JP4846625B2 - パラジウム含有触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法 - Google Patents

パラジウム含有触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法 Download PDF

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Description

本発明はアルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒、その製造方法、並びにα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
α,β−不飽和カルボン酸は工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化して製造する方法について研究がされている。α,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒としては、例えば、特許文献1では、パラジウムと、鉛、ビスマス、タリウム又は水銀との金属間化合物を含有するパラジウム含有触媒が提案されており、この触媒を用いた製造法ではオレフィンのみが原料となる。またアルコールからα,β−不飽和カルボン酸を製造する手法としては、例えば、特許文献2では酸性物質および貴金属含有触媒存在下において、分子状酸素により液相酸化する手法が提案されている。
特開昭56−59722号公報 特開2006−265227号公報
しかしながら、工業上有用なα,β−不飽和カルボン酸の製造方法をより拡幅するために、特許文献1で提示されている組成以外の触媒系への展開や、アルコール等、他の原料からのプロセスにも有効となる触媒系への展開が望まれていた。さらに、アルコールを原料とした特許文献2の製造方法においては酸性物質が必須であり、このような必須条件のより少ない触媒の開発も同様に望まれていた。
本発明の目的は、アルコールおよびオレフィンからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒、その触媒の製造方法、並びにその触媒を用いるα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することにある。
本発明第一の要旨は、アルコールおよびオレフィンからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、パラジウムとルテニウムとを含むパラジウム含有触媒である。
また本発明の第二の要旨は、前記パラジウム含有触媒を製造する方法であって、酸化状態のパラジウムを含む化合物を還元剤で還元する工程、およびルテニウムを含む化合物を添加する工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法である。
本発明の第三の要旨は、前記パラジウム含有触媒を用いて、アルコールおよびオレフィンを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
本発明によれば、アルコールおよびオレフィンからα,β−不飽和カルボン酸を得ることができるパラジウム含有触媒、その製造方法、並びにそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
本発明のパラジウム含有触媒(以後、略して「触媒」ともいう。)は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する(以後、略して「液相酸化」ともいう。)ための触媒であって、パラジウム及びルテニウムを含有する。触媒中にルテニウムを含有することで、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造することが可能な触媒が得られる。
触媒に含まれる、パラジウムに対するルテニウムのモル比(Ru/Pd)は、0を超えることが必要であるが、0.001〜1が好ましく、0.01〜0.5がより好ましい。このRu/Pdは、パラジウム含有触媒の製造に使用するパラジウムを含む化合物及びルテニウムを含む化合物の配合比等により調整可能である。
本発明のパラジウム含有触媒は、さらにテルルを含有することもできる。テルルを含有する場合の、パラジウムに対するテルルのモル比(Te/Pd)は0.001〜0.04が好ましく、0.005〜0.35がより好ましく、0.01〜0.3がさらに好ましい。このTe/Pdは、パラジウム含有触媒の製造に使用するパラジウムを含む化合物およびテルルを含む化合物の配合比等により調整可能である。なお、本明細書において、パラジウム含有触媒の製造に使用するパラジウムを含む化合物を「Pd原料」、ルテニウムを含む化合物を「Ru原料」、テルルを含む化合物を「Te原料」ともいう。
Ru/PdおよびTe/Pdは、触媒に含まれるルテニウムとパラジウムの質量および原子量、テルルとパラジウムの質量および原子量からそれぞれ算出できる。触媒に含まれるパラジウム、ルテニウムおよびテルルの質量は元素分析により定量できる。また、ポアフィリング法のようにPd原料、Ru原料およびTe原料に含まれるパラジウム、ルテニウムおよびテルルの実質的に全量が触媒に含まれる方法で触媒を製造した場合には、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するRu原料のルテニウム含有率と配合量、使用するTe原料のテルル含有率と配合量から両元素の質量を算出してもよい。担持型触媒の場合の担持率は、前記の方法等で求められる各元素の質量と使用する担体の質量から算出できる。
元素分析法による触媒中のパラジウムとルテニウムの質量の定量方法としては次のA処理液とB処理液を調製して分析する方法が例示できる。テルルも同様に測定できる。
A処理液の調製:触媒0.2g、および、所定量の濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、MARS5(商品名))で溶解処理を行った。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、A処理液とする。
B処理液の調製:A処理での不溶解部を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融した。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、B処理液とする。
得られたA処理液およびB処理液に含まれるルテニウムとパラジウムの質量を、ICP発光分析装置(サーモエレメンタル社製、IRIS−Advantage(商品名))で定量し、両処理液中の元素毎の質量の合計から触媒中の各元素の質量を求めることができる。
