JP4846362B2 - ガラス光学素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高精度のガラス光学素子の製造方法に関する。特に、本発明は、撮像機器等の光学系に搭載される、歪が充分に小さいガラスレンズ等のガラス光学素子を、高い生産効率で製造する方法に関する。
プレス成形によって形成された光学機能面に対し、研削・研磨等の機械加工を施すことなく、充分な光学性能を有するレンズ等の光学素子を、精密モールドプレスによって製造する方法が知られている。
また、ガラス光学素子の製造においては、製造されるガラス光学素子の光学特性を管理することが不可欠である。光学特性は、ガラス光学素子が適用される光学製品の仕様から決定されるものであり、通常は所定の光学恒数(屈折率ndとアッベ数νdで代表させて表す場合が多い)を、その許容範囲(公差)と共に管理することで、光学特性を管理する。また、ガラス組成を種々選択する事によって種々の広範な光学恒数の光学ガラスを得ることができる事が知られている。
特開昭61−286236号公報(特許文献1)には、押圧成形後のガラス光学素子を、歪点以上、ガラス転移点以下の温度に所定時間保持する工程と、前記ガラス光学素子が所望の屈折率となる冷却速度にて冷却する工程とからなる、ガラス光学素子の徐冷方法が開示されている。この方法によると、冷却工程で、光学素子間あるいは同一光学素子内に生じる温度不均一により、屈折率にばらつきが生じることを防止できると記載されている。
特開平7−330354号公報(特許文献2)には、レンズの屈折率が所望の値になるように、冷却中の冷却速度を制御する方法が開示されている。この方法は、加熱成形後に急冷工程を経ると、モールドレンズの屈折率が低下するインデックスドロップが生じることを考慮したものである。
特開平7‐5320号公報(特許文献3)には、プレス成形工程において生ずるガラス素材の屈折率変化分を、成形されたガラス光学素子に要求される屈折率の値から差引いた値の屈折率のガラス素材を用いて、前記プレス成形工程によりガラス光学素子を成形する方法が開示されている。
特開昭61−286236号公報 特開平7−330354号公報 特開平7‐53220号公報
光学ガラスの屈折率は、通常、近赤外〜近紫外の種々の波長において精度よく測定され、小数点以下5桁までの値により表現される。しかしながら、同一組成のガラスでもその組成の熔融ガラスが固体になるまでに受けた熱履歴によって、室温で測定されるガラス固体の屈折率が変化する。例えば、Tg付近のある温度に保持された同一組成のガラス素材に対し、適用する冷却速度が相違すると、室温で測定されるガラス個体の屈折率は相違する。一般に、同一組成のガラス素材であっても、冷却速度が小さいと、屈折率は高くなり、冷却速度が大きいと屈折率は低くなる傾向がある。また、前者の場合には、光学素子に残留する歪が比較的小さく、後者の場合には大きい。
特許文献1の方法では、成形後のガラス素子の形状精度をくずすことなく屈折率の均一化をはかれるとされている。本特許文献に記載のとおり、成形後のガラス素子は過度に高温の熱処理を施すと、高精度に成形した面形状をくずしてしまう懸念がある。そこで本特許文献の方法では歪点以上、ガラス転移点(Tg)以下の温度を適用している。
しかしながら、ガラス素材の組成によっては歪点およびガラス転移点温度は大きく異なり、例えばTgが600℃前後となる高温硝材を用いたガラス素子を必要とする場合もある。このような硝材からなる光学素子を熱処理し、ガラス内の歪を緩和し、更に屈折率を所望値とするためには、熱処理温度も高くなるため、加熱、冷却時間が長くなって生産効率を悪くする。そればかりか、高温に長時間晒された光学素子は、表面からの成分の揮発や、炉内に残留していた不純物の揮発、吸着などよって、表面に変質層が形成され、白濁する等の不都合もある。しかし、その一方で過度に低温の熱処理を適用すれば、屈折率の調整が不十分となってしまう。
特許文献2の方法では、加熱成形後に急冷を行わず、冷却速度を制御するため、やはり上記特許文献1と同様に、成形体の長時間の高温暴露によってガラス成形体の表面を劣化させる等の問題がある。更に、本特許文献の方法では、加熱成形後にガラスが型内にあるときに上記冷却速度の調整を行うため、一個のレンズを得るための成形所要時間(いわゆる成形サイクルタイム)が長くなる上、個々のレンズ形状に応じて冷却速度が変化するため、生産効率が下がり、管理が煩雑化する、という問題がある。
