本発明にかかる設計システムは、回路素子および配線が配置された配線基板の設計データを解析する機能を備えた設計システムであって、配線基板に配置された回路素子および配線の構造を表す構造データと、前記回路素子および前記配線によって構成される回路を表す回路データと、前記回路素子に関する素子データを含む前記設計データを記録する記録部と、前記構造データで表される配線基板に配置された回路素子のうち、干渉解析対象となる回路素子のペアを選択する選択部と、前記選択部が選択した回路素子に関する素子データを前記設計データから取得し、前記素子データに基づいて、前記回路素子のペア間での電磁界結合を等価回路で表した等価回路データを生成する置換部と、前記等価回路データと、前記回路データとを組み合わせたデータを解析することによって、前記回路素子のペア間での干渉量を算出する解析部とを備える。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記置換部は、選択部が選択した回路素子のペア間の電磁界結合を等価回路に置換して、前記等価回路データで表す。そのため、解析部は、前記等価回路データが反映された回路を解析することによって、前記回路素子ペア間の電磁界結合の度合い、すなわち干渉量を求めることができる。その結果、解析部は、配線基板で構成される回路に含まる回路素子間の電磁的な相互作用を解析することができる。ひいては、回路素子間の電磁的な相互作用を考慮した配線基板の設計を行うことができる。
また、解析部は、前記回路を解析することによって前記干渉量を求めるので、例えば、有限要素法等を用いた電磁界解析によって前記干渉量を求める場合に比べて、少ない計算量で高速に解析することができる。
また、前記置換部は、前記配線基板の全ての回路素子ではなく、前記選択部が選択した回路素子のペアについて、前記等価回路データを生成するので、解析に必要な回路素子についてのみ解析処理が行われる。したがって、解析にかかる処理量が抑えられる。
配線基板(circuit board)には、プリント基板(printed circuit board)の他、例えば、集積回路(integrated circuit)の基板(substrate)等も含まれる。
本発明にかかる設計システムは、回路素子のペア間に生じる電磁界結合の等価回路モデルを記録するモデル記録部をさらに備え、前記置換部は、前記モデル記録部から前記等価回路モデルを取得し、取得した等価回路モデルを用いて前記等価回路データを生成することが好ましい。
前記置換部は、前記モデル記録部に記録された前記回路素子の前記等価回路モデルを用いることで、回路素子のペア間に生じる電磁界結合を表す等価回路データを生成することができる。前記等価回路モデルは、回路素子のペア間に生じる電磁界結合を表す等価回路の構成を表すデータである。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記置換部は、前記設計データから取得した前記素子データを用いて、前記等価回路の特性を表す値を算出し、前記等価回路データを生成することが好ましい。
前記置換部は、前記設計データから取得した前記素子データを用いることによって、前記等価回路の特性を表す値を求めることができる。前記等価回路の特性を表す値は、例えば、前記等価回路に含まれる回路素子の特性を表す値である。
本発明にかかる設計システムは、前記配線基板で解析対象とされる領域を表すデータを条件データとして記録する設定ファイル部をさらに備え、前記選択部は、前記条件データによって表される前記領域内に配置された回路素子のペアを選択することが好ましい。
これにより、選択部は、解析が必要な領域に配置された回路素子のみを選択することができる。その結果、解析が必要な領域について処理が行われるので、解析に必要な処理量が少なくてすむ。
本発明にかかる設計システムは、回路素子間の干渉量の判定基準を表すデータを条件データとして記録する設定ファイル部と、前記解析部が算出した前記回路素子のペア間での前記干渉量と前記判定基準とを比較することにより、前記回路素子のペア間での干渉の有無を判定する判定部とをさらに備えることが好ましい。
これにより、前記解析部は、干渉量が前記判定基準を超える回路素子のペアを問題箇所として抽出することができる。
本発明にかかる設計システムは、解析対象とする回路素子間の距離の最大値を表すデータを条件データとして記録する設定ファイル部をさらに備え、前記選択部は、回路素子間の距離が前記最大値以下である回路素子のペアを選択することが好ましい。
前記選択部は、回路素子間の距離が前記最大値以下である回路素子のペアを選択するので、電磁気的な相互作用が問題となる可能性がある回路素子のペアのみを選択することができる。その結果、解析対象とするべき回路素子が選択され、解析する必要のない回路素子は選択されないので、効率のよい解析が可能となる。
本発明にかかる設計システムは、等価回路の特性を表す値の最大値および最小値を表すデータを条件データとして記録する設定ファイル部をさらに備え、前記置換部は、前記等価回路の特性を表す値が、前記最大値より大きい場合に前記等価回路をオープン回路とし、前記等価回路の特性を表す値が、前記最小値より小さい場合に前記等価回路をショート回路として前記等価回路データを生成することが好ましい。
これにより、前記等価回路の特性を表す値が一定の範囲を超える場合には、前記置換部が生成する前記等価回路データが簡単になり、前記等価回路データを用いる処理が簡単になる。その結果、解析処理が高速になる。
本発明にかかる設計システムは、解析対象の周波数領域を表すデータと、考慮されるべき回路素子間の干渉量の範囲とを含むデータを、条件データとして記録する設定ファイル部と、前記周波数領域および前記干渉量の範囲に基づいて、前記等価回路の特性を表す値の前記最大値および前記最小値を求める特性値範囲決定部とをさらに備えることが好ましい。
前記特性値範囲決定部は、前記周波数領域および前記干渉量に基づいて、前記等価回路の特性を表す値の最大値および最小値を求めるので、解析対象とする周波数領域と、解析対象とする干渉量の範囲が反映された前記等価回路の特性を表す値の範囲が得られる。すなわち、解析対象となる周波数領域において、干渉量が解析対象の範囲内となるような回路素子間の前記等価回路の特性を表す値の範囲が得られる。
本発明にかかる設計システムは、ユーザからの入力情報を受け付け、該入力情報に基づいて、前記設定ファイル部に前記条件データを記録するユーザインタフェースをさらに備えることが好ましい。前記ユーザインタフェースにより、ユーザが、所望の前記条件データを設定することができる。
本発明にかかる設計システムは、前記解析部によって求められた前記回路素子のペア間での干渉量を表す情報を、前記設計データで表される配線基板の構成に対応付けて表示する出力部をさらに備えることが好ましい。前記出力部の表示により、ユーザが解析結果を視認することができる。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記設計データは、配線基板の回路に含まれるネットのうち、同種のネットを1つのグループにまとめたネットグループを表すデータを含み、前記選択部は、ネットグループが複数存在する場合に、あるネットグループに接続された回路素子と、他のネットグループに接続された回路素子とを前記ペアとして選択することが好ましい。
これにより、干渉量の解析が必要な箇所の回路素子のペアが選択される。その結果、干渉量の解析が必要な箇所のみ解析処理がなされる。
ネットとは、電気回路的に接続された回路単位である。ネットグループとは、同種の電気回路網を1つのグループにまとめたものである。例えば、同じクロック周波数(例えば、100MHz)のクロック信号線に繋がるネット群を、1つのグループにまとめて100MHzのネットグループとしたり、電源に繋がるネット群を1つのグループにまとめて電源ネットグループとしたりできる。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記選択部は、前記回路素子のペアとして、インダクタのペアを選択し、前記置換部は、前記素子データとして、前記インダクタの素子の座標を表す情報と、前記インダクタの配置方向を表す情報と、前記インダクタの端子の電気的接続を表す情報と、前記インダクタの特性を表す情報とを少なくとも取得することが好ましい。
本発明にかかる設計システムは、回路素子が配置された配線基板の設計データを解析する機能を備えた設計システムであって、前記配線基板および配置された回路素子を表す設計データを記録する記録部と、前記設計データで表される前記配線基板および回路素子の構成を画面に表示する表示部と、前記表示部に表示された前記回路素子の構成を、外部からの入力情報に基づいて更新する更新部と、前記更新部により前記回路素子の構成が更新された場合に、前記設計データで表される配線基板に配置された回路素子のうち、干渉解析対象となる回路素子のペアを選択する選択部と、前記選択部が選択した回路素子に関する素子データを前記設計データから取得し、前記素子データに基づいて、前記回路素子のペア間での電磁界結合を等価回路に置換した等価回路データを生成する置換部と、前記設計データが表す前記配線基板の回路に前記等価回路データを反映させた回路を解析することによって、前記回路素子のペア間での干渉量を求める解析部とを備え、前記表示部は、前記更新部により前記回路素子の構成が更新された場合に、前記解析部が求めた前記干渉量を表すデータを更新された前記回路素子とともに表示する。
前記置換部は、前記選択部が選択した回路素子間の電磁界結合を前記等価回路データで置換して、前記解析部は、前記等価回路データを含む回路を解析することで、前記干渉量を求めるので、例えば、有限要素法等を用いた電磁界解析によって前記干渉量を求める場合に比べて高速に前記干渉量が計算される。したがって、前記更新部により、前記設計データで表される前記回路素子の構成が更新される度にリアルタイムに干渉量が求められる。そのため、ユーザは、前記表示部に表示された回路素子の構成を更新した場合、即座に更新後の回路素子間の干渉量を知ることができる。その結果、ユーザは、回路素子間の電磁的な相互作用を考慮して配線基板の設計することができる。
本発明にかかる設計システムは、複数のインダクタを含む配線基板の設計システムであって、前記配線基板の設計データを記録する記録部と、前記配線基板に配置された回路素子の一方の端子に接続される第1のインダクタと、当該一方の端子に対する他方の端子に接続される第2のインダクタとを前記設計データから選択する選択部と、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の相互インダクタが正か負かを判定する正負判定部と、前記相互インダクタが負の場合、当該相互インダクタが正となるように、前記第1のインダクタまたは前記第2のインダクタの向きを変更する修正を前記設計データに加える修正部とを備える。
前記修正部は、前記相互インダクタが負の場合、当該相互インダクタが正となるように、前記第1のインダクタまたは前記第2のインダクタの向きを変更することによって、前記回路素子の減衰特性の悪化を抑制するように、前記第1のインダクタおよび第2のインダクタの構成を修正することができる。その結果、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の電磁的な相互作用による、前記回路素子の特性悪化を抑えた設計が可能となる。
前記回路素子は、例えば、フィルタ、アンプ、スイッチ、アンテナ共用器またはバラン等の素子である。バランは、平衡回路で構成されるデバイスと非平衡回路で構成されるデバイスとの間を接続するための素子である。
本発明にかかる設計システムは、複数のインダクタを配置する配線基板の設計システムであって、前記配線基板の設計データを記録する記録部と、前記配線基板に配置された少なくとも2つの端子を持つ回路素子の一方の端子に接続される第1のインダクタと、当該一方の端子に対する他方の端子に接続される第2のインダクタとを前記設計データから選択する選択部と、前記第1のインダクタと、前記第2のインダクタとの間の寄生容量を算出する容量算出部と、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の相互インダクタを算出する相互インダクタ算出部と、前記寄生容量と前記相互インダクタンスを用いて表される、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの共振周波数を求める周波数算出部と、前記共振周波数が、前記回路素子が求められる周波数特性に適合するように、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の距離を変更する修正を前記設計データに加える修正部とを備える。
