本発明は、光学機器、光リソグラフィ用の光学系等に好適に使用されるフッ化カルシウム、フッ化バリウム等のフッ化物単結晶を製造する際に使用する単結晶育成用ルツボ及びこのルツボにより育成されるフッ化物結晶に関する。
近年、電子機器に搭載される半導体素子においては、微細化の要求が年々高まってきている。この要求を満たすため、半導体素子の製造に使用する露光装置に関しては、投影光学系の解像力を高める提案がなされており、その手段の一つとして露光光源の波長を短くすることが挙げられている。
このような技術的背景から、露光光源としては、KrFエキシマレーザー(波長248nm)よりも波長の短いArFエキシマレーザー(波長193nm)が使用される傾向にある。これに対応して、投影光学系に関しては、このような真空紫外域の波長域の光に対する透過率が高いものを使用する必要が生じている。
ここで、波長250nm以下の光源を用いた投影・照明光学系に使用されるレンズや光学素子の光学材料としては、石英ガラス又はフッ化カルシウム単結晶などのフッ化物単結晶が従来一般的である。そして、このフッ化物単結晶の工業的な製造方法としては、ブリッジマン・ストックバーガー法(以下ブリッジマン法)が広く用いられている。
以下、フッ化カルシウム単結晶を例に挙げ、フッ化物単結晶のブリッジマン法による従来の製造方法について説明する。ここで、250nm以下の波長域に対応できるフッ化カルシウム単結晶の原料には、化学合成された高純度の粉末やそれを一度溶融して固化したものを用いる。
まず、単結晶に育成するためのフッ化カルシウムの原料をルツボに充填する。ここで、育成する結晶の面方位を考慮する必要がある場合には、ルツボの先端部分に種結晶を収容して結晶の面方位制御を行う。
次に、原料が充填されたルツボを結晶育成炉内に設置する。そして、結晶育成炉内を10−4Pa程度まで真空排気すると共に、その炉内の上部に設置されたヒーターにより炉内を1500℃前後に加熱することにより、ルツボ内の原料を融解する。
その後、結晶育成炉内の上部より相対的に低温となる炉内下部へ向けてルツボを徐々に引き下げることにより、ルツボ内で融解した原料を下部から上部へと徐々に冷却して結晶を育成する。そして、ルツボ内での結晶の成長が終了した後、結晶育成炉内を室温近傍まで徐冷すると共に大気圧まで復圧し、ルツボから育成されたフッ化カルシウム単結晶を取り出す。
ところで、このようなブリッジマン法により製造されたフッ化カルシウム単結晶には、グレインバウンダリー、サブグレインバウンダリー、微小欠陥などが存在し、残留応力が発生するという問題が指摘されている。
このような問題に対処するするため、従来、結晶育成炉内のヒーターによる温度勾配の制御、結晶育成速度の最適化、固液界面の制御などに関する種々の検討が行われてきた。特に、従来の結晶育成方法では、口径の大きな結晶を育成する場合に結晶の成長途中で多結晶化が起こることが多いため、口径が大きく全体が均質な単結晶を得る目的のもとに、ルツボ本体の温度勾配を制御するさまざまな検討が行われてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
ここで、特許文献1には、ルツボの下部の円錐形部分を円筒形支持部材で囲むことにより、ルツボの円錐形部分の熱的条件の変化を抑えてサブグレインバウンダリーの発生を抑制する技術が記載されている。
また、特許文献2には、ルツボの円錐形部分の外面に斜め下方に張り出す複数枚のフィンを設け、この複数枚のフィンによりヒーター面の温度分布をルツボの円錐形部分に転写して温度勾配をつけることにより、結晶成長途中の多結晶化や結晶欠陥の発生を抑制する技術が記載されている。
さらに、特許文献3には、ルツボの円錐形部分の外面に、加熱炉上部からの熱流束を透過させ、かつ、加熱炉下部への熱流束を遮断する熱流束制御板を設けることにより、結晶成長途中の多結晶化や結晶欠陥の発生を抑制する技術が記載されている。
特開2005−035824号公報
