以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
[1]無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを評価する方法:
本発明の無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを評価する方法は、無機物質からなる無機物質粉末の粒子表面の一部を、表面改質剤によって被覆して、表面改質無機物質粉末を得、得られた表面改質無機物質粉末と、バインダーと、溶媒とを混合して、表面改質無機物質粉末を含有する液状の無機物質粉末スラリーを得、得られた無機物質粉末スラリーから液体成分を減じることによって得られたハニカム構造体の製造用の練土としての無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを評価する方法であって、無機物質粉末スラリーを、固相と液相に分離し、固相の粉末の粒子表面を被覆している表面改質剤を気化又は燃焼によって消失させて、固相の粉末の質量減少量を算出して、その質量減少量と、表面改質剤の使用量とから算出した被覆量に基づき、無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを評価する方法である。まず、本発明の無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを評価する方法における評価対象となる無機物質粉末ペーストの製造方法の一の実施形態について説明する。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法は、無機物質からなる無機物質粉末の粒子表面の一部を、表面改質剤によって被覆して、表面改質無機物質粉末を得る表面改質工程と、得られた表面改質無機物質粉末と、バインダーと、溶媒とを混合して、表面改質無機物質粉末を含有する液状の無機物質粉末スラリーを得るスラリー調製工程と、得られた無機物質粉末スラリーから液体成分を減じることによって無機物質粉末ペーストを得るペースト調製工程と、を備え、上記表面改質工程において、表面改質剤として、無機物質粉末よりもバインダーに対する親和性が低いものを用い、且つ、無機物質粉末の粒子表面における5〜90%の範囲を、表面改質剤によって被覆する無機物質粉末ペーストの製造方法である。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法においては、表面改質剤によって、無機物質粉末を構成する粒子の表面の一部のみを部分的に被覆することによって、表面改質剤によって表面が被覆されていない箇所のみがバインダーによって架橋されるため、高い保形性を維持した状態で、高流動性を有する無機物質粉末ペーストを得ることができる。
即ち、粒子表面における被覆部分は、無機物質粉末よりもバインダーに対する親和性が低い表面改質剤が存在しているため、上記バインダーは粒子表面と結合することができず、潤滑して流動に寄与することとなる。一方、表面改質剤によって被覆されていない粒子表面が露出した部分では、バインダーが表面改質無機物質粉末の粒子相互間に橋掛け状態(架橋)を取らせ、無機物質粉末ペーストに対して良好な保形性を発現させる。
例えば、従来の製造方法のように、表面改質剤を用いずに、バインダーのみによって無機物質粉末ペーストを調製した場合には、バインダーによる架橋が強力になりすぎて、無機物質粉末ペーストの流動性が著しく低下してしまう。
逆に、表面改質剤によって、無機物質粉末の粒子表面全域を被覆してしまった場合には、バインダーによる架橋がほとんど行われず、保形性が著しく低下してしまう。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法によって得られる無機物質粉末ペーストは、例えば、構造的に強度が小さいと考えられる成形体、具体的には、薄肉部材やハニカム構造体等を成形するための材料として好適に用いることができる。
なお、本発明において「スラリー」とは、上記無機物質粉末が、このスラリー全体に対して、1〜50体積%の範囲で含有された、液状の状態のもののことをいう。
また、本発明において「ペースト」とは、上記無機物質粉末(無機物質粉末の粒子表面が表面改質剤によって被覆されている場合には、表面改質無機物質粉末)が、このペースト全体に対して、5〜65体積%の範囲で含有された、糊状又は粘土状のもののことをいう。
また、本発明においては、上記したペーストのうち、無機物質粉末ペースト全体に対する、無機物質粉末或いは表面改質無機物質粉末の含有割合が30〜65体積%で、且つ、その状態が、可塑性を有する粘土状のもののことを、特に「練土」ということがある。すなわち、本発明において、無機物質粉末の練土とは、無機物質粉末ペーストの一形態のことをいう。
本実施形態の無機物質粉末のペーストの製造方法においては、無機物質粉末の粒子表面の一部を表面改質剤によって被覆する工程を備えている。なお、無機物質粉末の粒子表面の全面積を被覆するのに要する量に対する、実際に無機物質粉末を被覆する表面改質剤の量(以下、「被覆量」ということがある)は、以下のようにして測定することができる。また、上記被覆量については、無機物質粉末の粒子表面の全面積に対する、その表面改質剤によって被覆され得る面積に相当する面積の割合(被覆率)ということもある。
まず、一定量の無機物質粉末と、表面改質剤とを、表面改質用の溶媒に投入して、無機物質粉末を構成する粒子の表面を表面改質剤によって被覆する。この操作を、表面改質剤の量のみを変化させて、同量の無機物質粉末を用いて複数回行い、それぞれの無機物質粉末の粒子表面を表面改質剤によって被覆する。粒子表面が被覆された無機物質粉末は、上記溶媒(表面改質用の溶媒)に分散したスラリーの状態として得られる。
