JP4809643B2 - ポリウレタン発泡体 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車内装材料等として用いられるポリウレタン発泡体に関し、特に熔解処理によってセル膜が除去されたポリウレタン発泡体に関するものである。
この種のポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒及び発泡剤を主成分とし、整泡剤等の添加剤を配合したポリウレタン発泡体の原料を反応、発泡及び硬化させることにより製造される。
そして、より通気度の高いポリウレタン発泡体を得る場合には、発泡体を製造した後、セル膜を除去する熔解処理が施される。この熔解処理は、セル膜を吹き飛ばしてポリウレタン発泡体を構成する骨格構造を残すものである。例えば、熔解処理は、多数のセルを有するポリウレタン発泡体を防爆容器中に収容し、該容器内を脱気した後、容器中に可燃性ガスとしての水素ガスと酸素ガスとを注入する。その後、水素ガスと酸素ガスの混合気に点火してこれを燃焼させる。この燃焼に伴なう圧力により、ポリウレタン発泡体における多数のセルを区画するセル膜を破って、立体網目状の骨格構造を残存させることにより、セル膜が除去されたポリウレタン発泡体が得られる。
ところが近年、自動車内装材料、住宅用材料等においては、揮発性有機化合物(VOC)の環境基準が設けられ、特にシックハウス症候群の原因とされているホルムアルデヒドやアセトアルデヒドの濃度規制がなされている。ところで、ポリウレタン発泡体は、その原料としてポリオール類等を使用しているため、前記熔解処理時の爆破において、ポリウレタン発泡体の組成物の一部が分解して刺激臭のあるアルデヒド類や、カルボン酸を発生することが確認されており、これらが揮発性有機化合物や臭気(におい)の原因になっている。従来から、熔解処理が施されたポリウレタン発泡体には刺激臭のあるアルデヒド類や、カルボン酸がそのまま残留し、独特のにおいを発する場合があり、これらを除去することが望まれている。
このような観点から、オゾン劣化防止剤及び酸化防止剤を含有する発泡体原料からポリウレタン発泡体を製造し、得られたポリウレタン発泡体よりなる空調機用シール材が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒及び酸化防止剤を含む原料から製造される発泡体で、前記酸化防止剤は数平均分子量が400以上の高分子化合物であるポリウレタン発泡体が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
特開2004−231949号公報(第2頁、第9頁及び第11頁) 特開2004−211032号公報(第2頁、第9頁及び第10頁)
しかしながら、特許文献1に記載の空調機用シール材においては、発泡体原料であるポリオール類がポリエーテルポリオールである場合、得られる発泡体が大気中のオゾンによって劣化しやすく、セル膜が破壊されて通気度が上昇し、シール材として機能しなくなる。従って、それを防止するために、発泡体原料にオゾン劣化防止剤が配合されている。さらに、酸化防止剤はオゾン劣化防止剤と併用されるが、その配合量は0.01部という極少量である(特許文献1の実施例1〜3)。加えて、発泡体のセル膜を除去する熔解処理を行うものではない。そのため、熔解処理時における問題は示唆されていない。
一方、特許文献2に記載のポリウレタン発泡体においても、酸化防止剤の配合量は0.01部という極少量である(特許文献2の実施例1〜5)。しかも、発泡体のセル膜を除去するための熔解処理を行うものではなく、熔解処理に伴う問題は示唆されていない。すなわち、熔解処理は可燃性ガスの燃焼によって行われ、その圧力、温度上昇等により発泡体の酸化反応による分解が生じ、揮発性有機化合物の発生が促進されるという問題があった。
そこで本発明の目的とするところは、熔解処理時における発泡体の酸化が抑えられ、特に揮発性有機化合物の発生を抑制することができるポリウレタン発泡体を提供することにある。
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応、発泡及び硬化させて得られる発泡体を熔解処理しセル膜を除去してなるポリウレタン発泡体であって、前記ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量が350〜4000であり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、及びラクトン系酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部含まれていることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1に係る発明において、前記熔解処理が、爆破処理であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、JIS Z8808に準拠して測定されるアセトアルデヒドの揮発量が、0.03ppm以下であることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、JIS Z8808に準拠して測定されるプロピオン酸の揮発量が、1.0ppm以下であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明において、前記ポリオール類は、ポリエーテルポリオールであることを特徴とするものである。
