本発明のコイル内蔵基板(以下、基板ともいう。)を、添付図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。図1は本発明のコイル内蔵基板の実施の形態の一例を示す図であり、図1(a)は本発明のコイル内蔵基板の断面図(図1(b)に示すB−B’線で切断した縦断面図)、図1(b)は図1(a)に示すA−A’線で切断した断面図(横断面図)である。これらの図において、1は絶縁層、2はフェライト磁性体層、3は平面コイル導体、4は伝熱用導体層、5は放熱用導体層、6は配線層である。
図1に示す例においては、配線層6として、絶縁層1の外表面(基板の上面および下面)にはIC等の半導体チップやチップ部品が搭載される搭載用電極6bおよび外部電気回路と電気的に接続される電極パッド6dが形成され、絶縁層1の内部には内部配線層6aが形成されている。そして、内部配線層6a,搭載用電極6b,電極パッド6dおよび平面コイル導体3は、絶縁層1あるいはフェライト磁性体層2を貫通した貫通導体6cを介して互いに接続されている。
本発明のコイル内蔵基板は、配線層6が形成された一対の絶縁層1・1およびこの一対の絶縁層1・1に挟持されたフェライト磁性体層2からなる基板と、フェライト磁性体層2内に形成された平面コイル導体3とを具備するコイル内蔵基板であって、平面視で平面コイル導体3の外側から基板の側面にかけて伝熱用導体層4が形成され、伝熱用導体層4は基板の側面に形成された放熱用導体層5に接続されていることを特徴とするものである。
本発明のコイル内蔵基板によれば、このような構成により、平面コイル導体3において発生した熱を伝熱用導体層4を介して放熱用導体層5から外部へ放熱することができる。その結果、搭載用電極6bに搭載したICなどの電子部品が平面コイル導体3から発生する熱によって誤動作してしまうことを防止することができる。
本発明のコイル内蔵基板は、図1に示すように、上記構成において、平面コイル導体3の外周部に近接した複数の伝熱用導体層4が、平面コイル導体3の外周に沿って配置されていることが好ましい。この構成により、平面コイル導体3の外側の領域において、伝熱用導体層4が、平面コイル導体3の周りに発生した磁束が平面コイル導体3の外側の領域を通過するのを妨げることがないので、平面コイル導体3によるインダクタンスを低下させることなく平面コイル導体3において発生した熱を伝熱用導体層4を介して放熱用導体層5から外部へ放熱することができる。
このときの伝熱用導体層4と平面コイル導体3との距離は、平面コイル導体3において発生した熱をより効率よく伝熱用導体層4へ伝えるためにはできるだけ近い方が好ましいが、両者の間の電気的絶縁性を考慮すると、具体的には、15μm程度以上であることが好ましい。
また、伝熱用導体層4の形状は、平面コイル導体3による磁束の通過領域をできるだけ小さくしないためには、図1に示すような平面コイル導体3から基板の側面に向けて細長い形状のものがよいが、図2に図1と同様の断面図で示すように、放熱用導体層5に向けてその幅が広くなるような形状とすると、放熱用導体層5への伝熱がより効率よく行なわれるので好ましい。このとき、平面コイル導体3による発生する磁束の密度は平面視で基板の内部より外周部の方が粗になるので、伝熱用導体層4の幅を広げることによる磁束の通過領域の減少への影響は小さくてすむ。この場合の伝熱用導体層4の幅の広がりは、最大でも両側に45°の角度で広がるようにすれば、磁束の通過領域の減少を抑えつつ十分な熱伝導の向上が得られるので好ましい。
伝熱用導体層4の幅は、大きい方が放熱用導体層への伝熱効率がよいが、大きくなるにつれて磁束の通過を妨げることとなってしまうので、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、平面コイル導体3のインダクタンスを低下させることなく平面コイル導体3において発生した熱を放熱用導体層5へ伝導させるには、伝熱用導体層4の平面コイル導体3に近接した部分の長さの総和が、伝熱用導体層4の平面コイル導体3に近接した部分をつないでできる平面コイル導体3を取り囲む線(図1に二点鎖線で示す仮想線R)の長さの8〜30%程度であるのが好ましい。
本発明のコイル内蔵基板を作製する場合に、矩形状のコイル内蔵基板を縦横に複数列配置して、いわゆる多数個取り配線基板の形態にして多数のコイル内蔵基板を効率よく容易に作製しようとする場合は、平面コイル導体3は平面視で最外周がフェライト磁性体層2の形状(基板の外形)に沿った矩形状で形成されるのが好ましい。このようにすることで、コイル内蔵基板の外寸を変えずに平面コイル導体3の長さを最大限長く形成することができるため、平面コイル導体3の長さに比例するインダクタンス値を大きいものとすることができる。
このように平面コイル導体3が矩形状の基板の外形に沿って矩形状に形成される場合は、図3に図1と同様の断面図で示すように、伝熱用導体層4を矩形状に形成された平面コイル導体3の角部の外側から矩形状の基板の角部の放熱用導体層5へと引き出すように設けるのが好ましい。平面コイル導体3の角部の外周における磁束密度は他の領域に比較して粗となるので、伝熱用導体層4によって磁束の通過領域を減少させることの影響は小さくてすむ。同様の理由で、矩形状の平面コイル導体3の角部に配置する伝熱用導体層4のみを他の位置に配置した伝熱用導体層4よりも幅の広いものとしてもよい。また、この場合も上述した理由により、図3に示すように、基板の角部の放熱用導体層5に向けてその幅が広くなるような形状とするのがより好ましい。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図4に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、伝熱用導体層4が、平面コイル導体3をその平面コイル導体3の外周に沿って取り囲む形状であることが好ましい。これにより、平面コイル導体3において発生した熱を、伝熱用導体層4により平面コイル導体3の外側の全周にわたって受け取ることができるので、より効率よく受け取り、より効率よく放熱用導体層5を介して基板の外部へ放熱することができる。さらに、平面コイル導体3からノイズが放射されたとしても、伝熱用導体層4が平面コイル導体3を取り囲む形状であることから、伝熱用導体層4がシールドとして機能してノイズを吸収することとなるので、平面コイル導体3から放射されたノイズによる配線層6への影響が抑えられ、搭載用電極6bに搭載されるICをより安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることができる。
この場合、伝熱用導体層4は、平面コイル導体3との間に磁束が通過できるような間隔を設けて配置される。この間隔は、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は0.1mm以上とすればよい。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図5に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、伝熱用導体層4が、端部が平面コイル導体3の外周部に近接した複数の突出部4aを有することが好ましい。これにより、平面コイル導体3により近い複数の突出部4aにおいてより効率よく平面コイル導体3から発生した熱を受け取ることができるので、伝熱用導体層4および放熱用導体層5を介してより効率よく外部へ放熱することができる。
このときの伝熱用導体層4の突出部4aの端部と平面コイル導体3との距離は、平面コイル導体3において発生した熱をより効率よく伝熱用導体層4へ伝えるためにはできるだけ近い方が好ましいが、両者の間の電気的絶縁性を考慮すると、具体的には、50μm程度以上であることが好ましい。
突出部4aの幅は、上述した複数の伝熱用導体層4を配置した場合の伝熱用導体層4の幅と同様の理由で、突出部4aの平面コイル導体3に近接した部分の長さの総和が、突出部4aの平面コイル導体3に近接した部分をつないでできる平面コイル導体3を取り囲む線(図5に示す二点鎖線の仮想線R)の長さの8〜30%程度であるのが好ましい。
