JP4337344B2 - チーズ状パッケージの製造方法および繊維製品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維のチーズ状パッケージの製造方法に関する。より詳しくは、ポリ乳酸繊維のマルチフィラメントを巻き付けたチーズ状パッケージの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、従来の合成繊維に代替しうる新たな合成繊維素材の開発が切望されている。例えば、従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、自然環境では分解が困難なこと、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
このため近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性があるということで、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0005】
これまでバイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかったところ、近年では、力学特性や耐熱性が比較的高く製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0006】
ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
これまで、ポリ乳酸の製造方法は紡糸速度2500m/分以下で紡糸し、これを2〜4倍程度に延伸するコンベンショナルな合成繊維の溶融紡糸・延伸方法が用いられてきた。しかしながら、この場合には未延伸糸の分子配向が極めて低いため、延伸を行う際に均一に伸長させることが困難であり、毛羽や糸切れが頻発するとともに、得られる延伸糸も繊度の均一性(U%)に劣るものであった。そのため染め斑等の染色異常が発生し、衣料用のように均一に染色することが必要な分野においては実用性のあるものが得られていなかった。
【0008】
このような問題を回避するため、高速で紡糸を行い、配向結晶化した繊維を得る方法が開示されている(特許文献1〜3参照。)。これらの方法によれば、繊度の均一性に優れた繊維が得られ、さらにその後の延伸工程を必要としないため、生産性の高いプロセスであると考えられた。しかしながら、このような高速紡糸を行うと、巻き量が僅か数100gでのサンプリングでは均一性に優れた繊維が得られるものの、1パッケージ当たり3kgを越えるような巻き量になると巻き取られた繊維の収縮によって紙管が変形し、スピンドルから抜けなくなる、いわゆる巻締まりと呼ばれる現象が生じてしまう。
【0009】
また、この巻締まりにより、サドルと呼ばれるパッケージ端面部に耳が立ったような巻き姿不良が生じてしまうことがわかった。このサドル(耳立ち)は、紡糸・巻き取り時に徐々に成長し、酷い場合にはパッケージのバースト(破裂)を誘発する。仮に製品としてパッケージを回収できたとしても、延伸や仮撚での解舒時に糸条が常にサドル部を擦過するため、解舒性が極めて悪く、単巻きや糸切れの原因になる。また、パッケージ端面の周期に一致した欠点が糸長手方向に存在するため、この周期に起因した染色異常が発生し、実用性のある染色布帛が得られないのである。
【0010】
また、このような問題を回避し、十分な強度と弾性率を有するポリ乳酸繊維を製造する方法として、紡糸線上で加熱装置内を通過させて延伸させ、1工程で延伸糸を得る方法が開示されている(特許文献4,5参照。)。この方法によれば、パッケージに巻き取る前に熱結晶化させて繊維構造を安定化させるため、巻締まりはある程度抑制できる。しかしながら、該方法に記載の実施例を追試して得た糸を仮撚加工してみると、繊維構造が既に形成されているために捲縮形態を付与しにくく、良好な品位を有する仮撚糸は得られなかった。更に、本方法はPETやナイロンの様な耐摩耗性に優れた繊維には適しているが、耐摩耗性に問題のあるポリ乳酸では、加熱筒入り口で容易に擦過され、毛羽や糸切れが頻繁に生じてしまうことがわかった。よって本方法はポリ乳酸の様な耐摩耗性に問題のある繊維には適さないプロセスなのである。
【0011】
【特許文献1】
特開平10−37020号公報(段落0012〜0016)
【0012】
【特許文献2】
特開平11−61561号公報(段落0022)
【0013】
【特許文献3】
特開2000−220032号公報(段落0028)
【0014】
【特許文献4】
特開平11−131323号公報(段落0017〜0020)
【0015】
【特許文献5】
特開平11−293517号公報(段落0017〜0020)
【0016】
【特許文献6】
特表平7−504939号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点を克服し、巻姿が良好で高速解舒性に優れ、また延伸性や仮撚加工性にも優れたポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージを提供することを課題とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、50重量%以上が乳酸モノマーで構成されたポリ乳酸の繊維からなり、伸度が30〜100%、ウースター斑U%(Normal)が2.0%以上であるマルチフィラメントを巻き付けてなり、サドルが7mm以下であるチーズ状パッケージの製造方法であって、溶融吐出したポリ乳酸の糸条を、冷却し、糸条の温度がポリ乳酸のガラス転移点よりも10〜50℃低い領域で紡糸油剤を付与した後、紡糸速度2500〜7000m/分で引き取り、複数の引取ロール間で非加熱下に0.05〜3%ストレッチさせた後、巻取張力が0.05〜0.13cN/dtexになるように最終引取ロールよりも低速で巻き取ることを特徴とするチーズ状パッケージの製造方法である。
【0020】
