送電線の周辺には、50Hzあるいは60Hzといった商用周波数の交流磁場(以下、送電線磁場)が存在しており、近傍の建物においては人体や機器への影響が懸念されている。
このうち、人体に対する影響の有無はまだ明らかとなっていないが、機器に関しては電子ビーム応用機器などで障害が生じる。例えば、住宅内部に設置される機器では、テレビやパソコン用CRTディスプレイに画像揺れ障害が生じる。閾値は、画面サイズ、方式、解像度などによって異なるが、厳しいものでは波高値で0.7μT(マイクロテスラ;7mG)、緩いものでは波高値で4.2μT(42mG)である。一般的には、1μT(10mG)〜2μT(20mG)とされている。尚1μTは、10mGに相当する。
また、本明細書では、上記の如く、テレビジョンを略してテレビ、パーソナルコンピュータを略してパソコンと呼ぶこととする。
図9には、電圧66,000V、4回線からなる送電線を対象として、周辺の磁場分布を数値シミュレーションで求めたものを示す。図中、送電線1は、紙面に垂直方向に通るものとして示し、集合住宅2は、地表面3に対して平行な線分、垂直な線分で模式的にその断面を示した。
送電線1の周囲には、送電線1に流れる電流により送電線方向と直交方向に送電線磁場が発生する。正確には、送電線1の方向に沿った磁場も考えられるが、送電線1に対する直交磁場に比べて僅かなものであり、一般的には、送電線磁場の周囲環境に及ぼす影響を考える際には、かかる送電線1の方向の磁場を無視した単純化モデルで考えることができる。単純化モデルで考えると、送電線磁場は、磁場の強さは変化するが、その方向は変化しないものとして把握することができる。従来からもこの単純化モデルで送電線磁場の周囲環境への影響が考察されている。
かかる単純化モデルで、図9における送電線磁場の集合住宅2内部への浸入磁場の影響を磁場分布として見ると、集合住宅2の内部空間では、テレビなどの画像揺れ障害の一般的な閾値である1μT(10mG)以上の領域が半分以上占めていることがわかる。閾値を2μT(20mG)〜4.2μT(42mG)としても、集合住宅2の上層側ではかなりの領域を占めている。
因みに、送電線1近傍における建築に関しては、電気設備技術基準に基づく設置安全基準に基づき、送電線1からの離隔距離が定められている。図9に示すような66,000Vの高圧送電線の場合には、離隔距離は約3.6mである。
かかる離隔距離を満たしていれば、送電線1に近接して集合住宅などの住宅建設が認められる。図9に示す場合は、上記基準を満たすべく、集合住宅2が送電線1から6mの離隔距離をとって設けられた場合を想定しており、現実に見かける送電線近傍の建物状況を反映している。
上記送電線磁場によるテレビやパソコン用CRTディスプレイの画像揺れ障害に対する従来の対策技術としては、以下のようなものがある。
まず、簡易なものでは、テレビやパソコン用CRTディスプレイを磁気シールドボックスで覆う方法がある。これは、正面部が開放された直方体形状をしており、磁気シールド材でテレビなどを筒状に4面ないし5面で囲む構成とされている。
また、磁気シールド対象の機器が大きいとか、あるいは複数台設置されているなどのため、広い範囲を磁気シールドする必要がある場合は、所要の部屋全体を磁気シールドルームにする場合もある。この場合、部屋を囲む天井、床、壁の6面を磁気シールド材で覆うことになる。
また、集合住宅のように開口部がたくさんあり、壁面に十分なシールド面を設けることができない場合は、磁気シールド効果は劣るが屋根面のみを磁気シールド材で覆い、外部からの磁場の浸入を防ぐ工法も採用されている。
上記いずれの方法でも、磁気シールド材には、パーマロイ、アモルファス、珪素鋼板、純鉄などの高透磁率を有する材料が使われている。
送電線磁場を想定した磁気シールド技術としては、上記のように種々の方法が提案されてはいるが、かかるシールド技術には、それぞれに以下のような問題点が指摘されていた。
すなわち、磁気シールドボックスで機器単体を個別に覆う方法は、簡易かつ即効的な方法ではあるが、機器の操作性を損なうとともに見栄えが良くない。特に、市販の大型テレビ用磁気シールドボックスは、機能的側面にポイントを置いた形状であるため、居住環境に十分な配慮が求められる住宅の室内空間などでは、デザイン面でそぐわないことが多い。勿論、デザインを重視したものを特注で製作することもできるが、テレビ本体の数倍のコストがかかり現実的な対応ではない。さらには、テレビを買い換える毎に、新たな磁気シールドボックスを購入する必要もあり、買い換え需要の多い家電製品への磁気シールド対策としては簡単に採用できるものではない。
