JP4770046B2 - 移動体システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、移動体を所定の経路に沿って移動させる移動体システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、半導体工場などにおいては、半導体部品を搬送したり、作業ロボットを移動させる移動体システムが用いられている。このような移動体システムしては、リニアモータ方式やボールスクリュー方式などがある。リニアモータを利用した方式は、ほこり等の発生が少なくクリーンであり、また静粛性にも優れていおり、さらに移動体の位置決め精度も高いといった利点がある。この他にも、1つの軌道上に複数の移動体を配置するが可能であるといった利点や、摩耗部分が少なく耐久性に優れるといった利点など様々な利点がある。したがって、半導体製造装置(特にステッパーや露光機等)においては、リニアモータ方式の移動体システムが広く用いられるようになっている。
【0003】
ここで、図12に従来のリニアモータ方式を用いた移動体システムの構成を示す。同図に示すように、このシステムでは、移動体3は、図の紙面垂直方向に敷設された断面コ字状の軌道レール構造体1に沿って直線ガイド部2により移動可能に案内支持されている。移動体3は、コア4と、コア4に券回されるコイル5と、コア4を支持する支持部材9とを備える磁界発生機構8を備えている。この磁界発生機構8では、コイル5に電流を供給することにより、軌道レール構造体1におけるコア4と対向する位置に配置された二次側コア6との間に磁界を発生し、これにより推力を発生して移動体3を移動させる。
【0004】
このような移動体3には、上述した推力を発生する磁界発生機構8に加え、半導体部品を吸着するする部品吸着ヘッドなどが搭載される搭載部7が設けられている。ここで、搭載部7と上記磁界発生機構8の支持部材9とがボルト10により固定されている。従って、搭載部7に実装ヘッド等を搭載すれば、この部品吸着ヘッドを軌道レール構造体1中の任意の位置に移動させることができるようになっている。
【0005】
ところで、移動体システムにおいては、上述した移動体3に搭載したロボットなどをある直線上だけでなく、所定範囲内で平面的(X方向、Y方向)に任意に移動させるために、図13に示すようなシステムが用いられることがある。同図に示すように、このシステムでは、X軸方向に敷設される軌道レール構造体1および移動体3などを含む上記のリニアモータシステム16(図12参照)自体をボールスクリュー方式でY軸方向に移動できるようにしている。具体的には、リニアモータシステム16をボールスクリュー15によって駆動される架台に固定し、ボールスクリュー15をモータ17で駆動することにより、リニアモータシステム16全体をY軸方向に移動させることができるようになっている。このシステムによれば、ボールスクリュー15およびリニアモータの両者の駆動を制御することにより、移動体3をXY平面の任意の位置に移動させることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、リニアモータ方式の移動体システムは、上述したような様々な利点を有しているものの、動作時の発熱量がボールスクリュー方式等と比較して大きい。また、リニアモータ方式の移動体システムは、主な発熱源が移動体3である、すなわち発熱源が移動する構成である。したがって、リニアモータ方式の移動体システムは、発熱によってその性能が劣化する等の影響を受けやすく、現状のリニアモータ方式の移動体システムでは、水冷等の冷却方式によって発熱による影響を低減している。
【0007】
しかしながら、半導体製造装置におけるチップ実装装置では、上記のような水冷方式の冷却を行うことができず、発熱による温度上昇に伴って移動体システムを構成する部材が変形し、システムとしての精度が低下してしまうといった問題が生じる。
【0008】
特に、上記のような移動体システムでは、軌道レール構造体1や直線ガイド部2といった複複雑な形状の部材が複数組み合わされて構成されており、また主な発熱源である磁界発生機構8や直線ガイド部2と移動体3の摺動部分がこの構造体の中立軸からずれた位置にある。このため、バイメタル効果によって図14に示すようにX軸方向に移動体3を案内する軌道レール構造体1が湾曲してしまい、移動体3のY軸方向の位置がずれてしまうといった位置精度不良を招くことになる。例えば、チップ実装装置に当該移動体システムを適用した場合には、X軸方向の軌道レール構造体1が1.5m程度の長さであり、このような長さの軌道レール構造体1がバイメタル効果によって湾曲して移動体3がY軸方向に0.1mm程度ずれてしまうこともある。移動体3が半導体製造工程に用いられるチップ実装装置等を搭載し、このチップ実装装置を移動させるための移動体システムでは、上記のような位置ずれはきわめて大きな問題となる。