前記周波数算出部で算出される前記共振周波数は、前記寄生容量によって変化するので、前記修正部は、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の距離を調整することによって、前記寄生容量の値を変化させ、前記共振周波数を前記回路素子が求められる周波数特性に適合させることができる。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記周波数算出部は、前記第1のインダクタの自己インダクタンスをL1、前記第2のインダクタの自己インダクタンスをL2、前記第1のインダクタと第2のインダクタとの相互インダクタンスをM、前記寄生容量をC、定数をαとした場合の上記数1を用いて前記共振周波数を求めることが好ましい。
本発明にかかる設計システムにおいて、前記第1のインダクタおよび前記第2のインダクタは、同じ巻き方向からなるインダクタであることが好ましい。
本発明にかかる解析方法は、配線基板に配置された回路素子および配線の構造を表す構造データと、前記回路素子および前記配線によって構成される回路を表す回路データと、前記回路素子に関する素子データとを含む前記設計データをコンピュータによって解析する解析方法であって、前記コンピュータが備える選択部が、前記構造データで表される配線基板に配置された回路素子のうち、干渉解析対象となる回路素子のペアを選択する選択工程と、前記コンピュータが備える置換部が、前記選択工程で選択された回路素子に関する素子データを前記設計データから取得し、前記素子データに基づいて、前記回路素子のペア間での電磁界結合を等価回路で表した等価回路データを生成する置換処理と、前記コンピュータが備える解析部が、前記等価回路データと、前記回路データとを組み合わせたデータを解析することによって、前記回路素子のペア間での干渉量を算出する解析工程とを備える。
本発明にかかる解析プログラムは、配線基板に配置された回路素子および配線の構造を表す構造データと、前記回路素子および前記配線によって構成される回路を表す回路データと、前記回路素子に関する素子データとを含む前記設計データを解析する処理をコンピュータに実行させる解析プログラムであって、前記構造データで表される配線基板に配置された回路素子のうち、干渉解析対象となる回路素子のペアを選択する選択処理と、前記選択処理で選択された回路素子に関する素子データを前記設計データから取得し、前記素子データに基づいて、前記回路素子のペア間での電磁界結合を等価回路で表した等価回路データを生成する置換処理と、前記等価回路データと、前記回路データとを組み合わせたデータを解析することによって、前記回路素子のペア間での干渉量を算出する解析処理とをコンピュータに実行させる。
本発明の配線基板の設計方法は、複数のインダクタを配置する配線基板の設計方法であり、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択する工程(a)と、前記インダクタについての干渉特性情報を、情報データベースから取得する工程(b)と、前記干渉特性情報に基づき、前記インダクタのペアを含む回路を、等価回路に置換する工程(c)と、前記等価回路に対して干渉解析を実行する工程(d)とを包含する。
ある好適な実施形態では、さらに、干渉解析を実行する際の解析条件を設定する工程を包含し、前記解析条件設定工程は、解析領域を設定する工程と、干渉許容限界を設定する工程とを含み、前記工程(a)における前記インダクタのペアは、前記解析領域設定工程で設定された解析領域内から抽出される。
ある好適な実施形態では、前記工程(b)において、前記干渉特性情報として、前記インダクタの素子配置の座標情報、前記インダクタの配置方向情報、前記インダクタについての電気的接続情報、および、前記インダクタの素子特性情報が取得される。
前記複数のインダクタは、同じ巻き方向からなるインダクタであることが好ましい。
前記インダクタは、チップインダクタであることが好ましい。
ある好適な実施形態では、前記工程(c)における置換および前記工程(d)は、マイクロコンピュータによって実行される。
ある好適な実施形態では、前記工程(d)の後、電磁干渉的な不良と解析されたインダクタのペアを表示する工程をさらに実行する。
本発明の他の配線基板の設計方法は、複数のインダクタを配置する配線基板の設計方法であり、フィルタまたはアンプの両端のうちの一方の端に接続される第1のインダクタと、当該一方に対する他方の端に接続される第2のインダクタとを選択する工程と、前記第1のインダクタと、前記第2のインダクタとの間の寄生容量を算出する工程と、前記第1のインダクタと前記第2のインダクタとの間の相互インダクタを算出する工程とを包含する。
前記相互インダクタが負の場合、当該相互インダクタが正となるように、前記第1のインダクタまたは前記第2のインダクタの向きを変更する工程を実行することが好ましい。
前記複数のインダクタは、同じ巻き方向からなるインダクタであることが好ましい。
ある好適な実施形態において、前記インダクタのペアは、二次元領域内に加えて、三次元領域の内に存在するインダクタから選択される。
本発明の半導体集積回路の設計方法は、半導体集積回路の設計方法であり、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択する工程(a)と、前記インダクタについての干渉特性情報を、情報データベースから取得する工程(b)と、前記干渉特性情報に基づき、前記インダクタのペアを含む回路を、等価回路に置換する工程(c)と、前記等価回路に対して干渉解析を実行する工程(d)とを包含する。
本発明の回路設計装置は、回路設計を行う回路設計装置であり、回路の解析を実行する解析エンジン部と、前記回路の解析に用いる設定を実行する設定ファイル部と、少なくとも前記設定ファイル部に接続されたユーザインタフェースとを備え、前記設定ファイル部は、前記ユーザインタフェースの入力情報に基づいて、解析領域を設定する解析領域設定部と、前記ユーザインタフェースの入力情報に基づいて、前記回路の解析の判定基準を設定する判定基準設定部とを含み、前記解析エンジン部は、前記解析領域設定部の設定情報に基づいて、解析対象部品を選択する解析部品選択部と、前記解析対象部品の特性データが格納されたデータベース部と、前記解析部品選択部によって選択された前記解析対象部品を含む回路を等価回路に置換する等価回路置換部と、前記等価回路置換部によって生成された前記等価回路について干渉解析をし、そして、前記判定基準設定部の前記判定基準に基づいて前記干渉解析の結果を判定する干渉結果判定部と、前記干渉解析の結果を出力する出力部とを含む。
本発明の記憶媒体は、コンピュータの支援により回路設計を実行する回路設計プログラムが格納された記憶媒体であり、前記コンピュータに、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択するステップ(a)と、前記インダクタについての干渉特性情報を、情報データベースから取得するステップ(b)と、前記干渉特性情報に基づき、前記インダクタのペアを含む回路を、等価回路に置換するステップ(c)と、前記等価回路に対して干渉解析を実行するステップ(d)とを実行させるプログラムを備えている、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体である。
本発明の配線基板の設計方法によれば、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択した後、前記インダクタについての干渉特性情報に基づいて、前記インダクタのペアを含む回路を等価回路に置換し、次いで、前記等価回路に対して干渉解析を実行するので、インダクタ(部品)間の電磁的な相互作用を考慮した配線基板の設計方法を提供することができる。
また、フィルタまたはアンプの両端に接続される第1のインダクタと第2のインダクタとを選択した後、第1のインダクタと第2のインダクタとの間の寄生容量を算出し、次いで、第1のインダクタと第2のインダクタとの間の相互インダクタを算出することにより、インダクタ間の電磁的な相互作用を考慮した配線基板の設計を行うこともできる。ここで、前記相互インダクタが負の場合には、当該相互インダクタが正となるように、第1のインダクタまたは第2のインダクタの向きを変更するようにすれば、フィルタまたはアンプの特性の劣化を抑制することができる。
本願発明者は、インダクタ等の回路素子間の電磁的な相互作用のチェックを自動的に行うことができれば、プリント基板CADによる設計をスムーズに進めることができると考えた。そして、本願発明者は、そのようなプリント設計方法を鋭意検討した結果、本発明に至った。近年、プリント基板(配線基板)として、部品内蔵基板や、屈曲可能なフレキシブル基板も用いられている。そのため、インダクタ等の回路素子間の電磁的な相互作用は、二次元的な領域のみならず、三次元的な領域でも考慮することが好ましい。三次元的な領域を単なる平面的な回路設計データから判断することは難しいので、そのような三次元的な考慮はコンピュータにより自動的に行えると非常に便利である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
(実施形態1)
図1は、本実施形態における設計システム200の構成を表す機能ブロック図である。設計システム200は、配線基板に配置された回路素子によって構成される回路の設計データを解析する機能を備えたCADシステムである。
図1に示した設計システム200は、設計データで表される回路の解析を実行する解析エンジン部210と、前記回路の解析に用いる設定を記録する設定ファイル部220と、解析エンジン部210と設定ファイル部220に接続されたユーザインタフェース230とを備える。なお、ユーザインタフェース230は、例えば、設定ファイル部220を介して解析エンジン部210に接続されていてもよい。
解析エンジン部210は、選択部211、記録部212、置換部213、解析部214、判定部218および出力部215を備える。記録部212には、配線基板に構成された回路の設計データが記録されている。この設計データが解析エンジン部210の解析の対象となるデータである。
設定ファイル部220は、解析領域設定部221と判定基準設定部222とを備える。解析領域設定部221は、ユーザインタフェース230から入力された解析領域を表す情報を記録する。判定基準設定部222は、ユーザインタフェース230から入力された判定基準を表す情報を記録する。
選択部211は、解析領域設定部221の設定情報に基づいて、前記設定データが表す回路素子の中から解析対象となる回路素子のペアを選択する。置換部213は、選択部211によって選択された解析対象となる回路素子のペア間の電磁界結合を等価回路で表した等価回路データを生成する。すなわち、置換部213は、回路素子のペア間の電磁界結合を等価回路に置換する。置換部213が等価回路データを生成する際に、記録部212に記録された前記設定データから選択部211が選択した回路素子の素子データを取得し、素子データを用いて前記等価回路データを生成する。
解析部214は、置換部213によって生成された等価回路を用いて、前記設計データで表される回路の解析を行う。これにより、選択部211で選択された回路素子間の干渉量が求められる。判定部218は、解析部214が算出した干渉量と、判定基準設定部222が記録した判定基準とを比較することにより、回路素子のペア間での干渉の有無を判定する。出力部215は、解析部214の干渉解析の結果および判定部218の判定の結果を出力する。
図2は、記録部212に記録されたデータの内容の一例を示す図である。記録部212には、設計データ25および等価回路モデル23が記録されている。設計データ25には、素子データ28、レイアウトデータ24および回路データ26が含まれている。
素子データ28は、配線基板に配置された素子に関する情報であり、素子ごとにデータが存在する。それぞれの素子について、例えば、素子が配置された位置の座標81、素子の配置方向82、素子の接続情報83、素子特性84等を表す情報が記録されている。
レイアウトデータ24は、例えば、配線基板の構造並びに配線基板に配置された素子および配線の構成等を表す情報である。レイアウトデータ24には、例えば、配線座標、配線長、配線幅、配線ピッチ、ランド位置・寸法、ビア座標・寸法等を表す情報が含まれる。
回路データ26は、例えば、配線基板によって構成される回路全体の等価回路を表す情報である。回路データ26が表す等価回路は、例えば、ネットリストと呼ばれる形式で記録される。ネットリストは、回路を、複数のネットと呼ばれる単位に分割して記述する。それぞれのネットには、例えば、そのネットに含まれる回路素子の名前および素子値、ネットが有する端子の識別番号等の情報が含まれる。
図3は、設計システム200を構築するために用いるコンピュータ110のハードウエア構成の一例を示す図である。
図3に示すコンピュータ110は、演算処理を行うCPU(中央演算処理部)101と、プログラム等を記憶したROM102と、CPUの作業領域等となるRAM103と、各種設定データ等を記憶した外部記憶装置104と、操作者の入力を受ける入力装置105と、印字装置106と、表示装置107とを備える。各要素はバス等を介して接続されている。外部記憶装置104は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ、DVD等である。入力装置105は、例えば、キーボード、マウス等である。印字装置106は、例えば、プリンタであり、表示装置107は、例えば、液晶ディスプレイ、CRT等である。
