以下、本発明に係る光電陰極及び電子管の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、「上」、「下」等の語は図面に示す状態に基づいており、便宜的なものである。
(光電陰極)
図1は本発明に係る光電陰極の一実施形態の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示される光電陰極のII−II線断面図である。本実施形態に係る光電陰極1は電界援助型の光電陰極であって、図1に示されるように、支持基板2と、支持基板2上に設けられた光吸収層6と、光吸収層6上に設けられた電子放出層8と、電子放出層8上に設けられたコンタクト層10と、コンタクト層10上に設けられた第1の電極12と、第2の電極4とを備えている。
支持基板2は、半導体基板であって、例えばp型InP半導体からなっている。支持基板2は、入射光(hν)が入射される一方の主面と、一方の主面と対向する他方の主面とを有している。支持基板2の一方の主面上には第2の電極4が形成され、他方の主面上には光吸収層6が形成されている。
第2の電極4は、支持基板2と良好な電気的接触をする材料でなっており、例えばAuGe/Niといった積層の導電性材料からなっている。なお、第2の電極4の材料はAuGe/Niに限るものではなく、支持基板2と良好な電気的接触をする材料であれば構わない。そのため、例えばAu/Ge、Ti/Pt/Au,Ag/ZnTiなどを用いてもよい。
光吸収層6は、光電変換を行う部分であり、光を吸収して光電子を発生する。光吸収層6は、例えばp型InGaAs半導体からなっている。光吸収層6上に形成された電子放出層8は、光吸収層6にて発生した光電子を加速する部分である。電子放出層8は、例えばp型InP半導体からなっている。光吸収層6および電子放出層8は、略平板状を呈している。
光電陰極1を積層方向(光吸収層6の主面方向)から見ると、第1の電極12の貫通孔18の内側には活性層20が形成されている。より具体的には、図2に示されるように、電子放出層8の表面の一部は、後述するコンタクト層10の貫通孔11および第1の電極12の貫通孔18から露出している。貫通孔11,18から露出した部分には、極薄くかつ均一に形成された活性層20が形成されている。活性層20は、例えばCs等のアルカリ金属からなっている。このような活性層20は、電子放出層8表面の仕事関数を低下させる。そのため、電子放出層8で加速された光電子を、貫通孔11,18を介して真空中へ出力することが容易となる。なお、活性層20の材料はCsに限るものではなく、アルカリ金属としてはCs以外にK、Rb、Naなどを用いてもよい。また、このようなアルカリ金属の酸化物や、このようなアルカリ金属のフッ化物であってもよい。
電子放出層8の上には、コンタクト層10が形成されている。コンタクト層10は、電子放出層8とpn結合を形成する部分であって、例えばn型InP半導体からなっている。コンタクト層10には、厚さ方向に貫通する貫通孔11が形成されている。なお、本願における貫通孔11は、物理的な孔に限るものではなく、光学的な孔(光が透過する開口)も含む。
コンタクト層10の上には、第1の電極12が形成されている。第1の電極12は、コンタクト層10と電気的に接続されている。第1の電極12は、第2の電極4とともに、光吸収層6の一方の主面と他方の主面との間に電圧を印加する。より具体的にいうと、第1の電極12と第2の電極4との間には、バイアス電圧が印加されることとなる。第1の電極12は、導電性の材料を含んでいる。含まれる導電性の材料としては、Al、Ag、Au等が好ましいが、コンタクト層10と良好な電気的接触が得られるものであれば、これ以外であってもよい。
第1の電極12の中央部には、厚さ方向に貫通する貫通孔18が設けられている。貫通孔18は、長辺および短辺からなる略矩形を呈しており、コンタクト層10の貫通孔11と連通されている。貫通孔18の短辺の長さ(最短幅)dは、支持基板2、光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10を介して第1の電極12に入射する光の波長よりも短くなっている。貫通孔18の短辺の長さdをこのように規定することにより、貫通孔18から近接場光(後に詳しく述べる)のみを確実に出力させることができる。なお、本願における貫通孔18は、物理的な孔に限るものではなく、光学的な孔(光が透過する開口)も含む。また、本実施形態では、貫通孔11と貫通孔18とは同じ大きさを有している。
第1の電極12は、コンタクト層10と接合する一方の主面と、当該一方の主面と対向する他方の主面12aとを有している。第1の電極12の他方の主面12aには、複数の凸部14と、凸部14間に位置する凹部16とが形成されている。先述した貫通孔18は、凹部16に位置している。複数の凸部14は、貫通孔18と同様に、長辺および短辺からなる略矩形を呈している。複数の凸部14は、長辺同士が対向するように一次元に配列されるとともに、貫通孔18を中心として対称的に配置されている。貫通孔18を挟まずに隣り合う凸部14間の中心距離はΛとなっており、貫通孔18を挟んで隣り合う凸部14間の中心距離はΛの2倍の長さとなっている。以下、この距離Λを周期間隔と呼ぶこととする。このように配置された凸部14と、凸部14間に位置する凹部16とにより、第1の電極12の他方の主面12aには所定の周期に従ったパターンが形成されることとなる。表面にこのようなパターンが形成された第1の電極12は、表面に凸部や凹部がない平坦な第1の電極と比べて、より強度の大きな近接場光を出力することができる。
周期間隔Λは、検出したい光の波長に応じて、適宜設定される。ここで、波長λ
0(=2πc/ω)の光が第1の電極12に対して略垂直に入射する場合を考える。この場合、第1の電極12の周期間隔Λが以下の式(1)を満たせば、波長λ
0の光により第1の電極12に表面プラズモン共鳴が発生する。
ε
aは第1の電極12と接する誘電体の比誘電率であって、真空の場合にはε
a=1である。ε
metalは第1の電極12の比誘電率であって、ε
metal>0である。よって、以下の式(2)が導き出せる。
式(2)によれば、波長λ0の光で表面プラズモン共鳴を発生させるには、第1の電極12における周期間隔Λを波長λ0よりも短くする必要がある。このことから、貫通孔18の短辺の長さ(幅)dもまた、波長λ0よりも短くする必要があることがわかる。