【0009】
ここで、バイメタル効果は、以下のような要因で発生することになる。
(1)構造体の形状が複雑であり、温度分布が不均一となる。
(2)構造体を構成する部材の熱膨張係数が異なっている。
(3)冷却条件等によって構造体の温度分布が不均一である。
(4)中立軸上に発熱源がない。
【0010】
したがって、上記のような要因がない構造の移動体システムを設計すれば、発熱によるバイメタル効果を抑制することができ、上記の位置精度不良といった問題を低減することができるが、そのシステムの構造上、上記の各要因を含まない構造の移動体システムを設計するのは実質的に困難である。
【0011】
また、上記のようなリニアモータ方式以外の方式の移動体システムであっても、発熱に伴うバイメタル効果によって上記のリニアモータ方式と同様に位置精度不良が生じる虞もある。また、発熱に起因するものに限らず、移動体3が搭載する重量負荷変動や移動体3の位置変動によって構造体の変形が生じ、位置精度不良を招くこともあり得る。
【0012】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、簡易な構成でありながら、優れた位置決め精度で移動体を移動させることが可能な移動体システムを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明に係る移動体システムは、所定の経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体とを備えた移動体システムであって、前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面に平行である前記断面の中心線を挟んで対称となるように、前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備することを特徴としている。また、本発明は、所定の経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体とを備えた移動体システムであって、前記経路構造体における前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面をそれぞれ通る中立軸を挟んで、前記移動体とは反対側となるように前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備することを特徴としている。
【0014】
この構成によれば、移動体を案内する経路構造体が移動体の運動(例えば経路構造体との間の摩擦熱)に起因して変形した場合にも、移動体の運動状態に応じて経路構造体への加熱を制御することができる。例えば、経路構造体が移動体の移動速度が大きいといった運動状態に起因して膨張している場合には、運動状態に応じてその部分から加熱する量を制御することができる。これにより、移動体の位置決め精度に大きな影響を及ぼす経路構造体の変形を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の別態様に係る移動体システムは、第1の直線経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体を有する第1移動体機構と、前記第1の移動体機構を前記第1の直線経路と直交する方向に移動させる第2の移動体機構とを備える移動体システムであって、前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面に平行である前記断面の中心線を挟んで対称となるように、前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備することを特徴としている。また、本発明は、第1の直線経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体を有する第1移動体機構と、前記第1の移動体機構を前記第1の直線経路と直交する方向に移動させる第2の移動体機構とを備える移動体システムであって、前記経路構造体における前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面をそれぞれ通る中立軸を挟んで、前記移動体とは反対側となるように前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備することを特徴としている。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
A.実施形態
