ところで、前記の如く、可動部材と係合して偏心回転中の該可動部材の自転を制限する支持部を有する構成においては、該可動部材は該支持部と係合した状態を維持するように自転をしながら偏心回転を行う。この可動部材の自転は、該可動部材の偏心回転運動に合わせて、換言すれば、可動部材と支持部との相対位置関係の変化に応じて、その自転速度及び自転の向きが変わる。その結果、可動部材には、偏心軸部の中心回りの自転のモーメント(以下、自転モーメントともいう)が発生している。このとき、可動部材の自転を制限する支持部にはこの自転モーメントの反力が作用しており、この反力は多段圧縮機全体に対して該多段圧縮機の重心(通常は、駆動軸部材)回りのモーメント(以下、反力に起因するモーメントともいう)として作用して該多段圧縮機を振動させる加振力となる。また、可動部材の自転モーメントによって可動部材が取り付けられた偏心軸部には荷重が作用しており、この荷重は偏心軸部を介して駆動軸部材に作用して、駆動軸部材回りのモーメント(以下、偏心軸部への荷重に起因するモーメント)を生じさせる。前記反力に起因するモーメントが支配的ではあるが、この偏心軸部への荷重に起因するモーメントも多段圧縮機を駆動軸部材回りに振動させる加振力となる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低段側圧縮機構と高段側圧縮機構とを備え、各圧縮機構の可動部材が固定部材に対して自転を伴って揺動しながら偏心回転する多段圧縮機において、可動部材の自転に起因する振動を抑制することにある。
本願発明者は、低段側圧縮機構と高段側圧縮機構とを備える多段圧縮機において所定の回転軸回りに偏心回転する可動部材が2つ(低段側可動部材と高段側可動部材)存在することに着眼し、本発明をなすに至った。つまり、本発明は、低段側可動部材と高段側可動部材とで互いの自転に起因する加振力を打ち消し合わせるように低段側及び高段側圧縮機構を構成したものである。
詳しくは、第1の発明は、冷媒を圧縮する低段側圧縮機構(50)と該低段側圧縮機構(50)で圧縮した冷媒をさらに圧縮する高段側圧縮機構(60)とを備えた多段圧縮機が対象である。そして、前記低段側圧縮機構(50)は、低段側固定部材(51)と、所定の回転軸(X)回りに回転する駆動軸部材(32)の低段側偏心軸部(36)に回転自在に取り付けられると共に該低段側固定部材(51)との間に低段側圧縮室(55)を形成した状態で該駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに偏心回転する低段側可動部材(52)と、該低段側可動部材(52)を該低段側可動部材(52)が偏心回転する平面内で揺動自在且つ進退自在に支持することで該低段側可動部材(52)の偏心回転を許容しつつ自転を制限する低段側支持部(53,54,54)とを有し、前記高段側圧縮機構(60)は、高段側固定部材(61)と、前記回転軸(X)を挟んで前記低段側可動部材(52)と反対側に位置して前記駆動軸部材(32)の高段側偏心軸部(37)に回転自在に取り付けられると共に該高段側固定部材(61)との間に前記低段側圧縮室(55)よりも容積が小さい高段側圧縮室(65)を形成した状態で該駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに偏心回転する高段側可動部材(62)と、前記駆動軸部材(32)の回転軸(X)に対して前記低段側支持部(53,54,54)と同じ側に位置し且つ該高段側可動部材(62)を該高段側可動部材(62)が偏心回転する平面内で揺動自在且つ進退自在に支持することで該高段側可動部材(62)の偏心回転を許容しつつ自転を制限する高段側支持部(63,64,64)とを有し、前記低段側可動部材(52)の自転のモーメントの最大値に対する前記高段側可動部材(62)の自転のモーメントの最大値の比は、前記低段側圧縮室(55)の容積の最大値に対する前記高段側圧縮室(65)の容積の最大値の比よりも大きいものとする。
前記の構成の場合、低段側及び高段側圧縮機構(50,60)の各可動部材(52,62)は、各支持部(53,54,54,63,64,64)を中心に揺動して自転を制限されながら偏心回転する。このとき、各可動部材(52,62)の自転速度及び自転方向は、該各可動部材(52,62)と各支持部(53,54,54,63,64,64)との相対位置に応じて、つまり、各可動部材(52,62)の偏心回転に応じて変化する。かかる場合には、各可動部材(52,62)には各偏心軸部(36,37)の中心回りの自転モーメントが生じている。この自転は各支持部(53,54,54,63,64,64)によって制限されているので、自転モーメントの反力が各支持部(53,54,54,63,64,64)に作用し、圧縮機(30)に反力に起因するモーメントを生じさせている。また、各可動部材(52,62)の自転モーメントによって各偏心軸部(52,62)には荷重が作用し、この荷重が駆動軸部材(32)に偏心軸部への荷重に起因するモーメントを生じさせている。
ここで、本発明では、高段側可動部材(62)を回転軸(X)を挟んで低段側可動部材(52)と反対側に偏心させると共に、高段側支持部(63,64,64)を回転軸(X)に対して低段側支持部(53,54,54)と同じ側に配置することによって、高段側可動部材(62)と低段側可動部材(52)とは、回転軸(X)回りの位相が略180°ずれた状態で偏心回転しながら回転軸(X)回りにおいて略同じ角度の位置に設けられた各支持部を中心に揺動しているため、互いに位相が略180°ずれた状態で自転する。
詳しくは、各可動部材(52,62)が、平面視で回転軸(X)と各支持部(53,54,54,63,64,64)とを結ぶ線分上に位置する状態を基準として、該回転軸(X)回りに偏心回転すると、各可動部材(52,62)は各支持部(53,54,54,63,64,64)を中心に偏心方向に対応する一方向へ揺動し、偏心回転角度が略90°となったときに、揺動角度が最大となる。そこから、各可動部材(52,62)がさらに偏心回転すると、該各可動部材(52,62)は揺動方向が切り替わり、各支持部(53,54,54,63,64,64)を中心に他方向へ揺動し始める。そして、偏心回転角度が略270°となると、揺動角度が他方向側において最大となる。そこから、各可動部材(52,62)がさらに偏心回転すると、該各可動部材(52,62)は揺動方向が切り替わり、再び各支持部(53,54,54,63,64,64)を中心に一方向へ揺動し始め、平面視で回転軸(X)と各支持部(53,54,54,63,64,64)とを結ぶ線分上の位置へ戻る。このとき、各可動部材(52,62)は、その揺動運動に合わせて自転していて、揺動速度が変化すると自転速度も変化し、揺動方向が切り替わると自転方向も切り替わる。
ここで、高段側可動部材(62)を回転軸(X)を挟んで低段側可動部材(52)と反対側に偏心させると共に、高段側支持部(63,64,64)を回転軸(X)に対して低段側支持部(53,54,54)と同じ側に配置すると、高段側可動部材(62)と低段側可動部材(52)とは、回転軸(X)回りの略同じ角度位置に位置する各支持部(53,54,54,63,64,64)に対して互いに位相が略180°ずれた状態で揺動することになる。その結果、高段側可動部材(62)と低段側可動部材(52)とは互いに位相が略180°ずれた状態で自転する。すなわち、高段側可動部材(62)が所定の自転速度で時計回り(又は反時計回り)に自転するときには、低段側可動部材(52)は自転速度で反時計回り(又は時計回り)に自転し、また、高段側可動部材(62)の自転速度が減速(又は加速)するときには、自転方向は逆向きではあるが低段側可動部材(52)の自転速度も減速(又は加速)する。
こうすることで、高段側支持部(63,64,64)に作用する高段側可動部材(62)の自転モーメントの反力と、低段側支持部(53,54,54)に作用する低段側可動部材(52)の自転モーメントの反力とが、多段圧縮機の重心(通常は回転軸(X))回りで反対方向に作用することになるため、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとは互いに打ち消し合う。また、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとも回転軸(X)回りで反対方向に作用し、互いに打ち消し合うようになる。ここで、「打ち消す」とは、完全に打ち消すことまでは要さず、反力に起因するモーメント又は偏心軸部への荷重に起因するモーメントの総量を低減することができれば足りる意味である。
そして、前述の如く、高段側可動部材(62)の自転の角加速度が時計回り又は反時計回りに最大(即ち、自転モーメントが時計回り又は反時計回りに最大)となるときには、略同じタイミングで、低段側可動部材(52)の自転の角加速度が反時計回り又は時計回りに最大(即ち、自転モーメントが反時計回り又は時計回りに最大)となるため、低段側可動部材(52)と高段側可動部材(62)との自転モーメントの最大値の比が低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比よりも大きくなるように、低段側及び高段側圧縮機構(50,60)を構成することによって、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとを、また、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせて、多段圧縮機への加振力を可及的に抑制することができる。
