JP4819226B2 - 心肺バイパス(cpb)手術の術後合併症を低減するための組成物 - Google Patents
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Description
【従来の技術】
心肺バイパス(以下「CPB」という)を必要とする介入的心臓手術を受ける患者において引き起こされる生理学的および免疫学的変化は、近年十分に立証されてきている。全身のサイトカインレベルの逐次的上昇はまた、タウリンなどの心筋細胞のアミノ酸の枯渇およびin vitroモデルにおいて内皮細胞上のICAM−1発現の減少をもたらすことも示されている。研究により、再潅流後のタウリンレベルが、血液心停止法およびクリスタロイド心停止法患者双方において低いことが明らかにされた。
【0002】
そのような炎症誘発性媒介物質の放出の原因となる開始刺激薬で最も重要なものが討議されている。しかしながら、全身性内毒素血症の発生は、重要な予後の因子であると考えられている。内毒素(またはリポ多糖)は、これ自体が細菌の細胞壁生成物であり、in vivoおよびin vitroにおいて強力な炎症誘発性細胞賦活剤と認められてきたことは十分に確立されている。CPBを受ける患者に全身性内毒素血症が発生することは明らかに証明されている。これは、大動脈のクロスクランプの解除に続いて発生する。この内毒素血症の根底にある病態生理学的機序は、不注意による腸虚血後の細菌転移の副次的なものであると示唆されてきた。この内毒素血症への宿主応答の効力は、術後罹患率の発現に直接的な意味を持っている。ある研究では、IgM抗内毒素コア抗体の低い術前滴定量は、CPB後の宿主に得られる結果の独立した予後の指標として使われており、内毒素の重要性を強調している。別のグループは、CPB患者にも生じるインターロイキン−6(IL−6)の全身的な上昇が、この早期の全身性内毒素血症の直接的な結果であり、再潅流後の後遺症の原因となりうると示唆している。とりわけあるグループは、再潅流損傷の主たる原因が鉄媒介による水酸基ラジカル(OH)の発生であると示唆している。このグループは、高拡散性デスフェリエキソケリン(desferri-exochelins)の使用が、OH生成により引き起こされる損傷をブロックすることおよびこれが再潅流損傷の治療の可能性を有していることを実証した。
【0003】
タウロリジン(bis(1,1-dioxoperhydro-1,2,4-thiadiazin-4-yl)methane)は、何年もの間、臨床的に有効な治療薬剤として使用されてきた。化合物タウロリジンおよびタウラルタムは、米国特許第5210083号に開示されており、これは引用して本明細書に取り込む。タウロリジンは、抗菌予防および腹膜敗血症治療薬として利用されてきた。これは半減期が短く、速やかに代謝されてタウリン、二酸化炭素および水になる。タウロリジンは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌双方、ならびに真菌に対して広い抗菌活性スペクトルを有し、さらに細菌内毒素に対して中和活性を有することが示されている。再潅流損傷用に利用可能な明確な治療は全くない。タウロリジンの主要代謝産物の1つであるタウリンは、内皮細胞膜安定化、炎症誘発性細胞の抗アポプトーシスおよび抗酸化能、ならびに恒常性(homeostatic)の細胞浸透圧調整などのそれ自身の重要な治療特性を備えていることが示された。いくつかの動物研究の結果では、タウリンは、膜スタビライザーおよび酸素フリーラジカルスカベンジャーとしてのその特性により、虚血性心筋を再潅流により引き起こされる不整脈から保護することが示された。タウロリジンは、人および動物にとり無毒であること、および静脈内および腹腔内投与後の副作用がないことが示された。この広い抗菌特性スペクトルにより、骨髄炎から腹膜炎およびカテーテル関連敗血症予防までの条件で臨床適用されるに至っている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、患者における心肺バイパス(CPB)手術の術後合併症を低減する方法は、前記患者のCPB手術に関連して、有効量のメチロール転移薬剤の患者への投与を併用することからなる。
【0005】
【発明の実施の形態】
術後合併症、とりわけ再潅流による心筋の損傷、例えば不整脈を防止するため、タウロリジンまたはタウラルタム溶液の静脈内投与が術中に実行される。