設計システム200における選択部211、置換部213、解析部214の機能は、例えば、ROM102に記録された所定のプログラムをCPU101が実行することにより実現される。また、ROM102には、一般的なCADプログラムが記録されていることが好ましい。これにより、ユーザは、コンピュータ110を用いて、例えば、プリント基板CADを行うことができる。
また、設計システム200の機能を実現するためのプログラムは、コンピュータで読み出し可能な記録媒体(例えば、光記録媒体、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、フラッシュメモリなど)に記録することができる。コンピュータ110は、例えば、一般的なパーソナルコンピュータ、サーバ等である。
なお、図3に示すハードウエア構成は一例であって、設計システム200のハードウエア構成は、これに限定されない。例えば、設計システム200は、複数のコンピュータで構成されてもよい。また、印字装置106は、ネットワークを介してコンピュータ110に接続されてもよい。また、入力装置105、印字装置106、表示装置107の少なくとも一つとコンピュータ110とのデータ通信を、無線によって行う構成とすることも可能である。
図1に示すユーザインタフェース230は、図3に示す入力装置105によって構築することができる。また、ユーザインタフェース230に、表示装置107や印字装置106を含めることもできる。解析エンジン部210の機能は、CPU101、ROM102、RAM103、外部記憶装置104によって実現することができる。解析エンジン部210に含まれる出力部215は、表示装置107および/または印字装置106から構築することができる。設定ファイル部220は、ROM102、RAM103、外部記憶装置104のうちの少なくとも一つを含んでいる。
次に、設計システム200が、設計データの解析を行う際の動作について説明する。図4は、設計システム200が設計データの解析を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示す処理の流れは、一例として、複数のインダクタが配置された配線基板の設計データを解析する処理を示している。ここで、配線基板に配置されたインダクタ間の干渉度合いを解析する処理を例にあげて説明する。
図4に示す解析処理は、解析条件を設定する工程(S90)、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択する工程(S100)、インダクタについての干渉特性情報を、記録部212から取得する工程(S200)、干渉特性情報に基づき、インダクタのペアを含む回路を等価回路に置換する工程(S300)、等価回路に対して干渉解析を実行する工程(S400)、干渉による問題の有無を判定する工程(S500)および判定結果を出力する工程(S600)を包含している。
解析条件を設定する工程(S90)では、解析領域設定部221が、ユーザインタフェース230を通じて入力された解析対象となる領域を表すデータを設定ファイル部220に記録する(S92)。また、判定基準設定部222が、ユーザインタフェース230を通じて入力された、インダクタ間の干渉量が問題となるか否か判定基準(干渉許容限界)を表すデータを設定ファイル部220に記録する(S94)。後述する工程S100で、選択部211が選択するインダクタのペアは、解析領域設定工程(S90)で設定された領域内から抽出されるように設定ファイル部220に情報が記録される。
解析条件の設定は、ユーザが、図2に示した入力装置105を介して行うことができる。また、解析条件を予め外部記憶装置104に記録しておき、解析領域設定部221または判定基準設定部222が外部記憶装置104に記録された解析条件を読み込んで設定ファイル部220へ入力するような方式を採用してもよい。解析領域の設定(S92)および干渉許容限界の設定(S94)は、いずれを先に行っても良い。
ここで、解析対象となる領域を設定する処理を説明する。図5は、解析対象領域を設定する工程において、解析領域設定部221が出力部215に出力する画面の例を示す図である。解析領域設定部221は、例えば、設計データ25のレイアウトデータ24に含まれる配線データ、ランドデータ、グランドデータから、配線基板の画像を作成して、その画像を図5に示すように表示装置107上に表示する。図5に示す配線基板の画像は、配線10と、部品が実装されるランド20のレイアウトと、グランド30(グランドプレーン)のレイアウトを含んでいる。
ユーザインタフェース230は、ユーザから解析領域を表すデータの入力を受け付ける。図6は、例えば、出力部215の画面上でユーザが解析領域を指定した場合の一例を示す図である。図6に示す例のように、ユーザは、入力装置(例えば、マウス)105を用いて、解析領域50を指定する。図6に示した例では、解析領域50を矩形としているが、円形または他の多角形にしてもよい。あるいは、画面全体を解析領域に設定することも可能である。画面全体を解析領域50と設定する場合には、解析処理スピード等を考慮して、ユーザにストレスがかからない範囲で実行するのが好ましい。ユーザインタフェース230は、作業時間または待ち時間が長くなりすぎると予測される場合にその旨を表示する機能を備えても良いし、あるいは、作業時間が長くなると予測される場合には、画面全体を解析領域50と設定できないようにする機能を備えても良い。
次に、選択部211が、解析領域50に含まれるインダクタを抽出する。図7は、選択部211が、解析領域50内に位置するインダクタ40を抽出して出力部215に表示させた場合の画面の一例を示す図である。インダクタ40(正確には、インダクタ40のレイアウト)の情報は、例えば、記録部212に記録されたレイアウトデータ24含まれており、この工程にて、記録部212から読み出されて、所定の位置に表示される。ここで、各インダクタ40は、ランド20またはグランド30の上に実装された形で表示される。
次に、選択部211は、この解析領域50内に位置するインダクタ40の中から、解析対象となるインダクタのペアを選択する(S100)。選択部211は、例えば、インダクタ間の距離が一定の値より小さいインダクタのペアを選択することができる。複数のインダクタのペアが選択されてもよい。
前記一定の値は、解析対象とする回路素子間の距離の最大値を表すデータとして設定ファイル部220に予め記録されていることが好ましい。また、ユーザインタフェース230を通じてユーザから入力された値を前記一定の値とすることもできる。
また、選択部211は、複数のネットグループに接続された複数のインダクタが解析領域50中にある場合、特定のあるネットグループに接続されたインダクタと、他のネットグループに接続されたインダクタのペアを選択することもできる。例えば、選択部211は、クロック周波数が10MHzのクロック信号線のネットグループに接続されたインダクタと、クロック周波数が15MHzのクロック信号線のネットグループに接続されたインダクタとのペアを解析対象のペアとして選択することができる。
なお、解析対象の回路におけるネットグループを表す情報は、設計データ25に予め含まれていることが好ましい。また、ネットグループを表す情報は、ユーザインタフェース230を通じてユーザによって入力されてもよい。
このようにして、解析領域50に存在するインダクタの中から干渉が生じる可能性のあるインダクタのペアが選択される(S100)。置換部213は、選択されたペアのそれぞれのインダクタに関する情報を、記録部212から取得する(S200)。ここで取得されるインダクタに関する情報は、例えば、記録部212に記録された素子データ28である。
置換部213は、取得した素子データ28を用いて、選択部211が選択したインダクタのペア間の電磁界結合を表す等価回路データを生成する。すなわち、置換部213は、インダクタのペア間の電磁界結合を等価回路に置換する(S300)。S200およびS300の処理は、選択部211が選択したインダクタのペアごとに繰返し実行される。
このようにして、選択部211が選択したインダクタのペア全てについて等価回路データが生成される。これらの等価回路データは、解析領域50全体の等価回路を表す回路データ26に反映される。解析部214は、置換部213が生成した等価回路データが反映された回路データ26、すなわち、解析領域50全体の等価回路を表す回路データ26に対して干渉解析を実行する(S400)。解析結果として、例えば、選択部211が選択したインダクタのペア間の干渉量が得られる。S300およびS400の詳細な処理は後述する。
その後、判定部218は、解析部214の解析結果を判定する(S500)。判定には、判定基準設定部222で設定されている判定基準が用いられる。例えば、解析結果として得られたインダクタのペア間の干渉量が、判定基準である干渉許容限界を超えるか否かが判定される。判定部218は、干渉量が判定基準を超える場合には、干渉の問題有りと判定し、干渉量が判定基準に達しない場合には、干渉の問題なしと判定することができる。これにより、電磁干渉的により、不良とされるインダクタのペアが抽出される。最後に、判定部218は、判定結果を、出力部215を通じて出力する(S600)。
図8は、出力された判定結果を表す画面の一例を示す図である。図8に示した例では、電磁干渉的により、不良と解析されたインダクタ40のペアをライン60で結ぶことによって表示している。また、当該不良のインダクタ40のペアのみが画面に表示され、良好なインダクタ40は画面から消されている。なお、不良箇所の表示方法は、ライン60に限らず、不良とされるインダクタのペアの色を変える、不良とされるインダクタのペアを含む領域をマーキングする等、種々のものを採用することができる。さらに、不良とされるインダクタのペアが見落とされるのを防止するために、不良のインダクタのペアが発生する場合にはエラー警告を発するようにしてもよい。
このように、不良と解析されたインダクタのペアを表示することにより、ユーザは、視覚的にエラーを認識できる。その結果、ユーザの利便性が向上する。この表示は、図3に示した表示装置107を用いて行うことができる。
以上で、解析処理は終了する。なお、図4に示す工程のうち、解析条件の設定(S90)、干渉チェック判定(S500)、判定結果出力(S600)は省略してもよい。例えば、解析条件の設定工程(S90)が省略されて、予め記録されたデータを条件データとしてS100、S200、S300、S400の処理が実行されてもよい。また。設計システム200は、例えば、S400での解析結果を表すデータは、記録部212に記録して、ユーザがいつでも表示できる状態にして解析処理を終了してもよい。
ここで、インダクタ情報の取得(S200)および等価回路への置換(S300)の詳細な処理について説明する。図9は、インダクタ情報の取得(S200)および等価回路への置換(S300)の詳細な処理の流れの一例を示すフローチャートである。
インダクタ情報の取得(S200)において、置換部213は、選択部211が選択したインダクタのペアにおけるそれぞれのインダクタについての素子データ28を記録部212に記録された設計データ25から取得する。
まず、置換部213は、インダクタが配置されている位置の座標情報およびインダクタの配置方向を表す情報を取得する(S201)。置換部213は、例えば、記録部212に記録されたインダクタごとの素子データ28のうち、選択部211が選択したインダクタペアそれぞれの素子データ28から座標81と配置方向82を取得する。座標81は、例えば、XY座標で表される。インダクタの配置方向82は、例えば、インダクタから発生する磁界の方向の基準線からの角度で表される。
置換部213は、選択部211が選択したインダクタペアそれぞれの素子データ28から接続情報83を取得する(S202)。接続情報83は、例えば、インダクタの端子がランドに接続しているか、またはグランドに接続しているかを表す情報である。
置換部213は、選択部211が選択したインダクタペアそれぞれの素子データ28から素子特性84を取得する(S203)。素子特性84には、例えば、インダクタンス値、ピッチ、巻き数n、ループ面積SL、巻き軸方向、磁界方向等が含まれる。
置換部213は、上記の情報の他に、例えば、素子に干渉性が有るか否かを示すフラグ(可干渉性有無のフラグ)、素子の構造(例えば、発生電磁界の部品の向き依存性による特性変化等)を示す情報等を素子データ28から取得してもよい。
次に、置換部213は、選択部211が選択したインダクタのペア間の電磁界結合を表す等価回路データを生成する(S300)。まず、置換部213は、記録部212に記録された等価回路モデル23の中から最も適切な等価回路モデルを取得する(S301)。