まず、図1は本発明の一実施形態に係る移動体システムの主要部の外観を示す斜視図である。同図に示すように、この移動体システムは、X軸方向に伸びる直線状に敷設された軌道レール(経路構造体)30と、軌道レール構造体30に沿って移動可能に設けられる移動体31とを有する第1移動体機構32と、第1移動体機構32をX軸と直交するY軸方向に移動させる第2移動体機構33とを備えている。
【0017】
第2移動体機構33は、X軸方向に伸びる軌道レール構造体30の両端側に固定される移動架台330,340を有しており、当該移動架台330,340は各々Y軸方向に直線状に敷設された軌道レール331,341に沿って移動可能になされている。これにより、軌道レール構造体30はX軸方向に延在した状態を維持したまま移動架台330,340の移動に伴ってY軸方向に移動させられるようになっている。
【0018】
この移動体システムでは、ある座標位置(X1,Y1)に移動体31を移動させる場合には、Y軸方向の位置情報(Y1)に示される位置に、第2移動体機構33の移動架台330,340を軌道レール331,341に沿って移動させる。このように第2移動体機構33によってY軸方向の位置決めが行われるとともに、第1移動体機構32は、X軸方向の位置情報(X1)に示される位置に移動体31を移動させる。このようにして第1移動体機構32および移動体31を、目標位置のX座標およびY座標にしたがって制御することにより、移動体31をXY平面内の任意の位置に移動させることができるようになっている。
【0019】
次に、第1移動体機構32の詳細について図2および図3を参照しながら説明する。図2に示すように、この移動体システムは、所定の軌道に沿って敷設された軌道レール構造体30に沿って移動体21が移動可能になされている。図3に示すように、軌道レール構造体30は、側方が開放した断面コ字状の部材であり、その上下の内側面に沿って二次側コア22が設けられている。また、軌道レール構造体30の上下両端部20aには、それぞれリニアガイド23が設けられており、このリニアガイド23に移動体31が摺動可能に支持されている。これにより、移動体31は軌道レール構造体30に沿って移動することができるようになっている。
【0020】
移動体31は、箱状の軌道レール構造体30の内部に配置され、上記二次側コア22とともに磁界を発生してこの移動体31に推力を付与する磁界発生機構24と、磁界発生機構24の側方に配置され、半導体部品実装ヘッドなど所定の作業を実行する機器などを搭載する作業用保持部材25と、磁界発生機構24とを備えている。
【0021】
磁界発生機構24は、上述した軌道レール構造体30に沿って設けられる各二次側コア22に対向する位置に設けられる一次側コア27と、各一次側コア27に券回されるコイル28と、一次側コア27およびこれに券回されるコイル28を支持する支持部材29とを備えている。ここで、図4を参照しながら、磁界発生機構24と軌道レール構造体30に設けられた二次側コア22とによる移動体31の具体的な駆動構成例について説明する。本実施形態では、二次側コア22と、一次側コア27およびコイル28とは、支持部材29を挟んで2組設けられているが、両者は同一の原理で動作するため、一方のみを図示してその動作原理について説明する。
【0022】
図4に示すように、軌道レール構造体30に設けられた二次側コア22の一次側コア27と対向する面には、歯部22aが長手方向に沿って等間隔に形成されている。移動体31の一次側コア57は、コ字状のA相鉄心70およびB相鉄心71と、A相鉄心70のA相磁極70aおよび相磁極70bに券回されるコイル28a,28bと、B相鉄心71のB相磁極71aおよび相磁極71bに券回されるコイル28c,28dと、A相鉄心70およびB相鉄心71の二次側コア52と反対側の面に設けられた永久磁石72,73と、永久磁石72,73に取り付けられた板状の磁性体によって構成されるバックプレート74とから構成されている。A相磁極70aの二次側コア22と対向する面には、歯部22aのピッチPと同一ピッチで3個の極歯75aが形成されており、その他の磁極70b,71a,71bにも同様に3個の極歯76b,77a,77bが形成されている。また、各磁極70b,71a,71bはA相磁極70aに対して順次P/4ずつずらして配置され、これにより各磁極70b,71a,71bは互いに位相が90°ずつ異なった位置関係となっている。このような構成の下、コイル28a,28b,28c,28dに一相励磁方式等によりパルス信号を供給することにより、コイル28a,28b,28c,28dに順次発生する磁束と、永久磁石72,73が発生する磁束とが各磁極70a,70b,71a,71bにおいて順次加減され、二次側コア22に対する移動体31の磁気的安定位置が順次移動し、これにより移動体31が二次側コア22に沿った方向、つまり軌道レール構造体30に沿って移動させられる。
これは、一般的なリニアパルスモータの構成であるが、この他にも、例えば特開平3−124259号公報に記載されたリニアパルスモータ方式などを用いるようにしてもよい。
