JP4818509B2 - 塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装焼付け時に析出硬化して降伏強度が著しく上昇する、すなわち、極めて優れた塗装焼付け硬化性(以下BH性)を有するとともに、プレス成形性にも極めて優れる、自動車ボディ材料等に好適な、塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の排出ガスを削減するために、燃費向上を目的とした車体の軽量化が検討されており、自動車ボディ材料を鋼板からアルミニウム合金板へ置換することが極めて有効な手段として注目されている。この用途には優れた強度およびプレス成形性が要求されるため、Mgの固溶強化により強度および成形性を向上させた非熱処理型のAl−Mg系合金と、塗装焼き付け時の析出硬化により高強度を得る熱処理型のAl−Mg−Si系合金が開発されている。
このうち、Al−Mg系合金はプレス成形性が優れているため、自動車ボディ材料に多用されているが、製造コストが高く、また、プレス成形の際にストレッチャー−ストレイン模様が現れて表面品位を損なうという問題点がある。
【0003】
一方、Al−Mg−Si系合金は、Al−Mg系合金よりも成形性に劣るという問題点があるが、製造性に優れるため製造コストが安く、またストレッチャー−ストレイン模様が出現し難く、さらに、BH性に優れるため、自動車ボディ等に適用し得る合金が開発されている。このようなAl−Mg−Si系合金として、特開平5−70907公報、特開平5−70908号公報および特開平9−41062号公報に、BH性に優れた成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法が開示されている。これらは、BH性を向上させるために、Mg−Si系GPゾーンを優先的に析出させ、Mg−Si系クラスターの析出を抑制したものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の高BH性を有するAl−Mg−Si系合金は、Mg−Si系クラスターを優先的に析出させた合金板よりもプレス成形性が劣っている。これは、Mg−Si系GPゾーンはBH性を向上させ、成形性を低下させるという性質が原因である。
一方、Mg−Si系クラスターは、プレス成形性の向上には有効であるが、塗装焼き付け時にMg−Si系GPゾーンの析出を抑制してBH性を低下させる。
このように、Al−Mg−Si系合金のMg−Si系GPゾーンおよびクラスターは、BH性とプレス成形性に対して相反する効果を有するため、BH性と成形性の両立には限界があった。本発明は、このような課題を克服し、BH性およびプレス成形性がともに優れ、自動車ボディ材料等に好適なアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的としたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の目的を達成するために、BH性とプレス成形性をともに向上させるMg−Zn系GPゾーンの活用によりBH性とプレス成形性の両立が可能であると考え、Al−Mg−Si系合金へのZn添加について詳細な検討を行った。その結果、BH性はZnの添加とともに向上し、また、プレス成形性はZnを添加しないものに比べてZnの添加量が2.5%までは低下し、それを超えると向上することを見出し、両特性共に向上可能なZnの添加範囲を特定するに至って本発明を完成させたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
【0006】
(1)mass%で、Mg:0.1〜1.5%未満、Si:0.24〜2%、Zn:2.5%超7%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
(2)mass%で、Cu:0.1〜2.5%を、さらに含有することを特徴とする前記(1)に記載の塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
【0007】
(3)mass%で、Mn:0.03〜1.5%、Cr:0.03〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Zr:0.03〜0.5%、Fe:0.03〜0.5%、Ti:0.003〜0.2%、B:0.003〜0.2%の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
(4)粒状潤滑機能付与剤:2〜15質量%を含有する厚さ0.5〜5μmのアルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜を、両面又は片面の表面に有することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
