JP4839973B2 - セルロース混合エステル交絡マルチフィラメント - Google Patents

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Description

本発明は、セルロース混合エステルを主成分とする交絡マルチフィラメントに関する。より詳しくは、多数の交絡を有することで製織、製編等の繊維高次加工における工程通過性に優れたマルチフィラメントに関する。
セルロースアセテート系繊維は、ポリエステル繊維やポリアミド系繊維等の合成繊維にはない優れた発色性と光沢性を有し、また柔軟性にも優れていることから、婦人用途向けの高級衣料分野に利用されている。しかしながら、近年の製織の機械性能の向上により、製織速度の高速化が行われており、強力や伸度等の機械的性質が低いアセテート繊維では、綜こうや筬の運動による経糸同士の摩擦、経糸と綜こう及び筬との摩擦等によって、単糸切れや毛羽立ちが発生する問題が顕在化している。このような製織時のトラブルを防止するため、ポリエステル繊維など機械特性の優れた繊維と混繊した上で、適度の交絡を付与する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリエステル太細マルチフィラメント仮撚加工糸とセルロース系マルチフィラメント糸からなる交絡数が30〜70個/mの範囲にある交絡糸が提案されている。この技術ではポリエステルとの複合糸となるため、得られる繊維の糸条の弾性率が高くなってしまい、得られる布帛の曲げ剛性が高くなるために、柔軟な風合いを呈する織物が得られないという問題がある。また、明細書中においてセルロース系マルチフィラメント糸として挙げられている、いわゆる再生繊維であるレーヨン、ポリノジックレーヨン等のセルロース系繊維や半合成繊維であるセルロースアセテート繊維はあまりに多数の交絡を付与した場合には毛羽立ちなどの欠点が発生する問題があった。
また特許文献2には異形断面糸の太繊度と細繊度からなるアセテート異繊度マルチフィラメント交絡糸が提案されている。この技術に関してはアセテート繊維のみからなるため、ポリエステル繊維との混繊を行った場合に比べると糸条の弾性率が低くなり、最終製品としては相対的に柔軟になるものの、太繊度のアセテート繊維を含むものであるためにその柔軟性はなお改善の余地があるものであった。また、アセテート繊維の繊維力学特性に起因して、多数の交絡を付与することができず、無撚無糊の経糸として用いうるものではなかった。具体的には40個以上/mの交絡を付与した場合には糸質ダメージが大きく毛羽の発生が認められやすくなるという問題を有していた。これらのことから、多数の交絡を有し、無撚、無糊の経糸としても使用可能であり、エアージェットで製織する際の高速解舒性にも優れ、柔軟で品位の高い布帛を与えうるセルロース系繊維は存在していなかった。
特開2001−316952号公報(請求項4) 特開2002−105784号公報(請求項3)
本発明の課題は、上記従来技術を解決し、特定条件の交絡数と弾性率を有するセルロース混合エステルマルチフィラメントを用いることにより、無撚、無糊の経糸としても使用可能であり、製織する際の繊維パッケージからの高速解舒性にも優れ、柔軟で高品位な布帛を与えうる交絡マルチフィラメントを提供することにある。
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の交絡数、弾性率により無撚、無糊の経糸としても使用可能であり、エアージェットで製織する際の高速解舒性にも優れ、柔軟で高品位な布帛を与えうる交絡マルチフィラメントを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
本発明の第1の発明はセルロース混合エステルを主成分とし、可塑剤5〜30重量%を少なくとも含有する組成物からなるマルチフィラメントであって、交絡数が53〜120個/mであり、弾性率が40cN/dtex以下であることを特徴とするセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントである。
第2の発明は、セルロース混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする第1の発明に記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントである。
第3の発明は、セルロース混合エステルが70〜95重量%と可塑剤5〜30重量%とを含有することを特徴とする第1の発明あるいは第2の発明に記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントである。
第4の発明は、強度が1.1〜3.0cN/dtexであることを特徴とする第1から第3の発明のいずれか1項に記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントである。
