以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、本発明を達成するに至る原理と実験結果について説明する。
車両が旋回する際には、運転者は旋回に伴う遠心力に抗して自らの上体を旋回内側方向へ傾斜させるのが一般的な運転者の挙動である。
特に、車両が直進状態から旋回状態へ移行する過渡的な旋回時には、運転者は旋回に伴い自らの上体を旋回方向内側へ傾斜させると同時に、注視点を無限遠方からコーナのクリッピングポイント周辺に移動させるために上体をひねって旋回方向内側を正視するように自らの姿勢を変化させる。
即ち、このような状況においては、運転者には遠心力に対抗して身体を保持するタスクと、上体を捻って注視点を移動させるタスクが同時に発生していることになる。この2つの動きは外力に対して体を支えながら積極的に体を動かさなければならないという相反する動きであるため、運転負荷が高い状態にある。
特に、比較的操舵速度の速いレーンチェンジのような走行シーンでは、運転負荷が過大となって運転姿勢が乱れるために、結果的に注視点を見失うことがあることが発明者らの実験によりわかってきた。図1は、このときの様子を示す説明図である。
図1に示したレーンチェンジ条件において、車両位置(1)から車両位置(2)に至るまでの間に運転者は、レーンチェンジのための操舵操作を開始する。このとき、前述のように運転者は自らの上体を旋回方向内側へ傾斜させると同時に、注視点を無限遠方からコーナのクリッピングポイント周辺に移動させるために上体をひねって旋回方向内側を正視するように自らの姿勢を変化させる。
図2は、シート背面の体圧中心の移動を示す特性図、及び運転者の注視点の変化を示す説明図である。上記した運転者の姿勢の変化に伴い、シートと上体の接触面の面圧分布が変化する。ここで、通常の車両(ノーマルとして表記した)では、図2(c)に示したように接触面の荷重中心は側方かつ上方へ変化する現象が起こる場合がある(現象が起こる、起こらないは車両の特性によって若干異なる)。
このように、上体のシートとの接触面の荷重中心が上方へ移動する現象が起こる車両では、レーンチェンジ開始後、図1の車両位置(3)に到達したときに、図2(d)に示すように注視点がばらつく現象が確認される。
このとき、被験者としての運転者に運転中にどこを見ていたかを主観的に答えさせると、「[3]で示したパイロンを見ている」というコメントが得られる。
しかし、実際には、注視点を分析するアイマークレコーダを着用して走行した場合のデータを分析すると、注視点が被験者の意識どおりとはならずにばらついてしまっている。このような現象が起こるとき、自分の思い通りに車両が動いていないと感じてしまい、例えば頭部が大きく内傾した姿勢となってしまうなど、上体の姿勢が乱れるとともにハンドル操作に乱れが生じて運転操作に乱れが生じることがある。
発明者らは、実験により、この姿勢変化を抑制することによって、注視点が安定し、安定した運転感覚が得られるようになることを掴んだ。
ここで、シートを振り子状に動作させ、サイドサポートが無くても運転者の負担を軽減できるようにした従来技術として、例えば特許文献2が開示されていることは前述した。このような振り子状に動作させる構成では、揺動軸が運転者よりも下方にある場合では、結果的に旋回に応じて運転者が車体に対して下方に移動するという点で、ある程度の効果が発揮される。
しかし、この従来技術を用いた場合、図22(a)〜(c)に示すように、前方の視界を安定に保つために重要な頭部の姿勢を地球座標系に対して一定に保つことができない場合が生じ、目的に反して注視点を見失うという逆効果が発生する場合がある。
また、前述したようなシート背面の荷重中心軌跡の特徴には、左右差が生じる傾向があることも観測された。図3,図4は、直進状態〜レーンチェンジ〜直進状態と車両状態が変化する過程において、シートと運転者の上体との接触面の荷重中心の軌跡が推移する様子を測定したものであり、図3は左車線から右車線へのレーンチェンジ、図4は右車線から左車線へのレーンチェンジの挙動を示している。
