JP4790769B2 - 希土類磁石及びそれを用いた回転機 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類磁石及びその製造方法に関し、中でも重希土類元素を使用しない高エネルギー積あるいは高保磁力を有する磁石及びその製造方法に関するものである。
特許文献1〜5には、従来のフッ素化合物あるいは酸フッ素化合物を含む希土類焼結磁石が開示されている。また、特許文献6には、希土類フッ素化合物の微粉末(1から20μm)をNdFeB粉と混合することが開示されているが、軽希土類元素のみのフッ化物に関する記載はない。
特開2003−282312号公報 特開2006−303436号公報 特開2006−303435号公報 特開2006−303434号公報 特開2006−303433号公報 US2005/0081959A1
上記従来の発明は、NdFeB系磁石材料にフッ素を含有する化合物を反応させたものであり、特にフッ素および重希土類元素を含有するフッ化物を使用することで保磁力を増加させている。上記フッ化物は主相をフッ化させる反応ではなく、主相と反応あるいは拡散するのは重希土類元素である。このような重希土類元素は高価であるため、重希土類元素の低減が課題である。重希土類元素よりも低価格である軽希土類元素は、Sc,Yおよび原子番号57から62の元素であり、その一部の元素は磁石材料に使用されている。酸化物以外の鉄系磁石で最も多く量産されている材料がNd2Fe14B系であるが、耐熱性確保のために重希土類元素の添加が必須である。またSm2Fe17N系磁石は焼結ができず一般にはボンド磁石として使用されるため、性能と耐熱性の面での欠点がある。R2Fe17(Rは希土類元素)系合金は、キュリー温度(Tc)が低いが、炭素あるいは窒素が侵入した化合物ではキュリー温度が高くなることから、各種磁気回路に適用されている。このような侵入型化合物の磁石では、高温にすると分解が生じ窒素や炭素が他の化合物を形成し、液相を利用した焼結が困難である。これに対し、希土類−鉄−フッ素系では液相が生成するため原理的に焼結可能であり、磁気特性の向上が可能であり、キュリー点がNd2Fe14B系よりも高いため重希土類元素を使用せずに高温用途に適用できる。
本発明は、鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石であって、希土類磁石の結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、フッ素化合物又は前記酸フッ素化合物と、結晶粒内又は粒界との間に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が存在し、フッ素の濃度が結晶粒内よりも前記粒界で高いことを特徴とする。
また、少なくとも1種の軽希土類元素の濃度又は鉄の濃度が、結晶粒内部から粒界部にかけて減少することを特徴とし、RlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)の原子面間隔が、1.9−2.0Aであることを特徴とする。ここで軽希土類元素とは、Gdよりもイオン半径が大きいLa,Ce,Pr,Nd,Sm及びEuの6元素である。
さらに、RlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が、フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、軽希土類元素及び鉄の合金と、の間の拡散により生成することを特徴とする。
また、本発明は、鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石であって、希土類磁石の結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素及び炭素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、結晶粒内又は前記粒界との間に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemno(Rは希土類元素、l,m,n,oは1以上の整数)が存在し、フッ素の濃度が結晶粒内よりも粒界で高いことを特徴とする。
さらに、少なくとも1種の軽希土類元素の濃度又は鉄の濃度が、結晶粒内部から粒界部にかけて減少することを特徴とし、RlFemno(Rは希土類元素、l,m,n,oは1以上の整数)が、フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、軽希土類元素及び鉄の合金と、の間の拡散により生成することを特徴とする。
