JP4817087B2 - 生理活性抽出物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は植物由来の新規な生理活性抽出物、とりわけ、生アイの酢酸エチル可溶成分を含有する生理活性抽出物並びにその製造方法及び用途に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アイは、ベトナム南部を原産地とする、双子葉植物離弁花類に分類されるタデ科の一年生草本である。我国には、藍染の染料植物として、染色技法とともに紀元7世紀以前に中国から渡来したとされ、現在でも徳島県を中心に栽培が続けられている。アイの葉及び果実には有用な生理活性成分が含まれているとされ、アイの葉及び果実を陽乾して得られる藍葉及び藍実は、古来、生薬として用いられている。しかしながら、水野瑞夫監修、『日本薬草全書』、平成7年2月22日、新日本法規出版株式会社発行、5乃至7頁に記載されているように、アイの生理作用としては、僅かに、消炎作用、解熱作用及び解毒作用が知られているにすぎず、しかも、その生理作用は藍葉及び藍実を温湯中で浸出して服用する煎薬の形態において顕現するものであった。
【0003】
ところで、衣食住にさしたる不自由がなくなった昨今においては、成年層を含めて、健康に対する関心が驚くべき高まりを見せている。とりわけ、医師の処方なく手軽に常用できる生薬に対する関心はことのほか高く、このことは、生薬に関する文献が多数著されたり、生薬を配合した多種多様の健康食品や健康補助食品が食料品店や薬局に溢れていることからも窺われる。生薬は、一般に、作用が穏やかで、副作用が少ないという利点はあるものの、感受性が個体によって区々であるという問題がある。したがって、既存の生薬に感受性を示さない多くのユーザーの要望に答えるためにも、多彩な生理作用を具備する新規な生薬の開発が希求されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
斯かる状況に鑑み、この発明は、多彩な生理作用を有する、植物由来の新規生理活性抽出物の提供を課題とする。
【0005】
加えて、この発明は、斯かる生理活性抽出物の製造方法の提供を課題とする。
【0006】
さらに加えて、この発明は、斯かる生理活性抽出物を含んでなる生理活性組成物の提供を課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者が鋭意検索したところ、アイ由来の新規な生理活性抽出物、すなわち、生アイを有機溶剤に浸漬して酢酸エチル可溶成分を抽出し、採取して得られる抽出物は、ヒトを含む哺乳類において、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、ラジカル捕捉作用、アポトーシス調整作用、サイトカインの産生調整ないしは阻害作用及び一酸化窒素合成酵素の発現抑制作用を含む多彩な生理作用を発揮する事実を突き止めた。しかも、この抽出物は哺乳類において毒性を示さず、したがって、ヒトを対象とする食品、化粧品及び医薬品に用いて安全であることが判明した。
【0008】
すなわち、この発明は、前記第一の課題を、生アイの酢酸エチル可溶成分を含有する生理活性抽出物を提供することにより解決するものである。
【0009】
この発明は、前記第二の課題を、生アイを有機溶剤に浸漬して酢酸エチル可溶成分を抽出し、採取することを特徴とする生アイの酢酸エチル可溶成分を含有する生理活性抽出物の製造方法を提供することにより解決するものである。
【0010】
この発明は、前記第三の課題を、生アイの酢酸エチル可溶成分を含有する生理活性抽出物を含んでなる生理活性組成物を提供することにより解決するものである。
【0011】
前述のとおり、アイの陽乾物である藍葉及び藍実の水抽出物が消炎作用、解熱作用及び解毒作用を発揮することは公知である。しかしながら、生アイそのものを有機溶剤で処理して得られる酢酸エチル可溶成分が、ヒトを含む哺乳類において、前述のごとき多彩な生理作用を発揮するということは全く予想外の知見であった。この発明は、斯かる独自の知見に基づくものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
この発明の実施の形態について説明するに、この発明は、双子葉植物離弁花類に分類され、タデ科の一年生草本であるアイ(学名「ポリゴナム・ティンクトリウム」)を対象とするものである。この発明でいう生アイとは、実質的に乾燥したり腐敗していない、生きた植物体としてのアイを意味する。アイが斯かる状態のものであるかぎり、生アイはアイの植物体全体であっても、葉、茎、果実などの植物体における特定の部分であってもよい。最も望ましいのは新鮮な地上部であり、とりわけ、結実期以前のものが好適である。
【0013】
この発明の生理活性抽出物は、生アイを有機溶剤に浸漬して酢酸エチル可溶成分を抽出し、採取することによって調製することができる。例えば、アイの新鮮な地上部の一部又は全体を水洗などにより異物を除去し、必要に応じて、細断、破砕及び/又は圧搾した後、適量の有機溶剤、通常、体積において生アイの1乃至100倍の有機溶剤に浸漬し、必要に応じて、加温しながら0.1乃至100時間抽出する。有機溶剤には、比較的低分子量の、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、メチルエーテル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、n−ヘキサン、アセトン及び酢酸エチルなどの親水性有機溶剤及び疎水性有機溶剤が用いられ、必要に応じて、これらは組合せて用いられる。なお、この発明の生理活性抽出物を実質的に精製することなく用いる場合には、酢酸エチル可溶成分の抽出効率はやや低下するものの、エタノール又はエタノール/水混液を用いて抽出するのが望ましい。
【0014】
斯くして得られる生理活性抽出物は調製したそのままの形態で用いることもできるが、通常、使用に先立ち、濾過、分液、分別沈澱、傾斜及び/又は遠心分離などにより不溶分を除去した後、抽出に用いた有機溶剤の種類によってはその有機溶剤を留去する。そして、生理活性抽出物の最終用途により、例えば、高度に精製した調製物が必要とされる医薬品などに用いる場合には、必要に応じてさらに精製し、酢酸エチル可溶成分を個々に分離して使用することもできる。精製方法としては、例えば、インドール誘導体や、フラボン化合物、ポルフィリン系化合物の精製に通常用いられる、塩析、透析、濾過、濃縮、分液、分別沈澱、傾斜、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー及び結晶化などが挙げられ、必要に応じて、これらは適宜組合せて用いられる。抽出に用いる有機溶剤の種類にもよるが、この発明の生理活性抽出物は、酢酸エチル可溶成分として、例えば、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、及び/又は3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンを固形分重量当りそれぞれ0.01%以上含有する。これらの化合物は、後記実験例に詳述する方法により分離ないしは単離し、同定することができる。また、この発明の生理活性抽出物は、酢酸エチル可溶成分として、さらに、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド(慣用名「フェオフォルバイドa」)や、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド メチルエステル(慣用名「メチルフェオフォルバイドa」)などのポルフィリン系化合物を含有する場合がある。これらの化合物は、例えば、その呈色性、より詳細には、深緑色の呈色を指標として、シリカゲルなどを用いる通常の吸着クロマトグラフィー及び結晶化を中心とする方法により分離ないしは単離することができる。これら化合物は、常法にしたがって、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、赤外吸収スペクトル、1H−核磁気共鳴分光法、13C−核磁気共鳴分光法などにより分析し、得られた結果を、市販の試薬などの形態で入手される標準試料を同様にして分析して得られる結果と比較するか、あるいは、『テロラヒドロン』、第52巻、第3号、849乃至860頁(1996年)や、『テトラヒドロン・レターズ』、第31巻、第8号、1165乃至1168頁(1990年)などに記載された分析値と比較することにより同定することができる。
【0015】
以上の化合物は、ヒトを含む哺乳類において顕著な抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、ラジカル捕捉作用、アポトーシス調整作用及び/又はサイトカインの産生調整作用ないしは産生阻害作用を発揮する。これらの化合物は、発揮する生理作用の強さと作用スペクトルの点で特徴を有する場合がある。例えば、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリンや、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、メチルフェオフォルバイドaなどは互いに同程度の比較的強い抗ウイルス作用を発揮し、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリンやフェオフォルバイドaなどは互いに同程度の比較的強い抗腫瘍作用を発揮し、没食子酸やカフェ酸などは互いに同程度の比較的強いラジカル補足作用を発揮するという特徴がある。したがって、個々の成分を配合使用することが許容される食品を含む諸分野においては、分離された個々の成分は、抽出したときのそれぞれの存在比率に基づいて配合するのが望ましい。斯かる形態において、当該生理活性抽出物は、極めて多彩な生理作用を発揮する実益がある。一方、注射剤などの医薬品に配合する場合には、対象となる感受性疾患に応じて選択される1又は複数の成分を分離するか又は分離することなく適宜配合すればよい。なお、以上に述べた調製方法は、この発明の生理活性抽出物を得るための望ましい例であって、当該生理活性抽出物は、上述のごとき生アイの酢酸エチル可溶成分を含有するかぎり、その調製方法により限定されるものではない。
【0016】
生アイの酢酸エチル可溶成分を含有するこの発明の生理活性抽出物は、少なくとも、
(1) 胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍及び胃癌の原因菌とされるヘリコバクター・ピロリを初めとする諸種のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の増殖を抑制する性質、