なお、それぞれの操作において使用する表面改質剤の量については、比較的に過剰な量(即ち、被覆量が100%を超えると予想される量)と、比較的に少ない量(即ち、被覆量が100%未満になると予想される量)とを選択する。例えば、表面改質剤の種類によっても異なるが、無機物質粉末100質量部に対して、0.5〜0.01質量部の範囲にて複数点選択することが好ましい。
各操作で得られた無機物質粉末スラリーを、遠心分離機にかけて、固相と液相に分離する。この遠心分離によって、無機物質粉末の粒子表面を被覆していない表面改質剤は液相へ分離され、また、無機物質粉末と、この無機物質粉末の粒子表面を被覆している表面改質剤とは固相へ分離される。
このようにして分離された固相の粉末を熱分析装置に設置し、昇温させることによって、粒子表面を被覆している表面改質剤を気化又は燃焼によって消失させる。この際、表面改質剤の消失に伴う無機物質粉末の質量減少を測定する。この質量減少量と、表面改質剤の使用量とから、各操作における表面改質剤の被覆量を算出することができる。
まず、比較的に過剰な量(即ち、被覆量が100%を超えると予想される量)を使用した例では、測定された質量減少量よりも、表面改質剤の使用量が多くなる。これは、粒子表面を被覆できなかった表面改質剤が、遠心分離によって液相へ分離されたと考えられる。従って、この操作における質量減少量が、各操作に用いた一定量の無機物質粉末の粒子表面全域を被覆する(即ち、被覆量100%とする)のに必要な表面改質剤の量であるということが分かる。
また、質量減少量が、上記被覆量が100%の量よりも少ない場合には、その質量減少量に応じた割合の被覆量となる。なお、表面改質剤の使用量が、被覆量100%における表面改質剤の量よりも少ない場合において、質量減少量と表面改質剤の使用量とが同じになる場合には、使用した表面改質剤の全てが粒子表面を被覆していることとなり、表面改質剤の使用量から被覆量を算出することもできる。
以上のような結果から、前記一定量の無機物質粉末に対する被覆量と、表面改質剤の使用量(又は、実際の質量減少量)との関係を求め、表面改質剤の使用量に応じて被覆量を算出する。例えば、上記一定量の無機物質粉末に対する被覆量と表面改質剤の使用量との関係をグラフにし、そのグラフから被覆量を算出する計算式を導くことができる。
上記した計算式から、無機物質粉末の被覆量が5〜90%の範囲となるような量を選択して、上記表面改質工程にて用いることにより、所望の被覆量の表面改質無機物質粉末を得ることができる。
以下、本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法における各工程について、更に具体的に説明する。
[1−1]表面改質工程:
表面改質工程は、無機物質粉末を構成する粒子表面の一部を表面改質剤によって被覆して、その表面の一部が表面改質剤によって被覆された表面改質無機物質粉末を得る工程である。この工程によって得られる表面改質無機物質粉末は、表面改質剤によって被覆された部位以外は、無機物質粉末の粒子本来の表面が露出している。
この表面改質工程においては、まず、所定量の無機物質粉末と、この無機物質粉末の表面を被覆した場合に、その被覆量が5〜90%の範囲となる量(換言すれば、5〜90%の被覆率に相当する量)の表面改質剤を用意する。表面改質剤の使用量は、上記した被覆量の算出方法に従って、所望とする被覆量に応じて適宜選択することができる。
無機物質粉末の粒子表面を被覆する際には、まず、表面改質用の溶媒(以下、表面改質用溶媒ということがある)に、無機物質粉末と、表面改質剤とを投入し、混合することによって行うことができる。これにより、表面改質剤が、無機物質粉末を構成する粒子表面に吸着、又は粒子表面と反応し、表面改質無機物質粉末が形成される。
上記したように、表面改質用溶媒を用いることによって、無機物質粉末と表面改質剤とが表面改質用溶媒中に分散し、無機物質粉末を構成するそれぞれの粒子の表面を均等な割合で被覆することが可能となる。
なお、この表面改質工程においては、無機物質粉末を構成する粒子表面の一部を表面改質剤によって被覆することが可能な方法であれば、上記方法に限定されることはないが、このような表面改質用溶媒中で粒子表面の被覆を行うことが好ましい。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法においては、無機物質粉末を構成する粒子の一粒一粒において、各粒子表面の一部が均等な割合で表面改質剤によって被覆されていることが好ましい。即ち、例えば、その表面が全て被覆された粒子からなる第一粉末と、その表面が全く被覆されていない粒子からなる第二粉末とを混合して、粉末全体の被覆量を上記範囲に調整したとしても、得られる無機物質粉末ペーストの挙動は不安定となり、これまでに説明したような効果を得ることはできない。
無機物質粉末の粒子表面の被覆量については、上記5〜90%の範囲であれば、高い保形性を有し、且つ高い流動性を有する無機物質粉末ペーストを得ることが可能であるが、10〜80%の範囲であることが更に好ましく、15〜70%の範囲であること特に好ましい。
このように構成することによって、保形性と流動性のバランスがよく、両者の特性に優れた無機物質粉末ペーストを得ることができる。例えば、被覆量が5%未満であると、保形性については優れているものの、流動性が乏しくなってしまう。一方、被覆量が90%を超えると、流動性については優れているものの、保形性が乏しくなってしまう。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法に用いられる無機物質粉末の種類については特に制限はなく、従来公知の無機物質粉末、例えば、各種酸化物、及び炭化物や窒化物等の非酸化物の無機物質粉末を好適に用いることができる。
具体的には、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(二酸化ケイ素)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、チタン酸バリウム、二酸化チタン、或いはこれらの混合物の粉末を挙げることができる。
