JP4821061B2 - 光学用フィルムシート及びこれを用いた表示装置の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置等の基板に用いることができる光学用フィルムシートおよびこれを用いた表示装置の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
表示素子用基板としてはガラス基板が従来から使用されてきた。しかしながら、近年携帯用の表示媒体の急速な成長により、軽く、割れないと言った特徴を活かしたプラスチック基板を用いた表示媒体の研究開発がなされている。ところが、プラスチックは酸素や水蒸気等のガス透過性、吸水による寸法変化率があり、基板にプラスチックを用いた場合は透過ガスにより気泡を生ずることで表示不良が発生したり、液晶中に水分が混入することにより液晶の比抵抗が低下して表示不良が発生したり、更に工程中の吸湿による寸法変化により上下基板の透明電極回路の位置ずれによる接続不良が起こるなどの問題があった。この問題を解決するために、プラスチックフィルムシートの両面にSiOx、ポリ塩化ビニリデン等の光線透過率が高く水蒸気透過度が低い皮膜をバリア層として形成することが行われている。
【0003】
しかし、これらの皮膜形成は真空プロセス、ラミネート、コーティング等によって行われることが多く、プラスチックフィルムシートの側面には処理することが困難であり、しかも液晶表示装置の場合には、1枚の大型基板で複数のセルを一括形成した後に切断し、ドライバが接続された状態で側面に皮膜を形成する必要があるため、これはさらに難しく一般に行われていない。この場合、湿度が著しく高い環境においては、特にネマチック液晶を用いた液晶表示装置や円偏光板を用いたエレクトロルミネッセンス(EL)表示装置のように偏光を利用した表示装置の場合、表示部の四隅や周辺に表示ムラが発生する場合があり問題となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プラスチックを基板に用いた際の、工程中及び装置完成後に起こる表示装置の表示ムラを防止することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記表示ムラが以下の原因によって起きるものと推定した。即ち、高湿環境下に表面に水蒸気バリア層を有するプラスチック基板が置かれた場合、バリア層を有しない側面から水蒸気が拡散し、側面近傍と面内部で吸水による寸法変化が異なる。側面に近い周囲および四隅では基板が膨潤して伸びようとし、光弾性の高いプラスチック材料では、ことさらリタデーションの増大が生じ、これにより表示装置が偏光を利用した装置である場合に表示ムラが発生するものと考えられる。これを防止するため、表示装置とした際に外側となる面のバリア層として、電極形成時に同時に除去可能なバリア層を設け、カラーフィルター等の製造工程中に生じる吸湿によるプラスチック基板の寸法変化に対処すると共に、カラーフィルター積層後は、電極形成時のエッチング工程で同時に除去可能なバリア層を除去することで、基板の水蒸気透過度を、基板の中心層となるプラスチックへの水分浸入量の面内分布に著しい差を生じさせず、かつ表示装置とした際に内側となる面には水蒸気を十分に遮断できるレベルの水蒸気透過度であるバリア層を形成することをことで前記課題を解決できることを突き止め、以下の発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)プラスチックフィルムシートの一方の面に、電極形成時に同時に除去可能なバリア層を有し、かつ、他方の面に水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下となる単独層または複合層を有する光学用フィルムシート。
(2)プラスチックフィルムシートの一方の面に、水蒸気透過度が10g/m2/day以上50g/m2/day以下となる単独層または複合層と電極形成時に同時に除去可能なバリア層を有し、かつ、他方の面に水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下となる単独層または複合層を有する光学用フィルムシート。
(3)電極形成時に同時に除去可能なバリア層がITOである(1)、(2)の光学用フィルムシート。
(4)前記プラスチックフィルムシートのリタデーションが20nm以下である(1)〜(3)の光学用フィルムシート。
(5)前記プラスチックフィルムシートの、電極形成時に同時に除去可能なバリア層を除去した後の波長550nmにおける光線透過率が、80%以上である(1)〜(4)の光学用フィルムシート。
(6)前記プラスチックフィルムシートの光弾性定数が10×10-13cm2/dyn以上である(1)〜(5)の光学用フィルムシート。
(7)前記プラスチックフィルムシートが(1)エステル結合で結合された繰り返し単位を有する高分子、(2)カーボネート結合で結合された繰り返し単位を有する高分子または(3)スルホン結合で結合された繰り返し単位を有する高分子を主成分とする(1)〜(6)の光学用フィルムシート。
(8)前記プラスチックフィルムシートがポリエーテルスルホンを主成分とする(7)の光学用フィルムシート。
(9)(1)〜(8)に記載の光学用フィルムシートを、水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下である単独層または複合層を有する側を、装置内面側として用い、該内面側に電極を形成する際のエッチング工程で、外面側にある電極形成時に同時に除去可能なバリア層を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