特許文献3の方法では、アニール工程を廃止することができ、その結果、経済的にプレス成形することが可能になるとされている。しかしながら、プレス成形後、アニールを行わないレンズには、相当量の歪(応力)が残留し、特にレンズの大きさや形状によりこの傾向が顕著になる。従って、このようなレンズは、使用し得る用途が限定され、より画素数の高い撮像光学系など、高精度を要求される用途には適応しない不都合がある。
更に、特許文献3では、成形前の屈折率を測定し、成形レンズの屈折率との差を求めているが、成形前のガラス素材の屈折率は、ガラス素材の作製時の熱履歴の影響を受けるため、同一組成のガラスでも一定ではなく、ガラス素材を用意する指標にはならないという問題もある。即ち、屈折率に対するガラス素材の熱履歴の影響を考慮しておらず、精度良く屈折率の調整をすることはできない。
本発明は上記課題を解決し、屈折率についての精度と生産効率を両立させた、精密モールドプレスによる光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
特に本発明は、高精度を要求される用途に適応したガラス光学素子を、高温硝材からであっても、所定の屈折率を有するように、かつ高い生産効率で製造できる方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の通りである。
[1]加熱により軟化した、Tgが580℃以上であり、かつ屈折率ndが1.7以上であるガラス素材を成形型を用いて加圧成形し、冷却することを含むプレス成形工程の後、成形型から取り出した成形体に、再加熱と再冷却を施すアニールを行い、前記再加熱温度は(Tg−60℃)〜(Tg−20℃)の範囲とし、屈折率n3を有するガラス光学素子を得るガラス光学素子の製造方法において、
第一組成のガラス素材を用いて前記プレス成形工程及びアニールを経て得られるガラス光学素子の屈折率をn2とし、
前記一組成のガラス素材を規定条件下で処理したときの基準屈折率をn1とするとき、
屈折率n1と屈折率n2の差分に相当する量を、屈折率n3に加えた値の屈折率n4を、前記規定条件下で処理したときに有する、第二組成のガラス素材を用いて、プレス成形工程及びアニールによってガラス光学素子を得、かつ該プレス成形工程は前記第二組成のガラス素材が有する熱履歴を実質的に解消する条件で行うこと、及び、前記アニールは前記第一組成のガラス素材に対するものと同じ条件で行うことを特徴とする、前記製造方法。
[2]第二組成のガラス素材は、第一組成のガラス成分の少なくとも一種の含有量を減少、又は増加させることによって得られたガラスからなることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3]前記屈折率n1と屈折率n2の差分は、100×10-5以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記屈折率n3が、前記屈折率n1に等しいことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記第二組成のガラス素材は、溶融状態のガラスを滴下、又は流下しつつ分離し、所定の形状に予備成形されたものであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]前記第二組成のガラス素材は、前記予備成形の過程で、少なくとも軟化点から歪点−50℃の温度の範囲で、300℃〜1500℃/分の冷却速度で冷却されたものであることを特徴とする、[5]に記載の製造方法。
[7]前記第二組成のガラス素材の、前記プレス成形工程に供する前の屈折率は、同一組成のガラス素材の屈折率n4に対して、300×10-5以上低いことを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記ガラス光学素子は、光学有効径内全域における光軸方向の歪が、複屈折で0.01nm〜40nmの範囲であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
本発明によれば、プレス成形によって得られた光学素子が、必要とされる光学恒数を満足し、充分に歪が解消されており、かつ、このような光学素子を、光学素子表面に生じやすい変質を防止しつつ、安定した高い生産効率で製造できる方法を提供できる。
本発明の製造方法は、加熱により軟化したガラス素材を成形型を用いて加圧成形し、冷却することを含むプレス成形工程の後、成形型から取り出した成形体に、再加熱と再冷却を施すアニールを行い、屈折率n3を有するガラス光学素子を得るガラス光学素子の製造方法において、