【0008】
(5)前記アルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜が、シリカ粒子:1〜30質量%を、さらに含有することを特徴とする前記(4)に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
(6)前記粒状潤滑機能付与剤が、ポリオレフィン系ワックス、フッ素系ワックス、パラフィン系ワックス、ステアリン酸系ワックスのうちの1種または2種以上からなることを特徴とする前記(4)または(5)に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
【0009】
(7)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のアルミニウム合金板を製造するにあたり、溶体化処理後、40〜100℃に冷却して巻取り、0.1〜10℃/hの冷却速度で冷却することを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形性用アルミニウム合金板の製造方法。
(8)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のアルミニウム合金板を製造するにあたり、溶体化処理後、40〜100℃に冷却して巻取り、40〜100℃の温度で、1〜20時間保持することを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法。
(9)前記溶体化処理として、500〜580℃の温度範囲で300秒以下保持し、40〜100℃までの冷却速度を5℃/s以上とすることを特徴とする前記(7)または(8)に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
発明者らは、上記の目的を達成するために、BH性とプレス成形性をともに向上させるMg−Zn系GPゾーンの活用によりBH性とプレス成形性の両立が可能であると考え、Al−Mg−Si系合金へのZn添加について詳細な検討を行った。その結果、BH性はZnの添加とともに向上し、プレス成形性は、Znを添加しないものに比べて、Znの添加量が2.5%までは低下し、それを超えると向上することを見出した。
【0011】
Znの添加によるBH性の向上は、Mg−Si系GPゾーンに加えてMg−Zn系GPゾーンが析出する効果であると考えられる。また、Znの添加量による成形性の変化は、Mg−Zn系GPゾーンの析出量に起因するものであると考えられる。すなわち、2.5%未満のZnを添加量した場合には、Mg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンの析出によりMg−Si系クラスターの析出が抑制され、さらにMg−Zn系GPゾーンの析出量が少ないため、成形性が低下する。これに対し、Zn添加量が2.5%以上になると、Mg−Zn系GPゾーンの析出が増加し、Mg−Si系クラスターの析出抑制による成形性の低下を上回る効果を発揮するためプレス成形性が向上すると考えられる。
【0012】
次に、Al−Mg−Si−Zn系合金のプレス成形性およびBH性に及ぼす熱処理温度の影響について詳細な検討を行った。その結果、プレス成形性とBH性を両立させるには、溶体化処理後に40〜100℃の温度範囲で巻取った後、徐冷またはこの温度範囲での熱処理を行い、室温近傍で放置することが必要であることがわかった。
このようなアルミニウム合金板は、プレス成形性、特に張出成形性に優れ、しかも極めて高いBH性が得られるが、Cuの添加によりプレス成形性をさらに向上させることができる。また、溶体化処理温度から巻取りまでの冷却速度を制御して、結晶粒界への平衡相および中間相の析出を抑制することにより、曲げ性の低下を防止できる。
【0013】
さらに、アルミニウム合金の深絞り性および型かじり性を向上させるには、表面に潤滑皮膜を塗布することが有効であるが、自動車用途等に適用する場合は、プレス成形後のアルカリ脱脂工程や洗浄工程において潤滑皮膜が溶解、離脱する脱膜型潤滑皮膜の塗布が望ましい。そこで発明者らは、脱膜型潤滑皮膜によるプレス成形性の向上およびアルカリ脱脂工程や洗浄工程における潤滑皮膜の溶解、離脱性について詳細に検討を行った。その結果、粒状の潤滑機能付与剤を含むアルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜を一定膜厚範囲内でアルミニウム合金板表面に形成させることにより、自動車用途等に適用できる性能を得ることに成功した。
本発明のアルミニウム合金は、極めて優れたBH性を発現させ、優れたプレス成形性を得るために、Mg−Si系およびMg−Zn系のGPゾーンを析出させたものである。また、これにCuを添加することにより、プレス成形性をさらに高めることができる。