等価回路モデル23は、回路素子のペア間に生じる電磁界結合を等価回路で表した場合の等価回路の構成を表すデータである。ペアを構成する回路素子の種類によって、そのペア間の電磁界結合を表す等価回路は異なるので、ペアを構成する回路素子の種類ごとに等価回路モデルが記録されていることが好ましい。等価回路モデルには、例えば、2つのインダクタが回路素子のペアである場合のペア間の等価回路モデル(L−Lモデル)、インダクタとキャパシタとが回路素子のペアである場合の等価回路モデル(L−Cモデル)または2つのキャパシタが回路素子のペアである場合の等価回路モデル(C−Cモデル)等が含まれ得る。
図10(a)は、インダクタのペアの一例を表す回路図である。図10(a)に示す例では、インダクタ40(L1)およびインダクタ40(L2)が離れて存在する。インダクタ40(L1)の一端は、グランド30に接続されており、他端はランド20に接続されている。インダクタ40(L2)の一端も、グランド30に接続されており、他端はランド20に接続されている。インダクタ40(L1)の自己インダクタンスをL1、インダクタ40(L2)の自己インダクタンスをL2とする。
インダクタ40(L1)とインダクタ40(L2)との間の相互インダクタンスをMで表すと、インダクタ40(L1)とインダクタ40(L2)との間の電磁界結合を表す等価回路は、例えば、図10(b)に示す通りになる。ここで、符合「C」は、相互キャパシタンスを表している。この相互キャパシタンスCは、例えば、インダクタ40(L1)、40(L2)の電極やランドによる容量成分から生じるものである。相互キャパシタンスは寄生容量とも呼ばれる。インダクタのペアにおいて相互キャパシタンスCが生じる構造の例については後述する。
等価回路モデル23に含まれる等価回路モデル(L−Lモデル)は、例えば、図10(b)に示すような等価回路を表すデータである。本実施形態において置換部213は、例えば、図10(b)に示されるような、インダクタのペア間の電磁界結合を表す等価回路モデル(L−L)を記録部212から取得する。
置換部213は、S301で取得した等価回路モデルで表される等価回路の特性を表す値を算出する(S302)。等価回路の特性を表す値は、例えば、等価回路に含まれる回路素子の特性値等である。図10(b)に示す等価回路の例では、L1−M、L2−MおよびCが算出される。
例えば、図10(b)における相互インダクタンスMは下記(式1)から算出される。
(式1)
M=α・Da・SL・n・t・μ0・μs
上記(式1)において、αは比例係数である。Dは部品間の中心間距離、aは係数、SLはループ面積、nはインダクタの巻き数、tは実装方向またはインダクタの巻き方向による係数(+、−、または0)、μ0は真空の透磁率、μsは比透磁率である。比例係数αは、例えば、置換部213が素子データ28から取得したピッチ、素子構造等によって決定することができる。中心間距離Dは、S201で置換部213が取得したインダクタのペアそれぞれの座標81から求めることができる。SL、nは、S203で置換部213が取得した素子特性84に含まれる情報を用いることができる。比例係数αおよび係数aは、予め記録部212に記録されているものを用いることができる。
係数tは、配置方向82および素子特性84に含まれる磁界方向、巻き軸方向等から求めることができる。例えば、インダクタ40(L1)から発生する磁界の方向がインダクタ40(L2)から発生する磁界の方向と平行かつ同じ向きである場合、にtを+1に、平行かつ反対の向きである場合にtを−1に、いずれでもない場合にはtを0にすることができる。
また、置換部213は、素子データ28から取得した前記可干渉性有無のフラグを相互インダクタンスMの算出に用いてもよい。可干渉性有無のフラグは、例えば、1または0の情報を持ち、インダクタンスごとに設定されている。置換部213は、例えば、インダクタペアのいずれかのフラグが0の場合は相互インダクタンスMを0とし、インダクタペアの両方が1の場合に上記(式1)により相互インダクタンスMを算出してもよい。
一方、図10(b)における相互キャパシタンスCは、例えば、下記(式2)から算出されることができる。
(式2)
C=β・ε0・εr・SC/L
上記(式2)で、βは比例係数、ε0は真空の誘電率、εrは比誘電率(空気なら1.0)、SCは対向電極間面積、Lは部品間の中心間距離である。β、ε0、εrは、予め記録部212に記録されていることが好ましい。Scは、S201で置換部213が取得した座標81および素子特性84から求めることができる。
また、例えば、係数α、a、β、ε0、εrは、ユーザインタフェース230を通じてユーザから直接入力された値を用いることもできる。
以上のように、相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCが求められると、図10(b)に示す等価回路の特性値であるL1−M、L2−MおよびCが求められる。置換部213は、図10(b)に示す等価回路を表す等価回路モデルに、S302で算出した特性値(L1−M、L2−MおよびC)を追加することで、選択部211が選択したインダクタのペア間の電磁界結合を表す等価回路データを生成する(S303)。
等価回路データは、例えば、ネットリスト形式で記述されるデータである。図10(c)は、図10(b)に示す等価回路を表すネットリストの例を示す図である。図10(c)に示すネットリストの例において、1行目の「.SUBCKT」はサブサーキット定義の始まりを表し、「sample」はサブサーキット名、「N1」「N2」「N3」「N4」は、外部との接続を行うノード名を表す。2行目は、インダクタ「L1」が、ノード「N1」、「N3」の間に接続されており、インダクタL1のインダクタンスは、「1.5013×10―07」であることを表す。3行目は同様に、インダクタンス「L2」がノード「N2」、「N4」の間に接続されており、インダクタL2のインダクタンスは、「1.0034×10―07」であることを表す。4行目は、相互インダクタンスを表す。相互インダクタンスは結合係数Kで定義されるパラメータとして例えば、下記(式3)により等価回路中で演算される。
(式3)
K=M/√(L1・L2)
5行目は、キャパシタ「C12」がノード「N1」、「N3」の間に接続されており、キャパシタの容量は、「1.53×10―12」であることを表す。
置換部213は、上記S201〜203およびS301〜S303の処理を、選択部211が選択したインダクタのペア全てについて行う。その結果、選択部211が選択したインダクタのペア全てについてそれぞれの電磁界結合を表す等価回路データが得られる。
置換部213は、これらの等価回路データを、解析領域50で構成される回路全体の等価回路を表す回路データ26に組み合わせる。例えば、置換部213は、等価回路データのネットリストを、回路データ26のネットリストに加える。具体的には、回路データ26における図10(a)のインダクタ40(L1)のランド20に接続された端子と、インダクタ40(L2)のランド20に接続された端子との間に、図10(b)の等価回路を表すネットリストを追加する。
これにより、回路データ26は、選択部211が選択したインダクタのペア間の電磁界結合を表す等価回路を含む、解析領域全体の等価回路を表すデータとなる。その結果、S300で生成されたインダクタのペア間の等価回路を含む、解析対象全体の等価回路を表す回路データ26が得られる。
解析部214は、置換部213がS300で生成したインダクタのペア間の等価回路を含む、解析領域全体の等価回路を表す回路データ26について解析することによって、インダクタのペア間の干渉量を求める(S400)。等価回路の解析には、例えば、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)等の周知の回路シミュレータを使用することができる。解析結果として、例えば、インダクタのペア間のインピーダンス、アイソレーションまたはSパラメータ等、インダクタのペア間の結合量を表すデータが得られる。インダクタのペア間の結合量が、インダクタのペア間の干渉量を表している。
以上のように、本実施形態における設計システム200は、回路素子間の空間的な電磁界結合を等価回路に置き換え、その等価回路を解析対象全体の等価回路に付加して、解析対象全体の等価回路を表す回路データ26を生成し、この回路データを既存の回路シミュレータ等で解析することにより、回路素子間の干渉量を求める。そのため、例えば、有限要素法等を用いた電磁界解析を行う場合に比べて簡単な処理で回路素子間の干渉量が算出される。
判定部218は、S400で得られた干渉量を、予め設定しておいた干渉許容限界と対比し、その結果を、例えば、図8に示した画面として、出力部215に表示させる。このように電磁干渉的な不良と解析されたインダクタ40のペアを設計システム200において表示できることにより、従来は、熟練した設計者が目視で行っていたインダクタ間の電磁干渉のチェックを、実質的に自動的に行うことができる。
電磁干渉的な不良と解析されたインダクタのペアは、その後、設計システム200の入力装置105によってユーザインタフェース230を介して、ユーザにより配置が変更されて、適正なものになるように設計データ25が修正される。ユーザは、修正後に、また同様の方式でチェックを行うことも可能である。
ここで、相互キャパシタンスを生じさせるインダクタペアの構造の例を説明する。図11は、電磁界干渉が発生し得るインダクタペアの配置例を示す図である。図11は、インダクタが配置される基板(図示せず)をXY平面として、Z軸方向から2つのインダクタを見た場合の図である。図11に示す2つインダクタ401、402は、それぞれ、チップインダクタである。チップインダクタ401の長手方向とチップインダクタ402の長手方向が垂直になるようにチップインダクタ401、402は配置されている。チップインダクタ401は、2つの電極端子411a、411bを、チップインダクタ402は、2つの電極端子412a、412bを持っている。チップインダクタ401、402の上面には、磁界の方向を示すためのマーカ45が付されている。チップインダクタ401の中心と、チップインダクタ402の中心との距離をD(中心間距離)とすると、Dが大きければ大きいほど、電磁界干渉は発生し難い。チップインダクタ401の電極端子411bのチップインダクタ402側に面する部分431と、チップインダクタ402の電極端子412aのチップインダクタ401側に面する部分432とは、互いに向かい合っている。この互いに向かい合っている電極端子411bの部分431と電極端子412aの部分432が、対向電極部である。この対向電極部が相互キャパシタンスC(寄生容量)の主要な因子となる。
チップインダクタ401、402は、例えば、積層型チップインダクタである。図12は、積層型チップインダクタの内部構造を示す図である。図12(a)は、チップインダクタ401をZ軸方向から見た上面透視図であり、図12(b)は、チップインダクタ401をX軸方向から見た側面透視図である。内部電極42の巻き数がnで、XY平面に平行な断面において、内部電極42に囲まれた面積がループ面積SLである。
チップインダクタ401の内部電極42は、チップインダクタ401が設けられる基板の法線方向(基板と垂直方向:Z軸方向)を中心にらせん状に形成されている。したがって、チップインダクタ40の磁界方向47は、基板に対して垂直方向すなわちZ軸方向となる。図13(a)は、Z軸方向から見たチップインダクタ401における磁界方向47を表す図である。図13(b)は、X軸方向から見たチップインダクタ401における磁界方向47を表す図である。図13(a)、(b)に示すように、チップインダクタ401の磁界方向47は、基板に対して垂直方向となる。一般的に、同じ基板に配置されるチップインダクタの巻き方向は、全て同一である。そのため、同一基板に配置されたチップインダクタの磁界方向47は、基板の面に対して垂直上向きか、あるいは垂直下向きかいずれかとなる。通常、同一基板には、全てのチップインダクタが、磁界方向が基板に対して上向きになるように配置されるか、または、全てのチップインダクタが、磁界方向が基板に対して下向きになるように配置される。
上記のように、配線基板に実装されるインダクタは、通常、同じ巻き方向からなるインダクタが使用される。そのため、置換部213は、解析対象のインダクタの巻き方向を表す情報を、インダクタごとに取得または算出するのではなく、全てのインダクタを同じ巻き方向からなるインダクタとして処理することも可能である。また、干渉解析対象のインダクタがチップインダクタである場合に、置換部213が、インダクタの磁界方向を自動的に特定して処理させることも可能である。
本実施形態における設計システム200によれば、干渉解析対象となるインダクタ40のペアを選択した後、記録部212に記録されたインダクタに関する情報に基づいて、インダクタのペアを含む回路を等価回路に置換し、次いで、当該等価回路に対して干渉解析を実行する。そのため、インダクタ間の電磁的な相互作用を考慮した配線基板の設計を行うことができる。つまり、インダクタ間の電磁的な相互作用のチェックを自動的に行うことができる。そのため、CADを用いた回路設計をスムーズに進めることが可能となる。
