以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の各実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《発明の実施形態1》
本実施形態1は、図1に示すように、回転式圧縮機である。この圧縮機(1)は、ケーシング(10)内に、圧縮機構(20)と該圧縮機構(20)を駆動する電動機(30)とが収納され、全密閉型に構成されている。上記圧縮機(1)は、例えば、空気調和装置(エアコン)の冷媒回路において、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出するために用いられる。
上記ケーシング(10)は、円筒状の胴部(11)と、該胴部(11)の上端部および下端部にそれぞれ固定された上部鏡板(12)および下部鏡板(13)とから構成されている。上記上部鏡板(12)には、吸入管(14)が貫通して設けられ、上記胴部(11)には、吐出管(15)が貫通して設けられている。
上記圧縮機構(20)は、ケーシング(10)に固定された上部ハウジング(16)および下部ハウジング(17)と、シリンダ(21)とを備えている。上記シリンダ(21)は、環状のシリンダ室(C1,C2)を有し、上記上部ハウジング(16)と下部ハウジング(17)との間に設けられている。上記上部ハウジング(16)は、シリンダ室(C1,C2)内に配置される環状ピストン(22)を一体に有している。そして、上記シリンダ(21)が環状ピストン(22)に対して偏心回転するように構成されている。つまり、本実施形態では、シリンダ(21)が可動側で環状ピストン(22)が固定側となり、このシリンダ(21)と環状ピストン(22)とが相対的に偏心回転運動をするように構成されている。
上記電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えたブラシレスDC(直流)モータである。上記ステータ(31)は、圧縮機構(20)の下方に配置され、ケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。上記ロータ(32)には、該ロータ(32)と共に回転する駆動軸(33)が連結されている。この駆動軸(33)は、圧縮機構(20)を上下方向に貫通し、シリンダ室(C1,C2)内に位置する部分に偏心部(33a)が形成されている。この偏心部(33a)は、他の部分よりも大径に形成され、駆動軸(33)の軸心から所定量だけ偏心している。
上記駆動軸(33)の内部には、軸方向にのびる給油路(図示省略)が設けられている。また、上記駆動軸(33)の下端部には、給油ポンプ(34)が設けられている。この給油ポンプ(34)は、ケーシング(10)内の底部に貯まる潤滑油を汲み上げ、駆動軸(33)の給油路を通じて圧縮機構(20)の摺動部へ供給するように構成されている。
上記シリンダ(21)は、外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)を備えている。上記外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)は、互いに同軸の円環状に形成され、端部が鏡板(26)で連結されることによって一体に形成されている。そして、上記環状のシリンダ室(C1,C2)が外側シリンダ部(24)の内周面と内側シリンダ部(25)の外周面との間に形成されている。また、上記内側シリンダ部(25)の内側には、駆動軸(33)の偏心部(33a)が摺動自在に嵌合している。なお、上記シリンダ(21)は、鋳鋼材やアルミ合金等により形成されている。
上記上部ハウジング(16)および下部ハウジング(17)には、それぞれ駆動軸(33)を回転自在に支持するための軸受け部(16a,17a)が形成されている。このように、本実施形態の圧縮機(1)は、駆動軸(33)がシリンダ室(C1,C2)を上下方向に貫通し、偏心部(33a)の軸方向両側部分が軸受け部(16a,17a)を介してケーシング(10)に保持される貫通構造となっている。
上記環状ピストン(22)は、外周面が外側シリンダ部(24)の内周面より小径に形成され、内周面が内側シリンダ部(25)の外周面より大径に形成されている。そして、上記環状ピストン(22)は、環状のシリンダ室(C1,C2)内に偏心して配置され、該シリンダ室(C1,C2)を外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)とに区画するように構成されている。つまり、上記外側シリンダ室(C1)が外側シリンダ部(24)の内周面と環状ピストン(22)の外周面との間に形成され、上記内側シリンダ室(C2)が環状ピストン(22)の内周面と内側シリンダ部(25)の外周面との間に形成されている。そして、上記シリンダ(21)の鏡板(26)が各シリンダ室(C1,C2)の一端を閉塞する第1閉塞部材を構成し、上部ハウジング(16)が各シリンダ室(C1,C2)の他端を閉塞する第2閉塞部材を構成している。
上記環状ピストン(22)は、外周面が外側シリンダ部(24)の内周面と実質的に1点で接すると共に、その接点と位相が180°異なる位置で内周面が内側シリンダ部(25)の外周面と実質的に1点で接するように形成されている。
図2に示すように、上記圧縮機構(20)は、外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)をそれぞれ圧縮室である高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と吸入室である低圧室(C1-Lp,C2-Lp)とに区画するブレード(23)を備えている。このブレード(23)は、環状ピストン(22)を貫通してシリンダ室(C1,C2)の径方向に延びる長方形板状に形成され、両端が外側シリンダ部(24)の内周面と内側シリンダ部(25)の外周面とに固定されている。