【0014】
まず、好適な成分組成範囲の限定理由について説明する。
Mgは、本発明の基本となる合金元素であり、塗装焼付け時にMg−Si系GPゾーンおよびMg−Zn系η′相を生じて高BH性の発現に寄与し、またMg−Zn系GPゾーンを析出してプレス成形性を向上させるものである。この効果は、Mg量が0.1%未満では不十分であり、一方1.5%以上のMgを添加すると粗大なMg2 SiおよびMgZn2 析出物を生じ、プレス成形性および曲げ性を劣化させ、さらには溶質量の減少によりBH性が低下する。このことから、Mg量は0.1〜1.5%未満の範囲とした。
【0015】
Siも、本発明の基本となる合金元素であり、塗装焼付け時にMg−Si系GPゾーンを生じて高BH性の発現に寄与するものであるが、Si量が0.1%未満ではこの効果は十分ではない。一方、Si量が2%を超えると粗大なMg2 Si析出物を生じ、プレス成形性、曲げ性およびBH性を損なう。従ってSi量は、0.1〜2%の範囲とした。
【0016】
Znも、本発明の基本となる合金元素であり、塗装焼付け時にMg−Zn系η′相を生じて高BH性を発現し、巻取り時にMg−Zn系GPゾーンを析出してBH性およびプレス成形性を向上させるものである。しかし、Zn量が2.5%未満ではこの効果が不十分である。一方、7%以上添加すると粗大なMgZn2 析出物を生じ、プレス成形性、曲げ性およびBH性を損なう。従って、Zn量は2.5超〜7%未満の範囲とした。
【0017】
Cuは、張出成形性を向上させる元素であり必要に応じさらに添加するるが、0.1%未満では効果が小さいため、0.1%を下限とする。一方、2.5%を超えると粗大なCu系析出物を生じ、プレス成形性および曲げ性を低下させることから、上限を2.5%とした。
さらに必要に応じて、Mn、Cr、Zr、V、Fe、Ti、Bの1種または2種以上を含有させてもよい。
Mnは、強度の向上および結晶粒径の微細化に寄与する元素であるが、含有量が0.03%未満では効果が小さく、1.5%を超えると粗大析出物が生成し、成形性を低下させる。従って、Mn量は0.03〜1.5%の範囲とした。
【0018】
Crは、強度向上と結晶粒の微細化に効果のある元素であるが、0.03%未満では効果が十分に得られない。一方、0.5%を超えると粗大な析出物を生じて成形性を低下させる。したがって、0.03〜0.5%の範囲とした。
VおよびZrも、強度向上と結晶粒の微細化に有効な元素であり、その含有量が0.03%未満では十分な効果が得られず、0.5を超えると粗大な析出物を生じて成形性を低下させるため、それぞれ0.03〜0.5%の範囲とした。
【0019】
Feは、強度向上と鋳塊組織の微細化に有効な元素であり、その含有量が0.03%未満では十分な効果が得られないため、下限とする。また、0.5%を超えればAl−Fe系の粗大な晶出物を生じて成形性を低下させるため、0.03〜0.5%とした。
TiおよびBも、強度向上と鋳塊組織の微細化に有効な元素であり、その含有量が0.003%未満では十分な効果が得られず、0.2を超えると粗大な析出物を生じて成形性を低下させるため、それぞれ0.003〜0.2%の範囲とした。
【0020】
次に、本発明のアルミニウム合金板の好適な製造方法について詳しく説明する。本発明のアルミニウム合金は、常法に従って鋳造、熱間および冷間圧延、溶体化処理を施す。必要に応じて、冷間圧延中に中間焼鈍を施しても良い。溶体化処理後には、Mg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンを生成させるために、巻取り温度および冷却速度、あるいは熱処理条件を限定する。これにより、極めて優れたBH性と張出成形性が得られる。また、溶体化処理後の冷却速度を限定することにより優れた曲げ性が得られる。
【0021】
溶体化処理後の巻取り温度は、Mg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンが生成する温度範囲に限定する必要があり、40℃未満ではMg−Si系およびMg−Zn系のGPゾーンの生成が少なく、高BH性が得られないことから、40℃を下限とした。また、100℃を超えるとMg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンを過剰に析出して耐力が増加し、プレス成形および曲げ性を低下させることから上限を100℃とした。
【0022】
巻取り後の冷却速度は、0.1℃/hよりも遅いとMg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンの析出が進んで耐力が増加し、プレス成形および曲げ性を低下させるため下限とした。また、10℃/hよりも速いとMg−Si系およびMg−Zn系のGPゾーンの生成が不十分であり、BH性を低下させるため、10℃/hを上限とした。
