図1は、本発明が適用された車両用自動変速機(以下、自動変速機と表す)10の構成を説明する骨子図であり、図2は複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動を説明する作動表である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)26内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸である。出力軸24は出力回転部材に相当するものであり、例えば図示しない差動歯車装置(終減速機)や一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この自動変速機10はその軸心に対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心の下半分が省略されている。
上記トルクコンバータ32は、エンジン30のクランク軸に連結されたポンプ翼車32p、自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車32t、および一方向クラッチを介して変速機ケース26に連結された固定翼車32sを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車32pおよびタービン翼車32tの間にはロックアップクラッチ33が設けられており、図示しない油圧制御回路の切換弁によって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合状態、スリップ状態、或いは解放状態されるようになっており、完全係合状態とされることによってポンプ翼車32pおよびタービン翼車32tが一体回転させられるようになっている。
上記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸22に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース26に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸22に対して減速回転させられて、回転を第2変速部20へ伝達する。本実施例では、入力軸22の回転をそのままの速度で第2変速部20へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸22から第1遊星歯車装置12を経ることなく第2変速部20へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸22から第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1を経て第2変速部20へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸22からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部20へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸22の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
前記第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、前記第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
上記第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
上記第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース26に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース26に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。なお、第2回転要素RM2とケース26との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2の作動表は、上記各変速段を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
このように本実施例の自動変速機10は、変速比が異なる2つの中間出力経路PA1、PA2を有する第1変速部14および2組の遊星歯車装置16、18を有する第2変速部20により、4つのクラッチC1〜C4および2つのブレーキB1、B2の係合切換えで前進8速の変速ギヤ段が達成される。また、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の何れか2つを掴み替えるだけで各変速段の変速を行うことができる。また、上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用等に分けて構成される。
図3において、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるとともに、そのアクセル操作量Accを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであることから出力操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。