突出部4aは、図6に図1と同様の断面図で示すように、放熱用導体層5に向けてその幅が広くなるような形状とすると、伝熱用導体層4の外周部および放熱用導体層5への伝熱がより効率よく行なわれるので好ましい。このとき、平面コイル導体3による磁束の密度は平面視で基板の内部より外周部の方が粗になるので、突出部4aの幅を広げることによる磁束の通過領域の減少への影響は小さくてすむ。この場合の広がりは、最大でも両側に45°の角度で広がるようにすれば、磁束の通過領域の減少を抑えつつ十分な熱伝導の向上が得られるので好ましい。
また、伝熱用導体層4の突出部4aは、平面コイル導体3が矩形状の基板の外形に沿って矩形状に形成される場合は、図7に図1と同様の断面図で示すように、矩形状に形成された平面コイル導体3の角部の外側に設けるのが好ましい。平面コイル導体3の角部の外周における磁束密度は他の領域に比較して粗となるので、突出部4aによって磁束の通過領域を減少させることの影響は小さくてすむ。同様の理由で、平面コイル導体3の角部の外側の突出部4aのみを他の部位に配置する突出部4aよりも大きくしてもよい。この場合も上述した理由により、突出部4aを放熱用導体層5側に向けてその幅が広くなるような形状とするのがより好ましい。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図8および図9に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、伝熱用導体層4が、平面コイル導体3の外周部に近接して形成され、平面コイル導体3の外周に沿って配置された複数の開口部4bを有することが好ましい。これにより、平面コイル導体3により近い位置において平面コイル導体3の外側の全周にわたって熱を受け取ることができるとともに、複数の開口部4bにより平面コイル導体3の周りに発生した磁束が平面コイル導体3の外側の領域を通過するのを妨げることがないので、平面コイル導体3のインダクタンスを低下させることなく、平面コイル導体3から発生した熱をより効率よく外部へ放熱することができる。
また、平面コイル導体3に近接した位置に伝熱用導体層4が位置するので、平面コイル導体3の最外周の導体周りに沿った小さい磁束が発生しにくく、平面コイル導体3の最外周から最内周にかけて、平面コイル導体3の全体の周囲に大きい磁束が発生しやすくなることとなり、平面コイル導体3の内周と外周との間に磁束が集中することにより生じる磁束の部分飽和を抑制し、重畳特性の低下を抑制することができる。
このときの伝熱用導体層4と平面コイル導体3との距離は、平面コイル導体3において発生した熱をより効率よく伝熱用導体層4へ伝えるためにはできるだけ近い方が好ましいが、両者の間の電気的絶縁性を考慮すると、具体的には、50μm程度以上であることが好ましい。
開口部4bの平面コイル導体3の外周に沿った方向の長さは、上述した複数の伝熱用導体層4を配置した場合の伝熱用導体層4の幅と同様の理由で、開口部4bの平面コイル導体3側の長さの総和が、開口部4bの平面コイル導体3側の部分をつないでできる平面コイル導体3を取り囲む線(図1および図5の仮想線Rと同様の線)の長さの70〜92%程度であるのが好ましい。
伝熱用導体層4の開口部4bの幅(平面コイル導体3から基板の側面に向かう方向の長さ)は、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は0.1mm以上とすればよい。
開口部4bの伝熱用導体層4内における位置は、磁束の通過を大きく妨げないようにするためには、伝熱用導体層4の内周端からの距離ができるだけ小さい方が好ましい。導体ペーストをスクリーン印刷で印刷することにより伝熱用導体層4を形成するような場合は、その形成の容易性を考慮すると50μm以上であるのが好ましく、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、この程度の距離があれば、平面コイル導体3の最外周から最内周にかけて平面コイル導体3の全体の周囲に大きい磁束が発生しやすくなる。
平面コイル導体3の外周部に近接して平面コイル導体3を取り囲むように形成された伝熱用導体層4に開口部4bを複数設けることにより、伝熱用導体層4の複数の開口部4bの間の部分が、平面コイル導体3において発生した熱を平面コイル導体3に近接した内周部から放熱用導体層5が接続された外周部へと伝導させるための伝熱経路となる。よって、上述したのと同様の理由から、この伝熱経路の幅が放熱用導体層5に向けて広くなるように、開口部4bの形状を、例えば図9(b)に示すような平行四辺形や台形のような形状するのが好ましい。また、上述したのと同様の理由で、図8(b)に示すように矩形状の平面コイル導体3の角部の外側の伝熱経路を大きくしたり、平面コイル導体3の角部の外側のみに伝熱経路を設けるように4つの開口部4bを配置したりしてもよい。
平面コイル導体3は、1層で構成してもよいが、図1(a)に示すように上下に複数設けると、大きなインダクタンスを得るためのコイルの巻き数を確保しつつ平面方向の大きさを小型にすることができるので好ましい。このような場合は、上下に位置する平面コイル導体3・3のそれぞれの外側に伝熱用導体層4が形成される。
また、平面コイル導体3が矩形状の基板の外形に沿って矩形状に形成される場合は、図8(b)または図9(b)に示すように、矩形状の平面コイル導体3の角部を、複数の屈曲部を有する形状または曲線状に曲がっている形状とすると、平面コイル導体3と絶縁層1に形成された接地導体層等の配線層6とが対向する面積が小さくなり、平面コイル導体3と配線層6との間のキャパシタンスが小さくなることで、より高周波まで安定したインダクタンス値が得られ、また、平面コイル導体3の角部が電流の集中しにくい形状となることで電界の集中が低減し、平面コイル導体3からのノイズ放射を削減することができるので好ましい。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図10に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、フェライト磁性体層2より熱伝導率の大きい伝熱用絶縁層7が、平面コイル導体3および伝熱用導体層4に接続されて形成されていることが好ましい。このような構成により、フェライト磁性体層より熱伝導率の大きい伝熱用絶縁層7によって平面コイル導体3から伝熱用導体層4へ伝熱することができるので、平面コイル導体3において発生した熱を伝熱用導体層4を介して放熱用導体層5からより効率よく外部に放熱することができる。伝熱用絶縁層7は絶縁体であることから、平面コイル導体3に直接接続されるので、平面コイル導体3において発生した熱を伝熱用導体層4および放熱用導体層5へ効率よく伝えることができるとともに、平面コイル導体3の周りに発生した磁束を吸収してしまうことがないので、磁束の通過を大きく妨げることがなくインダクタンスを大きく低下させてしまうことがない。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図11に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、平面コイル導体3が複数巻きであり、伝熱用絶縁層7が隣接する外周と内周の平面コイル導体3間にも形成されていることが好ましい。このような構成により、内周の平面コイル導体3において発生した熱を外周と内周の平面コイル導体3間に形成した伝熱用絶縁層7を介して外周の平面コイル導体3へ伝え、さらに平面コイル導体3および伝熱用導体層4に接続されて形成された伝熱用絶縁層7を介して放熱用導体層5へ伝えることができるので、より効率よく平面コイル導体3に発生した熱を外部へ放熱することができる。
さらに、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間にフェライト磁性体層2に比較して透磁率の小さい伝熱用絶縁層7が存在することから、平面コイル導体3に流れる電流が大きい場合であっても、磁束が隣接する外周と内周の平面コイル導体3間を通過しにくいので、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間において漏れ磁束が発生しにくくなり、これにより磁気飽和が抑制され、重畳特性の低下を抑制することができる。
