JPH09131568A - 成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法

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JPH09131568A
JPH09131568A JP35210895A JP35210895A JPH09131568A JP H09131568 A JPH09131568 A JP H09131568A JP 35210895 A JP35210895 A JP 35210895A JP 35210895 A JP35210895 A JP 35210895A JP H09131568 A JPH09131568 A JP H09131568A
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Noboru Hayashi
登 林
Hidetoshi Uchida
秀俊 内田
Hideo Yoshida
英雄 吉田
Hideo Ito
秀男 伊藤
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Honda Motor Co Ltd
Sumitomo Light Metal Industries Ltd
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Honda Motor Co Ltd
Sumitomo Light Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 成形性に優れ、塗装焼付硬化性が大きく、塗
装焼付け後200MPa以上の耐力が確保され、成形加工後の
製品面質が良好で且つ耐食性にも優れ、とくに自動車外
板用として好適なアルミニウム合金板を提供する。 【解決手段】 Si:0.9〜1.3 %、Mg:0.4〜0.6 %、
Mn:0.05 〜0.15%、Ti:0.01 〜0.1 %を含有し、残
部Alからなる組成を有し、不純物としてのFeを0.2
%以下、Cuを0.1 %以下に限定したアルミニウム合金
板の表面に、水分散ポリウレタン樹脂、ケイ素化合物粒
子および天然ワックスを含有する潤滑剤からなる潤滑剤
組成物の皮膜を形成する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、成形性、塗装焼付
硬化性に優れた表面処理アルミニウム合金板、詳しくは
潤滑剤組成物による表面処理が行われて良好なプレス成
形性を有し、とくに自動車外板用として好適なアルミニ
ウム合金板、および該アルミニウム合金板の製造方法に
関する。
【0002】
【従来の技術】自動車外板用アルミニウム合金として
は、Al−Mg−Zn−Cu合金、Al−Mg−Cu合
金などの5000系アルミニウム合金や6009合金、
6111合金、6016合金など6000系のAl−M
g−Si合金が提案され、一部では実用化も行われてい
る。6000系アルミニウム合金は、成形性は5000
系アルミニウム合金より幾分劣るものの自動車外板用と
して十分な成形特性を備えるとともに、塗装焼付硬化性
に優れているため、5000系アルミニウム合金よりさ
らに薄肉化、軽量化が期待できるが、成形加工後の製品
面質が5000系合金に比べて劣るという難点がある。
【0003】アルミニウム合金板の成形加工に伴って生
じる代表的な欠陥として、ストレッチャーストレインマ
ーク(以下SSマークという)、オレンジピール(以
下、肌荒れという)、リジングマークがある。SSマー
クは、塑性加工時の降伏点伸びが大きい材料に生じ易
く、とくに5000系合金で問題となることが多い。肌
荒れは材料の結晶粒径が粗大な場合に生じ易いことはよ
く知られている。リジングマークは、結晶粒径が肌荒れ
を起こさない程度に細かい場合であっても、その結晶学
的方位の近い結晶粒が群れをなしているとその群れの境
界で変形挙動が大きく異なることに起因して生じる表面
の凹凸である。
【0004】SSマークや肌荒れに対しては、それぞれ
レベラー矯正や結晶粒の微細化などの防止策が講じられ
ているが、リジングマークは、自動車外板のように成形