上記環状ピストン(22)は、ブレード(23)が貫通可能に一部分が分断されたC型に形成されている。この環状ピストン(22)の分断箇所には、揺動ブッシュ(27)が設けられている。この揺動ブッシュ(27)は、吐出側ブッシュ(27A)と吸入側ブッシュ(27B)とにより構成されている。上記吐出側ブッシュ(27A)および吸入側ブッシュ(27B)は、ブレード(23)に対して、それぞれ高圧室(C1-Hp,C2-Hp)側および低圧室(C1-Lp,C2-Lp)側に位置している。
上記吐出側ブッシュ(27A)および吸入側ブッシュ(27B)は、何れも断面形状が略半円形に形成され、平面同士が対向するように配置されている。つまり、この両ブッシュ(27A,27B)の対向面の間は、ブレード(23)が摺動するブレード溝(28)を構成している。上記揺動ブッシュ(27)は、ブレード(23)がブレード溝(28)を進退しながら、環状ピストン(22)に対してブレード(23)およびシリンダ(21)と一体的に揺動するように構成されている。なお、上記両ブッシュ(27A,27B)は、別体ではなく、一部で連結される一体構造に形成してもよい。
上記圧縮機構(20)では、駆動軸(33)の回転に伴い、環状ピストン(22)と外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)との各接点が図3における(A)図から(D)図へ順に移動する。つまり、上記圧縮機構(20)は、駆動軸(33)の回転により、外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)が自転することなく、駆動軸(33)の周りを公転運動するように構成されている。
上記上部ハウジング(16)には、吸入管(14)の下方に長穴状の吸入口(41)が形成されている。この吸入口(41)は、上部ハウジング(16)をその軸方向に貫通し、各シリンダ室(C1,C2)の低圧室(C1-Lp,C2-Lp)と上部ハウジング(16)の上方空間(低圧空間(S1))とを連通させている。また、上記外側シリンダ部(24)には、吸入空間(42)と外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)とを連通させる貫通孔(43)が形成されている。上記環状ピストン(22)には、外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)と内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)とを連通させる貫通孔(44)が形成されている。
なお、上記環状ピストン(22)と外側シリンダ部(24)は、上記吸入口(41)に対応した箇所の上端部を図1に破線で示すように面取りし、くさび形状にするとよい。こうすると、低圧室(C1-Lp,C2-Lp)への冷媒の吸入を効率よく行うことができる。
上記ハウジング(16)には、2つの吐出口(45)が形成されている。この各吐出口(45)は、上部ハウジング(16)をその軸方向に貫通している。この各吐出口(45)の下端は、各シリンダ室(C1,C2)の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)に臨むように開口している。一方、この各吐出口(45)の上端は、該吐出口(45)を開閉する吐出弁(46)を介して吐出空間(47)に連通している。
この吐出空間(47)は、上部ハウジング(16)とカバープレート(18)との間に形成されている。そして、上記上部ハウジング(16)および下部ハウジング(17)には、吐出空間(47)から下部ハウジング(17)の下方空間(高圧空間(S2))に連通する吐出通路(47a)が形成されている。
一方、上記下部ハウジング(17)には、シールリング(29)が設けられている。このシールリング(29)は、下部ハウジング(17)の環状溝(17b)に装填され、シリンダ(21)の鏡板(26)の下面に圧接している。また、上記シリンダ(21)と下部ハウジング(17)との接触面には、シールリング(29)の径方向内側部分に高圧の潤滑油が導入されるようになっている。これにより、シールリング(29)は、潤滑油の圧力を利用して環状ピストン(22)の下端面とシリンダ(21)の鏡板(26)との間の軸方向隙間を縮小するコンプライアンス機構を構成している。
ところで、本実施形態では、外側シリンダ室(C1)の容積Voutが内側シリンダ室(C2)の容積Vinより大きくなっている。具体的に、上記内側シリンダ室(C2)の外側シリンダ室(C1)に対する容積比Vr(Vin/Vout)が0.7程度に設定されている。なお、この容積比Vrは、0.6から1.0の間の値で設定するのが望ましい。
また、上記圧縮機(21)は、電動機(30)の出力トルクを制御するトルク制御手段であるコントローラ(50)を備えている。
上記コントローラ(50)は、圧縮機構(20)の1回転中の負荷トルクの変動に応じて電動機(30)の出力トルクを変化させるように構成されている。このコントローラ(50)は、ロータ(32)の回転角度が入力され、そのロータ(32)の回転角度に応じて予め設定された値の電流を電動機(30)へ供給する。つまり、コントローラ(50)は、電動機(30)の入力電流を制御することで、その電動機(30)の出力トルクを変化させる。なお、上記ロータ(32)の回転角度は、駆動軸(33)の回転角度と同じである。上記ロータ(32)の回転角度は、例えば、回転センサによる検出値や、電動機(30)の誘起電圧または電流から算出される値が用いられる。
具体的に、負荷トルクが大きい回転角度では入力電流を増やし、負荷トルクの小さい回転角度では入力電流を減らす。電動機(30)の出力トルクは、入力電流に比例するので、その入力電流を増減させれば、それに伴って電動機(30)の出力トルクが増減する。これにより、電動機(30)の出力トルクが負荷トルクに見合う値となるので、1回転中における駆動軸(33)の回転速度の変動が抑制され、振動の発生が抑制される。
