JP4786576B2 - 耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材およびその製造法 - Google Patents

耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材およびその製造法 Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼材本来のメタリックな外観を有し、加熱された際にテンパーカラーと呼ばれる着色が生じにくい表面処理ステンレス鋼材、およびその製造法に関する。
ステンレス鋼材は、不動態皮膜と呼ばれる厚さ数nm〜十数nm程度の極めて薄い保護性の高い酸化皮膜(通常Cr、Fe、Oを主成分とする酸化皮膜、以下これを「Cr−Fe−O系」と表示することがある)を有しており、美麗な金属光沢を保ちながら優れた耐食性、耐熱性を呈することから、家電、厨房機器、建材、自動車などの用途に幅広く使用されている。しかしながら、例えば、暖房機器、加熱調理機器、二輪車マフラー材など、200〜800℃程度の温度域に曝される部材においては、その加熱によってCr−Fe−O系酸化皮膜が成長し、その皮膜厚さと光の屈折率の関係で干渉色の着色が生じる。この着色はテンパーカラーと呼ばれ、部材の外観・意匠性を低下させる要因となる。また、テンパーカラーを生じる皮膜はFe濃度が高くなっていることに起因して耐食性の低下を引き起こすという問題もある。
一方、金属材料の塑性加工に際し、加工度を向上させるために温間加工が採用される場合がある。温間加工は材料を加熱して変形抵抗の低い状態で加工する手法であり、ステンレス鋼の場合、例えばCr含有量の高い難加工性のフェライト系ステンレス鋼板などの加工性改善に有効である。しかし、温間加工に際し、ステンレス鋼材を大気中で概ね300℃以上に加熱すると、数分程度の短時間加熱でもテンパーカラーが発生してしまう。この場合、加工後にブラスト処理などを施してテンパーカラーを除去する必要が生じる。また、ブラスト処理では耐食性に寄与する不動態皮膜の破壊を伴うので、耐食性を確保するためにはフッ硝酸電解などによる再不動態化処理や電解研磨処理等が必要となる場合がある。非酸化性の雰囲気下で温間加工すればテンパーカラーの発生は防止できるが、特殊な設備が必要となり、コストが増大してしまう。さらに、加工温度が300℃以上にもなると潤滑油やワックスなど有機系の潤滑剤は使用が制限され、特殊な潤滑剤が必要になることがある。このようなことから、ステンレス鋼の場合、特殊な用途を除き、テンパーカラーが着色する温度域での温間加工は実施されていないのが実状である。
ステンレス鋼材の耐テンパーカラー性(すなわちテンパーカラーの発生に対する抵抗力)を向上させる技術として、SiやAlを増量したステンレス鋼を光輝焼鈍して表面にSiO2、Al23を主体とする酸化皮膜を形成する手法が知られている(特許文献1、2)。しかし、この方法では、表面酸化皮膜中には依然としてCr−Fe−O系酸化物が存在しており、これが大気と直接接している。このためCr−Fe−O系酸化皮膜の成長を完全に抑止することは困難であり、昨今のステンレス鋼材に要求される耐テンパーカラー性としては十分に満足できるレベルではない。
ステンレス鋼表面のCr−Fe−O系酸化皮膜を抑制する方法として、SiO2、Al23などの耐酸化性の無機系コーティングを施す方法が古くから一般的に知られている(非特許文献1)。この方法では、無機系皮膜によりステンレス鋼表面への酸素の拡散が抑制されるのでCr−Fe−O系酸化皮膜の成長が起こりにくく、良好な耐テンパーカラー性が期待できる。しかし、無機系皮膜は延性に乏しいので、コーティング後に加工を施した場合、塗膜に大きな割れや剥離を生じてしまい、加工部分の耐テンパーカラー性や耐食性を維持することができなくなる。したがって、無機系コーティングを施す場合、製品加工後にコーティングする手法(ポストコート)を採用するのが常識であり、これは一般的な有機系塗装のように加工前のステンレス鋼材(例えば鋼板)に連続的にコーティングする手法(プレコート)に比べ、生産性低下とコスト増大を招くことが避けられない。
特許文献3には、ステンレス鋼板の表面にシリカ系化合物からなる酸化物層を1μm以下の厚さで形成させることで表面の金属的質感を損なうことなく、かつ加工性などの材料特性を劣化させることなく、テンパーカラーの発生を抑制ないし防止したステンレス鋼が開示されている。この文献にはシリコンアルコキシドを加水分解したゾルを塗布する方法や、シランカップリング剤を塗布して高温で酸化分解させてシリカ系化合物層を形成する方法が記載されている。この方法を採用すれば、400℃×10分程度の加熱条件であればテンパーカラーを抑制することは可能である。
特許文献4、5には、アルカリ珪酸塩皮膜をバインダーとする造膜性の良い水系無機質塗料をコーティングする方法が示されている。アルカリ珪酸塩は琺瑯の釉薬成分としても用いられており、耐酸化性、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性などに優れた皮膜を100〜300℃程度の焼成温度で安価に形成させることができる。特許文献4、5の手法によれば、特許文献3のシリカ皮膜と比べてさらに緻密な無機質皮膜が形成されるため、ステンレス鋼の耐テンパーカラー性の向上が期待される。