【0023】
図3に戻り、作業用保持部材25は、略板状の部材であり、その図の左右両端側において上述したリニアガイド23に支持されている。また、作業用保持部材25の磁界発生機構24と反対側の面(図3の右側面)には、所定の作業を実行するための装置等が取り付けられている。例えば、半導体部品実装作業を実行する場合には、半導体部品実装ヘッドや半導体部品搬送用ロボットなどが搭載され、単に半導体部品を搬送する作業を実行する場合には、半導体部品等を収容するラックなどが搭載されることになる。なお、作業用保持部材25が搭載する作業用機器としては、上述した半導体製造に関わるものに限定されるものではなく、他の用途に用いられるロボット等であってもよい。
【0024】
作業用保持部材25は、磁界発生機構24の支持部材29とがボルト29aによって結合されている。これにより、作業用保持部材25およびこれに搭載されるロボットや実装装置などは、軌道レール構造体30上の任意の位置に移動することができるようになっている。
【0025】
以上がリニアモータ方式によって駆動される第1移動体機構32の駆動に関わる構成である。第2移動体機構33も上述した第1移動体機構32と同様の駆動構成によって軌道レール構造体30の両端を支持する移動架台330,340をY軸方向に駆動できるようになっているため、第2移動体機構33についての詳細な説明は割愛する。
【0026】
第1移動体機構32は、磁界発生機構24の発生する磁界によって移動体31を軌道レール構造体30に沿って移動させることができるが、移動体31を移動させると、磁界発生機構24による発熱(銅損、鉄損等による発熱)や、リニアガイド23と移動体31との間の摩擦による発熱が生じてしまう。このような発熱に伴うバイメタル効果によって軌道レール構造体30が湾曲等すると、移動体31の位置精度の悪化を招くことになるが、本実施形態に係る移動体システムは、このような位置精度の悪化を低減するための構成を有しており、以下当該構成について詳細に説明する。
【0027】
図5に示すように、第1移動体機構32における熱の発生源は主に磁界発生機構24や、リニアガイド23と移動体31との摺動部分であり、発生した熱は図中矢印で示すように、支持部材29→作業用保持部材25→リニアガイド23→軌道レール構造体30の両端部20aといった順序で伝達され、この伝達経路に伝達されている間に作業用保持部材25や軌道レール構造体30といった部分で発散されることになる。すなわち、図5に示す右側の部分である移動体31側の部分に伝達される熱量が多く、伝達される途中の発散により図の左側部分である軌道レール構造体30の側面部30cに伝達される熱量が少ない。したがって、図5に示す右側部分の熱によって膨張する一方で、図の左側の部分が縮み、この結果、軌道レール構造体30は湾曲してしまうことになる(図14参照)。ここで、図中一点鎖線は、このような熱変形が生じた場合に、変形が生じない部分である中立軸を示す。このようなバイメタル効果による軌道レール構造体30の変形は、磁界発生機構24による発熱に起因するものは比較的長い時間をかけて変形するのに対し、リニアガイド23と移動体31との摺動摩擦によって生じる熱による変形は熱時定数が小さいため、移動体31の運転状態に応じて短時間で変形してしまうことになり(例えば運転速度が速い状態ではすぐに変形量が大きくなる)、位置精度の悪化に大きな影響を及ぼすことになる。本実施形態では以下のようにしてバイメタル効果による熱変形(特に、リニアガイド23と移動体31との摺動摩擦によって短時間で生じる熱変形)に起因する位置精度の悪化を抑制している。
【0028】
本実施形態に係る移動体システムでは、図3および図5に示すように、軌道レール構造体30の側面部30cの磁界発生機構24と反対側の面にテープ状のヒータ51が取り付けられている。この移動体システムでは、軌道レール構造体30の側面部30cに取り付けられたヒータ51への供給電流を制御することにより、上述したようなバイメタル効果による軌道レール構造体30の湾曲を抑制しているが、以下、ヒータ51への供給電流の制御を行う制御システムについて図6を参照しながら説明する。
【0029】
同図に示すように、この制御システムは、ヒータ51への供給電流を制御する熱量制御装置60を有している。熱量制御装置60は、駆動制御装置61から供給される運転パターン情報に基づいて、ヒータ51に供給する電流を制御する。
【0030】
ここで、駆動制御装置61には、当該移動体システムの第1移動体機構32において、移動体31をどのように駆動するかを示す運転パターン情報(どちらの方向に、どのような速度で移動させるか等を時系列で示した情報)が設定されている。移動体31がチップ実装装置等を搭載する場合には、半導体製造工程において、そのチップ実装装置をどのように移動させるかによって運転パターン情報が決められることになる。
【0031】