また、本発明のコイル内蔵基板は、例えば図12に図1と同様の断面図で示すように、上記構成において、平面コイル導体3が複数巻きであり、伝熱用絶縁層7が平面視で平面コイル導体3の形成領域の全域で重なって平面コイル導体3に接続されていることが好ましい。このような構成により、平面コイル導体3において発生した熱は平面コイル導体3の外周から内周にいたるまで全域にわたって直接、伝熱用絶縁層7に伝えられるので、平面コイル導体3において発生した熱をより効率よく伝熱用絶縁層7および伝熱用導体層4を介して放熱用導体層5から基板の外部へ放熱することができる。
さらに、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間に伝熱用絶縁層7を形成しない場合でも、平面視で隣接する外周と内周の平面コイル導体3間にフェライト磁性体層2に比較して透磁率の小さい伝熱用絶縁層7が存在することから、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間を磁束が通過しにくいので、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間において漏れ磁束が発生しにくくなり、これにより磁気飽和が抑制され、重畳特性の低下を抑制することができる。
図12に示すように、伝熱用絶縁層7を平面視で平面コイル導体3の形成領域の全域で重ねて平面コイル導体3に接続するとともに、平面コイル導体3の隣接する外周と内周との間および上下の平面コイル導体3の間にも伝熱用絶縁層7を形成してもよいことはいうまでもない。このような構成は、コイル内蔵基板を製造する過程において、フェライト磁性体層2となるグリーンシート上に形成された平面コイル導体3となる平面コイル導体パターン上に絶縁層ペーストを塗布することにより容易に形成することができ、その後の積層工程において平面コイル導体3の隣接する外周と内周との間等に空隙が発生しにくくなるのでよい。
伝熱用絶縁層7を平面視で平面コイル導体3の形成領域の全域で重ねて平面コイル導体3に接続する場合は、平面コイル導体3の内側の部分や伝熱用導体層4と重なる部分まで、すなわち最大で基板内の全域に伝熱用絶縁層7が重なるようにしてもよい。このようにすると、コイル内蔵基板を製造する過程において、例えば伝熱用絶縁層7の形成をペーストを塗布することにより行なう際に、平面コイル導体3のパターン形状に合わせたスクリーン製版を用意したり、位置合わせをしたりする手間を省くことができ、また平面コイル導体3のパターンおよび伝熱用絶縁層7のパターンが形成されたグリーンシートを積層する際に、平面コイル導体3のパターンと伝熱用絶縁層7のパターンが形成された部分といずれも形成されていない部分との段差ができてしまうことがないので、グリーンシート積層体の内部に空隙が発生してしまうことを防止することができる。
また、図12に示すように、伝熱用絶縁層7が比較的広い面積の場合は、伝熱用絶縁層7に平面コイル導体3の外周に沿って配置された複数の開口部7aを形成することが好ましい。上述したように伝熱用絶縁層7は導体ではないので、伝熱用絶縁層7により磁束の通過を完全に妨げてしまうことはないが、複数の開口部7aにより、平面コイル導体3の周りに発生した磁束が平面コイル導体3の外側の領域をより通過しやすくなるので、インダクタンスの低下をより抑えることができるとともに、複数の開口部7aの間の部分が平面コイル導体3において発生した熱を放熱用導体層5へと伝導させるための伝熱経路となるので、平面コイル導体3において発生した熱を外部へ放熱することができる。
伝熱用絶縁層7の開口部7aの幅(平面コイル導体3から基板の側面に向かう方向の長さ)は、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は0.1mm以上とすればよい。開口部7aの平面コイル導体3の外周に沿った方向の長さは、開口部7aの平面コイル導体3側の長さの総和が平面コイル導体3の外周の長さの95%以下であるのが好ましい。これより大きいと伝熱用絶縁層7の平面コイル導体3から放熱用導体層5への伝熱経路が小さくなりすぎてしまうので、放熱効率が低下してしまうからである。
開口部7aの伝熱用絶縁層7内における位置は、磁束の通過を大きく妨げないようにするためには、平面コイル導体3の外周からの距離ができるだけ小さい方が好ましく、開口部7aが平面コイル導体3の外周に接しているのが好ましい。図10や図11に示すように伝熱用絶縁層7が平面コイル導体3の側方で接続されている場合は、平面コイル導体3で発生した熱を平面コイル導体3の外周の全域で伝熱用絶縁層7が受け取るようにする方が放熱性の観点からは好ましいので、平面コイル導体3から50μm〜200μm程度外側に開口部7aを設けるとよい。また、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、平面コイル導体3の外周から開口部7aまでの間にこの程度の距離があれば、平面コイル導体3の最外周から最内周にかけて平面コイル導体3の全体の周囲に大きい磁束が発生しやすくなる。
平面コイル導体3が矩形状の基板の外形に沿って矩形状に形成される場合は、図12(b)に示すように、平面コイル導体3の外側の領域において、平面コイル導体3の角部の外側以外の領域に伝熱用絶縁層7の開口部7aを形成するのが好ましい。すなわち、平面コイル導体3から伝熱用導体層4への伝熱経路となる部分を平面コイル導体3の角部の外側のみに設けるのが好ましい。平面コイル導体3の角部の外周における磁束密度は他の領域に比較して粗となるので、フェライト磁性体層2に比較して透磁率の小さい伝熱用絶縁層7による磁束の通過への影響は小さくてすむ。同様の理由で、図13に図1と同様の断面図で示すように、矩形状の平面コイル導体3の角部に配置する伝熱経路が他の位置に配置した伝熱経路よりも幅が広くなるように開口部7aを配置してもよい。
また、図12(b)および図13(b)に示すように、開口部7aの形状を、伝熱用絶縁層7における平面コイル導体3から伝熱用導体層4への伝熱経路が放熱用導体層5に向けてその幅が広くなるような形状とすると、伝熱用導体層4への伝熱がより効率よく行なわれるので好ましい。このとき、平面コイル導体3において発生する磁束の密度は平面視で基板の内部より外周部の方が粗になるので、伝熱用絶縁層7の幅を広げることによる磁束の通過領域の減少への影響は小さくてすむ。この場合の伝熱用絶縁層7の幅の広がりは、最大でも両側に45°の角度で広がるようにすれば、磁束の通過領域の減少を抑えつつ十分な熱伝導の向上が得られるので好ましい。
また、図13に示すように、平面コイル導体3が上下に複数設けられる場合は、伝熱用絶縁層7を上下に位置する平面コイル導体3間に形成してもよい。このようにすると、平面コイル導体3から発生した熱を、平面コイル導体3の外周から内周にいたるまで全域にわたって直接、伝熱用絶縁層7に伝えられる上に、平面コイル導体3で発生した熱を伝熱用絶縁層7が形成されたコイル内蔵基板の厚み方向における内部に誘導した後に、放熱用導体層5が形成されたコイル内蔵基板の側面から外部へ放熱することができる。したがって、平面コイル導体3において発生した熱をより効率よく放熱用導体層5へ伝えるとともに、絶縁層1の方向すなわちICなどの電子部品が搭載されたコイル内蔵基板の主面方向への伝熱を抑制することができるため、コイル内蔵基板に搭載されたICなどの電子部品が平面コイル導体3から発生する熱によって誤動作してしまうことをより効果的に防止することができる。
さらに、図13に示す例では隣接する外周と内周の平面コイル導体3間に伝熱用絶縁層7を形成しているが、これを形成しない場合でも、平面視で隣接する外周と内周の平面コイル導体3間にフェライト磁性体層2に比較して透磁率の小さい伝熱用絶縁層7が存在することとなるので、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間を磁束が通過しにくく、隣接する外周と内周の平面コイル導体3間において漏れ磁束が発生しにくくなり、これにより磁気飽和が抑制され、重畳特性の低下を抑制することができる。また、上下の平面コイル導体3・3間においても同様に漏れ磁束が発生しにくくなるので、磁気飽和が抑制され、さらに重畳特性の低下が抑制される。
