JP4843017B2 - 孔版印刷装置 - Google Patents
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Description
一般に、版胴内部のプレスローラに対向する位置には、インキ供給手段の構成要素の一つであるインキローラ(インキ供給部材)が設けられており、インキローラから版胴内周面に供給されたインキがプレスローラとの押圧力(印圧)により版胴の開孔を通ってマスタの穿孔部から滲み出し、滲み出たインキが印刷用紙に転移してインキ画像が形成されるものである。
また、インキローラによって版胴内周面に供給されたインキはその都度全てが印刷のために消費される訳ではなく、印刷に使用されなかったインキは版胴内周面に付着したまま残存する。その量は、新たなインキの供給がなくても印圧さえあればその後しばらくは印刷を継続できる程度である。この残存インキの量は、画像比率が少ない場合には当然に多くなる。
特許文献1や、特許文献2には、版胴内周面のインキの量を適正なものとすべく、版胴内周面のインキ層の厚みを規制部材で一定にする技術が開示されている。規制位置は、いずれも版胴回転方向における印刷ニップ部の上流側となっている。
一般に、ドクターローラ202は、インキローラ200と反対向きに回転されるようになっている。
特に、インキがエマルションタイプの場合には、水分が蒸発して粘度が低下するため、放置後、製版して新たな印刷を行う際、最初の数十枚から最悪の場合には百枚以上にも亘って使用に耐えない滲み画像が発生する。状態変化したインキが入れ替わらない限り、印刷品質は安定しないのである。
従来においては、粘度の低下した残存インキの影響が無くなるまで最初やれ紙で印刷したり、あるいは新しいマスタに染み込ませて廃棄する等の手段を講じているが、多大な経済的損失と時間の無駄となっている。
従って、版胴内周面におけるインキの経時的状態変化による問題を解消できれば、上記経済的損失と時間の無駄の問題を解消することができることになる。
特許文献1や、特許文献2に開示された技術は、あくまでも版胴内周面における版胴外部への漏れの原因となる余分なインキ、すなわち「十分な画像濃度を得るに必要な量以上のインキ」を取り除くものであり、上記版胴内周面におけるインキの経時的状態変化による問題の解決策とはならない。
むしろ、特許文献1や、特許文献2に開示された技術では、印刷ニップ部の下流側においては規制部材による規制を受けない厚みの大きいインキ層が存在するので、放置した場合には水分が蒸発して粘度の低下したインキが版胴内周面に大量に存在することになり、上記問題はさらに深刻となる。
インキに対するドクターローラ202の規制が分離点Sで開放されてそれがインキローラ200上におけるインキの層厚みとなる訳であるが、ドクターローラ202もインキ溜まり部204に接触しているためドクターローラ202上にもインキ層が形成されていることになる。
従って、分離点Sにおける分離は、インキローラ200に付着したインキと、ドクターローラ202自体の表面との間の分離ではなく、インキローラ200に付着したインキと、ドクターローラ202に付着したインキとの間の分離となる。
すなわち、インキ層間の分離となり、それ故に粘度のバラツキ(分離力のバラツキ)等の原因により、筋状のムラが発生するものと思われる。
まず、参考例について説明する。図1に示すように、第1の参考例における孔版印刷装置は、版胴2と、版胴2の下方において版胴2に対して接離自在に設けられた押圧部材としてのプレスローラ4と、版胴2の内部に設けられたインキ供給手段6と、版胴2の内部において印刷ニップ部Nから版胴2の回転方向下流側へ僅かに離れた位置に設けられたインキ回収手段8等から主に構成されている。
版胴2は、図示しない装置本体側板間に支持された中空状の支軸10に軸方向に間隔をおいて回転可能に支持された一対のフランジ12,12と、両端部をこれらのフランジ12,12に支持された円筒状で薄肉の多孔性支持板14と、多孔性支持板14の外周面に設けられたメッシュスクリーン16等から構成されており、メッシュスクリーン16の外周面には製版済みのマスタ18が巻装されている。多孔性支持板14は、ステンレス材の薄板で形成されている。
図示しないが、インキ溜まり部28にはインキの有無を検知するためのインキ検知手段がブラケット26に支持されて設けられており、このインキ検知手段からの検知信号に基づいてインキ分配部材20からインキが適宜供給されるようになっている。
