このように構成される電界電離型イオン源では、一般に、針状電極がその先端を容器の開孔周縁部に近接するように容器内に固定されている。これは、前記電界電離型イオン源110においては、強電界が形成された針状電極123先端近傍に原料ガスが安定して供給されると共に、針状電極123先端近傍で形成されたイオンが容器内のイオン化してないガス分子と衝突して消滅・散乱するのを防ぎ、より強度が大きく且つ指向性の高いイオンビームを得るためである。このように、電界電離型イオン源110においては、容器120の開孔周縁部121rと針状電極123との相対位置、即ち、容器120の開孔周縁部121rに対する針状電極123の位置が重要になる。
しかし、電界電離型イオン源110を製造する際、構造上、容器120の開孔周縁部121rに対する針状電極123の正確な位置決めが困難である。これは、針状電極123を容器120内に固定する際、この針状電極123を容器120の外部から直接見ることが難しいため正確な位置を把握するのが困難だからである。
例えば、前記位置決めの際に、開孔122から容器120内の針状電極123の位置を確認する場合、開孔122が非常に径の小さな貫通孔であるため、この開孔122を通じて容器120の外部から針状電極123の位置を正確に把握することは難しい。しかも、容器120の開孔周縁部121rに針状電極123先端が近接するように位置決めする必要があるにもかかわらず、この針状電極123先端は非常に鋭く尖っているため接触等によって損傷し易い。従って、針状電極123先端を容器120の開孔周縁部121rに接触させることなく正確に容器120の開孔周縁部121rに対する針状電極123の位置決めを行うことは非常に困難となる。
そこで、本発明は、容器の開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めを容易に行うことができるイオン源の製造方法、及びこの方法によって製造されたイオン源を提供することを目的とする。
そこで、上記目的を達成すべく、本発明に係るイオン源の形成方法は、微小開孔を有し、内部に原料ガスが供給される容器と、一方向に延びると共に先端が尖り、この先端を前記微小開孔に向け且つ前記先端を前記容器の微小開孔周縁部と近接するように前記容器内に固定される電界電離電極と、を備えるイオン源の製造方法であって、前記電界電離電極の表面のうちこの電界電離電極が前記容器内に固定される際にこの容器の微小開孔周縁部と対向する部位を含む表面に所定の厚さを有する犠牲層が形成されたものを用意し、その電界電離電極の先端を前記微小開孔に向けた状態で前記電界電離電極をその軸方向先端側に移動させ、前記容器の微小開孔周縁部の少なくとも一部に前記犠牲層の表面を当接させて前記容器の微小開孔周縁部に対する前記電界電離電極の位置決めを行い、この位置決めした前記容器内の位置に前記電界電離電極を固定し、固定したまま前記電界電離電極に形成されている前記犠牲層を除去することを特徴とする。
かかる構成によれば、位置決めの際、電界電離電極の表面に形成されている犠牲層が容器の微小開孔周縁部に当接することで、容器の微小開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めが容易に行われる。即ち、位置決めの際、犠牲層が容器の微小開孔周縁部に当接することで、電界電離電極の位置は、容器の微小開孔周縁部の当接した部位に対して当該犠牲層の前記所定の厚さ(層厚)に相当する間隔をおいた位置に決まる。
しかも、電界電離電極における容器の微小開孔周縁部と対向する部位は、犠牲層によって保護されているため、位置決めの際に損傷等が生じない。
そして、前記位置決めされた電界電離電極が容器内に固定され、固定されたまま犠牲層が除去されることで、容器の微小開孔周縁部と電界電離電極との間に犠牲層の層厚(前記所定の厚さ)に相当する間隙が現れる。このようにして、容器の微小開孔周縁部に対し、当該微小開孔周縁部との間に前記間隙が形成されるような位置への電界電離電極の位置決めが容易に行われる。
本発明に係るイオン源の製造方法においては、前記電界電離電極の表面のうちこの電界電離電極が前記容器内に固定された際にこの容器の微小開孔周縁部と対向する部位を含む表面に、その部位と微小開孔周縁部との間隙の目標寸法に相当する厚さを有する犠牲層を形成し、その後、前記犠牲層が形成された電界電離電極の前記位置決めを行ってもよい。
このように、電界電離電極の表面に前記目標寸法に相当する厚さを有する犠牲層を形成することで、容器の微小開孔周縁部に対し、当該微小開孔周縁部との間に目標寸法(所望幅)の間隙が形成されるような位置への電界電極の位置決めが容易に行われる。