(2) インフルエンザウイルス、水泡性口内炎ウイルス、単純性疱疹ウイルス、ワクシニアウイルス及びサイトメガロウイルスを含む諸種の病原ウイルスの増殖を抑制する性質、
(3) 白血病細胞、胃癌細胞及び肺癌細胞を含む難治性腫瘍を構成する腫瘍細胞の増殖を抑制する性質、
(4) 悪性腫瘍、心筋梗塞、脳卒中、リウマチ、生活習慣病(成人病)、腎障害などの疾病や、ストレス、老化の原因とされる、活性酸素や過酸化脂質に由来する生体内のラジカルを捕捉する性質、
(5) 生体において、正常又は異常なB細胞、T細胞、神経細胞、消化管上皮細胞、消化管幹細胞、血管内皮細胞、皮膚細胞などに作用し、それらの細胞のアポトーシスを本来あるべき正常な状態に調整することによって、細胞の異常なアポトーシスに起因する消化器、循環器、眼、耳、鼻、咽喉、皮膚、神経、骨における諸疾患を治療・予防する性質、
(6) インターフェロン−γ及びインターロイキン−10を含む、1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)との生体におけるバランスの決定に関与するサイトカインの免疫担当細胞による産生を調整し、生体における該バランスが本来あるべき正常な状態となるように調整することによって、該バランスの異常に起因する、自己免疫疾患、肝障害、腎障害、膵障害、移植片対宿主病等の諸疾患を治療・予防する性質
及び
(7) サイトカインや内毒素の刺激などにより誘導される、生体内の細胞による一酸化窒素合成酵素の発現を抑制して、該酵素の作用による一酸化窒素の生成を抑制することにより、生体内での過剰な一酸化窒素が関連する、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、炎症性疾患、悪性腫瘍、腎障害、肺障害等の諸疾患を治療・予防する性質
のうちの1種又は2種以上の性質をそれぞれ具備しており、ヒトを含む哺乳類において多彩な生理作用を発揮する。上記1乃至6の生理作用は後記実験例に示す方法により確認することができる。一酸化窒素合成酵素の発現抑制作用は、例えば、インターフェロン−γ及びリポポリサッカライドの存在下で培養したとき誘導される、マウス腹腔マクロファージ又は該マクロファージ起源の細胞株などによる該酵素(一般に、「誘導型一酸化窒素合成酵素」又は「iNOS」とも呼ばれる。)の発現に及ぼす当該生理活性抽出物の添加の影響を、該酵素に対する抗体を用いる常法により試験することにより確認することができる。また、この培養系における一酸化窒素の量をグリース法など常法により調べれば、該酵素の発現抑制による一酸化窒素の生成抑制効果も確認できる。以上のような生理作用に加えて、当該生理活性抽出物は、生体における腫瘍の増殖に深く関わるとされる血管新生を抑制する作用を発揮する場合がある。さらに当該生理活性抽出物は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、真菌、ウイルス等の微生物による感染や、蛋白質、有機化合物、金属等の生体にとっての異物の侵入ないしは接触、さらには、腫瘍の発生などにより惹起される炎症を伴う生体組織の障害に対して、インターフェロン−γやインターロイキン−1を含む炎症性サイトカインの産生の抑制などを通してその炎症を抑制するよう生体機能を調整する性質を発揮する場合がある。以上のように多彩な生理作用故に、当該生理活性抽出物は、諸疾患への罹患に起因する睡眠障害を改善する性質も併せもっている。したがって、この発明の生理活性抽出物は、健常者及び傷病者において、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、ラジカル捕捉作用、アポトーシス調整作用、サイトカインの産生調整ないしは産生阻害作用、一酸化窒素合成酵素の発現抑制作用、血管新生抑制作用、睡眠障害改善作用及び/又は生体機能調整作用を穏やかに発揮する生薬として、例えば、食品分野、化粧品分野及び医薬品分野において有利に用いることができる。
【0017】
個々の分野における用途について詳述すると、食品分野においては、この発明の生理活性抽出物とともに、その摂取を容易ならしめる、例えば、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、脂肪酸、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、香辛料、防腐剤のごとき食品に通常用いられる原料及び/又は素材の1又は複数とともに配合し、食品としての個々の使用形態に応じて溶液状、懸濁状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状、粉末状、顆粒状、あるいは、それ以外の所望の形状に成形された固形状に調製する。食品としてのこの発明の生理活性組成物は、通常、当該生理活性抽出物を0.01%(w/w)以上、望ましくは、0.1%(w/w)以上含有する。
【0018】
食品としての個々の形態としては、例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のたれ、カレールー、中華の素、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなどの調味料、せんべい、あられ、おこし、花林糖、求肥、餅、まんじゅう、ういろう、あん、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの和菓子、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナッツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデー、グミゼリーなどの洋菓子、アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベットなどの氷菓、氷蜜などのシロップ、バタークリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのスプレッド及びペースト、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖菓などの加工果実及び加工野菜、パン、麺、米飯、人造肉などの穀類加工食品、サラダオイル、マーガリンなどの油脂食品、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素、ハム、ソーセージなどの畜肉製品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、ハンペンなどの魚肉製品、ウニの塩辛、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、フグのみりん干しなどの珍味、農産物、畜産物及び水産物から製造される煮物、焼物、炒め物、揚げ物、蒸し物、あえ物などの惣菜、えびフライ、コロッケ、シューマイ、ぎょうざ、春巻、ハンバーグステーキ、ミートボール、フィッシュハンバーグ、フィッシュボールなどの冷凍調理食品、ハンバーグ、ミートボール、赤飯、牛めし、とり釜めし、玄米がゆ、カレー、ミートソース、ドミグラスソース、ポタージュスープ、コンソメスープ、シチュー、おでん、八宝菜、煮豆、焼鳥、茶碗蒸し、ゆで栗、野菜の水煮などのレトルト食品、錦糸卵、乳飲料、バター、チーズなどの卵製品及び乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜などの瓶詰及び缶詰、合成酒、醸造酒、果実酒、洋酒などの酒類、コーヒー、ココア、ジュース、茶、紅茶、ウーロン茶、ミネラル飲料、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席しるこ、即席スープなどの即席食品が挙げられる。なお、この発明の生理活性抽出物は生体内に発生することあるラジカルを捕捉する性質があるので、生活習慣病や、発癌、老化の防止を目的とする健康食品や健康補助食品において特に有用である。また、この発明の生理活性組成物は、ヒトが摂取する食品のみならず、家畜、家禽、蜜蜂、蚕及び魚を含む飼育動物のための飼料及び餌料にも配合することができる。
【0019】
化粧品の分野においては、この発明の生理活性抽出物とともに、その摂取を容易ならしめる、例えば、油性基剤、水性基剤、着香剤、着色剤、染料、清涼剤、湿潤剤、エモリエント剤、乳化剤、ゲル化剤、増粘剤、柔軟剤、可溶化剤、界面活性剤、泡安定剤、透明剤、酸化防止剤、過脂肪剤、防腐剤、被膜形成剤、噴射剤などの化粧品に通常用いられる成分や、さらには、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、エキス、血管拡張剤、血行促進剤、細胞賦活剤、殺菌剤、消炎剤、止痒剤、収斂剤、皮膚機能亢進剤、角質軟化剤などの薬剤の1又は複数とともに配合し、化粧品としての個々の使用形態に応じて、溶液状、乳液状、クリーム状、ペースト状、粉末状、顆粒状、あるいは、それ以外の所望の形状に成形された固形状に調製する。使用目的にもよるが、化粧品としてのこの発明の生理活性組成物は、通常、当該生理活性抽出物を0.005%(w/w)以上、望ましくは、0.05%(w/w)以上含有する。
【0020】
化粧品としての個々の形態としては、例えば、育毛・養毛剤、ポマード、ヘアスティック、ヘアオイル、ヘアクリーム、ヘアソリッド、ヘアリキッド、セットローション、ヘアスタイリングジェル、ウォーターグリース、ヘアブロー、エアゾール整髪料、パーマネントウェーブ液、染毛剤などの毛髪化粧品、シャンプー、ボディーシャンプー、ヘアリンス、洗髪用石鹸、化粧石鹸、クレンジングフォームなどの洗浄用化粧品、化粧水、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、口紅、ほほ紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドー、まゆずみ、マニキュア、おしろいなどの皮膚化粧品、粉歯磨、潤性歯磨、練歯磨、水歯磨、薬用歯磨、口中清涼剤、うがい薬などの口中化粧料、日焼止化粧品、髭剃り用化粧品、浴用化粧品、さらには、香水、オーデコロン、わきが止、ベビーパウダー、アイローション、漂白クリームなどが挙げられる。皮膚化粧品及び毛髪化粧品の場合、この発明の生理活性抽出物とともに、α−グルコシル・ルチン、α−グルコシル・ヘスペリジン、α−グルコシル・ナリンジンなどのα−グルコシル・バイオフラボノイドを約0.001乃至10%(w/w)配合すると、これらが皮膚に栄養補給し、新陳代謝を促進するので、この発明の生理活性抽出物が効果を発揮し易くなる。また、湿潤剤として、マルトース、トレハロース、マルチトールなどの保湿作用ある糖質又は糖アルコールの適量、望ましくは、1%(w/w)以下を配合すると、皮膚、頭皮及び毛髪が適度に潤い、この発明の生理活性抽出物が効果を発揮し易くなる。
【0021】
