JP4783803B2 - 食用クリーム - Google Patents
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食用クリームの使用方法としては、ホイップして用いる場合と、調理用としてホイップしない状態で用いる場合とがある。調理用として用いる場合は、加熱されることや、トマトや果実のような酸性成分とあわせて用いられることがあるため、食用クリームには、調理性の向上のために、耐熱性や耐酸性の向上が求められる。
一般的に、合成クリームは生クリームよりも耐酸性や風味が劣っている。合成クリームに耐酸性を付与するために種々の方法が提案されており、たとえばリン酸塩の使用(特許文献1)、ホエイタンパク質もしくはその加水分解物の使用(特許文献2)などによって問題解決が図られているが、生クリーム並みの耐酸性を獲得するには至っていない。また、ホエイタンパク質やリン酸塩は、クリームの風味に悪影響を与えてしまう。
バターミルク固形分は一般的に乳化力が高いと言われており、その利用法としては、加工乳の耐熱性向上、低脂肪チェダーチーズの組織改善や風味改善、低脂肪ヨーグルトの組織改善や乳化等がある(非特許文献2)。
これまで、バターミルクや、該バターミルクに由来する成分をクリーム製品に応用することも提案されており、たとえば、バターミルク濃縮物をpH4.0以下に酸性化し、これをクリームに添加することによりクリームのホイップ性を改善する方法(特許文献3)、油脂を、バターミルクから回収した脂肪球被膜脂質画分等の乳由来リン脂質と、乳タンパク質で乳化することにより、合成クリームに、冷蔵下での乳化安定性、常温域での温度変化に対する乳化安定性等を付与する方法(特許文献4)等が提案されている。しかし、バターミルクが食用クリームの耐酸性向上に積極的に用いられたことはなかった。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐酸性等の調理性および風味が良好で、フェザリングが生じにくい食用クリームを提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]生クリームに、固形分中のリン脂質含量が4〜10質量%のバターミルクを配合した後、60℃以上100℃未満で均質化処理する食用クリームの製造方法であって、
前記食用クリーム中、前記バターミルクの固形分濃度が3〜6質量%であり、リン脂質含量が0.2〜0.6質量%である、食用クリームの製造方法。
[2]請求項1に記載の製造方法によって製造された食用クリーム。
ここで、食用クリーム、乳由来クリームにおける「クリーム」とは、成分規格上、乳脂肪含量(以下、「脂肪率」ということがある。)が18質量%以上のものをいう。
本発明に用いられる乳由来クリームの脂肪率は、所望の食用クリームの脂肪率、高リン脂質バターミルクの脂肪率および配合量等を考慮して適宜選択すればよい。
本発明の食用クリームの脂肪率は、クリームの乳化安定性等を考慮すると、30〜50%が好ましく、40〜45%がより好ましい。
たとえば生クリームは、原料乳(牛乳、生乳、特別牛乳等)に分離処理を施すことにより製造される。該分離処理により、原料乳が、乳脂肪分(脂肪球)を含有する生クリームと脱脂乳とに分離される。
原料乳の分離処理には、通常、ディスク型クリームセパレータ等のセパレータが用いられる。前記ディスク型クリームセパレータには開放型と密閉型があり、分離された生クリームの泡立ちを生じないことから密閉型が好ましく用いられる。
分離処理の際の温度は、通常30〜60℃とすることが好ましい。30℃以上とすることにより、生クリームと脱脂乳との分離効率が向上する。一方、60℃以下とすることにより、原料乳中のタンパク質の変性やリン脂質の脱脂乳への移行が抑制され、生クリームとしての特性が向上する。