特許文献6には、ステンレス鋼板上にアルカリ珪酸塩皮膜を介して琺瑯を塗布して500℃以上に焼成することで密着性が高く変色の少ないクリアー琺瑯ステンレス鋼板を製造する技術が開示されている。この方法によれば、塗膜の加工密着性に優れ、500〜650℃での加熱においても変色の少ない、すなわち耐テンパーカラー性にも優れたステンレス鋼板が得られるという。
特開昭56−259号公報 特開昭62−15625号公報 特開2006−63427号公報 特開平2−129269号公報 特公平7−10956号公報 特開2007−31780号公報 林、「耐酸化コーティング」、材料と環境、2006年、第55号、p.476−482
特許文献4〜6に見られるように、ステンレス鋼板表面にアルカリ珪酸塩を使用した表面処理を施すことにより、加工密着性と耐テンパーカラー性を改善することが可能である。しかし、発明者らの調査によれば、これらの技術においても、650℃を超えるような高温での耐テンパーカラー性は十分に改善されないことがわかった。
本発明は、ステンレス鋼板本来の意匠性の高い外観および耐食性を保持しながら、650℃を超えるような高温でのテンパーカラーの発生を安定して抑止することができ、好ましくは加工を施した部分の皮膜密着性にも優れる表面処理ステンレス鋼材を提供しようというものである。
発明者らは、アルカリ珪酸塩を用いた表面処理皮膜を有する上記従来のステンレス鋼材について、高温での耐テンパーカラー性が劣化する挙動を詳細に調査した。その結果、緻密な皮膜が形成されているために、650℃を超えるような高温に曝しても大気中の酸素の侵入は十分にブロックできることが認められた。しかし、ステンレス鋼素地からの金属元素の拡散を防止することができず、ステンレス鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にはFeを多量に含む反応層が成長して、これが変色を引き起こしているものと推察された。したがって、このような高温での耐テンパーカラー性を改善するためには、単に酸素遮蔽性の高い皮膜を形成するだけでは不十分であり、ステンレス鋼素地から皮膜中へのFeの拡散が防止できるような皮膜構造を構築することが重要であると考えられた。
そこで鋭意研究を行った結果、予めステンレス鋼の表面の不動態皮膜の構造を、Feが少なく、Cr、あるいはCrとSiがリッチな構造としておくことが極めて有効であることがわかった。このような不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩を付着させて焼成したときに、鋼素地からのFeの拡散を抑制する効果が極めて高い安定な反応層が生成される。そして、この反応層とアルカリ珪酸塩皮膜で構成される皮膜構造によって、高温での耐テンパーカラー性が顕著に改善されるのである。また、アルカリ珪酸塩皮膜を厚くしすぎないようにコントロールすると、皮膜密着性も十分に確保できることが確認された。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明では、表面にアルカリ珪酸塩皮膜を有するステンレス鋼材(例えば鋼板)において、鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする厚さ5〜100nmの反応層が介在し、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量はSi付着量換算で0.05g/m2以上好ましくは0.05〜1g/m2である耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材が提供される。この反応層は、非晶質物質で構成され、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上であるものが好適な対象となる。前記アルカリ金属元素Mとして、Li、Na、Kの1種以上を挙げることができる。
このような表面処理ステンレス鋼材の製造法として、鋼素地表面に(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の不動態皮膜を有するステンレス鋼材を用意し、その不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩をSi付着量換算で0.05以上、好ましくは0.05〜1g/m2となるように付着させたのち、300〜800℃で焼成することにより鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする厚さ5〜100nmの反応層を形成させる処理を施す製造法が提供される。
ここで、アルカリ珪酸塩は、一般式M2O・nSiO2(Mはアルカリ金属)で表されるが、特にMがLi、NaまたはKであり、かつnが3〜5であるものを用いることが好適である。反応層の厚さは平均膜厚を意味する。
本発明によれば、以下のようなメリットがある。
(1)本発明の表面処理ステンレス鋼材は、650℃を超え、概ね800以下、Li珪酸塩を用いたものでは概ね1000℃以下の高温域でも従来より格段に優れた耐テンパーカラー性を呈する。したがって、加熱調理機器や二輪車マフラーなどのステンレス鋼本来の意匠性が要求される部材において、加熱温度の許容範囲が広がる。
(2)優れた耐テンパーカラー性によって、テンパーカラー発生に起因する耐食性低下が防止されるので、基材であるステンレス鋼として従来より低廉な鋼種を採用することも可能である。
(3)このアルカリ珪酸塩皮膜は、付着量を適正化することで良好な加工密着性を呈するので、プレコート鋼板として提供できる。