また、エンジン30の回転速度NE を検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ64、車速V(出力軸24の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT (=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TO ILを検出するためのAT油温センサ78、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ80などが設けられており、それらのセンサやスイッチなどから、エンジン回転速度NE 、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT 、AT油温TOIL 、車両の加速度(減速度)Gなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
上記シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図4に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは自動変速機10内の動力伝達経路を解放し且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車位置であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸24の回転方向を逆回転とするための後進走行位置であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達経路を解放するための動力伝達遮断位置であり、「D」ポジションは自動変速機10の第1速乃至第8速の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で自動変速制御を実行させる前進走行位置であり、「S」ポジションは変速可能な高速側すなわち上段側の変速段が異なる複数の変速レンジ(変速範囲)或いは異なる複数の変速段を切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置である。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲の上限段或いは変速段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲の上限段或いは変速段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。前記レバーポジションセンサ74はシフトレバー72がどのレバーポジション(操作位置)PSHに位置しているかを検出する。
また、前記油圧制御回路98には、例えば上記シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結されたマニュアルバルブが備えられ、シフトレバー72の操作に伴ってそのマニュアルバルブが機械的に作動させられることにより油圧制御回路98内の油圧回路が切り換えられる。例えば、「D」ポジションおよび「S」ポジションでは前進油圧PD が出力されて前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」で変速しながら前進走行することが可能となる。電子制御装置90は、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の全ての前進変速段を用いて変速制御を行う。
上記電子制御装置90は、自動変速モードにおいて、例えば図5に示す車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル操作量Accに基づいて変速判断を行い、その判断した変速段が得られるように自動的に変速制御を行う変速制御手段114(図7参照)を機能的に備えており、例えば車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の変速段が成立させられる。この自動変速制御においては、その変速判断された変速段が成立させられるように変速用の油圧制御回路98内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御が実行されてクラッチCやブレーキBの係合、解放状態が切り換えられるとともに変速過程の過渡油圧などが制御される。すなわち、前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することによりクラッチCおよびブレーキBの係合、解放状態を切り換えて第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の何れかの前進変速段を成立させる。なお、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
上記図5の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図5の変速線図における変速線は、実際のアクセル操作量Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VS を越えたか否かを判断するためのものであり、上記値VS すなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。なお、図5の変速線図は自動変速機10で変速が実行される第1変速段乃至第8変速段のうちで第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている。