駆動制御装置61は、設定されている運転パターン情報にしたがって移動体31が移動するように移動体31に搭載された図示せぬコントローラに対して制御信号を出力する。移動体31のコントローラは、この制御信号に基づいてコイル28への電流供給を制御することにより、設定された運転パターンにしたがって移動体31が移動するようになっている。なお、運転パターン情報は予め移動体31のコントローラに設定しておくようにし、この設定にしたがって移動体31のコントローラがコイル28に電流を供給するようにしてもよい。
【0032】
熱量制御装置60は、このような運転パターン情報を駆動制御装置61から取得し(移動体31のコントローラに設定されている場合にも、その設定された運転パターン情報を何らかの手法で取得すればよい)、当該運転パターン情報に基づいて、ヒータ51への電流供給を制御するのである。より具体的に説明すると、熱量制御装置60は、運転パターン情報に示される移動体31の移動速度に応じた値の電流をヒータ51に供給する。例えば、図7(a)に示すように、運転パターン情報にしたがって移動する移動体31の速度が変動する場合には、熱量制御装置60は、図7(b)に示すように移動体31の速度が大きいときには大きい値の電流をヒータ51に供給し、移動体31の速度が小さいときには小さい値の電流をヒータ51に供給するといったように移動速度に比例した値の電流を供給する。
【0033】
ヒータ51に供給される電流値は、軌道レール構造体30におけるヒータ51が取り付けられた部位の近傍に加えられる熱量に比例するので、上記のような熱量制御装置60による電流供給制御の結果、ヒータ51が取り付けられた部位の近傍には、移動体31の移動速度に比例した熱量が加えられることになる。すなわち、熱量制御装置60が上記のようなヒータ51への電流供給制御を行うことにより、移動体31の移動速度の大小に比例した熱量が軌道レール構造体30における側面部30cに加えられるのである。
【0034】
リニアガイド23と移動体31との間の摺動摩擦による発熱は、移動体31の移動速度が大きくなればなるほど大きくなるため、この摺動摩擦に伴う発熱によって短時間で生じるバイメタル効果による熱変形も移動体31の速度が大きくなると、それに比例して大きくなる。すなわち、移動体31の移動速度が大きくなればなるほど、図5に示す中立軸よりも移動体31側の部位の膨張具合が大きくなり、中立軸よりも側面部30c側の縮み具合が大きくなるのである。これに対し、本実施形態では、上述したように移動体31の移動速度の大きさに比例した電流がヒータ51に供給され、移動体31の移動速度の大きさに比例した熱量が側面部30c(バイメタル効果によって縮む部分)に加えられることになる。この結果、移動体31の移動速度に比例するバイメタル効果による側面部30cの縮み具合の大小に関わらず、その縮みを抑制するための適切な熱量が側面部30cに加えられることになる。したがって、移動体31とリニアガイド23との間の摺動摩擦による発熱に起因する軌道レール構造体30の湾曲を抑制することができる。
【0035】
このように本実施形態に係る移動体システムの第1移動体機構32では、移動体31の移動速度に応じてヒータ51に供給する電流を制御するようにしているので、第1移動体機構32における移動体31の運転状態によって発熱量が変動した場合にも軌道レール構造体30が湾曲しないようにすることができる。したがって、移動体31を駆動することによって発熱した場合にも、移動体システムのY軸方向の位置決め精度が悪化してしまうことを低減することができる。
【0036】
また、本実施形態では、移動体31の移動速度といった運転状態に応じてヒータ51に供給する電流値を決定しているので、軌道レール構造体30の変形具合等を検出するセンサ等を用いる必要がなく、簡易な構成でありながら、上記のように位置決め精度の悪化を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態では、発熱に伴うバイメタル効果によって変形してしまう形状や材質の軌道レール構造体30を用いた場合にも、軌道レール構造体30の変形を抑制することができる。したがって、軌道レール構造体30の形状や材質を選択する際に、バイメタル効果による変形を抑制することを考慮する必要がなく、すなわちバイメタル効果が生じないような材質や形状を採用するといった設計上の制限がなくなり、設計の自由度が増す。したがって、他の設計条件(例えば、軽量化、省エネルギー化、低振動、コスト等)を優先した設計が可能となる。
【0038】
B.変形例
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
【0039】
(変形例1)
