JP3774777B2 - 鉛筆芯 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
少なくとも有機結合材と体質材とを主材として使用し、混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施してなる鉛筆芯に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、焼成型の鉛筆芯は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ブチルゴムといった適宜の有機結合材と、黒鉛、窒化ホウ素といった体質材とを主材として使用し、必要に応じてフタル酸エステルなどの可塑剤、メチルエチルケトンなどの溶剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材、カーボンブラックなどの充填材を併用し、これらの配合材料をニーダー、3本ロールなどで混練し、細線状に押出成形した後、焼成温度まで熱処理を施し、更に必要に応じて、シリコン油、流動パラフィン、スピンドル油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスといった適宜油状物を含浸させて製造している。
【0003】
ところで、鉛筆芯における曲げ強さと濃度との逆相関関係は、いまだに存在しており、曲げ強さを向上させようとすると、鉛筆芯体が摩耗しづらくなり、その結果として濃度が薄くなってしまい、逆に濃度を濃くさせようとすると、曲げ強さが低下してしまうのである。この逆相関関係を改善させようと様々な発明が報告されており、その中で鉛筆芯体における細孔径に関するものも種々ある。
【0004】
特開平5−179189号公報には、鉛筆芯の気孔率、気孔径を管理することにより、総合品質としての性能の優れた鉛筆芯を得る方法が開示されており(特許文献1参照)、また、特開平10−88057号公報には、鉛筆芯の細孔容積、細孔径を管理することにより、強度、濃度、筆記性能をバランスよく兼ね備えた鉛筆芯を得る方法が開示されている(特許文献2参照)。これらの公報に開示されている発明では、鉛筆芯における細孔径の範囲を管理することが共通の項目となっているが、特許文献1に記載の「気孔径0.003〜0.2μmの気孔容積率が80%以上である」という内容と、特許文献2に記載の「全細孔の80%以上が直径0.005〜0.13μmの細孔からなる」という内容は範囲の差はあれ、ほぼ同じ内容である。また、別の特性項目として特許文献1では気孔率を、特許文献2では細孔容積を取り上げているが、気孔率=細孔容積×鉛筆芯体の嵩比重という関係があり、両数値は嵩比重を介して換算でき、実質的に同じ状態の鉛筆芯を鉛筆芯として現実的な嵩密度にて換算表記したに過ぎない。即ち、これら2つの発明は、どちらも細孔径と気孔率(=細孔容積)という同じ特性項目より構成されているのである。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−179189号公報
【特許文献2】
特開平10−88057号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記2つの発明は、鉛筆芯の細孔内に含浸させる油脂類に対する細孔径の好ましい範囲を開示しているに過ぎず、油脂類が効率的に含浸される細孔形状や比表面積についての開示はなく、いずれも抜本的な解決策とはなっていない。本発明は、上記従来技術発明の想到しない点を補い、改善するものであり、即ち、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施してなる鉛筆芯において、該鉛筆芯の細孔径分布が直径0.005〜0.1μmの範囲に80%以上入る分布であり、かつ、多層吸着理論に基づくCI法による比表面積の値(S1)と単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積の値(S2)との比(比表面積比:S1/S2)が0.7〜1.3であることを特徴とする鉛筆芯を要旨とする。
【0008】
以下、詳述する。
本発明の鉛筆芯の細孔径分布と比表面積の測定は、細孔径分布には水銀圧入式細孔分布測定装置(ユアサアイオニクス(株)製のポアマスター60)を使用し、比表面積にはガス吸着法による比表面積測定装置(マイクロメリティックス社製のオーア式比表面積・細孔分布測定装置2100D)を使用した。この装置を用いて窒素ガスを使い多層吸着理論に基づく比表面積の値(S1)と単分子吸着理論に基づく比表面積の値(S2)を計算により求めるが、多層吸着理論においては、クランストン−インクレイ式による円筒モデル法(所謂CI法)を採用し、単分子吸着理論においてはブルナウア−・エメット・テーラー法(所謂BET法)に従って求める。
【0009】