また本発明は、上記の方法で得られたチーズ状パッケージからマルチフィラメントを解除する工程を含むことを特徴とする繊維製品の製造方法である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明でいうポリ乳酸とは、−(O-CHCH3-CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。
【0023】
乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができるためより好ましい。
【0024】
本発明におけるポリ乳酸の繊維は、バイオマス利用、生分解性の観点から、重合体を構成する乳酸モノマーの比率を50重量%以上とすることが必要である。重合体を構成する乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。
【0025】
ただし、この範囲内のポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。
【0026】
また、ポリ乳酸重合体の分子量は、重量平均分子量で5万〜35万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
【0027】
また、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたり、複合(芯鞘、バイメタル)してもよい。さらに改質剤として粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0028】
また、ポリ乳酸中にはラクチド等の残存モノマーが存在するが、これら低分子量残留物は仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発し、また、繊維の加水分解性を促進し、耐久性を低下させる傾向にあるため、その存在量としてはポリ乳酸繊維に対して好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0029】
本発明におけるポリ乳酸の繊維は、滑剤として脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを含有することが好ましい。従来のポリ乳酸繊維は、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドといった汎用の合成繊維と比較して、耐摩耗性が極めて悪い。これは、ポリ乳酸の分子鎖間相互作用が小さく、容易に分子鎖同士が剥がされるためであると考えられる。また、この傾向は高温になるほど顕著になる。そのため、製糸工程や製編織工程において高速で糸を走行させると、容易に繊維が削れて毛羽や断糸が発生したり、酷い場合には融着が生じる。また、製品になってからも繰り返し使用や強い摩擦力が加わると、摩耗により表面が荒れて色調異常をきたす。このような問題に対し、滑剤の添加により繊維の表面摩擦係数が下がるため、過度の温度上昇を抑制したり、破壊に至るまでの応力が加わらない様にすることが可能となる。また脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、一般の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低いために溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こりにくい。さらに高分子量のものが多いために耐熱性が高く、溶融成形で昇華しにくいため滑剤としての機能を損なうことなく、優れた滑り性を発揮する。
【0030】
本発明でいう脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0031】
また、本発明でいうアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0032】
上記化合物の中でも脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がより低いため、より好ましく用いることができ、エチレンビスステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0033】
脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量は、0.1〜5重量%とすることが好ましい。0.1重量%以上とすることで、優れた滑り性を発揮することができる。また、5重量%以下とすることで、繊維の機械的物性が低下や黄味を帯びて染色したときに色調が悪くなるのを防ぐことができる。上記脂肪酸アミドの含有量は、より好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
【0034】
本発明におけるマルチフィラメントは、衣料、インテリア、車両内装といった幅広い用途でも使用できるようにするため、色調の1指標(黄味)であるb*値が−1〜5であることが好ましく、−1〜3であることがより好ましい。なお、従来技術である脂肪酸モノアミドを含有したポリ乳酸繊維は、b*値が高く、黄味が強い傾向になる。これは、脂肪酸モノアミドの熱劣化に加えて、脂肪酸モノアミドが溶融成形時にポリ乳酸ポリマーのカルボニル基と反応し、ジアセトアミド基が形成されるためと考えられる。これに対して、本発明で好ましく用いられる脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは耐熱性に優れており、またアミド基の反応性が低いため、繊維が着色しにくい。
【0035】