医薬品の分野においては、細菌性疾患、真菌症、ウイルス性疾患、悪性腫瘍、高脂血症、自己免疫疾患、虚血性心疾患を含む、生アイの酢酸エチル可溶成分に感受性を有するすべての消化器系疾患、循環器系疾患、泌尿器・生殖器系疾患、免疫系疾患、脳神経系疾患、眼系疾患、耳鼻咽喉系疾患及び皮膚系疾患を治療及び/又は予防するための医薬品として有利に用いることができる。斯かる感受性疾患の具体例としては、細菌性角膜潰瘍、細菌性結膜炎、細菌性食中毒、敗血症ショック、内毒素ショック、細菌性心内膜炎、細菌性髄膜炎、細菌性肺炎、細菌性動脈瘤及び細菌性脳動脈留を含む細菌性疾患、真菌性角膜潰瘍、真菌性髄膜炎、真菌性皮膚疾患、カンジダ症及び白癬を含む真菌症、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性肝炎、ウイルス性気管支炎、ウイルス性結腸炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性腸炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性肺炎及びエイズを含むウイルス性疾患、腎細胞癌、菌状息肉腫及び慢性肉芽種を含む固形悪性腫瘍、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、甲状腺癌、舌癌、膀胱癌、繊毛癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌、喉頭癌、肺癌、乳癌、悪性黒色腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、卵巣腫瘍、睾丸腫瘍、膵臓癌、腎癌、副腎腫、血管内皮腫、成人T細胞白血病、慢性骨髄性白血病及び悪性リンパ腫を含む血球系悪性腫瘍、活動性慢性肝炎、萎縮性胃炎、自己免疫性溶血性貧血、バセドウ病、ベーチェット症候群、クローン病、CRST症候群、寒冷凝集素性溶血性貧血、潰瘍性大腸炎、グッドパスチャー症候群、甲状腺機能亢進症、慢性甲状腺炎、肺胞炎、糸球体腎炎、特発性血小板減少性紫斑病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、白血球減少症、多発性硬化症、重症筋無力症、発作性寒冷血色素尿症、悪性貧血、多発性結節性動脈炎、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、交感性眼炎、進行性全身性硬化症、ウェジナー肉芽腫症、喘息、気管支喘息、移植片対宿主病、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症及びハチ毒アレルギーを含む自己免疫疾患並びにアレルギー性疾患ないしはウイルス性疾患、アルコール性肝炎、中毒性肝炎、劇症肝炎、ウイルス性肝硬変、アルコール性肝硬変、中毒性肝硬変、胆汁性肝硬変、脂肪肝、肝臓腫瘍及び肝血管障害を含む肝疾患、胆管炎、胆嚢炎、原発性硬化性胆管炎、胆嚢腫瘍、胆管腫瘍を含む胆嚢・胆道疾患、急性膵炎、慢性膵炎、膵機能不全、膵臓腫瘍及び膵嚢胞を含む膵疾患、虚血、虚血性心筋症、脳虚血、脳底動脈偏頭痛、脳底部異常血管網症、脳卒中、脳底部動脈瘤、動脈硬化、血管内皮障害、インスリン非依存性糖尿病、腸間膜血管閉塞症及び上腸間膜動脈症候群を含む循環器系疾患、パーキンソン病、脊髄筋肉萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、痴呆症、脳血管性痴呆症、エイズ痴呆症及び脳脊髄炎を含む神経系疾患、消化性潰瘍、消化性食道潰瘍、腸管ポリープ、腸管癒着症、腸硬直及び胃潰瘍を含む消化器系疾患、精神疾患への罹患・中枢神経抑制剤やアルコールの連用・呼吸器系の障害に起因する睡眠障害、睡眠薬の服用に伴う副作用として派生する諸症状などが挙げられる。
【0022】
医薬品の分野における当該生理活性組成物は、この発明の生理活性抽出物の有効量とともに、必要に応じて、医薬品に通常用いられる、例えば、麻酔剤、催眠鎮痛剤、抗不安剤、抗てんかん剤、解熱鎮痛消炎剤、興奮剤、覚醒剤、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、中枢神経用剤、骨格筋弛緩剤、自律神経用剤、鎮痙剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、鎮暈剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、冠血管拡張剤、末梢血管拡張剤、高脂血症剤、呼吸促進剤、鎮咳去痰剤、気管支拡張剤、アレルギー用剤、止瀉剤、整腸剤、消化性潰瘍治療剤、健胃消化剤、制酸剤、利胆剤、脳下垂体ホルモン剤、唾液腺ホルモン剤、甲状腺ホルモン剤、抗甲状腺ホルモン剤、蛋白同化ステロイド剤、副腎皮質ホルモン剤、男性ホルモン剤、卵胞ホルモン剤、黄体ホルモン剤、混合ホルモン剤、泌尿生殖器剤、肛門剤、外科用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用外用剤、鎮痛剤、鎮痒剤、収斂剤、消炎剤、寄生虫皮膚疾患外用剤、皮膚軟化剤、腐蝕剤、歯科・口腔用剤、ビタミン剤、無機質製剤、補液剤、止血剤、血液凝固阻止剤、肝臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、抗悪性腫瘍剤、抗ヒスタミン剤、刺激療法剤、抗生物質、化学療法剤、生物学的製剤、駆虫剤、抗原虫剤、調製用剤、X線造影剤及び診断用薬などの薬剤、さらには、この発明の医薬品としての摂取を容易ならしめる、例えば、補助剤、増量剤、希釈剤、賦形剤、安定剤、防腐剤、着色剤、着香剤などの1又は複数を適宜配合し、使用形態に応じて、例えば、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、坐剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、注射剤、チンキ剤、点眼剤、トローチ剤、軟膏剤、パップ剤、芳香水剤、リニメント剤、リモナーデ剤、流エキス剤、ローション剤、さらには、必要に応じて、点鼻剤、鼻噴霧剤、下気道用吸入剤、眼科用徐放剤、口腔粘膜貼付剤、浣腸剤などにする。医薬品に用いる場合の当該生理活性抽出物の投与量は、使用目的並びに投与の経路及び頻度にもよるけれども、通常、成人1日当り、0.01乃至100mgの範囲から選ばれる。
【0023】
この発明の生理活性抽出物は、上記のごとき形態の生理活性組成物の調製が完了するまでの工程において、例えば、混和、混捏、溶解、浸漬、散布、塗布、噴霧、注入などの方法により所定量を含有せしめる。なお、当該生理活性抽出物が含有しうる、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン、フェオフォルバイドa、メチルフェオフォルバイドaはいずれも公知の物質であって、合成方法が知られている場合もある。したがって、当該生理活性抽出物におけるこれらの酢酸エチル可溶成分の含量が所望のレベルに達しない場合には、別途に調製したものを配合することによって補填することができる。
【0024】
なお、上記のごとき形態の、この発明による生理活性組成物は、先に示した作用故に、上記及びそれ以外のいずれの分野に限らず、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、ラジカル捕捉剤、アポトーシス調整剤、サイトカインの産生調整剤ないしは阻害剤、一酸化窒素合成酵素の発現抑制剤として有用であることはいうまでもない。例えば、抗菌剤としての当該生理活性組成物は、上記の諸分野で有用であるのみならず、日常生活で常用する諸物品などに適用する除菌用品や抗菌用品においても極めて有用である。該用品においては、この発明の生理活性抽出物は、必要に応じて、例えば、プロポリス、ε−ポリリジン、安息香酸、パラオキシ安息香酸ブチル、安息香酸ナトリウム、グリシン、ソルビン酸カリウム、ミコナゾール、ケトコナゾール、エタノールなどの他の抗菌剤や、さらには、着香剤、着色剤、界面活性剤、緩衝剤、金属、金属塩類などと適宜配合し、適宜の溶解剤又は希釈剤などに含有せしめて利用する。斯かる抗菌用品ないし除菌用品は、微生物による汚染が懸念される、事務機器、衣類、家具、玩具、電気製品、寝具、文房具などの諸物品に塗布、散布又は噴霧するか、あるいは、これらの諸物品の製造段階で当該用品を混和、混練、溶解、注入又は浸漬せしめることにより有利に利用でき、いずれの利用形態においても所期の抗菌作用を効果的に発揮する。
【0025】
次に、この発明の生理活性抽出物の生理作用につき、実験例に基づいて説明する。
【0026】
【実験1】
〈生理活性抽出物の調製〉
島根県安来市で栽培していたアイの地上部30kgを7月に刈取り、破砕した後、酢酸エチルを30乃至60l加え、室温下で3回繰返し抽出した。抽出物を合一し、濾紙で濾過した後、濾液を採取し、エバポレーターで酢酸エチルを留去し、乾固したところ、アイの酢酸エチル可溶成分を含む抽出物が168g得られた。
【0027】
【実験2】
〈酢酸エチル可溶成分の単離〉
実験1の方法により得た抽出物を50%(v/v)水性メタノールに懸濁し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『FS−1830』、オルガノ株式会社製造)1,700mlのカラムに8回に分けて負荷し、カラムに、メタノール濃度が60%(v/v)の水性メタノール、70%(v/v)の水性メタノール、80%(v/v)の水性メタノール及び90%(v/v)の水性メタノールと、メタノール及び酢酸エチルを、この順序でゲル量に対して等量ずつ通液し、溶出液をゲル量の半量ごとに採取した。80%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した前半と後半の画分(それぞれ、「画分2」及び「画分1」という。)、60%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した後半の画分(「画分3」という。)及び、90%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した後半の画分(「画分4」という。)の溶剤をエバポレーターでそれぞれ留去し、乾固して固状物を得た。
【0028】
画分1より得た固状物5.2gのうちの2.6gをメタノール30mlに懸濁し、吸引濾過して可溶部と不溶部(876mg)に分離した。可溶部については、これをシリカゲル1,350mlのカラムに負荷し、カラムにメタノール濃度が5%(v/v)から100%(v/v)まで段階的に上昇するクロロホルム/メタノール混液を通液し、カラムからの溶出液を450mlずつ採取した。第4番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去して得られた固状物をメタノール2mlに懸濁し、吸引濾過しながら洗浄したところ、化合物1の結晶が19.4mg得られた。一方、不溶部については、これを適量のメタノールに溶解し、室温下で静置したところ、化合物2の黄色針状結晶が278mg得られた。