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量が350〜4000であり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、及びラクトン系酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部含まれている。酸化防止剤の配合量は従来に比べて十分に多い。特に熔解処理時においてポリウレタン発泡体中に生成するラジカルは、可燃性ガス、酸素ガス等が熔解工程を経ることにより発生する。このラジカルが未反応の末端水酸基を酸化させるため、ラジカルを酸化防止剤が捕捉することで酸化が抑制され、アルデヒド類、カルボン酸類等の揮発性有機化合物の発生が抑えられる。しかも、酸化防止剤の数平均分子量が十分に大きいことから、ラジカルの吸収及び放出に伴うエネルギー緩和が行われるものと推測され、自身の分解が抑えられる。従って、熔解処理時における発泡体の酸化が抑えられ、特に揮発性有機化合物の発生を抑制することができる。
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体では、熔解処理が爆破処理であり、その爆破処理に伴う酸化を十分に抑制することができ、請求項1に係る発明の効果を発揮することができる。
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体によれば、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、アセトアルデヒドの揮発量が0.03ppm以下であることにより、アセトアルデヒドの室内濃度指針値をクリアすることができる。
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体では、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、プロピオン酸の揮発量が1.0ppm以下であることにより、プロピオン酸に基づくにおいを軽減することができる。
請求項5に記載の発明のポリウレタン発泡体では、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、ポリオール類がポリエーテルポリオールであることにより、発泡体が大気中のオゾンによって劣化しやすい場合でも酸化防止剤の効果を十分に発揮させることができる。
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるポリウレタン発泡体は次のようにして製造される。すなわち、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応、発泡及び硬化させて得られる発泡体を熔解処理しセル膜を除去することによって製造される。この場合、ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量が350〜4000の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部配合される。ここで、酸化防止剤の数平均分子量は、混合物である場合の平均の分子量を表すが、本発明では単一化合物の場合の分子量をも含む概念として使用する。また、本実施形態のポリウレタン発泡体は、熔解処理により連続気泡構造を有し、復元性を有しない発泡体を意味する。
まず、ポリウレタン発泡体の原料について順に説明する。
(ポリオール類)
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられるが、ポリイソシアネート類との反応性が高く、ポリウレタン発泡体が加水分解しない等の点からポリエーテルポリオールが好ましい。
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、その変性体等が用いられる。変性体としては、前記ポリエーテルポリオールにアクリロニトリル又はスチレンを付加させたもの、或はアクリロニトリルとスチレンの双方を付加させたもの等が挙げられる。ここで、多価アルコールは1分子中に水酸基を複数個有する化合物であり、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、末端に第1級の水酸基を有していることから、ポリイソシアネートとの反応性が高い。ポリエーテルポリオールの平均分子量は2000〜4000であることが好ましい。この平均分子量が2000未満の場合には得られるポリウレタン発泡体の引張強さ等の物性が低下し、4000を越える場合にはポリウレタン発泡体の単位量当りの水酸基の数が少なくなってポリイソシアネート類との反応性が低下する傾向を示す。
ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は5〜10モル%であることが好ましい。ポリエチレンオキシド単位が5モル%未満ではポリエーテルポリオールの親水性が低下し、10モル%を越えると親水性が高くなり過ぎてポリエーテルポリオールとポリイソシアネート類との反応性が低下する傾向を示して好ましくない。
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。これらのポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
(ポリイソシアネート類)
次に、ポリエーテルポリオールと反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。
ポリイソシアネートのイソシアネート指数(インデックス)は100〜130の範囲に設定することが好ましい。イソシアネート指数が100未満の場合にはポリウレタン発泡体の硬さ、引張強さ等の物性が低下し、130を越える場合にはポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなり過ぎて好ましくない。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。
(発泡剤)
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。これらの発泡剤うち、ポリイソシアネート類と速やかに反応して十分な炭酸ガスを発生でき、取扱いが良好である点から水が好ましい。発泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり1〜5質量部であることが好ましい。発泡剤の配合量が1質量部未満の場合には、発泡が不十分となり、低密度の発泡体が得られ難くなる。一方、5質量部を越える場合には、発泡が過剰となり、発泡体の硬さ、引張強さ等の物性が低下する。
(触媒)
触媒は主としてポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものである。触媒として具体的には、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が単独、或いは混合して用いられる。触媒の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜1.5質量部であることが好ましい。触媒の配合量が0.5質量部未満の場合、ウレタン化反応の進行が十分ではなく、発泡体の機械的物性等が低下する傾向を示す。一方、1.5質量部を越える場合、ウレタン化反応の進行が過度になって発泡体の形成に偏りが生じて好ましくない。
(整泡剤)
整泡剤としては、ポリウレタン発泡体の製造に際して一般に使用されるものを用いることができる。整泡剤として具体的には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。これらの中でも、線状或いは分枝状ポリエーテル−シロキサン共重合体が好ましく、特に連通性を高めるためには整泡力の低い線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体がより好ましい。整泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜2.5質量部であることが好ましい。この配合量が0.5質量部未満の場合には、ポリウレタン発泡体の原料の発泡時における整泡作用が十分に発現されず、良好な発泡体を得ることが難しくなる。一方、2.5質量部を越える場合には、整泡作用が強くなり、セルの連通性が低下する傾向を示す。
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、特に発泡体の熔解処理時において、発泡体の酸化により発生するラジカル(フリーラジカル)を捕捉して酸化を停止させる作用を有する物質である。このような酸化防止剤としては、数平均分子量が高く、揮発性が低い化合物、すなわち数平均分子量が350〜4000の化合物が使用される。その数平均分子量としては、350〜1200であることが好ましい。数平均分子量が350未満の場合には、熔解処理時において酸化防止剤が揮発したり、分解したりして揮発性有機化合物の揮発量が増大する。一方、数平均分子量が4000を越える場合には、酸化防止剤の製造或いは入手が困難となる。
係る高分子量の酸化防止剤を使用することで、ラジカルを捕捉して酸化を停止させる作用を有するとともに、ラジカル吸収に伴うエネルギー緩和が容易であり、自身の分解も抑制されるからである。また、酸化防止剤は、ラジカルに水素を供与して酸化防止剤のラジカルになり、そのラジカルは数平均分子量が大きいほど安定したラジカルになる。特に、発泡体の熔解処理時には、発生する酸素及び窒素由来ラジカルによって、発泡体中における未反応の末端水酸基(ヒドロキシル基)が酸化され、アルデヒド類やカルボン酸類が発生するものと推測される。このため、原料に酸化防止剤を配合し、前記ラジカルを捕捉することにより、酸化を停止させることができるものと考えられる。