(4)本発明の表面処理ステンレス鋼材は、高温域での温間加工にも適用できる。
〔反応層〕
本発明のステンレス鋼材は、ステンレス鋼素地(金属マトリクス)とアルカリ珪酸塩皮膜との間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする反応層を介在させている点に特徴がある。この反応層は、ステンレス鋼の不動態皮膜と、その上に塗布されたアルカリ珪酸塩とが焼成時に反応して生成した層であり、さらに鋼素地の一部も反応に関与していると考えられる。この反応層はSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とするものであり、以下「Si−Cr−M−O系」と表記することがある。Mは塗布されたアルカリ珪酸塩に由来するアルカリ成分であり、具体的にはLi、Na、Kなどが挙げられる。これらのアルカリ金属元素は1種のみが含有されていても良いが、2種以上複合して含有されていても構わない。
このSi−Cr−M−O系反応層は、Si、Cr、M(アルカリ金属)およびOを含む非晶質の酸化化合物を主体としたものであるが、不動態皮膜あるいは鋼素地に由来するFeが若干含まれていても構わない。ただし、Feの量が多くなると高温(例えば650超え〜1000℃)に曝されたときにFeの濃化した結晶質の酸化物層が成長しやすくなり、本発明の効果を阻害する場合がある。したがって、反応層の組成としては(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上であることが好ましい。その他の不純物元素の混入も本発明の効果を阻害しない範囲で許容されるが、Feを除く不純物元素の合計量が、モル比においてSi、Cr、M、Oのいずれよりも少量であることが望ましい。
このSi−Cr−M−O系反応層は主として以下の(i)(ii)の2つの機能を担う。
(i)ステンレス鋼素地から、鋼材表面を覆うアルカリ珪酸塩皮膜への原子の拡散を抑制する機能。これによって、テンパーカラーの発生要因となるCr−Fe−O系酸化物層の生成がくい止められる。この反応層は、一般的なCr−Fe−O系あるいはCr−Fe−Si−O系の不動態皮膜を有するステンレス鋼を用いて生成したFe−M−O系あるいはFe−Cr−O系の反応層や、鉄琺瑯の反応層と比べ高温でも安定であり、このことが特に高温での耐テンパーカラー性の向上に有効に作用しているものと考えられる。
(ii)ステンレス鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜との密着性を確保する機能。すなわち、これまでアルカリ珪酸塩皮膜の形成に適用されてきた焼成温度は一般に300℃より低温であるため、皮膜とステンレス鋼素地との密着は、脱水反応によるものが主であるが、無機系皮膜は金属や有機系化合物と異なり延性に乏しいため、曲げなどの加工を施した場合には皮膜が鋼素地の変形に追随できず、界面剥離を生じていた。これに対し本発明では300℃以上での焼成によって生じるSi−Cr−M−O系反応層を介在させているので、皮膜密着性が格段に向上する。
ただし、Si−Cr−M−O系反応層の形成厚さが薄すぎると耐テンパーカラー性や皮膜密着性の十分な改善効果が得られない。種々検討の結果、Si−Cr−M−O系反応層の厚さは5nm以上の平均膜厚を確保する必要がある。他方、反応層の厚さが厚くなりすぎると反応層自体による着色が生じるようになる。ステンレス鋼の美麗な外観を維持するためには、Si−Cr−M−O系反応層の平均膜厚を100nm以下とすればよい。反応層の厚さは後述のように焼成温度・時間によってコントロールできる。
〔アルカリ珪酸塩皮膜〕
アルカリ珪酸塩の皮膜は、従来知られているように緻密な構造を有していることから大気中での加熱に際し外部からの酸素の侵入を阻止する効果が高い。本発明でもこの効果を利用している。
アルカリ珪酸塩は、一般式M2O・nSiO2(Mはアルカリ金属元素)で表される。工業的に入手が容易なアルカリ珪酸塩としては、K珪酸塩やNa珪酸塩ではnが1.2〜4.5のもの、Li珪酸塩ではnが3.5〜7.5のものが挙げられる。ただし、nが小さいものはアルカリ成分が多いことからステンレス鋼との反応性が高く、場合によってはCr、あるいはCr、Si主体の不動態皮膜を有していてもステンレス鋼素地のFe成分が溶出するおそれがある。また、nが小さいアルカリ珪酸塩を使用した場合の皮膜にはアルカリ残分が多くなるので空気中の水分や炭酸ガスとの反応生成物が形成されやすくなり、白華現象と呼ばれる外観不良の要因となる。これを防ぐには焼成後に湯洗や酸洗などの脱アルカリ処理が必要となり、コスト増を招く。したがって本発明では上記のnが比較的大きいアルカリ珪酸塩を使用することが好ましい。一方、nが極端に高いものではアルカリ成分が少なすぎるため、得られたアルカリ珪酸塩皮膜は脆くなり、また、耐テンパーカラー性を担うSi−Cr−M−O系の反応層を形成させることも難しくなる。種々検討の結果、本発明ではnが3〜5のアルカリ珪酸塩を使用することが望ましい。Li珪酸塩の場合は3.5〜5のものを使用することがより好ましい。
アルカリ珪酸塩の中でもLi珪酸塩は、より低温で焼成が可能である。しかも溶融温度が他のアルカリ珪酸塩と比べて高いことから、より高温での耐テンパーカラー性改善効果が期待できる。さらに、Li珪酸塩は白華を防止する上でも有利である。