式(1)に示されるmを1とし、第1の電極12をAg又はAlから形成した場合の、周期間隔Λと光の波長λ0との関係を図3に示す。図3によれば、第1の電極12において波長λ0=1240nmの光で表面プラズモン共鳴を発生させるには、第1の電極12をAgから形成した場合は周期間隔Λを1234nmとすればよい。本実施形態では、表面プラズモン共鳴が波長λxの光で発生するように、第1の電極12の周期間隔Λを設定することとする。
ところで、表面プラズモン共鳴が発生すると、第1の電極12の貫通孔18から近接場光が出力されるが、出力される近接場光の波長もまた、周期間隔Λに依存することが従来から知られている。本実施形態では、第1の電極12の貫通孔18から出力される近接場光の波長が、光吸収層6にて吸収可能な波長となるように、第1の電極12の周期間隔Λを設定することとする。以下、第1の電極12の貫通孔18から出力される近接場光の波長を、波長λyと呼ぶこととする。
続いて、光電陰極1の製造工程を説明する。まず、図4(a)に示されるように、p型InP半導体からなる支持基板2を用意する。用意した支持基板2上に、p型InGaAs半導体からなる光吸収層6、p型InP半導体からなる電子放出層8、およびn型InP半導体からなるコンタクト層10を、この順で形成し積層する。これらの層は、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE法)、塩化物気相成長法(クロライドVPE法)、水素化物気相成長法(ハイドライドVPE法)、分子線成長法(MBE法)、液相成長法(LPE法)等を用いて形成することができる。
次に、図4(b)に示されるように、コンタクト層10上にフォトレジスト22を塗布した後、凸部14を形成する領域が開口するように、フォトレジスト22のパターニングを行う。そして、図4(c)に示されるように、フォトレジスト22によりマスクされたコンタクト層10上に、Al、Ag、Au等を含む導電膜24を蒸着により成膜する。なお、フォトレジスト22のパターニングは、紫外線等を用いた光リソグラフィ法で行ってもよいし、電子ビームを用いた電子線リソグラフィ法で行ってもよい。
次に、図4(d)に示されるように、導電膜24のうち、フォトレジスト22上に成膜された部分をフォトレジスト22と共にリフトオフ除去する。リフトオフ除去を行った後、図5(a)に示されるように、導電膜24と同一の材料からなる導電膜26を蒸着により成膜する。導電膜26を成膜した後、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を照射して、図5(b)に示されるように、貫通孔11,18を形成する。
次に、図5(c)に示されるように、光吸収層6の貫通孔18から露出した部分の上に、Cs等のアルカリ金属からなる活性層20を形成する。また、支持基板2の一方の主面に、AuGe/Niからなる第2の電極4を形成する。以上の工程を経て、図1に示した光電陰極1が完成する。
続いて、光電陰極1の動作について説明する。図1に示されるように、支持基板2の一方の主面側から光(hν)が入射すると、かかる入射光(hν)は支持基板2、光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10を透過して第1の電極12に到達する。第1の電極12における、凸部14および凹部16によるパターンが形成された面、すなわち第1の電極12の他方の主面12aに入射光(hν)が到達すると、入射光(hν)に含まれる波長λxの光が第1の電極12の表面プラズモンと結合する。その結果、第1の電極12にて表面プラズモン共鳴が生じる。
表面プラズモン共鳴が生じると、第1の電極12の貫通孔18から強い近接場光が出力される。近接場光の出力方向は、パターンが形成された面からパターンが形成されていない面に向かう方向、すなわち他方の主面12aから一方の主面に向かう方向となる。貫通孔18から出力される近接場光の強度は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光の強度に比例しており、且つ波長λxの光の強度よりも大きい。また、近接場光の波長λyは、第1の電極12表面に形成されたパターンの周期間隔Λに依存している。
第1の電極12の貫通孔18から出力された近接場光は、コンタクト層10の貫通孔11および電子放出層8を通って光吸収層6に入射する。近接場光の波長はλyであって、光吸収層6にて吸収可能な波長となっている。そのため、光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分は、近接場光を吸収し、近接場光の強度(受光量)に応じた量の光電子を発生する。
なお、第1の電極12の貫通孔18から出力される近接場光は、例えば、表面に凸部や凹部が形成されていない平坦な第1の電極に光(hν)が入射したときに当該第1の電極の貫通孔から出力される光と比べて、非常に大きな強度を有している。そのため、貫通孔11,18の周辺部分にて発生する光電子の量は、第1の電極12に代わって上述した平坦な表面を有する第1の電極を用いた場合に発生する光電子の量と比べて、非常に多くなっている。
第1の電極12と第2の電極4との間には、バイアス電圧が印加されている。電子放出層8とコンタクト層10との間にはpn接合が形成されているため、第1および第2の電極12,4間に印加されたバイアス電圧により発生した電界の作用で、光吸収層6で発生した光電子は、電子放出層8内に移送される。このとき、光吸収層6で発生した光電子のうち、貫通孔11,18の周辺部分で発生した光電子、すなわち近接場光による光電子は、電子放出層8内の、貫通孔11,18の周辺部分に移送されることとなる。貫通孔11,18の周辺部分に移送された光電子は、活性層20によって仕事関数が低下したコンタクト層10の貫通孔11、および第1の電極12の貫通孔18を介して、真空である外部に放出される。