また、本発明は、入力電流に代えて、入力電圧または入力電流位相をロータ(32)の回転角度に応じて制御し、電動機(30)の出力トルクを変化させるようにしてもよい。例えば、負荷トルクが大きい回転角度では入力電圧を増やし、負荷トルクが小さい回転角度では入力電圧を減らす。これにより、電動機(30)の出力トルクが入力電圧に比例して増減し、負荷トルクに見合う値に変更される。また、入力電流位相を進めたり遅らせたりすることにより、電動機(30)の出力トルクが増減し、負荷トルクに見合う値に変更される。特に、入力電流位相の調整によれば、急激に変動する負荷トルクに対して電動機(30)の出力トルクの追従性が向上する。
−運転動作−
次に、この圧縮機(1)の運転動作について、各図を参照しながら説明する。
先ず、上記電動機(30)を起動すると、ロータ(32)の回転が駆動軸(33)を介して圧縮機構(20)の外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)に伝達される。これにより、ブレード(23)が揺動ブッシュ(27)の間で往復運動(進退動作)を行い、且つ、ブレード(23)と揺動ブッシュ(27)が一体的になって、環状ピストン(22)に対して揺動動作を行う。そして、上記外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)が環状ピストン(22)に対して揺動しながら公転し、圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
具体的に、上記外側シリンダ室(C1)では、図3(D)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(33)が図の右回りに回転して図3(A)、図3(B)、図3(C)の状態へ順次変化するに従って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大する。そして、この低圧室(C1-Lp)の容積増大に伴って、冷媒が吸入管(14)、低圧空間(S1)および吸入口(41)を通って該低圧室(C1-Lp)に吸入される。このとき、冷媒は、吸入口(41)から低圧室(C1-Lp)へ直接吸入されるだけでなく、一部は吸入口(41)から吸入空間(42)へ入り、そこから貫通孔(43)を通って低圧室(C1-Lp)へ吸入される。
上記駆動軸(33)が一回転して再び図3(D)の状態になると、上記低圧室(C1-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C1-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C1-Hp)となり、ブレード(23)を隔てて新たな低圧室(C1-Lp)が形成される。上記駆動軸(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C1-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C1-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C1-Hp)で冷媒が圧縮される。この高圧室(C1-Hp)の高圧冷媒は、吐出口(45)より吐出空間(47)へ流出し、吐出通路(47a)を通って高圧空間(S2)へ流出する。
上記内側シリンダ室(C2)では、図3(B)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸(33)が図の右回りに回転して図3(C)、図3(D)、図3(A)の状態へ順次変化するに従って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大する。そして、この低圧室(C2-Lp)の容積増大に伴って、冷媒が吸入管(14)、低圧空間(S1)および吸入口(41)を通って該低圧室(C2-Lp)に吸入される。このとき、冷媒は、吸入口(41)から低圧室(C2-Lp)へ直接吸入されるだけでなく、一部は吸入口(41)から吸入空間(42)へ入り、そこから貫通孔(43)、外側シリンダ室の低圧室(C1-Lp)および貫通孔(44)を通って内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)へ吸入される。
上記駆動軸(33)が一回転して再び図3(B)の状態になると、上記低圧室(C2-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C2-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C2-Hp)となり、ブレード(23)を隔てて新たな低圧室(C2-Lp)が形成される。上記駆動軸(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C2-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C2-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C2-Hp)で冷媒が圧縮される。この高圧室(C2-Hp)の高圧冷媒は、吐出口(45)より吐出空間(47)へ流出し、吐出通路(47a)を通って高圧空間(S2)へ流出する。
このように、外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)で圧縮されて高圧空間(S2)へ流出した高圧の冷媒は、吐出管(15)から吐出され、冷媒回路で凝縮行程、膨張行程および蒸発行程を経た後、再び圧縮機(1)に吸入される。
次に、電動機(30)のトルク制御動作について説明する。なお、ここでは、図3において、(A)が回転角度180°の状態を、(B)が回転角度270°の状態を、(C)が回転角度0°(360°)の状態を、(D)が回転角度90°の状態をそれぞれ示すものと仮定する。