本発明におけるポリ乳酸の繊維からなるマルチフィラメントは、伸度が30〜100%であることが必要である。マルチフィラメントの伸度は、その繊維の内部構造と強い相関関係にあり、繊維構造が発達している程、伸度が低くなる。伸度が100%以下の繊維は、配向結晶化が進んでいるためにガラス転移点を超え100℃近傍になっても軟化・流動しにくいため、延伸仮撚等、高温環境下で大変形を受ける場合においても均一な伸長流動が起こる。また、繊維の剛性も高いために撚り掛かり性が良好であり、仮撚ヒーター上でも安定して高い撚数で加撚することが可能であり、高品位の仮撚糸が安定して製造することができる。一方、伸度が30%未満に低くなりすぎると、繊維構造の完全性が高いために捲縮形態が付与しにくくなる。また、マルチフィラメントの製造のし易さや仮撚加工性を考慮すると、伸度は35〜90%が好ましく、40〜80%がより好ましい。
【0036】
また本発明におけるマルチフィラメントは、ウースター斑U%(Normal)が2.0%以下であることが重要である。糸長手方向の繊度斑の指標であるウースター斑U%を小さくすることにより、延伸や仮撚等の糸加工における加工張力の変動を抑制し、工程安定性を高めることができるため、生産性が向上する。更には、得られる糸からなる布帛の染め斑等の欠点が少なくなり、品位の高い製品を得ることができる。ウースター斑U%(Normal)は好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。かかる均一性の高いポリ乳の酸繊維からなるマルチフィラメントは、後述するように紡糸、巻取後の収縮を最小限に抑えることにより得られる。
【0037】
また、本発明におけるマルチフィラメントには、交絡処理が施されCF値が3〜100であることが好ましい。CF値を3以上とすることで、製糸や糸加工、製織時の単糸切れを抑制することができる。また、CF値を100以下にすることで、製織後、表面の均一性が良好な布帛が得られる。CF値はより好ましくは5〜80である。
【0038】
本発明におけるポリ乳酸の繊維からなるマルチフィラメントの繊度は、衣料用途として使用する場合には総繊度が500dtex以下が好ましく、単繊維の繊度は0.1〜6dtexとすることが好ましい。
【0039】
また、本発明におけるポリ乳酸の繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、中空断面、偏平断面、W断面、X型断面その他の異形断面であってもよく、使用用途や狙いとする機能・触感に合わせて適宜選択すればよい。
【0040】
本発明におけるマルチフィラメントは、製糸や仮撚加工、製編織での工程通過性を向上させるため、平滑剤を含有する紡糸油剤が付与されていることが好ましい。ポリ乳酸は、前記したようにポリエチレンテレフタレートやポリアミドといった汎用の合成繊維と比較して耐摩耗性が極めて悪く、そのためポリ乳酸の摩擦特性を十分考慮した油剤設計が好ましい。
【0041】
本発明におけるポリ乳酸の繊維からなるマルチフィラメントに前記のような脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの滑剤が含有されていない場合には、繊維と糸道ガイド、編み針等との擦過をできるだけ抑制するよう、繊維−金属間摩擦係数の低減効果の高い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば脂肪酸エステル系化合物、多価アルコールエステル系化合物、エーテルエステル系化合物、シリコーン系化合物、鉱物油等が好ましい。また、これらの平滑剤は単一成分で用いてもよいが、集束性や制電性、耐熱性を考慮して複数の成分を混合して用いるとよい。特に、ポリ乳酸繊維に適した平滑剤としては、脂肪酸エステル系化合物や鉱物油が選択できる。脂肪酸エステル系化合物としては、例えば、メチルオレート、イソプロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート等の一価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価のアルコールと多価のカルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ラウリル(EO)nオクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル等が挙げられる。
【0042】
これら平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55〜95重量%に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透剤、表面張力低下剤、転相粘度低下剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
【0043】
延伸仮撚に供給する場合には、仮撚ヒーター汚れの防止や施撚体との滑り防止(糸掛け性、仮撚ヒーター上での撚数向上)、マルチフィラメント内での繊維マイグレーションを向上させることが重要である。そのためには耐熱性が良好であり、繊維−施撚体間摩擦係数が高く、繊維−繊維間摩擦係数が低い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば、分子内に1個以上のヒドロキシル基を有するアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを共重合した化合物およびそれらから誘導された化合物が好ましく用いられる。
【0044】
アルコールとしては、炭素数1〜30の天然および合成の任意の一価アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソアミルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソセチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなど)、二価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコールなど)および三価以上のアルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトールなど)が挙げられる。