図3に示すように、右ハンドル車では左車線から右車線へのレーンチェンジでの操舵初期、即ち、同図(a)中の車両位置(1)から車両位置(2)に至る区間にシート背面の荷重中心が上方へ移動する一方で、図4に示す左旋回時(右車線から左車線へのレーンチェンジ)では、シート背面の荷重中心は側方へ移動する傾向が強いことを掴んだ。
一般的な自動車において、同一な旋回半径で方向が異なるコーナを走行する場合、右旋回と左旋回で運転感覚が異なることを訴える運転者が多く見られる。これは、一般的に運転席が車体中央から左右いずれかにオフセットした位置に配置されていることにより、運転者からの前方視界が左右非対称となったり、例えばロールなどの車両挙動が発生した際、運転席の位置での上下動が左右旋回で逆方向になる等、運転席位置での運動が左右旋回で非対称となることが、左右旋回で感覚が異なる主たる原因であると考えられる。
この結果として、左右いずれかの旋回時にのみステアリング操作が乱れ、例えば右旋回時において運転し難いと指摘されることがある。このときの実際の運転を観測すると、左旋回時に比べてステアリング操作が不安定、例えば、修正舵が多く、転舵速度が大きくなる等の現象が観察される。この左右の運転感覚の差から生じる運転操作の乱れも、上体の姿勢変化の左右差を低減することにより改善されることが判った。
以下、上記した左旋回、右旋回の挙動の相違についての実験結果をふまえて、本実施形態の具体的な構成について説明する。図5〜図7は、本発明の第1の実施形態に係る運転姿勢調節装置の構成を示す説明図であり、図5は運転姿勢調節装置を含む車両用シートの全体斜視図、図6は運転姿勢調節装置の正面図、図7は同側面図である。
図5に示すように、一般的な車両用シートは、シートバックPの内部に左右に1対のシートサイドフレーム1が設置されており、本実施形態の運転姿勢調節装置では、このシートサイドフレーム1間にシートの沈み込み量や反発量を調整するためのシートスプリング(変化量検出手段)2を設ける。
このシートスプリング2は、図5に示す波型に成型されたものを用いることが一般的である。これに加えて、左右のシートサイドフレーム1の間に連結用シートフレーム3を取り付ける。更に、車両用シートを構成するシートクッションの一部を他の部分から分離した別体構成とし、この別体とされたシートクッション4を、ホグリング7でシートスプリング2に締結する。
連結用シートフレーム3の取り付け位置は、図6(a)に示すように、シートスプリング2より上方であり、且つ、図7に示すように、シートスプリング2よりも距離aだけ後方とされている。この距離aは、後述する効果が得られる長さとなるように任意に設定する。また、シートスプリング2の両端は、シートサイドフレーム1に設けられる筒状のスプリングホルダ5に挿入して取り付ける。
更に、連結用シートフレーム3にスプリングリテーナ6を回転可能に取り付け、スプリングリテーナ6の他の端部(下側の端部)は、図6(b)に示すようにフック状に成型してシートスプリング2に取り付ける。このスプリングリテーナ6は伸縮しない素材を用いる。
次に、図8に示す動作説明図を参照して、本実施形態に係る運転姿勢調節装置の作用について説明する。同図(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示している。
車両が直進している状態では、シートバックP(図5参照)の荷重重心はシートの左右方向でほぼ中央に位置する。しかし、例えば車両が旋回に移行する場合には、運転者がコーナ内側を向こうとする意思と、車両及び運転者に働く慣性力(いわゆる横G)の双方の要因により、荷重重心はシートバックPの面内で旋回外側方向へ移動する(図8中の矢印Y1参照)。即ち、運転者は車体の左右方向、或いはヨー回転方向への変位、速度、或いは加速度などの運転状態量を有することになる。