加工後より厳しい面質が要求される場合にのみ問題とさ
れるため、その防止策についてはこれまで十分な検討が
なされていなかった。6000系アルミニウム合金板を
自動車外板として成形加工する場合においてもリジング
マークの発生がしばしば観察され問題となっている。ま
た、6000系アルミニウム合金材では、塗装焼付け
後、腐食とくに糸状腐食(糸錆)を生じることがあり、
その対策も必要である。
【0005】発明者らは、先に、6000系アルミニウ
ム合金における上記の問題点を解消する合金材として、
成形加工性が優れるとともに、塗装焼付硬化能が大き
く、耐糸錆性および成形後の面質が優れた自動車外板用
アルミニウム合金板の製造方法を提案した。(特願平6
−338046号)当該アルミニウム合金板の製造方法
は、不純物としてのFeおよびCuの含有量を制限した
Al−Si−Mg系合金の鋳塊を均質化処理、熱間圧延
および冷間圧延後、530℃以上の温度に60s以内の
時間保持する溶体化処理および焼入れを施した後、室温
に24h以上保持し、ついで200〜250℃の温度域
に60s以下の時間保持する熱処理を行うことを特徴と
するものである。
【0006】この方法によれば、耐糸錆性などの耐食性
が良好で、かなりの成形特性および塗装焼付処理工程で
の硬化性が優れたアルミニウム合金板材が得られるが、
プレス成形に際し、プレス成形用の潤滑油を塗布して成
形加工を行った場合、鋼板に比べてなお十分な成形性が
得られないことも多く、鋼板に比べ、成形できる形状に
限度が生じ、成形加工性に対する厳しい要求を満足させ
るには、さらに改良の必要性が認められた。
【0007】一方、成形加工時、潤滑油を塗布すること
なく、連続成形を可能とするために、金属板の表面に、
水分散型ポリウレタン樹脂に対して、シリカ粒子および
ポリオレフィン系ワックスなどの潤滑剤を含有させた組
成物を塗布し、潤滑処理金属板とすることが提案されて
いる。(特開平5−255587号公報)この処理は、
鋼板に対しては十分な機能を発揮し、高速プレス成形を
可能とし、耐食性や塗装密着性にも優れた潤滑性皮膜を
形成するが、アルミニウム合金板に対しては必ずしも十
分な結果が得られない場合が多い。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の潤滑
油を塗布することなしに成形加工を可能とする潤滑処理
皮膜に着目して、種々の処理組成物により潤滑処理した
6000系アルミニウム合金板の成形特性について実
験、検討を行うとともに、特願平6−338046号で
開示された特定の鋳塊均質化処理、熱間圧延、冷間圧
延、溶体化処理および最終熱処理の組合せによる自動車
外板用6000系アルミニウム合金板の製造方法を改良
して、さらに優れた成形特性を得るために、当該製造方
法と潤滑処理との組合せについても検討した結果として
なされたものであり、その目的は、一層優れた成形加工
特性をそなえ、塗装焼付処理における硬化性が大きく、
成形後の製品面質にも優れた成形性、塗装焼付硬化性に
優れた表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法
を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めの本発明による成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面
処理アルミニウム合金板は、Si:0.9〜1.3%、
Mg:0.4〜0.6%、Mn:0.05〜0.15
%、Ti:0.01〜0.1%を含み、残部Alと不可
避的不純物からなる組成を有し、不純物としてのFeを
0.2%以下、Cuを0.1%以下に制限したアルミニ
ウム合金の表面に、水分散型ポリウレタン樹脂60〜9
0%、ケイ素化合物粒子5〜20%を含有し、天然ワッ
クス、ポリオレフィン系ワックスおよびフッ素樹脂粉末
からなる潤滑剤を固形分として5〜30%含む潤滑剤皮
膜を形成してなるアルミニウム合金板であって、プレス
成形後に180℃で1hの塗装焼付処理を行った場合の
耐力が200MPa以上であることを構成上の特徴とす
る。
【0010】本発明の成形性、塗装焼付硬化性に優れた
表面処理アルミニウム合金板の製造方法は、Si:0.