【0045】
炭素数2〜4のアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(以下EOと略記)、1,2−プロピレンオキサイド(以下POと略記)、1,2−ブチレンオキサイド(以下BOと略記)、テトラヒドロフラン(以下THFと略記)などが挙げられる。EOと他のアルキレンオキサイドとを共重合する場合、EOの比率は50〜80重量%とするのが好ましい。EO比率を50重量%以上とすることで油剤の粘度が高くなりすぎるのを防ぎ、80重量%以下とすることで耐熱性が向上する。また、付加様式はランダム付加、ブロック付加のいずれでもよい。
【0046】
この仮撚加工に適した平滑剤の平均分子量は、平滑性および耐熱性の点で500〜20,000の範囲が好ましく、1,000〜10,000の範囲がより好ましい。
【0047】
これら仮撚加工に適した平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55重量%以上に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
【0048】
紡糸油剤は繊維全体に対して0.1〜3.0重量%付着されていることが好ましい。油剤の付着量を0.1重量%以上にすることで、上記特性が効果的に発揮される。一方、油剤の付着量が3重量%以下とすることで、仮撚ヒーターやロール、施撚体の汚れを抑えることができる。より好ましくは0.2〜2.0重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.0重量%である。
【0049】
本発明におけるマルチフィラメントは、工程通過性や製品の力学的強度を充分高く保つために、強度は2.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0050】
本発明におけるポリ乳酸からなるマルチフィラメントは、チーズ状パッケージとして巻かれている。パッケージフォームは糸加工における糸の解舒性に影響を与えるため、良好なパッケージフォームが要求される。後述する本発明者らの発明した方法に従えば、パッケージに巻き取る前に繊維内部歪が緩和するため、パッケージフォームが良好なチーズにすることができる。パッケージフォームで問題となる欠点として、サドル(耳立ち)があり、小さい方が高速解舒性に優れる。延伸や仮撚で要求される解舒速度は、500〜1000m/分にも達するが、サドルが高いと、解舒糸条によりサドル部分が連続的に擦過されるため、耐摩耗性の低いポリ乳酸繊維の表面が削れ、パッケージ端面周期(サドルからもう一方のサドルまでの糸長に相当)に一致した欠点が生じる。また、サドル部分は糸の解舒張力が変動しやすいため、糸加工の不安定要因となる。したがって、端面周期欠点を抑制し、高速解舒においても安定して糸加工を行うためにはサドルが7mm以下であることが必要であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。
【0051】
また、バルジ(ふくらみ)が大きいと解舒張力が高くなる傾向にある。したがって、バルジ率は好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。なお、1パッケージ当たりの繊維重量は糸加工工程でのパッケージ交換周期を少なくし、生産性を高めるために4kg以上が好ましく、7kg以上がより好ましい。
【0052】
次に、本発明のチーズ状パッケージの製造方法について設明する。
【0053】
ポリ乳酸は公知の方法を用いて合成できるが、ポリ乳酸自体の色調が良好で、しかもラクチド等の残存モノマー、オリゴマーを減じるようにすることが好ましい。ラクチドを主成分とする残存モノマー、オリゴマーは、紡糸時に口金汚れや口金下ハウジングでの針状結晶の析出を促し、製糸性に悪影響を及ぼす傾向にあるので、残存モノマーや残存オリゴマーの含有量は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下にするとよい。具体的手法としては、例えば特許文献6記載のように、金属不活性化剤や酸化防止剤等を使用したり、重合温度の低温化、触媒添加率の抑制を行うことが好ましい。また、ポリマーを減圧処理したり、クロロホルム等で抽出することにより、残存モノマーや残存オリゴマーの量を大幅に低減することができる。
【0054】
用いるポリ乳酸は、紡糸時の曳糸性を高め、実用的な力学特性の糸を得るために重量平均分子量で5万〜35万であることが好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
【0055】
また、本発明のマルチフィラメントは重合を行った後、そのまま紡糸する直連重紡で行ってもよいし、一旦チップ化した後、乾燥もしくは固相重合し、紡糸してもよい。チップの乾燥は、水分率が500ppm以下になるようにするのが好ましいが、紡糸時の曳糸性を高め、実用的な力学特性の糸にするためには水分率が200ppm以下になるように乾燥することが好ましく、80ppm以下がより好ましい。
【0056】
また、ポリ乳酸に滑剤である脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを含有させる場合は、例えば以下の方法が挙げられる。まず、ポリ乳酸と滑剤をそれぞれ別々に乾燥した後、窒素シールされた押出混練機に供給して混練チップを作製する。次に、この混練チップを乾燥した後、紡糸機に供することによって溶融紡糸を行う。また、混練工程では滑剤を高濃度で含有したマスターチップを作製しておき、これを紡糸機に供する際にポリ乳酸チップとブレンドして希釈する方法も好適に用いられる。さらに紡糸パック内に静止混練器を内蔵させ、滑剤の分散性を向上させることも好ましい。
【0057】
本発明のチーズ状パッケージの製造方法は、ポリ乳酸を溶融吐出して糸条とし、冷却する。
【0058】