焼成により形成されるアルカリ珪酸塩皮膜は、一般式M2O・nSiO2・xH2O(Mは1種以上のアルカリ金属元素)で表される物質を主体とした皮膜であり、吸着水や構造水の形で水分を多く保持している。この水分は焼成温度が高くなるにつれて抜けていき、皮膜の硬さも増大する。水分が多い状態の皮膜は硬さが低いので、皮膜中の分子同士の結合力が弱くなっており、上述のSi−Cr−M−O系反応層が適正な厚さで形成されていても、厳しい加工を施した場合には皮膜が凝集的に剥離してしまうことがある。したがって、厳しい加工が必要な用途では皮膜中のH2O成分が焼成によりある程度以上に抜けた状態の皮膜であることが望ましい。このような皮膜が生成し始める温度は、アルカリ金属の種類や含有量によっても異なるが、白華抑制効果の高いM2O・nSiO2のnが3以上のものでは、剥離した皮膜を用いた熱分析(TG−DTA)の結果から、K珪酸塩の場合400〜450℃の間、Na珪酸塩の場合350〜400℃の間、Li珪酸塩の場合300〜350℃の間であることが判明した。よって、厳しい加工に供する用途では、焼成温度を、K珪酸塩では450℃以上、Na珪酸塩では400℃以上、Li珪酸塩では350℃以上とすることが好ましいと言える。つまり、この温度以上で焼成を実施すれば、アルカリ珪酸塩の構造的に結合したH2Oがはずれて重合が進み、焼成が進行し、皮膜が硬化する。
アルカリ珪酸塩皮膜の付着量が少なすぎると、皮膜の欠陥箇所が多くなり、その部分でテンパーカラーが生じやすくなる。種々検討の結果、安定して優れた耐テンパーカラー性を発揮させるには、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量はSi付着量換算で0.05g/m2以上を確保する必要がある。一方、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量が多くなると、加工時に皮膜が剥離しやすくなる。すなわち、アルカリ珪酸塩皮膜は本質的にほとんど延性がないので、加工時の変形によってクラックが生じると、更なる変形によってそのクラックが大きく開口し、下地の反応層と皮膜との境界では両者の間に働く応力が増大して皮膜が剥離する。これを防止するには皮膜の付着量を薄くすることが有効である。この場合、加工時の変形によって皮膜には次々と新たな場所で微細なクラックが形成され、下地の反応層との間に働く応力が緩和されるので、皮膜剥離が抑制される。詳細な検討の結果、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量をSi付着量換算で1g/m2以下に抑えておけば、曲げなどの加工に供した際に皮膜の剥離はほとんど生じない。つまり、皮膜の密着性を重視する用途では、当該皮膜の付着量をSi付着量換算で1g/m2以下とすることが好ましい。
ここで、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量は、焼成前に塗布するアルカリ珪酸塩の塗布量によってコントロールすることができる。アルカリ珪酸塩皮膜付着量の指標とするSi付着量は、焼成後の皮膜を実際に分析することによって知ることができるが、発明者らによる数多くの実験の結果、反応層の厚さが100nm以下の範囲では、焼成前に塗布されるアルカリ珪酸塩に由来するSi付着量と、焼成後のアルカリ珪酸塩皮膜におけるSi付着量は、ほぼ対応した値となることが判っている。したがって、後述の実施例では、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量を、塗布したアルカリ珪酸塩としてのSi付着量で表示してある。
〔ステンレス鋼〕
本発明の表面処理ステンレス鋼材の基材として使用するステンレス鋼は、特に鋼種に限定はなく、種々のステンレス鋼(Cr含有量10.5質量%以上)が採用できる。具体的にはJIS G4305に規定される各鋼種を挙げることができる。ただし、同じステンレス鋼種であっても表面仕上げによって表面を覆う不動態皮膜の状態が異なる。本発明者らの調査によると、研磨仕上げなどではCr−Fe−O系の不動態皮膜となりやすく、BA仕上げや一般的な酸洗仕上げ(2D)ではCr−Fe−Si−O系となりやすい。これらの不動態皮膜はいずれもFeを主成分の1つとしており、Fe濃度が高い。このようなFe濃度の高い不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩を付着させて焼成しても、本発明が意図している上述のCr−Si−M−O系(Mは1種以上のアルカリ金属元素)の反応層を生成させることは困難である。
発明者らの詳細な検討の結果、Fe濃度の低い不動態皮膜を有するステンレス鋼に対してアルカリ珪酸塩を付着させ、焼成したとき、前述のCr−Si−M−O系反応層を介在させることが可能になることがわかった。より具体的には、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)で表されるモル比が0.5以上の不動態皮膜を有するステンレス鋼を適用することが重要である。このような表面状態は後述の前処理によって作ることができる。ここで、上記の式(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)における各元素記号の箇所には、不動態皮膜を構成する元素のうち、Cr、SiおよびFeの原子%に相当する含有量の値が代入される。(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5未満では、反応層を安定してCr−Si−M−O系にすることが困難である。