この点について詳述すると、一般に、多段圧縮機は、高段側圧縮機構(60)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と低段側圧縮機構(50)の吸入冷媒の比容積及び質量流量とに基づいて、高段側圧縮室(65)の最大容積が低段側圧縮室(55)の最大容積よりも小さくなるように構成されている。この場合、通常は、特許文献1に開示された多段圧縮機のように、高段側圧縮室(65)の高さを低段側圧縮室(55)の高さよりも低くすることで、高段側圧縮室(65)の最大容積を低段側圧縮室(55)の最大容積よりも小さくする構成が考えられる。すると、高段側可動部材(62)の高さが、低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比に対応して低段側可動部材(52)よりも低くなり、低段側可動部材(52)と高段側可動部材(62)との慣性モーメントの比は、低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比と同じになる。その結果、圧縮室の高さ以外は低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との構成は同じであるため、低段側可動部材(52)と高段側可動部材(62)との自転モーメントの最大値の比が低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比と同じになり、前述の如く構成したとしても、常に低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比に対応する分だけ反力に起因するモーメントが相殺せずに残存することになる。同様に、偏心軸部への荷重に起因するモーメントも低段側圧縮室(55)と高段側圧縮室(65)との最大容積の比に対応する分だけ相殺せずに残存することになる。
それに対して、本発明では、低段側可動部材(52)の自転モーメントの最大値に対する高段側可動部材(62)の自転モーメントの最大値の比が、低段側圧縮室(55)の容積の最大値に対する前記高段側圧縮室(65)の容積の最大値の比よりも大きくなるように高段側及び低段側圧縮機構(50)を構成している。こうすることで、高段側支持部(63,64,64)に作用する反力の絶対値と低段側支持部(53,54,54)に作用する反力の絶対値との差が小さくなり、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせ、多段圧縮機全体への加振力を可及的に抑制することができる。それと共に、高段側可動部材(62)の自転に起因して高段側偏心軸部(37)に作用する自転モーメントによる荷重の絶対値と低段側可動部材(52)の自転に起因して低段側偏心軸部(36)に作用する自転モーメントによる荷重の絶対値との差についても同様に小さくなり、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせ、多段圧縮機全体への加振力を可及的に抑制することができる。
第2の発明は、第1の発明において、前記高段側可動部材(62)は、その比重が前記低段側可動部材(52)の比重よりも大きいものとする。
前記の構成の場合、高段側可動部材(62)の比重を低段側可動部材(52)の比重よりも大きくすることによって、高段側可動部材(62)の慣性モーメントを大きくして、高段側可動部材(62)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第3の発明は、第1の発明において、前記低段側及び高段側可動部材(252,262)は、円筒状をしており、前記高段側可動部材(262)は、その外径が前記低段側可動部材(252)の外径よりも大きいものとする。
前記の構成の場合、高段側可動部材(262)の外径を大きくすることによって、高段側可動部材(262)の慣性モーメントを大きくして、高段側可動部材(262)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第4の発明は、第1の発明において、前記低段側及び高段側可動部材(352,362)は、円筒状をしており、前記高段側可動部材(362)は、その内径が前記低段側可動部材(352)の内径よりも小さいものとする。
前記の構成の場合、高段側可動部材(362)の内径を小さくすることによって、高段側可動部材(362)の慣性モーメントを大きくして、高段側可動部材(362)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第5の発明は、第1の発明において、前記高段側支持部(63,64,64)は、前記駆動軸部材(532)の回転軸(X)からの距離が前記低段側支持部(53,54,54)の該回転軸(X)からの距離よりも短いものとする。
前記駆動軸部材(532)の回転軸(X)からの前記高段側支持部(63,64,64)の距離を短くすると、高段側可動部材(562)の偏心回転1回当たりにおける該高段側可動部材(562)の揺動角度が大きくなり、その結果、自転量も増加する。つまり、前記の構成の場合、偏心回転1回当たりの高段側可動部材(562)の自転量が低段側可動部材(552)の自転量よりも多くなるため、高段側可動部材(562)の自転の角加速度が相対的に大きくなり、高段側可動部材(562)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第6の発明は、第1の発明において、前記低段側及び高段側固定部材はそれぞれ、低段側及び高段側シリンダ(51,61)であって、前記低段側及び高段側可動部材はそれぞれ、前記低段側及び高段側シリンダ(51,61)内に収納される低段側及び高段側ピストン(52,62)であり、前記低段側及び高段側支持部はそれぞれ、前記ピストン(52,62)に設けられ且つ前記圧縮室(55,65)を高圧室(55-Hp,65-Hp)と低圧室(55-Lp,65-Lp)とに区画するブレード(53,63)と、前記シリンダ(51,61)に揺動自在に支持され且つ該ブレード(53,63)を進退自在に支持する揺動ブッシュ(54,54,64,64)とを有するものとする。
前記の構成の場合、可動部材としての各ピストン(52,62)は、該ピストン(52,62)に設けられたブレード(53,63)と各シリンダ(51,61)に設けられた揺動ブッシュ(54,54,64,64)とで進退自在且つ揺動自在に支持されているため、自転を伴って揺動しながら、圧縮室(55,65)内を偏心回転することができる。
第7の発明は、第1の発明において、前記高段側可動部材(62)の自転のモーメントの最大値は、前記低段側可動部材(52)の自転のモーメントの最大値と同じであるものとする。
前記の構成の場合、高段側支持部(63,64,64)に作用する高段側可動部材(62)の自転モーメントの反力と低段側支持部(53,54,54)に作用する低段側可動部材(52)の自転モーメントの反力とが回転軸(X)回りに互いに位相が略180°ずれた状態で作用すると共に、該高段側支持部(63,64,64)に作用する反力の絶対値と該低段側支持部(53,54,54)に作用する反力の絶対値が同じになるため、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとの和を略零にすることができる。また、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとが回転軸(X)回りに互いに位相が略180°ずれた状態で作用すると共に、高段側可動部材(62)の自転モーメントによる荷重の絶対値と低段側可動部材(52)の自転モーメントによる荷重の絶対値とが同じになるため、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとの和を略零にすることができる。
本発明によれば、高段側可動部材(62)を回転軸(X)を挟んで低段側可動部材(52)と反対側に偏心させ且つ高段側支持部(63,64,64)を回転軸(X)に対して低段側支持部(53,54,54)と同じ側に配置すると共に、低段側可動部材(52)の自転モーメントの最大値に対する高段側可動部材(62)の自転モーメントの最大値の比を低段側圧縮室(55)の容積の最大値に対する高段側圧縮室(65)の容積の最大値の比よりも大きくすることによって、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができると共に、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、多段圧縮機全体の振動を可及的に抑制することができる。
