このように構成されるイオン源210では、一般に、電界電離電極223がその先端部を容器220の開孔周縁部221rに近接するように容器220内に固定されている。これは、前記イオン源210において、強電界が形成された電界電離電極223の先端部周辺にイオン原料ガスが安定して供給されると共に、電界電離電極223の先端部周辺で形成されたイオンが容器220内のイオン化してないガス分子と衝突して消滅・散乱するのを防ぎ、より強度が大きく且つ指向性の高いイオンビームを得るためである。このように、イオン源210においては、容器220の開孔周縁部221rと電界電離電極223との相対位置、即ち、容器220の開孔周縁部221rに対する電界電離電極223の位置が重要になる。
しかし、前記のイオン源210を製造する際、構造上、容器220の開孔周縁部221rに対する電界電離電極223の正確な位置決めが困難である。これは、電界電離電極223を容器220内に固定するときに、この電界電離電極223を容器220の外部から直接見ることが難しく、そのためこの電界電離電極223の正確な位置を把握するのが困難だからである。
例えば、前記位置決めのときに開孔222から容器220内の電界電離電極223の位置を確認する場合、開孔222が非常に径の小さな貫通孔であるため、この開孔222を通じて容器220の外部から電界電離電極223の位置を正確に把握することは難しい。しかも、電界電離電極223は、先端が非常に鋭く尖っているため接触等によって損傷し易いにもかかわらず容器220の開孔周縁部221rに先端が近接するように位置決めされなければならない。そのため、電界電離電極223の先端を容器220の開孔周縁部221rに接触させることなく容器220の開孔周縁部221rに対する電界電離電極223の位置決めを正確に行うことは非常に困難となる。
そこで、本発明は、容器の開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めを容易に行うことができるイオン源の製造方法、及びこの方法によって製造されたイオン源を提供することを目的とする。
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、微小開孔を有し、内部にイオン原料ガスが供給されるセラミクス製の容器と、イオンビームのビーム軸方向に延びると共に先端が尖り、この先端を前記微小開孔に向け且つ前記容器の微小開孔周縁部と近接するように前記容器内に固定されるタングステン製の電界電離電極と、を備えるイオン源の製造方法であって、前記電界電離電極として、その表面のうちこの電界電離電極が前記容器内に固定されるときにこの容器の微小開孔周縁部と対向する電極側対向部位を含む表面に形成される所定の厚さの犠牲層を有するものを用意する予備工程と、この予備工程で用意した電界電離電極の先端を前記微小開孔に向けた状態で当該電界電離電極をその軸方向先端側に移動させ、前記容器の微小開孔周縁部の少なくとも一部に前記犠牲層の表面を当接させて前記容器の微小開孔周縁部に対する前記電界電離電極の位置決めを行う位置決め工程と、前記位置決め工程で位置決めした容器内の位置に前記電界電離電極を固定する固定工程と、前記固定工程において固定された状態で前記電界電離電極から前記犠牲層を除去する除去工程と、を備え、前記予備工程で用意される電界電離電極の犠牲層は、前記電界電離電極の表面と接する保護層とこの保護層に積層される外層とにより構成され、前記保護層はケイ素酸化物により形成され、前記外層は、前記保護層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して電界電離電極から除去するときよりも前記微小開孔周縁部が溶けることによる前記微小開孔の変形の少ない電極部除去手段により除去できる物質により形成され、前記除去工程では、前記電界電離電極から前記電極部除去手段により前記外層を除去したあと、前記フッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により前記保護層を溶解して除去することを特徴とする。
このように容器内に電界電離電極を固定するときに、その表面に犠牲層が形成された電界電離電極を用意し、その犠牲層が微小開孔周縁部に当接するようにして当該電界電離電極の容器内における位置決めを行うことにより、当該電界電離電極の微小開孔周縁部に対する位置決めを容易且つ確実に行うことができる。
具体的に、位置決め工程で犠牲層が容器の微小開孔周縁部に当接することにより、電界電離電極の位置は、微小開孔周縁部における前記犠牲層の当接した部位に対し、前記電界電離電極表面の電極側対向部位に形成された犠牲層の厚さに相当する間隔をおいた位置に決まる。そして、固定工程において前記位置決めされた電界電離電極が容器内に固定され、除去工程において、前記容器内に固定された状態で犠牲層が除去されることにより、容器の微小開孔周縁部と電界電離電極(電極側対向部位)との間に犠牲層の厚さに相当する間隙が現れる。このようにして、容器の微小開孔周縁部に対し、当該微小開孔周縁部との間に前記間隙が形成されるような位置への電界電離電極の位置決めが容易且つ確実に行われる。
また、犠牲層が保護層と外層とにより構成されているため、除去工程において、前記電極部除去手段により外層を除去したあと保護層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して除去することによって、犠牲層全体をケイ素酸化物で形成してこの犠牲層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して除去する場合に比べて容器の微小開孔周縁部への影響が少なくなる。
具体的に、犠牲層がケイ素酸化物のみからなる場合、この犠牲層を電界電離電極から除去するために当該電界電離電極が固定された状態の容器をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液に浸漬するが、このとき、長時間、フッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液と接触するとセラミクス製の容器の微小開孔周縁部が溶けて微小開孔が変形する。しかし、犠牲層が保護層(ケイ素酸化物)と外層とからなる場合、微小開孔周縁部への影響のより少ない電極部除去手段により外層が除去された後、フッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により犠牲層の一部である保護層のみを溶解して除去すればよいため、容器のフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液との接触時間が短くでき、これにより微小開孔の形状を良好に保つことができる。その結果、当該方法によって製造されたイオン源では当該イオン源からイオンビームを照射するときに容器の微小開孔から噴出するイオン原料ガスの流れが乱れ難くなり照射されるイオンビームが安定する。
しかも、外層と電界電離電極との間に保護層が形成されているためこの保護層により外層と電解電離電極との接触が阻止され、これによりタングステンと接触したときに化学反応をおこすような物質であっても外層として使用でき、その結果、外層を形成する物質として選択できる物質の種類が増える。