本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントは特定条件の交絡数と弾性率を有する工程通過性に優れた繊維である。該繊維は製織する際に単糸切れや毛羽立ちがきわめて少なく、無撚、無糊の経糸としても使用可能であるという利点を有している。また弾性率が低いことによって得られる布帛は柔軟性に富むものとなる。そのため、本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントは、裏地や高級婦人用織物用原糸として特に好適に用いることができる。
本発明のセルロース混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものである。セルロース混合エステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどが例示でき、なかでもアセチル基とプロピオニル基によって置換されたセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基によって置換されたセルロースアセテートブチレートは、適度な吸湿性、良好な寸法安定性を有しているため、好ましい。この場合、アセチル基およびアシル基(プロピオニル基またはブチリル基)の平均置換度は、下記式を満たすことが好ましい。なお平均置換度とはセルロースのグルコース単位あたりに存在する3つの水酸基のうちアシル基が化学的に結合した数を指す。
2.0≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦3.0
1.5≦(アセチル基の平均置換度)≦2.5
0.5≦(アシル基の平均置換度)≦1.5
上記式を満たすセルロース混合エステルは、布帛とした場合でも、熱軟化温度が高く、適度な吸湿性を有するものとなるため好ましい。また、必要に応じて添加することのできる可塑剤との相溶性も高いため、繊維製造工程中における可塑剤のブリードアウトを予防することができるため好ましい。
セルロース混合エステルの重量平均分子量(Mw)は5万〜25万であることが好ましい。Mwが5万以上であれば、セルロース混合エステル組成物からなる繊維の強度などの機械的特性が良好であるため好ましい。分子量は高ければ高いほど機械特性が良好となるが、一般にMwを25万より高くすることは困難である。良好な機械的特性の観点から、Mwは6万以上であることがより好ましく、8万以上であることがさらに好ましい。なお重量平均分子量(Mw)とは、実施例にて詳細を説明するGPC測定により算出した値をいう。
本発明におけるセルロース混合エステルを主成分とする組成物には、可塑剤が含有されており、可塑剤としてはセルロース混合エステルに混和するものであれば用いうることができる。具体的にはセルロース混合エステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリン系化合物、ポリアルキレングリコールなどの多価アルコール類が好適であり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン−プロピレン)グリコールなどが挙げられ、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
本発明におけるセルロース混合エステルを主成分とする組成物中の可塑剤の含有量は、5重量%〜30重量%である。可塑剤の含有量が5重量%より多い場合には、交絡が多く付与した場合でも繊維を柔軟化させる可塑剤の効果によって、毛羽の発生やフィブリル化の発生などが抑制されるという好ましい効果がある。可塑剤含有量が多いほど、交絡を有するマルチフィラメントにおいても、毛羽やフィブリル化などの繊維欠点の発生が少なくなるため好ましい。可塑剤の含有量は、より好ましくは8重量%以上、最も好ましくは10重量%以上である。一方、可塑剤の量は30重量%以下であればフィラメント表面への可塑剤のブリードアウトや、繊維の強度低下など、高次工程トラブルを生じる可能性のある現象を抑制することができるため好ましい。可塑剤のブリードアウトおよび機械特性維持の観点からは、可塑剤の含有量は25重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。なお、セルロース混合エステル組成物への可塑剤の添加方法は、公知の方法を用いることができ、例えばヘンシェルミキサーによる混合やエクストルーダーを用いた溶融混練などをあげることができる。
本発明におけるセルロース混合エステルを主成分とする組成物は、ホスファイト系などの着色防止剤を含有することができる。ホスファイト系着色防止剤を含有している場合、繊維が高熱の状態におかれた場合にも繊維色調が悪化することがないという効果がある。ホスファイト系着色防止剤の含有量は、組成物に対して0.005重量%〜0.500重量%であることが好ましい。含有量を0.005重量%以上とすることで高熱時の組成物の着色が抑制できるため好ましい。より好ましくは0.010重量%以上、さらに好ましくは0.050重量%以上である。一方、含有量を0.500重量%以下とすることにより、セルロース混合エステルの分子鎖を切断し重合度を低下することによる劣化を抑制することができ、得られるマルチフィラメントの機械的特性が良好となるため好ましい。