特許文献1によれば、SiO2やAl2O3などの金属酸化物粒子の体積分率や帯電量を最適化することによって、光束寿命を改善する方法が示されている。しかし、光束の低下による寿命を改善するには特許文献1の方法では十分ではなかった。すなわち、蛍光ランプ内に残留する水酸基や炭酸ガスが水銀と反応して酸化水銀を形成し、黒化原因になることはすでに知られているが、特許文献1にはこれらを効果的に除去する技術については示されていない。
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、黒化の原因となる不純物がガラスバルブ内に残留することを抑制し、光束寿命を改善させた蛍光ランプおよびこの蛍光ランプを用いた照明器具を提供することを目的とする。
本発明の蛍光ランプは、内部に放電媒体が封入されているガラスバルブと、このガラスバルブ内面側にSiO2微粒子を主成分として形成された保護膜と、この保護膜の上面側に形成された蛍光体層と、ガラスバルブに配設された電極手段とを具備しているものであって、保護膜が次の態様を有していることを特徴とする。
第1の態様は、保護膜を構成しているSiO2微粒子の赤外分光法による波数2500〜3800cm−1の範囲内における水酸基吸収帯の吸光度スペルトルの積算値が100℃のときを1とした場合に、同600℃で0.3以下となる特性を有していることを特徴としている。
第2の態様は、保護膜を構成しているSiO2微粒子の赤外分光法による波数2500〜3800cm−1の範囲内における水酸基吸収帯の吸光度スペルトルの第1ピークに対する第2ピークの強度比が500℃のときに0.3以下となる特性を有していることを特徴としている。
第3の態様は、保護膜を構成しているSiO2微粒子のカーボン含有率が質量比で0.09%〜0.3%であることを特徴としている。
第4の態様は、保護膜を構成しているSiO2微粒子の700℃におけるレーザーラマン分光法によるスペクトルが、波数590〜610cm−1および490〜500cm−1にピークを持つことを特徴としている。
なお、本発明の蛍光ランプは直管形、環形、U字形、W字形や直管を複数本接続した屈曲形のものあるいは板状形などのどのような形状のランプにも適用できるものである。
また、本発明の蛍光ランプは電極手段がフィラメントコイルを用いた熱陰極形の電極であってもよいし、冷陰極形の電極であってもよい。要するにガラスバルブ内に放電を生起させるものであればよいので、例えば外部電極であっても差し支えない。
また、本発明は一般の蛍光ランプに限らず、バルブ内面に透明導電体膜を設けこの導電体膜の気密空間側表面に保護膜および蛍光体層を形成したラピッドスタート形の蛍光ランプにも適用できる。
さらに、保護膜と蛍光体層の間または保護膜とガラスバルブ内面との間に光反射膜を介在させていてもよい。
本発明者らは、保護膜に使用される金属酸化物粒子の粒子表面を覆う水酸基に注目し、この水酸基を所定温度に加熱した場合に水酸基が離脱しやすい金属酸化物微粒子を選定することを検討した。その結果、所定温度に加熱したときに表面に付着している水酸基を一定量離脱することが可能な保護膜を形成することによって、蛍光ランプ内に残留する水酸基を減らして、酸化水銀の発生を抑制し、光束の低下による寿命を改善する方法を見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。請求項1の赤外分光法に基づく測定は、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT-IR」と呼ぶ)を用いて行うことができる。測定原理は、FT-IR本体から連続的に波数が変化する赤外線を放射し、所定の試料に透過させ透過後の赤外線を測定、分析することによって、波数−吸光度のスペクトルを得るものである。分析する吸光度スペクトルは波数2500〜3800cm−1の範囲内である。この波数の範囲が水酸基吸収帯を示しており、この波数帯域の吸光度が大きいほど水酸基の付着量が多いことになる。実験は、試料の温度を常温から約700℃まで変化させながら、真空雰囲気で測定した。
100℃の積算値とは、試料を100℃に保ち、かつ400Pa程度の真空雰囲気で赤外分光測定を行ったときに得られる波数−吸光度スペクトルを波数2500〜3800cm−1の範囲で積分することによって得られる積分値のことをいう。さらに真空度を保ちながら試料の温度を600℃まで上昇させて安定状態となったとき、同様に求めた積分値を600℃の積算値とする。ただし測定に用いられる試料は、赤外分光装置に設置する前に一度常温の大気中に暴露し、水酸基が吸着されたものを使用する。本発明者の実験によれば100℃の積算値を1とした場合に600℃の積算値が0.3以下となるSiO2微粒子を保護膜として用いた蛍光ランプはAl2O3微粒子またはSiO2微粒子を保護膜の材料とした従来の蛍光ランプよりも光束維持率が改善することが確認された。
また、上記条件で測定したときに温度が500℃のときに赤外分光法による波数2500〜3800cm−1の範囲内における水酸基吸収帯の吸光度スペルトルの第1ピークに対する第2ピークの強度比が0.3以下となるSiO2微粒子を保護膜として用いた蛍光ランプはAl2O3微粒子またはSiO2微粒子を保護膜の材料とした従来の蛍光ランプよりも光束維持率が改善することが確認された。
ここで、第1ピークとは波数3740cm−1付近の孤立水酸基による吸収スペトルのピークであり、第2ピークとは波数3680cm−1付近に存在し、一般に第1ピークよりもブロードなピークである。
SiO2微粒子に吸着した孤立水酸基はSiO2微粒子の温度を上昇させてもほとんど脱離することが無く、水酸基の脱離はほぼこの第2ピークの強度の変化に現れると考えられる。このため、第1ピークに対する第2ピークの強度比が小さい程水酸基が脱離していると考えられる。