無機物質粉末を構成する各粒子の粒子径についても特に制限はなく、一般的なセラミックスや金属等の無機物質粉末を用いた各種成形(例えば、押出成形、射出成形、プレス成形、シート成形、ろくろ成形等)に用いられる平均粒子径のものを使用することができる。例えば、無機物質粉末ペーストとして、押出成形に使用される練土を製造する場合には、粒子の平均粒子径が0.05μm〜50μmであることが好ましく、0.1μm〜30μmであることが更に好ましい。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法に用いられる表面改質剤は、無機物質粉末の粒子表面の一部を被覆することで、バインダーによる粒子間の架橋を制限し、高い保形性を維持しつつ、高流動性を付与するものである。このため、使用する表面改質剤としては、無機物質粉末よりもバインダーに対する親和性が低いものを用いる必要がある。なお、「親和性」とは、ある物質が他の物質と容易に結合する性質のことをいう。
上記表面改質剤の種類については特に制限はなく、上記したように、バインダーに対する親和性が、無機物質粉末よりも低く、且つ、無機物質粉末の粒子表面に吸着、又は粒子表面と化学反応を起こして前記粒子表面に結合するものであればよい。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法においては、上記した表面改質剤の被覆量と、表面改質剤の種類(換言すれば、バインダーに対する親和性の大きさ)とによって、得られる無機物質粉末ペーストの保形性と流動性を制御することが可能となる。
表面改質剤としては、例えば、ポリアクリル酸塩やポリメタクリル酸塩等の表面改質剤、また、ポリアミド系の表面改質剤、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の表面改質剤、ポリスチレン系の表面改質剤、アルコキシド系の表面改質剤を好適に用いることができる。
また、この表面改質工程に用いられる表面改質用溶媒としては、水系溶媒、有機系溶媒のいずれも用いることができる。具体例としては、蒸留水等の水;エタノール等のアルコール、アセトン、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等の種々の有機溶媒;これら水或いは有機溶媒との種々の混合溶媒を用いることができる。但し、廃液処理に及ぼす環境負荷を考慮すると、とりわけ水(水系溶媒)を好適に用いることができる。
本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法においては、水系溶媒を用いることによって、無機物質粉末ペーストを用いた成形品の焼成時における二酸化炭素の排出量を削減することができる。
また、本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法によって得られる無機物質粉末ペーストの流動性は、無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスによって大きく影響されることが判明した。そして、このクリープコンプライアンスは、表面改質無機物質粉末の被覆量によって制御することが可能である。
なお、本明細書における「クリープコンプライアンス」とは、クリープ試験時における、応力に対する歪みの比のことをいう。
即ち、無機物質粉末ペーストに一定応力(圧力)を作用させたとき、ばね弾性に相当する部分が瞬時に歪み、その後、ゴム弾性に相当する部分の歪みが、時間とともに増大する。ここで、上記クリープ試験時における応力の測定結果を、x軸(横軸):時間、y軸(縦軸):ひずみとしたグラフに示した際に、ゴム弾性時に観測される直線を外挿し、y軸との交点を降伏値とする。このとき、一定応力範囲内において、クリープ及び回復挙動は類似しており、歪みを印加した応力で除した値は一定となる。この値がクリープコンプライアンスである。
上記した無機物質粉末ペーストの歪みが大きいほど、無機物質粉末ペーストがより動いている状態であることを意味する。ゆえに、クリープコンプライアンスによってペーストの流動性が評価可能となる。なお、上記したクリープ試験は、例えば、公知の粘弾性測定装置を用いて行うことができる。
例えば、得られる無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合を5〜65体積%となるようにして糊状のペーストを製造する場合には、この表面改質剤によって無機物質粉末の粒子表面を被覆する際に、得られる無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスが0.15Pa−1〜0.5Pa−1の範囲となるように、粒子表面の被覆量を調整することが好ましい。なお、クリープコンプライアンスは、0.2Pa−1〜0.3Pa−1の範囲となるようにすることが更に好ましい。
また、無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合を30〜65体積%となるようにして、可塑性を有する粘土状のペーストを製造する場合には、そのクリープコンプライアンスが、2×10−6Pa−1〜5×10−5Pa−1の範囲となるように、粒子表面の被覆量を調整することが好ましい。なお、この場合のクリープコンプライアンスは、3×10−6Pa−1〜2.5×10−5Pa−1の範囲となるようにすることが更に好ましい。
また、可塑性を有する粘土状のペースト(練土)を製造する場合には、その貯蔵弾性率が練土の保形性及び流動性に大きな影響を与えていることが判明した。本実施形態の無機物質粉末ペーストの製造方法において、上記練土を製造する場合には、水分調整後に得られた状態の、室温における、印加圧力1kPaでの貯蔵弾性率が1×106Pa〜1×107Paであるように、粒子表面の被覆量を調整することが好ましい。また、流動時における、印加圧力10kPaでの貯蔵弾性率が1×105Pa以下となるように、粒子表面の被覆量を調整することが好ましい。