【0006】
再潅流中の心筋損傷過酸化物の生成に起因する心臓の律動中枢および伝導系の障害は、洞性不整脈、心室細動および心室粗動につながり得る。そのような合併症は、タウロリジンまたはタウラルタム溶液の術中静脈内投与によって回避することができる。
【0007】
付加的な効果は、急性心筋炎、心膜炎および心内膜炎の防止のためのカンジダ属細菌またはアスペルギルス属細菌の真菌感染を含む連鎖状球菌、腸球菌、クレブシエラ属細菌、シュードモナス属細菌およびセラチア属細菌などによる非常に心配される感染および毒素血症からの防御である。
【0008】
術中の投与量は、有効成分としてタウロリジンまたはタウラルタムあるいはこれら両方を組み合わせたものを約10〜20グラムの範囲で、中心静脈カテーテルを介した点滴として、約2%低張液または約1%等張リンゲル液とすることができる。
【0009】
本発明は、患者におけるCPB手術の術後の合併症を低減するどのような適切なメチロール転移薬剤にでも適用可能である。本発明はメチロール転移薬剤タウロリジンおよび/またはタウラルタムについてさらに記述されるけれども、本発明は、タウロリジンおよび/またはタウラルタムと類似したまたは実質的に同じ活性を有するどのような適切なメチロール転移薬剤にも等しく適用可能なことが理解されるべきである。
【0010】
本発明によるメチロール転移薬剤は、経口投与錠剤またはカプセル、あるいは静脈内投与溶液などいかなる適切な形態ででも投与され得る。
好ましい実施態様では、タウロリジン2%溶液250mlが、処置期間中に、静脈注入で1日当たり約1〜6回、より好ましくは約2〜4回投与される。
本発明による1つ以上のメチロール転移薬剤は、CPB手術の術前、術中および/または術後に投与され得る。
【0011】
好ましい実施態様によれば、CPB患者に対し2%タウロリジン溶液が手術中に静脈注入により投与され、この患者は、CPB手術後には約12時間間隔で1日当たり約250mlを投与される。
【0012】
【発明の効果】
1つの実施態様によれば、抗内毒素タウロリジンおよび/またはタウラルタムの術中投与は、心肺バイパス手術を受けた患者の再潅流後の後遺症の軽減に用いられる。本発明は以下の点に影響し得ると考えられている。
(i)CPB後の敗血性合併症の減少;
(ii)血液心停止法およびクリスタロイド心停止法の患者における再潅流に起因する不整脈の減少;
(iii)手術期間中の全身性内毒素血症および炎症誘発性サイトカイン活性化の改善;および
(iv)CPB後の患者に見られる呼吸不全の減少。
【0013】
好ましい実施態様において、本発明は、CPB手術に伴う術後の生理学的罹患率の改善に、タウロリジンおよび/またはタウラルタムなどの確立された無毒の殺菌性で抗内毒素性かつ酸化防止性の薬剤を使用する。好ましい実施態様において、本発明は、クリスタロイド心停止および血液心停止双方を伴うCPBを受ける患者における、術後の再潅流に起因する不整脈、敗血症、変力性サポートならびに早期離床および入院期間短縮および臨床的予後指標の改善に影響を与えるため、心臓手術の臨床時に術中にタウロリジンを使用する。
【0014】
CPB患者に見られる早期の全身性内毒素血症の治療的改善により、炎症誘発性媒介物質カスケードの軽減が達成し得ると信じられている。これは、術後のサイトカイン媒介の後遺症の低減、そして最終的にCPB患者の臨床的結果の改善という結果になるものと信じられている。
【0015】
心肺バイパス中の大動脈アンクランピングは、究極の虚血性の再潅流損傷であり、全身性炎症性反応症候群(SIRS)の顕著な障害が特徴である。強力な抗炎症性抗酸化剤であるタウロリジンは、膵炎後のSIRSを有する患者における効力を証明した。本発明により、CPBを受けた患者におけるタウロリジン処置の利点がしめされる。
【0016】
【実施例】
本発明は、以下の実施例を参照して説明されるが、実施例は例示のために提供されたものであって、本発明をどのようにも限定することを意図するものではない。公知の標準的な手法または以下に具体的に説明される手法が用いられた。
【0017】
実施例1
1%タウロリジン、1%タウラルタム溶液
2%タウロリジン/タウラルタム溶液1000ml:
タウロリジン 10g
タウラルタム 10g
ヒドロキシエチル澱粉(代替グレード0.4−0.5) 50g
注射用蒸留水を加えて 1000mlとする
【0018】