また、SiO2微粒子に含有されている不純物の種類および濃度と蛍光ランプの光束維持率との相関を調べたところ、カーボン含有率が光束維持率に依存していることを突き止めた。特に、SiO2微粒子中のカーボン含有率が質量比で0.09%以上にした場合、従来のSiO2微粒子よりも水酸基の吸着が少なくなって光束維持率が向上することがわかった。カーボンの含有率が0.3%以上になるとカーボンの析出によって透過率が低下する等の不具合が発生するので保護膜としてランプに適用するには好ましくない。したがって、保護膜に使用されるSiO2微粒子のカーボン含有率を0.09%〜0.3%とした蛍光ランプは、従来のAl2O3微粒子またはSiO2微粒子を保護膜に用いた蛍光ランプに比べて光束維持率を向上させることができる。
また、SiO2微粒子の構造上の違いと水酸基の吸着性との関係について検討したところ、SiO2微粒子が所定の構造の場合には光束維持率が向上することを突き止めた。このSiO2微粒子の構造を特定するためにレーザーラマン分光法による測定を用いた。レーザーラマン分光法とは、単色のレーザー光が試料を通過するときに、レーザー光と試料の分子とが相互作用を生じてラマン散乱した光を測定する方法である。この測定によって、温度上昇に伴いレーザーラマン分光法のスペクトルが変化する様子を確認することができた。特に、アモルファス構造を示す波数200〜500cm−1のブロードなスペクトルが消失し、4員環のピークである波数約494cm−1および3員環のピークである波数606cm−1が形成されたものについては、水酸基の吸着が減少し光束維持率が向上することがわかった。これは、3員環および4員環の構造が多員環およびSiO2の結晶構造に比べて構造が小さく水酸基が脱離しやすくなったためと考えられる。
本発明の保護膜を構成しているSiO2微粒子は、Physical Vapor Synthesis 法(以下「PVS法」と呼ぶ)によって生成されているのが好ましい。
PVS法とは、シリコンや金属等の原材料を熱エネルギーによって蒸気化し、酸素雰囲気下で酸化反応させて酸化物微粒子を生成する方法である。SiO2微粒子を生成する方法としては、四塩化珪素、酸素、水素を同時に反応させてSiO2を製造する高温加水分解法が一般的であるが、この従来の製造方法は、製造されたSiO2微粒子にHCl(塩化水素)がわずかながら含まれる。これに対し、PVS法によって製造されるSiO2微粒子は製造の性質上HClを含まない。また、SiO2微粒子を分散したスラリー(懸濁液)は、SiO2微粒子中のHClの含有量が多いほどスラリーは酸性を示す傾向があり、HClの含有量とスラリーのpHには関連性が認められる。SiO2の等電点はpH2〜3と低いため、SiO2微粒子のスラリーが強い酸性を示す場合にはSiO2微粒子の凝集が起こりやすく、スラリーの分散性が悪くなるので保護膜を緻密な被膜に形成することが難しくなる。また、HClは水銀と反応して、ガラスバルブの黒化原因となる可能性がある。したがって、SiO2微粒子中のHCl濃度は低い方が好ましい。
本発明の蛍光ランプは、蛍光体層には、保護膜に使用されているSiO2微粒子が結着剤として使用されているのが好ましい。
本発明の蛍光ランプは、ガラスバルブは、熱膨張係数αが85〜105のガラスから形成されており、前記ガラスバルブの内圧を維持しながら前記ガラスバルブを500〜650℃に加熱して排気した後に、前記放電媒体が封入されているのが好ましい。
本発明の蛍光ランプの製造時の排気工程において、ガラスバルブを高温にするほど、ガラスバルブ内壁に付着した不純ガスが取り除かれるため排気後のガラスバルブ内に残留する不純ガスの量が減少する。しかし、ガラスバルブに熱膨張係数αが85〜105の軟質ガラスを用いる場合、排気しながらガラスバルブの温度を500℃以上に上げると軟質ガラスの軟化温度が低いので大気圧でガラスバルブが潰れてしまう。そこで、ガラスバルブ内に不活性ガスをフローさせる等して内圧を維持しながら、ガラスバルブの温度を500〜650℃、好ましくは550〜650℃、さらに好ましくは600〜650℃に上げてガラスバルブ内に付着した不純ガスを放出させた後に、450〜480℃まで下げて排気する方法を用いる。
また、本発明の蛍光ランプは、前記保護膜と前記蛍光体層との間の所定位置に光反射膜を具備していてもよい。
本発明でいう光反射膜とは、可視光の波長範囲(約380〜約780nm)を対象としてこの可視光の殆どを反射し、一部を透過する作用を有するものである。
光反射膜は、ピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタンまたは酸化アルミニウム(アルミナ)などの微粒子を用いることができ、これらのうち一種またはこれらを複数種適宜混合させたものを主成分としてもよい。なお、光反射膜はこれら微粒子以外に、ホウ酸バリウム・カルシウム(バリウムカルシウムボレート)、酸化ランタンなどの材料が含有されていてもよい。
ガラスバルブの周方向の所定位置には光反射率が高く光透過率が低い光反射膜が形成され、この光反射膜が形成されていない残部が光透過率の高い開口部(光反射膜非形成部)となっている。したがって、本発明の蛍光ランプが点灯してもバルブ外周面からの光放射は均等ではなく、バルブ軸方向に沿う開口部(光反射膜非形成部)から放射される光強度(光量)が、バルブ内の光反射膜で反射された反射光も加わって高く(大きく)なり、開口部の照射方向の被照射面がより明るくなる。
また、光反射膜はラピッドスタート形蛍光ランプなどの場合には透明導電膜上に形成された保護膜上に形成されていても同様な作用を奏する。
本発明の照明装置は、上記本発明の蛍光ランプと、この蛍光ランプが取付けられた照明装置本体と蛍光ランプを点灯させる点灯装置とを具備していることを特徴とする。
本発明の蛍光ランプによれば、加熱によって水酸基が脱離しやすいSiO2微粒子を主体として保護膜を形成しているので、ガラスバルブ内に残留する水酸基が少なくなり、光束の低下による寿命特性が改善される。