図1は本発明で好ましく用いられる紡糸装置の一例の概略図である。まず、ホッパー1に投入されたポリ乳酸チップをエクストルーダー2で溶融・押し出して紡糸ブロック3に溶融ポリマーを移送する。さらに紡糸ブロック3に内蔵された紡糸パック4に送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金5から吐出して糸条を得る。
【0059】
溶融紡糸を行うに際しての紡糸温度は、口金での吐出を安定させ、曳糸性を高めるためにポリ乳酸の融点よりも30〜100℃高い温度で行うことが好ましく、40〜80℃高い温度で行うことがより好ましい。また、紡糸でのモノマー、オリゴマー析出を抑制し、紡糸性を向上させるために、必要に応じて口金下に2〜20cmの加熱筒やポリマ酸化劣化あるいは口金孔汚れ防止用の空気、スチーム、N2などの不活性ガス発生装置を設置してもよい。また、繊維から昇華した低融点物を取り除くため、口金直下に吸引装置6を設けてもよい。
【0060】
紡出された糸条を冷却チムニー7によって一旦冷却・固化し後、給油装置8で油剤を付与する。油剤の付与は、糸条の温度がポリ乳酸のガラス転移点よりも10〜50℃低い領域で行うことが肝要である。この範囲内で油剤を付着させることで、給油装置との擦過抵抗を抑制できるため、曳糸性が飛躍的に向上する。好ましくは20〜45℃低い領域である。
【0061】
紡糸油剤は、本願で好ましく用いられる油剤をストレートで糸条に付着させてもよいが、より均一に付着させるために水に5〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%分散させてエマルジョン油剤として繊維に付着させることが好ましい。
【0062】
糸条には適度に交絡を付与するのが好ましい。交絡ノズル9は図1に示すようにゴデットロールの前に設置してもよいし、ゴデットロール間または巻取機前に設置してもよい。交絡度を高くしたい場合は糸条張力の低いゴデットロール間や巻取機前に設置することが好ましく、交絡度を低くしたい場合はゴデットロールの前に設置することが好ましい。
【0063】
ゴデットロール10及び11で引き取り、巻取機12で巻き取る。
【0064】
本発明のチーズ状パッケージの製造方法は、紡糸速度2500〜7000m/分で引き取ることが重要である。マルチフィラメントの伸度が前述のように規定する30〜100%になるように設定するためである。図1においては、ゴデットロール10の回転周速度を上記範囲内の速度に規定する。
【0065】
また、本発明のチーズ状パッケージの製造方法は、複数の引取ロール間(図1においてはゴデットロール10,11間)で非加熱下に0.05〜3%ストレッチさせた後、巻取張力(最終ゴデットロールと巻取機との間の張力)が0.05〜0.13cN/dtexになるように最終引取ロール(ゴデットロール11)よりも低速で巻き取ることが重要である。その理由は次の通りである。
【0066】
ポリ乳酸からなるマルチフィラメントは、チーズ状パッケージに巻かれた後、繊維内部歪が緩和(遅延収縮)するためサドルが発生しやすい。これはポリ乳酸の分子構造に由来するものと考えられる。ポリ乳酸は、通常、α晶という結晶形が生成しているが、α晶中での分子鎖の形態は103らせん構造を採っていることが J. Biopolym., vol.6, 299(1968).等に記載されている。ここで、103らせん構造とは、10個のモノマーユニット当たり3回回転するらせん構造を意味している。このらせん構造では、エステル基がらせんの内側に向いているため、隣り合う分子鎖とは水素結合が存在しない。また、PETやPBTのようなベンゼン環によるパッキングもないことから、分子鎖間相互作用が極めて小さい分子構造であると推察される。そのため、紡糸後、容易に緩和・収縮してサドルを形成するのである。
【0067】
サドルを解消するためには、溶融紡糸し、巻き取るまでの間に繊維内部歪みを取り除く必要があるが、その方法としては弛緩状態で巻き取ることにより繊維内部構造の歪みを解放するのが有効である。ただし、単純に最終引取ロール〜巻取機間で弛緩させても糸条に弛みが生じてしまい、特に5000m/分以上の高速紡糸にするとゴデットロールの随伴気流によって糸条に揺らぎが生じ、安定して弛緩処理することができない。
【0068】
そこで、複数のゴデットロール間で非加熱下にストレッチした後、弛緩巻き取りすることで飛躍的に工程通過性を向上させることが可能になる。
【0069】
複数のゴデットロールの間のストレッチ率は好ましくは0.1〜2.5%、より好ましくは0.25〜2%である。
【0070】
また、巻取張力は、第2ゴデットロール(ゴデットロール11)での逆巻きを防止するため0.05cN/dtex以上とし、また繊維内部構造の歪みを解放するため0.13cN/dtex以下とする。好ましい巻取張力は0.06〜0.11cN/dtexであり、より好ましくは0.07〜0.1cN/dtexである。
【0071】
巻取機12の駆動方式は、ドライブローラーによる従動駆動が一般的であるが、スピンドル駆動方式や、さらに巻取機のローラーベイルを強制駆動する方法が好ましく用いられる。
【0072】
ローラーベイルもしくはドライブロールがパッケージに接触している線長に対する荷重(パッケージに対する圧力に相当。以下、面圧と称する)は、58〜157N/mの範囲にすることが好ましい。面圧を58N/m以上にすることで、パッケージに適度な硬度を与え、パッケージ崩れやサドルを抑制することができる。また、面圧を157N/m以下にすることで、パッケージの潰れや、バルジを抑制することができる。より好ましい範囲は78〜118N/mである。
【0073】
また、綾角は5〜10°の範囲にすることで、パッケージ端面の糸落ちを抑制しつつ、高速解舒においても安定した解舒張力が得られるとともに、端面部への糸崩れを抑えることができる。より好ましくは5.5〜8°であり、さらに好ましくは5.8〜7°である。また、リボンの形成を抑制するために綾角を変化させることが好ましい。その手段として、綾角をある範囲(中心値±1.5°以内)で揺動させたり、ワインド比(スピンドル回転数とトラバース周期の比)が一定になるようにすることが好ましい。