また、本発明は、鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石を備えた回転機であって、結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、結晶粒内又は粒界との間に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が存在し、フッ素の濃度が、結晶粒内よりも粒界で高いことを特徴とする。
以上のように軽希土類元素と鉄から構成される磁粉に光透過性のあるフッ素を含む皮膜を形成,熱処理,成形することで、高保磁力,高磁束密度を実現する磁粉を提供でき、前記成形体を回転機に適用することにより、低鉄損,高誘起電圧を可能とし、種々の回転機を含む低鉄損を特徴とする磁気回路に適用できる。
上記目的を達成するための手法について記述する。軽希土類元素のみを含有するR2Fe17合金を原料の秤量および溶解により作製する。このインゴットを再溶解し急速冷却することにより、扁平粉を作製する。粉末を粉砕,粒度分布の調整後フッ化物の溶液を用いて表面から拡散反応させる。フッ化物には軽希土類元素が含有されており、拡散反応時に軽希土類元素の拡散およびフッ素が拡散し、希土類−鉄−フッ素化合物が形成される。フッ素を含有する合金粉末を加熱することにより、フッ化物の液相が形成され希土類−鉄−フッ素化合物粉は焼結される。上記フッ素化合物溶液は透明性の高いもの、光透過性のあるものあるいは低粘度な溶液が望ましく、このような溶液を使用することで、磁粉の表面にフッ素化合物溶液との反応相を形成させることができる。溶液は200℃から400℃の熱処理で溶媒を除去し、500℃から800℃の熱処理でフッ素化合物と磁粉間に反応および拡散が進行する。磁粉に含まれる酸素は、希土類酸化物やSi,Alなどの軽元素の酸化物としてばかりでなく、母相中や粒界に化学量論組成からずれた組成の酸素を含む相としても存在する。このような酸素を含んだ相は、磁粉の磁化を減少させ、磁化曲線の形にも影響する。すなわち、残留磁束密度の値の低下,異方性磁界の減少,減磁曲線の角型性の低下,保磁力の減少,不可逆減磁率の増加,熱減磁の増加,着磁特性の変動,耐食性劣化,機械特性低下などにつながり、磁石の信頼性が低下する。酸素はこのように多くの特性に影響するので、磁粉中に残留させないような工程が考えられてきた。希土類フッ素化合物は一部溶媒を含んでいるが、REF3を400℃以下の熱処理で成長させ(REは希土類元素)、真空度1×10-3Torr以下で400から800℃で加熱保持する。保持時間は30分である。この熱処理で磁粉の鉄原子や希土類元素、酸素がフッ素化合物に拡散し、REF3,REF2あるいはRE(OF)中あるいはこれらの粒界付近に磁粉の構成元素がみられるようになる。焼結後の磁石においてフッ素を多く含む粒界相が連続した層となって形成される。上記処理液を使用することにより、200から1100℃の比較的低温度でフッ素化合物を磁性体内部に拡散させ焼結することが可能であり、以下のような利点が得られる。1)重希土類元素を使用しないため低価格である。2)液相焼結が可能である。3)異方化工程が採用できる。4)焼結後の拡散熱処理が不要である。これらの特徴より、厚板磁石において、残留磁束密度の増加,保磁力増加,減磁曲線の角型性向上,熱減磁特性向上,着磁性向上,異方性向上,耐食性向上,低損失化,機械強度向上,製造コスト低減などの効果が顕著になる。磁粉がR2Fe17(Rは軽希土類元素)系の場合、Sm,Fe,Fあるいは添加元素,不純物元素が200℃以上の加熱温度でフッ素化合物内に拡散する。上記温度でフッ素化合物層内のフッ素濃度は場所により異なり、REF2,REF3(REは軽希土類元素)、あるいはこれらの酸フッ素化合物や鉄を含有するフッ化物または酸フッ化物が層状あるいは板状に不連続に形成され、冷却時に反応が生じ、軽希土類元素−鉄−フッ素化合物が結晶粒の一部に形成される。このフッ素化合物はキュリー点が400℃以上であり、磁気特性の温度依存性がNdFeB系磁石よりも小さいため、室温から高温で使用する回転機やボイスコイルモータなどの磁気回路に適用できる。焼結工程を使用しないボンド系磁石の磁粉としても使用でき、耐食性が高いためSmFeN系に置き換えることが可能である。
以下、実施例について詳細に説明する。
<実施例1>