この加熱によって水酸基が脱離しやすいSiO2微粒子は、赤外分光法によって、水酸基吸収帯である波数2500〜3800cm−1の吸光度スペルトルの積算値が、100℃の積算値を1とした場合に、600℃で0.3以下であること、赤外分光法によって、水酸基吸収帯である波数2500〜3800cm−1の範囲内における水酸基吸収帯の吸光度スペルトルの第1ピークに対する第2ピークの強度比が500℃のときに0.3以下であること、SiO2微粒子に含有するカーボン含有率が質量比で0.09%〜0.3%であることまたはSiO2微粒子の700℃におけるレーザーラマン分光法によるスペクトルが、波数590〜610cm−1および490〜500cm−1にピークを持つことによって特定される。
また、PVS法によって製造されたSiO2微粒子は、高温加水分解法によって製造されたSiO2微粒子に比べて、吸着された水酸基が高温下で取れやすいので、ガラスバルブの黒化を抑制でき、光束維持率が確実に改善される。
さらに、蛍光体層の結着剤に保護膜を構成するSiO2微粒子を用いると、結着剤が水酸基を吸着しにくいので、結着剤にAl2O3微粒子を使用した場合に比べて、光束の低下が少なくなり光束維持率が一層改善される。
さらにまた、蛍光ランプの製造時に500℃以上までガラスバルブの温度を上昇させるので、軟化温度が低い熱膨張係数αが85〜105の軟質ガラスを用いたガラスバルブであっても、排気中に変形することなく保護膜に吸着した水酸基を効果的にガラスバルブの内圧を維持しながら脱水することができ、ガラスバルブを封止したときの残留水酸基を一層確実に減らすことができる。
さらにまた、ガラスバルブの所定位置に光反射膜を形成したので、開口部の照射方向の被照射面がより明るくなる。
本発明の照明装置によれば、上記蛍光ランプの作用を有する照明装置を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による蛍光ランプの第1の実施形態の一部の断面を拡大して示す正面図であり、図2は、図1の蛍光ランプの要部を示す拡大断面図である。
本実施形態の蛍光ランプ10は、管外径が15〜18mmのガラスバルブとしての発光管1を有し、この発光管1の両端部2、2には電極手段としてのフィラメント電極3、3が封装され、内部には水銀とともにアルゴン(Ar)などの希ガスが封入されている。発光管1は熱膨張係数αが90〜100のソーダライムガラス製である。発光管1の内面には保護膜4が形成されており、この保護膜4の上面側(放電空間側)には蛍光体層5が形成されている。保護膜4は、比表面積(BET値)が60〜180m2/g、好ましくは90〜160m2/g、平均一次粒径13〜30nmのSiO2微粒子を主成分としており、膜厚は0.8〜2.0μmである。
次に、このランプの製造方法について説明する。発光管1の内面に、PVS法によって生成された平均粒径25nmのSiO2微粒子が分散されたスラリー(懸濁液)を、発光管1内に塗布し乾燥させた後に、蛍光体粒子が分散されたスラリーを塗布して乾燥させ、その後焼成することにより保護膜4および蛍光体層5が形成される。このとき、蛍光体層5はPVS法によって生成されたSiO2微粒子を主成分とする結着剤が混合して形成されたものであってもよい。次に、発光管1内にArなどの不活性ガスをフローさせて内圧を維持しながら、発光管1の温度を600℃〜650℃に上昇させた後、発光管1の内壁を大気に直接接触させることなく発光管1の温度を450℃まで下げて排気する。
次に本実施形態の作用効果について説明する。
本発明者等は、SiO2を保護膜としても光束維持率が従来よりも改善したランプを開発するために、様々なSiO2微粒子を試験した。その結果、PVS法によって製造されたSiO2微粒子(例えば、シーアイ化成株式会社製の商品名「NanoTek SiO2」)を保護膜の材料として用いると、光束維持率が向上することが確認された。
図3は、PVS法によって生成されたSiO
2微粒子を保護膜2として使用したランプの光束維持率を示したグラフである。同じグラフ上には、比較のため、高温加水分解法によって製造されたSiO
2微粒子(デグサ社製の商品名「アエロジルMOX80」)およびAl
2O
3微粒子(デグサ社製の商品名「アルミニウムオキサイドC」)を保護膜として使用して、本実施形態と同様の方法で排気して製造したランプの光束維持率をそれぞれ比較例1、2として示した。また、Al
2O
3微粒子(デグサ社製の商品名アルミニウムオキサイドC)を保護膜として使用して従来の排気方法により製造した蛍光ランプの光束維持率を比較例3として示した。実験は、管径16.5mm、管長500mm、保護膜の膜厚1μm、封入気体としてArを使用し、ガラスバルブ内の圧力400Paの条件で行った。SiO
2またはAl
2O
3は粒径が大きいほど比表面積が小さくなって、単位質量あたりに吸着する水酸基の量を抑制することができる。しかし、蛍光ランプの保護膜に使用される微粒子の粒径が大きくなると水銀のバルブへの打ち込みを効果的に防ぐことができなくなるので発光管が黒化しやすくなる。そのため、粒径が大きい場合には膜厚を厚くする必要があり、結局水酸基の絶対量が増加してしまう。本実験で使用した蛍光ランプに形成される保護膜の比表面積はPVS法によって生成されたSiO
2微粒子が110(m
2/g)、比較例1のSiO
2微粒子が80±20(m
2/g)、比較例2および3のAl
2O
3微粒子が100±15(m
2/g)であり、膜厚はそれぞれ1μmで形成した。本実験で使用したSiO
2微粒子(PVS法)、比較例1のSiO
2微粒子および比較例2および3のAl
2O
3微粒子の物性を表1に示す。