すなわちFe含有量の多い反応層が形成され、高温での耐テンパーカラー性が十分に改善できない。(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比は0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることが一層好ましい。なお、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比の上限は必然的に1となるが、実際には若干のFeの混入は避けられない。なお、ここでいう(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比は、ESCAやAESで測定される最表層(膜の表面から2〜3nm程度まで)の分析値を採用すればよい。
本発明の表面処理ステンレス鋼材は以下のようにして製造することができる。
〔前処理〕
基材となるステンレス鋼材は一般的なステンレス鋼材の製造プロセスを利用して製造されたものを使用すればよい。鋼板の場合だと、用途に応じて適切な板厚に冷間圧延されたのち焼鈍された冷延焼鈍鋼板であって、表面仕上げは光輝焼鈍仕上げ、酸洗仕上げ、研磨仕上げ、調質圧延仕上げなど、種々の表面状態のものが利用できる。ただし、アルカリ珪酸塩を付着させる前に、予め上述のように不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上となるように処理しておく必要がある。これがここでいう前処理である。
前処理の方法としては、フッ硝酸、硫酸など酸化性の強い酸による不動態化処理や、有機酸溶液、リン酸−硝酸溶液への浸せきによっても、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の不動態皮膜を得ることができる場合もあるが、より安定して(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の状態を実現するためには、pH=12以上、好ましくは13.5以上の強アルカリ中に被処理材を浸漬する「アルカリ脱脂」を行うことが非常に有効である。強アルカリによって不動態皮膜中のFe成分が溶解し、CrあるいはCrとSiに富んだ皮膜に改質される。また、特に研磨仕上げ材では光輝焼鈍を施して不動態皮膜中のSi量を増加させてから強アルカリで脱脂するという複合処理が効果的である。なお、アルカリ珪酸塩を塗布する前に塩酸酸洗などを実施した場合、酸化皮膜が除去されて表面に金属Fe成分が露出するので、この状態でただちにアルカリ珪酸塩を塗布して焼成すると、Fe成分を多く含む鉄琺瑯に見られるようなFe−M−O系の反応層が形成され、耐テンパーカラー性や耐食性が低下するので好ましくない。
〔皮膜の形成〕
このようにして得られたFe含有量の少ない不動態皮膜の上に、前述のアルカリ珪酸塩を付着させる。具体的にはアルカリ珪酸塩を含む水溶液を塗布することによってアルカリ珪酸塩を表面に付着させることができる。その際、アルカリ珪酸塩の付着量がSi付着量換算で0.05g/m2以上、好ましくは0.05〜1g/m2となるように塗布量をコントロールすることが肝要である。
その後、焼成を行って反応層を生成させるとともに、水分を飛ばしてアルカリ珪酸塩皮膜を形成させる。焼成の雰囲気は大気等の酸化性雰囲気が採用される。焼成温度は、材料表面の到達温度が300〜800℃となる範囲で実施する。300℃に達しない場合は反応層が十分に生成せず、所定の耐テンパーカラー性が得られない。加工時におけるアルカリ珪酸塩皮膜の密着性を重視する場合は、前述のように硬い皮膜を形成することが有利であり、Li珪酸塩では到達温度が350℃以上になるように焼成することがより好ましく、K珪酸塩を使用する場合は450℃以上、Na珪酸塩を使用する場合は400℃とすることがより好ましい。一方、焼成温度がアルカリ珪酸塩の溶融温度を超えると反応層の成長が顕著に進行して100nmを超える厚さになりやすく、反応層自体に起因する着色が生じやすい。また、高温短時間で焼成した場合、膜厚が厚くなるほど膨れが発生して外観不良となる傾向がある。Li珪酸塩の場合は焼成時の到達温度が1000℃程度まで許容される場合があるが、いずれのアルカリ珪酸塩についても安定的に良好な結果を得るためには800℃以下の範囲で焼成することが望ましい。K珪酸塩やNa珪酸塩を使用する場合は700℃以下の範囲で行うことがより好ましい。焼成時間は、到達温度にもよるが、通常、表面温度が300〜800℃の範囲に保持される時間が5秒〜10分程度の範囲で良好な条件を見つけることができる。
なお、実際の使用時における加熱によって焼成を兼ねることもできる。したがって、例えばあまり厳しい加工に供しない用途では、300℃未満で仮焼成した状態で所定の部材を構築し、その後、300〜800℃の範囲での使用に供することによって前記反応層を5〜100nmに発達させてもよい。この温度範囲であれば長時間加熱しても反応層厚さを100nm以下に維持することが可能である。このようにして得られた本発明の表面処理ステンレス鋼材も、その後の加熱時に優れた耐テンパーカラー性を発揮する。
アルカリ珪酸塩の塗布および焼成は、鋼材が鋼板である場合、連続塗装ラインを用いて行うことができる。
《実施例1》