第一組成のガラス素材を用いて前記プレス成形工程及びアニールを経て得られるガラス光学素子の屈折率をn2とし、
前記第一所定組成のガラスを規定条件下で処理したときの基準屈折率をn1とするとき、
屈折率n1と屈折率n2の差分に相当する量を、屈折率n3に加えた値の屈折率n4を、前記規定条件下で処理したときに有する、第二組成のガラス素材を用いて、プレス成形工程及びアニールによってガラス光学素子を得、かつ該アニールは前記第一組成のガラス素材に対するものと同じ条件で行うことを特徴とする、前記製造方法である。
本発明の製造方法では、屈折率がn3を示すガラス光学素子を製造する。そして、ガラス素材として、規定条件下で処理したときに屈折率n4を有する組成(この組成を第二組成と呼ぶ)を有するガラス素材を用いる。屈折率n4は、屈折率n3に、屈折率n1と屈折率n2の差分に相当する値を加えた値であり、屈折率n1および屈折率n2は、それぞれ以下のとおりである。

屈折率n1は、所定組成(第一組成という)を有するガラスを規定条件下で処理したときの屈折率である。本発明においては、規定条件下で処理して得られたガラスの屈折率を基準屈折率と称する。
一般に溶融ガラスが固体になるまでに受けた熱履歴によって、同一組成を有するガラスであっても、測定される屈折率は異なる。そこで本発明では、組成に応じたガラス素材の屈折率を管理するために、基準となる同一の条件下、即ち、「規定条件下での処理」を行い、「規定条件下での処理」を施されたガラスの屈折率を用いる。すなわち、規定条件下で処理したガラスの屈折率をそのガラスの「基準屈折率」と呼ぶ。
「規定条件下での処理」とは、ガラスが有する過去の熱履歴を実質的に解消することができる温度及び時間でガラスを保持し、その後に所定の冷却速度で冷却することからなる処理を意味する。ガラスが有する熱履歴は、そのガラス組成に応じて適した温度と保持時間とを選択することにより、実質的に解消される。具体的には、歪点以上の温度、より好ましくはガラス転移温度Tg以上の温度で、ガラス全体の温度が実質的に一定になるまで保持することによって、ガラスが有する過去の熱履歴を実質的に解消することができる。ガラス全体の温度が実質的に一定になるまでの時間は、加熱条件やガラスの大きさによっても異なるが、屈折率をより精度高く、かつ効率良く求めるという観点からは、ガラスをTg−15℃〜Tg+30℃、より好ましくはTg〜Tg+30℃の一定温度で15分以上の一定の時間保持することが好適で、さらには30分以上5時間以下の時間保持することが好ましい。
また、「所定の冷却速度での冷却」とは、ガラスに与えられる熱履歴が一定となるように、一定条件下での冷却を意味し、具体的には、室温での屈折率測定に影響を与えないように、歪や屈折率のばらつきが生じない程度の緩い、実質的に一定の冷却速度で冷却することが好ましい。例えば、50℃/hr以下、好ましくは30℃/hr以下の冷却速度(たとえば1〜10℃/hr)で、少なくとも歪点−30℃、更には、歪点−50℃までの冷却とするのが好ましい。
本発明では、第一組成のガラスを規定条件で処理(保持及び冷却)したときの屈折率n1を用いることで、第一組成のガラスの屈折率値の客観的な把握と管理が可能になる。これは第二組成のガラスについても同様である。また如何なる組成のガラスに対しても同様に適用できる。即ち、第二組成のガラスについての屈折率n4も規定条件下で処理して得られたガラスの屈折率であるので、基準屈折率である。
上記保持温度及び時間や冷却速度等の「規定条件」は、上記の数値範囲に限定されるものではない。しかし、常に一定条件を適用することにより、基準屈折率は、ガラス組成によってのみ変化することになり、ガラス素材の屈折率の指標となる。
なお、本発明において屈折率n1、n2、n3、n4は、室温(例えば23℃±3℃)で測定した値とすることができる。また、本発明において、屈折率n1、n2、n3、n4の値は、F線、d線、c線などの測定波長のうち、任意の一定波長における屈折率を適用すればよいが、代表的にはd線によるndを用いることが便利であり、好ましい。
屈折率n2は、前記第一組成のガラス素材を用いて前記プレス成形工程及びアニール工程を経て得られるガラス光学素子の屈折率である。
第一組成のガラス素材を用いてプレス成形工程及びアニールを経て得られるガラス光学素子の屈折率はn2であり、このガラス光学素子は、プレス成形工程において加熱されたときに実質的にその熱履歴が解消される、又はその大部分が解消されるが、プレス成形中における加熱温度、及び冷却条件に応じ、その熱履歴を反映した屈折率n2を有する。多くの場合、プレス成形後の冷却速度は、上記規定条件下での冷却速度より大きい為、n2はn1より小さくなる。但し、大きくなっても構わない。