このとき、シートスプリング2は図8(a)に示すように、車両後方に向かって変形する。すると、図8(c)に示すように、シートスプリング2は連結用シートフレーム3の周りに回転する。このとき、図8(b)に示すように、シートスプリング2の端部はスプリングホルダ5内で下方へ移動し、シートスプリング2の変位量に応じてシートスプリング2が撓む。その結果として、図8(c)に示すように、シートスプリング2が下方へと移動する。シートスプリング2とシートクッション4の一部は固定されているので、同時にシートクッション4も下方へと移動する。
つまり、シートクッション4が下方へ移動することにより運転者を安定に支えることができる。このようにして、本実施形態に係る運転姿勢調節装置では、運転者或いは車体の動作状態或いは運転者と車体との相対的な動作に応じて、シートクッション4が車体の上下方向に変位するので、車両旋回時には運転者の状態が車体上方へ姿勢変化することを抑制でき、運転中の平衡感覚を安定に保持することができ、運転操作を安定化させることができる。この際、図7に示した距離aの長さを大きくとると、シートクッション4の移動量を大きくすることができる。
ここで、本実施形態では、左右一対のスプリングリテーナ6を連結用シートフレーム3に取り付け、シートスプリング2を支持する構成とした場合の例を示したが、左右いずれか一方とする構成とすることも可能である。また、連結用シートフレーム3をクランク状に形成し、且つ左右のスプリングリテーナ6の長さを異なる構成とすることも可能である。
即ち、運転者の上下方向の変位特性を、左右方向或いはヨー回転方向で異なるように設定することも可能である。このような構成とすることにより、上下方向へのシート変位特性を左右で異なるようにすることができるので、シートバックPに加えられる荷重の移動の左右差を補償することができ、平衡感覚を保持することにより運転感覚が向上するという効果に加え、運転席が車体中心に対して左右のいずれかにオフセットすることにより生じる運転感覚の左右差を低減することができる。
また、本実施形態では、連結用シートフレーム3に取り付けられたスプリングリテーナ6が、シートバックPに加えられる荷重分布の変化によりパッシブに変位する構成を示したが、スプリングリテーナ6を電気的にアクティブに回転させる構成とすることも可能である。この場合には、シートバックPの内部に荷重センサを配設し、更に、シートサイドフレーム1にスプリングリテーナ6を回転させるためのモータを配設し、荷重センサの出力信号に応じてモータを回転駆動させてスプリングリテーナ6を回転させる構成とすることもできる。このような構成においても、シートバックPに加えられる運転者による荷重に応じてシートクッション4の位置を調節し、運転者の姿勢を安定化させることができる。
また、スプリングリテーナ6の設置状態を左右対称とした上で、スプリングリテーナ6の変位量に応じた運転者の上下方向の変位特性を左右で変化させることにより、シートクッション4の変位量を左右で異なるように設定することができる。即ち、上記のようにシートバックPに荷重センサを設け、この荷重センサの検出値に応じて、スプリングリテーナ6を回転させるモータの回転角度を調整することにより、実質的に上下方向へのシートの変位特性を左右で異なるように設定することができる。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る運転姿勢調節装置の構成を示す説明図である。同図に示すように、車両用のシートに設けられた左右1対のシートサイドフレーム1間にはシートの沈み込み量や反発量を調整するための波型に成型されたシートスプリング2が取り付けられている。
本実施形態においては、このシートスプリング2の末端を、一端に拡張されたストッパ部を有するスライドシャフト11に挿入し、カシメ部8で固定する。このスライドシャフト11は、シートサイドフレーム1に固定されたスライド部外筒12を貫通するように取り付けられる。このとき、スライドシャフト11にスプリングリテーナ13とコイルスプリング14を挿入し、スライドシャフト11の中間部に設けられたスナップリング溝15にスナップリング16、ワッシャ19を挿入する。