図10〜図13に示す例は、伝熱用導体層4の形状が図4に示すような例に伝熱用絶縁層7を形成したものであるが、伝熱用導体層4が図1〜図3および図5〜図9に示すような形状の場合でも同様に、平面コイル導体3および伝熱用導体層4に接続して伝熱用絶縁層7を形成すればよい。
図14および図15は、本発明のコイル内蔵基板の実施の形態の他の一例を示す図であり、それぞれの図の(a)は本発明のコイル内蔵基板の断面図((b)に示すB−B’線で切断した縦断面図)、(b)は(a)に示すA−A’線で切断した断面図(横断面図)であり、8は伝熱用貫通導体である。図14および図15に示すように、平面コイル導体3・3および伝熱用導体層4・4が、間にフェライト磁性体層2を介して上下に複数設けられる場合には、上下に位置する伝熱用導体層4・4の少なくとも一方に、それらの間のフェライト磁性体層2を貫通する方向に形成された伝熱用貫通導体7が接続されるのが好ましい。これにより、平面コイル導体3において発生しフェライト磁性体層2に伝わった熱は伝熱用貫通導体8を介して伝熱用導体層4・4に伝えられるので、平面コイル導体3・3において発生した熱をより効率よく伝熱用導体層4・4を介して放熱用導体層5から基板の外部へ放熱することができる。
また、伝熱用貫通導体8は上下に位置する伝熱用導体層4・4(平面コイル導体3・3)の間のフェライト磁性体層2内に形成されているので、平面コイル導体3・3において発生した熱は、コイル内蔵基板の厚み方向における内部側へ誘導されやすくなり、絶縁層1・1の方向すなわちICなどの電子部品が搭載されたコイル内蔵基板の主面方向への伝熱を抑制することができるため、コイル内蔵基板に搭載されたICなどの電子部品が平面コイル導体3・3から発生する熱によって誤動作してしまうことをより効果的に防止することができる。
伝熱用貫通導体8は、平面コイル導体3・3にできるだけ近い方が平面コイル導体3・3において発生した熱を効率よく伝熱用導体層4・4へ伝えることができるので、図14および図15に示す例のように、伝熱用導体層4・4の内周に沿って配置して接続するのが好ましい。図14および図15に示す例は図8に示す例に伝熱用貫通導体8を加えた例であるが、同様の図4〜図7および図9に示す例のような、伝熱用導体層4・4が平面コイル導体3・3を取り囲むような形状の場合は、同様に伝熱用導体層4・4の内周に沿って複数の伝熱用貫通導体8を配列して接続すればよい。図1〜図3に示す例のような、複数の伝熱用導体層4が平面コイル導体3の外周に沿って配置されている場合は、フェライト磁性体層2に伝わった熱をより効率よく伝熱用導体層4へ伝えるために、各伝熱用導体層4の平面コイル導体3の外周部に近接した辺だけでなく、放熱用導体層5に接続された辺以外の全ての辺に沿って配置して接続するのが好ましい。
また、外辺や内周に沿った位置に、また外辺や内周に沿った1列だけに限らず、伝熱用導体層4の他の位置に伝熱用貫通導体8を接続してもよい。例えば、伝熱用導体層4が平面コイル導体3を取り囲むような形状の場合であれば、伝熱用貫通導体8をいわゆる千鳥配列で2列に、あるいはそれ以上の列数で配列することにより、上下の平面コイル導体3・3に挟まれたフェライト磁性体層2から放熱用導体層5側を見たとき、隙間なく伝熱用貫通導体8を配置することができ、より効率よく伝熱用貫通導体8を介して伝熱用導体層4へと熱を伝えることができる。
また、図8および図9に示す例のような、伝熱用導体層4が平面コイル導体3の外周部に近接して形成され、平面コイル導体3の外周に沿って配置された複数の開口部4bを有する形状で、その内周に沿って伝熱用貫通導体8を配置して接続した場合(例えば図14に示す例)には、伝熱用貫通導体8が存在することにより、上下に位置する平面コイル導体3・3それぞれの周りに発生した磁束が上下の平面コイル導体3・3間を通過することを妨げるので、上下の平面コイル導体3・3全体の周囲に磁束が発生することとなり、上下の平面コイル導体3・3の間に磁束が集中することにより生じる磁束の部分飽和を抑制し、重畳特性の低下を抑制することができる。
図14および図15に示す例では、伝熱用貫通導体8は、上下の伝熱用導体層4・4間のフェライト磁性体層2の全てを貫通して上下の伝熱用導体層4・4の両方に接続されているが、必ずしも上下の伝熱用導体層4・4間のフェライト磁性体層2の全てを貫通していなくてもよく、また上下の伝熱用導体層4・4の少なくとも一方に接続されていればよい。例えば、上下の伝熱用導体層4・4間のフェライト磁性体層2が3層からなる場合は、伝熱用貫通導体8が上の(または下の)2層のみを貫通して上の(または下の)伝熱用導体層4のみに接続されていてもよいし、3層のフェライト磁性体層2のうち、上下の各1層のみを貫通しそれぞれ上下の伝熱用導体層4・4に接続されていてもよい。図14および図15に示す例のように、伝熱用貫通導体8が上下の伝熱用導体層4・4間のフェライト磁性体層2の全てを貫通していると、平面コイル導体3で発生した熱を受ける面積がより大きくなり、フェライト磁性体層2に伝わった熱を伝熱用貫通導体8を介して伝熱用導体層4へより効率よく伝えることができるので好ましい。
伝熱用貫通導体8の横断面形状は、図14(b)に示したような円形だけでなく、三角形や四角形またはそれ以上の多角形および楕円形状等であってもよく、特に制限はない。伝熱用貫通導体8の横断面形状を、伝熱用導体層4の外辺や内周に沿って細長い形状、例えば長方形や図15(b)に示すような楕円形にするのが好ましい。このような形状とすることにより、平面コイル導体3で発生した熱を受ける面積がより大きくなり、フェライト磁性体層2に伝わった熱を伝熱用貫通導体8を介して伝熱用導体層4へより効率よく伝えることができる。
また、図15(a)に示す例のように、伝熱用貫通導体8を基板の主面(下面)まで延ばして(図15(a)に示す8a部分を形成して)、基板の主面(下面)まで延ばした放熱用導体層5や基板の主面(下面)に形成された電極パッド6d等の配線層6に接続してもよい。このようにすることで、放熱用導体層5への伝熱経路が増大し、より効率よく放熱することができる。この場合の、下側の伝熱用導体層4より下のフェライト磁性体層2内に位置する伝熱用貫通導体8aの横断面形状は、伝熱用導体層4の外辺や内周に沿って細長い形状とすると、平面コイル導体3の周りに発生した磁束の通過を妨げてしまうので、伝熱用導体層4の外辺や内周に沿った方向の幅の小さい、円形や正方形が好ましく、磁束の通過を妨げることなく基板の主面方向へより効率よく伝熱するには、平面コイル導体3の内側の領域の中心に向かって細長い長方形や楕円形にして横断面積を大きくするのがより好ましい。そして、さらに図15(b)に示すように、伝熱用貫通導体8aの横断面積をフェライト磁性体層2側より基板の主面側の方を大きく(下側の絶縁層1内で大きく)すると、伝熱用貫通導体8a内の基板の主面(下面)側への伝熱の熱抵抗がより小さくなり、より効率よく伝熱することができるので好ましい。
平面コイル導体3のフェライト磁性体層2内の基板の厚み方向の位置については、平面コイル導体3と絶縁層1との間のフェライト磁性体層2の厚みが、平面コイル導体3の周りに発生する磁束が通過するのに必要な厚みがあるような位置であればよい。平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は、平面コイル導体3と絶縁層1との間のフェライト磁性体層2の厚みを0.1mm以上とすればよい。また、平面コイル導体3を上下に複数設ける場合の、上下の平面コイル導体3・3間の距離は、上下の平面コイル導体3間で絶縁が保たれる距離であればよく、フェライト磁性体層2や伝熱用絶縁層7により異なるが、50μm程度以上あればよい。