また、上記のような本発明の触媒は、非担持型でもよいが、パラジウム、ルテニウムおよびテルルの少なくとも1種が担体に担持されている担持型が好ましい。担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等を挙げることができる。中でもシリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニアがより好ましく、シリカ、チタニア、ジルコニアが特に好ましい。担体は1種でもよいが、2種以上を用いることもできる。2種以上を用いる場合は、例えば、シリカとアルミナを混合して得られる混合酸化物等の混合物、複合酸化物であるシリカ−アルミナ等の複合物等が挙げられる。
担体の好ましい比表面積は担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また1500m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。担体の比表面積は、小さいほど有用成分(パラジウム、ルテニウムおよびテルル)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
担体の細孔容積は特に限定されないが、0.1cc/g以上が好ましく、0.2cc/g以上がより好ましい。また2.0cc/g以下が好ましく、1.5cc/g以下がより好ましい。
担体の形状やサイズは、反応装置の形状、サイズ等によって異なり、特に制限されないが、例えば、粉末状、粒状、球状、ペレット状など種々の形状が挙げられる。中でもろ別等の操作性が容易な粒状、球状が好ましい。担体が粉末状や粒状の場合の粒径は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。担体の粒径は大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、小さいほど反応液中における触媒の分散性がよくなる。
担持型触媒の場合、担体に対するパラジウムの担持率は、担持前の担体質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1.0〜20質量%がさらに好ましい。
担持型触媒の場合の担持率は、前記の方法等で求められる各元素の質量と使用する担体の質量から算出できる。また、担体の質量は、次のような方法で定量することもできる。すなわち、触媒を白金るつぼに取り、炭酸ナトリウムを加えて融解する。その後、蒸留水を加えて均一溶液として、ICP発光分析で試料溶液中の特定元素の定量をする。例えばシリカ担体の場合、Si元素を定量する。
本発明の触媒は、パラジウム、ルテニウム、およびテルル以外の、その他の金属元素を含んでいてもよい。その他の金属元素としては、例えば、白金、ロジウム、イリジウム、金、銀、オスミウム、銅、鉛、ビスマス、タリウム、水銀等が挙げられる。他の金属元素は1種または2種以上含有することができる。高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる金属元素のうち、パラジウム、ルテニウム、およびテルルの合計が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒は、酸化状態のパラジウムを含む化合物を還元剤で還元する工程(以後、「Pd還元工程」ともいう。)、およびルテニウムを含む化合物を添加する工程(以後、「Ru添加工程」ともいう。)を含む方法により好適に製造できる。さらにテルルを含む触媒を製造する場合は、Pd還元工程、Ru添加工程、およびテルルを含む化合物を添加する工程(以後、「Te添加工程」ともいう。)を含む方法で好適に製造できる。
酸化状態のパラジウムを含むパラジウム化合物としては、例えば、パラジウム塩、酸化パラジウム、酸化パラジウム合金等を挙げることができるが、中でもパラジウム塩が好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等を挙げることができるが、中でも塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましい。
ルテニウムを含む化合物中のルテニウムは一般に0〜8価の酸化数をとりえるが、いずれの酸化数状態のものを用いてもよい。Ru原料としては例えば、ルテニウム塩、酸化ルテニウム等を挙げることができる。具体的には、硝酸ルテニウム、ルテニウムカルボニルハロゲン化物、ヘキサシアノルテニウム酸塩、オルトフェナントロリンルテニウム錯体、シアン化ルテニウム、ニトロシルルテニウム錯体、フッ化ルテニウム、酸化ルテニウム、ルテニウム酸とその塩等が例示できる。中でも硝酸ルテニウム、ニトロシルルテニウム錯体等が好ましい。
テルルを含む化合物中のテルルは一般に0〜6価の酸化数をとりえるが、いずれの酸化数状態のものを用いていてもよい。Te原料としては、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等を挙げることができる。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等を挙げることができる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等を挙げることができる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等を挙げることができる。中でもテルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。
また、触媒の原料として上記の化合物を用いる方法の他に、パラジウム、ルテニウムおよびテルルのうち2種以上を含有する化合物等を用いることも可能である。具体的には、例えばパラジウム−テルル錯体PdXn(TeRR’)4-n(式中、Pdはパラジウムを表し、Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表し、Teはテルルを表し、R、R’はそれぞれ独立してアルキル基を表し、nは0〜3の整数を表す。なお、前記アルキル基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1〜20が好ましい。)等が挙げられる。
上記のようなPd原料、Ru原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。これらの化合物の配合量はRu/Pdやパラジウムの担持率が目的とする値となるように適宜選択する。テルルを含有する触媒を製造する場合には、上記のようなTe原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。これらの化合物の配合量は、Te/Pdが目的とする値となるように適宜選択する。