図6は、油圧制御回路98のうちリニアソレノイドバルブSL1〜SL6に関する部分を示す回路図であり、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34、36、38、40、42、44には、油圧供給装置46から出力されたライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により調圧されて供給されるようになっている。油圧供給装置46は、前記エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ48(図1参照)や、ライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLを制御するようになっている。リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置90(図3参照)により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ34〜44の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。そして、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように4速→5速のアップシフトでは、クラッチC2が係合されると共にクラッチC4が解放され、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の係合過渡油圧とクラッチC4の解放過渡油圧とが適切に制御される。
一方、上述の通り、シフトレバー72が「S」ポジションとされると、運転者の手動操作により変速比もしくは変速レンジを選択可能な手動変速モードとなる。かかる手動変速モードにおいては、運転者によって使用可能な変速レンジの上限もしくは使用する変速段が設定され、前記変速制御手段114の変速判断に関わらずその設定された変速段もしくは変速レンジを使用して走行する。そして、前記手動変速モード選択時において、内燃機関の回転速度が上昇しているにも関わらずアップシフト操作を運転者が行わなかったことに起因して生ずる内燃機関が過回転を防止するため、所定のタイミングで強制的に自動アップシフトの判断が行われ、前記手動変速モードにおいて選択された変速段もしくは変速レンジの上限に関わらず、さらに高速側の変速段へ自動アップシフトが実行される。以下に、その強制的な自動アップシフトを行う制御作動について具体的に説明する。
図7は、前記電子制御装置90の制御機能の要部すなわち原動機の過回転時に強制的な自動アップシフトを行う制御作動(以下、強制アップシフト制御作動と表す)を説明する機能ブロック線図である。図7において、タービントルク算出手段100は、車両に設けられたスロットル開度センサ64によって検出されたスロットル開度θTH(%)、エンジン回転速度センサ58によって検出されたエンジン回転速度NE(rpm)、タービン回転速度センサ76によって検出されたタービン回転速度NT(rpm)にもとづいて、トルクコンバータ30のタービン30TのトルクTT(Nm)を算出する。具体的には例えば、次のようにタービントルクTTを算出する。ここで図10は、スロットル開度θTH毎のエンジン30の回転速度NEと出力トルクTE(Nm)との関係を表す図である。また、図11はトルクコンバータ32の特性を表す図であり、トルクコンバータの入力軸回転速度NP(rpm)と出力軸回転速度NTとの比である速度比e(=NT/NP)と容量係数C、トルク比τおよび効率ηのそれぞれとの関係を表した図である。なお、上述の通り本実施例においてはトルクコンバータ32の入力軸はエンジンの出力軸と直結されていることから、トルクコンバータ32の入力軸回転速度NPは、エンジン30の出力軸回転速度NEと等しく、また、トルクコンバータ32の出力軸は、自動変速機10の入力軸と直結されていることから、トルクコンバータ32の出力軸回転速度NTは自動変速機10の入力軸回転速度NIN(rpm)と等しい。したがって、前記速度比eはe=NIN/NEとしても表される。タービントルク算出手段100はまず、図10の複数の曲線のうち、スロットル開度センサ64によって検出されたスロットル開度θTHに対応する曲線を選択し、選択された曲線に基づいてエンジン回転速度センサ58によって検出されたエンジン回転速度NEに対応するエンジントルクTEを算出する。続いてタービン回転速度センサ76によって検出されたタービン回転速度NTと前記エンジン回転速度センサ58によって検出されたエンジン回転速度NEとによって定まるトルクコンバータ32の入力軸回転速度と出力軸回転速度との速度比e(=NT/NE)を算出し、図11に示されたeとτの関係からその速度比eに対応するトルク比τを算出する。ここで、トルク比τはトルクコンバータ32の出力トルクTTと入力トルクTP(Nm)の比、すなわちτ=TT/TPであるところ、上述のようにトルクコンバータ32の入力軸はエンジン30の出力軸と直結されているので、トルク比τは、エンジン30の出力トルクTEを用いてτ=TT/TEとも表される。したがって、前記算出されたエンジン出力トルクNEにトルク比τを乗ずる事によって、トルクコンバータ32の出力トルクTTを得ることができる。
第1演算手段102は、車両がアクセルオフすなわちアクセル開度Acc=0(%)であって、車速零の状態からアクセルを全開もしくは略全開まで踏み込んで強制アップシフト制御作動が実行されるまでに要する仕事量Hmax(kWh)を算出する。なお、アクセルが略全開とはアクセル開度が全開ではないが全開みなすことができる程度のアクセル開度をいう。具体的には、第1演算手段102は、前記タービン回転速度NTおよび前記タービントルク算出手段100によって算出されたタービントルクTTを用いて、次の(1)式を所定の間隔で反復して実行することにより仕事量Hmaxを算出する。
Hmax(n)=Hmax(n-1) +2π×NT×TT×(1/60)×(1/1000)×dt ・・・(1)