放熱用導体層5は、図1〜図15に示すように、基板の側面に伝熱用導体層4に接続されて形成される。平面コイル導体3の外周部に近接した複数の伝熱用導体層4を設ける場合は、図1(b)に示すように複数の伝熱用導体層4それぞれに対応するように複数設けてもよいが、図2(b)および図3(b)に示すように、基板の側面の全周にわたって設けることにより、放熱面積を大きくしてより効率よく放熱できるようにするのが好ましい。また、このようにすると、平面コイル導体3からノイズが放射されたとしても、放熱用導体層5が平面コイル導体3を取り囲む形状であることから、放熱用導体層5がシールドとして機能してノイズを吸収することとなるので、平面コイル導体3から放射されたノイズによる配線層6への影響が抑えられ、搭載用電極6bに搭載されるICをより安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることができる。伝熱用導体層4が平面コイル導体3を外周に沿って取り囲む形状である場合は、放熱用導体層5を基板の側面の全周にわたって設け、全周にわたって伝熱用導体層4と接続すればよいが、上下の絶縁層1・1に形成された配線層6を接続するための配線層を基板の側面に形成する場合は、その配線層と絶縁されるように複数に分けて形成してもよい。この場合の伝熱用導体層4も、この配線層が形成された部分では側面まで形成せず、この配線層とは絶縁されるようにする。
また、放熱用導体層5は、基板厚み方向の大きさも特に制限されるものでなく、図1(a)に示すようにフェライト磁性体層2の側面だけでなく、図8(a)に示すように絶縁層1の側面にかけて、さらには図3(a)および図9(a)に示すように基板の主面(下面)にかけて形成してもよい。平面コイル導体3に対するシールドとしても機能させるという観点からは、少なくとも基板を側面視して平面コイル導体3と重なるように、例えばフェライト磁性体層2の側面の全面に形成されるのが好ましい。放熱性の観点からは、その面積が大きいほど効率よく放熱できるので、できるだけ大きい方が好ましい。また、下方の絶縁層1の側面やさらに下面にかけて形成すると、基板を外部回路基板に半田等の接合材を用いて接合することが可能となるので、熱容量の大きい外部回路基板へ伝熱して放熱することにより放熱効率を向上させることができ、また外部回路基板との接合面積が大きくなり、接合強度および実装信頼性も向上させることができるので好ましい。
また、放熱用導体層5は、その厚みを配線層6や平面コイル導体3に比較して厚くすることで、より放熱性を向上させることができる。例えば、配線層6や平面コイル導体3の厚みが通常10μm程度で形成されるのに対して、より厚く、例えば20μm以上の厚みにするとよい。
さらに、放熱用導体層5は、その表面粗さを搭載用電極6bや電極パッド6dに比較して大きくすることで、表面積を大きくして放熱性を向上させることができる。例えば、搭載用電極6bや電極パッド6dの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が通常1〜5μm程度であるのに対して、20μm程度以上の表面粗さに、またはそれ以上のレベルの凹凸のある形状するとよい。
絶縁層1は、その表面や内部に形成される配線層6や絶縁層1に挟持されて形成されるフェライト磁性体層2および平面コイル導体3とともに800〜1000℃の温度で同時焼成された絶縁体粉末の焼結体から成るものであり、配線層6のインダクタンスが高くなることを抑制するという観点からは、非磁性フェライトやガラスセラミックス等の非磁性絶縁体から成るものが好ましい。絶縁層1は、絶縁体粉末および有機バインダーを主成分とする絶縁層1用グリーンシートを製作し、この絶縁層1用グリーンシートを必要な配線展開ができるだけの枚数積層した後、800〜1000℃の温度で焼成することにより作製される。
平面コイル導体3の上下に位置する絶縁層1の厚みは、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は0.1mm以上とすればよい。
絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、Zn系フェライトやCu系フェライトを用いればよい。中でも、X−Fe2O4(XはCu,Zn)として示される正スピネル構造の固溶体であるCu−Zn系フェライトが好適である。
Cu−Zn系フェライトの場合であれば、その組成比は焼結体としてFe2O3を50〜70質量%,CuOを5〜20質量%,ZnOを20〜35質量%とすると、1000℃以下の低温で焼結密度5.0g/cm3以上の高密度焼成が可能であり、かつ、焼成後の非磁性フェライト層は低温度域でも非磁性であるので好ましい。Fe2O3はフェライトの主成分であり、その割合が50質量%未満であると磁性が発生する傾向があり、70質量%より多いと焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向がある。CuOは焼結温度の低温化のために重要な要素であり、CuOが低温で液相を形成することにより焼結を促進させる効果を用いて、磁気特性を損なわずに800〜1000℃の低温で焼成することができる。このことからその割合が5質量%未満であると、配線層6と同時に800〜1000℃で焼成を行なうと焼結密度が不十分になり、機械強度が不足する傾向があり、20質量%より多いとキュリー温度が上がり、低温領域で磁性が発生する傾向がある。ZnOは非磁性フェライトを非磁性にするために重要な要素であり、その割合が20質量%未満であると焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向があり、35質量%より多いと磁性が発生する傾向がある。
また、絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、非磁性フェライトの粉末に軟化点の低いガラスを加えて低温焼成したものであってもよい。このときのガラスとしては、例えばSiO2−B2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1及びM2は同じまたは異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1及びM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi,NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等を用いることができ、ガラスの軟化点が600℃以下であることがフェライトの焼結を阻害しないうえで望ましい。
絶縁層1がガラスセラミックスから成る場合は、絶縁体粉末は上記のようなガラスの粉末とフィラー粉末との混合物の焼結体から成り、フィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
配線層6は、Cu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるものであり、絶縁層1用グリーンシートに配線層6用導体ペーストを印刷することにより配線パターンを形成しておき、絶縁層1用グリーンシートと同時焼成することにより形成される。
フェライト磁性体層2は、強磁性フェライトであるNi−Zn系フェライト,Mn−Zn系フェライト,Mg−Zn系フェライト,Ni−Co系フェライト等の磁性フェライト粉末の焼結体であるが、X−Fe2O4(XはCu,Ni,Zn)として示される逆スピネル構造の固溶体であるNi−Zn系フェライトが高周波帯域で十分に高い透磁率を得るのに好ましい。