一方、磁気シールドルームは、磁気シールドを破る虞のある窓などの開口部がない閉ざされた閉塞的な空間となることが多く、採光面・換気面で不利である。磁気シールド性能を十分に確保するという観点からは、このように被磁気シールド空間のほぼ全周を磁気シールド面で囲うようにし、磁気シールド面には磁気シールドが破られ易い開口部を極力少なくするようにするのが理想的ではあるが、かかる閉塞環境が中の人間に与える心理的悪影響が懸念される。
しかし、一般の家庭で求められる磁気シールド性は、実験施設などとは異なり、平均的には、日常的に発生するテレビ画面の揺れ障害などが解消される程度の磁気シールド性能で足りる場合が殆どであり、かかる磁気シールドルームの構成の殆どは、求められる磁気シールド性からすれば過剰構成となり易い。また、磁気シールドルームの開口部などに設ける磁気シールド扉も、磁気シールド性を高度に求める場合には、磁気の浸入を防ぐ特殊な機構を用いて開閉できるように構成しなければならず、日常的に出入りするという感覚からは、極めて出入りが大変となる。
このように、これまでの磁気シールドルームは研究所などに設置される特殊な空間としての趣が強く、実際にも施工需要の多くは研究施設関係であり、当然に施工コストも高かった。そのため、一般住宅建物への普及性という観点からは、低価格で簡単施工ができるというレベルには未だ達していない。
その他の磁気シールド対策としては、前述の如く、屋根面のみを磁気シールド材で覆う工法が知られている。しかし、かかる工法は、屋根面の面積が大きく、かつ幅、奥行きとも所定の長さ以上あれば多少効果は得られるが、外壁に面する部分での磁気シールド性は殆ど期待できない。逆に屋根面に設けた磁気シールド材端部に磁極ができ、建物内への浸入磁場が大きくなることもある。
さらに、屋根面積が大きくなると、当然に磁気シールドの施工コストも高くなる。しかし、コスト増の割りには上記の如く磁気シールド効果はそれ程期待できない。屋根面の面積が小さい場合には、その分、施工コストは低減するものの、屋根面側からの浸入磁場よりも建物側面からの浸入磁場の影響が相対的に増し、一般的にはその効果は殆ど期待できない。
そこで、本発明者は、建物内の所要空間の上下平面に、強磁性材料あるいは導電性材料からなる磁気シールド層をサンドイッチ状に配した構成の磁気シールド構造を提案した(特許文献1参照)。かかる特許文献1では、外周からの磁場の浸入は避けられないものの、建物内の比較的広い領域で概ね浸入磁場の低減を図ることができる。そのため、工場等のように床面積が大きく、磁場の影響を受ける機器を部屋内に置くような建物でより有効に適用することができる。
さらに、本発明者は、送電線からの浸入磁場の影響を1/10〜2/10程に大きく低減させる磁気シールド構造も提案した(特許文献2参照)。かかる特許文献2では、送電線に平行な面を方向性珪素鋼板の圧延方向が送電線と直交して閉回路を描くように、磁気シールド面を断面ロの字型となるように構成するものである。開放面近傍を除く広い領域で、上記の如く1/10〜2/10程度にまで磁気低減効果を有する構造で、スペースの有効活用で磁場の影響を受ける機器類でも、磁場の浸入する領域に広く配置せざるを得ない事態が十分に想定される事務所等のような建物により有効に適用できる構成である。
一方、特許文献2程の大きな磁気低減効果は必要ないが、居住性の確保を目的として窓等の開口部を十分に確保できる磁気シールド構造も提案した(特許文献3参照)。特許文献3に提案の磁気シールド構造では、磁気シールド面を断面略コの字型に構成することで、被磁気シールド空間の4面の全周を磁気シールド面で囲う特許文献2記載の提案構造とは異なり、1面を完全に開放することができる構成である。特許文献2に提案の磁気シールド構造程の磁気低減効果は得られないものの、送電線近傍の建物内で発生するテレビやパソコン用CRTディスプレイの画像揺れ障害は十分に防ぐことができるもので、バルコニー等の開口面の多い集合住宅等により有効に適用することができる構成である。
さらに、特許文献3に提案の磁気シールド構造を実際に適用する際の寸法基準等に考慮を払った設計方法の提案も行った(特許文献4参照)。本発明者が関与した上記種々の提案の磁気シールド構造も、求められる条件、性能等に応じて適宜選択採用されることとなるが、適用に際しては、対象空間における磁場の強さ、方向等の性状に基づき、求められる磁場環境としての閾値から磁気シールド効果を決定し、磁気シールド設計を行うこととなる。磁気シールド設計においては、最適な形状の設定が性能やコストを決める上で大きな鍵となるが、特許文献4において、かかる最適な形状設定に有効な設計方法を提案した。