しかも、目標寸法が変更された場合でも、犠牲層を形成する際、この犠牲層の形成される範囲や層厚を変更することで容器の微小開孔周縁部と電界電離電極との間の前記間隙を変更された前記目標寸法に容易に調整できる。
また、前記犠牲層は、前記位置決めの際に、前記容器の微小開孔周縁部と当該犠牲層の表面における前記電界電離電極の周方向に並ぶ複数の位置で当接するように形成されていてもよい。
このように犠牲層が形成されていることで、電界電離電極が微小開孔の中心寄りの位置に容易に位置決めされる。即ち、犠牲層が容器の微小開孔周縁部と前記周方向に並ぶ複数個所で当接することで、各当接位置における容器の微小開孔周縁部と電界電離電極との対向する部位同士の相対位置が決まる。このとき、犠牲層を除去することで、前記各部位同士の間隔が犠牲層の層厚に相当する間隔となり、電界電離電極は、微小開孔周縁部と全周にわたって接しない位置、即ち、微小開孔の中心寄りの位置に位置決めされる。「周方向に並ぶ複数の位置」とは、周方向に連続する無数の位置も含む概念である。例えば、全周にわたって当接していてもよい。
また、前記位置決めの際に、前記犠牲層として前記電界電離電極の表面に薄膜が形成されていてもよい。
このようにすることで、薄膜の成膜技術(例えば、CVD法やスパッタリング、蒸着、ディップ法等)は種々開発されているため、所望の厚さで且つ所望の範囲に犠牲層が形成された電界電離電極が容易に得られる。
また、前記薄膜が前記電界電離電極よりも弾性率の低い材料により形成されていてもよい。
このようにすることで、薄膜表面が微小開孔周縁部に当接しても力が薄膜の弾性変形によって吸収されて電解電離電極に伝わり難くなる。そのため、前記位置決めにおいて薄膜表面が容器の微小開孔周縁部と当接した際の電界電離電極の損傷が抑制される。
また、前記電界電離電極の固定後に、前記電界電離電極に形成されている薄膜を当該薄膜を溶解する液体に浸漬し、薄膜溶解後の前記液体を排液することで電界電離電極に形成されている薄膜を除去してもよい。
このようにすることで、薄膜(犠牲層)が容易に除去される。即ち、電界電離電極に形成されている薄膜が前記液体に浸漬されることで溶解され、この薄膜溶解後の前記液体が容器から排液されることで薄膜の除去が行われる。しかも、前記液体は、特定の形状を有しないため、容器内への注入及び容器内からの排液が行い易い。
また、前記電界電離電極の固定後に、前記電界電離電極に形成されている薄膜を当該薄膜と反応する反応性の気体に曝し、又は前記反応性の気体に曝し且つ熱処理を行い、薄膜分解後の前記気体を排気することで電界電離電極に形成されている薄膜を除去してもよい。
このようにすることで、薄膜(犠牲層)が容易に除去される。即ち、電界電離電極に形成されている薄膜が前記気体に曝されることで、又は、さらに熱処理されることで前記薄膜が分解され、この薄膜分解後の前記気体が容器から排気されることで薄膜の除去が行われる。しかも、前記気体は、特定の形状を有しないため、容器内への注入及び容器内からの排気が行い易い。
また、前記電界電離電極の先端も覆うように前記薄膜が形成されていてもよい。
このようにすることで、容器内に電界電離電極を挿入する際や位置決めの際に、電界電離電極先端が容器等に接触しても、前記薄膜によって保護されているため、先端の損傷が抑制される。そのため、容器内への電界電離電極の挿入作業や前記位置決め作業が容易になる。
また、前記容器における前記微小開孔と対向する位置に前記微小開孔よりも大きな挿入孔を設け、前記容器内に固定された際に当該容器内に位置する部位の基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って前記薄膜が形成されている前記電界電離電極を前記挿入孔から前記容器内に挿入した後、前記位置決めを行ってもよい。
かかる構成によれば、電界電離電極の容器内に挿入される部位の基部側(先端と反対側)の一部を除くほぼ全体が薄膜に覆われている。そのため、電界電離電極が挿入孔から挿入される際に、この挿入孔を規定する内周面との接触に起因する損傷等が抑制される。
また、上記のいずれかの方法によって製造されたイオン源においては、当該イオン源が製造される際、容器の微小開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めが容易に行われるため、製造時間や製造コストの削減を図ることができる。
以上より、本発明によれば、容器の開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めを容易に行うことができるイオン源の製造方法、及びこの方法によって製造されたイオン源を提供することができるようになる。