戻し部材32は可撓性を有するマイラーで、固定片32aと、可動片32bとからなる側面ク字状に形成されており、掻取部材30の自由端30b近傍に一体に固定されている。
掻取部材30はブラケット26に対して間接的に固定してもよい。すなわち、本参考例におけるブラケット26は従来のものに比べて掻取部材30を固定するための下方突縁26aを有するように形成したが、従来のブラケットにアーム部材を固定し、そのアーム部材に掻取部材30を固定するようにしてもよい。
印刷時に使用されずに版胴2の内周面に残ったインキは、印刷工程直後に掻取部材30によって掻き取られる。掻き取られたインキは掻取部材30の自由端30b側と戻し部材32とで区画される狭い空間内に一旦溜められながら戻し部材32の作用によってインキローラ22の外周面に還流される。戻し部材32の可動片32bは可撓性を有しているので、インキローラ22上のインキを堰き止めることはなく、圧力や粘度の変動に対応して任意に変位し、溜められた回収インキをインキローラ22上に戻す。この可動片32bの変位は、可動片32bの背後の空間34の存在によって可能となっている。
戻し部材32が無くても掻き取られたインキは掻取部材30を競り上がって溜まるため、インキローラ22への還流作用が生じるが、この場合にはインキ溜まりの容積が大きくなるので回収されたインキの粘度変化による問題が生じる。
これに対し、本参考例では戻し部材32を掻取部材30の自由端30b近傍に設けて回収インキの貯留量が少なくなるようにしているので、粘度変化の影響を極力小さくすることができる。
掻取部材30の寸法や版胴2の内周面に対する接触角θの大きさ等は、摩擦や印刷圧力変動等による振動でインキの回収むらが起こらないように、実験結果を踏まえてその適正値が決定されるものである。
掻取部材30の材質としては、他に、厚みが0.1mm程度のステンレス薄板(SUS420やSUS304等)を採用できる。また、プラスチック等の弾性材料で形成してもよく、かかる観点から厚みが1mm程度のウレタンブレード等を採用することもできる。
また、本参考例では多孔性支持板14の厚みを0.13mm以下としており、従来の版胴を利用した場合に比べてさらに放置後の立ち上がり特性を向上させることができる。その理由を以下に説明する。
従来のように版胴2の厚みが大きい場合には、開孔に存在するインキの量も多くなるため、内周面のインキを回収するだけでは放置後の立ち上がり特性を十分に向上させることができない。
そこで、印刷工程直後に版胴2自体に保持される回収し得ないインキ量そのものを低下させることとした。
実験機としてリコー販売のVT6000を使用し、印刷用紙25としてリコーT6200を使用した。実験環境は常温常湿である。図4におけるVT6000は、市場機としての厚み、すなわち従来の版胴厚みを意味する。
実験の結果、従来の版胴厚みの場合でもインキ回収手段8による滲み改善効果が表れているが、版胴厚みを0.17mmにしたあたりからほぼ実用上満足できる状態となることが判った。
この結果は、使用するインキの種類によっても当然影響される。試しに、インキに含まれるカーボン量、インキに用いるオイルの粘度特性等を振った実験(インキ粘度5Pa・sec〜40Pa・sec、カーボン含有量重量比3%〜20%)も行ったが、傾向は同じで、許容できる状態になる版胴厚みの値が若干変動するのみであった。これらの実験の結果、版胴厚みを約0.13mm以下にしておけば、広範囲に亘るインキ特性に対して放置後の立ち上がり特性の改善が見られることが確認された。
この種の孔版印刷装置では、放置後の立ち上がり時の開孔パターンに対応する濃度ムラ、いわゆる孔目が表れ易いという問題があるが、従来においては、開孔のピッチ及び開孔の径を、実際の印刷状態を見ながら試行錯誤的に修正し、最終的に濃度ムラが目立たない寸法に到達しているが、本参考例では、開孔ピッチを、人間の視覚の空間分解能における空間周波数に対応付けて理論的に決定することとした。
本参考例では、空間分解能を与えるVTF(Visual Transfer Function)の式として、公知の文献中で良く用いられる以下のもの
を採用した。
紙面での線密度をL(lp/mm)、紙面までの距離をD(mm)として、
網膜上での空間周波数Uは、 U=(π/180 )×L×D
空間分解能Sは、
S=5.05×exp(-0.138 ×U)×(1-exp((-0.1×U))