上述した実施形態では、軌道レール構造体30の側面部30cのほぼ中央部分にヒータ51を取り付けるようにしていたが、その取り付け位置はこの位置に限らず、例えば図8に示すように、側面部30cの上端部30dおよび下端部30e近傍の各々にヒータ51の組を取り付けるようにしてもよい。
【0040】
このように上端部30dおよび下端部30eにヒータ51を取り付ける場合には、上述した発熱によるバイメタル効果に起因する軌道レール構造体30の変形だけではなく、移動体31や移動体31が搭載する実装ロボット等の重量に起因する軌道レール構造体30の変形を低減できるように上端部30dおよび下端部30eに取り付けられた各ヒータ51に供給する電流値を制御するようにしてもよい。
【0041】
すなわち、第1移動体機構32においは、移動体31および移動体31が搭載するロボット等の重量によって符号Sで示すせん断中心を中心とした図中時計回りの回転モーメントが作用する。このように作用する回転モーメントによって軌道レール構造体30の上端側が伸びるような応力が加わる一方で、下端側は縮むような応力が加わることになる。移動体31が搭載するロボット等の重量が大きい場合には、この変形量による高さ方向(Z軸方向)の位置精度の悪化が無視できないほど大きくなることもある。そこで、上記のように上端部30dおよび下端部30eにヒータ51を取り付ける場合には、予め上記のように作用する回転モーメントによる変形を是正するために上端部30dおよび下端部30eに取り付けられたヒータ51に供給すべき電流値を求めておく。そして、上述した実施形態と同様に、移動体31の移動速度に応じて求めた電流値に、上記電流値を加えた値の電流をヒータ51に供給する。
【0042】
移動体31や移動体31の搭載する負荷重量による変形では、下端部30e側が縮む部分となるが、この負荷重量による縮みを抑制するためにヒータ51に供給すべき電流値がαであり(上端部30dに取り付けられたヒータ51に供給すべき電流値は0とする)、上記実施形態と同様に移動体31の移動速度に応じて求めた電流値がβである場合に、各ヒータ51に供給される電流値は次のようになる。すなわち、上端部30dに取り付けられたヒータ51にはβの電流が供給され、下端部30eに取り付けられたヒータ51には(α+β)の電流値が供給される。このようにすることで、発熱に伴うバイメタル効果による軌道レール構造体30の変形に起因するY軸方向の位置精度の悪化と、移動体31や移動体31が搭載する負荷の重量による変形に起因するZ軸方向の位置精度の悪化とを低減することができる。
【0043】
(変形例2)
また、上述した実施形態では、第1移動体機構32の軌道レール構造体30の両端を移動架台330,340で支持し、移動架台330,340を軌道レール331,341に沿って移動させる第2移動体機構33を備えた移動体システムを例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば図9に示すような構成の移動体システムに本発明を適用することもできる。同図に示す移動体システムでは、上記実施形態の移動システムと比較して軌道レール構造体30の長さが小さく、このような場合には図示のように軌道レール構造体30の一端側のみを移動架台340で支持し、当該移動架台340を第2移動体機構33’の軌道レール341に沿ってY軸方向に移動させるような構成であってもよい。
【0044】
また、上述した実施形態のようにX軸に沿って移動体31に移動させるさせるための第1移動体機構32と、Y軸に沿って移動体31を移動させるための第2移動体機構33といった2軸方向に移動体31を移動させるための移動体システムに限らず、一方向にのみ移動体31を移動させる移動体システムに本発明を適用することも可能である。
【0045】
また、移動体システムの駆動方式として上記実施形態で説明した方式に限らず、二次側に永久磁石を設けたリニアモータ方式等の他のリニアモータ方式であってもよく、発熱に伴うレール軌道の変形によって位置精度が悪化してしまう移動体システムであれば、リニアモータ方式以外の駆動方式(例えばボールスクリュー方式等)の移動体システムであっても本発明を適用することができる。
【0046】
(変形例3)
上述した実施形態においては、軌道レール構造体30における発熱に伴うバイメタル効果によって縮む部分にヒータ51を取り付け、当該部分をヒータ51によって加熱することにより熱膨張させて軌道レール構造体30の湾曲を抑制するようにしていたが、これに限らず、軌道レール構造体30を部分的に加熱することができるものであれば、ヒータ51の代わりに用いることができる。
【0047】
また、吸熱することが可能な手段、例えばペルチェ素子を軌道レール構造体30におけるバイメタル効果によって膨張する部位(図5に示す中立軸よりも移動体31側の部位)に取り付けるようにしてもよい。ペルチェ素子は、p形とn形の熱電半導体を銅電極で接合し、n形の方から直流電流を流すと上側の接合面から下の接合面へ熱を移動させ、直流電流の流す方向を逆にすることにより、逆方向に熱を移動させる素子である。