具体的には、次のような効果を得ることができる。すなわち、熟練した設計者のノウハウによる従来のチェックでは、目視によりチェックするものであった。そのため、どうしても、見落としが発生しがちであった。言い換えると、エラーをゼロにすることが困難であった。本実施形態の設計方法によれば、設計システム200を用いて自動的にできるので、目視によるチェックにおいて見落としを減らすことができる。特に、表示装置107にその結果を、わかりやすい形で表示する場合や、警告を発するようにした場合には実質的に見落としをゼロにすることができる。
また、従来の目視によるチェック方法では、設計パターンが複雑になると、チェックの工数が飛躍的に増大し、それゆえ、エラーが発生する可能性が高くなる問題があった。本実施形態の設計方法では、設計システム200を構成するコンピュータ110がチェック処理を行うので、基本的にユーザに負担がかかるわけでなく、コンピュータ110の処理能力に応じてチェックにかかる処理時間が変化するだけである。
また、電子機器の小型化を実現するために部品の間隔を狭めて設計したいことがある。従来は、インダクタ等の回路素子間の電磁干渉による影響は考慮されていないので、単に回路素子の間隔を狭めて小型化を達成できても、回路素子間の電磁干渉により所望の特性が得られないことがあり得た。一方、本実施形態の設計システム200は回路素子間の電磁干渉も考慮した設計を可能にするので、製品(例えば、配線基板の基板、ひいては電子機器)の小型化を達成しながら、所望の特性を得ることが容易となる。
さらに、従来では、プリント基板を設計した後、試作を行って初めてインダクタ間の電磁干渉の影響による不具合の発生が顕在化していた。そのため、繰り返し行われる試作の度に、その不具合の対策が必要となり、試作回数増大によるコストアップが問題となっていた。これに対して、本実施形態の設計システム200を用いた設計においては、インダクタ間の電磁干渉の影響を予め考慮した設計が可能となるので、そのようなコストアップの問題を解消することができる。
(解析対象の変形例)
次に、図14から図19を参照しながら、設計システム200の解析対象となる設計データ表される配線基板の変形例について説明する。上記実施形態では平面的な領域におけるインダクタ同士の電磁干渉をチェックしたが、解析対象となる配線基板の構成は、それに限らず、例えば、平面的な領域(二次元的な領域)に加えて、立体的な領域(三次元的な領域)におけるインダクタ同士の電磁干渉もチェックすることができる。
なお、以下に述べる変形例は、上記実施形態の改変例・展開例であるので、以下においては、それぞれの変形例に特徴的な内容を主に説明することとする。上記実施形態と同様の内容については、その説明を省略する。
近年の電子機器の小型化・薄型化等に伴って、配線基板に実装される電子部品の高密度実装化、および、電子部品が実装された配線基板の高機能化への要求が益々強くなっている。このような状況の中、電子部品を基板中に埋め込んだ部品内蔵基板が開発されている。部品内蔵基板では、受動部品(例えば、インダクタやコンデンサ)や能動部品(例えば、半導体素子)を基板の中に埋め込んでいるので、基板の面積を削減することができる。また、表面実装の場合と比較して、電子部品を配置する自由度が高めるため、電子部品間の配線の最適化によって高周波特性の改善なども見込むことができる。
しかしながら、熟練した設計者がノウハウに基づいてインダクタ同士の電磁干渉の影響をチェックする際に、同じ平面内に配置されたインダクタ同士の電磁干渉の影響を見落としがちであった。部品内蔵基板ではインダクタ同士が立体的に配置されるので、インダクタ同士の電磁干渉の影響をチェックするのがより困難となる。あるいは、部品内蔵基板を二次元的に展開した回路設計図に対しては、熟練した設計者のノウハウに基づくチェックは機能しない場合も生じ得る。
本実施形態に係る配線基板の設計システム200によれば、図4に示したフローチャートにおけるインダクタのペア選択工程(S100)において、二次元領域内に加えて、三次元領域の内に存在するインダクタを選択することも可能である。そのため、設計システム200を、部品内蔵基板についての配線基板の設計にも好適に適用することができる。
図14は、インダクタが内蔵された部費内蔵基板の例を示す断面図である。図14に示すような部品内蔵基板内におけるインダクタ401、402同士の電磁干渉チェックを設計システム200において行うことができる。図14に示した部品内蔵基板は、下層基板62と上層基板64と、下層基板62および上層基板64の間に位置する部品内蔵層63とから構成されている。インダクタ401は、下層基板62に実装されるとともに、部品内蔵層63に埋め込まれている。インダクタ402は、上層基板64に実装されているとともに、部品内蔵層63に埋め込まれた状態で形成されている。部品内蔵層63は、例えば、無機フィラーと樹脂を含むコンポジット材料等で構成されている。
図14に示す各インダクタ401、402を表す素子データ28には、部品内蔵基板における各インダクタ401、402の位置を表す三次元座標の情報が含まれていることが好ましい。この三次元座標は、絶対座標でも相対座標でもよい。そして、置換部213は、インダクタ401、402それぞれの三次元座標から、中心間距離Dを演算によって算出する。この演算処理は、CPU101を含むコンピュータ110によって容易に実行可能である。中心間距離Dを含むインダクタ401、402に関する情報を用いて、上述したようにインダクタ401およびインダクタ402との間の相互インダクタンス、相互キャパシタンスを求めることができる。これらの値を使って、置換部213は、インダクタ401、402間の電磁界結合を表す等価回路データが算出される。解析部は、前記等価回路データを含む部品内蔵基板全体の等価回路を解析することによって、インダクタ401、402間の電磁干渉チェックを行う。これにより、ユーザは、試作を行う前にインダクタ間の電磁干渉の有無を確認することができる。
また、本実施形態に係る設計システム200は、部品内蔵基板に限らず、図15に示すような多層配線基板モジュールを表す設計データを解析することもできる。図15に示す多層配線基板モジュールは、コネクタ65を介して互いに接続された下層基板62および上層基板64を備える。下層基板62にはインダクタ401が、上層基板64にはインダクタ402がそれぞれ実装されている。
さらに、本実施形態に係る設計システム200は、例えば、図16に示すような、インダクタが実装された屈曲可能なフレキシブル基板66を表す設計データついても解析を行うことができる。図16に示すフレキシブル基板66には、積層型チップインダクタ401〜404と、巻線構造インダクタ405、406が実装されている。積層型チップインダクタ401〜404は、その磁界方向47がフレキシブル基板66に対して略垂直である。巻線構造インダクタ405、406は、その磁界方向47がフレキシブル基板66に対して略平行である。設計システム200は、例えば、インダクタ401の中心とインダクタ404の中心との距離D1、インダクタ404の中心とインダクタ405の中心と距離D2、インダクタ405の中心とインダクタ406の中心との距離D3、インダクタ402の中心とインダクタ403の中心との距離D4を算出し、それを用いて干渉解析を実行することができる。
図16に示した例のように、異なる種類のインダクタが基板に実装されている場合でも、各インダクタ401〜406の磁界方向47を表す情報は、設計データ25の素子データ28に記録されているので、置換部213は、各インダクタ401〜406の磁界方向47を表す情報を素子データ28から取得し、インダクタ40同士の電磁干渉チェックを行うことが可能である。なお、図16に示したフレキシブル基板66は、両面にインダクタが実装された多層フレキシブル基板であるが、片面にインダクタが実装されたフレキシブル基板であっても、干渉チェックの対象とすることができる。
加えて、図17に示すようなMID(Molded Interconnect Devices)基板(立体回路基板)68にインダクタ40(40A、40B)が実装されるような形態を表す設計データでも、設計システム200で解析することができる。
さらには、解析対象の設計データ25に、図18に示すようなスパイラルインダクタ407が含まれていてもよい。スパイラルインダクタ407は、配線によるパターン部品(パ
ターン素子)である。図19は、図18に示したスパイラルインダクタ407をZ軸方向から見た上面構成を示す図である。
図18に示した例では、部品内蔵基板の部品内蔵層63にチップインダクタ401及び
スパイラルインダクタ407が内蔵されている。この構成例でも、チップインダクタ401の中心とスパイラルインダクタ407の中心との距離Dを演算によって算出し、距離Dおよびその他のデータを用いて電磁干渉チェックを実行することができる。
本発明の実施形態に係る配線基板の設計システム200によれば、部品内蔵基板、多層基板モジュール、屈曲可能なフレキシブル基板、MID基板(立体回路基板)のような三次元的な配線基板の設計データについても、インダクタ間の電磁的な相互作用のチェックを自動的に実行することができるので、非常に便利である。
なお、設計システム200の解析対象となる設計データ25は、半導体集積回路の配線基板を表すデータであってもよい。
(実施の形態2)
図20は、実施の形態2にかかる設計システム201の構成を表す機能ブロック図である。図20に示す設計システム201において、図1に示す設計システム200と同じ部分には同じ番号を付し、その説明を省略する。
設計システム201の設定ファイル部220は、周波数設定部223、干渉量設定部224および特性値設定部225をさらに備える。また、解析エンジン部210は、特性値範囲決定部216をさらに備える。
周波数設定部223は、解析が必要な周波数範囲を設定ファイル部220へ記録する。解析が必要な周波数範囲は、例えば、ユーザによってユーザインタフェース230を通じて入力される。
干渉量設定部224は、解析処理において、考慮されるべき回路素子間の干渉量の範囲を表すデータを設定ファイル部220に記録する。干渉量の範囲は例えば、インピーダンスの範囲で表される。回路素子間の干渉量の範囲を表すデータは、例えば、ユーザによってユーザインタフェース230を通じて入力される。
特性値範囲決定部216は、設定ファイル部220に記録された周波数範囲を表すデータと、干渉量の範囲を表すデータとを用いて、前記回路素子間の電磁界結合を表す等価回路の特性値の範囲を表すデータを生成する。特性値範囲決定部216が生成した特性値の範囲を表すデータは、特性値設定部225によって設定ファイル部220に記録される。置換部213は、設定ファイル部220に記録された特性値の範囲に従って、等価回路データを生成する。
なお、特性値設定部225は、ユーザによってユーザインタフェース230を通じて入力された、特性値の範囲を表すデータを設定ファイル部220に設定してもよい。置換部213が、ユーザによって入力された特性値の範囲を用いるか、特性値範囲決定部216で算出された特性値の範囲を用いるかは、例えば、ユーザインタフェース230を通じてユーザが指定できるようになっていることが好ましい。
次に、本実施形態における設計システム201の動作の一例について説明する。図21(a)は、設計システム201が行う干渉解析処理における解析条件設定処理(S90)を示すフローチャートである。図21(a)に示すフローチャートにおいて、解析領域の設定(S92)および判定基準の設定(S94)は、図4に示すフローチャートにおける処理と同様である。
解析対象周波数領域の設定(S95)において、周波数設定部223は、例えば、解析対象の周波数領域における最大の周波数と最小の周波数とを、ユーザインタフェース230からの入力により取得し、設定ファイル部220へ記録する。
干渉量設定部224は、干渉解析において考慮されるべき干渉量の範囲として、例えば、干渉量の最大値と最小値を、ユーザインタフェース230から取得して設定ファイル部220へ記録する(S96)。例えば、回路素子間の干渉量が最大値を超える場合は、干渉解析において、それらの回路素子間はショートしているものとして扱われる。また、回路素子間の干渉量が最小値より小さい場合は、それらの回路素子間の干渉はないものとして扱われる。
回路素子間の干渉量は、例えば、インピーダンスでも定義することができる。その場合、考慮すべきインピーダンスの範囲として、インピーダンスの最大値、最小値が定義される。