(10)前記表示装置が液晶表示装置である(9)の表示装置の製造方法。
である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の光学用フィルムシートには、基板の中心となるプラスチックへの水分の浸入量の面内分布に著しい差が生じないように、またカラーフィルター等の製造工程中の寸法変化にも問題が生じないように、表示装置とした際に外側となる面のバリア層を電極形成時に同時に除去可能なバリア層とし、かつ内側となる面には水蒸気を十分に遮断できるレベルの水蒸気透過度であるバリア層を形成したものである。電極形成時に同時に除去可能なバリア層としては、特に限定しないが、電極層と同じ材質のITO(酸化インジウム錫)、金属アルミニウム、銅等を挙げることができるが、これらの中では、電極層と同じ材質のITOが好ましい。また、電極形成時に同時に除去可能なバリア層の下層には、水蒸気透過度が10g/m2/day以上50g/m2/day以下である単独層または複合層からなるラフなバリア層を形成させても良い。このラフなバリア層は、水蒸気透過度が下限値以下であるとバリア性が高すぎて側面からの水蒸気の浸入とプラスチック中の拡散により吸湿濃度分布が発生し、リタデーションを増大させる恐れがある。また、水蒸気透過度が上限値以上であると、バリア層としての意味がない。一方、表示装置とした際に内側となる面のバリア層としては水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下である単独層または複合層を用いることができる。この面のバリア層の水蒸気透過度が高いと、液晶やEL素子中に水蒸気が浸入することにより比抵抗が低下して表示不良の原因となる。
【0008】
ラフなバリアである水蒸気透過度が10g/m2/day以上50g/m2/day以下であるバリア層を形成する方法としては、ポリ塩化ビニリデン等の有機バリア層をコーティング等により必要な厚さに成膜するか、またはSi、Ti、Zr、Al、Ta、Nb、Sn等の酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の無機バリア層を真空蒸着,CVD,スパッタリング等で成膜することができる。さらに有機層と無機層を重ねて成膜することもできる。これらの組成および膜厚を選ぶ事により、水蒸気透過度を前記範囲に制御することができる。
一方、水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下である単独層または複合層の成膜は、Si、Ti、Zr、Al、Ta、Nb、Sn等の酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の無機バリア層を真空蒸着,CVD,スパッタリング等で成膜するか、これらと有機膜を重ねて成膜することで得ることができる。さらに、透明導電材料であるITO(酸化インジウム錫)もガス・水蒸気透過度を0.1g/m2/day以下とすることができるため、透明電極を全面に成膜するTFT−LCDの共通電極側基板のような場合には、ITO電極で兼用できる場合がある。この場合には、必要であれば電極面をレジスト等によりマスキングして、外側の除去可能なバリア層を除去すればよい。
【0009】
本発明の光学用フィルムシートはリタデーションが20nm以下であることが望ましい。位相差フィルムを別として、表示基板等に使用する場合はリタデーションが20nmを越えると、吸湿によるリタデーションの増大が無くても表示装置の表示ムラとして不良となる場合がある。さらに、本発明の光学用フィルムシートは、光弾性定数が10×10-13cm2/dyn以上のプラスチックフィルムシートを用いた際に特に有効である。光弾性定数が10×10-13cm2/dyn以下のプラスチックフィルムシートでは応力によるリタデーションの増大が少ないため両面のバリア層ともに水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下であっても表示装置に表示ムラを発生する問題は起こりにくいが、光弾性定数が低いプラスチックは一般に脂肪族系高分子等の耐熱性が低いものが多く、表示装置用基板としては使用が限られるものが多い。本発明の光学用フィルムシートに用いるプラスチックとしては特に限定はしないが、好ましいものを挙げると、(1)ポリエステルやポリアリレート等エステル結合で結合された繰り返し単位を有する高分子、(2)ポリカーボネート等カーボネート結合で結合された繰り返し単位を有する高分子または(3)ポリスルホン等スルホン結合で結合された繰り返し単位を有する高分子を主成分とするプラスチックである。これらを1種類で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。また、滑剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、顔料、染料、無機質充填剤などを適宜ブレンドしても良い。表示装置の製造工程では150℃程度に加熱される工程が存在するので、耐熱性に優れるプラスチックが好ましく、芳香族基を有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリアリレート、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリスルホン系の高分子を主成分とするものが好ましい。特に、耐熱性と以下に記す透明性のバランスからポリエーテルスルホンが好ましい。