ところで、光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分では、近接場光による光電子のほかに、熱電子が発生する。貫通孔11,18の周辺部分で発生した熱電子は、近接場光による光電子と同じように、電子放出層8内の、貫通孔11,18の周辺部分に移送されたのち、コンタクト層10の貫通孔11および第1の電極12の貫通孔18を介して、真空である外部に放出される。貫通孔11,18の周辺部分で発生する熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて非常に少ない。特に本実施形態では、貫通孔18の短辺の長さdは第1の電極12に入射する光の波長よりも短く、そのため貫通孔18は狭くなっている。狭い貫通孔11,18の周辺部分で発生する熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて極めて少ない。そのため、外部に放出される熱電子の量もまた、極めて少ないものとなる。このように、光電陰極1においては、光電子の放出量は多くなる一方で熱電子の放出量は少なくなっている。
以上説明したように、本実施形態に係る光電陰極1では、第1の電極12の他方の主面12aに、凸部14および凹部16によるパターンが周期間隔Λで形成されている。そのため、第1の電極12は、波長λxの光で表面プラズモン共鳴を発生し、且つ、波長λyの近接場光を貫通孔18から出力することとなる。貫通孔18から出力された近接場光は、光吸収層6に入射する。光吸収層6は、近接場光を吸収し、近接場光の強度に応じた量の光電子を発生する。近接場光による光電子は、貫通孔18の周辺部分で発生する。そのため、貫通孔18からは、貫通孔18の周辺部分で発生した光電子、すなわち近接場光による光電子が出力されることとなる。近接場光の強度は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光の強度に比例し、且つこれよりも大きい。よって、光吸収層6における貫通孔18の周辺部分は十分な量の光電子を発生することとなり、その結果、第1の電極12の貫通孔18からは十分な量の光電子が出力されることとなる。
光吸収層6は、貫通孔18の周辺に位置する部分において、光電子のほかに熱電子を発生する。貫通孔18の周辺部分で発生した熱電子は、光電子と同様に、貫通孔18を介して外部に放出される。貫通孔18の周辺部分で発生する熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて非常に少ない。したがって、貫通孔18から放出される熱電子の量もまた非常に少ないものとなる。その結果、光電陰極1では、光電子の放出量は多くなる一方で熱電子の放出量は少なくなるため、熱電子によるノイズを低減することができる。よって、S/N比が向上し、優れた感度で光を検出することが可能となる。また、本実施形態の光電陰極1によれば、第1の電極12に貫通孔18、凸部14、および凹部16を形成するだけで熱電子によるノイズを低減することができるため、冷却手段等を別途設ける必要がない。よって、光電陰極1を備えるデバイスの小型化を図ることができる。
また、本実施形態の光電陰極1では、波長λxの光で表面プラズモン共鳴が発生するように、第1の電極12の周期間隔Λを設定している。よって、周期間隔Λを変更すれば、表面プラズモン共鳴を発生する光の波長を変えることができる。つまり、第1の電極12の周期間隔Λを変えるだけ、言い換えると第1の電極12表面のパターンを変えるだけで、検出可能な光の波長を変更することができる。よって、検出可能な光の波長を変更するためにフィルタ等を設ける必要がなくなるため、光電陰極1の製造を容易化することができる。
なお、本実施形態に係る光電陰極1では、入射光の入射する面と反対側から光電子が出射される、いわゆる透過型光電面を例に説明したが、本発明はこれに限るものではなく、入射光の入射する面と光電子が出射される面が同じ側である、いわゆる反射型光電面にも適用できることはもちろんである。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、本実施形態では、光吸収層6はp型InGaAs半導体からなっており、電子放出層8はp型InP半導体からなっており、コンタクト層10はn型InP半導体からなっているとした。光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10の材料はこれに限られず、それぞれ他の半導体材料からなっていてもよい。光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10の材料を変更することにより、光吸収層6にて吸収される光の波長を変えることができる。光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10には、例えば米国特許第3,948,143号に開示されているような材料を適宜用いることができる。
また、本実施形態における支持基板2はp型InP半導体からなるとしたが、支持基板2の材料はこれに限られず、他の半導体材料からなっていてもよい。例えば、ガラス、石英、サファイヤといった、紫外あるいは可視領域の入射光(hν)に対して透明な材料からなっていてもよい。
また、本実施形態では、コンタクト層10は貫通孔11を有しているとした。これを、図6(a)に示されるように、コンタクト層10は、第1の電極12の貫通孔18と対向する位置にメサ状部28を有しているとしてもよい。また、本実施形態では、第1の電極12において、凸部14および凹部16は他方の主面12aに形成されるとした。これを、図6(b)に示されるように、凸部14および凹部16は、第1の電極12の一方の主面に形成されるとしてもよい。凸部14および凹部16を第1の電極12の一方の主面に形成した場合には、図6(c)に示されるように、コンタクト層10は第1の電極12の貫通孔18を埋めるように形成されるとしてもよい。また、第1の電極12の周囲には、ブラッグ反射層が形成されるとしてもよい。