また、ケイ素酸化物によって保護層が形成されることにより、前記位置決めにおける犠牲層の表面(外層の表面)の微小開孔周縁部との当接に起因する電界電離電極の損傷が抑制される。即ち、前記位置決めのときに犠牲層が微小開孔周縁部に当接して当該部位から力(抗力)が加わっても、保護層により前記力が電界電離電極に伝わり難くなり、これにより電界電離電極が好適に保護される。
前記予備工程で用意される電界電離電極の犠牲層では、前記保護層の厚さよりも前記外層の厚さが大きいのが好ましい。
このように、犠牲層において、保護層の厚さよりも外層の厚さを大きくすることにより、除去工程において犠牲層を除去する際の容器のフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液との接触時間をより短縮でき、これによって微小開孔の形状をより良好に保つことができる。
前記予備工程は前記電界電離電極に犠牲層を形成する犠牲層形成工程を含み、この犠牲層形成工程は、前記電界電離電極の前記電極側対向部位と前記微小開孔周縁部との間隙の目標寸法よりも小さい所定の厚さを有する保護層を形成する保護層形成工程と、この保護層形成工程で形成された保護層の表面に当該保護層の厚さと合わせた厚さが前記目標寸法に相当する厚さとなるような厚さを有する外層を形成する外層形成工程とを含み、前記位置決め工程では、これら保護層形成工程及び外層形成工程により形成された犠牲層を有する電界電離電極を用いて前記位置決めを行う構成であってもよい。
このように、保護層と外層とを合わせた犠牲層の厚さが前記目標寸法に相当する厚さとなるように保護層及び外層を電界電離電極の電極側対向部位に形成することによって、容器の微小開孔周縁部に対し、当該微小開孔周縁部と前記電極側対向部位との間に目標寸法となる間隙が形成されるような位置への電界電離電極の位置決めが容易に行われる。
しかも、目標寸法が変更された場合でも、所定の厚さの保護層をそのままの状態にし、外層の形成される範囲や層厚を変更することにより、位置決めの際の開孔周縁部からの抗力に対する保護層における電界電離電極の保護能力を確保しつつ、容器の微小開孔周縁部と電界電離電極の電極側対向部位との間の前記間隙を変更された前記目標寸法に容易に調整することができる。
前記予備工程で用意された電界電離電極の犠牲層は、前記位置決め工程での前記電界電離電極の位置決めのときに前記容器の微小開孔周縁部と当該犠牲層の表面における前記電界電離電極の周方向に並ぶ複数の位置で当接するように形成されているのが好ましい。
このように犠牲層が形成されていることによって、電界電離電極が微小開孔の中心寄りの位置に容易に位置決めされる。即ち、犠牲層が容器の微小開孔周縁部と前記周方向に並ぶ複数個所で当接することで、各当接位置における容器の微小開孔周縁部と電界電離電極との対向する部位同士の相対位置が決まる。このとき、犠牲層を除去することで前記各部位同士の間隔が犠牲層の層厚に相当する間隔となり、電界電離電極は、微小開孔周縁部と全周に亘って接しない位置、即ち、微小開孔の中心寄りの位置に位置決めされる。本発明において、周方向に並ぶ複数の位置とは、周方向に連続する無数の位置も含む概念である。例えば、全周に亘って当接していてもよい。
また、前記予備工程で用意された電界電離電極の前記保護層及び前記外層は、薄膜により構成されるのが好ましい。
薄膜の成膜技術(例えば、CVD法やスパッタリング、蒸着、ディップ法等)は種々開発されているため、前記のように保護層及び外層を薄膜によって構成することにより、所望の厚さで且つ所望の範囲に保護層及び外層が形成された電界電離電極を容易に得ることができる。
前記予備工程で用意された電界電離電極には、当該電界電離電極の先端も覆うように少なくとも前記保護層が形成されるのが好ましい。
かかる構成によれば、容器内に電界電離電極を挿入するときや位置決めのときに、電界電離電極先端が容器等に接触しても当該電極先端が保護層により保護されているため、前記電極先端の損傷が防止される。そのため、容器内への電界電離電極の挿入作業や前記位置決め作業が容易になる。
また、前記予備工程で、前記容器として、その微小開孔と対向する位置に前記微小開孔よりも大きな挿入孔を設けたものを用意し、この予備工程で用意された電界電離電極は、前記容器内に固定されたときに当該容器内に位置する部位の基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って少なくとも保護層が形成され、前記位置決め工程において、前記電界電離電極を前記挿入孔から容器内に挿入した後、前記位置決めを行うのが好ましい。
かかる構成によれば、電界電離電極の容器内に挿入される部位の基部側(先端と反対側)の一部を除くほぼ全体が少なくとも保護層に覆われるため、電界電離電極が挿入孔から挿入されるときに、この挿入孔を規定する内周面との接触に起因する当該電界電離電極の損傷等が抑制される。
また、前記予備工程で、前記容器として、その微小開孔周縁部の表面のうち前記電界電離電極が当該容器内に固定されるときにこの電界電離電極の電極側対向部位と対向する開孔側対向部位を含み且つ前記犠牲層と対向する部位に、前記保護層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して電界電離電極から除去するときよりも前記微小開孔周縁部が溶けることによる前記微小開孔の変形の少ない開孔部除去手段により除去できる物質により形成される開孔犠牲層が形成されたものを用意し、前記除去工程では、前記外層が前記電極部除去手段により除去されると共に前記開孔犠牲層が前記開孔部除去手段により除去されたあと、前記保護層がフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解されて除去されてもよい。
かかる構成によれば、電極側対向部と開孔側対向部との間隔を決めるために、電界電離電極に形成された犠牲層だけでなく、微小開孔周縁部に形成された開孔犠牲層も用いて前記間隔を決めることにより、外層と開孔犠牲層との厚さをそれぞれ小さくすることができ、これにより外層や開孔犠牲層内での内部応力によるクラックを防止することが可能となる。
しかも、位置決め工程において電解電離電極の犠牲層が微小開孔周縁部の開孔犠牲層と当接したときに、開孔犠牲層と電界電離電極との間に犠牲層が形成されているためこの犠牲層により開孔犠牲層と電解電離電極との接触が阻止されるため、タングステンと接触したときに化学反応をおこすような物質であっても開孔犠牲層として使用でき、これにより開孔犠牲層を形成する物質として選択できる物質の種類が増える。
開孔犠牲層が形成される場合、前記外層と前記開孔犠牲層とは、同一の物質により構成され、前記除去工程では、前記外層と前記開孔犠牲層とが共通の除去手段により除去されるのがより好ましい。
かかる構成によれば、除去工程において、共通の除去手段によって外層と開孔部犠牲層との両層の除去が可能となり、除去工程を簡素化することができる。