Ni−Zn系フェライトの場合であれば、その組成比は焼結体としてFe2O3を63〜73質量%,CuOを5〜10質量%,NiOを5〜12質量%,ZnOを10〜23質量%とすると、1000℃以下の低温で焼結密度5.0g/cm3以上の高密度焼成が可能であり、かつ高周波帯域で十分に高い透磁率を得ることができるので好ましい。Fe2O3はフェライトの主成分であり、その割合が63質量%未満であると十分な透磁率が得られない傾向があり、73質量%より多いと焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向がある。CuOは焼結温度の低温化のために重要な要素であり、CuOが低温で液相を形成することにより焼結を促進させる効果を用いて、磁気特性を損なわずに800〜1000℃の低温で焼成することができる。このことから、その割合が5質量%未満であると、配線層6や平面コイル導体3と同時に800〜1000℃で焼成を行なうと焼結密度が不十分になり、機械強度が不足する傾向があり、10質量%より多いと、磁気特性の低いCuFe2O4の割合が多くなるため磁気特性を損ないやすくなる傾向がある。NiOはフェライト磁性体層2の高周波域における透磁率を確保するために含有させる。NiFe2O4は高周波域まで共振による透磁率の減衰を起こさず、高周波域での透磁率を比較的高い値に維持することができるが、初期透磁率は低いという特性をもつため、5質量%未満であると10MHz乃至それ以上の高周波域での透磁率が低下する傾向があり、12質量%より多いと初期透磁率が低下する傾向にある。ZnOはフェライト磁性体層2の透磁率向上のために重要な要素であり、フェライト組成のうち10質量%未満であると透磁率が低くなり、逆に23質量%より多くても磁気特性が悪くなる傾向がある。
フェライト磁性体層2は、絶縁層1に用いられる絶縁層用グリーンシートと同様の手法で形成されたフェライト磁性体層2用グリーンシートを用いることで作製される。
平面コイル導体3は、配線層6と同様に金属粉末の焼結体であるメタライズ金属層からなるものであり、フェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に平面コイル導体3用導体ペーストを印刷することによりコイルパターンを形成し、さらにその上にフェライト磁性体層2用グリーンシートを積層して同時焼成することにより、フェライト磁性体層2に埋設されて形成される。平面コイル導体3が上下に複数重ねて形成される場合は、コイルパターンおよび貫通導体パターンが形成されたフェライト磁性体層2用グリーンシートを複数積層した上にさらにフェライト磁性体層2用グリーンシートを積層すればよい。
平面コイル導体3の作製に用いられる金属粉末は、配線層6と同様のCu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末を用いる。これにより、平面コイル導体3の電気抵抗が小さくなり、平面コイル導体3の発熱そのものを抑えることができる。
伝熱用絶縁層7は、絶縁層1やフェライト磁性体層2および平面コイル導体3や配線層6とともに800〜1000℃の温度で同時焼成された絶縁体粉末の焼結体から成るものであり、フェライト磁性体層2より熱伝導率の大きいものである。フェライト磁性体層2より熱伝導率が大きいものであれば、絶縁層1と同じものを用いてもよい。フェライト磁性体層2の熱伝導率が3W/(m・K)〜4W/(m・K)程度であるので、伝熱用絶縁層7の熱伝導率は6W/(m・K)程度以上のものであれば、平面コイル導体3で発生した熱が伝熱用絶縁層7内をより伝熱しやすくなるので好ましい。
伝熱用絶縁層7は、伝熱用絶縁層用の絶縁体粉末および有機バインダーを主成分とする伝熱用絶縁層7用グリーンシートを製作し、この伝熱用絶縁層7用グリーンシート上に平面コイル導体3となる平面コイル導体パターンを形成したり、平面コイル導体パターンが形成されたフェライト磁性体層2用グリーンシート上に積層したり、あるいは、伝熱用絶縁層7用の絶縁体粉末,有機バインダーおよび溶剤を主成分とする伝熱用絶縁層7用ペーストを製作し、フェライト磁性体層2用グリーンシート上に形成された平面コイル導体パターンに接続されるように、または重なるように、伝熱用絶縁層7用ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷して、絶縁層1用およびフェライト磁性体層2用グリーンシートとともに800〜1000℃の温度で焼成することにより作製される。
伝熱用絶縁層7用の絶縁体粉末は、絶縁層1に用いるガラスの粉末およびフィラー粉末と同様のものを用いればよく、フィラー粉末として、例えばAlN,Si3N4,SiC,BN等のセラミック粉末を用いると熱伝導率のより高いものが得られるので好ましい。また、ガラス粉末としては結晶化ガラスがより高熱伝導率となるので好ましい。AlN等の非酸化物セラミックスをフィラーとして用いると、焼成中にガラスと非酸化物セラミックフィラーとが反応し、非酸化物セラミックフィラーが分解してガスが発生することにより熱伝導率が低下してしまいやすいので、希土類元素含有珪酸系ガラスやオキシナイドガラスを用いるのが好ましい。希土類元素含有珪酸系ガラスは、RE2O3(希土類酸化物)を1〜30質量%,SiO2を10〜55質量%,Al2O3を3〜35質量%,ZnOおよび/またはMgOを5〜30質量%,B2O3を0〜25質量%,CaO、SrO、BaOの群から選ばれる少なくとも1種をその合量で0〜50質量%の割合で含有するものであり、より具体的には例えば、Y2O3を14質量%,SiO2を22質量%,Al2O3を5質量%,ZnOを15質量%,MgOを5質量%,B2O3を10質量%,SrOを29質量%含有するガラス(以下、ガラスAという)、Y2O3を5質量%,SiO2を22質量%,Al2O3を8質量%,ZnOを2質量%,MgOを18質量%,B2O3を18質量%,SrOを27質量%含有するガラス(以下、ガラスBという)、Nd2O3を10質量%,SiO2を30質量%,Al2O3を15質量%,ZnOを13質量%,CaOを15質量%,BaOを5質量%,B2O3を12質量%含有するガラス(以下、ガラスCという)等が挙げられる。また、オキシナイドガラスは、窒素を含むガラスであり、例えばSiO2とB2O3とを主成分とする酸化物ガラス原料粉末を窒素雰囲気中にて300℃〜800℃の温度で2時間〜5時間処理することにより、ガラス粉末中に0.1質量%以上10質量%以下の窒素元素を含有させることができる。
伝熱用絶縁層7の組成の例としては、ガラスAを60質量%とAlNを40質量%含むものは、900℃焼成にて8.4W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスAを50質量%とAlNを50質量%含むものは、900℃焼成にて11.5W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスAを60質量%とSi3N4を40質量%含むものは、900℃焼成にて7.2W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスAを60質量%とAlNおよびSi3N4をそれぞれ20質量%含むものは、900℃焼成にて7.5W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスBを50質量%とAlNを50質量%含むものは、950℃焼成にて8.2W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスBを30質量%とAlNを70質量%含むものは、1000℃焼成にて14.5W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスBを50質量%とSi3N4を50質量%含むものは、900℃焼成にて7.3W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスCを60質量%とAlNを40質量%含むものは、900℃焼成にて7.3W/(m・K)の熱伝導率が得られる。また、ガラスCを60質量%とSi3N4を40質量%含むものは、900℃焼成にて7.0W/(m・K)の熱伝導率が得られる。
また、AlNやSi3N4等のセラミックフィラー中に炭素や硫黄が存在すると、焼成中にCO,CO2,SO,SO2などのガスが発生し、気孔が生成されて熱伝導率の低下を招いてしまう場合があり、またセラミックフィラーの表面に酸化物層を生成させることによりガラスとの濡れ性を向上させて焼結性を向上させることができるので、セラミックフィラー粉末の表面の炭素や硫黄の除去や酸化膜の生成のためにpH5〜10の水で10分〜30分の水洗あるいは5分〜10分の煮沸を行なうとよい。このような処理を行なったセラミックフィラーとオキシナイトライドガラスを用いた場合、AlN粉末を30質量%〜60質量%とオキシナイトライドガラスを40質量%〜70質量%を含むものは、800℃〜1000℃の焼成で30W/(m・K)〜40W/(m・K)程度の熱伝導率が得られ、Si3N4粉末を30質量%〜80質量%とオキシナイトライドガラスを20質量%〜70質量%を含むものは、800℃〜1000℃の焼成で20W/(m・K)〜30W/(m・K)程度の熱伝導率が得られる。