また、パラジウム、ルテニウム、テルル以外に、その他の金属元素を含む触媒を製造する場合は、原料として、その他の金属元素を含む化合物(以後、「その他原料」ともいう。)を併用すればよい。その他原料としては、例えば、その他の金属元素を含む、金属、金属酸化物、金属塩、金属酸素酸、金属酸素酸塩等が挙げられる。なお、その他原料の酸化数は任意である。
Pd還元工程、Ru添加工程は同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。別々に行う場合のPd還元工程、Ru添加工程の順序は任意である。Te添加工程を行う場合のTe添加工程は、Pd還元工程および/またはRu添加工程と同時に、又は任意の順序で行うことができる。また、パラジウム、ルテニウム、テルル以外の金属元素を含む触媒を製造する場合、その他原料を添加する工程や酸化状態のその他原料を還元剤で還元する工程はPd還元工程および/またはRu添加工程および/またはTe添加工程と同時又は任意の順序で行うことができる。
触媒の製造に使用する各原料(以後、「金属原料」ともいう。)の担体への担持方法としては、金属原料の溶解液に担体を浸漬した後に溶媒を蒸発させる方法でもよいが、担体の細孔容積分の金属原料の溶解液を担体に吸収させた後に溶媒を蒸発させる、いわゆるポアフィリング法が好ましい。溶解液の溶媒は金属原料を溶解するものであれば特に限定されない。金属原料の溶媒としては、例えば、水;酢酸、吉草酸等の有機カルボン酸類;硝酸、塩酸等の無機酸;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。金属原料並びに還元剤の溶解性または担体の分散性の観点から、水、有機カルボン酸類が好ましい。
溶解液を含浸する操作は、全ての金属原料を含む溶解液を用いて1度だけ行うこともできるが、複数の溶解液を用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合は、2回目以降の含浸操作は前回の加熱処理後または還元処理後のいずれに行ってもよい。金属元素を担持する順序は特に限定されない。
加熱処理の温度は金属原料が酸化物に変化する分解温度以上とすることが好ましく、1〜12時間が好ましい。加熱処理の温度は金属原料の少なくとも一部が金属酸化物に変化する時間であればよく、1〜12時間が好ましい。
還元剤を接触させる操作は、全ての金属原料を含む溶解液を用いて1度だけ行うこともできるが、複数の溶解液を用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合は、2回目以降の還元処理では前回の還元処理した担体を使用する。金属元素を担持する順序は特に限定されない。
還元の際に用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタクリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。中でもヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。また、これらを2種以上併用することもできる。
液相中で還元する際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水の混合溶媒を用いることもできる。
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが望ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は0.1〜1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。
また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、塩1モルに対して1モル〜100モルとすることが好ましい。
還元温度および還元時間は、用いる塩や還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
上記Pd原料、Ru原料およびTe原料の担持、加熱および還元処理の全ての工程は同時、または任意の順序で行うことができる。また、その場合Pd原料の加熱工程の後に還元工程を行うことが好ましい。
得られた触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の金属原料等に由来する不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によっては液相酸化反応を阻害する恐れがあるため不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。また、パラジウム化合物の還元、ルテニウム化合物の還元およびテルル化合物の還元を別工程で行う場合、その工程間で洗浄を行うことも好ましい。
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥することが好ましい。乾燥された触媒は、必要に応じて反応に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法は特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によればパラジウム、ルテニウムおよびテルルの表面の酸化被膜および洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。
次に、本発明のパラジウム含有触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化して、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
液相酸化の原料のアルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド2種以上を組み合わせて使用することもできる。
原料のアルコールとしては、例えば2−プロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール等が挙げられるが、中でも2−プロパノールおよびt−ブチルアルコールが好適である。原料のアルコールには、不純物として水や飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒドを少量含んでも良い。アルコールからは脱水反応を経由してα,β−不飽和カルボン酸が得られる。例えば、原料が2−プロパノールの場合はプロピレンを経由するので、プロピレンと同一骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸が得られ、原料がt−ブチルアルコールの場合はイソブチレンと同一骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸が得られる。