特開平08−307086号公報
特開平09−172290号公報
特開2003−258478号公報
特開2003−309393号公報
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
本発明は、変電所等の屋外電力施設、トランスや電源ケーブル等の屋内電気設備、送電線等の磁場発生源に基づく浸入磁場に対する磁気シールドに有効に適用できる発明である。以下の説明では、送電線近傍の建物において、送電線磁場によるテレビやパソコン用CRTディスプレイの画像揺れ等の磁気障害を防ぐために実施する磁気シールド構造を例に挙げて説明する。
本発明では、特に、建物の建築に際して用いられた構造材あるいは仮設材を有効に利用することが可能で、かかる構成材、仮設材を利用しない構成に比べて、施工性、施工コスト等で極めて有利な構成を有している。これまで提案されてきた磁気シールド構造では、既に天井面、床面、壁面等が基本的に形成された上で、かかる既製面上に別途、磁気シールド材を貼り付ける等することを前提としたものが一般的で、本発明は、かかる構成とは視点を全く異にするもので、建物の施工段階から、既に構造材、あるいは仮設材を磁気シールド構造に利用できるようにする構成が一つの特徴点である。
本発明の実施の形態の以下の説明では、図1(A)に示すように、建物の開口部を大きく設けることができる磁気シールド構造を例に挙げて説明する。しかし、本発明の適用は、図1(A)に示す構成の磁気シールド構造に限定する必要はなく、その他の構成の磁気シールド構造でも適用できることは言うまでもない。
図1(A)に示す磁気シールド構造Aは、複数の磁気シールド面10から構成されている。かかる複数面の磁気シールド面10が接合されて磁気回路G(図中、破線で示す)が形成されている。磁気シールド構造Aに囲われている図中網かけの部分が磁気シールド対象空間Bである。
尚、図1(A)に示す構成では、磁気シールド面10が断面略コ字型に形成されており、閉じた構成ではないため閉回路はとはならないが、しかし、一部に閉じない部分があってもコ字型に透磁性方向が繋がって、磁気が流れるルートが形成されていることから、かかるルートを磁気回路Gと呼ぶことにする。磁気回路Gは、図中に模式的に示すもので、実際は面方向に図示不可能な程に多数形成されている。
かかる構成の複数の磁気シールド面10により磁気回路を構成する磁気シールド構造Aでは、相対する磁気シールド面10a(10)、10b(10)が水平面に設けられている。相対させた磁気シールド面10a、10bに対して、垂直面に構成した磁気シールド面10c(10)が交差方向に設けられている。かかる構成の磁気シールド構造Aでは、垂直面を構成する磁気シールド面10cが送電線1に沿う方向に設けられている。
図1(A)に示す構成では、送電線1は磁気シールド構造Aの非開口部側である磁気シールド面10c側に位置する場合を示しているが、開口部側に位置する場合であっても一向に構わない。
送電線1とのかかる位置関係を有する磁気シールド構造Aでは、送電線1からの浸入磁場として、主に、送電線1の方向に対して直交する方向の送電線磁場を想定している。送電線1との位置関係により、図1(B)に示すように、上記送電線磁場の強さを水平成分と垂直成分に分けて、水平磁場が強い場合を卓越磁場が水平磁場であると言い、垂直成分が強い場合を卓越磁場が垂直磁場であると言う。また、送電線が45度斜めに位置する場合は卓越磁場が斜め磁場であると言う。この場合には、水平、垂直のそれぞれの卓越磁場方向の磁場成分が同一である特殊な場合とも言える。
このように磁気シールド構造Aに対しては、種々の方向における卓越磁場が想定されるが、送電線1の位置は、垂直面を構成する磁気シールド面10cに沿っていることが必要である。また、磁気シールド構造Aに構成される磁気回路Gは、図1(B)に示すように、磁気シールド面10を構成する磁気シールド材における透磁性方向を図に示すように揃えることで最適に構成される。
