はレジスト用樹脂の原料モノマーなどとして有用な環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アダマンタン等の脂環式炭化水素骨格やラクトン骨格などの環式骨格を有するメタクリル酸エステルは、ポリマー化したときにプラズマエッチング耐性や基板に対する密着性を付与する機能を発現するため、フォトレジスト用樹脂のモノマー原料などとして注目されている。
【0003】
このような環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法として、環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとを塩基の存在下で反応させて前記メタクリル酸エステルを製造する方法が知られている。この方法は、温和な条件で反応が円滑に進行する点、及び反応系が一般に中性又は塩基性であることから生成するメタクリル酸エステルが酸により脱離する機能を持つ酸脱離性基を含有する化合物であっても該酸脱離性基が反応中に分解・脱離しない点で有利な方法である。
【0004】
しかし、上記の方法で用いられるメタクリル酸ハライドは、その製造法にかかわらず、保管中に経時的に分子間のヘテロディールスアルダー反応が進行して、下記式で表される対応するダイマー(メタクリル酸ハライドダイマー)が生成する。
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
【0005】
例えば、メタクリル酸クロリドを冷暗所に保管した場合、ダイマーの含有量は3ヶ月で10重量%程度増大する。そのため、メタクリル酸ハライド中には通常5重量%以上のダイマーが存在しており、中にはダイマーを50重量%以上含有する市販品もある。このようなダイマーを含有するメタクリル酸ハライドを環式骨格を有するアルコールとの反応に用いると、反応混合物中に該ダイマーやダイマー由来の副生物が存在することになる。また、反応中にメタクリル酸無水物が副生することも多い。さらに、酸の捕捉剤として用いた塩基が反応混合物中に残存することもある。これらの副生物等は、単に反応混合物を水洗したり、一般的な条件で蒸留したりするだけでは十分に除去することができず、目的化合物の製品中に混入することが多い。そして、このような副生物を多く含むメタクリル酸エステルを重合に付して得られるポリマーをフォトレジスト用樹脂等として用いた場合には、所望する性能が十分に発揮されないという問題が生じる。例えば、酸の捕捉剤として用いた塩基が多く含むメタクリル酸エステルを重合して得られるポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いると、リソグラフィーでの露光により発生する酸が前記塩基によりトラップされてしまい、樹脂の酸脱離性基が円滑に脱離しないという問題が生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、不純物含量の少ない高品質の環式骨格を有するメタクリル酸エステルを効率よく製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物含量の少ない高品質の環式骨格を有するメタクリル酸エステルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に特定の処理を施すと、不純物含量の少ない、品質の優れた環式骨格を有するメタクリル酸エステルを効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)、(1f)又は(1g)
【化2】
(式中、R1は環に結合した置換基であって、メチル基、ヒドロキシル基又はメタクリロイルオキシ基を示し、R2は水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R3はメチル基又はエチル基を示す。nは0〜3の整数、mは0〜5の整数を示す。式中に示される環にはオキソ基が結合していてもよい)で表される環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとをトリアルキルアミンまたはピリジンから選択される有機塩基の存在下で反応させて対応するメタクリル酸エステルを製造する方法であって、前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に水を添加して、5分間〜5時間の間、30〜100℃の温度で加熱処理する工程(工程A)、前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、およびブタノールからなる群より選択される炭素数1〜4の脂肪族アルコールを添加して、5分間〜5時間の間、30〜100℃の温度で加熱処理する工程(工程B)ならびに前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物を、塩酸、硫酸、硝酸、もしくはリン酸である無機酸の水溶液、および酢酸である有機酸の水溶液からなる群より選択される酸水溶液で洗浄する工程(工程C)を含む、環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法を提供する。
【0011】
前記環式骨格を有するアルコールには、(1a)1−アダマンタノール、3,5−ジメチル−1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、5,7−ジメチル−1,3−アダマンタンジオール、3−メタクリロイルオキシ−1−アダマンタノール、3−メタクリロイルオキシ−5,7−ジメチル−1−アダマンタノール、および4−オキソ−1−アダマンタノールからなる群より選択される1−アダマンタノール;(1b)α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、α,α,3,5−テトラメチル−1−アダマンタンメタノール、3−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、および3−メタクリロイルオキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノールからなる群より選択されるアダマンタンメタノール;(1c)2−メチル−2−アダマンタノール、2−エチル−2−アダマンタノール、および2,5,7−トリメチル−2−アダマンタノールからなる群より選択される2−アダマンタノール;(1d)6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.1 