なお、10℃以下の低温で原料乳を分離することもできる。10℃以下とすることにより、ホイップ性の良好な生クリームが得られやすくなる。また、原料乳を分離する際の作業性が向上する。
このようにして分離された生クリームの脂肪率は、たとえばディスク型クリームセパレータを用いた場合、該ディスク型クリームセパレータのクリーム出口において、原料乳から分離した生クリームの流量を、クリーム調節バルブによって調節することにより制御することができる。
上記のような分離処理により得られた生クリームには、殺菌処理、均質化処理等の処理が施されてもよい。均質化処理、殺菌処理は、それぞれ、後述する食用クリームの製造における均質化処理、殺菌処理と同様にして実施できる。
ここで、バターミルクの「固形分」とは、当該バターミルク中に含まれる、水分以外の全成分の合計を示し、たとえば液状の油脂も当該固形分に含まれる。
バターミルクは、一般的に、乳由来の原料クリームをチャーニングマシンで転相させ、バターとバターミルクに分離することにより製造される。該分離により得られるバターミルクは液状であり、通常、これを濃縮(水分を除去)し、固形状(パウダー状等)としたものが用いられる。原料クリームとしては、前記乳由来クリームと同様のものが挙げられる。
高リン脂質バターミルクの調製方法としては、上述のようにして得られる液状のバターミルク中の脂肪分に対し、セパレータ等を用いて濃縮処理を行うことにより固形分中の脂肪分の割合を高める方法、乳由来の原料クリームとして脂肪分が70%以上の高脂肪クリーム(固形分中の脂肪分の割合が大きいクリーム)を用いる方法等が挙げられ、これらの方法はいずれかを単独で用いてもよく、両法を併用してもよい。
バターミルクの「固形分中のリン脂質含量」は、油脂中のリン含量をフローインジェクション分析法(FIA法)にて定量することにより測定できる。
本発明において、高リン脂質バターミルクは、固形分中のリン脂質含量が上記範囲内であれば、酸性バターミルク、甘味バターミルク、ホエイバターミルクのいずれであってもよい。ただし、ホエイバターミルクは製造量が少なく、食品への応用よりもむしろ化粧品、サプリメントなど生理的な機能性を謳える高価格製品への導入が図られており、価格的にも食品への応用は困難な状況であることから、入手の容易さ、風味、熱安定性等を考慮すると、酸性バターミルクまたは甘味バターミルクが好ましい。なかでも、pHが中性であることから、甘味バターミルクがより好ましい。
該固形分濃度は、たとえばCEM社のSMART System 5等の水分固形分計により測定できる。
また、本発明の食用クリーム中、リン脂質の含有量は、当該食用クリームの総質量に対して0.2〜0.6質量%であることが好ましく、0.2〜0.4質量%がより好ましい。
該リン脂質の含有量は、油脂中のリン含量をフローインジェクション分析法(FIA法)にて定量することにより求められる。
また、高リン脂質バターミルクを添加した後、得られた食用クリームに、さらに、均質化処理、殺菌処理等を行ってもよい。
殺菌処理の方法としては、たとえば高温短時間殺菌法(HTST)、超高温殺菌法(UHT)等が用いられ、中でも殺菌効率と風味の点から、超高温殺菌法(UHT)が好ましく用いられる。
殺菌温度と処理時間は、たとえば高温短時間殺菌法(HTST)の場合は82〜85℃で10秒間前後が好ましく、超高温殺菌法(UHT)の場合は120〜130℃で2〜15秒間が好ましい。
均質化処理の方法としては、食用クリームを、たとえばプレート加熱機等により所定の均質化温度になるように加温し、ホモジナイザーなどの均質機等を用いて均質化する方法等が用いられる。また、均質化には、マイクロフルイダイザー、コロイドミル等を用いてもよい。中でも、食用クリームの均質化効率及び処理量の能力の点から、ホモジナイザーを用いることが好ましく、その中でも二段均質機を用いることが好ましい。
食用クリームの加温には、プレート加熱機、バッチ式加熱機等が用いられる。中でも、食用クリームの加温効率の点から、プレート加熱機を用いることが好ましい。
