JP4818548B2 - 磁気シールド構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、送電線からの交流磁場によるテレビ又はパソコン用CRTディスプレイ等の対象物に与える影響を低減させるための磁気シールド構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
送電線近傍の建物は、常時大きな交流磁場の環境下にあり、人体や機器への影響が懸念されている。このうち、人体に対する影響の有無はまだ明らかとなっていないが、機器に関しては電子ビーム応用機器等で障害が生じる。例えば、テレビやパソコン用CRTディスプレイでは画像揺れ障害が生じる。その閾値は、画面サイズ、方式、解像度等によっても異なるが、磁場の波高値でlμT(10mG)〜2μT(20mG)である。
画像揺れ障害が生じる場合、従来の対策としては、簡易なものではテレビやパソコン用CRTディスプレイを磁気シールドボックスで覆う方法が採られている。この磁気シールドボックスは正面部が開放された六面体で、磁気シールド材で構成されている。
また、建物の広い範囲をシールドする、いわゆる磁気シールド建物が提案されている。例えば、特開平9−172290号「変動磁場シールド工法」では、方向性珪素鋼板の圧延方向を送電線と直交方向に向けて天井面、壁面、床面に連続的に配置し、大きな磁場回路を構成して建物内部の広い空間をシールドするものである。従来の堅固な磁気シールドルームと異なり、居住性を高めるために窓などの開口部を設けることもできる。
また、集合住宅や事務所等のように対象の領域が広く、窓のため壁面に十分な磁気シールド工事が行えない場合は、性能は落ちるが屋根面のみを磁気シールド材で覆う方法も採られている。
いずれの方法においても、磁気シールド材には、パーマロイ、アモルファス、珪素鋼板、純鉄等の比較的透磁率の高い材料が使われている。これらの磁気シールド材で必要箇所を覆い、外部からの磁場の侵入を防ぐものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記した従来の磁気による障害を防ぐ方法にあっては、次のような問題点がある。
<イ>磁気シールドボックスは、機器単体に近接して覆うもので、簡易かつ即効的な方法であるが、機器の操作性を損なう。また、機器ごとに磁気シールドボックスを用意する必要がある。
<ロ>磁気シールド建物は、建物内部の広い領域で磁場の低減効果があるが、大量の磁気シールド材を使用するためコストが高くなる。事務所ビルのように室内に多くのパソコンを設置する場合は、1台当たりのコストを低減することもできるが、住居ではテレビやパソコンの台数も限られており、個別の対策をおこなうのに比べてかなり割高になる。
<ハ>また、屋根面のみに磁気シールド材を設置する方法は、屋根面の面積が大きく、かつ幅・奥行きとも所定の長さ以上あれば多少の効果はあるが、屋根の周辺ではほとんど効果がない。逆に磁気シールド材端部に磁極ができ、磁場が大きくなることもある。また、面積が大きくなると当然コストも高くなる。
<ニ>パーマロイやアモルファスは透磁率の高い材料であるが、材料費が高い。
【0004】
【発明の目的】
本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたもので、送電線から発生する磁場による影響がテレビ又はパソコンを置くことを予定した対象空間に及ばないようにする効率的な磁気シールド構造を提供することを目的とする。
また、設置した磁気シールド構造によって対象物の使用環境を変化させない磁気シールド構造を提供することを目的とする。特に、テレビ等の対象物の操作性や部屋の景観を悪化させない磁気シールド構造を提供することを目的とする。
さらに、低コストで設置できる磁気シールド構造を提供することを目的とする。
本発明は、これらの目的の少なくとも一つを達成するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために、本発明の磁気シールド構造は、送電線から発生する磁場による影響を低減させるための磁気シールド構造であって、磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、建物の面部材の2面の壁と床に方向性磁気シールド材を三角錐状に配置した外殻を形成し、残りの1面を開放し、前記方向性磁気シールド材で形成した三角錐の各面の高透磁率方向を連続させることを特徴とするものである。
【0007】