4,8 ]ウンデカン−2−オンもしくは6,8−ジヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.1 4,8 ]ウンデカン−2−オン;(1e)6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.1 4,8 ]ウンデカン−2−オンおよび8−ヒドロキシ−6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.1 4,8 ]ウンデカン−2−オンからなる群より選択される6−ヒドロキシメチル−3−オキサトリシクロ[4.3.1.1 4,8 ]ウンデカン−2−オン;(1f)5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.0 4,8 ]ノナン−2−オン、または(1g)β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−β,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトン;α−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β,γ,γ−テトラメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトンからなる群より選択されるヒドロキシ−γ−ブチロラクトンが含まれる。
【0014】
【発明の実施の形態】
環式骨格を有するアルコールにおいて、環式骨格としては特に限定されず、例えば、5〜20員程度の芳香族性又は非芳香族性の炭素環又は複素環が挙げられる。これらの環は単環であっても、縮合環や橋かけ環等の多環であってもよい。代表的な環式骨格として、例えば、アダマンタン環などの炭素数7〜20程度の多環脂環式骨格;3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環、γ−ブチロラクトン環などのラクトン骨格などが挙げられる。環式骨格はアルコール性ヒドロキシル基と直接結合していてもよく、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等の連結基を介して結合していてもよい。
【0015】
代表的な環式骨格を有するアルコールとして、下記式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)、(1f)又は(1g)で表される環式骨格を有するアルコールが例示できる。
【化2】
(式中、R1は環に結合した置換基であって、メチル基、ヒドロキシル基又はメタクリロイルオキシ基を示し、R2は水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R3はメチル基又はエチル基を示す。nは0〜3の整数、mは0〜5の整数を示す。式中に示される環にはオキソ基が結合していてもよい)
【0016】
上記式(1a)で表される1−アダマンタノール類において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。
【0017】
式(1a)で表される代表的な1−アダマンタノール類として、例えば、1−アダマンタノール、3,5−ジメチル−1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、5,7−ジメチル−1,3−アダマンタンジオール、3−メタクリロイルオキシ−1−アダマンタノール、3−メタクリロイルオキシ−5,7−ジメチル−1−アダマンタノール、4−オキソ−1−アダマンタノールなどが挙げられる。
【0018】
前記式(1b)で表されるアダマンタンメタノール類において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。
【0019】
式(1b)で表されるアダマンタンメタノール類の代表的な例として、例えば、α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、α,α,3,5−テトラメチル−1−アダマンタンメタノール、3−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、3−メタクリロイルオキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノールなどが挙げられる。
【0020】
前記式(1c)で表される2−アダマンタノール類において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。式(1c)で表される2−アダマンタノール類の代表的な例として、例えば、2−メチル−2−アダマンタノール、2−エチル−2−アダマンタノール、2,5,7−トリメチル−2−アダマンタノールなどが挙げられる。
【0021】
前記式(1d)で表される6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン類(=1−ヒドロキシ−4−オキサトリシクロ[4.3.1.13,8]ウンデカン−5−オン類)において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。
【0022】
式(1d)で表される6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン類の代表的な例として、例えば、6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン、6,8−ジヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オンなどが挙げられる。
【0023】
式(1d)で表される6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン類は、例えば、1−ヒドロキシ−4−アダマンタノン類にm−クロロ過安息香酸などの過酸を作用させることにより得ることができる。この反応は一般的なバイヤービリガー反応に準じて行うことができる。
【0024】