均質化温度は、60℃以上100℃未満とすることが好ましく、60〜90℃とすることがより好ましく、70〜90℃とすることがさらに好ましい。該範囲の下限値以上とすることにより均質化効率が向上する。また、常温で食用クリーム中に固体脂肪を含む脂肪球が存在する場合であっても、前記下限値以上に加温することによりホモジナイザーなどの均質機による均質化が容易になる。一方、前記範囲の上限値未満、特に90℃以下とすることにより、作業性や最終的に製造される食用クリームの風味が向上する。均質化温度が100℃以上であると、食用クリームの風味の点で、加熱臭や酸化臭が強くなるおそれが高まるため、好ましくない。
均質化圧力は、食用クリームの脂肪率、均質機の種類、食用クリームの処理流量やホモバルブの形状、均質化温度等の製造条件の違いによって適宜変更される。たとえば二段階の均質化を行う場合、均質化圧力は、全圧4〜10MPa、2次圧1〜2MPaとすることが好ましい。
前述の冷却後、冷却された食用クリームをエージングすることが好ましい。
エージングの際の温度は、好ましくは10℃以下であり、より好ましくは5℃以下であり、下限値は0℃以上とすることが好ましい。
また、エージングに費やす時間は、好ましくは数時間〜十数時間であり、より好ましくは8〜12時間である。これにより、食用クリーム中の脂肪分等の結晶化が進行し、食用クリームの品質を安定化させやすくなる。
エージングには、冷蔵庫、エージングタンク等が用いられる。
以下の各例において、%は、特に記載のない限り、質量%である。
試験例1〜3で用いた食用クリームの評価方法は以下のとおりである。
[耐酸性試験(クエン酸添加試験)]
イオン交換水にて、食用クリームの脂肪率を13%に調整したものを調製し、これに6%クエン酸水溶液を0.7mLずつ滴下してpHを4.6近傍とし、その粘度(クリーム粘度(mPa・s))を測定した。該クリーム粘度は、振動粘度計Vibro Viscometer CJV5000(商品名、秩父セメント社製)を用い、温度23℃の条件で測定した。
また、このとき、試料中におけるカードの発生の有無を目視にて確認し、カードの発生したものを+、しなかったものを−として評価した。
本評価において、クエン酸添加によるクリーム粘度の増加が顕著なものほど、また、カードが発生したものを、耐酸性(クエン酸耐性)が劣ると判断した。
市販のインスタントコーヒーを湯に溶解し、1.5%のコーヒー液とした後、その温度を85℃にした。該コーヒー液100gに5gの食用クリームを添加した。その時のフェザリング度合いを目視にて確認した。該フェザリング度合いを、0(フェザリングを認めず)、0.5(フェザリング様の白色物が表面にある)、1(軽いフェザリングを認める)〜5(かなりのフェザリングを認める)まで評価した。このフェザリング度合いが少ないほどコーヒー性が良好である。
本評価において、コーヒーは、常温よりも高く、かつ弱酸性である食品であるため、耐熱性、耐酸性の指標として用いた。
高リン脂質バターミルク:セパレータにて脂肪率70%まで濃縮した生クリームをホモゲナイザーにて転相させ、バターとバターミルク画分とに分離し、該バターミルク画分を噴霧乾燥機を用いて粉末化することにより、固形分中のリン脂質含量が4%のバターミルクおよび該リン脂質含量が7%のバターミルクを製造した。また、粉末化する前のバターミルクについて、セパレータにて脂肪分を2.5倍に濃縮し、これを噴霧乾燥機を用いて粉末化することにより、固形分中のリン脂質含量が10%のバターミルクを製造した。
ホエイバターミルク:脂肪率35%のホエイクリームをチャーニングマシンで転相させて得られた液状のバターミルクを、減圧濃縮機を用いて4倍濃縮したものを使用した。試料1−2中、該ホエイバターミルクの固形分濃度は30%であった。
精製リン脂質:フォンテラ社製の精製リン脂質(90%)を用いた。