【0048】
このように軌道レール構造体30におけるバイメタル効果によって膨張する部位の1または複数箇所にペルチェ素子を取り付け、移動体31の移動速度が大きくなればなるほど、ペルチェ素子がより大きい熱量を吸収するようにペルチェ素子に対して電流を供給する。これにより移動体31の移動速度に比例して膨張する部位に対して、当該移動速度に比例した冷却を行うことが可能となり、軌道レール構造体30の変形を抑制することができる。
【0049】
(変形例4)
また、軌道レール構造体30の変形を抑制するためのヒータ51やペルチェ素子を設ける個数は任意であり、形状や材質といった軌道レール構造体30の構成に応じて適宜選択するようにすればよい。
【0050】
(変形例5)
また、図10に示すように、軌道レール構造体30におけるバイメタル効果によって縮む部位(図示の例では側面部30c)に、ヒートパイプ140を取り付け、当該ヒートパイプ140にヒータ51といった加熱手段を取り付けるようにし、加熱の能力を向上させるようにしてもよい。また、軌道レール構造体30におけるバイメタル効果によって膨張する部位に、ヒートパイプ140を取り付け、当該ヒートパイプ140にペルチェ素子といった吸熱手段を取り付けるようにし、吸熱の能力を向上させるようにしてもよい。
【0051】
また、図11に示すように、軌道レール構造体30におけるバイメタル効果によって膨張する部位にペルチェ素子150を取り付ける場合、ペルチェ素子150の取り付け面150aと反対側の面150bにヒートシンク151を取り付け、吸熱能力を向上させるようにしてもよい。
【0052】
また、軌道レール構造体30側に送風するファン等を設けることにより、軌道レール構造体30に取り付けられたペルチェ素子等による吸熱能力を向上させるようにしてもよい。また、軌道レール構造体30の熱膨張している部位から吸熱するための手段としては、上記のようにペルチェ素子とファンを併用するといった態様だけではなく、ファンのみで軌道レール構造体30の熱膨張している部位を冷却するようにしてもよい。
【0053】
(変形例6)
また、上述した実施形態では、熱量制御装置60が移動体31の運転パターン情報に示される移動体31の移動速度に応じた電流をヒータ51に供給するようにしていたが、実際に移動している移動体31の移動速度を検出し、当該検出した移動速度に応じた電流をヒータ51に供給するようにしてもよい。この場合、ヒータ51への供給電流値を決定するためだけに移動体31の移動速度を検出するセンサを設けるようにしてもよいが、通常の一般的な移動体システムでは、移動体31の位置や速度を正確に制御するために移動体31の位置や速度を検出するセンサを有している。このような移動体31の位置や速度をフィードバック制御するために設けられているセンサの検出結果から移動体31の移動速度を取得し、取得した移動速度に応じた電流をヒータ51に供給するようにすれば、新たに専用の速度センサ等を設ける必要がなくなる。
【0054】
(変形例7)
また、上述した実施形態では、熱量制御装置60が移動体31の移動速度に応じた電流をヒータ51に供給するようにしていたが、移動体31とリニアガイド23との摺動摩擦による発熱量は、移動体31が搭載する負荷重量によっても異なることになる。例えば、移動体31を物品の搬送に用いる場合には、物品搭載時と非搭載時とでは、移動体31とリニアガイド23との間に摩擦による発熱量が異なることになる(当然負荷重量が大きい時が発熱量が大きく、バイメタル効果による変形量も大きくなる)。したがって、移動体31の負荷重量の変動を時系列に示す情報に基づいて、熱量制御装置60が負荷重量が大きければ大きいほど、ヒータ51に供給する電流値を大きくするといった制御を行うようにしてもよい。このように移動体31の移動速度に限らず、どのような重量を搭載して移動しているか等の移動体31の運転状態に応じてヒータ51に供給する電流値を制御するようにしてもよく、また移動速度および負荷重量の両者を考慮してヒータ51に供給する電流値を決定するようにしてもよい。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、簡易な構成でありながら、優れた位置決め精度で移動体を移動させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係る移動体システムの主要部の外観を示す斜視図である。
【図2】 前記移動体システムの構成要素は、第1移動体機構の主要部の外観を示す斜視図である。
【図3】 前記第1移動体機構の主要部を示す断面図である。
【図4】 前記第1移動体機構の動作原理を説明するための図である。
【図5】 前記第1移動体機構における熱の伝達経路を説明するための図である。
