以下図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図面の記載において同一あるいは類似の部分には同一あるいは類似な符号を付している。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係わる運転者感覚調整装置は、運転者によるステアリングの転舵操作量を検出する転舵検出部26と、運転者が着座するシート1であって車両の前後方向に対して垂直方向又はヨー方向へ変位する可動部位21を有するシート1と、可動部位21の変位量を転舵検出部26が検出した転舵操作量に基づいて定める制御部25と、可動部位21を駆動する駆動部3と、車両の速度を検出する車速検出部27とを備える。
可動部位21は、車両に発生するヨーレイト及び求心加速度の方向と同一方向に変位する。
制御部25は、転舵検出部26が検出した転舵操作量に対する可動部位21の変位量を定めるゲインマップ33を備える。制御部25は、ゲインマップ33に従って可動部位21の変位量を制御する、具体的には、駆動部3へ可動部位21を駆動するための指令を送信する。なお、ゲインマップ33は、車速検出部27が検出した速度に応じて、変位量と転舵操作量との関係が異なる複数のゲインマップからなることが望ましい。
制御部25は、車速検出部27が検出した速度に応じてゲインマップ33を切り替える。
図2は、図1のシート1の具体的な構成を示す。図2(a)はシート1の外観、図2(b)はシート1の内部構造をそれぞれ示す。
図2(a)に示すように、シート1は、運転者が着座した時に運転者の背中に接するシートバック11(シート背面)と、シートバック11の両側に配置された左右1対のサイドサポート2と、シートバック11の上方に配置されたヘッドレストとを備える。サイドサポート2は、運転者の両脇に沿うように運転者の側に傾斜している。
図2(b)に示すように、シート1は、シート1の骨格をなすシートフレーム8と、サイドサポート2を支える左右1対のサイドサポートフレーム21a、21bと、サイドサポートフレーム21a、21bを同時に駆動するモータ3とを備える。
なお、図1の駆動部位21は、図2(a)の左右1対のサイドサポート2と、図2(b)のサイドサポートフレーム21a、21bとに相当し、図1の駆動部3はモータ3に相当する。
サイドサポートフレーム21a、21bは、それぞれ上下1対の回転支持部7を介してシートフレーム8に支持され、車両の前後方向に対して垂直方向又はヨー方向へ変位する。ここでは、左右1対のサイドサポートフレーム21a、21bを回転可能に支持する場合を示す。サイドサポートフレーム21a、21bはクッションで覆われて図2(a)のサイドサポート2を成す。
モータ3の回転軸は、第1乃至第3のリンク4〜6及び回転支持部7を介してサイドサポートフレーム21a、21bに結合されている。第1乃至第3のリンク4〜6は略平行リンク構造を成す。モータ3が回転動作することによりサイドサポートフレーム21a、21bは車両の前後方向に対して垂直方向又はヨー方向へ変位する。つまり、モータ3の回転動作がサイドサポートフレーム21a、21bの揺動運動として伝えられる。これに伴い、図2(a)のサイドサポート2が同様な方向へ変位する。モータ3そのものはシートフレーム8に固定されている。
なお、図2(a)のヘッドレストはベッドレスト取り付け部10を介してシートフレーム8に接続されている。また、シートフレーム8は方形状の形状を有し、その内側に所定の間隔をおいてクッション支持スプリング9a、9bが配置されている。
図3(a)に示すように、車両が旋回していない、つまり運転者によるステアリングの転舵操作が行われていない時(通常時)、左右のサイドサポートフレーム21a、21b(サイドサポート2a、2b)は車両の前後方向軸に対して左右対称な位置に保持される。モータ3は回転動作をしておらず、第1乃至第3のリンク4〜6も動かない。
一方、図3(b)に示すように、車両が右方向へ旋回する、つまり運転者によるステアリングの右回転の転舵操作が行われる時(右旋回時)、モータ3を図3(b)に示す方向にある角度だけ回転させる。このモータ3の回転は第1乃至第3のリンク4〜6を通じて左右のサイドサポートフレーム21a、21bに伝達される。そして、サイドサポートフレーム21a、21b(サイドサポート2a、2b)は、図3(a)の位置(初期位置)から右旋回時の車両のヨー方向と同方向に回転角αだけ回転する。なお、第1の実施の形態において、左右のサイドサポートフレーム21a、21bの回転角αは互いに等しい。
ところで、特許文献1では、サイドサポートを稼動させ、旋回時に横Gに対抗して体を支える技術が示されている。しかし、サイドサポートを、運転者の上体を締め付ける方向、すなわち左右のサイドサポートをそれぞれ逆方向にヨー回転させている。したがって、特許文献1の技術は、旋回と同時に左右のサイドサポートフレーム21a、21b(サイドサポート2a、2b)を同方向に駆動する本発明の第1の実施の形態とは明らかに異なる。