【0029】
画分2より得た固状物10.7gをメタノール40mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『セファデックスLH−20』、ファルマシアバイオテク製)1,520mlのカラムに負荷し、メタノールを通液して溶出液を190mlずつ採取した。第15番目及び第18番目の画分の溶剤をそれぞれエバポレーターで留去し、乾固して固状物を得た。第18番目の画分より得た固状物の400mgに約210mlのメタノール/水混液(体積比5/2)を加えて固状物を完全に溶解した。この溶液を孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下で3日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過してこの結晶を採取し、化合物3の結晶89.3mgを得た。一方、第15番目の画分より得た固状物の500mgを10mlのメタノールに懸濁した後、濾過して不溶物を採取し、これに250mlのメタノールを加えて不溶物を完全に溶解した。この溶液を孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下で7日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過してこの結晶を採取し、化合物4の結晶252.3mgを得た。
【0030】
画分3より得た固状物11.8gをメタノール40mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『セファデックスLH−20』、ファルマシアバイオテク製)1,680mlのカラムに負荷し、メタノールを通液して溶出液を560mlずつ採取した。第4番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して固状物を得た。この固状物をメタノール10mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『FS−1830』、オルガノ株式会社製造)480mlのカラムに負荷し、カラムに、メタノール濃度が0、10、20、30、40、50、60及び70%(v/v)の水性メタノールをこの順序でそれぞれ480mlずつ通液し、最後に960mlのメタノールを通液した。カラムからの溶出液は240mlずつ採取し、第5番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して150mgの固状物を得た。この固状物を、300mlの酢酸エチルに溶解し、孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下、7日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過・洗浄してこの結晶を採取し、化合物5の結晶18.7mgを得た。これとは別途、『FS−1830』のカラムから溶出された第9番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して500mgの固状物を得た。この固状物を0.5mlの酢酸エチルに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『シリカゲル60K650』、片山化学販売)40mlのカラムに負荷し、酢酸エチルとクロロホルムの体積比が2対8、3対7、4対6、5対5、6対4、7対3、8対2及び9対1の混液、クロロホルム、及びメタノールをこの順序でそれぞれ40mlずつ通液した。カラムからの溶出液は10mlずつ採取し、第17乃至21番目の画分を合一した。合一した画分を、分取用薄層(商品名『シリカゲル60F254』、メルク製、No.5717)を用い、展開相としてトルエン/酢酸エチル/酢酸混液(体積比5/5/1)を用いる薄層クロマトグラフィーに供した。展開後、Rf値約0.6に相等するシリカゲルをかき取り、これに適量のメタノールを加えて展開物を抽出した。抽出液より溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して、化合物6の結晶15.4mgを得た。
【0031】
画分4より得た固状物4.6gのうちの4gにメタノール40mlを加え、固状物を溶解させたところ、その一部は溶解せずに沈澱した。この沈澱を採取し、800mlのメタノールを加えて十分に溶解させた後、室温下で2日間静置したところ、赤色粗結晶の晶出が認められた。この粗結晶を採取する一方、上澄液を先と同様にさらに静置したところ赤色粗結晶の晶出が改めて認められた。この粗結晶を採取し、先に採取した粗結晶と合一し、適量のメタノールで洗浄した後、十分量のメタノールに溶解させた。この溶液を常法にしたがい膜濾過し、濾液の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して、化合物7の結晶44.5mgを得た。
【0032】
【実験3】
〈化合物1の同定〉
【0033】
【実験3−1】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物1につき、高速原子衝撃質量分析法(以下、「FAB−MS」と言う。)により質量スペクトルを測定したところ、m/z249([M+H]+)にピークが観察され、さらに高分解能質量解析により、m/z249.0694([M+H]+)が求められた。
【0034】
【実験3−2】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物1につき、1H−核磁気共鳴分光法及び13C−核磁気共鳴分光法(以下、それぞれ「1H−NMR」及び「13C−NMR」と言う。)により核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表1に纏めた。
【0035】
【表1】
【0036】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶成分としての化合物1を6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン(トリプタンスリン、分子式C15H8N2O2、分子量248)と同定した。化合物の構造を化1に示す。
【0037】
【化1】
【0038】
【実験4】
〈化合物2の同定〉
【0039】
【実験4−1】
〈融点〉
実験2の方法により得た化合物2につき、常法にしたがって融点を測定したところ、298℃であった。
【0040】
【実験4−2】
〈紫外線吸収スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物2につき、溶剤としてメタノールを用い、常法にしたがって紫外線吸収スペクトルを測定したところ、波長206nm、240nm、273nm及び353nmにそれぞれ吸収極大を示した。
【0041】
【実験4−3】
〈赤外線吸収スペクトル〉
粉末臭化カリウムを用いる加圧錠剤法により測定した化合物2の赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0042】
【実験4−4】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物2につき、FAB−MSにより質量スペクトルを測定したところ、m/z314(M+)にピークが観察された。
【0043】
【実験4−5】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物2につき、1H−NMR及び13C−NMRにより核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表2に纏めた。
【0044】
【表2】
【0045】
【実験4−6】
〈元素分析〉
実験2の方法により得た化合物2につき、常法にしたがって元素分析したところ、C=59.2%、H=3.4%、O=37.4%、N<0.3%であった。この結果から化合物2の実験式はC16H10O7・3/5H2Oと求められた。
【0046】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶成分としての化合物2を3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン (分子式C16H10O7、分子量314)と同定した。化合物2の構造を化2に示す。
【0047】
【化2】
【0048】
【実験5】
〈化合物3の同定〉
【0049】
【実験5−1】
〈薄層クロマトグラフィー〉
実験2の方法により得た化合物3と、クロロゲン酸、ケルセチン、ケンフェロール、フェルラ酸、けい皮酸、クマル酸、ガランギン及びピノセンブリン(いずれもシグマ製)とを、それぞれ、通常の薄層クロマトグラフィーに供した。薄層にはシグマ製の『キーゼルゲル60F254』を、展開溶媒にはトルエン/酢酸エチル/酢酸混液(体積比8/1/1)を用い、展開後254nmの紫外線を照射して発色させた。その結果、化合物3のRf値は、フラボノイドの一種であるケンフェロールのRf値とよく一致した。
【0050】
【実験5−2】
〈融点〉
実験2の方法により得た化合物3につき、常法にしたがって融点を測定したところ、277℃であった。
【0051】
【実験5−3】
〈紫外線吸収スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物3につき、溶剤としてメタノールを用い、常法にしたがって紫外線吸収スペクトルを測定したところ、波長265nm及び365nmに吸収極大を、波長320nmにショルダー様の吸収極大を示した。
【0052】
【実験5−4】
〈赤外線吸収スペクトル〉
粉末臭化カリウムを用いる加圧錠剤法により測定した化合物3の赤外線吸収スペクトルを図2に示す。
【0053】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶成分としての化合物3をケンフェロール(分子式C15H10O6、分子量286)と同定した。化合物3の構造を化3に示す。
【0054】
【化3】
【0055】
【実験6】
〈化合物4の同定〉
【0056】
【実験6−1】
〈融点〉
実験2の方法により得た化合物4につき、常法にしたがって融点を測定したところ、272℃であった。
【0057】
【実験6−2】