より好ましくは0.300重量%以下、さらに好ましくは0.200重量%以下である。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの交絡数は53〜120個/mである。交絡数が53個/m以上の場合、マルチフィラメントの糸条の収束性が良好であるため、製織時に糸条が割れて単繊維に分かれることによる、単糸切れを誘発することはなく、得られる織物も毛羽やフィブリルの発生などがないため高品位のものとなる。また、交絡数は120個/mより多くしても製織性を向上させる効果はそれ以上良好とならず、逆に繊維の良好な光沢感が失われることがあるため好ましくない。そのため、交絡数は、より好ましくは53〜110個/m、さらに好ましく53〜100個/mの範囲にあるものである。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの弾性率は40cN/dtex以下である。弾性率が40cN/dtex以下であれば、糸条の曲げ剛性が小さく、本発明の目的である無撚、無糊での製織において、繊維表面に毛羽が生じにくくなり、製織性が向上する。また、弾性率は最終製品としたときの風合いにも大きく作用する。弾性率は低いほど最終製品の曲げ剛性が小さくなり、柔軟な風合いを呈するようになる。弾性率は38cN/dtex以下であることがより好ましく、35cN/dtex以下であることがさらに好ましい。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの強度は1.1cN/dtex以上である。強度が1.1cN/dtex以上であれば、製織や高速解舒を行う際、走行糸条時にかかる張力による糸切れが抑制でき、さらに、交絡処理をする際の断糸率の低下にもつながる。また最終製品の強力も不足することがないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は高ければ高いほど好ましいが、具体的には1.2cN/dtex以上であることがより好ましく、1.3cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの伸度は15%〜50%の範囲にあることが好ましい。伸度が15%以上であれば、綜こう及び筬の運動衝撃力を吸収する能力が向上し、断糸率が低下する。50%以下であれば、織物との寸法安定性が良好となる。15%〜45%にあることがより好ましく、15〜40%にあることがさらに好ましい。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの繊度変動値(U%)は3%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値U%が3%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを意味しており、高次工程通過時の断糸率を低下するため好ましい。繊度変動値は低い程よく、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.5%以下である。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの糸/糸動摩擦係数は0.05〜0.30の範囲にあることが好ましい。0.05以上であれば、交絡効率が向上し、ドラム巻き上げ時にドラム端面部で糸落ちが発生しないため、最終的な布帛の品位を悪化させることがない。0.30以下であれば経糸同士及び、経糸と緯糸の摩擦低下により、単糸切れや毛羽立ちが発生しない。糸/糸動摩擦係数は0.12〜0.28の範囲にあることがより好ましく、0.10〜0.25の範囲にあることがさらに好ましい。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの糸/金属動摩擦係数は0.50〜1.20の範囲であることが好ましい。0.50以上であれば解舒時の糸条の走行安定性が良好であり、断糸率が減少するとともに、巻取り機によるドラム巻上げ時にドラム端面部で綾落ちが生じないため、最終的な布帛の品位を悪化させることが無い。また、1.20以下の範囲であれば経糸と綜こうおよび筬との摩擦による単糸切れや毛羽立ちが発生しない。糸/金属動摩擦係数は0.70〜1.00がより好ましく、0.50〜0.90がさらに好ましい。
本発明におけるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントからなる繊維の断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形、中空、その他公知の異形断面であってもよく、目的に合わせて適宜選択すればよい。
次に本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの製造方法について説明する。
本発明のセルロース混合エステルを主成分とする組成物からなるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントは、溶融紡糸法によって繊維化することができる。溶融紡糸を採用する場合には、セルロース混合エステルを主成分とする組成物を溶融紡糸機へ供給し、所望の温度で溶融させた後、フィルターパックで濾過し、口金から紡出することができる。