特開2005−132675号公報
特開2005−219946号公報
しかしながら、前述の特許文献1〜3に記載された技術手段を採用しても、口径の大きなフッ化物単結晶を育成する場合には、結晶面方位の制御を行いながらグレインバウンダリーの発生を抑制して多結晶化を防止することは極めて困難であった。
本発明は、このような従来技術が抱える問題に鑑みてなされたものであり、結晶面方位の制御とグレインバウンダリーの発生による多結晶化の防止とを両立できる単結晶育成用ルツボを提供すると共に、このルツボにより育成される高品質のフッ化物結晶を提供することを課題とする。
本発明に係る単結晶育成用ルツボは、融解したフッ化物原料から種結晶を用いてフッ化物単結晶を育成するために使用するルツボであって、原料収容部を囲む大径周壁部の下部に種結晶収容部を囲む小径周壁部が連続するロート状のルツボ本体と、このルツボ本体の小径周壁部側の下部開口を塞ぐ底板部材と、この底板部材上にルツボ本体の大径周壁部の下部を支持して小径周壁部との間に放熱空間を形成する円筒状支持部材とを少なくとも備え、円筒状支持部材の周面には、複数の放熱窓が開口されていることを特徴とする。
本発明に係る単結晶育成用ルツボでは、ルツボ本体の原料収容部に収容されたフッ化物原料は、加熱により融解し、冷却により結晶化する。その際、ルツボ本体の小径周壁部側では、その周囲の放熱空間及び円筒状支持部材に開口された複数の放熱窓により、大径周壁部側に較べて放熱が十分になされる。このため、ルツボ本体の温度勾配は、種結晶を収容した種結晶収容部の周囲の小径周壁部側が低く、フッ化物原料を収容した原料収容部の周囲の大径周壁部側が高い温度勾配に維持される。
その結果、ルツボ本体の原料収容部内で融解したフッ化物原料が冷却により結晶化する際の結晶成長は、種結晶収容部に収容された種結晶を起点として確実に開始され、以後、種結晶を中心としてその結晶面に沿って放射状に進行する。
従って、大口径のフッ化物単結晶を育成する場合にも、サブグレインバウンダリーの発生が抑制されて結晶面方位が適切に制御され、かつ、グレインバウンダリーの発生が抑制されて多結晶化が防止される。
本発明の単結晶育成用ルツボにおいて、円筒状支持部材の周面総面積に対する複数の放熱窓の開口率が30%未満であると、十分な放熱効果が期待できない。一方、開口率が80%を超えると、円筒状支持部材の強度不足が懸念される。そこで、円筒状支持部材の周面総面積に対する複数の放熱窓の開口率は、30〜80%とするのが好ましい。
また、ルツボ本体の原料収容部の底面が円錐面状に下降傾斜しており、この底面中央部に種結晶収容部が開口していると、原料収容部内で融解したフッ化物原料が冷却により結晶化する際、結晶成長が種結晶を中心として放射状に進行するので好ましい。
ここで、ルツボ本体の種結晶収容部は、直径が5mm未満であると、種結晶を種結晶収容部に装填する際に小径周壁部が強度不足で破損する恐れがあり、直径が20mmを超えると、種結晶収容部に装填された種結晶(フッ化物結晶)と小径周壁部との熱膨張係数の相違によって小径周壁部が破損する恐れがある。そこで、種結晶収容部の直径は、5〜20mmとするのが好ましい。
また、ルツボ本体の種結晶収容部は、長さが20mm未満であると、種結晶収容部に装填された種結晶を長さ方向の半分程度まで溶融させるのが困難となり、種結晶の結晶面に沿ってフッ化物の単結晶を成長させる際の結晶面方位の制御が難しくなる。そこで、種結晶収容部の長さは、少なくとも20mmとするのが好ましい。
一方、ルツボ本体の大径周壁部の外径が150mm未満であると、原料収容部内で育成されるフッ化物結晶の口径が小さくなる。そこで、大口径のフッ化物結晶を好適に育成できるように、ルツボ本体の大径周壁部の外径は、少なくとも150mmとするのが好ましい。この場合、大口径のフッ化物結晶の重量に十分耐えるように、ルツボ本体の肉厚は、少なくとも5mmとするのが好ましい。