〈紫外線吸収スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物4を、常法にしたがい、溶剤にメタノール(溶剤1)、ナトリウムメチラートを含むメタノール(溶剤2)、無水塩化アルミニウムを含むメタノール(溶剤3)、又は無水塩化アルミニウム及び塩酸を含むメタノール(溶剤4)を用いて、紫外線吸収スペクトルを測定した。各溶剤の条件下で吸収極大を示した波長を表3に纏めた。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示す結果から、化合物4が、3位、7位及び4´位あるいは3位、5位、7位及び4´位に水酸基を有するフラボノールに属する化合物であることが示唆された。
【0060】
【実験6−3】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物4につき、1H−NMR及び13C−NMRにより核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表4に纏めた。
【0061】
【表4】
【0062】
【実験6−4】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物4を常法にしたがい、電子イオン化質量分析法(EI−MS)により質量スペクトルを測定したところ、m/z316(M+)にピークが観察され、さらに高分解能質量解析により、m/z316.0486(M+)が求められた。
【0063】
【実験6−5】
〈赤外線吸収スペクトル〉
粉末臭化カリウムを用いる加圧錠剤法により測定した化合物4の赤外線吸収スペクトルを図3に示す。
【0064】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶性画分としての化合物4を3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン(分子式C16H12O7、分子量316)と同定した。本化合物の構造を化4に示す。
【0065】
【化4】
【0066】
【実験7】
〈化合物5の同定〉
【0067】
【実験7−1】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物5を常法にしたがい、電子イオン化質量分析法(EI−MS)により質量スペクトルを測定したところ、m/z170(M+)にピークが観察された。
【0068】
【実験7−2】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物5につき、1H−NMR及び13C−NMRにより核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表5に纏めた。
【0069】
【表5】
【0070】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶性画分としての化合物5を没食子酸(分子式C7H6O5、分子量170)と同定した。本化合物の構造を化5に示す。
【0071】
【化5】
【0072】
【実験8】
〈化合物6の同定〉
【0073】
【実験8−1】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物6を常法にしたがい、電子イオン化質量分析法(EI−MS)により質量スペクトルを測定したところ、m/z180(M+)にピークが観察された。
【0074】
【実験8−2】
〈赤外吸収スペクトル〉
粉末臭化カリウムを用いる加圧錠剤法により測定した化合物6の赤外線吸収スペクトルを図4に示す。公知の化合物の赤外吸収スペクトルと比較したところ、図4に示すスペクトルはカフェ酸のものとよく一致した。
【0075】
【実験8−3】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物6につき、1H−NMR及び13C−NMRにより核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表6に纏めた。
【0076】
【表6】
【0077】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶性画分としての化合物6をカフェ酸(分子式C9H8O4、分子量180)と同定した。本化合物の構造を化6に示す。
【0078】
【化6】
【0079】
【実験9】
〈化合物7の同定〉
【0080】
【実験9−1】
〈質量スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物7を常法にしたがい、電子イオン化質量分析法(EI−MS)により質量スペクトルを測定したところ、m/z262(M+)にピークが観察された。
【0081】
【実験9−2】
〈赤外吸収スペクトル〉
粉末臭化カリウムを用いる加圧錠剤法により測定した化合物7の赤外線吸収スペクトルを図5に示す。公知の化合物の赤外吸収スペクトルと比較したところ、図5に示すスペクトルは、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンのものとよく一致した。
【0082】
【実験9−3】
〈核磁気共鳴スペクトル〉
実験2の方法により得た化合物7につき、1H−NMR及び13C−NMRにより核磁気共鳴スペクトルを測定した。各核磁気共鳴スペクトルにおいて観察されたシグナルの化学シフト並びに水素原子及び炭素原子の帰属を表7に纏めた。
【0083】
【表7】
【0084】
以上の実験結果に基づき、生アイの酢酸エチル可溶性画分としての化合物7を3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン (インディルビン、分子式C16H10N2O2、分子量262)と同定した。本化合物の構造を化7に示す。
【0085】
【化7】
【0086】
【実験10】
〈抗菌作用〉
後記表8に示す、実験1及び実験2の生理活性抽出物につき、画線塗末を用いる寒天平板希釈法により表6に示す細菌に対する最小生育阻止濃度(MIC)を調べた。培地としては、ヘリコバクター・ピロリの場合のみ、1.5%(w/v)寒天、0.1%(w/v)グルコース及び7%(v/v)無菌ウマ脱繊血をそれぞれ含むブルセラブロス(BBL)を用い、その余の細菌の場合には、通常の感性ディスク用培地を用いた。結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
表8の結果は、この発明の生理活性抽出物が諸種のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の増殖を阻害することを物語っている。化合物1、3及び4はとりわけ阻害活性が強く、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍及び胃癌の原因菌であるとされるヘリコバクター・ピロリの増殖を顕著に阻害した。
【0089】
【実験11】
〈抗ウイルス作用〉
常法にしたがって、ヒト羊膜由来の樹立細胞であるFL細胞(ATCC CCL62)をマイクロプレート上で単層培養し、培養上清を除去した後、水泡性口内炎ウイルス(VSV)を0.1プラーク形成単位/細胞の割合で吸着させた。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した、後記表9に示す、実験1及び実験2の生理活性抽出物を種々の濃度で加え、37℃で24時間インキュベートし、凍結解凍を繰返してFL細胞を破壊した後、遠心分離してVSVを含有する上清を採取した。
【0090】
その後、標的細胞としてマウス由来の線維芽細胞の1種であるL929細胞(RCB0081)を用い、ウイルスの細胞変性効果(CPE)を指標とする通常の方法により抗ウイルス活性を調べるとともに、各生理活性抽出物の50%増殖阻害濃度を求めた。結果を表9に示す。
【0091】
【表9】
【0092】
表9に示すように、この発明の生理活性抽出物に、病原ウイルスに対する抗ウイルス作用が認められた。一方、上記ウイルスの非存在下で、上記で求められた50%増殖阻害濃度の各生理活性抽出物の存在下または非存在下で、FL細胞を常法にしたがい培養したところ、いずれの培養条件においても当該細胞の増殖・生育には顕著な差が認められなかった。また、上記のCPEを指標とする方法か又はプラーク形成を指標とする通常の方法により、単純疱疹ウイルス(HSV−1)、インフルエンザウイスル、ワクシニアウイルス(VV)およびマウスサイトメガロウイルス(MCMV)に対する抗ウイルス作用も調べた。その結果、これらの病原ウイルスに対しても、この発明の生理活性抽出物は上記VSVに対するのと同等ないしはそれ以上の顕著な抗ウイルス作用を示すことが確認された。なお、詳細なデータは割愛するけれども、上記で調べた以外の、実験2の方法で得たこの発明の生理活性抽出物にも、上記と同様の抗ウイルス作用が確認された。以上のことは、この発明の生理活性抽出物がヒトを含む動物における病原ウイルスに対し顕著な抗ウイルス作用を発揮することを示している。
【0093】
【実験12】
〈抗腫瘍作用〉
被験試料として、後記表10に示す、実験1及び実験2の生理活性抽出物のいずれかをDMSOに10mg/mlになるように溶解し、これを10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI−1640培地(pH7.2)により50倍希釈し、マイクロプレート(96ウェル)に100μl/ウェルずつ分注した後、上記と同様のRPMI−1640培地(pH7.2)を用いて系列希釈した。
【0094】
別途、ヒト骨髄性白血病患者由来のHL−60細胞(ATCC CCL−240)、ヒト胃癌患者由来のHGC−27細胞(RCB0500)及びヒト肺腺癌患者由来のHLC−1細胞(RCB0083)を上記と同様のRPMI−1640培地(pH7.2)に、細胞密度がそれぞれ、4×105個/ml、4×105個/ml及び2×106個/mlになるように浮遊させ、マイクロプレートに50μl/ウェルずつ分注した後、5%CO2インキュベーター中、37℃で48時間培養した。次いで、25%(v/v)グルタルアルデヒド水溶液を20μl/ウェルずつ加え、15分間静置して細胞を固定し、水洗した後、0.05%(w/v)メチレンブルー水溶液を100μl/ウェル加え、さらに15分間静置して細胞を染色した。その後、常法にしたがって、水洗により過剰な染色液を除き、乾燥し、0.33N塩酸を300μl/ウェルずつ加え、充分に攪拌した後、波長620nmにおける吸光度を測定した。併行して、被検試料を省略した系を設け、これを被検試料と同様に処置して対照とした。抗腫瘍作用の指標には50%増殖阻害濃度(IC50)を採用し、対照における細胞増殖の度合を100%としてIC50を算出した。結果を表10に示す。
【0095】
【表10】
【0096】