また、巻き取り後、徐冷せず、熱処理を施すことにより同様な効果が得られる。この熱処理温度は、巻き取り温度と同様の理由により、40〜100℃とする。保持時間は1時間以下では、Mg−Zn系GPゾーンの生成が不十分であり、BH性を低下させる。また、保持時間が60時間を超えるとGPゾーンの析出が進んで耐力が増加し、加工性を低下させる。従って、保持時間は1〜60時間の範囲内から選択されるものとする。
【0023】
溶体化処理は、450℃未満の温度では熱間圧延板に生じているMg2SiおよびMgZn2が十分に固溶せず、粗大な析出物によりプレス成形性および曲げ性が低下し、さらに溶質量が少ないためBH性が不十分である。一方、溶体化温度が580℃を越えると結晶粒界近傍で部分的に融解し、成形性および曲げ性が著しく劣化する。従って、溶体化処理温度は450〜580℃とした。また、保持時間は300秒を超えると結晶粒径が大きくなり曲げ性を損なうため300秒以下とした。さらに、溶体化処理後、巻取りまでの冷却速度を5℃/s未満にすると、冷却中に結晶粒界に析出物を生じて曲げ性が低下する。そのため、溶体化処理温度からの冷却速度は5℃/s以上とした。
【0024】
さらに、このようなアルミニウム合金板の深絞り成形性および型かじり性を高めるために、表面に塗布するアルカリ可溶型潤滑被覆について以下に説明する。これは、膜厚を一定の条件とした粒状潤滑機能付与剤を含有するアルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜である。
アルカリ液に溶解・脱膜するアルカリ溶解型潤滑皮膜には、ポリエチレングリコール系、ポリプロピレングリコール系、ポリビニルアルコール系、アクリル系、ポリエステル系などがあるが、アルカリ溶解可能とするために、樹脂水分散体または水溶性樹脂でなければならない。
【0025】
ポリエチレングリコール系では、皮膜形成性の観点から、平均分子量3000以上のポリエチレングリコールおよび変性ポリエチレングリコールが挙げられる。変性ポリエチレングリコールとしては、イソシアネート変性ポリエチレングリコール、エポキシ変性ポリエチレングリコール等が挙げられる。
ポリプロピレングリコール系では、皮膜形成性の観点から、平均分子量3000以上のポリプロピレングリコールおよび変性ポリプロピレングリコールが挙げられる。変性ポリプロピレングリコールとしては、イソシアネート変性ポリプロピレングリコール、エポキシ変性ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
ポリビニルアルコール系では、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、スルホン酸ポリビニルアルコール、アセトアセチル基ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0026】
アクリル系としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸、イタコン酸の共重合体が挙げられる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸2ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどがある。共重合体としては、スチレン、アクリルアミド、酢酸ビニル、アクリルニトリル、などが挙げられる。
【0027】
ポリエステル系については、ポリエステルを構成する多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、1,6ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングルコールなどが挙げられ、多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0028】
本発明のアルミニウム合金板に被覆される潤滑樹脂皮膜の厚さは、0.5μm未満であると、プレス加工時の押圧による型かじりや傷の発生を防止できず、かつ摺動が加わるために要求される加工性を得ることができない。この効果は、厚さが5μmまでは顕著であるが、これを超えても効果は変わらない。従って、潤滑樹脂被膜の厚さは0.5〜5μmの範囲とする。また、本発明の潤滑樹脂皮膜は目的に応じて板の両面又は片面に被覆される。
【0029】
粒状潤滑機能付与剤は表面の摩擦係数を低減することによりさらに潤滑性を付与し,かじり等を防止してプレス加工性、しごき加工性を向上する作用を有している。潤滑機能付与剤としては、得られる皮膜に潤滑性能を付与するものであればよいが、ポレオレフィン系(ポリエチレン,ポリプロピレン等)、フッ素系(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン,ポリフッ化ビニル等)、パラフィン系、ステアリン酸系ワックスのうちの1種または2種以上からなるものが好ましい。