図4(a)は、図1の運転者感覚調整装置の全体構成を具体的に示した図であり、特に、制御部25の構成を詳細に示したものである。コントロールユニット25(制御部)は、ステアリングエンコーダ26(転舵検出部)が検出した転舵操作量を読み込むステアリングエンコーダ読取部31と、車輪速センサ27(車速検出部)が検出した車両の速度を読み込む車速パルス読み取り部32と、ゲインマップ33と、モータ3を回転動作させるための駆動指令値を送信するモータドライブ回路34とを備える。ステアリングエンコーダ26はステアリングホイールに設けられている。コントロールユニット25には、シート1に設けたモータ3の回転角を読み取るエンコーダもしくはポテンショメータからの信号が入力される。
ステアリングエンコーダ26からの信号をカウントして読み取り転舵角φに変換する。その後、転舵角φにゲインを掛けてモータ3の回転角指令値を求める。さらに回転角指令値をモータドライブ回路34に入力してモータ3へ駆動電圧/電流を付与する。モータドライブ回路34の前段にはモータ回転角の現在値をフィードバックして位置制御を行う。
図4(b)に示すように、コントロールユニット25は、例えば、車速が低速である時(約30km/h)、中速である時(約50km/h)、高速である時(約80km/h)で異なるゲインマップ33を備える。コントロールユニット25は、ゲインマップ33を用いて、転舵角に対してモータ3の回転角指令値を決定する。
ここでは、転舵角φに対するサイドサポート角度変位αのゲインマップ33を示した。しかし、コントロールユニット25は、実際にはさらに第1乃至第3のリンク4〜6の寸法を考慮したモータ3の回転角度変位に対するサイドサポート角度変位αのゲインを乗じたマップを備えることが望ましい。
約50km/h未満を目安とした低速時、ゲインマップ33は基本的に線形特性とし、0km/hの状態から車速が上がるに従ってゲインが高くなる。また、ステアリング転舵角φが90°に達したところでサイドサポート2a、2bの角度変位αを飽和させる。
50km/h以上の中・高速時、ゲインマップ33は、ステアリングを切り始めた領域においてサイドサポート2a、2bを大きく動かし、転舵角φが増加するに従って徐々にサイドサポート2a、2bの角度変位αを飽和させる非線形特性を備える。低速時と同様に、車速が上がるに従ってステアリング転舵角φに対するサイドサポート2a、2bの角度変位αを大きくする。なお、図4(b)では省略したが、約80km/h以上の高速道路を走行するような車速域では車速が上がってもゲインがさらに増加することのないように上限値を設ける。この点については後述する。
このように、コントロールユニット25は、転舵操作量φが一定である場合、車両の速度が増加するに従ってサイドサポート2a、2bの変位量αが増加するようにゲインマップ33を切り替える。そして、ゲインマップ33は、車速が予め設定された車速閾値(例えば50km/h)未満である時に線形特性を有し、車速が車速閾値(50km/h)以上である時に非線形特性を有する。
図5(a)は車両が直進しているときの運転者12の上体を上方から見た図であり、点Aは直進時にステアリングホイール最上部となる点を示す。図5(b)に示すように、直進時に点Aの位置にあったステアリング上の1点が点Bまで移動するまで、運転者12が右回転方向に転舵操作を行う。このとき、図5(c)に示すように、運転者12のアイポイントと点Bを結んだ直線と車両前後方向軸との為す角をθとする。このとき、左右のサイドサポート2a、2bの変位量αは、0<α≦θの関係を満たす。換言すれば、サイドサポート2a、2bの変位量としてのヨー回転角αは、直進時にステアリングホイール最上部となる点Aと運転者12のアイポイントを結ぶ直線が車両前後方向と為す角度θに対して、0<α≦θとなるように設定される。ただし、転舵操作量としての転舵角度φが±90°以内である時に限る。
なぜなら、旋回時に運転者12が自らの上体を捻るときには、ほぼこの範囲内の角度で上体の姿勢変化をするためであり、ゲインをこの範囲とすることによって、運転者12が自らの上体を捻る動きに追従してサイドサポート2a、2bが動き、気持ちの良い旋回が可能となる。
図5(d)は上記の効果を検証した実験結果を示す。横軸は転舵角(ステアリングホイール転舵角φ)に対するサイドサポート2a、2bの角度変位αを数値で表したものである。この数値そのものはステアリングのギア比によって変化するため、参考値として示しているに過ぎない。なお、ゲインが0であることはサイドサポートを全く駆動しない場合を示す。運転感覚、特に転舵操作を開始した直後の運転のしやすさに着目し、ゲイン0の状態における感覚を基準の6.0点として、ゲインを変化させたときの主観的評価点を縦軸にプロットしている。
ゲイン0が即ちα=0に相当し、ゲイン0.12の点がα≒θに相当する。被験者A〜Cにより評価を行った結果、0<α<θであって図5(d)中の点線で囲った部分において評価点が最大となることが確認された。
実際の車両ではステアリングホイールの径やステアリングギア比は車種によって異なるが、便宜上はよく用いられる径(=330〜380mm程度)のステアリングホイール、ギア比が13〜20程度を想定して運転者12のアイポイントと点Bを結んだ直線と車両前後方向軸との為す角θの値を決定すれば良い。また、同様にステアリングホイールに対する運転者12のアイポイントの位置、すなわちシート1の前後スライド量によってもゲインの上限値が変化する。しかし、必ずしも厳密にこの関係を保つためにシート1のスライド量を検知してサイドサポート2a、2bの揺動角を調整する必要は無く、標準的な体格の運転者12を想定して角θの大きさを決定しておけば良い。