絶縁層1用グリーンシートまたはフェライト磁性体層2用グリーンシートまたは伝熱用絶縁層7用グリーンシートは、絶縁体粉末または磁性フェライト粉末に有機バインダー,有機溶剤,必要に応じて分散剤や可塑剤等を混合してスラリーを得て、これからドクターブレード法,圧延法,カレンダーロール法,押し出し成形法等によってシート状に塗布し、乾燥して成形することにより作製される。
絶縁層1用グリーンシートに用いられる絶縁体粉末は、絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、Fe2O3とCuOやZnOの粉体を所定の割合で混合して仮焼したものを粉砕し、原料粉末とすることができる。
フェライト磁性体層2用グリーンシートに用いられる強磁性フェライト粉末は、Fe2O3とCuO,ZnO,またはNiOとを予め仮焼することにより作製されたフェライト粉末であり、平均粒径が0.1μm〜0.9μmの範囲で均一であり、粒形状は球形状に近いものが望ましい。これは、平均粒径が0.1μmより小さいと、フェライト磁性体層2用グリーンシートの製作においてフェライト粉末の均一な分散が困難であり、平均粒径が0.9μmより大きいとフェライト磁性体層2用グリーンシートの焼結温度が高くなりやすくなるからである。また、粒径が均一で球状に近いことにより均一な焼結状態を得ることができる。例えばフェライト粉末で部分的に小さい粒径が存在した場合は、その部分のみ結晶粒の成長が低下し、焼結後に得られるフェライト磁性体層2の透磁率が安定しにくい傾向がある。
有機バインダーは、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解性や揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
グリーンシートの有機溶剤は、絶縁体粉末やフェライト粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、トルエン,ケトン類,アルコール類の有機溶媒や水等が挙げられる。これらの中で、トルエン,メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール等の蒸発係数の高い溶剤はスラリー塗布後の乾燥工程が短時間で実施できるので好ましい。
グリーンシートを作製するためのスラリーは絶縁体粉末やフェライト粉末100質量部に対して有機バインダーを5〜20質量部、有機溶剤を15〜50質量部加え、ボールミル等の混合手段により混合することにより3〜100cpsの粘度となるように調製される。
伝熱用絶縁層7用ペーストは、主成分の絶縁体粉末に有機バインダー,有機溶剤,必要に応じて分散剤等を加えてボールミル,三本ロールミル,プラネタリーミキサー等の混練手段により混合および混練することで作製される。
伝熱用絶縁層7用ペーストの有機バインダーは、従来よりセラミックグリーンシートやセラミックペーストに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系,アルキド系の有機バインダーがより好ましい。
伝熱用絶縁層7用ペーストの有機溶剤は、上記した絶縁体粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、テルピネオールやブチルカルビトールアセテートおよびフタル酸等が使用可能である。
伝熱用絶縁層7用ペーストは、絶縁体粉末100質量部に対して有機バインダーを3〜15質量部、有機溶剤を10〜30質量部加えて混練することにより、印刷により伝熱用絶縁層7用ペーストの滲みやかすれ等の不具合が発生せず良好に所定形状のパターン形成ができる程度の粘度となるようにすることが望ましい。
伝熱用絶縁層7を図10および図11に示す例のように形成する場合は、例えば、フェライト磁性体層2用グリーンシート上に形成された平面コイル導体パターンに接続されるように伝熱用絶縁層7用ペーストを印刷して伝熱用絶縁層パターンを形成すればよい。印刷の位置ずれ等を考慮すると、確実に接続されるように、平面コイル導体パターンと伝熱用導体層パターンとの間隔や平面コイル導体パターンの内周と外周との間隔より100μm程度幅広の伝熱用絶縁層パターンを形成するとよい。
伝熱用絶縁層7を図12に示す例のように形成する場合は、例えば、フェライト磁性体層2用グリーンシート上に形成された平面コイル導体パターンに重なるように伝熱用絶縁層7用ペーストを印刷して伝熱用絶縁層パターンを形成すればよい。このとき上下の平面コイル導体3・3を接続するための貫通導体6cを形成するために、伝熱用絶縁層パターンには印刷時に貫通孔を設けておき、この貫通孔に後述する貫通導体6c用の導体ペーストを充填する。また、伝熱用導体層パターンとの接続を確実なものとするために伝熱用導体層パターンにも一部が、例えば、50μm程度以上の幅で重なるように形成するとよい。
伝熱用絶縁層7を図13に示す例のように形成する場合は、例えば、上下の平面コイル導体パターンをそれぞれフェライト磁性体層2用グリーンシート上に形成し、これら平面コイル導体パターンに重なるように伝熱用絶縁層7用ペーストを印刷して、伝熱用絶縁層7用ペーストが印刷された面を向かい合わせ、位置合わせして積層すればよい。このとき上下の平面コイル導体パターンは互いに鏡像となるようなパターンとし、また上記と同様にして貫通導体パターンを形成しておく。上下の平面コイル導体パターンを接続するための貫通導体パターンを形成した伝熱用絶縁層7用グリーンシート上に、上の平面コイル導体パターンおよび平面コイル導体パターンの内周と外周との間の伝熱用絶縁層パターンを形成し、下の平面コイル導体パターンおよび平面コイル導体パターンの内周と外周との間の伝熱用絶縁層パターンを形成したフェライト磁性体層2用グリーンシート上に積層してもよい。
伝熱用絶縁層7の開口部7aは、伝熱用絶縁層7をグリーンシートで形成する場合はグリーンシートを金型などを用いて所定形状に打抜くことにより設けることができ、伝熱用絶縁層7用ペーストを用いて形成する場合は、印刷する際のパターン形状を開口部7aを有するものにすればよい。
配線層6の内部配線層6a,搭載用電極6bおよび電極パッド6dとなる配線パターンは、絶縁層1用グリーンシートの表面に配線層6用導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷して形成される。貫通導体6cとなる配線パターンは、内部配線層6a,搭載用電極6bおよび電極パッド6dとなる配線パターンの形成に先立って絶縁層1用グリーンシートにパンチング加工やレーザ加工等により貫通孔を形成し、この貫通孔に印刷やプレス充填等の埋め込み手段によって配線層6用導体ペーストを充填することで形成される。
平面コイル導体3となるコイルパターンも同様に、フェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に平面コイル導体3用導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷して形成され、フェライト磁性体層2内の貫通導体となる配線パターンも上記貫通導体6cとなる配線パターンと同様にして形成される。平面コイル導体3用導体ペーストは配線層6用導体ペーストと同じものを用いればよい。
平面コイル導体3となるコイルパターンは、要求されるインダクタンス値やサイズにもよるが、上記のように印刷により形成する場合は線幅および隣接する外周と内周の導体間距離が0.1mm程度以上であれば容易に形成できる。できるだけ小さい面積でコイルの巻き数を多くするためには、線幅を0.1〜1mm程度にし、導体間距離を0.1〜0.2mm程度にすればよい。
配線層6用導体ペーストおよび平面コイル導体3用導体ペーストは、主成分の金属粉末に有機バインダー,有機溶剤,必要に応じて分散剤等を加えてボールミル,三本ロールミル,プラネタリーミキサー等の混練手段により混合および混練することで作製される。