ここで、nは経過時間に対応する反復回数を表し、dt(sec)は(1)式を実行する間隔を表す。なお、反復間隔dtは、たとえば電子制御装置90が上記(1)式の一回の計算を行うのに必要な時間以上であってできるだけ短い時間となるように設定される。また、初期値Hmax(0)=0である。上記(1)式は、車速零であってアクセルがオフからオンにされた時刻から反復を開始し、Hmax(n)を逐次算出し、自動変速機10の出力軸回転速度NOUT(rpm)が全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmax(rpm)に達し、強制アップシフト制御作動が実行されるまでの間反復が実行される。そして、反復が終了する直前に更新されたHmax(n)の値をHmaxの値として終了する。ここで、全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmaxは、手動変速モードで走行する車両がアクセル全開もしくは略全開で加速する場合において強制的な自動アップシフトの判断がなされるエンジン回転速度であって、自動変速機10の各変速段毎に予め定められており、(1)式の実行時に手動変速モードにおいて選択されている変速レンジの最上段もしくは選択されている変速段に対応する全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmaxの値が用いられる。なお、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmaxに達する前にアクセル操作量センサ52によりアクセル50の開度Accが全開もしくは略全開でなくなった場合には、第1演算手段102によるHmaxの算出は中止する。
更新手段104は、第1演算手段102が実行され新たな仕事量Hmaxが算出される毎に、後述する記憶手段106にそれまで記憶されていたHmaxの値を新たに第1演算手段102によって算出された値に更新する。
記憶手段106は、第1演算手段102によって算出される仕事量Hmaxの値を自動変速機10の各変速段につき前記更新手段104によって更新された最新の値を少なくとも1つ記憶し、他の手段からの必要に応じてその値を読み出す。
第2演算手段108は、自動変速機10が手動変速モードであって車速Vが零である場合において、アクセルがオフからオンにされた場合すなわちアクセル開度Accが零から非零にされた場合であって、全開もしくは略全開ではない場合に実行されるものであって、アクセルオンから現在までの仕事量Hnow(n)(kWh)を算出する。具体的には、第2演算手段108は、前記タービン回転速度NTおよび前記タービントルク算出手段100によって算出されたタービントルクTTを用いて次の(2)式を所定の間隔で反復して実行することによりアクセルオンから現在までの仕事量Hnow(n)を算出する。
Hnow(n)=Hnow(n-1) +2π×NT×TT×(1/60)×(1/1000)×dt ・・・(2)
ここで、nは経過時間に対応する反復回数を表し、dt(sec)は(2)式を実行する間隔を表す。なお、反復間隔dtは、たとえば電子制御装置90が上記(2)式の一回の計算を行うのに必要な時間以上であってできるだけ短い時間となるように設定される。この反復時間dtは前記第1演算手段102のdtと同じ値であっても良いし異なる値であってもよい。また、初期値Hnow(0)=0である。上記(2)式は、車速零であってアクセルがオフからオンにされた時刻から反復を開始し、逐次Hnow(n)を算出する。このとき、Hnow(n)を算出する毎に、後述する自動アップシフト判断手段110による強制アップシフト制御作動の有無の判断が行われ、自動アップシフト判断手段110によって強制アップシフト制御作動を実行する判断がなされなかった場合のみ、次の反復を実行する。尚、第2演算手段110による上記(2)式の反復実行中にし、アクセル操作量センサ52によりアクセル50の開度Accが0となったことが検出された場合には、もはや強制アップシフト制御作動を実行する必要はないとして、第2演算手段108は実行を中止する。
自動アップシフト判断手段110は、前記第1演算手段102によって算出され、更新手段104および記憶手段106によって更新して記憶されたアクセル全開又は略全開時におけるアクセルオンからアップシフトまでに要した仕事量Hmaxと、前記第2演算手段108によって算出されたアクセルオンから現在までにした仕事量Hnow(n)とを比較することにより、強制アップシフト制御作動を実行するか否かが判断される。具体的には、第2演算手段108によって算出されたアクセルオンから現在までにした仕事量Hnow(n)が、第1演算手段102によって算出されたアクセル全開又は略全開時におけるアクセルオンからアップシフトまでに要した仕事量Hmaxと等しいもしくはそれを上回った場合に強制アップシフト制御作動を実行させる。
変速制御手段114は、自動変速機10が自動変速モードである場合や、あるいは手動変速モードであっても変速に使用するレンジの上限を設定する手動変速モードである場合には、そのレンジの範囲内において、例えば図5に示すような変速線図に基づいて、自動変速機10の変速判断を行う。また、自動変速機10が走行に用いる変速段を指定する手動変速モードである場合においては、指定された変速段を維持する。
変速実行手段112は、自動変速機10の変速段が、前記変速制御手段114によって決定された変速段や前記自動アップシフト判断手段110によって判断された強制アップシフト後の変速段となるように、その変速段の成立に必要となる係合要素C1〜C4、B1〜B2(図2参照)を係合乃至解放すべく、前記油圧制御回路98に設けられたソレノイドバルブSL1〜SL6を駆動させる。
図8および図9は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち自動変速機10の手動変速モードにおける強制アップシフト制御作動を説明するフローチャートである。このうち、図8は、アクセルが全開もしくは略全開時において強制アップシフトがなされるまでにエンジン30が車両に対してなす仕事量Hmaxを算出する作動に関するものであり、たとえば数ms乃至数十msのサイクルで繰り返し実行されるものである。