Smおよび鉄の重量を調整したSm2Fe17合金を真空溶解法により作成し、このバルクSm2Fe17合金を再度真空溶解後、急冷することにより、粒径1から100μmのSm2Fe17粉が得られる。この粉の表面にフッ素化合物を形成する。PrF3を磁粉表面に形成する場合、原料としてPr(CH3COO)3をH2Oで溶解させ、HFを添加する。HFの添加によりゼラチン状のPrF3・XH2OあるいはPrF3・X(CH3COO)(Xは正数)が形成される。これを遠心分離し、溶媒を除去し、光透過性のある溶液とする。磁粉を金型に挿入し10kOeの磁場中で1t/cm2の荷重で仮成形体を作成する。仮成形体には連続した隙間が存在する。この仮成形体の底面のみ前記光透過性のある溶液に浸す。底面は磁場方向に平行な面である。溶液は仮成形体の磁粉隙間に底面及び側面から浸み込み、磁粉表面に光透過性のある溶液が塗布される。次に前記光透過性のある溶液の溶媒を蒸発させ、加熱により水和水を蒸発させ、800℃で焼結する。焼結時にフッ素化合物を構成するPr,C,Fが磁粉の表面や粒界に沿って拡散し、磁粉を構成するSmやFeと交換するような相互拡散が生じる。特に粒界付近にはフッ素がSm2Fe17内への拡散が進行し、粒界に沿ってフッ素の偏析した構造が形成される。粒界三重点には酸フッ素化合物やフッ素化合物が形成され、(Pr,Sm)F3,(Pr,Sm))F2,(Pr,Sm)OFなどから構成されていることが判明した。10×10×10mmの焼結磁石を上記工程により作成し、粒子の表面近傍をエネルギー分散型X線分光により分析した結果、を図1に示す。結晶粒表面にはPrF化合物が生成し、結晶粒内部にはSmFeF化合物が生成している。(a)は組織写真、(b)は組織写真(a)に対応する場所でのエネルギー分散型X線分光スペクトルである。観察領域は直径約20nmである。フッ化物中のフッ素が結晶粒内部に拡散し、Sm−Fe−F三元合金が成長していることがわかる。フッ素濃度は表面よりも内部で減少し、Pr−F層とSm2Fe17の間で拡散と反応により形成されたものと考えられる。電子線マイクロアナライザー,誘導結合プラズマ質量分析により求めた平均の組成を求めるとSm2Fe173である。このような組成では、20℃の保磁力が10kOe以上、残留磁束密度10kG以上の磁石特性が得られる。このフッ素化合物磁石はキュリー温度が510℃であり、高エネルギー積のためハイブリッド自動車回転機に適用できる。
<実施例2>
Prおよび鉄の重量を調整したPr2Fe17合金を真空溶解法により作成し、このバルクPr2Fe17合金を再度真空溶解後、急冷することにより、粒径1から100μmのPr2Fe17粉が得られる。この粉の表面にフッ素化合物を形成する。PrF3をPr2Fe17粉表面に形成する場合、原料としてPr(CH3COO)3をH2Oで溶解させ、HFを添加する。HFの添加によりゼラチン状のPrF3・XH2OあるいはPrF3・X(CH3COO)(Xは正数)が形成される。これを遠心分離し、溶媒を除去し、光透過性のある溶液とする。磁粉と上記溶液を混合して、磁粉表面にフッ化物層を形成する。溶液の溶媒を蒸発させ、加熱により水和水を蒸発させ、500℃に加熱する。加熱時にフッ素化合物を構成するPr,C,Fが磁粉の表面や粒界に沿って拡散し、磁粉を構成するPrやFeと交換するような相互拡散が生じる。特に粒界付近にはフッ素がPr2Fe17内への拡散が進行し、粒界に沿ってフッ素の偏析した構造が形成される。粒界三重点には酸フッ素化合物やフッ素化合物が形成され、PrF3,PrF2,PrOFなどから構成されていることがX線回折により判明した。フッ化物中のフッ素が結晶粒内部に拡散し、Pr−Fe−F三元合金が成長していることが確認できる。電子線マイクロアナライザー,誘導結合プラズマ質量分析により求めた平均の組成を求めるとPr2Fe174である。このような組成では、20℃の保磁力が10kOe以上、残留磁束密度10kG以上の磁石特性が得られる。このフッ素化合物磁石はキュリー温度が490℃であり、高エネルギー積のためハイブリッド自動車回転機に適用できる。同様の工程を経て作製したフッ化物の組成と磁気特性を表1に示す。軽希土類元素であるCe,Pr,Nd,Smを含有したフッ化物が形成でき、10kOe以上の高保磁力が20℃で確認できた。いずれの磁石でも、フッ素濃度は結晶粒の表面(外周)側で高濃度となり、中心でフッ素濃度が減少する傾向を示し、その濃度差は1at%以上50at%以下であった。表1で示す組成の磁石は、透過電子線回折像の解析から、4回対称性の結晶構造をもっている。また、このようなフッ素化合物はRlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは整数)で示す組成式で表すことができ、このような化合物が結晶粒内あるいは粒界に形成され、フッ素(F)の濃度が結晶粒内よりも粒界で高いことが透過電子顕微鏡のエネルギー分散型蛍光X線分析により確認できた。このような4回対称の構造をもったフッ化物は、Eu2Fe174においても認められる。また上記4回対称性をもった結晶構造には一軸に異方性をもった構造である正方晶が混合している。フッ素原子は上記4回対照を示す化合物において、侵入位置の方が置き換え位置よりも多い。