前記式(1e)で表される6−ヒドロキシメチル−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン類において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。
【0025】
式(1e)で表される6−ヒドロキシメチル−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン類の代表的な例として、例えば、6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン、8−ヒドロキシ−6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オンなどが挙げられる。
【0026】
前記式(1f)で表される5−ヒドロキシ−2−オキソ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン類において、n個のR1は、同一の基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1は橋頭位の炭素原子に結合している場合が多い。
【0027】
式(1f)で表される5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン類の代表的な例として、5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンなどが挙げられる。
【0028】
前記式(1g)で表されるヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類において、mは、好ましくは0〜3程度である。式(1g)で表されるヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類の代表的な例として、例えば、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−β,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトンなどのβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類;α−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β,γ,γ−テトラメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトンなどのα−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類などが挙げられる。
【0029】
前記メタクリル酸ハライドとしては、例えば、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミドなどが挙げられる。これらの中でもメタクリル酸クロリドが好ましい。
【0030】
前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応(エステル化)は、通常、反応に不活性な溶媒中で行われる。前記溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフランなどのエーテル;及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0031】
メタクリル酸ハライドの使用量は、環式骨格を有するアルコール1モルに対して0.9〜3.0モル、好ましくは1.0〜2.0モル程度である。
【0032】
反応は、通常、副生する酸(ハロゲン化水素)を捕捉するため、塩基の存在下で行われる。塩基としては、例えばトリアルキルアミン(例えば、トリエチルアミン等)などの第3級アミン、ピリジン等の含窒素芳香族複素環化合物などの有機塩基等が挙げられる。塩基の使用量は、環式骨格を有するアルコール1モルに対して、例えば0.9〜3モル、好ましくは1.0〜2.5モル程度である。反応温度は、環式骨格を有するアルコールの種類などによって異なるが、一般には0〜100℃程度である。
【0033】
上記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応により、原料アルコールに対応する環式骨格を有するメタクリル酸エステルが生成する。なお、反応混合物中には、一般に、目的生成物である環式骨格を有するメタクリル酸エステルのほか、未反応メタクリル酸ハライド、未反応アルコール、メタクリル酸ハライドダイマー、メタクリル酸ハライドダイマーに由来する副生物、メタクリル酸無水物、前記メタクリル酸ハライドに対応するハロゲン化水素と酸の捕捉剤として用いた塩基との塩、過剰に用いた塩基などが含まれている。
【0034】
本発明の方法の主たる特徴は、前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に水を添加して加熱処理する工程(以下、単に「工程A」と称することがある)を含む点にある。この工程Aにより、主として、反応混合物中に含まれている未反応メタクリル酸ハライドやメタクリル酸ハライドダイマーが加水分解され、対応するカルボン酸となる。なお、このカルボン酸は、例えば後述するアルカリ水溶液を用いた洗浄操作等により容易に除去できる。
【0035】
工程Aにおける水の添加量は、反応混合物中の未反応メタクリル酸ハライドとメタクリル酸ハライドダイマーの総モル数の1.0〜10倍モル、好ましくは1.2〜3倍モル程度である。加熱処理の温度は、例えば30〜100℃、好ましくは40〜80℃程度である。また、加熱処理の時間は、例えば5分〜5時間、好ましくは15分〜2時間程度である。
【0036】
本発明では、さらに、前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に炭素数1〜4の脂肪族アルコールを添加して加熱処理する工程(以下、単に「工程B」と称することがある)を設けるのが好ましい。この工程により、主として、反応混合物中に含まれているメタクリル酸無水物が分解され、対応するメタクリル酸エステルとなる。このメタクリル酸エステルは、例えば簡単な蒸留操作等により容易に除去可能である。
【0037】
工程Bにおける炭素数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどが挙げられる。これらの中でも、反応性及びコスト等の点から、メタノールが好ましい。炭素数1〜4の脂肪族アルコールの使用量は、反応に供したメタクリル酸ハライド1モルに対して0.1〜10モル程度、好ましくは0.3〜3モル程度である。加熱処理の温度は、例えば30〜100℃、好ましくは40〜80℃程度である。また、加熱処理の時間は、例えば5分〜5時間、好ましくは15分〜2時間程度である。