尚、磁気シールド面10cが送電線1に沿っているとは、両者の交差角θが0度(平行な場合)以上、26度以下の範囲を言うものとする。理想的には、交差角0度の平行な場合である。しかし、立地条件によっては、垂直面に相当する磁気シールド面10cを送電線1に沿う方向に建物の設置条件を選定できるとは限らない。そこで、かかる場合でも有効に送電線方向に直交する送電線磁場に基づく建物内のテレビやパソコン用CRTディスプレイの画像揺れ等の磁気障害が防止できる範囲として、交差角θが0度以上、26度以下の範囲が許容可能である。
上記説明の図1(A)に示す磁気シールド構造Aを実際の建物に適用する場合には、図2(A)に模式的に示すように、複数階に構成した建物100内の複数の部屋a、bの一部を磁気シールドする場合が想定される。あるいは、図2(B)に模式的に示すように、建物100の全体を磁気シールドする場合でも構わない。あるいは、図3(A)に模式的に示すように、建物100内を複数階ずつまとめて磁気シールドする場合でも構わない。あるいは、図3(B)に模式的に示すように、建物100内の各階毎に磁気シールドする構成でも構わない。
磁気シールド構造Aを構成する磁気シールド面10a、10bは、建物100の水平面を構成する部分に設定され、磁気シールド面10cは建物100の垂直面を構成する部分に設定される。すなわち、磁気シールド10aは天井面に設定し、磁気シールド面10bは床面に、磁気シールド面10cは壁面にそれぞれ設定すればよい。
尚、天井面と言う場合には、複数階の建物100における上階の床スラブの下面及び上面をも含む意味であり、同様に、床面と言う場合には当該階の床スラブの上面及び下面をも含む意味である。
かかる磁気シールド面10a、10b、10cは、各々上記天井面、床面、壁面に相当する位置に、磁気シールド材を設けることで構成される。かかる磁気シールド材は、天井、床、壁を構成する構成材、あるいはかかる構成材の上に設けた下地材の上に設けられ、さらに磁気シールド材の上に仕上げ材等が設けられて、磁気シールド面10a、10b、10cが構成される。磁気シールド材が建物内部、あるいは外部に露出する構成は、基本的には採用されない。勿論、磁気シールド材が居住者にそれと分かるように露出させた構成であっても構わないが、露出させておくと磁気シールド材の損傷、劣化が起こり、磁気シールド性の低下を来す原因となり好ましくない。原則的には、かかる構成を採用する例は極めて少ないものと思われる。
かかる複数の磁気シールド面10を磁気的に接合することで、図1に示す磁気シールド構造Aが構成されるが、磁気シールド面10を磁気的に接合するとは、磁気シールド面10を構成する磁気シールド材を磁気的に接合することで形成される。
磁気シールド対象空間Bとして小さな空間を覆う場合に、一枚の板状に形成した磁気シールド材を曲げ構成することで、図1に示すような断面略コ字型の磁気シールド構造Aを形成することができる。しかし、部屋単位、あるいは各階のフロア単位、あるいは複数階を一括して含める単位、あるいは建物単位で被磁気シールド空間を考慮する場合には、一枚の単一磁気シールド材を曲げ構成することで磁気シールド構造Aを構成することは、現実的ではない。
そこで、本発明者は、複数の磁気シールド材を接合することで、磁気シールド面10を接合する構成が現実的対応であると判断し、複数の磁気シールド材の接合構造について最適な結合構造を開発し、本発明に至った。
互いに磁気的に独立した磁気シールド材を接合するには、磁気シールド性能を有する磁性体から形成された磁気シールド接合部材を使用するのが最適である。磁気シールド性能を有しない物質を用いて、互いに磁気的に独立した磁気シールド材を接合しても、接合される磁気シールド材による磁気回路Gが構成されず、前述の如く、磁気回路Gを構成する図1に示す磁気シールド構造Aによる磁気シールド効果は得られない。
また、かかる構成の磁気シールド接合部材20としては、図4(A)に示すように、その形状は、例えば、断面L字型のアングル20aに構成しておけばよい。アングル20aは、一枚の板状の磁性体を所定角度に曲げることで形成することができる。所定角度で互いに開いたフランジ21、22を、磁気シールド材30にそれぞれ接面させて接合することとなる。接合に際しては、フランジ21、22を磁気シールド材30に接合させた状態で、溶接、ビス止め、接着剤、両面テープ等の接面固定手段で接合すればよい。
例えば、図4(A)に示すように、互いに垂直に交差する各々の磁気シールド面10を構成する磁気シールド材30同士を、各々の磁気シールド面10同士の交差角を維持した状態で磁気的に接合することができる。アングル20aは、透磁性等の磁気シールド性能が、接合する磁気シールド材30と同等以上であることが必要である。
