以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
(1)第1の実施の形態
(1−1)ガスシャワー式熱CVD装置の全体構成
図1において、1は全体として薄膜形成装置としてのガスシャワー式熱CVD装置を示し、酸化反応室としての機能を備える反応室2の上部方向から白金化合物(以下、Pt化合物という。)及び鉄化合物(以下、Fe化合物という。)を含む原料ガスを供給して行なわれる一連の動作を実行し得るように構成されている。
実際上、本発明の薄膜形成方法を行なうガスシャワー式熱CVD装置1は、CVD部3と、このCVD部3に搭載されたCVD用気化器4とから構成され、成膜動作時、CVD用気化器4からCVD部3の反応室2に還元性のキャリアガスが常に供給され得るようになされている。
このCVD部3の反応室2にはガス導入口5に反応室側バルブ6を介してガス供給路7が連通されている。ガス供給路7には、反応室側バルブ6の上流の位置に水平に延びる分岐部8を有し、この分岐部8にベント側バルブ9が設けられている。
ベント側バルブ9には排気管10が接続されており、かくしてガス供給路7は、ベント側バルブ9、排気管10及び排気バルブ11を介して排気用真空ポンプ12と連通し得るように構成されている。
因みに、反応室2は、ガス導入口5を有する蓋部13と、反応室2を支持する反応室支持部14と、反応室本体15とで構成されており、反応室本体15の外面等に設けられたヒータ(図示せず)によって、反応室内部16が所定温度に維持され得る。反応室内部16にはシャワープレート17が設けられており、このシャワープレート17は、ガス導入口5からの原料ガスを受け入れる内部空間18を有し、下面に複数のガス噴出孔19が設けられている。また反応室本体15は、所定位置に扉部20を有し、この扉部20を介して反応室内部16から被薄膜形成対象物としての基板21を出し入れ可能に構成されている。
また反応室本体15には、酸化性ガス供給口22が設けられており、当該酸化性ガス供給口22を介して酸化性ガス(例えばO2)が反応室内部16に供給され得るようになされている。反応室内部16には、上部に設けられたシャワープレート17に対向して、下部に基板ステージ23及び基板ステージ23の内部に基板ステージ用ヒータ24が設けられている。
シャワープレート17は、内部空間18に供給された原料ガスをガス噴出孔19により拡散させ、基板ステージ23に載置された基板21上に原料ガスを均一に吹き付け得るようになされている。なお、25は酸化性ガス用気化器で、例えば酸化性ガスとして水蒸気H2Oが必要な場合には、酸化性ガスO2をキャリアガスとして、例えばH2Oを気化してシャワープレート17の内部空間18に供給し得るようになされている。
シャワープレート17の上面部には、シャワープレートヒータ26及び温度センサ27が設けられており、温度センサ27により検出した温度に基づき制御ユニット28を介してシャワープレートヒータ26を加熱制御し、反応室内部16等を所定の温度に加熱し得るように構成されている。なお、このシャワープレートヒータ26にはヒータ配線29が引き回され接続されている。
基板ステージ用ヒータ24は、温度センサ30により検出した温度に基づいて制御ユニット31を介して加熱制御され、基板ステージ23を所定の温度に加熱し得るように構成されている。因みに、この基板ステージ用ヒータ24にはヒータ配線32が引き回され接続されている。なお、反応室支持部14には、反応室内部16の圧力を測る圧力計14aが設けられている。尚、基板21は、この基板ステージ用ヒータ24によって600〜950℃の範囲に加熱されるのが好ましい。
また反応室支持部14には排気用真空ポンプ12まで延びた排気管33が連通しており、この排気管33の途中にはトラップ34が設けられている。これによりCVD用気化器4から反応室内部16へ供給されたキャリアガスや原料ガスは、排気管33を通過してトラップ34に導かれた後、当該トラップ34において排気ガス内の特定有害物質を除去し、排気バルブ11等を経由して排気用真空ポンプ12から排気され得るようになされている。
かかる構成に加えて反応室2にはガス導入口5に反応室側バルブ6を介してCVD用気化器4が連結されている。ここで本願発明のガスシャワー式熱CVD装置1では、基板21上に強磁性体Pt/Fe薄膜を順次形成する成膜動作時、当該反応室側バルブ6が常に開状態となっているとともに、ベント側バルブ9が常に閉状態となっている。
これにより反応室2には、成膜動作時、CVD用気化器4から常にキャリアガスが供給され得る。なお反応室2に供給されたキャリアガスは常に排気管33を介して排気用真空ポンプ12から排気され得るようになされている。
また、反応室2には、CVD用気化器4によって気化された原料ガスが供給され得るようになされている。
これにより反応室内部16では、基板21上に原料ガスを均一に吹き付け、ヒータ等の加熱装置により加熱することで化学反応を起こさせ、所望の膜厚でなる強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成し得るようになされている。
このようにしてガスシャワー式熱CVD装置1では、基板21上に形成する原料溶液を気化し、この原料ガスを反応室内部16に供給してゆくことで、基板21上に所望の膜厚でなる強磁性体Pt/Fe薄膜を順次形成し得るようになされている。
(1−2)CVD用気化器の構成
次に気化器としてのCVD用気化器4の詳細構成について以下説明する。このCVD用気化器4は、気化機構40を備える。この場合、CVD用気化器4は、気化機構40によってキャリアガスを常に反応室2へ供給するとともに、原料溶液供給機構41から供給されたPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液のほぼ全てを気化機構40で確実に気化して反応室2に供給し得るように構成されている。
(1−2−1)気化機構の構成
ここで先ず初めに気化機構40について説明する。図2に示すように、気化機構40は、窒素ガスやアルゴン等の各種キャリアガスを反応室2内部に供給するキャリアガス流路42が、キャリアガス供給管43、オリフィス管44により形成され、オリフィス管44の先端(すなわちキャリアガス流路42の流出口53)に気化部45が形成されている。
実際上、この気化機構40は、キャリアガスを供給する供給機構(図示せず)にキャリアガス供給管43の基端(すなわちキャリアガス流路42の流入口)が連結されているとともに、キャリアガス供給管43の先端50がオリフィス管44の基端51に連結され、これによりキャリアガス供給管43からオリフィス管44に高速のキャリアガスを供給し得るように構成されている。
因みに、キャリアガス供給管43の基端と供給機構との間には、N2供給バルブ及びマスフローコントローラ(図示せず)が設けられている。またキャリアガス供給管43には、圧力計としての圧力トランスデューサ52が取り付けられている。
なお、圧力トランスデューサ52は、キャリアガス供給管43内のキャリアガスの圧力及びその変動を正確に測定し、記録しながら常時モニタする。圧力トランスデューサ52は、キャリアガスの圧力レベルに応じた信号レベルを有する出力信号を制御部(図示せず)に送信する。
かくして図示しない表示部に、キャリアガスの圧力結果を出力信号に基づいて表示してオペレータにモニタさせ得るようになされている。これによりオペレータは、圧力結果に基づいてキャリアガス流路42の目詰まりをモニタできる。
ここでキャリアガス供給管43は、その内径がオリフィス管44の内径よりも大きく選定され、キャリアガス供給管43からオリフィス管44に供給されるキャリアガスの流速を一段と速くさせ得るように構成されている。
オリフィス管44は、鉛直向きに配置され、その先端53に台形円錐状でなる凸状部54が設けられているとともに、この凸状部54の頂部に細孔55が設けられている。このようにオリフィス管44では、先端に凸状部54を設けたことにより、細孔55の先端たる噴霧口56の外周周辺に傾斜面54aを形成し、これにより残留物が噴霧口56に溜まり難くなり、噴霧口56の目詰まりを抑止し得るようになされている。