表10の結果は、この発明の生理活性抽出物が難治性悪性腫瘍であるとされる白血病、胃癌及び肺癌を構成する腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することを物語っている。化合物1の抗腫瘍作用は特に強く、化合物2の10倍以上にも達した。なお、詳細なデータは割愛するけれども、上記で調べた以外の、実験2の方法で得たこの発明の生理活性抽出物にも、上記と同様の抗腫瘍作用が確認された。以上のことは、この発明の生理活性抽出物がヒトを含む哺乳類における悪性腫瘍の治療・予防に効果があることを示している。
【0097】
【実験13】
〈ラジカル捕捉作用〉
後記表11に示す、実験1及び2の生理活性抽出物によるラジカル捕捉作用を、今成登志男ら、『医学のあゆみ』、第101巻、496乃至497頁(1977年)に記載の「ニトロブルー・テトラゾリウム(NBT)法」にしたがって調べた。すなわち、キサンチンオキシダーゼの作用によりキサンチンからスーパーオキシドを生成させる反応と、生成したスーパーオキシドの酸化力によりNBTをホルマザンに変換する反応の共役反応系に被験試料を共存させ、生成したホルマザンを分光分析により定量した。被験試料として、生理活性抽出物のいずれかを精製水に適宜の濃度に溶解して得た溶液を用いた。また、被験試料に代えて精製水を用いる系を設け、同様に処置して対照とした。対照におけるホルマザンの生成を50%阻害する活性をラジカル捕捉作用の活性1単位と定義し、各化合物につき重量1g当りの活性を求めた。結果を表11に示す。
【0098】
【表11】
【0099】
表11の結果に見られるように、この発明の生理活性抽出物は顕著なラジカル捕捉作用を示した。とりわけ、実験1の生理活性抽出物と実験2の化合物5及び化合物6のラジカル捕捉作用は顕著であった。このことは、この発明の生理活性抽出物が、活性酸素や過酸化脂質に由来する生体内のラジカルを効果的に捕捉する性質を具備するものであることを物語っている。さらにこの結果は、この発明の生理活性抽出物が、生体内のラジカルが関連する、ヒトを含む哺乳類における、悪性腫瘍、心筋梗塞、脳卒中、リウマチ、生活習慣病(成人病)などの疾病や、ストレス、老化などの治療・予防に効果を発揮することを示している。なお、化合物1は水に対する溶解度が十分でなく、この実験13の方法ではそのラジカル捕捉作用を評価することができなかった。
【0100】
【実験14】
〈アポトーシス調整作用〉
実験2の化合物1を0.8mg/mlとなるようにDMSOに溶解し、さらに10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI−1640培地(pH7.2)で20μg/mlとなるように希釈した。これを、マイクロプレートに1ml/ウェルずつ分注するとともに、上記と同じ新鮮な培地を用いてさらに系列希釈した。
【0101】
別途、ヒト骨髄性白血病患者由来のHL−60細胞(ATCC CCL−240)、ヒト組織球性悪性リンパ腫患者由来のU−937細胞(ATCC CRL−1593.2)、ヒト胃癌患者由来のHGC−27細胞(RCB0500)、ヒト肺腺癌患者由来のHLC−1細胞(RCB0083)及びラット神経膠腫細胞由来のC6細胞(ATCC CCL−107)を、10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI−1640培地(pH7.2)に、1×106個/ml又は2×105個/mlのいずれかの細胞密度になるように浮遊させた。先にマイクロプレートに準備した、濃度20、10又は5.0μg/mlの化合物1の希釈液を1ウェル当り1ml含むウェルに、この細胞浮遊液のいずれかを1mlずつ加えて試験系とした。すべての試験系につき同一のものを2とおりずつ準備し、一方を24時間、他方を48時間、5%CO2インキュベーター中で37℃で培養した。また、化合物1のみを省略する系を設け、同様に処置して対照とした。
【0102】
培養後、アイ・ニコレッティら、『ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ』、第139巻、271乃至279頁(1991年)に記載された方法にしたがって、それぞれの試験系及び対照におけるアポトーシスを起こした細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、フローサイトメトリーにより、個々に全細胞数に対する染色細胞の割合を求めた。すなわち、各培養物をそれぞれポリプロピレンチューブに移し、遠心分離して上清を除去し、細胞からなる沈澱部を、0.3%(v/v)ウシ血清アルブミンを含有するリン酸−食塩緩衝液で洗浄し、再度遠心分離して上清を除去した。新たに生成した沈澱部に、50μg/ml ヨウ化プロピジウム(シグマ販売)、0.1%(w/v)クエン酸ナトリウム及び0.1%(w/v)界面活性剤(商品名『トリトンX−100』、シグマ販売)からなる水溶液を1.5mlずつ添加してヨウ化プロピジウム染色し、遮光して4℃で一晩保存した。その後、各細胞試料における染色細胞をフローサイトメーター(商品名『EPICS PROFILE II』、ベックマン−コールター製)を用いて分析した。分析結果にもとづき、各培養物における全細胞数に対する染色細胞の占める百分率(%)を求め、アポトーシス発生率とした。結果を表12に示す。
【0103】
【表12】
【0104】
表12に示すように、いずれの細胞株のアポトーシスの発生率も、この発明の生理活性抽出物の添加量に依存して上昇し、とりわけ、10μg/mlの添加量のとき、対照との差が極めて顕著となった。特に、この発明の生理活性抽出物は、リンパ腫由来のU−937細胞と神経膠腫由来のC6細胞にアポトーシスの発生を促進する効果が顕著であった。細胞の腫瘍化は、細胞において本来起こるべきアポトーシスが何らかの理由によって生起しないことによると言われている。したがって、本実験において、この発明の生理活性抽出物の存在下で培養した細胞株に顕著なアポトーシスが観察されたことは、この発明の生理活性抽出物に、生細胞におけるアポトーシスを本来あるべき正常な状態に調整する作用があることを示している。なお、データは割愛するけれども、化合物1以外の実験例1及び2の生理活性抽出物を本実験の方法にしたがって調べたところ、いずれも、化合物1と同様の効果が認められた。
【0105】
【実験15】
〈サイトカインの産生調整作用〉
実験2の化合物7をDMSOに濃度1mg/mlとなるように溶解した後、10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地(pH7.2)(以下、実験15においては「血清培地」という。)で濃度50ng/mlとなるように希釈し、さらに血清培地で順次系列希釈した。
【0106】
免疫担当細胞として、HBL−38細胞を血清培地中で常法にしたがい所期の細胞数に達するまで培養した。培養後、遠心分離によりHBL−38細胞をRPMI1640培地(pH7.2)(以下、実験15においては「無血清培地」という。)で3回洗浄した後、無血清培地で細胞密度1×108個/mlに調整した。この細胞浮遊液1mlに、濃度10,000単位/mlとなるように生理食塩水に溶解させ、除菌濾過して予め調製しておいたディスパーゼ(合同酒精株式会社製)溶液0.5mlと無血清培地4.5mlとを加えた後、37℃で90分間振盪した。その後、HBL−38細胞を遠心分離により血清培地で3回洗浄した後、血清培地を加えて細胞密度1×106個/mlの細胞浮遊液を調製した。
【0107】
上記で調製した、化合物7の希釈液のいずれか50μl及びディスパーゼ処理したHBL−38細胞の浮遊液150μlと、5μg/mlのリポポリサッカライド(LPS)を含む無血清培地50μlとをマイクロプレートの1ウェルごとに添加して、5%CO2インキュベーター中で37℃で24時間インキュベートし試験区とした。これと併行して、陰性対照区として、試験区におけるLPSを含む無血清培地に代えて無血清培地を用いる系を、陽性対照区として、試験区における化合物7の希釈液に代えて血清培地を用いる系をそれぞれ設け、試験区と同様に処置した。24時間のインキュベート後の各ウェルより上清を50μlずつ採取した。各上清をそれぞれ、米国国立予防衛生研究所から入手されるヒトインターフェロン−γ(Gg23−901−530)を標準試料として用いる通常の酵素免疫測定法に供して各系におけるインターフェロン−γの産生量を調べる一方、上清を採取した後の各ウェルに、血清培地で放射強度5μCi/mlに調製した3H標識チミジン溶液を50μlずつ添加し、5%CO2インキュベーター中で37℃でさらに8時間インキュベートした。その後、マイクロプレートの各ウェルより細胞をガラスフィルターに採取し、それぞれの放射強度をベータ線測定器『ダイレクト・ベータ・カウンター・マトリクス96』(パッカード社製)を用いて測定し、各ウェルの細胞による3H標識チミジンの取り込み量を調べた。結果を表13に示す。なお、表13において、3H標識チミジンの取り込み量は、陽性対照区の値に対する相対値(%)で表した。
【0108】
【表13】
【0109】
表13に示すとおり、HBL−38細胞によるインターフェロン−γの産生はLPSにより誘導される一方、この誘導されたインターフェロン−γの産生は、この発明による生理活性抽出物である化合物7により用量依存的に抑制された。そして、濃度1.25ng/ml以上の場合その産生は、陰性対照区(LPS非存在下)と同等のレベル以下にまで抑制された。一方、HBL−38細胞による3H標識チミジンの取り込み量は、対照及び化合物7の添加系のいずれにおいても大差はなかった。これらの結果は、この発明による生理活性抽出物が、免疫担当細胞の増殖には影響を与えず、かつLPSなど生体にとっての異物により誘導される該細胞によるインターフェロン−γの産生を顕著に抑制することを示している。また、HBL−38細胞に代えて、常法にしたがって調製したマウス脾細胞を免疫担当細胞として用いて上記に準じて操作してインターフェロン−γに加えてインターロイキン−10の産生量を調べた。その結果、この発明による生理活性抽出物が該細胞によるインターフェロン−γの産生を抑制するとともにインターロイキン−10の産生を増強することが確認された。
【0110】
生体の免疫系におけるヘルパーT細胞はTh1及びTh2を含む細胞群により構成され、このTh1とTh2とのバランスが免疫機能の発現に大きく影響を及ぼすと言われている。例えば、このバランスが本来あるべき正常な状態から逸脱してTh1優位な状態が生体にもたらされると、自己免疫疾患等の免疫関連疾患や炎症性疾患等の諸疾患を発症する場合がある。上記で調べたインターフェロン−γは該バランスにTh1優位な状態をもたらし、一方、インターロイキン−10は該バランスがTh1優位な状態になるのを抑えるサイトカインとして知られている。したがって上記に示した実験結果は、この発明の生理活性抽出物が、生体における該バランスが正常な状態となるように免疫担当細胞によるサイトカインの産生を調整する作用を有し、該バランスの異常に起因する諸疾患の治療・予防に奏効することを示している。また、インターフェロン−γは炎症性のサイトカインとしても知られていることから、上記の結果はこの発明の生理活性抽出物が斯かるサイトカインの産生阻害剤として有用であることをも示している。なお、データは割愛するけれども、実験1及び実験2に記載の、この発明による他の生理活性抽出物にも、程度の違いはあるものの、化合物7と同様の作用が認められた。