これらステアリングホイールやステアリングギア比およびアイポイント位置に対して厳密にサイドサポート2a、2bの動きを制御する必要がない理由は、サイドサポート2a、2bの表面には一般に柔らかいクッションを設けるため、厳密な位置制御はそれほど意味を持たないからである。
このように、転舵操作量としての転舵角度φが±90°以内である時、サイドサポート2a、2bの変位量としてのヨー回転角αは、直進時にステアリングホイール最上部となる点Aと運転者12のアイポイントを結ぶ直線が車両前後方向と為す角度θに対して、0<α≦θとなるように設定される。
図6は、ゲインマップの他の例を示すグラフであり、ゲイン最大値の考え方を示したものである。図6(a)は図4(b)に示したように、90°以上転舵した領域でサイドサポートの角度変位を飽和させる例を示す。角度変位αのゲインは、いずれもα=θとなる点線より低い。また、90°以上転舵した時には、上記考え方に則って考えるとθは減少していくこととなるが、この90°以上転舵した領域においては、ゲインの上限値を飽和させる。
図6(b)は90°以上転舵した領域でサイドサポート2a、2bの角度変位αを外挿して補完した場合を示す。なお、90°以下のα=θを示す曲線と連続となるようにしてゲイン上限値を外挿して補完しても構わない。
図6(c)に示すように、サイドサポート2a、2bは柔らかいクッションで覆われているため、過渡的な転舵においてはここで示したゲインの上限値(α=θ)をわずかに超えることも許容する。なぜなら、クッションがあることによって、動的にサイドサポート2a、2bを駆動した場合、シートクッション表面での変位は必ずしも指令値どおりに変位するものではないためである。つまり、過渡的な転舵を行う際に、シート1内部の変位においてはここで示しているゲインの上限値を瞬間的に超えてもよく、最終的に運転者12に知覚される圧覚もしくは触覚、力覚などの感覚上でα≦θとなるようにすれば良いのである。
このように、転舵角度φが±90°を超える時、ヨー回転角αは、飽和する、もしくは転舵角度φが±90°までの角度θの変化と連続するように外挿された仮想的な角度θの変化特性に対して、0<α≦θとなるように設定される。
[変形例]
これまでの第1の実施の形態の説明では、サイドサポートフレーム21a、21bがシートフレーム8に対してヨー方向に回転変位する例を示してきた。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図7に示すように、サイドサポートフレーム21a、21bがシートフレーム8に対して車両の前後方向に対して垂直な方向に並行に変位しても構わない。
図7(a)は、変形例に係わるシート1の具体的な内部構造を示す。図2(b)の内部構造と比べて異なる点を説明し、同じ部分については説明を省略する。左右のサイドサポートフレーム21a、21bの両端がそれぞれスライドレール36a、36bに接続されることにより、左右のサイドサポートフレーム21a、21bの相対的な位置が固定されている。スライドレール36a、36bは、リニアガイドのスライドレール部分を兼ねており、リニアガイドのスライダ37a〜37dに相当する部分がシートフレーム8に固定されている。これにより、左右のサイドサポートフレーム21a、21bは一体となってシートフレーム8に対して横方向に変位できるように支持される。さらにスライドレール36a、36bの背面にはラック歯を設ける。このラック歯に噛み合うピニオンギアをシートフレーム8に対して固定されたモータ3で駆動する。これにより、サイドサポートフレーム21a、21bの左右移動が可能となる。
図7(b)に示すように、サイドサポートフレーム21a、21bは、直進時には運転者12やシートバック11に対して左右対称に位置し、図7(c)に示すように、旋回時、ここでは右旋回時には車両の前後方向に対して横方向に平行移動する。上記の方法によってもサイドサポート2a、2bが回転変位するのと同様のヨーレイト感を運転者12に付与することが可能である。
図7(a)の機構を採用する場合、ゲインの上限値は例えば次のように考えればよい。図8(a)は、シートフレーム8とサイドサポートフレーム21bのみを模式的に示す。図8(b)は、この状態からサイドサポートフレーム21bが横方向に平行移動した状態を示す。このとき、サイドサポートフレーム21bの先端の横方向変位量(距離)を「d」とする。ゲインの上限値を考える場合には、サイドサポートフレーム21b先端の横方向変位量dが、図8(c)のように回転変位で得られた場合と仮想して考える。即ち、仮想的なサイドサポートフレーム21bの回転角αが前述した0<α≦θの関係を満たすように横方向変位量dを設定すればよい。
ここではサイドサポートフレーム21bの先端における変位距離を代表値として考えているが、これ以外にもサイドサポート2a、2bに対する運転者12の上体の接触荷重中心を代表点として考え、この点の横方向変位を考えても良い。シートクッションの弾性が存在するため、運転者12の感覚に対してはある程度のロバスト性がある。よって、いずれの考え方を用いても、発明の第1の実施の形態による効果はそれほど大きく異なることはない。