以上のようにして、屈折率n2および屈折率n1が把握され、さらに、n1とn2の差分、即ち(n1−n2)に相当する値が得られる。そして、所望の光学素子の屈折率であるn3に、(n1−n2)に相当する値を加えた値の屈折率n4が決まる。尚、「差分に相当する値」とは、差分に等しい値であることが好ましいが、差分の10%を限度に変動しても構わない。これは例えば最終的に屈折率n3を有する光学素子を得るために、上記差分を微調整する必要が生じる場合などがあることを考慮してのことである。
本発明の製造方法では、規定条件下で処理したときに、上記n4の屈折率を有する(すなわち、基準屈折率がn4である)ような、第二組成のガラス素材を用意する。該第二組成のガラス素材は、第一組成のガラス素材に対し、基準屈折率が(n1−n2)分だけ異なるものである。例えば、(n1−n2)の値が+0.0005であれば、第一組成のガラス素材に対し、基準屈折率が0.0005だけ大きくなるような組成のガラスを用意し、これを予備成形することによって第二組成のガラス素材とすることができる。
所定量だけ基準屈折率が大きくなるような組成のガラスを得るためには、例えば、第一組成のガラスの成分中、屈折率を高くする成分を増加する、又は屈折率を低下させる成分を減少させることによって組成調整することが可能である。ここで、組成調整に際しては、屈折率を高くする成分、又は屈折率を低くする成分(屈折率調整成分とよぶ)の含有量を増加若しくは減少させるか、又は近似する基準屈折率をもつ硝材を適切な比率で混合することによって調整することができる。
屈折率調整成分としては、後述する、B23、ZnO、La23およびZrO2を含む光学ガラスやB23、La23およびZnOを含む光学ガラスでは、例えば、B23、SiO2、BaOの質量比で調整することができる。好ましい。又はその他の公知の屈折率調整成分を用いてもよい。
もちろん、第一組成には含まれない他成分を加えることによって、第二組成を得ることも可能であることはいうまでもない。
このようにして得られた第二組成のガラス素材を用い、プレス成形工程及びアニールを施すと、基準屈折率がn3であるような光学素子、すなわち、所望の光学素子を得ることができる。該アニールは、上記にて第一組成のガラス素材に施したものと同じ条件とすることが適切である。また、プレス成形工程についても、第一組成のガラス素材に施したものと同じ条件とすることが好ましい。その工程については、後述する。
上記のn1とn2の差分は、100×10-5以下であることが好ましい。この数値は、n3とn4の差にも等しい値となるが、一方が他方に対して過大に低いと光学素子の残留歪が大きくなり、屈折率の測定精度が下がる上、屈折率の調整幅が大きくなることでガラスの物性が変化しやすい。より好ましくは、30×10-5〜80×10-5の範囲内であることが好ましい。
本発明では、n3が、前記n1に等しいものとすることができる。すなわち、所望の光学素子に必要な屈折率n3に対し、それと実質的に同じ値の基準屈折率をもつ組成のガラス素材を、第一組成のガラス素材として本発明に適用することができる。基準屈折率が、屈折率n3と等しい第一組成のガラス素材は、基準屈折率が既知のガラス素材から適宜選択することができ、それにより、本発明の製造方法をより容易に実施することができる。
尚、上記組成調整を行うときには、屈折率のみでなく、分散(代表的にはアッベ数νdで管理することが好ましい)についても、所望の光学素子に必要な数値に近づけるように行うことが光学設計上好ましい。すなわち、添加成分、又は、減少成分を決める際には、アッベ数の変動にも留意することが好ましい。具体的には、アッベ数がν3である光学素子を得ようとするとき、第一組成のガラス素材を用いて前記プレス成形工程及びアニール工程を経て得られるガラス光学素子のアッベ数をν2とし、前記第一所定組成のガラスを規定条件下で処理したときの基準アッベ数をν1とするとき、ν1とν2の差分に近似する量を、ν3に加えた値のアッベ数ν4を、前記規定条件下で処理したときに有する第二組成のガラス素材を用いて、前記プレス成形工程及びアニール工程によってガラス光学素子を得ることができる。上記にて近似とは、20%の範囲での変動を許容するものとすることができる。また、ν1は、ν3±1の範囲内とすることが好適である。
上記範囲の基準アッベ数を有するガラス素材は、屈折率の場合と同様の方法で調製することができ、例えば、前記所定組成のガラスについて、所定組成において含まれる屈折率調整成分の量を増加若しくは減少させることで調製できる。なお、アッベ数は、d線によるアッベ数νdが好適に用いられるが、他の波長によるものであっても良い。