上記貯蔵弾性率は、角速度が6.28rad/sec、印加圧力の低い1kPaと、印加圧力の高い10kPaの条件で測定することができる。また、上記した室温とは、23℃のことである。
更に、このような可塑性を有する粘土状のペースト(練土)を製造する場合には、無機物質粉末ペースト中の表面改質無機物質粉末を構成する粒子1個を流動するために要する力が0.1nN〜250nNとなるように、粒子表面の被覆量を調整することが好ましい。なお、この粒子1個を流動するために要する力は、1nN〜200nNとなるように、粒子表面の被覆量を調整することが更に好ましい。
このように構成することによって、高い保形性と高い流動特性とを有した無機物質粉末ペーストを良好に得ることができる。
上述した無機物質粉末ペースト中の表面改質無機物質粉末を構成する粒子1個を流動するために要する力は、プレート(即ち、上記粘弾性測定装置で用いるセンサー)が試料を押している力を、試料(即ち、無機物質粉末ペースト)中に含まれている粒子の個数で除することによって、求めることができる。ここで、プレートが試料を押している力は、上記クリープ試験における測定で得られたクリープコンプライアンスの逆数と、上記プレートの底面積(即ち、試料を押している面の面積)を乗ずることによって得ることができる。また、試料中に含まれている粒子の個数は、上記プレートの底面積に粒子濃度を乗じた数値を、粒子の断面積で除することによって得ることができる。
[1−2]スラリー調製工程:
スラリー調製工程は、上記表面改質工程にて得られた表面改質無機物質粉末と、バインダーと、溶媒とを混合して、この表面改質無機物質粉末が、スラリー全体に対して、1〜50体積%の範囲で含有された液状の無機物質粉末スラリーを得る工程である。
なお、上述した表面改質工程において、表面改質無機物質粉末を、表面改質用溶媒中に分散した状態で得た場合には、この表面改質無機物質粉末を含むスラリー(表面改質用溶媒を含む分散液)と、バインダーと、溶媒とを混合して無機物質粉末スラリーを得ることができる。
本実施形態においては、上述した表面改質工程において、無機物質粉末の粒子表面の一部を予め被覆しておくため、このスラリー調製工程にて加えられるバインダーの架橋量が既に制御されている。
例えば、無機物質粉末と、表面改質剤と、バインダーと、溶媒とを同時に混合して無機物質粉末ペーストを製造した場合には、表面改質剤の量を適量に調整して用いたとしても、一般的に、粒子相互間を架橋するためのバインダーは、表面改質剤に比してより多くの量が使用されるため、表面改質剤が粒子表面の所定範囲を被覆する前に、その大部分がバインダーによって覆われてしまい、表面改質剤による効果が発現しなくなる。また、スラリーを調製する毎に粒子表面の被覆量が変化してしまうこともあり、所望の保形性と流動性を有する無機物質粉末ペーストを再現よく製造することは困難である。
スラリー調製工程において用いられるバインダーは、無機物質粉末を、一定の形状にするために用いられる成形助剤である。このバインダーとしては、従来公知の無機物質粉末ペーストに用いられるバインダーを好適に用いることができる。
例えば、このようなバインダーとしては、熱硬化性樹脂、例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチル樹脂、酢酸ビニル樹脂等を好適例として挙げることができる。
また、溶媒の種類についても特に制限はなく、上述した表面改質工程における表面改質用の溶媒と同様のものを用いることができる。
また、このスラリー調製工程においては、表面改質無機物質粉末100質量部に対して、バインダーを0.1〜20質量部加えて無機物質粉末スラリーを調製することが好ましい。
このように構成することによって、保形性を維持した状態で高い流動性を有する無機物質粉末ペーストを良好に得ることができる。例えば、バインダーの量が多すぎると、無機物質粉末ペーストを用いて成形された成形体から、このバインダーや他の成形助剤を除去する焼成工程等において、大量の二酸化炭素が発生することがある。また、バインダーの除去に伴う空間が仮焼体中に存在し、密度の低下とその後の焼結体の密度の低下を引き起こしてしまい、好ましくない。一方、バインダーの量が低すぎると、無機物質粉末ペーストの保形性が低下してしまうため、成形性が低下し好ましくない。
なお、バインダーの使用量は、バインダーの種類、最終的に得られる無機物質粉末ペーストの状態(例えば、含有される液体成分の量)等によっても異なるが、表面改質無機物質粉末100質量部に対して、0.2〜10質量部であることが更に好ましい。
また、スラリー調製工程において、各成分を混合する方法については特に制限はないが、例えば、ミル解砕による混合、例えば、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等を挙げることができる。
また、このスラリー調製工程においては、特に限定されることはないが、上記表面改質無機物質粉末、バインダー、及び溶媒以外の、他の添加剤、例えば、その他の成形助剤を更に加えてもよい。このような成形助剤としては、従来公知の無機物質粉末ペーストの製造方法に用いられる成形助剤を挙げることができる。
[1−3]ペースト調製工程:
ペースト調製工程は、得られた無機物質粉末スラリーから液体成分を減じて、液状の無機物質粉末スラリーから、糊状(又は粘土状)の無機物質粉末ペーストを得る工程である。
具体的には、上記無機物質粉末スラリーから、表面改質無機物質粉末の体積割合が、5〜65体積%となるように液体成分を減じて、無機物質粉末ペーストを調製する。なお、このペースト調製工程においては、無機物質粉末のペースト全体に対する含有割合が30〜65体積%となるように液体成分を減じて、練土を調製することができる。
