JP4798735B2 - 種実類麹及びそれらを用いる酒類、食品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、種実類を製麹した種実類麹、及びそれを用いる酒類、食品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より栗の実を用いた酒類として、栗焼酎といわれる焼酎などが知られている。しかし、従来の栗焼酎では、栗を掛原料として用いることが通常であり、栗以外に米麹などの原料を用いているため栗独特の風味を十分生かしきれていない。また、栗を原料とした酒類を製造する方法としては、例えば、特公昭56−6271号公報に記載のように、栗の実を糖液に混合して香味を浸出させ、更に梅酒原液に添加混合して酒精飲料を製造する方法が開示されており、特公昭63−62188号公報に、栗の実を剥皮、水煮した後、糖液に浸漬加熱して栗蜜を得、これに酵母を添加して発酵させて栗蜜酒を製造する方法が開示されている。しかし、上述の公報には栗を原料とした麹についての記載はない。
【0003】
酒類用原料を加熱処理する方法としては、米などを水に浸漬してから蒸す方法が広く行われている。近年、特開平8−23955号公報に、穀類などの焼酎原料を焙炒処理してから仕込む方法が開示されている。しかし、上述の公報には、具体的な栗の焙炒方法や焙炒栗を原料とした酒類についての記載はなく、また焙炒栗麹についての記載もない。以上より、栗などの種実類由来の独特の風味を生かした香味良好な酒類、食品の開発が求められていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、栗などの種実類を原料とした酵素力価の高い種実類麹及び該種実類麹を用いる酒類、食品の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、種実類が栗類の表皮を剥皮した実であって、該栗類の表皮を剥皮した実を5mm角程度に裁断して、次いで200℃〜300℃で30秒〜3分の焙炒処理、及び/又は40〜50分間の蒸し処理して水分調整した後の水分の値を30〜50(w/w%)に調整する蒸きょう乾燥処理した後製麹してなる種実類麹の製造方法とその製造方法で製麹してなる種実類麹に関し、第2の発明は、第1の発明で得られた種実類麹を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法に関する。
【0006】
本発明者らは上記従来技術の問題点にかんがみ鋭意研究を行った結果、種実類が栗類の表皮を剥皮した実であって、該栗類の表皮を剥皮した実を5mm角程度に裁断し、次いで200℃〜300℃で30秒〜3分の焙炒処理、及び/又は40〜50分間の蒸し処理して水分調整した後の水分の値を30〜50(w/w%)に調整する蒸きょう乾燥処理してから製麹することによって、従来より高い酵素活性を持った種実類麹が得られることを見出した。更に、上述の方法で得られた種実類麹を用いることにより、従来とは異なった種実由来の新規で良好な香味を持った酒類又は食品が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における種実類とは、例えば日本栗、中国栗、ヨーロッパ栗、アメリカ栗などの栗類や、ぎんなん、しいの実、栃の実、はすの実、ひしの実などがあるがこれらに限定されるものではない。これらの中でも、日本栗、中国栗などの栗類の表皮を剥皮した実を用いることが好ましい。
【0008】
本発明でいう裁断とは、種実類を細かくし大きさを整えることを言うが、裁断する方法は、種実類を切断したり粉砕したりすることができれば特に限定はなく、裁断後の形状、粒度についても特に限定はない。例えば、サイの目カッターを用いて、剥皮した栗類の実を5mm角程度にカットすることにより、次の加熱処理工程が容易になる。
【0009】
本発明でいう種実類の加熱処理の例としては、まず焙炒処理が挙げられる。該焙炒処理とは、例えば、栗の実を熱風で流動させたり、放熱容器に入れ回転させながらかくはんし均一に加熱する方法があるが、特にこれらに限定されない。焙炒温度は150℃〜400℃の範囲内で選択し、焙炒時間は使用する種実類の種類、形状、水分含量、焙炒温度等に応じて適宜設定できる。特に、上述の方法で裁断した栗類の実を焙炒する時の好ましい条件は、焙炒温度が200℃〜300℃で焙炒時間が30秒〜3分である。焙炒条件が緩やかであると、水分の減少率が低く焙炒処理が不十分になる。また、焙炒条件が厳しいと表面のみが加熱されて焦げ臭が発生し好ましくない。