【0010】
本発明の光学用フィルムシートは波長550nmにおける光線透過率が80%以上である方が好ましい。光線透過率が低いと、表示装置とした際に表示が暗くて見にくいことや、或いは明るくするために電力消費が大きくなる。この不具合は光線透過率の低下と共に徐々に問題となるものであるが、実用的には半透過型の表示基板を除けば、波長550nmにおける光線透過率が80%以上である方が望ましい。
【0011】
【実施例】
以下、実施例に基づき、詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
溶液キャスト法で製造した幅1m厚さ180μm、リタデーション1nm±1nmのポリカーボネートフィルムの両面に、コーター部、乾燥炉、高圧水銀灯による紫外線照射装置を有する連続式塗工機を用い、紫外線硬化性樹脂組成物としてエポキシアクリレート樹脂25重量部、ウレタンアクリレート樹脂10重量部、光重合開始剤として、イルガキュアー907(チバスぺシャリティケミカルズ製)1重量部、シランカップリング剤としてγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.2重量部、酢酸ブチル65重量部の混合液(以下、紫外線硬化性樹脂組成物Aと称す。)を塗布し、120℃で乾燥後に紫外線を350mJ/cm2照射し膜厚2μmのコート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの40℃90%RHにおける水蒸気透過度をカップ法にて測定したところ、 40g/m2/dayであった。尚、用いたポリカーボネートの光弾性定数は96×10-13cm2/dynであった。
【0012】
続いて、このフィルムの一方の面に、連続式スパッタ装置を用いて厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを前記と同様の方法により塗工し、コート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの水蒸気透過度をヤナコ分析工業株式会社製ガスクロマトグラフィー式ガス・水蒸気透過率測定機GTR−30(以下、水蒸気透過率測定機と称す。)を用いて測定したところ、0.002g/m2/dayであった。
【0013】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面に、前記の連続式塗工機を用い、ポリ塩化ビニリデン10重量部、塩化メチレン90重量部の溶液を塗布・乾燥して膜厚2μmのコート層とし、さらに再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを前記と同様に塗工してコート層を設けた。尚、ポリ塩化ビニリデンとコート層による水蒸気透過度を測定するために、前記酸化珪素膜とその上層のコート層が無いサンプルを作成し、水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、12g/m2/dayであった。さらに、前記コート層の上に、バルクに対する相対重量密度95%以上のIn、Sn(SnO2 10wt%)の合金酸化物ターゲットを用いたプレーナーマグネトロンスパッタリングにより厚み300ÅのIn、Sn合金酸化膜を形成した。
また、この光学用フィルムのIn、Sn合金酸化膜を除去した後の波長550nmにおける光線透過率を分光光度計により測定したところ、93%であった。
【0014】
このIn、Sn合金酸化膜を除去する前の光学用フィルムを360mm×460mmのシートに切断し、表示素子用基板とした。カラーフィルター層形成及び表示用透明電極形成のフォトリソグラフィー工程でフォトレジストの加熱乾燥及び水溶液による現像・エッチングの繰り返しに対する寸法変化を評価するため、次のような試験を行った。まず、基板を120℃で1時間乾燥させた後、乾燥容器中で基板の温度23℃となるまで放置し精密寸法測定装置で外寸の測定を行い、その後23℃の純水に5分間浸漬した後に再度外寸の測定を行う。この操作を再度繰り返し、最初の測定値に対する振れ幅の割合を求めた。このようにして求めた寸法変化は0.002%であった。
【0015】
次に、この光学用フィルムを40℃の10%塩酸水溶液に約5分間浸漬し、ITOのエッチングを行い、水洗後、乾燥させた。この工程は、表示用透明電極形成時に一般に行われる工程である。続いて、高温高湿条件下でのリタデーション評価を行うために、まず、基板を、小型表示装置を想定して40mm×60mmの外寸に切断し、四隅から縦・横ともに3mm内側の部分のリタデーションをベレックコンペンセイターを装着した偏光顕微鏡で測定した。リタデーションは1〜2nmであった。この基板を、60℃90%RHに設定した恒温恒湿槽に投入し、24時間ごとに240時間まで、その後100時間ごとに1040時間まで前記と同じ位置のリタデーションの測定を行ったところ、リタデーションの最大値は4nmであった。
【0016】
<実施例2>
溶融押出法で製造した幅1m厚さ200μm、リタデーション4nm±2nmのポリエーテルスルホンフィルムの両面に、実施例1と同様にして膜厚2μmのアクリレートによるコート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの40℃90%RHにおける水蒸気透過度をカップ法にて測定したところ、 50g/m2/dayであった。また、用いたポリエーテルスルホンの光弾性定数は100×10-13cm2/dynであった。