【0111】
以上の実験1乃至15に示した結果は、実験1の方法で得られる、生アイの酢酸エチル可溶成分としての6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸及び3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンを含むこの発明による生理活性抽出物が、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、ラジカル捕捉作用、アポトーシス調製作用及びサイトカインの産生調整ないしは産生阻害作用をはじめとする生理作用を極めて多彩に発揮することを示している。
【0112】
【実験16】
〈急性毒性試験〉
常法にしたがって、実験1及び実験2の生理活性抽出物を、それぞれ、5週齢のddyマウスに経口、静脈及び腹腔内に投与したところ、いずれの投与経路によっても、LD50は1g/kg体重以上であった。このことは、この発明の生理活性抽出物がヒトを含む哺乳類が摂取して安全であることを示している。
【0113】
以下、この発明の実施の形態につき、実施例に沿って説明する。
【0114】
【実施例1】
〈粗製生理活性抽出物〉
島根県安来市で栽培していたアイの地上部30kgを7月に刈取り、破砕した後、酢酸エチルを30乃至60l加え、室温下で3回繰返し抽出した。抽出物を合一し、濾紙で濾過した後、濾液を採取し、エバポレーターで酢酸エチルを留去し、乾固したところ、アイの酢酸エチル可溶成分を含む抽出物が168g得られた。実施例2の方法で得られる化合物を標準試料として、通常の高速液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーにより分析し、この生理活性抽出物が、酢酸エチル可溶成分としての6,12−ジヒド−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、及び3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンを含有することを確認した。市販試薬のフェオフォルバイドa及び、『テロラヒドロン』、第52巻、第3号、849乃至860頁(1996年)に記載の方法により調製されるメチルフェオフェオフォルバイドaを標準試料として、通常の高速液体クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーにより分析したところ、この生理活性抽出物が、フェオフォルバイドa及びメチルフェオフォルバイドaを含有することが確認された。
【0115】
多彩な生理作用を具備する本品は、化粧品及び医薬品に配合する生薬として有用である。
【0116】
【実施例2】
〈精製生理活性抽出物〉
【0117】
実施例1の方法により得た抽出物を50%(v/v)水性メタノールに懸濁し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『FS−1830』、オルガノ株式会社製造)1,700mlのカラムに8回に分けて負荷し、カラムに、メタノール濃度が60、70、80及び90%(v/v)の水性メタノール、メタノール及び酢酸エチルを、この順序でゲル量と等量ずつ通液し、溶出液をゲル量の半量ごとに採取した。80%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した前半と後半の画分(それぞれ、「画分2」及び「画分1」という。)と、60%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した後半の画分(「画分3」という。)及び、90%(v/v)水性メタノールを通液したときカラムから溶出した後半の画分(「画分4」という。)の溶剤をエバポレーターでそれぞれ留去し、乾固して固状物を得た。
【0118】
画分1より得た固状物5.2gのうち2.6gをメタノール30mlに懸濁し、吸引濾過し可溶部と不溶部(876mg)に分離した。可溶部については、これをシリカゲル1,350mlのカラムに負荷し、カラムにメタノール濃度が5%(v/v)から100%(v/v)まで段階的に上昇するクロロホルム/メタノール混液を通液し、カラムからの溶出液を450mlずつ採取した。第4番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去して得られた固状物をメタノール2mlに懸濁し、吸引濾過しながら洗浄したところ、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリンの結晶が19.4mg得られた。一方、不溶部については、これを適量のメタノールに溶解し、室温下で静置したところ、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボンの黄色針状結晶が278mg得られた。
【0119】
画分2より得た固状物10.7gをメタノール40mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『セファデックスLH−20』、ファルマシアバイオテク製)1,520mlのカラムに負荷し、メタノールを通液して溶出液を190mlずつ採取した。第15番目及び第18番目の画分の溶剤をそれぞれエバポレーターで留去し、乾固して固状物を得た。第18番目の画分より得た固状物の400mgに約210mlのメタノール/水混液(体積比5/2)を加えて固状物を完全に溶解した。この溶液を孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下で3日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過してこの結晶を採取し、ケンフェロールの結晶89.3mgを得た。一方、第15番目の画分より得た固状物の500mgを10mlのメタノールに懸濁した後、濾過して不溶物を採取し、これに250mlのメタノールを加えて不溶物を完全に溶解した。この溶液を孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下で7日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過してこの結晶を採取し、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボンの結晶252.3mgを得た。
【0120】
画分3より得た固状物11.8gをメタノール40mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『セファデックスLH−20』、ファルマシアバイオテク製)1,680mlのカラムに負荷し、メタノールを通液して溶出液を560mlずつ採取した。第4番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して固状物を得た。この固状物をメタノール10mlに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『FS−1830』、オルガノ株式会社製造)480mlのカラムに負荷し、カラムに、メタノール濃度が0、10、20、30、40、50、60及び70%(v/v)の水性メタノールをこの順序でそれぞれ480mlずつ通液し、最後に960mlのメタノールを通液した。カラムからの溶出液は240mlずつ採取し、第5番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して150mgの固状物を得た。この固状物を、300mlの酢酸エチルに溶解し、孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液を、室温下、7日間静置したところ、結晶の晶出が認められた。通常の濾紙で濾過・洗浄してこの結晶を採取し、没食子酸の結晶18.7mgを得た。これとは別途、『FS−1830』のカラムから溶出された第9番目の画分の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して500mgの固状物を得た。この固状物を0.5mlの酢酸エチルに溶解し、吸着クロマトグラフィー用ゲル(商品名『シリカゲル60K650』、片山化学販売)40mlのカラムに負荷し、酢酸エチルとクロロホルムの体積比が2対8、3対7、4対6、5対5、6対4、7対3、8対2及び9対1の混液、クロロホルム、及びメタノールをこの順序でそれぞれ40mlずつ通液した。カラムからの溶出液は10mlずつ採取し、第17乃至21番目の画分を合一した。合一した画分を、分取用薄層(商品名『シリカゲル60F254』、メルク製、No.5717)を用い、展開相としてトルエン/酢酸エチル/酢酸混液(体積比5/5/1)を用いる薄層クロマトグラフィーに供した。展開後、Rf値約0.6に相当するシリカゲルをかき取り、これに適量のメタノールを加えて展開物を抽出した。抽出液より溶剤をエバポレーターで留去し、乾固してカフェ酸の結晶15.4mgを得た。
【0121】
画分4より得た固状物4.6gのうちの4gにメタノール40mlを加え、固状物を溶解させたところ、その一部は溶解せずに沈澱した。この沈澱を採取し、800mlのメタノールを加えて十分に溶解させた後、室温下で2日間静置したところ、赤色粗結晶の晶出が認められた。この粗結晶を採取した後、上澄液を先と同様にさらに静置したところ赤色粗結晶の晶出が改めて認められた。この粗結晶を採取し、先に採取した粗結晶と合一し、適量のメタノールで洗浄した後、十分量のメタノールに溶解した。この溶液を常法にしたがい膜濾過し、濾液の溶剤をエバポレーターで留去し、乾固して、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンの結晶44.5mgを得た。
【0122】
多彩な生理作用を具備するこれらの化合物は、高度に精製した調製物を必要とする食品、化粧品及び医薬品に配合する生薬として有用である。
【0123】
【実施例3】
〈粗製生理活性抽出物〉