また、第1の電極12表面のパターンは、本実施形態のものに限られない。例えば、図7(a)に示されるように、略矩形状の凸部14を等間隔で一次元配列し、凸部14間に位置する凹部16それぞれに略矩形状の貫通孔18を設けることにより形成されるパターンであってもよい。また、図7(b)に示されるように、略円形状の貫通孔18を中心とし、その周囲に略円形状の凸部14を等間隔で二次元配列することにより形成されるパターンであってもよいし、図7(c)に示されるように、略円形状の貫通孔18と略円形状の凸部14とを交互に且つ等間隔で二次元配列することにより形成されるパターンであってもよい。なお、略円形状の貫通孔18の径(最短幅)は、第1の電極12に入射する光の波長よりも短いものとする。また、図8(a)に示されるように、貫通孔18と複数の凸部14とで構成されるダーツの的(ブルズアイとも呼ばれる)状の模様を、所定の間隔で2次元配列することにより形成されるパターンであってもよい。図8(b)は、図8(a)を略矩形状に変形したものである。
また、本実施形態の光電陰極1において、第1の電極12表面のパターンは、複数の凸部14および凸部14間に位置する凹部16によって形成されるとした。これを、第1の電極12表面のパターンは複数の貫通孔18によって形成されるとしてもよい。図8(c)に示されるように、貫通孔18を等間隔(所定の間隔)で二次元配列することにより第1の電極12表面のパターンを形成した場合には、貫通孔18の位置や配置間隔を変えることで、第1の電極12におけるパターンの形状を変えることができる。
上述したように第1の電極12におけるパターンの形状を適宜変えることにより、図9の曲線G1に示されるように、感度波長範囲が比較的広く平坦な感度を有する光電陰極、曲線G2に示されるように、感度波長範囲が比較的広く短波長側に高い分光感度を有する光電陰極、曲線G3に示されるように、感度波長範囲が比較的広く長波長側に高い分光感度を有する光電陰極、曲線G4に示されるように、短波長側の特定波長のみに分光感度を有する光電陰極、および曲線G5に示されるように、長波長側の特定波長のみに分光感度を有する光電陰極を得ることができる。
また、図10に示されるように、同一の形状を有する第1の電極120を複数備えるとしてもよい。さらに、第1の電極120に対してそれぞれ個別に電圧を印加できるようにすれば、全ての第1の電極120と第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも、一部の第1の電極120と第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも可能となる。光電子は、電圧が印加された第1の電極120の貫通孔18から放出される。そのため、電圧が印加される第1の電極120の数を変え、各第1の電極120の貫通孔18から放出された光電子の量を重畳することによって、光の検出感度を変えることが可能となる。
そのほか、図11に示されるように、異なるパターンが形成された複数の第1の電極122a,122b,122cを備えるとしてもよい。図12は、図11に示される光電陰極1のXII−XII線断面図である。図11,12に示される第1の電極122aの周期間隔はΛaであり、第1の電極122bの周期間隔はΛbであり、第1の電極122cの周期間隔はΛcである。周期間隔Λa、周期間隔Λb、および周期間隔Λcは、それぞれ異なっている。よって、第1の電極122a,122b,122cにおいては、プラズモン共鳴を発生させる光の波長も、出力される近接場光も、それぞれ異なることとなる。
このような第1の電極122a,122b,122cに対してそれぞれ個別に電圧を印加できるようにすれば、第1の電極122a,122b,122c全てと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも、第1の電極122aのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも可能となる。例えば、第1の電極122a,122b,122c全てと、第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122a,122b,122cそれぞれの下に位置する電子放出層8とコンタクト層10との間でpn接合が形成されることとなる。その結果、第1の電極122aの貫通孔18からは第1の電極122aから出力された近接場光による光電子が、第1の電極122bの貫通孔18からは第1の電極122bから出力された近接場光による光電子が、第1の電極122cの貫通孔18からは第1の電極122cから出力された近接場光による光電子が、それぞれ出力される。よって、入射光に含まれる複数の波長の光を検出することができる。
また、第1の電極122aのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122aの貫通孔18のみから光電子が出力されることとなる。これにより、第1の電極122aにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出することができる。同様にして、第1の電極122bのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122bにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出でき、第1の電極122cのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122cにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出できる。このように、第1の電極122a,122b,122cのいずれか一つと、第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することにより、本発明の光電陰極1は、一つの素子でありながら、入射した光(hν)に含まれる複数の波長の光をそれぞれ個別に検出することが可能となる。なお、図11,12では、異なるパターンが形成された第1の電極を3つ備えた場合を示したが、備える第1の電極の数はこれに限れられないことはいうまでもない。
また、本実施形態の光電陰極1は、pn接合を用いた電界援助型の光電陰極であるとした。しかしながら、本発明の光電陰極はこれに限られず、例えば図13に示されるようにショットキ接合を用いた電界援助型の光電陰極であってもよい。図13に示される光電陰極90は、支持基板92と、光吸収層93と、電子放出層94と、第1および第2の電極12,4とを備えている。支持基板92はp型InP半導体からなっており、光吸収層93はp型InGaAs半導体、電子放出層94はp型InP半導体からなっている。電子放出層94のうち、第1の電極12の貫通孔18から露出した部分は、極薄くかつ均一に形成された活性層20で覆われている。光電陰極90では、電子放出層94上にコンタクト層10が形成されておらず、電子放出層94上に第1の電極12が直接積層されショットキ接合している点で、光電陰極1と異なっている。