9〜1.3%、Mg:0.4〜0.6%、Mn:0.0
5〜0.15%、Ti:0.01〜0.1%を含有し、
残部Alおよび不可避的不純物からなり、不純物として
のFeを0.2%以下、Cuを0.1%以下に限定した
アルミニウム合金の鋳塊を、500℃以上の温度で6h
以上の時間溶体化処理した後、450℃以下の温度に冷
却して熱間圧延を開始し、該熱間圧延を200〜350
℃の温度範囲で終了して70%以上の冷間圧延を行い、
該冷間圧延に引き続いて530℃以上の温度で60s以
内の時間保持する溶体化処理、焼入れ処理を施した後、
表面にクロメート皮膜を設け、該クロメート皮膜上に水
分散型ポリウレタン樹脂を含む潤滑剤組成物の皮膜を形
成し、ついで200〜240℃の温度範囲で60s以内
の時間保持する熱処理を行うことを第1の特徴とする。
【0011】また、上記組成のアルミニウム合金の鋳塊
を、500℃以上の温度で6h以上の時間均質化処理し
た後、450℃以下の温度に冷却して熱間圧延を開始
し、該熱間圧延を200〜350℃の温度範囲で終了
し、350〜420℃の温度範囲での中間焼鈍後、加工
度70%以上の冷間圧延を行い、該冷間圧延に引き続き
530℃以上の温度に60s以内保持する溶体化処理お
よび焼入れを施した後、表面にクロメート皮膜を設け、
該クロメート皮膜上に水分散型ポリウレタン樹脂を含有
する潤滑剤組成物の皮膜を形成し、ついで200〜24
0℃の温度範囲で60s以下の時間熱処理することを第
2の特徴とする。
【0012】さらに、潤滑剤組成物が、水分散型ポリウ
レタ樹脂60〜90%、ケイ素化合物粒子5〜20%を
含有し、天然ワックス、ポリオレフィン系ワックスおよ
びフッ素樹脂粉末からなる潤滑剤を固形分として5〜3
0%含有してなり、当該組成物をクロメート皮膜上に塗
布して、皮膜形成を行うことを第3の特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明のアルミニウム合金におけ
る合金成分の意義およびそれらの限定理由について説明
すると、必須成分のSiは、Mgは共存してMg2 Si
を形成して合金の強度を高める。好ましい含有範囲は
0.9〜1.3%であり、0.9%未満では十分な成形
性が得られない場合があり、1.3%を越えて含有する
と、合金のプレス加工時の耐力が高く、成形性および形
状凍結性が劣化する。Mgの好ましい含有量は0.4〜
0.6%の範囲であり、0.4%未満では塗装焼付け時
の加熱で十分な強度が得られず、0.6%を越えると、
溶体化処理後または最終熱処理後の耐力が高くなり、成
形性および形状凍結性が劣化し易い。
【0014】Mnは、合金の結晶粒を微細化し成形加工
時の肌荒れを防止するのに役立つ。好ましい含有範囲は
0.05〜0.15%であり、0.05%未満ではその
効果が小さく、0.15%を越えて添加すると、粗大な
金属間化合物が増加するため、成形性が低下する。Ti
も合金組織の微細化に効果があり、0.01〜0.1%
の範囲で添加するのが好ましい。0.01%未満ではそ
の効果が小さく、0.1%を越えると、粗大な金属間化
合物が増加するため、成形性がわるくなる。
【0015】本願発明のアルミニウム合金においては、
不純物としてのCuを0.1%以下、Feを0.2%以
下に限定することが重要である。Cuが0.1%を越え
ると、耐食性が低下し、とくに糸状の腐食(糸錆)が生
じ易くなる。Feが0.2%を越えて含有されると、成
形性がわるくなる。
【0016】本発明のアルミニウム合金板の製造条件に
ついて説明すると、半連続鋳造により前記の合金組成か
らなるアルミニウム合金の鋳塊を製造し、鋳塊を500
℃以上、合金の溶融点未満の温度範囲で6h以上の時間
均質化処理する。均質化処理温度が500℃より低い
と、鋳塊偏析の除去、合金組織の均質化が十分でなく、
また強度に寄与するMg2 Si成分の固溶が不十分とな
り、成形性が劣る場合がある。均質化処理後、均質化処