上記運転動作において、駆動軸(33)の1回転中の圧縮トルク(負荷トルク)は、図4に実線で示すように変動する。つまり、本実施形態の圧縮機(1)の場合、回転角度180°付近で圧縮トルクが最大となり、回転角度90°付近および270°付近で圧縮トルクが最小となる。一方、図4に破線で示すように、一般的な1シリンダ型ロータリー圧縮機の場合、回転角度180°付近で圧縮トルクが最大となり、回転角度0°(360°)付近で圧縮トルクが最小となる。ここで、1回転中のトルク変動幅(圧縮トルクの最大と最小の差)について比較すると、本発明に係る圧縮機(1)のトルク変動幅(約1.1Nm)は、1シリンダ型ロータリー圧縮機のトルク変動幅(約2.3Nm)より著しく小さいことが分かる。なお、図4に示すトルク変動は、中間期で使用するエアコンにおいて発生する運転圧力比(凝縮圧力/蒸発圧力)が約1.6のときのものである。
上記電動機(30)の入力電流は、上述した圧縮トルクの変動に応じて調節される。つまり、入力電流値は、最大圧縮トルク時に最大となり、最小圧縮トルク時に最小となる。このように、駆動軸(33)の1回転において、電動機(30)の入力電流が最小から最大へ変動する。ところが、この入力電流の変動量(制御量)は、1シリンダ型ロータリー圧縮機の場合に比べて、小さくなる。つまり、1シリンダ型ロータリー圧縮機の場合、1回転における圧縮トルクの変動幅が大きいため、その分だけ入力電流の変動量が大きくなる。
一般に、電動機は、入力電流の変動量が小さいほど、効率がよくなる(効率の低下量が小さい)。このことから、同じトルク制御を行う場合でも、1シリンダ型ロータリー圧縮機よりも本発明に係る圧縮機(1)の方が電動機(30)の効率の低下量が小さくてすむ。したがって、圧縮機(1)全体として省エネな運転を行うことができる。
次に、外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)の容積比Vrと、トルク変動比および振動比との関係について説明する。
先ず、外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)の容積比Vr(Vin/Vout)とトルク変動幅との関係を図5に示す。この図5では、容積比Vr(Vin/Vout)が、50/50=1、40/60=0.66、25/75=0.33、15/85=0.17、0/100=0の5パターンについてトルク変動幅を示す。容積比Vr(Vin/Vout)=0/100は、即ち1シリンダ型ロータリー圧縮機を示している。なお、図5に示す各トルク変動は、定格運転を行うエアコンにおいて発生する運転圧力比(凝縮圧力/蒸発圧力)=約3のときのものである。
具体的に、トルク変動幅は、容積比Vr=0/100の場合が最も大きく、容積比Vr=50/50の場合が最も小さい。つまり、容積比Vrが1に近いほど、トルク変動幅が小さくなっているのが分かる。したがって、容積比Vrが1に近いほど、トルク変動に伴う振動が小さくなる。
また、主要トルク変動の周期(主要なトルク変動の山の2つの谷の間隔)は、容積比Vrが1に近いほど短くなっているのが分かる。例えば、容積比Vr=50/50の主要トルク変動の周期(図5のc)は容積比Vr=25/75の主要トルク変動の周期(図5のb)よりも短く、この主要トルク変動の周期(図5のb)は容積比Vr=0/100の主要トルク変動の周期(図5のa)よりも短い。この主要トルク変動の周期が長くなると、ゆっくり加振されることになり、その振動の振幅は大きくなる。一般的に、振幅は、周期(=1/周波数)の2乗に比例して大きくなる。
ここで、容積比Vrに対する、トルク変動比、振動比およびモータ効率(電動機効率)の低下量の関係を図6に示す。ここに、トルク変動比および振動比とは、容積比Vr=0/100のときのトルク変動幅および振動を「1」として、各容積比Vrについてのトルク変動幅および振動をそれぞれ比率で示したものである。モータ効率の低下量は、トルク制御により回転速度変動を最大限に抑制したときのものである。なお、この図6では、モータ効率(電動機効率)の低下量を実線で、トルク変動比を破線で、振動比を一点鎖線でそれぞれ示す。
具体的に、トルク変動比および振動比は、何れも容積比Vrが1に近づくほど小さくなっている。また、モータ効率の低下量は、容積比Vr=1の場合がほぼ0%で最小であり、容積比Vrが小さくなるに従って大きくなっている。さらに、容積比Vrが1.0から0.6までの間はモータ効率の低下度は小さいが、容積比Vrが0.6より小さくなると、モータ効率の低下度が大きくなっているのが分かる。このように、容積比Vrが0.6から1.0の間では、モータ効率の低下量が非常に小さい範囲でトルク制御が行え、振動を1シリンダ型ロータリー圧縮機の場合よりも小さくできる。
以上のように、本実施形態の圧縮機(1)において、電動機(30)のトルク制御を行うことで、1シリンダ型ロータリー圧縮機に対してトルク制御を行う場合よりも、電動機(30)の効率低下を抑制できる。さらに、外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)の容積比Vrを0.7程度に設定することにより、電動機(30)の効率低下量の小さい範囲でトルク制御を行うにも拘わらず、振動を一層抑制することができる。この結果、圧縮機(1)の振動を抑制できる共に、省エネ運転を行うことができる。
また、本実施形態では、電動機(30)として、AC(交流)モータよりも高効率なブラシレスDCモータを用いるようにしたので、本発明に係る圧縮機(1)を組み込んだエアコンの中間期に必要となる低速運転時も高効率に維持でき、省エネ化を一層図ることができる。
また、従来の2シリンダ式ロータリ圧縮機は、容積比Vrが1対1の2つの気筒を上下に並べるものであるため、気筒ごとにロータリピストンや偏心軸部等のクランク機構が必要となる。ところが、本発明の圧縮機(1)は、1気筒内で外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)とに区画し、共通の環状ピストン(22)を設ける構造としたので、クランク機構が1つですみ、低コスト化を図ることができる。
また、上記シリンダ(21)をアルミ合金により形成した場合、回転時の遠心力が低下するので、高速運転時において振動を低減できると共に、駆動軸(33)の撓みを抑制できる。したがって、幅広い範囲で高効率且つ低振動な運転を行うことができる。
《発明の実施形態2》