Figure 0004790769
<実施例3>
F系処理液は、酢酸Prを水に溶解後、希釈したフッ化水素酸を徐々に添加させた。ゲル状沈殿のフッ素化合物に酸フッ素化合物や酸フッ素炭化物が混合した溶液に対して超音波攪拌器を用いて攪拌し、遠心分離後、メタノールを添加し、ゲル状のメタノール溶液を攪拌後、陰イオンを除去し透明化した。処理液は可視光において透過率が5%以上になるまで陰イオンを除去している。この溶液をSm2Fe17粉と混合させる。フッ化物の量は5重量%である。この粉を200℃で真空熱処理することにより塗布液の溶媒を蒸発させる。蒸発後、磁場10kOeで1t/cm2の加重で成形した仮成形体を真空熱処理炉に入れて焼結温度900℃まで真空加熱し焼結させ、密度98%の異方性焼結磁石を得た。溶液処理なしの焼結磁石と比較して、PrF処理液で処理後焼結させた磁石は、保磁力が10kOe以上増加した。フッ化物の組成はSEM−EDXやTEM−EDXまたはEELS,EPMAで分析できる。PrF溶液の処理と焼結により磁気特性の角型性向上,成形後の抵抗増加,保磁力の温度依存性低減,残留磁束密度の温度依存性低減,耐食性向上,機械的強度増加,熱伝導性向上,磁石の接着性向上のいずれかの効果が得られる。
<実施例4>
Smおよび鉄の重量を調整したSm2Fe17合金を真空溶解法により作成し、このバルクSm2Fe17合金を再度真空溶解後、不活性ガス中で急冷することにより、粒径1から100μmのSm2Fe17粉が得られる。尚、Smの組成はSm2Fe17よりも2%Smが多い組成で溶解している。この粉の表面に1回の塗布で厚さ10nmのフッ素化合物膜を形成する。SmF3を磁粉表面に形成する場合、原料としてSm(CH3COO)3をH2Oで溶解させ、HFを添加する。HFの添加によりゼラチン状のSmF3・XH2OあるいはSmF3・X(CH3COO)(Xは正数)が形成される。これを遠心分離し、溶媒を除去し、光透過性のある溶液とする。磁粉を金型に挿入し10kOeの磁場中で1t/cm2の荷重で仮成形体を作成する。仮成形体には連続した隙間が存在する。この仮成形体の底面のみ前記光透過性のある溶液に浸す。底面は磁場方向に平行な面である。溶液は仮成形体の磁粉隙間に底面及び側面から浸み込み、磁粉表面に光透過性のある溶液が塗布される。次に前記光透過性のある溶液の溶媒を蒸発させ、加熱により水和水を蒸発させ、900℃で焼結する。焼結時にフッ素化合物を構成するPr,C,Fが磁粉の表面や粒界に沿って拡散し、磁粉を構成するSmやFeと交換するような相互拡散が生じる。塗布回数を変えてフッ化物の濃度を変えた検討により平均の組成と磁気特性の関係を図2に示す。保磁力はフッ素Sm2Fe177で24kOeとなるが、残留磁束密度は低フッ素濃度で高い値を示した。保磁力が10kOe以上、残留磁束密度10kG(1T)以上を示す組成はSm2Fe171からSm2Fe179の範囲であり、実用上この組成範囲が使用できる。このような組成範囲で4回対称の結晶構造を有する相が電子線回折により確認できた。また、Sm以外の軽希土類元素であるCe,Pr,Nd,Euのフッ化物であるRe2Fe171〜9(Reは軽希土類元素)においても上記4回対称の結晶構造を確認しており、保磁力は10〜40kOeとなる。このような化合物の磁気変態温度(キュリー温度)は、フッ化物の生成開始温度よりも高く分解温度よりも低い。
<実施例5>
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液は以下のようにして作製した。
(1)水に溶解度の高い塩、例えばSmの場合は酢酸Sm4gを100mLの水に導入し 、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をSmFx(X=1〜3)が生成する化学反応の当 量分徐々に加えた。
(3)ゲル状沈殿のSmFx(X=1〜3)が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用い て1時間以上攪拌した。