スライドシャフト11端末のストッパ部17とスナップリング溝15間の距離は、コイルスプリング14の自由長とスライド部外筒12の長さの合計よりも短く設定し、スライドシャフト11がスライド部外筒12に組み込まれた状態においてコイルスプリング14に与圧が与えられるようにする。ここで与える与圧は、一般的な体格を有する運転者が直進走行時の着座姿勢を取った場合にはコイルスプリング14の変位が起きない程度の値に設定する。
このスライド部外筒12は、図10の模式図に示すように、車体に対して略上下方向に伸びるシートサイドフレーム1に対して、所定の角度θを有するようにシートサイドフレーム1に固定する。なお、コイルスプリング14のばね定数を「k」として示している。更に、スライドを容易にするために、このスライド部外筒12の両端には自己潤滑性を有する例えばポリアセタール樹脂のような素材のブッシュ18を挿入しておく。
また、シート背面に取り付けられるクッションのうち、運転者の腰椎付近にあたるシートクッション4を、他のクッションとは分割した構造とし、このシートクッション4とシートスプリング2とを、ホグリング7を用いて締結する。
以下、本実施形態の作用について説明する。運転者が通常の着座姿勢を取る直進走行時等では、シートスプリング2の曲げ剛性のみで運転者の体重を支えることになる。一方、比較的高Gが発生する旋回時には、運転者はステアリングホイールとシートバックPの間で腕を突っ張ることによって自らの上体を保持しようとするため、シートバックPに加えられる荷重が増加する。このシートバックPに加えられる荷重の増加が起こることにより、与圧を与えられたコイルスプリング14の圧縮が開始され、スライドシャフト11が斜め下方へ移動し、シートスプリング2と一体となってシートクッション4が僅かに下方へ移動する。この下方への移動量は大きく取ることは難しいが、下方移動量を5mm程度確保すれば本発明の効果は十分に得られる。
このようにして、第2の実施形態に係る運転姿勢調節装置では、シートに着座する運転者が通常姿勢である場合には、シートバックPに加えられる荷重をシートスプリング2の剛性により支持し、車両旋回時に高Gが発生し、シートバックPに加えられる荷重が増大した場合には、コイルスプリング14が圧縮されてシートスプリング2が下方へ変位するので、シートクッション4を下方へ移動させることができ、運転者の運転姿勢を安定化させることができる。
また、コイルスプリング14に付与されている与圧に抗して該コイルスプリング14が圧縮された際に、前記シートスプリング2が下方に変位する構成、即ち、シートバックPに加えられる荷重値、或いは荷重分布の重心位置が所定値以上変化したときに、シートクッション4が下方へ変位する。
従って、車体或いは運転者の運動状態、或いは車両と運転者の相対的な運動状態の変化量が一定値を超えるまではシートクッション4が動かないように設定されるため、ほぼ直進と見なせる走行状態の場合等に、不要に運転者の姿勢制御を行うことを回避することができる。その結果、姿勢制御が頻繁に行われることを防止し、運転者が感じる違和感を軽減することができる。
図11は、本発明の第3の実施形態に係る運転姿勢調節装置の構成を示す斜視図、図12は、図11に示した各方向から見たときの矢視図である。本実施形態では、シートバックPに取り付けられるクッションのうち、運転者の腰椎付近にあたるシートクッション4を他のクッションとは分割した構造とし、このシートクッション4とシートスプリング2をホグリング7によって締結する。この際、可動部分となるシートクッション4の変位量を阻害しないように、該シートクッション4と他の部分のクッションとの間には僅かな空隙を設けておく。