このようにして測定された、鉛筆芯の細孔径分布が直径0.005〜0.1μmの範囲に80%以上入る分布については、細孔直径が0.005μmより小さいものが多くなると油状物質が含浸されにくくなり、鉛筆芯としての充分な濃度が得られず、また、0.1μmより大きいものが多くなると鉛筆芯の曲げ強さが著しく低下してしまう。特許文献2では0.1〜0.13μmの細孔も容認しているが、この範囲の細孔は油状物質の含浸量も多く、濃度向上に対して効果があるのは事実であるが、それ以上に鉛筆芯の曲げ強さの低下割合が大きくなるため好ましくないのである。そして、細孔径分布が直径0.005〜0.1μmの範囲に80%以上入る分布であれば、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を得ることができる。
【0010】
多層吸着理論に基づくCI法による比表面積の値(S1)と単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積の値(S2)との比(比表面積比:S1/S2)が0.7〜1.3となることについては、S1/S2の値は細孔の形状に関連した値であり、この値が小さいほど孔としての開口部が内部の径よりも狭小であり、大きいほど開口部が内部の径よりも大きくなることを意味している。S1/S2=1の時に開口部と内部の径が等しい円筒形状の細孔となるのである。特に、S1/S2の値が0.7より小さいと、開口部が内部の径に比してかなり小さくなるため細孔内に油状物質が含浸されにくくなり、逆に1.3より大きいと、開口部の大きいすり鉢状となるため細孔内に含浸された油状物質が物理的変化などにより外部に染み出てしまったり、曲げ強さを低下させる要因ともなる。
また、単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積については、比表面積は鉛筆芯の有する細孔の中でも曲げ強さに影響を与えない程度の小さなものの存在が相対的に多いときに大きくなる。即ち、比表面積が大きいと鉛筆芯と油状物質とのミクロ的な接触面積が大きくなり、必然的に油状物質の含浸量が多くなるが、鉛筆芯の曲げ強さに影響を与えないため、この値(S2)が10m/g以上であると、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を得るために好ましいのである。10m/gより小さいと油状物質の絶対的な含浸量が少なくなり、鉛筆芯としての充分な濃度が得られ難くなる。
【0011】
有機結合材と体質材とを主材として使用する鉛筆芯が、上述の細孔径分布と細孔形状、比表面積とを有するようになるための具体的な製造方法について述べると、原材料としての有機結合材の種類や体質材との配合割合とか、押出成形時における材料温度や押出速度とか、熱処理時における低温での熱処理の際の昇温速度や焼成時の最高温度などの製造条件とかにより種々の方法が挙げられる。まず、有機結合材としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ブチルゴムなどの中より選択された1種もしくは2種以上のもので、特に限定はされないが、有機結合材のなかでも含塩素樹脂が細孔形成の面からは特に好ましく、炭化促進触媒などを併用すれば細孔径分布を容易に変えることができる。また、必要に応じて気孔形成材などを組み合わせることもできる。体質材としては、一般的な鱗状黒鉛や鱗片状黒鉛あるいは窒化ホウ素などが例示できる。そして、有機結合材と体質材との配合割合についていえば、黒鉛などの体質材に対して含塩素樹脂などの有機結合材の比率が大の時に細孔径分布はより小さな細孔が増し、S1/S2は小さくなり、比表面積は大きくなる傾向にある。また、押出成形時における材料温度や押出速度についていえば、材料温度が高い時にS1/S2は大きくなり、押出速度が大きい時に、S1/S2と比表面積は小さくなる傾向にある。更に、熱処理時における昇温速度や焼成時の最高温度についていえば、低温での加熱処理における昇温速度が小さい時に細孔径分布はより小さな細孔が増し、比表面積は大きくなる傾向となるが、焼成時の最高温度がより高温の時に、S1/S2と比表面積は小さくなる傾向にある。
【0012】
上述の有機結合材と体質材の他に、フタル酸エステルなどの可塑剤、メチルエチルケトンなどの溶剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材、カーボンブラックなどの充填材といった必要に応じて使用する材料と共に、ヘンシェルミキサーなどによる混合、ニーダー、3本ロールなどによる混練の後、細線状に押出成形し、1000℃程度の焼成温度まで熱処理を施し、更に必要に応じて、シリコン油、流動パラフィン、スピンドル油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスといった適宜油状物を含浸させて、所望の鉛筆芯とする。
【0013】
【作用】
本発明に係る鉛筆芯において、細孔径分布と細孔形状、比表面積とを限定することにより、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を得ることができる理由は次のように推測できる。