理温度から450℃以下の温度まで冷却し、熱間圧延を
開始する。均質化処理後鋳塊を室温まで冷却し熱間圧延
温度に加熱した場合は、加熱時にMg2 Siの粗大析出
物が生成して溶体化処理での固溶が困難となり成形性低
下の原因となる。
【0017】熱間圧延は好ましくは350〜450℃の
温度範囲で開始し、200〜350℃の温度範囲で終了
する。熱間圧延の開始温度が450℃を越えると、熱間
圧延時の組織が大きく成長して冷間圧延および溶体化処
理後の合金板に結晶学的方位の近いものが群れをなし易
いため、プレス加工後の板材表面にリジングマークが生
じ易い。開始温度が350℃より低いと材料の変形抵抗
が大きく、熱間圧延を350℃を越える温度で終了する
と、圧延後に2次再結晶が起こり易く組織が粗大化して
リジングマーク発生の原因となる。終了温度が200℃
未満では、水溶性圧延油のステンが残り易く板材の表面
品質を低下させる。
【0018】熱間圧延終了後、冷間圧延を行うが、熱間
圧延終了後、冷間圧延前に350〜420℃の温度範囲
で中間焼鈍を行ってもよく、中間焼鈍を行うことによ
り、熱間圧延組織が分解され一層良好な成形性が得られ
る。中間焼鈍を省略した場合にも、実用上問題のない特
性を得ることが可能であり、中間焼鈍を行うか行わない
かは、製造される板材の用途、得るべき特性などに応じ
て決定される。
【0019】ついで、加工度70%以上の冷間圧延を行
って所定の板厚とした後、溶体化処理および焼入れ処理
を施す。溶体化処理直前に行われる冷間圧延の加工度が
70%未満では、溶体化処理後の結晶粒が粗大になり易
く肌荒れが生じる場合がある。また熱間圧延組織の分解
が十分に行われず、リジングマークが生じ易くなり成形
性を低下させる原因となる。
【0020】溶体化処理は、530℃以上の温度、好ま
しくは530〜580℃に加熱し、60s以内の時間保
持することにより行われる。加熱温度が530℃より低
いと、析出物の固溶が不十分となり所定の強度、成形性
が得られない。所定の強度、成形性が得られるとしても
きわめて長時間の熱処理が必要となり工業的に好ましく
ない。保持時間は60s以内が好ましく、保持時間が6
0sを越えると生産性が低下し工業的に好ましくない。
昇温速度はとくに規定しないが、2℃/s以上が好まし
い。焼入れ処理における冷却速度もとくに規定しない
が、5℃/s以上の冷却速度で100℃以下の温度に冷
却し焼入れを行うのが好ましい。冷却速度が5℃/s未
満では結晶粒界に粗大な化合物が析出して延性が低下す
る傾向がある。
【0021】焼入れ処理後、合金板の表面を公知の方法
でクロメート処理し、好ましくはクロム量5〜50mg
/m2 のクロメート皮膜を設ける。クロメート皮膜はそ
の上に形成される潤滑皮膜とアルミニウム合金板との密
着性を向上させ、潤滑皮膜とともにアルミニウム合金板
にプレス成形性、耐食性を与える。クロム量が少ないと
耐食性が十分でなく、多過ぎると密着性が低下し易い。
【0022】クロメート皮膜上に水分散型ポリウレタン
樹脂を含有する潤滑剤組成物を塗布し、潤滑皮膜を形成
する。潤滑剤組成物の好ましい組成は、水分散型ポリウ
レタン樹脂60〜90%、ケイ素化合物粒子5〜20%
を含み、天然ワックス、ポリオレフィン系ワックスおよ
びフッ素系樹脂粉末からなる潤滑剤を固形分として5〜
30%含有してなる。潤滑剤組成物の塗布量は、乾燥質
量で0.5〜4.0g/m2 の範囲が好ましく、0.5
g/m2 未満では潤滑性が不十分となり、4.0g/m
2 を越えるとプレス成形時の皮膜の追従性がわるくな
る。さらに好ましい皮膜質量は1.0〜3.0g/m2
の範囲である。
【0023】水分散型ポリウレタン樹脂は、ポリエステ
ルポリオール、ポリエーテルオポリオールなどのポリオ
ール芳香族または脂肪族、脂環族ジイソシアネートから
なるポリウレタンをジオール、ジアミンのように2個以