また、上記課題を解消すべく、本発明は、微小開孔を有し、内部にイオン原料ガスが供給されるセラミクス製の容器と、イオンビームのビーム軸方向に延びると共に先端が尖り、この先端を前記微小開孔に向け且つ前記先端を前記容器の微小開孔周縁部と近接するように前記容器内に固定されるタングステン製の電界電離電極と、を備えるイオン源の製造方法であって、前記電界電離電極としてその表面のうちこの電界電離電極が前記容器内に固定されるときにこの容器の微小開孔周縁部と対向する電極側対向部位を含む表面に所定の厚さを有する保護層が形成された電界電離電極を用意すると共に、前記容器としてその微小開孔周縁部の表面のうち前記電界電離電極が当該容器内に固定されるときにこの電界電離電極の電極側対向部位と対向する開孔側対向部位を含み且つ前記保護層と対向する部位に所定の厚さを有する開孔犠牲層が形成された容器を用意する予備工程と、この予備工程で用意した前記電界電離電極の先端を前記微小開孔に向けた状態で前記電界電離電極をその軸方向先端側に移動させ、前記予備工程で用意した容器の微小開孔周縁部に形成された開孔犠牲層の表面の少なくとも一部に前記保護層の表面を当接させて前記容器の微小開孔周縁部に対する前記電界電離電極の位置決めを行う位置決め工程と、前記位置決め工程で位置決めした前記容器内の位置に前記電界電離電極を固定する固定工程と、前記固定工程において固定された状態で前記開孔犠牲層と前記保護層とを除去する除去工程と、を備え、前記予備工程で用意される電界電離電極の保護層は、ケイ素酸化物により形成され、前記開孔犠牲層は、前記保護層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して電界電離電極から除去するときよりも前記微小開孔周縁部が溶けることによる前記微小開孔の変形の少ない開孔部除去手段により除去できる物質により形成され、前記除去工程では、前記微小開孔周縁部から前記開孔部除去手段により開孔犠牲層が除去されたあと、前記電界電離電極から前記フッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により保護層を溶解して除去することを特徴とする。
このように容器内に電界電離電極を固定するときに、その表面に保護層が形成された電界電離電極と、微小開孔周縁部の表面に開孔犠牲層が形成された容器とを用意し、電界電離電極の保護層が微小開孔周縁部の開孔犠牲層と当接するようにして当該電界電離電極の容器内における位置決めを行うことにより、当該電界電離電極の微小開孔周縁部に対する位置決めを容易且つ確実に行うことができる。この場合、電界電離電極の電極側対向部位と微小開孔周縁部の開孔側対向部位との間に、電界電離電極の保護層及び微小開孔周縁部の開孔犠牲層の各層厚を合わせた厚さに相当する間隔が形成されるような位置へ電界電離電極の位置決めが容易且つ確実に行われる。
また、ケイ素酸化物で形成されているのは保護層のみであるため、除去工程において、前記開孔部除去手段により開孔犠牲層を除去したあと、保護層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して除去することにより、保護層及び開孔犠牲層を全てケイ素酸化物で形成してこれら両層をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して除去する場合に比べ、容器のフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液との接触時間が短くなり、容器の微小開孔の形状が良好に保たれる。
しかも、位置決め工程において保護層が開孔犠牲層と当接したときに、開孔犠牲層と電界電離電極との間に保護層が形成されているためこの保護層により開孔犠牲層と電解電離電極との接触が阻止されるため、タングステンと接触したときに化学反応をおこすような物質であっても開孔犠牲層として使用でき、これにより開孔犠牲層を形成する物質として選択できる物質の種類が増える。
また、保護層がケイ素酸化物によって形成されることにより、前記位置決めにおける微小開孔周縁部の開孔犠牲層との当接に起因する電界電離電極の損傷が抑制される。即ち、前記位置決めの際に電界電離電極の保護層が微小開孔周縁部の開孔犠牲層に当接して当該犠牲層から力(抗力)が加わっても、この保護層により前記力が電界電離電極に伝わり難くなる。
また、上記のいずれかの方法によって製造されたイオン源においては、当該イオン源が製造される際、容器の微小開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めが容易に行われるため、製造時間や製造コストの削減を図ることができる。
以上より、本発明によれば、容器の開孔周縁部に対する電界電離電極の位置決めを容易に行うことができるイオン源の製造方法、及びこの方法によって製造されたイオン源を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る電界電離型イオン源(以下、単に「イオン源」と称する。)は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素からなるイオン原料ガスを電界電離し、高輝度のイオンビームを得るためのイオン源である。図1に示されるように、イオン源10は、微小開孔22を有し、内部にイオン原料ガスが充填(供給)される容器20と、この容器20の内部に配置される電界電離電極23と、容器20の前方に配置される引出電極30と、を備える。これら、容器20、電界電離電極23及び引出電極30は、真空容器11内に配設される。また、電界電離電極23と引出電極30とには、印加用電源40が接続される。尚、本実施形態において、照射されるイオンビームの照射方向を前方(又は先端側)とする(図1においては下方向)。
容器20は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素などの常温で気体状態のイオン原料ガスが充填される容器であり、セラミクスにより形成されている。本実施形態では、容器20は、アルミナセラミクスで形成されているが、ジルコニウム系セラミクス等で形成されてもよい。この容器20は、後端が開口する容器本体20aと、この容器本体20aの後端開口をイオン原料ガスが供給される通路120を残して塞ぐ後方壁20bとで構成されている。これら容器本体20aと後方壁20bとにより囲まれる容器20の内部には、イオンビームのビーム軸K方向に沿って延びると共に先端が尖った電界電離電極23が配置される。この電界電離電極23は、先端が微小開孔22に向くように容器20の後方壁20bに取り付けられている。本実施形態において電界電離電極23は、その先端が微小開孔22から容器20の外側へ僅かに突出するように容器20内に配置されている。また、容器20には、イオン原料ガスを当該容器20に供給するための原料ガス供給手段として原料ガス供給管50が接続されている。この原料ガス供給管50の上流側には、容器20に供給するイオン原料ガスの供給量を制御するための供給量制御手段51が設けられている。
具体的に、容器本体20aは、前方が容器先端部21によって塞がれた円筒状に形成されている。容器先端部21は、イオンビームのビーム軸Kと直交する方向に拡がる板状の部位であり、その中央部(ビーム軸Kと交差する位置)に、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスが噴出する微小開孔22が設けられている。