【0010】
一方、他の加熱処理の例として、蒸きょう乾燥処理がある。蒸きょう乾燥処理とは、裁断した種実類の実を蒸し処理し、その後水分調整する方法である。従来より、原料の蒸し処理は広く行われており、例えば、蒸煮機等を用いて種実類の実に直接水蒸気を接触させる方法などがある。しかし、種実類の実を蒸し処理しただけのものは、その水分量が60%程度と高く、次の製麹工程で麹菌の培養が不十分になるなどの問題があり、好ましくない。本発明においては、蒸し処理後、水分調整を行う。水分調整する方法としては、蒸し処理した種実類の実に乾燥高温空気を直接接触させる乾燥法などがあるが、これに限定されない。例えば、裁断した栗類を蒸きょう乾燥処理する時の条件としては、蒸し処理する時間は15分以上であればよいが、好ましくは40〜50分間であり、水分調整した後の水分の値を30〜50(w/w%)にすることが好ましい。これらの加熱処理によって得られた種実類の実は、そのまま用いてもよいし、凍結保存をしてもよい。また、焙炒処理と蒸きょう乾燥処理は、順次組合せて行ってもよい。
【0011】
本発明でいう種実類麹を製麹する方法については、特に限定されるものではなく、古来からの麹箱を用いる方法によっても、機械製麹法によってもよい。また、製麹条件も限定されるものではなく、上述の方法で加熱処理された種実類の実に種麹を接種し、20〜45℃で25〜60時間程度培養し、麹を造ることができる。用いる種麹菌は、醸造に用いられる麹菌であれば特に限定はなく、例えば白麹菌、黄麹菌、黒麹菌などがある。上述の方法で加熱処理された種実類の実を用いた麹は、従来の蒸し処理法のみで製麹された麹と比較して、ハンドリングがよくて操作がしやすくなり、また酵素力価も高くなる。特にα−アミラーゼ、酸性プロテアーゼなどの酵素力価が高く、焼酎などの酒類の醸造には好適である。
【0012】
本発明でいう酒類とは、清酒、焼酎、みりんなどのことをいい、食品とは、味噌、醤油などのことをいうが、原料の少なくとも一部に麹を用いて製造されるものであればよく、限定はされない。本発明の酒類、食品の製造方法において、醪の性状改良や発酵促進などのために酵素剤の使用は任意であり、動物、植物、微生物由来の酵素剤を用いることができる。特に焼酎の醪には、醪の粘性を低下させ、ハンドリングを向上させるために、セルラーゼ系の酵素を添加することが好ましい。また、仕込み方法は限定されず、一段仕込、二段仕込、三段仕込、多段仕込などが可能であり、麹歩合も任意である。例えば、焼酎を通常の二段仕込みで製造する場合、本発明の種実類麹を一次原料の少なくとも一部に用いれば、二次原料は米、麦、イモ、栗など任意に設定することができる。二次仕込み後、通常の発酵、蒸留、精製工程を経て、本発明の焼酎を製造することができる。得られた焼酎は、種実類麹由来の独特の新規な香味を持っている。
【0013】
また、味噌は上述の方法で得られた種実類の麹を少なくとも原料の一部に用い、大豆、米、及び/又は麦などを蒸煮してすりつぶしたもの及び食塩と混合し、容器に詰めて発酵、熟成させて製造することができる。更に、上述の方法で得られた種実類の麹を食塩水と混合し、6ヶ月程度発酵、熟成させた後、圧搾することにより、醤油様の調味料を製造することができる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例1 栗麹
栗を用いて栗麹を製造した例を以下に説明する。まず、栗の渋皮を剥皮して栗の実を分離し、スライス機で5mm×5mm×5mm角に裁断した。裁断された栗の実を焙炒機で250℃50秒の条件で焙炒処理後、約30℃まで冷却し、製麹用サンプルを調製した。次に同様に裁断された栗の実を、蒸し機を用いて50分間蒸気を接触させて蒸し処理を行った。蒸し処理後、通常の通気乾燥機を用いて、約40w/w%に水分調整し、約30℃まで冷却して製麹用サンプルを調製した。上述のように栗の実を焙炒処理したサンプル(本発明1)、蒸きょう乾燥処理したサンプル(本発明2)を用い、また対照として蒸し処理後水分調整せずに直ちに冷却したサンプルを用いて、製麹を行った。製麹は、恒温恒湿機を用いて、河内菌を接種し、前半30時間は38〜40℃、後半15時間は33〜35℃の温度条件で行った。得られた栗麹の分析結果を表1に示す。水分、グルコアミラーゼ、酸性プロテアーゼ及び酸性カルボキシペプチダーゼ力価の分析は、第四回改正国税庁所定分析法注解に記載の方法に従い、α-アミラーゼ力価は、α-アミラーゼ測定キット〔キッコーマン(株)製〕を用いて測定した後、第四回改正国税庁所定分析法注解の力価に換算し、β-グルコシダーゼ力価は太田らの方法(日本醸造協会誌、第86巻、第7号、第536〜539頁、1991年)により測定した。