図3より、比較例2のランプは従来の排気工程で製造された比較例3のランプに比べて、光束維持率が改善されていることがわかる。また、PVS法によって製造されたSiO2微粒子を保護膜4として用いると、蛍光ランプの光束維持率が改善される傾向にあることがわかる。この原因を検証するためにPVS法によって製造されたSiO2微粒子、比較例1のSiO2微粒子および比較例2のAl2O3微粒子の特性を調べた。現在、ガラスバルブの黒化原因になると考えられている不純物は、保護膜に使用されるSiO2またはAl2O3の表面に吸着する水酸基、高温加水分解法で製造される場合に、製造過程においてSiO2またはAl2O3に混入するHCl、フィラメント電極に塗布されるエミッタの加熱分解時に発生するCO、CO2である。
SiO2微粒子を保護膜の主成分材料として用いる場合、特に水酸基の吸着が問題であると考えられているので水酸基の吸着について説明する。従来から使用されている表面処理が行われていないSiO2の表面は、大気中ではシラノール基に覆われており、水素結合により親水性を示す。これを加熱脱水すると孤立水酸基とシロキサンが生成される。加熱脱水においてシラノール基はH2Oの形で分離するため、孤立水酸基のように、H2Oとして分離できない場合、加熱してもSiO2微粒子表面から離れにくくなる。一方、シロキサンは不活性であるのでSiO2微粒子表面にシロキサンが多数形成されると水酸基が付着しにくくなる。この反応は400℃以下では可逆的、それ以上では不可逆的であるとされている。このように、SiO2の水酸基吸着は表面状態による影響が大きいと考えられる。
図4は、PVS法で生成されたSiO2微粒子、比較例1のSiO2微粒子および比較例2のAl2O3微粒子の温度を変化させながら、赤外吸収スペクトルを測定した図である。測定は、試料を温度可変で400Pa程度の真空雰囲気下において透過型FT-IRで行った。グラフの縦軸は、試料に入射した光に対する吸光度、横軸は波数をそれぞれ示している。図4(1)のグラフはPVS法によって製造されたSiO2微粒子、図4(2)のグラフは比較例1のSiO2微粒子、図4(3)のグラフは比較例2のAl2O3の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ示している。
図4(1)〜(3)の各グラフにおいて、波数2500〜3800cm−1の範囲に見られる比較的広いピークは水酸基の吸収帯である。なお、吸光度は単位質量当たりの吸光度が同じであれば密度と試料の厚みの積に比例する。図4(1)〜(3)の各グラフによれば、温度を上げていくとそれぞれ吸着した水酸基が脱水されていくことがわかる。図4(1)、(2)のスペクトルで、波数3740cm−1に鋭いピーク(第1ピーク)が見られるがこれは孤立水酸基による赤外線吸収ピークであり、測定温度700℃程度でも脱水されないことがわかる。また、図4(1)では400〜500℃で孤立水酸基以外の水酸基がほとんど脱水されているのに対し、図4(2)では、孤立水酸基以外の水酸基がかなり吸着している。この結果から、従来の排気温度である450〜480℃まで温度上昇させるとSiO2微粒子(PVS法)はSiO2微粒子(比較例1)に比べ、吸着している水酸基の量が少ないと考えられる。図4(1)および(2)の各グラフによれば、波数3680cm−1付近に存在するブロードなピーク(第2ピーク)が形成されており、第1および第2ピークの強度比は0.7以上であるが、図4(1)の場合には500℃以上に温度を上げていくと第1ピークの強度に対する第2ピークの強度比が0.3以下に減少し、700℃のときには第2ピークがほとんど消滅していることが分かる。これに対し、図4(2)の場合には、第1ピークの強度に対する第2ピークの強度比が0.5以上であり、このことからも、孤立水酸基以外の水酸基がかなり吸着していることがわかる。
この結果から、比較例1の光束維持率が本実施形態よりも低いのは、高温加熱しても脱水できずに残留していた水酸基が多いほど微粒子表面で化合物を多く生成するか、Hgからの紫外線放射の影響により除々にH2Oとして脱離し、ランプ製造後にバルブ内へ放出されていくためと推定できる。
図5は、図4(1)〜(3)のスペクトルについて、水酸基吸収帯である波数2500〜3800cm−1の範囲内の積算値を求め、それぞれの温度に対する積算値の変化の相対値を対数値で示した図である。ただし、それぞれの積算値は、サンプル毎に100℃の積算値を1とした相対値を示している。実線で示した「本実施形態」はPVS法によって生成されたSiO2微粒子、点線で示した「SiO2(比較例1)」は上記比較例1のSiO2微粒子、破線で示した「Al2O3(比較例2)」は比較例2のAl2O3微粒子をそれぞれ示している。図5のグラフの傾きが、負の方向に大きいほど温度上昇に対して、試料に吸着した水酸基がとれやすいことになる。SiO2微粒子(PVS法)とSiO2微粒子(比較例1)を比べると、SiO2微粒子(PVS法)の方が吸着した水酸基が温度に強く依存して脱水されることがわかる。この比較によって、それぞれのSiO2では、製法の違いによって表面状態または構造になんらかの違いがあり、水酸基脱水の温度依存度が異なると考えられる。また、本実施形態のSiO2微粒子(PVS法)と比較例2のAl2O3微粒子を比べると、温度上昇に伴う積算値の変化量はほとんど変わらず、水酸基の脱水に対する温度の依存度はほぼ等しいと考えられる。
PVS法は、すでに説明したように原材料を熱エネルギーによって蒸気化し、酸素雰囲気下で酸化反応させて酸化物微粒子を生成する方法である。この方法は、例えばSiO2微粒子を生成する場合には原材料としてシリコンを用いるが、蒸気化前の原材料中にはシリコンを固形化するためにカーボンを主成分とした結着剤が含有されている。このため、PVS法によって生成されたSiO2微粒子にはわずかながらカーボンが含有されている。このように、SiO2微粒子に不純物が含まれる場合、SiO2微粒子の構造になんらかの変化をもたらす可能性が考えられる。そこで、本発明者等はPVS法によって生成されたSiO2微粒子に含まれるカーボン含有率に注目し、カーボンの含有率を変化させながら赤外吸収スペクトルを測定し、図5と同様に温度と水酸基の吸着の関係について調べた。