基材として板厚0.5mmのSUS304、No.2B材(焼鈍、酸洗、スキンパス圧延仕上げ材)を用意し、前処理として、オルソ珪酸ソーダでpH=14としたアルカリ水溶液、70℃に15秒間浸漬する「アルカリ脱脂」を実施した。その後、水洗し、乾燥させた。この水洗・乾燥を終えた段階を「前処理後」と呼ぶ。前処理後の鋼板表面をESCAにより分析したところ、不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比は0.7であった。次いで、前処理後の鋼板の表面に、表1に示すアルカリ珪酸塩(この例ではLi珪酸塩)を含有する水溶液をバーコート#3で塗布した。その際、アルカリ珪酸塩の付着量は、Si付着量換算で0.75g/m2となるようにした。塗布後に、大気中で加熱することにより焼成を行った。焼成条件は、雰囲気温度550℃、到達温度400℃、昇温時間150秒とした。到達温度は試料表面に取り付けた熱電対によって測定した(以下の各例において同じ)。焼成によって得られた表面処理ステンレス鋼板(この例ではLi珪酸塩被覆ステンレス鋼板)について、以下の方法で耐テンパーカラー性の評価、並びに表層部の断面観察および分析を行った。
〔耐テンパーカラー性の評価〕
上記表面処理ステンレス鋼板から50×50mmの試験片を切り出し、雰囲気温度700℃の加熱炉にて大気加熱試験(在炉時間10分)を実施した。加熱後、試験片を炉から取り出して常温にて放冷した。冷却後の試験片表面について、色差計(東京電色技術センター社製、COLORANALYZER TC−1800)を用いてJIS Z8730に準拠した色差ΔE*=[(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2を求めた。ここで、白色標準板(L*=96、a*=−0.2、b*=0.4)を基準(ΔE*=0)とした。そして、ΔE*が40以下のものを○(耐テンパーカラー性;良好)、40超え〜50のものを△(耐テンパーカラー性;やや不良)、50を超えるものを×(耐テンパーカラー性;不良)と表示し、○評価を合格と判定した。結果を表1に示す。
〔表層部の断面観察および分析〕
上記表面処理ステンレス鋼板(大気加熱試験を行う前)および大気加熱試験後の試料の断面について、表層部をTEM(日本電子、JEM−2010F)にて観察し、EDS(エネルギー分散型X線分析装置)により鋼素地およびその上に形成されている酸化物層を同定した。またNBD(ナノ領域電子回折法)により酸化物層が非晶質であるか結晶質であるかを調べた。なお、Liについては、別途、ESCAにより表面から深さ方向の分析を行って各酸化物層におけるLiの存在を確かめた(以下のLi珪酸塩を用いた各例において同じ)。大気加熱試験後の断面のTEM像を図1に例示する。図1中には表層部の層構造の概略を併記した(後述図2〜7において同じ)。
《実施例2、3》
実施例1において、アルカリ珪酸塩としてLi珪酸塩の代わりに表1に示すNa珪酸塩(実施例2)またはK珪酸塩(実施例3)を用いたことを除き、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。また、大気加熱試験後の断面のTEM像を図2(実施例2)、図3(実施例3)に例示する。
《比較例1》
実施例1と同様の前処理後の鋼板(SUS304、No.2B材にpH=14のアルカリ脱脂を行い、水洗し、乾燥させたもの)について、シリカゾル(日産化学製、スノーテックスOL、平均粒子径;40nm、SiO2含有量;20%)水溶液をバーコート#3で塗布した。その際、Si付着量が0.75g/m2となるようにした。塗布後に、大気中で加熱することにより焼成を行った。焼成条件は、雰囲気温度300℃、到達温度200℃、昇温時間40秒とした。焼成後に実施例1と同様の試験を行った。結果を表2に示す。また、大気加熱試験後の断面のTEM像を図4に例示する。
《比較例2》
実施例1と同様の前処理後の鋼板(SUS304、No.2B材にpH=14のアルカリ脱脂を行い、水洗し、乾燥させたもの)について、モノメチルシラノールゾルを加水分解、重合して生成したメチルシリコーン樹脂(ポリスチレン換算分子量10000)のブチルセロソルブ溶液をバーコート#3で塗布した。その際、Si付着量が0.75g/m2となるようにした。塗布後に、大気中で加熱することにより焼成を行った。焼成条件は、雰囲気温度300℃、到達温度200℃、昇温時間40秒とした。焼成後に実施例1と同様の試験を行った。結果を表2に示す。また、大気加熱試験後の断面のTEM像を図5に例示する。
《比較例3》
実施例1において、アルカリ珪酸塩などを何もコーティングせず、焼成に相当する熱処理も行わなかったことを除き、実施例1と同様の試験を行った。結果を表2に示す。また、大気加熱試験後の断面のTEM像を図6に例示する。なお、大気加熱試験前(すなわち前処理後)の色差は、L*=75、a*=3.8、b*=0.1、ΔE*=21であった。
《比較例4》
実施例3において、前処理として、5%塩酸水溶液、25℃中に5秒間浸漬する処理を施し、水洗し、乾燥させることにより前処理後の鋼板を得たことを除き、実施例3と同様の試験を行った。前処理後の鋼板の不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比は0.2であった。結果を表2に示す。また、大気加熱試験後の断面のTEM像を図7に例示する。