続いて、このフィルムの一方の面に、連続式スパッタ装置を用いて厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.08Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.08Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを実施例1と同様の方法により塗工し、コート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの水蒸気透過度を水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.06g/m2/dayであった。
【0017】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面に、バルクに対する相対重量密度95%以上のIn、Sn(SnO2 10wt%)の合金酸化物ターゲットを用いたプレーナーマグネトロンスパッタリングにより厚み300ÅのIn、Sn合金酸化膜を形成した。この光学用フィルムのIn、Sn合金酸化膜を除去した後の波長550nmにおける光線透過率を分光光度計により測定したところ、90%であった。
【0018】
得られた光学用フィルムについて実施例1と同様にして寸法変化を求めたところ、0.003%であった。また、実施例1と同様にしてITOを剥離後、高温高湿条件下でのリタデーション評価を行ったところ、リタデーションの最大値は6nmであった。
【0019】
<実施例3>
紫外線硬化性樹脂組成物として、ウレタンアクリレート樹脂20重量部、イソシアヌル酸トリアクリレート70重量部、光重合開始剤として、イルガキュアー907(チバスぺシャリティケミカルズ製)1重量部、メチルセロソルブアセテート5重量部の混合液を、表面に離型剤を均一に塗布した研磨ガラス上に流延し、90℃のオーブン中で30分乾燥した後、高圧水銀灯により紫外線を基板上下から各200mJ/cm2照射して紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させた。硬化物を基板から剥離した後、更に上下から各400mJ/cm2の紫外線を照射し、次いで研磨ガラス間に挟持した状態で150℃のオーブン中で2時間処理して厚さ0.4mm、外形300mm×300mmのプラスチックシートを得た。このシートの40℃90%RHにおける水蒸気透過度をカップ法にて測定したところ、 20g/m2/dayであった。また、このプラスチックシートのリタデーションは0〜1nmであり、光弾性定数は4×10-13cm2/dynであった。
【0020】
続いて、このシートの一方の面に、枚葉式スパッタ装置を用いて厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aをスピンコーティングし、80℃のホットプレート上で2分間、さらに120℃のホットプレートで2分間乾燥した後、高圧水銀灯により紫外線を400mJ/cm2して硬化し、コート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの水蒸気透過度を水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.002g/m2/dayであった。
【0021】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面に、枚葉式スパッタ装置を用いて厚さ20nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.15Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.15Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを前記と同様の方法により塗工し、コート層を設け、光学用フィルムを得た。尚、2度目に成膜した酸化珪素膜とコート層による水蒸気透過度を測定するために、1度目の酸化珪素膜とその上層のコート層が無いサンプルを作成し、水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.8g/m2/dayであった。また、この光学用フィルムの波長550nmにおける光線透過率を分光光度計により測定したところ、88%であった。
【0022】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面に、Alターゲットを用いたプレーナーマグネトロンスパッタリングにより厚み300ÅのAl薄膜を形成した。得られたフィルムについて実施例1と同様にして寸法変化を求めたところ、0.003%であった。また、実施例1と同様にしてAl薄膜除去後、高温高湿条件下でのリタデーション評価を行ったところ、リタデーションの最大値は1nmであった。
【0023】
<実施例4>
実施例2のITO付きフィルムを基板として用いて、液晶表示装置を作製した。第1の工程として、カラーフィルター層を形成した。カラーフォルター層は、樹脂ブラックマトリクス材,R,G,Bの3種の顔料分散カラーレジストを用い、フォトリソグラフィーにより水蒸気透過度0.06g/m2/dayのバリア層成膜面側に形成を行った。R,G,Bのカラーレジストの寸法は70μm×200μmで、その間には幅10μmでブラックマトリクスを形成した。ブラックマトリクスの外寸は40mm×60mmで、カラーフィルター形成範囲は30mm×50mmとした。更に、カラーフィルターオーバーコート材をスピンコーターにより塗布し、170℃のオーブン中で1時間硬化した。