因みに、この実施の形態の場合、凸状部54の頂角θは、45°〜135°、特に30°〜45°の鋭角に形成することが好ましく、この場合、例えば析出したPt化合物やFe化合物によって噴霧口56が詰まることを防止できる。
噴霧口56の細孔55は、その内径がオリフィス管44の内径よりも小さく選定され、当該オリフィス管44から細孔55に供給されるキャリアガスの流速がさらに一段と速くなるように構成されている。ここで細孔55の先端は、オリフィス管44の凸状部54が気化部45の基端57に挿入されていることにより、気化部45の内部空間58に突出するように配置され得る。
かかる構成に加えてオリフィス管44には、基端51から凸状部54までの間に複数(この場合、例えば5つ)の接続管60a〜60eが連通しており、この接続管60a〜60eにそれぞれ後述する原料溶液供給機構41が設けられている。これによりオリフィス管44は、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が原料溶液供給機構41から例えば接続管60aを介して供給され得るように構成されている。
この場合、オリフィス管44は、接続管60aから供給されたPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液に高速で流れるキャリアガスをあて、当該Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、この状態のまま細孔55を介して気化部45内に高速(230m/秒〜350m/秒)で噴霧するように構成されている。
この実施の形態の場合、オリフィス管44は、内径が例えばΦ1.0mm程度に選定されているとともに、鉛直向きに延びる長手方向の長さが100mm程度に選定され、さらに細孔55の内径がΦ0.2〜0.7mm程度に選定されており、基端51から細孔55にゆくに従って縮径しており、その内部でキャリアガスを高速にさせ得るようになされている。
ここでオリフィス管44に連結した気化部45は、管状でなり、当該オリフィス管44と同様に鉛直向きに配置され、図2に示したように、その内径がオリフィス管44の内径より顕著に大きく選定されていることにより、当該気化部45内の圧力がオリフィス管44内の圧力よりも小さくなるように形成されている。
このように気化部45では、オリフィス管44との間で大きな圧力差が設けられていることにより、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液並びにキャリアガスがオリフィス管44から高速(例えば230m/秒〜350m/秒)で噴出し、内部空間58において膨張させ得るようになされている。
実際上、この実施の形態の場合、気化部45内の圧力が例えば10Torr程度に選定されているのに対し、オリフィス管44内の圧力が例えば500〜1000Torr程度に選定され、気化部45とオリフィス管44との間に大きな圧力差が設けられている。
因みに、流量制御後のキャリアガスの圧力は、キャリアガスの流量、原料溶液流量及び細孔55の寸法によって増減するが、最終的には噴霧口56の寸法を選定してキャリアガスの圧力を制御し、500〜1000Torrにすることが好ましい。
これに加えて気化部45の外周には、基端57及び先端(すなわち反応室2との接続部分)の間に加熱手段としてのヒータ62が取り付けられており、このヒータ62によって気化部45が例えば270℃程度に加熱され得る。なお、この実施の形態の場合、気化部45の基端57がほぼ半球形状に形成されていることにより、ヒータ62によって当該基端57側を均一に加熱することができるようになされている。
かくして気化部45では、オリフィス管44内で高速のキャリアガス流によって分散され霧化したPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を、ヒータ62によって瞬時に加熱して瞬間的に気化するように構成されている。このとき、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液がオリフィス管44内に排出されたときから気化部45内に噴霧されるまでの時間は極めて短時間(好ましくは0.1〜0.002秒以内)であることが好ましい。Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液は、高速のキャリアガス流によって、オリフィス管44内で分散させた直後に微細になり、瞬時に気化部45内で気化する。また、溶媒のみが気化する現象は抑制される。
因みにPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液並びにキャリアガスを高速で気化部45に噴霧することによって、霧の寸法が微細化(霧の直径が1μm以下)し、蒸発面積の増大と蒸発速度の増大を図ることができる。なお霧の寸法が1桁減少すると、蒸発面積は1桁増大する。
なお噴霧口56から噴出した霧が気化部45の内壁に衝突しないように、噴霧口56の角度と気化部45の寸法を設計することが好ましい。霧が気化部45の内壁に衝突すると、壁面に付着し、蒸発面積が桁違いに減少して、蒸発速度が低下するからである。また、霧が長時間気化部45壁に付着していると、熱分解して蒸発しない化合物に変化する例もあるからである。
またこの場合、気化部45は、その内部が減圧されていることによりPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液に含まれるPt化合物及びFe化合物の昇華温度を低下させることができ、その結果ヒータ62からの熱でPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を容易に気化させ得るようになされている。
このようにして気化部45は、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を気化し、この原料ガスを反応室2に供給し、この反応室2でCVD法によって強磁性体Pt/Fe薄膜を形成させ得るようになされている。
なお、気化部45の基端57は、オリフィス管44との間に断熱材63を有し、この断熱材63によって気化部45からの熱がオリフィス管44に伝達され難くなるように構成されている。因みに気化部45の基端57はOリング64によって気密封止されている。またオリフィス管44と気化部45とを連結する締結部材65にも断熱材66が設けられている。
因みに、細孔55から噴霧された霧が気化部45の内壁を濡らさないことが好ましい。理由は、霧に比べて、濡れ壁では蒸発面積が桁違いに減少するからである。つまり、気化部45の内壁が全く汚れない構造が好ましい。また、気化部45の内壁の汚れが簡単に評価できるように、気化部45壁は鏡面仕上げをすることが好ましい。
(1−2−2)原料溶液供給機構の構成
次に上述した気化機構40に設けられた原料溶液供給機構41について以下説明する。なお、接続管60a〜60eはそれぞれ原料溶液供給機構41に接続されており、接続管毎に原料溶液の種類を選択することが可能であるが、その構成は同一である。本実施の形態では、オリフィス管44に対して供給する原料溶液の種類がPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給する場合を例にとり、接続管60aに設けられた原料溶液供給機構41についてのみ説明する。
因みに、接続管60a〜60eは、互いに開口部が対向しないようにオリフィス管44に配置されていることにより、例えば接続管60aの開口部からオリフィス管44に供給されるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が、他の接続管60b〜60eの開口部に流入され得ることを確実に防止し得るようになされている。