図面に基づいて本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの製造方法の一例を具体的に説明する。図1は、本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの製造方法に用いる溶融紡糸装置の一実施態様を示す図である。図1において、1はスピンブロック、2は溶融紡糸パック、3は紡糸口金、4は冷却装置、5は紡出糸条、6は給油装置、7は第1ゴデットローラー、8は第2ゴデットローラー、9は交絡処理装置、10は巻取り機である。
図1において、溶融された組成物は、スピンブロック1に装着された溶融紡糸パック2の下部に取り付けられた紡糸口金3の細孔より押し出される。押し出された紡出糸条5は、冷却装置4により冷却されながら通過し、第1ゴデットローラー7及び、第2ゴデットローラー8を介して巻取り機10に巻き取られる。この際、交絡処理は第1ゴデットローラー7と第2ゴデットローラー8の間で交絡処理装置9にて交絡処理を行うことができる。溶融紡糸を行う場合には、紡糸温度は220℃〜280℃であることが好ましい。紡糸温度を220℃以上とすることにより、紡糸口金より吐出された糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー起因の短ピッチの周期斑が現れず、均一な繊維を得ることができる。更には紡糸口金より吐出した糸条の細化過程がスムーズになるため、繊維特性が良好となり、また製糸性が安定する。また紡糸温度を280℃以下とすることにより、組成物の熱分解を抑制できるため、得られる繊維の分子量低下による機械的特性不良や着色による品位悪化が発生しない。紡糸温度は230℃〜270℃であることがより好ましく、240℃〜260℃であることが更に好ましい。
本発明の範囲の交絡数を得るための交絡装置は、公知の交絡付与装置を用いることができる。例えば、特開平2−61108号の公報に記載の交絡ノズルである流体噴射孔が2個で、各々の噴射孔の中心線が1点で交差するものが挙げられるが、その他公知の交絡付与装置であってもよく、目的に合わせて適宜選択すればよい。
交絡付与の際の圧縮空気圧は目的の交絡数において任意に選択できるが、1.0MPa以下であることが好ましい。交絡の圧縮空気圧を1.0MPa以下とすることで、多数の交絡が入った工程通過性に優れた繊維が得られ、単糸切れや毛羽立ちも少なく、織物の光沢品位も良好である。交絡の圧縮空気圧は0.9MPa以下であることが好ましく、0.8MPa以下であることがより好ましく、0.7MPa以下であることがさらに好ましい。
本発明の範囲の交絡数を有するマルチフィラメントを得るためには、マルチフィラメントの紡糸工程において交絡を付与することもできるし、あるいはマルチフィラメントの紡糸が終了した後、紡糸とは別の工程において交絡を付与することもできる。交絡付与の位置に関しては紡糸工程で交絡処理をする場合、第1ゴデットローラーの上で交絡処理をすること、第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラーの間で交絡処理をすること、第2ゴデットローラーとワインダー間で交絡処理をすることなど任意に選択できる。好ましくは、単糸切れや毛羽立ちの発生防止のため、走行糸条の張力が低い第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラーの間で交絡処理をすることが好ましいが、第1ゴデットローラーの上で交絡処理を行うことも好ましく選択できる。
溶融紡糸において紡糸口金より紡出された糸条に関しては、冷却風をあてることによって均一に冷却することが好ましい。冷却風速度は0.01m/秒〜0.50m/秒であることができる。冷却風速度がこの範囲にある場合、紡糸口金より吐出された糸条を構成する単糸の冷却が、均一となり、得られる繊維は均一性の優れたものとなる。冷却風速度は0.10m/秒〜0.45m/秒であることがより好ましく、0.20m/秒〜0.40m/秒であることが更に好ましい。
溶融紡糸の際、組成物の含水分率は0.30%以下としておこくことが好ましい。含水分率が0.30%以下である場合、溶融紡糸時、水分により発泡することもなく、安定して紡糸を行うことができ、得られる繊維の機械的特性も良好となる。含水分率は0.20%以下であることがより好ましく、0.10%以下であることが更に好ましく、0.08%以下であることが最も好ましい。
溶融紡糸の際、紡糸速度は1000m/分〜3500m/分の範囲であることが好ましい。紡糸速度を1000m/分〜3500m/分とすることで、得られる繊維の分子配向が促進され、繊維特性に優れた繊維を得ることができる。紡糸速度は1100m/分〜3000m/分であることがより好ましく、1200m/分〜2500m/分であることが更に好ましい。