ここで、ルツボ本体の構成材料は、耐熱性が高く、しかも原料収容部の内面の平滑性が容易に得られるグラファイト、ガラス状カーボン、炭化珪素(SiC)とするのが好ましい。
本発明の単結晶育成用ルツボを使用して育成されるフッ化物結晶は、同一結晶面方位部分が全体積の90%以上であることを特徴とする。
また、本発明の単結晶育成用ルツボを使用して育成されるフッ化物結晶は、結晶成長方向に垂直な面が種結晶の結晶面方位に対し2度以内の方位ズレであることを特徴とする。
そして、このようなフッ化物結晶は、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウムの何れかの結晶であることを特徴とする。
本発明に係る単結晶育成用ルツボによれば、ルツボ本体の原料収容部内で融解したフッ化物原料を冷却して結晶化する際、ルツボ本体の温度勾配を小径周壁部側が低く、大径周壁部側が高い温度勾配に維持することができる。その結果、低温に維持される種結晶を起点として結晶成長を開始させ、種結晶を中心としてその結晶面に沿って放射状に結晶成長を進行させることができる。
従って、大口径のフッ化物単結晶を育成する場合にも、サブグレインバウンダリーの発生を抑制して結晶面方位を適切に制御でき、かつ、グレインバウンダリーの発生を抑制して多結晶化を防止することができる。
以下、図面を参照して本発明に係る単結晶育成用ルツボ及びこのルツボにより育成されるフッ化物結晶の最良の実施形態を説明する。ここで、参照する図面において、図1は一実施形態に係る単結晶育成用ルツボの縦断面図、図2は図1に示した円筒状支持部材の斜視図、図3は一実施形態に係る単結晶育成用ルツボを使用してフッ化物結晶を育成するための結晶育成炉の概略構造を示す模式図である。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限定されるものではない。
図1に示すように、一実施形態に係る単結晶育成用ルツボ1(以下、単にルツボ1と略称することがある。)は、融解したフッ化物原料から種結晶を用いてフッ化物単結晶を育成するために使用するルツボであって、ロート状のルツボ本体2と、このルツボ本体2の上部の大径周壁部2Aに囲まれた原料収容部2Bの上部開口を覆う蓋部材3と、ルツボ本体2の下部の小径周壁部2Cに囲まれた種結晶収容部2Dの下部開口を塞ぐ底板部材4と、この底板部材4上にルツボ本体2の大径周壁部2Aの下部を支持して小径周壁部2Cとの間に放熱空間5を形成する円筒状支持部材6とを備えて構成されている。
ルツボ本体2は、大径周壁部2Aの下部に円錐面状に下降傾斜した傾斜底部2Eを介して小径周壁部2Cの上部が連続するロート状に形成されている。そして、大径周壁部2Aと底部2Eとで囲まれた原料収容部2Bの底面2Fは、所定の頂角の円錐面状に下降傾斜しており、この底面2Fの中央部に種結晶収容部2Dの上部が開口している。
ここで、下降傾斜する底面2Fの円錐面の頂角が小さすぎると、原料収容部2B内で育成されるフッ化物の結晶内に残留応力や歪みが発生し、これに起因して多結晶(異相)が発生し易い。一方、底面2Fの円錐面の頂角が大き過ぎると、フッ化物の単結晶の育成が阻害され易い。そこで、底面2Fの円錐面の頂角は、95〜150度の範囲のうち最も好ましい120度程度に設定されている。
ルツボ本体2の種結晶収容部2Dは、円柱状の種結晶を収容するようにストレートな円形孔として形成されている。この種結晶収容部2Dの直径は、5mm未満であると種結晶を種結晶収容部2Dに装填する際に小径周壁部2Cが強度不足で破損する恐れがあり、20mmを超えると種結晶収容部2Dに装填された種結晶(フッ化物単結晶)と小径周壁部2Cとの熱膨張係数の相違によって小径周壁部2Cが破損する恐れがある。そこで、種結晶収容部2Dの直径は、通常、5〜20mmに設定されている。