さらに上記した磁気シールド構造において、磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、方向性磁気シールド材の高透磁率方向の少なくとも一部が前記磁場の方向と略一致するように該方向性磁気シールド材を配置することができる。ここで、方向性磁気シールド材の高透磁率方向とは、例えば方向性珪素鋼板の圧延方向など同一材料内で他の方向に比べて優れた透磁率を示す方向をいう。また、「磁場の方向と一致するように」とは、方向性磁気シールド材のすべての高透磁率方向と磁場の方向を一致させることを意味するものではなく、支配的な磁場の方向が高透磁率方向とほぼ一致していればよい。
【0008】
また上記した磁気シールド構造において、前記対象空間はテレビ又はパソコンを置くための空間とすることが好ましい。テレビはアンテナ端子の位置や部屋の形状により、またパソコンは電話回線やケーブルテレビの端子の位置により予め置く場所が特定しやすいので、局所的な磁気シールド構造を構築しやすいからである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
<イ>対象空間
本発明の磁気シールド構造によって磁場による影響を低減させる必要がある対象空間は、磁場の影響を受けやすい対象物3を置くための空間又は置くことが予定されている空間である。
対象物3としては、例えばテレビ、パソコン用CRTディスプレイ等がこれに該当する。
テレビはアンテナ端子のある周辺に置かれることが多く、また部屋の構造等からも設計段階からテレビを置く位置は予め特定しやすい。このため、建物の構造として建築時に磁気シールド構造を構築し、対象空間のみにおいて効率的に磁場による影響を低減させることができる。
また、パソコンも電話回線やケーブルテレビの端子に繋ぐことが多く、テレビと同様に置く場所を設計段階から特定しやすい。
本発明では、送電線21の想定最大電流から計算等して求めたこの対象空間における磁場の強さが、画像の揺れ障害の閾値以下となるような最適な磁気シールド構造を構築する。
【0012】
<ロ>磁場方向
磁場方向2とは、送電線21などから発生した磁場の方向をいう。磁場方向2は磁力線の方向ともいう。
磁場方向2は、電線が1本の場合は電線を中心とする同心円の接線方向となる。しかしながら、送電線21は三相交流であるため、3本の電線が120度ずつ位相をずらした形で構成されており、さらには複数の回線が様々な位相関係で存在することが多い(図2参照)。このため、送電線21周辺の磁場方向2はまちまちである。ただし、それぞれの場所においては、磁場の強さが送電線21に流れる電流の変動にともなって変動するのに対し、磁場方向2はほとんど変わらない。
【0013】
<ハ>磁気シールド材
磁気シールド材4とは、磁場を低減させる効果を有する材料をいう。
磁気シールド材4は、透磁率の高い材料であれば何でもよい。例えば、パーマロイ、アモルファス、珪素鋼板、純鉄等が使用できる。
所定のシールド機能を発揮させるためには、所定の厚さを確保する必要がある。これは磁場の強さと材料の磁気特性から決まるもので、磁場解析等により求めることができる。純鉄であれば通常1枚で所定の厚さを確保できるが、アモルファス(厚さ30μm程度)や珪素鋼板(最大厚さ0.5mm程度)は複数枚重ねて所定の厚さとする。
【0014】
図3及び図4は、磁場方向2と磁気シールド材4の設置方向の関係によるシールド効果の違いを数値シミュレーションで求めた結果を表した図である。ここで、磁気シールド材4は、厚さ10mm、紙面奥行き方向に100m、長さ(紙面幅方向)10mの形状のものを使用した。なお、比透磁率は3000とした。
図3は磁場方向2と磁気シールド材4の方向を一致させた場合の結果を表した図であり、この図から磁気シールド材4の中央部付近の磁場は5μT以下(網掛け部)と磁気シールド材4を設置しない場合(10μT)の半分以下まで低減していることがわかる。
一方、図4は磁場方向2と磁気シールド材4の方向を直交させた場合の結果を表した図であるが、この配置では磁場を低減させる効果がまったくないことがわかる。
このように、磁場方向2と磁気シールド材4の方向の関係は、磁気シールド構造にとって非常に重要であるといえる。
【0015】
<ニ>方向性磁気シールド材
方向性磁気シールド材1は、方向によって透磁率が異なる磁気シールド材である。
例えば、方向性珪素鋼板がこれに該当する。