ν3±1の範囲内であるガラスを、所定組成を有するガラスとして選択することが好ましい。所望の屈折率及びアッベ数を有する光学素子を得るために用いるガラス素材との性質が似通っているため、精度高く所望屈折率及びアッベ数の光学素子を得ることができるからである。
本発明のガラス素材の調製方法について説明する。
本発明に適用できるガラス素材は、光学ガラスを所定の体積、形状に予備成形して得たものであることができ、その製法には限定されない。
例えば、ブロック状の光学ガラスから切り出したものを、研削や研磨によって所定体積、所定形状に予備成形してガラス素材とすることができる(予備成形I)。又は、溶融状態のガラスをパイプから滴下、又は流下しつつ分離して所定量のガラス塊とし、このガラス塊の冷却中に予備成形してガラス素材とすることができる(予備成形II)。ここで、溶融状態のガラスを、底部からガスを噴出する受け型に受け、実質的に浮上させた状態で冷却しつつ予備成形する方法をとることができる。この方法は生産効率高く、表面の平滑なガラス素材を得られことから好ましい。尚、IIの方法は、ガラス塊の冷却中に予備成形した後、更に研磨等の機械加工を加えて、形状又は体積を微調整する場合も含み、該方法も本発明に好適に適用される。
上記ガラス塊の冷却方法、冷却速度には特に限定はない。ガラス素材は、それが熔解後の予備成形過程に経た熱履歴に関わらず本発明に適用できる。すなわち、如何なる熱履歴、及びそれに起因する屈折率を有するものでもよい。熔解ガラスから割れない程度に急冷されたものでも良く、生産効率上は好ましい。その場合、ガラスの屈折率が相対的に低下し、場合によっては歪が大きいために屈折率は測定不可能となる場合があるが、本発明の効果を奏する上では何ら支障は無い。
ガラス素材の調製に際し、熔解ガラスの流出時の粘度は、数dPa・s〜1000dPa・sの範囲でありこれを冷却し、少なくとも軟化点から歪点−50℃の範囲で、300℃/分以上の速度で冷却されたものが好適に用いられる。冷却速度を速くすると、ガラス中の歪のために割れる可能性が増大する。過度に小さい速度とすることは、生産効率が下がり、徐冷の為の設備が必要になるなど、不利益が生じやすい。好ましくは、300〜1500℃/分の冷却速度、更には、400〜1000℃/分の冷却速度が生産効率上、好ましく用いられる。
また、上記を反映し、ガラス素材の屈折率は、その組成の基準屈折率に対して、300×10-5以上低くなる場合がある。しかし、本発明の製造方法では、このようなガラス素材も全く支障なく使用でき、むしろそのようなガラス素材を用いる方が、トータルの生産効率(ガラス素材の製造を含めたガラス光学素子の製造における生産効率)は高く、本発明の効果が有利に発揮される。更には、ガラス素材の屈折率が、その組成の基準屈折率に対して500×10-5以上低いものを好適に使用できる。
本発明において、第一組成のガラス素材と第二組成のガラス素材の両方につき、上記いずれかの製法を適用することができるが、必ずしも両者が同一の製法である必要は無い。好ましくは、少なくとも第二組成のガラス素材には上記予備成形IIの方法を適用することが、量産効率上好ましく、第一、第二組成ともに予備成形IIを適用することがより好ましい。
ガラス素材の形状は、プレス成形によって得ようとする光学素子形状に応じて決定することができるが、例えば、回転対称形のレンズなどを得る場合は、球や、両凸曲面形状など、回転対称な形状とすることができる。
本発明の製造方法に適用できるガラス素子の組成について説明する。
本発明の製造方法に適用できるガラス素子として使用する光学ガラスについて、その組成は特に限定されない。所望の光学機器に適した光学恒数と、種々の物性を備えたものであればよい。但し、本発明にはアニールの工程が高温、及び/又は長時間となりやすいガラス素材について、本発明の効果がより顕著に得られる。例えばTgが580℃以上の高軟化点硝材からなるガラス素材からのガラス光学素子の製造には、本発明が有利に適用される。更には、Tgが590℃以上の硝材からなるガラス素材からのガラス光学素子の製造には、更に好適に適用される。こうした硝材には、高屈折、低分散(例えば、屈折率ndが1.7〜1.9、アッベ数νdが35〜65)の高付加価値ガラス(ガラスI)がある。