例えば、図10(a)に示すようなインダクタのペア40(L1)、40(L2)間の干渉量がインピーダンスで定義された場合について説明する。上述したように、置換部213は、図10(b)のインダクタのペア間の電磁界結合を、図10(b)に示す等価回路で表すデータに置換する。インダクタのペア40(L1)、40(L2)間の干渉量を表すインピーダンスは、例えば、相互インダクタンスMおよび周波数によって算出することができる。インダクタのペア40(L1)、40(L2)間のインピーダンスが、解析対象の周波数領域における最小の周波数において、定義されたインピーダンスの最大値よりも大きなインピーダンスとなる場合に、置換部213および解析部214は、相互インダクタンスMはショートしているものとして取り扱うことができる。また、解析対象の周波数領域における最大の周波数において、インダクタのペア40(L1)、40(L2)間のインピーダンスが定義されたインピーダンスの最小値よりも小さいインピーダンスとなる場合は、相互インダクタンスMはオープンであるとして取り扱うことができる。
また、相互キャパシタンスについては、解析対象の周波数領域における最小の周波数において、インダクタのペア40(L1)、40(L2)間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最小値よりも小さいインピーダンスとなる場合相互キャパシタンスはショートしているものとして取り扱うことができる。解析対象の周波数領域における最大の周波数において、インダクタのペア40(L1)、40(L2)間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最大値よりも大きなインピーダンスとなる場合相互インダクタンスはオープンであるとして取り扱うことができる。
特性値範囲決定部216は、解析対象となる周波数領域において、干渉量の最大値と最小値の範囲内となるような前記等価回路の特性を表す値の範囲を求める。例えば、前記等価回路に含まれる回路素子の特性値の最大値および最小値を求める。
例えば、図10(b)に示した、インダクタ間の電磁界結合を表す等価回路の場合、相互インダクタンスMの最大値Mmaxおよび最小値Mmin、相互キャパシタンスCの最大値Cmaxおよび最小値Cminが等価回路の特性値の範囲として求められる。インダクタ間の干渉量が干渉量設定部224で設定された範囲となるような相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCそれぞれの最大値および最小値が求められることが好ましい。これらの最大値および最小値は、例えば、解析領域の周波数領域に含まれる様々な周波数において、それぞれ求められる。いずれの周波数においても、干渉量が干渉量設定部224で設定された範囲となるような相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCそれぞれの最大値Mmax,Cmax、最小値Mmin,Cminが最終的な範囲として求められる。
例えば、干渉量設定部224で、回路素子間の干渉量がインピーダンスの最大値および最小値で定義された場合について説明する。この場合、特性値範囲決定部216は、解析対象の周波数領域における最小の周波数において、回路素子間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最大値となる相互インダクタンスをMmax、解析対象の周波数領域における最大の周波数において、回路素子間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最小値となる相互インダクタンスをMminとすることができる。また、特性値範囲決定部216は、解析対象の周波数領域における最小の周波数において、回路素子間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最小値となる相互キャパシタンスをCmin、解析対象の周波数領域における最大の周波数において、回路素子間のインピーダンスが、定義されたインピーダンスの最大値となる相互キャパシタンスをCmaxとして求めることができる。
なお、図21(a)に示す処理においては、周波数領域の設定(S95)および干渉量範囲の設定(S96)で設定されたデータに基づいて、特性値範囲の算出(S98)が行われているが、特性値の範囲を表すデータを、ユーザインタフェース230を通じてユーザから取得してもよい。図21(b)は、特性値の範囲を表すデータの入力を、ユーザから受け付ける場合の解析条件設定処理(S90)を示すフローチャートである。特性値の設定(S97)において、特性値設定部225は、ユーザインタフェース230から、例えば、図10(b)に示す等価回路における相互インダクタンスMおおび相互キャパシタンスCの最大値Mmax、Cmax、最小値Mmin、Cminを取得する。
以上のようにして求められた等価回路の特性値の範囲が、設定ファイル部220に記録される。なお、図21(a)に示すフローチャートにおいて、解析対象の周波数領域および解析対象の干渉量の範囲は、ユーザインタフェース230から入力されたデータを設定ファイル部220に記録する場合を例示したが、これらのデータは、予め設定ファイル部220または記録部212に記録しておくこともできる。図21(b)の処理においても、特性値の範囲を表すデータをユーザインタフェース230から入力されるデータが設定ファイル部220に記録されるが、これらのデータも予め設定ファイル部220または記録部212に記録しておくことができる。これにより、ユーザインタフェース230からの解析対象の周波数領域、解析対象の干渉量の範囲および特性値範囲の入力がなくても、置換部213は、以下の処理を行うことができる。
置換部213は、特性値の範囲に基づいて、等価回路データを生成する。図22は、置換部213が、特性値M、Cの最大値Mmax、Cmaxおよび最小値Mmin、Cminに基づいて等価回路データを生成する処理の一例を示すフローチャートである。
図22に示すフローチャート中の処理おいて、等価回路モデル選択(S301)および相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCを算出する処理(S302)は、図9に示すフローチャート中の処理と同じであるので、その説明を省略する。
相互インダクタンスMが最小値Mminより小さく、かつ相互キャパシタンスCが最小値Cminより小さい場合(S304でYes)、置換部213は、等価回路をオープン回路とした等価回路データを生成する(S306)。すなわち、相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCが最小値より小さいので、インダクタ間の干渉量は無視できる程度であると判断される。
S304でNoの場合であって、相互インダクタンスMが最大値Mmaxを超え、かつ相互キャパシタンスCが最大値Cmaxを超えている場合(S305でYes)、置換部213は、等価回路をショート回路とした等価回路データを生成する(S307)。すなわち、相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCが最大値を超えるので、インダクタ間の干渉量は十分に大きいので、インダクタ間が短絡しているとみなすことができる。
S305でNoの場合は、実施の形態1で述べた通り、置換部213は、S301で取得した等価回路モデルに、S302で算出した相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCを反映さえた等価回路データを生成する(S303)。
以上のように、相互インダクタンスMおよび相互キャパシタンスCが一定の範囲を超える場合に、等価回路をオープン回路またはショート回路に置換することで、生成される等価回路データが簡単になる。その結果、後の解析処理(S400)にかかる処理量が少なくなる。
(実施の形態3)
図23は、実施の形態3にかかる設計システム202の構成を表す機能ブロック図である。図23に示す設計システム202において、図1に示す設計システム200と同じ部分には同じ番号を付し、その説明を省略する。
設計システム202の解析エンジン部210は、更新部217をさらに備える。更新部217は、ユーザインタフェース230からの入力情報に基づいて、記録部212に記録された設計データ25を更新する。
図24は、本実施形態における設計システム202が、設計データ25の更新に伴って、リアルタイムに干渉解析および解析結果の表示を行う処理の一例を示すフローチャートである。
まず、出力部215は、記録部212に記録された設計データ25で表される配線基板のレイアウトを表示装置107に表示する。配線基板のレイアウトは、例えば、レイアウトデータ24として記録部212に記録されている。出力部215は、例えば、図7に示すような画面を表示することができる。
ユーザからの終了指示がユーザインタフェース230を通じて入力された場合(S21でYes)は、処理を終了する。ユーザからの終了指示がない場合、ユーザからの設計データ25の更新指示を受け付ける(S23)。例えば、図7に示す画面において、表示されているインダクタ40のうち1つを、ユーザがカーソルを使ってドラッグアンドドロップで移動できるようなユーザインタフェースが提供されてもよい。ユーザインタフェース230は、画面上に表示されているインダクタが移動された場合に、設計データ25の更新指示を検出することができる。
ユーザインタフェース230がユーザから設計データ25の更新指示を受けると(S23でYes)、選択部211は、設計データ25で表される配線基板に配置されたインダクタのペアを選択する(S100)。これ以降の処理、すなわち、インダクタのペア選択(S100)、インダクタ情報の取得(S200)、等価回路への置換(S300)、回路解析(S400)、干渉の有無判定(S500)および判定結果出力(S600)の処理は、図4に示すフローチャートにおけるそれぞれの処理と同様である。以上の処理(S100〜S600)は、ユーザによって設計データ25が更新される度に繰り返し行われる。
すなわち、画面上で、配線基板の設計データ25の更新がユーザによって行われると、解析エンジン部210は、更新情報を検出して、更新後の設計データについて干渉解析を行う。これにより、例えば、ユーザが図7に示す画面上でインダクタの位置を移動させた場合、移動に伴って、インダクタ間の干渉の有無を表示する。例えば、図8に示す画面のように、干渉の有無が表示される。これにより、ユーザは、インダクタの位置の変更による干渉度合いの変化を随時確認しながら、最適な位置を見つけることができる。
このように、設計データ25の変更の度に干渉解析を行い、即座に結果を表示するためには、干渉解析の速度が速くなければならない。すなわち、S100〜S600の処理を、ユーザの更新操作に追随できる程度に早く行う必要がある。本実施形態によれば、置換部213が、インダクタのペア間の電磁界結合を等価回路に置換し、解析部214は、置換された等価回路を含む回路全体の等価回路を解析するので、従来の電磁界解析に比べて高速に解析することができる。その結果、ユーザの更新操作に追随して、リアルタイムに干渉を判定することができる。
(実施の形態4)
上記実施形態1〜3では、インダクタのペア間における電磁干渉のチェック処理を主に説明した。実施の形態4では、さらに進んで、その電磁干渉による不良を自動的に解消する機能を、設計システムに付与する例を説明する。
本願発明者は、巻き方向が同じでかつ同種類のインダクタをフィルタの両端に取り付ける場合に、インダクタ間の距離を近づけて、回路基板上の無駄なスペースを省略できないか検討を行っていた。しかし、当然ながら、インダクタ間の距離が近ければ、インダクタ相互間で不要な電磁界結合が発生する。そのため、例えば、インダクタ間に設けられたフィルタの減衰特性の劣化が生じる結果になった。
その条件下にもかかわらず、本願発明者は、数多くの組み合わせを実験により検討していたところ、従来では想定されていなかったある法則を見出した。それは、フィルタの両端に位置するインダクタ間の相互インダクタンスMが正になるように配置すると、インダクタ間の寄生容量による容量結合との組み合わせによって共振を発生させることができ、その共振を利用すると、フィルタの減衰特性の悪化を抑制することができるというものである。ここで、相互インダクタンスが負になるように配置すると、減衰特性の悪化を抑制するような効果を得ることができない。
本願発明者が見出した、インダクタを積極的に磁気結合させて、フィルタの減衰特性の悪化を抑制するという試みは従来行われていない。この新規なアプローチにより、従来、影響が少なくなるようにインダクタ間を離さざるを得なかった構成を脱却できる。ひいては、回路基板の小型化を容易に図ることができる。この技術を応用して、本発明の実施形態に係る配線基板の設計システムに組み込むことができる。すなわち、設計データで表されるインダクタ間の相互インダクタンスMの正負を調節することで、インダクタが近接して配置されている場合でも、フィルタの特性の劣化を抑制する配置を設計することができる。
図25は、本実施形態における設計システム203の構成を表す機能ブロック図である。設計システム203は、ユーザインタフェース230および解析エンジン部210を備える。解析エンジン部210は、記録部212、選択部241、判定部242、相互インダクタンス算出部243、修正部246および出力部215を備える。