導体ペーストの有機バインダーは、従来より導体ペーストに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダーがより好ましい。
導体ペーストの有機溶剤は、上記した金属粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、テルピネオールやブチルカルビトールアセテートおよびフタル酸等が使用可能である。
配線層6の内部配線層6a,搭載用電極6bおよび電極パッド6dとなる配線パターンを形成するための配線層6用導体ペーストや平面コイル導体3用導体ペーストは、金属導体粉末100質量部に対して有機バインダーを3〜15質量部、有機溶剤を10〜30質量部加えて混練することにより、印刷により導体ペーストの滲みやかすれ等の不具合が発生せず良好に所定形状のパターン形成ができる程度の粘度となるようにすることが望ましい。
貫通導体6cとなる配線パターンを形成するための導体ペーストは、溶剤量や有機バインダー量により、内部配線層6a,搭載用電極6bおよび電極パッド6dとなる配線パターンを形成するための配線層6用導体ペーストや平面コイル導体3用導体ペーストに対して比較的流動性の低いペースト状に調整し、貫通孔への充填を容易にし、かつ加温硬化するようにするとよい。また、焼結挙動の調整のために金属導体粉末にガラスやセラミックスの粉末を加えた無機成分としてもよい。
絶縁層1を非磁性フェライトで形成する場合には、搭載用電極6bや電極パッド6dのような絶縁層1の外表面に形成される配線層6を形成するための配線層6用導体ペーストには、ZnO,CuO,MgO,CoO,NiO,MnO,FeO等の2価の金属酸化物の粉末を添加することが望ましい。2価の金属酸化物を添加することで、外表面の配線層6を非磁性フェライトを主成分とする絶縁層1に強固に接合させることができる。
コイルパターンが形成されたものを含む所定枚数のフェライト磁性体層2用グリーンシートの上下にそれぞれ配線パターンが形成された所定枚数の絶縁層1用グリーンシートを配置して積層体を作製し、この積層体を焼成することによりコイル内蔵基板が作製される。
伝熱用導体層4および放熱用導体層5は、配線層6と同様にCu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるものである。伝熱用導体層4は、内部配線層6a等の形成に用いる配線層6用導体ペーストを、スクリーン印刷法やグラビア印刷法等により絶縁層1用グリーンシートまたはフェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に所定パターン形状に塗布し、これらとともに同時焼成して形成される。放熱用導体層5は、後述するようにして絶縁層1用グリーンシートとフェライト磁性体層2用グリーンシートとの積層体を作製した後に、搭載用電極6bや電極パッド6dのような絶縁層1の外表面に形成される配線層6用導体ペーストと同様の導体ペーストを、スクリーン印刷法やグラビア印刷法等により積層体の側面に所定パターン形状に塗布し、これらとともに同時焼成して形成される。多数個取りの形態で作製する場合は、各基板の境界に貫通もしくは貫通しない孔部を形成した積層体を作製し、基板の側面となる孔部内面に導体ペーストを塗布してもよいし、充填して同時焼成した後に分割してもよいし、多数個取りの積層体を焼成して分割した後に露出した側面に導体ペーストを塗布して焼き付けてもよい。
放熱用導体層5の表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)を配線層6(搭載用電極6bや電極パッド6d)より大きくするには、導体ペーストに用いる金属粉末に粒径の大きいものを用いて形成すればよい。例えば、配線層6,平面コイル導体3または伝熱用導体層4の形成に用いる導体ペーストに5μm程度の金属粉末を用いるのに対して、放熱用導体層5の形成に用いる導体ペーストには10μm程度以上の金属粉末を用いればよい。
また、放熱用導体層5の表面に凹凸のある形状とするには、例えば導体ペーストを塗布した後に型を押し付けるなどして、溝の列あるいは多数の点状の凸部または凹部といった形状の凹凸を形成すればよい。
伝熱用貫通導体8は、伝熱用導体層4となる伝熱用導体層パターンの形成に先立ってフェライト磁性体層2用グリーンシートにパンチング加工やレーザ加工等により貫通孔を形成しておき、この貫通孔に印刷やプレス充填等の埋め込み手段によって貫通導体6c用の導体ペーストを充填し、これらと同時焼成することで形成される。貫通導体6cと伝熱用貫通導体8とが同一の層に形成される場合は、同時に貫通孔の形成およびペーストの充填を行なえばよい。伝熱用貫通導体8を基板の主面(下面)まで延ばす場合は、同様にして、表層の配線パターンおよび放熱用導体層5となる放熱用導体層パターンの形成に先立って絶縁層1用グリーンシートに伝熱用貫通導体8a用の貫通孔を形成しておき、この貫通孔に導体ペーストを充填しておけばよい。
伝熱用貫通導体8aの横断面積をフェライト磁性体層2側より基板の主面側の方を大きくするには、主面側のグリーンシートに形成する貫通孔を大きいものにすればよい。また、図15(b)に示すように段差なしにフェライト磁性体2から基板の主面にかけて徐々に大きい形状とする場合は、上下で径の異なる貫通穴を形成すればよく、グリーンシートを打抜く金型のクリアランスを大きめにしたり、レーザの出力等を調節したりすることで可能である。
積層体を作製する方法は、積み重ねた絶縁層1用グリーンシートとフェライト磁性体層2用グリーンシートとに熱と圧力とを加えて熱圧着する方法や、有機バインダー,可塑剤,溶剤等からなる密着剤をシート間に塗布して熱圧着する方法等が採用可能である。積層の際の加熱加圧の条件は、用いる有機バインダー等の種類や量により異なるが、概ね30〜100℃および2〜20MPaである。
積層体の焼成は、300〜600℃の温度で脱バインダーした後、800〜1000℃の温度で焼成することにより行なわれる。焼成雰囲気としては、平面コイル導体3やその他の配線がAg等の酸化しにくい材料から成る場合は大気中にて行なわれ、Cu等の酸化しやすい材料から成る場合は、窒素雰囲気が用いられ、脱バインダーしやすいように加湿したものが用いられる。
焼成後のコイル内蔵基板の表面に形成された搭載用電極6b,電極パッド6dおよび放熱用導体層5には、半導体チップやチップ部品、または外部電気回路との半田等による接合を強固なものにするために、その表面にニッケル層および金層をめっき法により順次被着するとよい。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、平面コイル導体3と同一平面上の外側に形成した伝熱用導体層4だけでなく、この伝熱用導体層4の上下に位置するフェライト磁性体層2内にも伝熱用導体層4を形成して放熱性をより向上させてもよい。
本発明の実施例1との比較のために、従来構成として、実施例1の試料に対して図10に示すような伝熱用導体層4および放熱用導体層5を有さないものとした以外は、実施例1と同様にしてコイル内蔵基板を作製した。
実施例1および比較例のコイル内蔵基板は、セラミック基板上に半田を用いて実装した。実施例1のコイル内蔵基板は、側面および下面の放熱用導体層5とセラミック基板上の接続導体とも半田で接合した。
セラミック基板上に実装した状態で平面コイル導体3に電気的に接続された基板の表面の通電用表層配線層にプローブを当て、直流電源装置(菊水電子工業製「PMC18−3A」)により平面コイル導体3に5Vで1Aの電流を10秒間通電した後に、基板表面の温度測定用の表層配線層上の温度を測定した。温度の測定は、非接触式の放射温度計(キーエンス製「FT−H10」)を用いて測定した。
その結果、実施例1の基板の表層配線層上の温度は50℃であったのに対して、比較例の基板の表層配線層上の温度は80℃であった。これにより、比較例に対して実施例1のコイル内蔵基板は、平面コイル導体3に発生した熱を伝熱用導体層4および放熱用導体層5を介して基板の側面から良好に放熱することのできるコイル内蔵基板とすることができることが確認できた。