図8においてステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1においては、例えばシフトポジションセンサ74の出力に基づいて、シフトポジションPSHが「S」ポジションであるか否かが判断される。本ステップの判断が肯定される場合すなわちシフトポジションPSHが「S」ポジションである場合には手動変速モードであるとして、続くSA2以降が実行される。一方、本ステップの判断が否定される場合すなわち、シフトポジションPSHが「S」ポジションでない場合には、自動変速モードであるかもしくは前進走行用のポジションではないとして、本フローチャートは一旦終了させられ、再び最初から実行されることとなる。
本フローチャートのSA2乃至SA6は第1演算手段102に対応する。まず、SA2においては、初期化処理として、HmaxおよびHmax(n)(n=0,1,2,…)の値が0とされる。
SA3においては、アクセル50の開度Accの変化率DAccが所定値DAcc_quickよりも大きいか否かが判断される。ここで所定値DAcc_quickの値は、アクセルが短時間に急激に踏み込まれることにより急加速状態となったと判断することができる値として、各変速段ごとに事前に実験的にあるいはシミュレーションによって算出されたもののうち、走行に使用されている変速段に対応するものが用いられる。そして、本ステップの判断が肯定された場合、すなわちアクセル開度変化率DAccが所定値DAcc_quickよりも大きい場合には、アクセルオフの状態からアクセルオンの状態とされる再に急速な踏み込みが行われたとして、続くSA4以降が実行される。一方、本ステップの判断が否定された場合、すなわちアクセル開度変化率DAccが所定値DAcc_quickと等しいかそれよりも小さい場合には、急加速ではなく、Hmaxの算出に適する状態ではないとして、本フローチャートは一旦終了させられ、再び最初から実行される。なお、アクセル開度変化率DAccは、例えばアクセル開度センサ52によって検出されるアクセル開度Accの微小時間Δtあたりの変化量を算出すればよい。すなわち、時刻tにおけるDAccは、式 DAcc(t)=(Acc(t)−Acc(t−Δt))/Δt によって算出される。
SA4においては、アクセル開度Accが所定値Acc_wotよりも大きいか否かが判断される。ここで、アクセル開度Accは例えばアクセル開度センサ52によって検出される。また、所定値Acc_wotの値は、アクセル開度が全開もしくは略全開であるよりもわずかに小さいアクセル開度の値であり、各変速段ごとに事前に実験的にあるいはシミュレーションによって設定されるもののうち、走行時に使用されている変速段に対応するものが用いられる。そして、本ステップの判断が肯定された場合、すなわちアクセル開度Accが所定値Acc_wotよりも大きい場合には、アクセルが全開もしくは略全開で加速している状態であるとして、続くSA5以降が実行される。一方、本ステップの判断が否定された場合、すなわちアクセル開度Accが所定値Acc_wotと等しいもしくはそれよりも小さい場合には、アクセルが全開もしくは略全開で加速している状態ではなくHmaxの算出に適する状態ではないとして、本フローチャートは一旦終了させられ、再び最初から実行される。
SA5においては、前記(1)式に基づいて、アクセルがオンとされてから現在までにエンジン30がなした仕事量Hmax(n)の値が算出される。本フローチャートにおいてはSA4〜SA6が必要に応じて反復して実行されるが、本ステップにおいては、前回の反復までにSA5において算出されたHmax(n−1)の値に、前回のSA5実行時から今回のSA5実行時までにエンジン30によってなされた”2×π×NT×TT/60/1000×dt”で表される仕事量が加算されることにより、アクセルがオフからオンにされた時点から現在までにされた仕事量Hmax(n)が算出される。なお1回目にSA5が実行される場合はSA2において初期化されたように、Hmax(0)=0として実行される。
SA6においては、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが所定値NOUTmax以上となったか否かが判断される。ここで、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTは、例えば図示しない出力軸回転速度センサによって算出される。また、所定値NOUTmaxは、アクセル開度が全開もしくは略全開の場合において強制的な自動アップシフトが実行される際の自動変速機10の出力軸回転速度であって、事前に実験的にあるいはシミュレーションなどによって設定されるものである。本ステップの判断が肯定される場合、すなわち、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが所定値NOUTmaxと等しいかそれを上回った場合には強制アップシフト制御作動が実行されるため、アクセルオンから強制アップシフト制御作動が実行されるまでにエンジン30のなした仕事量Hmaxの算出を終了するとして、SA7が実行される。一方、本ステップの判断が否定される場合、すなわち、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが所定値NOUTmaxよりも小さい場合には強制アップシフト制御作動が実行されるまですなわちSA6の判断が肯定されるまで、SA4へ戻りSA4乃至SA6を繰り返し実行しHmaxの算出を行う。