溶液は、約60℃で、密閉式ステンレス鋼製容器中で攪拌して調製する。室温まで冷却した後、pHを7.6に調節する。溶液を0.2および0.1μm無菌フィルタに通し、250mlボトルに入れ、これを121℃で15分滅菌する。
【0019】
実施例2
2%タウロリジン溶液
タウロリジン20グラムが加えられ、タウラルタムが全く加えられない点を除き、溶液は実施例1と同様にして、溶液を調製する。
【0020】
実施例3
1%タウロリジンリンゲル溶液
1%タウロリジンリンゲル溶液1000ml
タウロリジン 10g
塩化ナトリウム 6g
塩化カリウム 0.075g
塩化カルシウム・6H2O 0.15g
炭酸水素ナトリウム 0.075g
ポビドンUP(M.W.10000) 12.5g
(米国特許第6080397号参照)
注射用蒸留水を加えて 1000mlとする
溶液は例1と同様に調製する。
【0021】
実施例4
2%タウロリジン溶液
2%タウロリジン溶液1000ml
タウロリジン 20g
ポビドンUP(M.W.10000) 50g
(米国特許第6080397号参照)
注射用蒸留水を加えて 1000mlとする
【0022】
溶液は、約60℃で、密閉式ステンレス鋼製容器中で攪拌して調製する。室温まで冷却した後、pHを7.6に調節する。溶液を0.1および0.1μm無菌フィルタに通し、100または250ml輸液ボトルに入れる。ボトルを閉じ、密封し、121℃で15分滅菌する。
【0023】
実施例5
1%タウロリジン/1%タウラタム等張塩化ナトリウム溶液
1%タウロリジン/1%タウラタム等張塩化ナトリウム溶液1000ml
タウロリジン 10g
タウラルタム 10g
ヒドロキシエチル澱粉(代替グレード0.4−0.5) 60g
塩化ナトリウム 9g
注射用ブドウ糖一水和物 20g
注射用蒸留水を加えて 1000mlとする
【0024】
溶液は、ブドウ糖を除き、成分を蒸留水に加え、約50℃で加熱して調製する。室温まで冷却した後、pHを7.2に調節する。溶液は、室温で0.2μmの無菌フィルタに通して濾過して、前もってブドウ糖が入れてある攪拌付きの第2のボトルに入れる。混合物を手短に攪拌し、0.1μmの無菌フィルタで濾過する。溶液を層流フードの下で無菌のガラスボトルに入れ、ボトルを閉じて密封する。
【0025】
実施例6
ランダム化したプロスペクティブな臨床試験を行なった。駆出率>30%で、選択的冠状動脈バイパス移植手術を受ける一連の患者34人を無作為に4グループに分けた。グループAおよびBには、中心線を介しての導入で、静注にてタウロリジン(2%タウロリジン250ml)が投与された。これらの患者は、手術後最初の24時間に、12時間間隔でさらに2度タウロリジン投与(2×2%タウロリジン250ml/日)を受けたが、グループAでは心筋保護のためクリスタロイド心停止が用いられ、グループBでは血液心停止が用いられた。グループCおよびDには対照の生理食塩水ビヒクルが投与され、グループCにはクリスタロイド心停止が、グループDには血液心停止が行なわれた。血液サンプルは、手術前、大動脈アンクランピング時、大動脈アンクランピング2時間後、同6時間後および同24時間後に採取された。好中球および単球の呼吸バースト、食作用能、CD11bおよびCD14発現がフローサイトメトリーを用いて評価された。血漿インターロイキン6、8および10(IL−6、IL−8およびIL−10)ならびに腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assey)で決定された。すべての患者は、心臓バイパス手術のため標準の抗生物質予防を受けた。
【0026】
患者の選択は次の通り実行された。選択的冠状動脈バイパス移植手術を受ける患者で、駆出率が30%以上で、糖尿病歴が無く、胸部X検査で正常な患者が選択された。ACE−阻害剤投与中の患者は研究に含めなかった。決定は、研究に含める前に、顧問麻酔医および関係する外科医と共同して行い、次に患者を投薬および対照にランダマイズした。すべての患者は、術後に心臓集中治療室で看護された。今回の研究に加える前に、各患者からのインフォームドコンセントが求められた。
【0027】
患者の評価は以下の事項を含んでいた。
手術前:
【0028】
パラメータ2〜4は、大動脈アンクランピング後、術後2時間後および24時間後に評価した。
【0029】
手術後:
1.最初の72時間の継続的E.C.G.監視
2.1、2、3および4日目ならびに退院前の12誘導E.C.G.