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る電解電離型イオン源(以下、単に「イオン源」と称する。)は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素からなるイオン原料ガス(原料ガス)を電界電離し、高輝度のイオンビームを得るためのイオン源である。図1に示されるように、イオン源10は、微小開孔22を有し、内部に原料ガスが充填(供給)される容器20と、先端を微小開孔22に向けて容器20内に配置される針状の電界電離電極(以下、単に「ニードル電極」と称する。)23と、この容器20の前方に配置される引出電極30と、を備える。これら、容器20、ニードル電極23及び引出電極30は、真空容器11内に配設されている。また、ニードル電極23と引出電極30との間には、印加用電源40が接続されている。尚、本実施形態において、照射されるイオンビームの照射方向を前方とする(図1においては下方向)。
容器20は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素などの常温で気体状態のイオン原料ガスが充填される容器であり、前記イオン原料ガスを当該容器20に供給するための原料ガス供給管50が接続されている。この容器20は、アルミナセラミクスで構成されているが、このアルミナセラミクス以外に、ジルコニウム系セラミクスやガラス等の絶縁物(絶縁体)で構成されていればよい。
この容器20の内部には、イオン原料ガスを電界電離してイオン化するために、その先端部に強電界を発生させるためのニードル電極23が配置されている。このニードル電極23は、一方向、本実施形態においては照射されるイオンビームのビーム軸K方向に沿って延びると共に先端が尖った細長い針状の電極である。このようなニードル電極23の先端は、略円錐形に形成されており、その先端は、先端半径が100nm以下となるように形成されている。具体的には、ニードル電極23は、タングステン製で、長さが20mmであり、また、先端半径が50nmとなるように電解研磨により形成されている。尚、ニードル電極23は、タングステンに限定される必要はなく、イリジウム等の金属やシリコン、又はそれらを含む合金、若しくはそれらに貴金属、高融点金属、高融点金属の炭化物若しくは窒化物等でコーティング処理を施したものであってもよい。このようにコーティング処理が施されていても、後述するニードル電極23表面への犠牲層(薄膜)の形成及びこの犠牲層(薄膜)の除去は可能である。尚、犠牲層(薄膜)を除去する際、前記コーティングは除去されることなくニードル電極23に残る。
このように形成されたニードル電極23は、中心軸が照射されるイオンビームのビーム軸Kと一致し、先端部が微小開孔22に挿入されて当該微小開孔22から容器20外側へ僅かに突出するように容器20の後方側を構成する後述の後方壁24に固定されている。
また、容器20の前方側は平板状の板体21で構成され、この板体21には、容器20内にイオン原料ガスが充填されることによってこのイオン原料ガスを噴出する微小開孔22が設けられている。
この微小開孔22は、容器20の内部に配設されたニードル電極23の中心軸(イオンビームのビーム軸K)にその中心を一致させ、容器20の内部と外部とを連通するように板体21の中央部に設けられている。換言すると、微小開孔22は、板体21中央部(板体21の微小開孔周縁部21r)に形成された内周面22aによって規定された貫通孔である。この内周面22aは、微小開孔22が前方側に向かって一定の割合で縮径するようにテーパー状に形成されている。このように形成される微小開孔22は、最小開孔径、即ち、当該微小開孔22の中心軸方向における最も開孔径の小さい位置での径(横断長さ)が5μm〜100μmの開孔である。
また、ニードル電極23の先端が僅かに微小開孔22の前方側端部から突出するように微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23の位置、即ち、両者の相対位置が位置決めされている。このニードル電極23先端の突出量は、微小開孔22から噴出されるイオン原料ガスのガス圧が当該微小開孔22近傍において最も高い位置から僅かに前記ガス圧が低くなった位置(僅かに前方側)に前記先端が位置するような量である。
このように微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23の位置(相対位置)が位置決めされることで、微小開孔22を規定する内周面22aとニードル電極23の外周面23aとの間に原料ガス流路Grが形成される。この原料ガス流路Grは、容器20から噴出するイオン原料ガスが流れる流路である。