【0038】
工程Bは工程Aの前に行ってもよいが、その場合には、メタクリル酸ハライドダイマーが蒸留等の精製手段では分離除去困難な対応するエステルに変換されるため、工程Aの後に工程Bを設けるのが好ましい。なお、工程Aにおける加熱処理と工程Bにおける加熱処理とを並行して行うことも可能である。
【0039】
本発明の製造法は、また、環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物を酸水溶液で洗浄する工程(以下、単に「工程C」と称することがある)を含んでいてもよい。この工程により、主に、反応混合物中に含まれている過剰に用いた塩基(酸捕捉用の塩基)が除去され、塩基を含まないか又は塩基含有量が極めて少ない環式骨格を有するメタクリル酸エステルを得ることができる。このような環式骨格を有するメタクリル酸エステルを重合して得られるポリマーをフォトレジスト用の樹脂として用いると、リソグラフィーでの露光により発生した酸が塩基によって捕捉されることなく有効に機能し、樹脂の酸脱離性基の脱離が円滑に進行する。
【0040】
なお、酸水溶液を添加した際に2層に分離しない場合には、反応混合物に極性の低い有機溶媒を添加したり、極性の高い有機溶媒を留去するなどの処置を施すことにより洗浄操作が可能となる。
【0041】
酸水溶液としては、例えば、塩化水素(塩酸)、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸の水溶液;酢酸などの有機酸の水溶液が挙げられる。これらの中でも、無機酸の水溶液、特に塩酸が好ましい。酸水溶液の酸の濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜10重量%、さらに好ましくは0.3〜5重量%程度である。酸水溶液の使用量は、酸洗浄に供する被処理液100重量部に対して、例えば5〜2000重量部、好ましくは10〜500重量部程度である。酸洗浄する際の温度は、例えば10〜60℃程度である。
【0042】
この工程Cは反応終了後の任意の時点で行うことができるが、工程Aの後(工程Bを行う場合には、工程A及び工程Bの後)に行われる場合が多い。
【0043】
本発明の方法では、さらに、水、アルカリ水溶液及び塩水溶液から選択された少なくとも1種の洗浄液で洗浄する洗浄工程(以下、単に「工程D」と称することがある)を設けてもよい。この洗浄工程Dにより、反応混合液中に含まれている水溶性不純物を効率よく除去できる。
【0044】
前記アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩などの水溶液が例示される。好ましいアルカリ水溶液には、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩の水溶液などが含まれる。
【0045】
前記塩水溶液としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどのアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のハロゲン化物若しくは硫酸塩の水溶液などが挙げられる。
【0046】
洗浄は、水、アルカリ水溶液、塩水溶液の何れか1種の洗浄液を用いて行うことができるが、2種又は3種の洗浄液を組み合わせて行うのがより好ましい。洗浄回数は、各洗浄液につき、1回でもよく複数回でもよい。洗浄液の使用量は、洗浄処理1回当たり、被洗浄液100重量部に対して、例えば10〜200重量部、好ましくは20〜100重量部程度である。洗浄する際の温度は、例えば10〜60℃程度である。
【0047】
これらの洗浄工程Dは反応終了後の任意の時点で行うことができるが、工程Aの後(さらに工程B及び/又は工程Cを行う場合には、これらの工程の後)に行われる場合が多い。
【0048】
本発明では、さらに、反応混合物中の着色成分や金属類を除去するため、吸着処理工程を設けてもよい。吸着処理工程は反応終了後の任意の時点で行うことができるが、工程Aの後(さらに工程B及び/又は工程C及び/又は工程Dを行う場合には、これらの工程の後)に行われる場合が多い。なお、吸着処理の前に、必要に応じて溶媒置換(交換)を行ってもよい。
【0049】
吸着処理法としては、反応生成物中の不純物を除去できる処理法であれば特に限定されないが、活性炭、キレート樹脂、キレート繊維及びゼータ電位膜から選択された少なくとも1種の吸着材を用いた処理法が好ましい。また、シリカゲルを吸着剤として用いる処理法も好ましい。
【0050】
活性炭処理に用いる活性炭としては、特に限定されず、ガス賦活活性炭及び薬品賦活活性炭の何れも使用できる。また、活性炭の起源や活性炭の形状も特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状等の何れであってもよい。また、活性炭の比表面積は、例えば10〜3000m2/g程度である。活性炭処理における処理温度は、例えば10〜60℃程度である。活性炭処理は、バッチ式、連続式、固定床方式、流動床方式等の公知の方法を採用できる。活性炭処理により、主に着色成分を効率よく除去することができ、色相に優れた環式骨格を有するメタクリル酸エステルを簡易に得ることができる。
【0051】
前記キレート樹脂処理に用いられるキレート樹脂としては、金属とキレートを形成可能な官能基を有する樹脂であれば特に限定されないが、その代表的な例として、イミノジ酢酸型、ポリアミン型等のキレート樹脂が挙げられる。キレート樹脂の交換容量としては特に制限はないが、例えば0.1〜2モル/l程度のものが使用される。キレート樹脂処理における処理温度は、例えば10〜60℃程度である。キレート樹脂処理は、バッチ式、連続式、固定床方式、流動床方式等の公知の方法を採用できる。キレート樹脂処理により、主に微量金属成分(例えば、Fe、Alなど)を効率よく除去することができる。
【0052】
前記キレート繊維処理に用いられるキレート繊維としては、天然繊維に化学結合でキレート官能基(例えば、イミノジ酢酸型樹脂など)を固定化させたものであれば特に限定されないが、その代表的な例としてセルロースを基材としたキレート繊維(商品名「キレストファイバー」、キレスト株式会社製等)などが挙げられる。キレート繊維処理における処理温度は、例えば10〜60℃(好ましくは10〜50℃)程度である。キレート繊維処理は、バッチ式、連続式、固定床方式、流動床方式等の公知の方法を採用できる。キレート繊維処理により、主に微量金属成分(例えば、Fe、Alなど)を効率よく除去することができる。