磁気シールド材である珪素鋼板には、無方向性珪素鋼板と方向性珪素鋼板がある。無方向性珪素鋼板は、すべての方向に同じ透磁率を示すが、透磁率自体は比較的小さい。これに対して、方向性珪素鋼板は、圧延方向に優れた透磁率を示すが、その他の方向の透磁率は小さい。この優れた透磁率を示す方向を、その材料の高透磁率方向11という。
方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11と磁場方向2を一致させて配置すると、方向性磁気シールド材1を境により効果的に磁場を低減させた空間を作ることができる(図5(a)参照)。ここで、方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11の端部12においては、磁場が増幅する増幅部22が発生するが、これと直交する方向の端部13には増幅部は発生しない。
【0016】
<ホ>外殻
外殻5は、対象物3の外周に配置する磁気シールド材から構成される構造体である。
外殻5は、板状の磁気シールド材を加工して外形を錐状体又は柱状体に形成したものであり、少なくとも一面を開放している。例えば三角錐状の錐状外殻5a(図7)、円筒状の円柱状外殻5b(図示せず)、三角柱や四角柱などの多角柱状外殻5c(図6)が使用できる。
本発明ではこの外殻5を構成する板状の磁気シールド材を、壁、天井、床等の面部材やコーナー部の近傍に設けた袖壁、設置棚、飾り棚等に配置する。
また、外殻5は少なくとも一面を開放した構造となっているため、外殻5に囲まれた対象物3と外部との障害になることがない。例えば、外殻5内にテレビを配置した場合でもテレビの操作性を損なうこともなく、視界を遮ることもない。
【0017】
また外殻5は、方向性磁気シールド材1で形成した各面の高透磁率方向11を連続させることによって閉じた回路が形成されるように構成するのが好ましい。
図7に前面を開放した三角錐状の錐状外殻5aの斜視図を示す。ここでは高透磁率方向11が連続して回路を形成している。
このように外殻5を磁気回路が形成される構造とすることで、外殻5内部に配置した対象物3への磁場の影響を大幅に低減させることができる。
またこのような構造にした場合は、対象物3と外殻5の密着性はあまり問題にならないため、テレビ等の操作性、外観等に影響を与えることなく磁場の影響を低減させることができる。
【0018】
【実施例】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0019】
<イ>磁気シールド材の配置
磁気シールド材4は、壁34の表面又は内部に敷設して、その上から仕上げ層で覆うのが好ましい(埋設型磁気シールド材41)。このように仕上げ層で覆い隠せば、外観は一般の仕上げと変わらずに部屋の景観を悪化させることがない。
また、袖壁35、設置棚36、飾り棚37等を部屋のコーナー部に構築して、その表面又は内部に敷設することもできる(突出型磁気シールド材42)。この場合も、表面を仕上げ層で覆い隠すのが好ましい。
【0020】
<ロ>磁気シールド材の方向
本発明の磁気シールド構造によるシールド特性を最大限引き出すためには、効果的な磁気回路が構成されるように方向性磁気シールド材1の敷設方向を決定するのが好ましい。すなわち、方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11と送電線21からの交流磁場による板内部の磁束の方向(磁場方向2)が一致する方向である。
上記したように二つの方向を一致させることができない場合は、方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11を互い違いに変えて複数枚重ねて敷設すれば良い。
【0021】
また、方向性磁気シールド材1である方向性珪素鋼板は、製造上圧延方向(高透磁率方向11)の長さに制約はないが、圧延方向と直交する幅方向については最大でも1m程度である。さらに、脆いため折り曲げ加工は難しい。よって、対象空間が大きい場合は、幅方向の両端部及び入り隅部に継ぎ目が生じ、ここから磁気が侵入しないような処理が必要となる。
本発明では、方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11と磁場方向2を一致させることにより、幅方向両端部の継ぎ目の問題を解決している。すなわち、方向性磁気シールド材1により効果的な磁気回路を構成すれば、5mm程度の隙間はシールド性能にほとんど影響しない。
さらに、入り隅部等の継ぎ目においては、補強材としてパーマロイやアモルファス等の高透磁率を有する磁気シールド材を配置し、水平部及び垂直部の方向性磁気シールド材1と磁気的に緊結することもできる。
【0022】
