JP4857502B2 - クロム含有熱延鋼帯の塩酸酸洗方法 - Google Patents

クロム含有熱延鋼帯の塩酸酸洗方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、普通鋼と比べて酸洗によるスケール除去が困難であるクロム(Cr)含有熱延鋼帯の酸洗方法に関し、廃液コストのかかる硫酸や硝ふっ酸(硝酸とふっ酸の水溶液)を用いず、より低コストの塩酸を用いて効率的に、かつ高い表面品質を得る新規な酸洗方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304(18質量%Cr−8質量%Ni)は酸洗によるスケール除去が難しく、通常、酸洗はスケール溶解能力の高い硝ふっ酸を用いた酸洗設備で行われる。これと同じ酸洗設備を用いて、ステンレス鋼の中でもCr含有量の低い低Cr鋼であるSUH409L(11質量%Cr)やSUS410L(12質量%Cr)などを酸洗すると、過度に酸洗され、表面品質が劣化する場合があった。また、硝ふっ酸酸洗は有害な窒素酸化物(NOX )やふっ素化合物を生成するため、廃液コストがかさむという問題があった。
【0003】
この対策として、従来普通鋼に用いられていた塩酸酸洗を、低Cr鋼の酸洗に用いる方法が提案された。例えば特公昭62−61672号公報には、液温に応じて最適な塩酸濃度を規定する酸洗方法が提案されている。しかしながら、この方法では、処理量が増加していくにつれて、溶解したFeイオン濃度が高くなった際に、スケール除去の効率が顕著に劣化したり、スマットと呼ばれる溶解したスケールが鋼板表面に吸着して出来る模様が鋼材の外観を悪化させる問題が生じた。また、特開昭63−216986号公報には、低Cr鋼の酸洗方法として、第1鉄イオンを第2鉄イオンに酸化することにより、塩酸のスケール除去の効率を改善する方法が記載されている。しかし、この方法では、第1鉄イオンから第2鉄イオンに酸化させるのに空気の吹き込みあるいは過酸化水素水の注入が必要であり、そのコストがかえって大きくなる場合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
これら酸洗液中のFeイオンの増加による問題は、急激なスケール溶解に伴うものであり、これを解決するためには、急激なスケール溶解を抑えることが必要である。本発明の目的はクロム含有熱延鋼帯の酸洗にあたり、低コストの塩酸を用い、スケール除去の効率を高めることおよびスマットの発生を防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、この目的を達成すべく、Cr含有鋼の塩酸酸洗方法について詳細に調査した結果、複数の酸洗槽を有する設備の場合には、下流側に位置する酸洗槽ほど、塩酸濃度および酸洗液の液温を高くすることにより、スマットを発生することなく、かつ高いスケール除去の効率が得られることが分かった。
【0006】
表1に示す化学成分の50kg鋼塊(供試材記号A〜E)を高周波真空溶解炉で溶製し、燃焼ガス雰囲気で1200℃×30分間加熱した後、熱間圧延により板厚3mmの熱延鋼帯とした。これに通常の焼なまし熱処理を施した後、60mm×80mmのサンプルを多数切り出した。これらを、表2に示す条件の塩酸濃度、液温の3つの酸洗槽(実験開始時の酸洗液量各1リットル)1〜3に酸洗槽1から順に30秒間ずつ浸漬した。各条件とも20枚のサンプルを酸洗し、最後の20枚目の酸洗減量(酸洗によるサンプルの質量減少)と表面性状を調べた。なお、スケール除去の効率が著しく低下した場合は塩酸を追加した。また、実験後各槽の酸洗液のFeイオン濃度を測定した。酸洗減量と追加の塩酸使用量の比で、酸洗効率を示した。その結果を表2に示す。
【0007】
【表1】
Figure 0004857502
【0008】
【表2】
Figure 0004857502
【0009】