ガラスIとしては、例えば、B23、ZnO、La23およびZrO2を含む光学ガラスであって、モル%表示で、Li2Oを0〜0.5%未満含む(ゼロも含む)とともに、B23 20〜50%、SiO2 0〜20%、ZnO 22〜42%、La23 5〜24%、Gd23 0〜20%(ただし、La23とGd23の合計量が10〜24%)、ZrO2 0.5〜10%、Ta25 0〜15%、WO3 0〜20%、Nb25 0〜15%、TiO2 0〜20%、Bi23 0〜10%、GeO2 0〜10%、Ga23 0〜10%、Al23 0〜10%、BaO 0〜10%、Y23 0〜10%およびYb23 0〜10%を含むガラスIaを挙げることができる。特に、このガラス組成を有し、かつアッベ数(νd)が35以上40未満、より好ましくは、屈折率ndが1.86以上であるガラスを挙げることができる。
ガラスIの他の例としては、
23、La23およびZnOを含む光学ガラスであって、モル%表示で、
23 20〜60%、SiO2 0〜20%、ZnO 22〜42%、La23 5〜24%、Gd23 0〜20%(ただし、La23とGd23の合計量が10〜24%)、ZrO2 0〜10%、Ta25 0〜10%、WO3 0〜10%、Nb25 0〜10%、TiO2 0〜10%、Bi23 0〜10%、GeO2 0〜10%、Ga23 0〜10%、Al23 0〜10%、BaO 0〜10%、Y23 0〜10%およびYb23 0〜10%、を含むガラスIbを挙げることができる。特に、このガラス組成を有し、かつリチウムの含有量がLi2O換算で0.5モル%未満であるもの(ゼロの場合を含む)、更には、アッベ数(νd)が40以上である光学ガラスが挙げられる。さらに、上記のガラス組成及び/又は特性を有し、かつ屈折率ndが1.79以上であるものが挙げられる。
揮発成分を比較的多量に含有し、アニール工程において表面からの揮発が生じやすいもの(ガラスII)も、本発明を適用することが好ましいガラスである。ガラスIIは、例えば、ガラス成分として、アルカリ金属を含有し、特にリチウムナトリウム、カリウムを含有する場合に、本発明の効果が顕著に認められる。リチウム、ナトリウム、カリウムの含有量は、モル%で0.5〜25%、より好ましくは、0.5〜8%である。
更に、フッ素をカチオニック%で5%以上含んだ光学ガラス(ガラスIII)も本発明に好適に適用できるガラスである。
本発明の製造方法におけるプレス成形工程について説明する。
本発明のプレス成形工程においては、例えば、ガラス素材を、その粘度が105.5〜109ポアズに相当する温度とし、ガラス素材が107〜1012ポアズの粘度を示す温度に予熱した成形型を用いて加圧成形することが適当である。上記の温度範囲を適用することにより、所望の光学素子の形状、肉厚精度が充分に得られる。この過程で、ガラス素材が有する熱履歴、またはその大部分を実質的に解消することができる。
具体的には、成形型外で所定温度に加熱し、軟化したガラス素材を、予熱した成形型内に供給し、加圧して、成形面形状をガラス素材に転写することができる(加圧成形I)。又は、ガラス素材を成形型内に供給し、ガラス素材と成形型を一緒に加熱し、ガラスが適度に軟化した状態で押圧しても良い(加圧成形II)。
加圧成形Iの場合、成形型外でのガラス素材の加熱温度は、成形型の予熱温度より高くし、ガラス素材を成形型に供給後直ちに加圧を開始することが好ましい。そのようにすることで、ガラス素材に充分な形状変化を与えることができ、必要な、面形状、肉厚を確実に得ることができる。
加圧成形Iの場合には、押圧開始時に、成形型の温度を、ガラス粘度で108〜1011dPa・s、ガラス素材の温度を、ガラス粘度で、106〜109dPa・s とすることが好ましい。また加圧成形IIの場合には、押圧開始時のガラス素材と成形型の温度をガラス粘度で、107〜109dPa・sの範囲とすることが好ましい。
加圧成形の後、または加圧成形開始と同時若しくは加圧成形開始後に、成形面と密着した状態のガラス素材(ガラス成形体)の冷却を行うことが好ましい。この冷却速度については、以下の点から決定することができる。生産効率上は、冷却速度が大きい方が好ましい。急冷するとガラス内部に歪が相当量残存するが、本発明ではこの後にアニールの工程で、必要な程度にまで歪を解消することができるため、支障は無い。冷却速度としては、例えば、10〜500℃/min、好ましくは30〜300℃/minの冷却速度で、Tgまで行うことが好ましい。その後、成形型内から成形体を取り出す。
上記のプレス成形後の光学素子の有する屈折率については、特に制約は無い。加圧成形及び冷却の熱履歴に起因し、第一組成の場合には、n1−0.00500〜n1−0.00200の範囲であることが好ましい。同様に第二組成の場合には、n4−0.00500〜n4−0.00200であることができる。