【0053】
前記ゼータ電位膜処理は、被処理液をしてゼータ電位膜を通過させることにより行われる。ゼータ電位膜処理に用いられるゼータ電位膜としては、ゼータ電位に基づいて微細粒子を吸着可能な濾過膜であれば特に限定されず、例えば、キュノ(株)製、商品名「ゼータプラス」などを使用できる。ゼータ電位膜の材質として、例えば、樹脂、セルロース、パーライト、ケイソウ土、ガラス繊維などが挙げられる。ゼータ電位膜処理における処理温度は、例えば10〜50℃程度である。ゼータ電位膜処理により、主に微量金属成分(例えば、Fe、Alなど)を効率よく除去できる。
【0054】
シリカゲル処理に用いるシリカゲルとしては特に限定されない。シリカゲル処理における処理温度は、例えば10〜60℃程度である。シリカゲル処理は、バッチ式、連続式、固定床方式、流動床方式等の公知の方法を採用できる。シリカゲル処理により、高沸点有機物、着色成分などを効率よく除去することができる。
【0055】
反応生成物である環式骨格を有するメタクリル酸エステルは、上記の各工程を経た混合液を濃縮することにより得られるが、さらに晶析又は分子蒸留に付すことによりより高純度のものを得ることができる。
【0056】
晶析に用いる溶媒としては、環式骨格を有するメタクリル酸エステルの種類によっても異なるが、(i)少なくとも芳香族炭化水素を含む溶媒、(ii)脂肪族炭化水素とエステルとの混合溶媒、及び(iii)水と水混和性溶媒との混合溶媒から選択された溶媒が好ましい。
【0057】
前記(i)の溶媒における芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭素数6〜12程度の芳香族炭化水素が挙げられる。これらの中でも、特にトルエンなどが好ましい。前記(i)少なくとも芳香族炭化水素を含む溶媒には、(i-1)トルエン等の芳香族炭化水素、(i-2)芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素との混合溶媒、(i-3)芳香族炭化水素とエーテルとの混合溶媒が含まれる。前記(i-2)における脂肪族炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどの炭素数5〜12程度の脂肪族炭化水素が挙げられる。前記(i-3)におけるエーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、アニソール等の鎖状アルコールが好ましい。これらの中でもジイソプロピルエーテルなどが好ましい。
【0058】
前記(ii)脂肪族炭化水素とエステルとの混合溶媒において、脂肪族炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどの炭素数5〜12程度の脂肪族炭化水素が挙げられる。これらの中でもヘキサンなどが好ましい。また、エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸アルキルエステル;安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、酢酸エチルなどの酢酸アルキルエステル(特に、酢酸C1-4アルキルエステル)が好ましい。
【0059】
前記(iii)における水混和性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;アセトン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン極性溶媒などが挙げられる。これらの中でも、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、イソプロピルアルコール等のアルコールが好ましい。
【0060】
晶析溶媒の使用量は、溶媒の種類によっても異なるが、一般には、環式骨格を有するメタクリル酸エステル100重量部に対して、20〜1000重量部、好ましくは25〜800重量部、さらに好ましくは30〜300重量部程度である。晶析操作は、例えば30〜50℃程度の温度から−20〜10℃程度の温度まで冷却することによって行われる。冷却時間は、例えば0.1〜5時間、好ましくは0.3〜3時間程度であり、熟成時間は、例えば0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間程度である。
【0061】
晶析後、得られた結晶を溶媒で洗浄(リンス)することにより、より高純度の環式骨格を有するメタクリル酸エステルを取得することができる。洗浄は、例えば、前記結晶と洗浄用溶媒(リンス溶媒)との混合液を攪拌することにより行うことができる。
【0062】
前記洗浄に用いる溶媒としては、例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素(好ましくは、炭素数5〜12程度の脂肪族炭化水素)、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル(例えば、鎖状エーテル)、水と水混和性溶媒(例えば、イソプロピルアルコール等のアルコールなど)との混合溶媒などが好ましい。
【0063】
晶析により得られた結晶、又はさらに洗浄を施した結晶の乾燥条件は、品質及び作業効率を損なわない範囲で適宜設定でき、例えば温度10〜60℃程度(好ましくは10〜50℃程度)、及び常圧又は減圧下[例えば、0.1〜760mmHg(13.3〜101000Pa)程度]で乾燥が行われる。乾燥時間は、例えば0.1〜24時間程度である。乾燥は、窒素等の不活性ガス気流中で行ってもよい。
【0064】
前記分子蒸留は慣用の分子蒸留装置、例えば、ポット式分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置などを用いて行うことができる。これらの中でも、極めて薄い液膜の形成が可能であり、しかも試料を瞬時に加熱蒸発できることから、遠心式分子蒸留装置が特に好ましい。
【0065】