具体的には、図2にも示されるように、微小開孔22の小径側(容器20の外面側)の開孔径d1が20μm、大径側(容器20の内面側)の開孔径d2が720μm、深さ(板体21の厚み)d3が500μm、ビーム軸Kに対する内周面22aのなす角αが35°である。また、ビーム軸Kに対するニードル電極23の外周面23aのなす角βが17.5°、板体21の外側面からニードル電極23の先端までの突出量(突出距離)lが5μmである。
また、容器20の後方側は、板状の後方壁24で構成されている。この後方壁24には微小開孔22と対向する位置、即ち、中央部にビーム軸Kと中心が一致する挿入孔25が形成されている。この挿入孔25は、イオン源10の製造時に、容器20内にニードル電極23を配置するため、当該ニードル電極23を挿入するための容器20の内部と外部とを連通する貫通孔であり、微小開孔22よりも開孔径が大きい。また、挿入孔25の開孔径は、後述する薄膜(犠牲層)fが表面に形成されたニードル電極23が挿通可能な大きさである。
この挿入孔周縁部25rには、先端側部位を内部に挿入した後のニードル電極23が固着される。その際、後方壁24も容器20の他の部位と同様にアルミナセラミクスで形成されているため、そのままでは金属(タングステン)で形成されたニードル電極23を接着等して固着させることが困難である。そのため、挿入孔25を規定する内面を含む挿入孔周縁部25rには、メタライズ処理が施された固着部位26が形成されている。
引出電極30は、ニードル電極23先端近傍に強電界を発生させ、当該強電界によってイオン原料ガスをイオン化すると同時に、このイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す役目を担う。この引出電極30は、ステンレス製の板状の電極で、イオンビームの通過するイオンビーム通過孔31が中央に穿設されている。このように構成される引出電極30は、容器20の前方側に微小開孔22を介してニードル電極23先端と対向するように配置されている。即ち、引出電極30は、中央に穿設されたイオンビーム通過孔31の中心が微小開孔22の中心と同一直線上(イオンビームのビーム軸K上)に位置するように配置されている。
印加用電源40は、ニードル電極23と引出電極30との間に電界電離用電圧を印加するための電源である。この印加用電源40は、直流電源であり、引出電極30に対してニードル電極23が最高20kVの正電位となるような電圧を印加する電源である。そして、印加用電源40によって電界電離用電圧が印加されることによって、ニードル電極23先端近傍に強電界が形成されると共に前記強電界によって形成されたイオンがニードル電極23先端近傍から引出電極30側に引き寄せられる(引き出される)。
原料ガス供給管50は、イオン原料ガス(本実施形態においては、ヘリウム(He))を容器20内に供給できるよう、容器20の後方側に接続されている。この原料ガス供給管50の途中には、容器20へ供給するイオン原料ガスの量を制御する原料ガス供給量制御手段51が設けられている。
真空容器11は、いわゆる真空チャンバーであり、真空ポンプ12が設けられた排気管13が接続されている。この真空容器11の内部は、イオン源10の作動時において、接続された真空ポンプ12によって排気され、高真空状態が保たれる。
本実施形態に係るイオン源10は、以上の構成からなり、次に、このイオン源10の動作について説明する。
真空容器11内が真空ポンプ12によって真空引きされ、1×10−6Pa程度の高真空状態となる。その際、イオン原料ガスが原料ガス供給管50を通じて容器20内に供給される。このとき、容器内の圧力が100Paに保たれるよう、原料ガス供給量制御手段51によってイオン原料ガスの供給量が調整される。容器20内に充填されたイオン原料ガスは、容器20の微小開孔22から真空容器11内に噴出するが、微小開孔22の開孔径が小さいために容器20内へのイオン原料ガス供給量に対して前記噴出する流量が十分に小さいため、容器20内の圧力が一定に保たれる。このように微小開孔22からイオン原料ガスが噴出することで、ニードル電極23先端部近傍にイオン原料ガスが供給される。
このとき、ニードル電極23と引出電極30との間には、印加用電源40によって電界電離用電圧が印加されているため、ニードル電極23先端近傍には強電界が形成されている。そして、イオン原料ガスは、微小開孔22から外部(真空容器11内の真空領域)に噴出される際に前記ニードル電極23先端近傍の強電界中を通過する。その際、電界電離現象によってイオン原料ガスがイオン化される。