無機物質スラリーから液体成分を減じる方法については特に制限はないが、例えば、真空減圧を伴う方法、空気中での蒸発、フィルタープレスなどを挙げることができる。
なお、液体成分を減じる量については特に制限はなく、無機物質粉末ペーストの使用用途に応じて適宜選択することができる。例えば、押出成形を行うためのペーストとしては、成形時に得られる成形体の形状が保持される程度の状態のもの、具体的には、上記練土(即ち、無機物質粉末ペースト全体に対する表面改質無機物質粉末の含有割合が30〜65体積%)としたものが好適に用いられる。
[2]無機物質粉末ペースト:
次に、無機物質粉末ペーストの一の実施形態について具体的に説明する。本実施形態の無機物質粉末ペーストは、これまでに説明した無機物質粉末ペーストの製造方法によって得られた無機物質粉末ペーストである。
即ち、本実施形態の無機物質粉末ペーストは、無機物質粉末の粒子表面の一部が表面改質剤によって被覆された表面改質無機物質粉末と、バインダーと、溶媒とを含有し、上記無機物質粉末の粒子表面における5〜90%の範囲が表面改質剤によって被覆されている。更に、無機物質粉末の粒子表面を被覆している表面改質剤は、無機物質粉末よりもバインダーに対する親和性が低いものである。
このような無機物質粉末ペーストは、高い保形性と高い流動特性とを有したものであるため、例えば、構造的に強度が小さいと考えられる成形体、具体的には、薄肉部材やハニカム構造体等を成形するための材料として好適に用いることができる。
また、流動性が良好であることから、押出成形によって得られる成形体の強度も高くなり、取り扱い易い成形品を製造することができる。
更に、本実施形態の無機物質粉末ペーストは、水系溶媒を用いても、上記した高い保形性と高い流動特性とを実現することが可能であるため、二酸化炭素の排出量も低く低環境負荷の製造への貢献が期待できる。
なお、上記した無機物質粉末ペーストの製造方法にて説明したように、無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスは、無機物質粉末ペーストの流動性に大きな影響を与える。即ち、このクリープコンプライアンスの値が小さくなると、保形成が高くなり、流動性が低くなる。逆に、このクリープコンプライアンスの値が高くなると、保形成が低くなり、流動性が高くなる。
本実施形態の無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスの値については、ペーストの状態(即ち、糊状であるか粘土状であるか)や、使用用途に応じて適宜好ましい範囲が異なるが、例えば、無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合が5〜65体積%の範囲となるように調製された糊状のものである場合には、そのクリープコンプライアンスが0.15Pa−1〜0.5Pa−1の範囲であることが好ましく、0.2Pa−1〜0.3Pa−1の範囲であることが更に好ましい。
また、無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合が30〜65体積%の範囲となるように調製された可塑性を有する粘土状のペースト(練土)である場合には、そのクリープコンプライアンスが2×10−6Pa−1〜5×10−5Pa−1の範囲であることが好ましく、3×10−6Pa−1〜2.5×10−5Pa−1の範囲であることが更に好ましい。
このように、本実施形態の無機物質粉末ペーストは、糊状のペーストとする場合と、粘土状のペースト(練土)とする場合とは、その状態における好ましいクリープコンプライアンスの範囲が異なることとなる。
また、本実施形態の無機物質粉末ペーストは、無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合が30〜65体積%の範囲となるように調製された可塑性を有する粘土状のペーストであり、室温における、印加圧力1kPaでの貯蔵弾性率が1×106Pa〜1×107Paであるとともに、印加圧力10kPaでの貯蔵弾性率が1×105Pa以下であることが好ましい。なお、印加圧力10kPaでの貯蔵弾性率は、流動時における貯蔵弾性率を示している。
上記したように、練土の貯蔵弾性率が1×106Pa未満の場合には、流動性は高いものの保形性が比較的に乏しくなることがあり、その一方、1×107Paを超える場合には、保形性は高いものの流動性が比較的に乏しくなることがある。
また、本実施形態の無機物質粉末ペーストは、無機物質粉末ペースト全体積に対する、表面改質無機物質粉末の体積の割合が30〜65体積%の範囲となるように調製された可塑性を有する粘土状のペーストであり、無機物質粉末ペースト中の表面改質無機物質粉末を構成する粒子1個を流動するために要する力が0.1nN〜250nNであることが好ましく、1nN〜200nNであることが更に好ましい。このように構成することによって、高流動性を実現することができ、押出成形等に用いる練土として好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、無機物質粉末、表面改質剤、及び表面改質用の溶媒(表面改質用溶媒)を用意し、この無機物質粉末の粒子表面の一部を表面改質剤によって被覆した(表面改質工程)。
無機物質粉末としては、平均粒子径570nmのアルミナ粉末(商品名「SG−4」、昭和電工社製)を用い、表面改質剤としては、ポリアクリル酸アンモニウム塩(東亞合成社製、以下、「PAA」ということがある)を用い、表面改質用溶媒としては、蒸留水を用いた。
次に、準備したアルミナ粉末、蒸留水、及びポリアクリル酸アンモニウム塩を混合することにより、アルミナ粉末(無機物質粉末)の表面の一部がポリアクリル酸アンモニウム塩(表面改質剤)によって被覆された表面改質アルミナ粉末(表面改質無機物質粉末)を得た。ここでは、この表面改質アルミナ粉末は、表面改質用溶媒に分散したスラリー(以下、「バインダー添加前スラリー」ということがある)の状態とした。