後方壁20bは、供給されるイオン原料ガスが通過可能な貫通孔120が設けられ、この貫通孔120からイオン原料ガスを容器20内に供給可能に原料ガス供給管50が接続されている。この後方壁20bには、前記のように先端が微小開孔22に向くように電界電離電極23が固定されている。具体的に、後方壁20bには微小開孔22と対向する位置、即ち、中央部にビーム軸Kと中心が一致する挿入孔25が形成されている。この挿入孔25は、イオン源10を製造するときに、容器20内に電界電離電極23を配置すべく当該電界電離電極23を挿入するための孔である。具体的に、挿入孔25は、容器20の内部と外部とを連通する貫通孔であり、微小開孔22よりも開孔径が大きい。また、挿入孔25の開孔径は、犠牲膜60(図3(a)及び図3(b)参照)が表面に形成された電界電離電極23が挿通可能な大きさである。
後方壁20bにおける挿入孔25の周縁部(挿入孔周縁部)25rには、先端側部位を内部に挿入した後の電界電離電極23が固着される。この固着の際、後方壁20bも容器20の他の部位(容器本体20a)と同様にアルミナセラミクスで形成されているため、そのままでは金属(タングステン)で形成された電界電離電極23を接着等して固着させることが困難である。そのため、挿入孔25を規定する内面を含む挿入孔周縁部25rには、メタライズ処理が施された固着部位26が形成されている。
微小開孔22は、容器本体20aにおける微小開孔周縁部21rにより囲まれた部位である。具体的に、微小開孔22は、容器20の内部に配設された電界電離電極23の中心軸(イオンビームのビーム軸K)にその中心を一致させ、容器20の内部と外部とを連通するように容器先端部21に設けられている。この微小開孔22は、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスを容器20の外部へ噴出するための孔であり、内部から外部に向かって、即ち、イオンの引き出し方向に向かって先細りに形成されている。具体的に、微小開孔22は、先端側に向かって径が小さくなるテーパ形状に形成されている。
電界電離電極23は、イオン原料ガスを電界電離してイオン化するために、その先端部に強電界を発生させるための電極である。具体的には、電界電離電極23は、タングステンにより形成され、長さが20mm、直径が0.2〜1mmの細線であり、先端部(テーパ部)が先細りのテーパ形状となっている。このテーパ部は、その先端半径が50nmとなるように電解研磨により形成される。
電界電離電極23の先端が僅かに微小開孔22の前方側端部から突出するように微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置、即ち、両者の相対位置が位置決めされている。この電界電離電極23先端の突出量は、微小開孔22から噴出されるイオン原料ガスのガス圧が当該微小開孔22近傍において最も高い位置から僅かに前記ガス圧が低くなった位置(僅かに前方側)に前記先端が位置するような量である。
このように微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置(相対位置)が位置決めされることで、微小開孔22を規定する内周面22aと電界電離電極23の外周面(表面)23aとの間に原料ガス流路Grが形成される。この原料ガス流路Grは、容器20から噴出するイオン原料ガスが流れる流路である。
具体的には、図2にも示されるように、微小開孔22の小径側(容器20の外面側)の開孔径d1が20μm、大径側(容器20の内面側)の開孔径d2が720μm、深さ(容器先端部21の厚み)d3が500μm、ビーム軸Kに対する内周面22aのなす角αが35°である。また、ビーム軸Kに対する電界電離電極23の外周面23aのなす角βが17.5°、容器先端部21の外側面(容器20の先端面)から電界電離電極23の先端までの突出量(突出距離)lが5μmである。
引出電極30は、電界電離電極23の先端部周辺に強電界を発生させ、当該強電界によってイオン原料ガスをイオン化すると同時に、このイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す役目を担う。この引出電極30は、ステンレス製の板状の電極で、イオンビームの通過するビーム通過孔31が中央に設けられている。このように構成される引出電極30は、容器20の前方側に電界電離電極23の先端と対向するように配置されている。具体的に、引出電極30は、容器20の前方側において、中央に設けられたビーム通過孔31の中心が微小開孔22の中心と同一直線上(イオンビームのビーム軸K上)に位置するように配置されている。
印加用電源40は、電界電離電極23と引出電極30との間に電圧を印加するための電源である。この印加用電源40は、直流電源であり、引出電極30に対して電界電離電極23が最高20kVの正電位となるような電圧を加える電源である。この印加用電源40によって電圧が加えられることにより、電界電離電極23の先端部周辺に強電界が形成されると共にこの強電界によって形成されたイオンが電界電離電極23の先端部周辺から引出電極30側に引き寄せられる(引き出される)。
真空容器11は、いわゆる真空チャンバーであり、真空ポンプ等の排気手段12が設けられた排気管13が接続されている。この真空容器11の内部は、イオン源10の作動時において、接続された排気手段12によって内部の空気が排気され、高真空状態に保たれる。
以上のように構成されるイオン源10では、以下のようにしてイオンビームが照射される。
真空容器11内が排気手段12によって真空引きされ、当該真空容器11内が高真空状態(10−6Pa程度)となる。その後、原料ガス供給管50を通じて容器20内にイオン原料ガス(本実施形態においては、ヘリウム)が供給される。このとき、容器20内の圧力が100Pa程度となるように供給量制御手段51によってイオン原料ガスの容器20内への供給量が調整される。
容器20内に供給されたイオン原料ガスは、容器20の微小開孔22から真空容器11内に噴出するときに電界電離電極23の先端部周辺を通過する。言い換えると、電界電離電極23の先端部にイオン原料ガスが供給される。このとき、電界電離電極23と引出電極30との間には印加用電源40によって電圧が加えられ電界電離電極23の先端部周辺に強電界が形成される。これにより、イオン原料ガスが容器20の微小開孔22から真空容器11内に噴出するときに前記強電界中を通過し、その際、電界電離現象によってイオン化される。
詳細には、原料ガス流路Grは、微小開孔22の前方側に向かって徐々に狭くなり、前方側端部で最も狭くなっている。そのため、イオン原料ガスのガス圧は、微小開孔22の前方側端部で高く(微小開孔22近傍においては最も高く)、本実施形態では10Pa程度に維持される。即ち、微小開孔22の前方側端部で、ガス分子の密度が高く(微小開孔22近傍においては最も高く)維持される。電界電離電極23先端が微小開孔22前方側端部から僅かにしか突出していないため、強電界が形成された電界電離電極23の先端部周辺にも、この高圧の(即ち、ガス分子の密度の高くなった)イオン原料ガスが供給されることになり、電界電離電極23の先端部周辺に形成された強電界中で多数のイオンが形成される。
このイオン化されたイオン原料ガスが引出電極30によってビーム照射方向に引き出される。このとき、容器20の外側が高真空状態であるため、微小開孔22から噴出したイオン化されたイオン原料ガス(イオン)以外のイオン原料ガスが一気に拡散する。その結果、微小開孔22の前方側では、引き出されたイオンビームを構成するイオンが雰囲気ガス等と衝突する確率が低い(イオン消滅確率が低い)高真空領域となり、引き出されたイオンの消滅及び引き出されたイオンのエネルギー低下が抑制され、高輝度なイオンビームが得られる。