(4)4000〜6000r.p.mの回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同 量のメタノールを加えた。
(5)ゲル状のSmFクラスタを含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、 超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(6)(4)と(5)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなく なるまで、3〜10回繰り返した。
(7)SmF系の場合、ほぼ透明なゾル状のPrFxとなった。処理液としてはSmFxが 1g/5mLのメタノール溶液を用いた。
その他の使用した軽希土類フッ化物の形成処理液も上記とほぼ同様の工程で形成でき、いずれの溶液の回折パターンもREnm(REは軽希土類元素、n,mは正数)で示されるフッ素化合物や酸フッ素化合物あるいは添加元素との化合物と一致しない。溶液あるいは溶液を乾燥させた膜の回折パターンは、半値幅が1度以上のブロードな回折ピークを含む複数のピークから構成されていた。これは添加元素とフッ素間あるいは金属元素間の原子間距離がREnmと異なり、結晶構造もREnmと異なることを示している。半値幅が1度以上であることから、上記原子間距離が通常の金属結晶のように一定値ではなくある分布をもっている。このような分布ができるのは、上記金属元素あるいはフッ素元素の原子の周囲に他の原子が配置しているためであり、その原子は水素,炭素,酸素が主であり、加熱など外部エネルギーを加えることでこれら水素,炭素,酸素などの原子は容易に移動し構造が変化し流動性も変化する。ゾル状およびゲル状のX線回折パターンは半値幅が1度より大きなピークから構成されているが、熱処理により構造変化がみられ、上記REnmあるいはREn(F,O)mの回折パターンの一部がみられるようになる。表1に示す添加元素も溶液中で長周期構造を持っていないと考えられる。このREnmの回折ピークは上記ゾルあるいはゲルの回折ピークよりも半値幅が狭い。溶液の流動性を高め塗布膜厚を均一にするためには、上記溶液の回折パターンに1度以上の半値幅をもつピークが少なくとも一つ見られることが重要である。このような1度以上の半値幅のピークとREnmの回折パターンあるいは酸フッ素化合物のピークが含まれても良い。REnmあるいは酸フッ素化合物の回折パターンのみ、または1度以下の回折パターンが溶液の回折パターンに主として観測される場合、溶液中にゾルやゲルではない固相が混合しているため流動性が悪く均一に塗布するのは困難である。このような溶液を下記のような工程で成形体に塗布した。
(8)Sm2Fe17磁粉を密度80%に磁場中で圧縮成形した成形体(10×10×10m m3)をPrF系コート膜形成処理中に浸漬し、そのブロックを2〜5torrの減圧下で 溶媒のメタノール除去を行った。
(9)(8)の操作を1から5回繰り返し400℃から900℃の温度範囲で0.5−5 時間熱処理した。
(10)(9)で表面コート膜を形成した異方性磁石の異方性方向に30kOe以上のパ ルス磁界を印加した。
この着磁成形体を直流M−Hループ測定器にて磁極間に成形体を着磁方向が磁界印加方向に一致するように挟み、磁極間に磁界を印加することで減磁曲線を測定した。着磁成形体に磁界を印加させる磁極のポールピースには、FeCo合金を使用し、磁化の値は同一形状の純Ni試料及び純Fe試料を用いて校正した。
この結果、Sm2Fe173焼結体のブロックの保磁力は増加し無添加の場合よりも保磁力が増加した。磁石を構成する結晶粒の最表面層には、Sm2Fe173よりも高濃度のフッ素が検出された。Sm2Fe173付近の組成の化合物の電子線回折像を図4に示す。電子線の回折点の配列は長い間隔の点と短い間隔の点から構成され、これらは直行していることから、4回対称の構造である。また長い点の間隔から、1.9−2.0Aの面間隔がフッ化物に存在することを示している。10原子%以上の高濃度フッ素を含有するフッ化物が層状に形成されることにより、以下の効果が期待できる。フッ素原子は上記化合物において侵入位置の一部に配置している。1)粒界付近に偏析して界面エネルギーを低下させる。2)粒界の格子整合性を高める。3)粒界の欠陥を低減する。4)希土類元素などの粒界拡散を助長する。5)粒界付近の磁気異方性エネルギーを高める。6)フッ化物あるいは酸フッ化物との界面を平滑化する。7)粒界中心部の異方性エネルギーを高める。8)母相と接する界面の凹凸を減少させる。これらの結果、溶液の含浸塗布,拡散熱処理により保磁力の増加,減磁曲線の角型性向上,残留磁束密度増加,エネルギー積増加,キュリー温度上昇,着磁磁界低減,保磁力や残留磁束密度の温度依存性低減,耐食性向上,比抵抗増加,熱減磁率低減のいずれかの効果が認められる。