この場合、原料溶液供給機構41では、原料溶液用タンク70に貯えられたPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を、所定の原料溶液流路71を経由させることにより、液体マスフローコントローラ(LMFC)72、ブロックバルブ73を順次介してオリフィス管44に供給するように構成されている。なお、この液体マスフローコントローラ72は、原料溶液流路71を流れるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液の流量を制御するようになされている。
ブロックバルブ73は、第1〜第4の切換バルブ75a〜75dからなり、これら第1〜第4の切換バルブ75a〜75dが図示しない制御部で統括的に制御されている。
実際上、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液をオリフィス管44に供給する場合、ブロックバルブ73は、第1の切換バルブ75aのみを開状態として他の第2〜第4の切換バルブ75b〜75dを閉状態とする。
これにより、オリフィス管44では、高速に流れるキャリアガスに対し、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が供給され、この高速に流れるキャリアガスによって当該Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、これを気化部45に供給し得るようになされている。
また、かかる構成に加えて原料溶液供給機構41では、ブロックバルブ73からオリフィス管44にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給していないとき、溶媒用タンク77に貯えられた溶媒を、所定の溶媒流路78を経由させることにより、液体マスフローコントローラ(LMFC)79、接続管60aを順次介してオリフィス管44に供給するように構成されている。
この場合、制御部は、第1の切換バルブ75a、第3の切換バルブ75c及び第4の切換バルブ75dを閉状態とするとともに、第2の切換バルブ75bのみ開状態とすることにより、接続管60aを通過させてオリフィス管44に溶媒を供給し得るようになされている。かくして接続管60aからオリフィス管44に溶媒だけを流すことにより接続管60aに目詰まりした固形物を除去することができるようになされている。
これに対して、制御部は、第1の切換バルブ75a、第2の切換バルブ75b及び第4の切換バルブ75dを閉状態とするとともに、第3の切換バルブ75cのみを開状態とすることにより、ブロックバルブ73を介してベント管81に溶媒を供給して廃棄し得るようになされている。
なお、制御部は、第1の切換バルブ75a、第2の切換バルブ75b及び第3の切換バルブ75cを閉状態とするとともに、第4の切換バルブ75dを開状態とすることにより、ブロックバルブ73を介してベント管81にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給して廃棄し得ることもできるように構成されている。
以上の構成において、CVD部3では、オリフィス管44において反応室2に向けて常に高速で流れるキャリアガス流に、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給することにより、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、そのまま気化部45で気化しこの原料ガスを反応室2に供給する。
かくして、気化機構40では、高速のキャリアガス流によってPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を瞬間的に霧化させて、ヒータ62の熱で当該Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を容易に気化させ易いようにしていることにより、気化させ難いPt化合物及びFe化合物を溶媒に溶かして得た原料溶液であっても気化部45において容易に気化できる。
また気化機構40では、キャリアガス供給管43において加圧されたキャリアガスを高速にしてオリフィス管44に導入するため(例えばキャリアガスは500〜1000Torrで、200ml/min〜2L/min)、オリフィス管44においてPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液の温度上昇を抑制することができる。
従って、この気化機構40では、オリフィス管44においてPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液中の溶剤のみが蒸発気化することを抑制できるので、オリフィス管44においてPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が高濃度化することを防止でき、かくして粘度の上昇を抑制できるとともに、Pt化合物とFe化合物とが析出することを防止できる。
さらに、気化機構40では、キャリアガス中に分散したPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を気化部45で瞬時に気化させることができるので、細孔55や細孔55付近にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液中の溶剤のみが気化することを抑止できるため、細孔55の目詰まりを抑止できる。かくしてCVD用気化器4の連続使用時間を長くすることができる。
(1−3)動作及び効果
以上の構成において、CVD用気化器4では、オリフィス管44において反応室2に向けて常に高速で流れるキャリアガス流に、原料溶液用タンク70から供給されてくる原料溶液、この場合Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給することにより、原料溶液を所定量だけ微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、そのまま気化部45で気化し原料ガスとして反応室2に供給する。
そして、ガスシャワー式熱CVD装置1では、強磁性体Pt/Fe薄膜を形成する時、反応室側バルブ6を開状態とするとともに、ベント側バルブ9を閉状態とすることにより、原料ガスを反応室2に供給し、当該原料ガスをガス噴出孔19を介して基板21上に均一に吹き付ける。これにより反応室内部16において原料ガスは基板ステージ23内のヒータ24等で加熱され、基板21上で化学反応を起こさせる。
その後、ガスシャワー式熱CVD装置1では、所定のタイミングで反応室側バルブ6を閉状態とするとともに、ベント側バルブ9を開状態とすることにより、反応室内部16への原料ガスの供給を停止し、所望の膜厚でなる強磁性体Pt/Fe薄膜を形成する。
また、ガスシャワー式熱CVD装置1では、上述した強磁性体Pt/Fe薄膜を形成する薄膜形成動作をし終えると、所定時間経過後、再び反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作(すなわち薄膜形成動作)を行なうことにより、新たに所望の膜厚でなる強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成するように構成されている。
このようにしてガスシャワー式熱CVD装置1では、薄膜形成動作を複数回繰り返す成膜動作を行なうことにより、反応室2に原料ガスを間欠的に供給して所定の膜厚の強磁性体Pt/Fe薄膜を順次形成し、高密度及び高品質の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成し得るように構成されている。