【0074】
また、リボン発生帯領域で急激に綾角を変化させる方法も好ましく用いることができ、これらの方法を組み合わせて行ってもよい。また、ポリ乳酸は曲げ剛性が低く、弾性体としての挙動が強いため、トラバース時における折り返しで、糸条を十分に追従させる工夫を採ることが好ましい。例えば、高速追従性の高い1軸〜3軸の羽根トラバース方式や、糸把持性の良好なマイクロカムトラバース、フリーレングスを短尺化できるスピンドルトラバースが好ましく用いられる。それぞれの特性を活かし、巻取速度2500〜4000m/分ではマイクロカムトラバース方式を、巻取速度が4000m/分を越える場合は1軸〜3軸の羽根トラバース方式を用いることがより好ましい。
【0075】
ローラーベイルを強制駆動する場合のパッケージ表面速度に対するローラーベイル速度は、常に0.05〜1%オーバーフィードする様に制御してリラックス巻取することにより、さらにパッケージフォームを良好にすることができる。
【0076】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0077】
A.重量平均分子量
Waters社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、ポリスチレンを標準として測定した。
【0078】
B.強度および伸度
試料をオリエンテック(株)社製TENSILON UCT−100でJISL1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に示される定速伸長条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0079】
C.糸斑U%
糸長手方向の太さ斑U%(Normal)は、(株)ツェルベガーウースター社製USTER TESTER MONITOR Cで測定した。条件は、糸速度200m/分で1分間供給し、Normalモードで平均偏差率(U%)を測定した。
【0080】
D.沸騰水収縮率
JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した。 未延伸糸パッケージから検尺機でカセを採取し、90×10-3cN/dtexの実長測定荷重を架けてカセ長L1を測定し、引き続いて実長測定荷重をはずし、沸騰水中に15分間投入した後取り出し、風乾し、再び実長測定荷重を架けてカセ長L2を測定し、次式により沸騰水収縮率を算出した。
沸騰水収縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100 。
【0081】
E.CF値
JIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)7.13の交絡度に示される条件で測定した。試験回数は50回とし、交絡長の平均値L(mm)から下式よりCF値(Coherence Factor)を求めた。
CF値=1000/L 。
【0082】
F.色調(b*値)
試料のマルチフィラメントを、透明プレートに下地の色がほぼ無視できる程度まで密に積層して巻き付け、ミノルタ社製「スペクトロフォトメーターCM−3700d」を用いてb*値を測定した。この時、光源としてはD65(色温度6504K)を用い、10°視野で測定を行った。
【0083】
G.サドル及びバルジ率
5kg巻きパッケージにおいて、図2に示す未延伸糸パッケージの中央部の巻厚L1と、端面部の巻厚L2を測定し、L2からL1を引いた値をサドルの大きさとした。また、図2に示す未延伸糸パッケージの最内層の巻き巾L3及び、最大巻き巾を示すL4を測定し、次式によってバルジ率を算出した。5kg以外の巻量のものについては、巻量に比例させた換算を行った。
バルジ率(%)=[(L4−L3)/L3]×100 。
【0084】
H.油剤付着量
試料を3g採取し、100℃で2時間乾燥後、直ちに重量W1を測定した。次いでアルキルベンゼンスルホン酸ソーダを主成分とする洗浄用水溶液に浸漬し、40℃で10分間超音波洗浄を行った。さらに40℃の温水により30分間洗浄後、1昼夜風乾した。さらに100℃で2時間乾燥後、直ちに重量W2を測定し、下式により油剤付着量を求めた。
油剤付着量(%)=(W1−W2)/W2×100 。
【0085】
I.解舒性
図3に示すような装置を用い、解舒速度1500m/分にて未延伸糸20kg当たりの糸切れ及び毛羽立ちの総数をカウントした。糸切れ・毛羽立ち回数が0回であれば○、1〜2回で△、3回以上の場合は×として3段階評価を行った。なお、糸切れ及び毛羽立ち数の検出には(株)東レ社製フライカウンターMODEL DT-104を用いた。
【0086】
J.延伸性
延伸糸の欠点を、延伸糸20kg(2kg/パーンを10本)当たりの糸切れ、毛羽立ち、ロールへのラップの総数で評価した。欠点が0回であれば○、1〜2回で△、3回以上の場合は×として3段階評価を行った。延伸条件は汎用のホットロール−ホットロール延伸機を用い、延伸速度980m/分、延伸温度100℃、セット温度130℃、延伸倍率は残留伸度25%になるように設定した。
【0087】
K.仮撚性
仮撚糸の欠点を、仮撚糸20kg(2kg/チーズを10本)当たりの糸切れ、毛羽立ち、ロール及びディスクへのラップの総数で評価した。欠点が0回であれば○、1〜2回で△、3回以上の場合は×として3段階評価を行った。仮撚加工条件は汎用のフリクション仮撚機を用い、加工速度500m/分、ディスク回転数4500rpm(直径58mmウレタンディスク使用)、熱板温度130℃(熱板長2.0m)、延伸倍率は残留伸度25%になるように設定した。
【0088】
[ポリ乳酸P1](EBAを含有しないポリ乳酸)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)の存在下、チッソ雰囲気下180℃で180分間重合を行いポリ乳酸P1を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は17.2万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。