図12に示すように、左右のシートサイドフレーム1には管状のシートスプリング保持部(規制手段)21を設ける。このシートスプリング保持部21は、図12(c)に示すように、シート前方から見てシートサイドフレーム1と略平行に取り付ける。また、図12(a)に示すように、シート側方から見て、シートバック平行線と角度θを持つように取り付ける。この角度θは、シートバック平行線と水平軸の為す角度をαとすると、0≦θ≦αの範囲となるようにする。
また、シートスプリング2の末端は、取り付け前の状態においては図12(c)に示すように、シート側方の位置から見て湾曲部を有するように形成し、シート組み立て時には、この湾曲したシートスプリング2の末端を、シートスプリング保持部21の管内に圧入してこの管内に与圧を与える。
そして、車両直進時等で、運転者が通常の着座姿勢を取った場合には、シートバックPに加えられる荷重中心は、シートバックPのほぼ中央付近に位置するため、主にシートスプリング2のシートバックP内での曲げ剛性によって、運転者の体重を支えることとなる。
他方、車両旋回時には、旋回開始に伴い運転者の姿勢が変化すると、シートバックPの荷重中心は旋回外側方向へ向かって移動する。このような変化が起こると、シートスプリング2の取り付け端からシートバックPの荷重中心点までの距離が短くなり、波型に形成されたスプリング2の波形数が減少するため、その区間のシートスプリング2の曲げ剛性が見かけ上増加する。
すると、与圧を与えて組みつけられたシートスプリング2の末端部に変位が起こり、この末端部と、シートスプリング保持部21との間の内力が減少する。これに伴い、シートスプリング2の末端がシートスプリング保持部21内部をずり落ちてシートスプリング2全体が下方へ変位する。シートスプリング2とシートクッション4の可動部はホグリング7で固定されているため、最終的にシートクッション4が下方へと変位する。
こうして、シートクッション4が下方へ移動することにより、運転者を安定な姿勢に保持することができる。
このようにして、第3の実施形態に係る運転姿勢調節装置では、シートスプリング2の末端部分を湾曲形状とし、この湾曲部を筒状のシートスプリング保持部21内に圧入することにより与圧を与え、車両旋回時にシートスプリング2に通常時よりも大きな荷重が加えられた際には、この与圧に抗してシートスプリング2が下方に変位する。その結果、シートクッション4を下方へ移動させることができ、車両旋回時における運転者の姿勢を安定に保持することができる。
即ち、一般的にシート内に設けられ、シートクッションを保持しているスプリングに、変形方向を規制するシートスプリング保持部(規制手段)21を設けたので、スプリングに荷重が加えられて変形した際にシートクッションが下方へ移動する構造を安価かつ簡潔な構成で実現できる。
また、スプリングの変形方向を規制するシートスプリング保持部21を左右の2箇所に設けることにより、運転者の荷重が左側に加えられたときと右側に加えられたときでシートクッション4の変位量が異なるように設定することができ、車両の旋回方向に応じた適切な運転姿勢の調整が可能となる。
また、本実施形態においては、シートスプリング2末端に設けられるシートスプリング保持部21は単なる筒形状としているが、下方への変位をスムーズに行わせるために、筒内部は極力表面粗さを低く抑えた仕上げとし、高粘度のグリスを封入しておくと良い。同様にシートスプリング2末端部も成型時に皺が発生することの無いような成型方法及び熱処理方法を取ることが望ましい。
次に、本発明の第4の実施形態に係る運転姿勢調節装置を、図13,図14に基づいて説明する。図13(a)は車両に搭載されるノーマルシートの構成を示す斜視図、同図(b)は、第4の実施形態に係る運転姿勢調節装置の構成図を示し、図14(a)は運転姿勢調節装置の一部の上面図、同図(b)は軸受け部の詳細図である。
本実施形態では、図13(a)に示すノーマルシート背面の腰椎付近で、且つシートサイドフレーム1間に、上述の実施形態で示した波型形状のシートスプリング2の代わりに、図13(b)に示す如くの、2つの板ばね31、シャフト32、スナップリング等からなる機構(プリロード付与手段)を取り付ける。