この酸化防止剤としては、カルシウムジエチルビスIII3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル(メチル)ホスホネート(数平均分子量695)、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(数平均分子量424.7)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート〕(数平均分子量586.8)、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(数平均分子量1178)、チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(数平均分子量643)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(数平均分子量531)、N,N´−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)〕(数平均分子量637)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(数平均分子量4000)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適である。
その他、ビス−(4−オクチル−フェニル)アミン(数平均分子量393)等のヒンダードアミン系酸化防止剤、5,7−ジ−tert−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン(数平均分子量350)等のラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
酸化防止剤の配合量は、酸化防止剤の機能を十分に発揮し、かつその弊害を防止するために、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部に設定される。この酸化防止剤の配合量は、熔解処理時における酸化防止機能を効果的に発現すべく、従来の配合量(0.01質量部)に比べて格別多量に設定されている。酸化防止剤の配合量が1質量部未満の場合には、酸化防止剤の機能を十分に発揮することができず、アセトアルデヒド、プロピオン酸等の揮発性有機化合物の発生を抑制することができなくなる。一方、20質量部を越える場合には、酸化防止剤がポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応、ポリイソシアネート類と水との泡化反応等の反応を阻害するため、ポリウレタン発泡体の硬さ、引張強さ、伸び等の物性が低下し、所望の発泡体を得ることができなくなる。
(その他の配合剤)
ポリウレタン発泡体の原料にはその他必要に応じて、架橋剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等が配合される。
次に、上記のポリウレタン発泡体の原料を用いてポリウレタン発泡体を製造する方法について説明する。
ポリウレタン発泡体の原料を反応させて発泡及び硬化させることによりポリウレタン発泡体が製造されるが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応、樹脂化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法、或いはポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。いずれの場合にも、酸化防止剤をポリオール類に混合することが好ましく、その場合酸化防止剤をポリオール類に十分に攪拌、混合する。そして、ポリオール類とポリイソシアネート類との混合液、或いはプレポリマーとポリオール類との混合液に、発泡剤を混和し、さらに整泡剤及び触媒を添加し、それらの原料を反応、発泡及び硬化させる。
発泡形態としては、モールド発泡も可能であるが、スラブ発泡が好ましい。スラブ発泡は、攪拌、混合された原料をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に原料が常温、大気圧下で反応し、自然発泡することで行われる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)することにより、スラブ発泡体が得られる。
続いて、発泡体に施される熔解処理は、爆破処理によりセル膜を吹き飛ばしてセルを連通させ、骨格構造だけを残すものである。例えば、多数のセルを有する発泡体を防爆容器(密閉容器)中に収容し、該容器中に充填されたプロパンガス等の可燃性ガスと酸素の混合気に点火してこれを燃焼させる。この燃焼に伴なって飛び散った火花及び圧力により、発泡体における多数のセルを隔てているセル膜を熔解及び吹き飛ばしてセルを連通させ、立体網目状の骨格構造だけを残留させることで、熔解処理済みのポリウレタン発泡体が得られる。従って、熔解処理により前記発泡体には熱及び圧力が加わって酸化作用が促進されることから、発泡体には予め酸化防止剤を配合しておくことが必要となる。