更新手段104および記憶手段106に対応するSA7においては、SA6の判断が肯定されるまでに算出されたHmax(n)の値が、アクセルがオフからオンにされてから強制アップシフト制御作動が行われるまでの間にエンジン30がした仕事量Hmaxの値としてその際の走行に使用された変速段とともに保存される。すなわち、SA6の判断が肯定される直前に行われたSA5で算出されたHmax(n)の値がHmaxとなるようにされる。このとき、すでに記憶されたHmaxの値がある場合には、新たに算出されたHmax(n)の値に置き換える。
図9は、図8のフローチャートによって算出されたアクセルオンから強制アップシフト制御手段が実行されるまでにエンジン30のした仕事量Hmaxの値に基づいて、アクセル開度Accが全開もしくは略全開ではない場合に強制アップシフト制御作動が行われる際の作動に関するものであり、例えば数ms乃至数十msのサイクルで繰り返し実行されるものである。
図9において、SB1においては、例えばシフトポジションセンサ74の出力に基づいて、シフトポジションPSHが「S」ポジションであるか否かが判断される。本ステップの判断が肯定される場合すなわちシフトポジションPSHが「S」ポジションである場合には手動変速モードであるとして、続くSB2以降が実行される。一方、本ステップの判断が否定される場合すなわち、シフトポジションPSHが「S」ポジションでない場合には、自動変速モードであるかもしくは前進走行用のポジションではないとして、本フローチャートは一旦終了させられ、再び最初から実行されることとなる。
本フローチャートのSB2乃至SB4は第2演算手段108に対応する。このうち、SB2においては、初期化処理として、Hnow(n)(n=0,1,2,…)の値が0とされる。
SB3においては、アクセル開度Accが0でないかが判断される。アクセル開度Accは例えばアクセル開度センサ52によって検出される。本ステップの判断が肯定される場合、すなわちアクセル開度Accが0でない場合は、アクセル開度が全開もしくは略全開ではないものの加速状態であり、強制アップシフト制御作動が行われる必要がある状況であるとして、続くSB4以降が実行させられる。一方、本ステップの判断が否定される場合、すなわちアクセル開度Accが0である場合は、加速状態でなく、強制アップシフト制御作動が行われる必要がないとして、本フローチャートは一旦終了させられ、再び最初から実行される。
SB4においては、前記(2)式に基づいて、アクセルがオフからオンにされてから現在までにエンジン30のした仕事量Hnow(n)の値が算出される。本フローチャートにおいてはSB3〜SB5が必要に応じて反復して実行されるが、本ステップにおいては、前回の実行までにSB4において算出されたHnow(n−1)の値に、前回のSB4実行時から今回のSB4実行時までにされた”2π×NT×TT/60/1000×dt”で表される仕事量が加算されることにより、アクセルがオフからオンにされた時点から現在までにエンジン30がした仕事量Hnow(n)が算出される。なお、1回目にSB4が実行される場合は、SB2において初期化されたように、Hnow(0)=0として実行される。
自動アップシフト判断手段110に対応するSB5においては、SB4によって算出された仕事量Hnow(n)が、図8のフローチャートによって算出されたHmaxと等しいかそれを上回るかが判断される。そして、本ステップの判断が肯定される場合、すなわち、車速零でアクセルがオフの状態の車両において、アクセルがオフからオンにされた場合であって、アクセル開度が全開もしくは略全開ではない場合における、アクセルがオフからオンにされてから現在までにエンジン30が車両にした仕事量Hnow(n)が、車速零でアクセルがオフの状態の車両においてアクセルがオフからオンにされた場合であって、アクセル開度が全開もしくは略全開である場合における、アクセルがオフからオンにされてから強制アップシフト制御作動が実行されるまでにエンジン30が車両にした仕事量Hmaxと等しいもしくはそれを上回る場合には、強制アップシフト制御作動を行うとして、SB6が実行される。このとき、アクセル開度が全開もしくは略全開時に強制アップシフト制御作動を実行するか否かの判断基準である、自動変速機の出力軸回転速度NOUTが前記全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmaxを上回っているか否かは問わない。一方、本ステップの判断が否定される場合には、未だ強制アップシフト制御作動を行う状況ではないとして、引き続き強制アップシフト制御作動の実行のタイミングを図るべく、SB3からSB5が繰り返し実行される。
変速実行手段112に対応するSB6においては、SB5で強制アップシフト制御作動を実行する判断がされたことを受け、油圧制御回路98に強制アップシフト後の変速段が成立するように、必要な係合要素の係合・解放状態を制御するための指示がされる。
図12は、通常の走行状態、例えば運転者のみが搭乗した車両重量が1700kg程度の略空車状態の走行抵抗である走行状態であり、本実施例の電子制御装置90が適用された車両が,アクセルがオフから全開もしくは略全開にされた場合のタービン回転速度NT、仕事量Hmax(n)、仕事率Qの時間変化の様子を示した図であって、図8のフローチャートすなわち主に第1演算手段102に対応する図である。また、図13は、同じく通常の走行状態であり、本実施例の電子制御装置90が適用された車両が,アクセルがオフから全開もしくは略全開ではない程度にオンにされた場合のタービン回転速度NT、仕事量Hmax(n)、仕事率Qの時間変化の様子を示した図であって、図9のフローチャートすなわち主に第2演算手段108および自動アップシフト判断手段110に対応する図である。