記録部212には、配線基板の設計データ25が記録されている。設計データの詳細は、例えば、図2に示したものと同様である。選択部241は、設計データ25で表される配線基板に配置されたインダクタのうち、処理対象となる少なくとも2つのインダクタを設計データ25の中から選択する。相互インダクタンス算出部243は、選択部241が選択したインダクタ間の相互インダクタンスを算出する。判定部242は、相互インダクタンス算出部243が算出した相互インダクタンスが正か負かを判定する。修正部246は、相互インダクタンスが負の場合に、選択部241が選択したインダクタのうち少なくとも1つのインダクタの配置を変更する修正を設計データ25に対して行う。出力部215は、設計データ25で表される配線基板の構造を表示する。
次に、設計システム203の動作の例について説明する。図26は、設計システム203が、配線基板に設けられたインダクタ間の電磁干渉による不良を自動的に解消するように設計データ25を修正する動作の例を示すフローチャートである。図26に示すように、まず、選択部241が、例えば、設計データ25で表される配線基板に配置されたフィルタまたはアンプの一方の端子に接続されるインダクタと、他方の端子に接続される第2のインダクタとを設計データ25から選択する(S31)。選択部241は、予め記録された解析対象の領域内にあるインダクタを選択してもよいし、ユーザインタフェース230を通じてユーザが指定したインダクタを選択してもよい。
図27は、フィルタ回路ブロックの構成の例を示す図である。図27に示すフィルタ回路ブロック70においては、フィルタ72の両端に第1のインダクタ401と第2のインダクタ402とが接続されている。選択部241は、例えば、図27に示すインダクタ401およびインダクタ402を選択する。
第1のインダクタ401の電極端子411aは、フィルタ72の一端から延びた配線に接続されている。一方、第2のインダクタ402の電極端子412aは、フィルタ72の他端から延びた配線に接続されている。なお、この例では、インダクタ401、402においてフィルタに接続されていない側の電極端子411b、412bはグランド30に接地されている。また、フィルタ回路ブロック70は、ポート1(21)とポート2(22)とを有している。インダクタ401の電極端子411aは、ポート1(21)に、インダクタ402の電極端子412aは、ポート2(22)にそれぞれ接続されている。フィルタ72は、バンドパスフィルタであり、例えば、表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)を用いることができる。
相互インダクタンス算出部243は、選択部241が選択したインダクタ401、402間の相互インダクタンスを算出する(S32)。相互キャパシタンスの算出処理は、図9における相互インダクタンスMを算出する処理(S302)と同様である。判定部242は、算出された相互インダクタンスが正か否かを判断する(S33)。相互インダクタンスが負の場合(S33でNo)は、修正部246が、当該相互インダクタが正となるように、インダクタ401またはインダクタ402の配置を変更する修正を前記設計データ25に加える。
図27に示す構成において、インダクタ401の電極端子411aまたは電極端子411bのうち、いずれの端子をフィルタ72側に接続するかによって、インダクタ401とインダクタ402との間の相互インダクタの正負が変化する。同様に、インダクタ402の電極端子412aまたは電極端子412bのいずれの端子をフィルタ72側に接続するかによって、インダクタ401とインダクタ402との間の相互インダクタの正負が切り替わる。
したがって、修正部246は、例えば、インダクタ401のフィルタ72側に接続される端子を電極端子411aから電極端子411bに変えるように設計データ25を修正することで、インダクタ401、402間の相互インダクタが正となるような修正をすることができる。インダクタ401の電極端子411a、411bの接続情報は、例えば、設計データ25のうち、インダクタ401の素子データ28に接続情報83として含まれている(図2)。したがって、修正部246は、インダクタ401の接続情報83を修正することで、インダクタ401とインダクタ402との間に接続されたフィルタ72の特性の劣化を抑制する配置を表す設計データ25が得られる。
ここで、図28から図31を参照しながら、相互インダクタの正、負について簡単に説明する。図28から図31において、(a)に回路図を示し、(b)にその等価回路図を示す。なお、当該等価回路は、図1における置換部213によって生成させることが可能である。
図28(a)に示したインダクタ40(L1)の巻き方向と、40(L2)の巻き方向は同じである。インダクタ40(L1)から発生する磁界の磁束85の方向と、40(L2)から発生する磁界の磁束86の方向とは、略同じ直線上に来るように、インダクタ40(L1)、40(L2)は配置されている。ここで、インダクタ40(L1)の自己インダクタンスをL1、インダクタ40(L2)の自己インダクタンスをL2とする。
図28(a)に示した回路において、ある瞬間にインダクタ40(L1)の端子1Aから1Bへと電流i1が流れると、その電流i1によって磁束85が発生する。すると、磁束85を打ち消すようにインダクタ40(L2)において磁束86が発生する。磁束86によって、インダクタ40(L2)の端子2Bから2Aへと電流i2が流れる。図28(a)の回路を等価回路にすると、図28(b)のようになり、この場合の相互インダクタンスMは正となる。
図29(a)は、図28(a)に示したインダクタ40(L2)のコイルの巻き方向を逆にしたものである。この場合、図29(b)の等価回路に示すように、相互インダクタンスMは
負となる。
次に、図30(a)は、同一巻き方向のインダクタ40(L1)、40(L2)を並行して配置したものである。すなわち、インダクタ40(L1)の磁束85の方向と、インダクタ40(L2)の磁束86の方向とが平行になるように、インダクタ40(L1)およびインダクタ40(L2)が配置されている。この場合、図30(b)の等価回路に示すように、相互インダクタンスMは負となる。一方、図31(a)に示すインダクタ40(L2)は、図30(a)に示すインダクタ40(L2)のコイルの巻き方向を逆にしたものである。この場合、図31(b)の等価回路の示すように、相互インダクタンスMは正となる。
次に、図32から図34を参照しながら、例えば、フィルタ回路ブロック70において相互インダクタンスMが正となるような、インダクタ401および402の配置例を示す。
図32(a)に示す回路構成は、図27に示した回路構成と同じ構成を表している。インダクタ401の電極端子411aは、グランド30に接続され、電極端子411bは、フィルタ72およびポート21に接続されている。インダクタ402の電極端子412bはグランド30に接続され、電極端子412aは、フィルタ72およびポート21に接続されている。なお、図32において、インダクタ401、402の電極端子のうち、例えば、コイルの右ねじ方向に電流を流した場合に発生する磁力線が出て行く方の端子をマーカが付された端子として、斜線で表す。インダクタ401、402においては、電極端子411a、412aが、マーカが付された端子である。なお、インダクタ401の巻き方向と、インダクタ402の巻き方向は同じである。
図32(b)に示す回路構成は、図32(a)に示した回路構成において、インダクタ401、402の接続を変えた場合の構成を表している。すなわち、図32(b)に示した構成は、図32(a)に示した構成において端子の関係を反転させたものである。インダクタ401の電極端子411bは、グランド30に接続され、電極端子411aは、フィルタ72およびポート21に接続されている。インダクタ402の電極端子412aはグランド30に接続され、電極端子412bは、フィルタ72およびポート21に接続されている。なお、図33、図34においても、(a)および(b)の端子の反転の仕方は図32の(a)および(b)の場合と同様である。
図32(a)および(b)に示すように、インダクタ401およびインダクタ402において、それぞれ、異なる端子、すなわち電極端子411aと電極端子412bがグランド30に接続されるようにすると、相互インダクタンスMは正となる。言い換えると、インダクタ401およびインダクタ402において、同じ端子、すなわち電極端子411aおよび電極端子412aをグランド30に接続すると、相互インダクタンスMは負となる。電極端子411bおよび電極端子412bをグランド30に接続しても、相互インダクタンスMは負となる。修正部246は、相互インダクタンスMが負とならないように、異なる端子をグランド30に接続して、相互インダクタンスMを正にする修正を行う。より具体的には、そのような相互インダクタンスMを正にするような設計データ25の修正を、設計システム203を構成するコンピュータ110に自動的に実行させる。
また、ポート21およびポート22のそれぞれから見て、同一の端子、インダクタ401およびインダクタ402を接続すると、相互インダクタンスMは正となる。すなわち、マーカが付された電極端子411aと電極端子412a、またはマーカが付されていない電極端子411bと電極端子412bがポート21、22に接続されないように、インダクタ401、402を接続すると、相互インダクタンスMは正となる。言い換えると、異なる電極端子411a、412bがポート21およびポート22のへ接続されるように、インダクタ401およびインダクタ402を配置すると、相互インダクタンスMは正となる。この法則は、他の配置についても適用される。
図33(a)および(b)は、インダクタ402がグランド30に接続されておらず、配線に直列に接続された構成を示している。この構成でも、ポート21およびポート22のそれぞれから見て、異なる端子(411a、412b)が接続されるように、第1のインダクタ401および第2のインダクタ402を配置すると、相互インダクタンスMは正となる。例えば、図33(a)では、ポート21およびポート22それぞれから見て、異なる端子(411b、412a)が接続されている。図33(b)でも、ポート21およびポート22それぞれから見て、異なる端子(411a、412b)が接続されている。
図34(a)および(b)は、インダクタ401およびインダクタ402ともグランド30に接続されておらず、両者とも配線に直列に接続された構成を示している。この構成においても、同様に、ポート21およびポート22のそれぞれから見て、異なる端子が接続されるように、インダクタ401およびインダクタ402を配置すると、相互インダクタンスMは正となる。例えば、図34(a)では、ポート21およびポート22それぞれから見て、異なる端子(411a、412b)が接続されている。図34(b)でも、ポート21およびポート22それぞれから見て、異なる端子(411b、412a)が接続されている。
図32から図34では、インダクタ401およびインダクタ402をそれぞれ一つずつフィルタ72に接続した構成を示したが、インダクタ401およびインダクタ402以外にもインダクタを接続する構成の回路についても上記の修正方法は適用可能である。すなわち、インダクタ401とポート21との間に、第3のインダクタが接続された構成や、さらに、インダクタ402とポート22との間に第4のインダクタが接続された構成であっても上記修正方法を適用することができる。また、さらに他のインダクタが設けられた構成であってもよい。
なお、基本的に、インダクタ401とインダクタ402との影響が支配的となるので、第3または第4のインダクタの配置によって、フィルタの特性の悪化を抑制する効果が多少増減することがあるものの、フィルタの特性の悪化を抑制する効果は得られる。
ただし、第3のインダクタ(および/または第4のインダクタ)も含めて、相互インダクタンスMが正になるようにすることが、フィルタの特性の悪化を抑制する効果にとって好ましい。そのような配置に変換させる処理を行わせることも可能である。そのような配置にする場合には、第1ポート21および第2ポート22のそれぞれから見て、異なる端子が接続されるように、第3のインダクタ、第4のインダクタを配置するのであれば、相互インダクタンスMは正となる。
図35は、第3のインダクタ403を追加した場合の構成の一例を示す図である。図35に示した例では、インダクタ401の電極端子411bおよびインダクタ403の電極端子413bがポート21側に接続されている。一方、第2のインダクタ402の電極端子412aがポート22側に接続されている。したがって、ポート21およびポート22のそれぞれから見て、異なる端子(413bと412a)、(411aと412b)が接続されるように設計されている。
(実施の形態5)
図36は、本実施形態における設計システム204の構成を表す機能ブロック図である。設計システム204は、ユーザインタフェース230および解析エンジン部210を備える。解析エンジン部210は、記録部212、選択部241、判定部242、相互インダクタンス算出部243、相互キャパシタンス算出部244、周波数算出部245、修正部246および出力部215を備える。