CVD用気化器4において用いた気化機構40では、オリフィス管44内で原料溶液を微粒子状又は霧状にしてキャリアガス中に分散させ、熱で当該原料溶液全てを容易に気化させ易いようにし、またオリフィス管44において原料溶液の温度上昇を抑制し原料化合物、この場合Pt化合物及びFe化合物が析出することもないので、オリフィス管44に供給された原料溶液全てを正確に気化でき、かくして反応室2内に原料ガスを確実に供給できる。
従って、基板21の表面上で化学反応を起こさせることにより、ステップガバレジのよい強磁性体Pt/Fe薄膜を形成することができる。
また、基板21上に形成された強磁性体Pt/Fe薄膜に残留する炭素を取り除くには、成膜動作終了後、反応室2内を酸化ガス雰囲気として成膜形成後対象物としての強磁性体Pt/Fe薄膜を形成した基板21を酸化して強磁性体Pt/Fe薄膜から炭素を取り除く。このとき酸化性ガスに含まれる酸素の一部は強磁性体Pt/Fe薄膜に含まれるFeと結合し、強磁性体Pt/Fe薄膜中に酸化鉄を生成する。次いで、酸化処理した基板21をプラズマ反応室(図示しない)に移動させ、プラズマ反応室内を例えば水素と窒素とからなる還元ガス雰囲気とし、プラズマ反応室内にRFプラズマ(RF : Radio Frequency)を印加することにより、強磁性体Pt/Fe薄膜を還元し強磁性体Pt/Fe薄膜から酸素を取り除くことができる。このようにして、炭素を取り除いた所望の強磁性体Pt/Fe薄膜が形成された基板21を得ることができる。
このようにしてガスシャワー式熱CVD装置1では、成膜動作終了後の反応室2内において、酸化処理後、プラズマ反応室内において還元処理を行うことによって、強磁性体Pt/Fe薄膜に残留する炭素を取り除き、所望の強磁性体Pt/Fe薄膜が形成された基板21を得ることができる。また、上述した酸化処理を省略して、成膜動作終了後直ちにプラズマ反応室に基板21を移動させ、プラズマ反応室内に還元ガスを送り込み、RFプラズマを印加して還元処理を行なうこととしてもよい。
尚、上述した還元処理は、本実施の形態におけるガスシャワー式熱CVD装置1にプラズマ発生装置を設け、反応室2内で行うこととしてもよい。
(2)第2の実施の形態
(2−1)気化機構の構成
図2との対応部分に同一符号を付して説明する図3において、CVD用気化器84は、気化機構85によってキャリアガスを常に酸化反応室としての機能を備える反応室2へ供給するとともに、原料溶液供給機構41から供給された原料溶液のほぼ全てを気化機構85で確実に気化して反応室2に供給し得るように構成されている。原料溶液供給機構41では、原料溶液用タンク(図示しない)に貯えられたPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を、液体マスフローコントローラ72、原料溶液流路71、ブロックバルブ73を順次介して原料供給管88に供給するようになされている。
また、かかる構成に加えて原料溶液供給機構41では、ブロックバルブ73から原料供給管88にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給していないとき、溶媒用タンク(図示しない)に貯えられた溶媒を、所定の溶媒流路78を経由させることにより、液体マスフローコントローラ(LMFC)79、接続管60aを順次介してオリフィス管44に供給するように構成されている。
気化機構85は、気化機構本体87、キャリアガス供給管43、原料供給管88、細孔89を備えた噴霧フランジ90を備え、細孔89の先端に気化部45が形成されている。この気化機構85は、気化機構本体87が原料供給管88を鉛直方向に保持すると共に、原料供給管88の先端側にキャリアガスを供給し得るように構成されている。これにより、原料供給管88から供給される原料溶液と、キャリアガス供給管43から供給されるキャリアガスとが細孔89の基端側に形成された分散部91で混合し得るように構成されている。
原料溶液供給機構41は、溶液配管92を介して原料供給管88の基端に連通していることにより、原料供給管88の基端から先端へ原料溶液を供給し得るように構成されている。また、溶液配管92は、原料溶液供給機構41に設けられた原料溶液流路71の内径よりも小さく選定され、原料溶液供給機構41から原料供給管88に供給される原料溶液の流速を一段と速くさせ得るように構成されている。因みに溶液配管92の内径は、例えばφ1mm程度であり、溶液配管92の長さは10mm程度に形成されるのが好ましい。
気化機構本体87は、原料供給管88の先端部分との間に隙間を形成し、原料供給管88の先端側に分散部91を介して噴霧フランジ90を設けると共に、キャリアガス供給管43の先端323aを原料供給管88の先端側に連結する導入口93を設けている。このようにして、分散部91は原料溶液とキャリアガスとを合流させて、原料溶液をキャリアガス中に分散させ得るように構成されている。
(2−2)動作及び効果
以上の構成において、CVD用気化器84では、原料供給管88から鉛直方向に流れる原料溶液と、キャリアガス供給管43から導入口93を介して原料供給管88の先端に向けて流れるキャリアガスとが、分散部91において混合される。これにより原料溶液を微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、気化部45に導入される。因みに原料溶液が分散部91で混合されたときから霧状に噴霧されるまでは1秒以内(より好ましくは0.1秒以内)であることが好ましい。
次いで分散部91でキャリアガス中に分散された原料溶液は、細孔89を通過して気化部45へ導入される。ここで、気化部45の圧力は分散部91に比べ格段に低いため、キャリアガス中に分散した原料溶液は高速で気化部45に噴出し、膨張する。これにより原料溶液に含まれるPt化合物及びFe化合物の昇華温度は低下するため、ヒータ62からの熱で原料溶液は気化し、原料ガスとして反応室2に供給される。
このようにして、ガスシャワー式熱CVD装置1では、原料溶液を原料ガスとして反応室2内に供給でき、これにより当該原料ガスを基板21上に均一に吹き付けてヒータ等により加熱して基板21上で化学反応を起させ、所定の強磁性体Pt/Fe薄膜を形成することができる。
また、プラズマ反応室を使用することにより、上述した同様の効果を得ることができる。
(3)第3の実施の形態
図2との対応部分に同一符号を付して説明する図4において、ガスシャワー式熱CVD装置100は、酸化反応室としての機能を備える反応室2に原料ガスを間欠的に供給し、強磁性体Pt/Fe薄膜の成長を1原子層又は1分子層ずつ行なうALD(Atomic Layer Deposition)式のCVD(Chemical Vapor Deposition)装置である。このガスシャワー式熱CVD装置100は、CVD用気化器4が、気化機構40と、当該気化機構40に設けられた原料溶液供給機構101とを備え、当該気化機構40が反応室側バルブ6を介して反応室のガス導入口5に連結されている。
この場合、CVD用気化器4は、気化機構40によってキャリアガスを常に反応室2へ供給するとともに、原料溶液供給機構101から供給された所定量の原料溶液ほぼ全てを気化機構40で確実に気化して反応室2に供給し得るように構成されている。なお、接続管60a〜60eはそれぞれ原料溶液供給機構101に接続されており、接続管毎に原料溶液の種類を選択することが可能であるが、その構成は同一である。本実施の形態では、オリフィス管44に対して供給する原料溶液の種類がPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給する場合を例にとり、接続管60aに設けられた原料溶液供給機構101についてのみ説明する。
(3−1)原料溶液供給機構の構成