図14(a)に示すように、左右の板ばね31は、それぞれシャフト32が貫通する構造とし、シャフト32に挿入されたスナップリング33により保持される構造を備えている。このシャフト32はシート内側の第2のシャフト32bとシート外側に位置する第1のシャフト32aに分割されている。
また、図14(b)に示すように、第2のシャフト32bの一端はD字形状に成型しておき、同様にD字形状に成型されたシートサイドフレーム1の軸受け部37の軸受け部穴34に挿入される。第2のシャフト32bの他の一端は太く成型された拡管部38とされており、内部にメスねじを成型しておく。
一方、第1のシャフト32aは、回転可能なようにシートサイドフレーム1にベアリング35によって支持されており、一端には調整ノブ36を取り付ける。他の一端には、第2のシャフト32bの拡管部38に形成されたメスねじ部と勘合するようなオスねじを成型し、第2のシャフト32bにねじ込んで組み立てられる。このような構成とすると、第1のシャフト32aの端部に取り付けられた調整ノブ36を回転させることにより、板ばね31の与圧を任意に調整することができる。
更に、従来のシートではシートサイドフレーム1に設けられている波状に成型されたスプリング(弾性体)2とシート表面のクッションの双方が撓むことで運転者の体重を支えていたが、本実施形態においては通常直進時においては、シート表面のクッションの撓みだけで運転者の体重を支えることとする。このため、通常直進時におけるシート背面への荷重の範囲内では、図中に示した板ばね31が撓むことの無い範囲に板ばね31の与圧を設定する。
直進時などの通常の着座姿勢を取った場合には、シートバックPの荷重中心は、シートバックPのほぼ中央付近に位置するため、主にシートクッション(可動クッション)4の撓みによってのみ運転者の体重を支えることになり、内部の板ばね31の撓みは発生しない。
一方、車両が旋回し、旋回開始に伴い運転者の姿勢が変化すると、シートバックPの荷重中心は旋回外側方向へ向かって移動する。すると、シート内部の左右の板ばね31のいずれかに運転者の体重が集中して加えられるため、板ばね31に加えられていた与圧を乗り越えてシート背面が大きく撓むこととなる。
ここで、シートバックPは、通常の運転姿勢においては、車体垂直面に対して後方に傾斜しているので、運転者が着座するシートの背面が大きく撓んだ場合には、運転者の上体は車体に対して後方に移動すると同時に、下方へ移動する方向に力が作用する。
このときのシート背面の下方向への移動が、転舵に伴う運転者姿勢の伸び上がりを低減させるので、平衡感覚を安定化することができ結果的に運転感覚を向上させることができる。
このようにして、本実施形態に係る運転姿勢調節装置では、車両旋回時に運転者がシートバックPに加える荷重が増大した際には、板ばね31が大きく撓むことになり、この板バネ31に撓みにより生じる力が、運転者を下方へ移動させる方向に働くので、運転者の運転姿勢を安定に保持することができる。
ここで、本実施形態においては、板ばね31の与圧を運転者自ら調整できるようにする機構を付与した。これにより運転者の個人差によらず、自ら運転感覚が最も向上する与圧量を選択することができる。
また、左右板ばね31の与圧量を異なる特性とすることで、図3,図4に示した如くの、上体姿勢変化の左右差を補償することができる。図15,図16に、このような特性を実現する方法の一例を示している。第1のシャフト32aと第2のシャフト32bが噛み合うねじ部の全長が本来の与圧調整幅である。そして、ここでは調整ノブ36とシートサイドフレーム1間、シートサイドフレーム1と板ばね31間のそれぞれにストローク規制用のスナップリング39を挿入して、与圧の調整範囲を規制している。
ここで、左側板ばね31の与圧調整範囲を右側板ばね31の与圧調整範囲よりも与圧量が小さい側に設定する。これにより、右ハンドルに機構を組み付けた場合、右旋回では、左旋回時と比較してシートの沈み込み量が大きくなるため、図3,図4のような上体姿勢変化の左右差を補償することができる。