前記防爆容器としては、発泡体を収容でき、かつ内部を真空にできるものであればよく、その形状、大きさ等は限定されない。但し、収容される発泡体と防爆容器内壁との間の隙間が大きくなり過ぎると、可燃性ガスの燃焼の際に隙間付近の発泡体がへたりやすくなるため、防爆容器は発泡体と同一形状及び同一容積にするのが好ましい。その場合、発泡体を切断したり、積層したりすることが望ましい。また、防爆容器内を脱気する方法としては、防爆容器に真空ポンプを接続して行う方法等が挙げられる。脱気が不十分であると、セルの連通化が不十分になるので、発泡体のセル内が十分に真空になるまで脱気を行う。
防爆容器に可燃性ガスと酸素ガスを注入する方法は特に限定されず、例えば可燃性ガスと酸素ガスが充填された高圧ボンベから減圧弁で所望の混合比に見合う分圧に調整し、ガス混合ミキサーを介して防爆容器に注入する方法、前記高圧ボンベから減圧弁で所望の混合比に見合う分圧に調整し、別々の注入口から注入する方法等が挙げられる。ガス注入直後には、防爆容器内のガス分散状態が不均一であるため、ガス注入後に数分間放置しておくことが好ましい。
上記可燃性ガスとしては、酸素ガスの存在下で燃焼可能なガスであれば特に制限されず、例えばプロパンガス、メタンガス、炭酸ガス、水素ガス等が用いられる。これらの可燃性ガスは、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
このようにして得られる熔解処理済みのポリウレタン発泡体は、連続気泡率がほぼ100%(独立気泡率がほぼ0%)で、通気度が100〜300l/minである。そして、ポリウレタン発泡体は、所望形状に裁断されて使用される。
さて、本実施形態の作用について説明すると、ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量が350〜4000の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部配合され、その原料が反応、発泡され、硬化されることで発泡体が得られ、その発泡体が熔解処理されて目的とするポリウレタン発泡体が製造される。特に、熔解処理時には発泡体の未反応の末端水酸基が酸化されてフリーラジカルを生成する。
このフリーラジカルは発泡体中に分散されている酸化防止剤により捕捉され、酸化が抑えられる。この場合、酸化防止剤が従来に比べて多量に配合されているため、フリーラジカルの捕捉作用が有効に働く。その上、酸化防止剤の数平均分子量が大きいため、フリーラジカルの吸収、エネルギー緩和及び放出の繰り返しにおいて、エネルギー緩和が行われやすいと考えられ、酸化防止剤自体の分解が抑制される。加えて、酸化防止剤は揮発性が低く、フリーラジカルを捕捉した後にも分解することなく、発泡体中に残存することから、揮発性有機化合物の総量を抑制することができる。
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のポリウレタン発泡体においては、ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量350〜4000の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部含まれている。この酸化防止剤の配合量は従来に比べて十分に多い。特に、熔解処理時においてポリウレタン発泡体中に生成するラジカルは、可燃性ガス、酸素ガス等が熔解工程を経ることにより発生する。このラジカルが未反応の末端水酸基を酸化させるため、ラジカルを酸化防止剤が捕捉することで酸化が抑制され、アルデヒド類、カルボン酸類等の揮発性有機化合物の発生が抑えられる。しかも、酸化防止剤の数平均分子量が十分に大きいことから、ラジカルの吸収及び放出に伴うエネルギー緩和が行われるものと推測され、自身の分解が抑えられる。従って、熔解処理時における発泡体の酸化が抑えられ、特に揮発性有機化合物の発生を抑制することができる。
・ 前記熔解処理が爆破処理であることで、その爆破処理に伴う酸化を十分に抑制することができる。
・ また、アセトアルデヒドの揮発量が0.03ppm以下であることにより、アセトアルデヒドの室内濃度指針値をクリアすることができる。さらに、プロピオン酸の揮発量が1.0ppm以下であることにより、プロピオン酸に基づくにおいを軽減することができる。
・ 加えて、全有機溶剤揮発量(TVOC)を520ppm以下に抑制することができ、例えば自動車室内、住宅室内における環境を良好に維持することができる。
・ ポリウレタン発泡体原料のポリオール類がポリエーテルポリオールであることにより、発泡体が大気中のオゾンによって劣化しやすい場合でも酸化防止剤の効果を十分に発揮させることができる。
・ 前述のように、酸化防止剤の配合量をポリオール類100質量部当たり1〜20部質量部とすることにより、発泡が良好に行われ、ポリウレタン発泡体の密度、硬さ、引張強さ、伸び等の物性を、酸化防止剤を添加していないものと比較して同程度のレベルに維持することができる。
・ 実施形態においては、用いる酸化防止剤が高分子量で揮発性の低い化合物を使用し、ポリウレタン発泡体中で揮発することなく残存することから、ポリウレタン発泡体を光の存在下や加熱条件下で使用した場合に、ラジカルを捕捉して酸化を停止させることができる。従って、ポリウレタン発泡体の劣化によるアルデヒド類、カルボン酸等の揮発性有機化合物の発生を抑制することができる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜9及び比較例1〜10)