酸性化バターミルク:特公平2−48217号公報に記載の方法により製造したpH3.8の酸性濃縮物を使用した。試料1−4中、該酸性化バターミルクの固形分濃度は10%であった。
通常のバターミルク:脂肪率40%の生クリームをチャーニングマシンで転相させ、バターとバターミルクに分離し、噴霧乾燥機を用いて粉末化することにより製造したものを使用した。
各添加成分の「固形分中のリン脂質含量」は、油脂中のリン含量をフローインジェクション分析法(FIA法)にて定量することにより測定した。
以下の手順で試料1−1〜1−4(食用クリーム)を製造した。
生乳をセパレータにて分離した生クリームに対し、表1に示す添加成分と、脱脂乳とを添加してその脂肪率を40%に調整した。これを、プレート加熱機にて80℃まで加熱し、三丸機械(株)製二段均質機を用いて殺菌前の均質化を行った。このとき、均質化圧力は全圧5MPa、2次圧1MPaとした。その後、UHT装置(森永エンジニアリング(株)製、連続式プレート殺菌機)にて120℃、15秒間の殺菌を行い、その後、プレート冷却機を用いて5℃まで冷却し、一晩冷蔵庫(5℃)でエージングした。
得られた各試料について、耐酸性試験およびコーヒー試験を行った。その結果を表1に示す。
表1に示すように、高リン脂質バターミルクを配合した試料1−1は、試料1−2〜1−4に比べて、耐酸性、コーヒー性ともに良好であった。
本試験は、本発明に係る食用クリームにおいて、バターミルクの固形分中のリン脂質含量の範囲を検索する目的で実施した。
添加成分として表2に示す添加成分を用いた以外は試験例1と同様にして試料2−1〜2−4(食用クリーム)を製造した。
得られた各試料について、耐酸性試験およびコーヒー試験を行った。その結果を表2に示す。
表2に示すように、固形分中のリン脂質含量が4〜10%の高リン脂質バターミルクを配合した試料2−3〜2−4は、試料2−1〜2−2に比べて、耐酸性、コーヒー性ともに良好であった。
本試験は、本発明に係る食用クリームにおいて、当該食用クリーム中のバターミルクの固形分濃度の好適な範囲を検索する目的で実施した。
添加成分として、固形分中のリン脂質含量が4%の高リン脂質バターミルクを、試料中の当該高リン脂質バターミルクの固形分濃度が表3に示す値となるように添加した以外は試験例1と同様にして試料3−1〜3−4(食用クリーム)を製造した。
得られた各試料について、耐酸性試験およびコーヒー試験を行った。その結果を表3に示す。
表3に示すように、高リン脂質バターミルクの固形分濃度が2%の試料3−2においても、耐酸性、コーヒー性とも高リン脂質バターミルクを配合しなかった試料1−1に比べて改善が見られたが、3%以上において、耐酸性、コーヒー性とも充分なレベルまで改善された。
添加成分として、固形分中のリン脂質含量が表4に示す値の高リン脂質バターミルクを、最終的に得られる食用クリーム中の当該高リン脂質バターミルクの固形分濃度が表4に示す値となるように添加した以外は試験例1と同様にして食用クリームを製造した。ただし、各食用クリームのクリーム脂肪率は、生乳から生クリームを分離する際のセパレータの運転条件を調節することにより、表4に示す値とした。
得られた各食用クリームについて、耐酸性試験およびコーヒー試験を行った。その結果、いずれの食用クリームも、耐酸性、コーヒー性ともに良好であった。
Claims (2)
- 生クリームに、固形分中のリン脂質含量が4〜10質量%のバターミルクを配合した後、60℃以上100℃未満で均質化処理する食用クリームの製造方法であって、
前記食用クリーム中、前記バターミルクの固形分濃度が3〜6質量%であり、リン脂質含量が0.2〜0.6質量%である、食用クリームの製造方法。 - 請求項1に記載の製造方法によって製造された食用クリーム。
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