詳細には、原料ガス流路Grは、微小開孔22の前方側に向かって徐々に狭くなり、前方側端部で最も狭くなっている。そのため、イオン原料ガスのガス圧は、微小開孔22の前方側端部で高く(微小開孔22近傍においては最も高く)、10Pa程度に維持される。即ち、微小開孔22の前方側端部で、ガス分子の密度が高く(微小開孔22近傍においては最も高く)維持される。ニードル電極23先端が微小開孔22前方側端部から僅かにしか突出していないため、強電界が形成されたニードル電極23先端の近傍にも、このガス分子の密度の高くなったイオン原料ガスが供給されることになる。そのため、ニードル電極23先端近傍では多くのイオンが形成される。
このイオン化されたガスがニードル電極23と引出電極30との間の電位差によって引出電極30側に引き出され、イオンビームが形成される。
このとき、容器20の外部雰囲気が高真空状態(高真空領域)であるため、微小開孔22から噴出したイオン原料ガスは一気に拡散する。その結果、ニードル電極23先端近傍においてイオン原料ガスがイオン化され、このイオン化されたイオン原料ガスが容器20から引き出された直後の領域は、前記引き出されたイオンがイオン化されなかったイオン原料ガスのガス分子(雰囲気ガス)と衝突する確率が低い(イオン消滅確率が低い)高真空領域となる。そのため、イオンが引出電極30側に引き出される際、当該イオンが前記ガス分子に衝突し難くなり、その分形成されたイオンビーム電流の低下が抑制されると共に集束イオンビームを得るために必要な低エネルギー分散も維持され、高輝度なイオンビームが得られる。
即ち、微小開孔22の前方側からニードル電極23先端が僅かに突出するように、容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との相対位置が位置決めされていることで、ニードル電極23先端近傍において、ガス分子の密度の高くなったイオン原料ガスが供給されると共に、ガス圧の急激な圧力勾配が生じる。その結果、ニードル電極23先端近傍では多くのイオンが形成されると共に、この形成されイオンが引出電極30によって引き出される際に雰囲気ガスと衝突する確立が十分低くなるため、高輝度なイオンビームが得られる。
このようにして得られた高輝度なイオンビームは、引出電極30の中央に穿設されたイオンビーム通過孔31を通過して照射される。
次に、このイオン源10の製造方法について図3乃至図5も参照しつつ説明する。
まず、ニードル電極23が形成されると共に容器20が形成され、この形成された容器20内にニードル電極23が配置される。
具体的には、線状のタングステン(W)部材が電解研磨され、上記のような先端が尖った細長い針状のニードル電極23が形成される。また、アルミナセラミクスの粉末等の原料をプレス等によって成形し、この成形したものを焼結することでアルミナセラミクス製の容器20が形成される。このとき、容器20は、後方壁24とその他の部位とが別体として形成され、形成後(焼結後)に結合されているが、これに限定される必要はなく、容器20が一体成形されてもよい。
この後方壁24には、挿入孔25が設けられている。この挿入孔25周縁部には、メタライズ処理が施され、固着部位26が形成される。
次に、ニードル電極23に薄膜(犠牲層)fが形成される。具体的には、ニードル電極23に対し、容器20内に固定された際に当該容器20内に位置する部位の基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って薄膜fが形成される。この薄膜fは、均一な厚さ(膜厚)の膜であり、後述する位置決めの際に、微小開孔22の前方側からニードル電極23先端が前記僅かに突出するように、容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との相対位置が位置決めされるような厚さに形成されている。即ち、薄膜fは、容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23と間に形成される間隙幅における目標寸法に相当する厚さに形成されている。本実施形態においては厚さが8μmの膜であるが、この厚さに限定される必要は無く、前記目標寸法に対応して0.1μm〜100μmの厚さが考えられる。このように、所定の厚さの薄膜fがニードル電極23の前記基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って形成されることで、後述するニードル電極23が挿入孔25に挿入される際に、この挿入孔25を規定する内周面との接触に起因する損傷等が抑制される。即ち、薄膜fの形成されていないニードル電極23が挿入孔25に挿入される場合、前記内周面にニードル電極23が接触することで当該ニードル電極23表面に傷等が生じることがある。しかし、薄膜fが形成されることでこの薄膜fが保護層として働き、前記内周面との接触に起因するニードル電極23表面の損傷等が抑制される。