実施例1〜3で得た表面処理ステンレス鋼板は、Fe含有量が低い、すなわち(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が高い不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩を塗布し、焼成したことにより、鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間に非晶質のSi−Cr−M−O系(Mはアルカリ金属元素)の反応層が形成されていた。これらの反応層にはSi、Cr、M、O以外に鋼素地中の元素が不可避的不純物として含まれているだけであった。また、EDS分析により、これらの反応層は(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上に高いものであることが確認された。大気加熱試験後もテンパーカラーの原因となるCr−Fe−O系酸化物の生成は見られず、700℃という高温で良好な耐テンパーカラー性を呈した。
これに対し、従来の皮膜形成処理を施したもの(比較例1、2)や、皮膜形成処理を施していないもの(比較例3)は、前処理により不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比を高くしても、焼成による反応層の形成がなく、大気加熱試験後にはCr−Fe−O系酸化物層が生じており、耐テンパーカラー性に劣った。また、比較例4に見られるように、アルカリ珪酸塩を用いた皮膜形成処理を行っても、下地の不動態皮膜のFe含有量が高い、すなわち(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が低い場合は、アルカリ珪酸塩により不動態皮膜中あるいはさらに鋼素地中のFeが溶出したことが原因と考えられる結晶性のFeOおよびFeを多く含むSi−Fe−Cr−K−O系の反応層が大気加熱試験後に分厚く成長しており(図7)、耐テンパーカラー性に劣った。
《実施例11〜17、参考例1、比較例11》
実施例1において、Li珪酸塩の付着量および焼成条件を表3に示すように変化させたことを除き、実施例1と同様の方法で表面処理ステンレス鋼板を作製した。各表面処理ステンレス鋼板について、実施例1と同様の方法で耐テンパーカラー性を評価した。また、アルカリ珪酸塩皮膜の加工密着性を以下の方法で調べた。結果を表3に示す。なお、反応層の厚さは、焼成後の試料(大気加熱試験前)についてのTEMによる断面観察から求まる平均厚さである。
〔アルカリ珪酸塩皮膜の加工密着性〕
JIS Z2247「エリクセン試験方法」に用いるエリクセン試験機により、張出し高さ5mmのエリクセン加工を無塗油にて実施したのち、加工部について、JIS Z1522に規定されるセロハン粘着テープを用いた剥離試験を実施した。その後、加工部を電子顕微鏡(SEM)で観察し、皮膜の剥離が認められないものを○(加工密着性;良好)、皮膜の剥離が認められたものを×(加工密着性;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。
《実施例18〜20、参考例2》
実施例2において、Na珪酸塩の付着量および焼成条件を表3に示すように変化させたことを除き、実施例2と同様の方法で表面処理ステンレス鋼板を作製した。各表面処理ステンレス鋼板について、実施例11〜17と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
《実施例21、22、比較例12》
実施例3において、K珪酸塩の付着量および焼成条件を表3に示すように変化させたことを除き、実施例3と同様の方法で表面処理ステンレス鋼板を作製した。各表面処理ステンレス鋼板について、実施例11〜17と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
《実施例23》
実施例3において、K珪酸塩を含有する水溶液の代わりに、Na珪酸塩とK珪酸塩を等モル比で含有する水溶液を用いたこと、並びにアルカリ珪酸塩の付着量および焼成条件を表3に示すようにしたことを除き、実施例3と同様の方法で表面処理ステンレス鋼板を作製した。使用したNa珪酸塩は実施例2で使用したのと同種のもの、K珪酸塩は実施例3で使用したのと同種のものである。表3中のSi付着量換算値は、これら2種類のアルカリ珪酸塩に由来するトータルのSi付着量である。得られた表面処理ステンレス鋼板について、実施例11〜17と同様の評価を行った。結果を表に示す。
表3からわかるように、実施例11〜23は、焼成により適切な厚さのSi−Cr−M−O系(Mは1種以上のアルカリ金属元素)の反応層を形成させ、かつアルカリ珪酸塩皮膜の付着量を十分に確保したことにより、700℃という高温での優れた耐テンパーカラー性を呈した。特に実施例11〜16、18〜23ではアルカリ珪酸塩の付着量を1g/m2以下に抑えたことにより、加工密着性にも優れており、厳しい加工が施される用途にも適している。
一方、参考例1、2は焼成温度が低すぎたため、反応層がほとんど生成しておらず、この状態では加工密着性に劣った。ただし、これらは大気加熱試験によってSi−Cr−M−O系反応層が適正に形成し、結果的に良好な耐テンパーカラー性を示した。つまり、これらは使用時の加熱によって本発明の表面処理ステンレス鋼材を構築するものである。比較例11は焼成温度が高すぎたため、反応層が厚く成長し耐テンパーカラー性に劣った。比較例12はアルカリ珪酸塩皮膜の付着量が少なすぎたため、耐テンパーカラー性に劣った。
《実施例31〜36、比較例31〜36》