また、特許文献2には、次に示すようなシート構造が開示されている。即ち、シートバックをアッパシートバックとロアシートバックの上下2つに分割して、互いに回転可能に支持することによって、乗員が着座したまま振り返るときに、その動作に追従してシートバックが縦軸周り(つまり略ヨー方向)に後方を回動する。このようなシート構造を利用し、かつシートバックの回転をモータなどの電気的手段もしくはステアリングホイールと連結されたワイヤで引っ張るような機械的手段のいずれかを用いて転舵に連動して動かすことによって、本発明を適用した実施の形態が実現可能である。この場合においても、運転者の転舵操作量に対するシートバックの回転角ゲインや回転角ゲインの最大値の考え方は前述のとおりとすれば良い。
さらに、フォークリフトなどの産業機械において、車両後退時に容易に後方確認を行う目的でシート全体が車体に対して回転する構造に対しても本発明を適用することが出来る。具体的には、シート全体の回転量を前述のように電気的手段あるいは機械的手段によって運転者の転舵操作と連動させ、回転変位のゲインを前述のように設定すればよい。
なお、図19は、非特許文献1の69頁から抜粋したものであり、横軸は横Gの時定数であり、縦軸はヨーレイトの時定数を示している。非特許文献1によれば、ヨーレイトの時定数≒横Gの時定数となり、かつ時定数が0.05s〜0.10s程度となる領域が運転しやすい領域とされている。従来、転舵に対するヨーレイトと横Gの時定数の関係を上記のような領域に収めるべくサスペンションのチューニングが行われてきている。
[実験例]
図9(a)は後輪の操舵を任意にオン/オフ切り替えできるようにした4輪操舵車を用いてレーンチェンジ走行試験を行った時のレーンチェンジ条件を示し、図9(b)は4輪操舵を行っているときの運転者の注視点の挙動を観察した結果を示し、図9(c)は2輪操舵を行っているときの運転者の注視点の挙動を観察した結果を示す。
図9(a)に示したように、車両は、車両位置PC1から、PC2、PC3を経てパイロン39とパイロン40の間を通過するレーンチェンジを行う。このレーンチェンジ条件において、車両位置PC1から車両位置PC2に至るまでの間、運転者はレーンチェンジのための転舵操作を開始する。このとき、運転者は自らの上体を旋回方向内側へ傾斜させると同時に、注視点を無限遠方からコーナーのクリッピングポイント周辺に移動させるために上体をひねって旋回方向内側を正視するように自らの姿勢を変化させる。一般に、このような運転シーンでは、前輪のみ操舵する通常の車両に対して運転しやすいと感じることが多い。これは、操舵初期に横Gとヨーレイトの発生位相が略一致して、運転者は車両の向きが速やかに変化したと感じることが大きな理由である。
さらにこの条件においてレーンチェンジ開始後、車両位置PC3に到達したときの運転者の挙動として例えばアイマークレコーダを用いて記録される注視点の挙動は調べた。4輪操舵の場合には図9(c)に示すようにパイロン39に注視点が集中するが、前輪のみ2輪操舵の場合には、レーンチェンジの車速条件によっては図9(b)に示すように注視点がばらつく現象が確認される。
このとき、被験者に運転中にどこを見ていたかを主観的に答えさせると、「パイロン39を見ている」というコメントが得られる。しかし実際には、注視点を分析するアイマークレコーダを着用して走行した場合のデータを分析すると、注視点が被験者の意識どおりとはならずにばらついている。これは自分の思い通りに車両が動いていないと感じてしまい、その結果として人間の上体が不安定となっている状態であると考えられる。このような現象が起こる場合、注視点が乱れる以外にも、上体の姿勢(特に車体に対する頭部の位置)やハンドル操作の再現性が低くなってしまう現象が、発明者らの実験により確認されている。
これに対して、図10に示すように、車両の運動は、タイヤのコーナリングパワーCp、車両の質量M、慣性モーメントIzなどの各特性を変数とした運動方程式で表現することができる。この考えをブロック線図の形式で示したものが、図10下段に車両として示した部分にあたる。ただしここでは概要を説明するのみであるためブロック線図の中間部分や、タイヤのコーナリングパワーの詳細な取り扱いについては省略する。
例えば前後タイヤの等価コーナリングパワーの差などの車両諸元に依存して、車両はアンダステア及びオーバステアなどの特性を示す。この特性によっては転舵操作を行ったとき、横Gに対してヨーレイトの遅れ42が発生することがある。図10中では単に「遅れ42」として示した。このような特性を持つ車両に人間が操舵操作を与えると、人間には横Gに対してヨーレイトが遅れて伝わる。図10ではこの車両のヨーレイトのことを「実ヨーレイト」として表記した。
これに対して、本発明の第1の実施の形態に係わる運転者感覚調整装置に該当する部分は図10の上段に示したシート駆動部分21である。操舵に対して車両よりも慣性が小さい、つまり時定数が小さく、応答性が良いシートをヨー方向に駆動することによって、運転者に遅れの無いヨーレイト感を付与することができる。図10においてはこれを「付与ヨーレイト感」と表記した。運転者12が感じるヨーレイトは、「実ヨーレイト」と「付与ヨーレイト感」の和となる。シート駆動部分21が車両の「実ヨーレイト」に対して「付与ヨーレイト感」を加える。これにより、本来車両が持つヨーレイトと横Gの位相差特性を補償し、運転者の感覚上はヨーレイトと横Gが操舵に対してほぼ同時に発生したと感じさせることができる。
[効果]