図6は、PVS法で生成されたSiO2微粒子のカーボンの含有率が(1)〜(4)に変化したとき赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。SiO2微粒子のカーボンの含有率は、質量比でそれぞれ(1)0.28%(実施例1)、(2)0.09%(実施例2)、(3)0.07%(比較例3)および(4)0.02%(比較例4)であり、各SiO2微粒子の温度をそれぞれ変化させながら、赤外吸収スペクトルを測定した。
図7は、図6に示す(1)〜(4)のそれぞれのスペクトルについて、水酸基吸収帯である波数2800〜3800cm−1の範囲内の積算値を求め、それぞれの温度に対する積算値の変化の相対値を対数値で示した図である。
図8は、横軸にカーボンの含有率、縦軸に図7で得られた700℃での積算値の相対値を示した図である。
図6から分かるように、(1)の実施例1、(2)の実施例2には、孤立水酸基のピーク(第1ピーク)に隣接して第2ピークが見られる。このようなピークは(3)の比較例3、(4)の比較例4のスペクトルには見られないため、実施例1および2と比較例3および4との間にはSiO2微粒子の構造上なんらかの違いがあると推測できる。
また、PVS法で生成されたSiO2微粒子は、カーボン含有率が0.09%〜0.28%であれば700℃での積算値が0.15以下になることが図8からわかる。なお、カーボン含有率が0.09%未満になると比較例1のSiO2微粒子に比べ水酸基の吸着が多くなり光束維持率の向上が望めない。一方、カーボンの含有率が0.3%以上になると、保護膜としてランプに適用したときに、カーボンの析出や透過率の低下が起こるため好ましくない。また、カーボン含有率が0.09%〜0.28%のSiO2微粒子を保護膜に用いた蛍光ランプは、カーボン含有率が0.09%未満のSiO2微粒子を保護膜に用いた蛍光ランプに比べ光束維持率が向上する傾向があることが確認された。
このようなSiO2微粒子の構造上の違いと水酸基の吸着性との関係について検討するために、レーザーラマン分光法を用いた測定を行った。レーザーラマン分光法とは、単色のレーザー光が試料を通過するときに、レーザー光と試料の分子とが相互作用を生じてラマン散乱した光を測定する方法である。ラマン散乱光は分子の吸収帯の振動モードを選択的に観測できるため、一般的に構造の解析に用いられる。測定は、SiO2微粒子を圧縮成形し常温と真空雰囲気で700℃に加熱した試料を用い、レーザー光の波長は633nmおよび758nmを用いて行った。
図9は、PVS法で生成されたカーボン含有率が変化したときのSiO2微粒子のレーザーラマン分光法によるスペクトルを示すグラフである。横軸はラマン散乱光の波数(cm−1)であり縦軸はラマン散乱光の強度(intensity/A.u.)を示す。図9において、(1)はカーボンの含有率が質量比で0.28%(実施例1)、(3)が同0.07%(比較例3)、(4)が同0.02%(比較例4)のSiO2微粒子をそれぞれ示している。なお、図9(a)は常温、図9(b)は700℃で測定したスペクトルをそれぞれ示す。
図9(a)に示すように、常温ではいずれも波数200〜500cm−1にブロードなスペクトルが見られる。これは、多員環を有するアモルファス構造が存在することを示している。
一方、図9(b)に示すように700℃まで加熱すると(4)で示す比較例4のSiO2微粒子は200〜500cm−1のブロードなスペクトルが消失し、波数約464cm−1に鋭いピークが形成される。波数約464cm−1の鋭いピークは、SiO2の結晶構造のピークであるとされており、温度上昇に伴いアモルファス構造から結晶構造へと変化したことが分かる。それに比べカーボン含有率0.28%のPVS法で生成された(1)で示す実施例1のSiO2微粒子は、温度上昇に伴い200〜500cm−1のブロードなスペクトルは消失するが、波数約464cm−1の鋭いピークは形成されず波数約494cm−1、606cm−1にそれぞれピークを形成する。波数約494cm−1および606cm−1のピークはそれぞれ4員環および3員環のピークであるとされており、これらは多員環およびSiO2の結晶構造に比べて表面に吸着する水酸基同士の間隔が小さくなっていると考えられる。つまり、温度上昇に伴いアモルファス構造から4員環および3員環のようにより小さな構造へと変化したため、水酸基が脱離しやすくなったと考えられる。また、カーボン含有率が0.07%のPVS法で生成された(3)で示す比較例4のSiO2微粒子は、200〜500cm−1のブロードなスペクトルがほとんど消失せず、波数約494cm−1の4員環のピークは見られるが、波数約606cm−1の3員環のピークはほとんど見られない。つまり、温度が上昇しても4員環は形成されるが3員環はほとんど形成されず、さらに多数の多員環を有しているため水酸基が脱離し難い構造であると考えられる。このように、SiO2の構造と水酸基の脱離についてはなんらかの関係があり、波数490〜610cm−1に比較的大きなピークがあると水酸基の脱離が容易な構造であると考えられる。また、SiO2の温度上昇に伴う構造の変化はSiO2に含まれる不純物が影響していると推測され、特にPVS法のように製法上生成されたSiO2にカーボンが含有する場合には、カーボン含有率を規定することが有効であると考えられる。
次にHClについて考察する。高温加水分解法によって製造されるSiO2微粒子およびAl2O3微粒子はそれぞれ以下の化学式(1)、(2)のように製造される。