また、種結晶収容部2Dの長さは、少なくとも20mm、好ましくは30〜60mm程度に設定されている。その理由は、種結晶収容部2Dの長さが20mm未満であると、種結晶収容部2Dに装填された種結晶を長さ方向の半分程度まで溶融させるようにルツボ本体2の位置や温度勾配を調整する作業が困難となり、種結晶の結晶面に沿ってフッ化物の単結晶を成長させる際の結晶面方位の制御が難しくなるためである。
さらに、ルツボ本体2の大径周壁部2Aの外径は、150mm未満であると原料収容部2B内で育成されるフッ化物結晶の口径が小さくなる。そこで、大口径のフッ化物結晶を育成できるように、大径周壁部2Aの外径は、少なくとも150mm、好ましくは200〜300mm程度に設定されている。この場合、大口径のフッ化物結晶の重量に十分耐えるように、ルツボ本体2の肉厚は、5〜10mm程度に設定されている。
このようなルツボ本体2は、原料収容部2B内で育成するフッ化物結晶の多結晶化を防止する観点から、原料収容部2Bの内面の平滑性が容易に得られ、しかも耐熱性の高いグラファイト、ガラス状カーボン(GC)、炭化珪素(SiC)などで構成されている。なお、ルツボ本体2の原料収容部2B及び種結晶収容部2Dを形成する内面は、特に、光沢を有するガラス状カーボン(GC)でコーティングされているのが好ましい。
蓋部材3、底板部材4及び円筒状支持部材6は、ルツボ本体2と同様の材料でされており、蓋部材3は、その周縁下部に形成された嵌合段部3Aを介してルツボ本体2の大径周壁部2Aの上端部に嵌合している。
円筒状支持部材6は、その上端部の内周に形成された嵌合段部6Aがルツボ本体2の大径周壁部2Aの下部にされた嵌合段部2Gに嵌合し、その下端部の内周に形成された嵌合段部6Bが底板部材4の周縁上部に形成された嵌合段部4Aに嵌合しており、底板部材4上にルツボ本体2の大径周壁部2Aを支持している。
底板部材4は、円筒状支持部材6を介してルツボ本体2に接続されており、その上面が小径周壁部2Cの下端に当接して種結晶収容部2Dの下部開口を塞いでいる。そして、この底板部材4の下面には、後述する結晶育成炉 のシャフト の上端部に固定された伝熱部材 (図4参照)を嵌合固定するための接続口4Bが環状に突設されている。
ここで、図2に示すように、円筒状支持部材6の周面には、その円周方向に等間隔に配列して複数の放熱窓6Cが開口されている。これらの放熱窓6Cの大きさや個数には特に制限はないが、均一な放熱効果を期待できる点で同一の形状であることが好ましい。そこで、各放熱窓6Cは、同一形状の縦長の長円形に開口されている。
これらの放熱窓6Cの総開口面積は、円筒状支持部材6がルツボ本体2の重量を支えるのに必要な強度を確保できる範囲で最大にすることが好ましい。しかしながら、複数の放熱窓6Cの総開口面積が円筒状支持部材6の周面の総面積の80%を超えると、円筒状支持部材6の強度不足が懸念される。一方、複数の放熱窓6Cの総開口面積が円筒状支持部材6の周面の総面積の30%未満であると十分な放熱効果が期待できない。
そこで、複数の放熱窓6Cの総開口面積は、円筒状支持部材6の周面の総面積の30〜80%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%に設定されている。すなわち、円筒状支持部材6の周面の総面積に対する複数の放熱窓6Cの開口率は、30〜80%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%に設定されている。
各放熱窓6Cは、図2に示す例では、縦長の長円形に開口されているが、図3に示すような円形に開口されていてもよいし、四角形などの適宜の形状に開口されていてもよい。なお、四角形の場合には、応力集中を回避する観点から角に丸みを持たせるのが好ましい。
以上のように構成された一実施形態の単結晶育成用ルツボ1は、図4に示す垂直ブリッジマン法による結晶育成炉10内に設置されて使用される。この結晶育成炉10は、気密容器11内に断熱材12で囲まれた加熱室13を備えており、この加熱室13内には、ルツボ1を加熱するようにその周囲に配置されるヒータ14と、ルツボ1を上端部に支持して昇降させるためのシャフト15とが装備されている。