溶融紡糸の際、紡糸ドラフトは100〜500の範囲であることが好ましい。紡糸ドラフトを100〜500とすることで、得られる繊維の分子配向が十分に促進されるため繊維特性は優れたものとなり、また降伏点も十分高くなる。紡糸ドラフトは120〜400であることがより好ましく、150〜350であることが更に好ましい。なお紡糸ドラフトとは、紡糸速度を紡糸口金より吐出された糸条の線速度で除した値をいう。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.GPCによる重量平均分子量(Mw)測定
セルロース混合エステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒:テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
B.強度、伸度、弾性率
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。弾性率(cN/dtex)は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定した。すなわち、荷重−伸長曲線を描き、この曲線より原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点を求め、その値を繊度で除した値を弾性率とした。なお測定回数はそれぞれ5回とし、その平均値を強度、伸度、弾性率とした。
C.繊度変動値(U% Half)
U%測定は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/m
なお測定回数は5回であり、その平均値をU%値とした。
D.交絡数
交絡数は、JIS L 1013(1999)に記載の方法により測定を行った。すなわち試料の一端を適切な垂下装置の上部つかみに取り付け、つかみ部から1m下方の位置におもりをつり下げながら垂直に垂らし、試料の上部つかみから1cm下部の点に糸収束を2分割するようにフックを挿入し、フックの他端に所定荷重を取り付け、約2cm/秒の速度でフックを下降させ、フックが糸の交絡によって停止したまでのフックの下降距離を求め、次式により交絡数を求めた。
交絡数=1000/下降距離
なお、測定回数は3回であり、その平均値を交絡数とした。
E.糸/糸動摩擦係数
糸/糸動摩擦係数は、摩擦係数測定装置(英光産業(株)製)により測定した。糸の進行方向に沿って、入りのセパレートローラーの糸張力をT、ローラーを介して出のセパレートローラーの糸張力をTとし、ローラー上で2回捻りを入れた。糸/糸動摩擦係数は下記式及び条件により求めた。なお、測定回数は3回であり、その平均値を糸/糸動摩擦係数とした。
摩擦係数(μ)=ln(T/T)/π
供糸速度 :55m/分
測定時間 :30秒
F.糸/金属(鏡面)動摩擦係数
糸/金属摩擦係数は摩擦係数測定装置(英光産業(株)製)により測定した。糸の進行方向に沿って、入りのセパレートローラーの糸張力をTとし、ローラーを介して、出のセパレートローラーの糸張力をTとして次式、下記式及び条件により糸/糸動摩擦係数を求めた。この時、入り及び出のセパレートローラーとローラーの角度は90°とした。また、測定回数は3回であり、その平均値を糸/金属動摩擦係数とした。なお、金属とは鏡面のことをいう。
摩擦係数(μ)=ln(T/T)/π
供糸速度 :2.5m/分
測定時間 :60秒
G.織物品位の評価
目視検査により織物の品位を評価した。品位に関しては、光沢性、毛羽及びフィブリルの有無を目視確認し、毛羽及びフィブリルが全くみられず、光沢性、風合いに優れた非常に高品位のものを◎、毛羽及びフィブリルは全くみられないが、光沢性、風合いが前者より若干劣り、やや高品位なものを○、毛羽やフィブリルが若干見られ、光沢性がやや失われ、風合いが硬いものを△、毛羽やフィブリルが著しく、光沢性が見られず、風合いが硬いものを×とした。これらのうち、◎と○を合格、△と×は不合格とした。
H.解舒性試験
津田駒工業(株)製のAJLを用いて製織を行い、解舒速度を1000mpmとし、解舒性を目視確認し、糸が進行方向に対してスムーズに解舒され、糸切れがなかったものを◎、解舒にやや引っ掛かりがあるが、糸切れなく解舒されたものを○、解舒がスムーズではなく、そして単糸割れや、糸切れが発生したものを×とした。
I.毛羽測定
東レエンジニアリング(株)製のフライカウンター測定機を用いて毛羽数の測定を行った。サンプル糸を500m/分で回転する第1ホットローラーにて引き取り、第1ホットローラーと同じ速度で回転する第2ホットローラーを介してサンプル糸をサクションガンで吸引した。フライカウンター測定機は第1ホットローラーと第2ホットローラーの間に設置し、毛羽数の測定を行った。なお、測定長は100000mである。
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
実施例1
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート82重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.9重量%およびホスファイト系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw16.0万)を得た。