島根県安来市で栽培していたアイの地上部15kgを7月に刈取り、破砕した後、エタノールを30l加え、室温下で3回繰返し抽出した。抽出物を合一し、濾紙で濾過した後、濾液を採取し、エバポレーターでエタノールを留去し、乾固したところ、アイの酢酸エチル可溶成分を含む生理活性抽出物が560g得られた。実施例2の方法で得られる化合物を標準試料として、通常の高速液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーにより分析したところ、この生理活性抽出物は、酢酸エチル可溶成分としての6,12−ジヒド−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、及び3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オンを、それぞれ65、780、354、988、250、230及び75mg含有していた。また、市販試薬のフェオフォルバイドa及び、『テロラヒドロン』、第52巻、第3号、849乃至860頁(1996年)に記載の方法により調製されるメチルフェオフェオフォルバイドaを標準試料として、通常の高速液体クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーにより分析したところ、この生理活性抽出物が、フェオフォルバイドa及びメチルフェオフォルバイドaを含有することが確認された。
【0124】
多彩な生理作用を具備する本品は、食品、化粧品及び医薬品に配合する生薬として有用である。
【0125】
【実施例4】
〈スナック菓子〉
常法にしたがって、温度20℃、湿度85%で2週間貯蔵することによって還元糖を自己消化させた馬鈴薯を水洗し、剥皮し、選別した後、遠心式スライサーを用いて厚さ1.5mmのスライスにした。水洗によりスライス表面の澱粉を除いた後、水切し、温度170℃で約5分間油揚げし、油切りした。次いで、ソルターを用いて、食塩6重量部、食品級トレハロース粉末(商品名『トレハオース』、トレハロース純度98%以上、株式会社林原商事販売)3重量部、実施例3の方法により得た生理活性抽出物1重量部及び適量の香辛料を含んでなる粉末調味料を均一に振り掛けた後、秤量製袋充填機に移し、そこで秤量し、充填し、包装してスナック菓子を得た。
【0126】
呈味、風味ともに良好な本品は、健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【0127】
【実施例5】
〈紅茶ティーバッグ〉
凍結乾燥紅茶エキス粉末9重量部を適量の水に溶解し、得られた溶液に実施例3の方法により得た生理活性抽出物1重量部を適量のエタノールに溶解してなる溶液を混合する一方、これを、別途、常法にしたがって発酵させ、乾燥させた紅茶葉90重量部に振り掛けた。その後、常法にしたがって、紅茶葉を篩分けし、細断し、仕上げ乾燥し、選別機により異物を除いた後、和紙を用いて2gずつティーバッグ包装して紅茶ティーバッグを得た。
【0128】
本品は、冷水180mlに約10分間浸出させるか、あるいは、90乃至100℃の熱湯180mlに約2分間浸出させて飲用する。呈味、風味ともに良好な本品は、健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【0129】
【実施例6】
〈健康補助食品〉
食品級トレハロース粉末(商品名『トレハオース』、トレハロース純度98%以上、株式会社林原商事販売)52重量部、コーンスターチ40重量部、実施例3の方法により得た生理活性抽出物3.5重量部及び結晶セルロース2.5重量部を混合し、常法にしたがって、適量の水を噴霧滴下しながら混練し、流動層造粒した後、粉砕し、整粒して打錠用粉体を得た。これに潤沢剤として蔗糖脂肪酸エステル2重量部を均一に混合した後、直径11mmの杵を装着した打錠機により打錠して錠剤(約300mg/錠)を得た。
【0130】
摂取し易く、消化管における崩壊性に優れた本品は、健康を維持・増進する健康補助食品として有用である。
【0131】
【実施例7】
〈ヘアリンス〉
食品級トレハロース粉末(商品名『トレハオース』、トレハロース純度98%以上、株式会社林原商事販売)1重量部、実施例1の方法により得た生理活性抽出物2重量部、α−グルコシル・ルチン(商品名『αGルチン』、東洋精糖株式会社製造)2重量部、塩化ジステアリルメチルアンモニウム2重量部、セタノール2重量部、シリコンオイル2重量部及びポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル1重量部及び適量の着香料を加熱溶解し、これに1,3−ブチレングリコール3重量部、精製水85重量部及び適量の防腐剤からなる混合物を攪拌しながら混合し、冷却してヘアリンスを得た。
【0132】
安定にして、頭皮を刺激しない本品は、頭皮及び頭髪の健康を維持・増進する化粧品として有用である。
【0133】
【実施例8】
〈乳液〉
常法にしたがって、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル0.5重量部、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール1重量部、親油型モノステアリン酸グリセリン1重量部、ピルビン酸0.5重量部、ベヘニルアルコール0.3重量部、マルチトール0.3重量部、アボカド油1重量部、実施例1の方法により得た生理活性抽出物1重量部、ビタミンE及び防腐剤の適量を加熱溶解し、これにL−乳酸ナトリウム1重量物、1,3−ブチレングリコール7重量部、カルボキシビニルポリマー0.1重量部及び精製水86.3重量部をそれぞれ加え、ホモゲナイザーにより乳化した後、適量の着香料を加え、攪拌により混合して乳液を得た。
【0134】
ベタつかず、延展性に優れた本品は、皮膚の健康を維持・増進する化粧品として有用である。
【0135】
【実施例9】
〈練歯磨〉
常法にしたがって、第二燐酸カルシウム45重量部、プルラン2.9重量部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5重量部、グリセリン20重量部、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート0.5重量部、ソルビトール10重量部、マルチトール7重量部及び精製水13重量部に実施例1の方法により得た生理活性抽出物を0.1重量部配合して練歯磨を得た。
【0136】
安定な本品は、口腔の健康を維持・増進する化粧品として有用である。
【0137】
【実施例10】
〈軟膏〉
常法にしたがって、酢酸ナトリウム・三水塩1重量部及びDL−乳酸カルシウム4重量部をグリセリン10重量部に均一に配合した後、これに、ハッカ油0.5重量部、ワセリン49重量部、木ロウ10重量部、ラノリン10重量部、ゴマ油14.5重量部及び、実施例2の方法により得た生理活性抽出物としての7種類の化合物(化合物1乃至7)を実施例1の抽出物における存在比率に基づいて配合した混合物2重量部と配合し、均一に混和して軟膏を得た。
【0138】
皮膚の浸透性と延展性に優れた本品は、皮膚の健康を維持・増進する医薬品として有用である。
【0139】
【発明の効果】
叙上のとおり、この発明は、生アイの酢酸エチル可溶成分がヒトを含む哺乳類において多彩な生理作用を発揮するという独自の知見に基づくものである。生アイの酢酸エチル可溶成分は、ヒトを含む哺乳類が摂取すると、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、ラジカルの捕捉作用、アポトーシス調整作用、サイトカインの産生調整ないしは産生阻害作用、一酸化窒素合成酵素の発現抑制作用をはじめとする多彩な生理作用を発揮するので、生アイの酢酸エチル可溶成分を含有するこの発明の生理活性抽出物は、食品分野、化粧品分野及び医薬品分野を含む諸分野において多種多様の用途を有することとなる。
【0140】
アイを陽乾して調製される従来公知の藍葉及び藍実は、温湯で浸出して服用されるものであり、したがって、実質的に利用されるのは水溶成分にかぎられている。しかも、その水溶成分、とりわけ、インドール化合物は、陽乾の過程で加水分解、空気酸化などによる化学変化を被り、変性している可能性がある。しかるに、この発明の生理活性組成物は生アイの酢酸エチル可溶成分を利用するものであって、しかも、アイを陽乾することがないので、アイの生産地から遠隔の地においても、時間と空間を越えて、有用な生理活性成分をアイの生きた植物体におけるがままの状態で利用することを可能ならしめるものである。斯くも有用なる生理活性抽出物は、生アイを原料として用いるこの発明の製造方法により、所望量を調製することができる。
【0141】
斯くも顕著な効果を奏するこの発明は、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン (化合物2)の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】ケンフェロール (化合物3)の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン (化合物4)の赤外線吸収スペクトルである。
【図4】カフェ酸 (化合物6)の赤外線吸収スペクトルである。
【図5】3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン (化合物7)の赤外線吸収スペクトルである。
Claims (3)
- 生アイをエタノール又は酢酸エチルに浸漬することによって得られる、酢酸エチル可溶成分として、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド、及び、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド メチルエステルを含有してなる、抗ヘリコバクター・ピロリ剤。
- 生アイをエタノール又は酢酸エチルに浸漬することによって得られる、酢酸エチル可溶成分として、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド、及び、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド メチルエステルを含有してなる、ラジカル補足剤。
- 生アイをエタノール又は酢酸エチルに浸漬することによって得られる、酢酸エチル可溶成分として、6,12−ジヒドロ−6,12−ジオキソインドロ−(2,1−b)−キナゾリン、3,5,4´−トリヒドロキシ−6,7−メチレンジオキシ−フラボン、ケンフェロール、3,5,7,4´−テトラヒドロキシ−6−メトキシ−フラボン、没食子酸、カフェ酸、3−(1,3−ジヒドロ−3−オキソ−2H−インドール−2−イリデン)−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド、及び、[3S−(3α,4β,21β)]9−エチル−14−エチル−21−(メトキシカルボニル)−4,8,13,18−テトラメチル−20−オキソ−3−フォルバインプロパノイック アシッド メチルエステルを含有してなる、インターフェロン−γ産生抑制剤。
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