続いて、光電陰極90の製造工程を説明する。まず、p型InP半導体からなる支持基板92を用意する。用意した支持基板92上に、p型InGaAs半導体からなる光吸収層93、p型InP半導体からなる電子放出層94を、この順で形成し積層する。これらの層は、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE法)、塩化物気相成長法(クロライドVPE法)、水素化物気相成長法(ハイドライドVPE法)、分子線成長法(MBE法)、液相成長法(LPE法)等を用いて形成することができる。
次に、光電陰極1を製造する場合と同様に、フォトレジストを用いて電子放出層94上に第1の電極12を形成する。より具体的には、電子放出層94上にフォトレジストを塗布した後、凸部14を形成する領域が開口するように、フォトレジストのパターニングを行う(図4(b)参照)。そして、フォトレジストによりマスクされた電子放出層94上に、Al、Ag、Au等を含む導電膜を蒸着により成膜する(図4(c)参照)。フォトレジスト22のパターニングには、紫外線等を用いた光リソグラフィ法や電子ビームを用いた電子線リソグラフィ法を用いることができる。成膜した導電膜のうち、フォトレジスト上に成膜された部分をフォトレジストと共にリフトオフ除去する(図4(d)参照)。
リフトオフ除去を行った後、導電膜を再度蒸着により成膜する(図5(a)参照)。導電膜を成膜した後、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を照射して導電膜を除去し、貫通孔18を形成する(図5(b)参照)。そして、電子放出層94のうち、貫通孔18から露出した部分の上に、Cs等のアルカリ金属からなる活性層20を形成する(図5(c)参照)。また、支持基板92の一方の主面に、AuGe/Ni等の導電性材料からなる第2の電極4を形成する。以上の工程を経て、図13に示した光電陰極90が完成する。
光電陰極90では、電子放出層94と第1の電極12とがショットキ接合しているため、第1の電極12と第2の電極4との間にバイアス電圧を印加すると、第1の電極12と第2の電極4との間に発生した電界の作用で、光吸収層93で発生した光電子を電子放出層94へ移送し、活性層20が形成された貫通孔18を介して、外部に放出することができる。なお、光吸収層93で発生する光電子は、光電陰極1と同様に、第1の電極12から出力された近接場光によるものである。また、光吸収層93では熱電子も発生するが、光電陰極1と同様の理由で、貫通孔18から放出される熱電子の量は非常に少なくなっている。よって、上述した光電陰極1と同様の効果を得ることができる。なお、支持基板92の材料はp型InP半導体に限られず、光電陰極90の機械的強度を維持できるものであれば、ガラスや酸化物材料等を適宜用いることができる。また、光吸収層93の材料はp型InGaAs半導体に限られず、例えばGaAs,GaAsP,GaN,InGaN,AlGaN、InGaAsP,GaSb,InGaSb、といった化合物半導体およびこれらの混晶を適宜用いることができる。
また、光電陰極90は、入射光の入射する面と反対側から光電子が出射されるいわゆる透過型光電面だけでなく、入射光の入射する面と光電子が出射される面が同じ側であるいわゆる反射型光電面にも、適用することが可能である。
(光電陰極アレイ)
次に、光電陰極アレイについて説明する。光電陰極アレイは、上述した光電陰極1を複数備えるものである。複数の光電陰極1は、1次元あるいは2次元状に配列されている。光電陰極アレイにおいては、バイアス電圧の印加が光電陰極1毎に行えるようになっている。したがって、全ての光電陰極1において第1および第2の電極12,4間にバイアス電圧を印加することも、一部の光電陰極1のみにおいて第1および第2の電極12,4間にバイアス電圧を印加することも可能となる。光電陰極1は、バイアス電圧の印加に応じて光電子を放出するため、バイアス電圧の印加を光電陰極1ごとに個別に行えるようにすることにより、光電子を放出する光電陰極1の数を適宜変更することが可能となる。その結果、波長λxの光の検出感度を変えることが可能となる。また1次元あるいは2次元状に配列された光電陰極1に、バイアス電圧を順次印加する手段を付加することにより、位置検出機能を有することも可能となる。なお、備える光電陰極は、図13に示される光電陰極90のような、ショットキ接合を用いた電界援助型の光電陰極であってもよい。
(画像増強管)
次に、画像増強管について説明する。図14は、画像増強管30の断面模式図である。画像増強管30は、ガラス面板31と、光電陰極100と、マイクロチャンネルプレート(MCP)32と、蛍光体34と、ガラスファイバープレート36と、真空容器38とを備えている。
光電陰極100は、支持基板2と、支持基板2上に設けられた光吸収層6と、光吸収層6上に設けられた電子放出層8と、電子放出層8上に設けられたコンタクト層102と、コンタクト層102上に設けられた第1の電極106と、第2の電極4とを備えている。第1の電極106には、図8(c)に示される第1の電極12のように、貫通孔114が等間隔(所定の間隔)で二次元配列されている。貫通孔114の径は、第1の電極12に入射する光の波長よりも短くなっている。貫通孔114の間隔は、第1の電極106が波長λxの光で表面プラズモン共鳴を発生し、且つ、波長λyの近接場光を出力するように、設定されている。コンタクト層102には、貫通孔114と連通する貫通孔108が等間隔(所定の間隔)で二次元配列されている。光吸収層6のうち、貫通孔108,114から露出した部分は、極薄くかつ均一に形成された活性層20で覆われている。