<実施例6>
Prおよび鉄の重量を調整したPr2Fe17合金を真空溶解法により作成し、このバルクPr2Fe17合金を再度真空溶解後、不活性ガス中で急冷することにより、粒径1から100μmのPr2Fe17粉が得られる。尚、Prの組成はPr2Fe17よりも2%Prが多い組成で溶解している。この粉の表面に1回の塗布で厚さ10nmのフッ素化合物膜を形成する。PrF3を磁粉表面に形成する場合、原料としてPr(CH3COO)3をH2Oで溶解させ、HFを添加する。HFの添加によりゼラチン状のPrF3・XH2OあるいはPrF3・X(CH3COO)(Xは正数)が形成される。これを遠心分離し、溶媒を除去し、光透過性のある溶液とする。磁粉を金型に挿入し10kOeの交番磁場中で1t/cm2の荷重で仮成形体を作成する。仮成形体には連続した隙間が存在する。溶液は仮成形体の磁粉隙間に底面及び側面から浸み込み、磁粉表面に光透過性のある溶液が塗布される。次に前記光透過性のある溶液の溶媒を蒸発させ、加熱により水和水を蒸発させ、900℃で焼結する。焼結時にフッ素化合物を構成するPr,C,Fが磁粉の表面や粒界に沿って拡散し、磁粉を構成するPrやFeと交換するような相互拡散が生じる。塗布回数を変えてフッ化物の濃度を変えた検討により平均の組成と磁気特性の関係を図3に示す。保磁力はPr2Fe174で22kOeとなり、残留磁束密度はほぼ同じフッ素濃度で高い値を示した。保磁力が10kOe以上、残留磁束密度10kG(1T)以上を示す組成はPr2Fe171からPr2Fe179の範囲であり、実用上この組成範囲が使用できる。
<実施例7>
図5において、磁石モータの固定子2はティース4とコアバック5からなる固定子鉄心6と、ティース4間のスロット7内にはティース4を取り囲むように巻装された集中巻の電機子巻線8(三相巻線のU相巻線8a,V相巻線8b,W相巻線8cからなる)から構成される。ここで、磁石モータは4極6スロットであるから、スロットピッチは電気角で120度である。回転子はシャフト孔9あるいは回転子挿入部10に挿入し、回転子の内周側に表1に示す磁石を配置する。焼結磁石201は立方体形状を有し、フッ素および軽希土類元素が粒界の一部に偏析することにより、耐熱性が保持されており、100℃から250℃で使用されるモータを製造できる。磁石配置からリラクタンストルクが発現でき、フッ素及び軽希土類元素の偏析が焼結磁石201の粒界に連続して形成することにより、保磁力の増加及び比抵抗の増加が達成できることから、モータ損失を低減することが可能である。Smなどの偏析により、偏析しない場合に比べ、磁石の保磁力が増加するためにトルク向上に繋がる。
<実施例8>
希土類フッ化物コート膜の形成処理液は以下のようにして作製した。
(1)水に溶解度の高い塩、例えばSmの場合は酢酸Sm4gを100mLの水に導入し 、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をSmFx(X=1〜3)が生成する化学反応の当 量分徐々に加えた。
(3)ゲル状沈殿のSmFx(X=1〜3)が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用い て1時間以上攪拌した。
(4)4000〜6000r.p.mの回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同 量のメタノールを加えた。
(5)ゲル状のSmFクラスタを含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、 超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(6)(4)と(5)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなく なるまで、3〜10回繰り返した。
(7)SmF系の場合、ほぼ透明なゾル状のSmFxとなった。処理液としてはSmFxが 1g/5mLのメタノール溶液を用いた。