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、中でもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。オレフィンは2種以上併用することもできる。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、通常はオレフィンからはα,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合アクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合メタクロレインが得られる。
原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。α,β−不飽和アルデヒドは2種以上併用することもできる。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
原料の組み合わせは、オレフィンとアルコールの組み合わせが好ましく、原料としてアルコールを用いる場合は原料兼溶媒として用いることが好ましい。
液相酸化反応は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
液相酸化反応に用いる分子状酸素源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。分子状酸素は、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
液相酸化反応に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水の合計質量に対して好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。有機溶媒と水の混合物は均一な状態であることが望ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
液相酸化の反応系中に存在するオレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドの合計濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
また、反応系中に酸性物質が共存していても差し支えない。酸性物質としては無機酸、ヘテロポリ酸およびその塩、並びに固体酸等が挙げられる。酸性物質は2種以上を併用することもできる。
分子状酸素の使用量は、反応系中に存在するオレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して0.1モル以上が好ましく、0.2モル以上がより好ましく、0.3モル以上が特に好ましい。また、20モル以下が好ましく、15モル以下がより好ましく、10モル以下が特に好ましい。
触媒は液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が特に好ましい。また、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa)以上が好ましく、2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
Ru/Pd、Te/Pdとパラジウムの担持率の算出に用いるパラジウム、ルテニウムおよびテルルの質量は、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するRu原料のルテニウム含有率と配合量、使用するテルル化合物のテルル含有率と配合量から算出した。また、担体質量に対するパラジウムの質量の比を「パラジウムの担持率」とした。
担体質量は次のように定量した。まず、触媒を白金るつぼに取り、炭酸ナトリウムを加えて融解した。そして、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のSi原子を定量した。
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料、生成物および副生物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料および生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。そして、その結果からカーボンバランスを算出した。なお、カーボンバランスは以下のように定義する。
カーボンバランス(%) ={(B+C+D+E)/A}×100
ここで、Aは原料として供給したオレフィンのモル数、Bは反応後、液中に残存していたオレフィンのモル数、Cは生成したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Eは副生成物(一酸化炭素、二酸化炭素、原料オレフィンから炭素数が一つ減った炭素骨格のカルボン酸、原料オレフィンから炭素数が一つ減った炭素骨格のケトン)のモル数(原料オレフィンの炭素数に換算後)である。また、カーボンバランスが100%を超える場合は、溶媒として使用したアルコールを原料としてα,β−不飽和アルデヒドおよびα,β−不飽和カルボン酸が生成したものとする。
[実施例1]
(触媒調製)
トリニトラトニトロシルジアクアルテニウム水溶液(NE CHEMCAT製、ルテニウム濃度5wt%)4.8部と硝酸パラジウム硝酸溶液(田中貴金属製、パラジウム24.41wt%)3.1部を混合した均一溶液に純水を添加し、全体で20部の溶液とした。粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中200℃で3時間焼成を行い、パラジウムおよびルテニウムが担持されたシリカ担体を得た。
得られたシリカ担体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液40.0部に加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウムおよびルテニウムがシリカ担体に担持された触媒を得た。この触媒のRu/Pdは0.33、パラジウムの担持率は15.2質量%であった。
(反応評価)