式1の右辺に示すように生成物の中にHClが含まれており、これが試料の中に混入するために表1に示した高温加水分解法によって製造されたAl2O3微粒子およびSiO2微粒子の成分中にはHClが含まれる。HClがガラスバルブ1内に残留していると、ガラスバルブ内に封入したHgと反応しガラスバルブの黒化原因の一つとなる可能性が考えられる。ガラスバルブ1内に残留するHClは、保護膜のAl2O3およびSiO2に付着したものが由来であるが、これはAl2O3およびSiO2を製造する上で混入するものであり、高温水蒸気処理では完全に取り除く事が困難であった。しかしながら、PVS法によって生成されたSiO2はSi蒸気と酸素を直接反応させることで得られるものであるため、HClが混入することがない。また、高温加水分解法によって製造されたSiO2微粒子のスラリーのpHは3.6〜4.5と酸性を示し、SiO2は等電点がpH2〜3と低いことからSiO2微粒子のスラリー中のSiO2微粒子は凝集し分散性が悪くなる。このSiO2微粒子のスラリーを発光管の内面に塗布して保護膜を形成する場合、膜厚を均一に形成することが困難になるため、水溶液のpHを調整する必要があり、水溶液の管理が面倒である。これに対して、PVS法によって生成されたSiO2微粒子のスラリーのpHは6.5であり、ほぼ中性なので、水溶液を精度よく管理する必要がなくなり、膜厚を均一に形成することができる。
次に、発光管内に残留するCO、CO2との関係について説明する。ガラスバルブ内に残留するCO、CO2は主に電極のエミッタ物質を形成するときに発生するものである。CO、CO2はガラスバルブ内に封入された水銀と反応してHgOを形成し、ガラスバルブの黒化原因となる。しかし、Al2O3はCO、CO2を吸着することが知られており、Al2O3微粒子を保護膜として用いるとCO、CO2による黒化原因を取り除くことは難しい。それに対し、SiO2はCO、CO2を吸着しにくい傾向にあることが実験的に示唆されており、SiO2微粒子を保護膜として用いると、Al2O3微粒子からなる保護膜に比べて光束維持率が改善されると考えられる。
PVS法によって製造された本実施形態のSiO2微粒子は、排気温度を高くすると高温加水分解法によって製造されたSiO2微粒子に比べて、さらに有利であることを説明する。従来のランプの製造は、ガラスバルブに保護膜および蛍光体層を形成したあと、ガラスバルブの温度を450〜480℃まで上昇させながら排気するが、本実施形態の排気方法によれば、保護膜および蛍光体層を形成したあと、排気工程に入る前に、ガラスバルブ1内に不活性ガスをフローしながら、ガラスバルブ1の温度を600〜650℃まで上昇させ、その後ガラスバルブ1の内壁を大気に直接接触させることなくガラスバルブの温度を450〜480℃まで下げて排気する。つまり、本発明によればガラスバルブ1の温度を排気工程の直前で排気時の温度よりも高くすることができるので、従来の製造方法で製造されたものよりも残留水酸基の少ない蛍光ランプが製造できる。さらに、PVS法によって製造されたSiO2微粒子は水酸基の脱離に対する温度依存度が、高温加水分解法によって製造されたSiO2微粒子よりも大きいために、高温での脱離効率がよくなる。ただし、600〜700℃程度で孤立水酸基以外はほとんど脱離するためそれ以上の加熱はあまり意味がなく、また不活性ガスのフローによってガラスバルブ内の圧力調整ができる温度は650℃までであることから、排気前のガラスバルブの加熱は500〜650℃、好ましくは550〜650℃、さらに好ましくは600〜650℃が望ましい。
次に、本発明による第2の実施形態について説明する。
図10、本実施形態の蛍光ランプの拡大断面を示す電子顕微鏡写真である。この写真で示すように、ガラス管(ガラスバルブ1)の内表面上にはPVS法によって造粒された平均粒径25nmのSiO2微粒子を主成分として0.1〜2.0μmの膜厚で保護膜を形成し、この保護膜上に蛍光体粒子を分散させて蛍光体層を形成している。
図11は、本発明による第2の実施形態の環形蛍光ランプの正面図、図12は図11の環形蛍光ランプのバルブの断面図を示す。なお、図中、各被膜などの膜厚や被着形態などは説明上のもので一部誇張して示してあり、必ずしも他構成部材との寸法比率などは現実のものとは異なっている。
図示の環形蛍光ランプ20において、21はソーダライムガラスや鉛ガラスなどの円筒形ガラス管を曲成した環形のバルブ、22、22はステム、21a、21aは上記バルブ21の端部に形成したステム22との封着部で、上記バルブ21とステム22、22とで気密容器を構成している。
上記ステム22は、フレヤ状をなすガラス管からなり一対のリード線24と排気管(図示しない)とを圧潰封着しているとともにこのリード線24間にタングステン素線を巻回したコイル状のフィラメントからなる電極25が継線してある。なお、上記ステム22は、フレヤステムに限らずボタンステムやビードステムを用いたものであってもよい。
また、26は第1の実施形態と同一構成の保護膜であり、水銀や紫外線による黒化防止およびバルブ21からのアルカリ金属の析出の防止のためバルブ21内表面のほぼ全面に塗布形成されている。すなわち、保護膜26は、PVS法によって生成された平均粒径が0.01〜0.05μm、BET値が90〜160cm2/g、カーボン含有率が質量比で0.09〜0.3%のSiO2微粒子を主成分とし、0.1〜0.5μm程度の膜厚で形成されている。
27はこの保護膜26上に形成された可視光を反射する半透明の光反射膜で、バルブ21の管軸に沿う上方側にバルブ1周方向の所定角度範囲に塗布形成され平均粒径が0.5〜10μm程度の蛍光体、酸化アルミニウム、酸化チタンまたはピロリン酸カルシウムから選ばれた少なくとも一種の材料を主体として粒径によっても変わるが1〜40μm、好ましくは3〜30μm程度の膜厚で形成されている。なお、光反射膜27は下方側の保護膜26上には光反射膜27が形成されない開口部27aを有している。
28は蛍光体層で、上記光反射膜4上および開口部27a上に形成した3波長発光形蛍光体やハロリン酸カルシウム(白色蛍光体)などの蛍光体の微粉末を塗布して形成されている。