図4に示したように、原料溶液供給機構101では、原料溶液用タンク70に貯えられたPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を、所定の原料溶液流路71を経由させることにより、液体マスフローコントローラ(LMFC)72、ブロックバルブ73及び微量定量ポンプ102を順次介してオリフィス管44に供給するように構成されている。なお、この液体マスフローコントローラ72は、原料溶液流路71を流れるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液の流量を制御するようになされている。
ブロックバルブ73は、図5に示したように、第1〜第4の切換バルブ75a〜75dからなり、これら第1〜第4の切換バルブ75a〜75dが図示しない制御部で統括的に制御されている。
実際上、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液をオリフィス管44に供給する場合、ブロックバルブ73は、第1の切換バルブ75aのみを開状態として他の第2〜第4の切換バルブ75b〜75dを閉状態とすることにより、微量定量ポンプ102にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給し得るようになされている。
ここで微量定量ポンプ102は、ブロックバルブ73とともに制御部によって統括的に制御されており、基板21上に形成する1原子層又は1分子層の膜厚に応じた所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を貯留部103に貯留し得るように構成され、原料溶液用タンク70から供給されてくるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を定量し得るようになされている。
このようにして原料溶液排出手段としての微量定量ポンプ102は、原料溶液用タンク70から供給されてくるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液について、基板21上に形成する1原子層又は1分子層の膜厚に応じた所定量だけ貯留部103に一旦貯留し、原料溶液用タンク70から供給されてくるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液と隔離し得るようになされている。
ここで貯留部103は、1原子層又は1分子層を形成するのに最適な所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が貯まるようにその内部容量が予め選定されており、単にその内部にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を貯めるだけで、1原子層又は1分子層の膜厚を形成するのに最適な所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を容易に、かつ確実に定量できるように構成されている。
そして、微量定量ポンプ102は、貯留部103に一旦所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を貯留すると、制御部からの制御信号を待ち受ける。その後、微量定量ポンプ102は、制御部から所定の制御信号を受け取ると、貯留部103に貯留した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を所定のタイミングでオリフィス管44に供給し得るように構成されている。
これにより、オリフィス管44では、高速に流れるキャリアガスに対し、定量された微量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が供給され、この高速に流れるキャリアガスによって当該Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、これを気化部45に供給し得るようになされている。
また、かかる構成に加えて原料溶液供給機構101では、図5に示したように、微量定量ポンプ102からオリフィス管44にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給していないとき、溶媒用タンク77に貯えられた溶媒を、所定の溶媒流路78を経由させることにより、液体マスフローコントローラ(LMFC)79、カットバルブ104及び接続管60aを順次介してオリフィス管44に供給するように構成されている。
この場合、制御部は、第2の切換バルブ75b及び第3の切換バルブ75cを閉状態とするとともに、カットバルブ104を開状態とすることにより、接続管60aを通過させてオリフィス管44に溶媒を供給し得るようになされている。かくして接続管60aからオリフィス管44に溶媒だけを流すことにより接続管60aに固形物が目詰まりすることを防止できる。
これに対して、制御部は、第2の切換バルブ75b及びカットバルブ104を閉状態とするとともに、第3の切換バルブ75cを開状態とすることにより、ブロックバルブ73を介してベント管81に溶媒を流して廃棄し得るようになされている。
さらに、制御部は、第1の切換バルブ75aを閉状態として微量定量ポンプ102にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給していないとき、第3の切換バルブ75c及びカットバルブ104を閉状態とするとともに、第2の切換バルブ75bを開状態とすることにより、ブロックバルブ73、微量定量ポンプ102及び接続管60aを順次介してオリフィス管44に溶媒を供給し得るようになされている。かくして微量定量ポンプ102に溶媒だけを流すことにより、当該微量定量ポンプ102に固形物が目詰まりすることを防止できる。
なお、制御部は、第1の切換バルブ75a、第2の切換バルブ75b及び第3の切換バルブ75cを閉状態とするとともに、第4の切換バルブ75dを開状態とすることにより、ブロックバルブ73を介してベント管81にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を流して廃棄し得ることもできるように構成されている。
(3−2)動作及び効果
以上の構成において、CVD用気化器4では、原料溶液用タンク70及びオリフィス管44の間に設けた原料溶液流路71に微量定量ポンプ102を設け、原料溶液用タンク70から供給されてくるPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微量定量ポンプ102で定量し、1原子層又は1分子層の膜厚に応じた量だけPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を貯留部103に貯留する。
次いでCVD用気化器4では、オリフィス管44において反応室2に向けて常に高速で流れるキャリアガス流に、微量定量ポンプ102で定量した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給することにより、Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を所定量だけ微粒子状又は霧状にさせてキャリアガス中に分散させ、そのまま気化部45で気化し原料ガスとして反応室2に供給する。
かくして、ガスシャワー式熱CVD装置1では、微量定量ポンプ102によって定量した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液だけを原料ガスとして反応室2内に供給でき、これにより当該原料ガスを基板21上に均一に吹き付けてヒータ24等により加熱して基板21上で化学反応を起こさせる。