第2の発明によれば、高段側可動部材(62)の比重を低段側可動部材(52)の比重よりも大きくすることによって、高段側可動部材(62)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第3の発明によれば、高段側可動部材(262)の外径を低段側可動部材(252)の外径よりも大きくすることによって、高段側可動部材(262)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第4の発明によれば、高段側可動部材(362)の内径を低段側可動部材(352)の内径よりも小さくすることによって、高段側可動部材(362)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第5の発明によれば、駆動軸部材(532)の回転軸(X)からの高段側支持部(63,64,64)の距離を該回転軸(X)からの低段側支持部(53,54,54)の距離よりも短くすることによって、高段側可動部材(562)の自転モーメントの最大値を大きくすることができる。
第6の発明によれば、可動部材としてのピストン(52,62)に設けられたブレード(53,63)を固定部材としてのシリンダ(51,61)に設けられた揺動ブッシュ(54,54,64,64)で支持することによって、ピストン(52,62)をその偏心回転を許容しつつ自転を制限するように支持することができる。
第7の発明によれば、高段側可動部材(62)の自転モーメントの最大値を低段側可動部材(52)の自転モーメントの最大値と同じにすることによって、各可動部材(52,62)の自転に起因する加振力を略零にすることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
以下、本発明の実施形態1を図面に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように、空気調和装置(10)は、ヒートポンプ式の空気調和装置であって、冷房運転と暖房運転とに切り換え自在に構成されている。
該空気調和装置(10)の冷媒回路(20)は、圧縮機(30)と四路切換弁(21)と熱源側熱交換器である室外熱交換器(22)と第1膨張機構である第1膨張弁(E1)と気液分離器(23)と第2膨張機構である第2膨張弁(E2)と利用側熱交換器である室内熱交換器(24)とアキュムレータ(25)とが冷媒配管(26)によって順に接続されてなる主冷媒回路(2M)を備えている。
前記四路切換弁(21)は、図2に実線で示す状態の冷房運転と、図2に破線で示す状態の暖房運転とに切り換わる。
前記冷媒回路(20)には、インジェクション管(2B)が設けられている。該インジェクション管(2B)は、中間圧流体である中間圧ガス冷媒を圧縮機(30)にインジェクションする導入管であって、一端が気液分離器(23)に、他端が圧縮機(30)に連通している。つまり、前記気液分離器(23)には、高圧流体である冷媒の凝縮圧力と低圧流体である冷媒の蒸発圧力との中間圧力になっている中間圧冷媒が貯溜されている。該インジェクション管(2B)は、気液分離器(23)の中間圧冷媒のうち、ガス相の中間圧ガス冷媒を圧縮機(30)にインジェクションする。
前記第1膨張弁(E1)と第2膨張弁(E2)は、開度調整自在な電動弁で構成されている。そして、前記第1膨張弁(E1)又は第2膨張弁(E2)で減圧される中間圧冷媒が気液分離器(23)に貯溜する。
前記圧縮機(30)は、運転容量を無段階又は多段階に制御するように構成されている。該圧縮機(30)は、2段圧縮機であって、図1に示すように、密閉型のケーシング(31)内にモータ(40)と低段側圧縮機構(50)及び高段側圧縮機構(60)とが収納されて構成されている。
前記モータ(40)は、ケーシング(31)の内周面に固着されたステータ(41)と、ステータ(41)の中央部に配設されたロータ(42)とを備えている。該ロータ(42)の中央部には、駆動軸部材(32)が連結されている。該駆動軸部材(32)は、回転軸(X)に沿って上下に延びると共に、該回転軸(X)に対して偏心した低段側偏心軸部(36)と該回転軸(X)に対して該低段側偏心軸部(36)とは反対側に偏心した高段側偏心軸部(37)とを有する。そして、該低段側偏心軸部(36)に低段側圧縮機構(50)が、該高段側偏心軸部(37)に高段側圧縮機構(60)が連結されている。
前記ケーシング(31)内の底部は潤滑油の油溜め部(33)に構成され、該油溜め部(33)の潤滑油には、前記駆動軸部材(32)の下端部が浸漬されている。尚、前記駆動軸部材(32)の下端部には、遠心式の油ポンプが設けられ、潤滑油が、駆動軸部材(32)内の給油路(34)を通り、低段側圧縮機構(50)及び高段側圧縮機構(60)の摺動箇所に供給される。
前記低段側圧縮機構(50)及び高段側圧縮機構(60)は、モータ(40)の下方に位置して上下に併設されている。詳しくは、ケーシング(31)内におけるモータ(40)の下方空間において、上方から順に上部プレート(71)、ミドルプレート(72)及び下部プレート(73)とが互いに間隔を開けて配設されている。そして、該上部プレート(71)とミドルプレート(72)との間に高段側圧縮機構(60)が、該ミドルプレート(72)と下部プレート(73)との間に低段側圧縮機構(50)が設けられている。これら上部プレート(71)、ミドルプレート(72)及び下部プレート(73)の中央部には、駆動軸部材(32)が貫通している。そして、前記低段側偏心軸部(36)は、下部プレート(73)とミドルプレート(72)との間に位置する一方、前記高段側偏心軸部(37)は、ミドルプレート(72)と上部プレート(71)との間に位置する。
低段側圧縮機構(50)及び高段側圧縮機構(60)は、基本的な構成はほぼ同一であって、何れもいわゆる揺動ピストン型のロータリ圧縮機で構成されている。
低段側圧縮機構(50)は、図1,3に示すように、低段側シリンダ(51)と、該低段側シリンダ(51)内に収容された低段側ピストン(52)と、該低段側ピストン(52)に設けられたブレード(53)と、該ブレード(53)を支持するブッシュ(54,54)とを有する。
前記低段側シリンダ(51)は、概略円筒状の部材であって、その上面がミドルプレート(72)と当接する一方、その下面が下部プレート(73)と当接している。この低段側シリンダ(51)が低段側固定部材を構成する。
前記低段側ピストン(52)は、概略円筒状の部材であって、低段側偏心軸部(36)に回転自在に嵌め込まれた状態で、前記低段側シリンダ(51)内に収容されている。この低段側ピストン(52)は、その外周面の一部が低段側シリンダ(51)の内周面の一部と微小な隙間を有して接近している。これらミドルプレート(72)、下部プレート(73)、低段側シリンダ(51)及び低段側ピストン(52)で低段側シリンダ室(55)が区画形成されている。この低段側ピストン(52)が低段側可動部材を、低段側シリンダ室(55)が低段側圧縮室を構成する。
前記低段側シリンダ(51)には、回転軸(X)方向に延びる円柱状のブッシュ孔(56)がその側周面の一部が長手方向に亘って低段側シリンダ室(55)に開口するようにして設けられている。このブッシュ孔(56)内には、一対の揺動ブッシュ(54,54)が回動自在に設けられている。この一対の揺動ブッシュ(54,54)は、円柱をその中心軸を通る平面で分割した形状となっており、各揺動ブッシュ(54)の円弧状の外周面がブッシュ孔(56)の内周面と摺接している。
前記低段側ピストン(52)には、その側周面から半径方向に延びるブレード(53)が一体的に形成されている。このブレード(53)は、一対の揺動ブッシュ(54,54)に挟持された状態で支持される。つまり、低段側ピストン(52)は、ブレード(53)及び一対の揺動ブッシュ(54,54)によって、ブッシュ孔(56)の中心軸回りに回転自在に支持されていると共に、揺動ブッシュ(54,54)の分割面に対して進退自在に支持されている。これらブレード(53)及び揺動ブッシュ(54,54)が低段側支持部を構成する。
また、このブレード(53)によって、前記低段側シリンダ室(55)は低圧側の低圧室(55-Lp)と高圧側の高圧室(55-Hp)とに区画されている。
前記低段側シリンダ(51)には、低段側吸入通路(57)が形成されており、この低段側吸入通路(57)の下流端が揺動ブッシュ(54)の近傍において低段側シリンダ室(55)の低圧室(55-Lp)に開口して吸入口を構成している。この低段側吸入通路(57)の上流端には、主冷媒回路(2M)の吸入側冷媒配管(2r)が接続されている。該吸入側冷媒配管(2r)は、低段側圧縮機構(50)に低圧ガス冷媒を供給する吸入管を構成している。