このようにして得られたイオンビームは、引出電極30の中央に設けられたビーム通過孔31を通過して照射される。
次に、このイオン源10の製造方法について図3(a)乃至図4(c)も参照しつつ説明する。
先ず、電界電離電極23が形成されると共に容器20が形成され、この形成された容器20内に電界電離電極23が配置される。
具体的には、線状のタングステン(W)部材が電解研磨され、前記のような先端が尖った細長い針状の電界電離電極23が形成される。また、アルミナセラミクスの粉末等の原料をプレス等によって成形し、この成形したものを焼結することによりアルミナセラミクス製の容器20が形成される。このとき、容器20は、容器本体20aと後方壁20bとが別体として形成され、形成後(焼結後)に結合されているが、これに限定される必要はなく、容器20が一体成形されてもよい。
後方壁20bに設けられた挿入孔25の周縁部にメタライズ処理が施され、固着部位26が形成される。
次に、電界電離電極23に犠牲膜(薄膜)60が形成される。この犠牲膜60は、電界電離電極23の表面(周面)23aに形成される保護膜(保護層)62とこの保護膜62に積層される外膜(外層)64とにより形成される。
保護膜62は、犠牲膜60を微小開孔周縁部21rに当接させることにより容器20内での電界電離電極23の位置決めを行うときに、当該電界電離電極23を保護すると共に、外膜64が電界電離電極23と接触するのを阻止するための膜である。この保護膜62は、本実施形態では、二酸化ケイ素(SiO2)により形成されている。尚、保護膜62は、ケイ素酸化物(例えば、二酸化ケイ素や酸化ケイ素(SiO))により形成されていればよく、特に、二酸化ケイ素により形成されるのが好ましい。
一方、外膜64は、微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との相対位置を調整するための膜である。この外膜64は、保護膜62をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して電界電離電極23から除去するときよりも微小開孔周縁部21rへの影響の少ない除去手段によって除去できる物質により形成されている。本実施形態では、外膜は、シリコン(Si)により形成されている。このシリコンによる外膜64は、フッ素プラズマによるエッチングにより除去することができる。
具体的に、先ず、電界電離電極23の表面23aに保護膜62が形成される。この保護膜62は、電界電離電極23に対し、容器20内に固定されたときに当該容器20内に位置する部位の基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って形成される(図3(b)参照)。
また、保護膜62は、均一な厚さ(膜厚)の膜であり、容器20内での電界電離電極23の位置決めのときに微小開孔周縁部21rから受ける力から電界電離電極23を保護できる膜厚を有する。詳細には、この膜厚は、容器20内での電界電離電極23の位置決めにおいて犠牲膜60(外膜64)の表面が微小開孔周縁部21rに当接したときに(図3(b)及び図4(a)参照)、この微小開孔周縁部21rから犠牲膜60が受ける力(抗力)を当該保護膜62により電界電離電極23に前記力が伝わらない若しくは極僅かにしか伝わらないようにできる厚さである。本実施形態では、保護膜62の膜厚は1μmであるが、これに限定されず、10nm〜10μmであればよく、100nm〜数μmが好ましい。
この保護膜62は、電界電離電極23の表面23aに対してプラズマCVD法によって形成(成膜)されている。具体的に、プラズマCVD法において、電界電離電極23の先端をプラズマに垂直に立てて成膜する方法や、電界電離電極23を前記プラズマと平行に配置して表面と裏面とを成膜する方法、または電界電離電極23の中心軸を回転中心にして回転させながら成膜する方法が考えられる。このようにして保護膜62が電界電離電極23の表面に形成されることにより均一な膜厚が得られる。このような方法により形成されることで、所望の厚さで且つ所望の範囲に保護膜62が形成された電界電離電極23を容易に得ることができる。尚、保護膜62の形成方法は、上記の方法に限定される必要はなく、電界電離電極23の表面に対して均一な厚さの薄膜を形成できると共に所望の範囲且つ所望の厚さで薄膜を形成できる方法であれば、蒸着やディップ法等の他の成膜方法であってもよい。
次に、電界電離電極23に形成された保護膜62の表面に外膜64が積層される。即ち、外膜64は、電界電離電極23の表面と接触しないように形成される。そのため、電界電離電極23(タングステン)と外膜64(シリコン)との表面反応が阻止される。詳細には、タングステン(電界電離電極23)とシリコン(外膜64)とが接触すると、その接触面において表面反応(化学反応)おこり、電界電離電極23の表面にタングステンシリサイド(WSi)が形成されるが、タングステン及びシリコンの何れとも接触により化学反応をおこさない二酸化ケイ素による保護膜62が電界電離電極23と外膜64との間に形成されることにより、前記タングステンシリサイドの形成が阻止される。
この外膜64は、容器20内での電界電離電極23の位置決めのときに保護膜62と共に犠牲膜60を形成し、容器20の微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との位置関係(相対位置)を制御するための膜であり、均一な厚さ(膜厚)を有する。外膜64は、本実施形態では、電界電離電極23の先端側部位に形成される(図4(a)参照)。この外膜64の膜厚は、保護膜62の膜厚及び微小開孔周縁部21rに形成される開孔犠牲膜66(図4(a)参照)の膜厚と合わせた厚さが電界電離電極23を容器20内に固定したときの電界電離電極23の先端部と微小開孔周縁部21rとの互いに対向する部位間の目標とする間隔(目標寸法)に相当する厚さである。本実施形態では、外膜64の厚さは3μmであるが、これに限定されず、0.1μm〜9μmであればよい。この外膜64も保護膜62同様に、プラズマCVD法により製膜される。外膜64の形成方法は、保護膜62の形成方法と同様に、電界電離電極23の表面に対して均一な厚さの薄膜を形成できると共に所望の範囲且つ所望の厚さで薄膜を形成できる方法であれば、プラズマCVD法でなくてもよく、蒸着やディップ法等の他の成膜方法であってもよい。
尚、本実施形態において、保護膜62が電界電離電極23の前記基部側端部近傍から先端までの全範囲に亘って形成され、外膜64が電界電離電極23の先端側部位に形成されているが、各膜62,64が形成される範囲は、この範囲に限定されない。即ち、保護膜62は、電界電離電極23の表面のうちこの電界電離電極23が容器20内に固定されるときにこの容器20の微小開孔周縁部21rと対向する部位を含む表面に形成されていればよい。また、外膜64は、電界電離電極23に形成された保護膜62の表面のうち電界電離電極23が容器20内に固定されるときにこの容器20の微小開孔周縁部21rと対向する部位を含む表面に形成されていればよい。このようにして保護膜62と外膜64とからなる犠牲膜60が少なくとも前記対向する部位に形成されることにより、位置決めの際、この犠牲膜60が容器20の微小開孔周縁部21rに当接することで、容器20の微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置決めが容易になると共に、この位置決めのときに犠牲膜60に加わる微小開孔周縁部21rからの抗力が電解電離電極23に伝わるのを保護膜62により阻止することで電界電離電極23の前記抗力に起因する損傷が防止される。