【0089】
[ポリ乳酸P2](EBAを5重量%含有したポリ乳酸)
ポリ乳酸P1と(株)日本油脂社製エチレンビスステアリン酸アミド(以下、EBAと称する)“アルフロー”H−50Sを乾燥した後、P1:EBA=95:5(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度210℃で混練してEBAを5重量%含有したポリ乳酸P2を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0090】
[製造例3](EBAを7重量%含有したポリ乳酸の製造)
P1:EBA=94:6(重量比)に変更した以外は製造例2と同様にして、EBAを6wt%含有したポリ乳酸P3を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.14重量%であった。
【0091】
(実施例1)
重量比でP1:P2=5:1となるようにチップをブレンド(EBA0.83重量%)した後、真空乾燥機にて100℃で約10時間乾燥した。取り出したチップの水分率は約60ppmであった。このチップをホッパー1に仕込み、エクストルーダー2で215℃で溶融した後、225℃に加熱されたスピンブロック3に内蔵された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、口金5から紡出した(図1参照)。このとき、口金下10cmの位置に吸引装置を設置し、吸引速度25m/分にて、昇華するモノマー、オリゴマーを取り除いた。紡出した糸条はチムニー6により20℃、風速25m/分で冷却固化させた後、口金下1.7mに設置された給油装置8により給油した。紡糸油剤には脂肪酸エステル系平滑剤を40重量%(イソトリデシルステアレート20重量%、オクチルパルミテート20重量%)、鉱物油を20重量%、乳化剤として多価アルコールエステルを15重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を25重量%として調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水エマルジョンとして調整し、繊維に対して6.7重量%付着した(純油分として1重量%付着)。また、油剤を付着する位置の糸条温度をTOKYO SEIKO CO.LTD社製TS−3A(検出端:EC−02)を用いて測定したところ35℃であり、ポリ乳酸のガラス転移点(57℃)よりも22℃低かった。
【0092】
次に、作動圧空圧0.1MPaにて交絡ノズル9により交絡を付与し、周速度4800m/分の第1ゴデットロール10にて引き取り、続いて周速度4848m/分の第2ゴデットロール11を介し(ゴデットロール間ストレッチ率1%)、巻取速度4750m/分(弛緩率2%)にて巻取機12で巻き取り、120dtex、36フィラメントの未延伸糸が巻かれた5kg巻きのチーズ状パッケージを得た。なお、このときの主な巻取条件は、3軸羽根トラバース方式のワインダーを用い、巻取張力0.09cN/dtex、面圧10kg/m、綾角6°(6±1°で揺動)で、ローラーベイルを強制駆動させ、巻取速度に対し常にオーバーフィード率0.2%とした。紡糸時の糸切れ、毛羽の発生はなく、紡糸性は良好であった。
【0093】
得られたチーズ状パッケージから未延伸糸を引き出し、物性測定を行ったところ、強度2.7cN/dtex、伸度45%、U%(Normal)0.85%、沸騰水収縮率14%、CF値8、色調b*3.2であり、均一性、力学的特性、色調ともに優れていた。また、このチーズ状パッケージのサドルは2mmであり、バルジも2%で良好なパッケージフォームであった。
【0094】
また、このチーズ状パッケージを用いて解舒性および延伸性の評価を行ったところ、解舒性試験での糸切れ・毛羽立ち回数は0回、延伸での欠点は0回であり、極めて良好な解舒性、延伸性を示した。
【0095】
(実施例2、実施例3)
第1ゴデットロール周速度(紡糸速度)、第2ゴデットロール周速度、巻取速度をそれぞれ表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。紡糸速度2500m/分の実施例2は、実施例1と同様、良好なパッケージフォームであった。また、解舒性試験での糸切れ・毛羽立ち回数は0回、延伸での糸切れは1回であり、良好な解舒性、延伸性を示した。
【0096】
紡糸速度7000m/分の実施例3は、実施例1及び2と比較して若干サドルが高い値を示した。また、解舒性試験でも糸切れ・毛羽立ち回数が1回、延伸での欠点が2回とやや多かった。
【0097】
(比較例1、比較例2)
第1ゴデットロール周速度、第2ゴデットロール周速度、巻取速度をそれぞれ表1のとおり変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。紡糸速度2000m/分の比較例1は、実施例1と同様、良好なパッケージフォームであり、解舒性試験も良好であったが、延伸において糸切れが多発した。
紡糸速度8000m/分の比較例2は、実施例1〜3と比較して若干サドルが高い値を示した。また、解舒性は比較的良好であったが、延伸での欠点が4回と多く、得られた延伸糸の強度も低いものであった。
【0098】
(比較例3)
給油位置8を口金下1.1mに設置した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。このときの給油位置における糸条温度は55℃であり、ポリ乳酸のガラス転移点とほぼ同じであった。
【0099】
得られた未延伸糸のU%(Normal)は2.45%、強度2.4cN/dtex、伸度39%であった。パッケージフォームは良好であったが、解舒性、延伸性ともに悪く、得られた延伸糸のU%(Normal)も悪く、均一性に欠けるものであった。