【0024】
第2の工程として、透明電極を形成し、同時に電極と反対側のITO膜を除去した。すなわち、カラーフィルターを形成した基板には、カラーフィルター形成面上に、組み合わせて用いるカラーフィルターを形成していない基板は水蒸気透過度0.06g/m2/dayのバリア層成膜面側に、枚葉式スパッタ装置で酸化インジウム錫(ITO)を厚さ100nmに成膜し、フォトリソグラフィーにより、ストライプ状にパターニング後、エッチングにより透明電極とした。なお、このエッチング時に、反対側のITO膜は、除去された。
【0025】
パターニングした透明電極上に配向剤を印刷・成膜し、240度ツイストの配向となるようラビングを行った後、洗浄して乾燥した。次に、カラーフィルターを形成していない基板にシール材をスクリーン印刷し、プリベークを行った。その間に、カラーフィルターを形成した基板側にはスペーサーを散布した。尚、スペーサーは接着性のコーティングがなされたものを用いた。続いて両基板のはり合わせを行い、シール材を完全硬化してセルとした。セルに、液晶としてメルク社製ZLI2293にカイラル剤を添加した組成物を注入し、封口材を用いて封口し、液晶セルを得た。さらに液晶セルに位相差フィルムと偏光フィルムを貼り液晶表示装置とした。
【0026】
作製した液晶表示装置に駆動波形発生装置を接続し表示を行った。全面点灯時も非点灯時も表示ムラは見られず良好であった。また、液晶表示装置を60℃90%RHの恒温恒湿槽に入れ、処理により表示に変化を生じないかを処理時間1000時間まで試験したところ、表示ムラは発生しなかった。
【0027】
<比較例1>
溶融押出法で製造した幅1m厚さ200μm、リタデーション4nm±2nmのポリエーテルスルホンのフィルムの両面に、実施例1と同様にして膜厚2μmのコート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの40℃90%RHにおける水蒸気透過度をカップ法にて測定したところ、 50g/m2/dayであった。また、用いたポリエーテルスルホンの光弾性定数は100×10-13cm2/dynであった。
続いて、このフィルムの一方の面に、連続式スパッタ装置を用いて厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.08Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.08Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを実施例1と同様の方法により塗工し、コート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの水蒸気透過度を水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.06g/m2/dayであった。
【0028】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面に、連続式真空蒸着装置を用いて厚さ20nmの酸化珪素膜を成膜して、光学用フィルムを得た。尚、2度目に成膜した酸化珪素膜による水蒸気透過度を測定するために、1度目の酸化珪素膜とその上層のコート層が無いサンプルを作成し、水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、15g/m2/dayであった。また、この光学用フィルムの波長550nmにおける光線透過率を分光光度計により測定したところ、89%であった。
【0029】
得られた光学用フィルムについて実施例1と同様にして寸法変化を求めたところ、0.01%であった。また、実施例1と同様にして高温高湿条件下でのリタデーション評価を行ったところ、リタデーションの最大値は7nmであった。
【0030】
この光学用フィルムを基板として用いて、液晶表示装置の作製を試みた。実施例4と同様にしてカラーフィルター層の形成を行ったところ、フォトリソグラフィーの繰り返し時に位置ズレが生じ、ブラックマトリクスとR,G,Bのカラーレジストの間に隙間ができる、2色のカラーレジストが一部重なるといった不良が発生した。
【0031】
<比較例2>
溶融押出法で製造した幅1m厚さ300μm、リタデーション6nm±2nmのポリエーテルスルホンのフィルムの両面に、実施例1と同様にして膜厚2μmのコート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの40℃90%RHにおける水蒸気透過度をカップ法にて測定したところ、 50g/m2/dayであった。また、用いたポリエーテルスルホンの光弾性定数は100×10-13cm2/dynであった。
続いて、このフィルムの一方の面に、連続式スパッタ装置を用いて厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜した。酸化珪素膜は、原料ターゲットに珪素を用い、スパッタ装置内を10-3Pa以下まで減圧した上で放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入して反応性スパッタリングを行い成膜した。この酸化珪素層の上に、再度紫外線硬化性樹脂組成物Aを実施例1と同様の方法により塗工し、コート層を設けた。この工程でサンプリングしたフィルムの水蒸気透過度を水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.002g/m2/dayであった。