一方、容器20の微小開孔周縁部21rにも開孔犠牲膜66が形成される。この開孔犠牲膜66は、微小開孔周縁部21rの表面のうち電界電離電極23が当該容器20内に固定されるときにこの電界電離電極23と対向する部位を含み且つ電界電離電極23の犠牲膜60(保護膜62又は外膜64)と対向する部位に形成される。即ち、開孔犠牲膜66は、微小開孔周縁部21rの表面のうち電界電離電極23と対向する部位を含み且つ電界電離電極23と直接接しない部位に形成される。本実施形態では、外膜64と同様にシリコン(Si)によって微小開孔周縁部21rにおける微小開孔22の全周に亘って開孔犠牲膜66が形成されている。この開孔犠牲膜66の厚さは、3μmである。尚、開孔犠牲膜66の膜厚はこれに限定されず、0.1μm〜9μmであればよい。
以上のような犠牲膜60が形成された電界電離電極23が容器20の後方壁20bに形成された挿入孔25から容器20内に挿入される。この挿入孔25は、微小開孔22と対向し、且つ、ビーム軸Kと中心が一致するように後方壁20b中央部に設けられている。そのため、電界電離電極23は、その中心軸がビーム軸Kと一致し、その姿勢を保ったままビーム軸Kに沿って先端側に移動することにより挿入孔25から容器20内部に挿入される(図3(a)参照)。
挿入孔25から挿入された電界電離電極23は、さらに、犠牲膜60の表面が容器20の微小開孔周縁部21rの開孔犠牲膜66の表面と当接するまでビーム軸Kに沿って移動する(図3(b)参照)。この状態では、犠牲膜60の外周面と開孔犠牲膜66の内周面とがビーム軸Kと直交する断面において同心円状態となるため、犠牲膜60の表面が微小開孔周縁部21rの開孔犠牲膜66の表面と当接したときには、犠牲膜60は、図5(a)にも示すように、電界電離電極23の周方向全周に亘って開孔犠牲膜66と当接する。
このように犠牲膜60の表面が容器20の開孔犠牲膜66の表面に当接することで、容器20の微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置決めが行われる。即ち、犠牲膜60が開孔犠牲膜66に当接することにより、電界電離電極23の位置は、容器20の微小開孔周縁部21rに対して犠牲膜60及び開孔犠牲膜66の各膜厚を合計した厚さに相当する間隔をおいた位置に決まる。本実施形態においては、電界電離電極23は、微小開孔周縁部21rの全周に亘って犠牲膜60及び開孔犠牲膜66の各層厚を合計した厚さに相当する間隔をおいた位置、即ち、微小開孔22の中心寄りの位置に位置決めされる。
電界電離電極23が挿入孔25から容器20内に挿入されるときに、挿入孔25を規定する内壁面や容器20の内周面と接触する場合がある。このとき、最も接触し易い電界電離電極23の先端部には保護膜62に加え、この保護膜62に積層された外膜64が形成されているため、これら両膜62,64により電界電離電極23は保護される。また、電界電離電極23の後方側(基部側)には外膜64が形成されていないが、電界電離電極23の容器20内部に挿入される部位のほぼ全範囲に保護膜62が形成されているため、電界電離電極23の後方側部位もこの保護膜62により保護される。そのため、容器20内への電界電離電極23の挿入作業や位置決め作業が容易になる。
尚、本実施形態における位置決めとは、容器20の微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との対向する部位同士の間隔だけでなく、ビーム軸K方向における両者21r,23の相対位置の位置決めも含む。また、本実施形態において、犠牲膜60は、開孔犠牲膜66と全周に亘って当接しているが、これに限定される必要はない。即ち、犠牲膜60は、容器20の微小開孔周縁部21rと直接当接してもよい(図5(b)及び図5(c)参照)。また、犠牲膜60は、容器20の微小開孔周縁部21r1の一部とその表面が当接してもよく(図5(b)参照)、また、微小開孔周縁部21r2と電界電離電極23の周方向に並ぶ複数の位置(図5(c)においては4箇所)で当接してもよい。犠牲膜60がこのように形成されても、各当接位置における容器20の微小開孔周縁部21r1,21r2と電界電離電極23との対向する部位同士の相対位置が位置決めされる。
位置決めの際に、外膜64の膜厚(層厚)を変更するだけで、容器20の微小開孔周縁部21rの当接した部位と電界電離電極23との間隔の調整を容易に行うことができると共に、微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整も行うことができる。即ち、電界電離電極23は、その先端部(テーパ部)において径が徐々に小さくなる略円錐形に形成されているため、前記間隔を変更することで、ビーム軸K方向に沿って前後に移動する。具体的に、図6(a)乃至図6(c)に示されるように、容器20の微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置を前方側に移動させるためには、外膜64の膜厚を小さくして前記間隔を狭くすればよい(図6(b)から図6(a))。また、容器20の微小開孔周縁部21rに対する前記先端のビーム軸K方向の位置を後方側に移動させるためには、外膜64の膜厚を大きくして前記間隔を広くすればよい(図6(b)から図6(c))。
尚、図6(a)乃至図6(c)では、外膜64の層厚のみを変更することにより電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整を行っているが、本実施形態のように開孔犠牲膜66が形成されている場合には、開孔犠牲膜66の膜厚を変更することによって電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整を行ってもよい。即ち、開孔犠牲膜66の膜厚を小さくすることにより電界電離電極23先端を前方側に移動させることができ、開孔犠牲膜66の膜厚を大きくすることにより、電界電離電極23先端を後方側に移動させることができる。また、外膜64及び開孔犠牲膜66の両膜厚をそれぞれ変更することにより、電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整を行ってもよい。このような電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置の調整において、保護膜62の厚さは、一定に保つのが好ましい。即ち、保護膜62は、位置決めのときの犠牲膜60の微小開孔周縁部21r又は開孔犠牲膜66との当接による抗力に起因する損傷から電界電離電極23を保護する最小限の膜厚となるように形成されている。そのため、保護膜62の膜厚を電界電離電極23先端のビーム軸K方向の位置合わせのために小さくすると、位置合わせのときに、電界電離電極23において前記抗力に起因する損傷が生じる場合がある。また、保護膜62の膜厚を大きくすると、除去するときに容器20をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液に浸漬する時間が長くなり、微小開孔周縁部21rがフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液に接触する時間が長くなり、微小開孔22の形状を良好に保つことができない。