尚、本実施形態においては、薄膜fは、ニードル電極23の前記基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って形成されているが、これに限定される必要はない。即ち、後述する位置決めの際に容器20の微小開孔周縁部21rと対向するニードル電極23の部位を少なくとも含むニードル電極23の表面に薄膜fが形成されていればよい。少なくとも前記対向する部位に薄膜fが形成されることで、位置決めの際、この薄膜fが容器20の微小開孔周縁部21rに当接することで、容器20の微小開孔周縁部に対するニードル電極23の位置決めが容易になる。さらに、ニードル電極23の先端も覆うように薄膜fが形成されてもよい。このような範囲にも薄膜fが形成されることで、前記位置決めの際に、ニードル電極23先端が容器20等に接触しても、前記薄膜fによって保護されるため先端の損傷が抑制され、前記位置決め作業がより容易になる。
ニードル電極23の表面に形成される薄膜fは、二酸化珪素(シリカ:SiO2)で構成され、ニードル電極23の表面に対してプラズマCVD法によって形成(成膜)されている。この二酸化珪素膜fは、ニードル電極23よりも弾性率が低い。このように、薄膜fがニードル電極23よりも弾性率の低い材料により形成されることで、容器20内へのニードル電極23の挿入時に薄膜f表面が微小開孔周縁部21rに当接しても力が当該薄膜fの弾性変形によって吸収されてニードル電極23に伝わり難くなる。また、薄膜fの内部応力が小さいため、薄膜f自体が変形した場合でもニードル電極23に及ぼす影響を小さく抑えることができる。
尚、薄膜fは、二酸化珪素膜に限定される必要はなく、Al膜やCu膜、カーボン膜、有機高分子膜等であってもよい。このような薄膜fにおいても、当該薄膜fの弾性率がニードル電極23よりも低く、さらに除去する際に、溶解等することでニードル電極23や容器20の微小開孔周縁部21rへの影響が小さい。また、これらの材料で形成された薄膜fは、位置決めの際に容器20の微小開孔周縁部21rと接触してもニードル電極23からの剥離や薄膜f自身の変形が生じない程度の強度を備える。しかも、必要な膜厚(数〜数十μm)の薄膜が形成し易い。
このような犠牲層としての薄膜fは、容器20の開孔周縁部21rとニードル電極23との位置関係(相対位置)を制御し、ニードル電極23を容器等との接触に起因する損傷から保護するためのものである。そのため薄膜fは、ニードル電極23の外周面23a、特にニードル電極23先端部の外周面23aにおいてできるだけ均一に形成されていることが望ましい。そのため、薄膜fの形成方法としては、プラズマCVD法やスパッタ法において、ニードル電極23の先端をプラズマに垂直に立てて成膜する方法や、ニードル電極23を前記プラズマと平行に配置して表面と裏面とを成膜する方法、またはニードル電極23の中心軸を回転中心にして回転させながら成膜する方法が考えられる。
しかし、薄膜fの形成方法は、上記の方法に限定される必要はなく、ニードル電極23の表面に対して均一な厚さの薄膜を形成できると共に所望の範囲且つ所望の厚さで薄膜を形成できる方法であれば、上記のプラズマCVD法やスパッタリング法以外に、蒸着やディップ法等の他の成膜方法であってもよい。
次に、薄膜fが形成されたニードル電極23が容器20の後方壁24に形成された挿入孔25から容器20内に挿入される。このとき、挿入孔25は、微小開孔22と対向し、且つ、ビーム軸Kと中心が一致するように後方壁24中央部に設けられている。そのため、ニードル電極23は、ビーム軸Kに沿って先端側に移動することで挿入孔25から容器20内部に挿入される(図3(a)参照)。
挿入孔25から挿入されたニードル電極23は、さらに、薄膜fの表面が容器20の微小開孔周縁部21rと当接するまでビーム軸Kに沿って移動する(図3(b)参照)。そして、薄膜f表面が微小開孔周縁部21rと当接した際には、当該薄膜fの表面は、図4(a)にも示すように、ニードル電極23の周方向全周に亘って微小開孔周縁部21rと当接している。
このように薄膜f表面が容器20の微小開孔周縁部21rに当接することで、容器20の微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23の位置決めが行われる。即ち、薄膜fが容器20の微小開孔周縁部21rに当接することで、ニードル電極23の位置は、容器20の微小開孔周縁部21rの当接した部位に対して当該薄膜fの層厚に相当する間隔をおいた位置に決まる。本実施形態においては、ニードル電極23は、微小開孔周縁部21rと全周にわたって薄膜fの層厚に相当する間隔をおいた位置、即ち、微小開孔22の中心寄りの位置に位置決めされる。しかも、ニードル電極23における容器20の微小開孔周縁部21rと対向する部位は、薄膜fによって保護されているため、前記位置決めの際に微小開孔周縁部21rとの接触に起因する損傷等が生じない。