分子蒸留における操作条件は、目的の環式骨格を有するメタクリル酸エステルの品質を損なわない範囲で適宜選択できる。温度は、例えば10〜100℃程度、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは10〜65℃程度であり、特に10〜50℃程度が好ましい。圧力は、例えば0.0001〜0.5mmHg(0.0133〜66.5Pa)、好ましくは0.0001〜0.2mmHg(0.0133〜26.6Pa)、さらに好ましくは0.0001〜0.1mmHg(0.0133〜13.3Pa)程度である。
【0066】
分子蒸留は、常温で液体であるか、又は融点が100℃以下、特に50℃以下の環式骨格を有するメタクリル酸エステルの精製に有用である。分子蒸留により、着色度のより小さいメタクリル酸エステルを得ることができる。
【0067】
本発明の環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法によれば、環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に水を添加して加熱処理するため、反応混合物中に含まれているメタクリル酸ハライドダイマーや無水メタクリル酸が洗浄操作や蒸留操作により簡易に除去可能な物質に変換されるため、不純物含量の少ない高純度の環式骨格を有するメタクリル酸エステルを簡便に得ることができる。また、反応混合物に炭素数1〜4の脂肪族アルコールを添加して加熱処理する工程をさらに設ける場合には、反応混合物中に含まれている無水メタクリル酸などが蒸留操作等により簡易に除去可能な物質に変換されるため、より一層純度の高い環式骨格を有するメタクリル酸を簡便に得ることができる。また、反応混合物を酸水溶液で洗浄する工程をさらに設ける場合には、副生する酸の捕捉剤として用いる塩基を簡易に除去でき、より高純度の環式骨格を有するメタクリル酸を簡易に得られるという利点が生じる。
【0068】
例えば、本発明の方法により、不純物としてのメタクリル酸ハライドダイマーと無水メタクリル酸の総含有量が0.5重量%以下(好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下)である環式骨格を有するメタクリル酸エステル、あるいは、不純物としてのメタクリル酸ハライドダイマーと、無水メタクリル酸と、前記塩基の総含有量が0.5重量%以下(好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下)である環式骨格を有するメタクリル酸エステル、あるいは、不純物としての有機塩基(酸の捕捉剤として用いた有機塩基)の総含有量が50重量ppm以下(好ましくは、20重量ppm以下)である環式骨格を有するメタクリル酸エステルを取得することができる。
【0069】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、不純物含量の少ない高品質の環式骨格を有するメタクリル酸エステルを効率よく製造できる。また、本発明の環式骨格を有するメタクリル酸エステルは不純物含量が少なく品質が極めて優れている。
【0070】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0071】
実施例1(2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタンの製造)
内容積10Lのガラス製容器に、2−メチル−2−アダマンタノール513g(3.09モル)、トルエン3750g及びトリエチルアミン515g(5.09モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド484g(4.63モル)を1時間で滴下し、24時間熟成した。この間、液の温度を55〜60℃にコントロールした。
反応混合液を室温まで冷却した後、水56g(3.09モル)を添加し、温度55〜60℃で0.5時間攪拌した。次いで、メタノール148g(4.63モル)を添加し、温度55〜60℃で1時間攪拌した。得られた混合液に、温度20〜25℃の条件下、5重量%希塩酸2630gを加えて酸洗浄を行った。次に、温度20〜25℃の条件下、10重量%炭酸ソーダ水溶液2320gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
洗浄後の混合液(有機層)にフェノチアジン1.35gを添加し、減圧下に濃縮して(50mmHg(6660Pa);60℃)、706gの濃縮物を得た。この濃縮物を遠心式分子蒸留装置(日本車輌製造(株)製、型式「MS−150」)を用いて、圧力0.15mmHg(20Pa)、温度72℃の条件で分子蒸留し、573gの2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタンを得た(純度99.7重量%)。得られた2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタン中に含まれる不純物の含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.03重量%以下、無水メタクリル酸が0.03重量%以下、トリエチルアミンが8重量ppm以下であった。
【0072】
比較例1(2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタンの製造)
内容積10Lのガラス製容器に、2−メチル−2−アダマンタノール513g(3.09モル)、トルエン3750g及びトリエチルアミン515g(5.09モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド484g(4.63モル)を1時間で滴下し、24時間熟成した。この間、液の温度を55〜60℃にコントロールした。
反応混合液を室温まで冷却した後、水2526gを添加し、20〜25℃で1時間攪拌した。分液により下層水を分離後、混合液(有機層)を10重量%炭酸ソーダ水溶液2320gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
洗浄後の混合液(有機層)にフェノチアジン1.35gを添加し、減圧下に濃縮して(50mmHg(6660Pa);60℃)、745gの濃縮物を得た。この濃縮物を遠心式分子蒸留装置(日本車輌製造(株)製、型式「MS−150」)を用いて、圧力0.15mmHg(20Pa)、温度72℃の条件で分子蒸留し、376gの2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタンを得た(純度97重量%)。得られた2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタン中に含まれる不純物の含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.3重量%、無水メタクリル酸が1.1重量%、トリエチルアミンが90重量ppmであった。