【0030】
潤滑機能付与剤の添加量は、質量%で2%未満では要求される潤滑効果が得られず、15%を越えると皮膜強度が低下したり、潤滑付与剤の剥離が発生するなどの問題があるため、2〜15%が好ましい。
シリカは皮膜強度、合金板との密着性を向上させる場合に添加する。シリカ粒子は、水分散性コロイダルシリカ、粉砕シリカ、気相法シリカなどいずれのシリカ粒子であっても良い。皮膜の加工性、耐食性発現を考慮すると、1次粒子径は2〜30nmで、2次凝集粒子径は100nm以下が好ましい。シリカの添加量としては質量%で1〜30%が好ましい。1%未満では、下層との密着性向上効果が得られない。30%を越えると皮膜の伸びが減少するため加工性が低下し型かじりが発生しやすくなる。
【0031】
本発明のアルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜中には上記以外に、意匠性を付与するための顔料や、導電性を付与する導電性添加剤、等を目的に応じて、皮膜性能を低下させない範囲内で添加することができる。
また、本発明において、さらなる耐食性や密着性を得るために下地にリン酸塩処理やクロメート処理を施してもかまわない。この場合のクロメート処理としては、電解型クロメート、反応型クロメートおよび塗布型クロメートのいずれの処理をあげることができる。クロメート皮膜は還元したクロム酸にシリカ、燐酸、親水性樹脂の中から少なくとも1種以上を含有したクロメート液を塗布、乾燥したものが好ましい。
【0032】
リン酸塩の付着量としては、リン酸塩として0.5〜3.5g/m2 の範囲が好ましい。クロメートの付着量としては、金属クロム換算で5〜150mg/m2 の範囲が好ましく、さらに好ましい範囲は10〜50mg/m2 である。5mg/m2 未満では優れた耐食性効果が得られず、150mg/m2 を超えると成形時にクロメート皮膜の凝集破壊が起こるなど、加工性を劣化させる。さらに、目的に応じ下地に酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、コバルトめっき処理、ニッケルめっき処理、シランカップリング処理無機シリケート処理を施してもかまわない。
【0033】
潤滑樹脂皮膜の形成方法としては、樹脂成分および粒状潤滑機能付与剤を含む水溶液また水分散体をロールコーター塗装法、スプレー法など従来公知の方法で塗布・焼付乾燥して形成することができる。
本発明の潤滑被覆アルミニウム合金板は潤滑皮膜のさらに上層に潤滑油または潤滑防錆油を塗布することができる。ただし、塗布する潤滑油または潤滑防錆油は、本発明の潤滑皮膜を膨潤または溶解させないものが望ましい。
このようにして得られたアルミニウム合金板は、極めてプレス成形性に優れ、かつ塗装焼付後に高強度が得られるため、自動車ボディー材料等に好適である。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例で説明する。
(実施例1)
表1に示す成分のアルミニウム合金を通常の方法で溶解、鋳造、熱間圧延および冷間圧延し、厚さ1mmの冷延板とした。これらの冷延板に550℃で10秒保持する溶体化処理を施した後、70℃まで20℃/sの冷却速度で冷却して巻取り、さらに冷却速度1℃/hで室温近傍まで冷却した。その後、7日間室温に放置して、引張試験、成形試験および曲げ試験をJISに準拠して実施した。BH性は、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力として評価した。成形性はエリクセン値で評価し、10.5以上を良好とした。曲げ性は、0.5tの内側半径で180°曲げを行い、その外側部分の割れを観察して、割れがないものを○、割れが見られるものを×として評価した。試験結果を表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表2より、本発明のアルミニウム合金板No.1〜11は、塗装焼付け後の耐力、成形性および曲げ性が良好である。一方、本発明以外の成分を有する比較例の合金No.12はMg量が、No.14はSi量が、No.16はZn量が本発明の範囲よりも少なく、Mg−Si系およびMg−Zn系GPゾーンの析出が不十分であるため成形性およびBH性が低い。また、No.13はMg量が本発明の範囲よりも多く、粗大なMg2 SiおよびMgZn2 が析出しており、No.15はSi量が、No.17はZn量が多く、それぞれ、粗大なMg2 Si、MgZn2 が析出している。そのため、これらの合金は、成形性および曲げ性が不十分であり、また、溶質の固溶量が減少しているためBH性が低下している。また、No.18はCu量が本発明の範囲よりも多いため、結晶粒界にCu系の析出物を生じて成形性、曲げ性およびBH性が低下している。No.19〜24の合金はMn、Cr、V、Zr、Fe、Ti、Bの添加量が多いため、粗大な析出物を生じて成形性および曲げ性が低下している。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例2)