気密容器11内は、ヒータ14による加熱時にルツボ1内のフッ化物原料Mが酸化するのを極力防止するため、図示しない真空ポンプによって例えば10−3〜10−4Pa程度の真空状態に減圧される。また、ヒータ14は、ルツボ1内のフッ化物原料Mを確実に融解できる1550℃前後の温度に昇温可能なものである。このヒータ14は、上部が最高温度に昇温し、下方に向かって低下する温度勾配を形成する。
シャフト15は、10mm/h程度の微速度で上昇し、1mm/h程度の極微速度で下降するように制御される。このシャフト15は、ヒータ14の加熱によってルツボ1内の種結晶Sが溶融するのを防止するため、内部に冷却水循環路が構成された2重管構造とされており、その上端部にはキャップ状の伝熱部材16が嵌合固定されている。そして、この伝熱部材16上にルツボ1の底板部材4に形成された接続口4Bが嵌合されることにより、種結晶Sの下部が強制冷却されるようになっている。
以下、一実施形態の単結晶育成用ルツボ1を図4に示した結晶育成炉10内に設置してフッ化物の単結晶を製造する方法を説明する。まず、ルツボ1のルツボ本体2の種結晶収容部2D内に種結晶Sを装填する。この種結晶Sは、ルツボ本体2の原料収容部2B内で育成される結晶の面方位を制御するものであって、フッ化物の単結晶からなる。この種結晶Sは、育成される結晶成長方向に対して垂直となる面が目的の結晶面方位から2度以内となるようにして種結晶収容部2D内に装填する。
種結晶収容部2D内に装填する種結晶Sの直径は、種結晶収容部2D内に無理なく装填でき、しかも、小径周壁部2Cの内径との隙間に原料等の異物が混入するのを防止するため、小径周壁部2Cの内径(種結晶収容部2Dの直径)の95〜99%とするのが好ましい。こうすることで、小径周壁部2Cの破損を未然に防止でき、しかも異物の混入による面方位制御の悪化を防止することができる。
つぎに、ルツボ1のルツボ本体2の原料収容部2B内に粉末又は破砕した固体のフッ化物原料Mを収容する。このフッ化物原料Mは、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウムの何れかである。このフッ化物原料Mには、酸素系の不純物を取り除くためのスカベンジャー必要に応じて混入させる。このスカベンジャーは、フッ化物原料Mの融点よりも低い沸点のフッ化物が好ましい。
そして、種結晶収容部2D内に種結晶Sが装填され、原料収容部2B内にフッ化物原料Mが収容されたルツボ1を図4に示す結晶育成炉10の加熱室13内に搬入し、シャフト15の上端の伝熱部材16に底板部材4の接続口4Bを嵌合してルツボ1を伝熱部材16上に載置する。
このような準備の後、気密容器11内を図示しない真空ポンプによって例えば10−3〜10−4Pa程度の真空状態に減圧し、ヒータ14を1550℃前後の温度に昇温させる。そして、シャフト15を10mm/h程度の微速度で上昇させ、その上昇位置にルツボ1を20時間ほど保持することにより、ルツボ本体2の原料収容部2B内でフッ化物原料Mを融解させる。その際、シャフト15内を循環する冷却水により、伝熱部材16及び底板部材4を介して種結晶Sの下部が強制冷却されるため、種結晶Sの上部を除く部分の溶融が防止される。
その後、原料収容部2B内で融解したフッ化物原料Mを徐々に冷却して単結晶に育成するため、ルツボ1と共にシャフト15を1mm/h程度の極微速度で下降させる。そして、シャフト15の下降位置にルツボ1を5時間ほど保持する。その後、ヒータ14をオン・オフ制御して例えば30℃/h程度の冷却速度でフッ化物原料Mを冷却することににより、クエンチ(熱衝撃による割れ)防止しながらフッ化物の単結晶に育成する。
ここで、一実施形態の単結晶育成用ルツボ1においては、冷却によりフッ化物原料Mを結晶化する際、ルツボ本体2の小径周壁部2C側では、その周囲の放熱空間5及び円筒状支持部材6に開口された複数の放熱窓6Cにより、大径周壁部2A側に較べて放熱が十分になされる。