オートクレーブに上記の方法で得た触媒のうち3.0部と75質量%t−ブタノール水溶液75部を入れ、オートクレーブを密閉した。次いで、イソブチレンを2.0部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。
昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、空気を内圧4.8MPaまで導入して反応を開始した。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧4.7MPa)毎に酸素を0.10MPa導入して内圧を4.8MPaにする操作(以下、酸素導入操作ともいう。)を繰り返し30分経過した時点で反応を終了した。
反応終了後、オートクレーブを氷浴に入れ内容物を冷却した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒を含んだ反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、生成物、副生物の定量およびカーボンバランスの算出を行った。結果を表1に示した。
[実施例2]
(触媒調製)
トリニトラトニトロシルジアクアルテニウム水溶液(NE CHEMCAT製、ルテニウム濃度5wt%)0.2部と硝酸パラジウム硝酸溶液(田中貴金属製、パラジウム24.41wt%)4.10部を混合した均一溶液に、さらにテルル酸0.11部を純水に溶解させた水溶液を添加し、全体で20部の溶液とした。この溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中200℃で3時間焼成を行い、パラジウム、ルテニウムおよびテルルが担持されたシリカ担体を得た。
得られたシリカ担体をエチレングリコール40.0部に加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウム、ルテニウムおよびテルルがシリカ担体に担持された担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.05、Ru/Pdは0.01、パラジウムの担持率は20.0質量%であった。
(反応評価)
上記で得られた触媒のうち3.0部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って反応評価を行った。なお、反応評価は30分経過した時点で終了した。結果を表1に示した。
[実施例3]
(触媒調製)
触媒の原料として用いるトリニトラトニトロシルジアクアルテニウム水溶液(NE CHEMCAT製、ルテニウム濃度5wt%)の量を1.0部とした以外は全て実施例2と同じ操作を行い、パラジウム、ルテニウムおよびテルルがシリカ担体に担持された担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.05、Ru/Pdは0.05、パラジウムの担持率は20.0質量%であった。
(反応評価)
上記で得られた触媒のうち3.0部を用いて実施例1と同様の操作で反応評価を行った。なお、反応評価は30分経過した時点で終了した。結果を表1に示した。
[比較例1]
(触媒調製)
硝酸パラジウム硝酸溶液(田中貴金属製、パラジウム24.39wt%)4.10部にさらに純水を追加し、全体で20.0部の均一溶液とした。この溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中200℃で3時間焼成を行い、パラジウムが担持されたシリカ担体を得た。
得られたシリカ担体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液40.0部に加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、還元されたパラジウムがシリカ担体に担持された担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のパラジウムの担持率は20.0質量%であった。
(反応評価)
上記で得られた触媒のうち3.0部を用いて実施例1と同様の操作で反応評価を行った。なお、反応評価は49分経過した時点で終了した。結果を表1に示した。
[比較例2]
(触媒調製)
テルル酸0.22部を純水10部に分散し攪拌してテルル酸水溶液を得た。この溶液に、硝酸パラジウム硝酸溶液(田中貴金属製、パラジウム24.39wt%)4.10部を加えて得られた水溶液にさらに純水を追加し、全体で20.0部の均一溶液とした。この溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法で溶液を含浸させた担体を空気中200℃で3時間焼成を行い、パラジウムおよびテルルが担持されたシリカ担体を得た。
得られたシリカ担体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液40.0部に加えた。70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、還元されたパラジウム、およびテルルがシリカ担体に担持された担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.1、パラジウムの担持率は20.0質量%であった。
(反応評価)
上記で得られた触媒のうち3.0部を用いて実施例1と同様の操作で反応評価を行った。なお、反応評価は36分経過した時点で終了した。結果を表1に示した。
Figure 0004846625
表中、MALはメタクロレイン、MAAはメタクリル酸を意味する。
以上のように、本発明のパラジウム含有触媒を用いるとアルコールからもα,β−不飽和カルボン酸が製造された。

Claims (4)

  1. アルコールおよびオレフィンからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、パラジウムとルテニウムとを含有するパラジウム含有触媒。
  2. さらにパラジウム1モルに対してテルル0.001〜0.4モルを含有することを特徴とする請求項1記載のパラジウム含有触媒。
  3. 請求項1または2記載のパラジウム含有触媒を製造する方法であって、酸化状態のパラジウムを含む化合物を還元する工程、およびルテニウムを含む化合物を添加する工程を含むパラジウム含有触媒の製造方法。
  4. 請求項1または2記載のパラジウム含有触媒を用いて、アルコールおよびオレフィンを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。
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