その他の使用した軽希土類フッ化物(Pr,Ce,La,Nd)の形成処理液も上記とほぼ同様の工程で形成でき、いずれの溶液の回折パターンもREnm(REは軽希土類元素、n,mは正数)で示されるフッ素化合物や酸フッ素化合物あるいは添加元素との化合物と一致しない。溶液あるいは溶液を乾燥させた膜の回折パターンは、半値幅が1度以上のブロードな回折ピークを含む複数のピークから構成されていた。これは添加元素とフッ素間あるいは金属元素間の原子間距離がREnmと異なり、結晶構造もREnmと異なることを示している。半値幅が1度以上であることから、上記原子間距離が通常の金属結晶のように一定値ではなくある分布をもっている。このような分布ができるのは、上記金属元素あるいはフッ素元素の原子の周囲に他の原子が配置しているためであり、その原子は水素,炭素,酸素が主であり、加熱など外部エネルギーを加えることでこれら水素,炭素,酸素などの原子は容易に移動し構造が変化し流動性も変化する。ゾル状およびゲル状のX線回折パターンは半値幅が1度より大きなピークから構成されているが、熱処理により構造変化がみられ、上記REnm,REn(F,O)mあるいはREn(F,O,C)mの回折パターンの一部がみられるようになる。このREnmの回折ピークは上記ゾルあるいはゲルの回折ピークよりも半値幅が狭い。溶液の流動性を高め塗布膜厚を均一にするためには、上記溶液の回折パターンに1度以上の半値幅をもつピークが少なくとも一つ見られることが重要である。このような1度以上の半値幅のピークとREnmの回折パターンあるいは酸フッ素化合物のピークが含まれても良い。REnmあるいは酸フッ素化合物の回折パターンのみ、または1度以下の回折パターンが溶液の回折パターンに主として観測される場合、溶液中にゾルやゲルではない固相が混合しているため流動性が悪く均一に塗布するのは困難である。このような溶液を下記のような工程で成形体に塗布した。
(8)Sm2Fe17磁粉を密度80%に磁場中で圧縮成形した成形体(10×10×10m m3)をPrF系コート膜形成処理中に浸漬し、そのブロックを1torrの減圧下で溶媒 のメタノール除去を行った。
(9)(8)の操作を1から5回繰り返し300℃から500℃の温度範囲で0.5−5 時間熱処理した。
(10)(9)で表面コート膜を形成した異方性磁粉を10kOeの磁界中で1t/cm2 の圧力で圧縮成形した。この圧縮成形体は密度が50から90%の範囲であった。
(11)前記圧縮成形体を700℃から1100℃の範囲で焼結させ、密度95%以上の 焼結体を得た。
(12)前記焼結体に重希土類元素(Tb,Dy,Ho)を含有するフッ化物溶液を0. 1wt%塗布し、600〜1000℃の温度範囲で加熱拡散させる。
(13)上記熱処理により、軽希土類の濃度分布とは異なる濃度分布を有する重希土類元 素の分布が磁石あるいは磁石を構成する結晶粒に形成される。
(14)加熱拡散後、500〜600℃の温度に加熱後急冷する。
この着磁成形体を直流M−Hループ測定器にて磁極間に成形体を着磁方向が磁界印加方向に一致するように挟み、磁極間に磁界を印加することで減磁曲線を測定した。
この結果、Sm2Fe173焼結体のブロックの保磁力は増加し無添加の場合よりも保磁力が増加した。磁石を構成する結晶粒の最表面層には、Sm2Fe173よりも高濃度のフッ素が検出された。粒界近傍にはPrが偏在し、さらに重希土類元素も偏在する。Prの方が重希土類元素よりも偏在している幅が広い。すなわち重希土類元素はPrよりも粒界近傍により偏在している。また重希土類元素は磁石表面から内部にかけて濃度が減少するが、Prは中心部と磁石表面部とではほぼ同じである。このように2種類の希土類元素が焼結磁石内でその組成分布を変えることで偏在することにより磁気特性が飛躍的に向上する。このような効果は、NdFeB系焼結磁石でも確認でき、希土類元素の濃度分布が異なる磁石を作製でき、希土類フッ化物溶液を使用した磁粉表面処理後、磁界中仮成形し、焼結後、焼結体表面から希土類フッ化物溶液を塗布後、加熱拡散させることによって磁気特性向上が図られる。焼結温度よりも加熱拡散温度は低く、焼結後の加熱拡散によって粒界近傍に偏在する希土類元素は、仮成形前後で塗布したフッ化物に含有する希土類元素よりも偏在幅が狭い。なお、フッ素原子は化合物の中で置き換え位置あるいは侵入位置のいずれかに配置し、その配列に異方性をもち、ある特定の方向に多くのフッ素原子が配置している。この2種類の組成分布の組み合わせにより、保磁力が10%以上増加する。また、4回対称の結晶構造を有する希土類鉄フッ化物が成長することにより、5原子%以上の高濃度フッ素を含有するフッ化物が層状に形成されることにより、以下の効果が期待できる。1)粒界付近に偏析して界面エネルギーを低下させる。2)粒界の格子整合性を高める。3)粒界の欠陥を低減する。4)希土類元素などの粒界拡散を助長する。5)粒界付近の磁気異方性エネルギーを高める。6)フッ化物あるいは酸フッ化物との界面を平滑化する。7)粒界中心部の異方性エネルギーを高める。8)母相と接する界面の凹凸を減少させる。これらの結果、溶液の含浸塗布,拡散熱処理により保磁力の増加,減磁曲線の角型性向上,残留磁束密度増加,エネルギー積増加,キュリー温度上昇,着磁磁界低減,保磁力や残留磁束密度の温度依存性低減,耐食性向上,比抵抗増加,熱減磁率低減のいずれかの効果が認められる。