上の活性水素をもつ低分子量化合物により鎖伸長したポ
リウレタン樹脂を水中に分散したもの、もしくは溶解さ
せたもので、前記特開平5−255578号公報に記載
されている公知のものが使用できる。
【0024】ケイ素化合物粒子は、本発明の表面処理ア
ルミニウム合金板の耐食性向上に効果があり、平均粒径
が0.05〜4.0μmのものを使用するのが好まし
く、コロイダルシリカ、シリカ粉末などが使用できる。
潤滑剤は、潤滑性向上のために配合するものであり、好
ましくは50〜90℃の融点を有する天然ワックス、融
点が90℃以上のポリオレフィン系ワックスおよびフッ
素系樹脂粉末を混合したものが使用される。潤滑剤中に
おける天然ワックス、ポリオレフィン系ワックスおよび
フッ素系樹脂粉末の混合割合は、潤滑剤1に対してポリ
オレフィン系ワックスとフッ素系樹脂粉末の合計重量が
0.3〜0.7、好ましくは0.4〜0.6の範囲とす
る。また、ポリオレフィン系ワックスおよびフッ素系樹
脂粉末は、平均粒径0.1〜4.0μmのものを使用す
るのが好ましい。
【0025】潤滑皮膜形成に続いて最終熱処理を行う。
最終熱処理は、潤滑皮膜を硬化し、成形加工後の塗装工
程における塗装焼付け硬化性を向上させるために行うも
のであり、潤滑皮膜形成後の材料を、200〜240℃
の温度に60s以内の時間保持する。加熱温度が200
℃未満では塗装焼付硬化性の向上効果が十分でなく、2
40℃を越える温度または60sを越える時間では、成
形加工中の皮膜の剥離が生じ易くなり、合金材の耐力が
上昇するため成形加工性が害される。
【0026】本発明においては、強度、成形性および耐
食性などの特性を総合的に満足させるための材料組成を
選択し、特定条件の鋳塊均質化処理、熱間圧延、冷間圧
延、溶体化処理と潤滑処理および最終熱処理を組み合わ
せることにより、成形性良好で形状凍結性に優れ、成形
加工後の塗装焼付け工程での硬化性を向上させ、耐力を
高めて優れた耐デント性を与え、肌荒れの生じない微細
な結晶粒とし且つ結晶学的方位をランダムにしてリジン
グマークなどの表面欠陥をなくして、成形加工後の製品
面質を優れたものとし、とくに自動車外板用として好適
なAl−Si−Mg系アルミニウム合金板材を得るもの
である。
【0027】また、本発明においては、アルミニウム合
金板表面にクロメート皮膜を設け、クロメート皮膜上に
水分散型ポリウレタン樹脂、ケイ素化合物粒子および潤
滑剤からなる潤滑皮膜を形成し、とくに潤滑剤中に天然
ワックスを含有させることにより、潤滑処理されたアル
ミニウム合金板の耐食性が向上し、高速プレス成形時に
アルミニウム合金板の温度が上昇しても、低温域から高
温域までの全ての温度域においてプレス成形時の潤滑性
を高めることができる。
【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説
明する。 実施例1 表1に示す組成のアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造
により製造し、得られた鋳塊を表面切削後、545 ℃で14
h 均質化処理し、400 ℃まで降温して熱間圧延を開始
し、終了温度240 ℃で、板厚4.8mm まで圧延した。つい
で、バッチ炉中において380 ℃で1hの中間焼鈍を行い、
冷間圧延して厚さ1mm の板材とした。この板材につい
て、555 ℃の温度に30s 間保持する溶体化処理を施し、
焼入れ処理後、脱脂、洗浄し、市販の反応型クロメート
処理液を用いて、クロム量20mg/m2 のリン酸クロメート
皮膜を生成させた。さらに、クロメート皮膜上に、水分
散型ポリウレタン樹脂70%、ケイ素化合物粒子10%、ラ
ノリンワックス、ポリエチレン粉末および四フッ化エチ
レン樹脂粉末を重量比で4:3:3 の割合で混合してなる潤
滑剤を固形分として20%含有する潤滑剤組成物を乾燥重
量で2.0g/m2 塗布し、この潤滑皮膜の焼付け処理とし