ガラス面板31は、真空容器38の一方の端部に支持されており、ガラス面板31と真空容器38とは、In等からなるシール部40でシールされている。シールされた真空容器38の内部は、真空となっている。真空容器38内部には、ガラス面板31側から、光電陰極100、MCP32、蛍光体34、およびガラスファイバープレート36が順次配設されている。光電陰極100は、真空容器38内部の一端において、第2の電極4がガラス面板31側に位置し、第1の電極106がMCP32側に位置するように取り付けられている。第1の電極106には電極42が接続されており、第2の電極4には電極43が接続されている。MCP32及び蛍光体34には、所望の電位を与えるための複数の電極44,46,48が設けられている。
電極42,43を介して、光電陰極100の第1の電極106と第2の電極4との間には電圧が印加されている。電極42,44を介して、光電陰極100とMCP32との間には電圧が印加されている。また、MCP32に接続された各電極44,46を介して、MCP32の上面側(以下「入力側」という)とMCP32の下面側(以下「出力側」という)との間には増倍用の電圧が印加されている。また、MCP32に接続された電極46および蛍光体34に接続された電極48を介して、MCP32と蛍光体34との間には数kV程度の電圧が印加されている。
このような構成を有する画像増強管30の動作を説明する。画像増強管30の入射窓となるガラス面板31に光(hν)が入射すると、入射光(hν)はガラス面板31、光電陰極100の支持基板2、光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層102を透過して、光電陰極100の第1の電極106に到達する。第1の電極106に入射光(hν)が到達すると、入射光(hν)に含まれる波長λxの光により、第1の電極106で表面プラズモン共鳴が発生する。その結果、第1の電極106の貫通孔114から強い近接場光が出力される。出力される近接場光の波長はλyであり、光吸収層6にて吸収可能な波長となっている。
近接場光は、光吸収層6にて受光される。光吸収層6における貫通孔108,114の周辺部分は、近接場光を受光して、近接場光の強度(受光量)に応じた量の光電子を発生する。電子放出層8とコンタクト層102との間にはpn接合が形成されているため、第1の電極106と第2の電極4との間に印加された電圧により発生した電界の作用で、光吸収層6で発生した光電子は、電子放出層8内に移送される。このとき、光吸収層6で発生した光電子のうち、貫通孔108,114の周辺部分で発生した光電子、すなわち近接場光による光電子は、電子放出層8内の、貫通孔108,114の周辺部分に移送されることとなる。貫通孔108,114の周辺部分に移送された光電子は、活性層20によって仕事関数が低下したコンタクト層102の貫通孔108、および第1の電極106の貫通孔114を介して、真空である外部に放出される。
ここで、近接場光の強度は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光の強度に比例し、且つこれよりも大きい。よって、光吸収層6における貫通孔108,114の周辺部分は十分な量の光電子を発生することとなり、その結果、第1の電極106の貫通孔114からは十分な量の光電子が放出されることとなる。なお、光吸収層6のうち貫通孔108,114の周辺部分では、光電子とともに熱電子も発生する。貫通孔114の径は入射光(hν)よりも小さいため、貫通孔108,114の周辺部分で発生する熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて極めて少ない。よって、第1の電極106の貫通孔114から放出される熱電子の量は、非常に少ないものとなる。
光電陰極1から真空中に放出された光電子および熱電子は、光電陰極100とMCP32との間に印加された電圧により加速されながら、MCP32に入射する。入射した光電子および熱電子は、MCP32により二次電子増倍されて、再び真空中に出力される。そして、MCP32と蛍光体34との間に印加された電圧により加速されながら、蛍光体34に入射し発光する。蛍光体34からの発光はガラスファイバープレート36を通して画像増強管30の外部に取り出される。
以上述べたように、本実施形態に係る画像増強管30は、光電陰極100を備えている。光電陰極100においては、光電子の放出量は多くなる一方で熱電子の放出量は少なくなる。そのため、熱電子によるノイズを低減することができる。よって、S/N比が向上し、光の検出感度に優れた画像増強管30を提供することができる。また、第1の電極106に貫通孔114を形成するだけで熱電子によるノイズを低減することができるため、冷却手段等を別途設ける必要がない。よって、光電陰極100を小型にすることが可能となり、その結果、画像増強管30も小型化を図ることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本実施形態の画像増強管30では、光電陰極100を、入射光(hν)の入射面とは反対側の面から光電子を出力する透過型光電面として用いたが、光電陰極100を、入射光(hν)の入射面から光電子を出力する反射型光電面として用いることもできる。
また、光電陰極100の代わりに、光電陰極100を複数配列してなる光電陰極アレイを用いることもできる。光電陰極アレイにおいて、第1および第2の電極12,4に対する電圧の印加を、光電陰極100ごとに個別に行えるようにした場合、作動する光電陰極100の数を適宜変更することが可能となる。その結果、波長λxの光の検出感度を変えることが可能となる。
(ラインフォーカス型光電子増倍管)
次に、ラインフォーカス型の光電子増倍管について説明する。図15は、光電子増倍管60の断面模式図である。光電子増倍管60は、ガラス面板61と、図1に示されるような光電陰極1と、真空容器62と、集束電極64と、複数のダイノード66と、最終ダイノード68と、アノード電極70とを備えている。ガラス面板61は、真空容器62の一方の端部に支持されており、ガラス面板61と真空容器62とはシールされている。シールされた真空容器62の内部は、真空となっている。真空容器62内部には、ガラス面板61側から、光電陰極1、集束電極64、複数のダイノード66、および最終ダイノード68が順次配設されている。光電陰極1は、真空容器62の一端において、第2の電極4がガラス面板61側に位置し、第1の電極12が内側に位置するように取り付けられている。光電陰極1における第1の電極12および第2の電極4は外部回路に接続されており、バイアス電圧Vaを印加することが可能になっている。光電陰極1における第1の電極12およびアノード電極70は外部回路に接続されており、バイアス電圧Vbを印加することが可能になっている。