本実施形態2は、図7および図8に示すように、上記実施形態1における圧縮機構(20)の構成を変更したものである。つまり、本実施形態は、環状ピストン(52)が可動側でシリンダ(21)が固定側となり、環状ピストン(52)がシリンダ(21)に対して偏心回転するように構成されている。
上記圧縮機構(20)は、上部ハウジング(16)とピストン体(55)とを備えている。上部ハウジング(16)は、シリンダ(21)が一体形成されている。上記ピストン体(55)は、シリンダ(21)に対して偏心回転運動をするように構成されている。なお、本実施形態では、下部ハウジング(17)が省略されている。
上記シリンダ(21)は、互いに同軸の円環状に形成された外側シリンダ部(24)および内側シリンダ部(25)を備えている。この外側シリンダ部(24)および内側シリンダ(25)は、上部ハウジング(16)の鏡板(26)の下面に設けられている。そして、この外側シリンダ部(24)の内周面と内側シリンダ部(25)の外周面との間に、環状のシリンダ室(C1,C2)が形成されている。
上記ピストン体(55)は、鏡板(51)と、該鏡板(51)の上面に一体に立設された環状ピストン(52)と円柱状ピストン(53)とを備えている。上記ピストン体(55)は、鋳鋼材やアルミ合金により形成されている。上記環状ピストン(52)は、内径が円柱状ピストン(53)の外径より大径に形成され、該円柱状ピストン(53)と同軸に形成されている。そして、上記ピストン体(55)は、環状ピストン(52)が環状のシリンダ室(C1,C2)内に配置されて該シリンダ室(C1,C2)を外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)とに区画するように構成されている。つまり、上部ハウジング(16)の鏡板(26)が各シリンダ室(C1,C2)の一端を閉塞する第1閉塞部材を構成し、ピストン体(55)の鏡板(51)が各シリンダ室(C1,C2)の他端を閉塞する第2閉塞部材を構成している。なお、上記円柱状ピストン(53)は、内側シリンダ部(25)内に配置されている。
また、本実施形態においても、外側シリンダ室(C1)の容積Voutが内側シリンダ室(C2)の容積Vinより大きくなっており、内側シリンダ室(C2)の外側シリンダ室(C1)に対する容積比Vr(Vin/Vout)が0.7程度に設定されている。
上記電動機(30)の駆動軸(33)は、上端部に偏心部(33a)が形成され、該偏心部(33a)がピストン体(55)に連結されている。つまり、この駆動軸(33)の偏心部(33a)は、ピストン体(55)の下面に円筒状に一体形成された嵌合部(54)に回転自在に嵌め込まれている。これにより、駆動軸(33)の回転に伴い、ピストン体(55)がシリンダ(21)に対して偏心回転する。
次に、この圧縮機(1)の運転動作について図9を参照しながら説明する。なお、この運転動作における各シリンダ室(C1,C2)の作用は、上記実施形態1と実質的に同様である。
すなわち、外側シリンダ室(C1)では、図9(D)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸(33)が回転して図9(A)、図9(B)、図9(C)の状態へ変化するに従って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大し、冷媒が低圧室(C1-Lp)に吸入される。そして、上記駆動軸(33)が一回転すると、上記低圧室(C1-Lp)が高圧室(C1-Hp)となり、さらに駆動軸(33)が回転すると、上記高圧室(C1-Hp)の容積が減少して冷媒が圧縮される。
一方、上記内側シリンダ室(C2)では、図9(B)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸(33)が回転して図9(C)、図9(D)、図9(A)の状態へ変化するに従って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大し、冷媒が該低圧室(C2-Lp)に吸入される。そして、上記駆動軸(33)が一回転すると、上記低圧室(C2-Lp)が高圧室(C2-Hp)となり、さらに駆動軸(33)が回転すると、上記高圧室(C2-Hp)の容積が減少して冷媒が圧縮される。
本実施形態においても、上記実施形態1と同様に、コントローラ(50)によって電動機(30)のトルク制御が行われる。したがって、1シリンダ型の圧縮機に対してトルク制御を行う場合よりも、電動機(30)の効率低下を抑制でき、圧縮機(1)の省エネ化を図ることができる。
また、上記ピストン体(55)をアルミ合金により形成した場合、実施形態1と同様に、高速運転時において振動および駆動軸(33)の撓みが抑制され、広範囲に亘って高効率且つ低振動な運転を行うことができる。その他の構成、作用および効果は実施形態1と同様である。
《発明の参考形態1》
本参考形態1は、図10および図11に示すように、上記実施形態1における圧縮機構(20)が冷媒を2段圧縮するように構成されているものである。つまり、本参考形態の圧縮機構(20)は、外側シリンダ室(C1)が低段側圧縮室を、内側シリンダ室(C2)が高段側圧縮室をそれぞれ構成している。
上記圧縮機(1)は、例えば、二酸化炭素(C02)を冷媒とし、2段圧縮1段膨張サイクルを行う冷媒回路に用いられる。この冷媒回路は、図示しないが、圧縮機(1)と放熱器(ガスクーラー)とレシーバと中間冷却器と膨張弁と蒸発器とが順に冷媒配管によって接続されている。この冷媒回路において、圧縮機(1)の内側シリンダ室(C2)から吐出された高圧冷媒は、放熱器、レシーバ、膨張弁および蒸発器を順に流れ、圧縮機(1)の外側シリンダ室(C1)へ流入する。一方、中間冷却器には、外側シリンダ室(C1)で圧縮された中間圧冷媒が流入すると共に、レシーバからの液冷媒の一部が減圧されて流入する。この中間冷却器では、外側シリンダ室(C1)からの中間圧冷媒が冷却される。この冷却された中間圧冷媒は、内側シリンダ室(C2)へ戻って再び圧縮される。この循環を繰り返し、例えば、蒸発器で室内空気を冷却する。