ガスシャワー式熱CVD装置1では、微量定量ポンプ102によって定量した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液全てが気化機構40に供給し終えると、これに伴い反応室内部16への原料ガスの供給が停止し、その結果、反応室2にはキャリアガスだけが再び供給される。かくしてガスシャワー式熱CVD装置1では、反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作を行なわずに、所望の膜厚でなる1原子層又は1分子層の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成できる。
また、ガスシャワー式熱CVD装置1では、このようにして1原子層又は1分子層の強磁性体Pt/Fe薄膜を形成する薄膜形成動作をし終えると、所定時間経過後、再び微量定量ポンプ102によって定量した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が気化機構40に供給されることにより、新たに所望の膜厚でなる1原子層又は1分子層の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成する。
このようにしてガスシャワー式熱CVD装置1では、微量定量ポンプ102によって定量した所定量だけ気化機構40にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給する薄膜形成動作を複数回繰り返し、反応室2に原料ガスを間欠的に供給して所定の膜厚を順次形成でき、かくして高密度及び高品質の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に形成できる。
このようにガスシャワー式熱CVD装置1では、成膜形成動作を繰り返すALD動作時、上述した実施の形態において行なわれていた反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作を一切行なわずに、微量定量ポンプ102によって定量した所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液だけを気化機構40で気化し、これを原料ガスとして反応室2に供給することにより反応室2内で1原子層又は1分子層でなる所望の膜厚を形成できる。
従って、ガスシャワー式熱CVD装置1では、反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作によって原料ガスが廃棄されるのを回避しながら、1原子層又は1分子層でなる所望の膜厚の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に順次形成させてゆくことができる。
また、ガスシャワー式熱CVD装置1では、ALD動作時、反応室側バルブ6を常に開状態とし、ベント側バルブ9を常に閉状態としてCVD用気化器4からのキャリアガスを常に反応室2に供給するように構成したことにより、反応室2の圧力変化が生じることがなく、当該反応室2内における成膜処理条件を均一に維持できる。
さらに、このガスシャワー式熱CVD装置1では、ALD動作時、反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作が繰り返し頻繁に行なわれることがないため、これら反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の動作寿命を延ばすことができ、その結果、従来に比してメンテナンス頻度を少なくして稼働率が低下することを回避できる。
そして、このガスシャワー式熱CVD装置1では、1原子層又は1分子層の膜厚を形成するのに最適な所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液が貯まるように微量定量ポンプ102の貯留部103が予め選定されていることにより、単に貯留部103にPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を貯めるだけで、1原子層又は1分子層の膜厚を形成するのに最適な所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を容易に、かつ確実に気化機構40に供給することができる。
また、CVD用気化器4において用いた気化機構40では、オリフィス管44内でPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を微粒子状又は霧状にしてキャリアガス中に分散させ、熱で当該Pt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液全てを容易に気化させ易いようにし、またオリフィス管44においてPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液の温度上昇を抑制しPt化合物とFe化合物が析出することもないので、微量定量ポンプで精密に定量された所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液全てを正確に気化でき、かくして反応室2内に常に一定量の原料ガスを正確に供給できる。
以上の構成によれば、ALD動作時において、反応室2にキャリアガスを供給し続け、微量定量ポンプ102で定量した1原子層又は1分子層の膜厚に応じた所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を間欠的に気化機構40に供給し、これにより得られた所定量のPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液からなる原料ガスをキャリアガスと共に反応室2に供給するようにした。
従って、ガスシャワー式熱CVD装置1では、反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作によって原料ガスが廃棄されるのを回避しながら、1原子層又は1分子層でなる所望の膜厚の強磁性体Pt/Fe薄膜を基板21上に順次形成させてゆくことができ、かくして1原子層又は1分子層の強磁性体Pt/Fe薄膜を順次形成してゆく過程で原料ガスを廃棄しない分だけ原料ガスの使用効率を格段と向上させ得る。
また、ガスシャワー式熱CVD装置1では、ALD動作時、反応室側バルブ6を常に開状態とし、CVD用気化器4からのキャリアガスが常に反応室2に供給するようにしたことにより、反応室2の圧力変化が生じることがなく、当該反応室2内における成膜処理条件を均一に維持でき、かくして原料ガスに応じた1原子層又は1分子層の膜厚を基板21上に均一に形成し得る。
さらに、ガスシャワー式熱CVD装置1では、ALD動作時、反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の開閉動作が繰り返し頻繁に行なわれることもないため、これら反応室側バルブ6及びベント側バルブ9の動作寿命を延ばすことができ、かくして従来に比してメンテナンス頻度を少なくして生産性を向上できる。
また、プラズマ反応室を使用することにより、上述した同様の効果を得ることができる。
(4)第4の実施の形態
図4との対応部分に同一符号を付して示す図6において、110は薄膜形成装置としての熱CVD装置を示し、反応室111の側部方向から原料ガスを間欠的に供給して行なわれる一連のALD式の動作を実行し得るように構成されており、それ以外は上述した第1の実施の形態と同様の構成を有する。このような熱CVD装置110でも、CVD用気化器4を搭載していることから、上述した同様の効果を得ることができる。
また、プラズマ反応室を使用することにより、上述した同様の効果を得ることができる。
(5)第5の実施の形態
図4との対応部分に同一符号を付して示す図7において、薄膜形成装置としてのプラズマCVD装置115は、上述した第3の実施の形態とはCVD部の構成が異なるものである。