まず、各実施例及び比較例で用いたポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤及び触媒よりなるポリウレタン発泡体の原料を以下に示す。酸化防止剤は4種類の物質を用い、それぞれA、B、C及びDとした。
ポリオール:ポリエーテルポリオール、官能基数3、水酸基価56.1(mgKOH/g)、分子量3000、三洋化成工業(株)製の商品名、GP−3050F。このGP−3050Fは、グリセリンにプロピレンオキシド及びエチレンオキシド(含有量7質量%)を付加させた化合物である。
ポリイソシアネート:2,4−TDI/2,6−TDIの80/20(質量比)の混合物、日本ポリウレタン工業(株)製の商品名T−80。このポリイソシアネートは、イソシアネート指数が110となるように配合した。
発泡剤:水道水。
触媒:トリエチレンジアミン、エアプロダクツ(Air products)社製の商品名33LV。
金属触媒:オクチル酸第1スズ、城北化学(株)製の商品名;MRH−110。
整泡剤:シリコーン系整泡剤、東レダウコーニング(株)製の商品名SZ−1136。
酸化防止剤A:トリブチルヒドロキシトルエン(tributylhydroxytoluene)(BHT)(分子量278)。
酸化防止剤B:ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チバスペシャルティケミカルス(株)製、商品名イルガノックス1010(数平均分子量1178)。
酸化防止剤C:ビス−(4−オクチル−フェニル)アミン(数平均分子量393)。
酸化防止剤D:5,7−ジ−tert−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン(数平均分子量350)。
そして、これらの各原料を表1及び表2に示す配合量で配合して各実施例及び比較例におけるポリウレタン発泡体の原料を調製した。その後、スラブ発泡によって原料を反応、発泡及び硬化させ、発泡体を製造した。この場合、比較例1及び2では酸化防止剤を配合せず、さらに比較例1では熔解処理を行わなかった。比較例3及び4では、酸化防止剤として分子量278という低分子量のBHTを使用した。比較例5では、酸化防止剤の配合量の少ない例及び比較例6では酸化防止剤の配合量の多い例を示した。さらに、比較例7及び8では、酸化防止剤Cを過少量及び過大量配合した例を示した。比較例9及び10では、酸化防止剤Dを過少量及び過大量配合した例を示した。
それらの発泡体について、熔解処理を行った。熔解処理は、防爆容器内に発泡体を収容し、十分に脱気した後、プロパンガスと酸素ガスの混合ガスを注入し、点火して燃焼させることにより行った。得られた熔解処理済みのポリウレタン発泡体につき、密度、硬さ、引張強さ、伸び、アセトアルデヒドの揮発量、プロピオンアルデヒドの揮発量、プロピオン酸の揮発量及び全有機溶剤の揮発量(TVOC)を、下記に示す方法で評価した。それらの結果を表1及び表2に示した。
密度(kg/m3):JIS K7222(1999)に準拠して測定した。
硬さ(N):JIS K6400−2(A法)に準拠して測定した。
引張強さ(kPa):JIS K6400−5(2004)に準拠して測定した。
伸び(%):JIS K6400−5(2004)に準拠して測定した。
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びプロピオン酸の揮発量(ppm)は、次に示す方法で測定を行った。すなわち、1Lのガラスデシタケータにポリウレタン発泡体のサンプル(縦30mm、横30mm及び厚さ5mm)を入れた後、窒素置換を実施し、65℃の恒温槽に2時間放置する。その後、ガラスデシタケータ中のガスを吸引し、ガスクロマトグラフを用いて、JIS Z8808に準拠して、測定を実施した。なお、厚生労働省の2002年1月22日に設定された、アセトアルデヒドの室内濃度指針値は、48μg/m(0.03ppm)である。この48μg/m(0.03ppm)をアセトアルデヒドの室内濃度指針値という。
TVOC(ppm):VDA(ドイツ自動車工業会)278(ガスクロマトグラフィー熱脱着法)にて全有機溶剤揮発量を測定した。
Figure 0004809643
表1に示した結果から、実施例1〜3においては、アセトアルデヒド及びプロピオンアルデヒドの揮発量を0.03ppm以下に抑えることができるとともに、プロピオン酸の揮発量を1.0ppm以下に抑えることができ、しかもTVOCを510ppm以下に抑制することができた。さらに、ポリウレタン発泡体の密度、硬さ、引張強さ及び伸びについて、熔解処理をしなかった場合(比較例1)と同等に維持することができた。