て、220 ℃で20s の熱処理を行った。
【0029】得られたアルミニウム合金板材を試験材と
して、引張試験およびエリクセン試験を行い、プレス加
工のシミュレーションとして2%の引張変形を行って変
形後の表面状況( 製品面質) を観察した。また、引張変
形後の板材に対して、180 ℃で1hの塗装焼付相当の熱処
理を行って引張性能を測定するとともに、引張変形後の
板材に対して、市販のリン酸亜鉛処理液を用いて塗装下
地処理した後、市販の自動車用塗料を使用して塗装を行
い、180 ℃で1h塗装焼付け処理した。塗装した試験材
に、カッターナイフで板材の表面に達するクロスカット
を施し、35℃の5%NaCl溶液に24h 浸漬し、ついで相対
湿度80%のキャビネット中に50℃の温度で1000h 放置し
た後、クロスカット部における糸状腐食の有無を観察し
た。
【0030】これらの試験結果を表2に示す。表2にみ
られるように、本発明に従う試験材No.1、No2 はいずれ
も、エリクセン値が高く成形性に優れ、成形加工、塗装
焼付硬化性が大きく、200MPa以上の優れた耐力を示して
いる。成形加工後の製品面質も良好で、肌荒れやリジン
グマークなどは全く認められず、糸錆の発生も観察され
なかった。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】比較例1 表3に示す組成のアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造
により製造し、得られた鋳塊を表面切削後、実施例1と
同じ工程で処理して試験材を作製し、試験材について、
実施例1と同一の条件で、引張試験、エリクセン試験、
2%の引張変形後の表面状態の観察、180 ℃で1h熱処理
後の引張性能の測定、塗装後の耐食性評価を行った。結
果を表4に示す。なお、表3において、本発明の条件を
外れたものには下線を付した。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】表4に示されるように、試験材No.3はSi
の含有量が多いため、成形時の耐力が高く成形性が劣
る。試験材No.4はMg量が多いため成形性が劣る。試験
材No.5および試験材No.6は、それぞれMnおよびTi量
が多いため、成形性が劣っている。試験材No.7および試
験材No.8は、それぞれSiおよびMgの含有量が少ない
ため、塗装焼付け後の耐力が低く耐デント性が劣る。試
験材No.9はMnの含有量が低く、結晶粒微細化が十分で
ないため、成形加工で肌荒れが生じた。試験材No.10 は
Ti量が少なく、また試験材No.11 はFeの含有量が多
過ぎるため、いずれも成形性が不十分である。試験材N
o.12 はCu量が限定範囲を越えているため、耐糸錆性
が劣っている。
【0037】実施例2 Si1.2 wt%、Mg0.4wt %、Mn0.05wt%、Ti0.02
wt%を含有し、Fe0.1wt %、Cu0.02wt%を含み、残
部Alおよびその他の不可避的不純物からなるアルミニ
ウム合金( 表1の合金No.1) の鋳塊を半連続鋳造により
製造し、得られた鋳塊を表面切削後、550 ℃で10h の均
質化処理を行い、410 ℃まで降温して、410 ℃で熱間圧
延を開始し、235 ℃で熱間圧延を終了した。ついで360
℃で1hの中間焼鈍を行い、または中間焼鈍を行うことな
く、加工度80%の冷間圧延を施し、厚さ1mm の板材を得
た。この板材について、中間焼鈍を行ったものは540 ℃
の温度に20s 間保持、中間焼鈍を行わなかったものは56
0 ℃の温度に20s 間保持する溶体化処理を施し、焼入れ
後、実施例1と同様のクロメート処理を行い(クロム量
20mg/m2)、クロメート皮膜上に、水分散型ポリウレタン
樹脂80%、ケイ素化合物粒子10%および実施例1と同一
の潤滑剤を固形分として10%含有する潤滑剤組成物を乾