本発明者らの実験によれば、人間の視覚に最大感度を与える周波数を超えて相対感度が1/2程度となる開孔ピッチ対応周波数よりも斜線で表示した高周波数側に開孔ピッチを設定すると、孔目に起因する周期的濃度ムラが目立たなくなることが判明した。
これを受けて、本参考例では、開孔ピッチPを0.3mm以下とし、開孔径dは開孔ピッチPの1/2以下、好ましくは1/3以下とすることとした。
開孔径を上記開孔ピッチの1/2以下にする理由は、インキがその径以上に拡がること、インキの有無の繰り返し(ドットの点在)が開孔ピッチで規定されることなどから、開孔ピッチの半分以下でないと、一つの開孔自体が持つ空間周波数成分(開孔一つ一つのフーリエ変換成分から規定される)の低域側が大きくなってムラが目につくようになるためである。換言すれば、ドットの並びを密にしてもドットの径が大きいと一つ一つのドットが目につくようになるからである。
かかる観点から、本参考例では、開孔ピッチP=0.3mm、開孔径d=0.1mm、板厚t=0.1mmとし、エッチング加工により形成した。
薄肉の版胴でも構成要素として存在するための基本的剛性はフランジ12,12による両端部支持によって確保されており、問題となるのは印刷ニップ部での変形だけである。
本参考例ではインキ回収手段8が印刷ニップ部の近傍において版胴内周面を弾性力の下にバックアップしており、これにより上記寸法レベルの薄肉の版胴2の使用が可能となっている。すなわち、インキ回収手段8は、版胴2の内周面に残ったインキを回収するだけでなく、同時に、放置後の立ち上がり特性の改善を十分に満足させるための版胴2の薄肉化における補強部材としても機能しているのである。
本参考例においても戻し部材32の背面に位置する空間34によって戻し部材32の変位が確保され、インキローラ22上のインキを堰き止めることなく回収したインキをインキローラ22へ還流させることができる。一つの素材を折り曲げるだけであるので、上記参考例に比べて製作が容易となる。
このような可動構成を有しない固定型のインキ回収手段8は構成が簡単でブラケット26等に容易に取り付けることができるので、既存の版胴にもほどんど設計変更なしに実施することができる。すなわち、低コストで簡単な構成の付加で既存の孔版印刷装置の放置後の立ち上がり特性を向上させることができる。
図示しないが、インキ回収手段8を固定せずに、版胴2の内周面に対して接離可能とし、継ぎ目の通過時には内周面から離れる構成とすることもできる。このようにすれば継ぎ目が掻取部材30を通過する時の振動・衝撃を回避することができる。
既述のように、従来では、裏移りやドットの過剰太り等のインキ供給過多の問題に対処すべくインキローラ22上のインキ層の厚みを小さくすると、層厚みの変動等により筋状のムラが生じてこれが濃度ムラとして表れ易い、という問題があった。
本実施例は、上記インキ供給過多の問題と濃度ムラの問題を同時に解消する一例である。
制流板44は、平板状の固定部44aと、湾曲状の制流部44bとから構成されており、固定部44aを介してブレード42の先端部上面に固定されている。
図12は、上記スクレーパ40を有する構成におけるインキローラ22上のインキ層厚みと、ドクターギャップ(インキローラ22とドクターローラ24間の隙間)との関係を示す実験グラフである。このグラフから明らかなように、リバースローラ型とした場合、インキローラ22上のインキ層の厚みの規制はほぼ直線的に安定に変化しており、これによりインキローラ22上のインキ層の厚みを、ドクターギャップ以下にすることができる。
本実施例では、インキ回収手段8と併用する構成としたので、放置後の立ち上がり特性の改善を十分に行えるとともに、インキ供給過多による問題を解消できることになる。
なお、スクレーパ40を設けるだけの構成としてもよく、この場合であってもインキ供給過多の問題を解消する観点から、従来に比べて印刷物の品質向上への貢献度は大きいと言える。
スクレーパ40は、ブレード42と制流板44との組み合わせ構成としたが、ブレード42のみの構成でも上記鏡面形成機能は得ることができ、また、同一材料で一体成形してもよい。
構成を簡易化する観点から、ドクターローラ24に代えてドクターブレードを用いてもよいが、ゴミ詰まり等に対する信頼性がドクターローラ方式に比べて劣ることが実験により確認されている。
図13は、その対策の一例を示すものである。