このようにして、容器20の微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置が位置決めされた後、この位置で電界電離電極23が容器20に固定される。詳細には、電界電離電極23における容器20の後方壁20bの挿入孔25を挿通している部位が固着部位26にハンダhによって固着(ハンダ付け)される。このとき、固着部位26は、メタライズ処理が施されているため、電界電離電極23を当該固着部位26へ容易にハンダ付けすることができる。尚、電界電離電極23の固着部位26への固着手段としては、ハンダ付けに限定される必要はなく、接着材による接着やろう付け等であってもよい。
電界電離電極23が容器20に固定されると、次に、犠牲膜60及び開孔犠牲膜66の除去が行われる。
具体的に、内部にプラズマを発生させるチャンバー内に容器20が導入され、当該チャンバー内にフッ素プラズマが発生させられる。そうすると電界電離電極23に形成された外膜64と微小開孔周縁部21rに形成された開孔犠牲膜66とがフッ素プラズマに曝され、このフッ素プラズマによりエッチングされ除去される(図4(a)から図4(b))。このとき、容器20は、セラミクスで形成されているため、フッ素プラズマに曝されても影響が少ない。また、保護膜62を構成する二酸化ケイ素は、フッ素プラズマとの接触によっては実質的に除去されないため、容器20からは外膜64及び開孔犠牲膜66だけが除去され、電界電離電極23に保護膜62が残った状態となる(図4(b)参照)。この状態の容器20がフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液(本実施形態では、5%の希フッ酸)に浸漬される。これにより電界電離電極23の表面23aに形成された保護膜62がフッ酸と接触して溶解される(図4(b)から図4(c))。このとき、保護膜62が除去された後も暫く電界電離電極23がフッ酸と接触する状態を保つことにより、当該電界電離電極23の表面23aの汚れ等もフッ酸により溶解され、電界電離電極23の表面23aの洗浄も行うことができる。
犠牲膜60(保護膜62及び外膜64)及び開孔犠牲膜66が除去されることにより、容器20の微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との間に犠牲膜60及び開孔犠牲膜66の各膜厚を合わせた膜厚に相当する間隙が現れる(図4(c)参照)。このようにして、容器20の微小開孔周縁部21rに対し、当該微小開孔周縁部21rとの間に所望幅の間隙が形成されるような位置への電界電離電極23の位置決めが行われる。
電界電離電極23の犠牲膜60及び微小開孔周縁部21rの開孔犠牲膜66が除去された後の容器20は、真空容器11内に配置される。この真空容器11には、排気手段12が設けられた排気管13が接続される。そして、容器20の前方側に電界電離電極23先端と対向するように引出電極30が配置され、当該引出電極30と電界電離電極23とに印加用電源40が接続される。また、容器20には、真空容器11内に引き込まれた原料ガス供給管50が接続され、イオン源10が完成する。
以上のように、容器20内に電界電離電極23を固定するときにその表面に犠牲膜60が形成された電界電離電極23を用意し、その犠牲膜60が微小開孔周縁部21rに当接するようにして当該電界電離電極23の容器20内における位置決めを行うことにより、当該電界電離電極23の微小開孔周縁部21rに対する位置決めを容易且つ確実に行うことができる。
具体的に、位置決めの際、犠牲膜60が容器20の微小開孔周縁部21rに当接することにより、電界電離電極23の位置は、微小開孔周縁部21rにおける犠牲膜60の当接した部位に対し、電界電離電極23の表面23aに形成された犠牲膜60の厚さに相当する間隔をおいた位置に決まる。そして、この位置決めされた電界電離電極23が容器20内に固定され、この固定された状態で犠牲膜60が除去されることにより、容器20の微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との間に犠牲膜60の厚さに相当する間隙が現れる。このようにして、容器20の微小開孔周縁部21rに対し、当該微小開孔周縁部21rとの間に前記間隙が形成されるような位置への電界電離電極23の位置決めが容易且つ確実に行われる。
また、犠牲膜60が保護膜62と外膜64とにより構成されているため、フッ素プラズマでのエッチングにより外膜64を除去したあと保護膜62をフッ酸により溶解して除去することによって、犠牲膜60全体を二酸化ケイ素で形成してこの犠牲膜60をフッ酸により溶解して除去する場合に比べて容器20の微小開孔周縁部21rへの影響が少なくなる。
具体的に、犠牲膜60が二酸化ケイ素のみからなる場合、この犠牲膜60を電界電離電極23から除去するために当該電界電離電極23が固定された状態の容器20をフッ酸に浸漬するが、このとき、長時間、フッ酸と接触するとセラミクス製の容器20の微小開孔周縁部21rが溶けて微小開孔22が変形する。しかし、犠牲膜60が保護膜(二酸化ケイ素)62と外膜(シリコン)64とからなる場合、微小開孔周縁部21rへの影響のより少ないフッ素プラズマでのエッチングにより外膜(シリコン)64が除去された後、フッ酸により犠牲膜60の一部である保護膜(二酸化ケイ素)62のみを溶解して除去すればよいため、容器20のフッ酸との接触時間を短くでき、これにより微小開孔22の形状を良好に保つことができる。その結果、当該方法によって製造されたイオン源10では当該イオン源10からイオンビームを照射するときに容器20の微小開孔22から噴出するイオン原料ガスの流れが乱れ難くなり照射されるイオンビームが安定する。
しかも、外膜64と電界電離電極23との間に保護膜62が形成されているためこの保護膜62により外膜64と電解電離電極23との接触が阻止され、これによりタングステンと接触したときに化学反応をおこすような物質であっても外膜64として使用でき、その結果、外膜64を形成する物質として選択できる物質の種類が増える。例えば、シリコンは、タングステンと接触すると化学反応を起こし、また電界電離電極23の表面23aに形成された場合にはその除去のときに電界電離電極23までエッチングされるため犠牲膜60として単独での使用は適さない。しかし、上記実施形態のようにシリコンを外膜64として用いた場合であっても、電界電離電極23との間に保護膜62を形成することにより電界電離電極23を良好な状態に保ちつつ犠牲膜60の一部として当該シリコンを使用できる。
犠牲膜60において、保護膜62の厚さよりも外膜64の厚さを大きくすることにより、犠牲膜60を除去するときに、容器20のフッ酸との接触時間をより短縮でき、これによって微小開孔22の形状をより良好に保つことができる。