バルブ21は、直管の形状で内面に保護膜26、光反射膜27および蛍光体層28を形成した後、軟化温度まで加熱して曲成加工される。バルブ21に使用されるガラス材料は、加工性やコストを考慮するとソーダライムガラスや鉛ガラスが一般的に使用される。これらのガラス材料は、600〜700℃前後で軟化するので、約800℃に加熱した後曲成加工される。本願の保護膜26に用いられるSiO2微粒子は、ガラス材料が曲成加工される800℃前後まで温度上昇すると孤立水酸基以外の水酸基がほとんど取れるため、バルブ1の曲成加工と同時に保護膜26に吸着した水酸基の脱離が完了する。曲成加工が終了するとバルブ1は内部の気体が排気されて端部が封止される。このように、環形蛍光ランプの場合には排気と同時に不活性ガスのフローを行う必要がなく製造が容易である。
上記保護膜26、光反射膜27および蛍光体層28は、各材料と、アルミナやシリカなどの金属酸化物の微粒子系結着剤またはホウ酸やリン酸などの低融点化合物系結着剤と、ニトロセルロースなどの有機系溶剤あるいはメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリエチレンオキサイドなどの水溶性溶剤とを混合した懸濁液を塗布することにより形成できる。なお、結着剤を構成する金属酸化物微粒子は保護膜26を構成する材料と同様の材料を用いてもよい。
そして、例えばここでは上記保護膜26は、平均粒径が約0.03μm、BET値160cm2/g、カーボン含有率が0.28質量%、のPVS法によって生成されたSiO2微粒子を主体とする微粉末材料の懸濁液をバルブ1内表面のほぼ全面に塗布したものからなり、約0.4μmの膜厚で形成されている。
また、光反射膜27は、ピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの平均粒径が1.0〜8.0μmの微粒子を用いることができ、これらの内1種またはこれらを複数種適宜混合させたものを主成分としてもよい。なお、これら微粒子以外にホウ酸バリウム・カルシウム(バリウム・カルシウムボレート)、酸化ランタン、酸化ジルコニウムなどの材料が含有されていてもよい。本実施形態では平均粒径が約5μmのピロリン酸ストロンチウムを主体とする微粉末材料が用いられ、このピロリン酸ストロンチウム(100質量%)に対し平均粒径が0.5μmのバリウム・カルシウムボレートを結着剤として4質量%と、ニトロセルロースとを混合した懸濁液を上記保護膜26上の所定角度、例えば円周方向の開き角度約150゜(垂直中心線から片側各約75゜)の範囲に膜厚が約30μmで形成されている。
なお、光反射膜27を形成するピロリン酸ストロンチウムを主体とする微粉末材料に添加する結着剤としての例えばバリウム・カルシウムボレートは平均粒径が1.0〜8.0μmのピロリン酸ストロンチウム(100質量%)に対し、3〜6質量%(好ましくは3.5〜5.5質量%)添加することにより所望の被着強度が得られ、この上下限値を外れると剥離や発光特性の低下などを招くことが分かった。
また、蛍光体層28は例えばユーロピウム付活ハロリン酸バリウム・カルシウム・ストロンチウム(青色蛍光体)、セリウム・テルビウム付活リン酸ランタン(緑色蛍光体)、ユーロピウム付活酸化イットリウム(赤色蛍光体)の三種の蛍光体の混合微粉末の懸濁液を上記光反射膜27上および開口部(光反射膜非形成部)27aに塗布して形成されたものからなり、その平均粒径は約3.7μm、平均膜厚は約25μmである。
また、このバルブ21内には液状や合金化した水銀およびアルゴンAr、クリプトンKrやネオンNeなどの希ガスが単独または混合して250〜360Pa(パスカル)封入されている。また、図中29はピン端子30,…を備えたG10q形の口金で、曲成したバルブ21の両端封着部を橋絡して固定されている。
このような構成の環形蛍光ランプ20は口金29を点灯回路装置に接続して、口金29、リード線24、24を介し電極25、25に通電して点灯すると、ランプ20は環状をなすバルブ21の全周面から光放射をする。そして、この蛍光ランプ20からのバルブ21を横断した外周面からの光放射は均等ではなく、バルブ21の周方向180°以上の範囲に光反射率の高い光反射膜27が、残部に光反射膜27を形成していない光反射率が低く光透過率が高い開口部27aを略正対させている。このため、バルブ軸方向に沿う下方側の開口部27aから放射される光強度(光量)は、バルブ21内の光反射膜27で反射され開口部27aに向かった分も加わって強く(多く)なり、開口部の照射方向の被照射面はより明るくなる。また、上記半透明の光反射膜27を透過して上方側からも光が放射される。このように配光制御された蛍光ランプは、上方側に放射される光を光反射膜27によって下方照度の向上に利用できるため、使用に伴いバルブの上方側に埃が堆積してもそれほど光束が低下することがない。また、光反射膜27は水銀の打ち込みを防止し光束維持率を向上させる効果が期待できる。
しかし、下方側の光強度を増大させて有効に配光制御するためには光反射膜27の膜厚は20μm以上必要であり、蛍光体層28と合わせると40〜50μmになるため剥がれが生じやすい。特に、保護膜26の膜厚が0.9μm以上になると光反射膜27が剥がれやすい。一方、保護膜26の膜厚が0.1μm以下になると水銀のバルブへの打ち込みを有効に防止することができない。このため、保護膜の平均膜厚は0.3〜0.7μmが好ましい。
バルブ内表面への光反射膜27の形成は、反射膜材料を懸濁液として塗布するなどの手段で行うことができる。懸濁液の場合は水平に載置した直管形ガラス管バルブ内の所定形成位置にまで反射膜材料の懸濁液を注入した後、懸濁液を排出したり、斜めにした直管形ガラス管バルブの上方開口端側から反射膜材料の懸濁液をバルブを周方向に回動しながら所定範囲に流し込み下方開口端側から排出した後、バルブを水平にして乾燥したり、あるいはバルブ内にスプレーのノズルを1本ないし複数本入れてノズルから塗布材を噴射しながらバルブ軸に沿って直線的や揺動させながら移動することにより塗布して付着した塗布液を乾燥させる。光反射膜27は、この乾燥の後ベーキングして完成する。