尚、本実施形態における位置決めとは、容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との間隔だけでなく、ビーム軸K方向における両者21r,23の相対位置の位置決めも含む。また、本実施形態において、薄膜fは、微小開孔周縁部21rと前記周方向全周に亘って当接しているが、これに限定される必要はない。即ち、図4(b)及び図4(c)にも示されるように、薄膜fは、容器20の微小開孔周縁部21r1の一部とその表面が当接してもよく、また、微小開孔周縁部21r2とニードル電極23の周方向に並ぶ複数の位置(図(c)においては4箇所)で当接してもよい。薄膜fがこのように形成されても、各当接位置における容器20の微小開孔周縁部21r1,21r2とニードル電極23との対向する部位同士の相対位置が位置決めされる。
位置決めの際に、薄膜fの膜厚(層厚)が変更されるだけで、容器20の微小開孔周縁部21rの当接した部位とニードル電極23との間隔の調整が容易にできる。さらに、膜厚を変更することで、位置決めの際、微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整も容易にできる。即ち、ニードル電極23は、その先端部において径が徐々に小さくなる略円錐形に形成されているため、前記間隔を変更することで、ビーム軸K方向に沿って前後に移動する。従って、図5(a)乃至図5(c)に示されるように、容器20の微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23先端のビーム軸K方向の位置を前方側に移動させるためには、薄膜fの膜厚を薄くして前記間隔を狭くすればよい(図5(b)から図5(a))。また、容器20の微小開孔周縁部21rに対する前記先端のビーム軸K方向の位置を後方側に移動させるためには、薄膜fの膜厚を厚くして前記間隔を広くすればよい(図5(b)から(c))。
このようにして、容器20の微小開孔周縁部21rに対するニードル電極23の位置が位置決めされた後、このままの位置でニードル電極23が容器20に固定される。詳細には、ニードル電極23における容器20後方壁24の挿入孔25を挿通している部位が固着部位26にハンダhによって固着(ハンダ付け)される。このとき、固着部位26は、メタライズ処理が施されているため、ニードル電極23を当該固着部位26へ容易にハンダ付けすることができる。尚、ニードル電極23の固着部位26への固着手段としては、ハンダ付けに限定される必要はなく、接着材による接着やろう付け等であってもよい。
次に、ニードル電極23が容器20に固定されたままその表面に形成されている薄膜fが除去される。このとき、薄膜fは、ニードル電極23における容器20外側(微小開孔22からの突出部位)の薄膜fが除去されると共に容器20内側の薄膜fが当該容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との間隙から除去される。具体的には、ニードル電極23が固定された状態の容器20がフッ化アンモニウム水溶液に浸漬される。このフッ化アンモニウム水溶液は、浸漬した前記容器20においてはニードル電極23の表面に形成された二酸化珪素膜(薄膜)fしか実質的には溶解しない。そして、容器20の後方壁24に設けられ、原料ガス供給管50が接続されてイオン原料ガスが供給される原料ガス導入孔や容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との間隙等からフッ化アンモニウム水溶液が容器20内に浸入することでニードル電極23を被覆する薄膜が前記水溶液に触れて溶解される。
このようにして薄膜fが溶解することで、容器20の微小開孔周縁部21rとニードル電極23との間に薄膜fの膜厚に相当する間隙が現れる。このようにして、容器20の微小開孔周縁部21rに対し、当該微小開孔周縁部21rとの間に所望幅の間隙が形成されるような位置へのニードル電極23の位置決めが行われる。
フッ化アンモニウム水溶液によって溶解された薄膜fは、当該水溶液と共に容器20の後方壁24に設けられた前記原料ガス導入孔や微小開孔周縁部21rとニードル電極23との間に形成された間隙等を通じて容器20から排液されて薄膜fの除去が終了する。この排液の際、フッ化アンモニウム水溶液は、特定の形状を有しない液体のため、僅かな幅の間隙や孔等から容易に排液される。