3.脈拍(脈拍数/リズム)
4.体温
5.1、2、5および8日目のW.B.C.数
6.1、2、5および8日目の胸部X線
7.変力サポート(タイプ、量および期間)
【0030】
患者34人は、上記のように研究された。患者は下記のように分けられた。
患者総数:34人
グループA:クリスタロイド心停止およびタウロリジン 8人
グループB:血液心停止およびタウロリジン 9人
グループC:クリスタロイド心停止およびプラシーボ 8人
グループD:血液心停止およびプラシーボ 9人
【0031】
患者について実施した試験は以下の通りである。
実験室分析結果
1)好中球および単球活性
a)呼吸バースト
b)食作用
c)CD11b
d)CD14
2)サイトカイン
a)インターロイキン−6
b)インターロイキン−10
c)TNF−α
d)インターロイキン−8
【0032】
実験室結果は下記の項目を含む。
1)インターロイキン−1β
2)VGEF
3)内毒素(LPS)
試験結果は以下に示される。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果は、クリスタロイド心停止グループにおいて24時間後の時点で、術中にタウロリジンを投与されたグループ(グループA)では、プラシーボグループ(グループC)と比較すると、インターロイキン−6が有意に下方調節されたことを示している。血液心停止の組合せ(グループB対グルールD)では、有益な効果は何ら見られなかった。クリスタロイド心停止グループにおいて24時間後の時点で、術中にタウロリジンを投与されたグループ(グループA)では、プラシーボグループ(グループC)と比較して、インターロイキン−10が有意に上方調節された。CPBを受ける患者にタウロリジンを投与することにより、プラシーボと比較すると、有意に循環IL−6を減少させかつIL−10生産を増加させた(大動脈アンクランピング24時間後でp<0.05)。
【0035】
これらの結果は、タウロリジンの術中投与により、炎症誘発性および抗炎症性のサイトカイン生産が変調されることにより、冠状動脈バイパス手術を受ける患者における再潅流損傷が軽減されることを示している。
【0036】
付加的データは、タウロリジンを投与した患者において、血液心停止グループ(グループB)と比較すると、クリスタロイド心停止グループ(グループA)においてインターロイキン−6が有意に下方調節されたことを示した。タウロリジンを投与した患者において、血液心停止グループ(グループB)と比較すると、クリスタロイド心停止グループ(グループA)においてインターロイキン−10が有意に上方調節された。クリスタロイド心停止患者へのタウロリジン投与は、血液心停止と比較すると、循環IL−6が減少し、IL−10の生産が増加する結果になった(大動脈アンクランピング24時間後でp<0.05)。タウロリジン処置は、好中球または単球活性あるいは循環TNF−αまたはIL−8を変化させないように思われた。
【0037】
実施例7
クリスタロイド心停止中の不整脈に対するタウロリジンの効果
患者10人が、心筋保護のためタウロリジン2%溶液を用いたクリスタロイド心停止によるCPBを受けた。別の患者10人は、心筋保護のためプラシーボを用いたクリスタロイド心停止によるCPBを受けた。プラシーボ処置した患者のうち8人が不整脈を経験したのに対し、タウロリジン処置した患者のうち不整脈を経験したのは3人であった。
【0038】
タウロリジンは抗炎症性サイトカインIL−10を上方調節しかつ炎症誘発性IL−6を下方調節することによって、クリスタロイド心停止を受けたCPB患者において保護的役割を有し得ることをこれらの結果は示している。上記の結果に基づき、タウロリジンがCPB患者における不整脈を減らし得るといっそう思われる。
【0039】
本発明の好ましい実施態様の詳細を参照して本発明が記載されてきたが、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で当業者には修正が容易に行なえることが予想されるように、この開示は限定の意味ではなく例示の意味を意図したものであることが理解されるべきである。
Claims (11)
- 患者の心肺バイパス(CPB)手術の術後再灌流で誘発される不整脈を軽減するための組成物であって、前記患者へ投与するために製剤化され、タウロリジン、タウラルタムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、有効量のメチロール転移薬剤を含む、該組成物。
- 前記薬剤が、前記患者に対し、前記CPB手術前、前記CPB手術中、前記CPB手術後およびそれらの組合せからなる群から選択される期間中に投与されるために製剤化される、請求項1に記載の組成物。
- 前記薬剤が、前記患者におけるIL−6レベルの上昇を防止し、または減少させる、請求項1に記載の組成物。
- 前記薬剤が、前記患者におけるIL−10レベルの上昇を増大させ、または減少を防止する、請求項1に記載の組成物。
- 前記薬剤が、前記患者における全身性内毒素血症を減少させ、または防止させる、請求項1に記載の組成物。
- 前記薬剤が、タウロリジン溶液からなる請求項1に記載の組成物。
- 前記溶液が、2%タウロリジン溶液である請求項6に記載の組成物。
- 前記タウロリジン溶液が、前記患者に対して250mLの投与量で投与される請求項7に記載の組成物。
- 前記患者が、前記投与量を前記手術中に投与されるために製剤化される、請求項8に記載の組成物。
- 前記患者が、前記手術に続いて、前記投与量を12時間の間隔で1日に2回投与されるために製剤化される、請求項8に記載の組成物。
- 前記CPBが、クリスタロイド心停止法からなる請求項1に記載の組成物。
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