記録部212、選択部241、相互インダクタンス算出部243、出力部215は、図25に示す機能ブロックと同様であるのでその説明を省略する。相互キャパシタンス算出部244は、選択部241が選択したインダクタのペア間の相互キャパシタンスを算出する。周波数算出部245は、選択部241が選択したインダクタのペア間で生じる共振周波数を算出する。この共振周波数は、相互インダクタンス算出部243が算出した相互インダクタンスと、相互キャパシタンス算出部244が算出した相互キャパシタンスを用いて算出される。
判定部242は、周波数算出部245が算出した共振周波数が、選択部241が選択したインダクタ間の回路素子に求められる周波数特性に適合するか否かを判定する。修正部246は、周波数算出部245で算出された共振周波数が、回路素子が求められる周波数特性に適合するように、選択部241が選択したインダクタペアの間の距離を変更する修正を記録部212の設計データ25に加える。
次に、設計システム204の動作の例について説明する。図37は、設計システム204が、配線基板に設けられたインダクタ間の距離が、インダクタ間に設けられた回路素子の周波数特性に適合するように設計データ25を修正する動作の例を示すフローチャートである。
図37に示すように、まず、選択部241が、例えば、設計データ25で表される配線基板に配置されたフィルタの一方の端子に接続されるインダクタと、他方の端子に接続される第2のインダクタとを設計データ25から選択する(S31)。この選択処理は、図26に示すフローチャートの選択処理(S31)と同様である。例えば、図27に示すようなフィルタ72の両端に設けられたインダクタ401、402が選択される。
次に、相互インダクタンス算出部243は、選択部241が選択したインダクタ401、402間の相互インダクタンスを算出する(S32)。この算出処理も、図26に示すフローチャートの相互インダクタンス算出処理(S32)と同様である。
相互キャパシタンス算出部244は、選択部241が選択したインダクタ401、402間の相互キャパシタンスを算出する(S33)。相互キャパシタンスの算出処理は、図9における相互キャパシタンスCを算出する処理(S302)と同様である。
周波数算出部245は、選択部241が選択したインダクタのペア間で生じる共振周波数を算出する。この共振周波数は、相互インダクタンス算出部243が算出した相互インダクタンスMと、相互キャパシタンス算出部244が算出した相互キャパシタンスCを用いて、例えば、下記数1により算出される。
上記数1において、αは定数であり、Lは、選択部241が選択したインダクタ401、402の自己インダクタンスである。
判定部242は、周波数算出部245が算出した共振周波数が、フィルタ72の所望の周波数、例えば、フィルタ72の共振周波数との差を求め、相互インダクタンスMの符号とその差が所定の範囲以内であるか否かを判断する(S37)。その差が所定の範囲内であれば(S37でYes)、処理を終了する。その差が所定の範囲を超えていれば、修正部246が、インダクタ401、402間の距離を修正する(S38)。なお、修正部246は、相互インダクタンスMが負の場合は、正になるように、インダクタ401、402の配置を変更することが好ましい。
修正部246は、例えば、インダクタ401、402間の共振周波数が、フィルタ72の共振周波数に近くなるようなインダクタ401、402間の距離Dを求める。修正部246は、インダクタ401、402間の距離が求めた距離Dになるように、設計データ25を修正する。インダクタ401、402間の距離が変化することによって、相互キャパシタンスCが変化する。それによって、上記数1で求められる共振周波数も変化する。したがって、インダクタ401、402間の距離を調節することによって、所望の共振周波数が得られる。
修正部246が設計データ25を修正すると、修正後の設計データ25について、S32〜S37の処理が繰り返される。距離Dが適切な値となり、判定部242で所望の共振周波数が所望の周波数になっていると判断されるまで、修正部246は、修正処理(S38)を繰り返す。これにより、フィルタ72の周波数特性にあうようにインダクタ401、402間の距離が調整される。
また、例えば、修正部246は、複数の距離Dについて、それぞれ上記数1で共振周波数を求め、求めた共振周波数が最も所望の周波数に近くなる距離Dを最適な距離とすることができる。
また、判定部242は、さらに、相互インダクタンスMの符号が、正か負かを判定し、修正部246は、相互インダクタンスMの符号に応じて、インダクタ401、402の相対的な実装方向を修正する。修正部246は、例えば、相互インダクタンスMの符号が正の場合は、インダクタ401、402の実装方向が、図32〜34に示した構成例のようになるように、設計データ25を修正してもよい。
図38は、図27に示したフィルタ回路ブロック70におけるバンドパスフィルタ特性を表すグラフである。図38のグラフにおいて、横軸の単位はGHzで、縦軸の単位はdBである。図38に示したグラフ中において、インダクタ401、402間の相互インダクタンスMが正の場合(+M)、相互インダクタンスMが負の場合(−M)、および、参考として電磁界結合が実質的になくなるほど両者を離した場合(電磁界結合なし)のバンドパスフィルタ特性を表している。なお、電磁界結合は、コイル結合または誘導結合を呼ばれることもある。
ここで、インダクタ401とインダクタ401との距離を十分に離した場合(「コイル結合なし」の曲線)、フィルタ72の減衰極74は、インダクタのコイル結合の影響をそれほど受けず、フィルタ特性の悪化(減衰特性の悪化)は見られない。一方、インダクタ401とインダクタ402との距離を近づけて、インダクタの結合の影響が生じた場合、フィルタ特性の悪化が生じてしまう(「−M」の曲線)。
しかしながら、インダクタ401とインダクタ402との距離を近づけた場合であっても、インダクタ401とインダクタ402との相互インダクタンスMが正になるように、インダクタ401とインダクタ402を配置した場合、フィルタ特性の悪化が抑制されている(「+M」の曲線)。
このような現象は従来見出されておらず、なぜそのような結果になるか正確な詳細はよくわからないが、フィルタ72の両端にインダクタ40を配置する場合には、当該インダクタ40のペアの相互インダクタンスMを正にすると好ましいことが見出された。
相互インダクタンスMが正の場合(+M)には、インダクタ401とインダクタ402との間の相互インダクタンスによる誘導結合と、インダクタL1とL2との間の相互キャパシタンスによる容量結合との組み合わせで共振が生じ、それによって生成した極(減衰極)により、フィルタ特性の悪化を抑制できると考えられる。この極が生じる周波数(共振周波数)fは、上記数1によって算出することができる。
上記数1における各因子は、本実施形態に係る設計システム204において算出することができるので、設計システム204を用いて、この共振を利用した回路設計を行うことが可能となる。
実施形態4、5の設計システム204による設計方法は、インダクタ401、402間の干渉の影響を排除するために、フィルタ72の両端に位置するインダクタ401、402を互いに遠ざけて配置するのではなく、むしろインダクタ401、402が影響を及ぼし合う程度まで(例えば、2mm以内)接近させて配置する。それにより、フィルタ72の減衰特性とは別の、インダクタ401、402間の結合による減衰特性をフィルタ回路ブロック70に導入して、良好なフィルタ特性を発揮させるような設計を実現することが可能となる。したがって、本実施形態の設計システム204による設計方法によれば、フィルタの特性の悪化を抑制しながら、小型化を実現できる回路設計を実現することができる。
実施形態4、5においては、フィルタ72の両端にインダクタ401、402が配置される場合について説明したが、インダクタ401、402間に設けられる回路素子は、フィルタ72に限られない。例えば、アンプの両端にインダクタ401、402が配置された場合についても、本発明を適用できる。例えば、インピーダンス整合用にインダクタ401、402をアンプの両端に配置することがある。そして、インダクタ401、402を近接して配置すると、インダクタ401、402間の不要な電磁界結合によりアンプ入出力端子間に帰還経路が発生し、発振等の特性劣化を起こしてしまう。そのため、フィルタ72の場合と同様に、アンプの場合でも、インダクタ401、402間の相互インダクタンスを正にする構成に設計データを修正することによって、電磁界結合による特性劣化を抑えた回路設計ができる。すなわち、アンプの両端にインダクタ401、402が配置された場合でも同様の効果を奏する。アンプ(増幅器)としては、例えば、高周波電力増幅器を用いることができる。なお、例えば、スイッチ、アンテナ共用器またはバラン等がインダクタ401、402間に設けられる構造であっても、同様の効果が得られる。
上記実施形態1〜5の設計システムによって設計された配線基板は、無線回路(RF回路)を備えた通信機器に好適に使用することができる。特に、実施形態1〜5の設計システムによって設計された配線基板は、小型化されるので、実装面積が制限されている携帯電話の無線回路ブロック内に用いることができる。言い換えると、実装面積が制限されている配線基板の小型化は困難であり、そして、そのような回路設計にコストがかかるので、実施形態1〜5の設計システムを用いることにより得られる効果は大きい。なお、実施形態1〜5の設計システムは、携帯電話等の携帯用通信機器に限らず、広く電子機器の設計に適用することが可能である。
実施形態1〜5の配線基板の設計システムは、プリント基板の設計に限らず、半導体集積回路の設計にも適用することができる。すなわち、実施形態1〜5の設計システムは、プリント基板CADだけでなく、半導体集積回路用CADにも適用できる可能性がある。これは、半導体集積回路の設計においても、基板に配置されたインダクタ素子間の干渉による影響をコンピュータにより自動的にチェックできることにメリットがあるからである。
実施形態1〜5の設計システムを用いて半導体集積回路の設計を実行する場合も、同様に、選択部が、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択した後、置換部が、インダクタについての情報を情報データベースから取得し、取得した情報に基づき、インダクタのペアを含む回路を等価回路に置換する。その後、解析部が、等価回路に対して干渉解析を実行する。以上の処理により、自己インダクタのみならず相互インダクタも考慮した実際のインダクタ値(L値)を正確に推測することができる。その結果、性能の優れた半導体集積回路を設計できる設計システムを提供することができる。
特に、推測されたインダクタ値の精度が悪いために、半導体集積回路の所定の性能を発揮しない場合には、再度、半導体集積回路の設計・マスク設計および半導体集積回路の製造を実行しなければならない。しかし、本実施形態1〜5に係る設計システムによれば、半導体集積回路の設計時に検討・修正を行うことができるので、そのような問題を解消することができる。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、本発明の設計方法は、一般的なCAD装置またはコンピュータに、上述したようなプロセスを実行させるプログラムをインストールすることによって構築することも可能である。その意味においては、プログラム自体に技術的特徴および知的財産的価値が存在し得る。
コンピュータの支援により回路設計を実行する回路設計プログラムを、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に格納しておくことができる。このようなプログラムを、例えば、図3に示すような構成を有する汎用なコンピュータ110におけるROM102(場合によっては外部記憶装置104)および/またはRAM103に記録し、図1に示したような設計システム200を構築することが可能である。
当該プログラムは、干渉解析対象となるインダクタのペアを選択するステップ(a)と、インダクタに関する情報を情報データベースから取得するステップ(b)と、取得した情報に基づき、インダクタのペアを含む回路を等価回路に置換するステップ(c)と、等価回路に対して干渉解析を実行するステップ(d)とをコンピュータに実行させるものであればよい。また、当該プログラムは、上記ステップ(a)〜(d)以外にも上述の実施形態で説明した処理を実行させてもよい。
当該プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記録され得る。記憶媒体には、例えば、光記憶媒体(CD−ROM、DVDなど)、光磁気記憶媒体(MOなど)、磁気記憶媒体(HDD、フロッピー(登録商標)ディスクなど)、半導体メモリ素子(フラッシュメモリなど)が含まれる。また、当該プログラムは、例えば、インターネットや有線又は無線LANを通じて、搬送波により通信可能である。