上記圧縮機(1)のケーシング(10)の胴部(11)には、吸入管(14)と流入管(1a)と流出管(1b)とが貫通して設けられている。吸入管(14)は蒸発器に接続され、流入管(1a)および流出管(1b)は中間冷却器に接続されている。上記ケーシング(10)の上部鏡板(12)には、吐出管(15)が貫通して設けられている。この吐出管(15)は、放熱器に接続されている。
上記圧縮機構(20)の上部ハウジング(16)には、カバープレート(18)が設けられている。上記ケーシング(10)内において、カバープレート(18)の上方が高圧空間(4a)に形成され、下部ハウジング(17)の下方が中間圧空間(4b)に形成されている。上記高圧空間(4a)には、吐出管(15)の一端が開口し、上記中間圧空間(4b)には、流出管(1b)の一端が開口している。
上部ハウジング(16)とカバープレート(18)との間には、中間圧チャンバ(4c)と高圧チャンバ(4d)とが形成されると共に、上部ハウジング(16)には、中間圧通路(4e)が形成されている。また、上部ハウジング(16)と下部ハウジング(17)とには、外側シリンダ(24)の外周に位置してポケット(4f)が形成されている。上記中間圧通路(4e)の一端には、流入管(1a)が接続される一方、上記ポケット(4f)は、吸入管(14)が接続されて吸込圧の低圧雰囲気に構成されている。
上記外側シリンダ(24)には、半径方向に貫通する第1吸入口(41a)が形成され、該第1吸入口(41a)は、図11におけるブレード(23)の右側に形成されている。つまり、第1吸入口(41a)は、外側シリンダ室(C1)とポケット(4f)と吸入管(14)とを相互に連通させている。
上記中間圧通路(4e)の他端は、第2吸入口(41b)に形成されている。この第2吸入口(41b)は、ブレード(23)の右側に形成され、内側シリンダ室(C2)に開口し、該内側シリンダ室(C2)と中間圧空間(4b)とを連通させている。
上記上部ハウジング(16)には、第1吐出口(45a)と第2吐出口(45b)が形成されている。これら吐出口(45a,45b)は、上部ハウジング(16)を軸方向に貫通している。上記第1吐出口(45a)は、一端が外側シリンダ室(C1)の高圧側に開口し、他端が中間圧チャンバ(4c)に開口している。上記第2吐出口(45b)は、一端が内側シリンダ室(C2)の高圧側に開口し、他端が高圧チャンバ(4d)に開口している。そして、上記第1吐出口(45a)および第2吐出口(45b)の外端には、リード弁である吐出弁(46)が設けられている。
上記中間圧チャンバ(4c)と中間圧空間(4b)とは、上部ハウジング(16)と下部ハウジング(17)に形成された連通路(4g)によって連通している。また、上記高圧チャンバ(4d)は、図示しないが、カバープレート(18)に形成された高圧通路を介して高圧空間(4a)に連通している。
また、本参考形態においても、外側シリンダ室(C1)の容積Voutが内側シリンダ室(C2)の容積Vinより大きくなっており、内側シリンダ室(C2)の外側シリンダ室(C1)に対する容積比Vr(Vin/Vout)が0.7程度に設定されている。
この圧縮機(1)において、電動機(30)を起動すると、上記実施形態1と同様に、外側シリンダ(24)および内側シリンダ(25)が環状ピストン(22)に対して揺動しながら公転する。そして、上記圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
上記外側シリンダ室(C1)において、その容積が駆動軸(33)の回転に伴って増大すると、低圧冷媒が吸入管(14)からポケット(4f)および第1吸入口(42)を通って吸入される。さらに、駆動軸(33)が回転すると、外側シリンダ室(C1)の容積が減少し、冷媒が圧縮される。この外側シリンダ室(C1)の圧力が所定の中間圧となって中間圧チャンバ(4c)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(46)が開き、外側シリンダ室(C1)から中間圧冷媒が中間圧チャンバ(4c)に吐出され、中間圧空間(4b)を介して流出管(1b)から流出する。
一方、上記内側シリンダ室(C2)において、その容積が駆動軸(33)の回転に伴って増大すると、中間圧冷媒が流入管(1a)から中間圧通路(4e)および第2吸入口(43)を通って吸入される。さらに、駆動軸(33)が回転すると、内側シリンダ室(C2)の容積が減少し、冷媒が圧縮される。この内側シリンダ室(C2)の圧力が所定の高圧となって高圧チャンバ(4d)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(46)が開き、内側シリンダ室(C2)から高圧冷媒が高圧チャンバ(4d)に吐出され、高圧空間(4a)を介して吐出管(15)から流出する。このように、本参考形態の圧縮機(1)では、外側シリンダ室(C1)で圧縮された冷媒が内側シリンダ室(C2)でさらに圧縮されて2段圧縮される。
ここで、一般に、空気調和装置(インバータエアコン)は、運転圧力比が約1.6から約2.0の低圧力比の領域で運転される頻度が高い。ここに、運転圧力比とは、冷媒回路における蒸発圧力に対する凝縮圧力の比である。
図12に示すように、運転頻度が高い低運転圧力比の領域では、内側シリンダ室(C2)の外側シリンダ室(C1)に対する容積比Vrが高いほど、圧縮効率が高くなる。例えば、容積比Vrが0.8の場合、運転圧力比が1.5付近で圧縮効率が最大となり、容積比Vrが0.6の場合、運転圧力比が1.9付近で圧縮効率が最大となる。一方、容積比Vrが0.5の場合、運転圧力比が2.5付近で圧縮効率が最大となり、運転圧力比が約2.0以下になると、著しく圧縮効率が低下する。つまり、外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)とで2段圧縮する場合、容積比Vrが小さくなるほど、圧縮機構(20)全体の圧縮比が大きくなる。そうすると、運転圧力比が低い運転条件下では、過圧縮損失が生じ易くなり、圧縮効率が低下する。