表1の発明合金A3に550℃で10秒保持する溶体化処理を施して、20℃/sの冷却速度で冷却し、表3に示す条件で巻取り、室温まで冷却した。その後、これらのアルミニウム合金を7日間室温に放置し、実施例1と同様の試験を行った結果を表4に示す。製造No.25〜28の製造条件は本発明の範囲内であり、BH性、成形性および曲げ性が良好である。
一方、製造No.29は溶体化処理後の巻取り温度が低すぎるため、またNo.31は溶体化処理後の巻取り後の冷却速度が速すぎたため、Mg−Si系クラスターを生じて耐力が上昇し、BH性および曲げ性が不十分である。逆に、製造No.30は溶体化処理後の巻取り温度が高すぎるため、また製造No.32は溶体化処理後の巻取り後の冷却速度が遅すぎるため、Mg−Si系GPゾーンの析出量が多くなり、耐力が上昇し、成形性および曲げ性が低下している。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
(実施例3)
表1の発明合金A3に550℃で10秒保持する溶体化処理を施した後、20℃/sの冷却速度で冷却し、表5に示す条件で巻取り、熱処理を施した。これらのアルミニウム合金を7日間室温に放置し、実施例1と同様の試験を行った結果を表6に示す。製造No.33〜36の製造条件は本発明の範囲内であり、BH性、、成形性および曲げ性が良好である。
一方、製造No.37は熱処理温度が低すぎるため、また製造No.39は熱処理時間が短すぎるため、Mg−Si系クラスターを生じて耐力が上昇し、BH性および曲げ性が不十分である。逆に、製造No.38は熱処理温度が高すぎるため、製造No.40は熱処理時間が長すぎるため、Mg−Si系GPゾーンの析出量が多くなり、耐力が上昇して成形性および曲げ性が低下している。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
(実施例4)
表1の発明合金A3に表7に示した条件で溶体化処理を施した後冷却して、60℃で巻き取り、1℃/hで冷却した。これらのアルミニウム合金を7日間室温に放置し、実施例1と同様の試験を行った結果を表8に示す。製造No.41〜44の製造条件は、本発明の範囲内であるため、BH性、成形性および曲げ性が良好である。
一方、No.45は溶体化処理温度が低すぎ、Mg2 SiおよびMgZn2 の溶解が不十分であるため溶質元素の固溶量が少なく、BH性が不十分である。さらに、析出物により、成形性および曲げ性が低下している。逆にNo.46は溶体化処理温度が高すぎるために結晶粒界で部分的に溶解し、成形性および曲げ性が低下している。また、No.47は溶体化処理温度での保持時間が長すぎるために結晶粒径が粗大化し、成形性および曲げ性が低下している。No.48は、溶体化処理後、巻取り温度までの冷却速度が遅いため、冷却中に結晶粒界にMg2 SiおよびMgZn2 を生じて、曲げ性が低下している。ま
た、溶質の固溶量が少ないため成形性およびBH性が不十分である。
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
(実施例5)
表1の発明合金A1に550℃で0.5min保持する溶体化処理を施し、20℃/sで冷却して60℃で巻き取り、冷却速度1℃/hで室温近傍まで冷却した。このアルミニウム合金の表面には、基本的にクロメート未処理としたが、一部水準について、クロム還元率(Cr(VI)/全Cr)=0.4のクロム酸にコロイダルシリカを加えた塗布型クロメート液をロールコータにてクロム付着量が金属クロム換算で20mg/m2 となるよう塗布し、加熱乾燥させクロメート皮膜を形成させた。
【0048】
次に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリル樹脂の水溶液または水分散体に、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、合成パラフィンワックス、ステアリン酸カルシウムワックス、およびコロイダルシリカを表9に示す組成で混合し、バーコーター塗装して180℃の加熱炉を用いて合金板到達温度80℃で焼付乾燥し潤滑樹脂皮膜を形成させた。
なお、加工性評価の比較材として、上記のアルミニウム合金板にジョンソンワックス#122を塗布したものを用いた。これらのサンプルに対して深絞り性、型かじり性、加工後の樹脂カス発生状況および脱脂性の評価を行った。深絞り性は、円筒深絞り試験をポンチ直径50mm、ポンチ肩半径5mmの条件で実施し、限界絞り比(LDR)で評価した。
【0049】
型かじり性および加工後の樹脂カス発生状況は、円筒ポンチの油圧成形試験機により、ポンチ直径40mm、ポンチ肩半径4mm、ダイス直径43mm、ダイス肩半径4mm、シワ押さえ力1tonで成形試験を行って評価した。