以上説明したように本発明の第1の実施の形態では、運転者12によるステアリングの転舵操作量を検出する転舵検出部26と、運転者12が着座するシート1であって車両の前後方向に対して垂直方向又はヨー方向へ変位する可動部位21を有するシート1と、可動部位21の変位量(α、d)を転舵操作量φに基づいて定める制御部25とを備える運転者感覚調整装置を示した。この運転者感覚調整装置によれば、シート1の可動部位21が運転者12の転舵操作に応じて変位するため、運転者12の意思を反映したヨーレイト感の付与が可能となる<請求項1の効果>。
可動部位21は、運転者12の転舵操作に応じて、車両に発生するヨーレイト及び求心加速度の方向と同一方向(車両の旋回方向と同方向)に変位する。これにより、旋回時に遅れのないヨーレイト感を運転者に付与することができる<請求項2の効果>。
運転者感覚調整装置は、可動部位21を駆動する駆動部3を更に有し、制御部25は、転舵操作量に対する可動部位21の変位量を定めるゲインマップ33にしたがって、駆動部3へ可動部位21を駆動するための指令を送信する。転舵操作に対するシート1変位のゲインを、マップ形式で与えるため、例えば運転条件の変化に対して、常に運転者12に適切なシート1変位を提示して適切なヨーレイト感を付与することができる<請求項3の効果>。
運転者感覚調整装置は、車両の速度を検出する車速検出部27を更に有し、制御部25は、速度に応じてゲインマップ33を切り替える。車速に応じてゲインを変化させるようにすることで、低速から高速へと車速が変化して車両の運動特性が変化したりする場合においても常に適切なヨーレイト感を付与することができる<請求項4の効果>。
車速が高くなるに従って、転舵に対するシート1変位のゲインの最適値は高くなる傾向にあることが発明者らの実験によって確認されている。そこで、制御部25は、転舵操作量が一定である場合、速度が増加するに従って可動部位21の変位量が増加するようにゲインマップ33を切り替える。これにより、この特性を実現することができる<請求項5の効果>。
ゲインマップ33は、車速が予め設定された車速閾値未満である時に線形特性を有し、車速が車速閾値以上である時に非線形特性を有する。つまり、車速が予め設定された閾値よりも高くなったときに、転舵に対するシート1変位のゲインを非線形特性とした。これにより、例えば転舵初期にシート1を大きく変位させることができるため、ゲインの最大値を大きくしなくても、シート1の機械的可動範囲を大きく取らなくても、運転者に適切なヨーレイト感を与えることができるようになる<請求項6の効果>。
転舵操作量としての転舵角度φが±90°以内である時、可動部位21の変位量としてのヨー回転角αは、直進時にステアリングホイール最上部となる点と運転者のアイポイントを結ぶ直線が車両前後方向と為す角度θに対して、0<α≦θとなるように設定される。これにより、旋回時に運転者12が自らの上体を捻ってコーナ内側を見ようとする行動に伴う、運転者の上体に生じる横変位もしくは角度変位に対してシート1変位が追従する。したがって、運転者12に適切なヨーレイト感を付与することができ、運転者が気持ち良いと感じることができる車両を提供できる<請求項7の効果>。
0<α≦θと設定するのは転舵角±90°までの範囲に対応する内容であった。しかし、転舵角度が±90°を超える時、ヨー回転角αは、飽和する、もしくは転舵角度が±90°までの角度θの変化と連続するように外挿された仮想的な角度θの変化特性に対して、0<α≦θとなるように設定される。つまり、シート1の変位を飽和させるかもしくは±90°以内におけるシート1変位特性と連続する特性を外挿してシート1変位をさせる。これにより、更に±90°以上の転舵に対しても運転者が気持ち良いと感じることが出来る車両を提供できる<請求項8の効果>。
可動部位としてシート背面11の両側に配置された左右1対のサイドサポート2a、2bを選び、サイドサポート2a、2bをシート1の他の部分に対してヨー方向もしくは車体横方向に変位させる。シート1のサイドサポート2a、2bを可動式として、この部分の変位をコントロールするものであるため、例えば4輪操舵などの方式で横Gとヨーレイトの位相関係を改善する装置に比較して、大幅に簡潔かつ低いコストのシステムで運転感覚の向上が期待できる<請求項9の効果>。
可動部位として少なくともシート背面11の一部を選び、少なくともシート背面11の一部をシート1の他の部分に対してヨー方向もしくは車体横方向に変位させる。少なくともシート背面11の一部を可動式として、この部分の変位をコントロールするものであるため、例えば4輪操舵などの方式で横Gとヨーレイトの位相関係を改善する装置に比較して、大幅に簡潔かつ低いコストのシステムで運転感覚の向上が期待できる<請求項10の効果>。
可動部位としてシート1全体を選び、シート1全体を車体に対してヨー方向に変位させる。シート1全体を可動式として、この部分の変位をコントロールするものであるため、例えば4輪操舵などの方式で横Gとヨーレイトの位相関係を改善する装置に比較して、大幅に簡潔かつ低いコストのシステムで運転感覚の向上が期待できる<請求項11の効果>。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、旋回内側に位置するサイドサポートと旋回外側に位置するサイドサポートとの変位量、変位速度、或いは変位を開始する時期を異ならせる場合、またシートバック11に対するサイドサポートの変位軸を傾斜させる場合について説明する。