集束電極64は、光電陰極1と所定の間隔をあけて対向するように真空容器62内部に設けられている。集束電極64の中心部には開口64aが設けられている。複数のダイノード66は、光電陰極1から出射された光電子を受けて二次電子を発生する、あるいは他のダイノード66から二次電子を受けてさらに多くの二次電子を発生するための電子増倍手段である。複数のダイノード66は、曲面状を呈しており、ダイノード66それぞれが出射した二次電子を別のダイノード66が受けるように、ダイノード66の複数の段が繰り返して配置されている。最終ダイノード68は、複数のダイノード66によって増倍された二次電子を最後に受ける部分である。アノード電極70は、最終ダイノード68および図示しないステムピンに接続されている。
このような構成を有する光電子増倍管60の動作を説明する。光電子増倍管60のガラス面板61に光(hν)が入射すると、入射光(hν)はガラス面板61、光電陰極1の支持基板2、光吸収層6、電子放出層8、およびコンタクト層10を透過して、光電陰極1の第1の電極12に到達する。第1の電極12に入射光(hν)が到達すると、入射光(hν)に含まれる波長λxの光により、第1の電極12で表面プラズモン共鳴が生じる。その結果、第1の電極12の貫通孔18から強い近接場光が出力される。出力される近接場光の波長はλyであり、光吸収層6にて吸収可能な波長となっている。
近接場光は、光吸収層6にて受光される。光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分は、近接場光を受光して、近接場光の強度(受光量)に応じた量の光電子を発生する。第1および第2の電極12,4間に印加されたバイアス電圧により発生した電界の作用で、光吸収層6で発生した光電子は、電子放出層8内に移送される。このとき、光吸収層6で発生した光電子のうち、貫通孔11,18の周辺部分で発生した光電子、すなわち近接場光による光電子は、電子放出層8内の、貫通孔11,18の周辺部分に移送されることとなる。貫通孔11,18の周辺部分に移送された光電子は、活性層20によって仕事関数が低下したコンタクト層10の貫通孔11、および第1の電極12の貫通孔18を介して、真空である外部に放出される。
ここで、近接場光の強度は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光の強度に比例し、且つこれよりも大きい。よって、光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分は十分な量の光電子を発生することとなり、その結果、第1の電極12の貫通孔18からは十分な量の光電子が出力されることとなる。なお、光吸収層6のうち貫通孔11,18の周辺部分では、光電子とともに熱電子も発生する。貫通孔18は非常に狭いため、貫通孔11,18の周辺部分で発生する熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて極めて少ない。よって、貫通孔18から放出される熱電子の量は、非常に少ないものとなる。
光電陰極1から真空中に放出された光電子および熱電子は、集束電極64によって引き出されるとともに集束され、集束電極64の開口64aを通過する。開口64aを通過した光電子および熱電子を受けた複数のダイノード66は、二次電子を発生し、発生した二次電子を増倍する。増倍された二次電子は最終ダイノード68に入力され、最終ダイノード68によりさらに増倍される。アノード電極70とカソード電極72にはバイアス電圧Vbが印加されているため、最終ダイノード68により増倍された二次電子は、アノード電極70によって収集され、アノード電極70に接続された図示しないステムピンを介して、光電子増倍管60の外部へ出力される。
以上述べたように、本実施形態に係る光電子増倍管60は、上記の実施形態に係る光電陰極1を備えている。光電陰極1においては、光電子の放出量は多くなる一方で熱電子の放出量は少なくなる。そのため、熱電子によるノイズを低減することができる。よって、S/N比が向上し、光の検出感度に優れた光電子増倍管60を提供することができる。また、第1の電極12に貫通孔18、凸部14、および凹部16を形成するだけで熱電子によるノイズを低減することができるため、冷却手段等を別途設ける必要がない。よって、光電陰極1を小型にすることが可能となり、その結果、光電子増倍管60も小型化を図ることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、光電子増倍管60では、光電陰極1を、入射光(hν)の入射面とは反対側の面から光電子を出力する透過型光電面として用いたが、光電陰極1を、入射光(hν)の入射面から光電子を出力する反射型光電面として用いることもできる。
また、光電陰極1の代わりに、光電陰極1を複数配列してなる光電陰極アレイを用いることもできる。光電陰極アレイにおいて、第1および第2の電極12,4に対する電圧の印加を、光電陰極1ごとに個別に行えるようにした場合、作動する光電陰極1の数を適宜変更することが可能となる。その結果、波長λxの光の検出感度を変えることが可能となる。
また、図1に示されるような光電陰極1の代わりに、図11,12に示されるような光電陰極1を用いることもできる。このとき、第1の電極122a,122b,122cに対してそれぞれ個別に電圧を印加できるようにすれば、第1の電極122a,122b,122c全てと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも、第1の電極122aのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加することも可能となる。例えば、第1の電極122aのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122aの貫通孔18のみから光電子が出力されることとなる。これにより、第1の電極122aにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出することができる。同様にして、第1の電極122bのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122bにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出でき、第1の電極122cのみと第2の電極4との間にバイアス電圧を印加した場合には、第1の電極122cにプラズモン共鳴を発生させた波長の光のみを検出できる。その結果、光電子増倍管60は、一つの素子でありながら、入射した光(hν)に含まれる複数の波長の光をそれぞれ個別に検出することが可能となる。