前記ミドルプレート(72)は、その内部に中圧空間(74)が形成されている。また、このミドルプレート(72)には、低段側吐出通路(75)が形成されており、この低段側吐出通路(75)の上流端が揺動ブッシュ(54)の近傍において低段側シリンダ室(55)の高圧室(55-Hp)に開口して吐出口を構成すると共に、その下流端が中圧空間(74)に連通している。尚、図示しないが、前記低段側吐出通路(75)には、所定の吐出圧力になると吐出口を開口する吐出弁が設けられている。また、ミドルプレート(72)には、中圧空間(74)に連通するように前記インジェクション管(2B)が接続されている。つまり、中圧空間(74)は、低段側圧縮機構(50)から吐出される中間圧ガス冷媒とインジェクション管(2B)を介して供給される中間圧ガス冷媒とによって中間圧雰囲気に構成されている。
前記低段側ピストン(52)は、その外周面の一部が低段側シリンダ(51)の内周面の一部と微小な隙間を有して接近した状態で回転軸(X)回りに偏心回転することで、低段側シリンダ室(55)の容積を変化させて冷媒を圧縮するように構成されている。
前記高段側圧縮機構(60)は、低段側圧縮機構(50)と基本的には同じ構成をしている。高段側圧縮機構(60)における低段側圧縮機構(50)に対応する構成要素については、低段側圧縮機構(50)の構成要素の符号の十の位を「5」から「6」に変更して、一の位以下の符号は同様に表している。
高段側シリンダ(61)は、その上面が上部プレート(71)と当接する一方、その下面がミドルプレート(72)と当接している。そして、高段側ピストン(62)は、概略円筒状の部材であって、高段側偏心軸部(37)に回転自在に嵌め込まれた状態で且つ、その外周面の一部が高段側シリンダ(61)の内周面の一部と微小な隙間を有して接近した状態で高段側シリンダ(61)内に収容されている。これら上部プレート(71)、ミドルプレート(72)、高段側シリンダ(61)及び高段側ピストン(62)で高段側シリンダ室(65)が区画形成されている。高段側ピストン(62)は、低段側ピストン(52)と同様に、該高段側ピストン(62)に設けられたブレード(63)が揺動ブッシュ(64,64)で挟持された状態で支持されている。この高段側シリンダ(61)が高段側固定部材を、高段側ピストン(62)が高段側可動部材を、高段側シリンダ室(65)が高段側圧縮室を、ブレード(63)及び揺動ブッシュ(64,64)が高段側支持部を構成する。
また、高段側シリンダ(61)には、高段側吸入通路(67)が形成されている。この高段側吸入通路(67)の下流端は揺動ブッシュ(64)の近傍において高段側シリンダ室(65)の低圧室(図示省略)に開口して吸入口を構成している。一方、ミドルプレート(72)には、その上部に前記中圧空間(74)に開口する連通路(76)が貫通形成されており、この連通路(76)の下流端が、前記高段側吸入通路(67)の上流端と連通している。つまり、高段側シリンダ室(65)の低圧室は、高段側吸入通路(67)及び連通路(76)を介してミドルプレート(72)の中圧空間(74)と連通している。
一方、上部プレート(71)には、高段側吐出通路(77)が形成されている。この高段側吐出通路(77)は、その上流端が揺動ブッシュ(64)の近傍において高段側シリンダ室(65)の高圧室(図示省略)に開口して吐出口を構成すると共に、その下流端が上部プレート(71)の上面に開口している。つまり、高段側圧縮機構(60)で圧縮された冷媒は、高段側吐出通路(77)を介してケーシング(31)内に吐出される。ケーシング(31)の上部には、主冷媒回路(2M)の吐出側冷媒配管(2d)が接続されている。該吐出側冷媒配管(2d)は、高圧ガス冷媒を吐出する吐出管を構成する。
尚、上部プレート(71)の上部には、高段側圧縮機構(60)の高段側吐出通路(77)を覆うマフラ(78)が設けられている。
ここで、高段側圧縮機構(60)は、低段側圧縮機構(50)で圧縮した中間圧冷媒をさらに高圧状態まで圧縮するため、高段側の吸入冷媒の比容積が低段側圧縮機構(50)の吸入冷媒の比容積に比べて小さい。そのため、高段側シリンダ室(65)は、低段側圧縮機構(50)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と高段側圧縮機構(60)の吸入冷媒の比容積及び質量流量とに応じて、低段側シリンダ室(55)よりも容積が小さくなるように構成されている。
詳しくは、高段側シリンダ室(65)は、その高さが低段側シリンダ室(55)よりも低く構成されている。つまり、高段側シリンダ(61)及び高段側ピストン(62)はそれぞれ、その高さが低段側シリンダ(51)及び低段側ピストン(52)よりも低く構成されている。尚、シリンダ(51,61)の内周径、ピストン(52,62)の内外周径及び回転軸(X)からの偏心量、揺動ブッシュ(54,54,64,64)の回転軸(X)からの距離は、高段側と低段側とで同じである。こうすることで、高段側シリンダ室(65)の容積を低段側シリンダ室(55)の容積よりも小さく設定している。
また、高段側ピストン(62)は、低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成されている。例えば、低段側ピストン(52)をアルミニウム合金で、高段側ピストン(62)を鋳鉄等で構成する。尚、低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)の材料は、アルミニウム合金や鋳鉄に限られるものではなく、高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成する限りは、任意の材料を採用することができる。好ましくは、低段側ピストン(52)の慣性モーメントと高段側ピストン(62)の慣性モーメントとが同じになる材料で低段側及び高段側ピストン(52,62)を構成する。
−空気調和動作−
次に、上述した空気調和装置(10)の空気調和動作について説明する。
先ず、室内の冷房運転時には、四路切換弁(21)を図2の実線側に切り換える。圧縮機(30)から吐出した冷媒は、室外熱交換器(22)において外気と熱交換して凝縮する。この液冷媒は、第1膨張弁(E1)で減圧され、凝縮圧力と蒸発圧力との中間圧力の中間圧冷媒となって気液分離器(23)に溜まる。
前記気液分離器(23)の中間圧冷媒のうち、中間圧液冷媒は、第2膨張弁(E2)で減圧された後、室内熱交換器(24)において室内空気と熱交換して蒸発し、室内空気を冷却する。その後、このガス冷媒はアキュムレータ(25)を経て圧縮機(30)に戻り、この冷媒循環動作を行う。
一方、暖房運転時には、四路切換弁(21)を図2の破線側に切り換える。圧縮機(30)から吐出した冷媒は、室内熱交換器(24)において室内空気と熱交換し、室内空気を加熱しながら凝縮する。その後、この液冷媒は、第2膨張弁(E2)で減圧され、中間圧冷媒となって気液分離器(23)に溜まる。
前記気液分離器(23)の中間圧冷媒のうち、中間圧液冷媒は、第1膨張弁(E1)で減圧された後、室外熱交換器(22)において外気と熱交換して蒸発する。その後、このガス冷媒はアキュムレータ(25)を経て圧縮機(30)に戻り、この冷媒循環動作を行う。
前述した空調運転時において、インジェクション管(2B)が設けられているので、気液分離器(23)の中間圧ガス冷媒が圧縮機(30)にインジェクションされる。
続いて、前記圧縮機(30)の圧縮動作について説明する。
前記モータ(40)を駆動すると、ロータ(42)の回転が駆動軸部材(32)を介して低段側圧縮機構(50)の低段側ピストン(52)及び高段側圧縮機構(60)の高段側ピストン(62)に伝達される。すると、低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)がそれぞれ低段側シリンダ(51)及び高段側シリンダ(61)に対して揺動しながら偏心回転(公転)し、低段側圧縮機構(50)及び高段側圧縮機構(60)が所定の圧縮動作を行う。
低段側圧縮機構(50)と高段側圧縮機構(60)の圧縮動作は同様であるため、以下、主として低段側圧縮機構(50)を参照して、具体的に説明する。低段側ピストン(52)は、図4に示すように、偏心回転する。低段側ピストン(52)の偏心回転角度は、平面視において、駆動軸部材(32)の回転軸(X)から半径方向に延びる直線上に揺動ブッシュ(54)の揺動中心と低段側ピストン(52)の軸心(低段側偏心軸部(36)の軸心)(Y)とが並んだ(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(54)とを結ぶ線分上に低段側ピストン(52)の軸心(Y)が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。(A)図は低段側ピストン(52)の偏心回転角度が0°又は360°の状態を、(B)図は低段側ピストン(52)の偏心回転角度が90°の状態を、(C)図は低段側ピストン(52)の偏心回転角度が180°の状態を、(D)図は低段側ピストン(52)の偏心回転角度が270°の状態をそれぞれ示している。