【図6】 前記第1移動体機構における軌道レール構造体の熱変形を抑制するための制御システムの構成を示すブロック図である。
【図7】 前記制御システムの構成要素である熱量制御装置によって行われる前記軌道レール構造体の変形を抑制するための制御内容を説明するための図である。
【図8】 前記移動体システムの変形例における第1移動体機構の主要部を示す断面図である。
【図9】 前記移動体システムの他の変形例の主要部の外観を示す斜視図である。
【図10】 前記移動体システムのその他の変形例の第1移動体機構の軌道レール構造体の外観を示す斜視図である。
【図11】 前記移動体システムのさらにその他の変形例の第1移動体機構の主要部を示す断面図である。
【図12】 従来のリニアモータ方式の移動体システムの主要部を示す断面図である。
【図13】 従来の移動体システムの主要部の外観を示す斜視図である。
【図14】 従来の移動体システムにおいて、発熱に伴うバイメタル効果によって軌道レール構造体が変形する様子を示す図である。
【符号の説明】
20a……両端部、22……二次側コア、23……リニアガイド、24……磁界発生機構、25……作業用保持部材、27……一次側コア、28……コイル、29……支持部材、30……軌道レール構造体、30c……側面部、31……移動体、51……ヒータ、60……熱量制御装置、61……駆動制御装置、140……ヒートパイプ、150……ペルチェ素子、151……ヒートシンク
Claims (6)
- 所定の経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体とを備えた移動体システムであって、
前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面に平行である前記断面の中心線を挟んで対称となるように、前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、
前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備する
ことを特徴とする移動体システム。 - 所定の経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体とを備えた移動体システムであって、
前記経路構造体における前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面をそれぞれ通る中立軸を挟んで、前記移動体とは反対側となるように前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、
前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備する
ことを特徴とする移動体システム。 - 前記移動体は、リニアモータによって駆動されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動体システム。 - 第1の直線経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体を有する第1移動体機構と、
前記第1の移動体機構を前記第1の直線経路と直交する方向に移動させる第2の移動体機構とを備える移動体システムであって、
前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面に平行である前記断面の中心線を挟んで対称となるように、前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、
前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備する
ことを特徴とする移動体システム。 - 第1の直線経路に沿って敷設され側方が開放した断面コ字状の経路構造体と、前記経路構造体によって案内され、前記側方を覆うようにして当該経路構造体に沿って移動可能に設けられる移動体を有する第1移動体機構と、
前記第1の移動体機構を前記第1の直線経路と直交する方向に移動させる第2の移動体機構とを備える移動体システムであって、
前記経路構造体における前記コ字状を構成する三辺のうち互いに向かい合う二辺の外側の面をそれぞれ通る中立軸を挟んで、前記移動体とは反対側となるように前記経路構造体に設けられ、当該経路構造体に対して加熱する加熱手段と、
前記移動体の運転速度が大きいほど前記経路構造体の熱変形を小さくするために当該経路構造体に与える熱量を大きくするよう、前記加熱手段を制御する熱量制御手段とを具備する
ことを特徴とする移動体システム。 - 前記移動体は、リニアモータによって駆動されている
ことを特徴とする請求項4または5に記載の移動体システム。
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