この結果、複数の塩酸槽で酸洗を行う場合には、鋼板が浸漬される順に塩酸濃度および液温を上げていくと、スマットのない良好な表面性状が得られ、かつ酸洗効率が高く追加して使用する塩酸の量も少なくて済んだ。最後の酸洗槽の塩酸濃度あるいは液温が低い場合には、酸洗減量が低く、スケール残りが生じた。また、Cr含有量が低い供試材Dは、どの酸洗槽でも酸洗液中のFeイオン濃度が高くなり、スマットが発生した。Cr含有量が高い供試材Eは、酸洗減量が小さく、スケール残りを生じた。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づくものであり、複数の酸洗槽が直列に配置された連続酸洗設備を用いて、クロムを5質量%以上、17質量%以下含有する熱延鋼帯を酸洗するにあたり、前記連続酸洗設備の最も上流側の酸洗槽では、塩酸濃度80g/リットル以下、液温80℃未満、最も下流側の酸洗槽では、塩酸濃度80〜200g/リットル、液温80〜95℃の酸洗液を用い、各酸洗槽の塩酸濃度と液温は、下記式(1)および(2)を満たすように調整することを特徴とした、クロム含有熱延鋼帯の塩酸酸洗方法:
1 <D2 <・・・<Dn-1 <Dn ・・・ (1)
1 <T2 <・・・<Tn-1 <Tn ・・・ (2)
n :上流からn番目の酸洗槽の塩酸濃度(g/リットル)
n :上流からn番目の酸洗槽の液温(℃)
n :2以上の整数
である。
【0011】
通常ステンレス鋼では、熱延鋼帯の酸洗前に焼なまし熱処理が施されるが、本発明では、焼なまし熱処理の有無によらず、顕著な効果が得られる。また、酸洗前に、一般的に行われているショットブラスト等の機械的なスケール除去処理を施しても全く問題ない。
本発明を用いて製造される酸洗処理を施した熱延鋼帯は、そのまま製品として出荷し、諸用途に使うことが出来る。もちろん、冷延鋼帯向けの素材として用いることも可能である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における諸条件の限定理由について詳細に説明する。
鋼中のCr含有量は、17質量%を超えるとスケール除去効率が顕著に劣化し、塩酸酸洗ではスケール除去が困難となるため、これを上限とする。スケール除去効率の点からは、Cr含有量は13質量%以下が望ましい。また、5質量%未満では、金属鉄の溶解量が大きくなり過ぎ、スマットの発生などにより表面性状が劣化するため、これを下限とする。スマット防止の点からは、Cr含有量が10質量%以上が望ましい。
本願発明に用いられる熱延鋼帯は、Cr以外の鋼成分としては、C,Si,Mn,Ni,Ti,Mo,P,S,N,Nb,Alよりなる群から選択される少なくとも1種を、その求める特性に応じて含有することができ、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼帯である。
具体的な鋼種としては、SUS410、SUS420などのマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS410L、SUS430などのフェライト系ステンレス鋼、SUH409LなどのCr含有耐熱鋼などがある。
【0013】
最も上流側の酸洗槽については、塩酸濃度および液温は高いほどスケール除去効率が向上するが、高くなりすぎると、この槽のみ塩酸消耗量が顕著に大きくなりスケール除去効率が低下するばかりでなく、スマットが発生するため、塩酸濃度80g/リットル以下、液温80℃未満とする。なお、スマット発生の点からは、液温は65℃未満とすることが望ましい。スケール除去効率の点からは、塩酸濃度60g/リットル以上、液温40℃以上が望ましい。
【0014】
最も下流側の酸洗槽については、塩酸濃度および液温は高いほどスケール除去効率が向上するが、液温が高くなりすぎると塵芥が発生するばかりでなく、酸消耗量(塩酸使用量)が大きくなり効率が低下するため、それぞれの上限を塩酸濃度200g/リットル、液温95℃とする。スケール除去効率の点からは、塩酸濃度は150g/リットル以下にすることが望ましい。目的とするスケール除去効率を得るためには、塩酸濃度80g/リットル以上、液温80℃以上が必要であり、これを下限とする。