図12においては、時刻t=0において、シフトポジションが「S」ポジションであることが判断され(SA1)、初期化処理としてHmax=0,Hmax(n)=0とされる(SA2)。続いて、アクセル開度変化率が所定値DAcc_quickよりも大きいかが判断されるが、図12においてはアクセルがオフの状態から全開もしくは略全開まで一度に操作されているため、本判断は肯定される(SA3)。さらに、アクセル開度Accが所定値Acc_wotよりも大きいかが判断されるが、図12においてはアクセル開度Accは全開もしくは略全開であるので、本判断も肯定される(SA4)。続いて、前記(1)式に基づいて、アクセルオンから現在までにエンジン30のした仕事量Hmax(1)が算出される(SA5)。続いて、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが所定値NOUTmax以上となったかが判断される(SA6)。このとき、まだ出力軸回転速度NOUTは所定値NOUTmax以上となっておらず、SA6の判断は否定され、SA4に戻る。そして、SA4〜SA6が繰り返し実行され、SA5が実行される毎にHmax(2),Hmax(3),…のようにHmax(n)が更新される。なお、トルクコンバータのタービン軸は自動変速機の入力軸22と直結されていることから、トルクコンバータ32のタービン回転速度NTと自動変速機10の出力軸回転速度NOUTとは、現在の自動変速機の変速段の変速比γを用いてγ=NT/NOUTの関係にある。したがって、SA6の判断においては、所定値NOUTmaxに対応するタービン回転速度NTmax(=γ×NOUTmax)を算出し、タービン回転速度NTがNTmax以上となったかによって判断しても良い。図12において、タービン回転速度NT=6000(rpm)に付した破線は、前記NTmaxを表すものであって、タービン回転速度NTを表す曲線がこの破線を下側から上方向に横切ったとき、SA6の判断が肯定されることになる。そして、時刻t1において、タービン回転速度NTが前記NTmaxを上回るため、その直後に行われるSA6においてその判断が肯定される。そのため、その時点でのHmax(n)をHmaxとして保存する(SA7)。
図13においては、時刻t=0において、シフトポジションが「S」ポジションであることが判断され(SB1)、初期化処理として、Hnow(n)=0とされる(SB2)。続いて、アクセル開度Accが0より大きいかが判断されるが(SB3)、本図においてはアクセル開度が全開もしくは略全開ではない程度に開いていることから、本ステップの判断は肯定される。続いて、前記(2)式に基づいて、アクセルオンから現在までにエンジン30のした仕事量Hnow(1)が算出される(SB4)。続いて、算出したHnow(1)が図12において算出されたHmax以上となったかが判定される(SB5)。このとき、仕事量Hnow(1)はまだHmax以上となっておらず、SB5の判断は否定され、SB3に戻る。そして、SB3〜SB5が繰り返し実行され、SB4が実行される毎にHnow(2),Hnow(3),…のようにHnow(n)が更新される。本図13において、水平方向に付された破線の補助線は、図12において算出されたHmaxの値を表すものである。したがって、仕事量Hnow(n)を表す曲線がこの破線を下側から上方向に横切るとき、SB5の判断が肯定されることになる。そして、時刻t2において、仕事量Hnow(n)がHmaxを上回るため、その直後に行われるSB5においてその判断が肯定される。そして、強制アップシフト制御作動を行う判断がなされる(SB6)。なお、このときタービン回転速度NTの変化を見ると、強制アップシフト制御作動が行われる時刻t2においては、タービン回転速度NTは、図9においてNTmaxとされた6000(rpm)と略等しい値となっており、アクセル開度が全開もしくは略全開でない場合の加速であっても、結果として好適な強制アップシフトが実行できていることがわかる。
図14は、通常よりも大きい走行抵抗を有する走行状態、例えば車両重量が3400kg程度であるような、車両が他の車両を牽引しつつ走行する走行状態であり、本実施例の電子制御装置90が適用された車両が,アクセルがオフから全開もしくは略全開にされた場合のタービン回転速度NT、仕事量Hmax(n)、仕事率Qの時間変化の様子を示した図であって、図8のフローチャートすなわち主に第1演算手段102に対応する図である。また、図15は、同じく通常より大きい走行抵抗を有する走行状態であり、本実施例の電子制御装置90が適用された車両が,アクセルがオフから全開もしくは略全開ではない程度にオンにされた場合のタービン回転速度NT、仕事量Hmax(n)、仕事率Qの時間変化の様子を示した図であって、図9のフローチャートすなわち主に第2演算手段108および自動アップシフト判断手段110に対応する図である。
図14および図15の場合においても、前述の図12及び13の場合と同様に、アクセル開度Accが全開もしくは略全開の加速時においてタービン回転速度NTが所定値NTmaxを上回り、強制アップシフト制御作動が行われる時刻t3までにした仕事量Hmaxが図14のように算出されるとともに、また、アクセル開度Accが全開もしくは略全開ではない加速時においてはアクセルオン後にした仕事量Hnow(n)が図14のように算出されたHmaxを上回った時刻t4において強制アップシフト制御作動が実行されることになる(図15)。そして、時刻t4において強制アップシフト制御作動が実行された際のタービン回転速度は、図14におけるNTmaxとほぼ等しい値となっており、結果として好適な強制アップシフトが実行できていることがわかる。