【0032】
次に、前記の酸化珪素膜を成膜した面と逆の面にも、前記と同様にして厚さ50nmの酸化珪素膜を成膜しその上層に紫外線硬化性樹脂組成物Aを実施例1と同様の方法により塗工してコート層を設けた。2度目に成膜した酸化珪素膜による水蒸気透過度を測定するために、1度目の酸化珪素膜とその上層のコート層が無いサンプルを作成し、水蒸気透過率測定機を用いて測定したところ、0.002g/m2/dayであった。また、この光学用フィルムの波長550nmにおける光線透過率を分光光度計により測定したところ、89%であった。
【0033】
得られた光学用フィルムについて実施例1と同様にして寸法変化を求めたところ、0.002%であった。また、実施例1と同様にして高温高湿条件下でのリタデーション評価を行ったところ、リタデーションの最大値は41nmであった。
【0034】
この光学用フィルムを基板として用いて、実施例4と同様にして液晶表示装置を作製した。作製した液晶表示装置に駆動波形発生装置を接続し表示を行った。全面点灯時も非点灯時も表示ムラは見られず良好であった。この液晶表示装置を60℃90%RHの恒温恒湿槽に入れ、処理により表示に変化を生じないかを試験したところ、50時間程度より表示部四隅から表示ムラが発生した。
【0035】
実施例1〜4では、寸法変化も小さく、高温高湿処理によるリタデーションの増大も小さな表示装置用基板として好適な光学用フィルムシートがえられており、この中では最もリタデーションが大きな実施例2の光学用フィルムを用いて表示装置を作製した場合でも、良好な表示を行うことができた(実施例4)。
【0036】
一方、比較例1では、一方の面に、水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下でとなる単独層または複合層を有するものの、他方の面に水蒸気透過度が15g/m2/dayと大きかったため、カラーフィルターの形成がうまくできなかった。また、実施例2では、両面ともに水蒸気透過度が0.002g/m2/day以下と小さかったために、高温高湿処理によるリタデーションの増大が大きく、表示装置とした際には高温高湿条件下で表示ムラが発生してしまった。
【0037】
【発明の効果】
以上のように、本発明の光学用フィルムシートは、基板の装置内側面には素子の保護に必要な水蒸気バリア性を付与すると共に、外側面には、電極形成時に同時に除去可能なバリア層を付与するものであり、カラーフィルター形成のフォトリソグラフィー工程では、フォトレジストの加熱乾燥及び水溶液による現像・レジスト除去の繰り返しに対するシートの寸法変化に対処することができる。また、電極形成時に前記除去可能なバリア層を除去するという本発明の表示装置の製造方法は、基板の中心層となるプラスチックへの水分浸入量の面内分布に著しい差を生じさせず、従来プラスチック基板で発生していた表示部四隅の表示ムラを無くす事ができかつ表示装置とした際に内側となる面には水蒸気を十分に遮断できるレベルの水蒸気透過度であるバリア層を有する優れた表示性能と安定性に富む表示装置を提供するものである。
Claims (8)
- 表面に表示用透明電極が形成される光学用フィルムシートであって、
基材となるプラスチックフィルムシートの表示用透明電極が形成される側の面をA面とし、前記A面と反対面の側をB面とした場合、
A面には水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下となる単独層または複合層を有し、
B面には水蒸気透過度が10g/m 2 /day以上50g/m 2 /day以下となる単独層または複合層並びに表示用透明電極形成時のエッチング工程において除去可能なITOからなるガスバリア層をこの順に有する光学用フィルムシート。 - 前記プラスチックフィルムシートのリタデーションが20nm以下である請求項1記載の光学用フィルムシート。
- 前記プラスチックフィルムシートの、電極形成時に同時に除去可能なガスバリア層を除去した後の波長550nmにおける光線透過率が、80%以上である請求項1または2に記載の光学用フィルムシート。
- 前記プラスチックフィルムシートの光弾性定数が10×10‐13cm2/dyn以上である請求項1〜3何れか一項に記載の光学用フィルムシート。
- 前記プラスチックフィルムシートが(1)エステル結合で結合された繰り返し単位を有する高分子、(2)カーボネート結合で結合された繰り返し単位を有する高分子または(3)スルホン結合で結合された繰り返し単位を有する高分子を主成分とする請求項1〜4何れか一項に記載の光学用フィルムシート。
- 前記プラスチックフィルムシートがポリエーテルスルホンを主成分とする請求項5記載の光学用フィルムシート。
- 請求項1〜6何れか一項に記載の光学用フィルムシートを、水蒸気透過度が0.1g/m2/day以下である単独層または複合層を有する側を、装置内面側として用い、該内面側に電極を形成する際のエッチング工程で、外面側にある電極形成時に同時に除去可能なバリア層を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
- 前記表示装置が液晶表示装置である請求項7記載の表示装置の製造方法。
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