本発明が前提とする磁気シールド構造Aは、前述の如く、複数の磁気シールド面10を用いて略コの字型の構成としているが、かかる構成において、各々の磁気シールド面10を構成する磁気シールド材30の透磁性方向が連続できるように繋げられて、磁気回路Gを構成することが大前提である。そこで、磁気シールド性が確保できるように磁気的に接合するだけでは不十分で、互いに磁気的に独立した磁気シールド面10を構成する磁気シールド材30の透磁性を接合部分で減衰させないことが求められる。接合部分で透磁性を減衰させたのでは、略コ字型の磁気回路を構成した効果は十分に得られない。
尚、上記説明では、アングル20aは、一枚の板状の磁性体を曲げ構成する場合を説明したが、フランジ21、22を二枚の板状の磁性体を溶接により断面L字型に接合して形成しても構わない。さらには、図4(B)に示す形状に構成しても構わない。図4(B)に示す形状であれば、磁気シールド材30が3面互いに垂直に接合する隅部分で用いることができる。
アングル20a等に構成した磁気シールド接合部材20による磁気的接合を行うに際しては、連続する隙間が発生しないようにすることが好ましい。特に、透磁性方向と直交する方向に連続する隙間が発生する場合は、かかる隙間が大きな磁気抵抗となり、大きな磁気の浸入を許すこととなり避けるべきである。一方、透磁性方向に連続する隙間は、余り大きな影響を及ぼさないため、多少の隙間が発生しても構わない。
また、図4(A)、(B)に示す場合は、磁気シールド接合部材20を、接合する磁気シールド材30とは別途独立したものとして構成した場合を示したが、磁気シールド材30の接合端側を、例えばL字型に曲げる等して、磁気シールド接合部材20を磁気シールド材30に一体成形するようにしても構わない。
図5は、天井側、壁面側、床側に設けた磁気シールド材30を、図4(A)に示す構成のアングル20aで、磁気的に接合した構成を示している。すなわち、天井側には、上階床スラブ40の下面に下地材41を設け、かかる下地材41上に磁気シールド材30aが設けられて、磁気シールド面10aが形成されている。床面側にも、下床スラブ50の上面に下地材51が設けられ、かかる下地材51上に磁気シールド材30bが設けられて、磁気シールド面10bが形成されている。壁面側には、間仕切壁60の壁面上に下地材61を設け、かかる下地材61上に磁気シールド材30cが設けられて、磁気シールド面10cが形成されている。
また、互いに接合された磁気シールド材30の上には、さらに仕上げ材70が適宜厚さに設けられ、室内居住者側からは磁気シールド材30が露出しないように、通常の部屋の内装状態に仕上げられている。
このように、天井側、壁面側の磁気シールド材30a、30c同士、壁面側、床側の磁気シールド材30c、30b同士が、磁気シールド接合部材20により磁気的に接合されて、磁気シールド面10a、10b、10cが略コの字型に接合した磁気シールド構造Aが形成されることとなる。かかる磁気的接合を用いることにより形成される磁気シールド構造Aでは、図1(A)に示す矢印の如く、磁気回路Gが形成されることとなる。
図5に示す構成は、天井側、壁面側、床側が既に構築された上で、別途それぞれの側に磁気的に独立した磁気シールド材30を設け、かかる磁気シールド材30を磁気的に接合した構成について説明したが、磁気シールド材30としては、建物の構造材を利用することもできる。建物の構造材を積極的に利用すれば、建物の構造材とは別に磁気シールド材30を設ける場合に比べて格段に施工材のコスト低減を図ることができる。
図6は、間仕切壁60としての遮音壁60aの構造材として設けた鋼板62を磁気シールド材30cとして利用する場合について示した。天井側、床側の磁気シールド材30a、30bは、図5に示すと同様にして形成されている。構造材としての鋼板62は床面側から天井面側まで一杯に設けられ、かかる鋼板62と、磁気シールド材30a、30bがアングル20aで磁気的に接合させられている。
図6では、構造材を磁気シールド材30として利用する場合について、建物の間仕切壁60の構造材としての鋼板62を利用する場合を例示して示したが、図7では下床スラブ50側の構造材を磁気シールド材30として利用する構成について示す。