第2の実施の形態に係わる運転者感覚調整装置の全体構成は、図1の構成と同じであり、図示及び説明を省略する。
図11はシート1の具体的な内部構造を示す。図2(b)との相違点ついて説明し、同一部分については説明を省略する。シート1は、2つのモータ3a、3bを備える。サイドサポート21aは、第1乃至第3のリンク4a〜6aを介してモータ3aに接続されている。サイドサポート21bは、第1乃至第3のリンク4b〜6bを介してモータ3bに接続されている。つまり、左右一対のサイドサポート21a、21bは、異なるモータ3a、3bにより駆動される。モータ3aの回転角がサイドサポートフレーム21aの揺動運動として伝えられ、モータ3bの回転角がサイドサポートフレーム21bの揺動運動として伝えられる。
図12(a)に示すように、車両が旋回していない、つまり運転者によるステアリングの転舵操作が行われていない時(通常時)、左右のサイドサポートフレーム21a、21b(サイドサポート2a、2b)は車両の前後方向軸に対して左右対称な位置に保持される。モータ3a、3bは回転動作をしておらず、第1乃至第3のリンク4a〜6a、4b〜6bも動かない。
一方、図12(b)に示すように、車両が右方向へ旋回する、つまり運転者によるステアリングの右回転の転舵操作が行われる時(右旋回時)、モータ3a、3bを図12(b)に示す方向にある角度だけそれぞれ回転させる。モータ3a、3bの回転は第1乃至第3のリンク4a〜6a、4b〜6bを通じて左右のサイドサポートフレーム21a、21bにそれぞれ伝達される。そして、サイドサポートフレーム21a(サイドサポート2a)は、図12(a)の位置(初期位置)から右旋回時の車両のヨー方向と同方向に回転角θinだけ回転する。一方、サイドサポートフレーム21b(サイドサポート2b)は、図12(a)の位置(初期位置)から右旋回時の車両のヨー方向と同方向に回転角θoutだけ回転する。このように、第2の実施の形態において、左右のサイドサポートフレーム21a、21bの回転角は互いに異なる。更に、旋回内側に位置するサイドサポート2aの変位量(回転角θin)は、旋回外側に位置するサイドサポート2bの変位量(回転角θout)よりも大きく設定される。
なお、ここではサイドサポート(サイドサポートフレーム)の変位量(回転角)を例にとり説明したが、変位量の代わりにサイドサポート(サイドサポートフレーム)の変位速度を左右異ならせても構わない。例えば、旋回内側に位置するサイドサポート2aの変位速度を、旋回外側に位置するサイドサポート2bの変位速度よりも大きく設定しても構わない。
図13(a)は、第2の実施の形態に係わる運転者感覚調整装置の全体構成を具体的に示した図であり、特に、制御部25の構成を詳細に示したものである。コントロールユニット25(制御部)は、ステアリングエンコーダ26(転舵検出部)が検出した転舵操作量を読み込むステアリングエンコーダ読取部31と、車輪速センサ27(車速検出部)が検出した車両の速度を読み込む車速パルス読み取り部32と、右側のモータ3aを駆動するための右側ゲインマップ33aと、左側のモータ3bを駆動するための左側ゲインマップ33bと、モータ3aを回転動作させるための駆動指令値を送信する右側モータドライブ回路34aと、モータ3bを回転動作させるための駆動指令値を送信する左側モータドライブ回路34bとを備える。
ステアリングエンコーダ26からの信号をカウントして読み取り転舵角φに変換する。その後、転舵角φに右側ゲイン及び左側ゲインを掛けてモータ3a、3bの回転角指令値をそれぞれ求める。さらに左右のモータ回転角指令値を右側モータドライブ回路34a及び左側モータドライブ回路34bに入力してモータ3a、3bへ異なる駆動電圧/電流をそれぞれ付与する。
図13(b)に示すように、コントロールユニット25は、例えば、車速が低速である時(約30km/h)、中速である時(約50km/h)で異なるゲインマップ33を備える。なおここでは、左側サイドサポートフレーム21bのゲイン特性について示す。また、ステアリング転舵角φの正負によりゲインが異なる。なぜなら、ステアリングの転舵方向により旋回内側と外側が入れ替わるからである。コントロールユニット25は、右側ゲインマップ33a及び左側ゲインマップ33bを用いて、転舵角φに対してモータ3の回転角指令値を決定する。
ステアリングの転舵角φは右転舵で正の方向とし、サイドサポート角度変位αの方向は、シート上方から見て、初期位置より時計回り方向への回転を正の方向とした。このように各角度の正負の方向を定めると、左側サイドサポートフレーム21bについては左側ゲインマップ33bの第一象現が旋回外側のサイドサポートフレームとなる場合を示し、第三象現が旋回内側のサイドサポートフレームとなる場合を示すことになる。
このとき、外側サイドサポート回転変位角θoutが内側サイドサポート回転角θinよりも小さくなるため、第一象現のマップ傾きβを、第三象現のマップ傾きγより小さくなるように設定する。発明者らが行った実験により、このβとγの関係はγ≒1.2βとなるようにするのが最適であることが判っている。
ゲインマップ33は約50km/h未満を目安とした低速時にはゲインは基本的に線形特性とし、車速が上がるに従ってゲインが高くなるようにする。また、ステアリング舵角が90°に達したところでサイドサポートフレームの角度変位θを飽和させる特性を持たせる。