本実施例では、インキローラ22とドクターローラ24との間に、ドクターギャップ部Gを清掃する清掃手段46が設けられている。清掃手段46は、ブラケット26(図示省略)間に支持された軸48と、この軸48に摺動自在に嵌合されたブロック状の移動部材50と、この移動部材50に基端を固定されるとともに自由端がドクターギャップ部Gに入り込むように設けられた糸状又は帯状のクリーニング部材52等から構成されている。
本実施例における清掃手段54は、ブラケット26(図示省略)間に支持された軸56と、この軸56に摺動自在に嵌合されたブロック状の移動部材58と、この移動部材58に固定されたブラシ状のクリーニング部材60等から構成されている。駆動構成、駆動方式及び清掃タイミングは清掃手段46と同様である。
本実施例における清掃手段62は、ドクターギャップ部Gを挟んで対向する位置をもってブラケット26(図示省略)間に支持された軸48,48と、この軸48,48に摺動自在に嵌合されたブロック状の移動部材50,50と、この移動部材50間にドクターギャップ部Gを貫通して固定された糸状又は帯状のクリーニング部材64等から構成されている。駆動構成、駆動方式及び清掃タイミングは清掃手段46と同様である。
本実施例における清掃手段66は、ブラケット26(図示省略)間に軸67を介して回転自在に支持された二股状のアーム部材68と、このアーム部材68の一方のアーム68aに固定されドクターローラ24の軸方向に亘って延びるゴミ回収部材70と、ブラケット26(図示省略)を介して固定された回収ホッパ72等から構成されている。
清掃がなされる場合には、アーム部材68はゴミ回収部材70がドクターローラ24の外周面に接する位置に位置付けられ、ドクターローラ24は逆向きに回転される。この場合、スクレーパ40はドクターローラ24から離れる。ゴミ回収部材70にインキと共に溜まったゴミは流動状態で滴下し、回収ホッパ72内に貯留される。
ゴミ回収部材70としては、スポンジやウレタンフォームを採用することができる。
特に、インキローラ22と版胴2の内周面との接触部位及びインキ回収手段8と版胴2の内周面との接触部位では磨耗によるゴミの発生が多いと考えられる。
これらの磨耗ゴミの分散を抑えて効率的に捕獲する実施例を、図17に基づいて説明する。
本実施例におけるインキ回収手段8は、掻取部材74と、戻し部材76等を有しており、固定方法及び材質は図1で示したものと同様である。掻取部材74の先端側下方には、インキローラ22の軸方向に延びる断面矩形状の挿通部78が形成されており、この挿通部78には断面形状が同じで寸法が僅かに小さい柱状ないし棒状の永久磁石80が挿入されている。磨耗によってゴミとしての金属屑が発生しても、これらのゴミは永久磁石80の磁力によって掻取部材74の磁石対応表面に吸着され、集められる。
また、版胴2の外部に位置する図示しないインキタンクの交換などによって、インキ供給経路を伝わって外部からゴミが侵入する可能性があるが、インキタンクの取付口に、ドクターギャップよりも目の細かい着脱可能なストレーナを設置することによりゴミの侵入を未然に防止することができる。
2 版胴
22 インキ供給部材としてのインキローラ
8 インキ回収手段
30 掻取部材
32 戻し部材
30b 自由端
26 支持部材としてのブラケット
36 回転体としてのローラ
38 回転体としての回転翼
P 開孔のピッチ
d 開孔の径
24 ドクターローラ
28 インキ溜まり部
40 スクレーパ
44 制流板
46,54,62,66 清掃手段
Claims (3)
- 版胴と、この版胴の内部に設けられ版胴内周面にインキを供給するインキローラと、このインキローラとの間に楔状のインキ溜まり部を形成するように僅かな隙間をおいて設けられ上記インキローラへ供給されるインキの層厚を規制するドクターローラとを有する孔版印刷装置において、
上記ドクターローラが上記インキローラと同一回転方向に回転され、上記インキ溜まり部の上方には、上記ドクターローラの外周面のインキを掻き取ってインキ溜まり部に戻すスクレーパが設けられ、
上記スクレーパは、インキを掻き取る側の先端が上記ドクターローラの外周面に接触した状態で固定されていることを特徴とする孔版印刷装置。 - 請求項1記載の孔版印刷装置において、
上記スクレーパが、掻き取ったインキの競り上がりを防止する制流板を有していることを特徴とする孔版印刷装置。 - 請求項1又は2記載の孔版印刷装置において、
上記インキローラとドクターローラの間の隙間を清掃する清掃手段を有していることを特徴とする孔版印刷装置。
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