燥質量で2.5mg/m2塗布したのち、潤滑皮膜の焼付け処理
として230 ℃で10s の最終熱処理を行った。
【0038】得られた板材を試験材として、実施例1と
同様、引張試験およびエリクセン試験を行い、プレス加
工のシミュレーションとして2%の引張変形を行って製
品面質を観察した。また、引張変形後、塗装焼付処理に
相当する180 ℃で1hの熱処理を行い、引張性能を測定し
た。さらに、引張変形後、実施例1と同様に塗装処理
し、実施例1と同一の条件で耐食性を評価した。結果を
表5に示す。表5に示すように、本発明に従う試験材N
o.13 (中間焼鈍有り)、試験材No.14 (中間焼鈍無
し)は、硬化性が高く、200MPa以上の優れた耐力をそな
えており、塗装後の耐食性試験においても糸錆の発生は
全く認められず、優れた耐食性を示した。
【0039】
【表5】
【0040】比較例2 実施例2と同一組成のアルミニウム合金鋳塊を半連続鋳
造により製造し、得られた鋳塊を表面切削後、表5に示
す製造工程に従って処理し、厚さ1mm の板材とした。こ
れらの板材について、実施例2と同様のクロメート処理
を行って、クロメート皮膜を形成したのち、クロメート
皮膜上に、表6に示す配合比で混合してなる実施例2と
同一の潤滑剤組成物を塗布し、皮膜の焼付け処理として
表6に示す条件で最終熱処理を行い、得られた板材につ
いて、実施例2と同様の試験を行った。試験結果を表7
に示す。なお、表5、表6において、本発明の条件を外
れたものには下線を付した。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】 《表注》潤滑剤組成物 水分散ポリウレタン:A ケイ素化合物粒子:B 潤滑剤:C
【0043】
【表8】 《表注》試験材B は、引張変形後、表面にリジングマークが生じた。
【0044】表8に示されるように、試験材A は、均質
化処理温度が低過ぎてMg2 Si成分の固溶が不十分と
なり、塗装焼付硬化性が小さく、200MPa以上の耐力が得
られない。試験材B は、熱間圧延の開始温度が高過ぎる
ため、熱間圧延時の組織成長が大きく、成形加工後リジ
ングマークが生じた。試験材C は溶体化処理前の冷間圧
延加工度が小さいため、熱間圧延組織の分解が十分に行
われず、成形性が劣っている。試験材D は溶体化処理温
度が低いため、成形性が劣り、また析出物の固溶が不十
分となり、塗装焼付け後十分な強度が得られない。試験
材E は潤滑剤組成物を塗布しないため、成形性が劣る。
試験材F は潤滑材組成物の配合比率が不適当なため、成
形性が劣る。試験材G は最終熱処理の温度が低いため、
塗装焼付硬化性が十分でなく200MPa以上の耐力が得られ
ていない。試験材H は最終熱処理の温度が高いため、ま
た試験材I は最終熱処理の時間が長過ぎるため成形性が
わるい。
【0045】
【発明の効果】以上のとおり、本発明によれば、成形性
に優れ、塗装焼付硬化性が大きく塗装焼付け後200MPa以
上の高い耐力が確保でき、成形加工後の製品面質が良好
で且つ耐食性にも優れた表面処理アルミニウム合金板が
得られる。当該アルミニウム合金板は、とくに自動車外
板用として好適に使用できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C22C 21/02 C22C 21/02 C22F 1/04 C22F 1/04 L C23C 22/24 C23C 22/24 //(C09D 175/04 123:00 127:12) (72)発明者 吉田 英雄 東京都港区新橋5丁目11番3号 住友軽金 属工業株式会社内 (72)発明者 伊藤 秀男 東京都港区新橋5丁目11番3号 住友軽金 属工業株式会社内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Si:0.9〜1.3%(重量%、以下