更に、図16の特性図に示すように、右側板ばね31と左側板ばね31の調整範囲をある程度オーバーラップさせておくのが良い。これは、例えば仮眠を取る場合など、運転中以外の状況では必ずしも左右のシート沈み込み特性に差を与える必要が無い場合が存在するためであり、このような場合には調整ノブ36を適切に調整することにより、沈み込み量を左右で等しくし、従来のシート同様の使い勝手を確保することができる。
また、ここではシートバックPの内部に与圧を与えた板ばね31を組み込んだ実施形態を示したが、これ以外にも同様の機構をシート座面に組み込むことによっても同様に旋回時に運転者姿勢を下方へと誘導することができる。
即ち、一般的にシート内に設けられ、シートクッションを保持しているスプリング(弾性体)に、プリロードを付与するプリロード付与手段を設けたので、スプリングに一定値以上の荷重が加えられて変形した際にシートクッションが下方へ移動する構造を安価かつ簡潔な構成で実現できる。
また、スプリングにプリロードを付与する機構を2つ以上設けることにより、左右の変位量をそれぞれ別個に設定することができ、車両の左旋回時と右旋回時でそれぞれ適切な運転姿勢の安定化を図ることができる。
次に、図17〜図19に基づいて本発明の第5の実施形態について説明する。図17は運転者が車両用シートに着座した状態を示す説明図、図18は第5の実施形態に係る運転姿勢調節装置の構成を示す分解斜視図、図19はスライダ42の移動状態を示す説明図である。
本実施形態に係る運転姿勢調節装置は、図18に示すように、シートの内部に内蔵される左右1対のシートサイドフレーム1間を連結する板状フレーム41を備え、更にこの板状フレーム41の前方にスライダ42を設けている。このスライダ42には、溝(変位軌跡規制手段)43を2本形成し、板状フレーム41と一体化したピン44がこの溝43に勘合する構造とした。更に、スライダ42は、他のクッション部分と独立に変位可能なシートクッション4と連結されている。
また、スライダ42と左右のシートサイドフレーム1の間にはリターンスプリング45を設けて、スライダ42が中立位置に戻る復元力を付与している。このリターンスプリング45はシート内部に内蔵されるため、シートクッション4との干渉を避けるため、リターンスプリング45外周には樹脂チューブを巻きつけてある。
このスライダ42に他の部位とは独立したシートクッション4を接着した後、他の部位のシートクッション、及びシート座面を組み付けたシートを用いている。
次に、上記のように構成された第5の実施形態に係る運転姿勢調節装置の作用について説明する。通常運転時のように、運転者の姿勢が車両前方を向いている場合には、運転者による荷重はスライダ42に対して均一に加えられることになり、スライダ42は左右いずれの方向にも変位しない。
他方、車両旋回時等に、運転者によるシートバックへの荷重が左方向、或いは右方向に増大した場合には、リターンスプリング45が付勢され、スライダ42が左右方向に移動する。ここで、スライダ42には図18に示したように、右旋回時に下方且つ側方へ移動し、左旋回時にはほぼ側方へのみ移動する軌跡となるような溝43が形成されているので、図19(a)に示すように、右旋回時には、スライダ42は溝43に沿って進行方向左側に移動し、左側下方に移動することになる。これに伴い、シートクッション4も左側下方へ移動する。また、図19(b)に示すように、左旋回時には、スライダ42は溝43に沿って進行方向右側に移動する。これに伴い、シートクッション4も右側に移動する。
従って、右旋回時には、シートクッション4が左側下方に移動することにより、運転者が上方へ伸び上がろうとする力を抑制することができ、運転者の姿勢を安定な状態に保持することができる。また、左旋回時には、運転者が上方へ伸び上がろうとする力がそれほど大きくないので、シートクッションを右側に移動させることにより、運転者姿勢の安定化を図ることができる。