低段側シリンダ室(55)では、図4(A)の状態のときに低圧室(55-Lp)の容積がほぼ零となる。ここから駆動軸部材(32)が図の時計回りに回転して図4(B)の状態に変化するときに低圧室(55-Lp)が形成され、そこから図4(C),(D),(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(55-Lp)の容積が増大することで、前記主冷媒回路(2M)におけるアキュムレータ(25)から戻る低圧ガス冷媒が、低段側吸入通路(57)を通って該低圧室(55-Lp)に吸入される。
駆動軸部材(32)が一回転して、低段側ピストン(52)が図4(A)の状態のときに、前記低圧室(55-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(55-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(55-Hp)となる一方、ブレード(53)を隔てて新たな低圧室(55-Lp)が形成されている。駆動軸部材(32)がさらに回転すると、前記低圧室(55-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(55-Hp)の容積が減少し、該高圧室(55-Hp)で冷媒が圧縮される。一方、ミドルプレート(72)の中圧空間(74)には、気液分離器(23)からインジェクション管(2B)を介して中間圧冷媒が供給されているので、高圧室(55-Hp)の圧力が所定値となって中圧空間(74)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(55-Hp)の中間圧冷媒によって吐出弁が開き、中間圧冷媒が低段側吐出通路(75)を介して中圧空間(74)へ流入する。その後、低段側圧縮機構(50)から吐出した中間圧冷媒と気液分離器(23)から供給された中間圧冷媒とは中圧空間(74)において合流する。
高段側圧縮機構(60)においても同様に、高段側ピストン(62)が偏心回転することによって、中圧空間(74)から中間圧冷媒が吸入される。その際、高段側シリンダ室(65)の容積が、低段側圧縮機構(50)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と高段側圧縮機構(60)の吸入冷媒の比容積及び質量流量に応じて低段側シリンダ室(55)の容積よりも小さく設定されているので、高段側圧縮機構(60)の流入量が不足したり、逆に、低段側圧縮機構(50)の流出量が過剰になることがない。前記高段側圧縮機構(60)においては、中間圧冷媒を圧縮して、高圧冷媒をケーシング(31)内に吐出する。この高圧冷媒は、モータ(40)のステータ(41)とロータ(42)との間を通り、主冷媒回路(2M)に吐出される。そして、この高圧冷媒は、前述したように冷媒回路(20)を循環する。
こうして、冷媒を圧縮すべく低段側及び高段側ピストン(52,62)が偏心回転する間、該低段側及び高段側ピストン(52,62)は、ブレード(53,63)が揺動ブッシュ(54,54,64,64)と係合しているため、ブレード(53,63)が揺動ブッシュ(54,54,64,64)の方向を向くように自転している。すなわち、低段側及び高段側ピストン(52,62)は、ブレード(53,63)が揺動ブッシュ(54,54,64,64)の方向を向くように自転が制限されている。この自転は、低段側及び高段側ピストン(52,62)の偏心回転位置、即ち、低段側及び高段側ピストン(52,62)と各揺動ブッシュ(54,54,64,64)との相対位置に応じて、その自転速度と方向が変化する。このように、低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)それぞれには自転モーメントが発生している。そして、これら低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)は、各揺動ブッシュ(54,54,64,64)によって自転が制限されているため、各揺動ブッシュ(54,54,64,64)にはそれぞれ低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)の自転モーメントの反力が作用している。その結果、圧縮機(30)には回転軸(X)回りに高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとが作用している。また、この低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)の自転モーメントによって、低段側偏心軸部(36)及び高段側偏心軸部(37)には荷重が作用している。その結果、該低段側偏心軸部(36)及び高段側偏心軸部(37)が設けられている駆動軸部材(32)には、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントが作用している。
ここで、本実施形態においては、高段側の反力に起因するモーメントと低段側の反力に起因するモーメントとが駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用するように構成されている。それに付随して、高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントと低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントとも駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用する。
詳しくは、高段側ピストン(62)を平面視で回転軸(X)を挟んで低段側ピストン(52)と反対側に偏心させ(詳しくは、回転軸(X)回りの角度の位置が180°ずれるように配置し)、高段側の揺動ブッシュ(64)を平面視で回転軸(X)に対して低段側の揺動ブッシュ(54)と同じ側(詳しくは、回転軸(X)回りの角度の位置が同じ位置)に配置している。
このように構成することによって、低段側ピストン(52)と高段側ピストン(62)とは、図5に示すように動作して、それぞれの自転に起因する加振力が互いに打ち消し合うようになる。
ここで、高段側ピストン(62)の偏心回転角度は、前述の低段側ピストン(52)の偏心回転角度と同様に、平面視において、駆動軸部材(32)の回転軸(X)から半径方向に延びる直線上に揺動ブッシュ(64)と高段側ピストン(62)の軸心(高段側偏心軸部(37)の軸心)(Z)とが並んだ(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(64)とを結ぶ線分上に高段側ピストン(62)の軸心(Z)が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。図5の各図においては、低段側ピストン(52)及び高段側ピストン(62)の偏心回転角度の値を前後に並べて表示している。本実施形態では、前述の如く、低段側ピストン(52)と高段側ピストン(62)とが回転軸(X)を挟んで反対側に偏心していると共に、低段側ピストン(52)の偏心回転角度の基準点を決定する揺動ブッシュ(54)と高段側ピストン(62)の偏心回転角度の基準点を決定する揺動ブッシュ(64)との回転軸(X)回りの角度の位置が合致しているため、低段側ピストン(52)の偏心回転角度と高段側ピストン(62)の偏心回転角度とは180°ずれている。
まず、図5(A)に示すように、低段側ピストン(52)の偏心回転角度が0°のとき、低段側ピストン(52)は回転軸(X)に対して12時の方角に位置する一方、高段側ピストン(62)は回転軸(X)に対して6時の方角に位置する。すなわち、高段側ピストン(62)は、低段側ピストン(52)と回転軸(X)に対して位相が180°ずれた位置に位置する。
そこから、駆動軸部材(32)が時計回りに回転すると、図5(B)に示すように、低段側ピストン(52)は回転軸(X)に対して3時の方角へ、高段側ピストン(62)は回転軸(X)に対して9時の方角へ時計回りに偏心回転する。このとき、低段側ピストン(52)は、ブレード(53)が揺動ブッシュ(54)の方向を向くように反時計回りに自転しながら偏心回転する。この自転の自転速度は、低段側ピストン(52)の偏心回転角度が0°から増大するにつれて減少して、該偏心回転角度が略90°となったとき(詳しくは、揺動ブッシュ(54)を中心とした低段側ピストン(52)の一方向側(図5における右側)への揺動角度が最大となったとき)に零となる。その後、自転方向が切り替わる。一方、高段側ピストン(62)は、ブレード(63)が揺動ブッシュ(64)の方向を向くように自転しながら偏心回転する。ここで、低段側ピストン(52)と高段側ピストン(62)とが回転軸(X)を挟んで反対側に偏心していると共に、低段側ピストン(52)の揺動中心となる揺動ブッシュ(54)と高段側ピストン(62)の揺動中心となる揺動ブッシュ(64)との回転軸(X)回りの角度の位置が合致しているため、高段側ピストン(62)の自転方向は、低段側ピストン(52)の自転方向とは逆の時計回りである。この自転の自転速度は、高段側ピストン(62)の偏心回転角度が180°から増大するにつれて減少して、該偏心回転角度が略270°となったとき(詳しくは、揺動ブッシュ(64)を中心とした高段側ピストン(62)の他方向側(図5における左側)への揺動角度が最大となったとき)に零となる。その後、自転方向が切り替わる。このように、高段側ピストン(62)と低段側ピストン(52)とは、位相が互いに180°ずれた状態で偏心回転する。