鋼種および表面仕上げが異なる種々のステンレス鋼板の原板について、前処理条件を変えて不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比を変化させ、アルカリ珪酸塩皮膜形成後の耐テンパーカラー性を調べた。前処理条件は表4に示す[1]〜[7]の7通りとした。このうち[7]のBA処理条件は、水素−窒素雰囲気(体積%でH2:N2=80:20)、900℃の炉中に60秒間挿入するものである。
前処理、水洗、乾燥を終えた前処理後の鋼板について、実施例1と同様の方法で表層部の断面観察および分析を行い、不動態皮膜の(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比を求めた。次いで、Li珪酸塩を含有する水溶液をバーコート#3で塗布し、Li珪酸塩の付着量をSi付着量換算で0.3g/m2となるようにした。使用したLi珪酸塩の種類は実施例1と同じである。塗布後に、大気中で加熱することにより焼成を行った。焼成条件は実施例1と同様に、雰囲気温度550℃、到達温度400℃、昇温時間150秒とした。焼成によって得られた表面処理ステンレス鋼板について、Si−Cr−Li−O系の反応層の有無を調べた。上記の方法で表層部の断面観察およびEDS分析を行って反応層が非晶質であり、その(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上であり、かつESCAによる分析を行って反応層にLiの存在が確認されたものを、Si−Cr−Li−O系の反応層を「有り」と評価し、それ以外を「無し」と評価した。そして、焼成後の表面処理ステンレス鋼板について、上記の方法により700℃の耐テンパーカラー性を評価した。鋼種、表面仕上げ、前処理条件、および試験結果を表5に示す。表5中、No.8は鏡面研磨仕上げ、No.4は研磨仕上げ、2Dは酸洗仕上げである。
表5に見られるように、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩を塗布し、焼成した場合に700℃という高温で優れた耐テンパーカラー性を呈することがわかる。
実施例1の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 実施例2の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 実施例3の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 比較例1の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 比較例2の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 比較例3の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。 比較例4の大気加熱試験後における試料断面のTEM像。

Claims (8)

  1. 表面にアルカリ珪酸塩皮膜を有するステンレス鋼材において、鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする厚さ5〜100nmの反応層が介在し、アルカリ珪酸塩皮膜の付着量はSi付着量換算で0.05g/m2以上である耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材。
  2. アルカリ珪酸塩皮膜の付着量はSi付着量換算で0.05〜1g/m2である請求項1に記載のステンレス鋼材。
  3. 反応層は非晶質物質で構成されている請求項1または2に記載のステンレス鋼材。
  4. 反応層は、(Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上である請求項1〜3のいずれかに記載のステンレス鋼材。
  5. 前記アルカリ金属元素Mは、Li、Na、Kの1種以上である請求項1〜4のいずれかに記載のステンレス鋼材。
  6. (Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の不動態皮膜を有するステンレス鋼材に対し、その不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩をSi付着量換算で0.05g/m2以上となるように付着させたのち、300〜800℃で焼成することにより鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする厚さ5〜100nmの反応層を形成させる処理を施す耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材の製造法。
  7. (Cr+Si)/(Cr+Fe+Si)モル比が0.5以上の不動態皮膜を有するステンレス鋼材に対し、その不動態皮膜の上にアルカリ珪酸塩をSi付着量換算で0.05〜1g/m2以上となるように付着させたのち、300〜800℃で焼成することにより鋼素地とアルカリ珪酸塩皮膜の間にSi、Cr、MおよびO(Mは1種以上のアルカリ金属元素)を構成要素とする厚さ5〜100nmの反応層を形成させる処理を施す耐テンパーカラー性に優れたステンレス鋼材の製造法。
  8. アルカリ珪酸塩として、M2O・nSiO2(MはLi、NaまたはK)、nは3〜5で表される組成のものを使用する請求項6または7に記載のステンレス鋼材の製造法。
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