次に、容積比Vr(Vin/Vout)とトルク変動幅との関係を図13に、容積比Vr(Vin/Vout)とトルク変動比との関係を図14にそれぞれ示す。これら図において、トルク変動幅およびトルク変動比は、何れも容積比Vr=0.6および0.8の場合が容積比Vr=0.5および1の場合より小さいことが分かる。したがって、トルク変動が小さい分、振動が抑制される。なお、トルク変動比とは、容積比Vr=1のトルク変動幅を「1」とし、各容積比Vrについてのトルク変動幅を比率で示したものである。また、図13および図14は、運転圧力比が約2の状態で測定したものである。
容積比Vr=1は外側シリンダ室(C1)および内側シリンダ室(C2)の容積が同じ場合を示すが、その場合、冷媒は外側シリンダ室(C1)で圧縮されずに内側シリンダ室(C2)のみで圧縮されることになり、2段圧縮ではなく単段圧縮される。つまり、容積比Vr=1は、実質的に従来の1シリンダ式のロータリ圧縮機による単段圧縮が行われる場合と同様である。ここで、容積比Vr=0.5の場合、トルク変動幅およびトルク変動比がVr=1より大きくなっている。つまり、振動が大きいため、トルク制御によって振動を抑制する必要があるが、その結果として運転効率が従来の1シリンダ式のロータリ圧縮機より低下する場合もあり得ることが分かる。
以上のように、本参考形態の2段圧縮構造によれば、内外シリンダ室(C1,C2)の容積比Vrを0.6〜0.8程度に設定することにより、従来の1シリンダ式の圧縮機に比べて、圧縮効率を高めることができると共に、振動を抑制することができる。
《発明の参考形態2》
本参考形態2は、図15および図16に示すように、上記参考形態1における圧縮機構(20)の2段圧縮構造を変更したものである。つまり、上記参考形態1の圧縮機構(20)は、2つのシリンダ室(C1,C2)が同一平面内に形成されているが、本参考形態の圧縮機構(80)は、2つのシリンダ室(82a,82b)が上下に積層されたもので、いわゆる2段式のロータリ圧縮機を構成している。
具体的に、本参考形態の圧縮機(60)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(61)内に、低段側圧縮機構(80a)および高段側圧縮機構(80b)を備える圧縮機構(80)と電動機(65)とが収納されて構成されている。ケーシング(61)内において、電動機(65)は圧縮機構(80)の上側に配置されている。
上記ケーシング(61)は、その胴部を吸入管(62)が貫通し、その上部を吐出管(63)が貫通している。吐出管(63)は、その入口側がケーシング(61)内で屈曲し水平方向に延びて開口している。
上記電動機(65)は、ステータ(66)とロータ(67)とにより構成されている。ステータ(66)は、ケーシング(61)の内周面に固定されている。ロータ(67)は、ステータ(66)の内側に配置されている。ロータ(67)の中央部には、上下方向に延びる駆動軸(70)の主軸部(71)が連結されている。
上記駆動軸(70)は、駆動軸を構成している。駆動軸(70)には、下側から順に第1偏心部(72)と第2偏心部(73)とが形成されている。第1偏心部(72)および第2偏心部(73)は、主軸部(71)よりも大径に且つ主軸部(71)の軸心よりも偏心して形成されている。第1偏心部(72)と第2偏心部(73)とでは、主軸部(71)の軸心に対する偏心方向が逆になっている。また、第1偏心部(72)の高さは、第2偏心部(73)よりも高くなっている。
上記圧縮機構(80)は、下側から順にリアヘッド(84)と、第1シリンダ(81a)と、ミドルプレート(86)と、第2シリンダ(81b)と、フロントヘッド(83)とが積層された状態で構成されている。第1シリンダ(81a)内には、第1ロータリピストン(87a)が収納されている。第2シリンダ(81b)内には、第2ロータリピストン(87b)が収納されている。
上記第1シリンダ(81a)と第1ロータリピストン(87a)とリアヘッド(84)とミドルプレート(86)とは、低段側圧縮機構(80a)を構成している。第2シリンダ(81b)と第2ロータリピストン(87b)とフロントヘッド(83)とミドルプレート(86)とは、高段側圧縮機構(80b)を構成している。低段側圧縮機構(80a)および高段側圧縮機構(80b)は、いずれも容積型流体機械の一種である揺動ピストン型のロータリ式流体機械で構成されている。
図16に示すように、低段側圧縮機構(80a)の第1ロータリピストン(87a)は円環状に形成されている。低段側圧縮機構(80a)の第1ロータリピストン(87a)には、第1偏心部(72)が回転自在に嵌め込まれている。また、高段側圧縮機構(80b)の第2ロータリピストン(87b)も円環状に形成されている。高段側圧縮機構(80b)の第2ロータリピストン(87b)には、第2偏心部(73)が回転自在に嵌め込まれている。
上記各ロータリピストン(87a,87b)は、内周面が上記各偏心部(72,73)の外周面と摺接し、外周面が上記各シリンダ(81a,81b)の内周面と摺接する。そして、各ロータリピストン(87a,87b)の外周面と各シリンダ(81a,81b)の内周面との間には、シリンダ室(82a,82b)が形成されている。各ロータリピストン(87a,87b)は、側面に平板状のブレード(74)が突設されている。各ブレード(74)は、後述する吐出ポート(89a,89b)と吸入ポート(88a,88b)との間に設けられた揺動ブッシュ(75)を介して各シリンダ(81a,81b)に支持されている。各ブレード(74)は、上記シリンダ室(82a,82b)を高圧側と低圧側とに区画している。
以上により、上記圧縮機構(80)は、各偏心部(72,73)の回転によって各ロータリピストン(87a,87b)がシリンダ室(82a,82b)内で揺動しながら公転するように構成されている。そして、各ロータリピストン(87a,87b)の回転位相は、互いに180°ずれている。
上記低段側圧縮機構(80a)の第1シリンダ(81a)と高段側圧縮機構(80b)の第2シリンダ(81b)とは、内径が互いに等しく形成されている。低段側圧縮機構(80a)の第1ロータリピストン(87a)と高段側圧縮機構(80b)の第2ロータリピストン(87b)とは、外径が互いに等しく形成されている。低段側圧縮機構(80a)の第1シリンダ(81a)の高さは、高段側圧縮機構(80b)の第2シリンダ(81b)よりも高くなっている。