実際上、このCVD部116には、反応室2にRF(Radio Frequency)プラズマ発生装置が設けられており、当該RFプラズマ発生装置によって酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備える反応室2内でプラズマを発生させ得るようになされている。
この場合、反応室2の上方にRF印加電極117が設けられており、RF印加電極117は、外部のノイズカットフィルタ118を介して同じく外部のRF電源119に電気的に接続されている。これによりプラズマCVD装置115では反応室2内にプラズマを発生させ、基板21上で化学反応を起こさせて所望の膜厚でなる1原子層又は1分子層の強磁性体Pt/Fe薄膜を形成できるように構成されている。このようなプラズマCVD装置115でも、CVD用気化器4を搭載していることから、上述した第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態におけるプラズマCVD装置では、反応室2が酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備えることにより、上述した酸化処理及び還元処理を強磁性体Pt/Fe薄膜形成後、継続して反応室2内で行なうことができる。
(6)第6の実施の形態
図4との対応部分に同一符号を付して示す図8において、120は薄膜形成装置としてのガスシャワー式プラズマCVD装置を示し、上述した第3の実施の形態とはCVD部121の構成が異なるものであり、プラズマ方式で、かつシャワープレート17を備えた構成を有する。尚、反応室2は、酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備える。
実際上、このCVD部121には、シャワープレート17の上部に絶縁材122を介してRF(Radio Frequency)電極123が形成され、その上部にシャワープレートヒータ26が設けられている。なお124はノイズカットフィルタであり、制御ユニット28にRF電圧が侵入するのを防止するためのものである。RF電極123はRF電源124に電気的に接続されている。このようなシャワー式プラズマCVD装置120でも、CVD用気化器4を搭載していることから、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。尚、本実施の形態では、基板21は、この基板ステージ用ヒータ24によって100〜900℃の範囲に加熱されるのが好ましい。したがって、上述した第3の実施の形態に比べ低い温度で強磁性体Pt/Fe薄膜を形成することができる。また、酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備える反応室2を備えていることから、上述した第5の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
(7)第7の実施の形態
図9において、130は薄膜形成装置としてのローラ式プラズマCVD装置を示し、ローラ式CVD部131に上述したCVD用気化器4が複数設けられた構成を有する。
このローラ式プラズマCVD装置130は、ローラ式CVD部131に複数のプラズマ発生装置132a〜132eが設けられており、被成膜テープ133を正方向Fに走行させたり、或いは当該正方向Fとは逆方向Rに走行させることにより、各プラズマ発生装置132a〜132eにおいて強磁性体Pt/Fe薄膜を形成し、異なる原料でなる薄膜からなる多層膜を形成し得るようになされている。
実際上、このローラ式プラズマCVD装置130では、各プラズマ発生装置132a〜132e毎に本願発明のCVD用気化器4が設けられており、上述した第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
因みに、このローラ式プラズマCVD装置130は、酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備える反応室134内に成膜ローラ135を挟んで第1の巻き取りローラ136及び第2の巻き取りローラ137が配置されている。また、成膜ローラ135の一方側には第1の送りローラ138及び第1のテンションコントロールローラ139が配置されているとともに、成膜ローラ135の他方側には第2の送りローラ140及び第2のテンションコントロールローラ141が配置されている。なお、成膜ローラ135は、直径が例えば300〜20000mmと大径であり、幅が例えば2mである。
これによりローラ式プラズマCVD装置130では、第1の巻き取りローラ136から第1の送りローラ138、第1のテンションコントロールローラ139、成膜ローラ135、第2のテンションコントロールローラ141及び第2の送りローラ140を経由して第2の巻き取りローラ137に被薄膜形成対象物としての被成膜テープ133を走行させる走行経路が形成され、被成膜テープ133がその走行経路に沿って第1の巻き取りローラ136から第2の巻き取りローラ137に向かう方向(正方向F)に走行し得るとともに、その逆方向Rたる第2の巻き取りローラ137から第1の巻き取りローラ136に向かう方向に走行し得る。
この場合、各プラズマ発生装置132a〜132eは、成膜ローラ135上の各エリアに対応して設けられており、被成膜テープ133のそのエリア上に位置する部分にCVD用気化器4を動作させて強磁性体Pt/Fe薄膜を形成することができる。また、各プラズマ発生装置132a〜132e及びCVD用気化器4はそれぞれ個別に各種CVD条件を設定できるように制御され、形成する強磁性体Pt/Fe薄膜も個別に設定できるようにされており、個別に成膜動作をさせたり、成膜動作を停止させたりする制御も個別に行なえ得るように構成されている。
なお、それぞれ隣接するプラズマ発生装置132a〜132e間には原料ガスの干渉を防止するため仕切板145が配置されている。なお146は排気管、147は防着板、148はガスシャワー電極、149はRF電源である。本実施例では、成膜ローラ135がアースされ、ガスシャワー電極148がRF電源149の端子に接続されており、プラズマ発生装置132a〜132eの電位が高くなっている。
かくしてこのようなローラ式プラズマCVD装置130では、被成膜テープ133を正方向Fに走行させたり、或いは逆方向Rに走行させる動作を交互に繰り返し、例えば50層〜1000層という多層膜を比較的効率的に形成できる。
また、反応室134は酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備えることにより、酸化処理及び還元処理を行なうことができ、上述した同様の効果を得ることができる。
(8)第8の実施の形態
図9との対応部分に同一符号を付して示す図10において、160は薄膜形成装置としてのローラ式プラズマCVD装置を示し、このローラ式プラズマCVD装置160は、上述した第5の実施の形態とは成膜ローラ135の電位が高くなっている点で相違する。すなわち、ローラ式プラズマCVD装置160では、1つのRF電源161の一端が成膜ローラ135に接続され、各プラズマ発生装置132a〜132eのガスシャワー電極148がアースされている点で異なる。このようなローラ式プラズマCVD装置160でも、本願発明のCVD用気化器4が設けられていることから、上述した第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、反応室134は酸化反応室及びプラズマ反応室としての機能を備えることにより、酸化処理及び還元処理を行なうことができ、上述した同様の効果を得ることができる。
(9)第9の実施の形態