尚、上記加圧成形、冷却の工程における適用温度やそのスケジュール等の条件は、第一組成のガラス素材と第二組成のガラス素材に対して、必ずしも同一でなくても良いが、同一条件で適用することが好ましい。
また、第一組成と第二組成のガラス素材の形状、体積は等しいことが好ましく、形成するガラス光学素子の形状もそれぞれの場合で同一とすることが好ましい。そのようにすることで、用意された、第二組成のガラス素材を用いたとき、当初の所望どおりのn3を精度高く有する光学素子が確実に得られる。
本発明の製造方法におけるアニール工程について説明する。
本発明の製造方法においては、プレス成形工程の後、成形型から取り出した成形体に対して再加熱、再冷却を施すアニール工程を施す。本発明においてアニール工程は、再加熱、再冷却によりガラス内部の残留歪を低減させる工程である。アニール工程においてガラス成形体の屈折率は変動し、アニール工程終了後に得られたガラス光学素子は、所望の光学素子の屈折率であるn3を有するものになる。但し、屈折率n3の精度は±0.00010であり、好ましくは±0.00005である。
本発明のアニール工程は、多数個の成形体に対して同時に行うことができるため、成形サイクルタイムには影響せず、生産効率を実質的に低下させることはない。
上記プレス成形工程によって得られた成形体を複数個(例えば100個〜1000個)、アニールするための加熱炉に収容する。加熱炉内の雰囲気に特に制約は無いが、好ましくは酸素濃度0〜5vol%とすることにより、炉の構成物質の酸化や、それに起因するレンズの汚染が避けられる。
再加熱に際しては、成形体を導入した炉内を、60〜300℃/hrの昇温速度で加熱する。その後、(Tg−70℃)〜(Tg+20℃)、より好ましくは、(Tg−60℃)〜(Tg−20℃)、更に好ましくは、(Tg−50℃)〜(Tg−20℃)において、所定時間保持する。これにより成形体の形状精度が良好に維持される。保持時間は、0.5〜6時間とすることができる。
アニール温度からの降温速度は、100℃/hr以下、好ましくは80℃/hr以下、更に好ましくは−60〜−30℃/hrとし、アニール温度−150℃まで制御することが好ましい。上記保持温度及び降温速度は、得られる光学素子の残留歪が、光学有効径の全域にわたり、光軸方向の複屈折で0.01〜40nm以下となるように選択することが好ましい。より好ましくは0.01〜20nmとなるように行う。
尚、ガラス温度が十分冷却され、例えばTg−180℃程度に達したら、ガラスが割れない範囲で急冷してもかまわない。例えば、100℃/hr、又はそれ以上の冷却を行うことが可能である。このようにして、室温又は100℃以下程度の温度に達したら炉から取り出すことができる。
ガラス光学素子の製造に際しては、アニール工程を設けることが知られている。この工程では、成形したガラス光学素子に一定の熱処理を施すが、主として目的は歪の除去と、屈折率の調整であり、屈折率調整に関しては、均一で所望の屈折率を有するガラス光学素子を得るために有効である。
本発明の製造方法により得られるガラス光学素子の用途、及び形状に制約は無い。具体的には、撮像機器を構成するレンズ、光ピックアップレンズ、コリメータレンズなどの用途とすることができる。また、形状は、両凸、両凹、メニスカス形状のいずれにも適用できるが、凹メニスカス形状、及び両凹形状のレンズの成形においては、光学有効径内のガラス体積が相対的に小さく、プレス成形によって該範囲内の光軸方向の歪を比較的小さくしやすいため、本発明が有利に適用できる。特に、光学有効径内の肉厚が1mm以下のものについては、本発明が特に好適に適用できる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
精密プレスモールドにより両凸形状の光学レンズ(屈折率nd3は1.76800)を作製した。
第一組成のガラス素材(ガラスA、Tg605℃)の組成はモル%表示で以下のとおりである。
23 30.8%
SiO2 7.7%
ZnO 27.7%
La23 13.9%
Gd23 4.6%
ZrO2 3.1%
Ta25 4.6%
WO3 7.6%
この組成からなる溶融ガラスを、流出パイプから滴下し、気流を吹出す受け型で受けて予備成形しつつ冷却し、両凸曲面形状のガラス素材を作製した。このガラス素材の基準屈折率nd1(規定条件として、ガラスを630℃(Tg+25℃)の一定温度で1.5時間保持し、30℃/hrの冷却速度で、歪点−50℃まで冷却した)は、1.76810であった。