なお、表1に示すように、アルミナ粉末は、バインダー添加前スラリー全体積に対するアルミナ粉末の体積割合が15.0体積%となるような量を用い、ポリアクリル酸アンモニウム塩の使用量は、アルミナ粉末を100質量部とした場合に、0.12質量部となる量を用いた。
次に、得られた成形助剤添加前スラリーに、バインダーが溶媒に溶解したバインダー水溶液を添加して、その後、混合することにより、無機物質粉末スラリーを調製した(スラリー調製工程)。
なお、バインダーが溶解した水溶液としては、信越化学社製のメチルセルロース水溶液(商品名「SM−1500」)を用いた。表2に示すように、バインダーとしてのメチルセルロースは、アルミナ粉末を100質量部とした場合に、2.0質量部となる量を用いた。また、上記バインダー水溶液を添加することによって、無機物質粉末スラリー全体積に対する、アルミナ粉末の体積割合は、10.0体積%となった。
なお、得られた無機物質粉末スラリー及び成形助剤添加前スラリーについて、その一部をサンプリングし、後に説明する方法で、表面改質剤による、アルミナ粉末の粒子表面の被覆量の測定を行った。
次に、得られた無機物質粉末スラリーから液体成分を減じることにより、アルミナ粉末の体積割合が12.8体積%、及び50.0体積%となる2種類の無機物質粉末ペーストを製造した(ペースト調製工程)。
なお、以下、各実施例及び各比較例にて得られた無機物質粉末スラリーのうち、単に、「無機物質粉末スラリー」という場合は、アルミナ粉末の体積割合が12.8体積%の無機物質粉末スラリーのこととする。また、アルミナ粉末の体積割合が50.0体積%の無機物質粉末スラリーについては、練土ということがある。
(実施例2〜4)
表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩の使用量を、表1のように変化させたこと以外は、実施例1と同様の方法によって、アルミナ粉末の体積割合が12.8体積%、及び50.0体積%となる2種類の無機物質粉末ペーストを製造した。
(比較例1)
表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によって、アルミナ粉末の体積割合が12.8体積%、及び50.0体積%となる2種類の無機物質粉末ペーストを製造した。
(比較例2)
表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩の使用量を、0.4質量部としたこと以外は、実施例1と同様の方法によって、アルミナ粉末の体積割合が12.8体積%、及び50.0体積%となる2種類の無機物質粉末ペーストを製造した。
(被覆量の測定)
各実施例及び各比較例において得られた無機物質粉末ペーストにおける表面改質無機物質粉末(表面改質アルミナ粉末)の被覆量を測定した。
この被覆量の測定においては、まず、実施例1、及び比較例1、2で得られた成形助剤添加前スラリーから、それぞれ一定の量を採取し、この成形助剤添加前スラリーを遠心分離機にかけて、それぞれのスラリーを固相と液相とに分離した。
この遠心分離によって、アルミナ粉末を構成する粒子(即ち、アルミナ粒子)表面を被覆(例えば、吸着)していないポリアクリル酸アンモニウム塩は液相へ、アルミナ粒子表面を被覆しているポリアクリル酸アンモニウム塩は、アルミナ粉末とともに固相へ、それぞれ分離される。
このようにして分離された固相粉末を熱分析装置に設置し、昇温させることによって、アルミナ粒子表面を被覆(吸着)しているポリアクリル酸アンモニウム塩が消失する。この際のポリアクリル酸アンモニウム塩の消失に伴う質量減少量から、それぞれの無機物質粉末ペーストにおける、表面改質剤によるアルミナ粒子の被覆量(%)を算出した。
図1及び表2に示すように、比較例2では、表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩の添加量がアルミナ粉末100質量部に対して0.4質量部であったにもかかわらず、熱分析測定における質量減少量は0.2質量%であった。
即ち、比較例2においては、粒子表面を被覆しきれなかった余剰のポリアクリル酸アンモニウム塩(表面改質剤)が、遠心分離によって液相に分離されている。このため、ポリアクリル酸アンモニウム塩の添加量がアルミナ粉末100質量部に対して、0.2質量部以上であるならば、アルミナ粉末の表面は全て表面改質剤により改質され、その被覆量は100%(質量減少量が0.2質量%)といえる。これに対して、実施例1では、熱分析測定における質量減少量は、0.12質量%であった。以上のことから、実施例1における表面改質剤のアルミナ粒子表面への被覆量は60%といえる。実施例1においては、使用したポリアクリル酸アンモニウム塩の全てが、アルミナ粒子の表面を被覆していることが分かる。
ここで、図1は、本発明の実施例における、アルミナ粒子表面の表面改質剤の吸着量を示すグラフであり、縦軸は、表面改質剤の吸着量(質量%)を示す。
比較例1においては、ポリアクリル酸アンモニウム塩を用いていないため、被覆量は0%となる。
実施例2〜4については、被覆量が100%である場合の質量減少量よりも、ポリアクリル酸アンモニウム塩の使用量が少ないため、使用したポリアクリル酸アンモニウム塩の全てが、アルミナ粒子の表面を被覆しており、その使用量から、被覆量を算出することができる。
(バインダーの架橋量測定)
実施例1及び比較例1、2で得られた無機物質粉末スラリーにおいて、バインダーがアルミナ粒子間で架橋している量を測定した。実施例1及び比較例1、2で得られた無機物質粉末スラリーを、遠心分離により沈殿物と液体に分離した。この際、アルミナ粒子表面に吸着していない表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩、及び成形助剤としてのメチルセルロースは液相へ、アルミナ粒子表面に吸着している表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩、及びバインダーとしてのメチルセルロースは固相へ、それぞれ分離される。