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い(乾燥後の含水分率570ppm)、メルター温度260℃にて溶融させ、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量15.0g/分の条件で、0.23mmφ−0.60mmLの口金孔を48ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を25℃、風速0.30m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1500m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.09cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。この際、第1ゴデットローラーと第2ゴデットローラーの間で弛緩させながら交絡ノズルにて作動圧空圧0.6MPaで交絡処理をした。紡糸、交絡処理とも製糸性は良好であり糸切れは発生しなかった。また、得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は、強度が1.2cN/dtex、伸度が23%、弾性率が32cN/dtex、U%(H)が0.80%、交絡数73個/mであり、かつ毛羽数は0個/100000mであった。
得られたマルチフィラメントを撚糸やサイジングを特に施さずに、経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、糸の解舒性は良好であり、また、織物の光沢性、風合いも良好で、毛羽及びフィブリルの発生もみられず、織物品位は良好であった。
実施例〜5、比較例5
交絡処理の作動圧空圧を0.2〜1.0MPaと変更する以外は実施例1と同じ条件で実施した。実施例1と同様に紡糸、交絡処理とも製糸性はいずれも良好であり、糸切れは発生しなかった。弾性率はすべて40cN/dtex以下であり、十分に柔軟な繊維であったので、得られる織物の柔軟性は優れており、毛羽及びフィブリルの発生は見られない光沢性に優れた高品位の織物が得られた。また、得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は強度が1.2cN/dtex〜1.3cN/dtex、伸度が23%〜26%であり、物性は良好であり、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、糸の解舒性は良好であった。
実施例6
実施例1での可塑剤の含有率を24.9重量%、乾燥後の含水分率を850ppm、と変更する以外は実施例1と同じ条件で実施した。実施例1と同様に紡糸、交絡処理とも製糸性はいずれも良好であり、糸切れは発生しなかった。弾性率は24cN/dtexであり、実施例2〜5よりさらに柔軟な繊維であったので、得られる織物の柔軟性および織物品位については優れたものが得られた。また、得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は強度が1.1cN/dtex、伸度が35%であり、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、表面に顕在化したPEGのため、滑りが良く、糸の解舒性はさらに良好であった。
実施例7
実施例1での可塑剤の含有率を14.9重量%、乾燥後の水分率を550ppmと変更する以外は実施例1と同じ条件で実施した。実施例1と同様に紡糸、交絡処理とも製糸性はいずれも良好であり、糸切れは発生しなかった。弾性率は37cN/dtexであり、実施例2〜5より剛性は大きいため、得られる織物の柔軟性はやや劣るものの、毛羽やフィブリルの発生は無く、得られる織物の織物品位については良好であった。また、得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は強度が1.4cN/dtex、伸度が21%であり、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、ガイドの箇所でやや引っ掛かりがあるように見られたが、糸の解舒性は問題なかった。
実施例8
実施例1での可塑剤をグリセリンジアセトモノオレート(G−AAO)17.9重量%に変更する以外は実施例1と同じ条件で実施した。実施例1と同様に紡糸、交絡処理とも製糸性はいずれも良好であり、糸切れは発生しなかった。弾性率は30cN/dtexであり、毛羽やフィブリルの発生は無く、得られる織物の柔軟性及び得られる織物の織物品位については良好であった。また、得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は強度が1.1cN/dtex、伸度が24%であり、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、表面に顕在化した可塑剤の影響により滑りが良く、糸の解舒性は良好であった。
Figure 0004839973
比較例1