【0100】
(比較例4、比較例5)
巻取速度をそれぞれ4780m/分、4770m/分とした以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。巻取速度4780m/分の比較例4はパッケージ巻量5kgで巻締まりが酷く、スピンドルから抜き出すことができなかった。巻取速度4770m/分の比較例5は、スピンドルからは抜けるものの、巻締まりが酷く、パッケージフォームも悪いものであった。また、U%(Normal)の値が1.54%とやや高く、パッケージ端面周期に一致した太細斑が検出された。さらに解舒性、延伸性ともに悪いものであった。
【0101】
(実施例4)
ポリ乳酸P1を用いた以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られた未延伸糸はU%(Normal)、強度、伸度、パッケージフォームの全てにおいて良好であった。ただし、パッケージの解舒性及び延伸性は実施例1対比、若干劣るものであった。
【0102】
(実施例5、実施例6)
ポリ乳酸P1とP2のブレンド比率を変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。P1:P2=15:1の実施例5の未延伸糸は、実施例1と同様、良好なU%(Normal)及び機械的特性を示すとともに、解舒性、延伸性ともに良好であった。ポリ乳酸P2をそのまま用いた実施例6は、実施例1と比較してやや低強度でU%(Normal)も悪く、色調もやや黄味ががったものであったが、実用上問題のないレベルであった。また解舒性は良好であったが、延伸性はやや劣るものであった。
【0103】
(実施例7)
ポリ乳酸P3を用いた以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られた未延伸糸は実施例6よりもさらに強度、U%(Normal)が劣る傾向にあり、色調も黄味が強いものであり、用途が限定されるレベルであった。また、パッケージの解舒性及び延伸性も、実施例1対比、若干劣るものであった。
【0104】
(実施例8)
紡糸油剤に平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%として調整し、さらにこの油剤を濃度10重量%になるように水エマルジョンとして調整し、繊維に対して7重量%付着した(純油分として0.7重量%付着)。それ以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。
【0105】
得られたチーズ状パッケージから未延伸糸を引き出し、物性測定を行ったところ、実施例1と同様、良好な結果を得た。また、このチーズ状パッケージのサドルは2mmであり、バルジも3%で良好なパッケージフォームであった。
【0106】
また、このチーズ状パッケージを用いて解舒性および仮撚性の評価を行ったところ、解舒性試験での糸切れ・毛羽立ち回数は0回、仮撚での欠点も0回であり、極めて良好な解舒性、仮撚性を示した。
【0107】
【表1】
【0108】
【発明の効果】
本発明の、良好な巻き姿を有するポリ乳酸繊維からなるチーズ状パッケージにより、延伸工程や仮撚加工工程におけるチーズからの解舒性を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で好ましく用いられる紡糸装置を示す概略図である。
【図2】チーズ状パッケージのサドルおよびバルジ率を説明するための概略図である。
【図3】解舒性試験に用いられる装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:エクストルーダー
3:紡糸ブロック
4:紡糸パック
5:紡糸口金
6:吸引装置
7:冷却チムニー
8:給油装置
9:交絡ノズル
10:第1ゴデットロール
11:第2ゴデットロール
12:巻取装置
13:チーズ状パッケージ
14:セラミックガイド
15:フライカウンター
16:引取ロール
17:サクションガン
Claims (5)
- 50重量%以上が乳酸モノマーで構成されたポリ乳酸の繊維からなり、伸度が30〜100%、ウースター斑U%(Normal)が2.0%以上であるマルチフィラメントを巻き付けてなり、サドルが7mm以下であるチーズ状パッケージの製造方法であって、溶融吐出したポリ乳酸の糸条を、冷却し、糸条の温度がポリ乳酸のガラス転移点よりも10〜50℃低い領域で紡糸油剤を付与した後、紡糸速度2500〜7000m/分で引き取り、複数の引取ロール間で非加熱下に0.05〜3%ストレッチさせた後、巻取張力が0.05〜0.13cN/dtexになるように最終引取ロールよりも低速で巻き取ることを特徴とするチーズ状パッケージの製造方法。
- 脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドをポリ乳酸の繊維全体に対して0.1〜5重量%含有させたことを特徴とする請求項1記載のチーズ状パッケージの製造方法。
- 脂肪酸エステル系化合物、多価アルコールエステル系化合物、エーテルエステル系化合物、シリコーン系化合物、鉱物油から選ばれる少なくとも1種類を含有する油剤をポリ乳酸の繊維全体に対して0.1〜3.0重量%付着させたことを特徴とする請求項1または2記載のチーズ状パッケージの製造方法。
- 分子内に1個以上のヒドロキシル基を有するアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを共重合付加した化合物およびそれから誘導される化合物のうちの少なくとも一つを55重量%以上含有する油剤を繊維全体に対して0.1〜3.0重量%付着させたことを特徴とする請求項1または2記載のチーズ状パッケージの製造方法。
- 請求項1〜4いずれか記載の方法で得られたチーズ状パッケージからマルチフィラメントを解除する工程を含むことを特徴とする繊維製品の製造方法。
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