図9との対応部分に同一符号を付して示す図11において、170は薄膜形成装置としてのローラ式熱CVD装置を示し、このローラ式熱CVD装置170は、上述した第5の実施の形態とはプラズマ発生装置132a〜132eに替えて加熱電極171a〜171eが設けられている点で相違する。このようなローラ式熱CVD装置170でも、各加熱電極171a〜171e毎に本願発明のCVD用気化器4が設けられていることから、上述した第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、反応室134は酸化反応室としての機能を備えることにより酸化処理を行ない、また、プラズマ反応室を使用することにより還元処理を行なうことができ、上述した同様の効果を得ることができる。
(10)他の実施の形態
なお本願発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
例えば、上述した第4〜第9の実施の形態においては、第3の実施の形態において例示した気化器を備えたCVD装置について述べたが、第1の実施の形態及び第2の実施の形態において例示した気化器を第4〜第9の実施の形態におけるCVD装置に適用することとしてもよい。
また、上述した実施の形態においては、接続管60aに設けられた原料溶液供給機構からPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を供給するようにした場合を例にとり、接続管60a〜60eに設けられた各原料溶液供給機構からPt化合物とFe化合物とを含有した原料溶液を気化機構に供給するようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らず、第1の原料溶液流路及び第2の原料溶液流路を介して接続管60a〜60eに設けられた各原料溶液供給機構からPt化合物を含有した原料溶液(白金化合物含有溶液)とFe化合物を含有した原料溶液(鉄化合物含有溶液)を同時に、又は時間を空けて順次気化機構に供給するようにしてもよい。
なお本願発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施の形態においては、接続管に設けられた微量定量ポンプから1種類の原料溶液を気化機構20に供給するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、接続管に設けられた各微量定量ポンプから異なる種類の原料溶液を同時に気化機構20に供給したり、或いは接続管に設けられた各微量定量ポンプから異なる種類の原料溶液を時間を空けて順次気化機構に供給するようにしても良い。
さらに、上述した実施の形態においては、微量定量ポンプで定量した原料溶液を、規則的な間隔を空けて間欠的に気化機構に供給するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、微量定量ポンプで定量した原料溶液を、不規則な間隔を空けて断続的に気化機構に供給するようにしても良い。この場合、微量定量ポンプにより必要に応じて原料溶液の供給を複数回繰り返して行うことができる。
さらに、上述した実施の形態においては、微量定量ポンプで原料溶液を1原子層又は1分子層の量に定量するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、微量定量ポンプで500nm以下の膜厚に応じた量等この他種々の量に定量するようにしても良く、この場合、例えば500nm以下の膜厚に応じた量だけ原料溶液を気化部に供給できる。
さらに、上述した実施の形態においては、原料溶液を貯留する量が予め定められた微量定量ポンプを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、必要に応じて適宜貯留量が可変する可変型の微量定量ポンプを適用するようにしても良い。
さらに、上述した実施の形態においては、原料溶液排出手段として、微量定量ポンプを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、原料溶液を所定量に定量して気化機構に供給できれば、この他種々の原料溶液排出手段を適用するようにしても良い。
(11)実施例1
図12に温度に対するトリメチルシクロペンタジエニル白金[Pt(CH3)3(C5H5)]のTG−DTAチャート、すなわち熱重量分析(TG:Thermo gravimetric Analysis)及び示差熱分析の結果を示す。図12のAに示す熱重量分析特性は、760Torrアルゴン雰囲気下におけるデータである。この図から明らかなように、トリメチルシクロペンタジエニル白金を完全に昇華させるためには略190℃以上の温度が必要ということになる。
図13は760Torrアルゴン雰囲気下におけるトリスジイソブチリルメタナト鉄[Fe(C9H15O2)3]のTG−DTAチャート、すなわち熱重量分析及び示差熱分析の結果である。この図のBから明らかなように、トリスジイソブチリルメタナト鉄を完全に昇華させるためには略300℃以上の温度が必要ということになる。
以上より、トリメチルシクロペンタジエニル白金とトリスジイソブチリルメタナト鉄を含有した原料溶液を気化する場合、760Torrアルゴン雰囲気下では略300℃以上の温度で加熱することが好ましいことが分かる。
図14に示すCは、760Torrアルゴン雰囲気下におけるFe(DMAMP)3の熱重量分析の結果である。図15に示すDは、760Torr酸素雰囲気下におけるFe(DMAMP)3の熱重量分析の結果である。ここで、温度上昇率はいずれも30℃〜400℃の間において10℃/minとしている。図14のCより、760Torrアルゴン雰囲気下でFe(DMAMP)3を100%昇華させるためには、略250℃以上の温度が必要であることが分かる。アルゴン10Torrの減圧雰囲気下で、Fe(DMAMP)3を100%昇華させるためには、約100℃低下して、略150℃以上の温度が必要であることが分かっている。
一方、図15のDより、760Torr酸素雰囲気下では、Fe(DMAMP)3を100%昇華させることは不可能である。したがって、Fe(DMAMP)3を100%昇華させるためには、気化機構において、酸素を完全に取り除く必要があることが分かる。
図16に示すEは、760Torrアルゴン雰囲気下におけるFe(THD)3の温度に対する熱重量分析の結果である。図17に示すFは760Torr酸素雰囲気下におけるFe(THD)3の温度に対する熱重量分析の結果である。ここで、温度上昇率はいずれも30℃〜400℃の間において10℃/minとしている。図16のE及び図17のFより、760Torrアルゴン及び酸素雰囲気下でFe(THD)3を100%昇華させることが可能であり、そのためには略270℃以上の温度が必要であることが分かる。
図18は、Fe(DMAMP)3の温度に対する分解特性を測定した結果である。この図から、180℃以上でFe(DMAMP)3の分解が始まることが分かる。
図19は、Fe(DMAMP)3の温度に対する蒸気圧の変化を示すものである。この図からも、Fe(DMAMP)3の蒸気圧が強い温度依存性を持つことが確認される。
(12)実施例2
本発明に係る原料溶液として、化1にPt化合物としてトリメチルシクロペンタジエニル白金[Pt(CH3)3(C5H5)]を示す。
また、化2にFe化合物としてトリスジイソブチリルメタナト鉄
[Fe(C9H15O2)3]を示す。
尚、本発明で用いるPt化合物及びFe化合物は、上述の化1及び化2に限定されるものではないが、以下、これらを用いた場合について述べる。
本発明に係るプラズマCVD装置を用いて、トリメチルシクロペンタジエニル白金と、トリスジイソブチリルメタナト鉄とを含有した原料溶液を気化機構で気化し、下記表1に示す条件で強磁性体Pt/Fe薄膜を形成した。
この表1における試料1と試料4との対比から、成膜直後の強磁性体Pt/Fe薄膜のシート抵抗値は、成膜温度が高いと低下することが分かる。また、試料1並びに試料2及び試料3との対比から、シート抵抗値は、印加するRFプラズマ電力が大きいと低下することが分かる。また、成膜後、還元性の水素と窒素とからなるキャリアガス雰囲気下でプラズマ処理を行なうことにより、シート抵抗値は、最大2桁低下することが分かる。