【0016】
【表1】
【0017】
表1より、本発明1の焙炒栗麹及び本発明2の蒸きょう乾燥栗麹は対照の蒸し栗麹よりもα−アミラーゼ活性、グルコアミラーゼ活性、酸性プロテアーゼ活性、酸性カルボキシペプチダーゼ活性の全てにおいて酵素活性が高かった。これらの酵素活性が高い麹を用いることにより、焼酎などの醸造において、原料の溶解を促進して発酵をスムーズに進行させることができる。特に、本発明1の焙炒栗麹はβ-グルコシダーゼ活性も高く、より好ましい麹である。β-グルコシダーゼ活性は、特にサツマイモなどの原料を用いた醸造において特有の香気成分の生成量を向上させることが知られており、特徴ある酒質を得るのに有効である。
【0018】
実施例2 栗焼酎
実施例1で得られた本発明1の焙炒栗麹を用い、掛原料として蒸した米を用いて、通常の2段仕込法で栗焼酎の製造を行った(本発明3)。比較例1として、通常の方法で製麹された米麹を用い、掛原料に蒸した栗を用いて同様に栗焼酎を製造した。仕込配合を表2に示す。なお、総原料に対する栗の重量割合は、本発明3及び比較例1は同じになるようにした。
【0019】
【表2】
【0020】
二次仕込後約30℃で14日間発酵させ、発酵終了後の醪を、通常の減圧蒸留法により蒸留し、得られた留液をエタノール分を25%に希釈して、栗焼酎を得た。得られた栗焼酎をパネラー10名により、5点法(1:良〜5:悪)で官能検査を行った。官能検査の評価を10名の平均値とコメントで表し、その結果を表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
表3に示したように、比較例1は甘い栗の香を有しているものの、やや荒いという評価に対し、本発明3は甘くスッキリした栗の香り、きれいな甘味有り、栗の味有りと評価され、評点も良かった。本発明により、きれいな酒質でありながらより栗の味わいを強く持つ新規な酒質の焼酎が得られた。
【0023】
実施例3 イモ焼酎
実施例1で得られた本発明1の焙炒栗麹を用い、掛原料として蒸したサツマイモを用いて、通常の2段仕込法でイモ焼酎の製造を行った(本発明4)。比較例2として、通常の方法で製麹された米麹を用い、掛原料に蒸したサツマイモを用いて同様に芋焼酎を製造した。また、発酵を促進するためにセルラーゼ系の酵素スミチームC〔新日本化学工業(株)製〕を二次仕込に添加した。仕込配合を表4に示す。
【0024】
【表4】
【0025】
二次仕込後約30℃で14日間発酵させ、発酵終了後の醪を、通常の常圧蒸留法により蒸留し、得られた留液をエタノール分を25%に希釈して、芋焼酎を得た。得られた栗焼酎をパネラー10名により、5点法(1:良〜5:悪)で官能検査を行った。官能検査の評価を10名の平均値とコメントで表し、その結果を表5に示す。
【0026】
【表5】
【0027】
表5に示したように、比較例2はやや重い蒸し芋様の香を有し味が重厚すぎるという評価に対し、本発明4は、軽快な蒸し芋様の香、スッキリした柑橘系の香を有し、きれいで甘味が有ると評価され、評点も良く良好な酒質の芋焼酎であった。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、種実類が栗類の表皮を剥皮した実であって、該栗類の表皮を剥皮した実を5mm角程度に裁断し、200℃〜300℃で30秒〜3分の焙炒処理や40〜50分間の蒸し処理して水分調整した後の水分の値を30〜50(w/w%)に調整する蒸きょう乾燥処理して製麹することにより、α−アミラーゼ、酸性プロテアーゼなどの酵素力価が高く、醸造に適した種実類麹を提供することができる。また、本発明で得られた種実類麹を用いて醸造することにより、種実類独特の良好な特徴香を有し、良好な香味を持った酒類、食品の製造方法を提供することができる。
Claims (3)
- 種実類が栗類の表皮を剥皮した実であって、該栗類の表皮を剥皮した実を5mm角程度に裁断し、次いで200℃〜300℃で30秒〜3分の焙炒処理、及び/又は40〜50分間の蒸し処理して水分調整した後の水分の値を30〜50(w/w%)に調整する蒸きょう乾燥処理を行った後製麹することを特徴とする種実類麹の製造方法。
- 請求項1に記載の方法で製麹してなる種実類麹。
- 請求項2に記載の種実類麹を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法。
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