【0015】
最も上流と最も下流の槽の中間の酸洗槽がある場合については、先に実験結果を述べたように、下流側のものほど塩酸濃度および液温が高くなると、スケール除去効率が向上し、かつスマットが防止できるため、下記式(1)および(2)を満たすように調整する:
1 <D2 <・・・<Dn-1 <Dn ・・・ (1)
1 <T2 <・・・<Tn-1 <Tn ・・・ (2)
n :上流からn番目の酸洗槽の塩酸濃度(g/リットル)
n :上流からn番目の酸洗槽の液温(℃)
n :2以上の整数。
【0016】
酸洗槽数nは、好ましくは3〜6である。3より少ないと各酸洗槽のスケール除去量を多くする必要があり、酸洗液の調整頻度が高くなり作業効率が低下する。6より多いと、各酸洗槽の負担は少ないが、設備の管理コストが高くなる。より好ましくは4〜5である。これらの酸洗槽間には、必要に応じて水洗、乾燥等の工程を入れることもできる。
また、スケール除去効率が向上し、スマットの発生を防止できることから、
n −Dn-1 ≧10(g/リットル)
n −Tn-1 ≧ 5(℃)
を満たすように各酸洗槽の塩酸濃度および液温を調整することが好ましい。
【0017】
また、酸洗時間は、長いほど高い酸洗減量が得られるが、長すぎるとスケール除去効率は飽和するばかりか、粒界侵食により表面性状を劣化させるため、1槽あたり60秒以下が望ましい。また、スケール除去を完全に行うという点からは、1槽あたり10秒以上とするのが望ましい。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
板厚3mmのSUH409L(0.01質量%C−11質量%Cr−0.25質量%Ti鋼)熱延コイル(質量13トン/コイル)を通常の方法に従って製造し、バッチ式炉で焼なまし熱処理を施して熱延鋼帯を得た。次に、5つの直列酸洗槽を有する連続酸洗設備で、表3に示す種々の条件で酸洗槽1から5の順に前記熱延鋼帯を20秒間ずつ浸漬して酸洗を行った。連続して10コイルの塩酸酸洗を行い、最後の10コイル目の酸洗後の表面性状(スケール残りおよびスマットの有無)を調べた。なお、塩酸の補充は行わなかった。
表3に示したように、本発明に従った場合、スケール残りおよびスマットのない表面性状が良好な酸洗処理を施した熱延鋼帯が得られた。
【0019】
【表3】
Figure 0004857502
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、廃液コストのかかる硫酸や硝ふっ酸を用いずに、より低コストの塩酸を用い、効率的に、かつスマットの発生を抑えながらクロム含有熱延鋼帯を酸洗することが可能である。

Claims (2)

  1. 複数の酸洗槽が直列に配置された連続酸洗設備を用いて、クロムを5質量%以上、17質量%以下含有する熱延鋼帯を酸洗するにあたり、前記連続酸洗設備の最も上流側の酸洗槽では、塩酸濃度80g/リットル以下、液温80℃未満、最も下流側の酸洗槽では、塩酸濃度80〜200g/リットル、液温80〜95℃の酸洗液を用い、各酸洗槽の塩酸濃度と液温は、下記式(1)および(2)を満たすように調整することを特徴とした、クロム含有熱延鋼帯の塩酸酸洗方法:
    1 <D2 <・・・<Dn-1 <Dn ・・・ (1)
    1 <T2 <・・・<Tn-1 <Tn ・・・ (2)
    n :上流からn番目の酸洗槽の塩酸濃度(g/リットル)
    n :上流からn番目の酸洗槽の液温(℃)
    n :2以上の整数。
  2. 以下の関係を満たす、請求項1に記載のクロム含有熱延鋼帯の塩酸酸洗方法。
    n −D n-1 ≧10(g/リットル)
    n −T n-1 ≧ 5(℃)
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