【0073】
実施例2(β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンンの製造)
内容積10Lのガラス製容器に、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン316g(3.09モル)、トルエン2520g及びトリエチルアミン563g(5.56モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド420g(4.02モル)を2時間で滴下し、1時間熟成した。この間、液の温度を0〜5℃にコントロールした。
反応混合液に水145g(8.04モル)を添加し、温度55〜60℃で1時間攪拌した。次いで、メタノール129g(4.02モル)を添加し、温度50℃で1時間攪拌した。得られた混合液に、温度20〜25℃の条件下、5重量%希塩酸1910gを加えて酸洗浄を行った。次に、温度20〜25℃の条件下、10重量%炭酸ソーダ水溶液2350gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
洗浄後の混合液(有機層)を減圧下に濃縮して(50mmHg(6660Pa);60℃)、412gの濃縮物を得た。この濃縮物を遠心式分子蒸留装置(日本車輌製造(株)製、型式「MS−150」)を用いて、圧力0.15mmHg(20Pa)、温度72℃の条件で分子蒸留し、371gのβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンを得た(純度98重量%)。得られたβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン中に含まれる不純物の含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.03重量%以下、無水メタクリル酸が0.03重量%以下、トリエチルアミンが8重量ppm以下であった。
【0074】
比較例2(β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンンの製造)
内容積10Lのガラス製容器に、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン316g(3.09モル)、トルエン2520g及びトリエチルアミン563g(5.56モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド420g(4.02モル)を2時間で滴下し、1時間熟成した。この間、液の温度を0〜5℃にコントロールした。
反応混合液に水2400gを添加し、20〜25℃で0.5時間攪拌した。分液により下層水を分離後、混合液(有機層)を20〜25℃の温度下、10重量%炭酸ソーダ水溶液2350gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
洗浄後の混合液(有機層)を減圧下に濃縮して(50mmHg(6660Pa);60℃)、440gの濃縮物を得た。この濃縮物を遠心式分子蒸留装置(日本車輌製造(株)製、型式「MS−150」)を用いて、圧力0.15mmHg(20Pa)、温度72℃の条件で分子蒸留し、342gのβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンを得た(純度97重量%)。得られたβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン中に含まれる不純物の含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.2重量%、無水メタクリル酸が1.2重量%、トリエチルアミンが120重量ppmであった。
【0075】
実施例3(下記式で示される5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンの製造)
【化3】
内容積10Lのガラス製容器に、5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン476g(3.09モル)、トルエン2520g及びトリエチルアミン563g(5.56モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド420g(4.02モル)を2時間で滴下し、1時間熟成した。この間、液の温度を0〜5℃にコントロールした。
反応混合液に水145g(8.04モル)を添加し、温度55〜60℃で1時間攪拌した。次いで、メタノール129g(4.02モル)を添加し、温度50℃で1時間攪拌した。得られた混合液に、温度20〜25℃の条件下、5重量%希塩酸1910gを加えて酸洗浄を行った。次に、温度20〜25℃の条件下、10重量%炭酸ソーダ水溶液2350gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
得られた有機層を内容積10Lのガラス製エバポレーターを用いて濃縮し[10mmHg(1330Pa)、40℃]、1280gの濃縮液を得た。得られた濃縮液に、ジイソプロピルエーテル1120gを加え、氷冷下で3時間攪拌冷却すると、5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンが結晶化し、スラリーが得られた。このスラリーの温度は2℃であった。晶析終了後、結晶を濾別し、これに冷ジイソプロピルエーテル517.5gを加え、氷冷下で1時間攪拌することにより洗浄した。洗浄終了後、結晶を濾別し、真空乾燥機で9時間乾燥することにより[10mmHg(1330Pa)、60℃]、白色の5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンを540g得た。得られた5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンの純度は99.9重量%であり、不純物含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.03重量%以下、無水メタクリル酸が0.03重量%以下、トリエチルアミンが10重量ppm以下であった。