図19では、説明のために誇張して記載しているが、実際には横方向の移動量は20〜30mm程度、上下方向への移動量は5mm〜10mm程度となるような溝が形成されている。
このようにして、本実施形態に係る運転姿勢調節装置は、車両用シートに、上下左右にスライドするスライダ42を設ける構成としているので、運転者の上体の上下変位を、確実、且つ正確に作動させることができる。
また、運転者或いは車両の運動状態、或いは車両と運転者の相対的な運動状態に応じて車両用シートの一部が変位する際に、その運動状態の変化量が一定値を超えるまでは車両用シートが動かないように設定されるので、直進と見なせる走行路を走行している場合などに、不要に運転者の姿勢制御を行わない。そのため、従来と比較して運転者が感じる違和感を抑えることができる。
更に、車両用シートに、上下左右にスライドするスライダ42を設ける構成とした上で、更に左右スライドに伴う上下変位の特性を左右で非対称としたので、図3,図4に示したようなシート背面荷重中心の移動の左右差を補償することができ、平衡感覚を保つことにより運転感覚が向上する効果に加えて、運転席が車体中心に対して左右いずれかにオフセットしていることによって生じる運転感覚の左右差も低減することができる。
ここで、図2(a),(b)に示したスライダ42取り付け時の説明図は、この効果を検証した結果を示したものである。図17〜図19に示した装置を搭載した車両でレーンチェンジ走行を行った。スライダ42を揺動可能とした場合には、概ね図1に示した車両位置(1)において操舵が開始されるが、この操舵初期の時点において図2(a)に示したようにシート背面の荷重中心がほぼ側方のみに移動する。この結果、図2(b)に示すように、通常の車両に対して注視点位置が安定化される傾向となった。このときの被験者の主観的評価においても、「スライダを取り付けた場合にはパイロンが見やすく感じる」、「レーンチェンジしやすく感じる」などのコメントが得られた。
また、図18に示した溝43によるスライダ42の変位以外にも、図20(a)〜(f)に示したような軌跡を与えてもよい。図20(a)は、図18に示したようにスライダ42に設ける溝を下凸形状の曲線とし、且つ左右で軌跡を異なるようにした例である。つまり、旋回に伴い運転者の上体が左右に振れたときに、運転者の上体を同時に下方へと誘導し、更にこの下方への誘導特性が左右非対称となっているため、先に示した上体の荷重中心移動軌跡の非対称性から生じる運転感覚の左右差を低減することができる。
図20(b)は、スライダ42に設ける溝43を左右対称の曲線とした場合、図20(c)は溝43の形状を直線と曲線の組み合わせで実現した場合を示している。
更に、図20(d)は、中立位置近傍においてスライダ42の溝43に傾斜を与えない例である。これにより、上体が左右に変位し始めたときには上体の上下方向変位が生じないことになる。
図20(e)、(f)は、曲線または直線により、左右変位に対する上下変位の特性を左右で逆にした別の例である。このような形状を取った時には、左右旋回のいずれかの場合に上体が下方へ移動し、別の方向の旋回の場合には上体が上方へ移動する軌跡となり、運転感覚の左右差のみを解消しようとする場合には、ここに示した軌跡としても良い。
また、特に小型車や軽自動車などのコストに制限がある車両に対しては、図21に示したように、シート表面に設けられるクッションのうち、一部分の剛性を他の部分より明確に低く設定することによっても本発明の効果が得られる。
図21に示す説明図では、右ハンドル車に取り付けることを前提として、シート座面のうち、取り付け状態において車両左側に位置するシートクッション51aの剛性を、右側のシートクッション51b等の他の部位より低く設定した上で、この部位のシートクッション51aの厚さを車両右側のシートクッション51bの厚さよりも大きくしている。このような構成とすることにより、より簡単な構成で運転者の運転姿勢を安定化させることができる。