その後、駆動軸部材(32)が時計回りにさらに回転すると、図5(C),(D)に示すように、低段側ピストン(52)は回転軸(X)に対して3時から9時の方角へ、高段側ピストン(62)は回転軸(X)に対して9時から3時の方角へ時計回りに偏心回転する。このとき、低段側ピストン(52)は、ブレード(53)が揺動ブッシュ(54)の方向を向くように時計回りに自転する。この自転の自転速度は、低段側ピストン(52)の偏心回転角度が90°から増大するにつれて増大して該偏心回転角度が180°となったときに最大となり、該偏心回転角度が180°から増加するにつれて減少して該偏心回転角度が略270°となったとき(詳しくは、揺動ブッシュ(54)を中心とした低段側ピストン(52)の他方向側への揺動角度が最大となったとき)に零となる。その後、自転方向が切り替わる。一方、高段側ピストン(62)は、ブレード(63)が揺動ブッシュ(64)の方向を向くように反時計回りに自転する。この自転の自転速度は、高段側ピストン(62)の偏心回転角度が270°から増大するにつれて増大して該偏心回転角度が360°(0°)となったときに最大となり、該偏心回転角度が0°から増大するにつれて減少して該偏心回転角度が略90°となったとき(詳しくは、揺動ブッシュ(64)を中心とした高段側ピストン(62)の一方向側への揺動角度が最大となったとき)に零となる。その後、自転方向が切り替わる。
そこからさらに、駆動軸部材(32)が時計回りに回転すると、図5(A)に示すように、低段側ピストン(52)は回転軸(X)に対して9時から12時の方角へ、高段側ピストン(62)は回転軸(X)に対して3時から6時の方角へ時計回りに偏心回転する。このとき、低段側ピストン(52)は、ブレード(53)が揺動ブッシュ(54)の方向を向くように反時計回りに自転する。この自転の自転速度は、低段側ピストン(52)の偏心回転角度が270°から増大するにつれて増大して、該偏心回転角度が360°(0°)となったときに最大となる。一方、高段側ピストン(62)は、ブレード(63)が揺動ブッシュ(64)の方向を向くように時計回りに自転する。この自転の自転速度は、高段側ピストン(62)の偏心回転角度が90°から増大するにつれて増大して、該偏心回転角度が180°となったときに最大となる。
このように、低段側ピストン(52)が回転軸(X)回りに偏心回転を1回する間に、高段側ピストン(62)も回転軸(X)回りに1回だけ偏心回転する。このとき、高段側ピストン(62)と低段側ピストン(52)とは、前述の如く、互いに位相が180°ずれた状態で自転し、低段側ピストン(52)の自転速度が加速するときには高段側ピストン(62)の自転速度も加速する(ただし、自転方向は逆向き)一方、低段側ピストン(52)の自転速度が減速するときには高段側ピストン(62)の自転速度も減速する(ただし、自転方向は逆向き)。
ここで、各ピストンの慣性モーメントをI、各ピストンの自転の角加速度をβとすると、各ピストンには、
M=I・β ・・・(1)
で表される偏心軸部の中心回りの自転モーメントMが発生する。各ピストンは各揺動ブッシュによって自転が制限されているため、各揺動ブッシュにはこの自転モーメントMの反力が作用している。この反力は、圧縮機(30)に対して、その重心である回転軸(X)回りのモーメント、即ち、反力に起因するモーメントとして作用する。ここで、低段側ピストン(52)の角加速度βと高段側ピストン(62)の角加速度βとは、前述の如く、互いに符号が逆向きとなるため、低段側ピストン(52)の自転モーメントMLの反力と高段側ピストン(62)の自転モーメントMHの反力とは、各揺動ブッシュに対して回転軸(X)回りで反対方向に作用している。つまり、低段側の反力に起因するモーメントと高段側の反力に起因するモーメントとは互いに打ち消し合う方向に作用している。
また、低段側及び高段側ピストン(52,62)はそれぞれ低段側及び高段側偏心軸部(36,37)に取り付けられているため、低段側及び高段側ピストン(52,62)の自転モーメントML,MHによってそれぞれ低段側及び高段側偏心軸部(36,37)には荷重が作用する。このとき、低段側ピストン(52)の自転モーメントMLと高段側ピストン(62)の自転モーメントMHとは、それぞれ低段側及び高段側偏心軸部(36,37)に対して異なる回転方向に作用している。つまり、これら低段側及び高段側偏心軸部(36,37)を介して駆動軸部材(32)に作用する、低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントと高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントとは、回転軸(X)に対して互いに打ち消し合う方向に作用する。
ところで、低段側の反力に起因するモーメントと高段側の反力に起因するモーメントとが互いに打ち消す向きに作用するとしても、両モーメントの大きさが大きく異なると、相殺せずに残存するモーメントが大きな加振力となって圧縮機(30)を振動させてしまう。同様に、低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントと高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントとが回転軸(X)回りに互いに打ち消す向きに作用するとしても、両モーメントの大きさが大きく異なると、相殺せずに残存するモーメントが大きな加振力となって圧縮機(30)を振動させてしまう。例えば、前記特許文献1に開示された圧縮機のように、高段側シリンダ室(65)の容積を低段側シリンダ室(55)の容積よりも小さく設定すべく、単純に高段側シリンダ及びピストン(61,62)の高さを、低段側シリンダ及びピストン(51,52)よりも低く設定する構成の場合、低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxと高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxの比の絶対値が低段側シリンダ室(55)の最大容積と高段側シリンダ室(65)の最大容積との比と同じになり、前述の如く、低段側の反力に起因するモーメントと高段側の反力に起因するモーメントとを互いに打ち消す向きに作用させたとしても、低段側シリンダ室(55)と高段側シリンダ室(65)との最大容積の比に対応する分だけ反力に起因するモーメントが相殺せずに残存することになる。低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントと高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントについても同様に、低段側シリンダ室(55)と高段側シリンダ室(65)との最大容積の比に対応する分だけモーメントが相殺せずに残存することになる。
そこで、本実施形態では、低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxと高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxとが少なくとも以下の式を満足するように低段側及び高段側圧縮機構(50,60)を構成している。
VHmax/VLmax<MHmax/MLmax ・・・ (2)
ただし、VLmaxは低段側シリンダ室(55)の最大容積を、VHmaxは高段側シリンダ室(65)の最大容積を表す。
こうすることで、低段側及び高段側ピストン(52,62)が1回偏心回転する間に回転軸(X)回りにおいて相殺せずに残存する低段側と高段側との反力に起因するモーメントを可及的に低減することができ、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。同様に、相殺せずに残存する低段側と高段側との偏心軸部への荷重に起因するモーメントを可及的に低減することができ、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。詳しくは、高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成することで、高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)と同じ材料で形成する場合と比較して、高段側ピストン(62)の慣性モーメントIを大きくし、前記数式(2)を満足させるようにしている。
ただし、高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxの方が低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxよりも大きい場合には、以下の数式(3)を満たすことが好ましい。