容器20内での電界電離電極23の位置決めのときに、犠牲膜60の表面(外膜64の表面)が開孔犠牲膜66(開孔犠牲膜66が形成されてない場合は微小開孔周縁部21r)と当該犠牲膜60の表面における電界電離電極23の周方向に並ぶ複数の位置で当接することによって、電界電離電極23が微小開孔22の中心寄りの位置に容易に位置決めされる。即ち、犠牲膜60の外周面が開孔犠牲膜66の内周面と周方向に並ぶ複数個所で当接することで、各当接位置における容器20の微小開孔周縁部21rと電界電離電極23との対向する部位同士の相対位置が決まる。このとき、犠牲膜60を除去することで前記各部位同士の間隔が犠牲膜60の膜厚と開孔犠牲膜66の膜厚とを合わせた膜厚に相当する間隔となり、電界電離電極23は、微小開孔周縁部21rと全周に亘って接しない位置、即ち、微小開孔22の中心寄りの位置に位置決めされる。
電界電離電極23と微小開孔周縁部21rとの間隔を決めるために、電界電離電極23に形成された犠牲膜60だけでなく、微小開孔周縁部21rに形成された開孔犠牲膜66も用いて前記間隔を決めることにより、開孔犠牲膜66を用いない場合の外膜に比べ、外膜64と開孔犠牲膜66との厚さをそれぞれ小さくすることができ、これにより外膜64や開孔犠牲膜66内での内部応力によるクラックを防止することが可能となる。
しかも、開孔犠牲膜66を構成するシリコンと電界電離電極23を構成するタングステンとが接触すると化学反応をおこしタングステンシリサイドを形成するが、微小開孔周縁部21rにおける電界電離電極23の犠牲膜60と対向する部位にのみ開孔犠牲膜66が形成されることにより、位置決めのときの開孔犠牲膜66と電界電離電極23との接触が阻止される。
外膜64と開孔犠牲膜66とは、共にシリコンにより構成されているため、フッ素プラズマに曝すことで両膜64,66を除去することができ、外膜64と開孔犠牲膜66とを別々の手段によって除去しなければならない場合に比べて、除去工程の簡素化を図ることができる。
尚、本発明のイオン源10及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
容器20の微小開孔22の開孔縁形状は限定されない。例えば、本実施形態では、微小開孔22の形状は円形であるが、四角であってもよく(図5(c)参照)、多角形であってもよい。また、電界電離電極23の先端部は、微小開孔22の中心と異なる位置であってもよい。前記のように円形以外の開孔形状や微小開孔22の中心から径方向にずれた位置に電界電離電極23の先端部が位置しても、犠牲膜60(又は/及び開孔犠牲膜66)の厚さを電界電離電極23の周方向において変化させることにより、前記同様、容易且つ確実に位置決めすることができる。
即ち、犠牲膜60等のビーム軸Kと直交する方向の断面における外周縁(輪郭)形状が前記開孔縁形状に沿った形状(四角や多角形等)となるように当該犠牲膜60等を形成することにより、前記同様に、犠牲膜60等の表面を周方向全周に亘って微小開孔周縁部21r(又は開孔犠牲膜66)に当接させることにより、四角等の前記開孔縁形状の微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置決めを行うことができる。また、犠牲膜60等の前記断面における外周縁が円形に形成されても、電界電離電極23がこの円に対して偏心した位置となるように犠牲膜60が形成されることで、前記同様に当該犠牲膜60表面を周方向全周に亘って微小開孔周縁部21rに当接させることで、微小開孔22の径方向において偏心した位置となるように電界電離電極23の位置決めができる。さらに、厚さが一定の犠牲膜60であっても、図5(b)に示されるように、当該犠牲膜60表面が微小開孔周縁部21rと全周に亘って接するのではなく、一部が当接するように電界電離電極23を偏心させることにより、微小開孔22に対して径方向に偏心した位置に電界電離電極23の位置決めを容易に行うことができる。
また、図7(a)に示されるように、イオン源10を製造するときに、微小開孔周縁部21rに開孔犠牲膜が形成されていない容器20内に、犠牲膜60が形成された電界電離電極23を挿入して位置決めを行うようにしてもよい。また、図7(b)に示されるように、微小開孔周縁部21rに開孔犠牲膜66が形成された容器20内に、保護膜62のみが形成された電界電離電極23を挿入して位置決めを行うようにしてもよい。これらのようにしても、電界電離電極23と微小開孔周縁部21rとの間隔が犠牲膜60の厚さ、又は保護膜62の厚さと開孔犠牲膜66の厚さとを合わせた厚さに相当する間隔に形成される。従って、外膜64又は開孔犠牲膜66の厚さを調整することにより、微小開孔周縁部21rに対する電界電離電極23の位置決めを行うことができる。また、図7(a)及び図7(b)の何れの場合も、二酸化ケイ素で形成されているのは保護膜62のみであるため、フッ素プラズマにより外膜64又は開孔犠牲膜66を除去したあと、保護膜62をフッ酸により溶解して除去することにより、保護膜62と外膜64又は開孔犠牲膜66とを全て二酸化ケイ素で形成してこれら両膜をフッ酸により溶解して除去する場合に比べ、容器20のフッ酸との接触時間が短くなり、容器20の微小開孔22の形状が良好に保たれる。しかも、シリコンとタングステンとが接触すると化学反応をおこすが、何れの場合も、位置決めのときにタングステン製の電界電離電極23とシリコンで形成された外膜64又は開孔犠牲膜66との間に二酸化ケイ素で形成された保護膜62が位置するため、タングステンとシリコンとの接触が阻止される。また、何れの場合も保護膜62が二酸化ケイ素によって形成されることにより、位置決めでの電界電離電極23の微小開孔周縁部21rとの当接により受ける抗力に起因する電界電離電極23の損傷が抑制される。即ち、位置決めの際に電界電離電極23の保護膜62により前記力が電界電離電極23に伝わり難くなる。
また、本実施形態においては、外膜64は、シリコンにより形成されているが、これに限定されない。即ち、保護膜62(ケイ素酸化物)をフッ酸及び/又はフッ化アンモニウム水溶液により溶解して電界電離電極23から除去するときよりも微小開孔周縁部21rへの影響の少ない除去手段により除去できる物質であればよく、例えば、アルミ、フォトレジスト、CVD等により形成した高分子膜等で形成されてもよい。尚、外膜64が前記物質で形成された場合、アルミは希塩酸で除去し、フォトレジストは有機溶剤で除去し、高分子膜は酸素プラズマ若しくは剥離液などの有機溶剤で除去する。
また、本実施形態においては、容器20の前方側は、平板状の容器先端部21によって構成されているが、図8に示されるイオン源100のように、前方側に向かって縮径したテーパ形状の先端部21Nで構成されていてもよい。このように形成されても、前記実施形態のように電界電離電極23に形成された犠牲膜60の表面を容器20の微小開孔周縁部21r3に当接させることで、容易に両者の相対位置を位置決めすることができる。この場合も、犠牲膜等の膜厚を変更することで、前記実施形態同様、微小開孔周縁部21r3に対する電界電離電極23のビーム軸K方向に沿った前後位置を調整、又は、微小開孔周縁部21r3と電界電離電極23との間隙幅(原料ガス流路幅)を調整することができる。
また、本実施形態においては、電界電離電極23は、容器20(後方壁20b)に直接固定されているが、これに限定される必要はなく、図9に示されるように、絶縁物で形成された支持体80を介して容器20に固定されてもよい。