上述のように本実施例によれば、第1演算手段102(SA1〜SA6)により所定条件であるアクセルが全開もしくは略全開の走行条件でエンジン30の回転速度NEが予め定められた上限回転速度NEmaxに到達するまでにエンジン30がなした仕事量Hmaxが演算され、第2演算手段108(SB2〜SB4)により前記所定の走行条件と異なる、すなわちアクセルが全開もしくは略全開ではない走行条件においてエンジン30がなした仕事量Hnow(n)が演算され、さらに自動アップシフト判断手段110によって、シフトポジションPSHが「S」となっていること等により手動変速モードが選択されている場合に第1演算手段102、第2演算手段108による演算結果HmaxおよびHnow(n)を比較することにより自動変速機10の強制的な自動アップシフトが判断されるので、予め複数のアクセル開度や、複数の車両走行抵抗、あるいは複数の車両諸元のそれぞれについて個々に自動アップシフトの行われる車速を予め適合によって算出しておく必要なく、一貫性のある自動アップシフト(強制アップシフト制御作動)を実行できる。
また、本実施例によれば、所定の走行条件とは、運転者により操作される出力操作部材が最大出力付近、すなわちアクセル50の開度Accが全開もしくは略全開とされている場合であるので、第1演算手段102によって演算される、アクセル開度Accが全開もしくは略全開とされる場合においてエンジン30の回転速度NEが予め定められた上限回転速度NEmaxに到達するまでにエンジン30がなした仕事量Hmaxに基づいて、一貫性のある自動アップシフトが実施される。
また、本実施例によれば、記憶手段106(SA7)により第1演算手段102による演算結果であるHmaxが記憶されるとともに、更新手段104により所定の走行条件での走行が行われる毎に第1演算手段102による演算結果Hmaxが更新されるので、最新の演算結果に基づいて自動アップシフトが実施されることとなり、牽引などにより車両走行抵抗が変化した場合であっても、自動アップシフトまでの一貫性を確保することができる。
また、本実施例によれば、更新手段104(SA7)は、エンジン30がその最大許容回転速度(NEmax)以上であるときに第1演算手段102(SA2〜SA6)により新たな仕事量Hmax(n)が演算されたときは、該新たな仕事量Hmax(n)を第1演算手段102により演算された仕事量Hmaxとして更新するので、エンジン30の回転速度NEがその最大許容回転速度(NEmax)となるまでにエンジン30がなした仕事量Hmaxに基づいて、一貫性のある自動アップシフトが実施される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例においては、自動変速機10は前進8段の有段式自動変速機であったが、これに限らず、変速に用いる変速範囲の上限もしくは変速段を運転者が指定することのできる手動変速モードを有する自動変速機であって、前進複数段の有段式自動変速機であればよい。また、自動変速機10は前記手動変速モードを有するものであれば、有段式自動変速機に限られず、例えばベルト式やトロイダル式の無段変速機(CVT)であってもよい。
また、前述の実施例においては、自動変速機10の自動変速モードと自動変速モードとの切換えはシフトレバー72を「D」ポジションと「S」ポジションとを移動させることによってなされたが、これに限られず、シフトレバー72と別に設けられるスイッチ等によってもよい。
また、前述の実施例においては、スロットル開度θTH、エンジン回転速度NEおよびタービン回転速度NTに基づいて算出するタービントルク算出手段100が設けられ、第1演算手段102および第2演算手段108において演算に用いられるトルクコンバータ32のタービントルクTTの値はこれによって算出されたが、このような態様に限られず、例えば、トルクコンバータ32のタービン軸などにトルクセンサを設け、そのトルクセンサによって直接計測した値を用いることも可能である。
また、図8のSA6においては、強制アップシフト制御手段が実行されるかを、自動変速機10の出力軸回転速度NOUTが全開時強制アップシフト判断回転速度NOUTmaxを上回ったかで判定したが、これに限られず、実際に強制アップシフト制御手段が実行されたかで判断してもよい。また、タービン回転速度NTと自動変速機の出力軸回転速度NOUTは自動変速機の選択された変速段の変速比を介して、また出力軸回転速度NOUTと車速Vは最終減速機の減速比を介して1対1の関係にあるため、前記実施例における各数値は、これらの値に相互に変換することも可能である。すなわち、例えば、前記SA6の判断は自動変速機10の出力軸回転速度NOUTに基づいてなされたが、トルクコンバータのタービン回転速度NTに基づいても良いし、車速Vに基づいても良い。
また、前述の実施例においては、図8のステップSA6においては、自動変速機の出力軸回転速度NOUTは回転速度センサで検出されたが、これに限られず、例えば車速Vと自動変速機の選択されている変速段の変速比γを用いて算出することもできる。
また、前述の実施例においては、更新手段102および記憶手段104は、第1演算手段102が実行され新たな仕事量Hmaxが算出される毎に、後述する記憶手段106にそれまで記憶されていたHmaxの値を新たに第1演算手段102によって算出された値に更新する、すなわち、最も新しく算出されたHmaxが変速段ごとに少なくとも1つづつ記憶されるようにされたが、これに限られない。例えば更新によって最新のHmaxが各変速段につき1つのみ記憶されるようにしてもよい。また、算出されたHmaxをその走行時における車両負荷などの走行状況などとともに蓄積すべく記憶し、自動アップシフト判断手段110によって第2演算手段108において算出されたHnow(n)と比較するためにHmaxが読み出される際に、Hnow(n)が算出される際の走行状況と合致したあるいは近似したHmaxが選択的に読み出されるようにしてもよい。
なお、前述の実施例においては、タービン回転速度NTとタービン回転トルクTTとの積に基づいて仕事量Hmax、Hnow(n)を算出した。これは、実際には原動機のした仕事ではないが、実質的に原動機のした仕事量であるとすることができる。一方、これに替えてエンジン回転速度NEとエンジン回転トルクTEとの積に基づいて仕事量Hmax、Hnow(n)を算出することもでき、これによっても一応の効果が得られる。