これに対し、酸化防止剤を配合せず、熔解処理を行った比較例2では、熔解処理を行わなかった比較例1に比べて、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びプロピオン酸の揮発量が増加した。これは、熔解処理によって発泡体の分解が促進されることを示している。なお、比較例1では酸化防止剤を配合しなかったため、アセトアルデヒドの室内濃度指針値である0.03ppmより大きい値を示した。比較例3及び4では、低分子量の酸化防止剤を使用したことから、TVOCが2000〜8000ppmという高い濃度に達した。さらに、低分子量の酸化防止剤Aを過剰量配合した比較例4では、発泡状態がやや不良で、ポリウレタン発泡体の伸びも悪い結果であった。このことは、分子量350未満の低分子量の酸化防止剤Aは、熔解処理によってそれ自身が分解しやすく、酸化防止効果も弱いことを示している。比較例5では酸化防止剤Bの配合量が少ないため、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びプロピオン酸の揮発量が増加した。一方、比較例6では酸化防止剤Bの配合量が多過ぎるため、発泡状態がやや不良で、ポリウレタン発泡体の伸びも低下した。
Figure 0004809643
表2に示した結果から、実施例4〜9においては、アセトアルデヒドの揮発量を0.03ppm以下に抑えることができ、プロピオン酸の揮発量を1.0ppm以下に抑えることができ、しかもTVOCを520ppm以下に抑制することができた。しかも、ポリウレタン発泡体の密度、硬さ、引張強さ及び伸びについて、熔解処理をしなかった場合(比較例1)と同等に維持することができた。
これに対し、比較例7では酸化防止剤Cの配合量が少ないため、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びプロピオン酸の揮発量が増加した。一方、比較例8では酸化防止剤Cの配合量が多過ぎるため、発泡状態がやや不良で、ポリウレタン発泡体の引張強さ、伸び等の物性が低下した。比較例9では酸化防止剤Dの配合量が少ないため、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びプロピオン酸の揮発量が増加した。一方、比較例10では酸化防止剤Dの配合量が多過ぎるため、発泡状態がやや不良で、ポリウレタン発泡体の引張強さ、伸び等の物性が低下した。
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 酸化防止剤として、種類、分子量等の異なる複数の酸化防止剤を組合せ、かつ配合量を変えて使用することができる。
・ 揮発成分としてホルムアルデヒド等のアルデヒド、酢酸等のカルボン酸に着目し、それらの低減を図るように条件を設定することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記ポリウレタン発泡体の原料には整泡剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体。このように構成した場合には、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、発泡を円滑に行うことができ、硬さ、引張強さ等の物性に優れたポリウレタン発泡体を得ることができる。
・ VDA(ドイツ自動車工業会)278(ガスクロマトグラフィー熱脱着法)による全有機溶剤揮発量が520ppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体。このように構成した場合には、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体を自動車用の内装部品等として好適に用いることができる。

Claims (5)

  1. ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を反応、発泡及び硬化させて得られる発泡体を熔解処理しセル膜を除去してなるポリウレタン発泡体であって、
    前記ポリウレタン発泡体の原料には数平均分子量が350〜4000であり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、及びラクトン系酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上の酸化防止剤が、ポリオール類100質量部当たり1〜20質量部含まれていることを特徴とするポリウレタン発泡体。
  2. 前記熔解処理が、爆破処理であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体。
  3. JIS Z8808に準拠して測定されるアセトアルデヒドの揮発量が、0.03ppm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体。
  4. JIS Z8808に準拠して測定されるプロピオン酸の揮発量が、1.0ppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体。
  5. 前記ポリオール類は、ポリエーテルポリオールであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体。
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