ここでは、左側サイドサポートフレーム21bを駆動するための左側ゲインマップ33bについて示したが、右側サイドサポートフレーム21aを駆動するための右側ゲインマップ33aも、サイドサポートの回転方向を、シート上方から見て反時計回り方向を正に取ることにより、図13(b)に示したマップの例と同じものを用いることが出来る。
[変形例]
図13(a)の運転者感覚調整装置に対して、左右のサイドサポートフレームの変位開始時期を異ならせてもよい。例えば、図14(a)に示すように、運転者感覚調整装置は、左右のゲインマップ33a、33bの後段に1次遅れフィルタ52a、52bを更に備える。1次遅れフィルタ52a、52bを通過した信号に対して、現在のモータ回転角をフィードバックさせる。さらに、運転者感覚調整装置は、ステアリングの転舵方向を判別するブロック(転舵方向判別部51)を備える。左右のゲインマップ33a、3bは、図14(b)に示したように原点に対して対称(β=γ)となるようなゲイン特性を備える。
転舵方向判別部51は、ステアリング転舵方向を判別し、その結果を1次遅れフィルタ52a、52bへ送信する。旋回外側方向となるサイドサポートフレームのモータドライブ回路に対して、旋回外側方向となる1次遅れフィルタを選択的に有効にする。つまり、旋回内側に位置するサイドサポートが変位を開始する時期を、旋回外側に位置するサイドサポートが変位を開始する時期よりも早める。これにより、転舵初期においては、既に説明したようにθout<θinの関係を結果的に得ることができる。つまり、図14(b)に示すような単純な対称型のゲインマップを用いても左右の1次遅れフィルタを使い分けることで、θout<θinの関係を得ることができる。よって、シート制御プログラムの容量を低減できる。
変形例では、1次遅れフィルタ52a、52bを用いたが、これ以外にもむだ時間フィルタや2次遅れフィルタを用いてもほぼ同じ効果が得られる。つまり旋回外側方向のサイドサポート変位が、旋回内側方向のサイドサポート変位よりも位相遅れを持つようなフィルタであればフィルタ形式を問うものではない。
なお、図15(a)に示すようにシートフレーム8の上下2箇所にフレーム屈曲部53a、53bを設けても構わない。図15(b)に示すようにサイドサポートフレーム21a、21bの揺動回転軸55に、シートバック面54に対する後傾角λを持たせる。つまり、サイドサポートフレーム21a、21bが変位する時の中心軸55は、シート1のトルソ角54よりも車両の後方へ傾斜している。なおここでは、左右のサイドサポートフレーム21a、21bは第1乃至第3のリンク4〜6によって結合されており、1つのモータ3で駆動されている。しかし、これに限ることは無く、図11に示したように、左右で異なるモータを用いても構わない。
図16(a)に示すように、図15(a)のシートを駆動するコントロールユニット25は、図4(a)と同一である。図16(b)のゲインマップ33において、縦軸はサイドサポート回転角として示している。しかし、サイドサポートフレーム21a、21bの揺動軸が3次元的に傾斜していることから、サイドサポート回転角が定義しづらい。したがって、サイドサポート回転角をモータ回転角と置き換えても良い。なお、図16(b)のゲインマップ33は原点に対称な特性を備える。つまり、転舵操作に対して、左右のサイドサポート2a、2bはほぼ同量だけ同方向に変位する。
ここで、運転者12の転舵操作に伴う上体の姿勢変化に着目する。図17(a)の上面図で見ると、運転者12は旋回時に上体をひねる動作をする。第1及び第2の実施の形態では、この上体のひねりに対してサイドサポート2a、2bが追従していく。一方、運転者12は同時に上体を旋回内側方向へ向かって、図17(b)のように上体を倒しこむ動作をする。この上体の倒しこみ動作は、腰部を中心に行われるため、上体の横方向への変位は、腰から肩に向かうに従って大きくなる。
したがって、図15(b)のシートバック面54とサイドサポート揺動軸55が平行な場合、図17(a)の上体のひねり動作にサイドサポート2a、2bを追従させることが出来ても、図17(b)の上体の倒し込み動作にサイドサポート2a、2bを追従させることが出来ない。結果的に肩に近い領域で旋回内側のサイドサポート2a、2bと上体が強く当たる現象が発生することがある。
そこで、図15(a)及び図15(b)に示すようにサイドサポート揺動軸55をシートバック面54に対して後傾させることで、シート外側方向にサイドサポートフレーム21a、21bを回転変位させたときにサイドサポート2a、2bの上方に行くほど横方向の変位が大きくなる特性が得られる。
つまり、左右のサイドサポートフレーム21a、21bを駆動した場合には、旋回内側方向に相当するサイドサポート2aが、サイドサポート2a上方に行くほど横変位が大きくなる特性が得られるため、上体のひねりと同時に、上体の倒しこみが発生してもサイドサポート2aと乗員の肩に近い領域が強く当たるようなことが起こらない。したがって、図18で後述するようなサイドサポート2a、2bの荷重減少が妨げられない。このため、1つのモータ3で左右のサイドサポートフレーム21a、21bを駆動しても、既に説明したような運転感覚改善効果が得られ、システムのコストを低く抑えることができる。
[実験例]