上記ガラス素材を710℃に加熱し、700℃に予熱した成形型内に供給した。次いで、直ちに下型を上方に移動させてガラス素材にプレス荷重をかけ、プレスした。プレス開始と同時に成形型の冷却を開始し、成形型とガラス素材の密着を維持したまま、150℃/minの冷却速度でTgまで降温した。
上記により、成形体を連続的に成形した。次に、得られた100個の成形体をアニール炉内に配置した。アニール炉内を、昇温速度100℃/hrで555℃に加熱し、その温度で4時間保持した後、冷却速度を50℃/hrとして405℃まで降温し、その後放冷して室温まで降温した。
その後、アニール炉から成形体を取り出し、nd2を測定したところ、100個の成形体の屈折率が全て1.76710±0.00005の範囲内であった。
次に、該ガラス素材の成分中、B2O3の一部をLa2O3に置換し、上記と同一の規定条件における基準屈折率nd4が1.76900となるガラス(第二組成)を調製した。ここで、nd4は、nd1−nd2+nd1の値に等しい。
この第二組成のガラスからなる、上記と同一体積、同一形状のガラス素材を作製し、これを用いて、上記と同一条件でプレス成形、及びアニールを施した。得られた成形体の屈折率ndは、1.76800±0.00005であった(nd3)。この成形体は、所望のndを有しており、かつ外観性能も充分であったため、これを最終的な光学素子とした。
尚、参考例として第一組成のガラス組成をプレス成形した後、成形体のアニールを570℃にて行った(保持時間、昇温、冷却速度は同様にした)。この結果、アニール炉から取り出した成形体表面にクモリが発生し、充分な光学性能を充足しないものとなった。

Claims (8)

  1. 加熱により軟化した、Tgが580℃以上であり、かつ屈折率ndが1.7以上であるガラス素材を成形型を用いて加圧成形し、冷却することを含むプレス成形工程の後、成形型から取り出した成形体に、再加熱と再冷却を施すアニールを行い、前記再加熱温度は(Tg−60℃)〜(Tg−20℃)の範囲とし、屈折率n3を有するガラス光学素子を得るガラス光学素子の製造方法において、
    第一組成のガラス素材を用いて前記プレス成形工程及びアニールを経て得られるガラス光学素子の屈折率をn2とし、
    前記第一組成のガラス素材を規定条件下で処理したときの基準屈折率をn1とするとき、
    屈折率n1と屈折率n2の差分に相当する量を、屈折率n3に加えた値の屈折率n4を、前記規定条件下で処理したときに有する、第二組成のガラス素材を用いて、プレス成形工程及びアニールによってガラス光学素子を得、かつ該プレス成形工程は前記第二組成のガラス素材が有する熱履歴を実質的に解消する条件で行うこと、及び、前記アニールは前記第一組成のガラス素材に対するものと同じ条件で行うことを特徴とする、前記製造方法。
  2. 第二組成のガラス素材は、第一組成のガラス成分の少なくとも一種の含有量を減少、又は増加させることによって得られたガラスからなることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記屈折率n1と屈折率n2の差分は、100×10-5以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記屈折率n3が、前記屈折率n1に等しいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記第二組成のガラス素材は、溶融状態のガラスを滴下、又は流下しつつ分離し、所定の形状に予備成形されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記第二組成のガラス素材は、前記予備成形の過程で、少なくとも軟化点から歪点−50℃の温度の範囲で、300℃〜1500℃/分の冷却速度で冷却されたものであることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
  7. 前記第二組成のガラス素材の、前記プレス成形工程に供する前の屈折率は、同一組成のガラス素材の屈折率n4に対して、300×10-5以上低いことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記ガラス光学素子は、光学有効径内全域における光軸方向の歪が、複屈折で0.01nm〜40nmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
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