上記遠心分離によって分離された固相粉末を熱分析装置に設置し、昇温させることによってアルミナ粒子表面に吸着している表面改質剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩、及び、成形助剤としてのメチルセルロースが消失する。すなわち、このとき見られる質量減少量は、上記両者が関与しているものである。
バインダーがアルミナ粒子間で架橋している量は、上述の表面改質剤のアルミナ粒子表面への被覆量測定において得られた、アルミナ粒子表面に吸着しているポリアクリル酸アンモニウム塩消失に伴う減少量を、上記アルミナ粒子表面に吸着しているポリアクリル酸アンモニウム塩及びメチルセルロース消失に伴う減少量の総和から減ずることにより求めることができる。
図2及び表3に示すように、バインダーがアルミナ粒子間で架橋している量は、比較例1において0.43質量%であった。これに比べ、実施例1においては、上記バインダーがアルミナ粒子間で架橋している量は、0.21質量%に減少した。
ここで、図2は、本発明の実施例における、アルミナ粒子間を架橋するバインダーの架橋量を示すグラフであり、縦軸は、バインダーの架橋量(質量%)を示す。
この原因として、表面改質剤がアルミナ粒子表面を修飾することで、バインダーがアルミナ粒子表面へ架橋する箇所が減じたためと解釈することができる。更に、比較例2においては、上記バインダーがアルミナ粒子間で架橋していないことが明らかとなった。表面改質剤がアルミナ粒子表面を完全に被覆したため、バインダーがアルミナ粒子表面へ架橋する箇所がなくなったためと解釈することができる。また、本実施例で用いたポリアクリル酸アンモニウム塩は、アルミナ粉末よりもメチルセルロースに対する親和性は低いことが分かる。なお、図2に示す結果から、ポリアクリル酸アンモニウム塩とメチルセルロースとの親和性はほぼ無いと考えることができる。
(無機物質粉末ペーストのクリープ・回復挙動の測定)
実施例1及び比較例1、2で得られた無機物質粉末ペーストにおいて、クリープ・回復挙動の測定を行った。
このクリープ・回復挙動の測定は、粘弾性測定装置を用いて、測定温度は23℃、印加圧力は実施例1及び比較例1においては、3.0Pa〜15.0Pa、比較例2においては、0.5Pa〜5.0Paの条件で測定した。圧力印加時間、及び開放時間は、実施例1及び比較例1、2で得られた無機物質粉末ペーストを通して、それぞれ1分間とした。
実施例1と比較例1において、低圧力の印加では架橋しているバインダーの弾性に伴い、クリープが観測される一方、高圧力の印加では架橋が崩壊されることに伴い、観測されるひずみは圧力印加時間とともに増大し、印加圧力を開放しても弾性回復がほとんど観測されず、即ち、液的弾性を示した。
ところが、図3に示すように、印加圧力7.5Paにおいて、実施例1と比較例1における、クリープ及び回復挙動は全く異なり、比較例1では印加圧力を開放した後、弾性回復が観測された。一方、実施例1では液的弾性を示した。
即ち、アルミナ粒子表面の60%を表面改質剤で被覆することにより、小さな印加圧力で粒子を流動させることが可能であった。その一方、アルミナ表面を全て表面改質剤で被覆した比較例2においては、上記実施例1及び比較例1と比較して、明らかに小さな印加圧力で粒子が流動した。このようなことから、比較例2においては、アルミナ粒子表面の全てを表面改質剤で被覆することによって、被覆アルミナ粒子とバインダーとが独立して動くため、小さな印加圧力で粒子が流動したと考えられる。
ここで、図3は、本発明の実施例における、無機物質粉末ペーストのクリープ・回復挙動の測定結果を示すグラフであり、縦軸はひずみを示し、横軸は時間(分)を示す。なお、圧力印加は0〜1分までの間行ったため、0〜1分は圧力印加時におけるクリープを示し、1〜2分は圧力が開放された状態における回復挙動を示す。なお、実施例1のひずみの値は、縦軸の右側の数値軸に対応し、比較例1のひずみの値は、縦軸の左側の数値軸に対応する。
(無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスの算出)
上述したクリープ・回復挙動の測定結果から、実施例1及び比較例1、2で得られた無機物質粉末ペーストにおいて、クリープコンプライアンスの算出を行った。
具体的には、用いたペーストに一定の応力(圧力)を印加した際に、ゴム弾性に相当する部分の歪みが時間とともに増大する。このとき、上記クリープ試験時における応力の測定結果を、x軸(横軸):時間(分)、y軸(縦軸):ひずみとしたグラフに示し、ゴム弾性時に観測される直線を外挿し、y軸との交点を降伏値とする。一定の印加圧力内において、単位印加圧力あたりのひずみは同一なので、この降伏値を印加圧力で除することによって、クリープコンプライアンスを算出した。
図4及び表3に示すように、実施例1におけるクリープコンプライアンスは、比較例1のそれに比べて約2倍の値を示した。すなわち、アルミナ粒子表面の60%を表面改質剤で被覆することで、流動性を約2倍にすることができた。
一方、比較例2におけるクリープコンプライアンスは、実施例1と比較して、格段に高いものの、上述のクリープ・回復挙動の測定から、保形性が極端に低下しており、保形性と流動性とに両立が図られていないものであった。
ここで、図4は、本発明の実施例における、無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスを示すグラフであり、縦軸がクリープコンプライアンス(Pa−1)を示す。
(貯蔵弾性率の測定)
次に、実施例1〜3及び比較例1、2で得られた練土の貯蔵弾性率を測定した。この貯蔵弾性率は、角速度6.28rad/sec、印加圧力の低い1kPaと、印加圧力の高い10kPaとが、低圧、高圧、低圧、高圧、低圧、高圧と各3回ずつ繰り返されるように、圧力を印加して測定を行った。