<ハ>端部の処理方法
上述したような磁気回路が構成できる場合は問題にならないが、方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11の端部12においては磁場が増幅する増幅部22が発生するため、端部12の処理に注意をはらう必要がある(図5参照)。
例えば平板状の方向性磁気シールド材1で磁気シールド構造を構成する場合は、増幅部22の影響が対象物3に及ばないように対象物3から充分離れた位置に端部12が配置されるように磁気シールド構造を構成する(図5(a)参照)。
【0023】
<ニ>外殻の配置
埋設型磁気シールド材41や突出型磁気シールド材42を組み合わせて、室内の一部の空間にテレビ等の対象物3を配置するための外殻5を形成する。
ここで、外殻5を設置する場合には、その設置する場所の磁場方向2によって外殻5を構成する方向性磁気シールド材1の高透磁率方向11が異なる。
例えば、磁場解析等をおこなった結果、磁場方向2の鉛直成分が支配的になるところに多角柱状外殻5cを設置する場合について説明する(図6参照)。
この場合、磁場方向2は鉛直成分が支配的になるため、図6に示すように鉛直方向の磁場方向2と一致するように方向性磁気シールド材1を配置して外殻5cを構成するのが好ましい。こうすることによって、効果的な磁場回路を形成することができ、外殻5c内部に配置したテレビ等に与える磁場の影響を大幅に低減できる。
これと同様に磁場方向2の水平成分が支配的になるところには、水平方向の磁場方向2と一致するように方向性磁気シールド材1を配置して磁気シールド構造を構成するのが好ましい。
【0024】
【発明の効果】
本発明の磁気シールド構造は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<イ>対象物を設置する空間など場所を特定して磁気シールド構造とする。このため、経済的かつ効果的にシールド効果を得ることができる。
<ロ>建物を建築する段階で磁気シールド構造も構築する。このため、磁気シールド材が目立たないように仕上げることができ、部屋の景観を悪化させることがない。特に、対象物を囲むように開放部を有する外殻型の磁気シールド構造を設置すれば、テレビ等の対象物の操作性を悪化させることがない。
<ハ>送電線から発生する磁場の方向は、場所によってほぼ一方向に決定できる。このため、方向性磁気シールド材の高透磁率方向と磁場方向を一致させることによって、安価な材料で、効果的な磁気シールド構造を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】対象空間を磁気シールド構造とする場合の実施例の斜視図。
【図2】集合住宅近傍を送電線が通る場合の断面図。
【図3】磁場方向と磁気シールド材の方向を一致させた場合のシールド効果を表した説明図。
【図4】磁場方向と磁気シールド材の方向を直交させた場合のシールド効果を表した説明図。
【図5】(a)方向性磁気シールド材を使用した磁気シールド構造の実施例の平面図。(b)(a)の背面図。
【図6】鉛直磁場に設置する多角柱状外殻の実施例の斜視図。
【図7】錐状外殻の実施例の斜視図。
【符号の説明】
1・・・方向性磁気シールド材
11・・高透磁率方向
12・・端部
13・・低透磁率材
2・・・磁場方向
3・・・対象物
34・・壁
4・・・磁気シールド材
41・・埋設型磁気シールド材
42・・突出型磁気シールド材
5・・・外殻
Claims (3)
- 送電線から発生する磁場による影響を低減させるための磁気シールド構造であって、
磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、
建物の面部材の2面の壁と床に方向性磁気シールド材を三角錐状に配置した外殻を形成し、
残りの1面を開放し、
前記方向性磁気シールド材で形成した三角錐の各面の高透磁率方向を連続させることを特徴とする、
磁気シールド構造。 - 請求項1に記載の磁気シールド構造であって、
磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、
該方向性磁気シールド材の高透磁率方向の少なくとも一部を前記磁場の方向と略一致させたことを特徴とする、
磁気シールド構造。 - 請求項1乃至2のいずれかに記載の磁気シールド構造において、
前記対象空間がテレビ又はパソコンを置くための空間であることを特徴とする、
磁気シールド構造。
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