型かじり性は側壁の外観を目視し、次の指標に依って評価した。
◎:成形可能で、合金板表面の欠陥無し
○:成形可能で、合金板表面の欠陥無し,摺動面わずかに変色
△:成形可能で、合金板表面にわずかにかじり疵発生
×:成形可能で、合金板表面に線状かじり疵多数発生
【0050】
また、加工後の樹脂カス発生状況を次の指標で評価した。
◎:カス発生無し
○:極わずかに樹脂カス発生
△:少し樹脂カス発生
×:樹脂カス多数発生
【0051】
脱脂性は、FC−4358脱脂液(日本パーカライジング製、pH=10.5に調整、温度70℃)を試験片に8秒間スプレーした後水洗し、乾燥後の皮膜残存率を赤外分光分析にて測定し、次の指標で評価した。
◎:皮膜残存無し
○:皮膜残存5%以下
△:皮膜残存5%超10%以下
×:皮膜残存10%超
【0052】
試験結果を表9に示す。No.49〜69の本発明の範囲内にあるアルカリ可溶型潤滑被覆アルミニウム合金板はいずれも、深絞り性および型かじり性に優れ、加工後に樹脂カスが発生し難く、脱脂性に優れている。一方、比較例No.70は膜厚が薄いため、型かじり性が不十分である。No.71は粒状潤滑機能付与剤の含有量が少ないため、型かじり性が不十分である。一方、No.72は粒状潤滑機能付与剤の含有量が多いため、加工後に樹脂カスが発生している。
【0053】
【表9】
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、極めて優れた塗装焼付け硬化性を有し、プレス成形および曲げなどの加工性にも優れた、自動車ボディ材料などに好適なアルミニウム合金板およびその製造方法を提供できる。本発明合金の適用により自動車重量の著しい軽量化が可能であり、産業上の価値のみならず、温室効果ガス排出量削減への貢献も極めて高い。
Claims (9)
- mass%で、
Mg:0.1〜1.5%未満、
Si:0.24〜2%、
Zn:2.5%超7%未満
を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。 - mass%で、
Cu:0.1〜2.5%
を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。 - mass%で、
Mn:0.03〜1.5%、
Cr:0.03〜0.5%、
V:0.03〜0.5%、
Zr:0.03〜0.5%、
Fe:0.03〜0.5%、
Ti:0.003〜0.2%、
B:0.003〜0.2%
の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。 - 粒状潤滑機能付与剤:2〜15質量%を含有する厚さ0.5〜5μmのアルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜を、両面又は片面の表面に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
- 前記アルカリ可溶型潤滑樹脂皮膜が、シリカ粒子:1〜30質量%を、さらに含有することを特徴とする請求項4に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
- 前記粒状潤滑機能付与剤が、ポリオレフィン系ワックス、フッ素系ワックス、パラフィン系ワックス、ステアリン酸系ワックスのうちの1種または2種以上からなることを特徴とする請求項4または5に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板を製造するにあたり、溶体化処理後、40〜100℃に冷却して巻取り、0.1〜10℃/hの冷却速度で冷却することを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用合金板の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板を製造するにあたり、溶体化処理後、40〜100℃に冷却して巻取り、40〜100℃の温度で、1〜20時間保持することを特徴とする、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記溶体化処理として、500〜580℃の温度範囲で300秒以下保持し、40〜100℃までの冷却速度を5℃/s以上とすることを特徴とする請求項7または8に記載の、塗装焼付け硬化前のエリクセン値が10.5以上、2%の引張歪を与えた後に170℃で20分の熱処理を行った後の耐力が211〜235MPaの塗装焼付け硬化およびプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法。
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