このような薄膜とこの薄膜の除去方法との組み合わせとしては、本実施形態のように、二酸化珪素膜とフッ化アルミニウム水溶液の他に、二酸化珪素膜とフッ酸水溶液、Al膜と塩酸、Cu膜と塩化第二鉄水溶液、また、カーボン膜と酸素雰囲気での熱処理若しくは水素雰囲気による熱処理、有機高分子膜と有機溶媒若しは有機溶媒中での熱処理、等であってもよい。
上記のようにしてニードル電極23の薄膜が除去された後の容器20は、真空チャンバー11内に配置される。この真空チャンバー11には、真空ポンプ12が設けられた排気管13が接続される。そして、容器20の前方側に微小開孔22を介してニードル電極23先端と対向するように引出電極30が配置され、当該引出電極30とニードル電極23との間に印加用電源40が接続される。また、容器20には、真空チャンバー11内に引き込まれたイオン原料ガス供給管50が接続される。
尚、本発明のイオン源は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、本実施形態においては、微小開孔22の開孔縁形状は円形であるが、四角であってもよく(図4(c)参照)、多角形であってもよい。また、ニードル電極23は、微小開孔22の中心と異なる位置であってもよい。このような円形以外の開孔縁形状や微小開孔22の径方向に対するニードル電極23の位置が中心から異なる位置であっても、薄膜の厚さがニードル電極23の周方向において変化することで、上記同様に、容易に位置決めできる。
即ち、薄膜のビーム軸Kと直交する方向の断面における外周縁形状が前記開孔縁形状に沿った形状(四角や多角形等)となるように当該薄膜を形成することで、上記同様に、薄膜表面を周方向全周に亘って微小開孔周縁部に当接させることで、四角等の前記開孔縁形状の微小開孔周縁部に対するニードル電極23の地位決めを行うことができる。また、薄膜の前記断面における外周縁が円形に形成されても、ニードル電極23がこの円に対して偏心した位置となるように薄膜が形成されることで、上記同様に、当該薄膜表面を周方向全周に亘って微小開孔周縁部に当接させることで、微小開孔の径方向において偏心した位置となるようにニードル電極23の位置決めができる。さらに、厚さが一定の薄膜fであっても、当該薄膜表面が微小開孔周縁部21rと全周に亘って接するのではなく、一部が当接するようにニードル電極23を偏心させることで(図4(b)参照)、微小開22に対して径方向に偏心した位置にニードル電極23を容易に位置決めできる。
また、本実施形態においては、容器20の前方側は、平板状の板体21によって構成されているが、図6に示されるイオン源100のように、前方側に向かって縮径したテーパー形状のノズル部21Nで構成されていてもよい。このように形成されても、上記実施形態のようにニードル電極23に形成された薄膜fの表面を容器20の微小開孔周縁部21r3に当接させることで、容易に両者の相対位置を位置決めすることができる。この場合も、図7(a)乃至図7(c)に示されるように、薄膜fの膜厚を変更することで、上記実施形態同様、微小開孔周縁部21r3に対するニードル電極23のビーム軸K方向に沿った前後位置を調整、又は、微小開孔周縁部21r3とニードル電極23との間隙幅(原料ガス流路幅)を調整することができる。
また、本実施形態においては、薄膜fを溶解する際に液体(フッ化アンモニウム水溶液)が用いられているがこれに限定される必要はない。即ち、薄膜fの除去方法としては、僅かな幅の間隙や孔等から容器20内に注入でき、ニードル電極23表面から除去した薄膜と共に、注入するのと同様、前記間隙や孔等から排出できればよい。従って、薄膜fと反応して当該薄膜fを分解する反応性の気体が用いられてもよい。但し、プラズマやイオンによるエッチングのように、一方向性のエッチングは、ニードル電極23の全周に亘って形成された薄膜fに対し一方向からのエッチングしかできず、反対側の薄膜fの除去が効率よくできないためあまり適さない。
具体的には、このような薄膜と気体の組み合わせ及び薄膜の除去方法として、例えば、i)カーボン系薄膜を酸化雰囲気に曝し、熱処理を行って除去する、ii)シリコン系薄膜をXeF2の昇華ガスに曝し、シリコンをエッチング除去する、iii)シリコン酸化膜をHFガスに曝し、シリコン酸化膜を除去する、等が考えられる。尚、前記カーボン系薄膜としては、フッ素系樹脂、フォトレジスト、ポリイミド等の樹脂系カーボン薄膜や、グラファイト等の無機系カーボン薄膜等が挙げられる。
また、本実施形態においては、ニードル電極23は、容器20(後方壁24)に直接固定されているが、これに限定される必要はなく、図8に示されるように、絶縁物で形成された支持体60を介して容器20に固定されてもよい。