また、バルブ表面に形成した光反射膜27の主体材料としてピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウムのうち1種またはこれらを混合して用いる場合には、この主体材料の表面にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛の酸化物のうちから選ばれた少なくとも一種の微粒子を付着しておくことにより、主体材料が水銀化合物を形成して変色を生じたり水銀を早期に消耗してランプの短寿命を招くことを防止できる。つまり、ピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウムは水銀や水銀化合物と比較的反応し易い物質なので、その表面に酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムや酸化亜鉛の微粒子を付着させて帯電傾向等を制御することによって、ピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウムからなる光反射膜4の水銀やその化合物に起因する変色を抑制できる。
上記光反射膜27を構成するピロリン酸ストロンチウム、ピロリン酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウムの平均粒径は1.0〜8.0μm、好ましくは3.0〜8.0μm程度である。また、これら酸化チタンやピロリン酸カルシウムの表面に付着されるMg、Ca、Sr、Ba、Znなどの酸化物を、ピロリン酸ストロンチウム、酸化チタン、ピロリン酸カルシウムに対して0.01〜5.0質量%,好ましくは0.02〜3.0質量%程度付着されている。
また、この光反射膜27の形成材料に限らず、蛍光体層28を構成する蛍光体に上記酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムや酸化亜鉛の微粒子を付着させてもよい。この付着によっても、蛍光体層6が水銀やその化合物により生じる変色および水銀の枯渇を抑制して上記と同様な作用効果を得ることができる。
この酸化物は、平均粒径5〜100μm程度の微粒子として表面に付着させてもよいが均質な被膜として表面にコーティングして付着させてもよい。
なお、第2の実施形態では、これら重層被膜をバルブ21内面に保護膜26、半透明の光反射膜27、蛍光体層28の順で形成する構成について説明した。しかし、この構成の重層皮膜は蛍光体層28の形成時に下層の光反射膜27が蛍光体スラリーの有機溶媒に光反射膜形成材料の有機バインダが溶けることにより溶け出すことがあった。このため光反射膜27と蛍光体層28とを有機スラリー、水溶性スラリーのように使い分けて形成するか、または光反射膜27の形成に際し光反射膜形成材料の塗布後にベーキングを行ってからこの上面に蛍光体懸濁液を塗布してベーキングを行い蛍光体層28を形成するなど複雑な工程を要していた。また、光反射膜27にホウ素系結着剤を使用する場合には蛍光体とこの結着剤とが化学的に反応し蛍光体が劣化し光束が低下するおそれがある。
そこで、図13に示すように上記の重層被膜を半透明の光反射膜27、保護膜26、蛍光体層28の順で形成してもよい。この構成であれば、光反射膜27と蛍光体層28を有機スラリーで、また、保護膜26を水系のコロイド溶液で形成することによって製造を容易にするとともに、光反射膜27に添加される結着剤と蛍光体との反応を防止することができる。
この構成の重層被膜は以下のように形成することができる。例えばバルブ21の内面に1重量%のニトロセルロース酢酸ブチル溶液にピロリン酸カルシウムを分散させた懸濁液をバルブ21の径方向約200°の範囲に塗布し乾燥させる。このとき約30μmの厚さになるようにしておく。次に、上記塗布膜上および露出しているバルブ内面に水に分散させたSiO2微粒子のコロイド溶液を約1μmの厚さになるように塗布し乾燥させる。さらに、この塗布膜上に1重量%のニトロセルロース酢酸ブチル溶液に蛍光体を分散させた懸濁液を約20μmの厚さになるように塗布し乾燥させる。
そして、このバルブ21を焼成炉に入れベーキングを行って上記3層の被膜を形成する。このバルブ21は、両端にステムが封着され、環形に曲成された後、排気、口金付け、エージングを経て環形蛍光ランプ30が完成する。
上記のように光反射膜27と蛍光体層28を有機スラリーで、また、光反射膜27と蛍光体層28との間の保護膜26を水溶性スラリーで形成して、3層の被膜形成を行うことによって、従来のように各膜の形成に際し行っていたベーキング回数を減らし、製造工程の簡略化がはかれるとともに、被膜の熱劣化を低減した生産性が高く品質の向上した蛍光ランプが得られた。
また、図11〜13では環形蛍光ランプに光反射膜を形成する場合について説明したが、本発明は直管形の蛍光ランプ、コンパクト形蛍光ランプ、U字形状およびU字形状に曲成した複数本のバルブを連結して形成した発光管を用いる電球形蛍光ランプなどにも適用できる。
図14は、本発明の上記直管形蛍光ランプを用いた照明装置の一例を示す概略図である。図に示す照明装置Dは天井直付け形の照明器具であって、図中D1は照明器具本体で、この本体D1には天井面などの構造体への取付具(図示しない。)、電源接続機構や安定器D2などの点灯装置が収納され、この本体D1の下方には一対のランプソケットD3、D3が取付けられ、その間に蛍光ランプ10が装着されている。この蛍光ランプ10はソケットD3、D3に支持されているとともに、安定器D2およびソケットD3、D3を介して給電され、安定的に点灯される。