ここで、図5は、本発明の実施例における、練土の貯蔵弾性率の測定結果を示すグラフであり、縦軸は、練土の貯蔵弾性率(Pa)を示し、横軸は、時間(分)を示す。なお、図5において、斜線部分(2.6分〜5.2分、7.8分〜10.4分、13.0分〜15.6分)は、圧力印加が10kPaでの貯蔵弾性率であり、上記斜線部分以外の斜線のない部分は、圧力印加が1kPaでの貯蔵弾性率である。
図5に示すように、実施例1〜3及び比較例1の練土は、23℃(室温)において2×106Paを超える貯蔵弾性率を示しており、良好な保形性を示した。一方、比較例2の組成物は、23℃における貯蔵弾性率は1×106Paにとどまった。
また、実施例1〜3及び比較例1の練土は、低圧力印加(1kPa)と、高圧力印加(10kPa)を繰り返し行った場合であっても、高い貯蔵弾性率が保持されていた。一方、比較例2の練土は、印加圧力によらずほぼ一定の貯蔵弾性率を示しており、流動性と保形性とが両立されていないことが分かる。
(練土のクリープ・回復挙動の測定)
実施例1〜4及び比較例1で得られた練土において、クリープ・回復挙動の測定を行った。
この練土のクリープ・回復挙動の測定は、用いた練土に一定の応力(圧力)を印加した際に、ゴム弾性に相当する部分の歪みが時間とともに増大する。このとき、上記クリープ試験時における応力の測定結果を、x軸(横軸):時間(分)、y軸(縦軸):ひずみとしたグラフに示し、ゴム弾性時に観測される直線を外挿し、y軸との交点を降伏値とした。一定の印加圧力内において、単位印加圧力あたりのひずみは同一なので、この降伏値を印加圧力で除することによって、クリープコンプライアンスを算出した。
なお、上記クリープ・回復挙動の測定において、測定温度は23℃、印加圧力は実施例1〜4及び比較例1において、それぞれ2×103Pa〜15×103Paとした。印加時間及び開放時間は、実施例1及び比較例1で得られた練土を通じて、それぞれ1分間とした。また、比較例2については、得られた練土が不安定であったため、本試験からは除外した。
実施例1と比較例1において、低圧力印加(例えば、2kPa程度)では架橋しているバインダーの弾性に伴い、クリープが観測され、一方、高圧力印加(例えば、15kPa程度)では架橋が崩壊されることに伴い、観測されるひずみは、印加時間とともに増大し、印加圧力を開放しても弾性回復がほとんど観測されず、即ち、液的弾性を示した。
ところが、図6に示すように、印加圧力が10×103Paの測定結果においては、実施例1及び2のクリープ及び回復挙動と、比較例1のクリープ及び回復挙動は全く異なっていた。比較例1では印加圧力を開放した後、弾性回復が観測され、一方、実施例1では液的弾性を示し、弾性回復が観測されなかった。なお、アルミナ粒子の被覆率が10%の実施例4においては、僅かではあるが弾性回復が観測された。
即ち、練土を構成しているアルミナ粒子表面を表面改質剤で被覆することにより、小さな印加圧力によって粒子が流動するものとなっていた。
ここで、図6は、本発明に実施例における、練土のクリープ・回復挙動の測定結果を示すグラフであり、縦軸はひずみを示し、横軸は時間(分)を示す。なお、圧力印加は0〜1分までの間行ったため、0〜1分は圧力印加時におけるクリープを示し、1〜2分は圧力が開放された状態における回復挙動を示す。なお、実施例2のひずみの値は、縦軸の右側の数値軸に対応し、実施例1、4及び比較例1のひずみの値は、縦軸の左側の数値軸に対応する。
(練土のクリープコンプライアンスの算出)
上述の練土のクリープ・回復挙動から、実施例1〜4及び比較例1で得られた練土において、クリープコンプライアンスの算出を行った。なお、算出方法は、上述した無機物質粉末ペーストのクリープコンプライアンスの算出方法と同様である。結果を表3に示す。
図7及び表3に示すように、実施例2の練土のクリープコンプライアンスは、比較例1における値の7倍の値を示すものであった。即ち、アルミナ粒子表面の30%を表面改質剤で被覆することで、練土の流動性が増大(実施例2においては7倍に増大)した。なお、実施例1、3、及び4の練土においても、比較例1の練土と比較して、流動性が増大していた。
ここで、図7は、本発明の実施例における、練土のクリープコンプライアンスを示すグラフであり、縦軸がクリープコンプライアンス(Pa−1)を示す。
(アルミナ粒子1個を流動するために要する力の算出)
上述のクリープコンプライアンスから、実施例1〜4及び比較例1で得られた練土において、アルミナ粒子1個を流動するために要する力を求めた。結果を表3に示す。
この算出方法は、クリープ・回復挙動の測定に用いた粘弾性測定装置で用いるセンサー(以下、「プレート」という)が、練土を押している力を、練土中に含まれているアルミナ粒子の個数で除することによって算出した。ここで、プレートが練土を押している力とは、上記測定で得られたクリープコンプライアンスの逆数と、上記プレートの底面積を乗ずることによって得た。また、練土中に含まれているアルミナ粒子の個数は、上記プレートの底面積に粒子濃度を乗じた数値を、粒子の断面積で除することによって得た。
図8及び表3に示すように、実施例2におけるアルミナ粒子1個を流動するために要する力は、比較例1のおおむね15%程度の値を示した。即ち、アルミナ粒子表面の30%を表面改質剤で被覆することで、練土中に分散した粒子をより小さな力で流動させることができることが判明した。なお、実施例1、3、及び4の練土においても、比較例1の練土と比較して、練土中に分散した粒子をより小さな力で流動させることができた。
ここで、図8は、本発明の実施例における、練土中のアルミナ粒子1個を流動するために要する力を示すグラフである。
以上説明したように、無機物質粉末(アルミナ粒子)の粒子表面の一部を表面改質剤で被覆することで、保形性を維持した状態で、なおかつ高流動性を有する無機粉末物質ペーストと練土を得ることができた。