また、シャフト15内を循環する冷却水により伝熱部材16及び底板部材4を介して中心部の小径周壁部2Cが強制冷却される際、放熱空間5の存在によって傾斜底部2E側は冷却され難くなり、中心部の小径周壁部2Cが効果的に冷却される。
その結果、ルツボ本体2の温度勾配は、種結晶Sを収容した種結晶収容部2Dを囲む小径周壁部2C側が低く、フッ化物原料Mを収容した原料収容部2Bを囲む大径周壁部2A側が高い温度勾配に維持される。このため、ルツボ本体2の原料収容部2B内で融解したフッ化物原料Mが冷却により結晶化する際の結晶成長は、種結晶収容部2Dに収容された種結晶Sを起点として確実に開始され、以後、種結晶Sを中心としてその結晶面に沿って放射状に進行する。
従って、サブグレインバウンダリーの発生が抑制されて結晶面方位が適切に制御され、かつ、グレインバウンダリーの発生が抑制されて多結晶化が確実に防止されるのであり、高品質の大口径のフッ化物単結晶を育成することができる。すなわち、結晶面方位の同一部分が全体積の90%以上であり、結晶成長方向に垂直な面の方位ズレが種結晶Sの結晶面方位に対して2度以内である高品質の大口径のフッ化物単結晶を育成することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、図1に示したルツボ本体2がカーボン製の単結晶育成用ルツボ1を使用した。ルツボ本体2の大径周壁部2Aの外径は200mmとし、ルツボ本体2の肉厚は10mmとした。また、原料収容部2Bの底面2Fの円錐面の頂角は120度とした。
ルツボ本体2の種結晶収容部2Dは、直径を10mmとし、長さを50mmとした。また、円筒状支持部材6は、図3に示すような円形の放熱窓6Cが複数開口されたものとし、各放熱窓6Cの直径は50mmとした。この場合、円筒状支持部材6の周面の総面積に対する複数の放熱窓6Cの開口率は35%であった。
フッ化物原料Mとしては、フッ化カルシウム(ステラケミファ社製)を使用し、スカベンジャーとしてはフッ化亜鉛(ステラケミファ社製)を使用した。また、種結晶Sとしては、直径9.8mm、長さ50mmの円柱状のフッ化カルシウムの単結晶を使用した。この種結晶Sは、結晶成長方向に対し垂直な面が、(111)方向から5分以内の結晶面方位のものである。
本実施例では、ルツボ本体2の種結晶収容部2Dにフッ化カルシウムの単結晶からなる種結晶Sを装填した後、フッ化カルシウムからなるフッ化物原料Mとフッ化亜鉛からなるスカベンジャーとをよく混合してカーボン製のルツボ本体2の原料収容部2B内に収容した。
そして、ルツボ1を図4に示す結晶育成炉10の加熱室13内に搬入し、シャフト15の上端の伝熱部材16に底板部材4の接続口4Bを嵌合してルツボ1を伝熱部材16上に載置した。
このような準備の後、気密容器11内を図示しない真空ポンプによって10−3〜10−4Paに減圧し、ヒーター14を1550℃まで昇温した。なお、減圧力はコールドカソードゲージ(PFEIFFER社製)により制御し、温度はB型熱電対を用いて制御した。
その際の昇温速度は60℃/hとした。ヒーター14の温度が1550℃に達した後、シャフト15を10mm/h程度の微速度で上昇させ、その上昇位置にルツボ1を20時間ほど保持した。そして、ルツボ本体2の原料収容部2B内でフッ化物原料Mを融解させた。
その後、ルツボ1と共にシャフト15を1mm/hの極微速度で下降位置まで下降させることにより、原料収容部2B内で融解したフッ化物原料Mを徐々に冷却して単結晶を成長させた。そして、結晶育成終了後、加熱室13内を10℃/hの冷却速度で50℃まで冷却してヒーター14を切った。その後、加熱室13内が室温になるまで待ってから結晶育成炉10内を窒素で置換して大気圧まで戻し、ルツボ1を結晶育成炉10内から搬出してルツボ本体2の原料収容部2B内で育成されたフッ化カルシウム結晶のインゴットを取り出した。