交絡処理の作動圧空圧を0MPa、実質的には交絡を付与しない条件で実施した以外は実施例1と同じ条件で実施した。紡糸、交絡処理とも製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は、強度が1.2cN/dtex、伸度が24%、弾性率が28cN/dtex、U%(H)が0.90%、交絡数0個/mであり、かつ毛羽数は6個/100000mであった。
得られたセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントを用いて津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、糸の走行時に単糸が割れることによる糸切れが発生した。また織物の品位、光沢性に関しては問題のないレベルであったが、毛羽の発生が多数みられ、実用的には乏しいものであった。
比較例2
交絡処理の作動圧空圧を1.1MPa、とした以外は実施例1と同じ条件で実施した。紡糸時には過度の圧空量により、油剤が飛散し、糸切れが発生したため、製糸安定性は良好ではなかった。得られた繊維(100デシテックス−48フィラメント)は、強度が1.1cN/dtex、伸度が21%、弾性率が29cN/dtex、U%(H)が0.80%、交絡数131個/mであり、かつ毛羽数は4個/100000mであった。
また、該繊維を用いて津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、糸の走行時には毛羽起因による糸切れが発生した。また、得られる織物についても毛羽やフィブリルの発生が確認され、光沢性も失われて品位としては乏しかった。
比較例3
実施例1での可塑剤の含有率を4.5重量%としメルター温度280℃にて溶融させ紡糸温度280℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量6.1g/分の条件で第1ゴデットローラと第2ゴデットローラーの回転速度を600m/分と変更する以外は実施例1と同じ条件で実施した。紡糸時の糸の伸長粘度が高く、既に巻取り糸への毛羽の発生が確認された。また、得られた糸の弾性率は45cN/dtexであり、糸の剛性が大きく、得られた織物の風合いは硬く、毛羽やフィブリルの発生が確認されており、織物品位は乏しいものであった。また、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、解舒時にガイドとの擦過による、糸切れが多発し、織機の停台回数が多いため、実用的化するためには乏しいものであった。
比較例4
置換度が2.9、平均重合度が360であるセルローストリアセテート(CTA)を用いて塩化メチレン/メタノール=9/1の混合溶媒とする乾式紡糸法により、セルローストリアセテートフィラメントを得た。得られたマルチフィラメント(84デシテックス−20フィラメント)を実施例1と同様に圧空圧0.6MPaで交絡処理をしたところ、時折単糸切れを引き起こし製糸安定性は不良であった。また、得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いて、津田駒工業(株)製のAJLにて製織を行ったところ、糸切れ停台が発生し、得られた織物には毛羽やフィブリルの発生が確認され、織物品位に乏しいものであった。
Figure 0004839973
得られるセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントは工程通過性に優れたものであり、無撚、無糊の経糸として使用可能であり、緯糸としても製織する際の高速解除性に優れている。またソフトな風合いを有しているため、衣料用繊維に好適に用いることができる。
本発明のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメントの製造方法に用いる溶融紡糸装置の一実施態様を示す図
符号の説明
1:スピンブロック
2:溶融紡糸パック
3:紡糸口金
4:冷却装置
5:紡出糸条
6:給油装置
7:第1ゴデットローラー
8:第2ゴデットローラー
9:交絡処理装置
10:巻取機

Claims (4)

  1. セルロース混合エステルを主成分とし、可塑剤5〜30重量%を少なくとも含有する組成物からなるマルチフィラメントであって、交絡数が53〜120個/mであり、弾性率が40cN/dtex以下であることを特徴とするセルロース混合エステル交絡マルチフィラメント。
  2. セルロース混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメント。
  3. セルロース混合エステルを主成分とする組成物が、セルロース混合エステル70〜95重量%と可塑剤5〜30重量%とを少なくとも含有するものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメント。
  4. 強度が1.1〜3.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース混合エステル交絡マルチフィラメント。
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