図7に示すように、下床スラブ50側には、その構造材としてデッキプレート52が設けられている。かかるデッキプレート52上にはL字型に構成したアングル23が磁気シールド接合部材20として設けられている。アングル23の一方のフランジ21側は、図7に示すように、床スラブコンクリート53の上に突出して、壁面側の磁気シールド材30cと磁気的接合が可能な程度に長く設定されている。
また、床スラブコンクリート53は、図7に示すように、アングル23により分断されるため、床スラブコンクリート53を一体化するためアングル23の床スラブコンクリート53を貫通するフランジ21の両側にボルト54が溶接されている。この状態で、場所打ちコンクリートを打設して床スラブコンクリート53が構成されている。
床スラブコンクリート53の上に突出したアングル23のフランジ21の裏面側を、例えば、軽量鉄骨下地63上に下地材64を介して設けた磁気シールド材30cと接面させた状態で接合すれば、デッキプレート52と垂直面となる磁気シールド面10cを構成する磁気シールド材30cとが磁気的に接合されることとなる。
尚、図7では、床スラブコンクリート53の一体化のためにアングル23のフランジ21の両面にボルト54を溶接して設けたが、かかるフランジ21に所定間隔で孔を開けておき、かかる孔にスラブ鉄筋を通す構成でも構わない。
図8では、床スラブコンクリート53の打設に際して使用した鋼製捨て型枠55を利用している場合を示す。鋼製捨て型枠55の面上に、図8に示すように、フランジ22を溶接等で固定することによりアングル23が設けられている。フランジ21は、鋼製捨て型枠55内にコンクリートを所定厚に打設した際に、床スラブコンクリート53上に突出する長さに形成されている。フランジ21の裏面を、軽量鉄骨下地63上に下地材64を介して設けた磁気シールド材30cと接面させた状態で接合することで、鋼製捨て型枠55と、垂直面となる磁気シールド面10cを構成する磁気シールド材30cとが磁気的に接合されることとなる。
尚、鋼製捨て型枠55としては、コンクリートの打設に際して一般の型枠材として用いられる程度の剛性を備えていればよく、板厚は1〜3mm程度でよい。
また、アングル23には、図7と同様に、アングル23で分断される床スラブコンクリート53の一体化の目的でボルト54を溶接等で設けておけばよい。
このように本発明では、鋼製捨て型枠55等の建物の建築に際して使用され、その後残存される仮設材を磁気シールド材として利用することで、別途磁気シールド材を床面側に設ける場合に比べて、格段に施工コスト、資材コストの低コスト化を図ることができる。さらには、床スラブコンクリート施工後に別途磁気シールド材を設ける場合に比べて、施工の手間をも簡略化することができる。
仮設材としては、床スラブ側に設けた鋼製捨て型枠55以外にも、梁、壁側に使用した鋼製捨て型枠を使用してもよい。
以上の説明では、磁気シールド接合部材20として所定角度に当初から設定されたアングル20a、23等を使用する場合について説明したが、広い磁気シールド面を構成する場合には、複数面の磁気シールド材30を連接する必要がある。かかる場合の磁気シールド材30同士の接合に際しては、磁束の流れ方向に連続する隙間を多少発生させても構わないが、磁束の流れ方向と直交する方向に連続する隙間を発生させないように接合する。
かかる接合に際しては、例えば、隣接する磁気シールド材同士のラップ(重ね)をとったり、あるいは帯板を貼る等の方法がある。ラップ代、帯板の幅等は、対象空間における磁場の強さ、方向等の性状と、求める磁気シールド性能の閾値とにより、適宜調節すればよい。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
上記説明では、断面コ字型の磁気シールド構造を例に挙げて説明したが、かかる形状に限定する必要はない。断面ロ字型等のように複数の磁気シールド材を磁気回路が形成されるように磁気的に接合してなる磁気シールド構造であれば、どのような形の構成でも適用することができる。
上記説明では、複数階の建物における磁気シールド構造を例に挙げて説明したが、複数階の建物としての集合住宅ばかりでなく、戸建住宅、単層住宅等に適用することができる。また、住宅以外にも、病院、事務所等を対象とした建物に有効に適用できることは言うまでもない。
上記説明では、磁場の発生源として送電線磁場を想定した場合を例に挙げて説明したが、変電所等の屋外電力施設、トランスや電源ケーブル等の屋内電気設備の周辺の磁気シールドを目的としたものであっても構わない。また磁場は交流磁場であっても直流磁場であっても構わない。