まず、細孔径分布が直径0.005〜0.1μmの範囲に80%以上入る分布であることは、細孔のほとんどが鉛筆芯の曲げ強さに影響を与えることが少なく、油状物を充分に含浸することのできる程度の細孔であることを意味する。そして、多層吸着理論に基づくCI法による比表面積の値(S1)と単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積の値(S2)との比(比表面積比:S1/S2)が0.7〜1.3となることは、細孔径状が鉛筆芯の曲げ強さを低下させるようなすり鉢状ではなく、かつ、油状物が含浸され易く、抜けにくい形状であることを意味する。また特に、単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積が10m/g以上であることも、鉛筆芯の曲げ強さに影響を与えずに、油状物質の含浸量が多くなることを意味している。これらの要素が重なり合うことにより、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を得ることができるのである。
【0014】
【実施例】
<実施例1>
Figure 0003774777
上記材料をヘンシェルミキサーによる混合、3本ロールによる混練をした後、110℃に加熱した材料を4m/秒の押出速度で細線状に押出成形し、空気中で300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1000℃を最高とする焼成処理を施し、冷却後、流動パラフィンを含浸させて、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0015】
<実施例2>
実施例1において、黒鉛量を75重量部から85重量部に、フタル酸ジオクチル量を25重量部から30重量部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0016】
<実施例3>
実施例1において、黒鉛量を75重量部から70重量部に、フタル酸ジオクチル量を25重量部から20重量部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0017】
<実施例4>
実施例1において、空気中での300℃までの昇温時間を約10時間から15時間に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0018】
<実施例5>
実施例1において、密閉容器中での焼成処理の最高温度を1000℃から1300℃に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0019】
<実施例6>
実施例1において、密閉容器中での焼成処理の最高温度を1000℃から800℃に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0020】
<比較例1>
実施例1において、ポリ塩化ビニル樹脂量を55重量部から40重量部に変え、ポリ酢酸ビニル樹脂を15重量部使用した以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0021】
<比較例2>
実施例1において、押出成形時の材料の加熱温度を110℃から130℃に変た以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0022】
<比較例3>
実施例1において、押出成形時の材料の押出速度を4m/秒から6m/秒に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0023】
<比較例4>
実施例1において、黒鉛量を75重量部から70重量部に、フタル酸ジオクチル量を25重量部から20重量部に変え、また、押出成形時の材料の押出速度を4m/秒から5m/秒に変え、更に、密閉容器中での焼成処理の最高温度を1000℃から1150℃に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0024】
これら鉛筆芯の油状物含浸前の焼成芯体を用いて、細孔径分布は水銀圧入式細孔分布測定装置(ユアサアイオニクス(株)製のポアマスター60)を使用し、比表面積はガス吸着法による比表面積測定装置(マイクロメリティックス社製のオーア式比表面積・細孔分布測定装置2100D)を使用して測定した。更に、これらの鉛筆芯に油状物を含浸させたものをJIS S 6005に準じて曲げ強さと濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0003774777
【0026】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を得ることができる。

Claims (2)

  1. 混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施してなる鉛筆芯において、該鉛筆芯の細孔径分布が直径0.005〜0.1μmの範囲に80%以上入る分布であり、かつ、多層吸着理論に基づくCI法による比表面積の値(S1)と単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積の値(S2)との比(比表面積比:S1/S2)が0.7〜1.3であることを特徴とする鉛筆芯。
  2. 前記単分子吸着理論に基づくBET法による比表面積(S2)が10m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の鉛筆芯。
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