こうして得られたフッ化カルシウム結晶のインゴットをクロスニコル法を用いて観察した。その結果、実施例1で得られたフッ化カルシウム結晶は完全な単結晶であり、サブグレインバウンダリーも見られなかった。また、インゴットを結晶成長方向に対し垂直な面で切断した後、その切断面をX線単結晶方位測定装置(リガク社製、2991F2)で測定したところ、実施例1で得られたフッ化カルシウム結晶の結晶面方位に対する方位ズレは、(111)方位から30分以内であった。
(比較例1)
比較例1として、円筒状支持部材6の周面に開口する複数の円形の放熱窓6Cの開口率を15%に減少し、その他の部分は実施例1に使用したルツボ1と同様のルツボ1を使用した。そして、このルツボ1により実施例1と同様の条件によりフッ化カルシウム結晶を育成し、そのインゴットを取り出してクロスニコル法を用いて観察した。また、インゴットを結晶成長方向に対し垂直な面で切断した後、その切断面をX線単結晶方位測定装置(リガク社製、2991F2)で測定した。
その結果、比較例1で得られたフッ化カルシウム結晶は、全体積の95%が同一結晶面方位である結晶で構成されていたが、多くのサブグレインバウンダリーが見られた。また、比較例1で得られたフッ化カルシウム結晶には、結晶面方位に対する方位ズレとして(111)方位から3度の方位ズレが確認された。
(比較例2)
比較例2として、ルツボ本体2が小径周壁部2Cを有しない大径の円筒状に形成されたルツボ1、すなわち、種結晶収容部2Dの周囲が放熱空間5のない肉厚の中実に形成されていて、その他の部分は実施例1に使用したルツボ1と同様のルツボ1を使用した。そして、このルツボ1により実施例1と同様の条件によりフッ化カルシウム結晶を育成し、そのインゴットを取り出してクロスニコル法を用いて観察した。また、インゴットを結晶成長方向に対し垂直な面で切断した後、その切断面をX線単結晶方位測定装置(リガク社製、2991F2)で測定した。
その結果、比較例2で得られたフッ化カルシウム結晶には多くのグレインバウンダリーが見られ、その結晶は多結晶であった。また、比較例2で得られたフッ化カルシウム結晶には、結晶面方位に対する方位ズレとして(111)方位から5度の方位ズレが確認された。
(比較例3)
比較例3として、ルツボ本体2の種結晶収容部2Dの直径を50mmと小さくし、その他の部分は実施例1に使用したルツボ1と同様のルツボ1を使用した。そして、このルツボ1により実施例1と同様の条件でフッ化カルシウム結晶の育成を試みた。
しかしながら、比較例3では、結晶育成炉10内でのルツボ1の昇温中にルツボ本体2の小径周壁部2Cに亀裂が入った。その結果、ルツボ本体2の原料収容部2B内で融解したフッ化カルシウム原料が漏出して結晶育成は失敗した。
(比較例4)
比較例4として、実施例1に使用したルツボ1から円筒状支持部材6を取り外したルツボ1を使用した。そして、このルツボ1により実施例1と同様の条件でフッ化カルシウム結晶の育成を試みた。
しかしながら、比較例4では、フッ化カルシウム原料とスカベンジャーとの混合物をルツボ本体2の原料収容部2Bに収容する段階で、小径周壁部2Cに曲がり等が発生し、小径周壁部2Cの強度不足が確認された。
本発明の一実施形態に係る単結晶育成用ルツボの縦断面図である。
図1に示した円筒状支持部材の斜視図である。
図2に示した円筒状支持部材の変形例を示す斜視図である。
一実施形態に係る単結晶育成用ルツボを使用してフッ化物結晶を育成するための結晶育成炉の概略構造を示す模式図である。
符号の説明
1 単結晶育成用ルツボ
2 ルツボ本体
2A 大径周壁部
2B 原料収容部
2C 小径周壁部
2D 種結晶収容部
2E 傾斜底部
2F 底面
2G 嵌合段部
3 蓋部材
3A 嵌合段部
4 底板部材
4A 嵌合段部
4B 接続口
5 放熱空間
6 円筒状支持部材
6A 嵌合段部
6B 嵌合段部
10 結晶育成炉
11 気密容器
12 断熱材
13 加熱室
14 ヒータ
15 シャフト
16 伝熱部材