MHmax/MLmax<2−VHmax/VLmax ・・・ (3)
つまり、低段側及び高段側ピストン(52,62)の構成によっては、高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxの方が低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxよりも大きい場合もあり、その場合であっても前記数式(3)を満足することによって、低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxに対する高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxの比が、低段側シリンダ室(55)の最大容積VLmaxに対する高段側シリンダ室(65)の最大容積VHmaxの比よりも1に近いように構成することができる。その結果、打ち消されずに残存する回転軸(X)回りの反力に起因するモーメント及び偏心軸部への荷重に起因するモーメント(以下、両モーメントを合わせて、自転に起因するモーメントという)を可及的に低減することができ、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。
好ましくは、高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxと低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxとが等しくなるように、低段側及び高段側圧縮機構(50,60)を構成する。そうすることで、低段側及び高段側ピストン(52,62)が1回偏心回転する間に相殺せずに残存する回転軸(X)回りのモーメントをさらに低減することができ、圧縮機(30)の振動をより効果的に抑制することができる。
−実施形態1の効果−
したがって、本実施形態1によれば、低段側ピストン(52)と高段側ピストン(62)とを平面視で回転軸(X)を挟んで反対側に偏心させると共に、低段側の揺動ブッシュ(54)と高段側の揺動ブッシュ(64)とを平面視で回転軸(X)回りの角度の位置が同じになるように配設することによって、低段側の反力に起因するモーメントと高段側の反力に起因するモーメントとを駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。それと共に、低段側偏心軸部(36)への荷重に起因するモーメントと高段側偏心軸部(37)への荷重に起因するモーメントとを駆動軸部材(32)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。また、高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成して、前記数式(2)及び(3)を満たすようにすることによって、高段側の自転に起因するモーメントと低段側の自転に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、圧縮機(30)の振動を抑制することができる。
さらに、高段側ピストン(62)の自転モーメントの最大値MHmaxと低段側ピストン(52)の自転モーメントの最大値MLmaxとが等しくなるように低段側及び高段側圧縮機構(50,60)を構成することによって、圧縮機(30)の振動をより効果的に抑制することができる。
《発明の実施形態2》
次に、本発明の実施形態2に係る圧縮機について説明する。
実施形態2は、実施形態1が高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成することによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成しているのに対し、高段側ピストン(262)の外径を低段側ピストン(252)の外径よりも大きくすることによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成している。以下、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
実施形態2に係る圧縮機(230)は、実施形態1と同様に、低段側圧縮機構(250)と高段側圧縮機構(260)とを備えた2段圧縮機である。
そして、高段側圧縮機構(260)の高段側ピストン(262)は、図6に示すように、低段側ピストン(252)よりも外径が大きく構成されている。また、高段側ピストン(262)の高さや偏心量及び高段側シリンダ(261)の内径は、高段側シリンダ室(265)の最大容積が低段側圧縮機構(250)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と高段側圧縮機構(260)の吸入冷媒の比容積及び質量流量との比に応じて低段側シリンダ室(255)の最大容積よりも小さくなるように設定されている。以上によって、単純に高段側シリンダ及びピストン(261,262)の高さを低くして高段側シリンダ室(265)の最大容積を小さくする構成と比較して、高段側ピストン(262)の慣性モーメントを大きくすることができ、前記数式(2)及び(3)を満たすように低段側及び高段側圧縮機構(250,260)を構成することができる。
−実施形態2の効果−
したがって、本実施形態2によれば、実施形態1と同様に、低段側ピストン(252)と高段側ピストン(262)とを平面視で回転軸(X)を挟んで反対側に偏心させると共に、低段側の揺動ブッシュ(図示省略)と高段側の揺動ブッシュ(図示省略)とを平面視で回転軸(X)回りの角度の位置が同じになるように配設することによって、低段側及び高段側ピストン(252,262)それぞれの自転に起因するモーメントを駆動軸部材(232)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(230)の振動を抑制することができる。それと共に、高段側ピストン(262)の外径を低段側ピストン(252)の外径よりも大きくすることで高段側ピストン(262)の慣性モーメントを大きくして前記数式(2)及び(3)を満たすことによって、高段側ピストン(262)の自転に起因するモーメントと低段側ピストン(252)の自転に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、圧縮機(230)の振動をより効果的に抑制することができる。
《発明の実施形態3》
次に、本発明の実施形態3に係る圧縮機について説明する。
実施形態3は、実施形態1が高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成することによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成しているのに対し、高段側ピストン(362)の高さの低段側ピストン(352)の高さに対する比を高段側シリンダ室(365)の最大容積の低段側シリンダ室(355)の最大容積に対する比よりも大きくすることによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成している。以下、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
実施形態3に係る圧縮機(330)は、実施形態1と同様に、低段側圧縮機構(350)と高段側圧縮機構(360)とを備えた2段圧縮機である。
そして、高段側ピストン(362)の高さは、図7に示すように、その低段側ピストン(352)の高さに対する比が、高段側シリンダ室(365)の最大容積の低段側シリンダ室(355)の最大容積に対する比よりも大きくなるように構成されている。また、高段側ピストン(362)の外径や偏心量及び高段側シリンダ(361)の内径は、高段側シリンダ室(365)の最大容積が低段側圧縮機構(350)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と高段側圧縮機構(360)の吸入冷媒の比容積及び質量流量との比に応じて低段側シリンダ室(355)の最大容積よりも小さくなるように設定されている。以上により、単純に高段側シリンダ及びピストン(361,362)の高さを低くして高段側シリンダ室(365)の最大容積を小さくする構成と比較して、高段側ピストン(362)の慣性モーメントを大きくすることができ、前記数式(2)及び(3)を満たすように低段側及び高段側圧縮機構(350,360)を構成することができる。
−実施形態3の効果−