図9(a)乃至図9(c)に示したレーンチェンジ走行実験を、第3の実施の形態に係わる運転者感覚調整装置を搭載した車両で行った。このとき、車両は後輪操舵をオフ状態として2輪操舵の状態である。この結果、後輪操舵がオフの状態であっても、図9(c)に示した注視点分布に近い分布を得ることが確認された。実験に用いた4輪操舵車両は、後輪操舵オフの状態では横Gに対してヨーレイトが遅れて発生する状態であったが、シートを駆動することで付与ヨーレイト感が付与され、後輪操舵オフであっても運転者の感覚上は4輪操舵と同等となったことになる。このとき同時に、複数の被験者に対して主観的な評価を求めると、「気持ちの良い運転ができる」などの運転感覚改善効果を示すコメントが得られている。
図18(a)はシートのサイドサポート2a、2bを運転者の転舵操作に応じてヨー方向に変位させた場合を模式的に示したものである。ステアリング22の転舵に対して、左右のサイドサポート2a、2bを共に旋回内側方向に適切なゲインで変位させると、前述したように感覚上はヨーレイトと横Gが同期した運転感覚が得られる。この適切なゲインは、実験的に決定することができ、個人差によらず最適ゲインの値はほぼ一定値を取る。ここでは仮にこの最適ゲイン(転舵角φ/サイドサポート揺動角θ)をxとおく。第1の実施の形態では、旋回外側サイドサポート揺動角θoutと、旋回内側サイドサポート揺動角θinは等しい。つまり、転舵角φに対して、θout=θin=xφの関係にある。
図18(b)に示すように、サイドサポートの駆動方法をθout<θinとすることにより、運転感覚改善効果が更に向上する。実験に際しては、旋回外側のサイドサポート駆動ゲインをy、旋回内側のサイドサポート駆動ゲインをzとして、(y+z)/2=xかつy<zとなるように設定した。つまり、左右のサイドサポートの総ストローク量は図18(a)と同一として、転舵角φに対する左右のサイドサポート駆動量に差をつけた状態である。左右のサイドサポートを共にゲインxで駆動した場合に比較して被験者の主観評価は明らかに向上する。
この現象を、左右サイドサポートの荷重値に着目してさらに詳しく観察した。図9(a)に示したのと同様のレーンチェンジコースにおいて50km/hで走行したときの左右サイドサポートの荷重を測定した。直進状態⇒車両位置PC1⇒車両位置PC3に至るまでの荷重測定結果を図18(c)に示す。ここでは、旋回内側方向のサイドサポート2aに加わる荷重を示す。図18(c)の縦軸に示されているのは、転舵角φ、及び直進時を0としたときのサイドサポート荷重であり、単位は[°]または[N]である。
直進状態から車両位置PC1近傍に至り(時刻2.0s近傍)、ステアリングの転舵操作を行った場合、転舵角φとほぼ同期して、旋回内側、旋回外側双方のサイドサポート荷重が減少する。第1の実施の形態のように左右のサイドサポートを共に転舵角φに対して、θout=θin=αφの関係で駆動した場合、制御を行わない場合に対して転舵角φに対するサイドサポートの荷重減少の位相遅れが低減する。また、同時にサイドサポートの荷重減少量が増大する。さらに、第2の実施の形態のようにθout=yφ<θin=zφの関係でサイドサポートを駆動した場合には、θout=θin=xφの関係の場合に比較して、転舵角φに対するサイドサポートの荷重減少の位相は変化せず、サイドサポートの荷重減少量が増大する(部位57)。
被験者の主観的評価の結果と、サイドサポート荷重変動測定結果の対応から、転舵初期の転舵角に対するサイドサポートの荷重減少の位相遅れと荷重減少量の2点がヨーレイト感覚増強に大きく関わっていると考えられる。第2の実施の形態では、サイドサポートの総変位量は第1の実施の形態と同一のままで左右の変位量に差をつける。これにより、転舵初期のサイドサポート荷重減少量を約20%程度大きくすることができ、主観評価が向上する効果が得られたと考えられる。
[効果]
以上説明したように本発明の第2の実施の形態で、制御部25は、旋回内側に位置するサイドサポートの変位量θinもしくは移動速度を、旋回外側に位置するサイドサポートの変位量θoutもしくは移動速度よりも大きく設定する。つまり、θout<θinの関係を与えるため第1の実施の形態に対してさらにヨーレイト感覚の増強ができ、気持ちの良い運転感覚を運転者に与えることができる<請求項12の効果>。
制御部25は、旋回内側に位置するサイドサポートが変位を開始する時期を、旋回外側に位置するサイドサポートが変位を開始する時期よりも早く設定する。つまり、旋回内側のサイドサポートの動作タイミングを、旋回外側のサイドサポートの動作タイミングよりも早く設定することにより、左右のサイドサポートの駆動ゲインによらず、転舵初期においてθout<θinの関係を与えることができる<請求項13の効果>。
サイドサポートが変位する時の中心軸(サイドサポート揺動軸55)は、シート1のトルソ角(シートバック面54)よりも車両の後方へ傾斜している。サイドサポートの揺動軸55が、シートバック面54に対して後傾しているため、旋回内側のサイドサポート2a、2bが揺動したときに、サイドサポート2a、2b上部がシート1に対して大きく横に変位することにより、機械的構造のみで上記の効果が実現できる<請求項14の効果>。
上記のように、本発明は、2つの実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ限定されるものである。