磁石を構成する結晶粒の組織および濃度分布の一例。 磁石組成と磁気特性の関係の一例。 磁石組成と磁気特性の関係の一例。 鉄軽希土類フッ化物磁石の電子線回折像。 磁石回転機の軸方向に直角方向の断面図。
符号の説明
2 固定子
4 ティース
5 コアバック
7 スロット
8a,8b,8c 3相巻線のU相巻線8a,V相巻線8b,W相巻線8c
9 ティースの先端部
10 回転子挿入部
100 回転子
201 焼結磁石(鉄−軽希土類フッ化物)

Claims (8)

  1. 鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石であって、
    前記希土類磁石の結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、
    前記結晶粒内又は前記粒界に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が存在し、
    フッ素の濃度が、前記結晶粒内よりも前記粒界で高いことを特徴とする希土類磁石。
  2. 前記RlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)における軽希土類元素の濃度又は鉄の濃度が、前記結晶粒内部から粒界部にかけて減少することを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
  3. 前記RlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)の原子面間隔が、1.9−2.0Aであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
  4. 前記強磁性材料は、鉄と軽希土類元素を含む合金を有しており、
    前記RlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が、前記フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、前記合金と、の間の拡散により生成することを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
  5. 鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石であって、
    前記希土類磁石の結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素及び炭素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、
    前記結晶粒内又は前記粒界に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemno(Rは軽希土類元素、l,m,n,oは1以上の整数)が存在し、
    フッ素の濃度が、前記結晶粒内よりも前記粒界で高いことを特徴とする希土類磁石。
  6. 前記RlFemno(Rは軽希土類元素、l,m,n,oは1以上の整数)における軽希土類元素の濃度又は鉄の濃度が、前記結晶粒内部から粒界部にかけて減少することを特徴とする請求項5に記載の希土類磁石。
  7. 前記強磁性材料は、鉄と軽希土類元素を含む合金を有しており、
    前記RlFemno(Rは軽希土類元素、l,m,n,oは1以上の整数)が、前記フッ素化合物又は酸フッ素化合物と、前記合金と、の間の拡散により生成することを特徴とする請求項5に記載の希土類磁石。
  8. 鉄,希土類元素及びフッ素を主成分とする強磁性材料からなる希土類磁石を備えた回転機であって、
    前記希土類磁石の結晶粒内又は粒界に、少なくとも1種の軽希土類元素を含むフッ素化合物又は酸フッ素化合物が形成され、
    前記結晶粒内又は前記粒界に、4回対称性の結晶構造を有するRlFemn(Rは軽希土類元素、l,m,nは1以上の整数)が存在し、
    フッ素の濃度が、前記結晶粒内よりも前記粒界で高いことを特徴とする回転機
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