(電子打ち込み型光電子増倍管)
次に、電子打ち込み型の光電子増倍管について説明する。図16は、光電子増倍管80の断面模式図である。光電子増倍管80は、ガラス面板81と、図1に示されるような光電陰極1と、真空容器82と、フォトダイオード84とを備えている。
真空容器82の一方の端部にはガラス面板81が支持されており、真空容器82の他方の端部には底板部85が支持されている。ガラス面板81および底板部85は真空容器82を気密に封止して、真空容器82内部を真空状態に保持させている。真空容器82内部には、ガラス面板81側から、光電陰極1およびフォトダイオード84が順次配設されている。光電陰極1は、真空容器82内部の一端において、第2の電極4がガラス面板81側に位置し、第1の電極12がフォトダイオード84側に位置するように取り付けられている。底板部85上面には、光電陰極1と対向して、光電子が打ち込まれたとき増倍作用を有しているフォトダイオード84が設置されている。フォトダイオード84にはステムピン88が接続されており、ステムピン88の一端は底板部85を貫通して延びている。
ステムピン88を介して、フォトダイオード84には電圧が印加されている。また、ステムピン88と光電陰極1における第1の電極12との間、および光電陰極1における第1の電極12と第2の電極4との間にも、それぞれ電圧が印加されている。
このような構成を有する光電子増倍管80の動作を説明する。光電子増倍管80の入射窓となるガラス面板81に光(hν)が入射すると、入射光(hν)はガラス面板81を透過して、光電陰極1に到達する。光電陰極1は、ラインフォーカス型の光電子増倍管60における光電陰極1と同様に動作する。すなわち、光電陰極1の第1の電極12は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光により表面プラズモン共鳴を発生する。そして、波長がλyの近接場光を貫通孔18から出力する。光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分は、近接場光を受光して、近接場光の強度(受光量)に応じた量の光電子を発生する。光吸収層6における貫通孔11,18の周辺部分で発生した光電子は、活性層20によって仕事関数が低下したコンタクト層10の貫通孔11、および第1の電極12の貫通孔18を介して、外部に放出される。
ここで、近接場光の強度は、入射光(hν)に含まれる波長λxの光の強度に比例し、且つこれよりも大きいため、第1の電極12の貫通孔18からは十分な量の光電子が出力されることとなる。なお、第1の電極12の貫通孔18からは、光吸収層6のうち貫通孔11,18の周辺部分にて発生した熱電子も放出されるが、放出される熱電子の量は、光吸収層6全体で発生する熱電子の合計量と比べて非常に少ない。
光電陰極1から真空中に出力された光電子および熱電子は、光電陰極1とフォトダイオード84との間に印加された電圧により加速されながら、フォトダイオード84に入射する。光電子および熱電子が入射されたフォトダイオード84は、光電子および熱電子1つに対し数1000倍に増倍された二次電子を発生する。増倍された二次電子は、ステムピン88を介して光電子増倍管80の外部へ出力される。
以上述べたように、本実施形態に係る光電子増倍管80は、上記の実施形態に係る光電陰極1を備えている。光電陰極1においては、光電子の放出量は多くなる一方で熱電子の放出量は少なくなる。そのため、熱電子によるノイズを低減することができる。よって、S/N比が向上し、光の検出感度に優れた光電子増倍管80を提供することができる。また、第1の電極12に貫通孔18、凸部14、および凹部16を形成するだけで熱電子によるノイズを低減することができるため、冷却手段等を別途設ける必要がない。よって、光電陰極1を小型にすることが可能となり、その結果、光電子増倍管80も小型化を図ることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、光電子増倍管80では、光電陰極1を、入射光(hν)の入射面とは反対側の面から光電子を出力する透過型光電面として用いたが、光電陰極1を、入射光(hν)の入射面から光電子を出力する反射型光電面として用いることもできる。
また、光電陰極1の代わりに、光電陰極1を複数配列してなる光電陰極アレイを用いることもできる。光電陰極アレイにおいて、第1および第2の電極12,4に対する電圧の印加を、光電陰極1ごとに個別に行えるようにした場合、作動する光電陰極1の数を適宜変更することが可能となる。その結果、波長λxの光の検出感度を変えることが可能となる。
また、図1に示されるような光電陰極1の代わりに、図11,12に示されるような光電陰極1を用いることもできる。この場合には、光電子増倍管60と同様に、一つの素子でありながら、入射した光(hν)に含まれる複数の波長の光をそれぞれ個別に検出することが可能となる。
また、光電子増倍管80では、光電子はフォトダイオード84に入射するとしたが、フォトダイオード84の代わりに電荷結合素子(CCD)を用いるとしてもよい。
1,90,100・・・光電陰極、2,92・・・支持基板、12a・・・主面、4・・・第2の電極、6,94・・・光吸収層、8・・・電子放出層、10,102・・・コンタクト層、11,18,108,114・・・貫通孔、12,106,120,122a,122b,122c・・・第1の電極、14・・・凸部、16・・・凹部、20・・・活性層、30・・・画像増強管、60,80・・・光電子増倍管。