したがって、本実施形態3によれば、実施形態1と同様に、低段側ピストン(352)と高段側ピストン(362)とを平面視で回転軸(X)を挟んで反対側に偏心させると共に、低段側の揺動ブッシュ(図示省略)と高段側の揺動ブッシュ(図示省略)とを平面視で回転軸(X)回りの角度の位置が同じになるように配設することによって、低段側及び高段側ピストン(352,362)それぞれの自転に起因するモーメントを駆動軸部材(332)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(330)の振動を抑制することができる。それと共に、高段側ピストン(362)の高さを低段側ピストン(352)の高さよりも高くすることで高段側ピストン(362)の慣性モーメントを大きくして前記数式(2)及び(3)を満たすことによって、高段側ピストン(362)の自転に起因するモーメントと低段側ピストン(352)の自転に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、圧縮機(330)の振動をより効果的に抑制することができる。
《発明の実施形態4》
次に、本発明の実施形態4に係る圧縮機について説明する。
実施形態4は、実施形態1が高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成することによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成しているのに対し、高段側ピストン(462)の内径を低段側ピストン(452)の内径よりも小さくすることによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成している。以下、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
実施形態4に係る圧縮機(430)は、実施形態1と同様に、低段側圧縮機構(450)と高段側圧縮機構(460)とを備えた2段圧縮機である。
そして、高段側圧縮機構(460)の高段側ピストン(462)は、図8に示すように、低段側ピストン(452)よりも内径が小さく構成されている。また、高段側ピストン(462)の高さや偏心量及び高段側シリンダ(461)の内径は、高段側シリンダ室(465)の最大容積が低段側圧縮機構(450)の吸入冷媒の比容積及び質量流量と高段側圧縮機構(460)の吸入冷媒の比容積及び質量流量との比に応じて低段側シリンダ室(455)の最大容積よりも小さくなるように設定されている。以上によって、単純に高段側シリンダ及びピストン(461,462)の高さを低くして高段側シリンダ室(465)の最大容積を小さくする構成と比較して、高段側ピストン(462)の慣性モーメントを大きくすることができ、前記数式(2)及び(3)を満たすように低段側及び高段側圧縮機構(450,460)を構成することができる。
−実施形態4の効果−
したがって、本実施形態4によれば、実施形態1と同様に、低段側ピストン(452)と高段側ピストン(462)とを平面視で回転軸(X)を挟んで反対側に偏心させると共に、低段側の揺動ブッシュ(454,454)と高段側の揺動ブッシュ(464,464)とを平面視で回転軸(X)回りの角度の位置が同じになるように配設することによって、低段側及び高段側ピストン(452,462)それぞれの自転に起因するモーメントを駆動軸部材(432)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(430)の振動を抑制することができる。それと共に、高段側ピストン(462)の内径を低段側ピストン(452)の内径よりも小さくする、即ち、高段側ピストン(462)の厚み(径方向幅)を低段側ピストン(452)の厚みよりも厚くすることで、高段側ピストン(462)の慣性モーメントを大きくして前記数式(2)及び(3)を満たすことによって、高段側ピストン(462)の自転に起因するモーメントと低段側ピストン(452)の自転に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、圧縮機(430)の振動をより効果的に抑制することができる。
《発明の実施形態5》
次に、本発明の実施形態5に係る圧縮機について説明する。
実施形態5は、実施形態1が高段側ピストン(62)を低段側ピストン(52)よりも比重が大きな材料で形成することによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成しているのに対し、高段側の揺動ブッシュ(564,564)と回転軸(X)との距離を低段側の揺動ブッシュ(554,554)と回転軸(X)との距離よりも短くすることによって前記数式(2)及び(3)を満たすように構成している。以下、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
実施形態5に係る圧縮機(530)は、実施形態1と同様に、低段側圧縮機構(550)と高段側圧縮機構(560)とを備えた2段圧縮機である。
そして、高段側圧縮機構(560)の高段側の揺動ブッシュ(564,564)は、図10に示すように、低段側の揺動ブッシュ(554,554)よりも回転軸(X)からの距離が短くなるように構成されている。このように、揺動ブッシュ(564,564)と回転軸(X)との距離を短くすると、図10に示すように、偏心回転1回当たりの揺動ブッシュ(564,564)を中心とした高段側ピストン(562)の揺動角度が大きくなり、その結果、高段側ピストン(562)の自転量が増加する。つまり、高段側ピストン(562)の偏心回転1回当たりの自転量が増加するため、自転の角加速度の最大値も大きくなる。
尚、高段側シリンダ室(565)の容積が低段側圧縮機構(550)の比容積及び質量流量に対する高段側圧縮機構(560)の比容積及び質量流量の比に応じて低段側シリンダ室(555)の容積よりも小さくなるように、高段側ピストン(562)の外径及び高さ並びに高段側シリンダ(561)の内径等が設定される。
その結果、低段側圧縮機構(550)の比容積及び質量流量に対する高段側圧縮機構(560)の比容積及び質量流量の比に応じて高段側シリンダ室(565)の容積が低段側シリンダ室(555)の容積よりも小さく構成されると共に、単純に高段側シリンダ及びピストン(561,562)の高さを低くして高段側シリンダ室(565)の容積を小さくする構成と比較して、高段側ピストン(562)の角加速度の絶対値を大きくすることができ、前記数式(2)及び(3)を満たすように低段側及び高段側圧縮機構(550,560)を構成することができる。
−実施形態5の効果−
したがって、本実施形態5によれば、実施形態1と同様に、低段側ピストン(552)と高段側ピストン(562)とを平面視で回転軸(X)を挟んで反対側に偏心させると共に、低段側の揺動ブッシュ(554,554)と高段側の揺動ブッシュ(564,564)とを平面視で回転軸(X)回りの角度の位置が同じになるように配設することによって、低段側及び高段側ピストン(552,562)それぞれの自転に起因するモーメントを駆動軸部材(532)の回転軸(X)回りに互いに打ち消し合う方向に作用させることができ、その結果、圧縮機(530)の振動を抑制することができる。それと共に、高段側の揺動ブッシュ(564,564)の回転軸(X)からの距離を低段側の揺動ブッシュ(554,554)の回転軸(X)からの距離よりも短くすることで高段側ピストン(562)の角加速度の最大値を低段側ピストン(552)の角加速度の最大値よりも大きくして前記数式(2)及び(3)を満たすことによって、高段側ピストン(562)の自転に起因するモーメントと低段側ピストン(552)の自転に起因するモーメントとを可及的に打ち消し合わせることができ、圧縮機(530)の振動をより効果的に抑制することができる。
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、前記実施形態では、前記数式(2)及び(3)を満足させるために、慣性モーメントを大きくしたり、角加速度の最大値を大きくするための種々の構成を採用しているが、何れか1つの構成のみを採用するのではなく、複数の構成を組み合わせて(例えば、高段側ピストンを低段側ピストンよりも比重が大きな材料で形成すると共に、高段側ピストンの外径を低段側ピストンの外径よりも大きくする等)採用してもよい。
また、前記実施形態では、前記数式(2)及び(3)を満足させるために、高段側ピストンを低段側ピストンよりも比重が大きな材料で形成していたが、低段側ピストンに空孔を空ける、又は高段側ピストンに比重の大きな材質を埋め込む等して、高段側ピストンの慣性モーメントが低段側ピストンの慣性モーメントよりも大きくなるように調整してもよい。
また、単純に高段側シリンダ及びピストンの高さを低くして高段側シリンダ室の容積を小さくする構成と比較して、高段側ピストンの自転のモーメントを大きくすることができる構成であれば、任意の構成を採用して、数式(2)及び(3)を満たすように構成することができる。
尚、前記説明では、低段側及び高段側ピストンの比重、外径、高さ、偏心量や低段側及び高段側の揺動ブッシュと回転軸との距離等について、高段側圧縮機構を低段側圧縮機構に対してどのように構成するかについて説明してきたが、これらは相対的なものであり、例えば、低段側ピストンを高段側ピストンよりも比重が小さい材料で形成する等、逆の観点で前記実施形態の構成を実現することもできる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。