    同じ)、Mg:0.4〜0.6%、Mn:0.05〜
    0.15%、Ti:0.01〜0.1%を含有し、残部
    Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し、不純物
    としてのFeを0.2%以下、Cuを0.1%以下に制
    限したアルミニウム合金板の表面に、水分散型ポリウレ
    タン樹脂60〜90%、ケイ素化合物粒子5〜20%を
    含有し、天然ワックス、ポリオレフィン系ワックスおよ
    びフッ素樹脂粉末からなる潤滑剤を固形分として5〜3
    0%含む潤滑皮膜を形成してなるアルミニウム合金板で
    あって、プレス成形後に180℃で1hの塗装焼付処理
    を行った場合の耐力が200MPa以上であることを特
    徴とする成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処理アル
    ミニウム合金板。
  2. 【請求項2】 重量%で、Si:0.9〜1.3%、M
    g:0.4〜0.6%、Mn:0.05〜0.15%、
    Ti0.01〜0.1%を含み、残部Alと不可避的不
    純物からなり、不純物としてのFeを0.2%以下、C
    uを0.1%以下に限定したアルミニウム合金の鋳塊
    を、500℃以上の温度で6h以上の時間均質化処理し
    た後、450℃以下の温度に冷却して熱間圧延を開始
    し、該熱間圧延を200〜350℃の温度範囲で終了し
    て加工度70%以上の冷間圧延を行い、該冷間圧延に引
    き続き530℃以上の温度に60s以内保持する溶体化
    処理および焼入れを施した後、表面にクロメート皮膜を
    設け、該クロメート皮膜上に水分散型ポリウレタン樹脂
    を含有する潤滑剤組成物の皮膜を形成し、ついで200
    〜240℃の温度範囲で60s以下の時間熱処理するこ
    とを特徴とする成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処
    理アルミニウム合金板の製造方法。
  3. 【請求項3】 重量%で、Si:0.9〜1.3%、M
    g:0.4〜0.6%、Mn:0.05〜0.15%、
    Ti0.01〜0.1%を含み、残部Alと不可避的不
    純物からなり、不純物としてのFeを0.2%以下、C
    uを0.1%以下に限定したアルミニウム合金の鋳塊
    を、500℃以上の温度で6h以上の時間均質化処理し
    た後、450℃以下の温度に冷却して熱間圧延を開始
    し、該熱間圧延を200〜350℃の温度範囲で終了
    し、350〜420℃の温度範囲での中間焼鈍後、加工
    度70%以上の冷間圧延を行い、該冷間圧延に引き続き
    530℃以上の温度に60s以内保持する溶体化処理お
    よび焼入れを施した後、表面にクロメート皮膜を設け、
    該クロメート皮膜上に水分散型ポリウレタン樹脂を含有
    する潤滑剤組成物の皮膜を形成し、ついで200〜24
    0℃の温度範囲で60s以下の時間熱処理することを特
    徴とする成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処理アル
    ミニウム合金板の製造方法。
  4. 【請求項4】 潤滑剤組成物が、水分散型ポリウレタン
    樹脂60〜90%、ケイ素化合物粒子5〜20%を含有
    し、さらに天然ワックス、ポリオレフィン系ワックスお
    よびフッ素樹脂粉末からなる潤滑剤を固形分として5〜
    30%含有してなることを特徴とする請求項2〜3記載
    の成形性、塗装焼付硬化性に優れた表面処理アルミニウ
    ム合金板の製造方法。
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