【0076】
比較例3(5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンの製造)
内容積10Lのガラス製容器に、5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン476g(3.09モル)、トルエン2520g及びトリエチルアミン563g(5.56モル)を入れ、窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド420g(4.02モル)を2時間で滴下し、1時間熟成した。この間、液の温度を0〜5℃にコントロールした。
反応混合液に水2400gを添加し、20〜25℃で0.5時間攪拌した。分液により下層水を分離後、混合液(有機層)を20〜25℃の温度下、10重量%炭酸ソーダ水溶液2350gで2回、さらに10重量%食塩水2200gで1回の計3回のバッチ洗浄を行った。
得られた有機層を内容積10Lのガラス製エバポレーターを用いて濃縮し[10mmHg(1330Pa)、40℃]、1280gの濃縮液を得た。得られた濃縮液に、ジイソプロピルエーテル1120gを加え、氷冷下で3時間攪拌冷却すると、5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンが結晶化し、スラリーが得られた。このスラリーの温度は2℃であった。晶析終了後、結晶を濾別し、これに冷ジイソプロピルエーテル517.5gを加え、氷冷下で1時間攪拌することにより洗浄した。洗浄終了後、結晶を濾別し、真空乾燥機で9時間乾燥することにより[10mmHg(1330Pa)、60℃]、白色の5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンを543g得た。得られた5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オンの純度は97重量%であり、不純物含有量は、メタクリル酸ハライドダイマーが0.5重量%、無水メタクリル酸が0.5重量%、トリエチルアミンが90重量ppmであった。
Claims (2)
- 下記式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)、(1f)又は(1g)
前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に水を添加して、15分間〜2時間の間、40〜80℃の温度で加熱処理する工程(工程A)、
前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、およびブタノールからなる群より選択される炭素数1〜4の脂肪族アルコールを添加して、15分間〜2時間の間、40〜80℃の温度で加熱処理する工程(工程B)ならびに
前記環式骨格を有するアルコールとメタクリル酸ハライドとの反応混合物を、塩酸、硫酸、硝酸、もしくはリン酸である無機酸の水溶液、および酢酸である有機酸の水溶液からなる群より選択される酸水溶液で洗浄する工程(工程C)を含む、
環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法。 - 環式骨格を有するアルコールが、
(1a)1−アダマンタノール、3,5−ジメチル−1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、5,7−ジメチル−1,3−アダマンタンジオール、3−メタクリロイルオキシ−1−アダマンタノール、3−メタクリロイルオキシ−5,7−ジメチル−1−アダマンタノール、および4−オキソ−1−アダマンタノールからなる群より選択される1−アダマンタノール;
(1b)α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、α,α,3,5−テトラメチル−1−アダマンタンメタノール、3−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノール、および3−メタクリロイルオキシ−α,α−ジメチル−1−アダマンタンメタノールからなる群より選択されるアダマンタンメタノール;
(1c)2−メチル−2−アダマンタノール、2−エチル−2−アダマンタノール、および2,5,7−トリメチル−2−アダマンタノールからなる群より選択される2−アダマンタノール;
(1d)6−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オンもしくは6,8−ジヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン;
(1e)6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オンおよび8−ヒドロキシ−6−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オンからなる群より選択される6−ヒドロキシメチル−3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン;
(1f)5−ヒドロキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン、または
(1g)β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−β,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−α,α,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトン;α−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,γ,γ−トリメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−β,β,γ,γ−テトラメチル−γ−ブチロラクトン、α−ヒドロキシ−α,β,β,γ,γ−ペンタメチル−γ−ブチロラクトンからなる群より選択されるヒドロキシ−γ−ブチロラクトン
である、請求項1に記載の環式骨格を有するメタクリル酸エステルの製造法。
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