上記ミドルプレート(86)には、環状の中間通路(90)が形成されている。また、ミドルプレート(86)には、低段側圧縮機構(80a)の吐出ポート(89a)が形成されている。この吐出ポート(89a)は、低段側圧縮機構(80a)の第1シリンダ室(82a)の高圧側と中間通路(90)とを連通している。一方、フロントヘッド(83)には、高段側圧縮機構(80b)の吐出ポート(89b)が形成されている。この吐出ポート(89b)は、高段側圧縮機構(80b)の第2シリンダ室(82b)の高圧側とケーシング(61)内の空間とを連通している。これらの吐出ポート(89a,89b)には、その出口を開閉する図外の吐出弁が設けられている。
上記低段側圧縮機構(80a)の第1シリンダ(81a)には、吸入ポート(88a)が形成されている。この吸入ポート(88a)は、第1シリンダ(81a)を半径方向に貫通し、その終端が第1シリンダ室(82a)に開口している。この吸入ポート(88a)には、吸入管(62)が接続されている。また、高段側圧縮機構(80b)の第2シリンダ(81b)には、ミドルプレート(86)から続く吸入ポート(88b)が形成されている。この吸入ポート(88b)は、始端が中間通路(90)に開口し、終端が第2シリンダ室(82b)に開口している。
上記ケーシング(61)内の底部には、潤滑油が貯留されている油溜りが形成されている。駆動軸(70)の下端部には、油溜りに浸漬された遠心式の給油ポンプ(92)が設けられている。この給油ポンプ(92)は、駆動軸(70)内を上下方向に延びて低段側圧縮機構(80a)および高段側圧縮機構(80b)に連通する給油通路(91)に接続されている。そして、給油ポンプ(92)は、給油通路(91)を通じて低段側圧縮機構(80a)の摺動部および高段側圧縮機構(80b)の摺動部に油溜りの潤滑油を供給するように構成されている。
また、本参考形態においても、第1シリンダ室(82a)の容積V1が第2シリンダ室(82b)の容積V2より大きくなっており、第2シリンダ室(82b)の第1シリンダ室(82a)に対する容積比Vr(V2/V1)が0.7程度に設定されている。
この圧縮機(60)において、電動機(65)を起動すると、各ロータリピストン(87a,87b)がシリンダ室(81a,81b)内で揺動しながら公転する。そして、圧縮機構(80)が所定の圧縮動作を行う。
この圧縮動作について、図16を参照しながら説明する。この図16では、ロータリピストン(87a,87b)が右回転で揺動し、ロータリピストン(87a,87b)が上死点に接する状態を回転角0°、ロータリピストン(87a,87b)が下死点に接する状態を回転角180°としている。先ず、駆動軸(70)の回転角0°の状態から僅かに回転して、第1ロータリピストン(87a)と第1シリンダ(81a)の接触位置が吸入ポート(88a)の開口部を通過すると、吸入ポート(88a)から第1シリンダ室(82a)へ冷媒が流入し始める。そして、駆動軸(70)の回転角が360°になるまで第1シリンダ室(82a)に冷媒が流入し続ける。
続いて、第1シリンダ室(82a)への冷媒の流入が終了した状態(駆動軸(70)の回転角360°)において、駆動軸(70)が僅かに回転し、第1ロータリピストン(87a)と第1シリンダ(81a)の接触位置が吸入ポート(88a)の開口部を通過した時点で、第1シリンダ室(82a)における冷媒の閉じ込みが完了する。そして、この状態から駆動軸(70)がさらに回転すると冷媒の圧縮が開始され、第1シリンダ室(82a)内の冷媒の圧力が中間通路(90)の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開いて中間圧の冷媒が吐出ポート(89a)から中間通路(90)へ吐出される。冷媒の吐出は、駆動軸(70)の回転角が360°になるまで続く。
一方、高段側圧縮機構(80b)では、駆動軸(70)の回転に伴って中間通路(90)内の中間圧冷媒が吸入ポート(88b)から第2シリンダ室(82b)へ流入する。つまり、第2ロータリピストン(87b)と第2シリンダ(81b)の接触位置が吸入ポート(88b)の開口部を通過すると、中間通路(90)から第2シリンダ室(82b)へ冷媒が流入し始める。そして、駆動軸(70)の回転角が360°になるまで第2シリンダ室(82b)に中間圧冷媒が流入し続ける。
続いて、第2ロータリピストン(87b)と第2シリンダ(81b)の接触位置が吸入ポート(88b)の開口部を通過して第2シリンダ室(82b)における冷媒の閉じ込みが完了すると、冷媒の圧縮が開始される。そして、第2シリンダ室(82b)内の冷媒の圧力がケーシング(61)内の空間の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開いて高圧冷媒が吐出ポート(89b)からケーシング(61)内の空間へ吐出される。冷媒の吐出は、駆動軸(70)の回転角が360°になるまで続く。ケーシング(61)内の空間へ吐出された冷媒は、吐出管(63)から冷媒回路へ吐出される。このように、本参考形態の圧縮機(60)では、低段側の第1シリンダ室(82a)で圧縮された冷媒が高段側の第2シリンダ室(82b)でさらに圧縮されて2段圧縮される。
本参考形態においても、上記参考形態1と同様に、容積比Vr(V2n/V1)とトルク変動幅との関係および容積比Vr(V2/V1)とトルク変動比との関係が図13および図14に示すものになる。つまり、トルク変動幅およびトルク変動比は、何れも容積比Vr=0.6および0.8の場合が容積比Vr=0.5および1の場合よりも小さくなる。したがって、トルク変動が小さい分、振動が抑制される。したがって、低段側および高段側のシリンダ室(82a,82b)が上下に積層された2段圧縮構造においても、そのシリンダ室(82a,82b)の容積比Vrを0.6〜0.8程度に設定することにより、従来の1シリンダ式の圧縮機に比べて、圧縮効率を高めることができると共に、振動を抑制することができる。